第六話 【処刑サイド:ゾイサイト聖教国聖教皇&白光聖騎士団】女教皇、白光聖騎士団が「黒の勇者」に喧嘩を売ったと知り激怒する&白光聖騎士団、全員、破門され、全てを失う

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈と、主人公率いる「アウトサイダーズ」が、元「弓聖」たち一行を討伐するため、ゾイサイト聖教国の首都へと到着した日のこと。

 冒険者ギルド本部にて、聖騎士団の精鋭部隊「白光聖騎士団」と遭遇した主人公であったが、聖騎士たちに馬鹿にされ、さらにリリア聖教会が神託を捻じ曲げ、自分を勇者としてスカウトし利用することを企んでいると知り、聖騎士たちからの申し出を、皮肉の言葉を添えて全力で拒否した。

 逆切れした「白光聖騎士団」の聖騎士たちが主人公を攻撃してきたため、敵対することになった主人公は「白光聖騎士団」と交戦し、「白光聖騎士団」の聖騎士たちを全員、再起不能にするまで、ボコボコにぶちのめし、返り討ちにしたのであった。

 その日の午後3時頃。

 ゾイサイト聖教国の首都にある、壁や柱などが白一色の、外見がバチカン宮殿によく似た、巨大な白い宮殿に、光の女神リリアを崇拝、信仰するリリア聖教会の本部が入っていた。

 そして、宮殿の謁見の間にある玉座に、白い法衣を身に纏い、金色の教皇冠を頭に被った一人の女性が両目を閉じて、静かに座っていた。

 その女性の名前は、カテリーナ・イーディス・ゾイサイト。ゾイサイト聖教国の国家元首兼リリア聖教会の最高責任者で、聖教皇を務める女性である。

 また、インゴット王国王女のマリアンヌ同様、光の女神リリアからの神託を授かることのできる、もう一人の「巫女」でもある。

 カテリーナは玉座に座り、目を瞑りながら、一人呟いた。

 「先ほど、「黒の勇者」様らしき男性が首都の大通りを歩いているとの知らせが入ってから、ちょうど2時間ほどが経った頃でしょうか?突然、この国に現れたのは驚きましたが、無事、サーファイ連邦国から我が国に到着したようで何よりです。後は、「白光聖騎士団」が「黒の勇者」様を無事、お出迎えし、わたくしの下にお連れしてくれれば、私の計画は実現したも同然です。「黒の勇者」様を我が国の勇者として迎え入れる準備もすでに整っています。直接お会いするのが楽しみです。」

 カテリーナは「白光聖騎士団」が無事、自分の下に「黒の勇者」を連れて来て、「黒の勇者」と会えることを心から楽しみに待ち、口元に笑みを浮かべていた。

 そんなカテリーナの前に、50代前半の豪華な法衣を着た、大枢機卿の男性が慌てた様子で駆け込んできた。

 「ゲホっ、ゲホっ、せ、聖教皇陛下、大変です!国の一大事が起こりました!どうか、落ち着いて私の話を最後までお聞きください。」

 カテリーナは目を見開き、大枢機卿の男性の方を見た。

 「何だ、軍務大臣よ?余は今、「黒の勇者」様を出迎える用意で忙しい。国の一大事とは何だ?先ほど感じた地震のことか?それとも、元「弓聖」たち一行の討伐に派遣した部隊に被害が出たのか?」

 「陛下の仰る地震も関係がございます。落ち着いて聞いてください。「黒の勇者」様と「白光聖騎士団」が一時間半ほど前、首都の冒険者ギルド本部にて接触いたしました。出迎えに行ったアーロン総団長率いる「白光聖騎士団」なのですが、実は、「黒の勇者」様に対し、言葉に出すのもはばかれるような罵詈雑言を浴びせ、「黒の勇者」様を馬鹿にし、民衆の前で辱めるような行為を行ったとのことです。「白光聖騎士団」の態度に「黒の勇者」様は大変激怒され、アーロン総団長率いる各隊長たちと口論になったそうです。そして、あろうことか、アーロン総団長が「黒の勇者」様を逆恨みし、私闘が禁止されている冒険者ギルド内にて剣を抜き、「黒の勇者」様に斬りかかったとのことです。幸い、「黒の勇者」様はかすり傷一つ負わず、ご無事でした。しかし、「白光聖騎士団」に剣を向けられ、喧嘩を売られたと判断した「黒の勇者」様が「白光聖騎士団」に正当防衛を主張され、「白光聖騎士団」の聖騎士たち、総勢3,500名の聖騎士たち全員が、「黒の勇者」様の逆鱗に触れ、全員、再起不能になり、瀕死寸前の重傷を負わされ、壊滅寸前に追い込まれました。「黒の勇者」様の怒りのほどは凄まじく、首都に雷を落とし、冒険者ギルド本部を瓦礫の山へと変え、首都内に地震を引き起こすほどの、鬼神の如き怒り様だったとのことです。「白光聖騎士団」との交戦を終えた「黒の勇者」様はそのまま、フラリと何処かへ立ち去ってしまったとのことです。尚、問題を起こした「白光聖騎士団」は現在、首都の中央病院に全員搬送され、治療を受けていますが、全員、ベッドから動かすことさえできない重傷だとのことです。国民は「白光聖騎士団」が「黒の勇者」様を辱め、激怒させたことに対する怒りや不満を吐き、一部の国民や貴族たちが陛下や「白光聖騎士団」に説明責任を求める苦情を寄せております。「黒の勇者」様に我がゾイサイト聖教国は見捨てられた、元「弓聖」たち一行の討伐はできなくなった、そう悲観する国民も現れ始めております。聖教皇陛下に申し上げます。早急に「黒の勇者」様を見つけ、「黒の勇者」様に謝罪するとともに、ラトナ公国を含む世界各国に釈明する必要がございます。問題を起こした「白光聖騎士団」に対して、早急に厳罰を下す必要がございます。このままでは、我が国はインゴット王国同様、「黒の勇者」様に刃を向け、殺そうとした、女神リリア様を冒涜する存在と世界中に認識される大不祥事に発展いたしかねません。すぐにでも行動を起こさねば、世界中の信者たちから顰蹙を買いかねません、陛下!?」

 軍務大臣からの衝撃的な報告を聞き、カテリーナは目を丸め、口を開き、あまりのショックに、しばらく思考がフリーズし、玉座の上で固まってしまった。

 それからハッと意識を取り乱すと、混乱と怒りで、カテリーナはヒステリックを起こしたかのように、怒り狂った。

 「く、「黒の勇者」様を侮辱し、逆恨みで斬りかかっただと!?「白光聖騎士団」は何と愚かなことをしたのだ?真の勇者である「黒の勇者」様を激怒させ、喧嘩を売り、全員返り討ちにあって、壊滅させられただと!?「黒の勇者」様が我がゾイサイト聖教国を見捨てて立ち去った!?そ、それでは、元「弓聖」たち一行の討伐はどうなるのだ!?こ、このままでは、よ、余も、ゾイサイト聖教国も、リリア聖教会も、リリア様の怒りを買って、リリア様に見捨てられることになりかねない!?「白光聖騎士団」、あの出来損ないの若造どもがぁーーー!?軍務大臣、直ちに「黒の勇者」様の行方をお探しせよ!「黒の勇者」様には余が直々に謝罪へ向かう!各国政府には、「黒の勇者」様への非礼は、「白光聖騎士団」が勝手にしでかした不始末であり、全ては「白光聖騎士団」の責任であり、我がゾイサイト聖教国政府首脳陣の預かり知らぬことであったと、すぐに声明を伝えよ!ラトナ公国政府には謝罪と損害賠償金の支払いを行う意思があることもすぐに伝えるのだ!各マスコミにも、「黒の勇者」様への非礼は全て「白光聖騎士団」の暴走によるものだと伝えるのだ!それから、ただちに「白光聖騎士団」の連中を全員、余の前に連れてこい!死にかけていようが、構わん!ベッドから引きずりだしてでも連れてこい!余が直々にあの愚か者どもに裁きを下す!いいか、分かったな!」

 「は、はい!すぐに手配いたします、陛下!」

 軍務大臣は大慌てで、カテリーナの下から走って立ち去り、カテリーナからの命令を遂行すべく動いた。

 「「白光聖騎士団」の愚か者どもめがぁー!「黒の勇者」様を傷つけ、怒らせ、この私に恥をかかせたこと、絶対に許すものか!私の計画を台無しにしようとした報いを味わわせてくれる!」

 カテリーナの、「白光聖騎士団」に対する怒りは凄まじく、いつもの落ち着いた聖教皇の姿とは全く異なる、鬼女のような形相であった。

 約1時間後、重傷で治療中でありながら、車椅子や担架に無理やり乗せられ、ほぼ全身に包帯を巻き、コルセットで骨折した両腕両足、首などを支え、腕には点滴を打ち、息も絶え絶えの、アーロン率いる「白光聖騎士団」の聖騎士たちが、病院からカテリーナのいる宮殿へと、続々と運ばれてきた。

