第101話 名古屋勉強会編① 小林さんとの再会
思っていたよりもバスの旅は快適で、寝心地も良かった。
カーテンの隙間から外を覗くと、見慣れない街並みが見える。
俺は座席でさりげなく身体をぐ~っと伸ばし、大きな欠伸をした。
程なくして、ゆっくりとバスが停まり、終点『名鉄バスセンター』に到着する。
プシューッと扉が開き、皆が順番にぞろぞろとバスを降り始めた。
「おぉ~、ここが名古屋かぁ……」
運転手さんに軽く頭を下げ、俺は駅前に向かう。
大きなビルが立ち並び、発展具合は香川とは比べるまでもない。
「凄いなぁ、へぇ~」
まだ早朝だし、小林さんとの待ち合わせまでは、少し時間があるな……。
実は、勉強会参加をメールしたら、小林さんが駅まで迎えに来てくれることになったのだ。
メールには小林さんらしく、『8時15分ジャストに行けると思います』と、何かの予告のような返事が書かれていた。
あと、一時間半か……。
俺は折角なので、駅周辺を見て回ることにした。
まだシャッターが下りている店が殆どで、
でも、こういう雰囲気は嫌いじゃないな……。
世紀末というか、荒廃した世界を垣間見るようで、ちょっと不思議な気持ちになるのだ。
知らない土地でテンションの上がった俺は、超高速で動くペッパーくんのように手当たり次第に散策し、駅の地下にあるメイチカ、ユニモール、サンロードで自分の座標を見失いかけたが、時間ギリギリでどうにか待ち合わせの駅前に着くことができた……。
「はぁ、はぁ……、甘く見てたわ……」
駅前のロータリーに出ると、銀色のソフトクリームみたいに捻れたモニュメントが目を引く。
しばらくそれを眺めながら、ぼうっと突っ立っているとスマホが鳴った。
8時15分ジャスト――、小林さんだ。
「あ、お久しぶりです!」
「どうも小林です、どの辺りにいますか?」
「えーっと……、銀色のソフトクリームみたいなやつが見えるんですけど」
「ああ、それ『飛翔』と言います。あ! こちらから特定しました。早急に向かいますので」
「あ……」
通話が切れると、すぐに道の向こうから小林さんが小走りでやって来た。
「ジョーンさん、どうもー」
「おはようございます。今日はすみません、お世話になります!」
「いえいえ、来てくれて嬉しいですよ」
相変わらずミドルレンジの効いた声。
今日はスーツではなく、ラフなスウェットパーカーにデニム姿だ。
「確か帰りのバスは今日の23時10分ですよね、じゃあタカシマダ屋の一時預かりで、荷物を預けておきましょうか」
「あ、はい!」
こ、小林さんが来てくれて良かった~。
タカシマダ屋に向かいながら、こっちの喫茶店のモーニングは凄いとか、手羽先よりもみそカツか、スゴキヤのラーメンを食べて欲しいと名古屋熱のこもった小林さんの話を訊く。
「そんなに美味しいんですか……」
「それはもう、私が保証しますよ。あ、こちらです」
「ありがとうございます、じゃあ、ちょっと預けてきますね」
荷物を預け終わって小林さんの所に戻る。
「お待たせです」
「いえ、それじゃ、どうします? ジョーンさん、朝まだ食べてないですよね?」
「あ、はい……実はお腹ぺこぺこで、あはは」
「少し歩きますけど、スゴキヤに行ってみますか?」
「おぉ、ラーメンっすね⁉ 行きます!」
「エスカにある『寿ごきや』でもいいんですが、折角なのでクリームぜんざいを食べてみて欲しいんですよねー」
「同じスゴキヤじゃないんですか?」
「あっちはクリームぜんざいがないんですよね、やっぱり、あれは食べておいて頂きたいので」
小林さんは力強い眼差しで俺に言った。
「は、はぁ……」
案内されるまましばらく歩くと、大きな駐車場のあるショッピングモールが見えてきた。
「着きましたよ」
あ! 何かこの看板はテレビで見たことがあるな。
中華服を着た女の子のキャラクターだ。
店内に入り、カウンターに並ぶ。
開店してすぐだというのに、店内はお客さんで賑わっていた。
俺はラーメンの大盛りと、小林さん推しのクリームぜんざいを頼んだ。
注文を終えて番号札を受け取り、水を持ってテーブルに座る。
「小林さん、あの、勉強会とかは結構やられてるんですか?」
「いえ、最近呼ばれるようになったばかりです」
「
「ええ、まあ最近は依頼も増えてますので……、あ、来ましたよ」
俺と小林さんはラーメンを受け取った。
「お腹空いたでしょう? さ、食べましょうか」
「はい、では、いただきまーす!」
ん、これはうまい!
こってり系かと思いきや、意外とすっきりとした味だな。
あっという間にスープまで平らげた俺は、デザートのクリームぜんざいを一口食べた。
「ん⁉」
「どうです?」
「お、美味しいです!」
冷たいからなのか甘さもクドくなく、どんどんイケる!
「それは良かった、おすすめしたかいがあります」
そう言って、小林さんは優しく微笑んだ。
「その、急に変な質問かもですけど……小林さんは、犬山キャッスル辞めないんですか? AXICS一本でやるとか……」
小林さんがラーメンのスープを、まるでコーンポタージュでも飲むように口に付ける。
そして、静かに
「それもね、最近考えていたんですよ。犬山の方の派遣契約が来年の6月までなので、そのタイミングまでに色々と準備が出来ればなぁと。私は計画を建てるのは得意ですが、実行するのは苦手でして。ま、簡単な話、自分に自信がないだけなのですが……」と、苦笑いを浮かべた。
「い、いや……、小林さんは凄い人ですよっ! AXICSは超人気ブランドですしっ!」
「……ありがとうございます。でも、私から見れば、ご自分でダンジョン経営なさってるジョーンさんも十分、凄い人です」
「へ? ぼ、僕っすか⁉ いやいや、そんなぁ……」
こ、この俺が……、AXICSの小林さんに褒められてるだと⁉
やばい、脇汗かいてきた……。
「そ、そうだ! あの、そろそろ会場に向かいますか?」
「ええ、そうしましょうか」
俺と小林さんは、食器を返却口に置きスゴキヤを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます