第14話 イベント真っ只中です。
『ギュワワワワワーーーーーーーーーッ!!!!』
俺と矢鱈さんたちは、一斉にマンドラの実の叫び声に反応した。
「反応来ました! あっちみたいです!」
平子Dがフロアの奥を指をさす。
「皆、共鳴針を持って! 走ります!」
GKの居ない扉を抜け、下へ続く階段を駆け下りる。
皆の足音が、薄暗い階段に響いた。
「てっ!」
危ない危ない、危うく自分が配置したスケルトンの骨で転ぶところだった。
……階段周りは後で片付けとくか。
迷宮フロアの六階へ入ると、湿った空気が、ひんやりとしたものに変わる。
通路には、小部屋が並んでおり、共鳴針を見ながら小走りで進む。
「ちょ、ちょっと早くない?」
背後から絵鳩の息を切らせた声が聞こえた。
「自分たちで絵鳩ちゃん見てますから、先にどうぞ」
と平子Bが良いところを見せようとする。
「ジョーンくん、多分実を潰した班もベテランがいるから、大丈夫じゃない?」
確かに、矢鱈さんが言うように今回の参加者にはベテラン勢が多い。
俺よりも装備が充実した人もいるし……。
「じゃあ、ちょっと休みましょう」
平子Bが残念そうに
「そ、そうですね」
と答えると、平子Cがニヤニヤしながら、その肩を叩いた。
「しかし、小部屋多いですねぇ……」
ウロウロしていた平子Bがおもむろに小部屋の扉を開けた。
「あ! ちょ……」
「うわぁぁぁぁ!!!」
その瞬間、部屋の奥から無数の触手が平子Bに巻き付き、中へと引きずり込む。
「平子さん!!」
「兄貴!」
平子C~Fが叫んだ。
咄嗟に俺たちも部屋へ飛び込む。
同時に、勝手に扉が派手な音をたてて閉まった!
――不味い!!
部屋に
触手をうねらせ、その粘液は糸を引き
さあ、人の子よ、我らと踊れ――その生命、尽きるまで。
༼ꉺ✺ꉺ༽༼❁ɷ❁༽༼இɷஇ༽༼´◓ɷ◔`༽༼•̃͡ ɷ•̃͡༽༼ꉺεꉺ༽༼ꉺ౪ꉺ༽༼ꉺ✪ꉺ༽
よ う こ そ 、 パ ニ ッ ク ル ー ム へ 。
༽༼☉ɷ⊙༽༼✷ɷ✷༽༼≖ɷ≖༽༼ԾɷԾ༽༼・ิɷ・ิ༽༼ꉺˇɷˇꉺ༽༼ꉺლꉺ༽༼☉ɷ⊙༽
パニックルームとは、稀に遭遇するモンスの異常発生である。
発生した部屋はモンスをすべて倒さない限り脱出ができない。
比較的、下位種のモンスが多いのだが、いかんせん数が多い。
単独行動中に当たった場合はかなりヤバいことになるのだ。
しかし、全て倒した時に得られるDPは大きい。
「パ、パニックルームだ!!」
俺は叫んだ!
