第八話 主人公、「風の迷宮」を攻略する、そして、聖弓を破壊する

 僕たち「アウトサイダーズ」が元「弓聖」たち一行を討伐するため、ゾイサイト聖教国に到着した日から二日後のこと。

 僕たちは元「弓聖」鷹尾たち一行を討伐するため、昨日から準備を始めた。

 午後9時。

 ラトナ公国大使館の一室で、パーティーメンバー全員とスロウと一緒に朝食を食べながら、僕は全員に向かって言った。

 「みんな、食事中済まないが、ちょっと僕の話を聞いてほしい。突然の提案にはなるが、今日のうちに僕たちで「風の迷宮」を攻略して、聖弓を破壊したいと考えている。元「弓聖」鷹尾たち一行がシーバム刑務所を占拠してから七日経つが、連中が「風の迷宮」を攻略して、弓聖専用の聖武器、聖弓を手に入れたというニュースは今だ聞こえてこない。聖弓を手に入れられてパワーアップされるのも面倒だが、聖弓を手に入れたことで元「弓聖」たち一行がゾイサイト聖教国の連中に、勇者として自分たちの能力や存在をアピールして、ゾイサイト聖教国政府と取引をする可能性も否定はできない。元「弓聖」たち一行にとって有利になる要素は確実に排除しておきたい。協力をお願いしても良いかな、みんな?」

 僕の問いに、玉藻たち他のメンバーたちは賛同してくれた。

 「もちろんでございます、丈様。「風の迷宮」のダンジョン攻略、わたくしたちも全力で協力いたします。何なりとお申し付けください。」

 「ありがとう、玉藻、みんな。「風の迷宮」の場所や攻略方法については僕の方ですでに情報収集も作戦の立案も済ませている。少し癖のあるダンジョンだが、僕たちなら問題なく攻略可能だ。ただ、一つ気になるのは、何故、鷹尾たちがいまだに「風の迷宮」を攻略しないでいるのか、という点だ。堕天使たちと融合して大幅なパワーアップに成功した連中が、何故、いまだにダンジョンを攻略せず、シーバム刑務所に籠城したままなのか、そこが気になる。すでに「風の迷宮」を連中が攻略済みの可能性も否定はできないが、「風の迷宮」は攻略されれば恐らく、すぐに近くを通りかかった人から分かるはずなんだ。どうも、その一点が気になってしょうがない。連中が僕たちが「風の迷宮」を攻略するかもしれないと考えて、罠を仕掛けて待ち構えていたらと思うとね。」

 僕が、何故、元「弓聖」たち一行がいまだに「風の迷宮」を攻略しないでいるのか、その疑問を口にすると、スロウがその疑問に答えた。

 「ジョーちん、ウチ、答え知ってるよ~。「風の迷宮」もだけど、ダンジョンにはウチら堕天使は入れないようになってるんよ。入ろうとしても、勝手にダンジョンの外へ転送される仕組みになってるんだし。女神の奴が、ウチらを使って勇者たちが楽してダンジョンを攻略できないよう、そういう風にダンジョンに仕掛けを施したみたいなんよ。ぶっちゃけ、ウチら堕天使だけでダンジョンを攻略できるかもだから、勇者のレベルアップの邪魔にならんよう、そうしたみたいだし。元「弓聖」たち一行だけど、プララルドたちと融合しちゃってるから、単にダンジョンに入れなくなっただけなんじゃね?ジョーちんが心配しているようなことはないと、ウチは思うけど。」

 「なるほど。それで合点がいった。鷹尾たちめ、堕天使たちと融合してパワーアップはできたが、代償に肝心のダンジョンへ入れなくなったわけか。堕天使と融合していなければ、連中はLv.0の「犯罪者」だ。楽してパワーアップしようとするから、本末転倒になるんだよ、クソ勇者ども。でも、あの鷹尾のことだ。自分たちの手を使わず、別の手段を使ってダンジョン攻略を考えるかもしれない。油断はできない。スロウ、情報をありがとう。なら、善は急げだ。今日中に、鷹尾たちより先に「風の迷宮」を攻略して、聖弓を破壊する。酒吞、鵺、イヴ、僕と一緒に「風の迷宮」のダンジョン攻略を手伝ってくれ。玉藻、エルザ、グレイ、マリアンヌ、スロウ、メルは、大使館内で待機だ。キバタンたちのお世話と教育を頼む。騒音爆弾の製造、よろしく。1時間後、「風の迷宮」へと向かう。攻略担当メンバーは準備を整えておいてくれ。」

 僕はパーティーメンバー全員とスロウに指示した。

 朝食を食べ終わると、僕はダンジョン攻略のため、身支度を整えた。

 午前10時。

 準備を整えた僕、酒吞、鵺、イヴの四人は、ゾイサイト聖教国の首都からちょうど北の方角にある「風の迷宮」へと向かって出発することにした。

 「イヴ、ここから「風の迷宮」のあるトロスバレーという谷を君の千里眼で見ることはできるかい?年中、白い霧に覆われた巨大な谷が、ここから北の方角にあるそうなんだが?」

 「少し待て、婿殿。ふむ。この国の北側に、それらしい霧に覆われた谷や山が見える。しかし、想像以上に霧が濃くて、霧に覆われている範囲が広いな。他に、「風の迷宮」の特徴に関する情報はないのか?」

