第七話 主人公、復讐計画の準備を始める
僕たち「アウトサイダーズ」が元「弓聖」たち一行を討伐するため、ゾイサイト聖教国に到着した日の翌日のこと。
怠惰の堕天使スロウラルドことスロウと言う協力者を得て、元「弓聖」たち一行や他の堕天使たちに関する情報収集を一通り終えた僕たちは、元「弓聖」たち一行の討伐のため、その準備に取りかかった。
朝、ラトナ公国大使館内の一室でみんなで朝食を食べていると、窓の外から「黒の勇者様~、どうかお許しを~!」といった内容の大人数の声が聞こえてきた。
昨日の夜ぐらいから、僕がゾイサイト聖教国の聖騎士団の精鋭部隊、「白光聖騎士団」とトラブルになり、喧嘩を売られ、「白光聖騎士団」の聖騎士たちが全員返り討ちに遭った件が、ゾイサイト聖教国を始め、世界各国にニュースとなって広まり波紋を呼んでいるそうだ。
光の女神リリアのお膝元であり、リリア聖教会の総本山が運営するゾイサイト聖教国に所属する聖騎士たちが、クソ女神のリリアに真の勇者のお墨付きを与えられた僕に剣を向けて逆恨みで斬りかかった事件は、リリア聖教会の権威失墜や、元「弓聖」たち一行の討伐を「黒の勇者」こと、僕、宮古野 丈に協力してもらえなくなる、最悪、女神リリアの怒りを買いかねないことになる、そういった不安をゾイサイト聖教国の人々にもたらす結果になってしまった。
そのため、昨日の夜から現在まで、僕の行方をゾイサイト聖教国政府やゾイサイト聖教国の人々が必死に捜しているそうで、僕がラトナ公国大使館にいるかもしれない、そう考えた人々が、僕に謝罪や、元「弓聖」たち一行の討伐への協力を要請するため、大使館の外に大勢で押しかけ、訴えかけてきている。
基本的に認識阻害幻術で普段から姿を完全に消しているため、僕や僕の仲間たちが見つかることはほとんどない。
部屋の明かりや窓のカーテンの開閉などで疑いをもたれることはあるかもしれないが、大使館の中でさえ完全に姿を消している上、僕たちが大使館に逗留中のことは口外しないよう大使館の職員たちにはお願いしているため、今のところ、僕たちはゾイサイト聖教国の人々から発見されずに済んでいる。
ラトナ公国大公のクリスから、ゾイサイト聖教国の国家元首兼リリア聖教会のトップ、カテリーナ聖教皇が、僕に直接会って「白光聖騎士団」の非礼を謝罪したい、損害賠償金も支払う、と言ってきたとの連絡があったが、僕は聖教皇との面会を拒否した。損害賠償金はラトナ公国政府に払うよう聖教皇に回答してほしい、後、僕の所在は知らないとも回答するよう、クリスに頼んだ。
宗教団体の皮を被った卑劣な悪党どもの親玉と会って話をするつもりは毛頭ない。
リリアからの神託を捻じ曲げ、僕や元「弓聖」たち一行の討伐を、自分の私利私欲のために利用しようとするクソ聖教皇なんかと、この僕が会いたいと思うわけがない。
朝食を食べながら、僕はポツリと呟いた。
「人がすぐ傍でゆっくり朝食を食べている時に大勢で押しかけて来て、大声を上げて叫んでくるなんて、本当に迷惑な連中だ。謝罪はいらない、放っておいてくれ、とはっきりこっちは伝えているのに、話の分からない奴らだ。これだから、宗教に頭を毒された連中は嫌なんだ。常識だとか言葉だとか、相手の感情だとか、そういったものを宗教の一言で平気で無視してくる、非常識のイカれた連中だから、本当に困ったもんだよ。まぁ、あんな連中のことなんて無視しておけば何の問題も無い。」
僕は少し不機嫌な気持ちになったが、すぐに気持ちを切り替え、パーティーメンバーたちとの朝食を楽しんだ。
僕は朝食を食べ終えると、パーティーメンバー全員、それとスロウを僕の泊まっている部屋に集めてミーティングを行った。
「僕からみんなに、元「弓聖」たち一行の討伐について話がある。元「弓聖」たち一行を討伐するための作戦について、僕の方で作戦を考えた。作戦に必要な物を揃えるため、準備を手伝ってほしい。グレイ、ブラックマーケットに潜入して、例のドッペルゲンガーマスクを10人分ほど盗んできてくれ。僕、酒吞、イヴ、マリアンヌの三人はこの後、ズパート帝国の帝都へと向かう。そこで二手に分かれて買い物を行う。何を買うかは現地に到着してから伝える。鵺とエルザは、それぞれ地上と空からゾイサイト聖教国の首都内のパトロールと情報収集を頼む。元「弓聖」たち一行と万が一、遭遇することがあった場合は、戦闘は極力避けて下がってほしい。玉藻、メル、スロウの三人は大使館内で待機だ。勝手に一人で大使館の外へは出ないように。午後1時に大使館でみんなでまた会おう。僕からの話は以上だ。みんなから何か質問はあるかい?」
「いえ、特に質問はございません、丈様。」
「俺も特にはないぜ。」
「私も質問はない。」
「我も特段、質問はない。」
「アタシも質問はない。了解じゃんよ。」
「妾も質問はないぞ、婿殿。」
「私も質問はありません、ジョー様。」
「ウチも質問ナッシング~。部屋でゴロゴロしてま~す。」
「メルも了解しました、なの。」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、スロウ、メルが、それぞれ答えた。
「それじゃあ、各自用意ができたら、行動に移ってくれ。酒吞、イヴ、マリアンヌ、30分後にズパート帝国の首都に向かうぞ。イヴ、いつものように瞬間移動で転送を頼む。では、各自散開。」
ミーティングを終えると、僕たちは分かれて行動を開始した。
ミーティングが終わってから30分後、用意を整えた酒吞、イヴ、マリアンヌの三人が、ふたたび僕の部屋へと集合した。
「みんな、用意は良いね?では、ズパート帝国の帝都まで出発だ。イヴ、転送を頼む。」
「了解だ、婿殿。」
イヴが右手の指をパチンと鳴らした。
目の前の光景がグニャリと歪んで見えた直後、僕たちは一瞬でズパート帝国の帝都の中心部へと転送された。
大通りから逸れた路地裏へと入ると、認識阻害幻術を解いた後、僕は酒吞たちに向かって言った。
「三人には討伐に必要なアイテムの買い物を手伝ってほしい。マリアンヌ、お前にはメッセージカードを書くのに必要な物を買ってきてほしい。横長の白いメッセージカードを10枚ほどに、赤いインク、絵筆を買ってきてくれ。インクはできれば、鮮やかな血の色に近い、不気味さを感じさせる赤い色のインクを買ってきてほしい。絵筆は文字が書きやすい仕様の物を買ってきてほしい。酒吞、マリアンヌの護衛を頼む。リリア聖教会の連中が襲ってきた時は殺してもかまわない。イヴは僕に付いてきてくれ。一緒にペットショップでオウムを買うのを手伝ってくれ。」
「かしこまりました、ジョー様。」
「了解だぜ、丈。」
「妾も特に異論はないが、オウムなど買ってどうするつもりだ、婿殿?」
「それは帰ってからのお楽しみだ、イヴ。元「弓聖」たち一行の討伐にピッタリのアイテムなのは保証するよ。それじゃあ、買い物が終わったら、この路地裏へ集合だ。リリア聖教会やゾイサイト聖教国の連中に気を付けてくれ。じゃあ、二人とも、また後で。」
僕はそう言うと、酒吞とマリアンヌの二人と別れて、イヴとともにオウムを買いに、帝国の大通りを歩き始めた。
大通りを歩き始めてから約30分後、僕とイヴの二人は一軒のペットショップへと入った。
店内に入るなり、僕はとあるオウムを探した。
そして、鳥のペットコーナーで、目的のオウムを発見した。
「コイツだ。まさか、この異世界にもコイツがいるとはな。コイツがあれば、連中への復讐成功は間違いなしだ。」
笑みを浮かべる僕の視線の先には、体長50cmほどで、全身が真っ白で、黒い瞳と黒い嘴を持ち、頭に特徴的な黄色い冠羽を持っている、大きな一羽のオウムであった。
