【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~
第五話 主人公、ギャルとデートする、そして、元「弓聖」たち一行の情報を手に入れる
第五話 主人公、ギャルとデートする、そして、元「弓聖」たち一行の情報を手に入れる
主人公、宮古野 丈と、主人公率いる「アウトサイダーズ」が、元「弓聖」たち一行を討伐するため、ゾイサイト聖教国の首都へと到着した日のこと。
冒険者ギルド本部にて、聖騎士団の精鋭部隊「白光聖騎士団」と遭遇、敵対することになった「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈は「白光聖騎士団」と交戦し、「白光聖騎士団」の聖騎士たちを全員、再起不能にするまで、ボコボコにぶちのめしたのだった。
そして、つい1時間ほど前、「白光聖騎士団」の総団長アーロンの父親、ヘンリー・エクセレント・ホーリーライトと、その部下たちと遭遇。ヘンリーたちに追われていた謎のダウナー系ギャル、スロウラルドと出会い、彼女を助けるため、ヘンリーたちを撃退したのであった。
主人公が助けたスロウラルドの正体は、ホーリーライト家を家出したホーリーライト家の一人娘、ゾーイ・エクセレント・ホーリーライトと融合した怠惰の堕天使であった。
自ら正体を明かし、主人公へと接触してきたスロウラルドに警戒する主人公であったが、元「弓聖」たち一行や他の堕天使たちに関する情報と引き換えに、彼女に食事を奢るという取引をした。
スイーツデートと称して、首都の大通りにある、とあるスイーツ店へとスロウラルドに連れて来られた主人公は、彼女とともに、スイーツ店の名物、ジャンボパフェを食べながら話を聞くことになった。
午後三時。
スイーツ店のカフェスペースのテーブルに座って、ジャンボパフェを注文した僕たち二人の目の前に、たくさんのアイスやミニケーキ、ソフトクリーム、フルーツ、チョコソースなど、いくつものスイーツがトッピングされた、高さが1mほどはある、超特大のタワー型の巨大なパフェが、店員に運ばれてやってきた。
「お待たせいたしました。こちらがジャンボパフェになります。こちらがチョコレートパフェになります。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?では、ごゆっくり。」
僕はごく普通のチョコレートパフェを注文し、スロウはジャンボパフェを注文した。
ジャンボパフェのあまりの大きさに僕は驚き、スロウに訊ねた。
「スロウ、本当にお前一人で食べ切れるのか?途中でギブアップしても、僕は食べるのは手伝わないからな。」
「問題ナッシング!ウチはこう見えても結構食べる方なんよ!こんなん余裕、余裕!」
満面の笑みを浮かべて僕に答えると、スロウラルドはジャンボパフェを椅子から立ち上がって、スプーンやフォークを使って、美味しそうに食べ始めた。
30分後、巨大なジャンボパフェを見事完食したスロウラルドの姿と、完食されたジャンボパフェのガラス製の器が、僕の目の前にあった。
「本当に一人で食べきりやがった。後でお腹を壊したと言ってきても、知らないからな。」
「フゥー。ごちそうさま。いやぁー、満足、満足。ゾーイも美味しかったって言って喜んでるよ。ありがとね、ジョーちん。」
「満足してもらったようで何よりだ。さて、それじゃあ、本題に入らせてもらおう。元「弓聖」たち一行と他の堕天使たちに関する情報を教えてもらおうか、スロウ?このまま食い逃げしようとしたら、聖騎士たち同様、ぶちのめす。分かってるだろうな?」
僕は、ノートとペンを持って、メモを取る準備をしながら、スロウに向けて言った。
「もう、分かってるってば、ジョーちん!ウチは食い逃げとかしないから!奢ってもらった分の情報はちゃんと渡しますって!ホント、疑り深いなぁー、ジョーちんは。」
「元「弓聖」たち一行と手を組んだ堕天使たちと同類であるお前を、簡単に信用することはできない。お前がどこまで元「弓聖」たち一行のことを知っているかは知らないが、連中は世界中で暴れ回り、何百万人もの人間を殺した元勇者の犯罪者だ。目的のためなら、インゴット王国の王都を壊滅させたり、「世界樹」を枯らそうとしたり、死の呪いをばらまいたり、食人鬼になって人を食い殺したり、海賊になって国を乗っ取ったり、この僕を無実の罪で処刑しようとしてきたり、罪状をあげたらキリがない。そんな連中と、かつてこの世界を滅ぼそうとしたお前たち堕天使が手を組んだ。疑って当然だろうが。」
「うわぁー、マジかー。あの連中、そこまで激ヤバのクズだったとは。「世界樹」枯らそうとするとか、いくらウチらでもそこまで馬鹿なことはしなかったわ。ってか、ウチら、別に最初は人間の味方だったし。堕天使だったけど、ちゃんと女神との約束守って、勇者のレベルアップを手伝ったし、勇者たちの魔族討伐も手伝ったし、勇者たちや人間たちを守るために色んなお手伝いしていたんだし。裏切ってきたのは、女神や勇者たちの方なんだし。」
スロウが不機嫌そうな表情を浮かべながら、僕に向かって言った。
「裏切ってきたのは女神や勇者たちの方だと?一体、どういうことなんだ?」
「ウチら堕天使は元々、神界に住む、女神リリアよりずっと高位の神によって創られた、神を補佐する天使と呼ばれる存在なんだし。ウチら七人は同じ神によって創られて、その神の仕事を手伝っていたんよ。ただ、その神ってのが、超天使使いが荒くてさ。ウチらをこき使ってくるわ、パワハラ、モラハラ、セクハラなんかはしてくるわ、とにかくブラックな上司だったんよ。ウチは時々、仕事中サボったり、遅刻することもあったりしたけど、基本、自分の仕事はちゃんとやってたんよ。でも、あんまり扱いが酷いもんだから、その神の寝てる顔に落書きしたり、激辛香辛料入りの食べ物を食べさせたりとか、仕返しをしてやったんよ。他の堕天使の連中は、その神が管理している世界を滅茶苦茶にぶち壊す、ウチよりずっときつい仕返しをしてたけどさぁ~。それで、怒った神に、不老不死の力を肉体から奪われて、地獄に落とされて、2,000年以上もそりゃー、辛い拷問を受け続ける日々を送ることになったわけよ。魂は不滅なもんだから、死ぬこともできず、毎日毎日、地獄の神々や悪魔たちから拷問を受け続ける生き地獄でしたわ。まぁ、ウチらの上司だった神も監督責任取らされて、左遷させられたんだけど。話戻すと、そんな地獄に落とされ、堕天使となって地獄で拷問を受け続けるウチらの前に、地獄の神々と取引をした、あのクソ女神のリリアが身元引受人になって、ウチら七人は異世界アダマスで勇者たちと協力して、邪悪な魔族を殲滅することと引き換えに、リリアの部下になって地獄から解放されるってことになったわけ。でも、女神が上司になってからも職場はマジブラックだったけど。」
スロウはオレンジジュースを一口飲むと、話を続けた。
「ウチら堕天使はリリアから恩赦をもらって地獄から解放され、勇者たちの魔族殲滅に協力するため、リリアから遣わされたってことで、勇者たちに紹介され、この世界に派遣されてきたわけ。勇者たちと一緒に魔族の殲滅に成功した時は、天使の資格を戻してもらって、不老不死の肉体にも戻してもらうって、あのクソ女神と取引した上で、全力で勇者たちを手伝ったわけよ。おかげで、勇者たちは歴代最強に次ぐ勇者と呼ばれるまで強くなったし、魔族たちの殲滅も過去最高のペースで進んだ。ぶっちゃけ、ウチらの方が勇者たちより魔族を大勢、殺したけどさ。ウチらはクソ女神との約束を守り、結果を出し続けた。けど、あの勇者たちはウチらにいつも上から目線で命令してくるし、だんだん調子に乗って、ウチらを創った神同様、ひどいパワハラやモラハラ、セクハラをしてくるようになった。堕天使だからという理由で、ウチらに休む暇も与えず、こき使ってきたわけ。勇者たちからのウチらに対する態度が悪化するにつれ、他の人間たちもウチらを見下して、こき使おうとしてきたわけ。ウチが大好きな昼寝をしたくても、仕事をサボっているだの、女神に言いつけて地獄にまた落とすぞとか、嫌味を言ってくるし。最初はグッと堪えていたけど、ウチらもだんだんと我慢ができなくなった。勇者たちからの扱いに耐えられなくなったウチらは当然、リリアに勇者たちのウチらへの横暴な態度を改めてもらうよう、直訴した。だけど、あのクソ女神は、堕天使風情が贅沢を言うなと、勇者たちに協力してさっさと邪悪な魔族どもを殲滅してこい、逆らったら強制的にまた地獄へ戻す、そう言って、ウチらを突き放したんだし。ウチらは女神から任された仕事だからだと、勇者と一緒に人間と世界を守る仕事だからと、もう一度天使に戻りたいからと、身を粉にして一生懸命働いてきたっしょ。そんなウチらを、あのクソ女神は冷たく突き放して、クソ勇者たちは奴隷のようにこき使ってずっと馬鹿にしてくる。そんなの、耐えられるわけないっしょ。」
スロウの僕に向かって話をする姿は、鬼気迫るものがあり、さっきまでノリの軽いギャルではなく、純粋に女神や勇者たちからの被害を訴える可哀想な被害者にしか見えなかった。
「なるほど、そりゃ堕天使たちが、スロウたちが怒って反逆するのも無理はないな。一生懸命真面目に働いて、仕事で成果を出している君たちに、ハラスメントはするわ、奴隷のようにこき使うわ、待遇改善を訴えても冷たく突き放して逆に脅迫してくるわ、リリアも勇者たちも最低のクズだな。例え地獄に落ちた堕天使だからと言って、更生中の犯罪者だからと言って、好き勝手尊厳を踏みにじるようなことをしていいわけがない。ある意味、君たちも僕と同じというわけだ。実を言うと、僕もクソ女神に勝手に異世界から召喚されて、何の加護も与えられず、勇者たちに処刑され、放置され、虐げられてきたんだ。方法は違うけど、女神や勇者たち、この異世界に復讐をしているという点では、君と同じだな、スロウ。」
「女神の加護を与えられてない!?確かにジョーちんからは何の魔力も感じない。えっ、ちょっ、待って!?ジョブもスキルもない!?でも、さっき、あの元聖騎士のオッサンたち、瞬殺してたっしょ!?ジョーちん、マジでわけわからんわ?それに、女神と勇者たちに復讐してるって、じゃあ、何でジョーちんは勇者って呼ばれてるん?」
「ああっ、「黒の勇者」ってのは、周りが勝手に僕をそう呼んでいるだけで、ただのあだ名だよ。僕は自分から一度だって、自分が勇者だなんて名乗ったことはない。勇者なんてクソくらえ、そう思っている。元勇者たちには裏切られて処刑された恨みがあるから、復讐をしている。最近になって、元勇者たちの暴走がどんどん過激さを増して、リリアの奴が手に負えられなくなったもんだから、勝手に僕が真の勇者だと言う神託を下して、僕に元勇者たちの討伐の使命を与えたとか吹聴して、元勇者たちの討伐を押し付けてきた、それが真相だよ。僕としては処刑人のお墨付きがもらえて復讐の大義名分ができたが、別に女神に言われなくても、元勇者たちは全員、殺す。僕を見捨てたくせして都合が悪くなったら、僕を勇者として利用しようとしてくるクソ女神のリリアにもいつか必ず復讐する。僕の仲間たちは全員、女神や勇者たちの被害者で構成された復讐者たちばかりだ。勇者じゃなくて復讐鬼なんだよ、僕は。」
「ジョーちんが聖騎士たちをボコボコにしたり、元「弓聖」たち一行に復讐しようとしたりするわけが分かったわ。マジ、納得だわ~。つか、ウチらとご同輩だったとはねぇ~。あのクソ女神、やっぱマジ最低だわ。アイツこそ、地獄に落ちろっしょ。」
「お互いの身の上話はこれぐらいでいいだろ。興味深い話がいくつかあったけど。それで、本題だが、お前の知っている堕天使たちの名前や特徴、能力などについて詳しく教えてもらえるか?」
「OK、ジョーちん。アイツらは女神やこの世界に復讐するため、後、長い間封印されていた間の欲求不満を解消するために、暴れ回ってるみたいだし。ウチと違って、アイツらはマジで見境なく人間殺すし、マジで頭がイカれちゃってるから。頭がイカれた理由の半分は、クソ女神や先代の勇者たちのせいもあるけど。とりあえず、一人ずつ説明するわ。まず、傲慢の堕天使プララルド。コイツがウチら堕天使の中で一番強くて、実質リーダーをやってる。能力は「完全支配」って言って、自分よりレベルの低いあらゆる生物の精神を完全に洗脳して支配できる。ライオンのタトゥーがトレードマークで、SSランクモンスター5体分くらいの強さはある。元「弓聖」の女と融合してんのがコイツ。2番目に、強欲の堕天使グリラルド。コイツはウチら堕天使の中で最長老だね。能力は「強奪金庫」って言って、自分よりレベルの低い生物から、持っている武器や装備、持ち物を何でも一つだけ、強制的に自由に奪うことができる。亜空間にあるコイツの金庫には無限収納の機能があって、金庫からほぼ無尽蔵の奪ってきた武器と装備を取り出して使うこともできる。狐のタトゥーがトレードマークで、強さはSSランクモンスター3体分くらい。頭の禿げた、中年のオッサンと融合してんのがコイツ。3番目に、嫉妬の堕天使エビーラルド。改造手術が趣味のマッドサイエンティストな女。能力は「改造魔手」って言って、自分よりレベルの低い生物や物体の、構造や形、大きさ、能力を自由自在に改造することができる。人間をモンスターに作り替えることもコイツには朝飯前ってわけ。ただ、直接手で触れないと改造できないけどね。蛇のタトゥーがトレードマークで、強さはSSランクモンスター4体分くらい。確かツインテールの女と融合してた。4番目に、憤怒の堕天使ラスラルド。ウチら堕天使の中で一番短気でキレやすい男。能力は「激高進化」って言って、怒れば怒るほど、自分のパワーやスピード、回復能力がどんどん強化されていく。でも、一番厄介なのは、適応能力も上がるってとこ。一度受けた攻撃への耐性だとか、過酷な環境の中でもすぐに適応できる耐性が身について、どんどん進化していくってところ。一撃で倒さないと、コイツを止めることはまず無理。狼のタトゥーがトレードマークで、強さはSSランクモンスター4体分くらい。ジョーちんと同じくらいの男の子と融合したのがコイツ。5番目に、暴食の堕天使グラトラルド。ウチら堕天使の中で一番の大食いで意地汚いデブ男。能力は「吸収合体」って言って、自分よりレベルの低い生物や物体を食べることで、食べた生物や物体の、能力や特徴を吸収して使うことができる。ただし、ストックできる能力は100個までの制限付き。けど、100個の色んな能力を一度に使いこなせる点は厄介ではある。豚のタトゥーがトレードマークで、強さはSSランクモンスター4体分くらい。ショートヘアーの女と融合したのがコイツ。最後に、色欲の堕天使ストララルド。男女ところ構わず誘惑する、色情狂で露出狂のビッチ。能力は「魅了幻夢」って言って、自分よりレベルの低い生物を魅了することで、自分の魅力の虜になった人間を老若男女問わず、決して醒めることのない、性の快楽に溢れた夢へと溺れさせ、眠らせることができる。コイツの容姿に見とれたり、コイツが肉体から発する魅了効果のあるフェロモン入りのガスを吸ったりしたら、その時点で相手は魅了され、強制的に眠らされることになる。ある意味、厄介な相手ではあるね。山羊のタトゥーがトレードマークで、強さはSSランクモンスター3体分くらい。一人だけ剣士の格好をした女と融合したのがコイツ。ウチら堕天使と融合したことで、元「弓聖」たち一行のレベルは全員、Lv.200オーバーまでレベルが爆上がりしたのは確実。後、ウチと融合できなかったポニーテールの女が一人いたっけ。その女がどうなったかは知らない。時間を止めてバックれることしか考えてなかったから、ウチの元同僚と元「弓聖」たちがその後、何やってたかまではよく知らない。何か、吸血鬼をたくさん作って暴れさせてるのは知ってっけど。ウチが教えられる情報はこれくらい。どう、めっちゃ参考になったっしょ?」
