第13話 9月1日 VS友切[他者視点]

 正直なところ、これは計算違いだった。この友切と呼ばれる夜属の実力を過小評価していた。

 まさか、あんな短時間でアンヘルのエージェントを何人も食い殺してきた鬼を倒しているとは。


 じりじりと互いの間合いを計る。

 向こうは得物――巨大な鎌だ――を持っているから、当然、攻撃範囲は広い。俺たちが接近して攻撃をするまでに、一撃は覚悟しておかなければならないだろう。そしておそらく、その一撃で勝負は決まる。絶望的だった。


 友切を挟んで向こう側に構える銀色の美しい毛並みをした人狼――円はあふれんばかりの殺気を叩きつけているが、それを気にしたふうもない。

 立ち位置としては挟み込む形になってはいるが、このまま向かったところで返り討ちに合うのがオチだろう。


 さて、どうするか――


 刹那。

 目の前から友切の姿が消えた。


「くっ」


 慌てて後ろへジャンプすると、さっきまでいた場所を巨大な刃が薙いでいた。暗闇に銀光が輝く。

 地面に脚をつき、力を溜める。逆襲に出ようとした瞬間に、俺は自分の目を疑った。

 友切は壁を走り、天井まで駆け上がると、そこがあたかも地面であるかのようにジャンプする。そのまま、円へ大鎌を叩きつける。


「ギャオオオオオッ!!」


「円っ!」


 思ってもみなかった方向からの攻撃に、円の右腕が切り落とされていた。


「くそっ!」


 溜めていた力を解放し、一気に距離を詰める。友切の長い髪が揺れたかと思うと、俺の突進を計算に入れていたといいたげな顔が俺を捉えていた。


 もう一つの力を解放する。


 ぐにゃりと世界が歪むのがわかる。極彩色の世界が俺を包む。皮膚があわ立つ。その中で気配を発するもの――ひとつは友切、もうひとつは円だ――の位置を確認する。うねうねとマーブル状に形を変える世界をかきわける。友切の気配を発する場所の後ろに回り込んだ。

 鋭い爪を持った己の腕を振るう。


「――――――っ!」


 見てからでは遅い絶対の間合いだったにもかかわらず、友切は俺の気配を察して左へ飛んだ。

 俺たちはとんでもない化け物を相手にしているに違いない。


 再びあの歪んだ世界に足を踏み入れる。


 友切が体勢を整えたところに円の爪が迫る。それを大鎌の柄で受ける。背中に隙ができる。チャンスだった。俺は背後に回り込む。これなら殺れる。仕損じはしない。間違いない。これで、俺は、俺と円は自由になれる――――――

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