第18話 戦いが終わりました。
※今回は絵鳩視点です。
「はぁ……」
SNSに投稿した写真に次々と流れるコメント。
まさか本当に、そんなレアな物だなんて……。
真っ白なベッドに横になり、私はスマホを枕元に置いてから起き上がった。
――どうしよう。
なんでもらっちゃったなんて書いちゃったんだろう
皆からのいいねが欲しいからって、いつもいつも嘘ばっかり……。
本当は全然嬉しくなんかないのに。
押し寄せる自己嫌悪の波に襲われていた。
うぅ、何であんなに意地になっちゃたんだろう……。
あんな泣き真似までして、私、本当に嫌なやつ。
ふいに、矢鱈さんの笑顔とジョーンの困った顔を思い出す。
「あーーーーっもう!」
ベッドに仰向けに倒れ、右手を頭の上に置いた。
自分が嫌になる。
私はいつもそうだ。
私がダイバー免許を取ろうと思ったのも、何かが、自分の何かが変わればと思ってだった。
折角、免許を取ったのに……。
優しくされると、つい変な態度を取ってしまう。
何で私は、皆みたいに普通に出来ないの?
感謝してるのに、冷たい態度を取ったり、緊張して上手くしゃべれないからって悪態ついてしまう。
「あーぁ……」
また、深い溜息を吐いた。
いつまで同じ事を繰り返しているんだろう、私。
でも、このままじゃダメだ……。
絶対、嫌われちゃった。
このままダンジョン行けなくなるのかな。
それはやだな~。
せっかく楽しくなってきたのに。
ああ、自分でやっておいてバカみたい。
やばっ! そういえばフェザーメイルも借りたままだ……。
あ~、もう~。
あれこれと考えているうちに、私はいつの間にか眠ってしまった。
――次の日。
学校が終わり、私は街のおもちゃ屋の前で足を止めた。
たくさんのダンジョロイドがウインドウ越しに見える。
店に入り、ダンジョロイドコーナーで『パンダタ』のキーホルダーを買った。
パンダタは覆面を被ったパンダ型のモンスでドリルはついて無い。
この子ぐうかわ、そう思いながらバッグにつけた
私は一人頷く。
今日はフェザーメイルを返そう、そして貸してくれてたことにお礼を言おう。
今までひどい態度だったことも謝ろう
私ちゃんと言えるかな……。
ダンジョンが近づくにつれて、緊張が高まる。
言葉にならない気持ちに押し潰されてしまいそうになった。
あー、手に汗がー、どうしよう。
「がんばんなきゃ」
途中、幾度も立ち止まりながらも、ゆっくり、一歩ずつダンジョンへ近づいていく。
いつもの見慣れた道が、今日は少し違って見える。
遠いような、近いような。
私はモヤモヤを振り払うように、頭を振った。
――やるしかない!
気合を入れ直して、再び歩き始めた。
ダンジョンの入口が見えた。
ドキッとする。
フェンスの影に隠れて、そっと様子を見ると、ジョーンさんがカウンター岩を掃除していた。
後ろのダンジョロイドが並ぶ棚に、ドリルパンダが見える。
その瞬間、泣き真似をした昨日の自分を思い出した。
うぅ、息苦しい。
「絵鳩ちゃん? 何やってんの?」
突然の声に驚き、恐る恐る振り向くと矢鱈さんの姿があった。
「や、矢鱈さん……あ、えーと」
私は慌てて言葉を探す。
「あれ、行かないの?」
と、矢鱈さんは不思議そうにダンジョンを見る。
「えっと、その……」
ダメだ、このままじゃ、また……。
私が動けないでいると、その様子を見た矢鱈さんが
「ちょっとこっちに来て」と手をひく。
「あの……」
ダンジョンから少し離れた獣道で矢鱈さんは
「どうしたの? 何か様子が変だけど?」
と、私を覗き見る。
「あ、うぅ……」
私は俯いたまま声が出せない。
もう、何で私はこうなのだ!
