第十四話 主人公、弓聖と再会する、そして、復讐する(開演中)

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈と、主人公率いる「アウトサイダーズ」の仲間たちが、元「弓聖」鷹尾たち一行を討伐するため、元「弓聖」たち一行が立てこもる「ブラッディ・モンスター・ハウス」へと乗り込んだその日のこと。

 午前11時30分頃。

 主人公を除く「アウトサイダーズ」の仲間たちは、元「弓聖」たち一行の手下である、「白光聖騎士団」の元聖騎士のヴァンパイアロードたちを討伐するため、各自持ち場へと移動し、ヴァンパイアロードたちとの戦いを始めようとしていた。

 ハウスの敷地内の南側に、グレイと酒吞の二人は、主人公の瞬間移動能力で転送された。

 「ようやく化け物屋敷の中にご到着か。目の前に吸血鬼どもがうじゃうじゃいるじゃん、酒吞の姉御?」

 「そのようだな、グレイ。コイツらが「白光聖騎士団」の元聖騎士の吸血鬼どもか?丈に逆恨みで喧嘩を売って返り討ちにあって、国に処刑された上に、国を裏切ってクソ勇者どもに魂を売ったゴブリン以下のクソ吸血鬼というわけか。今すぐこの手でぶっ殺してやりてえと思うほど醜悪な奴らだぜ。」

 突然目の前に現れたグレイと酒吞の二人を見て、第三部隊と第五部隊は驚き、慌てる。

 第三部隊隊長のオリビアと、第五部隊隊長のディランも驚きながらも、動揺する隊員たちに指示する。

 「なっ!?どっから入って来たんだし!?見張りの連中は何やってんのよ!?おい、お前ら騒ぐなってば!「黒の勇者」の奴じゃあないし!?落ち着くじゃんよ!」

 「おのれぇ、「黒の勇者」の奴め、いつの間に仲間を潜入させたでござる!?者ども、落ち着くのである!敵は所詮、雑魚なり!我が輩たちの敵ではないなり!コヤツらの首を討ち取って手柄を立てるのである!分かったでござるな?」

 オリビアたちに諭され、第三部隊と第五部隊の隊員たちが落ち着きを取り戻し、身構える中、グレイと酒吞はその様子を見ながら言った。

 「酒吞の姉御、大魔導士もどきの吸血鬼どもはアタシに任せてもらっても良いっすか?あの顔は見ているだけでぶっ殺したくなるんで。アイツらは全員、アタシの槍で串刺しにして地獄に落としてやるじゃんよ。良いっすよね?」

 「別にいいぜ、グレイ。大魔導士もどきどもはお前に任せる。俺は槍聖もどきどもをぶっ殺す。あの変態そっくりの顔は見ているだけで胸糞悪くなる。とっとと吸血鬼どもをぶっ殺して地獄に落とすと行こうぜ。油断はすんなよ、グレイ。」

 「了解!へへっ、それじゃあ、吸血鬼退治と行きますか、姉御!」

 グレイがパルチザンを両手で持って構え、酒吞が右手に鬼の金棒を構え、それぞれ攻撃態勢に入る。

 「行くぜ、グレイ!オラァー!」

 酒吞が雄叫びを上げながら超スピードで走り、正面にいる、ディラン率いる第五部隊に向かって突撃した。

 後方に控える第三部隊を守るように槍を構えて迎撃しようとする第五部隊であったが、酒吞の超スピードの移動に対応できず、反応が遅れ、酒吞が振り回す鬼の金棒で一瞬で数人の隊員たちの頭が潰され、手足が吹き飛び、全身を肉塊へとたちまち変えられてしまった。

 酒吞の凄まじい怪力から繰り出される鬼の金棒の打撃を見て、第五部隊の隊員たちの表情は一瞬で恐怖へと変わった。

 「な、何だ、この女の力は!?」

 「くそっ、こんなのデタラメだろ!?ギャっ!?」

 「ヒィっ、た、助けて、ブギャっ!?」

 混乱し、陣形を乱し、中には逃げようとする第五部隊の隊員たちを、酒吞の鬼の金棒が情け容赦なく襲い、次々に鬼の怪力で叩き潰し、物言わぬ肉塊へと変え、殺していく。

 「者ども、怯むなぁー!?第三部隊、早く我が輩たちを魔法で援護するのだ!?何をやっているのだ、貴様ら!?」

 ディランがオリビア率いる第三部隊に魔法での援護を呼びかけるが、第三部隊からの掩護は来ない。

 「そっちをカバーしている余裕なんてないっての!?自分で何とかしろよ、キモメンども!」

 オリビアがディランに向かって援護はできないと、焦りの表情を浮かべながら言った。

 酒吞が第五部隊に突撃した直後、グレイはパルチザンを構えながら、全身から魔力を一気に開放した。

 グレイの全身とパルチザンが、死の呪いの魔法の効果を持つ黒い魔力のエネルギーに全身を覆われた。

 グレイの背後に、巨大な、目と口からドロッとした血を流す二頭の狼の顔のようなマークが浮かび上がった。

 「それじゃあ、アタシも行くとするぜ!狼牙爆槍・怨狼二速!」

 死の呪いを身に纏ったグレイが超スピードで走り、第五部隊の後方に控える第三部隊の下へと移動し、超スピードで槍を繰り出して第三部隊の隊員たちの頭や胴体を刺し貫いていく。

 超スピードで第三部隊の隊員たちの間を駆け抜け、槍で敵を貫き、敵の魔法攻撃を交わし、敵を翻弄しながら、第三部隊の隊員たちを一人ずつ確実に槍で串刺しにして殺していく。

 「くっ、は、速い!?魔法が当たらない!?ギャっ!?」

 「は、速すぎる!?がっ!?」

 「お前ら、ちゃんとよく見て攻撃するだし!くそっ、マジウゼぇ!?」

 オリビアが苦戦する隊員たちに指示するが、火炎や雷、岩石の弾丸、水の弾丸などの第三部隊の隊員たちが放つ攻撃はグレイには全く当たらず、グレイの超スピードから繰り出される槍の刺突を受けて、一人ずつ殺されていく。

 一方、酒吞と第五部隊の戦いは早くも決着が着きそうであった。

 酒吞にセイクリッドオリハルコン製の白い槍で反撃を試みる第五部隊の隊員たちであったが、第五部隊の槍による刺突を受けても、酒吞は全くの無傷で、槍は酒吞の頑強な体に直撃した瞬間、穂先が粉々に砕け散って壊れてしまうのであった。

 「ば、馬鹿な!?槍が砕けるなんて!?ギャっ!?」

 「生身で俺たちの槍を防いだだと!?この女も「黒の勇者」の奴と同じ化け物なのか!?アギャっ!?」

 「に、逃げろ!?俺たちじゃ敵わない!?ガベっ!?」

 「くっ!?怯むなー、者ども!?奔流突貫!なっ、我が輩の渾身の一撃まで効かんだと!?お、おのれぇー!?」

 ディランが部下たちの後方から槍の穂先より水圧カッターのような攻撃を放つが、ディランの水の槍の攻撃を受けても、酒吞は無傷で、ディランの部下たちを次々に鬼の金棒で粉砕し、叩き潰し、肉塊へと変えていく。

 「者ども、貴様らは下がっているのである!死ぬがいい、雑魚が!」

 ヴァンパイアロードカスタムグローツラングであるディランのダイヤモンドのような瞳を持つ両目が光り輝き、遅効性の死の呪いの効果を持つ呪いの光が、酒吞と、酒吞の周りにいる第五部隊の隊員たちの体へと浴びせられた。

 「がっ!?く、苦しい!?」

 「た、隊長、ど、どうして、俺たちにまで呪いを!?」

 「だ、黙れ!?我が輩の指示を聞かなかった無能な貴様らの自業自得なのである!フハハハ、我が輩の死の呪いを浴びて貴様はもう動けまい、雑魚女めが!者ども、一気にあの雑魚を包囲して突き殺してやるのでござる!」

 だがしかし、ディランの放った死の呪いを浴びても酒吞は平然としており、勢いを変えないまま、どんどんと鬼の金棒で第五部隊の隊員たちを叩き潰して殺していく。

 「ば、馬鹿な!?わ、我が輩の死の呪いを浴びても動けるだと!?ええい、貴様ら、さっさとあの雑魚を仕留めんか、愚か者ども!?」

 取り乱すディランに、鬼の金棒を右手に持ったまま、酒吞が言った。

 「馬鹿で雑魚はテメエだ、槍聖もどき。テメエの部下は俺がもう、全員殺した。周りをよく見ろよ、馬鹿が。」

 酒吞に言われ、周りを見渡すと、ディラン以外の第五部隊の隊員たちは全員、酒吞の鬼の金棒に叩き潰され、肉塊へと成り果てて死んでいた。

 「何っ!?わ、我が輩の部隊が壊滅!?ば、馬鹿な!?「黒の勇者」の奴と同等の強さだと!?お、おのれぇー!?ならば、我が輩の必殺の槍であの世に送ってやるでござる!」

 焦り怒るディランの全身から、鎧や服を突き破り、無数の象のような長く太く鋭い牙が急速に生え、鋭い牙がディランの全身を覆った。

 右手に持っていた聖槍のレプリカを放り捨て、全身から象のような形状の無数の鋭い牙を生やしながら、酒吞に向かってディランは言った。

 「フハハハ!これぞ、我が輩の天下無敵にして必殺の槍なり!我が輩の槍で貴様を全身串刺しにして穴だらけにしてくれるわ!行くでござる、雑魚女!」

 ディランは全身から牙を生やしたまま勢いよく走り、酒吞に向かって突撃した。

 酒吞は右手に持つ鬼の金棒を地面に突き刺すと、両手を広げながら仁王立ちで構える。

 「死ねえーい、雑魚女!」

 ディランの突撃を、酒吞はかわすことなく、正面から受け止めた。

 ディランの全身から無数に生えた牙が酒吞の体に勢いよくぶつかるが、ディランの体の前側に生えた牙は全て、酒吞の頑強な体にぶつかった衝撃で粉々に砕け散ってしまった。

 「なっ、何だと!?」

 困惑するディランに、両腕を広げて構えていた酒吞がベアハッグをかまし、ディランの全身を怪力で強引に締め上げていく。

 ベアハッグをかまされ、両腕を使えず、鬼の怪力で全身を締め上げられ、全身の骨を徐々に砕かれ、あまりの激痛にディランは悲鳴を上げる。

 「い、痛たたたたたたっ!?は、離せ!?離すでござる、汗臭いメスゴリラが!?」

 「ああ``っん!?誰が汗臭ええメスゴリラだとっ!?オラァっ!」

 「プギャアー!?だ、誰か我が輩を助けてー!?」

 「誰も助けに来ねえよ!ぶっ潰れろや、変態槍聖もどき!オラァー!」

 怒る酒吞がベアハッグでディランの体をホールドした状態のまま、一気に体を後方へとのけ反らせ、ディランに豪快なフロント・スープレックスをかました。

 酒吞のフロント・スープレックスで体を投げられ、酒吞の後方の地面に頭から勢いよく全身を叩きつけられ、ディランの頭は地面に勢いよくぶつかった衝撃で木っ端微塵に潰されてしまった。