「婿殿、この大きなオウムがお目当てのオウムだそうだが、このオウムが婿殿の復讐に、元「弓聖」たち一行の討伐に本当に役立つのか?妾にはただの大きいオウムにしか見えないのだが?」
首を傾げ、疑問を口にするイヴに向かって、僕は笑いながら答えた。
「もちろんだよ、イヴ。コイツは僕たちの復讐に絶対に役に立つ。コイツは僕の世界ではキバタンと呼ばれる、大型のオウムの一種だ。見た目が特徴的な上、とても知能が高いことで知られているんだ。そして、コイツの一番のポイントは、馬鹿でかい鳴き声だ。このキバタンの鳴き声はとにかくデカくてうるさい。僕が地球にいた頃、コイツを僕の家の近所で飼っている家があったんだが、とにかく鳴き声がうるさくて、騒音被害で周りのご近所さんから飼い主の家にクレームへ行く人が多かったのをよく覚えているよ。このキバタンを刑務所に閉じこもっている元「弓聖」たち一行の下にたくさん送りつけてやったら、面白いことになるとは思わないか?」
「ハハハ!なるほど、それは面白いアイディアだ、婿殿!婿殿が何を考えているのか、妾にも大分、分かってきたぞ。」
「生きた騒音爆弾のコイツを、刑務所の中に閉じこもっていい気になっている鷹尾たちにぶつけてやるのさ。さて、コイツを10羽ほど買うとするかな。」
僕はペットショップの店員に声をかけると、ケージに入ったキバタンを10羽、購入したいと伝えた。
店員がキバタンを10羽も買うと言った僕に、驚いたような目を向けてきたが、すぐに飼育方法や生態、値段などを丁寧に教えてくれた。
店員からの説明を聞き終わると、僕は500万リリアを支払い、大きなケージに入ったキバタンを10羽、購入した。
キバタンたちを腰のアイテムポーチの中へと収納すると、僕はイヴとともにペットショップを出た。
ペットショップを出て、来た道を引き返し、集合場所の路地裏へと向かうと、買い物を終えた酒吞とマリアンヌが、先に来ていた。
「お疲れ様、酒吞、マリアンヌ。目的の物は買えたか?リリア聖教会の連中からちょっかいをかけられることはなかったか?こちらは無事、目的のオウムを買うことができたよ。」
「お疲れ、丈。買い物中は特にリリア聖教会の連中から襲われることはなかったから、大丈夫だったぜ。」
「お疲れ様です、ジョー様。ご指示いただいた通りに、メッセージカードを書くのに必要な道具を一式、全て購入いたしました。こちらも問題はありませんでした。」
「ありがとう、酒吞、マリアンヌ。これで元「弓聖」たち一行に復讐する道具が大方揃った。後は仕込みを施すだけだ。鷹尾たちの苦しむ姿が今から目に浮かんで笑いが止まらないな、ホント。」
僕は口元に笑みを浮かべながら、元「弓聖」たち一行への復讐について考えを巡らせるのであった。
ズパート帝国の帝都での買い物を終えると、イヴの瞬間移動で僕たちは、ゾイサイト聖教国のラトナ公国大使館内へと戻った。
午後1時。
任務を終えたグレイ、鵺、エルザの三人も戻ってきたため、僕はパーティーメンバー全員とスロウとともに、一緒に昼食を食べた。
昼食を食べ終えてしばらく休憩した後、僕は自分の部屋にふたたび、パーティーメンバー全員とスロウを呼んで集め、ミーティングを始めた。
僕はみんなに向かって、元「弓聖」たち一行を討伐する作戦に向けての準備について説明した。
アイテムポーチから、ペットショップで購入した、ケージに入ったキバタンを10羽、取り出すと、キバタンたちを見せながら言った。