矢鱈さんは野太刀を抜いて構える。
平子B~Cが絵鳩を守るように扇状に散開した。
「なにこれ、ヤバい」
さすがの絵鳩もただならぬ雰囲気に怯えている。
まったく、よりによってイベント中に発生するなんて。
どうせなら、通常営業日に発生してくれれば良いのに……勿体無い。
「ジョーンくん、行きますよ?」
矢鱈さんが
「はい! 俺は捕まってる平子さんを助けます!」
「了解!」
矢鱈さんは飛んだ。人がここまで飛べるのかというほど飛んだ。
「むんっ!」
振り下ろした野太刀から噴水のようにモンスの体液が飛び散る。
の、野太刀で? この人は本当に凄い……。
俺も負けじと、ルシール+99を握りしめて、触手のモンスへ殴りかかった。
「オラオラオラッ!!」
久しぶりだ、この熱く
「オラッ! オラオラッ!」
粘液で保護された触手を物ともせずに潰していく。さすが俺のルシール+99だ。
平子Bの拘束が解かれ、ドサッと床に落ちた。
「カバーを頼みます!」
寄って来るモンスを牽制しながら、俺は平子兄弟に声をかける。
素早く平子CとDがカバーに入り、平子Bの救出に成功した。
平子Cが慣れた手付きで回復薬を飲ませ、一旦B~Dが後ろへ下がった。
「ジョーンくん、伏せて!」
矢鱈さんの声に、俺は身を屈めた。
「むんっ!」
モンスの群れ目掛け、矢鱈さんは横一線に野太刀を振った。
『ギョビィッ!!』
ギュウギュウに固まっていたモンスたちが一掃される。
さらに矢鱈さんは、まるで演舞のように、次々とモンスを切り裂いていく。
おいおいおい、一体、どれだけの修羅場をくぐればこんな事ができるんだよ……。
「これで大分減ったよね?」
「は、半端ない……」
大半のモンスが矢鱈さんにより駆逐され、ガラーンとした元の部屋に戻った。
残っているモンスを平子兄弟&絵鳩チームが片付ける。
「これで最後です」
平子Eがモーニングスターを振り下ろしとどめを刺す。
ブチュッ! 鈍い音が響き、モンスが霧散して消えた。
「ふぅ~、お疲れ様です」
「お疲れ様でした、平子さん凄いですねぇ」
「いえいえ、みなさんに比べたら」と平子Eが答える。
矢鱈さんが扉を開けて
「ジョーンくん、扉も空いたし先へ急ごう」
「あ、はい。じゃあ行きましょうか」
「「「「「はい」」」」」
無事、パニックルームを抜けた俺達は元の通路へ戻った。
「しかし、絵鳩ちゃんカッコよかったよ~」
「そうですか?」
平子兄弟に持ち上げられ、満更でもなさそうな絵鳩。
「ホントホント、様になってるっていうか、とても初めてだと思えないよ」
ったく、絵鳩が凄いんじゃない、刀が凄いんだってば。
共鳴針を確認しながら走る。
そして、俺達は針が示す七階までたどり着いた。
「ジョンジョン!」
紅小谷が俺達を見つけて声を上げた。
――交戦中だ!
真っ赤な刃の黒い大鎌を巧みに操る紅小谷が、ロードの攻撃を弾いている。
「デスサイズ! やっぱ格好いいなぁ~」
思わずレア武器の
「何やってんの? バカなの? これは分身だから、早く本体探しなさい! このたわけっ!」
素早く攻撃を避けながら紅小谷が叫ぶ。
「あわわ、す、すみません! わかりました!」
ロードの分身は紅小谷の班に任せて、俺達の班は本体を探しに走った。
しかし、どうやって分身を見極めたんだろう?
後で教えてもらおう。うん。
俺達はフロアの雑魚モンスを蹴散らし、片っ端から、小部屋を開けていく。
別の班も合流し、
横目で見ていても、ベテラン勢の強さには驚かされた。
う~ん、これはかなりの手練と見た。
このイベントが成功すれば、また来てくれそうだぞ。
「ねぇ」
絵鳩が俺を呼び止める。
「どうした?」
「あれ、何?」
指さす方、通路の奥に広間が見えた。
「ジョーンくん、行ってみようよ」
矢鱈さんが好奇心に目を輝かせて言う。
「了解です、じゃあ皆、十分に警戒して少し遅れて後ろから来て下さい!」
こうすることで、トラップだった場合に最悪の事態を防ぐ事ができる。
初心者の絵鳩や、わざわざ参加して貰った平子兄弟に万が一があるといけない。
――円形状に広がる広間。
正面には赤い絨毯が敷かれた横長の階段があった。
階段上の祭壇には、蝋燭で囲まれた石棺が置かれている。
「やったねジョーンくん、やっぱ君はついてるよ」
「み、見つけた!」
俺は急いでマンドラの実を踏み潰した。
『ギュワワワワワーーーーーーーーーッ!!!!』
「矢鱈さん、皆が来るまで倒しちゃ駄目ですよ?」
「わかってるって、なんか紅小谷に似てきたね?」
ズズズ……。石棺の蓋が動いた。
「矢鱈さん! 来ます!」
鋭い爪の生えた青白い手が出て蓋を掴む。
そして、バババットの大群が石棺の隙間から一斉に飛び出した!
