二人の距離編
第178話 思い立ったが吉日
「あ~あ……」
俺はベッドの上で仰向けになり、スマホで調べ物をしていた。
「はぁ……」
5秒おきに繰り返されるため息。
花さん、いま何やってんのかなぁ……?
あの日から、花さんのことが気になって仕方が無い。
うぅ……。
「――あでっ!?」
スマホを顔面に落とした。
「いちち……あぁ〜なんだよぉ……くそっ!」
意外とスマホって兇器だよなぁ、ったく、目がチカチカしたぞ……。
「ん?」
スマホの画面に流れる動画、そのキャッチコピーに目がとまる。
――【悪用厳禁】――
カリスマナンパ師★イチコロンドンの強制入れ喰い術!
俺は起き上がり、動画の続きを見た。
『ういっす、イチコロンドンっすぁ〜! この動画を見ているってことは……お前はまだオスを諦めてないってことだよな?→派手なSE』
「お、オスって……」と、思わず突っ込んでしまう。
昔のホストみたいな胡散臭さ極まる金髪色黒のおじさんが、人差し指と中指を揃えて画面を指差した。眉間にシワを寄せ、半開き「あ?」みたいな感じで口をほんの少しシャクらせている。
これがこのおじさんのキメ顔なんだろうか……。
『まず、お前に問おう――、オスかオス以外か?→また派手なSE』
いちいちこのカットインみたいなの止めてくれないかな……。
『この動画を見ているってことは……お前はオスを諦めてない。OK、このイチコロンドンが……女の喰い方ってのを教えてやるゥっ!→派手なフラッシュ&SE』
観るのをやめようとした時、画面が切り替わった。
同じおじさんだが、黒縁眼鏡を掛けて、今度はホワイトボードの前に立っている。
『はい、ていうわけでね、イチコロンドンの強制入れ喰い術というわけなんですけどもー、これね、ご覧になられてる方々はね、イチコロンドンってなんぞやー? とかね、おいおい強制って随分、物騒な響きじゃね? なーんて思ったりしてると思うんですけどもー、これね、ハッキリ言います、はい、これガチです。ええ、私、かれこれ40年、イチコロンドンやらしてもらってるんですけどね、その集大成、もう全部! そう、イチコロンドンが全部入っちゃってる、うん、そうそう、入っちゃってるんだよな。だからね、お兄さんね、そこのお父さんもね、あーんしん、あーんぜんなのよ、うん、だって40年だよ? つみたてNISAより長いんだから、ちょちょちょ、40年あったらどう思う? ねぇ? 女の子のこと詳しくなると思うでしょ? 思うよね? そうなのよ! Fu~!☆ 今日はね、その辺の犬でもイチコロンドン40年もやったら、入れ喰いですよって話。うん、それだけ覚えて』
何だかよくわからないが……、なんとなく続きが気になったので、そのまま観ることにした。
『ちなみに、俺、僕、私、小生、うーん、何でもいいや、40年、イチコロンドンやったよーって人、います? そう、40年、いたら投げ銭で教えてくださーい、って、ちゃうかー?w』
へらへらと肩で笑って、突然真顔になったかと思うと、バンッ! とホワイトボードを叩く。
『はい、ここっ! 今、したよ! 気づいた? ここ、境界線、うん、ホライズン、わかる? 大丈夫? いーま、イチコロンドン、何て言った? 何かおもしろおかしいこと言ってたよねぇー? いやいやいや、ちゃうがなちゃうがな、そんなプロの芸人とちゃいますやんw 面白いか、面白くないかじゃなくてー、いま、イチコロンドン、ふざけましたよねぇ? これですわ……イケメン? 背が高い? アレが凄い? そんなん関係あらへんがな! いくよ? これ大事よ? 女の子は』
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「ぬわぁああーーーーーーーーっ!!」
なんだよ、めっちゃ気になるじゃん……。
俺は広告をスキップした。
『女の子はぁー、笑わしたったらええねん。あ、ちょい待ち! これ聞いて、これ、大事よ? これ、秘密があって、面白くなくてもええねん。はい、嘘やと思うでしょ? 僕誰ですか? そう、イチコロンドンですよね? 40年やっとんですわ! あのね、もしあなたが、ハンバーガーショップにいきました、ね? ハンバーガーショップですよ? そのハンバーガーショップで、店員さんいますよねぇ? レジ、立ってますよねぇ? 僕、本田とちゃいますよ? いいですか、レジ立ってる店員さんがー、無言やったらどーしますか、って話なんですよ! ね? あなたがお腹空かせて、ハンバーガー食べたいからハンバーガーショップにいきました、ね? そん時、レジに立ってる、時給1200円のお姉さんが、無言やったらどうしますか、って話なんですよ! ね? 事の重大さがわかってきたでしょ? 足音、近づいてますよねぇ? いいですか! 街、歩いてると綺麗な子、いますよねぇ? クラスや会社にも、一人くらいは美人の子いるじゃないですか? みなさんどうしてます? まさか、無言ちゃいますよね……? ハンバーガーショップのお姉さんは時給1200円貰ってますけど、あなたたちは時給出てませんよ⁉ わかります? 昔の人がええこと言ってます、会話ってキャッチボールなんですよ……知ってますかキャッチボール? 知ってるのと、できるのはちゃいますよ⁉ もうね、ここまでで、勘の良い人はもう入れ喰い始まってますよ? もうちょい、突っ込んだ解説もできるんですけど、それはね、イチコロンドンのオンラインサロンの方で本気の方にのみ、共有させてもらってます。えー、概要欄にURL貼っておくんで、気になった方はチェックしてみてくだーさいっ、あとチャンネル登録、高評価もよろしくーですっ、イチコロンドンっした! ウィウィ!』
何だったんだこの時間は……。
俺はスマホを枕元に投げた。
「はぁ……」
まあ、動画なんかで恋が実るわけないよな……。
会話か……そういえば花さんと、プライベートっていうか踏み込んだ会話って、あんまりしたことがないかも。
ふざけた話もしたことがないし……よし、俺もちょっと笑わせてみようかな。
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