「これから、元「弓聖」たち一行を討伐するための作戦について説明する。今回の作戦名は「鳥籠作戦」と呼ぶことにする。作戦内容だが、このキバタンというオウムも利用しながら、元「弓聖」たち一行を全員、討伐する。現在、元「弓聖」たち一行はゾイサイト聖教国の南西にある世界最強最悪の刑務所、シーバム刑務所を占拠し、立てこもっている。シーバム刑務所は難攻不落にして脱獄不可能と呼ばれる刑務所でもあり、元「弓聖」たち一行はシーバム刑務所を城塞代わりに籠城しながら、ゾイサイト聖教国を攻め落とす作戦を行っている。けれど、シーバム刑務所への潜入は不可能とは言い切れない。僕たちなら、完全に姿を消して、結界や塀を通り越えず、刑務所内に瞬間移動で潜り込むことができる。さらに、元「弓聖」たち一行が立てこもった場所は、本来外部から完全に遮断された陸の孤島、険しい山の上にある、世界最悪の刑務所だ。決して居心地の良い場所なんかじゃない。長期間の籠城はかなりのストレスになるはずだ。そのウィークポイントを徹底的に攻める。元「弓聖」たち一行や手下たちをシーバム刑務所から外へ出られないよう、刑務所に完全に押し込める。それから、連中にストレスを増加させる嫌がらせを行い、精神的にも肉体的にも疲弊させていく。刑務所と言う名の鳥籠に閉じ込められ、ストレスで弱り切って死にかけの憐れな鳥と化した元「弓聖」たち一行を全員、一人残らず皆殺しにする、というのが、僕の立てた作戦の主な内容だ。そして、みんなの目の前にいるこのキバタンに、元「弓聖」たち一行へダメージを与えるメッセージ付きの爆弾になってもらう。このキバタンはとても知能が高く、言葉を覚えるのが早い。さらに、鳴き声がとにかくうるさくて、騒音被害で有名なオウムだ。このキバタンたちに、嫌がらせのメッセージを覚えさせ、元「弓聖」たち一行が籠城する刑務所の中へと解き放つ。嫌がらせのメッセージと騒音のダブルパンチだ。この生きた騒音爆弾を連中に送り付け、安眠を妨害してやるわけだ。具体的な嫌がらせ行為やメッセージの内容については、後でみんなに教える。みんなには、キバタンの飼育と、嫌がらせのメッセージを覚えさせることに協力してほしい。実はもう、覚えさせるメッセージの内容も考えてあるんだ。シーバム刑務所を連中の鳥籠兼棺桶に変えてやろうじゃないか?みんなから何か質問はあるかい?」
僕はニヤリと口元に笑みを浮かべながら、他のメンバーたちに訊ねた。
「「鳥籠作戦」、実に丈様らしい、えげつなさと復讐心に満ちた作戦です。この玉藻、全力で丈様の作戦をサポートさせていただきます。キバタンたちの飼育もお任せください。」
「「鳥籠作戦」、中々面白そうな作戦じゃねえか。籠の中の鳥となった、ゴブリン以下の犯罪者どもを俺たちでじっくりと嬲り殺しにしてやろうじゃねえか。」
「害鳥どもは一匹残らず駆逐するべし。鳥籠の中で悶え苦しむ害鳥以下の極悪勇者たちをバラバラに斬り刻んでやるのが楽しみ。」
「「鳥籠作戦」、今回もまた奇抜な作戦を思いついたな、ジョー殿。敵の作戦を逆手にとって、敵の泣き所を徹底的に攻め抜くわけだな。害鳥どもめ、我らの作戦で全員、地獄へと叩き落としてやろうぞ。」
「刑務所なんて元々、鳥籠も同然だ。調子に乗っている極悪人の害鳥どもは全員、刑務所の檻の中へもう一度、ぶち込んでやるじゃんよ。アタシらでついでにクソ勇者どもを殺処分してやろうじゃん。」
「さすがは婿殿だ。「鳥籠作戦」、実に面白い作戦ではないか。刑務所なんぞを占拠して本気で国盗りができると思い上がっている元「弓聖」たち一行に、本当に追い詰められているのはどちらか、籠の中の憐れな鳥は一体誰なのか、そう思い知らせてやろうというわけか。元「弓聖」たち一行への嫌がらせにこの妾も全力で力を貸すぞ、婿殿。」
「いつもながら、ジョー様らしい、ブラックユーモアに富んだ、えげつなさを感じさせる作戦です。あまり勇者らしい作戦とは言えませんが、極悪人の元「弓聖」たち一行を相手取るなら、そういったえげつなさも必要なのでしょう。今回の「鳥籠作戦」、私も全力でお手伝いさせていただきます、ジョー様。」
「マジ、えげつねえ作戦考えるねえ~、ジョーちん。嫌がらせのメッセージ付きの騒音爆弾とか、ウチからしたら超最悪だし。食らった瞬間、ストレスMAX確定だっしょ。元「弓聖」たちもプララルドたちもマジ、ご愁傷様で~す。」
