第20話 8月4日 美空との契り※
僕の中で、暗く重い金属製の撃鉄が落ち、弾丸が撃ち出されるように急き立てられた僕は、必死になって目の前のぬくもりにしがみついた。
「あっ――ば、か……馬鹿っ……だめ!」
先輩は懸命に僕の上着を掴んで押しのけようとするけれど、所詮、本気で力まかせになればこちらの方が勝っていた。
体重をかけて、逃げられないよう両手を押さえつけながら、顔をそむけたせいで露わになった首筋に舌でむしゃぶりつく。
「ふっ……は、やぁ……んっ」
くすぐったさと、怖れ。
二つの感情に翻弄される先輩の声は儚げで、黒いものがいっそう強く身じろぎをする。
衝動にまかせ、緊張した白いうなじを舌で十分にねぶりまわし、強く吸った。
先輩が突然の感覚に息を詰まらせた。
吸いたてて、唇を離す。
白い肌に蹂躙の赤い痕がしっかりと刻まれる。
「せ……ん、ぱい」
脳が痺れ、欲望だけが強く猛り狂っていた。
それが、溺れるものがわらをも掴もうとする行為なのか、後悔と痛みから逃れようとしているだけの逃避なのか、もうどちらでも良かった。
「だ、め…………ぁっ、ああ……」
うわごとのような声を無視して、先輩のうなじに何度も何度もキスマークを刻印する。
唇を離すたびに現れる花びらのような徴に、僕の最後の理性もどろどろになって溶け落ちていく。
「せんぱいせんぱいせんぱいっ」
先輩の両手首を左手でまとめて掴み、頭上に引き上げてはりつけた。右手は白単衣の襟元を強引にかき開いてしまう。
「駄目っ、や――――っ」
しっかり留められた帯は予想以上にきつい。乱暴にしてもわずかしか襟が開かず、思ったように胸の形を堪能することはできなかった。
けれど、開かれた部分から覗く白い肌と胸の谷間の翳りは、半端な分だけ淫猥な想像をかきたてる。
白単衣と
「っ――」
下着はつけていなかった。
素肌に食いこんでくる手の感触に、先輩は背をのけぞらせて絶息した。
「……きゃふぅっ、ふっ、きゅぁ」
尖り始めた先端を痛むほどにきゅっとひねると、先輩は消え入るような声で鳴いた。
「先輩の……、堅くなって、感じてる……みたい」
「……ちがっ……やぁ……」
もれる声を、唇を必死に噛みしめ、真っ赤に染めた顔を背けてこらえている。
けれど、逃げられないことを悟ったのか、先輩はもうすっかり大人しい。
だから、構わず手を下に伸ばした。
下半身をまさぐる気配に、先輩は今にも泣き出しそうな顔で僕を睨んだ。
「……そう、や……くん」
涙目での、懇願。
でも止まらない。止まれない。
無言で帯を、腰紐を解くと、腕を回して両足を抱え、そのまま膝が胸につくほど折り曲げてしまう。
「そっ……そうや、く……んっ」
一度だけ、ため息のような声で僕を責める。
僕は無視するように、自由を奪った先輩の脚から一気に緋色の袴を引きぬいた。
そのまま、力にまかせて先輩を抱き寄せる。
「あ、あああぁ――――っ」
狂暴に折り重なっていく僕。
息を吹き返したかのように、両手を突っ張って押しのけようとする先輩。
もがくうちに先輩の着物の前がはだけきって、雪みたいに白い肌が夜気に触れる。
大きすぎず、形の良い、やわらかそうな胸のふくらみがふるふると揺れる。その先端では、鮮やかな桜色の先端がつんと上を向いて尖っていた。
その艶めかしさは僕の脳を激しくかきまわし、腰の欲望は、もうズボンの下で痛いくらいに猛り狂っていた。
「だ……だめっ、それだけは――だめぇ」
閉じようとすりあわせる先輩の脚を、膝にかけた腕に体重をかけてこじ開けながら、左右に開かれていくその間へ、自分の腰を割り込ませる。
「…………は」
先輩の口から諦めに似た吐息がこぼれる。
彼女が大きく荒い息をつくたび、胸のふくらみがなだらかに上下した。
「そう、や」
うわごとのように僕の名を呼ぶ。
先輩の、深い色の瞳を、組み伏せた僕は正面から見据えた。
誰もいない深山に横たわる湖面にも似て、黙って見つめていると飲み込まれてしまいそうだ。
「こ、」
唇が、動く。
泣いているような、怒っているような。
僕は――憎んでいたのかも知れない。
僕を「夜」に連れてきた先輩を。
いや、きっと憎んでいたのは僕自身をだ。
憎んで、呪って、壊してしまいたかった。
「こわ……が、らないで……」
「ちがっ……!」
その呟きに、駆り立てられた。
もっと滅茶苦茶にしてしまえばいい。
もっと滅茶苦茶にして、もっと憎まれて、軽蔑されてしまえばいい。
だから――。
「痛っ……」
先輩が、苦痛に顎を仰け反らせる。
硝子みたいに繊細な乳首へ、噛みちぎらんばかりの力で歯を立てた。握りしめるように強くこね回す掌の下では、乳房が何度も形を変える。
「や、ふ……はぁ、……やうっ……」
その間に、右手は先輩の秘められた部分へとたどり着いていた。
一番敏感な部分に直接触れる他人の指先に、先輩の身体がびくっと跳ね上がる。
「ああ……あアぁっ……」
先輩が息をのむ。呼吸が止まる。
僕はベルトを外し、ジッパーを下ろす。
先輩が、息を飲むのがわかった。
普段からは想像もできない、怯えた子供のような表情で、とっくに硬く張りつめていた怒張が秘裂にあてがわれるのを麻痺したように見つめていた。
「あ、…………」
僕と先輩の、二人の息づかいだけが、高く低く。
「……こ、こわが…らない、で……お、願……」
先輩の指が探るように彷徨い、僕の上着の袖をきゅっと掴んだ。
「……いつも、のそう……やくん、に……」
その仕草が、言葉が、僕を凶暴にする。
わけのわからない衝動に身を任せて、僕は、
それ以上先輩に喋らせず、
かたくなな秘裂を一息に刺し貫いた。
「――ひっ、ぅあああぁぁぁぁ――――っ」
顎を、背を、先輩が反り返らせた。
血の滲むほど唇を噛んで、悲鳴を殺している。
まなじりからは新たな涙がとめどなく跡を引く。
ふるふると全身を震わせ、袖を握った手にはぎゅっと強く力がこもる。
「せん……ぱぃ……っ!」
先輩の胎は、とても狭く、熱かった。
先輩の華奢な腰が、僕の衝動にあわせて浮き上がる。それでもまだ、半ばくらいまでしか入っていない。
「ふっ…くふぅ……」
泣いている。あの美空先輩が泣いている。
泣かせている。僕が、僕の一部が先輩をこんなにも泣かせている。
それでも。
もっと、と急きたてるものがある。
もっと強く激しく乱暴にしてしまえ、と。
そうしたら、きっと――。
罪悪感がどす黒いものに塗りつぶされていく。
脚を抱え上げて、さらに大きく開かせると、恥骨がぶつかるほど強く叩きつけた。
ひときわ高い悲鳴があがり、ずるりと自分が飲み込まれ、包まれていくのがわかった。それでも止まることなく突き進んだ先で、ぴっと、明らかに襞とは異なる何かを突き破る感触があった。
「は、あぁ……」
身体の奥を貫通した衝撃に開いたままの先輩の口から、涎が筋を引いて上品な顎の線を辿っていく。
まなじりからこぼれた涙が頬をつたい、白い蒲団の上に広がった長い髪に落ちる。
「あ……っ……、せ、んぱい」
僕は、馬鹿みたいな声をあげてしまった。
暖かでぎっちりとしたぬめりから外気に引きずり出された凶悪な肉塊には、まるで内臓のように、ぬらぬらと赤い鮮血が絡みついていた。
まさか、とは思ったけれど。
……初めて、だったんだ。
だとすると。
僕は……。
先輩の初めてのその純潔を、こんなにも無理やりに、こんなにも荒々しく踏みにじってしまった。
「はっ……んぁ……」
それでも先輩は悲鳴を耐えている。
苦しいとも、痛いとも口にしない。
まったく文字通りの意味で、身を切る苦痛に苛まれているだろうに、先輩の胎はいたいけで、かたくなに、一生懸命に僕を包んでくる。
僕は。
やさしくできなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
もはや息をするのも辛そうな先輩に構わず乱暴な抽送を繰り返し、一突きごとに勢いを増していく。壊れるほどの衝撃に華奢な身体が哀れなほど踊る。
それでも、涙で頬を濡らしながら唇を噛みしめる先輩の中を、僕はひたすらに動き続けた。
求めていた。
ぬくもりを。委ねられる場所を。
もっと。
