第146話 某大手のオネイロス編⑤ G.G.G.
「手始めにB区画を目指そう」
アンダー・グラウンドは広大な地下廃墟型ダンジョンである。
階層はA~Fまで区分けがされていて、B区画は比較的難易度が低い。
「久しぶりなんで、肩慣らしにちょうどいいです」
俺はルシール改を使ってストレッチをしながら言った。
「はりきり過ぎないでよ?」
「わ、わかってるって」
「ほら、二人とも、来たよ」
瓦礫の陰から軍隊ゴブリンが姿を見せた。
「軍隊ゴブリンか……、ってことはもう囲まれてるかも」
辺りを見回す、廃墟の建物の中に弓を持ったゴブリンの姿があった。
「ちょっとジョンジョン、ゴブリンのステータスも表示できるわよ」
「え……?」
紅小谷の言葉に俺はステータスを見たいと意識した。
すると、目の前に情報が表示された。
――――――――――――――――――――
軍隊ゴブリン(歩兵)
――――――――――――――――――――
・戦闘計測値:60
・討伐難易度:C
――――――――――――――――――――
TIPS:廃墟を好み、群れで行動する。種別は歩兵、弓兵、補給兵、司令官の四種。一見すると、統率の取れた軍隊のようだが、実際はそれぞれが自由に行動している。種別はあくまでも個体の特徴を表したに過ぎない。火に弱い。
――――――――――――――――――――
「すげぇ……」
何だこれ、めっちゃ便利だな。
だが、いまいち、戦闘計測値の目安がわからない。
まあ、雑魚っちゃ、雑魚だけど……。
「ジョーンくん、僕は建物の中のをやるよ、紅小谷は全体を見てて」
「おっけー」
「じゃあ、僕は外にいる奴らをやります!」
「よし、始めよう!」
矢鱈さんの合図と共に、俺は正面の物陰に隠れているゴブリン目掛けて石を投げた。
『ギギッ⁉ ギーッ!』
「ほら、こっちだぞ!」
ゴブリンは相当苛立った様子で、棍棒を振り回して何かを叫んでいる。
「よし、今だ!」
――俺はダッシュした。
ゴブリンの頭部に渾身の力を込めて、ルシール改を叩き込む!
「うぉりゃああーーーーーっ!!!」
『ギヒィッ!!!』
瞬間、軍隊ゴブリンの身体が黒い微粒子となって消える。
――――――――――――――――――――
軍隊ゴブリン(歩兵)を討伐しました。
DP+160
――――――――――――――――――――
「おぉっ⁉ なるほど……こんなメッセージが出るのか」
「ジョンジョン! 来るわよ!」
紅小谷が
見ると、廃墟の窓や屋上から、大量の軍隊ゴブリン達が俺達を見下ろしていた。
「数が多いな……」
ひとまず紅小谷の傍まで戻り、背中合わせになった。
廃墟から矢鱈さんが出てくる。
「うわー、こりゃ面倒だね、ここじゃガイアシールドも飛ばせないし」
確かに草原みたいに広い場所なら、ガイアシールドで瞬殺できるんだろうけど……、障害物も多い廃墟の中じゃ難しそうだな……。
そうだ、アレで一気に集めてやれば……。
「二人とも、全部一斉に集まっても大丈夫ですよね?」
「ゴブリン程度、何匹来ようが私は平気よ」
「僕もむしろ有り難いけど……何をする気だい?」
「これを使います」
俺はアイテムボックスからD&M石けんとスポンジを取り出した。
「あぁ~! なるほどね、ジョンジョンにしては冴えてるかも!」
「棘のある言い方だな……」
「ははは、冗談よ、ほら、頼んだわよ」
「ジョーンくん、こっちはいつでも良いよ」
矢鱈さんが剣を構えた。
石けんに水を付けてスポンジで泡立てる。
うーん、我ながら泡立ちが良い。
泡がバスケットボールくらいの大きさになった頃、ゴブリン達が奇声を発しながら、一斉に廃墟の窓や屋上から飛び降りてくる。
『ギャギャギャギャッ!!』
『ギーィヤッ! ギーィヤッ!』
「この感覚、久しぶりだわ……」
紅小谷が大鎌を振り上げ、凄まじい勢いで軍隊ゴブリンの群れに突っ込んだ!
