第93話 発見しました。
昨夜、遅くまで試行錯誤したお蔭で、また一つ発見をしてしまった。
ガムーラ液にツメタラスロックを入れると、『ツメタロン液』ができる。
ツメタロン液は黒色で、腐食耐性効果がある液体だ。すなわち、これを武器や道具に塗布することで、モンスの吐く腐食液などから守ることができる。ツメタラスロックがなければ作れないので、希少価値もそこそこ高い。
発見といっても、長時間の検証作業で寝落ちしそうになり、うっかり液の中にツメタラスロックを落としてしまったから判明したのだが、運も実力のうちってことで……。
それよりも、問題は何を作るかだが、当たりを『二種類』用意することにした。
どちらも量が限られているので数量限定になるが、まず、タイガーネイルのような
手に入れたシモタッタラの粉末を使い、ラメっぽくてキラキラした指輪を作ることにした。さらに、お洒落だけで終わらないのがD&M流。シモタッタラの粉末は、熱に反応する性質があるので、例えばメルトゴーレムなどの高熱を発するモンスに投げつけると、威力は僅かだが爆発反応を起こす。持ち運びも便利だし、目くらましや注意を引くには十分。かなり使い勝手が良いと思う。
次に、実用性を重視したアイテムとして、小分けにしたツメタロン液を入れる。
重複になるが、この液自体が希少性もあり、自前の武器に塗るだけでダイバーは簡単に強化が可能だ。
ふふふ……、蒔田にも指輪の金型を発注済み、後は到着を待つのみ!
「ふはーーっはっはっはっはっ! カンペキ~ングッ!」
「おはようございまーす」
「はぅっ、花さん⁉ お、おはよー」
は、恥ずかしすぎるぞ……。
「何か良いことでもあったんですか?」
「い、いや、別に……あはは」
笑って誤魔化しながら、前日の作業で散らかった道具を片付けていると、腰にエプロンを巻いた花さんが、手際よく開店準備に取り掛かる。
カウンター周りの清掃を花さんに任せている間に、俺はフロアに異常がないかをチェック。滞りなく準備を終えた後、二人分の珈琲を用意し、デバイスをOPENに切り替えた。
開店して間もなく、息を切らせた宅配業者が駆け込んで来た。
「ちゃす、お荷物ですっ、サインおねっしゃす。ハァハァ……」
業者のおじさんが差し出した伝票にサインをする。
「ハァハァ……、あざっす、じゃっしゃっす!」
左右に揺れながら、早足に去っていくおじさん。
「大変そうですね」
「うん……」
花さんと顔を見合わせたあと、俺は荷物を開けた。
「おぉ! は、早い!」
思わず声が出た。
蒔田から樹脂金型が届いた。ご丁寧なことに納品書付きだ。
小さな正方形の型が全部で十個。割るとリングの型が彫られている。
「うわ~、これ何作るんですか⁉」
覗き込む花さんから、ふわっといい香りが漂う。トゥクン……。
「え、えーと、ガチャに入れる指輪を作ろうと思ってさ」
「なるほど、指輪ですか」
「早速、試作してみるかな」
花さんに見守られながら、俺は材料を用意する。
――――――――――――――――――――――――――――――
【シモタッタラリングのレシピ】
・スケルトンの骨粉……1
・ミセルの油……1/2
・シモタッタラの粉末……少々
・ケローネ油……大さじ二杯
・エンペラービートルの殻……適量
(殻は砕いて粉末状にしたものを使用)
――――――――――――――――――――――――――――――
まず、型にケローネ油を薄く塗る。
こうしておくことで、型から外しやすくなるのだ。
次に、スケルトンの骨粉とミセルの油、エンペラービートルの殻を良く混ぜる。
最初は固いが根気よく混ぜていると、段々と柔らかい蜜のような状態になるので、シモタッタラの粉末を全体に振りかけて、すぐさま型に流し込み固定。これで、あとは固まるのを待つだけだ。
「ジョーンさん、手際がいいですねぇ」
花さんが感心したように言った。
「い、いやぁ、へへへ……」
実は作業自体初めてだったが、動画を見ながら何度も脳内シミュレーションを繰り返し、作業工程を完全に覚えていたのだ。お蔭でスムーズに見えたのだろう。やはり予習は大事だ。
デバイスを操作し、アイテムボックスからツメタロン液と小瓶を取り出す。
「それは何ですか?」
「これはツメタロン液っていって、腐食耐性の効果がある液なんだ」
「へぇ~、なんか便利そうですねぇ」
「ごめん、花さん漏斗持っててくれる?」
「あ、はい」
花さんに漏斗を支えてもらい、俺はツメタロン液を小瓶に流し込んだ。
計三十本の小瓶を作り終え、ラベルシールに『ツメタロン液』と花さんに書いてもらう。
二人で小瓶にラベルを貼って無事完成。
「できた!」
「できましたね~!」
「へ~、何が出来たんだ?」
声の方に向くと、フードを被った藤堂さんがガムを噛みながら立っていた。
「と、藤堂さん⁉ お、お帰りになられたのでは……」
「ん? あぁ、ホテルにな。東京に帰るのは明後日だ」
花さんが、俺を伺うように見る。
「あ、えーと、モーリーと同じ、京都十傑の藤堂さんだよ」
「はじめまして、花っていいます。よろしくお願いします」
「あ、ああ、よろしく……」
笑顔で頭を下げる花さんを見て、藤堂さんがフードを目深に被りなおした。
「えっと、今日は潜られますか?」
「ん、そのつもり」
おぉ、藤堂さんがウチのダンジョンに潜るのか!
これはベビーベロスの無敗神話も……。
花さんがIDを受け取り、藤堂さんにタブレットで装備を指定してもらう。
・源氏ナックル+999
チラッと見た藤堂さんの武器を見て、俺は目を疑った。
いやいやいや、げ、源氏シリーズじゃん! マジで?
しかも限界強化って……。
ど、どんだけ修羅場くぐってんだろう?
「どうしたんだ?」
藤堂さんは、黒くて歪な形のナックルを手に嵌めながら、きょとんとした顔を向ける。
「い、いや、凄いなぁ~って思いまして。それ……、源氏シリーズですよね?」
「ん? そうだけど。でも俺、あんまそういうの詳しくないんだよね。大抵、三島に任せてるからさ。ははは」
三島さんが武器のメンテしてるんだろうか?
確かにプロチームだとメンテ専門の人がいるって話も聞いたことがあるけど……。
まぁ十傑くらいになれば、稼ぐアイテムの量も質も違うだろうし。
「そうなんですねぇ……。え⁉ 藤堂さん、ぼ、防具なしですか?」
「んなもんいらねぇよ。邪魔邪魔」
そう言って藤堂さんは、両拳を合わせ颯爽とダンジョンへ向かう。
呆気に取られていると、「あ、そうだ! 終わったら珈琲頼んでいい?」と振り返った。
「あ、はい! 用意しておきますね」
「悪いな」
「いってらっしゃいませー」
花さんが声を掛けると、藤堂さんは小さく手を上げた。
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