第147話 某大手のオネイロス編⑥ 感謝の一撃
い、一体、何なんだこの人達は……。
「ねぇ、もうシカトでいいんじゃない?」
紅小谷が矢鱈さんに言った。
「そうだね、時間も勿体ないし……行こっか、ジョーンくん」
「え、あ、はい……」
すると、アフロのコウジと呼ばれていた男が道を塞いだ。
「おっと……逃げられねぇぜ?」
「うーん、困ったねぇ……」
矢鱈さんが苦笑いを浮かべる。
「ちょっとジョンジョン、出番よ」
「え⁉ お、俺が⁉」
「何事も経験なんだから、ほらほら、行って!」
「ちょ……」
紅小谷に背中を押される。
矢鱈さんは紅小谷の隣でうんうんと頷いていた。
や、矢鱈さんまで……。
よし……仕方ない、ここは長年のダイバー接客で培った、対人スキルで乗り切るしかないっ!
俺は営業スマイルを作り、アフロに声を掛けた。
「どうも、こんにちはー」
「ん? 何だお前が出てくんのか? てっきり金魚の糞かと思ってたぜ、ははは!」
クッ……ここは我慢だ。
まずは会話の糸口を……。
「いやぁ、凄いですよね~、オネイロス。お兄さん達は何回も来られてるんですか?」
「HAHA、なにこいつ? 俺らにブルってご機嫌取りダセェ、今さら言ってももうオセェ!」
ドレッドの男がクネクネと身体を揺らしながら割って入ってくる。
駄目だ、イライラしてきた。
そもそも、折角オネイロスを体験しに来たと言うのに、何でこんな無駄な時間を過ごさないといけないのか?
矢鱈さんや紅小谷とダイブできる機会もそうそう無いってのに……。
「あの、僕たち何もしてませんよね? いい加減、絡まないでもらえますか? スタッフさんに言いますよ?」
ここアンダーグラウンドのスタッフは格闘技経験者が揃ってる。
呼べば対処してくれるだろう。
「だからさー、おめーよー、PKオッケーだっつって言っちゃってくれちゃってんだろぉ? あ゛ぁん?」
ステータスを見せてきた金髪が、首を上下させながら顔を近づけてくる。
「そ、そんな無理にPKしなくても……」
「ったく、少しは骨があるのかと思ったけどよぉ……ケッ、雑魚ぃわ、後ろの二人もよぉ、こんなパシリみてぇな奴出して来て知らん顔しちゃってくれちゃってんのか? 薄情な奴らだぜよぉ……ったく」
「取り消せ」
「あ゛ぁん⁉」
俺は金髪の腕を掴んだ。
「今の言葉、取り消してもらえますか?」
「な、何だって……クッ、は、離せこの……⁉」
金髪が手を振りほどこうとするが、日々鍛えていた俺の筋肉が押さえ込んだ。
膝を付く金髪、俺はさらに力を込めた。
「ゆ、YOU! 離しちゃいなYO! そ、その手離す、俺達も話すぅ?」
「お、おいおい……、それ以上やるなら俺らも……」
ドレッドとアフロが痛がる金髪の周りで慌てている。
「何ですか?」
「い、いや……」
「ゆ、YOU……」
「わ、わかった、悪かった、もう絡まねえから手を離しちゃってくれちゃってくれ!」
「その前に、さっきの言葉、取り消してもらえますか?」
「あ、ああ、取り消す! 取り消すから……いてててっ!」
俺は手を離した。
金髪が手首を押さえながら蹲る。
「だ、大丈夫かYOU⁉」
「お、お前……何モンだ? この辺の奴じゃねぇよな……」
「別に何者でもないですけど……、強いて言うなら『ダンジョン経営者』です」
「「え……?」」
アフロ達はポカーンと口を開けている。
「オ、オホン! とにかく……僕らに構わないでください! いいですね?」
「わ、わかった!」
アフロ達がうんうんと頷く。
良かった、本当に時間の無駄だったな……。
「じゃあ、行きましょうか――」
と、俺が振り返った瞬間、アフロ達が襲い掛かってきた。
「弱肉強食じゃボケェーーーーッ!!!」
「YOU、幽体! YOU、DIED!」
「死んじゃってくれちゃえやぁオラァーーーー!!」
俺は振り向きざまに、ルシール改を思いっきり振り抜いた。
「ダンジョン経営者を舐めんなぁーーーーーー!!!!!」
「「ブホッ⁉」」
アフロとドレッドが消える。
今頃DPペナルティを喰らって、カウンターに転送されているだろう。
残った金髪が、震える手でヤスのポン刀を俺に向けている。
「……僕は仕事柄、色んなダイバーを見て来ましたけど、どんな悪そうに見える人でも、こんな卑怯な事をするダイバーなんていませんでしたよ? それに……正直、僕はいま、少しだけホッとしています」
「は? な、何をいっちゃって……」
「このオネイロスの事を知って……、やっぱり大手には敵わないんだって、心の何処かで思ってました。でも、ダンクロの看板である旗艦店で、貴方達みたいな不良客を放置しているのなら、僕みたいな個人経営者にもまだ可能性はあるって気付きました」
そうだ、いくらシステムが凄くても、プレイするのは人間だ!
オネイロスが当たり前になったら?
システムが古くなったら?
陳腐化しないのは人間の心だけ――。
そこに寄り添わないで、客を呼ぼうなんて考えが間違ってるんだ。
例えシステムが古くても、心が繋がっていれば、きっと……お客さんは通ってくれるはずだ!
「ジョンジョン……」
俺は深く息を吸って、ルシール改を振りかぶった。
ありったけの誠意を込めて、感謝の一撃を放つ――。
「や、やめちゃってくれちゃ……」
「ありがとうございましたーーーーーーーっ!!!!」
金髪の姿が青い粒子となって消えた。
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