第153話 某大手のオネイロス編⑫ 待ち合わせ
「う~ん……」
居間の壁時計を見ながら、台所と玄関を行ったり来たりしていると、
「ジョーン、さっきからバタバタ何しとんじゃお前は?」と爺ちゃんに呆れ顔でいわれる。
「いや、ちょっと待ち合わせしてて……」
「待ち合わせ?」
「あ、うん……」
その時、手に握っていたスマホが鳴った。
「あ! 来た! じゃ、俺行ってくる!」
「ったく……わけがわからん」
*
玄関を飛び出ると、家の前の駐車場に真藤さんの姿があった。
俺を見て、軽く頭を下げる。
「どうも、おはようございます!」
「おはようございます、すみません、朝早くからお時間頂いて……」
真藤さんは申し訳なさそうに言うと、頭を掻いた。
「いえいえ、とんでもない! じゃあ早速ご案内します!」
獣道を上り、ダンジョンの入り口に着く。
「ここが僕のダンジョンです、どうぞ」
「へぇ~、中々雰囲気があって良いですね、岩肌が良い味出してます」
「ホントですか⁉ ありがとうございます!」
この良さがわかって貰えるとは……。
やっぱ自分が良いと思うものを褒められると嬉しいな。
「これが、ウチのデバイスです。一応、タブレット型を導入してるんですよ」
「これはかなり新しい型ですね……、ちょっと拝見します」
真藤さんは鞄からスマホくらいの大きさの機材を取り出して、タブレットデバイスの設定を弄っている。
「ちょっとLINKしますね、DP情報等にはアクセスできませんのでご安心ください。じゃあ、画面を見ていただいてもいいですか?」
「あ、はい」
俺は真藤さんが操作するのを横から見る。
『ON-145D54』
接続デバイスの表示に真藤さんが持って来た機材の名前が表示された。
「これがこの機材の品番ですね、これで今、このデバイスとこの機材がLINKした状態になりました」
「なるほど、LINKすると……何ができるんですか?」
「ああ、失礼しました、リモートで今からウチの九十九が作業しますので」
「春さんがっ⁉ 凄いですね、リモートで操作できるんだ……」
「まあ、この機材作ったのは彼ですからね、ちょっと失礼します。」
そう言って、真藤さんは電話を掛けた。
「あ、九十九? うん、繋いであるよ、了解、はーい、終わったら連絡を、はーい」
真藤さんはスマホを仕舞い、
「三十分くらいで終わるそうです、それまで料金の説明をさせて頂いてもいいですか?」と微笑んだ。
「あ、はい。じゃあ、座ってください、今、珈琲淹れますので」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
*
珈琲の良い香りが漂う。
「いい匂いですね~、落ち着きます」
「豆はウチのオリジナルです」
「え⁉ 本格的ですね?」
「昔から好きなんですよ、段々こだわるようになってしまって……あはは」
俺はカップに珈琲を注ぎ、真藤さんの前に置いた。
「どうぞ」
「うわぁ、すみません、遠慮無くいただきます」
真藤さんが珈琲に口を付けた。
「へぇ! いやいや、これは大したもんですよ! 私も珈琲が好きで有名店にも行きますが……、全然負けてないです!」
「いやぁ~、照れますね」
「あ、じゃあ、早速、料金のご説明を……」
「お願いします」
「まず、機材一式は借りていただく形になります。もちろん、保守サービスが付きますし、アップデートは無償で行わせていただきます。お客様には毎月のレンタル代をお支払いいただく形ですが、D&Mさんには三ヶ月間の無料体験期間を通して、ご自身で実際に運用して頂いた後、本契約できればと考えております」
三ヶ月か、それだけあれば十分だな。
「なるほど……保守っていうのはどのくらいまでカバーしてもらえるんでしょう?」
「故意に破損した場合、対応しても、連続して何度も不具合が起きる場合などは、こちらの判断でご利用をお断りする場合もありますが……、まあ、壇さんの場合はそういう心配はないでしょうから、殆どの場合で対応できると思います。あ、具体的な約款もありますので後で目を通していただいて、不明な部分は、メールを頂ければやり取りが形に残りますから、安心していただけると思います」
「わかりました、それで……具体的な料金はどれくらいなんでしょうか?」
真藤さんは少し間を置いて、
「現金払いですと、一階層につき8,000円、DP払いですと、9,000DPになります」と言った。
「てことは……ウチは十六階層だから、128,000か……」
脳内でそろばんを弾く。
128,000、今の月平均が120万DP、そこから諸々引いて……うん、大丈夫だろう。
「お、作業が終わったようです、どうしましょう? すぐにでもデモが試せますが……」
* * *
――閉店後。
「んー、グラデーションがいいかなぁ……いや、やっぱり定番のホワイトクリスマスってのも……」
タブレット型デバイスの画面には
クリスマスイベント時に、1~3階層までに降らす予定の雪の色をどうするか……。
実際に練習がてら、スマホでマニュアルを読みながら試している。
このバーをスライドさせると……へぇ、結晶の大きさが変わるのか。
結晶の形もテンプレートが用意されていて、かなりの種類が選べるようになっていた。
オリジナルの形もフォーマットをサーバーにアップロードすれば使えるらしい。
「やべぇ、使いこなせるかな……」
小一時間、画面と睨み合った末、ようやく試作第一号が完成した。
よし、これで雪が降るはずだ。
「チェックチェック……装備はルシールだけでいいか」
俺は手早くルシールを装備すると、ダンジョンの奥へ向かった。
――1階層。
うーん、もう少し先からかな……。
キョロキョロと辺りを見回しながら進んで行くと、前からラキモンがぴょんぴょんと跳ねながらやって来た。
「おぉ、どうした?」
『ぴょ、ダンちゃん何してるラキ?』
と言って、ラキモンはクリクリの丸い目を向けた。
「ちょっと雪を降らせようと思ってさ」
『ダンちゃん……ちょっと何言ってるかわかんないラキ……』
二人でダンジョンの奥へと進む。
「あはは……、ま、まあ気にすんなって、それよりどうだ調子は?」
『ま、ぼちぼちラキね……』
なんか、おじさんみたいな会話だ。
しかし……こうしてると、色々思い出すなぁ。
お、ヒカリゴケも大分育ってきたじゃん。
そういや最初は、ラキモンに手伝ってもらったっけ……。
蒔くのを手伝ってもらったら、しばらく身体が光ってたよな。
「ふふっ」
思い出して吹き出しそうになる。
『ラキー?』
「あ、いや、何でもないよ」
その時、ふっと目の前に雪の結晶が横切る。
「お! キタキタキターーーーッ! せいこ……え?」
次の瞬間、辺りに手裏剣大の雪の結晶が滝のように降り注いだ。
「ちょ! せ、設定ミスったか……」
『うぴょーっ! ダンちゃん何ラキかこれ? うぴょぴょーっ!』
ラキモンは楽しそうに跳ね回っている。
「これはこれで、面白いな……」
仕方ない、やり直しだな。
俺はやれやれと頭を掻き、ラキモンに声を掛けた。
「おーい、ラキモン、俺戻るけど、アレ喰うか?」
『うっぴょーっ!! ダンちゃーん!! 早く早く! 急ぐラキよー!』
必死の形相で俺を急がせるラキモン。
クリスマスプレゼントをせがまれる親の気持ちが、少しだけわかった気がする……。
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