 「この前本屋で買った本の中に、「風の迷宮」は白い霧で覆われた、とてつもなく巨大な大聖堂に似た姿の建物をしている、という記述があったよ。今言った特徴の建物が霧の中にないか?」

 「ふむ。おおっ、あったぞ。婿殿の言う通りなら、霧の中に立つ大聖堂のような建物がうっすらとだが見える。あれが「風の迷宮」であるかもしれん。」

 「では、イヴ、僕たちを「風の迷宮」の近くまで転送してくれ。転送後の動きについては、僕が指示する。」

 「了解だ、婿殿。皆の者、「風の迷宮」の傍まで転送するぞ。行くぞ。」

 イヴはそう言うと、右手の指をパチンと鳴らした。

 目の前の光景がグニャリと歪んだ直後、僕たちは「風の迷宮」がある、トロスバレーの入り口付近まで転送された。

 巨大な谷の入り口の向こう側は、真っ白な濃霧が広がっており、谷全体や谷の周辺の山々を覆っている。

 「転送、ありがとう、イヴ。三人とも、よく僕の話を聞いてほしい。今、僕たちの目の前にあるトロスバレーと呼ばれる谷は、別名「死の谷」とも呼ばれる危険な場所だ。理由は、谷全体を覆う、目の前に見えるあの白い濃霧が原因だ。あの白い霧には、人間の方向感覚を狂わせる効果があるそうだ。あの白い霧を吸うと、視覚、聴覚、嗅覚が麻痺して、狂わされることになるそうだ。あの白い霧は本によると、「風の迷宮」から発生しているものらしくて、「風の迷宮」を破壊もしくは攻略しない限り、霧の発生は止まらない。白い霧がダンジョンへの侵入者を防ぐ結界の役目をしていると言える。霧を吸い込んだ人間が谷の中に迷い込んで、そのまま行方不明になった事件が多発したため、地元の人間たちはまず、この谷には近づこうとしない。歴代の勇者たちが「風の迷宮」を攻略するため、この白い濃霧に覆われたトロスバレーに足を踏み入れたそうだが、攻略に失敗して行方不明になった勇者パーティーが何組かいるそうだ。決してあの白い霧を吸わないよう、注意してくれ。そして、白い霧への対抗策はすでに考えてある。鵺、風を起こして、目の前の白い霧を薙ぎ払ってくれ。白い霧を除去しながら、「風の迷宮」へと進んでいく。隊列だが、先頭は鵺、二番目は僕、三番目は酒吞、最後尾はイヴ、この形で一列に直進して一気に突破する。イヴ、最後尾から千里眼で隊列が乱れないよう、随時確認を頼む。僕も鵺の後方から「霊視」で進路を確認する。できる限り、前の人間とは離れないようにしてくれ。後は認識阻害幻術で姿を消せば、問題なくダンジョンの最深部まで到達できるはずだ。作戦は以上だ。他にみんなから質問はあるかい?」

 「霧を払うのは私に任せて、丈君。障害はこの私が全て取り除く。」

 「俺が殿を務めないなんて、久しぶりじゃねえか?先導、よろしく頼むぜ、丈。」

 「後方からの確認は妾に任せよ。この隊の安全は、闇の女神である妾に安心して委ねるがいい、婿殿。」

 「ありがとう。よろしく頼むよ、三人とも。では、出発開始だ!認識阻害幻術!」

 僕は右手を突き出すと、右手が黄金色の霊能力のエネルギーで一瞬、キラリと光った後、僕の右手から薄い透明な膜が発生し、僕たち四人の全身を包み込んだ。

 「これまでの認識阻害幻術とは違って、魂の持つエネルギー、気配まで完全に隠せるようになったんだ。玉藻とほぼ同レベルの認識阻害幻術を使えるようになった。これでもう、僕たちを捉えることができる者はほとんどいなくなったと言ってもいい。」

 「やるじゃねえか、丈。玉藻の術を一つ、完全に習得できたわけか。玉藻の奴も見たかったろうな、きっと。」

 「丈君の成長をまた一つ、見ることができて嬉しい。私もやる気がますます出てきた。」

 「フフっ。さすがは婿殿だ。女神であるこの妾の存在を、女神の力を完全に消すことができるようになるとは見事だ。婿殿のさらなる成長を見るのが楽しみだ。」

 「お褒めいただき、どうも。進化した僕の認識阻害幻術で元「弓聖」たち一行をぶちのめしてやるつもりさ。期待しててくれ。」

 「私も負けてはいられない。邪魔な霧は私の風で吹き飛ばす!」

 鵺がそう言って右手を前に突き出した。

 鵺の右手がキラリと一瞬、光った直後、突然、僕たちの目の前に広がる白い濃霧を左右に薙ぎ払い、道を切り開くように強い風が吹き、前方の白い濃霧を完全に吹き飛ばした。

 巨大な谷の入り口から、谷の最奥にある「風の迷宮」までの一本道が、僕たちの目の前に現れた。

 「さすがは鵺。この谷を覆っていた厄介なあの白い霧をほぼ一瞬で取り除いてしまうとは。風の威力も操作も、本当に完璧だ。まだまだ鵺には敵わないな。」

 「ありがとう、丈君。丈君もトレーニングを重ねていけば、私と同じことができるようになる。丈君は確実に成長している。焦る必要はない。」

 「そう言ってもらえると助かるよ。最近はトレーニングの時間が限られているからね。原因はあのクソ勇者どもの討伐に追われているせいが大きいけど。それじゃあ、一気に「風の迷宮」へ向かうとしよう。」