 ドーン、という大きな衝撃音が鳴り響き、ディランの頭がぶつかった地面は衝撃で割れ、ディランの木っ端微塵に潰されて破壊された頭部の血や肉片が散乱している。

 フロント・スープレックスの構えを解き、頭部のないディランの死体を放り投げると、酒吞は辺りを見回しながら呟いた。

 「他に殺し損ねた奴はいねえはずだ。ったく、この俺を汗臭ええメスゴリラだとか言いやがって、本当にムカつくゴブリン以下の変態吸血鬼だぜ。どうせコイツもロリコンの変態野郎だったに違いねえぜ。頭を完全にぶっ潰したから、生き返ることはねえはずだ。俺のパワー溢れるカッコいい大人の女の魅力なんて変態吸血鬼どもには分かりっこねえだろうが。とにかく、槍聖もどきどもは全員、ぶっ殺した。そろそろ、グレイの方も片が付きそうだな。俺はゆっくり見物でもするか。」

 酒吞はディラン率いる第五部隊を全員始末すると、第三部隊と戦うグレイを傍で見物するのであった。

 酒吞と第五部隊の戦いが終わった頃、グレイとオリビア率いる第三部隊との戦いも、決着が着こうとしていた。

 無数の魔法攻撃を放つオリビア率いる第三部隊であるが、グレイの超スピードで駆け抜け、パルチザンによる素早く的確に頭部を刺し貫く攻撃で隊員たちは一人ずつ殺されていき、グレイの超スピードの動きに魔法攻撃をかわされ、追い詰められる一方であった。

 「ああっ、もうイライラする!?くそがっ、これでも食らえっしょ!」

 オリビアが杖から強力な冷気を放つ魔法攻撃を放ち、グレイやグレイの周りにいる他の隊員たちごと、冷気で周囲を凍らせようとする。

 「た、隊長止め・・・」

 「キャアー!?」

 部下たちの悲鳴を無視して、オリビアは杖から冷気を無差別に周囲に放ち、周囲を凍らせていく。

 「キャハハハ!無能な部下なんていらないっつの!全身凍り付いてそのまま死ねや、狼女!」

 杖から放つ強力な冷気で周囲の部下や地面ごとグレイを凍り付かせようとするオリビアであったが、オリビアの後方10mの位置から、オリビアを呼ぶ声が聞こえてきた。

 「冷気で足止めしようとは考えたじゃんよ、クソビッチ吸血鬼。だけど、その程度の冷気じゃあ、このアタシは止めらねえぜ。」

 慌てて後方を振り向いたオリビアの目に、驚愕の光景が映し出された。

 オリビアが周囲に放つ白い冷気を斬り裂くように、死の呪いを纏ったグレイが現れた。

 グレイは地面へとパルチザンを突き刺し、グレイのパルチザンの穂先に伝わる死の呪いと、リフレクトメタルの効果が、冷気を無効化していた。

 グレイの足元、槍を突き刺した場所から半径2m以内の地面は全く凍り付いてはいない。

 グレイの体も、グレイの持つ槍も全く凍ってはいない。

 「なっ!?マジかよ!?パワーアップしたウチの魔法が効いてない!?凍っていない!?こ、コイツも化け物かよ、くそがっ!?」

 「化け物はテメエだろうが、クソビッチ吸血鬼!仲間まで殺そうとするか、マジで下衆女だな、テメエ!顔も性格も、アタシが一番嫌いなクソビッチじゃんよ!テメエはこのアタシの「黒狼」で串刺しにして地獄に落とす!覚悟しな、クソビッチ吸血鬼!」

 「うっせぇ!ウチをクソビッチ呼ばわりすんじゃねえ、狼女!獣臭ええクソビッチはお前の方だし!死ねえー、クソビッチ狼!」

 グレイに挑発され、怒り狂うオリビアが、さらに強力な冷気の魔法を杖から放ちながら、周囲に無差別に無数の雷を放ったり、氷柱の弾丸を放ったり、分厚い氷の壁を自分の周りに作り出したりして、グレイに魔法で反撃しようとしてくる。

 オリビアの放つ冷気や雷、氷柱の弾丸をかわし、一度50mほど後方に下がると、オリビアの攻撃魔法の射程圏外にいるグレイは怒りを露わにしながら言った。

 「このアタシを獣臭ええクソビッチだとかふざけたことを抜かしやがって!本当にムカつくクソビッチ吸血鬼だぜ!全速力で、ぶっちぎりでテメエを串刺しにしてぶっ殺してやるじゃんよ!魔力全開だ!」

 グレイは前方の、濃い冷気と分厚い氷の壁の向こう側にいるオリビアの方向に向かって槍の穂先を向けて構えると、全身から魔力を最大限、解放した。

 グレイの全身とパルチザンをより濃密でどす黒い死の呪いの魔法が包み込むと同時に、グレイの両足が黒い炎が燃えているかのように、黒い魔力のエネルギーが集中する。

 グレイの背後に、巨大な、目と口からドロッとした血を流す十頭の狼の顔のようなマークが浮かび上がった。

 「これがアタシの全力全開だ!地獄までぶっ飛びやがれ!狼牙爆槍・怨狼十速!」

 パルチザンを構えるグレイが一気に、黒い閃光の如き超スピードで真っ直ぐにオリビア目がけて突撃した。

 オリビアの放つ無数の雷と氷柱の弾丸を振り切り、白い濃霧のような冷気を斬り裂き、凍った地面の上を物ともせず一瞬で駆け抜け、オリビアを守る分厚い氷の壁を突き破り、グレイの槍の穂先がオリビアの腹を刺し貫いた。

 「ぐっ!?ウチの魔法を一瞬で全部破った!?こ、このクソビッチ狼がぁー!?」

 グレイの槍で腹を刺し貫かれながらも、グレイの目の前で怒り、自分に罵詈雑言を浴びせながら聖杖のレプリカを向け、魔法を放とうとするオリビアに向かって、グレイは落ち着いた表情を浮かべながら言った。

 「テメエはもうとっくに終わってるんだ、クソビッチ吸血鬼。地獄までの直行便を最期に楽しめじゃんよ。」

 「はぁ!?お前、馬鹿なの!?お前の槍なんて痛くも痒くもねえっつーの!ウチは痛みを感じねえんだよ!この程度で死なねえんだよ、ウチは!お前こそ地獄に落ちろや!」

 ヴァンパイアロードカスタムリッチーの痛覚を遮断する能力で、グレイに槍で腹を貫かれて串刺しにされても痛みを感じず、勝利の笑みを浮かべながらグレイの顔に杖の先端を向け、魔法を放とうとするオリビアであったが、そんなオリビアの体を異変が襲った。

 「なっ!?ま、魔法が撃てねえ!?魔力が上手く流れねえ!?あっ、か、体がう、動かねえ!?う、ウチの体が黒くなっていく!?あっ、ああっー!?」

 グレイに腹部を「黒狼」の穂先で貫かれたままだったため、リフレクトメタルの魔力を無効化する効果でオリビアの体内の魔力の流れが遮断され、さらに穂先に纏っている死の呪いの魔法がオリビアの体を汚染し、オリビアの全身は黒く変色しながら、死の呪いに全身を蝕まれていく。

 「あ、あがぁっ!?」

 グレイの槍が放つ死の呪いがついに脳へと達し、死の呪いで脳を蝕まれ、脳を呪いで破壊されたオリビアは、白目を剥いてその場で絶命した。

 オリビアが死んだのを確認したグレイは、オリビアの死体から槍を引き抜くと、地面へと倒れ、転がっているオリビアの死体を見ながら言った。

 「痛みを感じねえ体か。確かに便利かもしれねえが、致命傷を負ってることに気付けなくなるくらい鈍くなるなら、かえって戦いの邪魔になるようにしか見えねえな。少なくとも、アタシはそんな力、いらねえ。痛みがあるから、生きているのを実感できる。生き抜こうっていうファイトが湧くじゃんよ。外見だけで中身最悪のクソビッチらしいと言えば、らしいけどよ。まぁ、大魔導士もどきの吸血鬼を串刺しにして地獄に落とせたから、アタシとしては大分、気分がスッキリしたじゃん。さて、残りの凍っている吸血鬼どもを片づけるとするじゃんよ。」

 オリビアを倒したグレイは、周りで氷像のように凍り付いている第三部隊の隊員たちに向かって槍を振り回し、動けぬ隊員たちの頭部を次々に砕いて破壊し、殺していく。

 オリビア率いる第三部隊を壊滅させたグレイの下に、先に戦いを終え、グレイの戦いぶりを見物していた酒吞が歩み寄り、グレイに声をかけた。

 「お疲れさん、グレイ。見てたぜ、お前の戦いっぷり。また一段と腕を上げたな。スピードも大分増したようだ。よくやったぜ、グレイ。」

 「お疲れ様です、酒吞の姉御。第三部隊のクソビッチ吸血鬼どもは全員、アタシの槍で串刺しにして地獄に落としてやりましたよ。良いリベンジマッチにもなりましたぜ。けど、姉御にはまだまだ勝てねえや。ノーガードで、ほとんど生身で敵を速攻で正面からぶっ潰すなんて、やっぱスゲエじゃんよ。アタシには真似出来ねえじゃんよ。」

 「ハハハ!そう簡単に追いつかれてたまるかよ!俺の真似をしたかったら、もっと自分を鍛えるんだな!これからも俺がみっちりとトレーニングしてやるよ!俺よりも速く走れるようになるくらい、もっと強くなれよ、グレイ!期待してるぜ!」

 「はぁー。頑張りますよ。姉御より速く走れるようになるのは大変だと思うけど。まずはLv.200を超えるくらい強くなんなきゃだな。本当にとんでもねぇパーティーに入っちまったじゃんよ。」

 酒吞に励まされ、苦笑しながらも、より強くなることを誓うグレイであった。

 場所は変わって、ハウスの敷地内の東側には、エルザと鵺の二人が、主人公の瞬間移動能力で転送された。

 「ついに化け物屋敷の腹の中に到着した。鵺殿、目の前に元聖騎士の吸血鬼どもがたくさんいるぞ。早速我々でコヤツらを成敗するとしよう。」

 「エルザの言う通り。害虫以下の吸血鬼は一匹残らず駆逐すべき。丈君を傷つけ、国を裏切り、人間であることを辞めて、テロに加担する邪悪な吸血鬼どもは滅殺する。」

 突然目の前に現れたエルザと鵺の二人を見て、第二部隊と第四部隊の隊員たちは動揺する。

 「騒ぐんじゃねえ、お前ら!相手は「黒の勇者」の奴じゃねえ!奴の仲間だ!ビビッていねえでシャキッとしろ!ったく、見張りの連中は何やってんだ!?陣形を崩すな!良いなぁ!?」

