第185話 オブザデッドの香り
「うぉっ⁉」
「な、なんなのっ⁉」
そして、ステージ上にプシューーーッ! っと白煙が噴射され、色々なモンスの着ぐるみ達が登場した。
「きゃー! 見てくださいよ、ジョーンさん! リュゼヌルゴスです! あ、ヘルハウンドも!」
興奮した花さんに、バッシバシ背中を叩かれる。
「そ、そうだね……」
「あっ! ラキちゃんもいるーーっ!」
テンション上がりまくりの花さんに若干気後れしつつも、俺も会場の熱気と盛り上がりに自然と高揚感を感じる。
ふと紅小谷に目をやると、何やらメモを取っていた。
何をしてるんだろう……。
ステージ上に横一列に並んだモンス達は、音楽に合わせてリズムを取っている。
「なかなか可愛らしいじゃないか」
「がはは、ウチでもこういうのやってみるか?」
周りの人達の反応も上々だ。
――バンッ!
突然、ホールの照明が暗転し、ステージ中央にピンスポットが当たった。
「ドウモドウモ! みなさん、モウカッテマッカー? というワケで、お待たせシマシタ、ワタシはゲームマスターのニコラス・クロウリーとモウシマスゥー!」
ニコラスさんだ!
何だか少し嬉しくなる。
「サテサテ、積もるハナシもありますが、ゴ挨拶は後ほどコベツにさせてモライマース……」
――ダダンッ!
タイミング良く効果音が響いた。
そして、ナレーターの声がホールに響き渡る。
『第一問、ステージ上に登場したモンスの種類を全てお答えください。スタッフがお配りするタブレットを使ってご回答をお願いします……それでは、シンキングターイムッ……スタートッ!』
おぉ、いきなりかよ⁉
このBGMはクイズ番組とかで流れそうなやつだな……。
ステージを見ると、すでにモンスの着ぐるみはどこかへ消えてしまっている。
「えー、何だっけなぁ……ラキモンがいたのは確かなんだけど……」
「ふふふ……こんなこともあろうかとおも――」と、紅小谷が言いかけた瞬間、
「覚えてますよー、ラキモンにリュゼヌルゴス、ミルワーム、トレント、ミドロゲルガ、ヘルボーンナイト、ヘルハウンド、スパイラルモモンガ、ドラゴンフライ、ウィスパー、マッドグリズリー、バババットですね」と、花さんがそらんじる。
「す、すごい……」
「ちょ……」
「記憶力だけは良いんです、へへへ」
「やるわね……私のメモとも合ってるわ」
「二人ともすげぇな……よし! これでOKじゃない?」
俺はタブレットにモンスの名前を書いた。
『シューリョウ! シューリョウでっす! さあ、第一問の結果は……カマンッ!』
――――――――――――――――――
参加
[50チーム]
○正解
[41チーム]
×不正解
[9チーム]
――――――――――――――――――
『いきなりだったにもかかわらず、かなりの好成績となっております! こちら正解された方には、モンスポイント10ポイントが加算されます! お見事! ゲッチューポインッ、コングラチュレーション!!』
「なんだよモンスポイントって……」
「いい加減説明しろって」
「おいおいそりゃないよー」
そこら中から不満の声が上がる。
すると突然ナレーターが歌い始めた。
『モンスあててちょ~だい♪』
『『サァークルピット~♪』』
「な、なんだ⁉」
「ふ、ふざけてるのか!」
『モンスあててちょ~だぁ~い♪』
『『サークルピット~♪』』
『……さて、皆様気になって仕方がないようですので、ここでゲェーム説明を行いたいと思いますっ!』
「何がどうなってんだ……酒でも飲んでんのかな?」
「しっ、聞き漏らしちゃだめよ、何があるかわからないんだから」と紅小谷。
「お、おう、そうだな」
『モォンスゲェーム……このゲームをするにあたって、お呼びしたプレイヤーの皆様は弊社が厳選した日本の優良デェァンジョンオゥナァーです。これから皆様には幾つかのクイズに挑戦していただき、モォンスポォインッ、を集めてもらいます。モォンスポォインをたくさん集めたチームには、なぁんと! 我がサークルピットが社運を賭けて建造した近未来アトラァクションワールド!『ダンジョンシティ・オブ・ザ・デッド』にご招待致しマスっ!!!』
「何だよオブ・ザ・デッドって……」
「どういうこと?」
「B級ホラーみたいになってんぞ!」
ホールが騒然とする。
「こ、これは大変よ……」
紅小谷の手が微かに震えていた。
「知ってるの? 何なのそのダンジョンシティなんとかって」
「噂には聞いてたんだけど……ほら、何年か前にサークルピットがアジアの無人島を買ったってニュースになってたじゃない?」
「あ、私覚えてますよ、確かフィリピンの方ですよね?」
「そうそう、で、その島に何か大きな街のような施設を造ってるって聞いてたんだけど……」
「まさか、街をまるごと造ったの⁉」
「信じられないけど……サークルピットの企業規模なら不可能じゃないわ」
「どんな感じなんですかね、見てみたいです!」
『簡単にご説明しましょう』
――ダダンッと効果音が入る。
『VR? AR? プロジェクションマッピング? ノンノン、これはリアル……そう! ダンジョンシティ・オブ・ザ・デッドは無人島をまるごと人工的にダンジョン化した初の試みなのですっ!』
「マジかよ⁉」
「そんなことできんのか⁉」
『サークルピットが世界中より集めたダンジョンコアを移設、かなりの年数が掛かりましたが我が社が開発した新技術『Brave New World Link』により定着したコアが活性化し、現在、島はまごうこと無きダゥァンジョンと化しております!』
「いったい、いくら使ったんだよ……」
「考えられん」
『しかも……島に発生したモンスは『アーンデェッド』のみっ! そしてその数……約3万体!』
「さ、三万体⁉」
「むちゃくちゃだろ……」
「召喚だけでいくら使ったんだ⁉」
――ホールが騒然となったその時!