 僕たち四人は、白い濃霧を除去しながら、トロスバレーの入り口から「風の迷宮」までへと続く一本道を歩いた。

 道を歩き始めてから約30分後、目的の「風の迷宮」の入り口の前まで到着した。

 「風の迷宮」は、トロスバレーの最奥に位置し、外観はバチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂によく似た、白一色の巨大な大聖堂に似た建物である。

 高さは約200m、幅は約300m、奥行きは約200mほどの大きさがある。

 巨大な大聖堂の入り口、ダンジョンの入り口からは、人間の方向感覚を狂わせる効果を持った、特殊な白い濃霧がモクモクと流れ出ている。

 先頭の鵺が、入り口から発生する白い濃霧に向けて右手をかざし、強風を入り口の正面から流し込んで、向かってくる霧を押し込め、霧を払っていく。

 先頭の鵺の後に続いて、僕、酒吞、イヴが一列になって、続々と入り口をくぐって、ダンジョンの中へと入っていく。

 「風の迷宮」の構造だが、各階層が白い濃霧に覆われた、巨大な谷や山が広がっていた。

 大聖堂の中に、空もある巨大な谷が何層にも渡って広がっている、という物理法則を超えた光景には、毎度ダンジョンを攻略しているが、やはり慣れないモノがある。

 あのクソ女神のリリアに、こんな物理法則を超えた、ダンジョンというとんでもない建築物を作る力があるとは、いまだに信じられない思いである。

 クソ女神とは言え、一応は女神、人間や堕天使、既存の生物をはるかに超える神という存在の一人。決して侮れない敵であることを再認識させられる。

 各階層に広がる谷の最奥にぽっかりと空間に穴が開いた場所があり、そこが次の階層へと続く入り口であった。

 入り口の地下へと降りる階段から、地下の次の階層へと降りていく構造となっていた。

 谷の間を大量のモンスターたちが徘徊、または飛び回っている。

 谷の間には、落とし穴やトラバサミがいくつも仕掛けてあったが、霊視や千里眼を持つ僕たちには大して問題ではなく、難なく突破できた。

 白い濃霧を鵺の起こす強風で取り除きながら、僕たちはダンジョン内を進んでいった。

 ダンジョン内に突如、強風が吹き荒れたことで、モンスターたちが騒ぎ出したが、認識阻害幻術で姿形、体温、音、体臭、影、声、魂の持つ気配、各人の持つエネルギーなど、僕たちの存在を認識する情報を全て完全に隠しているため、モンスターたちは僕たち四人の姿に全く気付かずにいる。

 ちなみに、各階層にいたモンスターたちの構成だが、第一階層がスパイクビートル、第二階層がステュムパリデス、第三階層がロックバード、第四階層がハーピー、第五階層がペリュトン、第六階層がサンダーバード、第七階層がグリフォンであった。

 いずれも鳥や翼、空に関連するモンスターばかりであった。

 第一階層から第七階層まで突破した僕は、ついに最後の階層である第八階層まで辿り着いた。

 第八階層の入り口から中へ入り、白い濃霧を風で払うと、巨大な谷が出現した。

 谷の中心に、藍色の台座に載せられた、長さ180cmほどの藍色のロングボウがあった。

 間違いなく、本物の聖弓であった。

 そして、もちろんながら、その聖弓を守るように、聖弓の後ろには巨大なドラゴンの姿があった。

 全長50mほどで、頭部と胴体は藍色の鱗に覆われている。黄緑色の羽毛に覆われた巨大な鳥のような二枚の翼、黄緑色の鳥の尾羽を持っている。足は巨大な二本の鳥の足のような形だ。口は黄緑色の嘴をしている。頭の上には黄緑色の冠羽が生えていて、ドラゴンの顔をしている。全体的に、ドラゴンと鳥の中間のような姿をしている。

 藍色のドラゴンは、谷を覆っていた白い濃霧が鵺の起こした強風によって取り除かれたことに気が付いた様子で、キョロキョロと首を回し、侵入者である僕たちの姿を見つけようと探している。

 「よし、完全に僕たちの姿をあのドラゴンは捉えることができないでいる。魂の気配を消すことに完全に成功した。あのドラゴンの傍まで近づいたら認識阻害幻術を解除する。イヴ、あの藍色のドラゴンに接近したら、君から僕たちのことや、僕たちがここに来た理由を説明してくれないか?この前のウォータードラゴンの時のように喧嘩を売られることだけはできれば避けたい。」

