第5話 ダンジョンを始めました。(前)
翌日、十四時頃。
「違ぁぁぁぁーーーーーうっ!!」
どうしてこうなった!?
モニタリングデバイスに映し出される、二組のカップルダイバーたち。
この
はっきり言おう、ウチはそういうダンジョンじゃありません!
イチャつくなら他所でやってくれ!!
「クッ……これじゃデート男女ンだ!」
――数時間前。
今日も朝早くからダンジョンに行く。
早朝だというのに、青いビニールシートが熱くなっていた。
「あちちっ」
早く活性化の具合を確かめたい。
シートを外して畳み、入口周辺の掃除を手早く済ませる。
デバイスを立ち上げて、気になっていた全体マップを表示した。
「おぉ! 順調だな」
フロアが一階層増えて、四階層になっている。
この調子でどんどん拡がって欲しいものだ。
マップ上に怪しく光る赤い点が十五~二〇程度。
この赤い点はモンスの位置を示していて、ダイバーは青色に、ゲートキーパーは黄色で、レイドボスは紫と、それぞれ違う色で表示される。
リアルビュー表示が見たい場合は、マップ上から見たい場所をタップする事で切り替わるので便利だ。
「モンスはあまり増えて無いか……」
一体ぐらいは、中程度のモンスを召喚しても良いかも知れない。
だが、あまり強いモンスを召喚しても、他のモンスとバランスが取れなくなる。
この問題は、モンスの発生状況を見極めながら決めねば、投入した次の日に、同じモンスが発生みたいな事にもなりかねない。目安としては、五~六階層程度に拡がった後、ゲートキーパー用に二ランク格上のモンスを召喚するのが良いと思う。
そして、肝心の宣伝だが、これは少しの間やらない方向で行く。
少数のダイバーで、感じを掴みたいという事と、あまり一気に来られても困るからだ。
まあ、そんな事はないとは思うが、一応念の為。
代わりと言ってはなんだけど、協会サイトに、簡単なダンジョン紹介が出来る場所があるので、そこに写真ぐらいはアップしておこうと思う。
実は先程、四階層まで降りた時に、ヒカリゴケが綺麗だったので写真を撮っておいたのだ。
これを我がダンジョンの紹介写真としたい。
さあ、諸君! 時は来た。共に深淵の果てまで参ろうぞ!
俺はデバイスを操作してCLOSEからOPEN状態に切り替える。
「おお……」
画面右上の隅にあった『CLOSE』の赤い文字が、緑色の字で小さく『OPEN』の表示に変わった。こうする事により、協会のサイトで情報が更新、及び共有されて、ダイバーが検索する事ができる。便利なのは確かだが、作りが古いデザインという事もあり、使用勝手も今一つ。なので、協会サイトよりは、見やすさ、レビュー、検索項目などが豊富な、まとめサイトを利用するダイバーが大半である。
俺はスマホとデバイスを繋ぎ、デバイスを経由して、ダンジョン内景観の場所へ写真をアップロードした。ちなみに、写真は三枚までアップできる。入口が一枚、その他はフロア内や、スタッフの写真などをアップするのが定番だ。
ウチも例外なく、入口一枚と、ヒカリゴケが照らす幻想的で綺麗な写真を選んでおいた。
さあ、もうこの状態はすでにOPEN。
いつダイバーが来店しても、おかしくない状態という事。
だが、ちょっと待って欲しい。
何か……こう、フラットだ。
いや? これは……
OPEN前と後で俺の感情に劇的な変化が無い。
むしろ、不思議と落ち着いているよ?
何だろう、あっけないと言うか、思っていたよりも心の準備が出来ていたからだろうか?