矢鱈さんはきょとんとした顔で
「大丈夫、僕は敵じゃないよ? ははは、何があったの?」
と、いつもの笑顔で問いかける。私は思い切って
「ジョーンさんに、装備を借りたままで……」と言葉に出した。
「ははは、そんなこと? 大丈夫だよ。ジョーンくんは」
「そんな、でも、昨日も変なこと言っちゃって……」
動けないままでいる私に
「いいからいいから、はははは」
と笑い、私を強引にダンジョンへ引っ張っていった。
ダンジョンの入口に着くと
「あ! 矢鱈さん、それに絵鳩?」
ジョーンさんがいつもの様に声をかけてくれる。
うわぁ、昨日のことを思い出すと恥ずかしくて顔が見られない。
矢鱈さんがカウンター岩に肘を置き
「ジョーンくん、絵鳩ちゃんが返したいものがあるってさ」と言う。
あ、ど、どうしよう?
こ、心の準備がっ……。
「え?」
ジョーンさんは、何の事かわかってないのか、ぽかんと口を空けている。
「ほら、絵鳩ちゃん」
矢鱈さんが横から肘で突いてくる。
「あ、あの……あの」口ごもってうまくしゃべれない私に
「な、なんだ? ドリルパンダならやらないからな!」
ジョーンさんは、棚からドリルパンダを取り、身体の後ろに隠した。
それを見た矢鱈さんが
「ジョーンくん、落ち着いて」
「へ?」
二人の視線が、私に向けられる。
私の言葉を待つ、優しい目。
なんで私はこんな二人に悪態ついたり、ひどいことしたり……。
――その瞬間、思わず感情が溢れ出した。
「わ、私……」
わわわ、ダ、ダメ、ダメだ!
また、わけがわからなくなる。
止まって、止まってよ!
必死にこらえようとしても、次から次へと感情が溢れ出て止まらなかった。
力一杯、バッグを抱きしめて堪らえようとする。
でも、私の中に渦巻く感情が。
今まで、気づかない振りをしてきた全てが、涙に形を変えていく……。
ポロポロと零れ落ちる涙でパンダタが濡れた。
「え、絵鳩!?」
「絵鳩ちゃん!?」
二人はオロオロと慌てている。
私は、なんで泣いてるの?
「ご、ごめんさい……。ふぇ、フェザーメイル返しますから、わ、私、わたし……ちょ、調子に……ひっく……乗っちゃって……だから……うぅ」
うわ、もう私、最低だぁ……。
泣けばいいってもんじゃないのに!
「ちょ、いいっていいって、持ってても使わないし。あ、気になるなら安く売るよ? 合格祝いってことでさ。返してもらったら、俺何に使うかわかんないぞぉ?」
と、ジョーンさんがふざけた口調で言う。
「ほ、ホン……トでずが?」
「ああ、いいよ。ほらID出して」
私は頷いてIDをジョーンさんに渡す。
「えーと、2000DPだから、うーん1000DPでどう?」
「うぅ……ひっく、大丈夫です」
ジョーンさんが苦笑いを浮かべてIDを返してくれた。
「ずみません……」
私はバッグにIDをしまった後、ティッシュを取り出して鼻水を拭く。
「気にしない気にしない。ちゃんと言えたし、それに……今度は嘘泣きじゃないしね?」
矢鱈さんは白い歯を見せて笑った。
「う、うぅ……や……矢鱈さん、歯、うぅ……白……すぎ…です」
私は嗚咽を堪えながら涙を拭う。
「え? そ、そうかなぁ。ははは」
「そうですよ、白すぎですって」
と言って、ジョーンさんも笑っている。
「お、良いじゃん? パンダタでしょ?」
ジョーンさんが私のバッグのパンダタを指さして言った。
私はそれに精一杯の笑顔で応え、そして深呼吸をしてから
「本当に、今までごめんなさい!」と心から謝った。
「……絵鳩、お前、青春してんだなぁ」
ジョーンさんが呆れながらも、微笑んでくれた。
そして、思い出したように
「そうだ! お前、二度とキモっとか言うなよ?」
「ご、ごめんなさいっ! もう言いません!」
私が謝ると、ジョーンさんはニヤリとした後で
「ふははははは!! 勝ったーーーっ!!」
と、大きく笑った。
それから私は、二人と少し話した後、家路に着いた。
……嘘ついて、SNSで自慢して、なんか私バカだった。
二人の顔が浮かぶ。
帰り道でスマホを眺め、小さく頷いてSNSアプリをアンインストールした。
――これでいい、うん。
「よき」
スマホをバッグに入れる。
揺れるパンダタが、私にはとても誇らしく思えた。
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