第92話 思わぬ来客です。
「あ、はい……。はい、なるほど! はい、ありがとうございます! じゃあ確認してみます、はい、では」
俺は小林さんからの電話を切った。まさか直接連絡をくれるとは……。
昨日の夜、P・Jについて相談のメールを送っていたのだが、その件について回答のメールをくれたという。小林さんの好意に感謝しつつ、急ぎメールを開いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
壇ジョーン様
どうも、小林です。
ご質問の件、僕なりの見解ですが纏めてみました。
まず、P・Jですが、制作過程で使用した素材は、
・リュゼヌルゴスの粘液
・スケルトンの骨粉
・トレントの樹液
以上の三種類、作り方は『俺の剣、作ってみた!』を参考に制作。
これが、氷原フロアで発熱した、何故か? というご質問でしたね。
結論から言いますと、粘液と樹液の割合です。
こちらで状況を再現、検証した結果、粘3:樹1の割合の混合液の温度を、0℃以下まで下げた時点で発熱を確認、骨粉に関しては、入れても入れなくても変化は見られませんでした。
これは、ジョーンさんが、ポイズンウツボハスの毒液をトレントの樹液で代用したことにより、偶然に発見された現象ですね。有益な情報をありがとうございます。
ちなみに、ベビーベロスの唾液はもう手に入れましたか?
三つの頭から別々の効果を持つ唾液が取れますので、幅広く活用できると思いますよ。
それでは、よいウェポンライフを!
AXCIS 小林
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ほ、ほほぉ~!」
思わず唸ってしまった。
なるほど、骨粉は影響しないのか……。反応したのは毒液の成分?
いやぁ~、さすが小林さん。こんなにも早く解明しちゃうなんてすごい。
しかも、気になるのはベビーベロスの件だ。
唾液……。こういう情報は中々ネットじゃ出てこないからなぁ。
むぅ、でもあのベビーベロス相手に、どうやって唾液を採取すればいいんだ?
相手はD&M無敗の犬王、こっちはしがない管理人、誰かに頼むといっても、豪田さんでさえ勝てなかった相手に、どう立ち向かえと……。
せめてもの救いは、ドロップアイテムじゃないってことくらいか。
「あ」
ドロップじゃないってことは、CLOSEにしてそっと採取すれば問題ないか?
試してみる価値はありそうだ。
「ふぅ……」
やることが山積みだなぁ……そうだ!
俺は自分のアイテムボックスを開いて、イエティからドロップした木の実を探した。
「お! 説明出てる!」
・シモタッタラの実
氷原に育つ針葉樹の実、アーモンド型の実の表面には、小さな棘がある。
・ツメタラスロック
イエティが好んで噛むツメタラスの木の実が、唾液で硬化したもの。
「へぇ~、ツメタラスってのは初めて見るぞ」
さて、これをどう利用したものやら。
効果の説明は……無しか。
俺はタブレットデバイスでツメタラスの検索をしてみた。
やはり、これといった有力な情報は見当たらない。
よし、定休日だし、少しずつ削って試してみるか。
早速、家からおろし金や容器など道具を持ってきて、二種類の木の実を取り出した。
「削れるかな?」
まずはシモタッタラの実をおろし金にあてて、ゆっくり擂り下ろしてみることに。
ジャリジャリジャリ……。
「お、意外と柔らかいな」
凄い、キラキラしてる!
粉末状になった実を容器に移し、次はツメタラスの方に取り掛かった。
「ん?」
駄目だ、硬くて傷もつかない。まるでビー玉みたいだ。
うーん、あとで煮てみるか? でも一個しかないからなぁ……。
とりあえずツメタラスの方は後で考えるとして、まずは、シモタッタラの粉末から利用法を考えよう。
砂遊びをするように手で粉末を掬いながら、使い道を考えてみる銀色の砂のようで、サラサラ。ひんやりと冷たくて手触りが良い。
「向こうはネイルだからな、こっちも装飾品で対抗すべきか、それとも……」
指輪か、うーん、何か安易な気がするんだよなぁ。悪くはないんだけど、こう、ロマンがない気がする。効果付きの指輪が作れたら、確かに重宝するんだろうけど。
こう、合体ロボ的な……。
「⁉」
が、合体……⁉ そうか! 合体だ!
パーツ分けして、組み合わせて使うものを作ればいいんじゃ……。
胸が高鳴る。急速に思考が研ぎ澄まされていくのがわかった。
何を作る?
留め具……、よくバックパックとかについている、両脇を押すと外れるアレとかどうだろう。
アレ、普段は使い慣れて何とも思わないけど、ダンジョンで使えたらめちゃ便利じゃないか?
皮でベルトを作って、留め具さえつければ流用が利くし簡単だ!
いや、ちょっと待てよ……。
――ロマンはどこに消えた?