 宮殿の謁見の間では、怒りの形相を浮かべたカテリーナが、玉座に座りながら、アーロンたちを待ち構えていた。

 車椅子に乗せられて運ばれてきたアーロン外六人の隊長たちの、主人公によって再起不能になるほどの重傷を負わされた姿を見て、怒りと軽蔑の眼差しを向けながら、カテリーナはアーロンたちに話しかけた。

 「この愚か者の若造どもが。真の勇者である「黒の勇者」様を大衆の面前で侮辱し、挙句、逆恨みをして剣で斬りかかり、完膚なきまでに叩きのめされ、全員返り討ちに遭うとはな。伝統と誇りある「白光聖騎士団」の名に泥を塗りおって。その無様で情けない姿は何だ?貴様ら、全員、自分たちが一体、どれほどの大失態を犯したか分かっているのか?貴様ら無能で愚かな若造どものせいで、余も我がゾイサイト聖教国も、今、世界中から非難を浴びせられ、大恥をかかされた。我がゾイサイト聖教国が、「黒の勇者」様に、そして、光の女神リリア様に刃を向けたと非難を受ける大不祥事にまで発展した。貴様ら、余の顔にまで傷をつけた罪、覚悟はできておろうな?」

 激怒するカテリーナに、アーロンは必死に弁明した。

 「お、お待ちください、聖教皇陛下!?どうか、僕たちの話をお聞きください!僕たちは陛下のご命令通り、「黒の勇者」様を陛下の下にお連れしようとしました!しかし、「黒の勇者」様が僕たちのことを、クソ勇者もどきだの、出来損ないの勇者のコピーだのと言って、侮辱してきたのです!名誉ある大枢機卿の地位を与えると言ったら、あの男は鼻で笑い、大枢機卿なんてくそ食らえなどと、我がゾイサイト聖教国に対する侮辱の言葉まで言ってきたのです!あの男は我がゾイサイト聖教国やリリア聖教会との敵対姿勢を現しました!僕たちはあの横暴で無礼な勇者の行動を正そうとしただけです!僕たちはあの勇者から過剰な暴力行為を受けた被害者なのです!陛下、どうか、僕たちの話を信じてください!?」

 「黙れ!余にそのような噓偽りが通じると思っているのか!「白光聖騎士団」の総団長ともあろう者が、聖教皇である余を欺こうとは、実に嘆かわしい!調べはすでについている!「黒の勇者」様は元「弓聖」たち一行の討伐のため、冒険者ギルド本部で情報収集を行っておられた。そこへお前たちが現れ、アーロン、貴様は「黒の勇者」様に女の子をナンパして遊んでいるなどと、言いがかりをつけたそうだな?他の六名の隊長たち、お前たちが「黒の勇者」様に向かって、クソガキだの、キモい陰キャだの、横暴だの、青二才の小僧だの、生意気な坊やだの、弱っちい奴だの、侮辱の言葉を浴びせ、大衆の面前で笑い者にする非礼を働いたことは全て、分かっている。アーロン、貴様が「黒の勇者」様を逆恨みし、私闘が禁じられている冒険者ギルド内で剣を抜き、先に斬りかかったことも分かっている。他の聖騎士たち、貴様たちも隊長たちの「黒の勇者」様に対する非礼を止めるどころか、一緒に笑って侮辱したそうだな。無礼で、品性のかけらもない、思い上がりも甚だしい、残念でどうしようもない人間のクズ、「黒の勇者」様の言う通りではないか、この大馬鹿者ども!余は丁重に「黒の勇者」様をお迎えに行くよう、命令したはずだ。リリア様が神託にて、「黒の勇者」様が横暴な人間や悪人を激しく嫌う性格だと仰って、「黒の勇者」様の機嫌を損ねないよう、注意を払うよう仰られたことも伝えた。にも関わらず、貴様らは「黒の勇者」様を侮辱し、自分たちは勇者の先輩だから敬えだの、見下すような発言までしたそうだな。思い上がるな、若造ども。貴様たちは所詮、勇者の血を継ぐというだけの、勇者の模造品に過ぎん。勇者の血統を掛け合わせ、勇者に次ぐ戦力として作られた、一介の聖騎士に過ぎん。才能や若さ、世代交代を理由に、アーロン、貴様たちを中心に「白光聖騎士団」の新規編成を行ったが、どうやらお前たちを過大評価し過ぎていたようだ。勇者の模造品で出来損ないの聖騎士風情が、真の勇者である「黒の勇者」様に勝てると、どうこうできると本気で思っていたのか?だとしたら、貴様たちは頭まで悪い、出来損ないの身の程知らずの愚か者でしかない。「黒の勇者」様は光の女神リリア様がお認めになった、史上最強最高の真の勇者様だ。「黒の勇者」様一人に、お前たち全員、手も足も出ないどころか、かすり傷一つ負わせることもできなかったそうだな。ダグラス、貴様に限って言えば、「黒の勇者」様の強さに恐れをなし、部下を置いて一人逃げようとしたそうだな。それでも貴様、「白光聖騎士団」の第七部隊の隊長か?聖騎士の風上にも置けん、軟弱者めが。「黒の勇者」様を侮辱し、怒らせ、無謀にも喧嘩を売り、全員再起不能にされて、「黒の勇者」様から我が国が見捨てられ、世界中から非難を浴びる問題を起こしましただと!?貴様たちは我が国始まって以来の、史上最低最悪の聖騎士だ!余から貴様たちに判決を言い渡す!「白光聖騎士団」の聖騎士全員を聖騎士の職から解任する!アーロン、エイダン、オリビア、アイナ、ディラン、ブルックリン、ダグラス、以上七名から枢機卿の地位を永久に剥奪する!「白光聖騎士団」全員を今、この場で破門する!そして、国家反逆罪の罪で全員を磔刑に処す!「黒の勇者」様と光の女神リリア様に刃を向けた罪、我がゾイサイト聖教国を破滅へと導こうとした暴挙を起こした罪、余の顔に傷をつけた罪、死んで償うがいい!判決は以上だ!この愚かな謀反人どもを直ちに磔にせよ!」

 カテリーナから、アーロン率いる「白光聖騎士団」全員に対して、聖騎士をクビにすること、枢機卿の地位を剥奪すること、リリア聖教会から破門すること、そして、国家反逆罪で処刑することが、判決として言い渡された。

 「聖教皇陛下、どうか、どうか、お考え直しを!僕たちは無実です!あの「黒の勇者」に嵌められたのです!「黒の勇者」は我々ゾイサイト聖教国の、リリア聖教会の敵です!どうか、お考え直しを、陛下!?」

 唯一話すことができる総団長のアーロンが必死に判決の内容に抗議するが、カテリーナは聞く耳を一切、持たなかった。

 エイダン外五名の隊長たちや、部下の聖騎士たちの表情は恐怖で皆青ざめ、顔が包帯で覆われていたり、怪我で声が出せないせいもあって、体や首、目線を動かし、必死に減刑を訴えようとするが、無駄だった。

 「出来損ないの愚かな若造どもが、とっとの余の前から消え失せろ。不愉快だ。聖騎士の面汚しどもが。貴様らの代わりなど、いくらでもいる。「白光聖騎士団」の悪名はすでに世界中に広まってしまった。「白光聖騎士団」は解体し、新たな聖騎士団の精鋭部隊を発足せねば。そうだ。「黒の勇者様」に新たな精鋭部隊の聖騎士団の団長をお任せするのも悪くはない。「黒の勇者」様にこの国の全聖騎士のトップに立っていただき、聖騎士団の再編成を行えばよい。さすれば、我が国や聖騎士団のイメージダウン改善にもつながる。早速、「黒の勇者」様への謝礼の内容に追加するとしよう。っん、まだ、目障りな罪人どもがいるではないか?さっさと摘まみ出して、磔にして処刑せよ。余の宮殿にいつまでも穢れた罪人を置くのではない。気分が悪くなる。」

 カテリーナはそう言うと、他の聖騎士たちに指示して、アーロン率いる「白光聖騎士団」全員を謁見の間から追い出し、磔にして処刑するよう命じた。

 アーロンが車椅子の上で必死に抵抗しながら、宮殿の外へと運ばれている時、宮殿の入り口の方に、両親であるヘンリーとマイアが、聖騎士たちに連行されやって来た。

 アーロンは両親に向かって必死に助けを求めた。

 「ち、父上、母上、助けてください!僕は無実なのです!無実の罪で処刑されそうなのです!どうか、助けてください、父上!」

 アーロンの助けを求める声が聞こえるなり、ヘンリーとマイアの顔が真っ赤に変わり、鼻の骨を折られ、顔に包帯を巻いたヘンリーが、怒りのあまり、自分を連行する聖騎士の手を振りほどき、アーロンに向かって殴りかかった。