 「任せよ、婿殿。あれはウォータードラゴンのような短気な若造ではない。話の分かる方だ。上司である妾を見れば、おとなしく言うことを聞く。案ずるな。」

 僕たちは200mほど先にいる藍色のドラゴンと、聖弓の置いてある台座に向かって歩いて近づいた。

 ドラゴンと聖弓のすぐ傍まで接近すると、僕は認識阻害幻術を解除した。

 認識阻害幻術を解除して、姿を突然、現した僕たちを見て、藍色の瞳を見開いて、二枚の翼を羽ばたかせ、藍色のドラゴンは驚きながら僕たちを見下ろしていた。

 『なっ!?い、いつのまに我の傍へと近づいたのだ!?何の気配も感じなかった!?お前たち、一体、どうやって我の傍へと近づいたのだ!?人間め、どんな小細工を使ったのだ!?それに何故、姿を現した!?我を驚かせてその不意を突く作戦でも思いついたか?それとも、勇者として、我と堂々と勝負して聖弓を手に入れる気になったか?』

 藍色のドラゴンは、驚きながら、僕たちへの警戒を緩めようとしない。

 最後尾にいたイヴが前に出ると、藍色のドラゴンに向かって話しかけた。

 「ウインドドラゴンよ、久しぶりだな。上司であるこの妾の顔を忘れたわけではあるまいな?お前ともあろう者が、闇の女神たる妾の存在にすぐに気が付かんとは、貴様、少々弛んでいるのではないか?ダンジョンに閉じ込められ、勘が鈍ったか、ウインドドラゴン?」

 『い、イヴ様!?ほ、本当にイヴ様だ!?ウッソ、マジ~?リリアに封印されたって聞いてたけど、いつの間に復活してたんですか~?復活したなら、もっと早く迎えに来てくださいよ~。私、もう一生このダンジョンに閉じ込められたままかと思ってたんですよ~、マジ。』

 何か、急にノリが軽くなったぞ、このドラゴン?

 ウインドドラゴンとか言うらしいが、コイツもまさか、ギャルなのか?

 堕天使と言い、竜王と言い、異世界の強い女性たちはギャルが流行りなのか?

 「安心せよ、ウインドドラゴン。お前をこのダンジョンから解放するために来てやったのだ。妾と一緒に来た三人は妾の仲間だ。そして、お前の目の前にいる男は、妾の婚約者にして妾の加護を受けた真の勇者だ。「黒の勇者」とも呼ばれる英雄だ。お前を助けるために婿殿が力を貸してくれたのだ。妾と婿殿たちに感謝するがいい。」

 『ええっ、イヴ様、婚約までしてたんですか~?あのお堅いイヴ様が婚約するなんて、それも人間の男となんて、マジ、サプライズみたいな~。おめでとうございま~す、イヴ様。婚約者さんとお仲間さんたちもありがとうございます~。じゃあ、早速で悪いんですけど、そこにある弓、ぶっ壊してもらえます?そのムカつく弓を守るためだけにめっちゃ頭の悪い、リリアの嘘を信じ切っちゃってるアホの勇者たちの相手ばっかりさせられて、おまけにこの迫っ苦しいダンジョンに閉じ込められて、マジ、ウンザリなんですよね~、ホント。』

 「僕に任せてください。木っ端微塵にぶち壊しますんで。」

 僕はそう言うと、聖弓の載っている台座へと近づいた。

 僕は霊能力を解放し、右手に青白い霊能力のエネルギーを纏った。

 「霊拳!トゥリャっ!」

 僕は霊能力を纏った右拳に力を込め、思いっ切り聖弓に向かって振り下ろした。

 僕の右拳が聖弓に直撃すると、パリーンという音を立てて、聖弓が木っ端微塵に砕け散って、跡形もなく消滅した。

 聖弓が破壊された直後、巨大な谷も空も消えて、白い壁に古びた内装の、天井の高い大聖堂に似た空間が、僕たちの周りに現れた。

 白い濃霧も消えてなくなり、「風の迷宮」は聖弓が破壊されたことで、ダンジョンを維持する機能が完全に失われ、「風の迷宮」は古ぼけた、ただの巨大な大聖堂へと姿を変えたのであった。

 聖弓が破壊され、ダンジョンに縛り付けられる必要がなくなり、自由の身になったことを知って、ウインドドラゴンは喜んでいる。

 『やっと、自由になれた~。婚約者さん、マジありがとう!これは私からの御礼。受け取ってちょうだい。』

 ウインドドラゴンはそう言うと、ウインドドラゴンの額から藍緑色に光り輝く石が現れ、フワフワと空中を浮かんで、僕の目の前にやってきた。

 『その石は「風竜の石」って言って、念じればいつでも私を召喚することができる、超便利なアイテムだから。もし、何か困ったことがあれば、その石を使っていつでも私を呼んでくれてOKだから。はい、プレゼント。』

 「ありがとうございます。では、頂戴します。」

 僕は「風竜の石」を受け取ると、腰のアイテムポーチへとしまった。

 『イヴ様、婚約者さん。他にもダンジョンに閉じ込められてる竜王の仲間がいたら助けてあげてください。リリアに騙されて閉じ込められて、マジ困ってるはずだし。イヴ様たちならクソリリアの作ったダンジョンの攻略なんてマジ、余裕だと思いますし。マジ、お願いします。』

 「分かりました。残るダンジョンは後一つだけですし、そのダンジョンも必ず僕たちで攻略してみせます。ホーリードラゴン、ファイアードラゴン、ウッドドラゴン、グランドドラゴン、ウォータードラゴンの皆さんはすでにダンジョンから解放されて、自由に外の世界で過ごしていらっしゃいます。お会いすることがあった時は、僕たちが最後のダンジョンの攻略に挑戦することと、これからも元気でお過ごしくださいと、そう伝えていただけますか?」