 「皆さん、落ち着いてください!敵は「黒の勇者」ではありません!ただの人間です!落ち着いて対応すれば絶対に勝てます!第四部隊、全員結界を展開!第二部隊の援護をするように!第二部隊、防御とバフは準備完了です!何時でも攻撃をどうぞ!」

 「ありがとよ、副団長!第二部隊、剣を構えろ!攻撃準備に入れ!」

 第二部隊隊長のエイダンと第四部隊隊長のアイナに叱咤激励され、落ち着きを取り戻した各隊員たちは迎撃態勢の構えをすぐに取った。

 アイナ率いる第四部隊の隊員たちが盾を構えながら結界を展開し、第二部隊部隊の隊員たちを護り、バフをかけて強化する。

 第四部隊の援護を受けたエイダン率いる第二部隊の隊員たちは腰に提げている鞘から双剣を抜き、攻撃態勢の構えを取りながら、攻撃の合図が降りるのを待っている。

 第二部隊と第四部隊が迎撃態勢に入ったのを確認したエルザと鵺は、それぞれ腰の鞘からロングソードと太刀を抜いて右手に持った。

 「敵はすぐに動くつもりはないらしい。こちらの動きを見ながら反撃するつもりのようだ。鵺殿、剣聖もどきどもの相手は我に任せてくれ。神聖な剣を悪事に利用し、剣を侮辱するあの連中だけは絶対に許せん。我が剣にて連中を全員成敗し、地獄へと叩き落してくれる。よろしいか?」

 「構わない。剣聖もどきどもはエルザに任せる。私は、聖女もどきどもを始末する。あのサイコパス女そっくりの顔は見ているだけでバラバラに斬り刻みたくなる。汚らわしい聖女もどきどもの駆除は私に任せて。まずは手始めに、あのゴミみたいな結界を私が破壊する。エルザはその後に一気に剣聖もどきどもを駆除して。」

 「了解だ、鵺殿!」

 「では、駆除作戦開始!」

 エルザと鵺は話を終えると、それぞれ攻撃態勢へと入った。

 鵺は一気に宙を飛んで、上空50mの位置で制止した。

 鵺が左手を前に突き出すと、左手が一瞬銀色に光り輝いた直後、鵺の左手の先から黒い雷雲が急速に発生し、ブラッディ・モンスター・ハウスの上空をあっという間に覆ってしまった。

 真下に見える第二部隊と第四部隊の連中を冷たい目で見下ろしながら、鵺は言った。

 「目標、結界及び聖女もどきども。結界ごと、害虫以下のクソ吸血鬼どもは焼却処分する。死ね、クソ吸血鬼ども。」

 鵺がそういった直後、無数の雷が一斉に上空の黒雲より、地上にいる第四部隊の隊員たちに向かって放たれた。

 強力な無数の雷が、全ての結界を突き破り、第二部隊の隊員たちのすぐ背後にいる第四部隊の隊員たちへと落ち、強烈な電気ショックでたちまち第四部隊の隊員たちを黒焦げにし、感電死させていく。

 「キャアー!?」という悲鳴を上げながら、第四部隊の隊員たちのほとんどは、鵺の放った雷に打たれ、死体が炭化するほどの勢いで焼かれ、死んでいくのであった。

 「く、「黒の勇者」の奴と同じ攻撃よ!?ギャアー!?」

 「あ、あの時と同じ雷!?こんなの防げるわけが、キャアー!?」

 「み、皆さん!?くっ、私の結界まで破られるなんて!?結界を再展開します!第二部隊、上空の敵に攻撃してください!」

 「無茶言うな、副団長!副団長の結界まですぐに破られるなんてこっちは想定外だ!もう一人の敵がこっちに突っ込んできたんだよ!副団長、お前が上空の敵を始末しろ!その間に俺たちと残りの第四部隊でもう一人の敵を始末する!それしか策はねえぜ!?」

 「ちっ!使えない!分かりました!私が上空の敵を始末します!その間に皆さんでもう一人の敵を始末してください!エイダン、私のいない間の指揮をお願いします!では!」

 アイナはエイダンに第二部隊と第四部隊の指揮を任せ、上空にいる鵺を倒すべく、背中に生えた二対四枚の紫色の巨大な鷲のような形状の翼を動かし、鵺に向かって空高く飛び上がっていく。

 鵺が第四部隊の隊員たちへの攻撃を行った直後、エルザが両手にロングソードを持って中段に構えながら、全身から一気に魔力を解放した。

 エルザの全身とロングソードを、死の呪いの魔法の効果を持つ黒い霊能力のエネルギーが流れて覆うとともに、両腕と両足により黒い魔力が集中し、どす黒く分厚い装甲のように両手両足を覆っていく。

 エルザの背後に、巨大な狼の顔のようなマークと、巨大な猿の顔のようなマーク、それと巨大な蜥蜴の顔のようなマークが上下に並んで浮かび上がると、三つのマークが重なり合った。

 「結界如きで我らの攻撃を防ぐことはできぬ!さぁ、我が剣にて成敗してくれる!百獣剣舞・狼猿蜥蜴獣人剣!」

 エルザが叫んだ直後、エルザが超高速で走り、第二部隊の隊員たちと、生き残りの第四部隊たちに向かって剣を構えながら突撃した。

 第二部隊の隊員たちが両手に持つ双剣より×字状の炎の斬撃を放ってエルザに攻撃しようとするが、エルザは炎の斬撃を全て振り切り、敵を覆う何重にも重ねがけされた結界を叩き斬ってぶち壊し、そのまま第二部隊の隊員たちの下へと急接近し、第二部隊の隊員たちたちを豪快な一刀のもと、斬り伏せていく。

 超高速で接近され、双剣や盾、鎧を叩き斬られ、第二部隊と第四部隊の隊員たちは頭や胴体を真っ二つに斬られ、さらに死の呪いの効果で傷口から死の呪いに侵され、再生もできず、次々にエルザの剣に斬られて殺されていく。

 エルザの猛攻を止めることができず、部隊を率いるエイダンは焦る。

 「くそっ!?パワーもスピードも半端じゃねえ!?コイツもただの獣人なんかじゃねえ!?こうなったら、俺が相手するしかねえ!生き残ってる奴は全員、下がってろ!第四部隊、結界もバフも全部、俺に集中させろ!この生意気な獣人のメスガキは俺が殺す!」

 背中に生えた四本の腕にセイクリッドオリハルコン製の白い双剣を二組持ち、さらに両腕には聖双剣のレプリカを持つエイダンが、エルザと一騎打ちにて決着を付けようと動き始めた。

 一方、上空では鵺とアイナとの戦いが行われていた。

 背中に生える紫色の四枚の翼を動かし、鵺の浮かんでいる位置の反対側の上空に、顔を合わせる形で制止すると、アイナは不気味な笑みを浮かべながら、鵺に向かって言った。

 「クケケケ!本当は「黒の勇者」をこの手で殺してあげるつもりでしたけど、お楽しみは最後にとっておきましょう!まず、「黒の勇者」の仲間であるあなたを殺して、私はあなたの死体を手土産に総団長のポストを手に入れる!そして、「黒の勇者」の絶望に染まった顔をたっぷりと味わうんだ!ケケケケケケ!」

 不気味な笑みを浮かべながら挑発してくるアイナに向かって、冷徹な表情を浮かべながら鵺は言った。

 「害虫以下のクソ吸血鬼が無駄にしゃべるな。聞いているだけで不愉快。お前の存在自体が不快そのもの。攻撃してこないなら、さっさと駆除する。」

 鵺の挑発を聞いて、アイナは激しく怒った。

 「私を馬鹿にするなぁー!「白光聖騎士団」の副団長であるこの私を侮辱したことを、この私を虫けらごときの分際で否定したことを後悔させてやる!死ねえー、虫けら!」

 ヴァンパイアロードカスタムパズズであるアイナが、背中に生えている紫色の四枚の翼を激しく動かし、熱風を起こして鵺に向かって浴びせた。

 超高熱と、致死性のウイルスを含む強烈な熱風を放ち、勝利の笑みを浮かべながらアイナは叫ぶ。

 「クケケケ!ざまぁみろ、虫けらが!私を馬鹿にしたことを今更後悔しても遅いんだよ!苦しみながら死ぬがいい!ケケケケケケ!」

 不気味な笑みを浮かべながら勝利宣言をするアイナであったが、そんなアイナの耳元に、自分を呆れて馬鹿にするような声が聞こえてきた。

 「さっきから何を不快な声で笑っている、害虫以下の聖女もどき?うるさくて近所迷惑だ。害虫以下の知能しかないから、私の言っている言葉は理解できないだろうけど。」

 驚いたアイナが改めて正面にいる鵺の方を見ると、鵺は自身の周囲の風を操作し、小さな竜巻のように風を起こして風の防御壁を作り、アイナの放つ熱風を防ぎ、熱風の軌道を変えて受け流している。

 熱風による高熱で焼かれることも、熱風に含まれるウイルスに全身を侵されて苦しむこともなく、風の防御壁の中で、涼しい表情を浮かべながら、呆れたような、冷めた目付きでアイナを見つめている。

 「そ、そんな馬鹿な!?私の熱風が効いていない!?ウイルスが効いていない!?風を、風を操作できると言うの!?ちっ!?この死にぞこないの虫けらがぁー!?」

 怒り狂うアイナが、鵺に向かってさらに強烈な熱風を放つと同時に、左手に持つ聖盾のレプリカからオレンジ色の球状の結界を十層ほど重ね掛けするように展開して自身の全身を覆い、ガードする。

 だが、アイナのさらに威力を増した熱風は、鵺の竜巻のような風の防御壁によって防がれ、無力化されてしまう。

 アイナの放つ熱風の軌道が逸れ、地上にいる第二部隊の隊員たちと第四部隊の隊員たちへと熱風ごと致死性のウイルスが降り注ぎ、ウイルスを浴びた隊員たちがウイルスに全身を侵され、苦しみながら倒れていく。

 ウイルスにやられた隊員たちにできた隙を、地上にいるエルザが見逃すことなく、剣ですかさず隊員たちを斬り捨てていく。

 「アイナ、何やってるんだ、馬鹿野郎!?ウイルスを撒くのを止めろ!味方に被害を出すだけだ!さっさと止めろ、馬鹿女!」

 地上で各部隊の指揮を執るエイダンが、アイナに熱風を放つのを止めるよう訴える。

 「うるさい!価値のない役立たずどもがいくら死のうが知ったこっちゃねえんだよ!早く死ね、この虫けら!」

 エイダンの訴えを無視し、さらに熱風を放ち続け、鵺を殺そうと必死に攻撃するアイナであった。

 「ウイルスをばら撒くなんて、やはり傍迷惑な害虫以下のクソ吸血鬼。人間を癒し守る聖女の要素なんて微塵も感じない。丈君の言う通り、正しくクソ聖女もどき。勝手に同士討ちしてくれてこちらは駆除の手間が省けたけど、これ以上その不快な姿を見るのは限界。害虫以下のクソ聖女もどき、お前を駆除する。」

 鵺は左手を前に突き出した。

 鵺の左手が一瞬、銀色にキラリと光輝いた直後、突如、アイナの前後左右に一つずつ、巨大な黒い竜巻が四つ出現した。

 「な、何っ!?」

 驚くアイナを前後左右で挟み撃ちするかのように巨大な四つの竜巻が囲んで挟み撃ちにし、アイナの全身を覆う結界を粉々に破壊しながら接近すると、アイナを四方から押し潰すように攻撃し、動きを封じる。

 「がぁっー!?で、出られねぇ!?ぐ、苦しいー!?」

 アイナが背中に生える四枚の翼を必死に動かして、自身の動きを封じる巨大な四つの竜巻から抜け出そうとするが、竜巻の風はあまりに凄まじい風速と勢いで、翼を動かすどころか、手足すらまともに動かすことはできず、アイナの全身を押し潰さんと言うほどの力でアイナの全身をガッチリと掴んでいる。

 四つの竜巻に挟まれているせいで空気の流れが激しく変動し、アイナは呼吸すらまともにできない状態まで追い詰められてしまった。

 四つの巨大な竜巻に挟まれ、身動きもとれず、もがき苦しんでいるアイナのはるか頭上の上空に、右手に黒い太刀を持ったまま空中に浮かんでアイナを見下ろす鵺の姿がいつの間にかあった。

 鵺は両手で太刀を持ち、上段に構えながら言った。

 「結界の強度はゴミ以下。あまりにもろ過ぎる。お前は最早、罠に嵌まって逃げられない害虫も同然。これで終わりだ、害虫以下のサイコパス聖女もどき!」

 鵺はそう言うと、刀を上段に構えた姿勢のまま、超スピードで加速しながら真下にいるアイナの下まで急降下する。

 そして、アイナの頭上へと接近した瞬間、急降下しながら上段から一気にアイナの頭部目がけて刀を真っ直ぐに振り下ろした。

 「斬る!」

 「グギャアー!?」

 鵺の振り下ろした刀の刃が急降下での加速も加わり、アイナの頭部を縦に真っ二つに斬り裂いていく。

 鵺が急降下しながら、刀でアイナの体を縦に真っ二つに斬り裂いていった。

 アイナを真っ二つに刀で斬り裂いて殺すと、急降下の状態から地面へと鵺は着地した。

 上空に作り出した巨大な四つの竜巻を解除し、黒い太刀を腰の鞘に納めると、鵺は、真っ二つに体を斬り裂かれて地上へと落下したアイナの死体へと歩みより、呟いた。

 「害虫以下のサイコパス聖女もどきは駆除した。他の聖女もどきどもも始末した。他人の命を何とも思わず、良いリーダー面をして、最後は平気で自分のために仲間を裏切って利用して殺した性格、本当にあの死んだクソ聖女そっくりで不快でしかなかった。こんなサイコパスを今まで野放しにしていたゾイサイト聖教国は、害虫以下のゴミ国家で間違いなし。討伐が終わったら、ゾイサイト聖教国も駆除すべし。エルザの方もそろそろ剣聖もどきどもの駆除が完了しそう。私は決着を見守るとする。」

 鵺はアイナ率いる第四部隊を全員始末すると、エイダン率いる第二部隊と戦うエルザの姿を傍で見守るのであった。

 鵺と第四部隊の戦いが終わった頃、エルザと、エイダン率いる第二部隊との戦いも、いよいよ決着が着こうとしていた。

 アイナが地上にバラまいた熱風と致死性のウイルスに生き残っていた隊員たちのほとんどがやられ、その隙を突かれて、地上にいた第二部隊の隊員たちと第四部隊の隊員たちはエルザの剣で斬られて死んでしまった。

 エイダンが隊員たちのカバーに入ろうとするも間に合わず、超高速で動き、死の呪いを纏った剛剣を振り回すエルザの猛攻を止められず、エイダンの目の前で隊員たちは無惨に斬り殺されて死んでいったのであった。

 「くそがっ!?あの馬鹿女が余計なことをしやがって!やっぱり俺が副団長をやっとくべきだったぜ!獣人のメスガキ、調子に乗るのはここまでだ!この俺が相手をしてやる!行くぜ!オラァー!」

 他の隊員たちを全員始末したエルザの下に、猛スピードで六本の剣を持ったエイダンが突撃してきた。

 「烈火十字斬!」

 六本の腕に持つ双剣を×字状にクロスさせながら、同時に猛烈な勢いの炎を纏った三組の双剣を生み出して、エルザへと斬りかかってきた。

 エルザは瞬時に後方へと下がり、そのままエイダンの後方10mの位置へと回り込んだ。

 「遅えんだよ、メスガキ!」

 エイダンがすかさず後ろを振り返り、後方にいるエルザに向かって炎の斬撃を三つ、同時に放った。

 エルザは自分に向かって放たれた三つの炎の斬撃を、両手に持つ黒いロングソードで斬り裂き、捌いていく。

 「ちっ!?中々やるじゃあねえか!だが、テメエのスピードは俺には通じねえぞ、メスガキ!テメエの剣なんぞ余裕で見切れる!テメエ程度じゃ、剣聖のこの俺には勝てねえ!分かったか、獣人のメスガキ!」

 炎を纏う六本の双剣を、六本の腕で持ちながら、エイダンは笑みを浮かべてエルザを挑発する。

 しかし、挑発を受けたエルザは、両手に剣を持って構えながら、落ち着いた表情を浮かべている。

 「なるほど。確かに、我の強化したスピードに対応できるほど、貴様のスピードも速い。だが、我はまだ全力を出したわけではない。それに、貴様の剣は力重視で、太刀筋が甘い。貴様の剣は隙だらけだ。その程度の腕で、我の前で剣聖を名乗るなど、笑止。貴様は所詮、剣聖もどきの三流剣士だ、吸血鬼。」

 エルザから挑発され、エイダンは激高した。

 「舐めんじゃねえぞ、メスガキがぁー!俺は史上最強の剣聖を超えた男だ!テメエ程度のメスガキの剣なんぞ簡単にねじ伏せることができんだよ!メスガキ、テメエは剣聖のこの俺の剣で細切れにしてぶっ殺してやるぜ!俺を剣聖もどきの三流剣士だと馬鹿にしたことをたっぷりと後悔させてやらぁー!」

 「ならば、どちらの剣が本当に強いか、試してみるとしよう。借り物の力で得た剣などでこの我を斬ることはできん。努力と修行の末に掴んだ、本物の剣で貴様を斬る。」

 怒るエイダンを前に、エルザはロングソードを中段に構えながら、さらに全身から黒い魔力を解放する。

 エルザの両腕とロングソードを覆うように、小さな砂嵐がそれぞれ発生し、エルザのロングソードの刀身が圧縮されて激しい渦を巻く、極小の砂嵐を纏った。

 エルザの背後に、巨大な猿の顔のようなマークと、巨大な狐の顔のようなマーク、それと巨大な蜥蜴の顔のようなマークが上下に並んで浮かび上がると、三つのマークが重なり合った。

 「我が全身全霊の剣にて貴様を成敗してくれる!行くぞ!百獣剣舞・猿狐蜥蜴獣人剣!」

 エルザはそう叫ぶと、両手に持つロングソードを縦、横、右斜め下にそれぞれ、勢いよく振り抜いた。

 エルザの振り抜いたロングソードの刀身から、圧縮された極小の砂嵐の魔法の斬撃が三連続でエイダンに向かって放たれた。

 「舐めんじゃねえ!烈火十字斬!」

 エイダンが六本の腕を×字にクロスさせると、エルザの放った砂嵐の魔法の斬撃を迎撃するため、六本の腕に持つ双剣よりそれぞれ、炎の斬撃を三連続で放った。

 エルザの放った砂嵐の魔法の斬撃と、エイダンの放った炎の斬撃がドーン、ドーン、ドーンという大きな音を立てながら激しくぶつかった。

 「ギャハハハ!大したことねえなぁー、メスガキ!次で止めだ、オラァー!」

 エイダンがさらにエルザに向かって炎の斬撃を放とうと双剣を構えた直後、斬撃同士がぶつかった衝撃で、エルザが放った砂嵐の魔法の斬撃が炸裂し、大量の砂塵が舞ってエイダンに降りかかった。

 大量の砂塵が視界を遮り、さらに砂粒がエイダンの両目に入った。

 「がっ!?目に砂がっ!?くそがっ!?」

 両目に砂粒が入り、目に砂が入った痛みで目を瞑り、痛みを堪えているエイダンの一瞬の隙を付いて、すかさず砂塵の舞う中からエルザが剣を構えながらエイダンに向かって突撃し、双剣を持つエイダンの両腕を剣でたちまち斬り落とした。

 「セイっ!」

 「がっ!?くそっ!?」

 両腕を斬り落とされ、さらに怯んだエイダンの背中から生える残り四本の腕を、エルザは剣で一瞬の内に全て斬り落とした。

 エルザに六本の腕全てを斬り落とされ、慌てて後方に飛んで退避したエイダンは、急いで腕を再生しようと試みる。

 「くそがっ!?この程度のダメージなんぞ大したことはねえ!なっ、う、腕が再生しねえ!?がっ、傷口がクソ痛ええー!?こ、この生意気なメスガキがぁー、何かしやがったな!?だったら、これでも食らいやがれー!?」

 エルザの剣が纏う死の呪いに傷口が侵され、死の呪いの効果で再生能力を阻害され、傷口から斬り落とされた腕を再生できず、焦るエイダンが砂が入った痛みを堪えながら、瞑っていた両目を開き、血走った両目で怒り狂いながら、口から鋼鉄をも一瞬で溶かす、サラマンダーと同等以上の強力な火炎を吐き、エルザに向かって浴びせかけた。

 ヴァンパイアロードカスタムサラマンダーであるエイダンの口から吐く火炎放射器の如き勢いで放たれる超高温の火炎が、エルザの全身を焼き尽くそうと、エルザに襲い掛かる。

 だがしかし、エイダンの口から放たれる超高温の火炎をエルザは物ともせず、顔の右側にロングソードを両手で持ち、雄牛の構えを取りながら、剣先をエイダンに向けたまま、火炎の中を突撃した。

 エルザの持つロングソード、「黒獅子」のリフレクトメタルの魔力を無効化する効果で、エイダンの放つ火炎は斬り裂かれ、無力化され、刃に触れた瞬間に炎は消滅していく。

 エルザ自身も、あらゆる攻撃を打ち消す死の呪いの効果を持った黒い魔力のエネルギーを全身と、さらにロングソードにまで纏わせ、火炎を防ぐ準備は万端であった。

 サラマンダーの如く口から火炎を吐き続けるエイダンに向かって剣を構えながら、火炎を斬り裂いて走りながら突撃するエルザは、エイダンの正面へと接近するなり、エイダンの火炎を吐く口の中目掛けて、勢いよくロングソードで突きを繰り出した。

