第6話 9月9日 静かなる戦い
学校は日々近づいてくる天川祭へ向けての準備で忙しい。
僕も黛の勧めに従って、なるべく作業の手伝いをしている。当然、黛にもつき合わせてだ。僕を人身御供にして自分だけ逃げるなんて友達がいのないことをさせるはずがない。なんといっても僕らは親友なのだから。
そのおかげかどうかはわからないけれど、ここのところの委員長とつぐみの機嫌はよかった。まぁ、この二人に任せておくだけでも――正確には委員長一人に任せておけば――準備は滞りなく進むような気がしないでもない。
美星ちゃんとはあまり顔を合わせていない。
学校へは来ているみたいだけど、もともと学年が違うから学校で会うことは少なかったのだし仕方がないだろう。
もちろん、嘉上神社へ行けば顔を見ることはできるけれど、あえて足を向けることはしなかった。
逃げているのかもしれない。でも、もう少しお互いの気持ちの整理がつくまでは会わないほうがいいのではないかとも思っている。
たとえ会ったとして、何を話したらいいのかわからないのだし。
美空先輩は相変わらずだった。
最近は〈会〉の準備があってあまり学校へ出てくることはない。だからというわけではないけど、僕が夜の巡回を担当していたりする。
巡回といっても、そんなにたいしたことをしているわけではない。やりあったのだって数えるほどしかなかった。
もっとも、先日見かけた――そして逃がしてしまった――やつは間違いなく忌だった。
忌――人類の捕食者。
夜属が狩らなければならない敵だ。
まだ先輩には話していない。会う機会が少ないというのもあるし、なにより自分ひとりで決着をつけたかった。
いつまでも先輩に手を引かれているわけにはいかない。僕だって夜属なのだから、一人でできることはちゃんとやらなければ。
覚悟を決めて、忌を狩る。
そうして、夜属になる。
人間とは違うもの。化け物に――なる。
そのせいなのかわからないけれど、なぜか最近はついていない。
財布を落とすとかそういうのではなくって、どうも事故に遭う率が高いような気がする。
そのひとつひとつが致命的な結果になりそうなものばかりで、毎回冷や汗ものだ。
車が突っ込んでくる、ガスが勝手に切れる、ハサミが飛んでくる……これで今日まで命があるほうが驚きなのかもしれない。
そういえば、少し前にこんなことがあったのではないだろうか。
もちろん、僕が経験したわけではない。
あれはたしか、額辺のお屋敷で聞いた話だ。
長老たちが次々に変死しているとかいうことだったけれど……最近の僕と同じような事故とかに巻き込まれたのではないだろうか。
奇妙な確信が僕にはある。
夜属の長老たちを襲っていた忌は、あいつではなかったのか。
まるで世界すべてを呪うかのような言葉を残していったあいつが、次のターゲットに僕を指名したということなのではないか。
だとしたら、やってやる。
僕が、夜属として相手になる。
僕ひとりで、忌を倒す――殺す。
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