第102話 名古屋勉強会編② 呪符猫 ~ジュ・フ・ネ・コ~
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【 K O T O B U K I 】
[ウェポン勉強会in名古屋]
→→→ こ ち ら →→→
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駅近くの『
俺と小林さんはそのビルの一室に来ていた。
「あ、ここですね」
開放された扉の横には、上記内容が書かれたイーゼルが置かれている。
もう少し手作り感というか、街のカルチャースクール的なものを想像していたのだが、ロゴなどもビジネス風にデザインされたもので、本格的な印象を受けた。
俺は小林さんの後ろに続いて、そっと覗くように部屋に入る。
「……失礼しまーす」
蛍光灯の光に真っ白な壁紙が反射して、部屋全体がとても明るかった。
床にはグレーの絨毯が敷かれていて、正面の奥にもう一つ扉があるのが見える。
部屋の中央には工作用の作業台と工具などが並び、それを取り囲むようにパイプ椅子が置かれていた。
作業台の隣にはホワイトボードがあり、『お椅子のお上のお資料をお取りになって、お好きなお席でお待ち下さい』と、何とも不可解な言葉で書かれている。
……『お』が多すぎだよな。
「じゃあジョーンさん、私は主催者と打ち合わせがあるので」
「あ、はい」
軽く頭を下げ、小林さんは奥の別室に入っていく。
俺は少し不安を感じながらも資料を取って、パイプ椅子に腰を下ろした。
会場には俺以外に5人。
席はまだ20席以上は空いている。
資料に目を通す。
タイムスケジュールや、開催の言葉などが書かれている。
ふと、主催者のプロフィールに目が止まった。
あー、なるほど。だから、『お』が多かったりしたのかな?
主催者は『
そろそろ時間になるなと思った時、大勢の人が会場に入って来た。
あっという間に席が埋まり、ザワザワという音が響く。
――突然、音楽が鳴った。
ニュース番組のジングルのような音と共に、グレーの中華服を着た七三オールバックの男性が現れた。
「本日はウェポン勉強会in名古屋にお集まり頂き、誠にありがとうございます。私はこの勉強会の主催をしております、陳一堅と申します、皆様どうぞよろしくお願いします。さて、堅苦しい挨拶は抜きにして、早速始めて行きたいと思います。時は金なりといいますからね。私の国でも『一寸光阴一寸金』という同じ意味の言葉がありますが……おっと、話が逸れてしまいました。ははは、では、お手元の資料1200ページを御覧ください」
ページの桁数おかしくないか……?
色々と変わってるなと思いつつ、俺はページをめくった。
そこには『揃えておくべき基本素材』とある。
「準備は宜しいでしょうか? ここからは私に代わり、助手の『
すると、奥からチャイナドレスを着た、目のクリっとした小柄な女の子が、なぜか側転をしながら登場した。
さっき食べた、スゴキヤのイメージキャラクターみたいだな……。
「ハイハイ。お皆さんおコンニチワ~、私王小人です、およろしくー」
王さんは愛嬌のある可愛らしい笑顔を見せながら、身体を横に傾けた。
間違いない、ホワイトボードを書いたのはこの子だ……。
「じゃ、お今日はお揃えておくべきお素材をお教えるネ!」
うーん、聞きづらいなぁ……。
そう思って周りを見ると、大半の男性陣は鼻の下を伸ばして、王さんに釘付けになっていた。
王さんはホワイトボードを消し、マーカーで『呪符猫』と書いた下に『ジュ・フ・ネ・コ』と書いた。
「まずは、ジュ・フ・ネ・コ、これお覚えておくれー!」
まったく意味がわからない……。
周りの人達も動揺しているのか、会場がざわつき始める。
とりあえず、俺は持ってきたメモ帳に『ジュ・フ・ネ・コ』と書いてみた。
「ハイハイ、お騒ぎにならないネー! お説明これからこれからー!」
王さんが大きく声を張った。
「いいですかー、まず『ジュ』です。ジュは何だとお思いでしょ、ハイ、樹液ですぅー」
な、なるほど、頭文字ってことか……。
他の人も俺と同じように安堵したのか、会場の空気が軽くなったような気がした。
王さんは、ボードの『ジュ』の下に『樹液』と書く。
どうでもいいが、恐ろしく達筆である。
「ハイ、お次は『フ』です、ここまで来ると、お大体お分かりです、ハイ、粉末ねー」
さらさらっとボードに書き、
「ハイ、どんどんお行きになります、『ネ』は粘液、『コ』は骨粉ねー。骨粉おわかりか? お骨のお粉よー」
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【揃えておきたい基本素材】
ジュ……樹液
フ ……粉末
ネ ……粘液
コ ……骨粉
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王さんは、ホワイトボードをマーカーでコンコンと叩き会場を見渡した。
「いいですかー? これお基本よ。すべてにお繋がる、お大事なことー」
ふむ……、なぜこういう説明の仕方にしたのかはわからないが、確かにダンジョンで調達ができる基本的な素材だ。
「ハイハイ、ここからお凄いお人が来るよ? ミュージック、スターッ!」
王さんが手を上げて合図をすると、突如重低音の効いたヒップホップ調な音楽が流れた。
奥の扉が開き、スポットライトが当たる。
「こ、小林さん……」
スーツ姿で、両手を前に組んだ小林さんが登場する。
『本日のメ~ンゲスッ、インディーズ・ウェポン界最強にして、至高のハ~イ・ブランドゥッ! AXICSのMr.小林です! ポゥ、ポゥ、ポゥーッ!』
誰が言ってるんだろうと思い辺りを見ると、隅っこでマイクを持ってしゃがんでいる陳主催の姿があった。
うーん、方向性はともかく、楽しませようとする努力はリスペクトに値する。
俺も見習わなければ……。
――音楽が止まる。
小林さんが、丁寧に頭を下げた。
「えー、オホン。皆さん、初めまして、AXICSというブランドを運営しております、小林と申します」
もう一度深く頭を下げると、会場の全員から大きな拍手が沸き起こった。
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