 「ハアっ!」

 エルザの剣による突きが真っ直ぐにエイダンの口の中を貫き、そのままエイダンの頭部を貫いた。

 「あがっ!?」

 エルザの剣の刃が口の中から頭部を刺し貫き、頭部を破壊されたエイダンは、口から火炎を吐くのを止め、口から大量の血を流し、両目を見開いたまま、その場で絶命した。

 エイダンの死体の頭部の口から剣を引き抜いたエルザは、足元の地面へと倒れて転がっているエイダンの死体を見下ろしながら呟いた。

 「「黒獅子」の効果は素晴らしいな。剣先に触れた瞬間、目の前の炎が掻き消されていくのが伝わってきた。敵の放つ炎に全く触れずに炎を一瞬で消し飛ばしてしまうとは、凄まじい性能だ。死の呪いを纏わずとも、タイミングさえ合えば、敵の魔力を使った攻撃を一瞬の内、確実に無効化することができる。本当に素晴らしい剣をジョー殿はくれたものだ。それにしても、この男はやはり剣聖もどきであったな。口先だけの、三流剣士であった。単純に炎の斬撃を力任せに放つだけで、他に大した技量は持っていない。六本の腕を持ち、六本も剣を持ちながら、剣一本だけの我に一太刀も浴びせられんとは、本当に剣聖の血を引く聖騎士だったのか?一合たりとも、この剣聖もどきと剣を直接交じ合わせた記憶が無い。目潰し程度で簡単に精神を乱し、腕を斬られ、大事な剣をすぐに手放す醜態であった。最後は剣ではなく、口から吐く火炎で決着を着けようとしてくるなど、やはりこの男は剣聖とは言えん。剣士を名乗る資格すらない。本物の剣士であれば、両腕を斬り落とされようと、口ででも剣を拾って咥え、剣にて一矢報いるぐらいのことはするはずだ。元「弓聖」たちからもらった借り物の力に最後まで頼るだけの、愚かな一匹の吸血鬼に過ぎんかったな。さて、剣聖もどきどもは一匹残らず、成敗した。我が剣にて地獄まで葬られたことが唯一の救いであり、誉であったと思うがいい。ひとまず、我の任務は完了した。」

 エルザが第二部隊の隊員たちとの戦いを終え、一息ついた頃、先に第四部隊との戦いを終え、エルザと第二部隊との戦いを傍で見守っていた鵺が、エルザの下へと歩いて近づいた。

 「お疲れ様、エルザ。剣聖もどきどもの駆除は完璧だった。害虫以下の元聖騎士のクソ吸血鬼どもは一匹残らず、死んだ。エルザの剣の腕前がさらに上がっているのを感じた。砂の斬撃を使って目潰しを食らわせてからの連撃は見事だった。さらなる成長を期待している。」

 「お疲れ様である、鵺殿。鵺殿が先に聖女もどきどもを倒してくれたおかげである。聖女もどきどもの結界を鵺殿が破壊してくれたおかげで、順調に討伐を進めることができた。鵺殿が聖女もどきの放った熱風を跳ね返して、わざと敵陣に熱風を浴びせたのも、絶妙なアシストとなった。それに、鵺殿の剣術や能力に比べれば、我はまだまだ未熟である。今回は敵の剣士としての腕前が三流以下だったことも功を奏したと言える。相手が一流の剣士であったならば、我一人で勝てたかどうかは分からぬ。」

 「いや、相手が一流の剣士であっても、今のエルザなら絶対に勝った。腕前があっても、精神が邪悪ならば、どんなに優れた剣術や能力を持っていようが、自らの邪念を捨てきれず、隙が生まれる。エルザには一流の剣士としての力と、邪な心や誘惑に惑わされない真っ直ぐで強靭な精神力がある。努力と正義を忘れない強い精神を持つ者こそが最後には勝利する。それが戦いの鉄則であり、本当の一流の剣士であるための条件。エルザは一流の剣士として立派に成長している。これからもトレーニングや戦闘を重ねることで、超一流の剣士になることも夢ではない。私もより一層、エルザのトレーニングに力を入れる。エルザをもっともっと強くしてみせる。」

 「ハハハ!鵺殿に褒めてもらえるのは素直に嬉しいが、これまで以上に厳しいトレーニングが待っているとはな!だが、我は絶対に挫けたりはしない!まずは、Lv.200を超えることだ!超一流の剣士に、最強の「獣剣聖」に我はいずれなってみせる!史上最強最高の勇者と共に肩を並べられる剣士になってみせるぞ!」

 鵺の言葉に若干苦笑もしながら、さらに剣士としての腕前を上げ、強くなることを固く胸に誓うエルザであった。

 場所は変わって、ハウスの敷地内の西側に立つ広い洋館のような建物の中、建物の一階に、玉藻が主人公の瞬間移動能力で転送された。

 「ここが化け物屋敷の腹の中ですか?そして、目の前にいる愚かで野蛮で薄汚い吸血鬼たちが今回の暗殺対象と言うわけですか?フフフ、では早速、始末するとしましょう。」

 突然目の前に現れた玉藻に、一階で警備をしていた第七部隊の隊員たちが慌てふためく中、玉藻は冷たい微笑を浮かべながら、認識阻害幻術を使って、第七部隊の隊員たちの前からフッと消えるように姿を消した。

 「し、侵入者だぁー!?全員、武器を持って構えろー!早く隊長に報告するんだ!」

 「侵入者だぁー!?「黒の勇者」の仲間が入ってきたぞー!」

 「ど、どこだ!?姿が全く見えないぞ!?くそっ、どこに隠れやがった!?」

 「見張りの連中は何やってんだ!?くそっ、第六部隊の奴ら、ちゃんと見張ってたのかよ!?全然頼りにならねえぜ!くそっ!?」

 玉藻が突然、自分たちのいる建物内に現れ、さらに忽然と姿を消したため、第七部隊の隊員たちは皆、焦り混乱している。

 混乱する第七部隊の隊員たちを尻目に、玉藻は認識阻害幻術で完璧に姿を、存在を消したまま、黒い鉄扇を右手に持って構えると、冷たい眼差しを隊員たちに向けながら呟いた。

 「自分たちで碌に侵入者対策もせず、ハンマーを構えて立っているだけとは、実に愚かで野蛮な連中です。私の姿をひと目見ただけで慌てふためき、まともな連携すらとれなくなるとは、何と腰抜けで不甲斐ない連中でしょうか。この程度で一国を護る聖騎士を名乗っていたとは、全く信じがたい話です。愚かで野蛮で腰抜けの薄汚い吸血鬼たちよ、わたくしの毒で苦しみながら地獄へと落ちなさい。」

 玉藻がサッと、顔の前で右手に持つ鉄扇を開くと、鉄扇が一瞬、金色に光り輝いた。

 玉藻の鉄扇の先より青い毒煙がモクモクと発生した。

 青い毒煙は無味無臭であり、さらに玉藻は毒煙に認識阻害幻術を施し、煙の存在自体を第七部隊の隊員たちが視覚にて認識できないよう、細工まで施した。

 玉藻の鉄扇の先から放たれる青い毒煙が、建物の一階から建物全体へと急速な勢いで充満していく。

 侵入者対策のため、建物の各出入口の扉や窓などは閉め切られていたことも影響し、青い毒煙が建物内を充満して、第七部隊の隊員たちが青い毒煙の存在に気付かず、青い毒煙を吸い込んで毒にやられるのは時間の問題であった。

 青い毒煙が建物内に充満したタイミングで、第七部隊の隊員たちが急に大きな悲鳴を上げながら、錯乱し始めた。

 「ヒィー!?く、「黒の勇者」!?こっちに来るなぁー!?」

 「く、「黒の勇者」!?来るなぁー!?来るんじゃねえー!?」

 「死ねえー!?なっ、し、死なねえー!?死ね!死ね!死ね!わぁー、い、生き返ったー!?」

 「オラァー!何でだ!?何度殴っても死なねえ!?く、くそっ、俺に近寄るな、化け物勇者!?」

 「セイヤー!?や、やった!?「黒の勇者」を倒した・・・、ヒィっ!?し、死んでない!?あっちもこっちにも「黒の勇者」が!?な、何だよ、これは!?がはっ!?」

 青い毒煙を吸って毒に侵される第七部隊の隊員たちは、全員幻覚を見て、錯乱し、ハンマーを振り回して暴れ、目の前にいる仲間に向かってハンマーを振り下ろして仲間を撲殺する者までいる。

 さらには、毒が全身に回ったせいか、呼吸困難を起こし、その場で喉をかきむしりながら白目を剥いて絶命し、床に倒れて死んでいくのであった。

 第七部隊の隊員たちが錯乱し、同士討ちや呼吸困難で次々に倒れて死んでいく姿を、姿を消しながら傍で見ている玉藻は呟く。

 「幻覚剤の効果のある神経毒は効果抜群のようです。あなたたちが吸った毒には、恐怖心を増幅させ、己が最も恐怖する存在を幻覚として見せる効果があるのです。さらに、手足の痺れや呼吸困難の症状を引き起こす強力な神経毒としての効果もあります。幻覚に恐怖し、動けば動くほど体内に毒が回り、呼吸困難に陥り、脳が酸欠を起こして死に至るわけです。愚かで野蛮で腰抜けの薄汚い吸血鬼であるあなたたちを殺すのに持ってこいの毒、というわけです。しかし、吸血鬼たち全員が一番恐怖する存在が丈様であるとは、実に面白いモノを見させていただきました。たった一人の同じ人間に皆で恐怖し、怯えて腰を抜かし、苦しみながら地獄に落ちるとは、元聖騎士とは思えない情けなさです。では、槌聖もどきの始末に向かうとしましょう。きっと部下たちの悲鳴を聞いてどこかに隠れて潜んでいるはずです。部下たちを助けに来ようともせず、一人だけ逃げて助かろうなど、情報通りの腰抜けのようです。」

 玉藻は、床に転がる第七部隊の隊員たちの死体を避けながら、建物内をゆっくりと歩き、階段を上り、各階の部屋の様子を探っていく。

 最上階の四階に辿り着くと、四階の各部屋のドアの取っ手の鍵穴から部屋の中を覗いたり、聞き耳を立てたりして、各部屋の様子を探っていった。

 そして、四階の中央にある一番大きな部屋の扉の前に着き、部屋の様子を探っていると、玉藻は部屋の中に潜んでいる者の存在に気が付いた。

 「微かに一人分の息遣いが聞こえます。声の主からして男性です。乱れた呼吸を必死に抑え、声を出さないよう堪えているのが伝わってきます。部屋の奥、窓側にある机の後ろに隠れているのでしょう。私の毒煙に耐えられる能力のある吸血鬼は、槌聖もどき以外にありえません。本性は自分より力のある者、立場が上の者には逆らわず、自分より弱い者には暴力を振るって従わせ、自己満足に浸る、卑劣で野蛮で腰抜けの臆病者、と聞いておりましたから、わざと恐怖心を煽るように部下たちを殺したのです。こちらの目論見通り、恐怖心を煽られ、隠れてそのまま動けなくなったようです。それでは、聖騎士団最弱で最も臆病者の自称隊長の槌聖もどきに止めを刺すといたしましょう。」

