第15話 イベント、お疲れ様でした。
『Haaa……私は闇を選んだ……貴様たちはどうだ?』
僅かに笑みを浮かべたヴァンパイア・ロードは、漆黒のマントを投げ捨てた。
地に落ちたマントは、無数の影狼となって散開し、ダイバー達を急襲する!
かなりの数のダイバーが、一気に影狼との交戦に入った。
「ジョンジョン! 行くわよ!」
紅小谷が、
「はい! 平子さんたち、絵鳩を頼みます!」
「「「「「了解!」」」」」
俺は班を離れ、紅小谷と合流しロードに向かって走る。
「いい? 美味しいとこは他のダイバーに渡すのよ?」
紅小谷は走りながらそう言って、影狼を次々と切り裂いていく。
やっぱり、この人も只者じゃない。俺とは場数が違う。
「ウォオオオ!!」
俺も負けずと影狼を殴り倒す。
『愚かな者どもよ……』
ロードがそう呟き、広間へ舞い降りた。
その時、右手から疾風の如く斬りかかる矢鱈さんの姿が見えた。
まさに、一陣の風。凄まじい金属音が鳴り響く。
ロードは黒く輝く剣で、矢鱈さんの斬撃を止めた。
「な、なんて速さだ……」
あ、あの人は、全然本気を出して無かったのか?
「ったくあのバカ! あれほど言ったのに……」
と、紅小谷が悪態をつく。
矢鱈さんはそのままロードの身体を足場にして宙返りをした。
そして、着地と同時にもう一度、居合のような抜刀でロードを斬る。
ロードの左手が床に鈍い音を立てて転がった。
『ぬ……き、貴様ぁぁぁぁあああああ!!!!』
獣の様な唸り声と共に、その黒い断面が捻れていく。
「紅小谷、後は頼んだよ」
矢鱈さんはそう言って、ロードから離れ他のダイバーの加勢に向かった。
「言われなくても、やるわよ!」
紅小谷はロードに斬りかかりながら
「ジョンジョン! 強そうなダイバーをこっちへ廻して!」と叫んだ。
「はい!」
俺は、近場のベテラン勢に喰らいつく影狼たちを殴って回った。
「頼みます!」
「ありがとうございます!」
「へへ、店長悪いなぁ!」
二刀流で細身の女性ダイバーと、さっきの獣神の斧を持った強面の人だ。
他には三叉槍を持った動きの良いダイバーも向かう。
うん、あの人たちならいけそうだ!
影狼の相手をしながら辺りの様子を確認する。
平子兄弟と絵鳩は、上手く陣形を取って戦っていた。
「なかなかやるな」
絵鳩は、五月雨珠近の波動が、影狼に効かないので苦戦しているようだったが、それを平子兄弟が上手くサポートしていた。
『ガァァァァッァアァアアア!!!!』
凄まじい叫び声が広間に響く。
見ると、強面のダイバーが一撃を食らわせたようだった。
――やったのか!?
ダイバー達が、皆ロードに注目する。
ロードの身体は肩からパックリと裂け、誰もが勝利を確信した。
が、しかし……。
『我は見たり深淵の狭間……久遠に臥したるもの……なく』
ロードの身体は痙攣を始め、何かを呟き始める。
顔色を変えた強面のダイバーが
「不味い! 殺りきれなかったか!! すまん、
咄嗟に、紅小谷が他のダイバー達に向かって叫ぶ。
「皆、離れてーーーーーーっ!!」
やべっ! 自爆だ!
ロードが天に向かって叫んだ!!
『
――実家正面の空き地。
「いやぁ~、ロード強かったっすねぇ~」
「でも、凄かったですよ、あの一撃は」
「……あの分身にさぁ」
「これ、美味しいよねー」
「私、影狼倒しましたよ」
「あ、俺も俺も!」
「ほら……あの階でさ……」
モクモクと煙が上がり、香ばしい匂いが漂う。
各班ごとにBBQを囲み、皆楽しそうに笑顔で話している。
――そう、結果的にロードは倒せなかった。
あと少しで倒せていたのだが、運悪く瀕死状態にしてしまったのだ。
ロードは瀕死状態でのみ使う『世界の闇』という自爆技があるのだが、今回は、見事それを喰らってしまった……というわけだ。
勿論、DPペナルティは発生する。
普通なら怒る人もいるのだが、今回参加してくれたダイバー達は全然かまわないと納得してくれた。
ダイバー同士の交流も深まったようで、連絡先を交換したり、ダンジョン談議に花を咲かせていた。
次のイベントの予定を聞かれたりして、ロード討伐には失敗したものの、イベントは成功したと言ってもいいだろう。
そして、言い忘れていたが全員――水着である。
ダンジョンから戻った時、全員が黒い粘液まみれだった。
多分、ロードが砕け散った時のものだと思う。
女性陣の絶叫が響き、その状況を見た平子Bが機転を効かせて、店から水着を持ってきてくれた。
なんというファインプレー。
それから全員で近くの川へ行き、粘液を落とすべく水浴びをしたのだ。
しかも、水着代は、平子Bが処分品なので構わないと言ってくれた。
抱きしめたいっ!
