第184話 集められたダンジョン経営者達
「……ジョンジョン、ジョンジョン! ジョンジョンジョンジョン、起きなさい! ジョンジョン!」
「ん……んん……紅小谷?」
俺は目を擦りながら体を起こした。
「た、大変なのよ……は、花さんが、花さんが……!」
「え?」
俺は真っ青な顔をした紅小谷に手を引かれ、隣の花さんの部屋に入った。
「…………」
そこには、ベッドに横たわる花さんの姿があった。
「花……さん?」
それは異様な光景だった。
花さんの体には、真っ白な紐状のものが大量に絡みついていたのだ。
「こ、コシの強いうどんが絡みついてて……は、花さんが……」
紅小谷はあわあわと口元にある手を震わせた。
「だ、大丈夫だ、落ち着け!」
と言ってみたものの……これは一体、何が起きてるんだ⁉
――ズズ、ズズズ……ズズズズ。
何かを啜る音……?
見ると、花さんに絡みついたうどんを一本ずつ啜る、小さな猫又たちの姿があった。
「な、何やってんだ⁉ こらっ!」
俺は近くにあったクッションを手に取り、猫又たちを追い払う。
猫又たちも負けじと「シャーッ」と威嚇音を発しながら麺打ち棒を構え、じりじりとにじり寄ってくる。
「く、来るなら来い! 花さんに指一本触れさせるかっ!」
「「フシャーッ!!」」
「このぉ‼」
「……」
「……ジョンジョン、ジョンジョン!」
――ハッと我に返った。
「ジョーンさん、目が覚めました?」
「あ、あれ? 花さん……うどんに絡まってたんじゃ……」
パシンッと頭をはたかれる。
「このたわけーーーーっ! 早く起きなさいよ、ゲームが始まっちゃうでしょ!」
ゆ、夢か……良かった。
しかし、リアルな夢だったなぁ……。
よく考えれば、うどんに絡まって死ぬとかあり得ないか。
「ごめん! すぐに用意するから……」
* * *
船内で一番大きなホールに参加者が集まっている。
正面には大きなステージがあるが、今はだれもいない。
ホール中央に集められた俺達は、事前に渡されたジャージに着替えさせられていた。
胸のワッペンには『D&M』と書かれている。
「これじゃ中学生じゃない……」
紅小谷が不満そうに口を尖らせた。
「えー、でも何か懐かしい感じがして良くないですか?」
――ぐはぁっ⁉
花さんの『D&M』の文字がむにぃーっと横に伸びている。
紅小谷との対比が……。
紅小谷は花さんの胸元を見て「そ、そりゃ花さんはスタイルいいから……私なんて……」と、珍しく小さくなっている。
「いやいや、似合ってるよ、小学生みたいで」
「キぃぃーーーーーッ! いま、なんつった⁉ あ、あんただって……ていうか、違和感なさすぎて逆に引くんだけど……」
「確かに不思議なくらいしっくりきてますね……」
「ちょ! 花さんまで……うぐぅ……」
そんなやり取りで少しは緊張が解けたのか、紅小谷は集まった人達を見て、
「かなり有名どころが集まってるわね……ほら、あそこ、あれ『あめのま』さんよ」と口元を隠して言う。
「えっ⁉ マジで⁉
「それだけじゃないわ……あの奥」
「ジョーンさん! あれ、渋沢団九郎さんって方じゃ……」
「えぇっ⁉ ほ、ホントだ……どうしよう、挨拶した方がいいかな……」
「は? ちょっと待って……あんた会長と知り合いなの?」
紅小谷が俺の袖を掴む。
「知り合いっていうか、ほら、前に近所にダンクロが出来ただろ? あの時にちょっとあってさ……」
「ジョーンさん言ってなかったんですか?」
「いや、てっきり言ったと思ってたけど……」
紅小谷は大きくため息をついた。
「はあ……あんたってホント、持ってるわね」
キランと目を輝かせる紅小谷。
「ジョンジョン、私を会長に紹介して」
「え……いや、向こうは覚えてないかもだし……」