 玉藻は右手に持つ鉄扇を一度着物の懐にしまうと、部屋のすぐ傍の廊下で死んでいる第七部隊の隊員の一人の死体を左手に掴んだ。

 それから、右手でダグラスの隠れている四階の大部屋のドアの取っ手を回して、ゆっくりとドアを開けた。

 ギーという音を立てながらゆっくりとドアを開けると、左手に掴んでいる隊員の死体を、ドアの正面に見える、ダグラスが隠れている奥の机に向かって勢いよく放り投げた。

 隊員の死体が机にぶつかって、机の後ろ側に落ちた瞬間、「ヒィー!?」という男性の大きな悲鳴と、ガタガタっと、大きなモノが机にぶつかった衝撃音が、玉藻の耳に聞こえてきた。

 着物の懐から黒い鉄扇をふたたび取り出し、右手に持つと、鉄扇を顔の前でサッと開き、玉藻は、部屋のドアのすぐ左横、廊下側の左横の壁に身を潜め、冷たい笑みを浮かべながら、声だけ認識阻害幻術を一度解除し、部屋の机の後ろに隠れているダグラスに向かって言った。

 「フフフ!隠れるのだけはお上手ですね、愚かで野蛮で腰抜けの槌聖もどきさん?部下は見捨てて、自分はお部屋の机の後ろに隠れて逃げようだなんて、何と卑劣で腰抜けの隊長がいたものでしょうか?あなたに付き従っていた部下たちは無駄死にも良いところです。丈様の仰っていた通り、見掛け倒しの腰抜けの脳筋馬鹿、玉無しチキン野郎ですね。あなたが隠れていることなど最初からお見通しです。何時までも隠れているようなら、このまま始末させていただきます。分かりましたか、玉無しチキン野郎さん?プっ、フフフ!」

 玉藻が笑いながら、ダグラスを挑発した。

 玉藻に馬鹿にされ、頭に血が上って激怒したダグラスが、隠れていた机の陰から出て、聖槌のレプリカを右手に持ったまま、姿を現した。

 「お、俺は玉無しチキン野郎なんかじゃねえー!玉だってちゃんと付いているんだな!俺は、俺は腰抜けでも脳筋馬鹿でもねえ!か、隠れていたのは作戦だったんだな!お、お前こそ、玉無しチキン野郎なんだな!隠れてないで出てこい!」

 「やっと出てきましたね、玉無しチキン野郎さん。後、私、女ですから元から玉なんてありませんから。度胸でしたらございますが。今度はあなたが私を見つける番です。あなたのその小さくて脳筋馬鹿なお頭でこの私を見つけることができるとは思いませんが。私はすぐ傍におりますよ。フフフ!」

 「お、俺を馬鹿にするなぁー!オラァー!」

 玉藻にさらに挑発され、怒り狂うダグラスは、全身を紫色に発光させると、右手に持つハンマーに魔力を集中させ、ハンマーの先端部分に雷のエネルギーを発生させ、雷を纏わせると、ハンマーを床に向かって勢いよく振り下ろし、雷を纏ったハンマーで部屋の床を思いっきり叩いた。

 部屋の床に穴が開くと同時に、部屋の床全体に強烈な雷による電気ショックが一瞬で走り、床を黒焦げにしてしまった。

 「ガハハハ!どうだ、俺のハンマーの威力は!?俺のハンマーの雷に当たったら、全身黒焦げになるんだな!この俺を馬鹿にした罰なんだな!何とか言ってみろ、玉無しチキン野郎?ガハハハ、黒焦げどころか灰になって死んじゃったんだな!ガハハハ!」

 ダグラスが高笑いしながら、玉藻を殺したと思い、一人ハンマー片手に部屋の中で立ちながら勝利宣言する。

 しかし、玉藻は部屋の中にいたわけではなく、部屋のドアの外、廊下側にあるドアのすぐ左横の壁に身を潜めていたため、ダグラスの放った雷で感電することは全くなく、無傷であった。

 呆れた表情を浮かべながら、ふたたび認識阻害幻術で声を消した玉藻は、ドアの脇より高笑いするダグラスを見て言った。

 「雷の威力はそこそこありそうですが、あの程度なら大したことはありませんね。生身でも軽く防げます。鵺の雷の方がはるかに上です。あの程度の雷の不意打ちでこの私を殺せると思っているとは、やはり、相当頭が悪いようです。私が部屋の中に本当にいるかどうかも分からないまま、攻撃を放つとは何と愚かで浅はかで野蛮な男でしょうか。丈様に勝手な言いがかりをつけ、暴力を振るい、丈様に思わぬ反撃を受けて怯んで逃げ出し、最後は瘴気に当てられて大怪我を負った、あの愚かで野蛮な槌聖にそっくりです。顔も性格も瓜二つです。本当の強さとは、誰かを守りたいという優しさや勇気、愛から生まれる力なのです。私利私欲や身勝手な怒り、憎しみ、悪意から暴力を振るい、暴力が通じなければ平気で他人を見捨てて、何もかも捨てて逃げ出す、それは強さではありません。己の弱さを隠すための身勝手で卑劣で邪悪なおぞましい暴力という名の仮面に過ぎません。本当の強さとは何か、私の毒をたっぷりと食らわせて教えて差し上げましょう、腰抜けの槌聖もどき。」

 玉藻はサッと鉄扇を開くと、部屋のドアの正面に立った。

 それから、玉藻の右手に持つ鉄扇が金色に一瞬光り輝くと同時に、鉄扇の先より、血のように濁った、赤黒い色の毒煙が大量に発生し、ダグラスのいる部屋全体に一気に広がっていく。

 突然、部屋の中に赤黒い色の毒煙が発生し、部屋の中に充満していくのを見て、ダグラスは困惑した。

 「なっ!?お、俺の雷を浴びても生きているだと!?わ、悪足掻きをしても無駄なんだな!?今度こそぶっ潰してペチャンコにしてやるんだな!」

 ダグラスがふたたび雷を纏ったハンマーで部屋中に雷を放って攻撃しようとしたその瞬間、ダグラスの体を異変が襲った。

 「がっ!?い、痛ええー!?なっ!?お、俺の手が溶ける!?か、体が溶けるんだな!?くそっ、この程度すぐに再生させてやるんだな!」

 ヴァンパイアロードカスタムゴーレムであるダグラスの、硬い金属や鉱石で構成される全身の皮膚が、ゴーレム以上の頑強な肉体が、赤黒い煙に触れた瞬間、ドンドン溶かされていくのであった。

 他のヴァンパイアロードたちよりも強力な再生能力を持つダグラスであったが、赤黒い煙はダグラスの再生能力のスピードをはるかに上回るスピードで、ダグラスの肉体をドロドロに溶かしていく。

 「がぁー!?う、腕が!?足も溶けた!?目が、目が見えねえー!?くそっ、上手く再生できないんだな!?お、俺は不死身なんだな!?こ、こんなことで死んだりしないんだな!?」

 ダグラスが必死に再生能力を発動させるが、赤黒い煙はダグラスが再生させる傷口や体の部位をも急速に溶かしてしまうため、ダグラスは体の再生ができず、毒の激痛で思考も混乱し、焦るばかりであった。

 再生ができず、全身を溶かされ続け、部屋の真ん中で毒に全身を侵され、もがき苦しむダグラスの姿に、冷たい眼差しを向け、鉄扇より赤黒い毒煙を放ちながら、玉藻は言った。

 「私の毒煙を全身に浴びている限り、肉体を再生させることは不可能です。生物どころか、あらゆる物体をも溶かす超強力な強酸の効果があるのです。いくら頑丈な鎧を身に纏っていようが、不死身に近い再生能力を持っていようが、私の毒煙は全てのモノを溶かし、消し去るのです。ご自分の武器と鎧がすでに溶けていることにも、部屋の中のモノまで溶けていることにも気が付いていないとは、何という脳筋ぶりでしょうか?いえ、観察力のない、ただの間抜けですね。煙から逃げるという発想すら思い浮かばないとは、何と愚かな男でしょうか。相当な腰抜けっぷりですが、それと同等の間抜けっぷりです、まったく。」

 玉藻がダグラスを酷評する中、ダグラスが最後の悪足掻きを見せる。

 「ぐぞぉー!?おでは、おでは絶対にじなねぇー!うぉー!」

 ダグラスが再生能力の全てを右腕に集中させ、右腕を再生させると、右腕を脆くなっている自分の胸の中央に勢いよく突っ込んだ。

 そして、胸の中央からラグビーボールくらいの大きさの、パープルクリアーの水晶玉のような、自身の核である大きな魔石を右手に掴んで、胸の中から引き抜いた。

 それから、部屋の窓に向かって渾身の力を込めて右手に持つ、核である魔石を投げつけ、窓の外へと魔石を放り投げた。

 ダグラスが自身の胸から核である魔石を引き抜いて、窓の外へと投げ捨ててすぐに、ダグラスの全身は赤黒い毒煙を浴びて、強酸の効果で全身を溶かされ、ダグラスの肉体はその場で消滅した。

 だが、ダグラスが核である魔石を窓の外へと放り投げた瞬間を、玉藻は見逃してはいなかった。

 「本当に往生際の悪い、愚かで卑劣で腰抜けの吸血鬼です。この私から逃げおおせるはずありませんのに。」

 玉藻は冷たい表情を浮かべながら呟くと、部屋の中へと入り、それから部屋の窓を開けて、四階よりサッと飛び降りた。

 一方、主人公の戦うデス・タワーの外の、すぐ横の庭のような場所に生えている茂みの中に、ダグラスの核である魔石があった。

 ダグラスの魔石が紫色に光り輝くと、魔石から少しずつ肉が盛り上がり、人間の筋肉や骨、腕、頭部、臓器などが生え始め出した。

 心臓より上の部分、上半身の再生が始まり、心臓や肺などがいまだ丸見えで、皮膚も所々欠けていて、筋肉や血管が丸出しで再生途中ではあったが、ダグラスはふたたび再生を始めたのであった。

 「はぁー。はぁー。や、ヤバかったんだな!だけど、何とかまいたんだな!俺の再生能力までは知らないはずなんだな!ここに隠れて、しばらくやり過ごすんだな!」

 ダグラスが体を再生させながら、茂みの中に隠れて潜んでいると、突然、20㎝ほどの金色の極太の長い針がどこかから高速で放たれ、再生途中で剥き出しとなっているダグラスの胸の中央の核である魔石に勢いよく突き刺さった。