なんにせよ、俺の記念すべき第一歩は、穏やかな船出となった。
ここからすべてが始まるのだ。
あ、そうそう。リーダー曽根崎にはメッセージ入れとくかな。
スマホを取り出してメッセージを送る。
『ダンジョンOPENできました!』
あと、一応両親にも報告だけ入れる。
最後に地元の古い友達にも、グループメッセージを送っておいた。
ダンジョン好きな奴もいるかも知れないしね。
そして、家から持参したインスタントコーヒーを用意し、若干のノマドみとスタバみを出しながら、デバイスで設備系アイテムを選んでいると、
――と、その時。
「こんにちは」と外から声が掛かった。
顔を上げると、手を繋いだカップルが立っている。
早速、来てくれたのかと、ダイバーたちの早い反応に驚く。
「どうも! こんにちは~!」
元気よく挨拶を返す、第一印象が大事だ。
俺はIDを受け取り、手早く受付を済ませると二人を見送った。
ダイバーは急いでいる人が多いのだ。
なるべく会話するにしても、経験的に帰りの方が良いと思う。
まぁ、それも相手次第で、臨機応変に対応しなくてはならないのは当然だけど。
いやぁ、それにしても感動!
やっぱ、どこのダイバーもダンジョンを欲しているのだなぁ。
単純に嬉しい、うん。
そうこうしていると、二組目のお客さんが。
……何かカップルが多いな。
近所の人たちか……?
……。
…。
――改めて、十四時。
てなわけで、無事OPENをする事ができたのよ。
お客さんも意外な事にすぐ来てくれたし、飛び上がるほど嬉しいと思ったわけさ。
だが……。だが、しかし。
予想のできぬ『デート男女ン』的な展開に、俺は頭を抱えているのだよっ!
おおよその原因は察しが付く。
協会のサイトにアップした紹介写真だ。
綺麗だなーと、軽く思っていたが、あまりにも幻想的で、ロマンチックな印象を与えてしまったのだろう。何せカップルしか来てねぇーんだからなっ!
やっぱり、ダンジョンなんだから、少しは戦って欲しいし、探索して欲しいのだ。
「こうなったら、DPを消費して極悪モンスを……」
と、そこに一組のカップルが戻って来た。
俺は素早く姿勢を正して、デバイスの前で待つ。
「上がりまーす」
「あ、はい! ありがとうございます! え~お一人様500DPになります」
「一緒でお願い」
ピッと俺にIDを差し出す彼氏。
「かしこまりました」
俺はIDをデバイスに通した。
「最近、出来ましたよね?」
彼氏が辺りを見ながら訊いた。
「あ、今日から、OPENさせて頂いたんですよ~」
「へぇ、じゃあタイミング良かった。凄い綺麗でしたよ。ね?」
彼女はうっとりと彼氏を見つめて
「うん、また来ようね。ふふ」と手を男の腕に絡めた。
クッ……、次に来た時までに強いモンス発生しろ!
「ありがとうございます! では、またお待ちしております!」
「はーい」
ふぅ……。さてさて。
「ん?」
ふと外を見ると、道脇の平たい石を椅子代わりにして、昨日の黒髪JKが、膝を抱えて座っている。何やらスマホを操作しているみたいだが……。
「あ、あのJK……」
文句を言ってやろうと思ったが、慌ててやめる。
――ふ、太もも丸見えなんですが?
あまりにも無防備な体勢。
ったく、こっちから見えるとか、考えないものなのか?
そもそも、何でわざわざ、こっちに向けて座るんだよ!
――ちょ!?
ふ、太もも以外のものが見えてしまっている!
これは不味い、所謂シュレディンガー状態ではないか!
彼女が認識するまでは、俺は彼女のアレが見えていると知っている事にもなるし、知らない事にもなる。だが、もしバレれば、観察者効果によって、俺は女子高校生のアレが見えてるのを知って覗いていた変態ダンジョン経営者という事が確定してしまう……。
しかし、悲しいかな男の性。
いくら気にしないよう努めてみても、自然と吸い寄せられるように見てしまうではないか。
おのれJK!
僅か数センチ足らずの領域に、この世の真理が体現されている。
あぁ、大変な事になるやも知れぬというのに……目が離れぬ!
ううむ、興味深い……。
「あっ!」
いかん、目が合ってしまった。
また、ひっぱたかれたらどうしよう?
素早くデバイスのカップルに目を移して、仕事のふりを続ける。
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