第166話 いざボスの間へ

 休憩を挟んで、俺達はボスの間を目指して奥へと進んでいた。


「それにしても、さっきのジョーンさん、格好よかったですよ!」

「そ、そうかな? へへへ……」


 そう言われると、何だかむず痒いなぁ。

 まあでも、相手が弱くて助かった……。


 あれが強い人なら予防策を張ったとはいえ、皆を危険に巻き込んだ可能性もあるんだし、笑い事じゃ済まないもんな……あまり無謀なことはしないようにしないと。


「ジョーンさん、ホントにありがとうございます!」

「い、いいって、いいって。そうだ、あのさ、これから……ああいう場合は皆で逃げよう。今回はたまたま、相手が俺より弱かっただけだし、もしかすると、皆を怖い目に遭わせてしまったかも知れないし……」


 二人はじっと俺を見ている。


「ま、まあ、そのー、暴走した俺が言うのも可笑しな話なんだけどさ……ははは」


 そう言って俺が苦笑すると、

「僕は賛成です。やっぱ、争いごとは苦手なので……」

「私も……賛成です。その、怪我とかして欲しくないですから……」

 と、二人が順に口を開いた。


「うん、やっぱそうだよね。ごめん! もう、危ないことはしない、約束するよ」


「ジョーンさん……」

「でも、どうしようもない時は、僕だって男ですからね、やりますよーっ!」


 丸井くんがアタックスミスをぶんぶん振り始めた。

 場を明るくしようとしてくれているんだろう、ホントに優しいな……丸井くんは。


「ふふふ、そんなことしなくても、さっき側に付いててくれたじゃないですか。私は、すごく安心できましたよ」

「ほ、ホントですか⁉ いやー、まいったなぁ……今のもう一回もらってもいいですか?」


 スマホのカメラを向ける丸井くん。


「だめです」

「そんなぁ~!」


「「あはははは!」」


 すっかり、和やかな空気になったところで、下に降りる階段が見えた。


「あ、階段……これって、やっぱボスだよね?」

「だと思います」

「マギーシーサーが見られると思うと、ドキドキしてきました」


 花さんは顔を上気させ、目を輝かせている。


「よし、花さんはカメラ係兼回復役でどうかな?」

「わかりました、任せてくださいっ!」


 花さんが、丸井くんからスマホを受け取る。


「二人で行けますかね?」

「結構、厳しいかなぁ。誰か交戦中なら相乗りするんだけど……」


 と、そこに、誰かがやってくる。

 俺達は身構え、お互いにアイコンタクトを取った。

 危なそうなら、逃げないとな……。


「あれ⁉ あれれぇー⁉ ジョーンくんじゃない?」


 え……?


「ね、猫屋敷さん⁉」

「やっぱ、ジョーンくんだった。こんなところで会うなんて運命感じちゃうなぁ~」


 猫屋敷さんはケラケラと笑っている。


「あれれ? もしかしてデートだった?」


「「ち、違いますっ!」」

 俺と花さんは同時に声を上げた。


「「あ……」」


 お互いに顔を見合わせ、サッと目を逸らした。

 う~……耳が熱い。


「くっくっく……ジョーンくんは面白いねぇ」

「そ、それより、猫屋敷さんは遠征ですか?」


「ん~にゃ、おっきい仕事が終わったからさ、自分にご褒美ってやつ? ま、バカンスっつっても、結局潜ってるんだけどねー、俺病気かも」

 猫屋敷さんは冗談っぽく投げやりな感じで笑った。


「その気持ちわかりますね……あ、もしかして、今からボスですか?」

「うん、そうだけど?」


 ――こ、これは千載一遇のチャンス!