「メルもオウムさんのお世話、頑張ってお手伝いしますなの~。悪い奴らはオウムさんでやっつけちゃうなの。」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、スロウ、メルが、「鳥籠作戦」への賛成と協力をそれぞれ、表明した。
「さてと、それじゃあ、早速、キバタンたちのお世話と教育にみんなには協力してもらおう。大使館の空いてる部屋を借りて、一羽ずつ個室で世話をする。認識阻害幻術をかけるから、僕たち以外にキバタンたちの姿も声も分からないようにするから、周囲への迷惑はかからない。キバタンは意外とデリケートな生き物だ。できる限り、一緒に遊んだり、話しかけたり、人と触れ合った方がストレスを感じないと、ペットショップの店員から聞いている。キバタン用の餌も買ってあるが、果物や花の種が好きなんだそうだ。みんなでコイツらを立派な騒音爆弾に育ててあげよう。」
こうして、僕たちはキバタンたちを元「弓聖」たち一行にぶつける強力な騒音爆弾として仕立て上げるため、キバタンたちの飼育を始めた。
夜の騒音対策もバッチリで、玉藻の認識阻害幻術で鳴き声を、姿形を僕の認識阻害幻術でそれぞれ消すことで、キバタンの存在を完全に隠しながら、夜の騒音で、僕たちや周囲の人々の安眠が妨害されることも完全に防いだ。
それぞれのキバタンたちに教え込む嫌がらせのメッセージの内容に、他のパーティーメンバーたちは苦笑していたが、面白そうにキバタンたちへの教育を行っていた。
昼間、昼寝をしていたスロウがキバタンたちの声がうるさいと文句を言ってきたが、ほんの数日の我慢だと言い聞かせて、まるめ込んだ。
大使館以外に寝泊まりできる当ても無い上、昼寝なら外でもできるため、スロウは仕方がないと納得してくれた。
メルは最初、少しキバタンを怖がることもあったが、すぐにキバタンたちと打ち解け、自分から積極的にお世話をするようになった。
これから極悪人たちが大勢いる刑務所に、嫌がらせのメッセージ付きの生きた騒音爆弾として放つことになるキバタンたちと仲良くなりすぎて、メルが別れを惜しんで泣きだしたりしないことを祈りながら見守っている、17歳の義理のパパである僕であった。
一応、二、三羽ほど多く飼ってきているので、キバタンとのお別れによる悲しみを和らげることはできなくはないと思うが。
それから、マリアンヌにキバタンたちの鳥籠に添える、追加のメッセージカードをいくつか書いてもらった。
ブラッドレッドカラーの、鮮やかながらも血のように不気味な赤いインクで、僕が考えた、元「弓聖」たち一行に宛てた追加のメッセージを、絵筆で白いメッセージカードに書いてもらったのであった。
メッセージカードに書いたメッセージの内容に、少々下品で挑発的過ぎないかと言われたが、受け取る元「弓聖」たち一行のストレスを増加させ、疲弊させる作戦のためだと言って、マリアンヌには納得してもらった。
僕は他のパーティーメンバーたちと討伐作戦の準備を進めながら、さらに追加でラトナ公国のクリスに、いくつかの依頼をした。
僕がズパート帝国の帝都のペットショップでキバタンたちを買った日の午後のこと。
午後3時頃。
僕は自分の泊まっている部屋の中で、一人、椅子に腰かけながら、左手のグローブを外した。
それから、左の小指に嵌めている通信機の機能を持つシグネットリングに向かって、呪文を唱えた。
「コール。」
指輪が一瞬、キラリと光った後、僕は左の小指に嵌めているシグネットリングに向かって話しかけた。
「もしもし、クリス?僕だ、宮古野 丈だ。今、話をしたいんだが、良いかな?」
