第158話 ラキモン○○説⁉

 お堂の襖を開くと洞窟が口をあけていた。

 紅小谷と二人、少し緊張しながら奥へと進む。


「今のところ、変わってるのはこの竹の壁くらいかしら」

「うん……こんなのは初めてみたなぁ」

 壁には綺麗に竹が隙間無く並んでいた。 


「一応、持てるだけ装備は持ったし、変なモンスが出ないことだけを祈るよ」

『ぴょ~』


 ラキモンの声が漏れ聞こえるバックパックをポンポンと軽く叩く。

 そして、ぎゅっとルシール改を握りしめて、俺は周りを警戒した。


「あれは何かしら……?」

「ん? 玉砂利になってるぞ」


 土の道に、途中から綺麗な白黒の玉砂利が敷かれていた。


「……何かありそうね、ジョンジョン、下がってて」


 紅小谷は探索者のポーチからスケルトンの骨を取り出し、玉砂利の方へ投げた。

 骨はくるくると回転しながら玉砂利の上に落ちる。


「……」

「だい……じょうぶそうかな?」


 ほっと安心しかけた、その時――。

 玉砂利から黒い煙のようなものが立ち昇る!


「あれは⁉」

「来るわよ、ジョンジョン!」


 紅小谷が死の大鎌を構える。

 俺も慌ててルシール改を握り直した。


『オオオオオオ……』


 黒い煙は人型になり、徐々に烏帽子を被った平安貴族のような姿になっていく。


「ゆ、幽霊……?」

「か、顔が無い⁉」


 のっぺらぼうみたいに顔は真っ白で、そこにあるべき目、鼻、口はどこにも無かった。


『眠りを妨げるのは誰ぞ……』

『誰ぞ……誰ぞ……』


 のっぺらぼうはゾンビのように玉砂利の上を徘徊している。


「ジョンジョン、突っ切るわよ!」

「え⁉ ちょっと待って⁉」


 紅小谷は嘆きの小楯を前に、のっぺらぼうに突っ込む。

 ええいっ! どうにでもなれ!


「う……うりゃあああ!!!」


 ルシール改を振り回しながら、紅小谷の後を追いかける。


『見つけた……見つけた……』

『捕らえよ……捕らえよ……』


 のっぺらぼうが、覆い被さるように襲いかかってくる!

 咄嗟に、俺はルシール改で顔面を殴りつけた。


『あぁれ!』


 ん? 手応えがある⁉


「紅小谷! こいつら攻撃が通じるぞ!」

「なるほどね、なら……何も問題はないわ!」


 紅小谷は死の大鎌をくるりと回し、のっぺらぼうに向かって斬り込んだ!

 一振り三体、二振り六体、凄まじい勢いで突き進む紅小谷。

 何てスピードだ……さすがにやるな。

 だが、俺も負けてられない!


「うぉりゃああ!! 舐めんなコラァ!」


 フルスイングでのっぺらぼうを打ちのめす!


『あぁれま!』

『ひぃぃ!』


 叫びを上げながら、のっぺらぼうは玉砂利の一粒に戻っていく。


「走るわよ!」

「おぅ!」


 紅小谷の後を追い、玉砂利の上を駆け抜ける。

 しばらく走ると板の間の廊下が見えてきた。


「抜けたぞ!」


 滑り込むように廊下に飛び込むと、後ろから追いかけてきていたのっぺらぼう達が、一斉に玉砂利の姿に戻った。


「どうやら、あいつらは玉砂利の上にいる間だけ出てくるみたいね」

「ああ……、あんま強くない奴らで助かったよ」


 ゆっくりと立ち上がり、周りを見た。

 お屋敷の中のようだな……。


 廊下は真っ直ぐ続いていて、突き当たりから左右に分かれている。

 両側の壁は、若草色の土壁のようだ。


「ちょ……ジョンジョン、あれ何?」


 紅小谷が指さす方を見ると、廊下の突き当たりに、何か大きなものが横切るのが見えた。


「な、何だ⁉」


 紅小谷と顔を見合わせ、再び目を向けると、馬鹿でかい鉈を持ち、虚無僧のような天蓋を被った大男がこっちを見た。


「「ひっ⁉」」


 その瞬間、虚無僧は大鉈を振り上げ、俺たちに向かって猛ダッシュしてきた!


 ┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨ ┣¨┣¨……


「のわわあああああ!!!!」

「ちょっと、ジョンジョン! あんたの出番よ!」

「や、やめろって! 押すなよ!」


 あっという間に目の前に来た大男は、躊躇いなく古びた大鉈を振り下ろした!

 ――ガチンッ!


「うぉおおお……!」


 俺はルシール改で受け止めた。

 す、すげぇ力だが……、ん? いけるかも……。


「ぬぅん!」


 渾身の力を込めて押し返す。

 ちょ……俺、何か力強くなったかも?

 徐々に大鉈は大男の方へと近づいていく。


『フシュルル……』


 天蓋から獣のような息が漏れる。


「こ、こっちは……コツコツ筋トレ積み重ねてんだよ! 舐めんなぁーーーっ!!」


 一気に押し返し、大男が体勢を崩した。

 すかさず、俺は前蹴りを入れ、倒れた大男をフルボッコにした。

 大の字になった大男に、紅小谷がとどめを刺す!


「これで終わりよ!」

『ウゴフッ⁉』


 死の大鎌が大男の胸深く突き刺さると同時に、黒い霧となって霧散した。


「ふぅ~、やったわねジョンジョン、見直したわ」

 差し出された紅小谷の小さな手を取り、起き上がる。


「へへ、筋肉はすべてを解決するっていうからな」

「なによそれ?」

 紅小谷がふふっと笑う。


「ネットで見た」

「ったく、早く行くわよ」

「あ、ちょ、待って」


 *


 奥へ進んで探索していると、着物姿の蛙や三味線を持った鼠など、他では見られないような変わったモンスに遭遇する。二人では厳しい場面もあったが、持ち込んだ大量のアイテムを駆使しながら、俺達はどうにかやり過ごしていた。


「やっぱり禁足地ってだけはあるわね……段々と手強くなってきたし……」

「うん、ちょっと休憩しとこうか?」

「そうね」


 広い和室で辺りを見回しながら、腰を下ろす。

 探索者のバックパックからポーションを取り出し、紅小谷に一瓶渡した。


「さんきゅー」


 二人で一息に飲み干し、はぁーっと大きく息を吐いた。


「そろそろ、ラキモンの出番かもね」

「大丈夫かな?」


 俺はバックパックの中に向かって、

「おーい、ラキモーン?」と呼びかけた。


 すると、バックパックからもぞもぞとラキモンが顔を出す。


『うぴょ? 呼んだラキ~?』

「なあ、このダンジョンに俺達の他に誰かいるかわかるか?」


『ぴょ? ラッラッラ、ダンちゃん、そんなのわかるわけないラキよ~、ラッラッラ……』

 ラキモンは楽しそうに笑っている。


「え……」


「で、出口は……わかるわよね?」

 慌てて紅小谷が訊ねると、

『んーっと……、ここはダンちゃんのダンジョンラキか~?』と、キョロキョロしながら首を傾げた。


 俺と紅小谷は顔を見合わせた。


 ――まさかのラキモン何の役にも立たない説⁉


「ちょ、紅小谷……ラキモンには特別な力があるって……」

「し、知らないわよ! ネットに書いてあったんだし……それにあんただって、あの記事みたでしょうがっ!」


「ぐ⁉ ま、まあ、喧嘩してもしょうがないか」

「そ、そうね……少し冷静になりましょう」


「今は出口を探すよりも、リーダーを探さないとな」

「どこまで続くのかわからないけど、奥へ進むしかないわね」


 お互いの顔を見て頷く。


「よし、行くぞラキモン」

『ラキ~?』


 バックパックから身を乗り出したラキモンの頭を撫でる。

 俺達はさらに奥へと足を進めた。

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