一向に緩まない動きに、先輩は髪を振り乱す。
少しでも長くそうしていたかったけれど、とうとう僕の方が限界を感じた。
「先輩、もう少し…せんぱい……も…少し……」
刻々と最後が近づき、動きが勢いをいや増す。
「っく……うっ……ふくっ」
もう、いっぱいだ。
しがみつくようにのしかかり、うなじと甘い匂いのする髪に顔を埋める。
両脚を肩に担いだまま、細い身体をくの字に屈曲させて、折れてしまいそうなほど強く抱きしめた。
「せん――――――っ」
「はっ、ぁ、あぁ―――っ」
先輩の身体が、一瞬、激しくわなないた。
最後の、ひときわ力の限りを込めた突き上げに応え、快感が腰と背筋を一気に駆けあがって、僕は、思いの丈を先輩の胎に迸らせた。
「ぅっ、あ……な、これ……なに……」
全てを受け止めてしまった先輩の指先は硬直したかのように震えながら、行為の間中ずっと僕の袖を握りしめていた。
先輩は全身の力を失って、ぐったりと脱力したまま蒲団の上に四肢を投げ出す。
折り重なるように僕も倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
倒れた二人の息づかいが、また、重なる。
触れあった肌が暖かい。
胸にあたるやわらかなふくらみ、さらさらと流れる長い髪、しっとりと汗ばんだ肌……。
衝動の黒い獣は立ち去っていた。
ようやく鈍化した理性が帰ってきて、すっかり消失した恐怖に代わり、先輩の頬にはっきりと残る涙の跡が、僕の罪悪感をかきたてた。
「せん……ぱい……」
僕は。
なんて……。なんてことをしたのか。
「あ…………」
なんて謝ればいいのだろうか。
こんな……こんな、ひどいことをして。
なんの言葉も見あたらない。
いや、謝ってすむことのはずがない。
先輩を汚してしまった。
力ずくで陵辱してしまった。
「………………ご、ごめ……」
慌てて身体を起こして離れようとする。
「いやっ」
当然ともいえる拒絶の言葉が僕を打ちのめした。
「いや……離れない、で」
先輩の手は、僕の上着をしっかりと掴んだまま、まだ離されてはいない。
「えっ……、あ……。ぼ……先輩を……」
「だめ……、だめ」
穏やかな力で抱きよせられた。
豊かな胸のふくらみに顔を埋めると、今夜初めて感じる心地よさと安らぎがやってきた。
「……ね、宗哉……くん。おち……つい、た?」
「…………先、輩」
それだけで。
泣き出したくなってしまった。
どうしてそんな目をしてくれるんですか。
どうしてそんなふうに
あんなにひどいことをしたのに。
あんなに身勝手なことをしたのに。
訪れた安心に戸惑い、触れた指のぬくもりに目を閉じかけた僕の唇に、軽く触れてきた。
深い口づけではなくて、なんだか恥ずかしげな、本当に触れるだけの、ついばむようなキス。
「……いい、よ。いいのよ……平気だから。……わたし、ぜんぜん平気だから」
「先……っ」
言葉に、詰まった。
申し訳なさとか、自分への憤りとか、安心とか、そんないろいろなものが一斉にこみ上げてきて、口を開いたら溢れそうで、何も言えない。
先輩だって、初めてでまだ痛みが残っているはずなのに、そんなことはおくびにも出さず、無理な笑顔を作ってくれる。
「いろいろ……あったでしょう。何もかも……忘れて……ゆっくり休んで、そして朝に……朝になったら……昨日と同じ宗哉くんに戻って。ね」
「……先……輩」
涙で、先輩の顔がよく見えない。
「いいよ……。泣いても、いいよ」
こらえきれなかった。
泣き顔を見られるのがはずかしくて、先輩の胸に顔を埋めるようにしながら、声を殺してむせぶ。
自然と涙が溢れた。
色んなことが、色んな人の顔が、脳裏にやってきては去っていく。
「先……輩……」
「……うん」
「先輩……、先輩、先輩……」
「うん」
どれくらい、そうしていたのか。
ようやく涙が枯れて、息をつけた。
悲しみや後悔が消えたわけじゃないけれど、少なくとも身体はもう落涙を求めていない。
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