『もしも~し、こんにちは、ジョー君!愛しい君のためなら、私はいつだって、いくらでも時間を作るよ!昨日からそちらは色々と大変みたいだね!カテリーナ聖教皇が君に会って謝罪したいと言ってきたけど、申し出は断っておいたよ!所在についても知らない、当人の自由意思に任せていると言って、君が我がラトナ公国の大使館にいることも教えてはいない!それと、君を「白光聖騎士団」の連中が襲った件の損害賠償金だけど、ゾイサイト聖教国政府と協議した結果、我がラトナ公国政府に対し、ゾイサイト聖教国政府から7,000億リリアの損害賠償金を支払ってもらうことに決まったよ!女神リリアの使徒だとか言っていつもお高くとまって、毎年1兆リリア近く、我が国や我が国の国民たちから慈善事業のための寄付金と称して金を巻き上げていく、あの聖職者の皮を被った金の亡者どもから損害賠償金をたんまりと絞りとることができて、本当に気分がスカッとしたよ!大体、私の可愛いジョー君に刃を向けてきた上、勇者として引き抜こうだなんて、実に腹の立つ連中だ!あの高慢ちきの行き遅れババアが、ざまぁみろってね!「白光聖騎士団」の連中は全員、磔にして処刑したと聞いたけど、どうせならギロチンでこの手で即、首を斬り落として処刑してやりたい気分だ!磔なんて手ぬる過ぎるくらいだ!おっといけない、話が逸れてしまった!私に話とは何だい、ジョー君?元「弓聖」たち一行の討伐で何かお困りのことでもあるのかな?』
「聖教皇との交渉をありがとう、クリス。今も大使館前で朝からずっと僕を呼ぶゾイサイト聖教国の連中のうるさい声が聞こえるが、それ以外に被害は今のところ、受けてはいないから大丈夫だ。今、こちらで元「弓聖」たち一行の討伐に向け、本格的に準備を始めたところだ。実はその件で君に頼みがある。超小型の盗聴器と受信機のセットを10セット、それと、ブラックオリハルコン製のロングソードとパルチザンを大至急、用意してもらえないか?」
『ジョー君もついに盗聴ごっこの面白さに目覚めたのかい?盗聴ごっこは毎日やっても、全然飽きないよ。』
「つまらん冗談はよしてくれ。僕たちは元「弓聖」たち一行が立てこもっているシーバム刑務所に後日、潜入する計画だ。連中の行動を逐一、正確に把握するためには盗聴器が必要だ。元「弓聖」の鷹尾は頭の切れる奴だ。それに、目的のためなら手段を全く選ばない。仲間だって平気で犠牲にできる、冷酷な策士だ。何をしでかすか分からない連中を倒すには、連中の動向を常に知って対応する必要がある。盗聴器の作成は得意だろ?なるべく小型で性能の良い盗聴器を頼む。それと、ブラックオリハルコン製のロングソードとパルチザンも大至急、用意してほしい。ゾイサイト聖教国の連中は、リリア聖教会の連中は、通常のオリハルコンの50倍の強度と50倍の魔力の伝導率を持つ新合金、セイクリッドオリハルコンを開発して、セイクリッドオリハルコン製の武器や鎧を作って、装備している。ブラックオリハルコンに比べたら大した性能ではないが、それなりに脅威でもある。エルザとグレイの武器には、オリハルコンもしくは鉄が使われているが、リリア聖教会の連中と今後も戦うことになった場合、二人の武器が破壊される懸念がある。一番最悪なのは、セイクリッドオリハルコン製の武器装備を元「弓聖」たち一行も使用してくる場合だ。どんな些細なリスクでも取り除いておかなければならない。そういうわけだ。盗聴器とブラックオリハルコン製の武器を至急、用意してほしい。元「弓聖」たち一行を討伐するためなら、できる限りの準備をしておく必要があるんだ。頼むよ、クリス。」
僕は真剣な表情を浮かべながら、通信機の向こう側にいるクリスに向かって頼んだ。
『了解だよ、丈君。超小型の盗聴器と受信機のセットが10セット、それと、ブラックオリハルコン製のロングソードとパルチザン、だったね。今日から三日以内に準備してみせるよ。セイクリッドオリハルコンか。ゾイサイト聖教国の錬金術士たちも中々、やるじゃないか。まぁ、世界最高の天才錬金術士であるこの私の発明には遠く及ばないけど。最高の盗聴器と武器を作って君たちにプレゼントするよ。受け取り方法はどうしようか?』
