第12話 9月12日 四日目 前進

s23はねずいろ

 第10話 9月11日 待ち時間

 第11話 9月11日 不吉な影




 朝も九時半をまわった町中は、どこか閑散としている。でも「静かな朝」という表現にはほど遠い。


 夏休みが終わり、朝夕にはどこかしら秋の気配を感じるけど、日の光はまだ厳しくて、アスファルトの道からはもうしけった熱気が立ち上ってくる。


 蒸し暑い沈黙。

 苛立ちさえも感じる静けさ。

 そして、まとわりつく何者かの視線。

 その正体を突き止めるために、僕は追い立てられるように町を行く。


 通りに人影は少ない。

 学生も社会人も、みんなそれぞれの居場所たるコンクリ箱の中に収まり、それぞれの群れの中で生活している。


 汗ばんで肌に張り付いてきた半袖のワイシャツを引っ張った。学生服。僕が属している群れの証。


 ――いや、僕はもう、この群れからは離れようとしている。

 そして、もう一つの群れに入ろうとしている。


 本当に、それでいいのだろうか?

 時々、疑問に思う。

 昼の世界がいいことばかりだったといえば、嘘になる。でも、それなりに満足した生活と、数人の気の合う友人がいた。

 好きで夜の世界に足を踏み込んだわけではない。


 夜気に籠もる水の匂いと、牙爪がもたらす血の臭い。

 忌たちの赤い瞳と、月光の下の蒼い世界。


 身も凍るほどに残酷で、

 残酷なほどに美しい。


 まよわないで――。


 美空先輩の言葉が、耳をつく。


 僕をこの世界に引きずり込んだ、三身の小鬼。

 水緒。

 名も知らない工場跡の少女。

 杣木千夏さん。


 僕が知っている、そして僕が殺した、夜に生きるものたち。


 彼女たちも元々はただの人で、昼の世界で、ただの人としてごくごく普通の生活を――若干の不幸はあったにしろ――していたはずだ。


 美空先輩は、一つの町にこんなに忌が出てくることは、奇妙だと言っていた。

 偶然にしては、集まりすぎていると。


 二度まで続けて起こることは偶然かもしれない。でもそれが三度以上続けて起こるなら、それは何か理由がある必然だ。

――なんてセリフを、伯父さんに聞いたことがある。伯父さんの旧友で、昔警察官をやっていた人の言葉なんだそうだ。


 彼女たちには、共通する何かがあるのだと思う。

 だから僕は、昼の世界での彼女らの足跡を追ってみることにした。

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