きーっ! ロマンの欠片もないではないかっ!
駄目だ! うぅ……、いいアイデアだと思ったのに……。
俺という男はーーっ!
頭を掻きむしっていると、突然背後から声が響いた。
「おう、何してんだ?」
「えっ⁉ と、藤堂……さん⁉」(TOKYO NARAKU編 参照)
久しぶりに会う藤堂さんは、黒いパーカーのフードを被り、耳からは白いbluetoothイヤホン、伊達っぽい黒縁のメガネをかけていた。
「なんだよ、今日休み? つまんねーな」
「あ、す、すみません、定休日で……」
俺は立ち上がり「こ、珈琲でも淹れましょうか?」とカウンター岩に入る。
「え? いいの? 悪いな」
「いえいえ……」
藤堂さんは辺りを見回して、カウンター岩の椅子に腰かけた。
「ここがジョーンの店か。結構いい線いってんじゃん」
「ホントですか? ありがとうございます、嬉しいっす!」
珈琲カップを藤堂さんに差し出し、
「こっちには、おひとりで来られたんですか?」と尋ねる。
「仕事仕事。ったく、くっだらねぇ仕事頼みやがって……」
藤堂さんはチッと舌を鳴らし、珈琲に口を付けた。
「ん、なんだこれ、うまいな⁉」
「よ、良かったですぅ」
ほっと胸を撫で下ろしたものの、しばらくの間、気まずい沈黙が続く……。
たまに藤堂さんが珈琲を飲んだ後に「あー」とか「ふー」とか言うだけだ。
「お、お仕事大変そうですよね~、ははは」
「あ? 急になんだよ、やけによそよそしいな? 別に殴ったりしねぇから、普通にしろよ?」
クセの強い前髪の奥で、突き刺すような眼が光った。
はぅっ!
き、気まずいし、怖ぇ~。それに、殴ったりしない人は、そういうこと言わないと思う……。
俺は精一杯平静を装い「や、やだなぁ、普通ですよ、ははは」と答えた。
「ふん、ま、目当てのもんは手に入ったし、あとはのんびり観光でもしようかと思ってな、ついでに寄ってみたんだ。あ、森がよろしく言っといてくれってさ」
モーリーと聞いて、少し気が楽になった。
「あの、モーリーは元気ですか?」
藤堂さんは大きな欠伸をしたあと、ぐぐっと背伸びをする。
「あぁ、元気元気、相変わらずだよ。さて、タイガーネイルも手に入ったし、うどんでも喰って帰るか……」
「タタタタタタタタ、タイガーネイル⁉」
思わずハシビロコウのような口調に。
「何? お前変だぞ?」
藤堂さんは訝しげな顔で眉を寄せるが、気にも留めずに身を乗り出す。
「そ、それって、ダンクロのガチャですよね⁉」
「そうそう、良く知ってんな? ほら、アイツいただろ、NARAKUの時にさー、高級車乗ってた金持ち」
確か、ちらっとしか見えなかったけど……目の鋭い人だった気が。
「女に頼まれたんだと。ふざけてんよな? ま、こっちは、金さえもらえりゃいいんだけどさ」
そう言って藤堂さんは、ふんと鼻を鳴らした。
「と、藤堂さん、それって少し見せてもらえたり……?」
「別にいいけど」
「あ、ありがとうございますっ!」
や、やった! 実際に見ることができるなんて!
俺はすぐにデバイスを用意し、藤堂さんからIDを受け取るとタイガーネイルを取り出した。
DPの桁数がとんでもないことになっていたような気がしたけど見ないようにする。
「これが、タイガーネイル……」
見た感じ、普通のつけ爪にしか見えない。黄色と黒の虎模様で十枚。
こういうのが女子ウケするのだろうか? うーん研究せねば……。
「ハッ、こんなおもちゃの何がいいんだろうな?」
そういえば、藤堂さんってプロ中のプロ。ガチャからどんな物が出てきたら嬉しいんだろう……。
「あの、藤堂さんなら何が出て来たら嬉しいですか?」
「俺? 別にガチャに興味はねぇけど。ま、貰えるなら攻撃補助系の何かかな? 近距離専門だからさ、相手の注意を逸らすモンが必須なわけよ」
「なるほど……」
煙幕とか、何か手軽に投げられたりするものもアリか……。
タイガーネイルを戻し、藤堂さんにIDを返した。
「ま、何か知らねーけど、頑張れよ。これ、美味かったわ。ごちそうさん」
藤堂さんはカップを俺の方に置き、席を立った。
「じゃあなー」
「あ、ありがとうございました!」
さっさと出ていく藤堂さんを慌てて追いかけ、お礼を言った。
意外と優しい人なのかな? NARAKUではあんなに怖かったのに……。
俺はカップを片付け、明日の準備を終わらせた後、再び作業に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます