第二話 主人公、能無しとして処刑される
僕たちは姫の案内に従い、王城の広間にてステータスの鑑定を受けることになった。
ステータスの鑑定を受けるため、僕やクラスメイトたちは前方に見える鑑定士と、水晶玉の置いてある台に向かって一列に並んだ。
僕は列の一番最後尾に並んで待っていた。
大して期待はしていないが、悪い鑑定結果が出ないことを祈るばかりだ。
最初に鑑定を受けたのは、勇者として戦うことを提案した張本人である、島津 勇輝であった。
「それでは、これより勇者様たちのステータス鑑定を行わせていただきます。水晶玉に手をかざしていただくだけで、ステータスが鑑定できます。では、先頭の御方からどうぞ。」
鑑定士が説明を終え、島津が水晶玉に手をかざした。
水晶玉が光り輝き、文字のようなものが水晶玉に浮かんでいるのが、後ろから見えた。
鑑定が終わるや否や、鑑定士は驚き、声を上げた。
「おおっ、何という僥倖でしょうか!?最初に鑑定した御方が、勇者のジョブを持っているとは。女神リリア様の我々人間への愛を感じます。」
「何だと!?鑑定士よ、私にも鑑定結果を見せよ!」
国王が鑑定士の言葉に反応し、水晶玉を一緒に覗き込んだ。
「鑑定結果を申し上げます。皆様、お聞きください。」
鑑定士が、島津のステータスの鑑定結果を読み上げた。
ネーム:
ジョブ:勇者Lv.1
スキル:破邪一閃Lv.1
鑑定結果を聞き、島津が鑑定士に訊ねた。
「ええと、すみません。僕のジョブが勇者ということですが、僕たち全員が勇者として召喚されたわけですから、みんな勇者じゃないんですか?」
島津の質問に、鑑定士は興奮気味に答えた。
「過去に何度か勇者の召喚が行われましたが、勇者たちの中で「勇者」のジョブを持つ方は毎回お一人だけです。実は、勇者のジョブにもランクがございまして、「勇者」を始めとする七つの特別なジョブがございます。私たちは「七色の勇者」とも呼ぶそれらのジョブは、勇者たちの中でも抜きん出た力を持っております。シマヅ様が得られた「勇者」のジョブは、勇者たちの中で最も優れたジョブになります。別名、「光の勇者」とも呼ばれ、勇者筆頭のジョブになります。剣士系のジョブでも最高位クラスで、対魔族に特化したスキルを持っています。魔王を倒す切り札的存在とも言えます。誠におめでとうございます!」
鑑定士の説明を聞き、島津は嬉しそうな様子だ。
「僕が勇者、勇者筆頭で魔王を倒す切り札ですか!?まだ実感がわきませんが、誠心誠意務めさせていただきます!」
国王も鑑定士や島津の言葉に満足そうな表情を見せた。
「シマヅ殿と言いましたか?実に素晴らしい!あなたは一目見た時から何か輝くものを感じていました。魔族討伐のために、我々のために戦ってくださると開口一番に言ってくださった時は驚き、感激しましたが、まさか「勇者」のジョブを女神様より与えられるとは驚きの連続です。あなたこそ正に「勇者」として選ばれた御方と言っても過言ではないでしょう。どうか、勇者筆頭となり、我々人間をお救いください。」
「はい、頑張ります!」
「シマヅ様、私も心から応援しております。必要なことがございましたら、このマリアンヌにいつでもお申し付けください。全力でサポートいたします!」
姫も興奮した様子で、島津に向かって激励の言葉を送った。
姫は熱っぽい視線を島津に向けている。
お姫様が颯爽と現れた勇者に恋をする、テンプレとも言える展開に思わず僕は反吐が出そうだった。
クラスの女子たちから舌打ちが聞こえてきた。
学校一のイケメンである島津を慕っている学校の女子生徒は少なくない。
僕が所属するクラス、2年6組の女子たちも例外ではない。
マリアンヌ姫は長く美しい金髪を縦ロールにした髪型に、透き通るような白い肌、エメラルドのような緑色の瞳、そして、モデル体型の超美少女だ。
何より、異世界とは言え、一国の姫でもある。
結婚したら、男は逆玉の輿というわけだ。
姫と島津の二人が近い将来、結婚する可能性も十分にある。
島津が鑑定を終え、次に鑑定を受けたのは、前田であった。
「ちぇっ、勇輝が真の勇者様ってわけか。まぁ、勇輝なら納得だわ。とにかく、俺も良いジョブが出ますようにっと。」
前田が水晶玉に手をかざした。
水晶玉が光り、鑑定結果が表示された。
鑑定士がまたまた驚きの声を上げた。
「おおっ、何ということでしょう!?「勇者」のジョブに続き、「剣聖」のジョブが出ました。二人目の「七色の勇者」です!」
「何、「剣聖」だと!?それは実にめでたい!」
国王が水晶玉を除き、笑顔を浮かべる。
「鑑定結果を申し上げます。」
鑑定士が鑑定結果を読み上げる。
ネーム:
ジョブ:剣聖Lv.1
スキル:豪火十字斬Lv.1
「おい、「剣聖」ってのはどういうジョブだ!?詳しく教えろよ。」
鑑定結果を聞き、前田が鑑定士に訊ねた。
「はい、「剣聖」とは勇者のジョブの中でも最高位クラスのジョブの一つです。剣士系のジョブで、剣技の精度においては「勇者」を超えるとも言われております。別名「火の勇者」とも呼ばれ、「七色の勇者」の一角です。おめでとうございます!」
「そうか、俺が「剣聖」ねえ。悪くねえな。剣技だけなら最強ってか。マジで最高だわ!」
鑑定士の言葉に、前田はご満悦の様子だ。
前田の奴が「剣聖」だって!?
