第九話 主人公、刑務所を攻撃する、そして、元「弓聖」たち一行にとことん嫌がらせを行う

 僕たち「アウトサイダーズ」が元「弓聖」鷹尾たち一行の討伐のため、ゾイサイト聖教国に到着した日から五日目のこと。

 僕が「風の迷宮」を攻略し、聖弓を破壊した日から二日後のこと。

 午前10時過ぎ。

 朝食を終え、元「弓聖」たち一行を討伐するための準備に励む僕の下に、ラトナ公国大公のクリスから、衝撃的なニュースが伝えられた。

 僕がキバタンのお世話をしていると、突然、左手のグローブから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

 『~もしも~し、ジョー君!、私だ、クリスだ!緊急事態発生だ!返事をしてくれ!』

 僕は左手のグローブを外すと、通信機である左手の小指に嵌めているシグネットリングに顔を近づけ、返事をした。

 「もしもし、僕だ。宮古野 丈だ。緊急事態とは何だ、クリス?』

 『おはよう、ジョー君!緊急事態発生だ!よく私の話を聞いてほしい!実はゾイサイト聖教国政府から先ほど、私に救援要請が来た!内容は、昨夜、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちと思われる一団に軍事研究所を襲撃され、ミストルティンという名前の大量破壊兵器を全て強奪されたそうだ!「白光聖騎士団」の元聖騎士たちは、政府本部のある宮殿へと侵入し、ミストルティンを盗んだまま、シーバム刑務所へと移動用の魔法陣を使って逃亡したそうだ!さらに厄介なことに、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちは、元「弓聖」たち一行と手を組み、元「弓聖」たち一行がミストルティンを使ってゾイサイト聖教国政府を脅迫してきたらしい!明日の午後12時までにゾイサイト聖教国政府が全面降伏しない場合、ミストルティンを使ってゾイサイト聖教国を攻撃すると言ってきたらしい!ゾイサイト聖教国政府は何としても「黒の勇者」であるジョー君に協力してもらい、この緊急事態の解決に手助けを頼みたい、と私に泣きついてきた!とにかく、緊急事態なのは間違いないよ、ジョー君!至急、元「弓聖」たち一行の討伐を頼めるかい?』

 「ミストルティンを全部奪われただって!?「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが鷹尾たちと組んで、ミストルティンを使って脅迫してきた!ちょっと待ってくれ、クリス!」

 僕はキバタンを飼育している窓のカーテンの隙間から、そっと「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが磔刑にされていた、首都のすぐ南側にある処刑場の丘の上を見た。

 丘の上には、アーロンたち「白光聖騎士団」の連中が磔にされて並べられていた十字架も、磔にされていたアーロンたちの姿も全く見えない。

 「今、処刑場の丘の上を確認した。確かに、「白光聖騎士団」の連中の姿が見えない。くそっ、ゾイサイト聖教国政府の連中は何やってたんだ、本当!?ミストルティン一本で、半径約1㎞を焼野原にする威力があるんだぞ。一万本全て使われたら、ゾイサイト聖教国は滅ぼされてしまう!元「弓聖」たち一行にミストルティン全部が渡ってしまうなんて、最悪の事態だ。ミストルティンを連中が悪用して、他の国を攻撃する可能性も否定はできない!だけど、「白光聖騎士団」の連中は全員、磔にされて、瀕死の重傷を負っていたはずだ。裸にされ、剣どころか鎧さえ持っていない状態だった。あの連中に軍事研究所を襲撃して脱走する力なんてなかったはずだ。となると、誰かが「白光聖騎士団」の連中に手を貸した可能性がある。恐らく、元「弓聖」たち一行の仕業に違いない。僕と「白光聖騎士団」の連中が敵対したのを聞きつけて、「白光聖騎士団」の連中を利用することを思いついたに違いない。ミストルティンの強奪や利用を思いついて、元「弓聖」たち一行に話を持ちかけたのは、「白光聖騎士団」の連中である可能性が高い。ゾイサイト聖教国を守ってきた史上最強最高の、誇り高き聖騎士の精鋭が、逆恨みから国やリリア聖教会、果ては崇拝する女神まで裏切るとは、ブラックジョークにも程があるぞ。アイツら、やっぱり人間のクズだったな。いや、もう完全に、僕が復讐すべき異世界の悪党だ。こんなことになるなら、ギルドで出会った時に全員を確実に殺しておけばよかった。異世界の悪党やクズは半殺しで済ませてはいけない、改めてよく分かったよ。クリス、元「弓聖」たち一行の討伐は僕たち「アウトサイダーズ」に任せてくれ。ミストルティンの件も何とかする。ただし、ゾイサイト聖教国の連中には、元「弓聖」たち一行の討伐には一切、手を出すなと、僕が伝えていたと、そう言ってくれ。足手纏いは不要だ。全く、この国の連中は本当に迷惑で最悪な奴らばっかりだ。」

 『ありがとう、ジョー君!君の要望は私からゾイサイト聖教国政府にはっきりと伝えておく!「白光聖騎士団」の元聖騎士ともあろう者が、勇者を襲い、スキャンダルを起こして処刑され、おまけに大量破壊兵器を盗んで国を裏切り、国を乗っ取ろうとする犯罪者と手を組むとは、正義を司る女神の使徒を名乗る者が、とことん堕ちたものだね、まったく。リリア聖教会の腐敗しきった現在の姿が現れた結果とも言えなくない。来年度以降の我がラトナ公国政府からの、リリア聖教会への寄付金は控える方針に変えるとしよう。』

 「クリス、例の頼んでいた品物の準備はできているかい?こちらの準備はほぼ整っている。後は、君に頼んでいた品物が全て揃えば、今日にでも元「弓聖」たち一行の討伐作戦を始めることは可能だ。進捗状況はどうなんだ?」

 『ゾイサイト聖教国政府から連絡が来るほんの少し前に、君から依頼のあったモノは全て用意が終わったところだ。超小型盗聴器も、ブラックオリハルコン製のロングソードとパルチザンも、オーダー通りのモノが出来上がっているよ。私の最新の研究成果も投入した代物だ。きっと、元「弓聖」たち一行の討伐作戦に役立つことは保証するよ、ジョー君。』

 「ありがとう、クリス。本当に三日以内に仕上げるとは、驚いたよ。無理をさせてすまない。だけど、タイミングとしては本当に良かった。これからすぐ、君のいるラトナ公国の君の屋敷まで向かう。少し待っていてくれ。」

 『了解だよ、ジョー君。久しぶりに愛しい君の顔が見られれば、疲れなんて一気に吹き飛ぶよ。待ってるよ、ジョー君。ハングアップ!』

 クリスとの通信を終えると、僕はキバタンのお世話を一時止め、急いでパーティーメンバーたちとスロウを僕の部屋へと呼び出し、クリスから聞いた情報を、みんなに向かって話した。

 クリスからの情報を聞いて、玉藻たち他のメンバーは驚愕の表情を浮かべた。

 「元「弓聖」たち一行は明日の午後12時までにゾイサイト聖教国政府が全面降伏をしない場合、強奪したミストルティンを使ってゾイサイト聖教国を攻撃すると言ってきている。何としても、連中からミストルティンを奪い返し、大量破壊兵器の使用を阻止しなければならない。僕とイヴはこれからラトナ公国のクリスの下に向かい、元「弓聖」たち一行の討伐作戦に必要な、とある品物を受け取ってくる。他のメンバーは、元「弓聖」たち一行の討伐作戦に向けて準備をしておいてくれ。クリスから品物を受け取り次第、すぐにでも元「弓聖」たち一行の討伐作戦を開始する。鵺、首都の上空から首都の警戒を頼む。万が一、元「弓聖」たち一行がミストルティンを使ってこの首都を攻撃してきた場合は、ミストルティンの迎撃を頼む。いよいよ、元「弓聖」たち一行との本格的な戦いが始まる。敵は「白光聖騎士団」の元聖騎士たちまで手下に加え、戦いを挑んできた。決して油断はできない状況だ。みんな、よろしく頼むよ。」

 「「「「「「「「了解!」」」」」」」」、「了解、なの!」

 「イヴ、ラトナ公国の首都まで転送してもらうことは可能かい?すぐにでもクリスに会って、品物を受け取る必要があるんだ。」

 「任せよ、婿殿。すぐにラトナ公国へ共に向かおう。」

 「では、行ってくるよ、みんな。留守の間、よろしく。」

 「行くぞ、婿殿!」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 グニャリと目の前の光景がグニャリと歪んだ直後、僕とイヴの二人は、ラトナ公国の首都の大通りへと、瞬間移動で転送され、到着した。

 鉄筋コンクリート造りのビルが立ち並ぶラトナ公国の首都の大通りに懐かしさをおぼえる僕であったが、今は悠長に感傷に浸っている場合ではない。

 僕とイヴは馬車を見つけると、馬車に乗って急いで首都の外れにあるクリスの屋敷へと向かった。

 馬車に乗って約30分後、茶色いヴィクトリアンハウス風の、一見レンガ造りの、クリスの大きな屋敷が見えてきた。

 クリスの屋敷の門の前に到着すると、クリスが僕たち二人を出迎えるため、門の前で待っていた。

 馬車を降りると、僕はクリスの傍へと歩みより、声をかけた。

 「直接会うのは久しぶりだな、クリス。出迎えをありがとう。早速で悪いが、頼んでいた品物の引き渡しを頼む。」

 僕が声をかけるなり、クリスがいきなり僕に抱き着いてきた。

 「久しぶり~、ジョー君!ああっ、この感じ、懐かしいなぁー!ちょっと背も伸びたかい?前よりも男らしい雰囲気になっちゃって!ああっ、本当にジョー君だぁー!」

 「いきなり抱き着くな!離せ!遊びに来たんじゃない!早く例の頼んでいた品物を渡してくれ!世界の危機なんだぞ、まったく!」

 「ちぇっ、分かったよ。久しぶりの感動の再会なのに、冷たいなぁ~、ジョー君は。ちょっとぐらい、私にも甘えさせてくれたっていいじゃないか。」

 クリスは不貞腐れた表情を浮かべながら、渋々僕に抱き着くのを止めた。

 「婿殿、この女がラトナ公国の大公で、婿殿の上司で天才錬金術士という、クリスとか言う女か?確かに、錬金術士として相当なレベルの持ち主だが、はるか年下の婿殿に欲情していきなり抱き着いてくる、こんなショタコン丸出しの変態女が役に立つのか?妾には到底信じられんが?」

 「ショタコン丸出しの変態女とは、少々失礼過ぎやしないかい、闇の女神様?私はクリスティーナ・ニコ・ラトナ。ラトナ公国を治める大公にして、世界最高の天才錬金術士だよ。ジョー君の上司であり、親戚でもあり、ジョー君の活動を常日頃からあらゆる面で支援する、ジョー君の現地妻でもある。闇の女神の力や頭脳は私も評価している。ジョー君をサポートしてくれていることにも感謝している。だけど、ジョー君へのこの私の愛情表現はピュアな恋する乙女心から生まれるものだ。大体、年齢の話をしたら、私より君の方が、ジョー君よりずっと年上じゃないかね?さっきの言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ、ショタコン女神様?」

 「ほう。人間の行き遅れの年増女が、闇の女神にして至高の美を持つ妾に、言うではないか?婿殿の現地妻を名乗ってはいるが、妾の力や才能、そして、美貌と比べれば、貴様の婿殿への協力など微々たるものだ。肌の張りも肌年齢も、髪の色艶も、プロポーションも、誰が見ても妾の方が貴様より若く見えるぞ。婿殿をいつも盗聴している三十路過ぎの行き遅れショタコンストーカー女が、この妾と張り合おうなど、片腹痛い。婿殿の正妻であり、闇の女神たる妾に対して不敬であるぞ、人間?」

 「ジョー君の正妻だって?それは君が勝手に名乗っているだけだろ、ええっ、妄想狂のヤンデレ女神様?ジョー君の正妻の座は例え闇の女神である君でも簡単には手に入らないよ。私も含め、強力なライバルが大勢、いることを忘れないでくれたまえ。私は常に盗聴ごっこで、ジョー君の身の安全を守っているんだ。ジョー君の使っている武器やアイテムを開発したのも、元勇者たちに関する情報を提供しているのも、この私だ。天才錬金術士で敏腕女政治家の、出来る現地妻であるこの私の実力をこれから君に披露してあげよう、自称正妻のヤンデレ女神様?」

 「面白い。闇の女神にして知恵の女神、そして、婿殿の正妻である、頭脳明晰なこの妾に勝負を挑んでこようとは。ならば、貴様が婿殿のために発明した品々を見せてもらおうではないか?最も、この妾の天才的頭脳を唸らせるほどの発明が貴様に作れるとは思えんがな、ストーカー錬金術士?」

 イヴとクリスが、互いのプライドや能力をかけて、火花を散らすのであった。

 「ふ、二人とも喧嘩はそこまで!クリスもイヴも、二人とも言い過ぎだ!僕たちは仲間だ!それに、喧嘩をするために来たんじゃない!元「弓聖」たち一行の討伐に必要な品物を受け取るために、ここへ来たんだ。イヴ、クリスは僕たちの大事な協力者で、錬金術士である彼女の才能は本物で、腕前も超一流だ。僕の如意棒を開発したのも、「海鴉号」のエンジンを開発したのも彼女だ。クリスの腕を信じてくれ。それから、クリス、イヴを挑発しない約束だったのに、挑発するなんて約束違反だ。イヴの物言いにも問題はあったけど、僕は君を現地妻だなんて呼んだことは一度もないぞ。盗聴もできれば止めてくれ。イヴは口調や性格に多少、癖はあるけど、女神としての実力も、頭が良いのも事実だ。女神様として最低限の敬意は払ってくれ。クリス、とにかく頼んでいた品物の引き渡しを急いで頼む。ミストルティンを元「弓聖」たち一行に使われる前に、何としてもミストルティンを奪取しなきゃいけない。一分一秒を争う事態だ。頼むよ。」

 僕の言葉を聞いて、ヒートアップしていたクリスとイヴが、落ち着きを取り戻した。

 「すまない、ジョー君。私としたことが、つい熱くなってしまった。ジョー君のこととなると、周りが見えなくなってしまってね。本当にすまない。闇の女神様にも謝ろう。大人げないことを言ってしまって申し訳なかった。いつもジョー君の傍にいる君がちょっと羨ましかったんだ。すまなかったよ。」

 「いや、妾も少々、大人げなかった。婿殿から貴様の優秀さをいつも聞かされていて、少し嫉妬していたのかもしれん。クリスよ、貴様の発明品とやらを至急、妾たちに見せてほしい。ともに元「弓聖」たち一行を討伐するのに協力を頼む。」

 「仲直りしてもらったようで何よりだ。それじゃあ、クリス。早速、君の発明品を見せてくれ。」

 「了解だ、ジョー君。二人とも私の後についてきてくれ。」

 僕とイヴの二人は、クリスに案内され、クリスの屋敷の中へと入った。

 屋敷の応接間に着くと、応接間のテーブルの上に、三つの箱が置かれていた。

 僕とイヴがテーブル前のソファーに座ると、クリスが一番右に置かれている箱の中を開けて、中から取り出したモノを見せながら、僕たち二人に向かって説明を始めた。

 「まず、こちらから紹介しよう。この1から10までの数字が両面に書かれた黒い金属製のカードが、超小型盗聴器だ。そして、1から10までの数字が指輪の先端の紋章部分に書かれている黒いシグネットリングが、盗聴器と対となる受信機だ。どちらも簡単に持ち運び可能だ。カードとリングに書かれている番号が、それぞれセットとなっている仕様だ。盗聴器の盗聴できる範囲は、盗聴器から半径100m以内、受信できる範囲は無限だ。盗聴器には空気中の微量な魔力を吸収して魔力を貯蔵することで、使用者は魔力を注ぐ必要がなく、いつでも使用可能だ。受信機も同じ作りだ。「インターセプション」と受信機側から呪文を詠唱することで、盗聴器と受信機が同時に起動する。「ボリュームアップ」と呪文を唱えながら、受信機の紋章部分、ベゼルを右回りに回すと、受信機の音量を上げて傍受した内容を聞くことが可能だ。盗聴器と受信機を止めたい場合は「ストップ」と唱えればいい。盗聴したい会話の内容を記録したい場合は、「レコード」と受信機に唱えれば、盗聴した内容が受信機に録音される。録音したい内容を再生したい場合は、受信機に向かって「プレイバック」と唱えればいい。連続して録音できる時間は72時間、約三日が限度だ。それと、新しい内容を録音すると、以前に録音した内容は消去されるので、注意してほしい。盗聴器と受信機はどちらもブラックオリハルコンで作られているから、衝撃にも強く、簡単には壊れない。盗聴器は縦5㎝、横7㎝、薄さ2㎜と、超極薄のカード状にできている。狭い隙間に仕込むこともできるし、とても小さい。超強力接着剤も付けるから、天井や壁に貼って使用することもできる。ちなみに、盗聴器の半径100m以内なら、床に小さな針を落としたくらいの小さな音まで正確に拾うことができる。盗聴器と受信機の使い方については詳しい説明書を箱の中に一緒に入れておくから、参考に見ておいてくれ。盗聴器と受信機の仕様については以上だ。どうかな、ジョー君、闇の女神様?」

 「こちらの要求通り、いや、それ以上の出来栄えだよ、クリス。これだけ小さくて盗聴がいつでも、どこでもできる、おまけに三日連続で盗聴した内容を録音して、再生して聞くことができる、盗聴器としては完璧過ぎるくらいの性能だ。僕の元いた世界でも、ここまで精巧な盗聴器は早々、無かった。さすが、盗聴器作りのプロだ。これで、鷹尾たちの行動は完全にこちらに筒抜けだ。ありがとう、クリス。」

 「ふむ。実際にまだ使用したわけではないが、千里眼で分析する限り、かなり精巧な仕掛けが施されておる。盗聴器としてこれほどの性能を持つモノを、人間の錬金術士が作れるようになっていたとは、妾も驚いたぞ。中々やるではないか、クリスよ。」

 「闇の女神様にまで褒めていただけるとは、実に光栄なことだよ。だが、この程度で満足してもらっては困るよ。残りの二つの箱には、ブラックオリハルコン製のロングソードとパルチザンが入っている。その二つも私の自信作だ。今、お見せしよう。」

 クリスが口元に笑みを浮かべながら、テーブルの中央に置いてある箱と、左側に置いてある箱を開けた。

 中央の箱から、刀身から柄まで真っ黒なロングソード一本を、左側の箱から、穂先から柄まで真っ黒なパルチザン一本を、クリスはそれぞれ取り出して、テーブルの上に置いて、並べて見せた。

 「こちらがジョー君からご要望のあった、ブラックオリハルコン製のロングソードとパルチザンだよ。ただし、普通のブラックオリハルコン製のロングソードとパルチザンじゃあない。この私が新たに研究、開発した超魔導合金、リフレクトメタルを素材に使用している。丈君の持つ、トランスメタルにはやや劣るけど、中々面白い金属だよ、これは。」

 自慢気に語るクリスを見ながら、僕はクリスに訊ねた。

 「クリス、リフレクトメタルとは一体、どういう金属なんだ?是非、説明を頼む。」

 「了解、ジョー君。このリフレクトメタルは簡潔に言うと、魔力を無効化する能力がある新金属なんだ。丈君がこの前戦った、元「槍聖」たち一行が使っていた、あらゆる魔力を無効化する「反魔力」、あれを参考に開発したものなんだ。このリフレクトメタルは特定の波長の魔力だけを記憶し、それ以外の波長の魔力を完全に遮断し、はね返す特殊な性質がある。人間は誰しも個人固有の波長を持った魔力を持っている。つまり、このリフレクトメタルを使った武器に使用者が魔力を注ぎ込んで、自分の魔力を記憶させると、使用者以外の魔力を完全に遮断し、はね返し、無効化することができる、というわけだ。このリフレクトメタル製の武器を使えば、敵の魔力を使用した攻撃や防御、魔法、各種能力を完全に無効化することができる。ただし、欠点として、このリフレクトメタル製の武器に一度、自分の魔力を記憶させると、使用者以外はこの武器を魔力を流して使うことはできなくなる。完全な使用者専用の武器としてしか使えなくなる。それと、敵が自分と同じ波長の魔力で攻撃、防御などをしてきた場合、それらを無効化することはできない。まぁ、最後に言った事例は多分、起こる確率はかなり低いだろうけど。付け加えて、ブラックオリハルコン本来の特性である、通常のオリハルコンの100倍の強度と、100倍の魔力の伝導率、という特性も持ち合わせている。対魔力兵器とも呼べるこのリフレクトメタルがあれば、リリア聖教会の連中が使うセイクリッドオリハルコン製の武器装備なんて、簡単に粉々に破壊することが可能だ。お気に召していただけたかな、お二人とも?」

 「リフレクトメタル、素晴らしい発明だよ、クリス。使用者以外の魔力を無効化する対魔力兵器か。これなら、リリア聖教会の連中とまた戦うことになっても大丈夫だ。エルザとグレイに渡せば、きっと喜んでくれるだろうし、二人なら十分にこのリフレクトメタル製の武器を使いこなしてくれるはずだ。沖水たちとの戦いが、僕たちの戦力アップにつながる発明のヒントになるとはな。「反魔力」を再現しようとする君のアイディアも、実際にそれを実現した君の技術力には脱帽だよ。さすがは世界最高の錬金術士だ、クリス。ドクター・ファウストとか言う、あの迷惑なマッドサイエンティストも、地獄から悔しがって見ていることだろうさ。本当にありがとう、クリス。」

 「リフレクトメタル、実に面白い金属だ。ブラックオリハルコンというベース素材があってこそ、開発できたのも確かだろう。しかし、「反魔力」の仕組みを再現するとは、魔力の波長数や、記憶合金の理論から、特定の波長の魔力以外の魔力と反発する性質を持つ合金を開発するとは、妾も少し驚いたぞ。ブラックオリハルコン、ラトナ公国のみで産出される、アダマスの創造に関わった女神であるこの妾さえ知らなかった新金属か。クリスよ、ブラックオリハルコンの余りがあれば、妾にももらえぬだろうか?ブラックオリハルコンについて、妾もじっくりと自身で研究をしてみたい。ブラックオリハルコンを使った道具を、妾も何か作ってみたいのだ。お願いできるか?」

 「二人に喜んでもらえたようで、私は大満足だよ。闇の女神様、ブラックオリハルコンの塊なら、私の研究所にいくらでもあるから、好きなだけ持っていって構わないよ。聖武器を開発した闇の女神様が、ブラックオリハルコンを使って一体、何を発明するのか、私も非常に興味が惹かれるよ。良ければ、今後、二人でお互いの研究成果について共有しないかい?私たち二人が力を合わせれば、きっとジョー君をサポートできる素晴らしい発明を作れると思うんだけど、どうかな?」

 「良かろう、クリス。妾のことはイヴと呼び捨てで呼んでくれて構わんぞ。同じ研究者同士、婿殿を愛する女同士、仲良く力を合わせようではないか。人間の研究者とともに何かを作れる日が、語り合える日が来ようとは、妾としても願いが叶い、嬉しい限りだ。」

 ブラックオリハルコンを通して、研究者という繋がりから、クリスとイヴが仲良くなったのを見て、僕は嬉しかった。

 「天才の二人が協力したら、きっととんでもなく凄い発明が生まれること間違いなしだ。できれば、悪人に悪用されない、特にクソ女神のリリアに悪用されない、世界中の人々の幸福に繋がる発明を頼むよ。ああっ、リリアや悪党を懲らしめる発明なら、大歓迎だよ。研究費用や協力が入用なら、僕はいくらでも投資するし、力を貸すよ。「火の迷宮」を攻略して本当に良かった。ブラックオリハルコンよ、本当にありがとう。」

 「「火の迷宮」攻略かぁ~。懐かしいなぁ~。ジョー君が「火の迷宮」を一緒に攻略してくれたおかげで、私やラトナ公国はブラックオリハルコンの鉱脈を手に入れることができた。ブラックオリハルコンはまだ少し認知度が低いけど、加工技術や研究は我が国がほぼ独占しているから、おかげ様で我が国はブラックオリハルコンを使った商品で徐々に大きな利益を上げつつあるよ。君には本当に感謝しているよ、ジョー君。これからも必要な物があったら、何だって言ってくれたまえ。イヴとも協力して、最高の発明品を君にプレゼントするよ。」

 「婿殿よ、待っているがいい。妾とクリスの研究が進めば、婿殿の役に立つ最高のアイテムを作ってみせよう。期待して待っているがいい。」

 「では、天才のお二方の研究成果が見れる日が来るのを楽しみに待つとしておこう。じゃあ、クリス、盗聴器とリフレクトメタル製の武器、ありがたく頂戴するよ。元「弓聖」たち一行は必ず討伐する。ミストルティンの悪用も必ず防いでみせる。約束する。本当にありがとう。それと、ゆっくり休んでくれ。目の下にひどいクマができているぞ。本当に三日続けて徹夜したらしいな。無理はしないでくれ。君に倒れられたら僕もみんなも困る。それじゃあ、僕たちはこれで帰るよ。また会おう、クリス。イヴ、急いでラトナ公国大使館まで転送を頼むよ。」

 僕はクリスから受け取った品物をアイテムポーチに収納すると、イヴに言った。

 「了解だ、婿殿。さらばだ、クリス。元「弓聖」たち一行の討伐が終わったら、ともに研究談義を楽しもうではないか。行くぞ、婿殿。」

 「またね、ジョー君、イヴ。気を付けてね。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 景色がグニャリと歪んだ直後、僕とイヴの二人は一瞬でゾイサイト聖教国首都のラトナ公国大使館の中へと転送された。

 僕とイヴは、クリスから受け取った品物を持って、僕の泊まっている部屋へと向かった。

 それから、他のパーティーメンバーたちとスロウを呼んで、クリスから受け取った品物を見せながら、超小型盗聴器やリフレクトメタル製の武器の使用方法などについて、説明した。

 僕は、リフレクトメタル製のロングソードをエルザに、リフレクトメタル製のパルチザンをグレイに、それぞれ渡した。

 「エルザ、グレイ、それが君たちの新しい武器だ。そのリフレクトメタル製の武器さえあれば、敵の魔力を無効化することが可能だ。使い方は説明した通りだ。後で、自分たちの魔力をリフレクトメタルに注ぎ込んで、自分の魔力を記憶させてくれ。武器の試し切りもしておいてくれ。その剣と槍は、君たち専用の、君たちだけにしか扱えない武器だ。大事に使ってくれ。」

 リフレクトメタル製のロングソードとパルチザンを僕から受け取り、エルザとグレイは武器を持ちながら、それぞれ感想を述べた。

 「これがリフレクトメタル製の剣、我の新しい得物か。あらゆる魔力を無効化し、どんな鋼鉄も斬り裂く魔剣とは、実に驚くべき代物だ。大きさは今まで使っている剣とは変わらんな。前のモノより若干重さが増した気がするが、差して問題になる程ではない。毎日、鍛練をしている上、すぐに使いこなしてみせよう。我のためにこのような武器を用意していただき、感謝する、ジョー殿。」

 「これがアタシの新しい槍かぁ。魔力を無効化して、どんな金属も貫く槍とは、最高じゃんよ。上から下まで黒一色ってのも気に入ったぜ。ジョーや姉御たちとお揃いって感じがして、スゲエ良いじゃん。新しいアタシの相棒で、クソ勇者どもを串刺しにしてぶっ殺してやるぜ。」

 「気に入ってもらえて何よりだ。これで、セイクリッドオリハルコンへの対策はバッチリだ。元「弓聖」たち一行だろうが、リリア聖教会の連中だろうが、誰が襲ってこようが問題ない。」