 「グベっ!?」

 ヘンリーに思いっきり顔を殴り飛ばされ、アーロンは鼻から血を流しながら、車椅子から落ちた。

 「父上、何を・・・」

 「この出来損ないの馬鹿息子がー!この私の顔をよく見ろ!お前が「黒の勇者」様に斬りかかる不祥事を起こしたせいで、私も「黒の勇者」様の怒りを買ってしまったではないか?ゾーイを連れ戻そうとしただけなのに、あの方に誤解され、私はゾーイに付きまとうストーカー扱いされ、部下共々殴られ、大恥をかかされる始末だ!少し才能があるからと調子に乗りおって、この出来損ないの失敗作の大馬鹿息子が!栄光あるホーリーライト家の家名に泥を塗り、「白光聖騎士団」の元総団長であるこの私の顔にまで泥を塗りおって!貴様はもう私の息子でも何でもない!アーロン、貴様はホーリーライト家から永久に追放する!二度と私の前に現れるな、この愚か者めが!」

 「そ、そんな、父上!?待ってください!誤解なのです!僕も仲間たちもあの卑劣な勇者の罠に嵌められたのです!信じてください!「黒の勇者」は皆を騙しているのです!あの男は勇者ではありません!あの男は勇者の皮を被った悪魔です!どうか、僕の話を信じてください!父上、母上!」

 「黙れ、この不届き者の愚か者が!貴様はもう勘当した!私もマイアもゾーイも、何の関係もない赤の他人だ!二度と話しかけてくるな、背信者が!」

 「こんな出来損ないを産んで私もいい迷惑よ!アーロン、お前のせいで私たちまで聖教皇陛下から事情を聞かれることになってしまったわ!もう私はあなたの母親ではありませんから!この私を母と呼んだら承知しませんからね、この薄汚い犯罪者が!」

 ヘンリーとマイアからも見捨てられ、アーロンは絶望のあまり、両目から涙を流し、泣き崩れた。

 アーロンを殴って怒り興奮するヘンリーを、周りの聖騎士たちが慌てて取り押さえた。

 「くそっ!?どうしてこんなことに!?だが、ゾーイがいる!「黒の勇者」様はあの子のことをえらく気に入られたと聞く!まだ、望みはある!ホーリーライト家は、私はここで終わったりはせんぞ!」

 「ゾーイ、さすがは私たちの娘だわ!突然、家を飛び出したかと思えば、すっかり病気も治って、おまけに「黒の勇者」様のお眼鏡に叶うなんて!あなた、アーロンのことなんて放っておきましょう。ゾーイのことをお話しさえすれば、聖教皇陛下の誤解も解け、ご機嫌が戻るはずです。とにかく、急いで事情を説明しましょう!」

 「そ、そうだな、マイア!?全く、この私が聖教皇陛下から誤解され、怒りを買うことになろうとは?急ぎ、聖教皇陛下にお会いして事情を説明せねば!」

 アーロンのことを見捨て、保身のため、聖騎士たちに連行され、カテリーナの下へと弁解に向かう、ヘンリーとマイアの二人であった。

 絶望し、泣き崩れ、鼻血を垂れ流すアーロンを無理やり、車椅子に乗せ、聖騎士たちは首都の外の南側にある丘へと、アーロンたち「白光聖騎士団」を連行する。

 首都の外の南側の丘にまで連行されたアーロンたち「白光聖騎士団」の前に、アーロンたちを磔刑にするための準備が、すでに進められていた。

 処刑人を務める聖騎士たちは、「白光聖騎士団」の団員一人一人を車椅子や担架から下ろすと、用意した木の十字架の上に乗せ、衣服を剥ぎ取って全裸にし、それから、両手両足を縄で結んだ。

 そして、聖騎士たちは「白光聖騎士団」の団員の両手の手の平に、太い釘を打ち付けて、団員たちの体を十字架へと固定した。両足を交差させ、さらに後脚部から両足を貫くように太く長い釘を一本、打ち付けた。

 団員たちを十字架へと固定し終わると、団員たちを固定した十字架を地面に突き刺し、丘の上へと次々に立てていった。

 首都の外の南側の丘の上に、「白光聖騎士団」の団員たち、総勢3,500名が十字架に磔刑に処された異様で残酷な光景が広がっていた。

 南側の丘の上は、首都や街道からまる見えで、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちの磔にされ、処刑される姿がよく見えた。

 「黒の勇者」こと主人公に再起不能になるほどの重傷を負わされ、治療中であった上、両手両足を太い釘で十字架に打ち付けられ、さらに全裸にされ、アーロン外「白光聖騎士団」の元聖騎士たちはいつ死んでもおかしくない、瀕死寸前であった。

 アーロンたちの処刑を執行した聖騎士たちは、アーロンたちを馬鹿にするような笑みを浮かべながら、アーロンたちを侮辱した。

 「ハハハ!言いざまだぜ、本当!史上最強最高の聖騎士だの、勇者の血を継ぐ聖騎士だの、威張り散らしていたくせに、良い気味だぜ、まったく!「黒の勇者」様や聖教皇陛下に逆らうなんて、本当に救いようのない馬鹿だぜ、コイツら!」

 「ギャハハハ!所詮は世間知らずのエリートぶったお坊ちゃま、お嬢様ってこった!名家出身だからって、調子に乗り過ぎだっつの!この胸糞悪いエリート崩れどもをぶちのめしてくれて、「黒の勇者」様には感謝だぜ、本当に。」

 「アハハハ!聖武器のレプリカを振り回して、いつも俺たちを訓練だの教育的指導だの言って、散々痛めつけてきやがって、このクソガキどもが!このクソガキどもにやり返せる日が来るなんて、夢にも思わなかったぜ!「黒の勇者」様、万歳だな、おい!」

 「ゲハハハ!ちょっと若くて才能があるからって、名家出身だからって理由で団長や隊長のポストについた、実戦以外は役立たずの、お飾りのクズどもが、良い気味だぜ、本当。大体、「黒の勇者」様一人に3,500人全員で喧嘩を売っといて、全員瞬殺されたんだとよ。玉無しにされたダグラスも含めて、ほとんどの奴が戦わずに背を向けて逃げ出したんだとよ。本当に情けない連中だぜ。こんな腰抜けで弱っちい連中がマジで前戦に立って指揮されたら、俺たちコイツらのせいで死んでたかもしれねえぞ?この馬鹿どもを潰してくれた「黒の勇者」様には本当に感謝だぜ!おかげでまた、寿命が伸びたぜ。」

 「ガハハハ!こんなクズどもが「白光聖騎士団」を名乗ってたこと自体、おかしかったんだよ!大体、「黒の勇者」様が来るまでの間、コイツら元「弓聖」たち一行の討伐に全く参加しようとしなかったじゃねえか?神託があるからって、ちょっとは手下のヴァンパイアロードたちと戦ってもいいのに、コイツら全然、戦おうとせず、本部で待機してるだけだったぜ。まぁ、前線に出てきたところで、ビビッて逃げ出したに違いねえけど。早く「黒の勇者」様にご機嫌を直してもらって、元「弓聖」たち一行を討伐してもらわねえとな?「黒の勇者」様がいれば討伐間違いなしだろうしよ。」

 「クハハハ!そうだな!「黒の勇者」様が指揮してくれさえすれば、元「弓聖」たち一行もヴァンパイアロードたちも怖くはないぜ!聖武器のレプリカを生身で砕いちまう、あのとんでもねえ強さの勇者様ならよ!聖教皇陛下は、「黒の勇者」様をトップに聖騎士団の再編成をするって言ったらしいぜ!クソアーロンより「黒の勇者」様の方が聖騎士団のトップにはふさわしいと思うぜ、俺も!「黒の勇者」様が率いる新しい部隊の入隊テストに、全力でトライするつもりだ!新生聖騎士団がどう生まれ変わるのか、マジで楽しみだぜ!」

 処刑を担当した聖騎士たちは、アーロン外「白光聖騎士団」の元聖騎士たちを馬鹿にし、笑いながらその場を立ち去っていった。

 処刑場の丘の上で十字架に磔にされたアーロンたち元聖騎士は、屈辱と怒りと絶望を胸に抱き、両目から涙を流しながら、傷の痛みを堪え、悔しがった。

 「どいつもこいつも僕たちを馬鹿にしやがってぇー!「黒の勇者」、あの男さえ現れなければ、あの男さえいなければ、僕たちが処刑されることはなかった!「黒の勇者」、貴様を呪ってやる!聖教皇陛下も、父上も、母上も、ゾーイも、この国の連中、みんな呪ってやる!「黒の勇者」、必ず地獄から這い出て貴様に復讐してやる!僕たちから全てを奪い、僕たちを処刑した恨み、必ず晴らしてやる!」

 アーロンが「黒の勇者」こと主人公への呪詛の言葉を吐き、主人公への復讐を誓った。

 他の「白光聖騎士団」の元聖騎士たちも、「黒の勇者」への憎悪を抱き、復讐を心に誓った。

 もっとも、処刑されたのはアーロンたちの自業自得であり、主人公への恨みは逆恨みに過ぎないのだが。

 アーロン外「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが処刑されてから三日の間、「白光聖騎士団」への処刑執行のニュースを聞き、磔刑にされた「白光聖騎士団」のいる丘に、ゾイサイト聖教国の国民を始め、多くの人々が訪れた。

 だが、アーロンたち「白光聖騎士団」を憐れむ者や助けようと思う者は一人もいなかった。

 処刑場の丘に訪れた人々は、「黒の勇者」を傷つけた「白光聖騎士団」の元聖騎士たちに怒りや憎悪の感情を表し、元聖騎士たちを激しく罵倒し、石やゴミを投げつけ、剣やナイフなどを突き刺した。

 途中、雨が降り、全裸にされたアーロンたち「白光聖騎士団」の体は雨に濡れて体が冷え、季節が秋に入ったことも重なり、低体温症を引き起こした。

 飲まず食わずで重傷の上、低体温症まで引き起こし、アーロンたち「白光聖騎士団」は全員ボロボロで、大半が意識を失い、死にかけていた。

 処刑から三日目の夜のこと。

 午後12時まで残り数分という深夜の時間帯に、アーロンたち「白光聖騎士団」以外誰もいない処刑場の丘の上に、100人ほどの黒いローブを身に纏い、フードで顔を隠した一団が現れた。

 黒いローブを着た謎の男たちは、磔にされているアーロンたち「白光聖騎士団」に近づくと、アーロンたちが磔にされている十字架を音を立てないよう、慎重に十字架を地面から抜いて地面に置くと、十字架に磔にされているアーロンたちを拘束から解放した。

 そして、解放したアーロンたちに、金色の小瓶に入った液体を飲ませた。

 黒いローブを着た謎の男の一人が、地面に横たわる瀕死寸前だったアーロンに声をかけた。

 「起きてください、アーロン君!君たちを助けに来ました!もう大丈夫です!さぁ、目を開けてください、アーロン君!」

 黒いローブを着た謎の男性に耳元で声をかけられ、アーロンはゆっくりと目を覚ました。

 「い、痛みがひいている?寒くない?体が動くぞ?一体、どうして?」

 「やっと、目を覚ましてくれましたね、アーロン君。もう大丈夫です。君や君の部下たちは私が助けました。久しぶりですね、アーロン・エクセレント・ホーリーライト君。」

 黒いローブを着た謎の男性は、フードをとると、身長170cmほどで、白髪のグレイヘアに、やや細目の緑色の瞳に、四角いフレームの眼鏡をかけた、60代後半くらいの初老の男性の顔があった。黒いローブの下には、白い法衣を着ていた。

 初老の男性の顔を見るなり、アーロンは驚き、思わず飛び起きた。

 「ぐ、グラッジ元財務大臣!?左遷されてシュットラにいるはずのあなたが何故、首都にいるのです?そもそも、どうして、あなたが僕たちを助けてくれるのですか?」

 「そう驚かないでください、アーロン君。確かに私は違法ポルノのエロ写真を買った罪で逮捕され、その後、財務大臣の職をクビになり、大枢機卿の地位を剥奪され、左遷されました。今はただの枢機卿で、南西の辺境の町、シュットラの領主です。この私を逮捕したのは確かに君と同じ聖騎士です。正確には、警備隊所属の聖騎士たちですが。君たち聖騎士に恨みがないかと言われると多少、遺恨はありますが、君たちは私の逮捕に関わってはいませんし、何より、君と私は同志です。そう、あの忌まわしい「黒の勇者」のせいで破滅させられたね。」

 グラッジから「黒の勇者」の名前を聞いた瞬間、アーロンの表情は怒りへと変わった。

 「「黒の勇者」!あの男のせいで、僕は、僕は地位も名誉も職も家族も、何もかも失った!「黒の勇者」、あの男だけは絶対に許さない!」

 「黒の勇者」への怒りと憎しみを露わにするアーロンを見て、グラッジはニヤリと笑みを浮かべると、アーロンに話しかけた。

 「アーロン君、君の怒りは私にもよく分かります。君は優秀で立派な一人の聖騎士として、「黒の勇者」を聖教皇陛下の下にお連れしようとした。しかし、「黒の勇者」は君や君の部下たちのほんのからかい半分の冗談を真に受け、その稚拙さ故、君たちに過剰な怒りと暴力を向けた。そうですね、アーロン君?」

 「そうです!その通りです!グラッジ枢機卿、あなたの仰る通り、僕たち「白光聖騎士団」は聖騎士としての己の職務を全うしようとしました。確かに「黒の勇者」を少しからかいはしましたが、過剰な侮辱の言葉をぶつけられたり、暴力を振るわれるおぼえはありません!あの男が、「黒の勇者」の稚拙さがトラブルの原因なのです!僕たちは処刑されるような罪は一切、犯していません!僕たち「白光聖騎士団」は全員、無実なのです!」

 「ええっ、君たちが無実であることは私もよく分かっています。アーロン君、私は確かに違法ポルノのエロ写真を買いました。ですが、買った写真はたった一枚だけです。私がエロ写真を買った理由は単に己の快楽を満たすためではなく、エロ写真の技術に興味があったからです。違法とは言え、元勇者たちが異世界から持ち込んだ、あの人物や風景を精巧に写し取れるエロ写真の技術を手に入れることができれば、我がゾイサイト聖教国、リリア聖教会の販売する新たな宗教グッズや美術品を作り、リリア聖教会の活動を支える新たな資金源にすることができる、そう考えたのです。決して悪用する意図はありませんでした。ですが、先日、「黒の勇者」がエロ写真売買の裏ビジネスの販売顧客リストと帳簿の写しを世界中にバラまいたせいで、私はエロ写真を買った罪で逮捕され、大枢機卿の地位と財務大臣の職を失いました。妻からは離婚され、息子や娘たちからは絶縁され、さらに辺境の田舎町の領主に左遷されることになりました。アーロン君、真の正義とは清濁を併せて吞むこと、則ち必要悪の存在も受け入れる寛容さだと、私は考えます。未熟な「黒の勇者」とは違う大人の君には私の言っていることがよくお分かりでしょう。「黒の勇者」は確かに光の女神リリア様が選んだ真の勇者ではあります。けれども、「黒の勇者」、あの勇者の掲げる正義はあまりに極端で過激です。自身が犯罪者と判断した者、あるいは不道徳な行為を働いた者と考えれば、見境なく勇者の名の下に制裁を下そうとする、逸脱した正義感の持ち主と言えます。事実、「黒の勇者」が訪れた国では、「黒の勇者」の振りかざす過剰な正義による行動のため、程度の差はあれ、被害を受けています。このまま「黒の勇者」を野放しにすれば、あの勇者は己の過剰な正義感から、この国、果ては世界中に過激な制裁を加え、世界はあの勇者の掲げる正義によって滅ぼされることになりかねない。私はそう思うのですが、君はどう思います、アーロン君?」

 「グラッジ枢機卿、僕もあなたと同意見です。「黒の勇者」の振りかざす正義は、いかにも稚拙で極端すぎるモノだと思います。あの未熟な勇者を野放しにすれば、あの勇者の掲げる過剰な正義によって、世界は滅ぼされてしまうかもしれません。ですが、あの「黒の勇者」の強さは、史上最強最高の聖騎士と言われた、「白光聖騎士団」の聖騎士である僕たち全員を単独で凌駕するほどの、圧倒的な強さです。悔しいですが、今の僕たちではあの勇者には太刀打ちできません。一体、どうしたら良いのでしょうか?」

 「アーロン君、何も君たち一人で「黒の勇者」と戦う必要はありません。微力ではありますが、この私が君たちに知恵と力を貸しましょう。アーロン君、君たちには万能回復薬のエリクサーを飲ませました。完全回復という訳にはいかないでしょうが、傷口は塞がり、出血も治まったはずです。立って歩けるまで体力も十分に回復したはずです。君たちの着る服や鎧、使用する武器も用意してきました。セイクリッドオリハルコン製の武器や鎧に比べれば物足りないでしょうが、全てオリハルコン製で十分な数の代わりの装備を揃えて持ってきました。是非、君たちで使ってください。負傷はしていますが、君たちは「白光聖騎士団」、我がゾイサイト聖教国の誇る最強最高の聖騎士です。武器と鎧さえあれば、ある程度は戦えるはずです。私の与えた装備を使って、軍事研究所を襲撃し、ミストルティンを全て奪いなさい。必要なら、ここにいる闇ギルドから雇い入れた私の部下たちにも協力させましょう。そして、シーバム刑務所を占拠した元「弓聖」たち一行と合流し、彼女らとともに「黒の勇者」と戦うのです。ミストルティンを手土産に持っていけば、元「弓聖」たち一行はあなたたちを喜んで受け入れ、君たちに力を貸してくれるはずです。それと、君や私と同じく、「黒の勇者」に恨みを抱く人間がこの国には50万人います。例のエロ写真を買った罪で逮捕され、「黒の勇者」のせいで破滅させられた者たちがね。すでに私の方で彼らとは交渉済み、あるいは買収済みです。この私の合図で、一斉にゾイサイト聖教国各地で武装蜂起を起こす手筈になっています。同志たちは皆、黒いローブを身に纏っています。そのことも元「弓聖」たち一行に伝えてください。私と連絡を取りたい場合は、この通信連絡用の水晶玉を使ってくれれば、いつでも連絡可能です。他に、金銭面や武器装備、食料などで困ったことがあれば、私を頼ってください。私が領主を務めるシュットラの町は、シーバム刑務所のある山の麓です。元「弓聖」たち一行と出会ったら、この私、コンラッド・ジェームズ・グラッジに協力の意思があることと、シュットラの町は襲わないこと、この二つを伝えてください。元「弓聖」たち一行を勇者として擁立し、「黒の勇者」を撃退し、ゾイサイト聖教国を私たちの手で、愚かな聖教皇陛下や怨敵たる「黒の勇者」から取り戻すのです。期待していますよ、史上最強最高の聖騎士、アーロン君。」

 グラッジから支援の申し出を受け、アーロンや他の元聖騎士たちは皆、笑みを浮かべて喜んだ。

 「何から何までありがとうございます、グラッジ枢機卿!この御恩は一生、忘れません!必ずミストルティンを軍事研究所から奪取し、元「弓聖」たち一行と協力体制を築いてみせます!あなたからの言伝も必ず、元「弓聖」たち一行にお伝えします!ともにゾイサイト聖教国を取り戻し、「黒の勇者」への復讐を果たしましょう!僕たちに万事、お任せください!」

 「頑張ってください、アーロン君、「白光聖騎士団」の聖騎士の皆さん。君たち、若く才能溢れる、有能で最強最高の聖騎士なら、きっと、君たちを処刑するという愚かな行為に走って乱心した聖教皇と、私たちの共通の怨敵である「黒の勇者」を打ち倒し、元「弓聖」たち一行とともに、このゾイサイト聖教国に平和を取り戻してくれることでしょう。君たちの健闘を心から祈っています。光の女神リリア様の御加護が、必ず君たちを護ってくれることでしょう。さぁ、お行きなさい、女神様に選ばれし真の正義の使徒たちよ。」

 「ありがとうございます、グラッジ枢機卿!「白光聖騎士団」諸君、僕たちはこれよりゾイサイト聖教国を愚かな聖教皇と憎き「黒の勇者」の手から取り戻すため、ともに力を合わせて戦おうじゃないか?反撃開始だ!必ず「黒の勇者」に復讐し、ゾイサイト聖教国をこの手に取り戻そう!いいなぁ、諸君?」

 アーロンの呼びかけに、「オー!」という声を上げて、グラッジの手で回復し、武器装備を与えられた「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが、武器装備を身に着け、立ち上がって一斉に皆、答えた。

 「「白光聖騎士団」、いざ、出陣!第一目標、首都の軍事研究所!ミストルティンを全て奪取せよ!進めぇー!」

 グラッジが追加の戦力として用意した闇ギルドの工作員たちとともに、アーロン率いる「白光聖騎士団」は、ゾイサイト聖教国の首都の中央部にある、軍事研究所を襲い、大量破壊兵器ミストルティンを奪取すべく、行動を開始した。

 アーロンたち「白光聖騎士団」が処刑場の丘の上から、首都に向かって進軍したのを確認したグラッジは、笑みを浮かべながら呟いた。

 「これだから、若者というのは実に扱いやすくて助かる。夢だの希望だの理想だの、一銭の得にもならん、くだらん考えに頭を囚われ、己の感情や欲に簡単に左右され、己の無知蒙昧さに気付かず、愚かで無意味で何の利益にもならない行動をとる、実に浅はかな連中だ。現実や利益というモノに目を向けることを知らん愚かな生き物だ。特に、ああいう世間知らずで思い込みが激しい、お坊ちゃまお嬢様の馬鹿な若者たちは、少し同情しておだててやれば、ついでに金や玩具を与えれば、すぐに操ることができて実に便利な駒だよ、まったく。連中を上手く利用し、元「弓聖」たち一行を味方にさえつければ、ゾイサイト聖教国を手に入れるこの私の計画は大きく前進する。あの憎たらしい「黒の勇者」も、この私が用意した戦力の前では、さすがに手も足もでまい。カテリーナ、あの行き遅れの恩知らずの「巫女」が。大枢機卿にして財務大臣であったこの私を、たかがエロ写真を買った罪程度で逮捕し、左遷するとは実に不快だ。財務大臣であるこの私の商才があったからこそ、リリア聖教会は発展できたのだ。この私が横領した多額の寄付金を賄賂として受け取っておきながら、あの女も他の大枢機卿どもも、女神や「黒の勇者」を恐れて、この私を切り捨てるとは、全くもって許しがたい。貴重な「巫女」の血を絶やさんようにと私が用意した縁談も全て断り、四十手前まで結婚せず、子供も作ろうとせんとは、困った女だ。勇者以外の男しか受け入れんなどと、生娘のような我が儘をいつまで言って駄々をこねおって、どれだけ私や他の大枢機卿たちが頭を悩めているのか、全く分かっておらん。おまけに、この私が破滅寸前にまで追い込まれた原因を作った張本人である、あの憎んでも憎み足りん、「黒の勇者」に肩入れする始末だ。だが、私の計画はすでに動き出した。元「弓聖」たち一行を取り込み、我がゾイサイト聖教国専属の勇者として無事、擁立させることができれば、カテリーナも「黒の勇者」も、目障りな連中はまとめて一掃できる。そして、元「弓聖」たち一行を利用し、私はふたたび表舞台へと立つのだ。元「弓聖」たち一行にヴァンパイアロードたち、「白光聖騎士団」、50万人の我が同志たち、この私の持つ圧倒的な財力、これだけの戦力さえあれば、ゾイサイト聖教国政府も「黒の勇者」も確実にひねり潰すことができる。女神だろうが、勇者だろうが、誰であろうが、この私の計画を邪魔することはできんのだよ。フっ、フハハハハハ!」

 グラッジが「白光聖騎士団」や元「弓聖」たち一行を利用して、自身がふたたび政治の表舞台に返り咲き、ゾイサイト聖教国を手に入れ、裏から支配する己の野望を叶えるべく、邪な計画を実行に移した。

 アーロンたちとグラッジが処刑場の丘の上で別れてから約1時間後のこと。

 午前1時過ぎ。

 武装したアーロン率いる「白光聖騎士団」が、首都の中央部にある、ゾイサイト聖教国軍事研究所を襲撃した。

 負傷して、中にはまともに武器を持てない者たちもいたが、グラッジが追加の戦力として派遣した闇ギルドの工作員たちの協力もあって、アーロン率いる「白光聖騎士団」は見事、軍事研究所の襲撃に成功した。

 そして、軍事研究所の地下保管庫にあった大量破壊兵器、ミストルティン一万本を全てを強奪することにも成功したのであった。また、聖武器のレプリカ、通称「レプリカMK Ⅱ」の予備や、セイクリッドオリハルコン製の鎧や武装も奪っていった。

 アーロン率いる「白光聖騎士団」は軍事研究所を襲撃した後、首都中央にある、ゾイサイト聖教国政府中枢兼リリア聖教会本部が入っている宮殿へと進軍、強行突破し、宮殿地下にある、シーバム刑務所への移動用の魔法陣を強制的に稼働させ、シーバム刑務所へと逃亡を果たしたのであった。

 アーロン率いる「白光聖騎士団」による軍事研究所の襲撃及びシーバム刑務所への逃亡という事件は、すぐにカテリーナ外ゾイサイト聖教国政府首脳陣の耳に入り、カテリーナたちを驚愕させるとともに、すぐにアーロンたちの指名手配や、シーバム刑務所への移動用の魔法陣の破壊、ゾイサイト聖教国内への非常事態宣言の発令などの対応に、カテリーナたちは追われた。

 磔刑に処され、瀕死寸前だったアーロン率いる「白光聖騎士団」を救出し、アーロンたちによる軍事研究所の襲撃やシーバム刑務所への逃亡を手引きした裏切り者、あるいは協力者の存在も明らかであり、ゾイサイト聖教国内部に裏切り者がいる可能性も浮上し、カテリーナたちゾイサイト聖教国政府首脳陣はそのことでも頭を痛めることになった。

 一方、軍事研究所を襲撃し、ミストルティンの強奪に成功したアーロン率いる「白光聖騎士団」は、元「弓聖」鷹尾たち一行の占拠するシーバム刑務所へと逃亡した。

 転移直後、手下のヴァンパイアロードたちに取り囲まれ、奇襲攻撃をしかけてきたと勘違いされたが、ゾイサイト聖教国政府を裏切り、元「弓聖」たち一行に協力する意思があること、手土産に大量破壊兵器を持ってきたことなどを伝え、ヴァンパイアロードたちに連行されながら、アーロン率いる「白光聖騎士団」は鷹尾たち一行の下に案内された。

 手下のヴァンパイアロードたちから連絡を受けた元「弓聖」鷹尾たち一行が、所長室でアーロン外6名の隊長たちを迎え入れた。

 他の元聖騎士たちは、刑務所内の独房のある棟で、ヴァンパイアロードたちに監視されながら、隊長たちが元「弓聖」たち一行との交渉に成功するのを待っていた。

 アーロンたちの顔を見て、思わず驚いた鷹尾たち一行であったが、すぐに平静に戻って、アーロンたち七人の隊長たちに話しかけた。

 「世の中には自分とそっくりな顔の人間が三人はいる、なんて言葉があるけど、ここまで私や他の「七色の勇者」とそっくりな人たちがいて、同じ聖騎士団の隊長をやっているなんて、すごい偶然としか言いようがないわね。まぁ、そんなことはさておき、私たちの仲間になりたい、という話だけれど、理由を聞かせてもらえるかしら?後、あなたたちが持ってきた大量破壊兵器についても教えてもらえる?」

 鷹尾の問いに、アーロンが答えた。

 「弓聖様、僕たちはゾイサイト聖教国史上最強最高の聖騎士と呼ばれる「白光聖騎士団」の聖騎士です。僕たちはゾイサイト聖教国政府のため、聖教皇陛下のため、そして、光の女神リリア様のために、聖騎士として力の限り尽くしてきました。ですが、四日前のこと、我がゾイサイト聖教国に「黒の勇者」と呼ばれる勇者が現れました。僕たちは聖教皇陛下の命により「黒の勇者」を出迎えに行ったのですが、些細な口論から、あの「黒の勇者」という男は僕たちにひどい侮辱の言葉を浴びせ、挙句、僕たちに重傷を負わせるほどの暴力を振るってきたのです。にも関わらず、聖教皇陛下も、他のゾイサイト聖教国政府首脳陣も、国民たちも、周りの者たちは皆、乱暴狼藉を働くあの「黒の勇者」に肩入れし、僕たちを勇者を傷つけ、国の平和を脅かした大罪人として処刑しようとしたのです。僕たち「白光聖騎士団」は、「黒の勇者」の卑劣な罠に嵌められ、「黒の勇者」に洗脳された人々によって殺されるところでした。ですが、そんな無実の罪で陥れられた僕たちを助けて、援助してくださる方が現れたのです。その方より、あなた様たちとともに戦い、ゾイサイト聖教国政府を取り戻すよう提案され、僕たちは現聖教皇や「黒の勇者」が率いるゾイサイト聖教国政府と決別し、国を取り戻すため、立ち上がった次第です。どうか、僕たち「白光聖騎士団」に、真の勇者であるあなた様たちのお手伝いをさせてはいただけないでしょうか?」

 「なるほど。つまり、「黒の勇者」、宮古野君と揉めて、彼と喧嘩になって返り討ちにあって、そのせいで上司や国民からの信頼を失い、処刑された、その恨みを晴らしたい、「黒の勇者」に復讐したい、そういうことでしょ?プライドが高くて責任をごまかそうとする口先の上手さは島津君そっくりね、あなた。顔もだけど。要は「黒の勇者」に復讐したい、でも、自分たちだけじゃあできないから私たちを頼ってここまで来た、そういうことでしょ?全員傷だらけの姿を見ればバレバレよ。あなたたちの聖騎士としてのこれまでの仕事ぶりだとか地位だとかには興味ないわ。ただ、あなたたちを助けて援助を申し出たと言う人物に、私は非常に興味がある。あなたの話に出てきたその方とは、一体誰か、教えてもらえる?」

 鷹尾に本心を見透かされ、顔を顰めるアーロンたちであったが、グッと堪えて、鷹尾の質問に答えた。

 「はい。僕たちを助けて援助してくださるその御方は、コンラッド・ジェームズ・グラッジ枢機卿です。元財務大臣で元大枢機卿を務めておられた御方です。グラッジ枢機卿は先日、「黒の勇者」に違法ポルノのエロ写真を購入した罪を暴露され、財務大臣の職や大枢機卿の地位を失い、このシーバム刑務所のある山の麓にある辺境の町、シュットラの領主として左遷されることになりました。グラッジ枢機卿も僕たち同様、自身を破滅寸前にまで追い込んだ「黒の勇者」に強い恨みを抱いておいでです。グラッジ枢機卿はゾイサイト聖教国の陰のフィクサーとも呼ばれる人物で、莫大な資金力をお持ちです。グラッジ枢機卿はあなた様たちに対し、資金面や武器装備、食料品など、あらゆる面でサポートをしたいと申しております。すでにグラッジ枢機卿はこの国にいる、エロ写真を買った罪で逮捕された者たち、約50万人の「黒の勇者」に恨みを抱く同志たちを集め、ゾイサイト聖教国各地で武装蜂起を起こす準備を整えていらっしゃる、とも申しております。グラッジ枢機卿は見返りに、自身が治めるシュットラの町には攻撃をしてこないことと、新政府樹立の暁にはふたたび、政府の要職に就かせていただきたい、こう申しています。グラッジ枢機卿の援助まであれば、弓聖様たちのゾイサイト聖教国の乗っ取りはより一層捗ると思いますが、いかがでしょうか?」

 「グラッジ枢機卿ね。ゾイサイト聖教国の陰のフィクサーとも呼ばれる人物が私たちと一緒にビジネスをしたい、と言う訳ね。中々、魅力的な提案ではあるわ。グラッジ枢機卿と手を組めば、私たちの計画の成功はより確実なものへと近づく。良いわ。グラッジ枢機卿からの申し出を受けるとしましょう。それで、あなたたちが持ってきた大量破壊兵器についても説明してちょうだい。」

 アーロンは笑みを浮かべると、ジェラルミンケースを鷹尾たち一行の前に見せ、ケースの中を開いて中を見せた。

 「申し出を受けていただき、ありがとうございます。では、こちらのミストルティンについてご説明します。このミストルティンは、ゾイサイト聖教国政府が軍事研究所にて秘かに開発した、対魔族との戦いに向けて用意した大量破壊兵器であります。一見、白い金属製の矢にしか見えませんが、一本の矢に、強力な炎の魔法と膨大な魔力が込められていて、矢の着弾地点から半径1㎞以内を完全に燃やし尽くし、焦土と化す威力があります。僕たち「白光聖騎士団」もこのミストルティンの研究開発に関わり、その威力はこの目で確認済みです。ゾイサイト聖教国が開発した、通常のオリハルコンの50倍の強度と魔力の伝導率を持つ新合金、セイクリッドオリハルコンを素材に作られており、従来の金属は軽く貫通する上、矢筒に入れて持ち運ぶこともできます。使い方によっては、対人戦でも大きな成果を出すことが可能です。開発した一万本のミストルティン全てを手土産に参上いたしました。このミストルティンさえあれば、すぐにでもゾイサイト聖教国政府を全面降伏させることも可能です。弓聖様がお使いになれば、ミストルティンは天下無双の力をあなた様にもたらすことでしょう。例え「黒の勇者」でも、このミストルティンの前には全く歯が立たないはずです。ミストルティンを命懸けで奪取してきた僕たちも、どうかあなた様たちの配下に加えてはいただけないでしょうか?どうか、お願いいたします。」

 ミストルティンを見せながら、アーロン外六名の隊長たちは頭を下げて、鷹尾たち一行に、自分たちを配下に加えてほしいと頼み込んだ。

 「どう、プララルド?このミストルティンという矢だけど、彼らが言うほどの力はあるかしら?私たちの計画に役立ちそうかしら?」

 『ギャハハハ!スズカ、そこの聖騎士の話に嘘はないぜ!このミストルティンとか言う矢だが、マジで半端ねえ威力の代物だ!全部使えば、国が一つ吹き飛ぶほどの威力がある!一本だけで何千、何万という人間を殺せる力がある!こんなとんでもねえ兵器をゾイサイト聖教国の奴らが作っていたとは恐れいったぜ!だが、それ以上に、あのリリアの忠実な使徒である聖騎士が、それも聖騎士の精鋭部隊と言われた「白光聖騎士団」が、堕天使であるこの俺様たちと一緒に、ゾイサイト聖教国を滅ぼそうなんて、マジでカオスで狂っていて最高じゃねえか、おい?コイツら、大分ひどく怪我をしているが、ポテンシャルはそれなりにあるぜ。全員、Lv.90以上はある。治療して強化改造まで施せば、それなりの戦力として使えるはずだ。コイツらを使って暴れさせて、ついでに「黒の勇者」とやらに復讐させるのも面白いとは思わねえか?』