言っちゃ悪いが、女神様とやらは一体何を考えて、前田なんかにそんなジョブを与えたんだ?
はっきり言うが、前田は正真正銘の不良で、いじめや暴力に事欠かない悪党だぞ。
不良に刃物を持たせるなんて、百害あって一利なしではないのか?
前田 敦。くすんだ金髪をツーブロックにした髪型で、非常に暴力的な性格の持ち主だ。
進学校である夜泉川高校に進学できたのも、親が大病院を経営しているからだとの噂だ。
いじめや恐喝、暴行など、日頃から問題を起こしているが、親が学校に多額の寄付金を寄贈しているため、学校側は知らぬ存ぜぬで押し通している。
僕も一年生の時、コイツと同じクラスで、入学早々いじめられたが、いじめが始まってしばらくした後、学校の階段から転落して両足を骨折する大怪我に遭った。
僕に関わると不幸になる、僕は呪われているという噂を聞いたのもあって、それ以来、ちょっかいを出されることはなかったが、すれ違うたびに舌打ちされたり、僕をばい菌呼ばわりしたりしてくる嫌な奴だ。
前田が調子に乗って、僕たちにまで剣を向けて斬りかかってくる姿を想像すると、悪寒がしてきた。
前田の次に鑑定を受けたのは、
「ハアー、マジで超ダルいんですけど。とりま、良いジョブをお願いしま~す!」
姫城が水晶玉に手をかざした。
水晶玉が光り、鑑定結果が表示された。
鑑定士がまたまた、驚きの声を上げた。
「何と、またしても、「七色の勇者」のジョブが出るとは!?「大魔導士」とは何という幸運でしょうか!」
「何、「大魔導士」だと。「七色の勇者」が三連続とは、実に喜ばしい!」
国王はますます上機嫌になった。
「鑑定結果を申し上げます。」
鑑定士が鑑定結果を読み上げる。
ネーム:
ジョブ:大魔導士Lv.1
スキル:無限詠唱Lv.1
「ねえ、とりま「大魔導士」って何さ?教えてくんろ?」
姫城が鑑定士に訊ねた。
「はい、「大魔導士」も勇者のジョブの中でも最高位クラスのジョブになります。あらゆる魔法に精通し、魔法の威力も他の魔術士系ジョブとは桁違いです。魔術士系最高位のジョブで、別名「木の勇者」と呼ばれます。「七色の勇者」の一角にも当たります。おめでとうございます!」
鑑定結果を聞き、姫城は嬉しそうだ。
「そうなんだ~。マジでウチ、ヤバくない!?超テンション上がるんですけど!」
姫城が「大魔導士」か。
女神さまの人選は一体どういう基準なんだろう?