 『ええ~、ウチが最後から二番目~!?マジか~。ウォータードラゴンより後かよ。まぁ、もう自由になれたし、解放してもらえた身だから文句は言えないけど。そうそう、婚約者さん、お名前は何て言うの?』

 「宮古野 丈。ジョーと呼んでください、ウインドドラゴンさん。」

 『OK!ジョー君だね~!ばっちし名前おぼえたから!イヴ様のこと、大事にしてあげてね、ジョー君!まさか、イヴ様に先越されるとは、マジ、びっくりなんですけど~!イヴ様、ジョー君、結婚式は必ず私のこと呼んでよね!後、できれば良い男、紹介してください!じゃあ、またね、イヴ様、ジョー君!』

 そう言い残すと、ウインドドラゴンは翼を広げ、天井高く飛び上がり、天井を突き破りながら、空へと向かって飛び去っていった。

 ウインドドラゴンが僕たちの目の前から飛び去っていった後、僕は他の三人に向かって言った。

 「中々インパクトのある竜王だったな。とりあえず、ダンジョン攻略完了だ。聖弓も無事、木っ端微塵に破壊した。これで元「弓聖」たち一行の戦力強化と、勇者に戻る口実の一つを未然に阻止することができた。それじゃあ、一旦、ダンジョンの外に出るとしよう。イヴ、ダンジョンの外の入り口まで転送を頼むよ。」

 「了解だ、婿殿。」

 僕たちはイヴの瞬間移動で、「風の迷宮」の入り口へと転送された。

 「風の迷宮」は来た時と違い、真っ白だった壁が汚れて、ボロボロのさびれた、古ぼけた大聖堂へと姿を変えていた。

 僕は酒吞に指示した。

 「酒吞、最後の仕上げだ。このダンジョンを君の怪力で木っ端微塵にぶち壊してくれ。「風の迷宮」は地震が原因で崩壊したように偽装しておきたい。破壊工作、よろしく。」

 「おう。任せろ、丈。やっと出番が来たぜ。いつも通り、綺麗さっぱり、粉々にぶっ壊してやるぜ。」

 酒吞は右手に黒い鬼の金棒を持つと、右肩に金棒を担いだまま、「風の迷宮」の入り口の方へと近づいた。

 それから、右手に持った鬼の金棒を入り口付近の柱へと思いっきり叩きつけた。

 「オラァーーー!」

 酒吞の叩きつけた鬼の金棒が入り口の柱へと直撃すると、柱から建物の壁や床、天井全体に向かって一気に凄まじい衝撃が伝わり、一気にひびが入り、ドカーンという大きな衝撃音を立てながら、「風の迷宮」は地響きとともに、粉々に粉砕され、崩壊した。

 酒吞の怪力で粉砕され、巨大な瓦礫の山と化した「風の迷宮」の跡地を見ながら、僕は酒吞に声をかけた。

 「お疲れ様、酒吞。いつもながら、完璧な破壊工作だ。どっからどう見ても、誰が見ても、地震で崩壊したようにしか見えない、破壊っぷりだ。さすがは我がパーティー最強の怪力の持ち主だよ。これでクソリリアの目も誤魔化せるはずだ。本当にありがとう。」

 「俺にかかれば、ダンジョンぐれえ外から一発で粉々にぶち壊すなんて、朝飯前だ。この前の元「槍聖」どもは意外に大したことなかったからな。ちょっとばっかし本気を出せてスカッとしたぜ。早く元「弓聖」どもと戦って、連中をぶっ潰してやりてえ気分だ。ちっとは戦いがいがありそうみたいだしな。」

 「準備が完全に整えば、元「弓聖」たち一行の討伐作戦はすぐに始める予定だ。そのうち、すぐに思いっきり暴れられる時が来るよ。けど、元「弓聖」は頭の切れる策士だ。どんな卑怯で卑劣極まりない攻撃をしかけてくるか分からない。アイツの卑劣な罠に引っ掛からないよう、注意してくれ。油断は禁物だ、酒吞。」

 「分かってるよ、丈。お前こそ、油断すんじゃねえぞ。外道の言葉に惑わされるんじゃねえ。問答無用で敵はぶっ殺せ。まぁ、その辺は大丈夫だろうがな。」

 「異世界の悪党は問答無用で殺す。僕の復讐が揺らぐことは決してないよ。それはみんなも同じだろうけど。さて、作戦終了だ。三人とも、本当にお疲れ様。それじゃあ、大使館へと戻ることにしよう。イヴ、転送を頼む。」

 「お疲れ様だ、婿殿。他の二人もな。クククっ、「風の迷宮」まで崩壊し、聖弓まで失ったと知って驚く、リリアとリリア聖教会のクズどもの馬鹿面が目に浮かぶ。では、帰るとしよう。」