「盗聴器と武器ができたら、すぐに僕に連絡してくれ。瞬間移動で、一瞬でラトナ公国まで移動できる。こちらから君の屋敷に出向いて取りに伺うよ。」
『了解だ。愛しいジョー君の顔を久しぶりに拝めるなんて嬉しいなぁー。瞬間移動、闇の女神イヴの力だったよね?アダマスの創造に関わったもう一人の女神、一度会って話をしてみたいとも思っていたんだ。女神の知識がどの程度のものか、興味があるねぇ。』
「闇の女神であるイヴの能力や知識、頭脳は凄いぞ。異世界の技術である写真をたった数日で解析して再現できるほどだ。知識人、いや、知恵の女神なのは間違いない。だからと言って、興味本位で彼女を挑発したりするなよ?イヴも僕の恩人の一人で、頭脳面や戦闘で頼りになる大事な僕の仲間なんだからな。普通に敬意を持って接してくれ。頼むぞ、本当に。」
『分かっているよ、ジョー君。こうみえても、私は一国を治める国家元首の一人だよ。魔族も恐れる闇の女神を怒らせるような挑発をするほど、愚かじゃないよ。他に追加で必要な物があったら、いつでも連絡を寄越してくれたまえ。最後にジョー君、私からも一つだけお願いがあるんだけど、いいかな?』
クリスからお願いがあると言われて、嫌な予感をおぼえるも、僕は顔を顰め、ため息を吐きながら、クリスに訊ねた。
「はぁー。お願いって、何だよ、クリス?」
『これから徹夜して君の要求に応えるために頑張る、健気で一途な私のために、君からエールをもらいたいんだよ。「頑張って、マイハニー、クリス。」って言う、心のこもったエールを君の口から聞かせてもらえたら、私はどこまでも頑張れる気がするんだ。お願~い、ジョー君?』
いつもながら、どうしてそんな恋愛脳の連中が言いそうな、言っただけで胸やけがしてきそうな愛のセリフみたいな言葉を言わなきゃならないんだ?
僕はクリスに協力をお願いする以上、仕方がないと思い、観念した。
「一度しか言わないからな。頑張って、マイハニー、クリス。」
『ウヒョーーー!耳に染み渡るーーー!ありがとう、ジョー君!超特急で用意するから!徹夜なんてこれで十日は乗り越えられるよ!愛してる、ジョー君!ハングアップ!』
興奮した様子で喜びの声を上げながら、僕との通信を切ったクリスであった。
「毎度毎度、協力を申し込むたびに、こっ恥ずかしい愛のセリフをリクエストされるのは、本当に何とかならないものかな?必要経費を払うじゃ、駄目なのか?絶対、駄目だろうな。他にクリスに断られずに協力の対価として支払えるモノと言っても、早々ないな。この先もこれがずっと続くんだろうな。本当、何とかならないもんかな、これ?」
クリスの毎度の無茶ぶりに大して、一人ぼやく僕であった。
こうして、元「弓聖」たち一行を討伐するための準備を着々と進める僕であった。
準備が完了し次第、すぐに元「弓聖」たち一行の討伐作戦を開始するつもりだ。
鷹尾、それから、お仲間の元勇者六人、堕天使ども、お前たちがどんなに強力な能力を持っていようが、難攻不落の刑務所に籠城していようが、どんなに卑劣な攻撃をしかけてこようが、全て返り討ちにしてやる。
お前たち全員に、苦痛と恐怖と絶望をたっぷりと味わわせて、地獄のどん底に叩き落してやる。
狂い死にするほどの復讐をこれから死ぬまで存分にお見舞いしてやる。
優しい復讐鬼となったこの僕の正義と復讐の鉄槌から逃れることはできない運命が待ち構えていることをきっちり教えてやる。
僕は元「弓聖」鷹尾たち一行への復讐の準備が整いつつあることに、口元に笑みを浮かべながら、静かに喜ぶのであった。
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