 「ありがとう、プララルド。このミストルティン、中々に使えるわね。それにあなたたち「白光聖騎士団」も、一度は「黒の勇者」に倒されたとは言え、強化改造さえすれば、即戦力として使うこともできなくはない。良いわ。あなたたち全員を治療して、強化改造を施して、「黒の勇者」に引けを取らない力を与えてあげる。「黒の勇者」に復讐する力とチャンスを与えてあげる。その代わり、私たちに絶対の服従を誓いなさい。ミストルティンも全てこちらでいただく。今言った条件を全て飲むなら、あなたたちの望みをこの私が叶えてあげる。どうかしら、金髪のリーダーさん?」

 「はい、あなた様の条件を全て飲みます、弓聖様!どうか、僕たちをあなた様たちの配下にお加えください!力とチャンスさえいただければ、必ず「黒の勇者」に復讐し、「黒の勇者」の首を見事討ち取って御覧に入れます!僕は「白光聖騎士団」総団長にして第一部隊隊長、アーロン・エクセレント・ホーリーライトと申します。僕を含む、「白光聖騎士団」の聖騎士たち全員が、「七色の勇者」の血を受け継ぎ、「七色の勇者」に匹敵する力を持った聖騎士でもあります!これからよろしくお願いいたします!」

 「よろしくね、アーロン。他の聖騎士の皆さんも。私は「弓聖」にして「風の勇者」鷹尾 涼風よ。鷹尾と呼んでくれれば良いわ。あなたたちの能力と今後の活躍、「黒の勇者」への復讐心に期待しているわ。ただし、私たちの足を引っ張るようなら、私たちはあなたたちを即座に切り捨てる、そのことを決して忘れないように。分かったわね?」

 「はっ!かしこまりました、タカオ様!」

 こうして、アーロン率いる「白光聖騎士団」の元聖騎士たち全員が、元「弓聖」鷹尾たち一行に配下として加わった。

 アーロン外隊長たちとの話を終えると、アーロンたちを連れて、「白光聖騎士団」の部下の騎士たちがいる独房棟の前へとやって来ると、鷹尾は「完全支配」の能力を使い、アーロン外「白光聖騎士団」の元聖騎士全員の精神を洗脳し、自身に忠実な奴隷へと変えて、支配することに成功した。

 「乙房さん、エビーラルド、「白光聖騎士団」の聖騎士たちを全員、治療して、それから、ヴァンパイアロードに改造してちょうだい。それと、七人の隊長たちをより強力なヴァンパイアロードに改造してあげてもらえるかしら?宮古野君、「黒の勇者」に復讐したい気満々らしいから、宮古野君とある程度戦えるように強化してあげてちょうだい。部隊長くらいには使えそうだし、私たちの計画を進める駒の一つにはなると思うから。よろしく頼むわね。」

 「了解、鷹尾さん。私とエビーラルドに任せておいて。コイツら、ちゃんと使い物になるように強化するから。」

 『ちっ。治療までしなきゃいけないとは面倒だな。まぁ、良い。最近、退屈していたところだし、コイツら聖騎士どもをヴァンパイアロードに改造して楽しむとしよう。私たち堕天使に魂を売った、醜いモンスターへと成り下がった聖騎士たちの姿を見るのが楽しみだ。』

 それから、嫉妬の堕天使エビーラルドと融合した乙房の「改造魔手」の能力により、アーロン率いる「白光聖騎士団」の元聖騎士たち全員が治療され、凶悪なヴァンパイアロードへと改造された。

 さらに、アーロン外六名の隊長たちは、より強力な能力を持ったヴァンパイアロードへと強化改造する手術が施され、通常のヴァンパイアロードを上回る、強力で醜悪なヴァンパイアロードへと姿を変えたのであった。

 アーロンたち「白光聖騎士団」の治療及び強化改造が終わると、乙房が鷹尾に、改造したアーロンたちの姿を披露した。

 「どう、鷹尾さん?指示通り、全員、ヴァンパイアロードに改造したよ。それと、隊長さんたちも、隊長さんたちの要望に応えながら、Lv.150超えの超強力なヴァンパイアロードに改造したから。私とエビーラルドの合作をどうぞご覧あれ。」

 『威張るな、ハナビ。モンスターに関する知識がほとんどないお前をサポートしたのは、この私だ。隊長たちの手術については、ほとんど私が行ったようなものだ。お前はもっとモンスターについて勉強しろ。元勇者のくせに知識が足りなすぎるぞ、お前は。だから、勇者をクビになったりするんだ。まぁ、良い。「白光聖騎士団」の聖騎士たちへの強化改造は無事、完了した。新たな戦力として存分に使うがいい。』

 乙房とエビーラルドに言われ、鷹尾は強化改造を終えたアーロンたち七人の姿を見た。

 アーロンたちはそれぞれ、満足げな笑顔を浮かべながら、強化改造手術後の、強化された新たな自分の姿を見て、皆一様に喜んでいた。

 「タカオ様、僕たちに新しい力を授けてくださり、誠にありがとうございます!ヴァンパイアロードカスタムレイスとして、僕は生まれ変わりました。レイスのような霊体へと自在に変化でき、物理攻撃を無効化できる力、透明化の能力に念動力、ヴァンパイアロードの持つ各種能力、実に素晴らしい力です!ジョブとスキルのレベルも150まで上がるとは驚きです!歴代最強の勇者を超えたと言っても過言ではありません!僕たちをクソ雑魚勇者もどきと馬鹿にしたあの憎き「黒の勇者」を完膚なきまでに叩きのめし、復讐することができます!本当にありがとうございます!」

 実体と霊体を自由自在に切り替え、笑いながら、ヴァンパイアロードカスタムレイスへと変身を遂げたアーロンが、鷹尾たちに向かって言った。

 「感謝するぜ、タカオ様!あのクソ勇者に壊された両手はすっかり治った!おまけに、四本の新しい腕を付けてもらって、俺は六刀流を操る史上最強の剣聖に生まれ変わった!口からはサラマンダーと同等以上の火炎まで吐ける!ヴァンパイアロードの能力も加わって、正に無敵だぜ!これで「黒の勇者」の野郎をこの俺の剣技でバラバラに斬り刻んでぶち殺してやれるぜ!本当にありがとうございます!」

 全身がオレンジ色の蜥蜴のような鱗に覆われ、背中からは四本の腕を新たに生やし、六本の剣を持って振り回しながら、ヴァンパイアロードカスタムサラマンダーへと変身を遂げたエイダンが、鷹尾たちに向かって言った。

 「マジでありがとございま~す、タカオ様!ウチのボロボロにされた顔も元通り綺麗に治ってるし!おまけに、杖無しでも魔法をいくらでも使えるようになるとか、超パワーアップできてマジ感謝ですわ~。魔力もリッチー並みに桁違いに増えてるし、痛みも感じなくなって、ヴァンパイアロードの能力まで使えるとか、マジ凄すぎでしょ!今度こそウチの魔法で、あの陰キャ勇者をぶっ殺してやるし~。マジ、殺る気満々っすわ~!」

 杖無しで、両手から火の玉や水の玉、雷の玉などを自身の周囲に出現させ、痛覚遮断能力を手に入れ、自慢の美貌も取り戻し大喜びする、ヴァンパイアロードカスタムリッチーへと変身を遂げたオリビアが、鷹尾たちに向かって言った。

 「タカオ様、オトボウ様、本当にありがとうございます!タカオ様たちのおかげで私も強くなることができました。熱風と病を操るパズズの能力に、ヴァンパイアロードの持つ全ての能力、Lv.150まで強化された結界の能力があれば、私はもう負けません!この私をクソ聖女もどきと呼んで馬鹿にして否定した、あの「黒の勇者」にこの手で罰を与えることができます!ヴァンパイアロードカスタムパズズとなった私の能力で、あの暴力的な勇者を苦しめて痛めつけて、この私の存在を否定したことを後悔させてあげます!く、クケケケケ!」

 背中から、熱風を放つ能力や、熱風とともに人間を死にいたしめる猛毒のウイルスをばらまく能力を持つ、紫色の鷲のような巨大な二対四枚の翼を生やした、ゾッとするような不気味な笑みを浮かべる、ヴァンパイアロードカスタムパズズへと変貌を遂げたアイナが、鷹尾たちに向かって言った。

 「タカオ様、我が輩を治療していただいた上、素晴らしき力を授けていただき、誠に感謝するなり!皆の者も見るが良い!史上最強の聖騎士へと生まれ変わった我が輩のこの姿を!ダイヤモンドの如く硬く光輝く魔眼に、見た者を呪い殺す力、そして、全身から自由自在に生やすことのできる鋭く長き牙!我が死の魔眼と、我が輩の新たな天下無双の槍にして自由自在に生える、あらゆる鋼鉄を貫く鋭き牙、この二つさえあれば、あの青二才の勇者など、いちころなり!「黒の勇者」よ、今度こそ、ヴァンパイアロードカスタムグローツラングとなった我が輩の天下無双の槍で貴様を貫いて討ち取ってやるでござる!」

 失った左目が再生し、両眼にダイヤモンドの如く硬く光り輝き、視線を浴びた者を一週間以内に呪い殺す魔眼の能力に、全身から象のごとき牙を無数に生やす能力を手に入れ、全身がグレーの蛇の鱗に覆われた、ヴァンパイアロードカスタムグローツラングへと変貌を遂げたディランが、得意気な表情を浮かべながら、鷹尾たちに向かって言った。

 「タカオ様、私たちの治療と強化、本当にありがとうございます!超高度から獲物を正確に捉える、超視力を持つグリフォンの目に、空を自由自在に高速で飛行できるグリフォンの翼をいただき、「弓聖」の血を継ぐ聖騎士としてのこの私の能力は格段に向上いたしました。ヴァンパイアロードカスタムグリフォンの力があれば、今度こそ必ず「黒の勇者」を打ち倒すことができます!空の上からあなたの頭を今度こそ射抜いてあげるわ、生意気な勇者の坊や!あなたの超スピードも、私の強化された目とスキルがあれば、簡単に打ち破ることができる!待っていなさい、「黒の勇者」!」

 背中から茶色い巨大な鷲のような二枚の翼が生え、両目は鷲のような瞳に変化し、グリフォンの持つ超高度から獲物を正確に補足する超視力と、グリフォンの空を高速で自由自在に飛行する能力を手に入れ、真剣な表情を浮かべながら「黒の勇者」打倒を口にする、ヴァンパイアロードカスタムグリフォンへと変貌を遂げたブルックリンが、鷹尾たちに向かって言った。

 「た、タカオ様、本当にありがとうございます、なんだなぁ~!お、俺のアソコも元通りに治ったんだなぁ~!それに、俺、もの凄く強くなったんだなぁ~!ゴーレムみたいに頑丈な体になったし、とんでもねえ怪力まで手に入れたんだなぁ~。おまけに、体の中の魔石をぶっ壊されねえ限り、何度でも再生できる力までもらえて、不死身になれたんだなぁ~!今度こそ、この俺のハンマーで「黒の勇者」をぶっ潰してやるんだなぁ~!俺の方が強い男だって証明してやるんだなぁ~!アイツのキ〇タマをぶっ潰してやるんだなぁ~!」

 全身がゴーレムのような硬い鉱物の頑丈な皮膚で覆われ、ゴーレム以上の超怪力に、体の中央にある核である魔石を破壊されない限り、何度でも再生し甦ることができる半不死身の能力を手に入れ、得物のハンマーをブンブンと振り回しながら喜ぶ、ヴァンパイアロードカスタムゴーレムとなったダグラスが、鷹尾たちに向かって言った。

 アーロンたち「白光聖騎士団」の強化改造された姿を見て、鷹尾は笑みを浮かべた。

 「乙房さん、エビーラルド、強化改造手術お疲れ様。素晴らしい手術の出来よ。実際に能力を全てこの目で確認したわけではないけれど、それでも聖騎士たちの能力が格段に向上したことが分かるわ。七人の隊長たちが持っている能力もどれも強力そうなものばかりね。Lv.150までレベルが上がったそうだけど、強さ的にはどれくらいのものなのかしら?」

 『Lv.150の時点ですでに人間の限界値を50以上超えているからな。おおよその目安だが、SSランクモンスター1.5体分から2体分くらいの強さだ。私たち堕天使には遠く及ばんが、そこら辺にいるモンスターたちや人間たちを殺すには十分すぎるほどの力だ。後は、改造したコイツらが私が強化して与えた能力を上手く使いこなせば、戦力として立派に役に立つはずだ。』

 「そう。なら、戦力としては十分使えそうね。ありがとう、エビーラルド。私たちに次ぐレベルの限界を超えた、常識外の強さを持つ有力な駒ができた、というわけね。これで私たちの計画は実現にまた一歩、前進した。大量破壊兵器のミストルティンという切り札も手に入ったし、グラッジ枢機卿というスポンサーまで手に入った。計画に王手をかける時が来たと言っても過言ではないわ。明日の朝、ゾイサイト聖教国政府に最後通告を行うことにしましょう。明後日、十日後までに私たちに政府を明け渡し、全面降伏するように伝えましょう。こちらの要求に従わない場合は、ミストルティンを使ってゾイサイト聖教国を焼き払うと言ってね。すでに私たちとゾイサイト聖教国の戦力の差は歴然。いくら宮古野君、「黒の勇者」を味方につけても、彼らに勝ち目がないのは明らか。戦略も兵数も力も、全ての面で私たちが勝っている。それでも強硬に要求を拒んでくるなら、首都をミストルティンで焼き払えば、嫌でも彼らは私たちに降伏せざるを得なくなる。私たちがゾイサイト聖教国を手に入れる日はもうすぐよ、みんな。」

 『ギャハハハ!「白光聖騎士団」に裏切られ、大切な切り札もこっちに奪われ、ゾイサイト聖教国の連中は手も足も出ないってか。スズカ、お前が気にしている「黒の勇者」とやらも当てにはならねえ。俺様たちの勝利は確定したも同然だぜ。リリアの信者どもが邪魔してくるなら、ミストルティンをお見舞いして木っ端微塵に国ごと消し飛ばしちまえばいい。国が欲しけりゃ、他の国を奪えばいいだけの話だ。俺様たちに勝てる奴は誰もいやしねえ。ますます面白くなってきたぜ。』

 「計画の成功を期待しててちょうだい、プララルド。きっと、最高に面白くて完璧な犯罪に仕上がるはずだから。私の犯罪計画は常に完璧。決して抜かりはない。誰にもこの私の計画を邪魔させたりはしないわ。」

 鷹尾は新たな戦力を次々に手に入れたことで、自身のゾイサイト聖教国を乗っ取る犯罪計画が着実に進んでいると思い、笑みを浮かべて喜ぶのであった。

 元「弓聖」鷹尾たち一行がシーバム刑務所を襲撃して占拠してから九日目のこと。

 アーロンたち「白光聖騎士団」が元「弓聖」たち一行と合流した日の翌日のこと。

 早朝、午前9時に、鷹尾たち一行より、ゾイサイト聖教国に対して最後通告が行われた。

 明日の午後12時までに、鷹尾たち一行にゾイサイト聖教国政府を明け渡し、全面降伏することを要求、要求に応じない場合は、強奪したミストルティンを使ってゾイサイト聖教国を攻撃すると、ゾイサイト聖教国政府を脅迫した。

 元「弓聖」たち一行の手に、大量破壊兵器であるミストルティン一万本全部が渡ってしまい、ゾイサイト聖教国をミストルティンで攻撃し焼き払うと脅され、カテリーナ聖教皇率いるゾイサイト聖教国政府は要求に応じるべきか否か、瀬戸際まで追い詰められたのであった。

 本来は国を守る側の「白光聖騎士団」に裏切られ、さらに問題を起こした「白光聖騎士団」全員を処刑し損ない、逃亡を許す大不祥事まで起こしたこともあり、その不祥事の対応にも追われていた。

 おまけに頼みの綱である「黒の勇者」の行方がいまだ掴めず、元「弓聖」たち一行の討伐への協力要請ができていない状況にもあり、ゾイサイト聖教国政府首脳陣の顔は皆、暗かった。

 ゾイサイト聖教国政府首脳陣の対応に不平不満を抱く国民が多く現れ、ゾイサイト聖教国から国外へ避難する者たちも現れ始めていた。

 元「弓聖」たち一行の犯罪計画は進み、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちは「黒の勇者」へと復讐すべく、復讐の用意を進めていた。

 だがしかし、元「弓聖」鷹尾たち一行のゾイサイト聖教国を乗っ取るという犯罪計画が成功することはない。

 アーロン率いる「白光聖騎士団」の元聖騎士たちの、「黒の勇者」への復讐が成功することもない。

 何故なら、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈は、元「弓聖」たち一行と「白光聖騎士団」の元聖騎士たちに絶望を味わわせ、地獄のどん底に叩き落す、壮絶な復讐計画の準備をすでに開始していたからだ。

 主人公、宮古野 丈は、元「弓聖」たち一行外異世界の悪党どもに正義と復讐の鉄槌を下し、皆殺しにして復讐するため、今まさに心の中で誰よりも鋭い復讐の牙を研いでいたのであった。

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