 イヴは笑いながらそう言うと、右手の指をパチンと鳴らした。

 目の前の光景がグニャリと歪んだ直後、僕たちはゾイサイト聖教国の首都にある、ラトナ公国大使館のエントランスホールへと転送された。

 大使館へと無事に帰り着くと、認識阻害幻術をふたたび自分たちにかけ、僕たちは他のパーティーメンバーたちの下へと向かった。

 キバタンたちを飼育している部屋の一つに向かうと、一羽のキバタンが入ったケージの前で、玉藻とメルが一緒に、キバタンのお世話をしていた。

 部屋に入ってきた僕たちの姿を見つけるなり、玉藻とメルが声をかけてきた。

 「お帰りなさいませ、丈様。ダンジョン攻略はいかがでしたでしょうか?」

 「おかえりなさいなの、パパ、酒吞お姉ちゃん、鵺お姉ちゃん、イヴお姉ちゃん。」

 「ただいま、玉藻、メル。「風の迷宮」は無事、攻略したよ。聖弓も木っ端微塵に破壊した。これで、元「弓聖」たち一行の企みを一つ、阻止することに成功だ。キバタンたちの飼育は順調かい?」

 「はい、丈様。キバタンたちの健康状態は全く問題ありません。ご指示のあったメッセージも、ご指示通りの内容を少しづつ覚えていっています。」

 「シモカワ ユウスケ、ロリ!シモカワ ユウスケ、ロリ!シモカワ、ロリコン!」

 キバタンが僕の考案した嫌がらせのメッセージの言葉を、まだ完璧とは言えないが、何度も言葉に出して復唱した。

 「ハハハ!大分、惜しいな!「シモカワ ユウスケ、ロリコン。」って言えたら、完璧だ。鳴き声の音量は問題なしの大きさだ。コイツらを立派な騒音爆弾に完成させるまで、後もう一歩だな。玉藻、メル、お世話をありがとう。」

 「パパ、メルに任せて、なの!ちゃんと言葉をオウムさんたちに覚えさせてみせるの!オウムさんたちをすっごい爆弾に変えてやる、なの!」

 「ありがとう、メル。そろそろ、お昼に近いし、パパたちとみんなで一緒にお昼ご飯を食べるとしよう。エルザとグレイ、スロウも呼びに行くとしよう。いや、スロウはもしかして、部屋で寝ているのか?なら、起こさない方が良いのか?」

 「スロウさんでしたら、丈様たちが出た後、ご自分の部屋で二時間ほど眠っておられましたが、先ほど起きて、隣の部屋でキバタンのお世話を始められました。何でも、ゾーイさんがペットの飼育に興味があるそうでして。」

 「へぇー。ゾーイがキバタンの飼育に興味があるか。そういえば、実家じゃ軟禁状態だったと言っていたし、オウム自体、見たことがないのかも。ペットを飼ったこともないのかもな。喜んでもらえたなら何よりだ。ちょっと隣の部屋を覗いてみるか。」

 僕はそう言うと、玉藻たちのいる部屋を出て、スロウとゾーイのいる隣の部屋へと一人、向かった。

 「入るぞ、スロウ、ゾーイ。」

 僕がそう言ってドアを開けて隣の部屋へと入ると、スロウがキバタンに笑顔を浮かべながら、餌のヒマワリの種をあげていた。

 「ほ~ら、た~んとお食べ。可愛いなぁ~、本当。オウムって、頭が良いし、面白くて可愛いなぁ~。」

 「す、スロウ?い、いつもと口調が違う。もしかして、ゾーイなのか?」

 僕が後ろから近付いて声をかけると、僕に驚き、手から餌の種を思わずこぼし、ゾーイが声を上げた。

 「ヒャ、ヒャウ!?お、お帰りなさい、ジョーさん!?え、えっと、初めまして。私、ゾーイ・エクセレント・ホーリーライトと言います。ご挨拶が遅くなってしまい、すみません。この度は私とスロウを保護してくれて、後、父上から守ってくれてありがとうございました。本当にありがとうございます。」

 いつもの三白眼で、半開きの眠気眼ではない、パッチリとした瞳で、落ち着きのある表情で返事をされ、僕は少し驚いた。

 よく考えたら、元々スロウの体はゾーイの肉体で、本体はゾーイである、と言った方が正しいのかもしれない。

 「ええっと、その、こちらこそ、初めまして、ゾーイ。僕はジョー・ミヤコノ・ラトナだ。改めてよろしく。君とは一度、ちゃんと話をしたいと思っていたんだ。キバタンのお世話、協力ありがとう。キバタンを気に入ってもらえて良かったよ。今はスロウとは意識を交代中ってことで合ってるかな?」

 「はい、ジョーさん。スロウは今、眠っています。お昼ご飯になったら起こしてくれ、と言われています。私、ペットを飼ったことがなくて。オウムも図鑑でしか見たことなくて、実物を見たのも触れたのも初めてなんです。オウムって、すごく可愛いですね。」

 「気に入ってもらえて良かったよ、ゾーイ。僕にお手伝いできることがあったら、いつでも言ってくれ。君はもうラトナ公国の人間も同然だ。ラトナ公国子爵として、君とスロウの身柄は全力で守るし、叶えられる限り、願いを叶えるのに協力させてもらう。あのクソ雑魚勇者もどきと、そのクソ親父と同じ血を引いているとは見えないな、本当。本当に君、あの人間のクズどもと血がつながっているのか?養女なんじゃないのか?あまりに違いすぎるというか、本当に立派な品のある貴族のお嬢様にしか見えないぞ。格好はギャルだけど。実にアンビリバボーなミステリーだ、ううむ?」