「ジョンジョン……今まであんたのためにどれだけ私が……」
「わかった、わかったよ! もう……でも期待しないでくれよ?」
「ええ、それは承知の上よ、さ、行きましょ!」
「じゃ、じゃあ、みんなで行こう」
俺達はそーっと少しずつ会長に近づいていく。
会長の周りには、SPらしき体格の良い男達の姿が……。
「んー、近づきにくい……」
「もう、こうなったら堂々と行くしかないわよ、ほら、男をみせなさい!」
グイグイと紅小谷が俺の背中を押す。
「あー、もう、わかったから押すなって!」
その声に渋沢会長が反応した。
こっちを見てすぐに顔をほころばせ、驚いたことにこっちに向かってきた。
「うぉ! ど、どーすんだよ、来た、来たぞ!」
「あんたが逃げてどうすんの! ちゃんと前みなさいよ!」
三人でわちゃわちゃしていると、
「やあ、久しぶりだねぇジョーンくん」と、渋沢会長が声を掛けてきた。
「そ、その節はどうも……ご無沙汰しておりますっ!」
直角90°+10°でお辞儀をする。
「はは、そんなに固くせんでくれ、寂しいじゃないか」
「会長、その方は……」
SPらしき男が間に入る。
「いま、ワシが大事な友人と話をしているのがわからんのか?」
一瞬でSPの顔が凍り付く。
素早く後ろに下がり、頭を下げた。
「も、申し訳ございません!」
「すまないねぇ、まあ彼も仕事だから許してやっておくれ」
「も、もちろんっす!」
こ、怖ぇ~! パワハラ⁉
団九郎の圧半端ね~!
てか、沸点低すぎじゃね……?
「やっぱりジョーンくんのところにもお誘いが来たか、うんうん、そうだろうねぇ」
「あ、いえ、ニコラスさんは、何度かD&Mに遊びに来ていただいたことがあったので……」
「おや、そうなのかい。ウチは誰が行くかでダラダラダラダラ揉めおって……見かねてワシが来ることになってしまってね、わははは!」
ウチの爺ちゃんより年上とは思えないな……。
全身からオーラのようなものが漲ってるわ。
まぁ、なんだかんだ現役でダンジョン潜れるくらい強ぇしな……。
「ところで、そちらのお嬢さん方は?」
「あ、ご、ご紹介します、こちら『さんダ』の管理人で紅小谷さんです」
「どうも会長、紅小谷鈴音と申します。お噂はかねがね……」
今までと同一人物には思えないくらい丁寧な口調で挨拶をしている。
ジャージ姿なのが全部台無しにしているが……。
「こちらは平子さん、ウチでアルバイトをして貰ってる方です」
「はじめまして、平子花といいます。みんなには花って呼ばれてます」
「おぉ、そうですか、いやあ若い方は眩しいね、ははは。私は渋沢といいます、どうぞよろしく」
渋沢会長は嫌な顔一つ見せずに挨拶してくれた。
ダンクロには色々思うところもあるが、会長は嫌いになれないなと改めて俺は思った。
と、その時、周りから噂する声が聞こえてくる。
「あれ……渋沢会長だよな……あの青年は……」
「何であんな奴が……」
会長の耳にも入ったのか、困ったように眉を下げ、
「なんとも、すまんね……ゆっくり話もできんわい」と苦笑いを浮かべた。
「い、いえ、僕は全然大丈夫ですので」
「ありがとう、ではゲームが一段落したらまた声をかけさせてもらうよ」
「あ、はい! では失礼します!」
「会長、今後ともよろしくお願いいたします!」
「失礼します!」
紅小谷と花さんが挨拶すると、会長は目を細めて、
「はいはい、じゃあまたね」とまるでお爺ちゃんみたいに頷いた。
SPが戻り、そのまま会長達は離れていく。
「ふぅ~、緊張したなぁ!」
「あれが団九郎……時代を創った男は違うわね」
「何か貫禄が凄かったです」
――その時、ホールにファンファーレが鳴り響いた。
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