ドォゴォオオオオォォーーーーーーーーーーーーン……!
凄まじい揺れが全員を襲った!
「きゃーーーーーっ⁉」
「な、なによこれーーーっ⁉」
「は、花さん! 紅小谷ぁーーっ!」
ゆ、床が浮いて――⁉
俺はゴロゴロと床を転がった。
な、なんだ、何が起きたんだ⁉
目が回る……‼
「おい! どうなってる!」
「非常口はどこだ⁉」
「慌てるな! 冷静に、冷静に!」
一瞬、パニックになりかけたが、集まっているのはダンジョン管理者ばかりだ。
すぐに平静を取り戻し、状況の把握に努めている。
その様子を見て、俺も見習わなきゃと心を落ち着けた。
これだけデカい船がこんなに揺れたってことは、相当大きな事故に違いない。
とにかく二人と、はぐれないようにしなければ!
よろめきながら花さんと紅小谷の側に向かう。
「おい、大丈夫か⁉」
「ジョーンさん! 私は大丈夫です……でも、紅小谷さんが足を挫いたみたいで……」
「こ、このくらい平気だわよ! 私を誰だと思ってんの、スタイリッシュダイバーのべ……うっ……」
「いいから黙ってろって」
俺はそっと紅小谷の足に触れた。
「――っ⁉」
ビクッと肩を震わせる紅小谷。
かなり腫れてるな……こりゃ相当痛いはずだぞ……。
「花さん、ちょっと紅小谷を頼む、すぐに戻ってくるから!」
「あ、ジョーンさん!」
「ジョンジョン! いいから……」
俺はホールを見渡し、スタッフを探した。
見ると客を誘導しているスタッフが目に入った。
側に駆け寄り、声を掛ける。
「すみませんっ!」
「あ、早く避難をお願いします! この人達の流れに着いていってください!」
「あの、足を挫いた子がいます、救急道具か救護担当の方はいませんか⁉」
「えっと……救急班がいるはずなんですが、まだこちらには来てないみたいで……」
「事故ですよね? 状況は? すぐに避難しないといけない状況ですか?」
「は、はい、どうやら岩に座礁したらしく、島に緊急避難すると上から指示が……」
「火災は?」
「今のところ、報告はありません」
「……わかりました、島に救急班はいますよね?」
「はい! それは間違いありません!」
「ありがとうございます!」
俺はそれだけ確認すると、二人のところに走った。
「おーい、行くぞ! 座礁したらしい。今、島に避難しているらしいから急ごう!」
「でもジョーンさん、紅小谷さんが……」
「だ、大丈夫よ、これくらいなんてことは――ぐっ……」
「ほら、無理すんな」
俺は紅小谷に背中を向けた。
「ジョ、ジョンジョン……いくらジョンジョンでも、それはちょっと……」
「ったく、そんなこと言ってる場合かよ! 我慢しろって!」
「紅小谷さん、このことはお墓まで持って行きますから!」
「は、花さん……それは流石に俺も傷つく……」
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
「あはは! もういいわ、ごめんねジョンジョン、我慢してね……」
紅小谷が俺の背中に乗った。
驚くほどの軽さに、なんだかんだ言っても女の子なんだなと改めて実感する。
「よし! 花さんは走れるよね?」
「はい! 大丈夫ですっ!」
「しっかり掴まってろよ、紅小谷!」
「う、うん……」
矢鱈流を教わって以来、コツコツと筋トレを続けていて良かった。
やはり、筋肉はすべてを解決する――。
「うぉおおおおおおりゃあああーーーーーーー!!!」
俺は紅小谷を背負って走り出した。
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