バババットは空中で大きく旋回し、巨大な黒い塊から小さな群れへと別れていく。
群れは、石棺の前に左から一体、また一体とロードの分身を形成して、数秒も経たぬうちに、階段には四体の分身が並んだ。
「分身、四体です」と俺。
「どうする? 分身だけでもやっちゃう?」
矢鱈さんは野太刀を肩に置き
「じゃ、俺右二体ね」
と、返事も待たずに走り出してしまった。
「ちょ!」
ああ、参ったな。俺じゃ二体も相手にできないよ……。
そこに遅れてきた平子兄弟と絵鳩、そして別の班も合流する。
おお! ベテラン勢も来たか! 心強い!
「じゃあ、僕の班は左端のを。皆さんはその隣をお願いします!」
「おう、任せとけよ店長!」
強面のベテランダイバーが、獣神の斧を担いで威勢よく答えた。
うひょー、すげぇ斧。あれもかなりのレア物だ。
「よし、行こう!」
俺は平子兄弟と絵鳩に合図し、広間の左端へ走る。
「俺達が隙を作る! 絵鳩はそれまで後方で警戒!」
「平子さんたちは、湧いてくるバババットとサポートをお願いします!」
早口で指示を出し、俺は道具袋から『バブルボム』を取り出す。
バブルボムは強粘着性の泡で相手の動きを鈍らせる効果があるのだ。
これを利用して、ヴァンパイア系などのモンスがバババットなどに変化して逃げるのを防ぐ。
例え分身でもロード相手に何処まで効果があるかはわからないが……。
「えいっ!」
「たぁっ!」
絵鳩は空気を読まずに刀を振っている。
五月雨珠近の波動が刃となって、ロードの身体にダメージを与えていた。
ちょw おいおい、待てって言っただろ?
……ま、まあ、結果オーライだけど。
よし、今だ!!
俺は五月雨の波動に怯んだ分身にバブルボムを投げつける。
見事命中し、その瞬間分身をピンク色の泡が覆い隠した。
『ぐぬぅ……、おのれ虫けら共が……』
泡が纏わりつき、分身がもがいている。
「いまだーーーーーっ!!」
俺たちは一斉にロードに襲いかかった。
その瞬間、分身のロードたちが一斉に黒い霧となり、石棺の中に吸い込まれていく!
「な、なんだぁ?」
「なに?」
「集まってるぞ!!」
別の班のダイバーたちも次々に声を上げた。
その時、複数の足音が響く。
「来るわよ、みんなぁーーーーーーっ!!」
叫びながら走ってきた紅小谷班が合流、これですべてのダイバーが揃った。
――ゴゴゴゴ……。
広間全体が揺れている。
そして、石棺が見る見るうちに、金色の輝く棺へと変化していった。
「す、すごい……」
絵鳩が感嘆の声を漏らす。
地鳴りが収まり、広間を張り詰めた空気が支配する。
――声が聞こえた。
脳内に入り込み、直接語りかけてくる様な声が。
『Sunt întuneric. Este singurul întuneric care strălucește lumina.』
( 我 は 闇 、光 を 照 ら す 唯 一 の 闇 な り )
金色の棺が吹き飛び、ヴァンパイア・ロードがついにその本体を現した。
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