第162話 丸井くんのお誘い
「うぅっ、何だろう、寒気がするなぁ」
ぶるるっと身震いしながら、コンビニで弁当を買う。
原付にまたがり、家に帰ろうとした時、スマホが震えた。
「ん? おっ、珍しいな」
丸井くんからメッセージが届いていた。
――――――――――――――――――――――
>丸井
お久しぶりです、ご相談があるのですが、都合の良い時間ありますか?
――――――――――――――――――――――
「なんだろう……」
俺はすぐ返事を送った。
「いつでもおkですよっと……」
――――――――――――――――――――――
>丸井
ありがとうございます、今ってお電話しても大丈夫ですか?
――――――――――――――――――――――
何かあったのかな?
とりあえず、ここじゃ何だし、急いで家に帰るか。
「いまコンビニなので、帰ったら俺から電話しますねっと……」
メッセージを送り、俺は原付のエンジンを掛けた。
*
自分の部屋に戻り、慌てて弁当などのセッティングをする。
よし、準備OKだ。
俺は少しドキドキしながら丸井くんに電話を掛けた。
『あ、ジョーンさん、お久しぶりです』
は、早っ! 2コールも鳴ってないのに……。
「久しぶりだね、元気だった?」
『ええ、体調は万全ですよ』
「どうしたの、何かあった?」
『ジョーンさん、実は僕、今の配信は辞めることにしたんです……』
丸井くんはそう切り出して、To:Mindとの契約を終わらせたことや下北沢に引っ越したことなどを説明してくれた。
「そ、そっかぁ……うーん、まぁでも、やりたいことが見つかったのは良かったんじゃない? 大抵の人は見つからずに一生を終えるとか言うし……」
『ええ、僕もその点に関しては良かったと思ってまして……』
「その、次の企画だっけ? それはいつから始めるの?」
『はい、それなんですが……ジョーンさん、一回目の配信、ゲストで出演してもらえませんか?』
「え⁉ お、俺が⁉」
『もちろん、交通費を含め、謝礼はお支払いしますし、スケジュールも合わせます!』
「あ、いや、それはいいんだけど、何で俺なんか……」
『今回、新しいことを始めるかどうか迷った時、ジョーンさんの顔が浮かんだんです」
「え、俺の?」
『……あのギザメダルが僕の運命を変えたように、僕の人生の岐路にはいつもジョーンさんがいました。だからこの新しい挑戦に是非とも立ち会っていただきたいんです!』
「ま、丸井くん……」
そんなにも俺のことを買ってくれていたのか……。
ぬぅおおおおお!!! 燃えてきたぞぉ!!
「分かった! やろう! 俺でいいなら、何でも手伝うよ!」
『やった! あ、ありがとうございますっ! じゃあ、今日中に資料を纏めてメールで送ります。一応、仮のスケジュールはD&Mの定休日に合わせて組んでありますが、修正があれば調整します』
「うん、OK! じゃあ、メール待ってるよ」
『はい! では、遅くにすみませんでした!』
「はーい、じゃあ」
テーブルにスマホを置き、俺はたんぱく質たっぷりの鶏天うどん弁当の鶏天を口に入れた。
「うん、旨い」
それにしても……俺って何をすればいいんだろ?
*
俺はカウンター岩の中で、花さんと並んで話していた。
「へぇ、じゃあ、ジョーンさんも動画に出演されるんですか?」
「あ、うん、まぁ……」
「確か丸井さんって、あの有名な方ですよね? すごいですよ! 私、絶対見ます!」
「そ、そんな期待しないでね? 俺は素人だしさ、へへへ」
今日の花さんは、白Tにデニム姿でいつもよりラフな感じだ。
しかも、長かった髪を顎のラインまでバッサリと切っていた。
――これは男として言うべきか?
いや、異性に髪型のことを言うなんて、今の時代、セクハラになってしまうのでは……。
うーん、悩ましい。
サラッと言うくらいならいいんだろうか?
変な感じで言わなければ大丈夫かな……。
「か、髪切ったん? しょ、初夏って感じで、いいよね~」
「思い切ってバッサリいきました、へへ。すごく楽で早く切ればよかったなあって」
「今年は暑そうだしねー」
よし、どうやらセクハラにはならなかったようだ。
「話戻るんですけど、撮影だと店休になるんですか?」
「あ、それが実は……一週間ほど休みを取ることになりそうで……」
「一週間……かなり遠くに行くんです?」
「いや、その……沖縄に」
「沖縄⁉ ま、まさか、なんくるダンジョンに行くんですか⁉」
花さんがぐいっと近寄ってくる。
う、嬉しいけど怖い!
「そ、そうなんだよね、丸井くんが最初は東京って言ってたんだけど、記念すべき一回目なんだし派手に行こうって話に……それにダンジョン経営者として、やっぱグッドダンジョン賞一位は見ておきたいから……」
「ですよね、確かになんくるは見ておくべきダンジョンだと思います」
花さんがしきりに頷いている。
「なんでその……申し訳ないんだけど、ちょっとバイト休んでもらうことになるかと」
「はい、それは大丈夫ですから」
ニコッと笑って、花さんは染料の準備を始めた。
予定とか狂ったら申し訳ないなと思ってたけど、あの感じなら大丈夫そうかな。
「ジョーンさん、ちょっと外していいですか?」
「ああ、いいよー」
「すぐ戻りますから」
そう言って、花さんは外に出て行った。
どうしたんだろ?
休憩以外で抜けるなんて珍しいな……。
なんて考えていると、言葉通り、十分も経たないうちに帰ってきた。
ホントに早かったなと思っていると、花さんがスマホを持ったまま、真っ直ぐに俺のところに来る。
いつになく真剣な表情……。
これはもしかして、セクハラ……ハッ、もしかして平子兄に相談を⁉
どうしよう……とりあえず悪気がなかったということを誠心誠意伝えるしか……。
「ジョーンさん、あの……沖縄、私も同行してもいいですか?」
「……へ?」
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