「あの……もし、良かったら、ご一緒させてもらえませんか? 僕たちだけじゃマギーシーサーは無理だと思うんで……」

「ふ~ん、なるほどねぇ……」


 猫屋敷さんは「どうしよっかなぁー」と、シリーズ武器であるバステトの爪を触りながら俺達を見ている。

 やっぱ、格好いいなぁ……シリーズ武器にはロマンがある。


「あの……ジョーンさん、この方は……」

 丸井くんが俺に小声で訊ねてきた。

 あ、そうか、丸井くんは初対面だった、紹介しないと。


「猫屋敷さん、こちら僕の友達で、ちっさなメダルを集めてる丸井くんです」

「初めまして、丸井といいます! よろしくお願いします!」


「ん? ああ、よろしくー」

「丸井くん、猫屋敷さんは十傑の方だよ」

「えぇーーーっ⁉ そ、そうなんですか⁉」


「いやいや、そんな凄いもんじゃないって、ただの個人事業主の集まりだよ?」

「ちょ、猫屋敷さん、笑えないです」


「丸井くんね、まあ、お互い気楽に……ん? 丸井……? あれ⁉ も、もしかして、ギ、ギーザス丸井っ⁉」

 猫屋敷さんが驚いた猫みたいに目を見開いた。


「は、はい……そうです、私がギーザスです、ってどっかで聞いた台詞やのぉーーーっ! ほら見てみぃ、猫屋敷さん引いとるやないかいっ! ホンマすんません兄さん、お詫びに一枚、あ~ら、パシャリセピア色。あの頃の兄さん……素敵やったわぁ……、って、誰やねん?w マジどつくぞw 意味分からんわ!w ってな感じで今日も始まりますぅ、みんな最後まで~っ、よろギ~ザスッ!」

 丸井くんは決めポーズも欠かさずやり切った。


「す、すげぇ! 本物だーっ! え、待って、凄いじゃん!」 


「喜んでいただけて嬉しいです」

 丸井くんが照れくさそうに頭を下げた。


「そっかそっかー、いやぁ~いいもの見せてもらった。うん、わかった、ボス倒したいんだよね? いいよ、一緒に行こっか」

「え! いいんですか!」

「やった!」


 皆でハイタッチしたりして喜んでいると、猫屋敷さんが笑った。


「ははは、仲が良いね、ウチとは大違いだよ」

「え、でも犬神さんと凄く仲良さそうでしたけど……」


「いーんや! あいつとは、昔っから合わないんだよねぇ~! ったく、あんな堅物、仕事じゃ無かったら付き合ってられないよ」


 猫屋敷さんは、やれやれと肩を竦めるが、その表情はどこか嬉しそうだ。


「ケンカするのも、仲が良い証拠ですよねぇ~、ふふ」


 花さんが微笑むと、猫屋敷さんは慌てて否定した。


「んにゃ! ち、違うよ⁉ ホントに仲良くなんかないからね?」


 慌てる猫屋敷さんをわざとスルーして、俺は声を張る。


「はーい、では、そういう事にして、ボス狩りに行きますかー!」

「「おーーーっ!」」


「ちょ、もう……ま、いっか、よし、じゃあ先頭は俺な、ジョーンくんとギーザスさんは俺のサポート、花さんは……」

「はい、私は撮影をがんばります! あ……猫屋敷さん、動画に入っても大丈夫ですか?」


 一瞬、丸井くんの顔に緊張が走る。

 そりゃそうだ、こんな貴重な映像、撮りたくても普通は撮れないからな。


「あぁ全然OKOK、好きに撮ってよ。まあ、ここはそんなに難易度高くないし、サポートっつても、俺の攻撃範囲に入らなきゃ何してもいいから」

「わかりました!」

「十傑さんの戦いが目の前で見られるなんて……」


 ニャンラトホテプの時も凄かったからな~。

 今度は間近で、しかも一緒に戦えるなんてマジでラッキーとしか言いようがない。

 丸井くんはホント、持ってるなぁ。


「じゃあ、心の準備はOK?」


「OKです!」

「同じく!」

「カメラもバッチリです!」


「よ~し、じゃあ……狩りを始めようか♪」


 猫屋敷さんは両手に嵌めたバステトの爪をチーンと合わせニヤリと笑った。

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