なので以前、水着回など無いと言った事は、どうか忘れて欲しい。
「ジョーンくん、お疲れふぁま!」
矢鱈さんが肉串に噛みつきながら言った。
「あ、お疲れ様です! いやぁ、矢鱈さんの強さは異常ですよ! もう、びっくりしちゃって」
「ふぉんなことないよ」
と、そこに、ビールを片手に持ち、ワンピースタイプの水着を着た紅小谷がやって来た。
「ジョンジョン、ご苦労さま。良く頑張ってたわよ、ちょっと見直したわ」
「ああ、お疲れ様です! いやぁ、本当にありがとうございました! 全部、紅小谷さんのお陰です」
俺は姿勢を正して頭を下げた。
「ったく、紅小谷でいいわよ、紅小谷で。年変わんないでしょ?」
「え?」
どう見ても、年下に見えるが。
でも、ビール飲んでるって事は……。
ほんのり顔を赤くした紅小谷が面倒そうに
「23よ」
「え? マジで同い年!?」
矢鱈さんがそれを見て
「ははは、紅小谷は妹に見えるけどな」と笑う。
「うるさいわねっ!」
と声を荒げながらも、紅小谷は一緒になって笑っていた。
「あの」
振り返ると、平子兄弟に囲まれた絵鳩が、薄い水色のビキニ姿で立っていた。
ったく、ガキが色気付きやがって。
「お疲れさん! どうだった、初ダンジョンは?」
「よき」
「は?」
「良かったって言ってんのよ!」
と、紅小谷が口を挟む。
「あ、ああ~。それは良かった良かった」
と笑っていると、平子Bが
「ジョーンさん、今日はありがとうございました」
「いやいや、ジョーンでいいですよジョーンで。こちらこそ水着、助かりました」
平子兄弟全員と握手を交わす。
「ジョンジョンでいいじゃない」
と紅小谷が言うと平子Bは少し照れくさそうにして
「いや、それは流石に……、じゃあ、ジョーンくんで」
「全然オッケーですよ。それより、皆さんかなりダンジョンに慣れてますよね? 結構潜られてるんですか?」
「まだ店を手伝って無い時に、良く兄弟で潜ってたんですよ」
「あー、どおりで。やっぱ連携とか、バッチリ決まってましたから」
俺は敵を攻撃する素振りを見せる。
「ははは、久しぶりだったんで緊張しました。それよりも、矢鱈さんは流石としか言いようがなかったですねー」
と、平子Bが感心したように頷きながら言った。
紅小谷が野菜串を矢鱈さんに向けて
「あいつの事は考えない方がいいわよ。普通じゃないから」
「ひどいな紅小谷。普通だよ、普通」
矢鱈さんが笑って反論するが、当然、俺を含め誰も賛同する者はいない。
「撮る」
『「「「え?」」」』
皆が一斉に振り向くと、絵鳩のスマホがパシャッと鳴った。
「おk」
絵鳩はスマホをチェックしている。
「お、おkじゃねぇー! お前は唐突すぎんだよ!」
あ、いけね。そのまま口に出してしまった。
怖がらせちゃったかな……?
「キモっ」
「こ、この、クソJKがぁ~~~!!」
絵鳩は矢鱈さんの背中に隠れてニヤけている。
「ま、まあまあ。あ、ほら! 花火!」
と、矢鱈さんが指をさす。
見ると、食べ終わったグループが花火を始めていた。
「私もいく」と絵鳩。
「「「「「俺達も」」」」」
絵鳩を追い掛けるように平子兄弟が走っていく。
「ジョンジョン行かないの?」と紅小谷。
「あ、そうだ! 気になってたんだけど、ロードの分身の見分け方ってどうやるの?」
「ああ、そんなもん決まってるわ。
そう言い残して、紅小谷は花火の方へ走って行った 。
矢鱈さんが紅小谷の言葉に笑いながら
「くくく。じゃあジョーンくん、僕らもいかない?」
「あ、じゃあ先に行ってて下さい、すぐに行きますから」
「そう? じゃあ先に行くよ?」
矢鱈さんは不思議そうな顔をした後、肉串をもう一本手に取り花火の方へ歩いていく。
矢鱈さんの後ろ姿を見ながら、胸に熱いものを感じる。
俺はすぐそこに見える、あの光景を目に焼き付けておきたい、そう思った。
昨日まで知らなかった、他人同士だった人達が、あんなにも仲良さそうに笑っている。
しかも、俺のダンジョンを通じて。
青春バカみたいだけど、何だこれ、めちゃくちゃ嬉しい!
「よーーしっ! やる気が湧いてきたぞーー!!」
俺はさらなる高みを目指すことを決意した。
俺は花火を横目にゴミ袋を広げ、先に簡単な物だけ後片付けを始める。
火薬の匂いと皆の笑い声が心地よい。
「へへ……」
ふと、笑いがこぼれた。
無事イベントも成功して、常連も増えそうな手応えがあった。
次はどんなイベントをやろうかなぁ。
残った肉串を咥え、空を見上げると綺麗な満月が輝いていた。
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