第3話 7月22日 三姉妹との別れ
たくさんの人が行きかう東京駅に、新幹線が並んでいる。僕らはそれぞれの荷物を持ってホームを歩いていく。
「せっかく東京まで来たんですから、ゆっくりしていらしたらいいのに。わたしたちと一緒に、東京観光をしませんか? 泊まるところでしたら紹介しますし」
僕たちを見送りに来てくれた美津波さんの言葉に後ろ髪引かれながら、僕たちは乗車口に立った。
「本当に、3人ぐらいはどうってことないぞ。そちらの都合さえ問題がないのなら、赤鞘筋の屋敷に泊まってゆっくりと観光でもしていったらいいのではないのか? この街にはこの街のよさというものもあるのだし」
「お言葉は嬉しいのですけれど、実家で待つ父が心配をしますので。本当にお気持ちだけで十分です。ありがとうございます」
美空先輩の言葉に、香久弥さんも片方の眉を少しだけ上げたあとうなずいた。
「美星ちゃんも行っちゃうの?」
大きな瞳に涙を溜めながら、末っ子の菊理ちゃんが美星ちゃんの袖を握りながら訴える。
美星ちゃんも泣きそうな顔をしながら僕と先輩のことを見上げるけど、もともとおじさんに心配をかけないために僕が付き添っているんだから、予定外のことをするわけにはいかない。黙って首を振る。
僕だって東京のあっちこっちに行ってみたいとは思う。普通の高校生なら足を運んでみたい東京スポットは両手で数え切れないぐらいあるだろう。
許されるのなら、僕だって行ってみたい場所はあったのだ。ディズニーランドとか、ランドマークタワーとか……二つとも東京じゃないけど。
おまけに無料の宿と、美人三姉妹付きときて心が動かされないはずがない。こんな滅多にないチャンスをふいにすることになるなんて、美星ちゃん以上に僕のほうが泣きたかったぐらいだ。
「……そう、それなら仕方ないわね。ほら、菊理。いい加減、美星ちゃんを離しておあげなさい。あなたがそうしていると、美星ちゃんだって困っちゃうでしょう?」
「でも……でも、せっかくお友達になれたのに」
菊理ちゃんがいやいやをするようにふるふると首を振ると、切りそろえられた髪も一緒に揺れる。
病弱な菊理ちゃんはあまり外へ出ることもなくて友達が少ないのだと香久弥さんが言っていたっけ。
「あ、あの、私、お手紙書きますから。絶対に書きますから。だからずっとお友達でいてくださいね」
美星ちゃんが菊理ちゃんの小さな手をとって、上下に揺する。
「……本当に?」
「はい、本当です」
「じゃあ、私もお手紙書きます。私たちはお友達ですよね?」
「はい」
「よかったわね、美星。素敵なお友達ができて」
「はい、姉様」
「なんだ、私たちは仲間はずれなのか?」
「そうね、わたしも美星ちゃんと菊理の仲間に入れてもらいたいわ」
それほど一緒にいた時間は長くないというのにこうして友達になれるって、なんて素敵なことなんだろうと思う。
新幹線の出発を知らせるアナウンスが流れる。
「じゃあ、そろそろ」
「そうね」
「さようなら。お身体に気をつけてくださいね」
「今度はぜひ家へ遊びにいらっしゃい」
「元気でな」
「お手紙、書きますね」
空気の抜ける音と共に、僕たちの間にあった扉が閉まる。
菊理ちゃんは涙をこすりながら窓に近づくと、小さな手のひらを窓に当てた。美星ちゃんも自分の手を合わせるようにする。
彼女の声は聞こえないけど、何を伝えようとしているのかはわかる。その表情が、雄弁に彼女の気持ちを語っていたから。
三人はホームの端に立って、僕たちを見送ってくれた。それはきっと、今回の東京行きで一番嬉しかったことに違いない。
「見えなく……なっちゃいましたね」
「いつかまた会えるわよ。それほど遠いところに住んでいるのではないのだから」
「そうだね。機会があったら、また三人で出かけることにしようよ。最初の目的地は、赤鞘さんたちのいるところってことでどうかな?」
「……はい!」
s65真澄鏡――完了
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シナリオ/ 卯月桜
協力/ アルカンシェル
赤鞘香久弥[あかさや・かぐや]
アルカンシェル制作のゲーム『白路』に登場するヒロインの一人。
赤鞘家の次女。成績優秀で運動神経が良く、周りからの信頼も厚い。名前のせいか、周りからは「姫」「姫ねぇさま」などと呼ばれていたりする。
赤鞘菊理[あかさや・くくり]
アルカンシェル制作のゲーム『白路』に登場するヒロインの一人。
赤鞘家の三女。身体的に病弱であり、あまり運動ができない反面、勉強を頑張っている。由緒正しい星章学園の学園祭演劇「神楽の舞姫」に出演することが決まっている。
赤鞘美津波[あかさや・みつは]
アルカンシェル制作のゲーム『白路』に登場するヒロインの一人。
赤鞘家の長女。地元の国立大学で遺伝子と血についての勉強をしている。同時に上京している父親の代わりに家長としてまとめ役をこなす。
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