 首を傾げて疑問を口にする僕に、苦笑しながら、どこか寂し気な表情を浮かべながらも、ゾーイは答えた。

 「私は確かにホーリーライト家の人間です。アーロンは私の実の兄で、父上、ヘンリー枢機卿は私の実の父親です。私は生まれつき、体が弱くて、ひどい喘息持ちでした。おまけに、ホーリーライト家に伝わる聖騎士のジョブやスキルを継げませんでした。ジョブも「魔術士」で、スキルも特殊な上、レベルも2しかなくて、私は家族からいつも、出来損ないや失敗作、愚妹と呼ばれ、蔑まれる日々を送っていました。ベッドから起き上がることもできなくて、屋敷の外へ出ることも許されず、屋根裏部屋で窓の外を見ながら過ごす、そんな鬱屈した毎日でした。私が辛い生活に耐えられず、自殺しようとしていた時、スロウが私の前に現れて、私と融合して一緒に外の世界を楽しもう、そう私に言ってくれたんです。スロウと融合したおかげで、私は病気が治り、元気になりました。屋敷を出て、外の世界を自由に見て回ることができるようになりました。普段はスロウが体の主導権を握っていますが、こうして時々、自分の意識を外に出すこともできます。スロウには感謝しかありません。スロウは私の恩人で、親友で、家族なんです。もちろん、ジョーさんも私の恩人です。ホーリーライト家に戻るつもりは私にはありません。ゾイサイト聖教国もリリア聖教会とも、もう関わりたくはありません。私の居場所は、私とスロウが決めます。」

 「辛いことを思い出させてしまって、本当にすまない。僕って本当、空気が読めない奴で、本当にごめんよ、ゾーイ。僕もさ、故郷じゃ、呪われているだの、忌み子だの、ばい菌だの言われて、ご近所や学校、周りの人たちから嫌われて虐められて、あまり良い生活環境とは呼べなかった。家族も幼い頃にみんな、死んじゃってさ、いつも独りぼっちだった。ぼっちでコミュ障で陰キャで、それが災いして、クラスメイトたちや先生に裏切られて、無実の罪を被せられて処刑されるしさ。でも、そんな僕でも今は家族や仲間、友人と呼べる存在が最近、できたんだ。ゾーイ、君もこれからはスロウと一緒に、たくさんの友達や家族ができるはずさ。君もスロウもすっごく良い奴だしね。ぶっちゃけ、陰キャでコミュ障の僕なんか、すぐに追い越すほど、たくさん友達ができるよ、君なら。ああっ、もちろん、僕も僕の仲間たちも君の友達だからね。後、ホーリーライト家のことなら心配しなくて大丈夫だ。また、ホーリーライト家の人間が君にちょっかいを出してきたら、この僕がぶっ飛ばしてやるからさ。クソ兄貴のアーロンは磔にされて処刑されたそうだし。何でも、聖教皇の怒りを買ったらしい。大使館の窓から、アーロンが磔にされている丘がよく見えるぞ。何なら、一緒にあのクソ兄貴のクソ雑魚勇者もどきに石でも投げつけに行くか?ゾーイみたいな優しい妹に手をあげるクソ兄貴には磔にして処刑する程度じゃ、罰としては手ぬるい。火炙りにして殺してやるのも悪くないな。」

 「そ、そこまでしなくても大丈夫です、ジョーさん!?私の気はもう、十分に晴れましたから!スロウとジョーさんのおかげで、ホーリーライト家とはもう完全に縁が切れましたから。ジョーさんはすごく優しいですけど、時々、ちょっと怖いところがあります。戦っている時のジョーさんはカッコいいけど、少しバイオレンスな感じもあって。アーロンへの追加の制裁なんてしていただかなくて大丈夫ですから、本当に。」

 「そうか?ゾーイがそういうなら、止めておくとしよう。あのクズの顔をまた見たいとは僕も思ってはいないしな。本当に優しいな、ゾーイは。おっと、いけない、忘れてた。もうすぐお昼だから、みんなで一緒に昼食を食べないか?スロウの奴は、寝かせたままで良いだろう。別にキバタンの世話をするわけじゃないし。君と違って、ただ食っちゃ寝するだけだし。働かざる者、食うべからず、っていう言葉もある。ここに来てから全然、働こうとしないし。少しは居候として手伝いをしてくれても良いはずだ。それに、他のパーティーメンバーたちも君と話をしたがっている。スロウとの約束は放っておいて、一緒に昼食を食べよう、ゾーイ。スロウの奴には、呼びかけたけど、起きなかったから、とでも適当に言っておけばいいさ。ねっ、良いだろ?」

 「ええっと、でも、スロウとは約束していますし、親友に嘘をつくという訳には・・・」

 「大丈夫だって。人間、誰にだって隠し事の一つや二つくらい、ある。親友だからと言って、自分の秘密を全て話す義務はない。起こさなかったことぐらいで、スロウも大して怒りはしないさ。何か文句を言ってきた時は、キバタンの飼育当番を僕から任されたけど、代わってもらえますか、って一言言えば、すぐに黙るに決まっている。ほら、一緒に行こう、ゾーイ。」