スロウから教えてもらった情報をノートにメモすると、僕は改めてノートに書いた情報を読んで、情報を頭に入れながら整理し、分析した内容をノートに追記すると、ノートのページを見ながら、しばらく考え込んだ。
考え込んだ後、ふたたびスロウの方を向いて、彼女に訊ねた。
「クソ女神のリリアから聞いていた以上の能力だ。まぁ、あのクソ女神からは情報らしい情報なんて、ほとんどもらっていないんだが。お前の話した情報が全て真実だと信用するわけじゃあない。だけど、お前の話してくれた六人の堕天使の能力は、僕の想定をはるかに超えている。対応策がないわけじゃあないが、人質も取られている以上、強行作戦で突っ込むわけにはいかないことは分かった。最後に質問だが、堕天使たちと融合しても、堕天使の特徴は隠すことができるのか?髪の色とか瞳の色、肌の色、顔の形、タトゥーとか?」
「できなくはないよ。今、ジョーちんが言った体の特徴は隠そうと思えば、何時でも隠せるよ。例えば、ウチには本当は翼あっけど、隠してるし。今、見せるね。」
そう言うと、スロウラルドの背中から、突然、巨大な黒い二枚の翼が生えた。
「お、おい、こんな人前で、街中で見せるな!?周りに怪しまれるぞ!」
慌てて注意する僕に、スロウは笑みを浮かべながら、言った。
「大丈夫だって、ジョーちん。ジョーちん気付いてないようだけど、今、ウチが周りの時間を、このお店の中の時間を止めたから、誰も気付いていないし。つか、ウチが止めた時間の中で動けるってことは、少なくとも、ジョーちんはウチよりもずっと強い。プララルドだって、20秒くらいは動けなくなるのに。マジで凄いね、ジョーちん。」
「時間を止めた?」
僕が店の中を見ると、スイーツ店の中にいる、周りにいる店員も客たちも、みんな彫像のように固まっている。
「後、30秒くらいしたら、時間はまた動き出すから。どう、ウチの能力も凄いっしょ?」
背中に展開していた黒い翼をふたたび隠しながら、自慢気にスロウは僕に向かって言った。
「確かに凄いな。時間を止める能力か。嘘みたいだが、本当に周りのものが全て静止している。時間を止められた間に急所を攻撃されたら、相手を確実に殺すことができる。本当に恐ろしい能力だ。他の堕天使たちより、お前の方が僕にはよっぽど強く見えるぞ。僕が止まった時間の中で動けると言っているが、本当はお前が僕だけわざと動けるよう、能力を操作しているんじゃないか?堕天使の中で実はお前が一番強い、ってことも考えられなくはないな?」
「本当に疑り深いねぇ、ジョーちんは。ウチの能力は確かに強いけど、スペック的には一番弱いんよ。パワーとかスピードとか回復能力とかでは、他の堕天使たちの方が上なんよ。ウチの強さはSSランクモンスター2体ぶんくらい。融合したゾーイの能力も使えるけど、あくまでウチの能力は自分よりレベルの低い生物や物体にしか効かないんよ。自分よりはるかにレベルが格上の相手、それこそ、神や天使、悪魔なんかには全然効かない。人間や勇者相手には効くから問題ないけどねぇ~。」
「お前の能力や強さの真偽はとりあえず、判断は保留にしておこう。お前たち堕天使が、堕天使と融合した元「弓聖」たち一行が、自分たちの特徴を自由自在に隠せることは分かった。くそっ。あのクソ女神め。鷹尾たちは他人になりすます手段まで手に入れている上に、堕天使の特徴だって隠せるじゃないか。これじゃあ、変装したアイツらに奇襲を受けたり、あっさり逃げられたりすることだって十分にあり得るじゃないか。役に立たない、いい加減な情報ばっか寄越しやがって。本当に自称女神のクソ女神だな。」
僕は役に立たない情報を寄越してきたクソ女神のリリアに対する怒りと不満を吐露した。
「とにかく、貴重な情報をどうもありがとう。お前からもらった情報はこちらで改めて真偽を確認させてもらうことにはなるが、参考にはなった。ジャンボパフェのお代は僕の方で情報提供料として払っておく。僕はまだこれから仕事がある。もう帰ってもらってもいいぞ。じゃあな、スロウ。できれば、次会う時は敵でないことを祈っているよ。」
僕はスロウに御礼を言うと、スロウに帰ってよいと伝えた。
「ええ~!?ウチ、もう野宿にも飽きたんだけど。お金も持ってないし、今晩泊まるとこもないし。ウチ、フカフカのベットで寝た~い。ねぇねぇ、ジョーちん、ジョーちんの泊まってる宿にウチも泊めてくんない?それか、ラトナ公国大使館だっけ?ジョーちんの紹介で大使館に泊まらせてくんない?マジ、一生のお願いだから!ゾーイも公園での野宿はもうしたくないって言うしさぁ~?ねぇ、お願い、ジョーちん!」
スロウが両手を合わせて、僕に宿を紹介してくれと言ってきた。
「敵かもしれないお前を、僕と同じ宿に泊めるわけにはいかないだろ?危険人物かもしれないお前を大使館に入れて問題でも起こったら、僕の信用問題に関わる。適当な宿をとってやるから、そこに泊まれ。ってか、お仲間は馬鹿でかい刑務所を占拠したそうだし、刑務所の一番良い部屋で寝泊まりさせてもらえよ。」
「だから、ウチは敵じゃないから!アイツらとはもうつるんでないから!刑務所に泊まるとか、絶対嫌だから!ジョーちん、ウチとゾーイは今、本当に味方が誰もいないんよ!ジョーちんだけが頼りなんよ!ウチとゾーイはジョーちんのこと、マジで友達だと思ってる!もし、ジョーちんが元「弓聖」たち一行の討伐に困っているなら、ウチらも手を貸すから!ジョーちんはウチとゾーイのことが嫌いなん?ウチらのこと、友達になりたくないって、そう思ってるの?」
スロウが悲し気な表情を浮かべながら、僕の方を見てきた。
僕は判断に迷った。
スロウは元「弓聖」たち一行に協力する堕天使たちの片割れだ。
ほとんど縁を切ったと言っているが、スロウが敵である可能性が無くなったわけではない。
しかし、スロウの言っていることが仮に全て事実だった場合、追っ手に追われている上、無一文の女の子を放り出すことになりかねない。
スロウを他のパーティーメンバーたちに紹介し、スロウに常に監視をつけ、彼女の行動を見張らせることで、仮に僕たちを裏切るような行動をとった場合は、容赦なく殺す。
僕は思案した後、スロウに言った。
「好きか嫌いかは判断しかねる。が、お前やゾーイを放置するわけにもいかない。お前をラトナ公国大使館まで案内してやる。僕の仲間たちも紹介しよう。言っておくが、くれぐれも僕の仲間たちに妙な手出しはしないように。刺激するようなことも言うなよ。僕の仲間たちは僕よりもはるかに強い。本気で怒らせたら、この国ごとお前を消滅させるくらいの力を持っている。僕が今言ったことを守れるなら、大使館に泊まれるよう、話をつけよう。宿泊費はタダだ。どうだ?」
僕の提案に、スロウは大喜びして答えた。
「守る、守る~!ジョーちんの言う通りにするから!ありがとう、ジョーちん!これでやっとフカフカのベッドで眠れる!お風呂にも入れる!ジョーちんはウチらの恩人、マジ、ずっ友だっしょ!それじゃあ、お世話になりま~す!」
「本当に守れよ?トラブルは絶対に起こすなよ?じゃあ、大使館に行くぞ。付いてこい。」
僕はそう言うと立ち上がり、スロウとともに席を立った。
それから、ジャンボパフェの会計をレジで済ませると、僕たちはスイーツ店を出た。
僕はスロウと少し大通りを歩くと、途中で路地裏へと入った。
「スロウ、今から認識阻害幻術をかける。簡単に言うと、姿を消す。僕がラトナ公国大使館にいることは、ゾイサイト聖教国の連中には秘密にしているんだ。ゾイサイト聖教国やリリア聖教会の奴らとは絶対に関わらないと決めている。すでに敵対してしまっているが。リリアの狂信的信者たちとは極力、関わりたくないんだ。分かるだろ?そういうわけだから、今後は姿を消して基本、一緒に行動してもらう。良いな?」
「OK!姿を消せるとか、そんなこともできるんだ、ジョーちんは。マジ、凄いねぇ。ウチも姿消せるなら、その方が楽だわ。じゃ、よろしくね。」
僕は右手を突き出し、霊能力のエネルギーを込めると、認識阻害幻術を僕たちの全身に施した。
僕の右手から、薄い透明な膜のようなモノが発生し、僕たちの全身を包み込んだ。
「これで、僕も君も完全に姿は消えた。僕と君、後、僕のパーティーメンバーたち以外に、君を認識することはできない。じゃあ、行こうか。」
「ほぇ~。こりゃ、便利だわ~。通りにいる奴ら、全然ウチらのこと、見向きもしねえし。これなら、誰にも見つからず、いつでも外でお昼寝できるし。マジ、最高じゃん。」
「感想は良いから、とにかく行くぞ。」
「はいはい。もう、ジョーちんってば、せっかちなんだから~。うりゃ。」
スロウが僕の左腕に、自分の右腕を絡め、腕を組んで、僕によりかかってきた。
「おい、歩きづらいんだが?何でまた腕を組まなきゃ?はぁー、分かった。もう好きにしろ。ただ、大使館の前に着いたら、腕を離せよ。仲間に誤解されたくないから。」
「了か~い!どうせ周りからは見えてないんだし、腕組むぐらい大したことじゃないって。それに~、ウチら一応デートの帰りなんだし、良くない?ジョーちん、ホント、真面目過ぎ~。」
僕は仕方なく、またスロウと腕を組むことになった。
ギャルのテンションとかノリとか、本当に良く分からない。
陰キャぼっちのコミュ障で、ギャルに対する理解に乏しい僕には、ダウナー系ギャルのスロウのノリや考え方が、いまいち分からない。
本来、僕と対極に位置するこのギャルという存在を理解せよ、というのは難しい話である。
異世界に来てからは、守るべき善人か、復讐すべき異世界の悪党か、そういった基準の下、人間を判断している上に、元々人間の感情の機微に疎い僕にとっては、ギャルという存在は理解に苦しむ存在である。
とりあえず、一緒に過ごして観察してみないことには、僕にはスロウのことはよく分かりそうにはない。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にかラトナ公国大使館の傍まで帰ってきていた。
「スロウ、目の前に見える朱色の建物がラトナ公国大使館だ。いい加減、腕を組むのを止めろ。」
「ええー、嫌だー。ゾーイも嫌だって言ってる。初めて会う人の前だと不安で緊張するって言ってるよ~。友達の友達は友達じゃない、でしょ、ジョーちん?ウチも心細くて不安だなぁ~。」
「本当にゾーイがそう言っているのか?なら、絶対に僕のパーティーメンバーの前で変な誤解を生むようなことだけは絶対に言うなよ?普通に自己紹介をしろ。お前を連れて来た経緯については僕から説明する。余計なことは絶対にするなよ。僕との約束、ちゃんと守れよ。」
「うん、OK!」
いまいちスロウの言うことが信用できない、僕であった。
僕とスロウはラトナ公国大使館の中へと、姿を消したまま正面の入り口から入った。
門をくぐり、敷地内を通過し、僕とスロウは大使館の中へと入った。
僕はまず、一度認識阻害幻術を解除し、スロウを大使に引き合わせ、ラトナ公国への亡命希望者と紹介した。
それと、大使館へのスロウの宿泊許可をもらい、スロウの泊まる部屋を用意してもらった。
大使との話を終えると、ふたたび認識阻害幻術を自分たちにかけ姿を消すと、僕は自分の泊まっている部屋へと向かった。
時刻はちょうど午後5時。
予定では、偵察を終えたパーティーメンバーたちも帰って来て、パーティーメンバー全員が僕の部屋に集合しているはずであった。
僕は自分の部屋のドアを開ける前に、隣で腕を組むスロウに言った。
「ここが僕の泊まっている部屋だ。部屋の中には他のパーティーメンバーたちが集合している。絶対に、絶対に変に誤解されるようなことは言うなよ。絶対だぞ。」
「分かってますってば、ジョーちん。もっとウチのことを信用してよ。ウチら、友達なんだからさぁ~。」
「本当に頼むぞ。それじゃあ、開けるぞ。」
僕は自分の部屋のドアを開けた。
部屋の中には、予定通り、玉藻たちパーティーメンバー全員が集まっていた。
「ただいま、みんな。時間通りだね。実はみんなに色々と報告しなきゃいけないことがあるが、まず、紹介したい人物がいる。僕の隣にいるこの女性はスロウラルド。今回の元「弓聖」たち一行の討伐に関する有力な情報を持っている人物で、少々訳ありでもあり、身柄を保護することになった。ほら、スロウ、みんなに挨拶しろ。」
僕とスロウが腕を組んで部屋の中に入った瞬間、メル以外のパーティーメンバーの顔が強張り、不機嫌そうな表情に変わったのが見えた。
僕が内心ヒヤヒヤしていると、スロウが満面の笑みを浮かべ、僕の腕をぐっと抱き寄せ、それから左手でピースサインをしながら、パーティーメンバーたちに向かって自己紹介をした。
「ども~。初めまして。ウチ、スロウラルドって言いま~す。スロウって呼んでっしょ。後、ジョーちんの彼女で~す。よろぴく!」
スロウの一言多い自己紹介を聞いた途端、玉藻たちパーティーメンバーの顔が一気に赤くなり、怒りの表情へと変わった。
メルは状況がよく分かっていないようで、僕とスロウの方を黙って不思議そうにジッと見つめている。
「丈様、その不埒な女は何者です!丈様と馴れ馴れしく腕を組み、丈様の恋人を勝手に名乗るなど、不敬です!今すぐ丈様から離れなさい、この不埒者!」
「おい、そこのクソビッチ!俺の前で丈の恋人を名乗るとは、良い度胸してるじゃねえか?今すぐ丈から離れねえと、そのピンク色の脳みそが詰まった頭、ぶっ潰すぞ!」
「丈君から離れろ、淫乱クソビッチ!離れないと言うなら、その腕を今すぐ斬り落として抹殺する!」
「どこの馬の骨とも分からん輩がジョー殿の恋人を勝手に名乗るなど不届き千万!我が剣にて成敗してくれようか!」
「このアタシを差し置いてジョーの恋人を名乗りやがって、ふざけんじゃねえぞ、性悪クソビッチ!今すぐアタシの槍で串刺しにしてやるじゃんよ!」
「闇の女神にして正妻であるこの妾の前で婿殿と腕を組み、婿殿の恋人を名乗ろうとは良い度胸だ、ええっ、淫乱で下等な堕天使の女よ!今すぐ宇宙の塵にして葬ってくれる!」
「ジョー様、その如何にもはしたない女性が堕天使とは本当ですか?何故、敵である堕天使がジョー様の恋人を名乗っているのです?どうか納得のいくご説明をお願いします!」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌが、怒りの形相を浮かべながら、スロウを睨みつけるとともに、僕に説明を求めてきた。
「スロウ、お前、僕と約束したよなぁ~!普通に自己紹介すると!何で僕の彼女だなんて、余計な嘘をついた!?本当に今からでも追い出すぞ!」
「ええ~!?でも~、ウチとジョーちんは一緒にデートしたじゃん!さっきのお店でも、ウチらカップルですかって、聞かれたじゃん!それに~、ウチに比べたらみんな、胸小っさいじゃん!ウチのKカップの感触、楽しんでたじゃ~ん!もう、ウチがジョーちんの彼女で決まりっしょ!」
「丈様、その不埒な女とデートをしたというのは本当ですか?その女性の胸を触って楽しんでいたとは、一体どういうことです?今までどこで、何をやっていたんですか?」
「ご、誤解だ、玉藻!?みんなも勘違いするな!僕は情報収集の仕事をしていたし、囮役の仕事もこなしていた!スロウと出会ったのは偶然だし、情報提供の見返りに、無一文で空腹のコイツにジャンボパフェを奢っただけだ!ここに連れて来たのも、スロウが元「弓聖」たち一行の討伐に協力したいと申し出てきたからだ!いいから離せ!」
僕はむりやりスロウの腕を外した。
「あ~ん。ジョーちんの意地悪。行けず。」
僕がスロウと腕を組むのを止め、事情を説明すると、玉藻たちはホッとした表情を浮かべた。
「イヴ、すまないが、念のため、このスロウを千里眼で調べてみてくれ。本人は、ゾーイ・エクセレント・ホーリーライトという名前の少女と融合したと言っているが、鷹尾たち一行が化けている可能性もある。鑑定を頼む。」
「了解だ、婿殿。ふむ。確かに、その堕天使の言うことは事実だ。その堕天使はゾーイ・エクセレント・ホーリーライトという少女と融合し、体を共有している。元「弓聖」たちが化けているわけではない。例の、単独行動している堕天使とやらがコヤツなのか?」
「ありがとう、イヴ。イヴの言う通り、コイツが単独行動している堕天使だ。名前はスロウラルド。時間を操る能力を持つ、怠惰の堕天使だ。本人は他の堕天使たちとはつるむのを止めたと言っている。元の体の持ち主、ゾーイは、「白光聖騎士団」の総団長の妹で、実家から家出した、正確には虐待をしてくる毒親や兄たちから逃げ出してきた身らしい。実際にゾーイの兄と父親に会ったが、正真正銘、救いようのない人間のクズだった。両方ともこの手でぶちのめしてきたが。スロウは堕天使たちやホーリーライト家から追われている身らしく、他に頼れる当てもないので、僕たちに身柄の保護を頼んできた。すでに大使には亡命希望者として受け入れる許可はもらってきた。スロウは見ての通り、性格に多少難はあるが、僕たちの協力者となることを表明している。彼女から元「弓聖」たち一行や他の堕天使たちに関する貴重な情報をもらってきた。今回の事件の根幹に、そもそもの事件の原因があのクソ女神のリリアのせいだと言うことも聞いた。スロウは今回の事件の重要な証人でもある。みんな、とにかく、スロウとゾーイの二人を受け入れてほしい。頼む。」
僕はみんなに頭を下げて頼んだ。
「頭をお上げください、丈様。丈様を疑ってしまい、申し訳ありませんでした。事情は概ね理解いたしました。スロウさんとゾーイさんの身柄は
「ありがとう、玉藻、みんな。みんなには話さければいけないことがたくさんある。ゾイサイト聖教国、リリア聖教会はとんでもない連中だった。この国のもう一人の巫女、聖教皇とか言う奴も、聖騎士団もリリアからの神託を捻じ曲げ、僕を利用しようとしてきて、おまけに言うことを聞かない僕を殺そうとまでしてきた、本当に人間のクズ、性根の腐った悪党どもだ。リリア聖教会の裏側、本性を僕はこの目で見た。リリア聖教会も僕たちの敵だ。そのこともこれから詳しく説明する。」
「リリア聖教会がジョー様の命を狙ってきた?そんな、まさか?それに、リリア様からの神託を、あのカテリーナ聖教皇陛下が捻じ曲げるなんて、一体、何がどうなって?」
「マリアンヌ、お前、どうやら、聖教皇とやらから相当、嫌われているようだぞ。僕の懸念通り、お前は聖教皇と聖騎士たちから命を狙われている可能性が高い。とにかく、僕の話を聞けば分かる。」
マリアンヌは、僕や自分がリリア聖教会から命を狙われていること、聖教皇が神託を捻じ曲げたかもしれないということを聞いて、ひどく困惑していた。
「うげっ!?や、闇の女神がいるし?リリアに封印されたって聞いてたけど、復活してるし?って、何でジョーちんのパーティーに闇の女神がいるっしょ?ジョーちんのこと、さっき、婿殿って言ってたし?ジョーちん、娘はいるけど結婚してないって、フリーだって言ってたっしょ?アレ、嘘だったん?女神の旦那に手を出したことがバレたら、ウチはまた地獄に落とされるかもじゃん?ジョーちん、どういうことか説明してよ~?」
スロウが、闇の女神であるイヴの存在に気が付き、僕の腕を引っ張りながら訊ねてきた。
「大事な話をしている時に、空気を乱すような質問をするな。僕は間違いなく独身だ。イヴが僕を婿殿と呼ぶのは、口癖というか、僕のことはいつもそう呼んでいるだけだ。お前はもっと空気を読めよ。マイペースすぎるぞ、本当。」
「そっか~。フゥ~、助かった~。じゃあ、ジョーちんと付き合っても問題ナッシングだね。」
「「「「「「「問題ある!」」」」」」」
メル以外の玉藻たち七人の女性メンバーが、スロウに向かって一斉に言った。
「パパ~、お姉ちゃんたち、どうして怒ってるの~?この緑色のお姉ちゃん、パパのお友達なの?」
不思議そうな表情で僕に訊ねるメルに、僕はメルを抱っこしながら答えた。
「メルにはちょっと難しい話かな~。緑色のお姉ちゃん、スロウお姉ちゃんが変てこなことばっかり言うもんだから、他のお姉ちゃんたちもパパみたいにちょっと困っているだけなんだ。でも、スロウお姉ちゃんはパパのお友達でお客様だから、メルもスロウお姉ちゃんと仲良くしてあげてね。ちょっとぐうたらで変なことも言うけど、根は良いお姉ちゃんだから。」
「分かった、なの!スロウお姉ちゃんとも仲良くします、なの!ちょっと変なお姉ちゃんだけど、メル、お友達になります、なの!」
「ありがとう、メル。メルは本当に優しくて良い子だなぁ~。変なお姉ちゃんだけど、仲良くするんだぞぉ~。」
「ウチは変なお姉ちゃんじゃないし!ジョーちん、娘に間違ったこと、教えるなだし!ウチが頭のおかしい奴みたいに思われるっしょ!メルちゃんだっけ、ウチはスロウラルド。スロウお姉ちゃんって呼んでね。あっ、スロウママでも良いからね。」
「メルのママはいないの。パパはいるけど。スロウお姉ちゃんとは初めまして、なの。」
「「「「「「「ぷっ(笑)」」」」」」」
メルとスロウのやり取りを見て、玉藻たち他のメンバーが一斉に笑った。
「メル、そのお姉ちゃんはちょっと頭がおかしいみてえだから、優しくしてやれよ。扱いに困った時は俺たちに相談しろ。」
「所詮、お頭空っぽの空気の読めない、ただの色ボケビッチと見た。私たちのママ争奪戦のライバルですらない見掛け倒しの小物。メルちゃん、変なお姉ちゃんに優しくしてあげてね。可哀想だから。」
酒吞と鵺が笑いながら、メルに向かって言った。
「う、ウチは可哀想な子じゃないから!お前ら、今に見ていろだし!ジョーちんのハートもメルちゃんのハートもがっちり掴んでみせるだし!ウチとゾーイの本気を舐めるなだし!後で吠え面かかせてやるっしょ!」
スロウが酒吞たち女性陣に向かって、宣戦布告をした。
酒吞たち女性陣は一瞬ムッとした表情も浮かべたが、スロウを見て、すぐに自信満々と言うか、余裕があると言うか、マウントをとったみたいな笑みを浮かべている。
「あの~、みんな、そろそろ本題に入らないか?全然、会議が進まない。スロウ、お前はしばらく黙っていろ。酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、それぞれ調査報告を頼む。」
僕はメルを抱っこしながら、椅子に座ると、情報収集を担当したメンバーたちに報告を指示した。
「じゃあ、まずは俺からだ。丈の指示通り、俺は首都の北側を調査した。首都の北側が元「弓聖」たち一行から被害を受けた様子はなかった。けど、首都の外では、元「弓聖」たち一行の手下と思われるヴァンパイアロードに家族を攫われた人間が大勢いて、国の北側のエリアは特に攫われた人間が多い、とゾイサイト聖教国の連中が話をしているのを耳にした。家族を攫われた奴らがこの国の政府や教会に陳情に言ったが、あっさりと追い返されたことに不満を抱いていて、いつ不満が爆発するか分からないとも言ってたぜ。女神からの神託を果たすためなら、元「弓聖」たち一行を討伐するためなら、人質が犠牲になってもやむを得ない、なんて、コソコソ陰で言ってる連中もいたぜ。丈の言う通り、リリア聖教会の連中は人間のクズだぜ。最悪、人質諸共、元「弓聖」たち一行を討伐しようなんて、胸糞悪いことを考えているようだ。リリア聖教会と手を組むべきじゃないと俺は見た。俺からの報告は以上だ。」
酒吞が調査内容を報告した。
「次は私から報告する。私は首都の南側を担当した。首都の南側は被害を受けている様子はなかった。でも、首都の外に出ると、国の南側では、ヴァンパイアロードたちに攫われた人間たちが大勢いると、住民が話をしているのを聞いた。空を飛んで、元「弓聖」たち一行が占拠したという、国の南西にあるシーバム刑務所を見に行った。刑務所自体は高い山の上にあって、100mくらいの高さの塀に覆われていて、それと巨大な結界に覆われていた。空を飛べない限り、外部からの侵入はまず難しいと見た。恐らく、元「弓聖」たち一行は全員、空を飛べる。刑務所の中を覗こうとしたけど、窓には全てカーテンが敷かれていて、どの建物も中の様子は見えないようにしてあった。手下のヴァンパイアロードたちが日光を嫌うから、昼間日光が窓から入ってこないようにするためもあると思う。刑務所のある山の麓に聖騎士たちがいたけど、みんな怪我をしていて、疲弊している様子だった。山を登るだけでも大変だし、元「弓聖」たち一行とヴァンパイアロードたちに苦戦して、刑務所奪還作戦も人質救出作戦も全て失敗していると、聖騎士たちは言っていた。現状の聖騎士団の戦力では、元「弓聖」たち一行に対抗するのは難しいと見えた。私からの報告は以上。」
鵺が調査内容を報告し終えた。
「次は我から報告する。我は首都の西側を調査した。首都の西側は特に被害を受けている様子はない。だが、一歩首都を出ると、国の西側のほとんどの町や村がヴァンパイアロードたちによって襲撃を受け、被害を受けていると言う話を耳にした。ヴァンパイアロードたちによって人質として大勢の人間たちが攫われたのも同じだ。西側の防衛に当たっている聖騎士たちや冒険者たちが、交戦した際、ヴァンパイアロードたちが、攫った大人たちは食料にするだの、大事なエネルギー源だの、刑務官たちは血を吸い尽くして殺しただの、言っていたそうだ。恐らく、攫われた人質たちの内、5万人の大人たちは人質兼ヴァンパイアロードたちの食料として攫われた可能性があると思われる。刑務所の刑務官たちは全員、血を吸われて殺害されたと思われる。最悪の場合、5万人の人質たちの救出はできないことを、人質たちの中からヴァンパイアロードたちに血を吸われて犠牲になる者たちが出ることも覚悟する必要がある。人質たちが死ねば、奴らはまた、血を吸うため、別の人間を襲おうともしてくるはずだ。一刻も早く、人質たちの救出と、ヴァンパイアロードたちの討伐を行う必要があると見た。我からの報告は以上である。」
エルザが調査内容を報告し終えた。
「じゃあ、次はアタシから。アタシはジョーの指示通り、首都の東側を調査した。首都の東側も他のところと同じで、今のところ元「弓聖」たち一行のせいで被害を受けている様子はないぜ。けど、首都の外、国の東側は手下のヴァンパイアロードたちのせいでどこも被害を受けていると、住民が話をしていたぜ。それと、気になる話を耳にしたぜ。アメジス合衆国からこのゾイサイト聖教国に巡礼に向かったはずの家族が、突然、失踪したって言って、首都の東側の入り口や、東側の通りで、何人かが失踪した家族の人相書きのビラをまいて、探し回っていたじゃんよ。ゾイサイト聖教国に着いたって連絡を残したのを最後に、一切音沙汰なしだとも言っていた。恐らく、他人を殺して別人になりすまして潜伏していたかもしれねえ、元「弓聖」たち一行の犠牲に、失踪した連中はなった可能性があるじゃんよ。それから、この国のブラックマーケットが近くにあったもんだから、ちょいと探ってみたら、面白いモンを見つけたじゃんよ。」
グレイはニヤリと笑いながら、腰のアイテムポーチから、黒いゴムのようなペラペラのレザー製の布を取り出して、僕たちに見せた。
「グレイ、その黒い布は一体、何だ?」
「コイツはブラックマーケットの違法な武器や装備を扱っている武器店からこっそりいただいてきた代物だ。コイツは、ドッペルゲンガーマスクって言うらしくて、ドッペルゲンガーの皮を加工して作った変装用のアイテムらしいぜ。闇ギルドの殺し屋どもがよく買って使うそうだ。何でも、生きた人間の血をこのマスクの表面に塗って被ると、首から上の部分が全く別人になれるってアイテムらしい。顔も髪型も声も、完全に別人になれるのが売りらしいぜ。けど、効果は一週間しか持続しないらしくて、一週間以内に別の人間の血を塗らないと、マスクが壊れちまう欠点があって、基本使い捨ての変装用アイテムらしい。けどよ、このマスクを元「弓聖」たち一行がどこかの闇ギルドで買って、コイツを使ってずっとゾイサイト聖教国に潜伏していたと考えたら、例の「フェイスキラー連続殺人事件」とやらの犯人が元「弓聖」たち一行である可能性は高いぜ。一週間おきに人間が顔を潰されて殺された理由は、コイツを使って変装していたから、そう思えなくもないじゃんよ。アタシからの報告は以上じゃん。」
グレイが調査内容を報告し終えた。
「グレイ、お手柄だよ。鷹尾たち一行が全員、そのドッペルゲンガーマスクを使って変装し続けるために、「フェイスキラー連続殺人事件」を起こしたと見て、間違いない。闇ギルドからお手軽な変装用の犯罪アイテムを買って、犯罪計画を実行する。実にあの犯罪オタクで頭の切れる鷹尾が考えそうな方法だ。ということは、堕天使の能力を使わなくても、人質たちや手下たちの顔を奪って、いつでも別人になりすませる、より巧妙な手段をアイツらは持っているのか。ステータスを鑑定できる装備をいくつか買って装備した方が良いな。ドッペルゲンガーマスクを使って逃亡される可能性がある。報告ありがとう、グレイ。」
「では、妾からも報告をしよう。婿殿の指示通り、妾はリリア聖教会の本部が入っている、首都の中心に立つ、あの悪趣味な白い宮殿へと潜入した。あの宮殿の地下には、元「弓聖」たち一行が占拠した刑務所へとつながる、転移用の魔法陣があった。現在は使用できないよう、処置が施されているため、刑務所から元「弓聖」たち一行の軍勢が魔法陣を通って首都を襲ってくることはない。魔法陣のある部屋の前には、「祈祷士」とか言う、少々変わったジョブの持ち主たちが数人いて、結界を張っていた。リリアへの信仰心が強ければ強いほど、リリアの敵となる存在の侵入を完全に防ぐことのできる防御用の結界を張れる、というジョブらしい。人間の形をした防御用結界展開装置とも言うべきか。リリアやリリア聖教会を守るためだけに作られた盾替わりの人間とは、見ていて実に気分が悪くなるジョブであった。リリア聖教会、正確にはゾイサイト聖教国だが、今から2年ほど前にリリアから神託を独自に授かり、リリアより来る魔族たちとの戦争に向け、軍備を強化するよう命令されたそうだ。そして、これまでの二年間で軍備増強、拡大を行い、魔族を殲滅するための兵器の開発、大量生産に成功したそうだ。セイクリッドオリハルコンと呼ばれる特殊な合金、それを使った武器や防具、聖武器のレプリカまで作ったらしい。さらには、ミストルティンという名前の大量破壊兵器まで製造していたぞ。軍備を開発する研究所が宮殿の近くにあり、そこにあった。一見、白い金属製の矢にしか見えないが、一本の矢に、強力な炎の魔法と膨大な魔力が込められていて、矢の着弾地点から半径1㎞以内を完全に燃やし尽くし、焦土と化す威力があると、研究資料には書いてあった。実際にこの目で実物も確認したが、確かに資料通りの破壊力がある。セイクリッドオリハルコン製で従来の金属は軽く貫通する上、矢筒に入れて持ち運ぶこともできる。使い方によっては、対人戦でも大きな成果を出すことが可能である。このミストルティンと呼ばれる大量破壊兵器が1万本も製造され、研究所の地下に保管してあった。あのような大量破壊兵器を、狂ったリリアの信者どもが治めるこの国が多数保有していて、見境なしに使われたら大変なことになる。まして、元「弓聖」たち一行の手に渡れば、大勢の人間が殺される最悪の事態になりかねん。それと、元「弓聖」たち一行の討伐が困難を極める場合、ゾイサイト聖教国は最終手段として、ミストルティンを使い、刑務所や人質たち諸共、元「弓聖」たち一行を殲滅することも考えているらしい。ミストルティンをゾイサイト聖教国が使う前に、元「弓聖」たち一行を妾たちで討伐する必要がある。妾からの報告は以上だ。」
イヴが調査内容を報告し終えた。
「報告をありがとう、イヴ。セイクリッドオリハルコンや、セイクリッドオリハルコンを使った聖武器のレプリカは、僕も聖騎士団と戦った際、確認した。武器自体の性能は大したことはなかったが、セイクリッドオリハルコンという新素材の金属は少しばかり厄介ではある。だけど、それよりも大量破壊兵器の方が問題だ。ミストルティンだったか。そんなとんでもない破壊力を持つ爆弾みたいな矢を、あのイカれた悪質宗教団体や聖騎士団が大量に持っていて、さらに敵対勢力の排除のために見境なく使ってきたら、連中のせいでどこもかしこも火の海にされる最悪の事態が起こりかねない。ミストルティンを奪取して、どこか安全な場所で秘密裏に処分する必要がある。元「弓聖」たち一行の討伐が終わったら、そのミストルティンは何としても破壊するぞ。悪党の手に大量破壊兵器を持たせるなんて、冗談じゃない。」
「最後に私から報告させていただきます、ジョー様。ご指示いただいた通り、各国に問い合わせ、シーバム刑務所の構造やセキュリティーシステム、収監されていた囚人たちに関する情報をできる限り集めました。シーバム刑務所ですが、鵺さんの報告にもあった通り、標高5,000mの切り立った山の頂上にあり、登山での刑務所への移動や、刑務所からの下山は、専用の登山の装備や、熟練した登山の経験がない限り、山を伝っての移動はほぼ不可能な場所だそうです。外部から完全に遮断された陸の孤島と呼べます。次に、刑務所の構造ですが、高さ100mを超える分厚い三枚の石壁の塀に囲まれ、外部からの侵入や攻撃、内部からの脱獄を阻むことが可能だそうです。この巨大な塀もあるため、外から刑務所内を覗くことは難しいそうです。刑務所全体は、刑務官たち外刑務所の職員たち以外は原則、通過することができない強固な結界で覆われているため、外部からの侵入や攻撃は本来ならば不可能とのことです。結界は、結界発生装置のセキュリティーシステムの登録内容を書き換えることで、結界を通ることのできる人間が自由に変更可能です。また、結界が破壊された場合、非常サイレンが自動的になる仕組みとなっています。尚、結界発生装置を開発されたのは、ラトナ公国のクリス大公殿下とのことでした。それから、シーバム刑務所には約5万人の囚人たちが収監されていたとのことです。囚人全員のリストは入手できませんでしたが、元S級冒険者や元A級冒険者、闇ギルドの構成員、暗殺者など、いずれも凶悪犯で死刑囚あるいは、終身刑の確定した犯罪者ばかりです。「暗殺者」のジョブとスキルを持つ重犯罪者たちが5,000人以上は収監されている上、世間で話題になった連続殺人犯や強盗殺人犯も多数、います。入手しました囚人のリストは後ほど、お渡しします。それと、これはあくまで私や各政府の方々の推測ですが、元「弓聖」たち一行が、シーバム刑務所の囚人たちを傘下に加えて率いている可能性があります。手下のヴァンパイアロードたちとは、シーバム刑務所に収監されていた囚人たちの変身した姿と思われます。私からの報告は以上になります。」
マリアンヌが調査内容を報告し終えた。
「報告をありがとう、マリアンヌ。冒険者ギルド本部で話に聞いた通り、かなり厄介な場所に立て込まれたな。外部から完全に遮断された、陸の孤島とも呼べる険しい山の上か。クリスの作った結界発生装置の結界を破るとは、鷹尾たちも中々、やるじゃないか。だけど、鷹尾たちに破れたなら、僕たちにだって破ることはできるはずだ。刑務所の構造やセキュリティーシステムは分かった。「暗殺者」のジョブ持ちの手下が5,000人以上もいるか。確かに厄介だが、対応できないことはない。囚人たちのリストは後でじっくりと拝見させてもらうとしよう。」
僕は一拍置くと、話を始めた。
「それじゃあ、僕からも報告をしよう。元「弓聖」たち一行と堕天使たちに関する情報は、そこにいるスロウから教えてもらった。堕天使たちの詳細な能力やスペック、元「弓聖」たち一行と堕天使たちがそれぞれ誰と融合したのかまで、一応僕の方で分析して、情報を整理したモノをノートに書いておいた。みんな、必ず目を通しておいてくれ。少なくとも、僕の想像以上に厄介で一癖も二癖もある能力ばかりだ。力押しで勝てる相手ではない。おまけに、全員がLv.200オーバーの怪物ばかりだ。対策や準備を練った上で、連中の相手をしなければ、連中を討伐することは難しい。元「弓聖」という厄介なブレーンまで付いているしな。」
僕は腰のアイテムポーチからノートを取り出し、メモを書いたページを開いて、玉藻たちパーティーメンバーへと渡した。
「それと、みんなに大事な話がある。僕は今日、ゾイサイト聖教国の冒険者ギルド本部を訪ねた。そこで情報収集をしていた時、僕を探して迎えに来たという、聖騎士団の精鋭部隊を名乗る、「白光聖騎士団」という連中に出会った。何でも、七人の隊長たちを含めて、所属する各聖騎士たちが全員、「七色の勇者」の血を受け継ぎ、勇者に匹敵するスキルを手に入れた史上最強最高の聖騎士なんだそうだ。そして、ここからが重要なんだが、この国の国家元首でもう一人のリリアの「巫女」、カテリーナ聖教皇という奴が、光の女神リリアから僕とともに元「弓聖」たち一行を討伐するよう、神託を授かったそうで、部下の聖騎士たちに命令して、僕を迎えに来させたそうだ。そこで聖騎士たちが神託の内容についてこう言ったんだ。「光の女神リリア様より、もう一人の「巫女」でインゴット王国王女、マリアンヌ姫を今回の元「弓聖」たち一行の討伐から必ず外すよう、指示を受けた。」と、聖教皇は聖騎士たちに神託の内容を伝えたそうだ。マリアンヌを元「弓聖」たち一行の討伐から外せ、なんて神託を僕たちはリリアからもらっちゃあいない。神託の内容はマリアンヌが一言一句ノートに記録し、みんなで確認したはずだ。もし、リリアが本当にマリアンヌを討伐から外そうと考えたなら、何故、事前に僕たちに伝えないんだ?何故、マリアンヌを討伐から外す必要があるんだ?それに、マリアンヌはリリアからの神託の内容には基本、真面目に従う性格だ。マリアンヌ本人にすぐに伝えれば、マリアンヌは必ずリリアの指示に従って、討伐から外れようと動くはずだ。なのに、わざわざ別の「巫女」の口からマリアンヌに討伐から外れるよう伝えさせるなんて、そんな誤解や衝突を生むことをどうしてリリアがするんだ?さらに別件で、カテリーナ聖教皇とやらが僕をゾイサイト聖教国専属の勇者としてスカウトしたい、ラトナ公国から引き抜きたいと言ったそうだ。ゾイサイト聖教国及びリリア聖教会のNo.2である、大枢機卿の地位を僕にくれて、あらゆる面で僕をサポートするとまで言ってきたそうだ。当然、僕は申し出を断った。リリア聖教会みたいな、いかにも怪しい宗教団体の手先になるなんて、僕は絶対に嫌だ。僕が申し出を断った上、聖騎士たちが僕を散々馬鹿にしてくるもんだから、少し言い返してやったら、いきなり逆切れして、僕に斬りかかってきた。僕を力づくでも聖教皇の下に連れて行き、僕をゾイサイト聖教国の勇者にするんだとか言ってな。まぁ、「白光聖騎士団」全員、再起不能になるまで全員ぶちのめして追っ払ったけど。さて、結論を言うと、ゾイサイト聖教国の聖教皇は女神リリアの「巫女」でありながら、リリアからもらった神託の内容を故意に捻じ曲げた。目的は恐らく、もう一人の「巫女」であるマリアンヌの排除と、僕とマリアンヌを引き剥がして、その隙に僕をゾイサイト聖教国の勇者として手に入れること、後は、マリアンヌへの敵対心あるいは殺意、そんなところだ。この国のトップ、聖教皇はリリア聖教会を私物化し、私利私欲のために行動し、目的のためなら手段を選ばない、リリアからの信託さえ捻じ曲げる、聖教皇の皮を被った不愉快極まりない外道だと、僕は判断した。「白光聖騎士団」の聖騎士たちも、無礼で品性の欠片もない、横暴でどうしようもない人間のクズばかりだ。七人の隊長の見た目と性格なんて、あの「七色の勇者」であるクソ勇者たちと瓜二つだった。死んだ連中が生き返ってきたかと思ったくらいだ。ゾイサイト聖教国、リリア聖教会本部は間違いなく、悪党の巣窟だ。僕たちの完全な敵だ。みんな、リリア聖教会の連中とも戦うことになることを覚悟しておいてくれ。僕からの報告は以上だ。」
僕からの報告を聞き、マリアンヌ以外のパーティーメンバーたちは全員、殺気立ち、怒りを露わにした。
マリアンヌに関してはひどく混乱している。
「女神からの神託を捻じ曲げ、己の私利私欲を満たそうとするなど、言語道断です!まして、私たちの大切な主である丈様を利用しようとし、要求を断れば、命さえ狙おうとしてくるとは、絶対に許しません!聖教皇もリリア聖教会も後で必ずこの手で全員、始末いたします!」
「クソ宗教が!元「弓聖」たち一行の討伐を自分たちの目的のために利用しようだとか、俺たちの大事な丈を傷つけようとしてくるとは、俺は絶対に許さねえぞ!この俺の手で全員、ぶっ潰してやらぁー!」
「リリア聖教会はゴミ宗教の悪党どもの集まり!丈君を殺そうとした!それだけで万死に値する!聖教皇のクソ女も、聖騎士のクズどもも、全員バラバラに斬り刻んで抹殺すべし!」
「邪悪な女神に仕える者もやはり邪悪な悪党どもであった!世界の危機を己の私利私欲のために利用し、ジョー殿とマリアンヌ殿を亡き者にしようとは、絶対に許すわけにはいかん!リリア聖教会、宗教団体の皮を被った悪党どもの悪事を暴き、全員、我が剣にて成敗してくれる!」
「アタシらの邪魔をしてくるわ、ジョーを殺そうとしてくるわ、アタシはマジで切れたじゃんよ!聖教皇もリリア聖教会も、アタシの槍で串刺しにして、全員地獄に落としてやるじゃんよ!」
「あの馬鹿女を崇拝する邪教の信徒どもめ!婿殿の命を狙ってこようとは、絶対に許さんぞ!元「弓聖」たち一行の討伐が終わったら、宮殿ごと妾のブラックホールで消し去ってくれる!闇の女神の夫に手を出したこと、たっぷりと後悔させてやろうぞ!」
「リリア聖教会もマジで腐ったもんだねぇー!ウチもゾーイも聖騎士たちには恨みがあるし、ジョーちんを殺そうとしてきたこともマジ、許さねえから!マジで皆殺しにしてやるっしょ!」
「パパを殺そうとしたなんて、絶対に許さない、なの!白い服の人たちは、みんな、やっつけちゃえばいいなの!」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、スロウ、メルが、リリア聖教会への怒りをそれぞれ口にした。
「元「弓聖」たち一行を討伐しなければならない、この一大事に、リリア聖教会のトップである、あのカテリーナ聖教皇陛下が、リリア様からの神託を捻じ曲げ、私やジョー様の命を狙う暴挙を起こそうとは!カテリーナ聖教皇陛下はご乱心であるとしか、言いようがありません!リリア様がこのことをお知りになれば、どれだけお怒りになることか!?インゴット王国やラトナ公国、いえ、世界中を巻き込む騒動になりかねません!カテリーナ聖教皇陛下に直接お会いして真意を確かめたいところですが、現状は難しいとしか言えません!今は元「弓聖」たち一行の討伐に注力し、それから、カテリーナ聖教皇陛下やリリア聖教会、ゾイサイト聖教国政府に説明を求める必要がございます!ジョー様、皆様、リリア聖教会への武力行使はどうか、待っていただけますでしょうか?各国首脳の立ち合いの下、今回のゾイサイト聖教国政府及びリリア聖教会本部の一連の行動について、カテリーナ聖教皇陛下に問いただす必要があると考えます!ジョー様のお命を狙った行動には私も疑問と怒りをおぼえています!リリア様がリリア聖教会の解体を命じる可能性も否定できません!どうか、猶予をいただけますでしょうか?」
「マリアンヌ、お前の言うことも一理あるが、僕とお前は間違いなく、連中から嫌われていて、命まで狙われている可能性が濃厚だ。リリアからの神託を捻じ曲げるような連中が、自分たちの悪事の真相を素直に白状するとは思えんぞ?リリアから組織解体を命じられても、素直に応じるわけがない。毎年、世界中から何兆リリアもの大金を寄付金という名目でせしめている、悪党が運営する、悪質な宗教団体だぞ?僕やお前に恨みを抱き、解体後も秘かに秘密結社とか作って、裏から新しい政府や組織を支配したり、僕たちに報復してきたりする可能性がないとは言えないだろ?リリア聖教の信徒の中には、善良な市民が、ごく普通の人たちだっていることは僕も知っている。だけど、リリア聖教会本部は話し合いでどうにかできる相手じゃない。なら、これ以上、事態が悪化する前に、聖教皇やリリア聖教会の首脳陣、連中に与する聖騎士たちだけでも潰しておいた方が良い。その方が最短で確実に効果がある手段だ。すでに向こうは僕たちに刃を向けてきた。リリアが止めに入る前に、また襲われる可能性は高い。元「弓聖」たち一行の討伐が終わり、その後のリリア聖教会の動きに応じて、多少の報復措置で済ませることもできるかもしれないが、僕には連中とは全面対決になるとしか思えないんだよなぁ。あの聖騎士たちの悪態ぶりからして、武力行使で解決する方向にしかならない気がする。まぁ、お前の意見も一応、頭の中には留めておく。けど、リリア聖教会の連中がまた攻撃してきたら、僕は容赦なく連中を今度こそ殺す。お前も戦う覚悟を決めておけ。道半ばで死にたくなかったらな。」
僕の忠告に、マリアンヌは暗い表情を浮かべ、俯き、悩むのであった。
「みんな、今日は一日お疲れ様。会議はこれで終了だ。みんな、各自の部屋でゆっくりと休んでくれ。元「弓聖」たち一行を討伐する作戦とスケジュールについては、僕の方で考えておく。僕たちは全員、元「弓聖」たち一行とリリア聖教会に命を狙われている。認識阻害幻術で姿を隠しているが、決して油断しないでくれ。外出する場合は、他のメンバーに連絡してから、二人以上で外出するように。極力、外出はしないことが望ましい。それじゃあ、解散。」
僕はパーティーメンバー全員に、会議を終えることを告げた。
会議が終了すると、各メンバーは自分たちの部屋へと戻っていった。
他のメンバーたちが部屋を出る直前、僕は玉藻とイヴに声をかけた。
「玉藻、イヴ、ちょっと良いかな?」
「何でしょうか、丈様?」
「どうした、婿殿?」
僕は声を潜めながら、二人に話しかけた。
「スロウのことなんだが、鷹尾たちが化けていないとは言え、アイツは一応、堕天使の一人だ。今のところ、不審な部分はないが、念のため、行動を監視しておいた方が良いと思うんだ。それに、スロウは気まぐれなところがある。僕たちの指示を無視して、危険な状況に陥らないとも限らない。二人にさりげなく、スロウの行動に目を見張っていてほしいんだ。僕も一応、目を光らせるつもりだ。本人はしばらくここで好きに食っちゃ寝したいと言って、動くつもりはないとも言っているが、ちょっと心配でね。お願いできるかな?」
「かしこまりました、丈様。少々、あの方は自由奔放なところがあるようですし、監視しておいた方が良いでしょう。お任せください。」
「婿殿の頼みとあれば、喜んで引き受けよう。あの生意気な堕天使の小娘はどうも抜けているところがある。婿殿が心配するのも分からなくもない。全く、婿殿はいつも変わった連中ばかりを引き寄せるところがあって、困ったものだ。まぁ、妾はそれも婿殿の良さの一つだとは思うが。」
「ありがとう、玉藻、イヴ。スロウのこと、よろしく頼むよ。できれば、リリア聖教会のイカれた悪党どもなんかとも関わり合いにはなりたくないんだけどね、僕は。異世界でも人間のクズや悪党と嫌でも関わり合いになるのは、僕の逃れようのない運命、いや、呪いなのかな。自分でも嫌になるよ、本当に。」
僕は苦笑しながら、二人に答えてみせた。
スロウという協力者を迎え入れ、元「弓聖」たち一行の討伐に必要な情報も集まった。
リリア聖教会という、新たな敵に関する情報もだ。
元「弓聖」たち一行も、リリア聖教会も、聖教皇も、聖騎士たちも、異世界の悪党ども全員に、僕は復讐して地獄に叩き落す。
情報はすでに集まった。
後は、悪党ども全員に復讐する準備を整えるまでだ。
僕は異世界の悪党どもへの復讐計画を進めるべく、自室で一人考えを巡らせるのであった。
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