 「ごがっ!?」

 金色の長い毒針には強酸が含まれていて、ダグラスの核である魔石を突き破ったと同時に、毒針の強酸がダグラスの魔石を急速に溶かし、破壊していく。

 ダグラスが胸を抑えて苦しんでいると、ダグラスの隠れている茂みのすぐ傍、ダグラスの正面の位置に、認識阻害幻術を解除した玉藻がスゥーっと、姿を現した。

 「またお会いしましたね、愚かで野蛮で腰抜けで間抜けな吸血鬼さん。いえ、玉無しチキン野郎さんでしたね。プロの暗殺者であるこの私から逃げ切ることは不可能です。あなたの核である魔石は私の毒で破壊しました。もう二度と、再生はできません。潔く自身の敗北を認めることもせず、己の犯した罪の償いもせず、自分だけは生き延びようと悪足掻きをした罰です。先ほどよりも強力な毒をあなたに撃ち込みました。全身を溶かされる激痛を味わいながら、たっぷりと苦しんで地獄へと落ちなさい、卑劣で腰抜けの槌聖もどき。」

 玉藻がゾッとするような冷たい微笑を浮かべながら、ダグラスに処刑宣告をした。

 「が、がらだがどげるぅー!?じ、じにだぐないー!?だ、だずげでぐれぇー!?」

 玉藻の毒針の強酸で、核である魔石ごと肉体を溶かされ、再生能力を使えず、再生し始めていた肉体をドロドロに溶かされ、ダグラスは完全に消滅した。

 茂みの中に隠れていたダグラスが魔石ごと肉体を溶かされ、何の形跡も残さず完全に消滅して死亡したことを確認した玉藻は、ダグラスの肉体があった茂みを見ながら呟いた。

 「槌聖もどきたちの暗殺任務は無事、完了です。碌に戦いもせず、部下や仲間を見捨てて、一人だけ逃げ延びようとは、何と醜く卑劣で腰抜けな男でしょうか。聖騎士団の隊長でありながら、まともに前線で指揮も執らず、部下にまる投げして、自分はコソコソと逃げ隠れするなど、戦士とは呼べません。ただの卑劣漢です。臆病であることが、恐怖を抱くことが悪いことではありません。ですが、例え恐怖があっても、見返りがなくとも、人として大切なモノを守るために精一杯、戦い、人を助け、大切なモノを守る、そんな優しさがある小心者こそが、本当に強い戦士なのです。この槌聖もどきに関して言えば、都合が悪くなると暴力に頼るか、尻尾を巻いて逃げ出すしか能のない、見掛け倒しの愚かで自分本位で野蛮な最低の腰抜け野郎の、本物の槌聖と同じくらいの酷さです。このような卑劣漢が一国を守る聖騎士の精鋭部隊の隊長であったとは、本当に信じがたい話です。優しさの欠片もない邪悪な女神を崇拝している国だから、こんな男が隊長に選ばれたのでしょう。ゾイサイト聖教国、リリア聖教会は悪質極まりない宗教団体だということがよく分かります。元「弓聖」たち一行の討伐が完了し次第、丈様の許可さえいただければ、聖教皇も大枢機卿も、リリア聖教会の関係者は全員、暗殺するとしましょう。さて、任務も終わりましたし、他に吸血鬼の生き残りが逃げ隠れていないか、念のため、見回るといたしましょう。邪悪な吸血鬼は一匹残らず、始末せねば。」

 玉藻はダグラス率いる第七部隊との戦いを終えると、ふたたび認識阻害幻術を使って姿を消し、他に逃げ隠れして生き残っているヴァンパイアロードがいないか確認するため、ブラッディ・モンスター・ハウスの中を歩いて、偵察を行うのであった。

 場所は変わって、ハウスの正面ゲートをくぐって長い廊下を進んだ先にある、正面入り口側に縦に並ぶ三つの塔の内の、中央に位置する塔に、スロウが主人公の瞬間移動能力で転送された。

 「あ~あ、マジで入っちゃったよ、この超悪趣味なハウスに。まぁ、ジョーちんたちもいるから大丈夫だけど。っで、ウチの相手はお前らってわけね。サクッと殺して休憩するっしょ。」

 突然目の前に現れたスロウに、塔の上でブルックリンと共に見張りや迎撃を担当していた第六部隊の隊員たちは、思わず困惑し、動揺を隠せないでいる。

 「うろたえるな!敵はたった一人だ!不意を突かれた程度で動揺するんじゃない!落ち着いて、この女を始末しろ!」

 第六部隊の隊長ブルックリンが、周りにいる十人ほどの第六部隊の隊員たちへ指示を出した。

 第六部隊の隊員たちはすぐに落ち着きを取り戻し、弓を構えると、風の矢を生み出して弓に番え、スロウに向けて一斉に矢を放とうと攻撃態勢に入った。

 スロウと第六部隊の隊員たちとの距離は5m離れているかいないかという、超至近距離にも関わらず、弓矢を向けられてもスロウの表情は平然としている。

 「この距離なら絶対に外さねえとか、お前らそんな風に考えてんっしょ。マジ、馬鹿じゃね?碌に見張りも出来ねえ激鈍のお前らの矢なんて当たるわけないっしょ。さっさと撃ってくんない?マジでダリぃから。」

 スロウに挑発され、怒った第六部隊の隊員たちは一斉にスロウ目がけて、風の矢を発射した。

 第六部隊の隊員たちが風の矢を発射したその瞬間、スロウの全身がターコイズグリーン色に光り輝いた。

 スロウが「時間逆行」の能力を使い、スロウの半径50m以内の空間の時間の流れを停止させた。

 ブルックリン外第六部隊の隊員たちが塔の上で彫像のように固まっている中、時間を停止させている間に、スロウは両手に黒い鎖鎌を出現させた。

 右手に黒い球状の分銅が鎖の先端部分に付いた鎖分銅を持ち、左手には黒い鎌を持っている。

 スロウは、左手に持っている鎖分銅をブンブンと勢いよく振り回すと、鎖分銅を振り回しながら、止まっている第六部隊の隊員たちの頭部目がけて鎖分銅を叩きつけた。

 ブルックリン以外の第六部隊の隊員たちの頭部に鎖分銅が勢いよく叩きつけられ、隊員たちの頭部を粉々に粉砕するほどの力で叩き割っていく。

 ブルックリンたちのいる塔の異変に気が付き、前後にある二つの塔から他の第六部隊の隊員たちによる弓矢での援護射撃が行われ、高速で風の矢が大量に飛んで来るが、スロウが時間を停止させている空間に入った瞬間、矢は強制的に時間を止められ、空中で制止してしまうのであった。

 「お前ら雑魚の矢なんてウチには届かないっての。ウチの許可なしに時が止まった空間の中には入れねえんだよ。鳥女、お前が代わりに攻撃を食らうっしょ。」

 スロウは笑みを浮かべながら、背中に黒い堕天使の翼を生やすと、塔の上から素早く飛び上がると同時に、止めていた時間を解除した。

 スロウが時間停止を解除した直後、大量の風の矢が雨のようになって一気にブルックリンたちの下へと降り注いだ。

 ブルックリンの体に、風の矢が何本も背中から突き刺さり、ダメージを与える。

 「がはっ!?な、何故、私の背中に攻撃が!?何っ、みんな死んでいるだと!?い、一体、何が起きている!?」

 スロウの代わりに風の矢の攻撃を背中に受け、さらに周りにいた部下たちが全員、頭部を砕かれた死体となって死んでいるのを見て、ブルックリンは混乱を隠せない。

 混乱するブルックリンの頭上10mほどの空中に、翼を生やして空を飛んで浮かびながら爆笑するスロウの姿があった。

 「キャハハハ!ざまぁみろ、鳥女!お前も、お前の部下も超鈍すぎ!つか、間抜けっしょ!マジで鳥頭だっしょ!マジウケるんですけど~!キャハハハ!」

 上空で自分を馬鹿にするスロウの姿を見つけ、ブルックリンは激怒した。

 「貴様、この私を馬鹿にしてタダで済むと思うな!第六部隊全員に命令する!この女は私一人で相手をする!お前たちは手を出すな!「白光聖騎士団」総団長であるこの私を舐めたことを後悔させてやる!行くぞ、下品な女!」

 ブルックリンは背中に生えた、巨大な茶色い鷲のような二枚一対の翼を広げると、翼を動かし、一気に飛び上がり、超スピードでスロウの下へ急接近する。

 ヴァンパイアロードカスタムグリフォンの超スピードで飛行する能力を使い、空を飛びながら、手元に聖弓のレプリカを持ち、風の弓を一瞬で作りながら、ブルックリンはたちまちスロウの正面に移動した。

 ブルックリンがスロウの正面に移動し、風の矢を放とうとした瞬間、スロウがふたたび時間を停止させた。

 「ウチの能力をよく知らないまま挑んできても、無駄だっての。時間を止められているっていう認識がなけりゃあ、いくらLv.150のヴァンパイアロードでもすぐには動けねえんだよ、間抜け。ウチを下品な女とか呼んできてマジ、ムカつくっしょ、コイツ。ちょっと悪戯してやるっしょ。」

 スロウは悪戯っ子のような笑みを浮かべながらそう言うと、止まっているブルックリンの左手からロングボウを奪い取り、それから奪ったロングボウをポイっと放り投げると、空中で弓矢を構えた体勢で固まっているブルックリンの背後へと移動した。

 「25秒経過。それじゃあ、時間停止解除っと。」

 スロウが時間停止の能力を解除した。

 止まっていた時間がふたたび動き出し、ブルックリンが風の矢を放とうとしたが、風の矢が突然、手元から不意に消えてしまった。

 「なっ、不発だと!?な、何故だ!?わ、私の弓がない!?あの下品な女もいない!?ど、どこだ!?」

 「後ろだよ、バ~カ!キャハハハ!」

 「なっ!?い、いつの間に私の背後へ!?私の超視力もスピードもお前を確実に捉えていたはずだ!?な、何だ、何をされているんだ!?」

 ますます混乱するブルックリンに、スロウは馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言った。

 「鳥女、お前、自分の立場マジで分かってる?お前、今、何の武器も持ってないじゃん。自分が無防備だっての分かってる?ウチがこの鎌をお前の頭にブッ刺してすぐに殺すことも余裕でできるんだよ。お前、聖騎士どもの中で一番頭良いらしいけど、実際間抜けじゃね?お前の弓なら地面に落ちてるっしょ。拾う時間くらいは与えてやんよ。でも、次がラストっしょ。ぶっちゃけ、お前の相手するのマジ疲れたし。次でマジぶっ殺すから。ほら、さっさと拾えっしょ、間抜けの鳥女。」

 スロウからさらに挑発され、ブルックリンは激高した。

 「私を間抜けと馬鹿にするな!貴様の「黒の勇者」と同じその生意気で人を見下した態度は本当に腹が立つ!少し特殊な能力を持っているからと調子に乗るな!麻痺系の状態異常を起こす攻撃能力であることくらい、分かっている!不意打ち程度で威張るな、この下品極まりない女が!貴様如き・・・っ!?」