クラスの女子のカースト上位のグループに所属し、中心的存在だ。クラスの女子たちのリーダー格、クラスの女子たちのNo.1だ。
僕にとっては苦手な相手でもある。彼女が気に食わないと思った女子や男子は、彼女や彼女の所属する女子グループから陰湿ないじめを受けることが多々ある。
いじめをしても学校側が取り上げないのは、彼女が地元の大きな建設会社の社長の一人娘で、いわゆるご令嬢だからだ。彼女の親が学校に多額の寄付金を寄贈しているため、いじめをしても学校側は知らぬ存ぜぬで通している。
僕も彼女のいじめの被害に遭った一人だ。「キモい陰キャ」という理由で、陰口を叩かれたり、持ち物に落書きされたり、女子たちから「ばい菌」呼ばわりされたりと、散々な目に遭った。しかし、僕をいじめ始めてしばらくして、僕の机に落書きしようとして、僕の机に偶々いたスズメバチに襲われ、病院に担ぎ込まれることになった。
それからは、僕に関する不吉な噂も聞いたためか、ちょっかいを出してくることは無くなった。
だが、彼女が僕を無視するせいで、クラスの女子たちも皆、僕を無視するようになった。
現在でも、それは続いている。
彼女が遊びと称して、僕やクラスメイトたちに笑いながら魔法をぶっ放してくる恐怖絵図が目に浮かんできて、正直不安しかない。
姫城の次に鑑定を受けたのは、
「ええと、よろしくお願いします!」
花繰が水晶玉に手をかざした。
水晶玉が光り、鑑定結果が表示された。
鑑定士がまたしても、驚きの声を上げた。
「おおっ、「聖女」のジョブが出るとは!?「七色の勇者」のジョブが四連続で出るとは、もはや奇跡としか言いようがありません!」
「何と、「聖女」とは!?「聖女」とは実に心強い限りだ!」
国王は大変嬉しそうな様子だ。笑いが止まらないって感じだ。
「鑑定結果を申し上げます。」
鑑定士が鑑定結果を読み上げる。
ネーム:
ジョブ:聖女Lv.1
スキル:聖光結界Lv.1
「ええっと、「聖女」とはどういうジョブなんでしょうか?私、戦いとか正直自信が無くて。」
花繰が鑑定士に訊ねた。
「ご心配には及びません。「聖女」とは、勇者のジョブの中でも最高位クラスにして、回復術士系のジョブの最高位クラスのジョブです。回復術士の役割は、味方の怪我や状態異常、病気などを治癒し、さらに味方の能力を強化する回復術です。また、強固な結界を張って、敵の攻撃から味方を守る後方支援に特化したジョブです。盾を持てば、盾を使った防御や攻撃も可能です。「聖女」のジョブが持つスキルには、どんな怪我や状態異常、病気を直し、さらに味方の能力を底上げし、また、どんな攻撃をも防ぐ結界を張る力があると言われております。後方支援において、実に頼もしい存在です。別名「土の勇者」で、「七色の勇者」の大変重要な一角です。自信をもって、務めてください。おめでとうございます!」
「それを聞いて安心しました。後方支援なら私にもできそうです。一生懸命、頑張ります!」
鑑定士の説明を聞き、花繰は安心した様子だった。
花繰が「聖女」ねえ。一見似合ってはいるが、どこか違和感を感じる。
だがしかし、僕にはそんな彼女の姿には胡散臭さというか、作り物のような感じがしてたまらない。
僕が単に人間不信な部分があるから、そう感じるだけなのかもしれないが、どうにも裏の顔があるように思えて仕方ない。
現に、僕がいじめられていたり、クラスの女子たちから無視されたりしていても、誰にでも優しいという評判の彼女が気にする様子は無かった。
彼女が僕に声をかけたり、助けたりしてくれることは一切なかった。僕以外のクラスメイトたちとは仲が良いが、媚を売って周っているような感じが否めない。
僕が魔族との戦いで窮地に陥った時、「聖女」である彼女が本当に僕を助けてくれるのだろうか、どうにも疑問をおぼえて仕方がない。
花繰の次に鑑定を受けたのは、
「グフフフ、ついに我が輩の時代が来たのである。いや、時代が我が輩に追いついたと言うべきでござる。異世界、キターーー!おっと、失礼。鑑定士殿、いざ、鑑定をお願いいたしまする!」
沖水が水晶玉に手をかざした。
水晶玉が光り、鑑定結果が表示された。
お決まりのように鑑定士がまた、驚きの声を上げた。
「何と、「七色の勇者」のジョブが五連続で出るとは、驚きが絶えません。「槍聖」のジョブが出ました、国王陛下。魔族どもの防御など紙屑同然になることでしょう!」
「そうか、「槍聖」のジョブも出たとは、しかも、「七色の勇者」のジョブが五連続で出るとは、実に、実にめでたい!」
これまた、お決まりのように国王が喜びの声を上げた。
「鑑定結果を申し上げます。」
鑑定士が鑑定結果を読み上げる。
ネーム:
ジョブ:槍聖Lv.1
スキル:激流突貫Lv.1
「グフ、グフフフ、ついに我が輩の眠れる力が目覚める時が来たのである。して、鑑定士殿、「槍聖」とはいかなるジョブでござるか?」
沖水が鑑定士に訊ねた。
「はい、「槍聖」もまた、勇者のジョブの中でも最高位クラスのジョブに当たります。槍を武器として使う槍術士系のジョブの最高位で、特に一撃必殺の攻撃能力を有しています。槍から放たれるスキルを纏った突撃には、あらゆる敵の防御を貫く力があり、一撃で強大な魔族やモンスターを絶命させると言われております。また、水を操作する能力もあると聞いております。別名「水の勇者」と呼ばれ、「七色の勇者」の一角を担う重要なジョブでございます。おめでとうございます!」
鑑定士の説明を聞き、沖水はいつものオタク口調で喜んだ。若干気味が悪い。
「フッ、フハハハハ。聞いたか、愚民ども。我が輩は偉大なる「槍聖」にして「水の勇者」なり。これからは我が輩には敬意を持って接するのだ。異世界、最高でござる!」
沖水が「槍聖」、「水の勇者」とは、あんなのが本当に勇者で大丈夫か?