刹那、ゴブリン達の首が宙を舞い――、霧散した。
「へぇ、鈍ってないね」
矢鱈さんがクスッと笑い、大きく横一文字に剣を振った。
すると、剣圧が放たれゴブリン達の胴体が真っ二つに分かれた。
「ちょ、凄すぎなんだけど……」
二人は、あっという間にゴブリンを一掃してしまう。
「この調子でどんどん行きましょ」
紅小谷の言葉に頷き、先へ進もうとした時だった。
「ちょっと待てよ」
「え?」
声の方を見ると、建物の陰から柄の悪い三人組が出て来た。
「あの、さぁー、なに人の獲物横取りしちゃってやっつけちゃってくれちゃってんの? 馬鹿なの?」
真ん中に立っていた金髪のツンツン頭の男が、滅茶苦茶に睨んでくる。
ちょっと、引くくらい睨んでくる。
「なにあれ? なんであんなキレてんの?」
紅小谷が小声で俺に言った。
「さあ……」
首を傾げて、矢鱈さんを見た。
矢鱈さんはいつもと変わらず、うっすらと微笑んでいる。
「おいおい、聞いとんのかい、聞いてないん
ラッパーみたいにリズムを取りながら、やたらとガタイの良い、右側のドレッドヘアーの男が言った。
「レイジ、ケンジ、ここは俺に任せろ……」
左側に立っていたアフロヘアーの、これまたガタイの良い男が前に出た。
「おい、おまえとおまえとおまえ! 俺達が
男は威嚇するように声を荒げた。
「「ジージージー?」」
え、何なのこれ?
ドッキリとかじゃないよね?
俺と紅小谷は顔を見合わせた。
お互い、狐につままれたような顔をしている。
「ハッ、おいおい……ったく、どんなショボいマウントの取り方だよ、歌舞伎で俺ら知らねーやつなんかいねーだろ?」
と言って、アフロが肩を竦めて見せた。
「「歌舞伎……?」」
「駄目だコウジ、こいつらおちょくっちゃってくれちゃってんよ……」
「レイジ……」
金髪のレイジが、激しい赤べこみたいに顔を上下させながら、無茶苦茶に睨んでくる。
その横からケンジが揺れながら出て来た。
「HA、HA、そこのオンナ、向こうへいってナ、可愛いフェイスに、傷が付くオフェンスゥー、繰り出すぜ俺らG.G.G.、君の生まれはおフランスゥ?」
「は? 何なのあんたら?」
「ちょ、紅小谷、危ないって……」
「ひゅーひゅー、心配でちゅってかー?」
アフロのコウジが小馬鹿にしたように笑う。
「な……」
すると、黙っていた矢鱈さんが口を開いた。
「君たち、PKでもするつもりなのかな? 何で怒ってるのか知らないけど禁止でしょ?」
「はははは! やっぱりおまえら素人だな?」
「……」
「まあ、ここにいるってことは招待客なんだろうが、どうせ高い金出して権利買ったんだろ? くくく……、新システムのアンダーグラウンドはな、PKアリなんだよ、この素人どもが!」
「そうなの?」
「さあ……」
紅小谷が訊ねると、矢鱈さんは眉を下げて肩を竦めた。
「あー、もういいや、俺らも弱い者いじめは好きじゃねぇ、ステータス解放しちゃってくれちゃってやっから、目ん玉ひん剥いて、しっかりじっくり拝んで命乞いしろ、このカスゥッ!」
――――――――――――――――――――
・ダイバーネーム:レイジ
・所持DP:*********
・ヤスのポン刀+25
・気合いのサラシ+30
・韋駄天の雪駄+18
・戦闘計測値:315
・ダイバーランク:C
――――――――――――――――――――
「「……」」
(よ、弱っ!)
「YO! あやまんのかい? あやまらんのかい? ブルって無言なんかい?」
「歌舞伎のG.G.G.ったあ、俺らのことよ……」
「「クックック……」」
三人が勝ち誇った笑みを浮かべ、俺達の前に立ちはだかった。
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