 スロウに対して激しい怒りを露わにしていたブルックリンであったが、急にハッと何かに気付き、その表情は驚きと恐怖へとたちまち変わった。

 「く、黒い翼だと!?き、貴様は、いえ、あなたはも、もしや、だ、堕天使なのでは!?」

 「うん?そだけど。ウチが堕天使なのがどうしたんよ?」

 「な、何故、堕天使であるあなたが我々と敵対するのです!?あなたは我々の味方ではないのですか?何故、「黒の勇者」の仲間になっているのです!?「黒の勇者」はあなたを封印するために女神様が派遣した、あなたの天敵ではないですか?何故、何故、堕天使であるあなたがあの勇者に協力するのです!?我々を裏切ると言うのですか!?」

 「はぁ~!?勝手に決めつけんなし。ウチは別にお前らの味方じゃねえから。プララルドたちが元「弓聖」のクズどもと勝手につるんで暴れてるだけだし。ウチはアイツらみたいに狂ってもいねえし、馬鹿でもねえから。つ~か、お前ら聖騎士とか言う人間のクズはマジで一番嫌いなんよ。ウチの親友もお前らのことはマジで嫌いだから。後、ジョーちんはウチのカ・レ・シ、だから。ウチの彼氏までディすりやがって、マジでお前ムカつくわ~。さっさと弓を拾えや、鳥女。そのエリートぶって人を舐め切った間抜けな頭をぶっ潰してやるっしょ。」

 スロウがブルックリンの言葉に激しい嫌悪感と怒りを露わにし、ブルックリンに鋭い眼差しを向けて睨みつけた。

 スロウが堕天使であり、スロウが自分たちの敵になったと知り、ブルックリンは困惑しながらも、スロウとふたたび戦わざるを得なかった。

 「くっ!?まさか堕天使が敵に回るとは!?それもよりにもよって「黒の勇者」の仲間になっているなんて!?こんなにも計画外の事態が起こるなんて!?タカオ様たちに救援を求めるわけにもいかない!?ならば、私の全てを懸けてあなたを倒す!」

 ブルックリンはスロウに背を向けると、超高速で地上に向かって飛んで行くと、地面に落ちている自分の弓を素早く拾い、それから一気に急上昇して、ブラッディ・モンスター・ハウスを覆う結界のギリギリに触れる高度、デス・タワーの真上に当たる上空100mの空中で、ホバリング飛行をしながら制止した。

 それから、正面ゲート側の中央の塔の上空付近に浮かんでいるスロウに目がけて弓を構えると、全身から魔力を最大限解放し、全身を藍色に光り輝せながら、極小の竜巻状に圧縮した風の矢を生み出し、風の矢を弓に番えた。

 「これが今の私の力、史上最強の弓聖をも超える風の矢よ!悪しき勇者に加担する愚かな堕天使よ、私の矢でふたたび地獄に落ちるがいい!食らいなさい!暴風必中!」

 ブルックリンが大声を上げながら最後の攻撃を宣言し、スロウに向かって鋭い風の矢を放った。

 風の矢は、音速をはるかに超える超高速で放たれると、一本の矢が途中で分裂し、数百本の風の矢へと変わり、四方八方から取り囲んで狙い撃ちし、スロウの体を射抜こうと襲い掛かる。

 ブルックリンの放った数百本の風の矢が、スロウの全身を射抜こうとスロウに迫ってきた瞬間、スロウの全身がターコイズグリーン色に光り輝いた。

 「時間逆行!」

 スロウが能力を発動した瞬間、スロウの半径500m以内の時間が一瞬制止した後、ゆっくりと巻き戻っていく。

 ブルックリンがスロウに向かって放った数百本の風の矢が、ブルックリンの方向に向かって、逆方向に巻き戻り始める。

 スロウは時間が巻き戻っていく空間の中を、黒い翼を動かして高速で飛行し、上空にいるブルックリンへと接近していく。

 数百本に分裂していた風の矢が、元の一本の風の矢へと戻り、風の矢がゆっくりとブルックリンの手元へと戻っていく中、スロウはブルックリンの正面に立つと、左手に持つ黒い鎌を頭上に掲げながら言った。

 「時間を20秒巻き戻した。でも、鳥女、お前は一体、自分に何が起こったのか、何にも分かんねえまま死ぬことになる。マジでこれが最後っしょ。んじゃっ、バイバ~イ。」

 スロウはそう言うと、左手に持って掲げていた黒い鎌の刃を、真っ直ぐにブルックリンの頭目がけて振り下ろした。

 スロウの振り下ろした鎌の刃がブルックリンの頭部を刺し貫いた。

 ブルックリンの頭部からスロウが鎌の刃を引き抜いた瞬間、ブルックリンの手元に風の矢が弓から放たれる直前の瞬間にまで時間が巻き戻り、ふたたび時間が動き始めた。

 「暴風必中!がっ!?」

 ブルックリンは自分が数百本の風の矢を放ってスロウを攻撃したという認識であったが、何故か、風の矢はいまだ自分の手元で発射される直前の状態にあり、さらにいつの間にか、スロウが自分の目の前に現れ、スロウの左手には刃に血の付いた鎌が握られており、自分の頭部からは大量の血が噴き出し、激しい激痛が彼女を襲った。

 「こ、こんな、馬鹿な・・・」

 ブルックリンは頭から大量の血を噴き出し、両目を見開き、驚きと恐怖と絶望に染まった表情を浮かべながら、地上へと落下していく。

 頭部をすでにスロウの攻撃で破壊され、再生もできず、ブルックリンは落下の最中に絶命し、地上へと墜落した。

 地上に激突し、全身が潰れ、背中に生えたグリフォンの両翼は折れ、手足も完全にあらぬ方向へと折れて捻じ曲がり、頭部を中心に全身から大量の血を流すブルックリンの無惨な死体が、地面に転がっていた。

 「白光聖騎士団」の現総団長であり、隊長であるブルックリンが、自分たちの目の前で、気付かぬうちに、完膚なきまでにスロウに打ちのめされて無惨に殺された光景を見て、ブルックリンの傘下である、他の五つの監視塔にいた生き残りの第六部隊の隊員たちは、たちまち混乱と恐怖に襲われた。

 第六部隊の隊員たちが混乱する様子を上空から窺いながら、地上に落ちているブルックリンの死体を見て、スロウは呟いた。

 「弓聖もどきの鳥女の始末完了っと。ジョーちんの言う通り、自分の能力と頭の良さを過大評価する自称エリートの間抜けだったわ。ウチに背後を取られている時点でご自慢のスピードも目も効かないことにすぐに気が付かねえとか、マジで間抜けだっしょ。弓聖の能力だって昔から知ってるつ~の。自動追尾の矢を何本放っても、ウチの能力には無意味なんだっての。ウチらが勇者のレベル上げを手伝ったこととか、ウチの能力のことだとか、マジで知らねえ感じだったし。そんな状態で堕天使のウチとまともにやり合えるとか、勘違いつ~か、調子に乗ってる感がマジでパないわ。ウチのことを勝手に格下扱いして見下してくるわ、ウチを下品な女とか呼んでディスってくるわ、調子こいて勝ち目ゼロの癖にウチに無謀に挑んでバカすか矢を撃ってくるわ、本当にムカつく奴だったしょ。急にあのムカつくパワハラ勇者どもを思い出してきたわ。そう言えば、アイツらとムカつくくらいにクソさ加減が似てるわ~。やっぱ、あのクソ女神の選んだクソ勇者の子孫に碌な奴はいねえわ。まぁ、地獄に落ちた鳥女のことなんてどうでもいいっしょ。それよりも、残りの弓聖もどきどもを始末するっしょ。逃げられて追いかけるのはマジメンどいし。」

 スロウはそう言うと、残りの第六部隊の隊員たちがいる五つの塔に向かって空を飛んで移動した。

 生き残りの第六部隊の隊員たちがスロウに向かって、必死に風の矢を放つが、スロウは「時間逆行」の能力を発動し、矢が接近する直前に時間を止め、短時間の内に鎖鎌を使って隊員たちの頭部を破壊し、次々に殺していく。

 わずか10分ほどの時間で、残りの第六部隊の隊員たちがいる五つの塔全てを周り、時間を停止させる能力で敵の攻撃や行動を封じ込め、得物の鎖鎌で敵の頭部を破壊し、全滅させたのであった。

 「ふぅ~。これで弓聖もどきどもの始末完了。お疲れ様でしたっと。残りの連中は全然大したことなかったわ。元聖騎士のクソ吸血鬼の癖に、上品ぶった態度とか、いまだに聖騎士ぶった態度とかがマジでウザかったけど。久々にマジで戦ったからホント疲れたわ~。仕事は終わったし、ウチはどっかその辺で休憩でもしよ~っと。せっかくだし、ジョーちんが戦っている姿が観れる場所で休もうかな。ゾーイもジョーちんの戦ってるとこ観たいの?OK!んじゃあ、ウチが一番良さげな観戦スポット見つけてあげるね~。絶対にパない戦いしてるに決まってるし。見逃したら損損~。プララルドの奴がぶっ飛ばされるところとか、超観たいし。ヤバっ、戦いが終わる前に早く良い場所見つけないとじゃん。急ごっと。」

 スロウは、ブルックリン率いる第六部隊との戦いを終えると、休憩を取るのと、主人公が元「弓聖」たち一行とデス・タワーにて戦う姿を観戦するため、融合するゾーイの要望にも応える観戦と休憩にピッタリなスポットを見つけるため、ハウス内を飛んで移動するのであった。

 こうして、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈がデス・タワー内にて元「弓聖」たち一行と戦う中、主人公率いる冒険者パーティー「アウトサイダーズ」の仲間たちによって、「白光聖騎士団」の元聖騎士のヴァンパイアロードたちは討伐され、七つの部隊は全滅した。

 主人公による処刑ショーと言う名の復讐のフィナーレは、順調に、主人公の思い描くシナリオ通りに進行していく。

 手下である「白光聖騎士団」の元聖騎士たちはほぼ壊滅し、「弓聖」鷹尾を除く六人の勇者たちも主人公によって復讐され、全員殺された。プララルドを除く、鷹尾たち一行に協力していた堕天使たち五人も全員、主人公によってふたたび封印された。

 だが、主人公の処刑ショーはまだ、フィナーレを終えたわけではない。

 最後の復讐のターゲットであり、処刑ショーのフィナーレを飾る大トリでもある、「弓聖」鷹尾 涼風が残っている。

 鷹尾と融合する「傲慢の堕天使」プララルドも残っている。

 異世界の悪党どもへ復讐する優しい復讐鬼として、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈による、「弓聖」鷹尾と「傲慢の堕天使」プララルドに、計算外の苦痛と恐怖と絶望を与えて地獄へと叩き落す、壮絶な復讐がこれから始まろうとしていた。

 そして、主人公による正義と復讐の処刑ショーのフィナーレの幕を下ろす時も、刻々と近づきつつあった。

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