女神様、あなたの勇者を選ぶ選定基準とやらを教えてください。
本当に。マジで。
クラスの男子のカースト最下位グループのリーダー的存在でもあるが、仲間たちからもドン引きされていることもある。
以前、クラスカーストの最底辺である僕を自分のグループに入れようと、僕に声をかけてきたことがあった。
僕が、読書が趣味だと言い、お互い何のジャンルの本が好きかについて話した。
僕はミステリー小説が好きだと答えると、彼は異世界転生物や異世界召喚物のファンタジー小説、ラノベが好きだと答えた。
僕は彼に、異世界転生物や異世界召喚物の物語は大嫌いで、ただの現実逃避のための手段だと、素直に本音を言った。
僕の本音を聞いた途端、彼は激怒し、僕のことを色々と罵った挙句、僕の前から立ち去った。
それっきり、沖水の奴とは口をきいていない。
僕は彼の所属するグループに誘われることは無かった。
だけど、別に彼と友達になりたいとは思っていなかったので、気にせず、スルーした。
尚、僕を罵った直後、彼がプレイしていたお気に入りのゲームのデータが入ったゲーム機が突如、粉々に壊れていたそうだ。原因は、地震による落下物の直撃だそうだが、その事件をきっかけに、僕の噂を聞いていたためもあって、僕が彼に呪いをかけたと吹聴して回ったらしい。逆恨みもいいところだ。
捻じ曲がった性格の持ち主である沖水に槍なんて持たせたら、いつか後ろから僕の背中目掛けて槍を突き刺そうとしてくる姿が想像され、不安しかない。
沖水の次に鑑定を受けたのは、
「早く鑑定してちょうだい。私はとっとと魔族を倒して、元いた世界に帰りたいの。」
鷹尾が水晶玉に手をかざした。
水晶玉が光り、鑑定結果が表示された。
鑑定結果を見て、鑑定士が本日六度目となる驚きの声を上げた。
「きゅ、「弓聖」!?またしても、「七色の勇者」とは!?「七色の勇者」が六連続で出るとは、私も驚くばかりです!」
「フフフ、全く笑いが止まらんな、鑑定士よ。「弓聖」が出た上、「七色の勇者」が六連続で出るとは、正に幸運この上ない。」
国王も「七色の勇者」が六連続で出たとあって、笑いが止まらない。後、一人で「七色の勇者」はコンプリートだ。
もしかして、「七色の勇者」になるのは先着順なのだろうか?
僕も一番先頭に並んでいたら、「勇者」のジョブとスキルをもらえたのだろうか?
そんなことを僕は考えていた。
「コホン、鑑定結果を申し上げます。」
鑑定士が鑑定結果を読み上げる。
ネーム:
ジョブ:弓聖Lv.1
スキル:疾風必中Lv.1
「それで、「弓聖」とはどんなジョブなのか、具体的かつ簡潔に説明してちょうだい。」
鷹尾が鑑定士に訊ねた。
「はい、「弓聖」とは弓を武器とした弓術士系の最高位クラスのジョブです。勇者のジョブの中でも最高位クラスのジョブであり、もちろん「七色の勇者」の一角に当たります。別名は「風の勇者」。百発百中の弓で、どんなに遠くにいる敵でも射殺すことができる、遠距離攻撃に特化したジョブであります。付け加えて、風を操作する力もございます。おめでとうございます!」
「そう、「弓聖」ね。中々使えそうなジョブね。ありがたく頂戴するわ。」
鷹尾は素っ気無く、答えた。
鷹尾が「弓聖」、「風の勇者」か。一見勇者になるにふさわしい人物に見える。
だが、彼女が「七色の勇者」の一角と聞いて、何故か不気味な感じがするのは気のせいだろうか?