 「は、はぁ?分かりました。じゃあ、今回だけ、スロウには嘘をつきます。ごめんなさい、スロウ。」

 僕はゾーイの説得に成功すると、ゾーイを連れて部屋を出て、他のパーティーメンバーたちの下へと向かった。

 一緒に昼食を食べながら、ゾーイと他のパーティーメンバーたちを引き合わせ、改めて自己紹介をしたり、おしゃべりをしたりして楽しんだ。

 優しく、穏やかで丁寧な物腰のゾーイを、玉藻たち他のパーティーメンバー全員がすぐに気に入ったようだった。

 ずっとスロウと意識を交代したままでいいかも、なんて本気だか冗談だか分からない意見も出たりはしたが。

 昼食を終え、休憩をした後、僕はキバタンのお世話をした。

 午後三時過ぎ、僕がキバタンのお世話と教育をしていると、スロウが僕のいる部屋へとやって来て、僕に文句を言いに来た。

 「ジョーちん、ひどいよ!どうして、ウチをお昼ご飯に呼んでくれなかったの?ウチ、超楽しみにしていたのに!」

 「僕に文句を言うなよ。呼びに行ったら、ゾーイと意識を交代していて、お前は眠っていただろうが。ゾーイが代わりに食べたんだし、お腹はふくれているだろ。それに、キバタンのお世話と教育をしてくれる人手が増えてくれて大助かりだ。少しはゾーイを見習って、お前も手伝いをしたらどうだ?まだ5歳のメルだって、一生懸命、みんなのために何かしたいからと、キバタンのお世話を頑張っているぞ。早く元「弓聖」たち一行を討伐して、ゾーイと一緒に外で自由に遊び回りたいなら、ちょっとはみんなを手伝ってくれ。僕もキバタンのお世話で忙しいんだ。」

 「むぅ。ジョーちんの意地悪。ゾーイがウチを起こさなかったことなんて一度もなかったんだし。絶対、ジョーちんが何か入れ知恵したに決まってるんよ。大使館のご飯、いつもおいしいから楽しみにしてたのに。ウチに内緒でゾーイをキバタンのお世話係に任命したり、みんなに紹介したりして、ウチを除け者扱いにしたのは許せないっしょ。次にウチを除け者扱いしたらマジ、許さないから。分かった、ジョーちん?」

 「はいはい、分かりました。お前を除け者にしたりはしないから。お昼ご飯を食べ損ねたくらいで怒りやがって、全く手のかかる奴だ。せめて、ゾーイがキバタンのお世話をして、キバタンと遊ぶ時間や、他のパーティーメンバーたちと交流する時間を増やしてやってくれ。僕はお前もゾーイも大事な友達だと思っているし、平等に扱うつもりだ。そんなに怒らないでくれよ。埋め合わせに、何か食べたい物があったら奢ってやるよ。ゾイサイト聖教国以外でなら、どこにだって連れて行ってやる。サーファイ連邦国なら、冷たくて美味しいデザートを出すスイーツ店もあるし、きれいなビーチにリゾートホテルなんかもあるぞ。今回の元「弓聖」たち一行を手伝ってくれたら、最高のバカンスをプレゼントしてもいい。僕は仲間の頑張りにはそれ相応の報酬をちゃんと払う性分だ。忙しい職場ではあるが、僕の冒険者パーティーはそれなりにホワイトな職場を心掛けているつもりだ。どうだ、悪くはないだろ、スロウ?」

 「マジ!?なら、ウチも手伝う、手伝う~!リゾートホテルにビーチにスイーツ、マジ、最高っしょ!さすがはジョーちん!ラトナ公国の子爵様、ウチの彼氏だっしょ!OK!オウムのお世話も、元「弓聖」たちの討伐も、マジで頑張るから!ご褒美、よろしくね、ジョーちん!」

 「了解。本当に現金な奴だな。まぁ、人手が増えるのは助かるし、バカンスを一緒に楽しみたいしな。よろしく頼むぞ、スロウ、ゾーイ。」

 バカンスをプレゼントすると言って、すっかり機嫌を直し、急にキバタンのお世話に精を出し始めたスロウであった。

 三日坊主で、途中で飽きて、ゾーイに仕事を押し付けて任せっきりにならなきゃいいが。

 スロウを見ながら、そんなことを思う僕であった。

 僕、宮古野 丈は今日、「風の迷宮」を攻略し、そして、聖弓を破壊した。

 ざまぁみやがれ、鷹尾。

 お前が「弓聖」として覚醒し、パワーアップする機会は永遠に失われたのだ。

 聖弓を手に入れて勇者を名乗る口実はこれで失われた。

 だが、鷹尾、そして、お仲間の六人、堕天使たち、それと手下のヴァンパイアロードども。

 僕の復讐はここからだ。

 お前たちがどんなにパワーアップしようが、どんなに卑怯な手段で攻撃してこようが、どんなに卑劣な罠をしかけて待ち構えていようが、僕はお前たちを容赦なく叩き潰す。

 お前たちの犯罪計画は全てこの手でぶち壊す。

 必ずお前ら全員に苦痛と恐怖と絶望を味わわせて、全員地獄に叩き落としてやる。

 僕の異世界の悪党どもへの新たな復讐劇の最初の幕が上がった。


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