第117話 深淵からの鳴き声編 ⑤ リーダー再び

「リ、リーダー⁉ こ、こっちに来てたんですか?」

「おぅ、ちょっと面白い話を聞いたからさ」

 言いながらリーダーは、俺をじっと見て目をカッと開いたり細めたりしている。


「な、何してるんですか……?」

「いや、オーラが見えるかなと思って」


「……オーラ?」

 またオカルト番組でも見たのかな?

 いや、それどころじゃなかった!


「ちょちょっ、リーダー良いところに! 実は……」

 俺はリーダーにタブレットデバイスを見せ、事情を説明する。


 しばらくリーダーは腕組みをしながら画面を見つめた後、何やらぶつぶつと呟き始めた。

「よしよし、待てよ……、何か浮かびそうだ。よしよし、おーよしよし……Good boy……」


 変わってる人だとは思っていたけど、大丈夫かな……。

 そわそわしながら待っていると、リーダーが何か閃いたようにカッと目を開いた。


「よしっ! これライブ配信しよう。なんだっけ、あのー、ほら、ペットの部屋を流してるやつみたいに」

「配信か……。それ、面白そうですね!」

「ほら、急がないと時間無いぞ」

「はいっ!」


 さすがリーダーだぜ! と、鼻息荒くライブ配信に取り掛かろうとしたのだが、問題がひとつ。


 ――配信ってどうやんの⁉


 最近は、配信なんて誰でも簡単にできるとは聞いていた。

 ネットでも、テレビでもそういう個人配信者の特集もあったりして、知識としては知っているので自分でも簡単にできるつもりでいたのだ。


 リーダーは既にやり遂げた感じで、満足そうな笑みを浮かべながらカウンター岩に座っている。

 まずい、どうしよう。


「あ、あの~、リーダー……」

「ん? どした?」


「配信のやり方って、知ってますか?」

 一瞬の沈黙の後、リーダーはおもむろに立ち上がった。

 そして、すたすたと入り口に向かい外を眺めて、

「ジョーン、お前はいつ俺を越えるんだ?」と、背中越しに言う。


「え?」


 リーダーは振り返り、目を細めた。

「OK、大丈夫だジョーン。お前なら大丈夫だ、何も問題は無い」


「あ、えっと……、知らない感じですか?」

「……」


 そんな隠さなくてもいいのになぁと思いつつ、

「あ、そうだ! 紅小谷に聞いてみます」とリーダーに言った。

 心なしかリーダーがホッとしたように見える。


 紅小谷にメッセージを送ると、すぐに返事が届いた。

『ったく、それくらい検索しなさいよ。てか『さんダ』のアプリで出来るから』

「おぉ! さすが紅小谷!」


 早速アプリを開いてみると、確かに配信機能がついていた。

 なるほど、さんダのサイトで公開されるのか。

 うん、それなら宣伝にもなる。


 俺はまず、ダンジョンをOPENさせた後、固定デバイスの方を使って配信する準備をした。

 今日はタブレットだけになるけど、まぁ何とかなるだろう。


「すげぇな! こんな簡単なことで配信できるのか?」

 リーダーが喰い付く。

 もう知ってる感じとか気にしていないようだ。


「そうみたいです。じゃあ、やってみますね」

「お、おぅ」


 画面のカメラマークをタップし、配信を開始する。

 確認の為にリーダーのスマホで『さんダ』のサイトを見ると、

『D&Mさんがライブ配信を始めました』と画面上の右隅に小さく表示された。


「「おぉぉおおおお!!!!」」


「映ってるぞジョーン! これって下に行ったら俺も映っちゃうよな?」

「そうですね」

「一人で映んのもなぁー、んー、誰か来ないかな。あれ? これって、俺のオーラの色とかわかったりするんじゃ?」

「それは無理だと思います」


 それから、リーダーのスマホでケットシー達の動向を見守っていると、表から話し声が聞こえてきた。


「ん? 誰か来たな」

「いらっしゃいませー」

 入ってきたのは、豪田さんより二回りくらいデカい男の人だった。


 す、すげぇガタイだ……。

 もしかして、プロレスラーの人?

 呆気にとられていると、その大男の後ろから赤い髪色の男がひょいと顔を出した。


「あー、いたいた。曽根崎くーん」

 赤髪の男は小さく手を振っている。


「あ、あれ? ホントに来たの⁉」

「リーダーのお知り合いですか?」

「あぁ、他のダンジョンで知り合ってな。猫屋敷くんっていうんだ。大の猫好きらしいぞ」

「へぇ……」


「やぁ、ジョーンくん、俺は猫屋敷、で、こっちが犬神ね」

 クシャッとした憎めない笑顔に、緊張が少し和らいだ。


「どうもはじめまして、というか……なんで僕の名前を?」

「あぁ、曽根崎くんからも聞いたんだけど、ウチらの間ではこのダンジョンと君は有名らしいよ?」

「え? どういうことでしょう……」

 リーダーに目を向けるが、「さぁ」と首を傾げる。

 すると、犬神さんが野太い声で、

「ウチのメンバーを知ってるんだろう? 森がよろしく言ってたぜ」と微笑む。


「え! モーリーってことは、じゅ、十傑の皆さん⁉」

「そうだよー」

「ね、猫屋敷くん十傑だったの? すげーじゃん! うわー! 俺知らないで恥ずかしいこと言ったよね⁉ うわー!」

 事も無げに二人が頷くと、リーダーが叫びながら頭を抱えた。


「大丈夫大丈夫、何もおかしなことなんて言ってないよ」

「君が曽根崎くんか、NARAKUの話は聞いてる。相当やるみたいだな?」

「い、いえ! 自分はそこそこであります!」

 何故かリーダーは敬礼をして答えた。


「いや……普通にしてくれるとありがたいんだが」

「そうそう、こんなの図体がデカいだけ……」

「お前は黙ってろ」

 犬神さんの岩みたいな拳骨が猫屋敷さんの頭に落ちた。

「っ痛! 何すんだよ!」

「まあまあ……その辺で……」

 俺は二人の間に入ると、

「あ、どうします? すぐに行かれますか?」とさりげなく尋ねた。


「そうだね、じゃ、皆で入ろうか?」

 猫屋敷さんが言うとリーダーも頷き、俺は装備の準備を始める。


「えーっと……クライ曽根崎SPと、アンチェイン……」

 リーダーからIDを受け取り、いつもの装備を用意する。

 あれ? また強化されてる!


 ・クライヴォルグ(改) +331

  +シヴァの涙……氷属性付与

  +勾玉……属性強化

  +白蛇の皮……命中率向上

  +カルガモラのストラップ……精神安定


 リーダーは強化内容を開示しているので何のアイテムで強化したのかがわかる。

 隠すダイバーが多いが、リーダーはそういうのは気にしないそうだ。


 ちなみに、クライ曽根崎SPというのはリーダーの付けた名前で正式名称ではない。

 名工クライシリーズの『クライヴォルグ』が正式名称で、デバイスには正式名称で表示される。

 もちろん、強化によって表示名が変わる場合もあるのだが。


 カルガモラのストラップは最近つけたのかな?

 やっぱ可愛いよな……ちゃんとつがいだしw

 おぉ~っ、強化値108から331か。

 リーダー頑張ってるんだなぁ……。


 見えぬところでたゆまぬ努力、やっぱ凄いよリーダーは。

 俺はうんうんと心の中で頷きながら、 

「猫屋敷さんはどうしますか?」と手際よく準備を進めていく。


「えっとね、ちょっと待ってよ……これとこれと、よしこれ!」

 選び終わった猫屋敷さんからタブレットを受け取った。


「はーい、少々お待ちを」

 ――むむっ⁉


 ・バステトの爪(風)(火) +780

 ・アヌビスの衣 +539

 ・ナイルブーツ +630


 ひぃー! 多属性付与か⁉ どうやって強化してんだろ?

 ぐぬ、当然、開示はしてないか……。

 それにしても、どれも珍しい武器だ。

 バステト⁉ 確か中東にしかいないモンスのはず……。

 強化値も尋常じゃないし、やっぱ日本有数のプロ集団ともなると装備も違う。


 緊張しながら装備を渡し、次は犬神さんに装備を選んでもらった。

 一体、どんなレア装備なんだろう。 

 こうなってくると、俄然、ウェポン心が踊りだす。


「これで頼む」

「あ、はい!」

 へへへ、犬神さんの装備は……。


 ・アカガシラ六角棒 +108

 ・修験者の鈴懸 +108

 ・最多角いらたか隕鉄念珠 +108 


 初めて見る武器ばっかりだ……。

 ただ、犬神さんがこれを身につけるのか、想像すると大天狗か弁慶にしか見えない。

 多分相当なレア物に違いない、あとで検索してみよう。

 

 こうして凄い武器ばっか見てると、自分でも作りたくなってきた。

 落ち着いたらまた作らなきゃ。


 皆が支度を終えてカウンター岩前で待機していると、画面の中のケットシー達がついに動いた。


「は、始まりました! もみ合いになってます!」

 俺は興奮気味に伝える。


「よっしゃぁああ! 燃えてきたぁっ!」

「じゃあ、行きますか?」


「どうせ何もないと思って来てみたが……猫屋敷もたまには役に立つじゃねぇか?」

「うっせぇ、いつもだよ、い・つ・も」


 三人は手を振りながらダンジョンの奥へと消えていった。

 うぅ……楽しそう、俺も行きたい。

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