彼女と特にトラブルになったことはないが、いつも僕のことを鋭い目で睨みつけてくるため、僕は少々苦手だ。言葉には出さないが、彼女の僕を見る目はどこか他の人よりも厳しく、鋭い感じがしてならない。
考えたくはないが、何か彼女の癇に障ることをして、不意打ちで彼女から矢を射かけられる僕の哀れな姿が想像され、何だか嫌な予感して仕方がない。僕の考え過ぎだと思うことにしておこう。
鷹尾の次に鑑定を受けたのは、
「俺の番かぁ~。良いジョブがもらえるといいんだけどなぁ~。」
山田が水晶玉に手をかざした。
水晶玉が光り、鑑定結果が表示された。
鑑定結果を見て、鑑定士が本日七度目となる驚きの声を上げた。
僕はもう驚かないぞ。
やっぱり、「七色の勇者」になるのは先着順ではないだろうか、そう思った。
「な、ななな、何と「槌聖」のジョブが出ましたぞ!?「七色の勇者」が全員連続で出るなど、歴史上初めてのことです!どうやら、我々は偉大な歴史の瞬間の立会人になったようですぞ、陛下!」
「どうやらそうらしいな、鑑定士よ。「槌聖」のジョブが出た上、「七色の勇者」が全員連続で出るなど、歴史的快挙だ。我々人間は女神さまからかつてない祝福を受けたようだ。私も嬉しさのあまり、涙まで出てきた。私は今日という日を一生忘れないだろう!」
国王は嬉しさのあまり、泣きながら笑った。
「それでは、鑑定結果を申し上げます。」
鑑定士が鑑定結果を読み上げる。
ネーム:
ジョブ:槌聖Lv.1
スキル:雷電爆砕Lv.1
「もしも~し。「槌聖」って何なんだぁ~?良いジョブなのかぁ~?」
山田が鑑定士に訊ねた。
「もちろん、良いジョブでございます。「槌聖」はハンマーを武器とする槌術士系の最高位クラスのジョブです。勇者のジョブの中でも最高位クラスのジョブにして、「七色の勇者」の最後の一角でもございます。「槌聖」の繰り出すハンマーの一撃は、どんな頑丈な敵をも砕く、圧倒的な破壊力があると言われております。また、雷を操作する能力もあると言われております。別名「雷の勇者」と呼ばれております。力自慢の者なら誰もが憧れる伝説のジョブです。誠におめでとうございます!」
「そっか~。俺が「槌聖」なのかぁ~。力には自信があるから、嬉しいなぁ~。」
鑑定士の説明を聞き、山田は嬉しそうな様子だ。
山田が「槌聖」、「雷の勇者」か。また、厄介な奴にとんでもないジョブとスキルを女神さまは与えてくれたようだ。
確かに怪力の持ち主でジョブと合っているように見えるが、本性は最悪だ。
前田の奴と仲が良く、クラスの男子のNo.3のポジション的存在だ。
普段はのんびりとした性格に見えるが、一度怒ると、手が付けられないほど暴れまわる危険な奴だ。
自分の思い通りにいかないことがあると、平気で他人に暴力を振るったり、物に当たったりもする。
前田同様、悪人ではあるのだが、父親が農協の組合長をしており、学校に多額の寄付金を寄贈しているため、暴力沙汰を起こしても学校側は知らぬ存ぜぬで通している。
一年生の時、前田の奴と一緒になって、僕をいじめてきたことがある。
「軟弱なくせに生意気だ。」などと言って、ご自慢の怪力を暴力に変えて僕に振るってきた。
コイツに投げ飛ばされ、僕は右手を骨折する大怪我までしたこともあった。
しかし、前田と一緒になって僕をいじめ始めてしばらくした頃、交通事故に遭って首の骨を折る大怪我をした。
全国大会で優勝後ではあったが、その後すぐ事故に遭い、三ヶ月ほど入院したらしい。
何でも怪我の状態がひどく、リハビリに時間がかかったとのことだ。
事故に遭った後、僕に関する噂を知り、前田同様、僕をいじめることは無くなった。
僕が傍によると煙たがり、サッと離れていくのである。
一度切れたら何をするか分からない、手が付けられないほど暴れまわる山田にハンマーなど持たせたら、突然怒り出したコイツに僕やクラスメイトたちはハンマーで思いっきり殴られ、ぺちゃんこに潰され、殺される光景が目に浮かんできた。暴漢にハンマーを渡すなど、キチガイの所業ではないだろうか?とにかく、恐ろしいの一言に尽きる。
さて、とりあえず現状を整理すると、「七色の勇者」という、勇者の中でもレアジョブと呼ばれる大変強力なジョブはすでに出揃ったことになる。
僕を除く、残りの32名のクラスメイトたちと担任の下長飯先生は皆、それぞれステータスの鑑定を受け、ジョブとスキルの鑑定を完了した。
剣士、魔術士、回復術士、盾士、槍術士、弓術士、槌術士といったジョブと、対応するスキルを与えられている様子だ。
最後尾にいた僕の番が回ってきた。
「最後の御方、鑑定をさせていただきます。水晶に手をおかざしください。」
鑑定士が僕に水晶に手をかざすよう言ってきた。
「分かりました。お願いします。」
僕は水晶玉に手をかざした。
どうか、悪い結果が出ませんように。
僕は思わずそう願った。
水晶玉が光り、鑑定結果が表示された。
鑑定結果を見て、鑑定士が本日八度目となる驚きの声を上げた。
「なっ、一体これはどういうことだ!?こんなことはあり得ない!?すみませんが、もう一度、この水晶に手をかざしていただけますか?」
鑑定士にそう言われ、僕はもう一度水晶に手をかざした。
水晶玉が光り、ふたたび鑑定結果が表示された。
しかし、またしても鑑定士は驚いた様子だった。
「ば、馬鹿な!?こんなことはあり得ない!?ジョブもスキルも持っていないなんて!?女神様がジョブとスキルを勇者に与えない、こんなことは歴史上、一度もありません!一体、これはどういうことだ?」
「か、鑑定士よ。この者がジョブもスキルも与えられていないとは誠か!?どれ、私にも鑑定結果を見せよ。」
国王がひどく驚いた表情を浮かべながら、水晶玉を覗き込んだ。
「間違いございません。水晶玉に故障や不具合は見受けられません。残念ではありますが、目の前にいる御方はジョブもスキルも持っておりません。鑑定結果を読み上げます。」
鑑定士が僕のステータスの鑑定結果を呼びかけた。
ネーム:
ジョブ:なし
スキル:なし
鑑定士が僕の鑑定結果を読み上げるや否や、クラスメイトたちや先生はクスクスと一斉に笑い出した。
国王や姫、宰相に騎士たち、鑑定士は皆、唖然としていた。
「これは一体、どういうことだ!?勇者として召喚された者が女神様からジョブもスキルも与えられていないなど、前代未聞だ!?まさか、女神様がこの者に加護をお与えなさるのをうっかり忘れてしまったのか?しかし、女神様に限って、そんな間違いを犯すであろうか?確かに、41人もの異世界人が勇者として召喚されることも史上初めてではあるが、人数が多いからというだけで女神様が間違いを犯すわけがないはずだが?」
国王は困惑を隠しきれない様子だ。
僕も、なぜ僕にだけジョブとスキルが女神から与えられていないのか、疑問で頭がいっぱいだった。
広間が混乱する中、前田が大笑いしながら国王に向けて言った。
「ギャハハハ、国王さんよ。ソイツがジョブもスキルも女神様からもらっていないのは当然だぜ。だって、ソイツは元いた世界じゃ呪われているってみんなから言われている奴だぜ。俺や、他の奴らもそいつにちょっかいを出しただけで、大怪我をしたり、不幸な目に遭ったりしたんだ。女神様とやらはソイツが呪われていると知って、わざとジョブもスキルも与えなかったんじゃねえの?」
前田の言葉に、国王は驚いた表情を浮かべ、そして、僕の顔を睨みつけてきた。
「呪われているだと!?ま、まさか、この者は悪魔憑きなのではないか?」
「キャアー、悪魔憑き!?こ、来ないで!近寄らないで!」
姫が叫び声をあげ、後ろに後ずさりながら言った。
「あ、悪魔憑き!?な、何ですか、それは?」
僕が国王に訊ねると、国王は厳しい表情を浮かべながら言った。
「悪魔憑きとは文字通り、悪魔にとり憑かれている者のことだ!悪魔にとり憑かれている者は、光の女神から加護を与えられず、災いを振りまく恐ろしい存在と古来より言い伝えられている!魔族や魔王に並ぶ忌むべき存在だ!ただのおとぎ話の存在だと思っていたが、現実に存在するとは信じがたいことだ!貴様が悪魔憑きである可能性がある以上、生かしておくわけにはいかん!即刻、貴様を処刑する!」
「しょ、処刑!?悪魔憑きかもしれないなんてあやふやな理由で、勝手に異世界から召喚しておきながら、僕を処刑するだと!?ふざけるな、このクソじじい!」
「クソじじいだと!?この私をそんな風に侮辱するとは、やはり貴様は勇者ではない!貴様は紛うことなき悪魔憑きだ!今すぐ処刑してくれるわ!」
国王が激怒し、腰に下げた剣を抜こうとする。
「お待ちください、陛下!処刑には私も賛成ですが、陛下がお手を煩わせる必要はございません。この場には「七色の勇者」様たちがいらっしゃいますし、例の七つの聖武器のレプリカもございます。勇者様たちの力を試す絶好の機会ではございませんか?」
ブラン宰相が、国王に処刑方法に関して何やら提案してきた。
七つの聖武器?レプリカ?一体何のことだ?
国王は宰相の言葉を聞き、落ち着きを取り戻すと、ニヤリと笑い、こう言った。
「さすがはブラン宰相。この悪魔憑きを勇者様たちに処刑させるとは、中々考えたものだ。確かに勇者様たちの良い訓練になる。それに、我が国が密かに研究、開発を進めた、七つの聖武器のレプリカの性能を試す良き機会でもある。さっそく、レプリカをここに持ってくるのだ!」
「畏まりました。おい、騎士たちよ、七つの聖武器のレプリカを今すぐ持ってこい。これは王命であるぞ。」
宰相が、騎士たちに七つの聖武器のレプリカとやらを持ってくるよう命じた。
処刑だと!?冗談じゃない!
今すぐ逃げようと逃げ道を探すが、出入り口は全て騎士たちが固めていて、出られる気配はない。
窓の方を見るが、おそらくビルの四階建て以上の高さは確実にある。
窓から飛び出しても、落下して死ぬ恐れがある。
絶体絶命のピンチである。
僕が必死に脱出策を練っている中、七つの聖武器のレプリカとやらが騎士たちによって広間に運ばれてきた。
「「七色の勇者」の皆様方、こちらにお集まりください。こちらにございます七つの武器は、各国のダンジョンに眠る「七色の勇者」様専用の武器、七つの聖武器のレプリカでございます。我が国がひそかに研究、開発した武器でございます。本物には若干性能が劣るかもしれませんが、皆様方のジョブとスキルを試すには絶好の品です。ぜひ、あのおぞましい悪魔憑きを処刑するためにもお使いください。」
「七色の勇者」に選ばれた七人のクラスメイトたちが、宰相の言葉に従い、それぞれ七つの聖武器のレプリカを手に取る。
皆、口々に声を上げて武器を取った。
「うん、中々立派な剣だね。黄色、いや、黄金色の剣か。」
「赤い双剣か。切れ味が良さそうだな。燃えるような赤ってのが気に入ったぜ。」
「緑色の杖かぁ~。緑色の宝石みたいなのが先っちょに嵌まってて、結構おしゃれじゃな~い?ウチ、この杖、マジで気に入ったわ。」
「私のはオレンジ色の盾みたいです。頑丈そうですごく頼りがいがあります。」
「グフフフ、我が輩の武器は青い槍でござる。実に神々しく、我が輩にぴったりの武器なのである。この槍で我が輩は天下を取るのである。」
「藍色の弓か。矢が無いけど、スキルとやらで矢が出てくるのかしら?まぁ、使えるなら別に問題は無いわ。」
「俺の武器は紫色のハンマーなんだなぁ~。手にしっかり馴染む感じだなぁ~。力が湧いてくるんだなぁ~。」
「七色の勇者」たちが感想を言い終えると、宰相が彼らに向けて言った。
「勇者様方にお喜びいただき、満足です。いずれは各国のダンジョンを攻略いただき、本物の七つの聖武器を手に取る時が参ります。それまでどうか、そちらで我慢してください。それでは早速ですが、お手に取ったレプリカを使って、あの悪魔憑きを攻撃、いえ、処刑してください。先ほど鑑定結果でお伝えした皆様のスキル名を唱えれば、七つの聖武器を通じてスキルが発動し、攻撃できます。いずれはスキル名を詠唱する必要も無くなるでしょう。さあ、あの悪魔憑きを皆様のお力で葬ってください。」
宰相の言葉を受け、「七色の勇者」たちは一斉に僕の方を向き、武器を構えた。
「宮古野君、悪いがこれも異世界の平和を守るためだ。君の犠牲は決して無駄にはしない。せめて僕たちの手で安らかにあの世へ行ってくれ。」
「へへっ、宮古野、悪いがこれもテメエ自身が招いた結果だ。すぐに楽にしてやるよ。」
「宮古野、マジでメンゴ。でも、あんたが生きてるとヤバいみたいだから、とりますぐに殺さなきゃいけないみたいだし~。化けて出ないでチョ。」
「宮古野君、ごめんなさい。私の力じゃあなたを助けることはできないの。本当にごめんなさい。」
「宮古野氏、異世界召喚なんて現実逃避だの、無意味だの言った罰が当たったようでござるな。我が輩の槍の刃の錆にしてくれるでござる。いざ、我が輩の正義の槍の一撃を食らうがいい。」
「宮古野君、私たちはどうしても魔王を倒して元いた世界に帰らなきゃいけないの。あなた一人のためにクラスのみんなが迷惑しているの。悪いけど、これも元の世界に帰るために必要なことなの。おとなしく処刑されてちょうだい。」
「宮古野~、俺は難しいことは分からねえけど、お前を殺さなきゃみんなが困るのは分かる。一発で楽にしてやるから、勘弁してくれよなぁ~。」
「七色の勇者」たちは全員、俺をこの場で殺すつもりらしい。
いくら仲が良くないからって、自分のクラスメイトを出会ったばかりの連中の口車に乗せられて殺そうとしたりするだろうか?
いや、コイツら全員が人間のクズだからだ。
完全に気が狂っている。キチガイどもめ。
他のクラスメイトたちも同じだ。
今にも処刑されそうになっている僕を、誰一人庇おうとしない。
みんな、笑って僕を見ている。
これから始まる処刑という名のショーを楽しみにしている様子だ。
下長飯先生の方を見た。
先生はニヤリと笑いながら、僕に向けて言った。
「宮古野、先生もお前の処刑には賛成だ。クラスの輪を乱し、皆にいつも迷惑ばかりかけているお前の顔をもう見なくていいと思うと、先生も嬉しくてしょうがない。さっさと死ね、この能無しの悪魔憑きが!」
自分の教え子が同級生によって殺されそうになっているにも関わらず、この担任教師は、否、この男は教え子の僕に死ねと言ってきた。
とても教育者の言葉ではない。
そう言えば、この
数学の成績が悪い生徒や、親が金持ちではない生徒は冷遇し、暴言を吐いたり、体罰を行ったりするパワハラ教師だった。
以前、僕もこの男からパワハラを受けたことがあった。
しかし、パワハラを受けた直後、ギャンブルに嵌まっていたこの男は、ギャンブルで大損し、借金をして苦しんでいる、そんな噂を耳にした。
実際、着ているスーツはいつもよれよれでみずぼらしく、汚かった。
体臭もかなりきつかった。正直言って、臭い。
生活に余裕が無いのは事実だ。
きっと異世界に来て、借金から解放された上に、異世界で一儲けしようなどと考えているに違いない。
本当に最低の糞野郎である。正にクズのお手本と言ってもいい。
「最後に言い残すことはあるか、悪魔憑きよ。」
国王が遺言はないかと僕に訊ねてきた。
僕は一拍置いて、右手を前に突き出し、親指を下に向けながら言った。
「地獄に落ちろ、くそったれ共!」
国王が僕の言葉に激怒し、処刑の合図を送った。
「しょ、処刑開始!」
国王からの処刑の合図を受け、「七色の勇者」たちがそれぞれスキル名を唱え、僕に武器を向けた
「破邪一閃!」
「豪火十字斬!」
「無限詠唱!」
「聖光結界!」
「激流突貫!」
「疾風必中!」
「雷電爆砕!」
「七色の勇者」たちが持つ七つの聖武器が光り輝き、次の瞬間、斬撃やら炎の玉やら、高圧水流やら風の矢やら電撃やらの攻撃が僕の体を襲った。
勇者たちの攻撃を受け、その衝撃で僕の体は城の壁を突き破り、そのまま城の外へと落下していった。
「くそ、異世界で死ぬとか、なんて最悪な死に方だ!」
僕はそんなセリフを呟きながら、落ちて行った。
僕の意識はそこで途絶えた。
広間にいた誰もが僕は死んだと、そう思った。
僕自身、死んだつもりだった。
だが、運命は皮肉なもので、僕は思いもかけない理由から生き延びたのだった。
そう、僕にとり憑いていた三匹の妖怪たちによって、僕の運命は大きく変わった。
三匹の妖怪たち、否、三人の美女たちとの出会いが、僕、宮古野 丈の異世界でのリスタートとなった。
そして、僕を処刑した勇者たち、インゴット王国、光の女神リリア、異世界への復讐の旅が幕を開けようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます