第9話 第三と第四の事件3[他者視点]
下校時、降りそうでなかなか降らない空を気にしながら、俺は駅までの道を急いでいた。
道に咲く
ブルーになりつつある俺の視界に、もっとブルーになる光景が飛び込んできた。
不良どもが女生徒に絡んでいるのだ。見なければどうってことはないが、見てしまったからには放っては置けない。
と、見る間にそいつらは女生徒に当身を食らわしてすぐ近くへと引きずり込もうとしていた。
「待ちやがれっ!」
不良どもの姿に何か引っかかるものを感じたが、悠長に構えているヒマはない。
俺は速度を上げてそいつらくぐった門をくぐり抜け――と同時に、首筋に強い衝撃を受けてもんどりうつ。
その俺に男の声が降って来た。
「誰かと思やぁ額辺じゃねーか。丁度いい、こないだの借り返させてもらうぜぇ」
焦点の合わない目を必死に凝らすと、いつかノシた覚えのあるリーゼントがニヤニヤと下品な笑みを浮かべていた。
左右から腕をぐいと引かれて、乱暴に中に放り込まれる。
まだ頭がくらくらしててはっきりしないが、不良どもは全部で5、6人はいるようだ。
「いやあああああっ」
女の悲鳴と下卑た歓声が聞こえてきた。
「ひゃはっ、あいつの言ったとおりだったな!」
「とにかく楽しませてもらおうぜ!」
暗さにようやく慣れた目が、女とその上に馬乗りになって服を脱がせるのに躍起になっている男の姿を映した。
どうもここは使われなくなって久しいらしい。こいつらはそのことを知っていたとしか思えない。
「て、てめーらっ、自分のしてることがわかってんのかッ!?」
「あーん、こいつオマエの女なのかよ?」
楽しそうにリーゼントが言うと、女の顔をつかんでこっちへと向けさせた。
女の顔に見覚えがあった。ついこの間見たばかりで忘れるはずもない。道倉の妹だ。
「助けて……」
「はっ、助けてだとよ? どうすんだよ、額辺。そのザマでよぉ」
腹を思い切り蹴り飛ばされて、俺は激しく咳き込んだ。その隙に手を後ろにまわされ、用意していたらしいガムテープで手をぐるぐる巻きにされた。
「……随分用意がいいじゃねえか……」
「まーな。ほんとは女を縛るために持ってきたんだが必要ねぇみてぇだし。オマエには仲間が女を犯ってる間のオモチャにでもなってもらうぜ」
こいつらは自分が何をやっているのか絶対にわかっちゃいない。
「やめろっつってんだよ、てめぇら!!」
「うるせぇよ」
今度は顔を踏みにじられる。
「そんなに必死になるってことは、ほんとにオマエの女だったのかぁ?」
嬉しそうに覗き込んでくるリーゼントの顔に、俺は血混じりの唾を吐きかけた。
「誰だろうが関係あるかよ。そいつを見捨てたら俺は俺じゃなくなっちまう。それだけだっ」
言い捨てザマにまだ自由になる足で思い切り足払いをかける。無様に倒れたリーゼントのツラに思い切り膝を叩き込む。
だが、俺の反撃はそこまでだった。
「コイツ、ナメやがって!」
道倉の妹に馬乗りになっている奴以外の不良どもが、よってたかって俺に蹴りを見舞う。倒れたままでロクな防御もできるはずもない。
「ち……くしょ……」
遠くなりかけた俺の意識を、悲痛な悲鳴が現実へと引き戻した。
「痛いっ、やめてえっ。ああっ!!」
悲鳴の方へと首を向けると、服を引き裂かれた道倉の妹が、不良の一人にのしかかられているのが見えた。太腿の間に強引に割り込んだ男の腰が、女の腰と密着している。
「いやっ、いやぁっ!」
「へへ……処女かよ。こいつぁツイてるぜ」
むせび泣く女には構わずに、男はめちゃくちゃに腰を動かし始めた。
「おっ、おお……」
十秒も保たずに男は満足そうな吐息とともに身体を震わせた。二度、三度と男の身体が震えるたびに女のすすり泣く声が大きくなった。
「次は俺だ、俺!」
果てた男を押しのけるようにして、次の不良が道倉の妹の身体にむしゃぶりついた。
「くそ……てめぇら……」
「羨ましいか、額辺? お願いしますといえばお前にも犯らせてやるぜ?」
「馬鹿が……力ずくじゃねえと女一人モノにできねえてめぇらと一緒にすんじゃねーよ……」
力ずくで女をモノにするというのは、自分が一人の人間としてその女と対等に付き合う自信がないということを声高に喧伝していることと変わらない。この事実に、こいつらは気付いていない。
「なんだとてめぇ!」
頭に血を昇らせた不良どもが、よってたかって俺に蹴りのシャワーを浴びせかける。自分に自信がないからこのくらいの挑発ですぐに頭に血を昇らせ、暴力を振るう。
とはいえ、俺のこの行動もお世辞にも頭がいいとはいえないが。
「ど、どうして私が……助けて……兄さん……」
道倉の妹がうわごとのように呟く。
「お前の兄貴自殺したんだろ? 不幸だよなぁ、今度はお前がこんな目に遭ってるしなぁ」
何かが引っかかった。
真田が死に、芙貴にちょっかいかけてた先公が死に、道倉が死に、そして今度は道倉の妹がこんな目に遭っている。
だが、考えるにも俺はもう限界だった。
最後になぜか三之流の顔を思い浮かべて、俺の意識は暗転した。
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