 僕は、リフレクトメタル製の武器を持つエルザとグレイを見ながら言った。

 「元「弓聖」たち一行を討伐する用意は、これでほぼ完了した。今日の午後3時に、早速、「鳥籠作戦」を決行する。第一の作戦は、人質の2万人の子供たちの救出と、大量破壊兵器ミストルティンの奪取、盗聴器の設置、この三つだ。第一の作戦を成功させることができなければ、元「弓聖」たち一行を討伐することはできない。みんな、必ず成功させるぞ。刑務所に潜入するメンバーは、僕、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、スロウの以上、八名だ。マリアンヌ、メルの二人は大使館内で待機だ。キバタンたちのお世話を頼む。何かゾイサイト聖教国内で動きがあった時は報告も頼む。今は午前12時過ぎか。三時間後に、刑務所へ潜入するメンバーは、大使館のエントランスホールへ集合だ。何があっても、作戦は絶対に成功させる。よろしく頼むよ、みんな。」

 「「「「「「「「了解!」」」」」」」」、「了解、なの!」

 僕たちはそれから昼食を食べ、休憩を取り、各自作戦のため、準備を整えた。

 作戦一日目。

 午後三時。

 元「弓聖」たち一行が籠城するシーバム刑務所へ潜入するため、大使館のエントランスホールに、僕、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、スロウの八名が集合した。

 「認識阻害幻術で完全に姿を消しているとは言え、決して油断しないでくれ。敵は頭の切れる奴だ。何かしら罠をしかけている可能性も否定はできない。僕、鵺、スロウの三人は、刑務所内への盗聴器の設置と、ミストルティンの奪取が任務だ。玉藻、酒吞、エルザ、グレイ、イヴの五人は、人質の子供たちの救出が任務だ。イヴを先頭に、人質救出班は行動するように。玉藻、子供たちは発見し次第、全員に認識阻害幻術をかけてやってくれ。イヴ、玉藻の作業が終わったら、子供たちを全員、首都の宮殿前に転送してくれ。各自任務を終え次第、合流して一緒に帰還する。鵺、シーバム刑務所の正確な方向や場所の詳細をイヴに教えてくれ。イヴ、シーバム刑務所への転送をまずは頼む。作戦内容は以上だ。」

 鵺がイヴに、シーバム刑務所のある方角や、シーバム刑務所のある山、シーバム刑務所の特徴などを事細かに伝えた。

 鵺から聞いた情報を元に、イヴが千里眼でシーバム刑務所の位置を特定にかかった。

 「刑務所の位置を特定したぞ。聞いていた通り、かなり高い山の上にある。高山病にならんよう、注意した方がいい。では、転送するぞ。行くぞ、皆の者。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 目の前の光景がグニャリと歪んだ直後、僕たちは世界最強最悪の刑務所、シーバム刑務所の中へと、瞬間移動で転送された。

 高さ100mを超える巨大な三枚の白い塀に囲まれ、さらに敷地全体を巨大な結界で覆われた、巨大な棟がいくつもある、巨大な刑務所の入り口の前に、僕たちはいた。

 僕は「霊視」を使い、刑務所の各棟を透視して、内部を観察した。

 「ここがシーバム刑務所か。目の前に見える巨大な三つの棟の中に、大勢の人がいるのが見える。でも、独房の中の一人は寝て、一人は起きている感じだ。寝ている方が恐らく元囚人のヴァンパイアロードの手下たちだな。刑務所全体の各棟と廊下に、弱冠だが、警備をしていると思われる手下たちが立っている。人質の子供たちは、北と東に連なる四つの棟に押し込められているのが見える。鷹尾たち一行は、目の前に見える三つの棟と、グラウンドを挟んで向かいにある、北側の棟にいるのが見える。肝心のミストルティンはどこだ?どこに隠しているんだ、鷹尾たちめ?」

 「婿殿、元「弓聖」たち一行のいる棟の最上階の部屋、所長室と入り口にプレートが掲げてある部屋の、大金庫の中に例のミストルティンが入ったジュラルミンケースが見える。所長室には元「弓聖」の女がいるぞ。所長室の周りも警戒が厳重だ。迂闊に潜入はできんぞ、どうする?」

 イヴが千里眼で、ミストルティンの隠し場所を教えてくれるとともに、懸念を口にした。

 「切り札をそう簡単に盗ませてくれる奴じゃないよな、鷹尾は。イヴ、大金庫の中にあるジェラルミンケースを僕たちの下まで転送してもらうことは可能かい?」

 「ふむ。ケースは少なくとも1,000個以上はあるな。関係のないケースまで中には置いてある。金庫自体に特殊な仕掛けは施されていないし、まとめて転送することもできなくはない。しかし、関係のないケースの中には、遠隔操作できる爆弾の入ったケースがある。恐らく、ミストルティンの入ったケースを盗まれた場合、紛れ込ませた爆弾入りのダミーケースを使って、盗人ごとミストルティンを爆破して消し去る、そんな企みだろう。ミストルティンは100ケース分ほどしかなかったはずだ。ここから千里眼で選別しながら、ミストルティン入りのケースを転送するのは少々、手間がかかるぞ、婿殿。」

 「爆弾入りのダミーケースを用意してくるとは、さすがというか、厄介だな。ううむ。スロウ、仮に鷹尾を眠らせた場合、鷹尾と融合したプララルドの意識が起きていて、プララルドが鷹尾の肉体を乗っ取って、反撃してくる可能性はあるか?」

 「肉体の主導権は元「弓聖」たちに渡すって契約の縛りを結んでいるはずだから、プララルドは眠らずに起きているかもだけど、元「弓聖」の許可なく肉体の主導権は奪えないはずだよ~。ウチとゾーイの場合、ウチが肉体の主導権を握ってるけど、ゾーイが肉体の主導権を欲しい時は、ウチと要相談で、ウチの許可なしに肉体の主導権を握ることはできないんよ。だから、元「弓聖」の意識が完全に眠っちゃえば、プララルドの奴は見ているだけで、何もできないはずっしょ。」

 「なるほど。なら、鷹尾を黙らせさえすれば、問題ないわけだ。ミストルティンはどうせ処分するつもりだったし、別にゾイサイト聖教国政府に返すつもりは始めからないしな。それに、今は昼間で、ヴァンパイアロードたちは日光を恐れて、刑務所の建物に閉じこもって、ほとんどが眠っている。よし、閃いた。刑務所全体に眠り薬の効果のある毒煙を流して、刑務所にいる全員を眠らせる。刑務所のほとんどの建物は窓が閉められ、カーテンも閉められ、完全な密閉状態だ。すぐに毒煙が充満していちころだ。まず、僕と鵺とスロウの三人は、刑務所の適当な場所に盗聴器を設置する。最後の盗聴器は、鷹尾のいる所長室に仕掛ける。僕たち三人が所長室に着いた時点で、イヴ、千里眼で確認して、僕たちと合流してくれ。それまでの間に、毒煙をばらまいて、人質の子供たちの救出を他の五人には頼む。玉藻、ヴァンパイアロードたちのいる棟と、人質の子供たちのいる棟に、毒煙をまいてくれ。僕は、鷹尾たちのいる棟に、毒煙をばらまく。盗聴器の設置と人質の子供たちの救出が終わったら、最後に大金庫の中身全てを、どこか適当な海の底に転送して処理することにしよう。これなら、爆弾入りのダミーケースを爆破されても、こちらに被害は出ない。この流れで行こう、みんな。」

 「かしこまりました、丈様。毒煙をばらまいて敵を制圧するのはわたくしにお任せください。」

 「人質の子供たちの救出は俺たちに任せろ、丈。」

 「我も全力で救出任務に当たる。こちらは任せよ、ジョー殿。」

 「アタシらにかかれば、人質の救出なんて問題ねえ。任せろじゃん、ジョー。」

 「作戦は全て理解した、婿殿。人質の子供たちの救出も、ミストルティンの処理も妾に任せよ。では、後でまた、会おう。」

 「よろしく頼むよ、みんな。では、作戦開始だ。鵺、スロウ、僕に付いてきてくれ。」

 「了解、丈君。」

 「OK、ジョーちん。ウチに任せるっしょ。」

 僕たち八人は、二手に分かれて行動を開始した。

 僕と鵺とスロウの三人は、僕が四個、鵺が三個、スロウが三個、それぞれ盗聴器を持つと、刑務所内の盗聴に打ってつけの場所に、盗聴器をしかけて回った。

 玉藻による眠り薬入りの効果がある毒煙の散布が終わると、僕は刑務所のヴァンパイアロードたちのいる独房がある三つの棟の天井に、盗聴器をそれぞれ一個ずつ仕掛けることに成功した。

 鵺は、刑務所の監視塔と、食料保管庫、医務室の三ヶ所にそれぞれ、盗聴器を設置した。

 スロウは、アーロンたち「白光聖騎士団」の元聖騎士たちがいる、西側にある二つの棟の天井と、女子トイレの一つに、盗聴器を設置した。

 盗聴器にはいずれも認識阻害幻術を施してあるため、元「弓聖」たち一行に見つかる恐れはない。

 盗聴器の姿形、音、発する魔力など、盗聴器を認識できるあらゆる情報を隠蔽しているため、問題ない。

 僕、鵺、スロウの三人は、9個の盗聴器を仕掛け終えると、元「弓聖」たち一行のいる、刑務所北側の棟へと向かった。

 元「弓聖」たち一行のいる棟の入り口前で鵺とスロウの二人と合流すると、僕はジャケットの左の胸ポケットから、如意棒を取り出した。

 如意棒を右手に持つと、霊能力のエネルギーを流し込み、黒い鉄扇へと変形させた。

 僕は右手と鉄扇に、毒や幻術の能力を持つ金色の霊能力のエネルギーを纏った。

 鉄扇をサッと顔の前で開くと、金色に輝く鉄扇を、入り口のドアの鍵穴へと向けた。

 「毒煙!」

 鉄扇の先より、無味無臭で無色透明の、即効性の眠り薬と痺れ薬のある毒煙を生み出し、入り口のドアの鍵穴から流し込んだ。

 鍵穴から流し込んだ毒煙が、徐々に元「弓聖」たち一行のいる棟全体に充満し、元「弓聖」たち一行は全員、僕の生み出した毒煙にやられて深い眠りに就いた。体も痺れて、数時間はまともに動くことはできないはずだ。

 「霊視」で建物内を透視し、鷹尾たちが僕の毒煙にやられて眠り、動けなくなったのを見て、僕はニヤリと笑みを浮かべた。

 「堕天使たちと融合してLv.200の勇者になった癖に、存外大したことはないな。あっさり僕の毒煙にやられて、全員眠りやがった。痺れ薬も混ぜておいたから、数時間はまともに体を動かすこともできない。堕天使たちが強引に肉体を奪って肉体を動かそうとしても、すぐには動けないだろう。作戦は思った外、順調だ。それじゃあ、中に入るとしよう。」

 僕は青白い霊能力のエネルギーを右手に込めると、右手で強引にドアの取っ手を破壊し、ドアを無理やりこじ開け、棟の中へと鵺たちと一緒に入った。

 棟の廊下では、見張り役のヴァンパイアロードたちが毒煙にやられて、廊下で寝転んで倒れていた。

 僕は廊下で倒れているヴァンパイアロードの一人に近づくと、如意棒を黒いナイフに変形させ、それからヴァンパイアロードの右の手の平を斬り裂いた。

 腰のアイテムポーチから、ドッペルゲンガーマスクを一枚取り出すと、ヴァンパイアロードの右手をマスクに押し付け、マスクの表面に血を塗りたくった。

 血を万遍なく塗ったドッペルゲンガーマスクを僕は被った。

 すると、マスクを被った僕の顔が、手下のヴァンパイアロードの顔そっくりに変化した。

 「どうだい、鵺、スロウ?僕の顔、マスクはちゃんと変形したかい?」

 「問題ない。顔も声も、完璧に別人。モデルのヴァンパイアロードにそっくり。」

 「ほぇ~。面白いマスクだねぇ~、ジョーちん。顔が全く別人だよ。でも、マスクに人間の生き血を塗るのはちょっと悪趣味だわ~。ウチは使いたくないかな。」

 「マスクの変装は完璧だな。じゃあ、もう脱ぐよ。コイツは攪乱用のアイテムに過ぎないし。」

 僕はドッペルゲンガーマスクを脱いだ。

 ドッペルゲンガーマスクをアイテムポーチにしまうと、僕はマスクのモデルになったヴァンパイアロードの頭にナイフを突き立て、殺害した。

 ヴァンパイアロードの死体もアイテムポーチに入れて回収すると、僕たちは所長室へと向かった。

 階段を上がり、最上階に着くと、鷹尾のいる所長室の部屋の前へと到着した。

 所長室を透視すると、鷹尾は椅子に座って、テーブルの上に突っ伏して眠っている。

 「鷹尾の奴は眠っているな。プララルドとか言う堕天使が行動を起こす気配は感じない。後は、最後の盗聴器をセットして、所長室の大金庫の中にあるミストルティンを全部、処分すれば、作戦完了だ。」

 「ここまでは丈君の作戦通り。後はイヴさえ来れば、仕上げは完了。」

 「ジョーちんも鵺もお疲れ~。プララルドの奴なら、さっきから元「弓聖」の女に、必死に起きろ、って声かけまくってるよ~。でも、ジョーちんの毒が強すぎて、全然元「弓聖」の奴、起きそうにないわ~。こりゃ、アイツらの逆転はマジ、無理だわ。」

 「そうか。作戦がシナリオ通りに進んで何よりだ。後はイヴが人質の子供たちの救出を終えて、こちらと合流するのを待つだけだな。」

 僕たちが所長室のドアの前でイヴを待つこと、15分後、イヴが瞬間移動で僕たちの前に現れた。

 「お疲れ様、イヴ。人質の子供たちの救出は上手くいったかい?」

 「お疲れである、婿殿。人質の子供たち2万人全員、無事、救出に成功した。子供たちは皆、眠った状態で首都の宮殿前に転送しておいた。今頃、玉藻のかけた認識阻害幻術も解け、子供たちが発見されている頃だろう。酒吞とエルザ、グレイが子供たちを外に運び出して、まとめておいてくれたおかげで、一気に全員、送ることができた。妾一人では大分時間がかかったであろう。あの三人の馬鹿力に感謝せねばな。」

 「救出作戦が成功したようで何よりだ。それじゃあ、最後の仕上げだ。イヴ、僕たち全員を所長室の中へ転送してくれ。スロウ、所長室の中に入ったら、僕の合図で所長室の中の時間を止めてくれ。30秒で良い。頼めるか?」

 「う~ん。まぁ、狭い部屋の中くらいなら、30秒はいけなくないかも。でも、20秒しかプララルドの奴を止められないかも。ちょっと自信ないけど、でも、ウチ、頑張るっしょ。」

 「頼んだぞ、スロウ。プララルドの奴に、僕たちの犯行を気付かせるわけにはいかない。後、傲慢の堕天使とやらの鼻っ柱をへし折ってやりたくてね。それじゃあ、行くぞ、みんな。」

 僕たち四人は、イヴの瞬間移動で、鷹尾とプララルドのいる所長室へと入った。

 僕は所長室の天井に、強力接着剤で黒いカード状の最後の盗聴器を貼り付け、仕掛けた。

 盗聴器を仕掛け終えると、僕はスロウに指示した。

 「いまだ、スロウ!時間を止めろ!」

 「OK、ジョーちん!時間逆行!」

 スロウの突き出した右手がターコイズグリーン色に光り輝いた瞬間、僕たちのいる所長室の時間が停止した。

 「イヴ、時間が止まったが、動けるか?」

 「もちろんだ、婿殿。堕天使の能力程度、闇の女神である妾には通じん。それで、部屋の右奥にある大金庫の中のミストルティンの入ったジュラルミンケースを含め、全てのケースをどこぞの海に捨てればいいのだな?」

 「ああっ、その通りだ。そうだな、魔の海域辺りにでも捨てておいてくれ。あそこなら、誰も船で通りかかることはないしな。爆発の被害に巻き込まれる人間はいないだろう。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、大金庫の中にあったミストルティンの入ったジュラルミンケースを含めた、1,000ケース全部が、魔の海域へと転送された。

 「婿殿、ケースの転送は無事、完了した。ミストルティンの入ったケースは全て、魔の海域の海底へと沈めた。これで大丈夫だろう。」

 「ありがとう、イヴ。」

 「ジョーちん、もう限界。時間を止めるのはこれ以上、無理。」

 「スロウ、もう時間を止めなくても大丈夫だ。ありがとう。」

 「ふぅ~。んじゃっ、解除っと!」

 スロウが時間停止を解除した。

 「28秒も時間を止めたっしょ。ウチ、超がんばったし。ウチ、超偉いでしょ。」

 「ああっ、本当によく頑張ったよ、スロウ。本当にお疲れ様。後で美味しいものを奢ってやる。それじゃあ、玉藻たちと合流して撤収だ。おっと、プレゼントを忘れるところだった。」

 僕はアイテムポーチから、追加のメッセージカードも中に入った、嫌がらせのメッセージを覚えさせたキバタンが一羽入ったケージを取り出した。

 それと、手下のヴァンパイアロードの顔を覚えさせた、ドッペルゲンガーマスクを取り出した。

 「イヴ、キバタンをヴァンパイアロードたちのいる棟の中に、転送してくれないか?騒音爆弾で苦しむ連中の声を後でゆっくりとみんなで一緒に聞いて楽しもうじゃないか?後、このマスクもセットで送ってくれ。」

 「フフフっ。そうだったな、婿殿。妾たちの作った爆弾の威力がどれほどの嫌がらせの効果を発揮するか、試してみるとしよう。元「弓聖」たち一行の苦しむ姿が目に浮かぶ。」

 そう言うと、イヴはキバタンの入ったケージを、ヴァンパイアロードたちのいる棟へと転送した。

 それから、僕たち四人はイヴの瞬間移動で玉藻たちと合流、お互いの任務が成功したことを報告し合うと、瞬間移動で首都のラトナ公国大使館へと無事、帰還した。

 午後6時。

 パーティーメンバー全員とスロウを、僕の部屋に集めると、僕たちは盗聴器と受信機を作動させた。

 「インターセプション!」

 受信機の指輪が一瞬光った。

 「ボリュームアップ!」

 僕は呪文を唱えると、指輪の先端の紋章部分を右に少しずつ回した。

 「では、キバタンにかけた認識阻害幻術を解除するぞ。」

 僕はニヤリと笑みを浮かべると、キバタンにかけた認識阻害幻術を解除した。

 次の瞬間、キバタンの大声で嫌がらせのメッセージを叫ぶ鳴き声が、盗聴器によって拾われ、僕の持つ受信機に伝わって聞こえてきた。

 「シモカワ ユウスケ、ロリコン!シモカワ ユウスケ、ロリコン!シモカワ ユウスケ、ロリコン!~」

 キバタンがヴァンパイアロードたちのいる棟全体に、刑務所中に響き渡るような大声で、何度も繰り返し、僕たちの教え込んだ、元「弓聖」たち一行に対する嫌がらせのメッセージを言って、鳴くのが聞こえてきた。

 キバタンの鳴き声を聞いて、僕も他のメンバーたちも、部屋にいる全員がその場で爆笑した。

 「アハハハ!傑作だ!刑務所中にキバタンの鳴き声が、下川をロリコンと呼ぶ声が響き渡っているぞ!今に鷹尾たちも、ヴァンパイアロードたちも驚いて飛び起きるはずだ!下川の奴は、鷹尾の奴に惚れていたからな!あの冷酷クソ女のどこが良いのかさっぱり分からんが、鷹尾の前で恥をかかされ、下川の男としてのプライドも面子もズタズタだ!これからが面白くなるぞ!」

 「クフフフ、丈様!騒音爆弾、見事に成功いたしましたね!私もお世話した甲斐がありました!最高の嫌がらせ、いえ、復讐ですね!」

 「ギャハハハ!最高だぜ、本当!あのオウムどもがここまで使えるとは俺も思わなかったぜ!こんな悪趣味な爆弾食らったら、下川とか言う男はマジで恥ずかしさのあまり、死にたくなるぜ、おい!」

 「クスクス!丈君の考えた嫌がらせは本当に最高!公衆の面前で、しかも好きな女子もいる前でロリコン呼ばわりされたら、男として終わったも同然!新たなロリコンクソ勇者の誕生を笑って祝福すべし!」

 「クハハハ!ジョー殿、貴殿の考えた騒音爆弾、実に最高最悪の嫌がらせだ!こんなに悪趣味で笑える嫌がらせは早々、ないぞ!悪党どもめ、我らの丹精込めて作った騒音爆弾の威力をたっぷりと味わうがいい!」

 「ヒハハハ!マジで笑えるぜ、コイツは!ジョー、お前の考えた嫌がらせ、マジで最高にイケてるぜ!クソ勇者ども、絶対にブチ切れること間違いなしだぜ!騒音爆弾、最高じゃんよ!」

 「プハハハ!いやぁー、腹がよじれて、笑い過ぎて腹が痛い!さすが婿殿!見事な騒音爆弾だ!元「弓聖」たち一行も手下たちも、間抜け面を浮かべて、嫌がらせのメッセージを耳が痛くなるほど、聞くことになるであろうな!連中の面目、丸潰れだ!おまけに、人質を妾たちに救出され、ミストルティンを奪い返されたことまで知れば、連中はますます怒り狂うであろうな!実に最高最悪の嫌がらせだ!連中の反応をこれからゆっくりと聞いて楽しむことにしよう!」

 「プっ、プフフフ!すみません!アハハハ!やっぱり、笑いを堪えられそうにありません!キバタンがここまで嫌がらせとして効果を発揮しようとは!ケージに入れたメッセージカードまで見れば、元「弓聖」たち一行は大慌てになること、間違いないでしょう!ジョー様のブラックユーモア溢れる復讐には、いつも笑いが止まりません、本当!」

 「キャハハハ!マジ、ジョーちん、パネえわ!好きな女の前でロリコン呼びされるとか、マジ最悪っしょ!つか、マジ、デケエわ、あのオウムの声!ウチらが世話していた時より5倍増しでデカくなってね?こりゃ、マジ、うるさくてたまらんて!騒音爆弾、マジ、スゲエわ!」

 「プププっ!メルのお世話したオウムさん、すっごい大きな声で鳴いてるの!メルの教えた通りに喋ってるなの!ちゃんと爆弾になってる、なの!」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、スロウ、メルが、騒音爆弾として、嫌がらせとして効果を発揮するキバタンたちの鳴き声を聞いて、笑いながらそれぞれ、感想を述べた。

 「ああっ、そうだね、メル。メルのお世話のおかげだよ。本当にありがとう。みんなもキバタンの世話を手伝ってくれてありがとう。でも、これはまだ、ほんの序章に過ぎない。これから、キバタンたちをどんどん送りつけてやるぞ。連中にとことん、嫌がらせをして追い詰めてやる。騒音爆弾が威力を発揮するのはここからだ。みんなで連中の慌てふためく声を聞きながら、夕食を一緒に食べよう。笑い過ぎて、食事に手が付かないかもだけど。」

 僕は笑いながら、みんなに向かって言った。

 みんなで夕食を食べている最中、受信機を起動したままにしていると、キバタンの鳴き声を聞いて、元「弓聖」たち一行の困惑する声や、下川の怒り狂う声が聞こえてきて、僕は思わず食事を噴き出しそうになるくらい、笑ってしまった。

 他のみんなも、僕と同じような反応で、元「弓聖」たち一行の困惑する声を聞いて、食事中に関わらず、大爆笑していた。

 夕食を食べ終え、風呂に入ると、僕は寝間着に着替え、自室のベッドに仰向けに寝転んだ。

 部屋の天井を見つめながら、僕は一人、ベッドの上で呟いた。

 「人質の子供たちは全員、救出した。切り札であったミストルティンも全て奪い、廃棄した。鷹尾、そして、お仲間の六人、お前たちの地獄のような日々はこれから始まる。とことん嫌がらせをしまくって、心も体も追い詰めた上で、全員地獄に叩き落してやる。僕からの嫌がらせを思う存分、味わうがいい。」

 僕は元「弓聖」鷹尾たち一行へのさらなる嫌がらせと、復讐を露わにした。

 作戦二日目。

 午前10時頃のこと。

 朝食を食べ終え、キバタンのお世話をしていた僕に、ふたたびクリスから緊急通信が入った。

 『もしも~し、ジョー君!私だ!クリスだ!またしても緊急事態発生だ!』

 「もしもし、クリス。僕だ、宮古野 丈だ。緊急事態とは今度は一体、何だ、クリス?」

 『おはよう、ジョー君!またしても緊急事態発生だ!元「弓聖」たち一行が、ゾイサイト聖教国政府をふたたび脅迫してきたそうなんだ!約束の期限を早め、今日の午後6時までにゾイサイト聖教国政府が全面降伏しない場合、ヴァンパイアロードたちを放って、ゾイサイト聖教国各地を襲撃すると脅迫してきたそうだ!要求を飲まない場合、無差別に国民を殺害すると、そう言ってきたらしい!連中は急にヒートアップしてきたよ、ジョー君!』

 「昨日、僕たちに人質の子供たちを全員救出された上、切り札として保管していたミストルティンを全部、奪われたからだろうな。後、嫌がらせのメッセージ付きの騒音爆弾を連中にお見舞いしたもんだから、連中、怒り狂って、そんなことを言い出したってところだろう。元「弓聖」たち一行の動きは、こちらも逐一把握している。クリス、君にもらった盗聴器のおかげでね。元「弓聖」たち一行の作戦はすでに把握済みだ。連中はゾイサイト聖教国が要求を断った場合、2万5,000匹のヴァンパイアロードたちを使って、ゾイサイト聖教国を襲撃するつもりだ。国の四方から攻め入る作戦らしい。それと、グラッジ枢機卿と名乗る協力者がいて、グラッジ枢機卿率いる反教皇派50万人の軍勢とともに、一緒に攻め入る計画らしい。連中が作戦を決行する日時は午後7時ちょうどだ。すでに対策は練ってある。クリス、ゾイサイト聖教国政府には、僕たち「アウトサイダーズ」が対処するので問題ないと伝えておいてくれ。雑魚の手下どもも、グラッジ枢機卿が集めた烏合の衆も、まとめて始末する。ついでに言うと、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちに手を貸したのは、グラッジ枢機卿らしい。グラッジ枢機卿はこの僕が直接始末する。悪党どもは全員、僕たち「アウトサイダーズ」が皆殺しにする。だから、何も心配いらないよ、クリス。」

 『さすがはジョー君、「アウトサイダーズ」だ!早速、戦果を上げてくれた上、元「弓聖」たち一行への対策も用意しているとは!気がかりだったミストルティンも取り返してくれたとは、本当に助かったよ!私の渡した盗聴器が役に立っているようで良かった!では、ゾイサイト聖教国政府には、私から「黒の勇者」と「アウトサイダーズ」が対処するので、何も問題ないと、そう伝えておこう!いや、待てよ!?グラッジ枢機卿と言えば、確かゾイサイト聖教国政府の元財務大臣で、大枢機卿だった人物だ!ゾイサイト聖教国の実質的No.2で陰のフィクサーと呼ばれる男だよ!ジョー君、君が先日、世界中に暴露した、違法ポルノのエロ写真を購入した罪で逮捕され、左遷されたと聞いているよ!グラッジ枢機卿が関わっているとなると、ゾイサイト聖教国政府内部に、グラッジ枢機卿の内通者がいる可能性が高い!迂闊に君たちが問題に対処することを伝えるわけにはいかなくなったな!』

 「なるほど。エロ写真を買った罪で左遷された元財務大臣で元大枢機卿の男が、左遷されたことへの逆恨みから、元「弓聖」たち一行の犯罪に加担していると。つくづくゾイサイト聖教国政府の連中は、リリア聖教会の連中は碌でもない奴しかいないな。呆れて反吐が出てくる。クリス、ゾイサイト聖教国政府の連中には、僕たちが動くことは伝えなくて大丈夫だ。ゾイサイト聖教国政府が降伏しようがしまいが、僕たちは元「弓聖」たち一行を討伐する。すでに女神リリアの神託を遂行できずにいるゾイサイト聖教国政府は、リリア聖教会本部は、国民や信者たちからの信頼をほとんど失っているも同然だ。リリアから見放されることもほぼ確定している。ゾイサイト聖教国政府が滅んでも、別に僕たちの討伐作戦には何の影響もない。世界中を苦しめる悪質な宗教団体がこの地上から消えて、ラトナ公国も、他の国も助かること間違いなしだ。ゾイサイト聖教国政府からしつこく訊ねられた時は、「黒の勇者」も「アウトサイダーズ」もゾイサイト聖教国政府の存続に関しては一切関知しない、そう言っていたとでも伝えてくれ。悪党どもがどうなろうが、僕たちの知ったこっちゃあないね。」

 『ハハハ!了解だよ、ジョー君!リリア聖教会が滅んだところで、我が国も他国も特段、困ることはない!むしろ、毎年、馬鹿みたいな金額の寄付金を払わずに済んで、大助かりだ!リリア聖教会に代わる宗教団体なんて、作ろうと思えば作れなくもないしね!より健全な、真っ当な宗教団体が設立されるよう、サポートすれば、民衆の混乱も解決するはずだ!元「弓聖」たち一行の討伐、引き続き頼んだよ、ジョー君!君たちの好きなように、徹底的にやってくれたまえ!よろしく頼んだよ、「黒の勇者」様!』

 「任せてくれ、クリス!元「弓聖」たち一行は必ず討伐する!十日以内に片をつけるよ!討伐完了を待っていてくれ!」

 『良い報告を待っているよ、ジョー君!それでは、私は失礼する!ハングアップ!』

 クリスとの通信はそこで終わった。

 クリスとの通信を終え、僕は呟いた。

 「鷹尾たちめ、焦り始めたようだな。だけど、お前たちの作戦は全てこちらに筒抜けだ。お前たちの用意した戦力なんぞ、軽く捻り潰してやるよ。さて、その前に、第二作戦を決行するとしよう。お前たちに嫌がらせと絶望をたっぷりと味わわせてやる。」

 午後1時。

 昼食を食べ終えると、僕は第二作戦を決行するため、作戦に参加するメンバーを集めた。

 今回の作戦メンバーは、僕、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、スロウの以上、八名。昨日と同じメンバーである。

 エントランスホールに集合すると、僕は作戦内容をメンバーに伝えた。

 「今回の作戦は、ヴァンパイアロードたちの食料兼追加の人質として捕まっている、5万人の大人たちだ。大人たちは全員、手下のヴァンパイアロードたちのいる棟の各独房に囚われている。昨日の僕たちの襲撃を受けて、敵も警戒を強めているはずだ。刑務所に潜入後、まず、敵の警備体制について目視で確認を行う。確認後、敵の警備体制に応じて、警備の隙を突く対策を施す。敵の警備を突破後、独房に囚われている人質たちの救出を行う。状況に応じて、作戦の内容は変更することもある。みんな、協力を頼む。イヴ、シーバム刑務所まで転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 直後、僕たちはイヴの瞬間移動で、シーバム刑務所の敷地内へと転送された。

 僕たちの目の前に、ヴァンパイアロードたちと、食料兼人質となった大人たちのいる独房がある、巨大な三つの棟が正面に現れた。

 僕は「霊視」で三つの棟の中を透視した。

 「各独房の中にヴァンパイアロードの手下が一人、人質の大人たちが一人ずついる。各棟の中、廊下や階段、連絡用通路に、アーロンたち「白光聖騎士団」の、元聖騎士たちがいる。んっ、隊長たちの姿が大分変わっているな。全身に鱗があったり、腕が六本あったり、背中から鳥みたいな翼が生えている。部下の聖騎士たちもヴァンパイアロードそっくりだ。あのクソ雑魚聖騎士ども、人間であるのを辞めて、モンスターに成り下がったらしいな。隊長たちは例の、強化改造されたヴァンパイアロードの変異種に違いない。女神に仕える正義の使徒だとか言っていた割に、あっさり信仰心を捨ててモンスターになったようだな、あのクズども。まぁ、良い。ええっと、後、中央の棟に下川、右側の棟に都原、左側の棟に早水がいる。下川の奴は、「激高進化」とか言う、環境適応能力や耐性を強化できる能力を持っていたな。となると、昨日みたいに毒煙が通じず、途中で耐性を身に着けられて動き出す可能性がある。毒煙の使用は止めておこう。奴に耐性をつけられたくはない。イヴ、正面に見える三つの棟に、何か警報装置やトラップの類が仕掛けられているかい?」

 「ふむ。婿殿、中央の棟の中心部に、空気を浄化する特殊な魔道具が設置してある。四枚の羽根が付いた、銅でできた小型の風車のようなモノが見えるだろ?アレが常時稼働していることで、風車で空気を一度吸い込み、それから人間や他の生物にも完全に無害な空気へと作り替えて、再度送り込むという装置らしい。三つの棟は通路で繋がっていて、あの魔道具一台で全棟の空気を完全に浄化できるほどの代物だ。恐らく、毒煙への対策の一つであろう。独房の扉には、無理やりこじ開けようとすると、警報装置が作動する仕組みになっている。それ以外に、セキュリティーシステムやトラップの類のモノは確認できない。」

 「ありがとう、イヴ。思った以上に警戒が厳しいな。空気を浄化する魔道具か、厄介だな。あの銅でできた扇風機みたいな魔道具は破壊する必要がある。しかし、人質たちの救出が今は最優先だ。奥の手を一つ、使うとしよう。玉藻、僕と合体してくれ。君と合体した僕の能力なら、人質たちの救出作戦を確実に、よりスピーディーに進められるはずだ。久々の合体だけど、準備は良いかな?」

 「もちろんです、丈様。丈様との合体はいつでも出来る準備ができております。久しぶりの実戦での合体、楽しみでございます。」

 「それじゃあ、合体するとしよう。みんな、少し待っててくれ。」

 僕の右横に、玉藻が並んだ。

 僕は両手を合わせて、胸元で合掌した。

 僕は合体のための呪文を唱える。

 「契約に捧げし贄は我が命、我が命食らいし式を我が半身と為して、眼前の敵を討ち滅ぼす悪鬼羅刹を顕現せよ、玉藻降臨!」

 呪文を唱え終えると同時に、僕と玉藻の体が光り輝き、青白い大きな光に一緒に包まれた。

 僕たち二人の体を包む光が、周囲を明るく照らし続ける。

 やがて光がおさまると、玉藻との合体を終えた僕が姿を現した。

 黒色をベースとした金色のストライプの入った着物を纏い、両手には金色のストライプが加わった黒いグローブ、両足には金色のストライプが加わった黒いブーツを身に着けている。

 髪と瞳の色も金色に変わっている。

 右手には玉藻と同じ、黒い鉄扇を持っている。

 「霊装毒狐ノ型!」

 玉藻と合体した僕の変化した姿を初めて見たイヴ、グレイ、スロウの三人は驚いた。

 「ほぅ。これが婿殿と玉藻の合体した姿か。いつもながら、凄まじい力を感じる。毒と幻術に最大限特化した能力と聞いているが、この目で見るのが楽しみだ。」

 「これがジョーと玉藻の姉御が合体した姿か。ユグドラシルを治療できるくらい、半端ねえ力を持っているのはアタシも知ってるぜ。アタシらに何を見せてくれるのか、楽しみじゃんよ。」

 「ジョーちんと玉藻が合体した!?ジョーちんもウチと同じように融合できんの?ジョーちん、マジで凄すぎ!絶対、人間じゃないって、マジで!ホント、ジョーちん、凄すぎっしょ!」

 驚く三人を見ながら、僕は言った。

 「さぁ、ここからが本番だ。今回は僕、玉藻、イヴの三人で人質たちの救出作戦を行う方向に変更だ。イヴ、ここにいる全員を刑務所の中へと転送してくれ。5万人の人質たちを、何も知らない元「弓聖」たち一行の馬鹿どもから、かっさらってやろうじゃないか?最高の救出ショーをお目にかけよう。」

 「フハハハ!了解だ、婿殿!婿殿のお手並みを皆で拝見するとしよう!」

 僕たちはイヴの瞬間移動で、人質たちが囚われている三つの棟の中へと転送された。

 僕は「霊視」で各独房を透視しながら、独房のある方へと近づくと、金色の霊能力を解放し、金色の霊能力のエネルギーを、右手と、右手に持つ鉄扇へと纏った。

 顔の前で鉄扇をサッと開くと、鉄扇を独房のある方へと向けた。

 「幻燈幻術!」

 鉄扇が金色に光り輝いた瞬間、各独房内で人質たちの見張りをしているヴァンパイアロードの手下たちの前に、人質の人間たちがおとなしく独房の隅っこで正座して座っている、スクリーンに映されたような偽の光景、幻像が映し出された。

 幻像は、ヴァンパイアロードたちと人質たちの間に発生し、ヴァンパイアロードたちの目から人質たちの姿を遮っている。

 「イヴ、独房にいるヴァンパイアロードたちは、僕の作り出した幻像に騙されている。今の内に、独房にいる人質たちだけを首都の宮殿前に転送してくれ。人質たちは混乱している。ボロが出る前に、急いで転送を頼む。」

 「任せよ、婿殿!人間だけを対象に転送するくらい、造作もない!手間が省けたぞ、婿殿!一瞬で終わらせてくれる!」

 イヴが自信満々の表情を浮かべながら、右手の指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、独房内にいた人質の大人たち5万人が、一斉に首都の宮殿前へと転送され、独房の中から消えた。

 ヴァンパイアロードたちは今も僕が独房内に作り出した、人質たちや独房の一部を模写した幻像に騙され、人質たちが独房の中にいるものと勘違いしたままだ。

 「お疲れ様、イヴ。おかげで人質たちの救出は無事、完了だ。鷹尾たちはこれで、ヴァンパイアロードたちに与える食料まで失ったことになる。貧血で飢えた大量の吸血鬼を抱えることになって、頭を抱えること間違いなしだ。」

 「お疲れ様であった、婿殿。婿殿の幻術、実に見事であった。ヴァンパイアロードたちは婿殿の作り出した精巧な幻に今も完全に騙されている。透視能力がなければ、幻だとはすぐには気付くまい。玉藻と合体した婿殿の能力を見ることもでき、妾は満足だ。」

 僕とイヴが作戦の成功を祝っていると、酒吞たちが声をかけてきた。

 「お疲れ、丈。独房の中に幻術で幻を作って、吸血鬼どもを騙したそうだな?中々、粋なことをするじゃねえか。周りにいる元聖騎士たちも、元「弓聖」のお仲間たちも、人質が全員、救出されたことも知らずに今も呑気に突っ立っていやがる。奥の手を使ったとは言え、あっさり片を付けるとはよくやったぞ。」

 「お疲れ様、丈君。玉藻と合体した丈君の幻術を破れる者はまず、いない。手下の間抜けな吸血鬼どもを欺くぐらい、楽勝だったはず。できれば、私もまた合体したい。」

 「お疲れ様であった、ジョー殿。玉藻殿と合体したジョー殿なら、下賤な吸血鬼どもを幻術で騙すことは容易なことであっただろう。我の出番がなかったのが、少し残念ではあるが、作戦が成功して何よりだ。」

 「お疲れ、ジョー。独房の中は見えなかったが、幻を作って吸血鬼どもの目を欺いて、その隙に人質を全員、救出するとは、さすがだぜ。ジョーと玉藻の姉御が合体したら、ジョーの幻術の前じゃ、みんな騙されちまうじゃんよ。」

 「お疲れ、ジョーちん!ウチはジョーちんの活躍、ちゃんと見えたよ!人質の人間どころか、部屋の中まで、そっくりそのまま幻を作るとか、マジ、凄いわ!しかも、5万部屋全部にそっくりな幻を一瞬で作るとか、マジ、凄すぎっしょ!マジ、神レベルだわ!ウチもジョーちんと合体してみたいかも!絶対、ヤバいこと間違いなしっしょ!」

 「スロウ、お前が丈と合体なんて百万年早ええ。俺たちのように固い絆で結ばれなきゃ無理だ。諦めるんだな。」

 「フっ。ほんの二、三日前に会ったばかりの、ぽっと出の色ボケ堕天使に、丈君との合体はまず、無理。せめて、メルちゃんのママ争奪戦に参加できるくらいにならなければ、不可能。いや、その前に、空気を読めるようになった方が良い。」

 「正妻である妾さえ、いまだ婿殿との合体ができていないのに、妾より先に婿殿と合体したいとは厚かましいにも程があるぞ。身の程をわきまえよ、堕天使の小娘。貴様はまず、その抜けた頭を良くするところから始めるのだな。婿殿に女として見られるようになったら、少しは望みもあるだろうが。それも一体、いつのことになるやら。」

 「う、うるさいだし!ウチは必ず、ジョーちんと合体してみせるんだし!ウチとジョーちんが合体したら、最強無敵になること、間違いないんだし!酒吞も鵺もイヴ様も、今に吠え面をかかせてやるっしょ!本気モードのウチの実力を見せてやるっしょ!」

 スロウが、僕と必ず合体してみせると、みんなの前で宣言した。

 そんなスロウを、酒吞たち他の女性メンバーは、フッと笑い、軽く受け流した。

 「す、スロウ、僕との合体には色々と条件があるんだ。そう簡単にはできないんだ。僕との合体には、他のパーティーメンバーたちからの了承も必要だ。今回の元「弓聖」たち一行の討伐に貢献すれば、みんなからの信頼度も上がるはずだ。とにかく、落ち着け、なっ?お前が本当は凄い奴で、努力すればすごく出来る奴だってことぐらい、分かっているからさ。」

 「ホント、ジョーちん!?さっすがはジョーちん!ウチのこと、よく分かってんじゃ~ん!そう、ウチは努力すれば凄く出来る子なんよ!ウチの実力を発揮するのは、ここからなんだし!絶対に、ジョーちんと合体する資格ありってところを証明してみせるっしょ!」

 「そ、そうか。まぁ、頑張ってくれ。一緒に戦ってくれるのは実際、助かるしな。は、ハハハ!?」

 やる気を見せるスロウを、苦笑しながら見る僕であった。

 「さて、それじゃあ、最後の仕上げと行きますか。スロウ、ちょっと手を貸してくれないか?」

 「へへ~ん!早速、ウチの活躍するチャンス到ら~い!パイセン方、お生憎様でした~!ジョーちん、ウチにできることなら何でも頼んでくれていいからね~!」

 「「「「「ちっ!」」」」」

 スロウに挑発され、酒吞たち五人が一斉に顔を顰め、舌打ちをした。

 「スロウ、みんなを挑発するんじゃない。早速、信頼度が下がったような気がするが。後でみんなに謝っとけよ。ゾーイのためにもな。ええっと、一回時間を30秒ほど止めてくれ。その間に、僕は新しい攪乱用のマスクの作成と、ヴァンパイアロードの死体の処理まで終わらせる。できるか?」

 「OK、ジョーちん!30秒、必ず止めてみせるから!」

 「じゃあ、僕が合図したら、時間を止めてくれ。」

 僕はそう言うと、近くにいた「白光聖騎士団」の元聖騎士のヴァンパイアロードへと歩いて近づいた。

 認識阻害幻術で姿を消しているため、ヴァンパイアロードは接近する僕の存在に全く気が付かないでいる。

 僕はそっと、ヴァンパイアロードの右の首筋に向けて鉄扇を向けた。

 右手に持つ鉄扇が一瞬、金色に光ると、超即効性の眠り薬の効果がある、10㎝ほどの長さの金色の毒針が、鉄扇の先から放たれ、ヴァンパイアロードの首筋に刺さった。

 「いまだ、スロウ!」

 僕が合図をすると、スロウが右手を前に突き出した。

 スロウの右手がターコイズグリーン色に光り輝くと、周囲の時間が停止した。

 僕は鉄扇に霊能力のエネルギーを流し、黒いナイフへと一瞬で変形させた。

 僕は床に倒れて眠っているヴァンパイアロードの右の手の平をナイフで深く斬り裂くと、着物の胸元から、アイテムポーチとドッペルゲンガーマスクを取り出し、ヴァンパイアロードの右手から流れる血を急いでマスクの表面全部に塗りたくった。

 それから、眠っているヴァンパイアロードの頭にナイフを突き刺し、ヴァンパイアロードを殺害すると、急いで死体をアイテムポーチに収納した。

 「スロウ、時間停止を解除してくれ!」

 「OK、ジョーちん!ちょうど30秒きっかし!ジョーちんもお疲れ!」

 僕は一旦、ドッペルゲンガーマスクを被った。

 僕の顔も声も、殺したヴァンパイアロードの元聖騎士そっくりであった。

 「マスクの作成、完了だ。これで良し。」

 僕はドッペルゲンガーマスクを脱ぐと、スロウにふたたび指示した。

 「スロウ、後もう一度、10秒ほど時間を止めてくれ。例の空気を浄化する魔道具を処理する。」

 「OK、ジョーちん!」

 僕は、棟の中央にある、銅製の四枚羽の扇風機に似た、空気を浄化する魔道具の前へと移動した。

 魔道具のすぐ傍には、下川の奴がいた。

 「スロウ、時間を止めてくれ。」

 「OK、ジョーちん!時間逆行!」

 スロウがふたたび、周囲の時間を停止させた。

 僕は霊能力のエネルギーを流し、ナイフを黒い鉄扇へと変形させた。

 右手と鉄扇に金色の霊能力のエネルギーを纏わせると、僕は魔道具に向かって鉄扇を思いっきり振り落ろした。

 「霊扇打!」

 僕が振り落とした鉄扇が直撃し、空気を浄化する魔道具は、パリーンという音を立てながら、原型も留めないほど、粉々に砕け散った。

 僕が魔道具を粉々に破壊した直後、スロウによって停止していた時間がふたたび動き出した。

 僕は破壊された魔道具に背を向けながら、下川の横を悠々と通り過ぎ、スロウの下に歩いて向かった。

 「お疲れ様、スロウ。おかげさまで魔道具の破壊が、無事、成功した。あの目障りな魔道具を破壊できて本当に良かった。協力ありがとう。」

 「へへ~ん!ウチの能力にかかれば、魔道具を誰にも知られずに破壊するとか、超余裕だし~!ウチの本気はマジ、凄いっしょ!」

 「ああっ、凄いよ、スロウ。これからも頼りにしているぞ。」

 僕とスロウは、魔道具の破壊が成功したことを笑って喜んだ。

 「「「「「ちっ!」」」」」

 玉藻たち五人が、スロウの活躍が面白くないと、僕たち二人の前で大きく舌打ちをした。

 スロウは正式なパーティーメンバーではないけれど、僕たちの作戦に貢献してくれたんだから、少しは労っても良いんじゃないか?

 いくらなんでも、舌打ちをするのは良くない、そう思う僕であった。

 スロウがいつの間にか、僕の後ろに隠れて、酒吞たちに向かって、アッカンベーっと、悪態をついていなければ、僕も酒吞たちに注意をできたんだが。

 僕がそんなことを思っていると、後方から刑務所中に響くような大声で、下川の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 「ピュ、ピューリファイザーが、ピューリファイザーが壊れちまってるー!?な、何で、どうしてなんだよ、くそがーーー!?」

 下川の叫び声を聞いて、他の棟にいた仲間たちや手下たちが、続々と下川の方へ集まっていく。

 「ロリコンのレッテルまで貼られ、食料兼人質の人間たちは全員救出され、おまけに傍で警備していた大事な魔道具まで破壊された。下川、鷹尾のお前に対する信頼はガタ落ちだろうな。鷹尾や他の仲間たちに用済み扱いされて、切り捨てられないよう、まぁ、せいぜい頑張れよ。最後に、プレゼントを置いていくとしよう。」

 僕はアイテムポーチから、キバタンの入ったケージと、ドッペルゲンガーマスクを取り出した。

 キバタンの入ったケージとドッペルゲンガーマスクを足元に僕は置いた。

 「ミヤコバル カナウ、バケモノ!ミヤコバル カナウ、バケモノ!ミヤコバル カナウ、バケモノ!~」

 キバタンが、嫌がらせのメッセージの言葉を何度も繰り返し、大声で鳴き叫んだ。

 「アハハハ!吸血鬼になった都原には、コイツが一番効くだろうさ!実際、人の生き血を吸う化け物になってるしな!クソ吸血鬼女め、もうお前が血を吸える食料用の人間は、刑務所内には誰も残っていないぞ。お仲間が残ってはいるが。貧血になって、飢えて倒れる前に、鷹尾たちに血を吸わせてくださいって、泣いて頼むんだな。吸血鬼なんぞになって、調子に乗った罰だ。せいぜい、苦しむがいい。さぁ、みんな、撤収だ。イヴ、大使館まで転送を頼む。」

 第二作戦の第一段階を終えると、僕たちはイヴの瞬間移動で、一度、首都のラトナ公国大使館へと帰還した。

 玉藻との合体を解くと、僕たちはマリアンヌとメルを呼び、僕の部屋へと集まった。

 キバタンとドッペルゲンガーマスクにかけた認識阻害幻術と、刑務所の各独房にかけた幻燈幻術を、僕は一斉に解除した。

 受信機を起動させると、受信機から聞こえてくる、刑務所内に仕掛けた盗聴器が拾った、都原の怒り狂う声や、下川の悲痛な叫び、鷹尾たちの困惑する声を聞いて、ゲラゲラと大声を上げて、みんなで笑ったのだった。

 みんなで鷹尾たちの慌てふためく声を聞いて楽しみながら、僕はみんなに向かって言った。

 「みんな、お楽しみのところすまないが、僕の話を聞いてくれ。まだ、第二作戦は終わってはいない。敵はこの後、午後7時に、手下のヴァンパイアロードたちと、グラッジ枢機卿率いる反教皇派の勢力を使って、ゾイサイト聖教国各地を襲撃する予定だ。僕たちは事前に先回りをして、連中を迎え撃つ第二段階の作戦を決行する。連中は一人残らず、殲滅する。尚、グラッジ枢機卿率いる反教皇派の軍勢は黒いローブを全員、身に纏っている。黒いローブの人間に狙いを定めて攻撃するように。多少、聖騎士団や冒険者を巻き込んでも構わない。どうせ、大差ない人間のクズばかりだろうし。ヴァンパイアロードは頭を潰すか、全身を粉砕すれば、問題なく討伐できる。敵はゾイサイト聖教国を四方に別れて攻撃するつもりだ。それぞれ、10万の反教皇派の勢力と、5,000匹のヴァンパイアロードを国の北側、南側、東側、西側に派遣して襲撃することを画策している。それと、南西の辺境の町、シュットラから、首都に向けて同じく、グラッジ枢機卿を先頭に10万の反教皇派の勢力と、5,000匹のヴァンパイアロードを仕向けて、首都を攻撃するつもりだ。迎撃作戦に当たるメンバーを発表する。北側は酒吞、エルザ、グレイ、西側は鵺、東側は玉藻、南側はイヴ、シュットラは僕、以上七名で対応する。スロウ、マリアンヌ、メルの三人は大使館で待機だ。スロウ、念のため、首都の守りをお前に任せる。午後6時に、それぞれのメンバーを各地に派遣する。午後6時55分になったら、認識阻害幻術で姿を消しながら、先制攻撃を行い、敵を一掃する。敵は一人足りとも生かして帰すな。敵は必ず皆殺しにする。作戦は以上だ。第二作戦の最後の仕上げだ。よろしく頼むよ、みんな!」

 「「「「「「「「了解!」」」」」」」」、「了解、なの!」

 僕たち「アウトサイダーズ」は、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力を迎え撃つべく、準備を進めるのであった。

 午後6時50分。

 僕たちはイヴの瞬間移動で、すでにゾイサイト聖教国内の敵の各集結地点へと到着していた。

 僕は、反教皇派の勢力をまとめるグラッジ枢機卿がいる、ゾイサイト聖教国南西の辺境の町、シュットラへと到着していた。

 夕陽が沈み始めた20分ほど前から、シュットラの町の領主を務めるグラッジ枢機卿の屋敷に向かって、シーバム刑務所のある山の方より続々と、人間サイズの蝙蝠へと変身して飛んでくる、ヴァンパイアロードたちの姿があった。

 グラッジ枢機卿の屋敷の周辺には、反教皇派の勢力と思われる武装した人間の一団、約10万人が集まっていた。

 5000匹のヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちの合流が完了すると、グラッジ枢機卿が屋敷の正面の二階にあるバルコニーから、集まった軍勢に対して大声で演説を始めた。

 「諸君、クーデターへの協力を感謝する!ついに、我々を裏切り、迫害した者たちへの復讐の時がやって来たのだ!我々から地位、名誉、仕事、家族、恋人、財産、全てを奪い、我々を社会的破滅へと追い込み苦しめてきた怨敵、「黒の勇者」と、偽りの勇者である「黒の勇者」に加担するカテリーナ聖教皇率いる現政府に、復讐する時が来たのだ!我々の行動はただの復讐などではない!身勝手な正義を振りかざし、世界に無用の混乱を招く横暴な勇者と、その勇者に毒された現政府からゾイサイト聖教国を奪い返す、聖戦なのだ!皆で一致団結して、「黒の勇者」と聖教皇を討ち果たし、共に平和であったゾイサイト聖教国を取り戻そうではないか!?我々には、真の勇者である「弓聖」様と、光の女神リリア様の御加護が付いている!我々はこの聖戦に必ず勝利できる!同志諸君、今こそ共に立ち上がろう!」

 グラッジ枢機卿の演説を聞いて、「オオーーー!」という大声を上げて、集まった反教皇派の勢力の人間たちと、ヴァンパイアロードたちは一斉に答えた。

 演説を近くから聞いていた僕は、グラッジ枢機卿たちの方を見て顔を顰めながら呟いた。

 「何が聖戦だ。破滅したのは、違法ポルノのエロ写真を買ったお前たちの自業自得だろうが。元死刑囚のヴァンパイアロードたちや、極悪人の鷹尾たちと組んでクーデターまで起こそうとしている時点で、全員テロリスト確定だろうが?逆恨みで国を乗っ取る悪事に手を染めるのは、この僕に身勝手な理由で復讐しようと考えるのなら、全員救いようのない外道だ。悪党どもめ、全員地獄に叩き落してやる!」

 僕はそう言うと、銀色の霊能力のエネルギーを全身に纏った。

 「天行空!」

 僕は一気に空へと飛び上がった。

 グラッジ枢機卿の屋敷の真上、地上から上空200mの地点で、僕は制止した。

 ジャケットの左側の内ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認した。

 「時刻は、ちょうど午後6時55分。作戦開始だ。絶望を味わいながら、全員まとめて死ぬがいい。」

 僕は右手を上に突き上げると、通常の霊能力を解放し、霊能力のエネルギーを右手に集中させた。

 右手に、青白く光る膨大な量の霊能力のエネルギーが集まり、圧縮され、直径100mほどの、巨大な熱量を持った球体へと変化した。

 青白く光り輝く、巨大な霊能力の熱球には、認識阻害幻術が施され、地上にいるグラッジ枢機卿たちは、真上にある巨大な熱球に気付いていない。

 「さぁ、全員地獄に落ちる時間だ!全員まとめて吹っ飛べ!霊爆拳!」

 僕は叫ぶと、右手に乗っている「霊爆拳」で作った、巨大な視えない霊能力の爆弾を、真下に見えるグラッジ枢機卿たちに向けて、投げつけた。

 落下する巨大な視えない爆弾が、グラッジ枢機卿たちの頭上まで残り50mを過ぎた地点で、僕は爆弾に施していた認識阻害幻術を解除した。

 突然、頭上に巨大な青白く光る球体もとい爆弾が出現し、接近してきたことに気が付き、グラッジ枢機卿たちは慌てふためいた。

 「な、何だ、アレは!?」

 「霊爆拳」で作った巨大な爆弾が、グラッジ枢機卿の屋敷の屋根に触れた瞬間、巨大な爆発が巻き起こった。

 爆弾が爆発するとともに、青白い閃光が周囲を照らし、爆風で屋敷の周囲の森の木々が薙ぎ倒された。

 爆弾は着弾地点から半径1㎞以内に存在する、ありとあらゆるモノを焼き尽くして吹き飛ばした。

 グラッジ枢機卿率いる反教皇派の兵10万人と、元「弓聖」たち一行が派遣した手下のヴァンパイアロード5,000匹は、全員、僕の作った巨大な爆弾で全身を木っ端微塵に吹き飛ばされ、地上から跡形もなく消滅したのであった。

 グラッジ枢機卿たちのいた場所には、巨大なクレーターができ、屋敷も人影も、塵一つ残さず、消えてしまっていた。

 僕は空から降下し、クレーターの中心部へと着陸した。

 「逃げた奴は一人もいなかったはずだ。逆恨みで僕に復讐しようとした罰だ。地獄で僕を本気で怒らせたことをいつまでも後悔しているがいい、悪党ども。」

 僕が殺した悪党どもへの言葉を述べていると、クレーターの正面に見える薙ぎ倒された木々の奥にある茂みが、ガサゴソと揺れて動いたのが見えた。

 僕は飛んで、茂みのある場所へと向かうと、茂みの中で、ボロボロの焼き焦げた黒いローブに白い法衣を身に纏い、左腕と左足を失い、右手には金色に輝く直径10㎝ほどの表面が割れた丸い鏡を持って、全身から血を流し、顔にかけている四角いフレームの眼鏡のレンズが割れている、顔の左半分が焼けただれた、白髪の初老の男性が、息を切らして地べたを這って進む姿があった。

 「はぁ、はぁ。せ、セイクリッドミラーがなければ、死んでいた。おのれぇ、「黒の勇者」めぇ。私は、私は決して復讐を諦めんぞ。私は生き延びる。生きて貴様に必ず復讐してやる。このコンラッド・ジェームズ・グラッジは、必ず表舞台へと返り咲いてみせる。は、早く「弓聖」様たちに合流して、治療してもらわねば。」

 地べたを這っている瀕死の男性の正体は、反教皇派の勢力の頭目にして、元「弓聖」たち一行の協力者であるグラッジ枢機卿であった。

 僕はグラッジ枢機卿の正面に立つと、認識阻害幻術を解除して姿を現した。

 「誰に復讐するだって、変態聖職者?あの爆発から生き延びた、ゴキブリ並みの図太さと、醜い復讐への執念は少し驚いたが、詰めが甘いんだよ。お前たち悪党どもの行動は全て把握済みだ。小細工を使って一人逃げおおせようとしても無駄だ。僕は絶対に悪党を許さない。悪党は全員、皆殺しにして地獄に叩き落す。僕の復讐にかける思いを舐めるな、変態聖職者の悪党が。」

 僕の登場に、グラッジ枢機卿は一気に恐怖で顔が真っ青に変わった。

 「く、「黒の勇者」!?い、一体、どうしてここに!?なぜ、私の居場所が分かった?なぜ、我々の計画を貴様が知っているのだ?わ、私を殺すのは止めろ!私はこの国のNo.2だ!この私を殺せば、私の仲間や部下たちが黙ってはいないぞ!貴様は一生、私の仲間から狙われることになるぞ!それでも良いのか!?」

 「お前、僕の話を聞いていたのか?僕は復讐に命を懸けているんだ。地獄に落ちる覚悟なら、とうの昔にできている。世界中を敵に回しても、僕はお前たち異世界の悪党どもに復讐する。悪党は一人残らず、地獄に叩き落す。お前の仲間が襲ってくるなら、全員返り討ちにして、地獄に送るだけだ。お前のちっぽけな復讐心だの弱っちいお仲間だの、怖くもなんともない。セイクリッドミラー、とか言ったか、お前が右手に持っているそれ?防御用の魔道具らしいが、僕の爆弾の威力に耐えるほどの力はなかったらしいな。左半身がほとんど吹き飛んでいるお前の姿を見ればよく分かるぞ、グラッジ枢機卿。大体、お前、もう財務大臣でも大枢機卿でもないだろ?ちょっとお金持ちの、田舎町の領主に過ぎないだろうが?もうお前はゾイサイト聖教国のNo.2なんかじゃない。左遷されて、逆恨みのクーデターにも失敗した、ただの落ちぶれたテロリストだ。さて、おしゃべりはこのぐらいにして、どうせなら、この僕の手で改めて処刑してやる。本物の復讐って奴を教えてやろう。」

 僕はニヤリと笑みを浮かべると、「ヒィっ!?」と声を上げて、地べたを這いずって僕から必死に逃げようとするグラッジ枢機卿の服の襟を、後ろから近寄って右手で掴んだ。

 グラッジ枢機卿を右手で掴んだまま、僕は空へと一気に急上昇して飛んだ。

 超高速で、シュットラの町から、ゾイサイト聖教国の首都まで、グラッジ枢機卿を捕まえながら飛んだ。

 そして、ゾイサイト聖教国の首都の中央にある宮殿の真上、地上から高度500mの高さで、グラッジ枢機卿を右手で掴んだまま、制止した。

 真下を見下ろしながら、僕はグラッジ枢機卿に向けて言った。

 「どうだ、変態聖職者?夜だが、良い眺めだろ?真下に、お前の元職場の宮殿と、光の女神リリア様の石像が見えるぞ?どうせ死ぬなら、お前が崇拝する女神リリア様の前で殺してやろうという、この僕の気遣いに感謝しろよ?何、この国の元No.2なんだし、きっとカテリーナ聖教皇陛下もお前の死を悼んで、丁重に葬ってくれるだろうさ。最も、元「弓聖」たち一行の悪事に加担したのがバレなければの話だけど。地獄までのスカイダイビングをゆっくりと楽しんで死ぬがいい。じゃあな、クソ変態聖職者。」

 「ま、待ってくれ・・・」

 僕は、命乞いをするグラッジ枢機卿の襟首を掴んでいた右手を離した。

 僕が右手を離した瞬間、「ギャアーーー!?」という大きな叫び声を上げながら、上空500mより、宮殿と女神リリアの石像の間の地面めがけて、グラッジ枢機卿は落ちていった。

 グラッジ枢機卿は上空500mの高さから落とされ、地面に激突して、全身をグチャっという音を立てて、全身を潰されて死亡した。

 宮殿と女神リリアの石像の間に、グラッジ枢機卿の墜落死した死体が落ち、宮殿と女神リリアの石像の間の地面を、広場を赤い血で真っ赤に染め上げた。

 空から突然、叫び声を上げながら落ちてきて死亡したグラッジ枢機卿の死体を見て、宮殿内にいた職員たちや聖騎士たち、広場の周辺にいた人たちが、皆、驚きと恐怖の表情を浮かべながら、グラッジ枢機卿の無惨な死体の前へと集まってきた。

 僕はふたたび認識阻害幻術を自分にかけると、その場を去って、ラトナ公国大使館へと向けて空を飛びながら帰った。

 「無事、地獄まで行けて良かったな、変態聖職者。空の旅を最期に楽しめた上、崇拝する女神リリアの前で死ぬことができて、お前も本望だろ?安心して地獄に落ちるがいい。」

 大使館へと帰る途中で、僕は笑いながら呟いた。

 時は遡り、時刻は午後6時55分。

 ゾイサイト聖教国各地で、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力を討伐すべく、主人公、宮古野 丈以外の、「アウトサイダーズ」のメンバー六人は、それぞれ行動を開始した。

 ゾイサイト聖教国北側にある町の外れの平地に、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力が集まり、ゾイサイト聖教国を襲撃すべく行動を起こそうとしていた。

 そんな敵の正面に、認識阻害幻術で姿を完全に消した酒吞、エルザ、グレイの三人が立ちはだかった。

 「後輩ども、俺の後ろに下がっていろ。俺が一気に連中をぶっ潰す。空に逃げる奴がいたら、お前らで撃ち落として始末しろ。一匹も逃すんじゃねえぞ。」

 「お任せあれ、酒吞殿。新しい我が愛剣、「黒獅子」の斬れ味をお見せしよう。」

 「へへっ。アタシらに任せてくれよ、酒吞の姉御。アタシの新しい相棒、「黒狼」の槍の威力、たっぷりと連中にお見舞いしてやるじゃんよ。」

 「任せたぞ、お前ら。それじゃあ、行くぜ。」

 酒吞は正面にいる敵の方を見ると、右手に持っている巨大な黒い鬼の金棒を、振り下ろす構えを取った。

 酒吞の全身の筋肉が隆起した。

 酒吞が、敵の一団のいる方向に向かって、鬼の金棒を思いっ切り地面に振り下ろして、地面に叩きつけた。

 「オラァーーー!」

 酒吞の振り下ろした鬼の金棒が地面を叩きつけた瞬間、ドーンという大きな衝撃音が鳴り響き、大気を震わせた。

 それから、鬼の金棒を叩きつけた地面の先から、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の兵たちがいる平地に向かって、地震とともに巨大な地割れが起き、敵を次々に地割れの中へと落とし、地面の中に吞み込んでいくのであった。

 酒吞の起こした地割れに呑み込まれ、敵の約9割以上の戦力が、土の中に沈められて壊滅した。

 地割れに呑み込まれまいと、巨大な蝙蝠に変身して空を逃げようとするヴァンパイアロードたち500匹に向かって、エルザとグレイがそれぞれ、リフレクトメタル製の新しい武器を使って、攻撃を仕掛けた。

 エルザが両腕と剣に魔力を集中すると、両腕と剣が光り輝き始めた。

 エルザの背後に、巨大な狐の顔のようなマークが浮かび上がった。

 エルザの両腕と剣に、雷が生まれ、雷を纏った。

 「食らえ!狐獣人剣!」

 エルザの黒いロングソード、「黒獅子」から雷の魔法を纏った斬撃が次々に放たれ、空中を飛ぶヴァンパイアロードたちにぶつかり、ヴァンパイアロードたちを感電死させて、全身を黒焦げにして撃ち落していく。

 一方、グレイが両腕と槍に魔力を集中すると、両腕と槍が光り輝き始めた。

 グレイの背後に、巨大な、遠吠えをする狼の姿を描いた絵のようなマークが浮かび上がった。

 グレイの両腕と槍が高熱を帯びたように赤く染まり、槍の穂先が高熱を帯びて熱せられて、高熱を纏った。

 「行くぜ!狼牙爆槍・咆哮!」

 グレイの黒いパルチザン、「黒狼」から熱爆弾の魔法を纏った赤い斬撃が次々に放たれ、空中を飛ぶヴァンパイアロードたちにぶつかり、爆発し、ヴァンパイアロードたちは全身を木っ端微塵に爆破され、空中で跡形もなく爆散した。

 「やるじゃねえか、後輩ども。そいじゃあ、俺もちょっくら手伝うか。」

 酒吞は地割れを起こした際にできた、地面に落ちている大きな岩を右手で掴むと、投石のごとく、空中を飛ぶヴァンパイアロードたちに向けて、岩を次々に投げてぶつけた。

 酒吞の投げる巨大な岩が頭、あるいは全身に凄まじいスピードでぶつかり、その衝撃で全身を潰され、ヴァンパイアロードたちは酒吞の投石ならぬ投岩にやられ、撃ち落されて死んだ。

 ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の討伐が終わると、酒吞がエルザとグレイに声をかけた。

 「お疲れさん、二人とも。新しい得物を早速、使いこなしているようで何よりだ。お前らの技の威力もスピードも切れも、十分合格点だ。お前らの成長がこれからますます楽しみだぜ。元「弓聖」どもの討伐が終わったら、またみっちりしごいてやるから、期待して待ってろ。」

 「お疲れ様であった、酒吞殿、グレイ。リフレクトメタル、実に凄まじい武器だ。これまで使ったどの剣よりも魔力が剣に伝わり、技の威力が上がった感覚だ。より剣に磨きをかけたい気持ちが増したぞ。引き続き、ご指導を頼む、酒吞殿。」

 「お疲れ、酒吞の姉御、エルザ。アタシの槍捌き、結構イケてただろ?「黒狼」のおかげで、「狼牙爆槍・咆哮」の斬撃の斬れ味も爆発の威力も上がった感じがするじゃんよ。全く、とんでもねえモンをくれたな、ジョーはよ。でも、気に入ったぜ、この槍。つか、酒吞の姉御、アタシらに任せるって言って、自分も岩ぶん投げて吸血鬼どもを倒すとか、ちょっとずるくないっすか?そもそも、あんな馬鹿でかい岩、軽々と持って敵に投げつけるとか、どんだけ怪力なんすか?アタシら二人、あんなん見せられたら、凹みますってマジで。せめてアタシらの出番取らないで欲しいじゃんよ、ホント。」

 「ソイツは悪かったな。暇だったからちょっと手伝っただけだ。許してくれ、二人とも。まぁ、俺に暇を与えないぐらい、敵を自分たちだけで一気に倒せるよう、これからも精進するんだな、後輩ども。俺はまだ2割ほどしか、力を使っちゃいねえ。俺の全力の怪力に耐えられるくらい、強くなれよ、エルザ、グレイ。」

 「地割れを起こして、岩を片手で軽々と持っていくつも敵に投げつけて、それでまだ2割も力を使っていないと。我らが先輩方を超えるのは、まだまだ遠い話になりそうだ、トホホホ。」

 「あ、アレで2割ぐらいしか、力を使っていないって、やっぱスゲエわ、酒吞の姉御は。酒吞の姉御の全力の怪力食らったら、アタシら二人とも、ぺちゃんこにぶっ潰されるどころか、星ごと一緒に潰される気がしてしょうがないぜ。目標は遠いじゃんよ、本当。」

 「ハハハ!そう落ち込むな、二人とも!先はまだ長いんだしな!俺以外にも、超えるべき先輩が後二人、それに闇の女神までいることを忘れるなよ!ジョーも一緒に、みっちりトレーニングしてやるよ!無事、作戦終了だ!後は、迎えが来るのを待つだけだ!二人とも、お疲れさん!」

 酒吞との力量の差を感じながら、酒吞から労いの言葉をかけられ、作戦成功を祝い、それから、ますます己の腕を磨こうと思う、エルザとグレイの二人であった。

 時と場所は変わり、時刻は午後6時55分。

 ゾイサイト聖教国西側にある町の外れの森の中の開けた場所に、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力が集まり、ゾイサイト聖教国を襲撃すべく行動を起こそうとしていた。

 そんな敵のはるか頭上に、認識阻害幻術で姿を完全に消した鵺が、空中に浮かびながら、真下に見える敵の一団を鋭い眼差しで睨みつけ、静かに見下ろしていた。

 「元囚人のヴァンパイアロードに、エロ写真を買って破滅した人間のクズ。害虫以下のゴミクズどもがうじゃうじゃと集まって、目障り。ゴミクズどもはまとめて焼却処分すべし。」

 鵺はそう呟くと、右手を前に突き出した。

 鵺の右手が一瞬、銀色にキラリと光り輝くと、鵺の右手から、黒い雲がモクモクと発生して、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力がいる森の上空を覆いつくした。

 突然、森周辺に激しい雨が降り出し、暴風が吹き荒れ始めた。

 地上にいるヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力が突然、天気が急変したことに驚く中、黒い雲がゴロゴロと音を立て、雲の中を発生した雷が走った。

 直後、黒雲から無数の雷が、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力がいる森へと落ちた。

 全身や足元の地面が雨で濡れていたため、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちは、上空の黒雲から無数に放たれ、落ちてきた強烈な雷に打たれ、「ギャアーーー!?」という悲鳴を上げながら、全員、全身を黒焦げにして炭化するほど焼かれ、その場で感電死した。

 黒雲が消え、雷や雨、暴風がおさまると、森の中には、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちの、雷に打たれて感電死して、炭化するほど黒焦げになった無惨な死体が、地面に転がっていた。

 上空から敵勢力を殲滅したことを確認した鵺は、冷たい表情を浮かべながら呟いた。

 「害虫以下のゴミクズどもの焼却処分完了。これで異世界のゴミがまた減った。作戦は成功した。丈君のところに帰ろう。」

 討伐作戦を終えた鵺は、首都のラトナ公国大使館へと空を飛びながら一人帰るのであった。

 時と場所は変わり、時刻は午後6時55分。

 ゾイサイト聖教国東側にある町の、アメジス合衆国との国境の森の中に、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力が集まり、ゾイサイト聖教国を襲撃すべく行動を起こそうとしていた。

 そんな敵の一団がいる森の中に、敵から約20mほど離れた後方に、認識阻害幻術で姿を完全に消した玉藻がいた。

 「薄汚い吸血鬼たちと下劣な犯罪者たちが、国を乗っ取ろうなど、思い上がりも甚だしい。救いようのない外道どもに手加減は一切無用です。私の毒で肉も骨も残すことなく、溶かして地獄へと葬ってあげましょう。」

 玉藻は右手に鉄扇を持つと、顔の前で鉄扇をサッと開いた。

 鉄扇を頭上に掲げると、鉄扇が一瞬、金色にキラリと光り、鉄扇の先から、紫色の煙がモクモクと発生し、紫色の雲を作った。

 紫色の雲には、玉藻特製の猛毒が含まれていて、おまけに紫色の雲には認識阻害幻術が施され、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちから、紫色の雲は全く視えていない。

 そして、紫色の雲から突如、紫色の猛毒の視えない雨が、ポツリポツリと降り出した。

 雨に打たれたような気がして、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちが空を見るが、自分たちの真上に広がる、上空の紫色の雲が認識できず、首を傾げた。

 が、すぐにヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちを、異変が襲った。

 「ギャアー!?」、「痛ええー!?」、「と、溶けるぅー!?」、「た、助けてくれー!?」

 玉藻の猛毒の雨を頭から浴びて、髪の毛や皮膚、顔、眼球、手足、指、筋肉、骨など、全身に急速に毒が回り、猛毒で肉体をどんどんと溶かされていき、激痛で苦しみ、その場で悲鳴を上げてのたうち回る、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちがいた。

 周りにある森の草木も、猛毒の雨を浴びた影響で、急速な勢いで枯れ、溶かされていく。

 それから1分後、玉藻の猛毒の雨を浴びて、全身を肉も骨も残すことなく溶かされ、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちは、武器や装備品、服などを一部残し、死体も残さず消滅した。

 ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちの殲滅が完了すると、玉藻は冷淡な口調で呟いた。

 「薄汚い外道どもの穢れた血肉を地上に残す必要は一切、ございません。私の毒で地獄へと葬られたことを感謝しなさい、外道ども。地獄に比べれば、私の毒の痛みなど、大したことはないでしょう。少し毒の効果を強めてみましたが、中々良い実験にもなりました。元「弓聖」たち一行に止めを刺すには十分すぎる威力の仕上がりです。討伐作戦が成功したことをご報告すれば、丈様もきっとお喜びになることでしょう。」

 玉藻は迎えが来るのを待ちながら、ゾッとするような微笑も浮かべ、討伐作戦成功を喜んだ。

 時と場所は変わり、時刻は午後6時55分。

 ゾイサイト聖教国南側にある町からやや遠く離れた丘陵地帯に、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力が集まり、ゾイサイト聖教国を襲撃すべく行動を起こそうとしていた。

 そんな敵の一団のすぐ正面に、認識阻害幻術で姿を隠したイヴが、顔を顰めながら、敵の姿を見て、呟いた。

 「元死刑囚の吸血鬼どもに、元「槍聖」たちの作ったエロ写真を買って破滅した人間のクズどもか。逆恨みで国を乗っ取ろうなどと考える愚かな犯罪者どもに、闇の女神であるこの妾が、直々に審判を下してくれる。宇宙の塵となるがいい、犯罪者ども。」

 イヴはそう呟くと、右手の指をパチンと鳴らした。

 直後、丘陵地帯の地面に、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちを全員、呑み込むほどの、巨大なブラックホールが姿を現した。

 「ギャアー!?」、「助けてくれー!?」などの大きな悲鳴を上げながら、イヴが生み出したブラックホールの超重力に引っ張られ、ブラックホールの中に吸い込まれ、ブラックホール内部の超重力で全身をバラバラに引き裂かれ、宇宙の塵となって、ヴァンパイアロードたちと反教皇派の勢力の人間たちは、ほぼ一瞬で跡形もなく消滅した。

 わずか10秒ほどの時間で、5,000匹のヴァンパイアロードたちと、10万人の反教皇派の勢力の人間たちは、ブラックホールに吞み込まれて、全滅したのであった。

 敵の一団をブラックホールで壊滅させた後、イヴは笑みを浮かべながら呟いた。

 「闇の女神であるこの妾の前で、犯罪者の分際で国を乗っ取ろうなどと愚かな行いをした罰だ。全員、宇宙の塵となって、地獄に落ちるがいい。アダマスから最近、地獄に送られてくる犯罪者どもが多くて、地獄を管理する神々や悪魔どもも少々、困惑していることだろう。まぁ、拷問する相手が増えて、却って大喜びするかもしれんが。人間たちの腐敗がこれ以上進行する前に、リリアも元勇者たちも片づけなければならんな。全く、あの馬鹿女はいつも困らせてくれる。さて、犯罪者どもの始末は完了したし、他の連中を迎えに行くとしよう。婿殿の方は、何やらまた面白そうなことをしているようだ。クククっ、さすがは妾が選んだ真の勇者、妾の婿殿だ。婿殿の情け容赦ない復讐ショーを最後まで楽しませてもらうことにしよう。」

 千里眼で主人公の、グラッジ枢機卿率いる敵勢力への攻撃もとい、情け容赦ない悪党への復讐を見て笑いながら、瞬間移動で仲間たちを迎えにいくイヴであった。

 午後8時。

 第二作戦の第二段階の討伐任務を終え、僕、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴの七人は、首都のラトナ公国大使館へと戻り、お互いに討伐任務が無事、完了したことを報告し終えた。

 スロウ、マリアンヌ、イヴとも合流し、シーバム刑務所にいる元「弓聖」たち一行の様子を盗聴しながら、僕たちは遅い夕食を食べた。

 盗聴をしていると、鵺が担当していた西側の敵陣営に都原がいたらしく、陣営の指揮を執っていたが、鵺のせいで天気が急変し、手下のヴァンパイアロードたちが雷に打たれて死んだのを見て、自身も雷で一部火傷を負いながら、手下たちを見捨て、一人シーバム刑務所へと慌てて逃げ帰ったことが分かった。

 都原からの報告を聞いて、鷹尾たち一行は困惑していた。

 グラッジ枢機卿や他の手下のヴァンパイアロードたちとも連絡が付かず、ゾイサイト聖教国各地を襲撃する自分たちの作戦が失敗したことに、驚きを隠せない様子だ。

 「ちっ。元「弓聖」たち一行の一人が、生き残りがいたとは。ゴミクズどもは全員、焼却処分したはずだったのに。しぶとい害虫以下の吸血鬼め。次は必ず抹殺する。丈君、仕留め損ねてしまった。本当にごめん。」

 鵺が都原を取り逃がしたことを悔しがり、申し訳なそうな表情を浮かべながら、僕に向かって言った。

 「謝ることはないよ、鵺。君は十分、立派に任務を果たした。都原を西側に派遣してくることはこちらも把握していなかったことだ。それに、君の雷による攻撃を見て逃げ出した、ということは、都原は君よりも弱いことが明らかになった。おまけに、使い捨ての駒とは言え、部下たちを見捨てて、指揮官でありながら都原は戦場から一人、逃亡した。都原に対する鷹尾たちからの信頼は下がった。連中の中に、不和が起き始めることは間違いない。メインディッシュをすぐに殺してしまうのも面白くはないからね。とにかく、鵺、君はよくやってくれた。本当にありがとう。」

 「ありがとう、丈君。次は必ず、敵を全員、抹殺する。約束する。」

 僕たちは作戦成功を祝いながら、一緒に少し遅めの夕食を食べて楽しんだ。

 夕食を食べ終え、休憩をとり、風呂に入ると、僕は大使館の自室のベッドに寝転んだ。

 「レコード。これで良し。鷹尾たちめ、ゾイサイト聖教国襲撃作戦が完全に失敗に終わって、かなり動揺しているはずだ。手下のヴァンパイアロードたちの約半分を失い、グラッジ枢機卿率いる反教皇派の勢力も失った。グラッジ枢機卿というスポンサーまで失った。後、ヴァンパイアロードたちの食料用の人間たちも奪われ、血に飢えた大勢の手下のヴァンパイアロードたちを抱えることになって、大変なはずだ。新しい食料用の人間が欲しくても、僕たちによる反撃を恐れて、迂闊にゾイサイト聖教国をふたたび襲うこともできない。本来なら、襲撃作戦を成功させたついでに、食料用の人間たちを確保する、一挙両得を狙っていただけに、今回の作戦失敗はかなりのダメージになったはずだ。刑務所のある山の周りには、聖騎士団や大量のモンスターたちがいるようだし、ソイツらの血を代用するか、それとも、インゴッド王国側の町や村の人間を攫って新たな食料の血を確保する、そのどちらかになることだろうな。けど、ヴァンパイアロードたちは大分疲弊している様子だし、インゴッド王国の方まで飛んで往復する体力も気力もないはずだ。となると、前者を選ぶ可能性が高いな。まぁ、モンスターがモンスターの血を飲むことはよくあることだし、人間の血を連中には今後、一滴も飲ませるつもりはないけど。さて、鷹尾たちが次にどんな小細工を仕掛けてくるか、後でゆっくり聞かせてもらうとしよう。」

 僕は盗聴器で鷹尾たちの会話をを録音しながら、ベッドでゆっくりと眠った。

 作戦三日目。

 午前10時過ぎ。

 朝食を終えると、僕と玉藻とイヴの三人は、イヴの瞬間移動で、元「弓聖」たち一行の立てこもるシーバム刑務所の中へと転送された。

 玉藻とふたたび合体し、「霊装毒狐ノ型」へと変身した僕は、「霊視」で刑務所内を透視した。

 「さてさて、刑務所の中を改めて確認しますか。ええっと、ヴァンパイアロードたちのいる棟は、昨日と変わらず警戒が厳重。ほぼ同じ警備体制に見える。ただ、独房の中に、ゴブリンやサキュバス、コボルト、オーク、ハーピーなんかのモンスターが大量にいるな。人型、あるいは人に近い姿のモンスターたちを捕まえて、ヴァンパイアロードたちの食料にしたようだな。うわっ、本当にゴブリンの血を飲んでいやがるぞ、連中。酒吞が見たら思わず吐き出しそうになるような光景だな。よく、ゴブリンの血なんて美味しそうに飲めるな。鷹尾の奴が催眠でもかけてごまかしているのか?腹は絶対に満たされないだろうし、催眠が解けたら、いくらヴァンパイアロードでも、手下たちも一斉に吐くに違いない。おまけに、モンスターたちが所かまわず、尿や糞をしている。絶対、刑務所の中は臭いだろうな。アーロンたちのいる西側の棟に、聖騎士の人間たちが500人くらい、捕まっている。まぁ、聖騎士たちはどうせ、アーロンたちと大差ない人間のクズばかりだろうし、放置しておこう。「白光聖騎士団」の連中が聖騎士たちを奪われまいと必死に守っているが、僕がお前らと同じ人間のクズを助けるわけないだろうが?鷹尾たちだが、鷹尾は北側の棟の所長室、下川は西側の監視塔、早水は東側の監視塔、下長飯は囚人たちのいる棟の中央、都原が同じく東の棟、乙房が同じく西の棟、妻ケ丘が「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが守る西の棟の中、にそれぞれいると。事前に盗聴器で録音しておいた内容と情報はほぼ完全に一致している。僕がモンスターたちや聖騎士たちを盗むとでも思っているのか?だとしたら、見当違いだ。イヴ、刑務所内に新たに警備システムやトラップが追加されているかい?」

 「ふむ。婿殿、ヴァンパイアロードたちのいる中央の棟の中心に、堕天使と融合した中年の男が、大きな黒い箱を持っているだろ?そして、刑務所内を小さな無数の、蝙蝠に似た機械仕掛けの魔道具が飛んでいるのが見えるか?あの小さな蝙蝠に似た魔道具たちは、特殊な超音波を発している。そして、超音波がぶつかった対象から跳ね返ってきた音波に乱れがあった場合、対象からの距離や、帰ってきた音波の波長の差異に変化があった場合、異常を検知したとして、黒い箱に知らせる警報装置のような機能を持っている。黒い箱が刑務所内に巡らされた超音波の全データを記録、管理している。そして、蝙蝠型魔道具は侵入者を検知すると、侵入者に向かって噛みつき、麻痺毒を注入して攻撃する仕組みとなっている。刑務所内にいる者たちは、自分たちのいる場所からほとんど動こうとはしていない。恐らく、超音波を使って、妾たちの侵入を察知するつもりだろう。その他に警備やトラップの類はないが、これでは迂闊に中へは入れんのではないか、婿殿よ?どうする?」

 「直前になって、そういう小細工を仕掛けてきたか。昨日のピューリファイザーとやらと言い、あんな高機能の珍しい魔道具を用意してきたのは、下長飯と融合した強欲の堕天使、グリラルドとか言う奴の仕業に違いない。姑息なところが下長飯の奴とよく似ている。でも、お前らの姑息な浅知恵なんて、僕たちには通用しないんだよ。イヴ、刑務所にわざわざ入る必要はない。刑務所の外から作戦を実行するとしよう。要領は昨日と同じだ。僕が刑務所内を透視しながら、刑務所内の各独房、各棟にそれぞれ、「幻燈幻術」をかける。各施設にトイレがある幻を出現させる。後は、イヴ、君のブラックホールでトイレを綺麗さっぱり消し去ってくれ。まさか、元「弓聖」たち一行も僕たちの狙いが、刑務所内のトイレを全部奪うことだなんて、予想すらしていないだろう。さて、それじゃあ、作戦を始めるとしようか?」

 「了解だ、婿殿。」

 僕は鉄扇を顔の前でサッと開いた。

 そして、鉄扇の先を、ヴァンパイアロードたちのいる三つの棟へと向けた。

 「幻燈幻術!」

 次の瞬間、独房内で食料のモンスターたちを自分の傍に置いて監視するヴァンパイアロードたちの目の前に、独房のトイレと部屋の景色の一部を模写した幻像が、スクリーンのように現れて、ヴァンパイアロードたちの目から、独房内のトイレを隠した。

 ヴァンパイアロードたちは独房の扉付近にいて、部屋の隅の反対側にあるトイレと、ヴァンパイアロードたちとの間にスクリーン状に発生した、トイレの幻像に全く誰も気が付かないでいる。

 「今だ、イヴ!独房のトイレを全て消し去ってしまえ!」

 「フハハハ!任せよ、婿殿!」

 イヴが笑いながら、右手の指をパチンと鳴らした。

 その直後、各独房の隅にあったトイレの真下に、イヴが超小型のブラックホールを発生させ、一瞬で各独房のトイレをブラックホールに呑み込み、消滅させてしまった。

 「霊視」で各独房内を透視して、そのことを確認した僕は、笑って喜んだ。

 「アハハハ!完璧だよ、イヴ!ヴァンパイアロードたちは自分たちの大事なトイレが奪われたことに誰も気付いていない!ただでさえ、刑務所内は、独房内はモンスターの尿や糞で汚れて、臭くてたまらんはずなのに、自分たちの排泄物まで処理できなくなったら、刑務所中が臭くてたまらんだろうな!刑務所中が糞まみれになること、間違いなしだ!この調子で、他の棟のトイレも根こそぎ、奪ってやることにしよう!」

 「ハハハ!さすが婿殿だ!刑務所からトイレを全て奪って、刑務所を汚物まみれにして元「弓聖」たち一行を苦しめる、実に最高で最悪の嫌がらせだ!嫌がらせのプロだな、婿殿は!」

 「お褒めいただき、どうも。鷹尾たち一行の内、五名は女性だ。トイレを奪われるのは男性にとっても苦痛だが、男性以上に清潔感を気にする女性にとっては、史上最悪の苦痛になるはずだ。いくら堕天使と融合した連中でも、刑務所全域をカバーできるトイレをすぐに確保することは難しいに違いない。深刻なトイレ不足と、糞まみれになった刑務所中に広がる悪臭で、連中のストレスはさらに増すことだろう。この調子でどんどんトイレを奪っていこう。」

 それから、僕とイヴは、刑務所中の全部のトイレを、元「弓聖」たち一行に気付かれることなく、全て奪い去ったのであった。

 刑務所中のトイレを全て奪い終えると、僕はイヴに訊ねた。

 「イヴ、この刑務所全体を覆っている結界の装置のある場所は分かるかい?」

 「ふむ。結界が発生しているのは、東側の監視塔の先端部分からだ。東側の監視塔から、刑務所全体を球状に覆うように、地下まで結界が張り巡らされている。監視塔の三階の部屋に、巨大な結界展開装置らしき装置が置いてあるのが見える。」

 「ありがとう、イヴ。監視塔の上には早水がいるのが見える。監視塔内部に、例の蝙蝠型の魔道具はいるかい?」

 「いや、蝙蝠型魔道具の姿はない。一応、結界展開装置の部屋の外側に、見張りのヴァンパイアロードたちが数匹、立ってはいるが。」

 「そうか。なら、結界展開装置に細工を施すとしよう。イヴ、結界を元「弓聖」たち一行も含めて、誰も結界を通過できないよう、装置の登録内容を書き換えてくれ。そしたら、結界装置に僕が封印の術式を施す。結界装置を誰にも操作できないよう、簡単に破壊できないようにするんだ。ついでに、刑務所を覆う結界にも封印を施す。そうすれば、元「弓聖」たち一行はシーバム刑務所から出られなくなる。完全に籠の中の鳥にすることができる。転移魔法を連中が使えれば、抜け出せなくはないだろうが、イヴの瞬間移動ほどの力は持っていないはずだ。悪くないアイディアだろ?」

 「フフフ。確かに悪くないアイディアだ、婿殿。結界展開装置の操作は妾に任せよ。後は、婿殿が封印の術式を上手く使いこなせれば、上出来だ。」

 「了解だよ、イヴ。君や玉藻たちに教えてもらって、封印の術式は練習してきた。装置も結界も、全て完璧に封印してみせる。見ていてくれ。」

 僕とイヴは、イヴの瞬間移動で、刑務所東側の監視塔の三階の、結界展開装置のある部屋へとやって来た。

 部屋の中へ転送されると、イギリスにある世界最古のコンピューターと呼ばれる、ハーウェル・コンピュータによく似た、高さ2mほどの巨大な金属製の装置が、僕たち二人の前に現れた。

 「これがクリスの設計した、シーバム刑務所を守る結界展開装置か。世界最強最悪の刑務所を守るためとあって、とにかく複雑そうで大きい。イヴ、結構複雑そうだが、イケそうかい?」

 「問題ない、婿殿。一見、巨大で複雑な構造をしているように見えるが、結界を展開できる魔道具の基本原理と仕組みは大きく変わらない。登録内容の変更操作など、すぐにやってみせよう。」

 イヴはそう言うと、千里眼でじっくりと結界展開装置を解析した後、装置のスイッチやレバーを動かし始めた。

 5分後、イヴが僕の方を振り返りながら言った。

 「婿殿、結界展開装置の登録内容の変更完了だ。装置に登録してあった内容は全て消去し、誰も結界を通過できないよう、登録内容を変更した。これで、元「弓聖」たち一行やヴァンパイアロードたちは、自由に結界を出入りできなくなったはずだ。」

 「ありがとう、イヴ。では、ここからは僕の出番だ。練習の成果を披露するとしよう。」

 僕は結界展開装置へと近づいた。

 両手を胸の前で合わせ、霊能力を解放し、青白い霊能力のエネルギーを両手に纏った。

 僕は霊能力のエネルギーを纏った両手で、結界展開装置に触れた。

 「霊魂封印!」

 僕が結界展開装置に両手で触れていると、青白い光を放つ霊能力のエネルギーが結界展開装置の表面を覆いつくした。

 それから、結界展開装置を覆う光が消えると同時に、カチャンという、鍵を閉めたような音が聞こえた。

 結界展開装置に封印の術式を施した僕は、イヴに訊ねた。

 「どうかな、イヴ?結界展開装置の封印は上手くできてるかい?」

 「問題ない、婿殿。妾たちの教えた通り、封印はできている。元々、婿殿のレイノウリョクには、封印の力の性質も持ち合わせていたと聞いている。結界展開装置程度の封印くらい、すぐにできて当然だったと言えよう。婿殿の施した結界は堕天使たちでも破ることは不可能だ。結界展開装置の操作も破壊も、連中にはできなくなった。ただ、鑑定すれば、封印の術式が施されていることはすぐに見破られてしまう。封印に、認識阻害幻術を施しておけば、気付かれないはずだ。」

 「ありがとう、イヴ。なら、封印の術式、封印に使っているエネルギーに、認識阻害幻術を施せば大丈夫だろう。」

 僕は結界展開装置にかけた封印の術式に、認識阻害幻術を施し、封印の術式を隠した。

 「念のため、この監視塔全体にも、封印の術式を施すことにしよう。監視塔そのものを破壊して、結界展開装置を無効化しようと、鷹尾たちが考えるかもしれない。イヴ、一度監視塔のすぐ外へ転送してくれるかい?」

 「了解だ、婿殿。」

 僕とイヴは、瞬間移動で一度、監視塔の外へと出た。

 監視塔の外壁に近づくと、僕はふたたび両手を胸に合わせ、両手に霊能力を纏った。

 封印の術式のエネルギーを両手に纏いながら、エネルギーに認識阻害幻術を施した。

 僕は、認識阻害幻術を施した封印の術式のエネルギーを両手に纏いながら、両手で監視塔の外壁に触れた。

 「霊魂封印!」

 直後、封印の術式が、東側の監視塔の建物全体を覆い、壁や床、天井は封印で傷一つ付けられないよう、封印され、保護された。

 監視塔の出入り口や各部屋の扉、窓は封印で完全に閉じられ、内側からも外側からも開かなくなった。

 監視塔の最上階の見張り台にいる早水や、監視塔内にいる手下のヴァンパイアロードたちは、僕が監視塔に封印の術式を施したことに、全く気が付いていない。

 「監視役の癖に、自分のいる監視塔が封印されたことに全く気付かないとは、早水も、早水と融合したグラトラルドとか言う堕天使も、大したことはないな。まぁ、最上階の窓は、窓ガラスが付いているわけじゃなく、穴が空いている構造だから、飛んですぐに監視塔から出られるだろうけど。さて、お次は結界だ。」

 僕は体全体に銀色の霊能力のエネルギーを纏うと、「天行空」で、刑務所を覆う結界の天井部分まで飛んだ。

 結界の天井部分まで近づくと、先ほどと同じ要領で、認識阻害幻術を施した封印の術式のエネルギーを両手に纏うと、両手で結界の天井部分へと触れた。

 結界の天井部分に触れると、封印の術式のエネルギーが結界全体に流れ、刑務所を覆う結界に封印の術式がかけられ、結界は封印された。

 シーバム刑務所全体を覆う結界は、内側からも外側からも、誰一人通ることもできず、また、破壊することもできなくなった。

 僕は結界の封印を終えると、イヴの傍へと着陸した。

 「これで結界の封印まで完了した。もう、鷹尾たちはシーバム刑務所から出ることは、ほぼ不可能だ。何かしら、瞬間移動できる方法があれば、抜け出せる可能性は否定できないけど。でも、連中の動きの封じ込めに大きく繋がるはずだ。協力ありがとう、イヴ。」

 「お疲れ様だ、婿殿。婿殿の封印は完璧だ。今の調子なら、堕天使どもの封印もきっとできることだろう。それで、最後の仕上げはどうする?」

 「ああっ、もちろん、いつも通りやるさ。ちょっと趣向を変えてね。」

 僕は着物の懐から、アイテムポーチを取り出した。

 それから、アイテムポーチの中にあるドッペルゲンガーマスクと、キバタンの入ったケージ、それと、強力接着剤を取り出した。

 僕は鉄扇を右手に持ちながら、イヴに指示した。

 「イヴ、監視塔の中にいるヴァンパイアロードを一匹、この場に転送してくれ。すぐに眠らせるから。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕たちの目の前に、監視塔内にいたヴァンパイアロードが転送されてきた。

 「なっ!?」

 僕は素早く、ヴァンパイアロードの首筋に向かって、眠り薬の効果がある金色の毒針を飛ばして打ち込んだ。

 それから、間髪入れずに、ヴァンパイアロードに認識阻害幻術をかけた。

 僕に毒針を打ち込まれたヴァンパイアロードはその場で倒れて眠り込んだ。

 ヴァンパイアロードの体は、認識阻害幻術を施されているため、僕たち以外には全く視えない。

 監視塔の最上階から身を乗り出して、早水が監視塔の下を覗き込んでいるが、真下にいる僕たちやヴァンパイアロードを発見できず、首を傾げている。

 鉄扇に霊能力のエネルギーを流し込み、黒いナイフへと変形させると、僕は眠っているヴァンパイアロードの右の手の平をナイフで斬り裂いた。

 ヴァンパイアロードの右手をドッペルゲンガーマスクに押し付け、ヴァンパイアロードの血を、ドッペルゲンガーマスクの表面に塗りたくった。

 僕はドッペルゲンガーマスクを頭から被った。

 僕の顔が、ドッペルゲンガーマスクが、眠っているァンパイアロードそっくりに変化する。

 「どうだい、イヴ?顔も声も、ヴァンパイアロードそっくりだろ?」

 「うむ。変身はばっちりだぞ、婿殿。」

 僕は確認を終えると、ドッペルゲンガーマスクを脱いだ。

 ヴァンパイアロードの頭にナイフを突き刺して殺害すると、死体をアイテムポーチの中へ収納した。

 それから、キバタンの入ったケージの底に、超強力接着剤をたっぷりと塗りまくった。

 僕は口元にニヤリと笑みを浮かべながら、イヴに向かって言った。

 「イヴ、ドッペルゲンガーマスクとキバタンの転送を頼む。ただし、下長飯の持つ、蝙蝠型魔道具を操作する黒い箱と、キバタンの入ったケージを交換だ。何が起こるか、君にももう、分かるだろ?」

 僕の問いに、イヴが笑いながら答えた。

 「了解だ、婿殿。本当にいつも愉快でえげつないことを思いつくな、婿殿は。では、始めるとしよう。」

 イヴが笑いながら、右手の指をパチンと鳴らした。

 直後、僕の両手にあったドッペルゲンガーマスクと、キバタンの入ったケージが消え、代わりに、下長飯が持っていた蝙蝠型魔道具を操作する黒い大きな箱が、僕の両手の上に現れた。

 僕は箱が現れたと同時に、キバタンの入ったケージに施していた認識阻害幻術を解除した。

 それから10秒ほどして、下長飯がいる、ヴァンパイアロードたちの暮らす独房がある中央の棟から、「タカオ スズカ、クソガダイスキ!タカオ スズカ、クソガダイスキ!タカオ スズカ、クソガダイスキ!~」という、キバタンの嫌がらせのメッセージを何度も繰り返す大きな鳴き声が、刑務所中に響き渡るように聞こえてきた。

 それと、同時に、「ギャアーーー!?」という、下長飯の悲痛な叫び声が、東側の監視塔の傍にいる僕たちの耳にまで聞こえてきた。

 下長飯の身に一体、何が起こったのか?

 答えは簡単で、下長飯の両手に、底にたっぷりと強力接着剤を塗りつけたキバタンの入ったケージがくっつき、同時に、超音波で侵入者を探知、攻撃する蝙蝠型魔道具たちが、下長飯の両手に貼り付いたケージの中にいるキバタンの存在を察知。

 キバタンを侵入者と誤認した蝙蝠型魔道具たちが、両手が塞がっている下長飯に一斉にキバタンごと、攻撃を仕掛けたというわけである。

 全身を大量の蝙蝠型魔道具に噛み付かれ、おまけに痺れ毒を注入され、下長飯は激痛を味わいながら、その場で体が痺れて倒れて動けなくなってしまったわけだ。

 蝙蝠型魔道具のコントロール装置である黒い箱は、僕が持っている。

 おまけに、両手はキバタンのケージで塞がれ、毒で体が痺れて、自分に噛み付く大量の蝙蝠型魔道具たちを自分で引き剥がすことができない。

 大量の蝙蝠型魔道具たちに噛み付かれ、激痛と痺れ毒のために、床に倒れて白目を剥いて気絶している下長飯の無様な姿を、独房のある棟を透視しながら、僕は笑いながら見ていた。

 「はっ、ハハハ!最高だ!自分が操っていた警備用の大量の蝙蝠型魔道具に、逆に侵入者扱いされて襲われるとは、傑作だな、おい!茶地な魔道具で、姑息な手段でこの僕を罠に嵌めてどうにかしようなんて、そんな甘いことを考えているから、痛い目に遭うんだよ、クソ教師!数学の教師の癖して、現実の物事への計算能力が足りてないんだよ!強欲の堕天使、お前のご自慢の魔道具なんて、僕には通用しないことが少しは分かったか?僕たち「アウトサイダーズ」とやりあうつもりなら、もっとまともな魔道具を用意してから挑んでこい!お前も鷹尾も、お仲間たちも、僕たち「アウトサイダーズ」を舐め過ぎだ!敵の戦力分析が全くできていない証拠だ!まぁ、僕たちの実際の戦力を知ったら、戦う気は一気に失せるかもしれないが!ああっ、あのクソ教師の無様な姿が見れて、ちょっと胸がスカっとしたよ!」

 「プハハハ!いやぁ~、実に面白い見世物だったぞ、婿殿!自分の操る魔道具に逆に自ら襲われ、気絶させられるとは、あの中年男も、堕天使も思ってもいないことだっただろう!自分の魔道具を敵に利用されて攻撃される、おまけに魔道具は制御できず、両手は防がれ、狭い刑務所の中で逃げることもできず、全身を大量の蝙蝠型魔道具に噛み付かれ、痺れ毒を食らって、激痛とショックのあまり、手下たちの前で無様に気絶する醜態を晒すハメになった!婿殿の嫌がらせ、いや、復讐のえげつなさは、いつも見ていて惚れ惚れする!皆にも話したら、大爆笑間違いなしだぞ、きっと!」

 「アハハハ!そうだな、イヴ!こりゃ、みんなにも絶対にウケる!昼食の時の話のタネが一つできたぞ!絶対に昼食が二倍、上手くなること間違いなしだ!それじゃあ、大使館へ一緒に帰るとしよう!」

 僕とイヴは笑いながら、首都のラトナ公国大使館へと瞬間移動で帰った。

 ちなみに、大量の蝙蝠型魔道具を操作する黒い箱の魔道具は、イヴが興味があると言うので、イヴへとあげた。

 玉藻との合体を終えると、僕はみんなを集めて、大使館の一室で一緒に昼食を食べた。

 刑務所内全てのトイレを奪ったことや、刑務所全体を覆う結界に封印を施し、刑務所内に元「弓聖」たち一行を閉じ込めたこと、それと、大量の蝙蝠型魔道具たちを逆に利用し、下長飯を襲わせたことを、みんなに話した。

 大量の蝙蝠型魔道具たちを僕に逆に利用され、下長飯の奴が大量の蝙蝠型魔道具たちに襲われて返り討ちにあった話は、イヴや玉藻以外のメンバーにもウケた。

 昼食を食べ終えると、僕はキバタンのお世話をしながら、受信機から聞こえてくる元「弓聖」たち一行の声を盗聴し、連中の行動を探っていた。

 午後4時30分頃のこと。

 盗聴器の一台を持ったマリアンヌとメルが、キバタンのお世話をしている僕のいる部屋へとやって来た。

 「ジョー様、緊急のご報告がございます。元「弓聖」たち一行の会話を盗聴していたところ、元「弓聖」たち一行が、刑務所の医務室にて密談を行っていることを確認しました。密談の内容ですが、結界の外へと出られないことを知り、結界の外へと出る作戦を話し合っておりました。転移魔法を可能とする魔道具を持っているそうですが、7人までしか移動できない人数制限があり、膨大な魔力を注いで使用し、消費するため、すぐには使えないそうです。ジョー様によって刑務所内のトイレを全て奪われたため、自分たちやヴァンパイアロードたちの出す排泄物の処理に困っているようです。そこで、「暗殺者」のジョブを持つ元囚人のヴァンパイアロードたちを強化改造し、水道管から刑務所の外へ放出する作戦を考えついたようです。何でも、ヴァンパイアロードカスタムスライムという、スライムのように液状になれるヴァンパイアロードへと改造し、5,000匹のヴァンパイアロードたちを水道管から水に混ぜ込んで逆流させ、刑務所の外へと送り出す作戦を計画している、とのことです。結界に封印が施されていることを察知し、スライム化したヴァンパイアロードたちを大量の水と混ぜて流せば、結界に引っかかることなく、刑務所の外へと無事に送れる、そう考え付いたようです。すでにオトボウ氏、嫉妬の堕天使エビーラルドが、タカオ氏の指示を受けて、医務室にてヴァンパイアロードたちの改造手術を行い始めました。尚、本日午後7時に、ヴァンパイアロードカスタムスライムたちを水道管から外へ流すとのことだそうです。ヴァンパイアロードたちは外に出た後、近くの町からトイレを盗み、分解したトイレを体内に取り込み、刑務所内へと持ち帰る計画を実行する予定とのことです。報告は以上になります。」

 「悪い人たち、みんなすっごくイライラしていたの~。お外に穴を掘って、ウ〇コしなきゃいけないって、臭い臭いって、言ってた、なの。女の人たち、すっごい恥ずかしいって、言って怒っていた、なの。」

 「マリアンヌ、メル、報告をありがとう。スライム化するヴァンパイアロードたちを水に混ぜて流して、結界に引っかからないよう外へ放つか。それが本当に可能なら、少々面倒なことになるな。せっかく結界の中に閉じ込めたのに、アイツらがスライム化して自由にまた、刑務所の外へ行き来できるようになったら、調子に乗って暴れ出すに決まっている。医務室で計画を話し合っていた、ということは僕たちの盗聴に気付き始めたか?まぁ、盗聴器はいつでも仕掛ける場所を変えられるし、連中に盗聴を防ぐ手段はほとんどないけど。刑務所内の女性たちは外で尻をまる出しにして、肥溜めにクソをしなきゃいけない、なんて恥辱以外の何物でもないだろうな。スカトロ趣味の変態男どもに見られたら、それこそ自殺したくなるか、変態男どもと殺し合いになるか、いずれにしても最悪な結末しか待っていない。刑務所内はモンスターたちの糞や尿でそこら中、汚れてすでに悪臭が充満しているし。正にシーバム刑務所は肥溜め、いや、糞地獄だな。さて、一応、連中の悪足掻きを邪魔しに行くとしよう。クソ以下の犯罪者どもにトイレなんて贅沢すぎる。肥溜めで十分だ。連中にはとことん、糞まみれになってもらわなきゃな。クックック、とっておきの嫌がらせを奴らにお見舞いしてやろう。」

 「あっ、パパが笑ったなの!パパのポーカーフェイス、なの!」

 「メル、これはね、悪い奴へのお仕置きが思いついて、面白くて笑っているだけなんだよ。ポーカーフェイスの笑顔はね、調子に乗っている悪い敵の前で見せる必殺技だから。敵がいなくちゃ、ポーカーフェイスにはならないんだ。よく覚えておくように。」

 「は~い、なの、パパ!メル、ちゃんと覚えましたなの!」

 僕は笑いながら、メルにポーカーフェイスの笑顔について、改めて教えた。

 「前にもこんなことがありましたね。メルさんへの過激な教育は控えるべきだと話したはずですが、多分無駄なのでしょう。無垢な5歳児の子供にポーカーフェイスや爆弾を教え込み、悪だくみする姿を当たり前のように見せつける、このような破天荒な方が、女神様に選ばれた真の勇者で、幼い子どもの父親とは、とても信じがたい気分です。最近のリリア様のお考えには私にも分かりかねるところがあります。確かに、実力はあるのですが、どうもジョー様は勇者としては大分、捻くれていて過激すぎると言いますか、やり過ぎると言いますか。勇者に求められる素質が変わってきた、ということでしょうか?メルさんが将来、ジョー様のようになるかもしれないと、少々不安にもなってきました。」

 主人公とメルの姿を見ながら、疑問と不安を口にし、一人悩むマリアンヌであった。

 午後6時00分。

 僕とイヴの二人はふたたび、瞬間移動でシーバム刑務所へとやって来た。

 僕は「霊視」で刑務所内を透視しながら、イヴに言った。

 「イヴ、先に話した通り、元「弓聖」たち一行は水道管から、スライム化できるヴァンパイアロードたちを水に混ぜて逆流させ、結界を通過させ、シーバム刑務所の外へと送り出す計画らしい。ヴァンパイアロードカスタムスライムが通用しないことを、連中にはっきりと教え込んでやる必要がある。刑務所の水道管、上水道管を通して逆流させて外へ送ることはほぼ確実だ。僕たちの裏をかくためとはいえ、下水道管から直接送ることは絶対にないはずだ。ヴァンパイアロードたちが汚物まみれで帰ってくることになるから、生理的に受け付けない連中は、下水道管は間違いなく使わない。上水道管の行き着く先を見つけ、ヴァンパイアロードたちより先回りして、一気に殲滅する。協力を頼むよ、イヴ。」

 「任せよ、婿殿。排水管は相当な長さだが、行き着く先がどこかを探し当てるのは、そう難しくはない。全く、元「弓聖」たち一行も堕天使たちもあれこれ、悪だくみを思いつくものだ。面倒で厄介な奴らだ、本当に。」

 「その通りだな。さて、5,000匹のスライム化したヴァンパイアロードたちを水に混ぜて、水道管へと水に混ぜ込んで逆流させて外に送る、となると、大掛かりな準備が必要だ。おっ、連中がグラウンドの地下を掘って、地下の排水管に、地上から馬鹿みたいに太くて長い管を接続させようとしている。グラウンドの作業用の穴の横に、別の大きな穴がある。穴の中には緑色のスライム化したヴァンパイアロードたちと混ぜられた、大量の水が入っている。下長飯の奴が、小型の消防ポンプみたいな魔道具の傍にいるな。次から次に、僕たちに通用しないと分かっていながら、懲りずに魔道具を使って対抗しようと考えるとは、学習しない奴らだなぁ。下川が先端のホースを持って、鷹尾がヴァンパイアロードたちの混ざった水の中に突っ込んだホースの後端を押さえている。七人総出で、何としてもトイレをヴァンパイアロードたちに奪ってこさせるつもりで必死になっているな。おかげで、排水管の位置が特定できたよ。無駄な努力、ご苦労さん。イヴ、連中が接続作業をしている排水管の行き先を追うことにしよう。」

 「フフっ、了解だ、婿殿。」

 僕とイヴは、排水管の行き先を透視しながら、排水管の行き先を追った。

 排水管の行き先を追っていると、イヴが僕にとある場所を指で指し示しながら言った。

 「婿殿、山の中腹にタンクのような施設があるのが見えるか?アレは恐らく、配水池のようなものだ。つまり、あの配水池からシーバム刑務所の排水管は繋がっていて、あの配水池に貯めてある水を、シーバム刑務所の連中は利用している。排水管を逆流させて、スライム化したヴァンパイアロードたちの混ざった大量の逆流水が、あの配水池へと一度、混ざることになる。配水池からは、シーバム刑務所以外にも、ゾイサイト聖教国の各地へと水が送られるように他の排水管が伸びている。家の蛇口をひねって水を出したら、水と一緒にスライム化したヴァンパイアロードたちが出てきた、何て言うパニックが起こりかねない。あの配水池と、シーバム刑務所を繋ぐ排水管を切断しておかねば、大変なことになるぞ。」

 「それは非常に不味いな。なら、排水管を即、切断するとしよう。」

 僕はイヴに言われ、配水池とシーバム刑務所を繋ぐ排水管を切断することに決めた。

 排水管は地下3m付近を通り、配水池のタンクへと繋がっている。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから、如意棒を取り出した。

 如意棒に霊能力のエネルギーを流し込み、僕は如意棒を長さ5メートル、直径2mの、先端が尖った、黒く巨大な太い杭へと変形させた。

 僕は巨大な黒い杭を両手で抱えながら、鬼の怪力の効果を持つ、赤い霊能力のエネルギーを解放し、全身に纏った。

 全身の筋肉が隆起し、黒い杭を持つ両手に力がみなぎる。

 「鬼拳!」

 僕は両手で巨大な黒い杭を持ち上げると、地下の排水管目がけて、勢いよく杭を地面に振り下ろした。

 「セイっ!」

 振り下ろされた巨大な黒い杭は、地面を一気に貫き、鋭く尖った杭の先端は、地下を通る排水管を貫通し、配水池との接続を断ち切った。

 「イヴ、配水池から水が漏れている!石でも岩でも何でも良い!転送して、水漏れを防いでくれ!」

 「任せよ、婿殿!」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、配水池のタンクから伸びていた管の中に、水漏れを防ぐように、大量の岩と石がびっしりと敷き詰められた。

 「これで水漏れの問題はないはずだ、婿殿。」

 「ありがとう、イヴ。本当に助かったよ。飲み水が僕たちのせいで無くなったりしたら、ごく少数だけど、善良なゾイサイト聖教国の人たちの生活が困ることになる。本当にありがとう。鷹尾たちめ、本当に碌でもないことばかり思いつきやがって。今に見ていろ。」

 僕は、元「弓聖」たち一行が、シーバム刑務所から、ヴァンパイアロードカスタムスライムたちを混ぜた大量の水を逆流させて排水管から外へと送り込んでくるのを、イヴとともに待った。

 午後7時過ぎ。

 地面から2mほど突き出ている巨大な黒い杭に右手で触れながら、僕はヴァンパイアロードカスタムスライムたちを混ぜた大量の水が逆流して、排水管の先端に突き刺さって栓をしている杭へと到達するのを待っていた。

 「婿殿、大量の水が逆流してこちらに向かってくるぞ!準備は良いか?」

 「問題ないよ、イヴ!連中を仕留める準備は万端だ!」

 イヴに言われ、地下を透視しながら、ヴァンパイアロードカスタムスライムたちを混ぜた大量の逆流水が、僕が右手で触れている巨大な黒い杭にぶつかるのを待った。

 20秒後、ヴァンパイアロードカスタムスライムたちを混ぜた大量の水が排水管の中を逆流しながら、排水管に先端より突き刺さって栓をしている巨大な黒い杭へと勢いよくぶつかり、急に止まった。

 「食らえ、クソ吸血鬼ども!霊呪拳!」

 僕は、右手に死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーを解放して纏うと、黒い霊能力のエネルギーを、巨大な黒い杭へと注ぎ込んだ。

 巨大な黒い杭にぶつかって止まり、大量の逆流水に混じり込んでいた、5,000匹のヴァンパイアロードカスタムスライムたちは、巨大な黒い杭から流れてくる黒い霊能力のエネルギーに触れて汚染され、即死の呪いを食らって、呪い殺された。

 ヴァンパイアロードカスタムスライムたちが排水管の中で呪い殺され、全滅したのを確認した僕は、巨大な黒い杭へと変形していた如意棒を元に戻すと、ジャケットの胸ポケットへとしまった。

 「ヴァンパイアロードカスタムスライムたちは一匹残らず、呪い殺した。これで、鷹尾たちは外からトイレを確保することができなくなった。ヴァンパイアロードカスタムスライムが、僕たちには全く通用しない事実を突きつけられることになった。おまけに、水道管は切断され、外部から水を補給することができなくなった。連中は飲み水や生活用水まで失い、深刻な水不足に陥る事態になった。完全に作戦が裏目に出た。連中自ら墓穴を掘ったわけだ。鷹尾たち幹部陣への部下たちからの不満が高まることになるだろうな。例え、催眠で精神を完全に支配していても、水を求める本能までは支配できまい。鷹尾、傲慢の堕天使プララルド、お前たちの「完全支配」による支配に、綻びが生まれるのは時間の問題だぞ。」

 「お疲れ様だ、婿殿。連中は飲み水や体を洗う水さえ失った。プフっ、糞で汚れた自分の尻を洗う水まで失い、刑務所中は今や糞まみれで、肥溜めの中にいるのも同然だ。今日からは糞にまみれて、四六時中糞の臭いを嗅ぎながら、刑務所に閉じ込められ、生活することになるとは、実に滑稽で気の毒な連中だ。いや、妾は別に連中に憐みは一切、持ってはいないがな。」

 「こちらこそ、お疲れ様、イヴ。イヴのサポートのおかげあってこそだよ。さすがは闇の女神様、頼りになるよ。作戦は大成功だ。パーティーのみんなも聞いたら、きっとまた、大爆笑間違いなしだ。ただ、これから刑務所に潜入する時は、悪臭でこちらも少し困ることになるかも。悪臭対策も考えておくことにしよう。それじゃあ、大使館へ一緒に帰るとしよう。」

 作戦を終え、僕とイヴは、イヴの瞬間移動で首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 その後、他のパーティーメンバーたちと合流すると、一緒に夕食を食べながら、ヴァンパイアロードカスタムスライムたちの討伐作戦が成功したことを報告した。

 元「弓聖」たち一行が生活用水まで失い、深刻な水不足に陥り、糞まみれの体や刑務所を洗うこともできなくなったと知り、食事中に少々下品ではあったが、皆、笑いを堪えられずにいた。

 夕食を終え、風呂で体を洗うと、盗聴の録音作業をしながら、僕は自室のベッドに寝転がった。

 「下長飯、グリラルド、お前たちの魔道具も能力も全く役に立たないと、無能扱いされて、仲間たちや部下たちから顰蹙を買って困っていることだろうな。鷹尾、プララルド、お前たちもリーダーでありながら、失策続きで、求心力が低下し始めて、内心焦り出したことだろう。刑務所中、糞まみれにされ、深刻な水不足にまで追い込まれた。刑務所の女性陣たちは怒り心頭だし、お前への不平不満が募り出しているだろうな。でも、ボナコンの糞に比べたら、大したことはないはずだ。糞尿まみれの獄中生活を存分に楽しむがいい、クソ犯罪者ども。」

 僕は笑みを浮かべながら、呟いた。

 作戦四日目。

 午前11時。

 僕は今朝、グレイにとあるお遣いを頼むと、キバタンのお世話と刑務所の盗聴をしながら、グレイがお遣いから帰ってくるのを待っていた。

 10分ほどして、グレイがとあるアイテムを持って、僕のいる部屋へとやって来た。

 「お帰り、グレイ。頼んでいたアイテムは見つかったかい?」

 僕の問いに、グレイが答えた。

 「ただいま、ジョー。お探しの品物だが、ブラックマーケットにあったぜ。ほら、これがお手軽に透視のできるアイテムじゃんよ。」

 グレイは僕に、長さ6㎝、幅3㎝ほどの黒い単眼鏡のような魔道具を渡してきた。

 僕は黒い小さな単眼鏡のような魔道具を受け取ると、グレイに訊ねた。

 「ありがとう、グレイ。この魔道具の説明を頼めるかな?」

 「ソイツはスリラーアイって呼ばれる、ブラックマーケットの雑貨屋で売られている、透視のできるアイテムだ。先に透視ができる魔法のレンズが付いていて、分厚い金属製の金庫の中も、コイツを使えば簡単に透視して覗くことができるらしい。普通の望遠鏡のようにも使えて、200m先まで視ることもできるそうだ。先にしぼりが付いていて、ソイツで視界や透視するモノの厚さを、自由に調節できるらしい。闇ギルドの殺し屋どもに泥棒、後、覗き魔どもなんかがよく買って行くそうだ。値段は30万リリア。しっかし、ジョー、こんなモン盗んで、どうする気だ?アタシには趣味の悪い、覗きのアイテムにしか見えねえが?」

 「説明をありがとう、グレイ。正に今日の作戦に打ってつけのアイテムだよ。スリラーアイか。さすがは闇ギルドが仕切る、ブラックマーケットならではの犯罪者向けアイテムだな。覗き魔の変態どもが喜ぶ違法なアイテムをとり扱っているかもしれない、そう思ったが、推測通りだ。コイツの使い道はすでに決まっている。イヴに頼んで、このスリラーアイを大量に複製してもらう。そして、大量にコピーしたスリラーアイを、刑務所の男の囚人たちにばらまく。スリラーアイを渡された刑務所の男たちは、日頃抑えられていた性的欲求不満が一気に解放され、刑務所の建物の外でトイレや風呂を済ませている刑務所の女性たちを、スリラーアイで覗こうとする。男たちの覗きがバレたら、刑務所内の男たちと女たちの間で仲間割れを起こすほどの喧嘩が起きて刑務所は大パニックになる、と、こういう作戦を計画しているわけさ。」

 僕は口元に笑みを浮かべながら、グレイにスリラーアイを使った攪乱作戦について説明した。

 「なるほどねぇ。刑務所の男たちを覗き魔の変態に変えて、男たちの覗きに気づいた刑務所の女たちと仲違いさせるか。相変わらず悪知恵が働くなぁ、ジョーはよ。元囚人の覗き魔を許そうと思う女なんて、早々いねえからな。殺し合いになるかもしれねえじゃんよ。こりゃ、盗聴するのが楽しみになってきたじゃん。」

 「グレイ、イヴをこの部屋に呼んできてくれないかい?スリラーアイの複製を頼む必要がある。」

 「おっし。ちょっと待ってな、ジョー。」

 グレイが一度部屋を出て、イヴを呼びに行くと、2分ほどして、イヴがグレイとともに僕の部屋へ一緒にやって来た。

 「お疲れ様だ、婿殿。スリラーアイなる魔道具を妾に複製してほしい、とグレイから聞いたが?」

 「お疲れ様、イヴ。その通りだよ。覗き用の違法アイテムであるこのスリラーアイを解析して、1万個ほど複製してほしい。できれば、今日の午後1時までに何とか、1万個のスリラーアイの複製を作ってほしい。急な相談で申し訳ないんだが、頼んでもいいかな?」

 僕は手元にあるスリラーアイを渡すと、イヴにスリラーアイの複製を頼んだ。

 「ふむ。レンズ自体に高度な透視の魔法が仕込まれ、このしぼりで透視できる範囲を調節する仕組みか。後は、通常の望遠鏡と機能は差して変わらない。材質は決して特殊なモノを使用しているわけではない。午後2時まで時間をもらえないだろうか?時間をもらえれば、完璧なスリラーアイの複製1万個を作って婿殿に渡すことを約束しよう。どうだろうか、婿殿?」

 「ありがとう、イヴ!急なお願いで本当に済まない!2時までに何とか、スリラーアイの複製1万個の用意を頼む!大量のスリラーアイの複製を刑務所の男どもにバラまけば、男たちは全員、覗き魔になって、刑務所の女性たちを覗く!覗きがバレたら、男女間で揉めること間違いなしだ!力を貸してくれ、闇の女神様!」

 「プっ、プハハハ!なるほど、そんな作戦を考えていたのか、婿殿!刑務所の男どもに覗き魔のレッテルを貼り、刑務所の女たちと仲違いさせようというわけだな!また一つ、面白い嫌がらせを考え付いたな!ならば、妾も全力で力を貸そう!2時までに必ず、完璧なスリラーアイの複製を1万個作ってみせよう!妾に任せるがいい、婿殿!」

 「本当にありがとう、イヴ!複製の作成、よろしく頼むよ!」

 僕はイヴにスリラーアイの複製の大量生産を依頼することに成功すると、これから行う予定の第四作戦が僕の望む通りに進行することを願った。

 午後2時。

 僕、酒吞、イヴ、スロウの四人は、ラトナ公国大使館のエントランスホールへと集合した。

 「イヴ、頼んでおいたスリラーアイの複製1万個、出来たかい?」

 「もちろんだとも、婿殿。天才にして女神である妾にかかれば、あの程度の魔道具を大量に複製するなど、容易いことだ。時間通り、完璧な複製を1万個、用意したぞ。受け取るがいい、婿殿。」

 イヴが自信満々な表情を浮かべながら、僕に向かって言った。

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕の目の前に、イヴが複製した1万個のスリラーアイが現れた。

 僕は、スリラーアイの複製品を手に取り、大使館の壁に向けて、スリラーアイの複製品を使ってみた。

 「おおっ、確かに壁の向こうが透けて視える!大使館の周りの建物や、周りを歩いている人たちの姿が壁越しに視える!本物のスリラーアイと全く同じ性能だ!ありがとう、イヴ!」

 「喜んでもらえて何よりだ、婿殿!」

 「凄いよ、ジョーちん!壁の向こうのホテルでHしているカップルが丸見えだよ!マジ、スゲぇっしょ!」

 「大事なアイテムで勝手に遊ぶんじゃない、スロウ!お前に覗きをさせるために用意したんじゃない!お前が連中より先に悪用してどうする?ゾーイだって絶対、怒って注意しているだろ?大事な作戦前にふざけるんじゃない、まったく!」

 僕は、勝手にスリラーアイの複製を持って、覗きを行ったスロウから、複製を奪い取り、スロウに注意した。

 「ちょっと使っただけじゃん。ジョーちん、何もそんなにムキになんなくてもいいじゃん。ジョーちんはホント、真面目だねぇ~。」

 「お前が本当に覗きなんてしなければ怒らないよ、僕だって。女の子なんだから、覗きなんてするなよ。ゾーイまで下品な女の子だと思われかねないから止めろよ、本当。」

 「丈、コイツは元々、頭がちゃらんぽらんで下品なビッチだから、言ってもあまり意味ねぇと思うぞ。どうせ、また考えなしに下品なことをするに決まってる。」

 「酒吞の言う通りだ、婿殿。この堕天使の小娘は元々、品がない。深く考えもせず、平気で皆の前でお下劣極まりないことをまたしでかすに決まっている。婿殿もこの変態の小娘に襲われぬよう、注意した方が良いぞ。」

 酒吞、イヴが顔を顰めながら、スロウがまた、下品なことをすると僕に言った。

 「ウチは下品でもビッチでもねえから!変態でもねえし、ジョーちんを襲ったりなんかしねえから!ウチは本当は上品なレディーだから!ウチのエレガントさでジョーちんを絶対に堕としてみせるっしょ!今に吠え面をかかせてやるっしょ!」

 スロウが、酒吞とイヴに反論した。

 「スロウ、お前の言いたいことはよく分かったから。とにかく、落ち着け。さて、これより第四作戦について説明する。まず、刑務所へ移動後、刑務所内の警備体制について目視で再チェックを行う。その後、元囚人のヴァンパイアロードたちのいる棟へ潜入する。四人で一緒に、僕と背格好のよく似たヴァンパイアロードの独房の一つへと潜入する。潜入後、スロウが独房内の時間を止める。その間に独房内のヴァンパイアロードを殺害し、僕はヴァンパイアロードに変装する。他の三人は刑務所の外でしばらく待機してくれ。そして、僕は刑務所内を回って、刑務所内の男たちに用意したスリラーアイの複製品を渡して回る。脱獄計画に協力する報酬だとか口実を言ってね。僕が1万個のスリラーアイの複製を刑務所の男たちに配り終えたら、イヴ、僕を瞬間移動で刑務所の外へ転送してくれ。僕が外に出たのを合図に、酒吞、刑務所の塀を木っ端微塵に全てぶち壊してくれ。昼間だし、ヴァンパイアロードたちも刑務所内に引きこもっているから、鷹尾たち以外に邪魔してくる奴もいないだろう。尚、敵の警備体制に応じて作戦の内容を変更することもあるのを忘れないでくれ。作戦は以上だ。」

 「了解だ、丈。」

 「了解した、婿殿。」

 「OK、ジョーちん。」

 「では、シーバム刑務所に向けて出発だ!」

 スリラーアイの複製をアイテムポーチに収めると、僕たちはイヴの瞬間移動で、大使館からシーバム刑務所へと転送された。

 僕は「霊視」で刑務所内を透視した。

 「ええっと、刑務所のグラウンドに、下長飯の奴がいる。例の水を出す小型ポンプみたいな魔道具の傍にいるな。グラウンドに刑務所から二手に分かれて、布で覆われた空間が二つある。ああっ、男子用と女子用の肥溜めか。下長飯の奴は生活用水の管理役か。あの小型ポンプがないと、連中は水不足で本当に死ぬことになるかもだしな。おまけに、全身糞まみれで生活しなくちゃいけなくなる。獄中生活も大変だなぁ。ヴァンパイアロードたちのいる三つの棟だが、中央の棟に乙房、右の棟に都原、左の棟に下川がいるな。西の監視塔の上に早水、東の監視塔の上に妻ケ丘がいる。鷹尾は、刑務所の東側の敷地内を歩いている。所長室を出て、ついにボス自ら見回りをする気になったか。でも、残念。お前らに簡単に発見される僕たちじゃないんだよ。今更ボスのお前たちが出てきたところで、お前たちが形勢不利なこの状況は決して覆ることはないぞ、鷹尾、それと、プララルド。イヴ、警備体制に変化はあるかい?」

 「ふむ。婿殿、刑務所の中を奇妙な姿の鼠が大量に動き回っている。ヴァンパイアロードたちのいる棟の、中央の棟の床を見てみるがいい。一見小さな鼠だが、鼻が象のように長く伸びている、珍妙な姿の鼠がいるだろう?長い鼻で床や壁など、周囲を嗅ぎまわってる。象の鼻はとても嗅覚に優れている、ということを聞いたことがある。鼠を捕まえて改造して、あの嗅覚を発達させた鼠で妾たちの侵入を探知するつもりだろう。あの奇妙な鼠は、中央の棟にいる女が指示して動いているようだ。他に警報装置やトラップの類はない。注意すべきは、あの嗅覚が強化された鼠だ。」

 イヴの言うように、象の鼻のように、鼻が長く伸びた小さな鼠が、刑務所内を長い鼻を動かし、嗅ぎまわっているのが見えた。

 「なるほど。象はあらゆる動物の中で一番鼻が良い動物だと、前に本で読んだことがある。鼠も相当、鼻の利く動物だ。鼠を警察犬代わりに改造したわけか。鼠なら小さくて刑務所内を隅々まで調べさせることができる。壁の隙間や天井なんかも可能だ。そして、鼠は複数の病原菌を持っている。噛まれたら、恐ろしい病気にかかることになる。鼠を改造して放ったのは、乙房とエビーラルドの仕業に違いない。全く、悪趣味なことを考える奴らだ。だが、問題ない。こちらは認識阻害幻術で体臭を完全に消すことができる。一応、スリラーアイの複製全てにも認識阻害幻術をかけて、匂いだけ消しておくか。イヴ、僕と背格好の似たヴァンパイアロードたちのいる独房へ転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴがパチンと右手を鳴らすと、僕たち四人は乙房が見張る、中央の棟の、とあるヴァンパイアロードのいる独房の中へと転送された。

 独房内に転送されると、独房内にいるヴァンパイアロードが、ゴブリンの首筋に噛み付き、ゴブリンの血を美味そうに吸血している場面に出くわした。

 部屋の中は、ゴブリンが出した糞や尿の悪臭が漂い、壁はゴブリンの排泄物の跡で汚れていた。

 「ウゲっ!?コイツ、ゴブリンの血なんぞ吸っていやがる!?吐き気がしてくるぜ、オエっ!?」

 「ジョーちん、この部屋、マジで臭過ぎ!?コイツも、プララルドたちも鼻がおかしくなってんじゃないの!?マジで鼻がもげそうなんですけど!?」

 「ゲホっ、ゲホっ!?婿殿、トイレを奪った妾たちにも半分責任はあるが、これはあまりに酷過ぎる!ヴァンパイアロードたちは碌に掃除をしておらんぞ!?刑務所中、糞尿まみれだ!あまりに汚過ぎる!臭いで今にも吐きそうだ!」

 「三人とも、我慢してくれ。僕はこれからこの建物内に長時間、潜入しなきゃいけないんだ。君たちの方がずっとマシだ。とっとと仕事を終わらせて帰ろう。スロウ、時間を30秒ほど止めてくれ。その間に、ヴァンパイアロードを始末して変装する。」

 「OK、ジョーちん。なるはやで頼みまする。時間逆行!」

 スロウが右手を突き出すと、右手がターコイズグリーン色に光り輝いた。

 そして、独房内の時間が停止した。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 如意棒を右手に持つと、霊能力のエネルギーを流し込み、如意棒を黒いナイフへと変形させた。

 それから、ナイフで止まっているヴァンパイアロードの右手を斬り裂き、ドッペルゲンガーマスクを押し付け、マスクの表面に血を塗りたくった。

 マスクの処理が終わると、ヴァンパイアロードの頭にナイフを突き刺し、ヴァンパイアロードを殺害した。

 ゴブリンもついでに殺すと、僕はスロウに指示した。

 「スロウ、時間停止を解除してくれ。」

 「OK、ジョーちん。29秒か。手際が良いね、ジョーちん。」

 「イヴ、殺したヴァンパイアロードの名前は分かるかい?」

 「ふむ、名前はドナルド・チェイスと言うらしい。年齢は25歳だ。元はLv.71の剣士だったようだ。」

 時間がふたたび動き出すと、僕は他の三人に指示した。

 「死体の始末は僕に任せてくれ。三人は一旦、刑務所の外に出て待機してくれ。鷹尾とプララルドの奴が刑務所内を見回っているから、念のため、注意してくれ。僕はこれから変装して、スリラーアイの複製を刑務所の男たちに配って回るつもりだ。イヴ、配り終わったら、合図を送る。君に向かって手を振るから、そしたら、刑務所の外へ僕を転送してくれ。合流後、予定通り、刑務所の塀を全て破壊する。また後で会おう、みんな。」

 「気を付けろよ、丈。無理するんじゃねえぞ?」

 「ジョーちん、何かあったらウチらが助けるから、頑張ってね!」

 「婿殿、常に婿殿の行動は妾が千里眼で逐一、把握している。安心して、作戦に臨むがいい。緊急時の脱出も妾に任せよ。」

 「ありがとう、三人とも。必ず作戦は成功させるよ。じゃあ、後で。」

 イヴの瞬間移動で、イヴ、酒吞、スロウの三人は、僕を一人残し、独房を去って行った。

 独房内に残った僕は、ヴァンパイアロードの死体から、白と黒のストライプ模様の囚人服を脱がせると、殺したヴァンパイアロードの囚人服へと着替えた。

 認識阻害幻術を一部、解除し、体臭だけを消した状態にした。

 ヴァンパイアロードの死体とゴブリンの死体を認識阻害幻術をかけてから腰のアイテムポーチに収納すると、僕はアイテムポーチを囚人服の下に隠した。

 それからドッペルゲンガーマスクを頭から被り、殺したヴァンパイアロードそっくりに変装した。

 金髪の長髪に、赤色の瞳の鋭い目付き、青白い肌、長く伸びた四本の鋭い牙、20代後半の、身長175cmほどの、元囚人のヴァンパイアロードの男へと、僕は変装した。

 用意してきた手鏡で顔を見ながら、僕は呟いた。

 「よし。変装はばっちりだ。どっからどう見ても、殺したヴァンパイアロードそっくりだ。声も別人に代わっている。ドナルド・チェイス、年齢25歳、Lv.71の剣士か。では、顔を借りるぞ、ドナルド。」

 僕はドナルドに変装すると、独房の扉を開けて何食わぬ顔で、独房の外の通路へと出た。

 独房のある棟の二階の通路から、僕はチラリと下を見下ろした。

 下には、乙房と、武装した元囚人のヴァンパイアロードたちに、白光聖騎士団の元聖騎士のヴァンパイアロードたちがいて、大勢で警備をしている様子だ。

 僕の立っている二階の通路にも、見張り役のヴァンパイアロードたちが数人立っていて、警備をしている。

 僕は隣の独房の扉をノックした。

 「俺だ、ドナルドだ。入ってもいいか?」

 「おう、入れよ、ドナルド。」

 返事が聞こえてきたので、僕は扉を開けて隣の独房の中へと入った。

 隣の独房の中には、銀色の坊主頭の、30代前半くらいの、細マッチョで強面の、元囚人のヴァンパイアロードと、食料用のサキュバスがいた。

 「よう、調子はどうだ?昨日から刑務所中臭くてホントたまらないぜ。お前んとこは綺麗にしてるな。俺の部屋の掃除、手伝ってくれよ。頼むよ。」

 「ガハハハっ。嫌なこった。誰が好き好んで野郎の汚部屋なんぞ、タダで掃除するかよ。このデレク様にお前の糞まみれの部屋を掃除させたかったら、何か見返りを用意するんだな。何か持ってねえのかよ?」

 デレクとか言うのか、この男。

 僕は独房の扉が閉まっているのを確認すると、デレクの方に近づいた。

 それから、囚人服の中からこっそりとした仕草でアイテムポーチを取り出した。

 アイテムポーチの中から、スリラーアイの複製を一個取り出し、デレクに手渡した。

 「デレク、コイツはどうだ?お前なら、当然知ってるよな?」

 ドナルドに化けた僕は、笑みを浮かべながらデレクに小声で言った。

 スリラーアイの複製を僕に渡され、デレクは一瞬驚き、それから、声を潜めて僕に訊ねた。

 「スリラーアイじゃねえか?ドナルド、お前、こんなモン、どっから手に入れてきたんだよ?」

 「驚いただろ?何、死んだクソ刑務官どもの持ち物をこっそり調べ回っていたら、コイツが大量に見つかったのよ。せっかく自由になれたのに、暴れるぐらいに大した娯楽はねえしよ。今じゃ、結界の外にも出られず、そこら中糞まみれの刑務所の中に閉じ込められることになっちまった。また、あの何の面白みもねえ、地獄みたいな獄中生活に逆戻りだ。だからよ、コイツを使って女どもの裸を覗いて楽しもうと、そう考えたわけよ。「白光聖騎士団」の元女聖騎士どもは貴族のお嬢ちゃんばかりとあって、中々良い体してるぜ。デレク、お前にコイツを一つやるよ。一緒にコイツでハッスルしようぜ。ただ、掃除とは別にちょいとお前に頼みがあんのよ。」

 「頼みだと!?ドナルド、お前、何企んでいやがる?まさか、タカオ様たちに刃向かうつもりじゃねえよな?」

 「アハハハ!そんなわけねえだろ?別にタカオ様に刃向かうつもりはねえよ?タダよ、もし、このまま刑務所から出られず、タカオ様が「黒の勇者」とやらにやられたら、俺たちはまた、一生、独房に閉じ込められることになる。下手したら、全員、即死刑になるかもしれねえ。俺はせっかくヴァンパイアロードにしてもらった。独房からも今は自由に出られる。なら、後はこの刑務所を出られさえすれば、俺たちは晴れて自由の身だ。実はよ、刑務所の地下を通っている下水道管に続いている、俺だけしか知らねえ秘密の場所を見つけたんだよ。しかもだ、下水道管の中を進んでみると、ギリギリ人一人通れるほどの隙間が、結界に引っかかってねえ部分があったんだよ。デブには無理だが、俺やお前なら間違いなく通れる。ただよぉ、場所が問題なんだよ。「白光聖騎士団」の元聖騎士どもがいる西側の棟のすぐ近くなんだよ。俺一人じゃ、もし、元聖騎士どもに見つかったら、間違いなく連中に殺される。それに、下水道管は滅茶苦茶長い。一人だけで無事、下水道管を抜けて逃げるのは無理だ。そこでだ。俺やお前、他の何人かと組んで、一緒に脱獄しようというわけだ。スリラーアイや灯り、飲み物、食い物なんかを分担して持って、下水道管から一緒に脱獄したい、と俺は考えている。別に俺たちが脱獄したからって、タカオ様たちはそんなに気にはしねえさ。むしろ、刑務所から外に出るヒントをあげてやることになる。その見返りに、俺たちは刑務所の外へと出て、自由を満喫する。このスリラーアイは俺からの手間賃だ。先払いという形にはなるが、どうだ?俺に協力して一緒に脱獄しねえか、デレク?」

 ドナルドに変装した僕の提案に、デレクはしばし考え込んだ。

 それから、僕の顔を見ながら言った。

 「ドナルド、お前の計画は分かった。俺もこんな地獄見てえな刑務所で終わりたくはねえ。俺も脱獄して、自由になりてえ。ドナルド、俺は何をすればいい?」

 「その気になってくれて嬉しいぜ、デレク。そんなに難しいことは頼まねえよ。俺たちはヴァンパイアロードだ。並大抵のことじゃあ死なねえ体だ。ただ、血を吸わなきゃ、飢え死にして、下水道管の途中で糞にまみれてお陀仏になっちまう。水筒にでも瓶にでもいい。食料となる血を集めて用意しろ。できれば、一週間分くらいはあった方がいい。俺の分も集めておいてくれ。後、水もな。シモナガエ様に適当に嘘をついて、水も用意してくれ。それさえ準備できれば、後は機を見計らって下水道管から逃げるだけだ。今日の午後7時に独房をこっそり抜け出して、西側の棟の裏側まで来い。午後7時ちょうどだ。間違えるなよ?下水道管に続く秘密の入り口は俺が案内する。スリラーアイを持ってくるのも忘れるなよ。コイツがなきゃ、俺たちは下水道管の中で迷子だ。それまでは、準備をしながら、コイツで覗きを楽しんでくれ。「白光聖騎士団」の女騎士様たちの裸を楽しめよ。どうせ、見納めになるだろうしよ。」

 「分かったぜ、ドナルド。食料と水は任せろ。今日の午後7時に、西側の棟の裏側へ集合だな?頼んだぜ、ドナルド。さすがは何度も警備隊の聖騎士どもを巻いた、連続強盗強姦魔様だぜ。泥棒も性欲も超一流だな。」

 「まぁな。俺は他にも仲間になりそうな奴に声をかけて回る。スリラーアイを持っている連中は仲間だ。ただ、持っていねえ連中は違う。デブも間違いなく仲間じゃねえ。とにかく、タカオ様たちに計画を気付かれねえよう、注意しろ。それじゃあ、また後でな、デレク。」

 僕はそう言うと、デレクのいる独房を出た。

 僕はそれから、細身の元囚人のヴァンパイアロードたちにターゲットを絞り、スリラーアイを餌に、デレクにしたのと同じ話をして、脱獄を持ちかけた。

 三時間後の午後5時過ぎ。

 僕は一万人の元囚人のヴァンパイアロードの買収に成功し、スリラーアイの複製を渡して回った。

 僕は何食わぬ顔で独房に戻ると、マスクを脱ぎ、服を着替え、自分に完全な認識阻害幻術を施した後、壁越しに透視しながら、外にいるイヴに向かって手を振った。

 直後、目の前の景色がグニャリと歪んだ直後、僕は独房の中から、独房のある棟の外へと一瞬で転送された。

 僕の前には、イヴ、酒吞、スロウの三人がいた。

 「お疲れ様であった、婿殿。作戦は上手くいったようだな?」

 「お疲れ様、三人とも。一万人と話をするのは喉が枯れそうになって、ホント、大変だったよ。でも、スリラーアイを渡して、それらしい脱獄話を持ちかけたら、意外とすんなり僕の話を聞いて、偽の脱獄計画に乗ってくれたよ。二時間後に、僕に騙されたヴァンパイアロードたちはスリラーアイを片手に、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちがいる西側の棟の裏に集まる。そこで、全員、覗き魔として見つかり、鷹尾たちや他の女性たちから、連中は覗き魔の変態扱いされ、ボコボコにされることだろうな。そうだ。このスリラーアイのオリジナルだけど、アーロンとか言う元聖騎士の持ち物の中に、こっそり転送してもらえるかい、イヴ?」

 僕はアイテムポーチから、スリラーアイのオリジナルを取り出しながら、イヴに訊ねた。

 「できなくはないぞ、婿殿。容易いことだ。」

 「「白光聖騎士団」の総団長であるあの男が、覗き魔たちと同じスリラーアイを持っていたら、女性の聖騎士たちや鷹尾たちから疑われ、覗き魔や裏切り者扱いされ、「白光聖騎士団」の連中の団結にヒビが入ることにつながるはずだ。クソ雑魚勇者もどきめ、もう一度この僕に喧嘩を売ってきたことを後悔させてやる。」

 「プハハハ!また、えげつない嫌がらせを思いついたな、婿殿!元聖騎士どもの仲間割れする姿を見て聞いて楽しむのも悪くはない!」

 イヴは僕からスリラーアイのオリジナルを受け取ると、アーロンの懐へと気付かれぬように、そっとスリラーアイのオリジナルを転送した。

 「待たせたね、酒吞。お待ちかねの破壊大作戦だ。刑務所の塀三枚、全て粉々に粉砕してくれ。修復できないよう、木っ端微塵にぶっ壊してくれ。遠慮はいらないから。」

 「よっしゃー!ついに俺の出番だぜ!そいじゃあ、一発、派手にぶち壊してやるぜ!三人とも、後ろに離れてな!怪我したらイケねえ!塀は全部、この俺がぶち壊す!」

 やる気満々の酒吞が、右手に黒い鬼の金棒を担ぎながら、意気揚々と、高さ100mもある巨大な石壁の、刑務所の塀の一枚へと歩いて近づいていく。

 刑務所の塀を見上げながら、酒吞は呟いた。

 「まずは一枚、確実に木っ端微塵にぶっ壊す。」

 酒吞は塀に狙いを定めると、右肩に担いでいた鬼の金棒を持ち上げ、左手を前に出し、打撃のフォームをとった。

 「行くぜ!オラァーーー!」

 酒吞が鬼の金棒を思いっきり縦方向に振り下ろし、塀に叩きつけた瞬間、ドカーンという衝撃音とともに、ゴゴゴォーという音を立てて地面が大きく揺れ、それから、高さ100mもあった巨大な分厚い石の塀に亀裂が無数に入り、巨大な刑務所の塀の一枚を、木っ端微塵に破壊した。

 あまりの衝撃の凄さに、僕もイヴもスロウも、揺れる地面の上に必死に力を入れて立ちながら耐えた。

 酒吞の怪力によって砂粒のように粉砕された刑務所の塀を見て、僕たちは思わず苦笑いした。

 「おっしゃー!どんどんぶち壊すぜー!」

 酒吞は脚力も凄まじく、超スピードで一気に刑務所の敷地内を走り抜け、二枚目の塀の前へと着くと、先ほど同様に、自慢の怪力で刑務所の塀を粉砕した。

 突然の塀の破壊と、頻発する地震に驚き、監視塔にいた早水や妻ケ丘、刑務所内を巡回していた鷹尾が空を飛んで、破壊された刑務所の塀の前に集まり、何事かと困惑している。

 その間に、酒吞は最後の三枚目の塀の前に瞬時に移動し、鬼の金棒を叩きつけて、最後の塀を、木っ端微塵に破壊した。

 塀の破壊を終えると、猛ダッシュで笑顔の酒吞が、僕たちの前に現れた。

 「どうよ、俺の破壊っぷりは?ご要望通り、木っ端微塵に塀を全部、破壊したぜ、丈!」

 得意気な表情を浮かべる酒吞に、僕は苦笑しながら答えた。

 「お疲れ様、酒吞!完璧過ぎるくらいの破壊っぷりだ!あの巨大な塀が全て、瓦礫の山どころか、砂山になるまで、木っ端微塵に粉砕されているぞ!本当に規格外だな、酒吞の怪力は?アレで何割くらいの力を使ったんだ?」

 「んっ?そうだな、2割5分くらいか?まだまだ、こんなの大したことはないぜ。」

 「2割5分、全力の4分の1以下か。本当に凄いな。うん。」

 「あの破壊力で2割5分だと!?生物としての身体能力の限界をすでに超えているぞ。酒吞よ、貴様の怪力と言い、身体能力と言い、闇の女神であるこの妾でも底が見えん。ベスティアさえ超える怪力かも知れん。天晴な怪力ぶりだ。」

 「あ、アレで全力出してないって、マジ?ウチら堕天使でも、ラスラルドの奴よりもはるか上じゃん!つか、余裕で神をぶっ飛ばせるレベルっしょ!う、ウチ、もう、酒吞とは絶対に喧嘩しないっしょ!メスゴリラと殴り合いなんて、御免だわ!」

 「誰がメスゴリラだとゴラぁーーー!?スロウ、テメエ、一発本気で殴らねえと、その口の悪さは治らねえみたいだなぁー!ああん!?」

 「お、落ち着け、酒吞!スロウ、酒吞に向かって失礼だぞ!酒吞にちゃんと謝れ!酒吞はパワー溢れる、魅力的なカッコいい女性だぞ!酒吞をけなすようなことは絶対に言うな!今度言ったら、お前だけバカンスなしにするからな!」

 「ご、御免て、ジョーちん?もう二度と酒吞をけなしたりしないから許してよ~!?ええっと、酒吞、悪口言って御免なさい!ゾーイも御免なさいって言ってるしょ!ウチを許して!お願い!?」

 「パワー溢れる、魅力的なカッコいい女性かぁー。へへへっ、そうか、そっかぁー。丈は俺のこと、そんな風に思っているんだなぁー。グヘへへ。おっと、イケねえ。スロウ、今回だけ許してやる。だが、次、俺のことをメスゴリラなんて言ったら、本気で殴るぞ。分かったな?」

 「あ、ありがとうございまする、酒吞様~!」

 スロウが謝り、酒吞が機嫌を直してくれたので、僕はホッと胸をなでおろした。

 「酒吞が機嫌を直してくれて本当に良かった。酒吞が本気で怒ったら、僕に止める自信は全くないから。本当に良かった。」

 「そうかの、婿殿?婿殿が耳元で、愛している、と一言言えば、酒吞の奴は簡単に機嫌を直しそうに見えるが?まぁ、良い。ところで、作戦の仕上げはどうする?」

 イヴに訊ねられ、僕は答えた。

 「いつものプレゼントは、午後7時1分に送ることにする。転送場所は、元囚人のヴァンパイアロードたちが集まっている、刑務所西側の棟の裏だ。「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが使っている風呂場の真裏でもある。集まったヴァンパイアロードたち全員、覗き魔としてお仕置きされること、間違いなしだ。きっと、とんでもなく愉快な騒動が巻き起こるぞ。」

 「それは楽しみだ。では、その時が来るのを皆で待つとしよう。では、帰るぞ、皆の者。」

 僕たちは作戦を終え、イヴの瞬間移動で、首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 他のパーティーメンバーたちと合流し、報告を終えると、僕たちは受信機のスイッチを入れて、その時が来るのを待った。

 午後7時1分。

 僕たちは大使館の一室で夕食を食べるため、テーブルに座りながら、受信機から聞こえてくる、盗聴器が拾った音に耳を澄ましていた。

 デレク外元囚人のヴァンパイアロードたちは、僕に持ちかけられた偽の脱獄計画にまんまと引っかかり、おびき寄せられ、刑務所西側の棟の裏へと集まってきた。

 僕に渡された覗き用のアイテム、スリラーアイの複製品を持ちながら、偽の脱獄計画の首謀者である、僕が変装したドナルドが集合場所に来ていないことに、ひどく困惑している。

 僕は傍に用意していた、キバタンの入ったケージと、ドナルドに変装した際に使ったドッペルゲンガーマスクを、イヴに渡して指示した。

 「時間だ、イヴ。予定通り、転送を頼む。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、キバタンの入ったケージとドッペルゲンガーマスクが僕たちの前から消えると、デレクたちが集まっている、刑務所西側の棟の裏へと転送された。

 「オトボウ ハナビ、ロシュツキョウ!オトボウ ハナビ、ロシュツキョウ!オトボウ ハナビ、ロシュツキョウ!~」

 急に目の前に現れ、大声で嫌がらせのメッセージを何度も繰り返し鳴き叫ぶキバタンの出現に、デレクたちの慌てふためく声が聞こえてきた。

 デレクたちのいる刑務所西側の棟の裏は、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが使う風呂場の真裏でもある。

 風呂場で体を洗っていた女性騎士たちが、デレクたちを発見し、何をしているのかと大声で問い詰め、騒ぎ始めた。

 鷹尾たちや「白光聖騎士団」の元聖騎士たち、他のヴァンパイアロードたちも騒ぎを聞きつけ、集まってきた。

 デレクたちの手には、覗き用のアイテムであるスリラーアイの複製が握られていた。

 デレクたちが、一万人のヴァンパイアロードの男たちが、女風呂をスリラーアイで透視して覗きをしていた、という騒ぎになり、男性たちと女性たちの間で激しい喧嘩が起こった。

 乙房に関して言えば、露出狂と呼ばれたことに腹を立て、怒り狂い、同時に覗き魔の疑いをかけられたデレクたちに対して、殺そうとせんばかりの怒り様であった。

 僕の仕掛けた罠にまんまと嵌まり、集団覗き魔事件で混乱する元「弓聖」鷹尾たち一行の声を聞き、僕たちは大爆笑した。

 「アハハハ!部下の半数が覗き魔になるとは、傑作だな、本当!女性騎士たちの怒り狂ったあの声、聞いたか?男女間で仲間割れするのも時間の問題だな。鷹尾の奴が催眠で記憶を消せば別だろうが。けど、お仲間の六人の記憶は消せないだろ。それに、部下全員の記憶をいちいち消して回るのは大変だろうな。集団覗き魔作戦、大成功だ。」

 「ギャハハハ!丈、いつもながらえげつない作戦を思いつくもんだぜ!昔、覗きをしていたとか、同じクラスの性悪女どもに難癖をつけられたことがあったっけか?犯人は丈じゃなかったけどよ。あの性悪女ども、お前の邪気にやられて、全員、プールで足吊っておぼれて死にかけたっけか。丈に覗きの冤罪なんて被せようとするから、罰が当たるんだよ。性悪女騎士どもも、変態の囚人どもも、仲間割れして、良い気味だぜ、全く。」

 「そう言えば、そんなことが昔、あったっけ。よく憶えていたなぁ、酒吞。僕はすっかり忘れていたよ。そう言えば、中学の時、そんな事件があったよ。あの時も本当に困ったよ。後日、真犯人が防犯カメラに写っていたから、助かったけど。」

 「丈、痴漢や覗きの冤罪の恐ろしさをお前は無意識にだが、ちゃんと覚えていた。だから、今回の作戦を思いついたんだと、俺は思うぜ。」

 「婿殿も元いた世界でも相当、苦労していたのだな。正義感溢れる婿殿に覗きの冤罪を被せようなど、その性悪女どもも真犯人も許せん。目の前にいたら、妾が直々に地獄へ葬ってくれたわ。チキュウの神々も、婿殿のピンチを放っているとは、一体何をやっていたのだ?いずれ、抗議に行くとしよう。」

 「ありがとう、イヴ。でも、三年以上も前の話だし、事件はちゃんと解決したし、僕自身、すっかり忘れていたから、チキュウの神々に抗議に行かなくても大丈夫だから。気持ちだけ受け取っておくよ。」

 「まぁ、婿殿がそう言うなら、抗議は止めておくとするが。」

 イヴが渋々、納得してくれた。

 「さて、みんなで鷹尾たちが集団覗き魔事件発生で混乱して怒り狂う声を聞いて楽しみながら、一緒に美味しい夕食を食べることにしよう。みんな、今日も一日、お疲れ様でした。」

 僕は笑いながら、他のパーティーメンバーたちとスロウに声をかけた。

 夕食を終え、休憩を取り、風呂に入って体を洗うと、僕は自室へと戻り、盗聴の録音作業をして、ベッドの上に仰向けに寝転んだ。

 天井を見ながら、僕は笑みを浮かべると、呟いた。

 「第四作戦は無事、成功した。刑務所の塀は全て粉々に破壊した。お前たちの様子は、望遠鏡を使えば、誰でも外から見ることができる。お前たちは完全に外からまる見えだ。日光を遮ってくれていた塀が失くなって、より吸血鬼どもは動きずらくなった。外から冷たい風が吹きつけるようにもなって、寒くて大変だろうな。乙房、エビーラルド、お前たちの「改造魔手」の能力なんて、僕たちには通用しない。鼠を改造したところで、こっちは自由に体臭を隠せるんだよ。次はどんな生き物を改造するつもりかは知らないが、所詮お前らに作れるのは、僕たちには何の脅威にもならない、生物兵器の失敗作だけだ。精々、悪足掻きをするがいい。それと、露出狂の痴女デビューおめでとう。お前が外で尻を出して脱糞しているところを、スリラーアイを渡したスカトロ趣味の変態どもが、透視して覗いて興奮していただろうよ。「白光聖騎士団」のクソ女聖騎士ども、お前たちも脱糞しているところや、風呂で裸になっているところを覗かれたかもな。覗き魔と露出狂の変態天国を存分に味わえたことを感謝しろよ、犯罪者ども。今晩からは刑務所内の人間関係ボロボロの地獄が始まるだろうけど。」

 僕はそう言って笑いながら、作戦成功を喜ぶと、深い眠りに就いた。

 作戦五日目。

 午前11時。

 僕はイヴとともに、直前にシーバム刑務所へと潜入し、僕が施した封印のせいで東の監視塔内に閉じ込められているヴァンパイアロードを一人眠らせ、ドッペルゲンガーマスクを使ってヴァンパイアロードから顔を奪った。

 それから、ヴァンパイアロードを殺害すると、死体をドッペルゲンガーマスクとともに、アイテムポーチへと収納した。

 必要な準備が整うと、僕とイヴは一度、シーバム刑務所から瞬間移動で、首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 それから、一緒に、ゾイサイト聖教国の首都から南東に馬車で一時間ほどの距離にある、ゾイサイト聖教国のゴミ処理場兼ゴミの埋め立て地へとやって来た。

 ゴミ処理場兼ゴミの埋め立て地へと入るなり、イヴが僕に言った。

 「これはまた、あの刑務所以上に臭いが酷い。そこら中、ゴミの山だ。蝿もたかっておる。ゴキブリや鼠も大量にいるぞ。これが今回の嫌がらせの道具なのだな、婿殿?」

 「その通りだよ、イヴ。ここにはゾイサイト聖教国のありとあらゆるゴミが山のようになって埋め立てられている。大量の生ごみに鉄くず、埃、ゴミの山にたかる鼠に蝿、ゴキブリなんか、とにかくゴミと汚物のオンパレードだ。後は、このゴミの山をいつものプレゼントと一緒に、元「弓聖」たち一行に食らわせてやるだけだ。イヴ、ここにあるゴミの山全てを、シーバム刑務所の建物内に転送してくれ。ゴミの山で足の踏み場もないくらい、ゴミで刑務所が溢れかえってパンクするくらいのキツい一発を頼むよ。キバタンとドッペルゲンガーマスクは、グラウンドの方に転送してくれ。キバタンをゴミまみれにするのは心が痛む。鷹尾たちがゴミまみれになるのは一向に構わない。それと、受信機は持ってきているかい?」

 「もちろんだ、婿殿。」

 イヴが左手の小指に嵌めた黒い指輪型の受信機を、僕に見せた。

 僕も右手の小指に、指輪型の受信機を嵌めていた。

 「盗聴器は稼働させているな。では、音量を最大限にしてくれ。ボリュームアップ。これで良し。それじゃあ、いよいよ第五作戦の開始だ。」

 僕は腰のアイテムポーチから、キバタンの入ったケージと、ドッペルゲンガーマスクを取り出して地面に置いた。

 それから、懐中時計を懐より取り出し、時間を確認すると、僕はイヴに指示した。

 「午前11時30分。作戦開始時刻だ。イヴ、転送を始めてくれ。」

 「任せよ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、ゴミ処理場兼ゴミの埋め立て地にあった、ゾイサイト聖教国中のゴミを集めた、巨大なゴミの山が一瞬で僕たちの前から消え、元「弓聖」たち一行のいるシーバム刑務所の各建物内へと転送された。同時に、キバタンとドッペルゲンガーマスクも、シーバム刑務所のグラウンドへと転送された。

 ゴミの山が転送されてから5秒後、僕とイヴの小指に嵌めている指輪型受信機から、元「弓聖」鷹尾たち一行の悲鳴が大音量で同時に聞こえてきた。

 「「「「「「「オエエエエーーー!?」」」」」」」

 「く、臭ええーーー!?」、「キャアー、ゴキブリー!?」、「ご、ゴミに潰されるー!?」などの悲鳴も聞こえてきた。

 大量のゴミの山に押しつぶされたであろう、鷹尾たちや手下のヴァンパイアロードたちの悲鳴を聞いて、僕とイヴはその場で大爆笑した。

 「アハハハ!超笑える!マジで吐いたな、アイツら!ゴミ爆弾作戦、大成功だ!生ゴミのフルコースを、糞尿まみれの刑務所の中でた~んと味わえ、クソ犯罪者ども!」

 「プハハハ!我ながら傑作だ!婿殿の嫌がらせは本当にえげつないな!国中のゴミを刑務所の中にぶちまけて、大量のゴミの中に敵を溺れさせるとは、実に恐ろしいアイディアだ!連中は結界のせいで刑務所内に閉じ込められ、ゴミを外に捨てることもできん。地下に穴を掘って埋めるしかないが、きっと徹夜の作業になるであろう。おまけに、刑務所は先日から糞尿まみれで、そこに大量の生ゴミの悪臭まで加わったら、正にゴミ地獄、いや、悪臭地獄だな。連中はあまりの臭さに発狂するかもしれんな。本当に愉快で残酷な嫌がらせだ。」

 「ハハハ!今回の作戦はイヴの協力あってこそだよ!僕は作戦のアイディアを思いついたに過ぎない!しっかし、これで鷹尾たちのストレスは一段と限界に近づいたはずだ。さてさて、この後、鷹尾たちが一体、どう動くのか、高みの見物と行こう。どうせ、ゴミの処理で反撃なんて考えている余裕はないだろうけど。大使館にいるみんなも、今頃きっと受信機片手に笑っていることだろうな。それじゃあ、イヴ、大使館へ戻ろう。第五作戦はこれで一旦、終了だ。お疲れ様。」

 「ああっ、お疲れ様だ、婿殿。では、帰るとしよう。」

 僕とイヴは互いに笑った。

 それから、イヴの瞬間移動で、ゴミ処理場兼ゴミの埋め立て地から、首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 大使館へ戻ると、僕は他のパーティーメンバーたちに、第五作戦が成功したことを報告した。

 他のパーティーメンバーたちも受信機を持って、大量のゴミに押しつぶされ、悲鳴を上げる元「弓聖」たち一行の声を聞いていて、皆、報告を聞きながら笑っていた。

 「ハヤミズ アスカ、ゴミタベル!ハヤミズ アスカ、ゴミタベル!ハヤミズ アスカ、ゴミタベル!~」

 刑務所のグラウンドに転送したキバタンの、嫌がらせのメッセージを何度も繰り返し泣き叫ぶ声が、刑務所中に響き渡っている様子も受信機から伝わってきた。

 しばらくして、大量のゴミの山から抜け出し、グラウンドへと駆け付けた鷹尾たち一行の困惑する声と、嫌がらせのメッセージを聞いて、さらに怒り狂う早水の声が聞こえてきた。

 刑務所の建物内は、ゾイサイト聖教国中から集められた大量のゴミが床から天井まで覆いつくすほど大量で、大量の生ゴミも含まれていて、あまりに酷い悪臭がする上、全身にゴミを被り、ゴミに生活スペースを奪われ、鷹尾たちは怒りとストレスで疲労困憊のようである。

 僕たちは元「弓聖」たち一行が大量のゴミを食らわされて苦しむ様子を受信機で聞き、笑いながら、一緒に昼食を食べた。

 午後2時30分頃。

 僕がキバタンのお世話と盗聴をしていると、スロウが慌てた様子で、僕のいる部屋へと駆け込んできた。

 「大変だよ、ジョーちん!元「弓聖」たちがまた、悪いことをしようと企んでるよ!今すぐ止めに行かないと、たくさん人が死ぬことになるよ!」

 「落ち着け、スロウ!鷹尾たちが何か、とんでもない悪事をまた、仕出かそうとしているのは分かった!とにかく、奴らの悪事とやらについて、詳しく教えろ!」

 「OK、ジョーちん!ウチが前に「白光聖騎士団」の連中が使っている棟の女子トイレに盗聴器を一個仕掛けていったの、おぼえてる?」

 「ああっ、おぼえてるぞ。何でそこに仕掛けるんだ、って話にもなったが、お前が女子はトイレで内緒の話を一緒にするもんだから、とか言って、とりあえず設置することになったアレだろ?」

 「そう。そして、ウチの勘が的中したんよ。ええっと、ハナビ、アスカ、レン、オリビア、アイナ、ブルックリンって名前の女子たちが、トイレでこっそり密談してたんよ。リーダーのタカオとか言う女が最近、ジョーちんやウチらにやられて、失敗続きで、計画が全然、上手くいってないって、不満を言ってたんよ。刑務所から出られなくなって、昨日は男たちに覗きにあって、今日は朝から大量のゴミを頭にぶちまけられて、おまけにゴミ掃除や害虫駆除でずっと働きっぱなしで、みんな超イラついているみたいだったしょ。それで、タカオとか言う女抜きで、自分たちだけで何とかしようって話してたんよ。そしたら、話を聞いてたグラトラルドが、自分の能力を使って、大きな音の攻撃を近くの山にぶつけて、山崩れを起こして、近くの町や村を襲ったらどうかって言って、それなら結界もすり抜けて攻撃できて、ジョーちんでも防ぎようがないし、反撃になるかもとか、提案したんよ。女子たちはグラトラルドの提案に賛成して、今日の午後3時に、近くの山を手当たり次第に攻撃するって言ってたっしょ。とにかく、ヤバいんだっしょ!」

 「今日の午後3時だと!?後、30分もないぞ!くそっ、あのクソ女ども、鷹尾をハブにして、自分たちだけで犯罪を起こそうと考えたのか。音を使って、周りの山を見境無しに攻撃して、山崩れを起こして近くの町や村を滅ぼすか。魔法でなく、純粋に増幅した音なら、結界を通過して大規模な攻撃もできる。そう考えたわけか。音響兵器による大規模な無差別攻撃なんて、冗談じゃない。スロウ、連中は他に最初に攻撃する山や町について、何か言ってなかったか?」

 「ええっとね、最初にシュットラって町を襲うって言ってたよ。北東に見える山を攻撃して山崩れを起こしてぶっ潰すとか言ってたっしょ!」

 「シュットラだな。北東に見える山を攻撃するか。ありがとう、スロウ。お手柄だ。至急、イヴを呼んできてくれ。すぐにシーバム刑務所へ向かうことを伝えてくれ。スロウ、念のため、お前も一緒に来てくれ。」

 「OK、ジョーちん!」

 早水外女性の主力メンバーたちが、リーダーである鷹尾の作戦や方針に不平不満を抱き、音響攻撃による山崩れで周囲の町や村を無差別に攻撃する報復作戦を考え、後30分もしない内に、作戦を実行に移すつもりであることをスロウから聞かされ、僕は焦った。

 1分後、スロウに連れられてイヴがやって来た。

 「婿殿、仲間割れを起こした元「弓聖」たちの一部が、音を使って山崩れを起こそうとしているとスロウから今、聞いた!すぐに現場へ向かうぞ!」

 「頼むよ、イヴ!緊急事態だ!急いで転送してくれ!」

 「了解だ、婿殿!」

 イヴの瞬間移動で、僕、イヴ、スロウの三人は、シーバム刑務所の中へと転送された。

 時刻は午後2時45分。

 僕は「霊視」で刑務所内を透視し、早水たちの居所を探った。

 「早水たちはどこだ?シュットラの町が第一攻撃目標だと、シュットラに近い北東の山を襲うと連中は言っていたらしい。北東側に連中の姿は見えない。くそっ、どこにいやがる?」

 「婿殿、北の監視塔の最上階を見よ!元「弓聖」の仲間の女三人、それに元聖騎士の女三人がいる。北の監視塔から奴らは攻撃するつもりに違いない。」

 「いた!あんなところにいやがったな、クソ女ども!残り15分か。イヴ、僕を結界の外に転送してくれ。北の監視塔の真上の空だ。連中の音響攻撃は僕が防ぐ。イヴは、攻撃目標の横の、北側の山で待機していてくれ。スロウ、お前は空を飛びながら奴らの後方か真上まで、結界に触れるかどうかの距離まで気付かれないよう、接近しろ。連中が直前で攻撃目標を変えようとした時は、時間を停止させろ。停止している間に、僕が動いて対処する。二人とも、サポートを頼んだぞ。」

 「任せよ、婿殿。」

 「OK、ジョーちん!ウチにお任せあれっしょ!」

 「では、作戦開始だ!」

 僕とスロウはイヴの瞬間移動で、早水たちのいる北の監視塔の真上、監視塔の最上階から結界越しに、上空50mの位置へ転送された。

 僕は瞬時に、銀色の霊能力のエネルギーを解放し、全身に纏うと、空中へ浮かんだ。

 スロウは、背中から黒い堕天使の翼を生やし、翼を動かして空を飛んでいる。

 「スロウ、認識阻害幻術を使っているから、連中に見つかることはまず、ない。連中の傍まで、ギリギリまで近づいてくれ。僕は、奴らの攻撃を防ぐ準備をする。」

 「OK、ジョーちん!」

 そう言うと、スロウは早水たちのいる北の監視塔の真上、結界越しに10mほど離れた空中で制止した。

 イヴは、北側の山の山頂で、様子を窺っている。

 僕は、早水たちの攻撃目標である、北東側の山の方へ近づくと、高度を下げ、早水たちのいる北の監視塔の屋根の高さほどの位置の空中で制止した。

 北の監視塔と、刑務所の北東側にある山のちょうど真ん中の空中に、僕はいる。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから、如意棒を取り出した。

 左手に如意棒を持つと、霊能力のエネルギーを少しずつ流し、直径50m、厚さ1㎝の、黒いパラボラアンテナへと変形させた。

 黒いパラボラアンテナを両手で下から縁を掴んで支えながら、パラボラアンテナに認識阻害幻術を施し、パラボラアンテナを早水たちの目から隠した。

 僕はさらに全身から赤い霊能力のエネルギーを解放し、全身と黒いパラボラアンテナに、赤い霊能力のエネルギーを纏わせた。

 巨大なパラボラアンテナを空中で支えながら、「霊視」でパラボラアンテナを透視して、反対側の北の監視塔にいる早水たちが、行動を起こすのを待った。

 「クソ女ども、無差別攻撃をしようなんて考えたことを後悔させてやる。今に見ていろ。」

 僕は、早水たちへの怒りと復讐心で闘志を燃やした。

 午後3時。

 北の監視塔の最上階にいた早水が、背中から黒い堕天使の翼を生やすと、最上階の窓から外へと飛び、北の監視塔の天井に着地した。

 それから、僕が待機している方向、北東側の山の方を早水は見た。

 早水の顔から上半身にかけて、黒いドラゴンの鱗が生えた。

 早水がゆっくりと大きく息を吸い込んだ。

 次の瞬間、早水が僕のいる方向に向けて、「アー!」という、耳が破裂しそうになるほどの、大気を震わせるほどの大きな叫び声を上げて放った。

 音響攻撃とも言える超特大の大声が、大気を震わせながら、結界を通過し、凄まじい衝撃音となって、巨大な黒いパラボラアンテナを支えながら空中にいる僕を襲った。

 だがしかし、僕の持つ巨大な黒いパラボラアンテナが、早水の放った音響攻撃の声を受け止め、逆に早水のいる方向へと反射して跳ね返した。

 「食らえ!鬼返!」

 巨大な黒いパラボラアンテナによって、音響攻撃を跳ね返され、逆に音響攻撃のカウンターを諸に食らった早水が、「キャアーーー!?」と悲鳴を上げながら、空中から地上に落下して、地上に激突した。

 それと同時に、僕の音響攻撃へのカウンター攻撃が炸裂し、結界展開装置がある東の監視塔を除く、シーバム刑務所の各建物を一気に崩壊させるほどの大ダメージも与えた。

 東の監視塔以外の、シーバム刑務所の各建物が崩壊したことで、建物内にいた者たちは全員、「ギャアーーー!?」という大きな悲鳴を上げながら、崩壊する刑務所の建物の瓦礫の下敷きとなり、押しつぶされたのであった。

 早水の音響攻撃を跳ね返し、シーバム刑務所を瓦礫の山へと変えた僕は、両手に持つ巨大な黒いパラボラアンテナを、元の如意棒へと戻すと、如意棒をジャケットの左の胸ポケットへとしまった。

 北の監視塔の方をよく見ると、乙房、妻ケ丘、都原、オリビア、アイナ、ブルックリンの六人は、崩壊した監視塔の瓦礫の下敷きとなりながら、全員、白目を剥いて、全身ボロボロになって気絶している。

 早水はと言うと、僕のカウンター攻撃を諸に食らったせいで、気絶して空中から地面に激突し、全身ボロボロになり、白目を剥き、口から泡を吐いて倒れている。

 両耳の鼓膜が破れたのか、両耳の穴から血を流している。

 背中の翼が折れ、手足もあらぬ方向に骨折して折れ曲がっている。

 早水たちを空中から見下ろしながら、僕は呟いた。

 「ざまぁみろ、クソ女ども。鷹尾の腰巾着程度の小悪党どもが、無差別攻撃なんて大それた悪事を考えた報いだ。お前たちの独断行動で刑務所が崩壊したと知ったら、鷹尾はお前たちを切り捨てることを考えるだろうな。早水、暴食の堕天使グラトラルド、お前たちが100種類の能力を自由自在に操れることは知っている。音響攻撃なら結界を通過できると考えた点は評価できなくもない。だがな、お前たちがどれだけたくさん能力を持っていようが、どんな卑劣な攻撃を仕掛けてこようが、この僕には通用しないんだよ。お前らの悪事は全力で叩き潰す。そして、情け容赦なくお前たちに正義と復讐の鉄槌を下す。今日からはゴミの山を家代わりに生活するんだな、クソ犯罪者ども。」

 僕は笑みを浮かべながらそう呟くと、北側の山の頂上にいるイヴの下へと空を飛んで向かった。

 着陸すると、僕はイヴに声をかけた。

 「お疲れ様、イヴ。おかげで何とか、未然に早水たちの犯行を阻止することができた。本当にありがとう。」

 「お疲れ様であった、婿殿。敵の音を使った攻撃を逆に跳ね返し、さらに増幅した音のカウンター攻撃を敵に食らわせるとは、実に見事であった。さすがは妾の婿殿である。おまけに、刑務所は今や瓦礫の山と化した。謀反を起こしたあの女たちが原因と分かれば、元「弓聖」たち一行の結束はより一層、崩壊に近づくこと間違いない。しかし、盗聴器が壊れたり、瓦礫と一緒に処分されたり、といった可能性はないか、婿殿?」

 「盗聴器はブラックオリハルコン製で頑丈だから、壊れることはないはずだ。それに、鷹尾たちは瓦礫の山よりも今は、今朝送り付けた大量のゴミの処分に追われている。そこに、崩壊した刑務所の瓦礫の山が加わったわけだが、瓦礫の撤去は必要最低限しか行わないはずだ。瓦礫を捨てる場所も、結界に閉じ込められている連中にはどこにもない。盗聴器の位置が若干変わることになるかもしれないが、みんなで四六時中盗聴をすれば、連中の行動は探れるはずだから問題ないはずだ。」

 「そうだな。婿殿の言う通りであるな。ならば、この後、皆でまた、元「弓聖」たち一行の無様に悶え苦しむ様子を、皆で盗聴して楽しむことにしよう。」

 僕とイヴは笑い合った。

 そんな僕たち二人の下に、遅れてスロウがやって来た。

 「ひどいよ、ジョーちん!攻撃を跳ね返すなら、事前に言ってよ!おかげで、グラトラルドたちの近くにいたウチまでカウンターを食らうところだったじゃん!時間を止めて何とか逃げ切ったけど、危機一髪だったっしょ!マジ、気を付けろっしょ!」

 怒るスロウに、僕は謝った。

 「すまん、スロウ。でも、お前なら、時間を止められるし、僕が何を考えているか、すぐに気付くと思っていたから、大丈夫だって、そう思ったんだよ。巻き込んでしまいそうになって、本当にごめん。ゾーイも危ない目に遭わせて済まなかった。これからは絶対に攻撃に巻き込まないよう、注意を徹底する。事前説明を怠ることは決してしない。リーダーとしてあるまじきミスだった。本当にごめん。」

 僕はスロウに向けて頭を下げ、謝った。

 「ふん!ジョーちんがちゃんと反省しているようだし、許してやるっしょ!ゾーイも、許してあげてと言っているから、怒るのは止めるっしょ!次からは気を付けてくれっしょ!後、帰ったら、謝罪として何かウチに奢ること!分かった、ジョーちん?」

 「許してくれてありがとう、スロウ、ゾーイ。お詫びに、何か食べたい物を奢ろう。ただ、ゾイサイト聖教国以外の場所になってしまうが、良いかな?」

 「よろしい。なら、ええっと、バスクチーズケーキって言うケーキが食べてみたいっしょ。ゾーイも前から一度、食べてみたいって言ってたんよ。」

 「バスクチーズケーキか?となると、ペドウッド共和国かな?あの国は酪農が盛んだし、色んなチーズを作っていたはずだし、ペドウッド共和国のお店なら、どこか提供しているかもな。一度、大使館に戻って、エルザとグレイに、バスクチーズケーキを出しているお店がないか、訊ねてみよう。分かったら、一緒にバスクチーズケーキを食べに、みんなでペドウッド共和国へ行くとしよう。それで良いかい、スロウ、ゾーイ?」

 「OK、ジョーちん!ペドウッド共和国に行くのは久しぶりだから楽しみっしょ!「世界樹」も見れるっしょ!マジ、楽しみだわ~!」

 「それじゃあ、一度大使館へ戻るとしよう。それから、ペドウッド共和国へみんなで一緒に、バスクチーズケーキを食べに行こう。イヴ、ペドウッド共和国まで後で瞬間移動で送ってくれないかな?いつも負担をかけて、ごめん。」

 「気にするな、婿殿。妾も時間があれば、ペドウッド共和国を見に行きたいと思っていたところだ。今日の作戦の成功を祝って、皆でバスクチーズケーキを食べるとしよう。メルもきっと、喜ぶに違いない。」

 「ありがとう、イヴ。本当に助かるよ。では、大使館へ戻るとしよう。」

 僕たち三人は、無事、早水たちの犯行を阻止すると、ゾイサイト聖教国首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 他のパーティーメンバーたちに報告を終えると、エルザとグレイに、ペドウッド共和国にバスクチーズケーキを食べられるお店がないか、訊ねた。

 グレイがバスクチーズケーキを提供していそうなお店にいくつか心当たりがあると言い、僕たち「アウトサイダーズ」のメンバーとスロウは、バスクチーズケーキを食べにペドウッド共和国の首都へと、イヴの瞬間移動で向かった。

 何軒かケーキ屋をグレイの案内で当たってみると、首都のケーキ屋の一軒がバスクチーズケーキを提供していることが分かり、ケーキ屋に併設してあるカフェで、僕たちはバスクチーズケーキを一緒に食べた。

 スロウは、僕からのお詫び兼奢りだと言って、バスクチーズケーキをホールで10個頼むと、皆が見ている中、目を輝かせながら、バスクチーズケーキを平らげてしまった。

 僕たちはカットされたバスクチーズケーキを一個か二個食べただけであったが、スロウの爆食いに、僕以外のメンバーは少々引き気味であった。

 スロウが大食いであることを僕は知っていたので、特に驚きはしなかったが、僕のお詫び兼奢りとは言え、もう少し遠慮してくれても良いのでは、と思いもした。

 ペドウッド共和国のケーキ屋でバスクチーズケーキを食べ、少しペドウッド共和国の首都の通りを散策した後、僕たちは再びゾイサイト聖教国首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 それから、夕食を終え、風呂に入った後、僕は大使館の自室のベッドの上に寝転んだ。

 盗聴の録音作業を終えると、ベッドの上に仰向けに寝転びながら、僕は一人呟いた。

 「レコード。盗聴器は特に壊れてはいない。音もちゃんと拾っている。問題なしと。さて、早水たちの暴走のせいで、刑務所は瓦礫の山になってしまった。瓦礫の下敷きになって、手下たちにもいくらか被害が出たはずだ。大量のゴミの処分に加えて、自分たちの大事な要塞であり、寝床でもある刑務所まで失うことになった。手下たちも何人か死んだことだろう。今日からはゴミと瓦礫の山の中でホームレス生活か。仲間たちとは所詮、仮初の絆でしか結ばれていない、仲間をただの道具扱いしかしていないから、惨めな生活を送るハメになるんだよ、鷹尾。お前の築いた犯罪組織は崩壊寸前だ。仲間からこれ以上、裏切り者が出ないよう、精々気を付けるんだな。」

 僕はそう呟いて笑うと、ベッドの中で眠りに就いた。

 作戦六日目。

 午後9時過ぎ。

 僕はマリアンヌに頼んで、とあるメッセージ入りのメッセージカードを作ってもらった。

 僕はそのメッセージカードを持って、イヴの泊まっている部屋を訪ねた。

 部屋のドアを二回ノックすると、僕は言った。

 「イヴ、僕だ。宮古野 丈だ。今、部屋に入ってもいいかい?」

 「入るがいい、婿殿。鍵は開いているぞ。」

 僕はイヴの部屋へと入った。

 部屋の椅子に腰かけて、ゆっくりと紅茶を飲んでいるイヴに、僕は言った。

 「イヴ、第六作戦を決行する時が近づいて来た。実は、このメッセージカードを1万枚ほど複製して、それから刑務所の男どもにバラまいてほしい。」

 僕は笑いながら、とあるメッセージが書かれたメッセージカードを、イヴに渡した。

 メッセージカードのメッセージを見て、イヴは思わず目を見開き、それから笑い始めた。

 「プハハハ!これはまた過激なメッセージだな!淫乱な女そのものだ!しかし、先日の覗き魔事件のせいで、男どもが婿殿の仕掛けた罠だと気付いて引っ掛からない可能性も考えられはしないか?」

 「確かにそれは考えられる。だけど、連中は昨日、刑務所が崩壊した影響で食料のモンスターたちが死んでしまった。血に飢え、体は傷つき、大量のゴミの処分、ゴミや瓦礫から放たれる悪臭、雨風や弱点の日光をしのぐ場所を失い、深刻な水不足でトイレも風呂も飲み水にも困り、全員、刑務所以下の史上最悪のホームレス生活に追い込まれ、ストレスはすでに極限状態だ。連中の中には性犯罪者も多い。連中全員が妻ケ丘の奴を襲う必要はない。一万人いたら、その内の5人か10人でも構わない。ストレスで思考が鈍っている男どもが、僕の用意した偽のメッセージカードに引っかかり、ストレスや性欲を発散するため、妻ケ丘をレイプしようと襲いかかる、と、こういう筋書きだよ。刑務所の男性陣と女性陣の信頼関係は上手くいけば、この作戦でほぼ完全に崩壊する。勝算はないわけじゃないよ、イヴ。」

 「フハハハ!さすがは婿殿だ!元「弓聖」たち一行への飽くなき復讐心と、復讐の緻密さにはいつも感心させられるぞ!婿殿の作戦通りに事が運べば、元「弓聖」たち一行の信頼関係は破綻寸前になるであろう!では、早速、複製にとりかかろう!この程度のカードの複製ならば、3分もあれば、1万枚の複製を作ることは可能だ!妾に任せるがいい、婿殿!」

 「ありがとう、イヴ。複製ができたら、それをこの後、午後11時に刑務所内にいる男たちの下へと転送して、バラまくことにする。一緒にシーバム刑務所へ行って、メッセージカードをバラまくとしよう。その後、刑務所内で騒動が起こったタイミングで、いつものプレゼントをお見舞いしてやるとしよう。」

 「了解だ、婿殿。」

 それから、イヴは僕が用意したメッセージカードの複製を1万枚、作製した。

 午後10時50分。

 僕とイヴの二人は、とあるメッセージ入りのメッセージカード1万枚を携えて、夜のシーバム刑務所へと、瞬間移動でやって来た。

 「霊視」で刑務所内を透視しながら、僕は言った。

 「夜だと言うのに、ヴァンパイアロードたちの顔はみんな、精気が無くて、暗いな。悪臭の漂う大量のゴミと瓦礫の山に囲まれ、血も満足に吸えていないし、深刻な水不足ではあるし、寝床である刑務所さえ失った。傍から見たら、汚れたボロボロのホームレスの集団にしか見えないな。まぁ、国を乗っ取ろうなんて悪巧みを考えて、散々悪事を行ってきた、同情の余地は一切ない悪党どもだし、全然気の毒だなんて、これっぽちも思わないけど。さて、偶には趣向を変えて、女のヴァンパイアロードをマスクのモデルにするとしよう。イヴ、「白光聖騎士団」の元女聖騎士の下っ端のヴァンパイアロードをここに転送してもらえるかい?」

 「ふむ。少々待っていろ、婿殿。」

 イヴがヴァンパイアロードを選んでいる間に、僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出すと、霊能力のエネルギーを流し、右手に持つ如意棒を、黒い鉄扇へと素早く変形させた。

 僕が準備を終えた頃、イヴの瞬間移動で、一匹の女ヴァンパイアロードが僕たちの目の前に転送されてきた。

 「えっ!?」

 困惑する女ヴァンパイアロードの首筋に、僕は鉄扇を向けると、鉄扇の先から眠り薬の効果のある金色の毒針を放った。

 毒針が刺さると、女ヴァンパイアロードはその場で昏倒し、眠った。

 僕は女ヴァンパイアロードに認識阻害幻術をかけた。

 それから、黒い鉄扇を黒いナイフへと変形させると、女ヴァンパイアロードの右の手の平をナイフで斬り裂いた。

 腰のアイテムポーチからドッペルゲンガーマスクを一枚取り出すと、女ヴァンパイアロードの右手をマスクに押し付け、マスクの表面に血を塗りたくった。

 女ヴァンパイアロードの頭にナイフを突き刺して殺害すると、死体をアイテムポーチへとしまった。

 ドッペルゲンガーマスクを頭から被ると、僕の顔は殺害した女ヴァンパイアロードそっくりに変わった。

 ダークグリーンのロングストレートヘアーに、白い肌、赤色の瞳を持つ二重瞼の、20代前半の元聖騎士の女ヴァンパイアロードの顔へと変身したのであった。

 「マスクの変身は問題なし。自分の声が女性なのは、ちょっとおかしな感じもするな。けど、「白光聖騎士団」の元聖騎士の女ヴァンパイアロードに化けた僕が、このメッセージカードを配ったかもしれない、そうなったら、鷹尾たちの中の女性メンバーと、「白光聖騎士団」の女ヴァンパイアロードたちとの間で女の争いが勃発するかもしれない。特に、妻ケ丘の奴は八つ当たりしまくるに違いない。クズ女同士の醜い争いまで見られるかも。」

 僕は笑いながらそう言うと、ドッペルゲンガーマスクを脱いだ。

 「クックック。婿殿は本当にえげつないことを思いつくものだ。女同士での争いまで引き起こそうとは、実に恐ろしい。作戦が上手くいくことを祈るばかりだ。」

 イヴが笑いながら言った。

 午後11時。

 ついに、第六作戦を開始する時がやって来た。

 ヴァンパイアロードたちは皆、テントや廃材を利用して、それらを部屋代わりに利用して生活している。

 弱り切っているヴァンパイアロードたちの大半は、体力を無駄に消費しないよう、自分たちにとって一番活動しやすい夜にも関わらず、自分の生活スペースで静かに眠っていた。

 わずかではあるが、起きているヴァンパイアロードたちもいる。

 「イヴ、このメッセージカードを寝ているヴァンパイアロードの男たちの顔の上に転送してくれ。」

 僕はアイテムポーチからメッセージカードの束を取り出し、イヴに手渡しながら言った。

 「フフっ、了解だ。婿殿だ。」

 イヴがメッセージカードの束を左手で受け取ると、右手の指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、イヴの手の上にあったメッセージカード1万枚の束は消え、寝ている元囚人のヴァンパイアロードの男たちの顔の上へと転送された。

 しばらく様子を見ていると、顔の上に落ちてきたメッセージカードに気付き、眠っていたヴァンパイアロードの男たちが、少しづつ目を覚ました。

 大半のヴァンパイアロードの男たちは、メッセージカードに書かれたとあるメッセージの内容を呼んで驚き、メッセージを疑っている様子である。

 だが、何人かの男たちは疑いつつも興奮した表情を見せ、こっそりと自分の寝ていたテントを抜け出し、妻ケ丘が寝ている北側の棟の跡地のテントへと、続々と歩いて向かい始めた。

 男たちに送り付けたメッセージカードには、次の内容がメッセージとして書かれていた。

 

  私をなぐさめて、ダーリン?夜はアソコが うずくの♥️


              by 妻ケ丘 恋

                          

 「良し。こちらの狙い通りだ。馬鹿な男どもが10人ほど、妻ケ丘のいるテントに向かい始めたぞ。たっぷりと可愛がってもらえよ、クソビッチ。」

 妻ケ丘のいるテントの周りに、興奮した表情の男たちが集まった。

 男たちは音を立てないよう、妻ケ丘のテントの中へと入っていった。

 そして、眠っている妻ケ丘に近づくなり、妻ケ丘の両手両足を一気に抑え、口を塞ぎ、ズボンを下ろして、眠っている妻ケ丘をレイプしようと襲いかかった。

 異変に気付いた妻ケ丘が叫び声を上げようとするが、口を塞がれ、さらに両手両足を抑えつけられ、必死に抵抗しようと暴れるが、興奮した男たちは妻ケ丘の服を破り捨て、妻ケ丘をレイプしようとする。

 興奮した一人の男が勃起した男性器を妻ケ丘の股間に挿入しようと迫った瞬間、妻ケ丘の全身が青く光り輝き、全身から薄い青色のガスのようなモノが発生し、妻ケ丘のテントの中にガスが充満した。

 青いガスを吸った瞬間、妻ケ丘をレイプしようと襲いかかったヴァンパイアロードの男たちは全員、トロンとした目付きになり、恍惚とした表情を浮かべながら、その場で急に倒れて、眠ってしまった。

 何とか男たちからのレイプを免れ、窮地を脱した妻ケ丘であったが、自分をレイプしようとして、傍で返り討ちに遭って眠っている男たちを見るなり、真っ赤な顔を浮かべ、怒り狂い、金切り声をあげながら、自分の愛用の剣を掴み、男たちの頭を剣で叩き斬り、テント内で暴れ回った。

 「このレイプ魔野郎ー!?超振動斬!このっ!?このっ!?このっ!?~」

 妻ケ丘は大きな声を上げ、レイプ魔の男たちの頭を剣で叩き斬りながら、テント中を血の海にするような勢いで、猛烈に暴れまくった。

 騒ぎを聞きつけ、鷹尾たちや「白光聖騎士団」の元聖騎士たち、他のヴァンパイアロードたちが慌てて駆け付け、暴れ回る妻ケ丘を取り押さえ、血の海となった凄惨な現場を見ながら、妻ケ丘から話を聞き始めた。

 一連の様子を見ていた、僕とイヴは、妻ケ丘たちのいるテント、レイプ未遂事件の現場から少し離れた場所から、レイプされそうになり、怒り狂って自分をレイプしようとした男たちを殺した妻ケ丘と、困惑する鷹尾たちの姿を笑って見ていた。

 「アハハハ!作戦成功!僕の言った通りになっただろ、イヴ?色欲の堕天使と融合したあのクソビッチにはお似合いの嫌がらせだとは、そう思わないか?」

 「プハハハ!全くその通りだな!所詮は常識や倫理を持たない、更生不可能な犯罪者どもの寄せ集めだ!精神を支配しても、性欲までは支配できまい!性犯罪者なんぞを手下に使って悪事を働く報いと言えよう!あの女の、自分がレイプされそうになった時の恐怖で歪んだ表情は実に滑稽であった!しかし、色欲の堕天使と融合した割に、意外とウブであったな、あの女?男たちに犯されるのを逆に喜び、乱交騒ぎでも起こすのではと妾は思いもしていたが、少々予想外であった。」

 「妻ケ丘がクソビッチなのは本当だぞ。死んだ剣聖の前田やその取り巻きの連中全員と付き合っていたって話を聞いたことがある。あの単純馬鹿のクズ男どものどこに惹かれたのかは全く分からんが、クズ男をとっかえひっかえ付き合う、クソビッチだって、他の女子たちから陰口を叩かれているのを前に聞いたおぼえもある。アレだ。ダメな男が好きなタイプって奴だ。見かけだけ、口先だけの男に貢いで、ヒモにして、とことん依存して甘やかすダメな女のテンプレみたいな奴なんだよ、妻ケ丘は。最終的に重いとか言われて、適当に遊ばれて、男と関係が終わって、また、次に依存する男を見つけて付き合う、そのクソみたいな恋愛ループを永遠に繰り返すクソビッチってわけだ。クソビッチと言われる割に、男からは深く付き合いたくはないから、いまだに誰にも手を出されず、処女のままなんじゃないのか?まぁ、恋愛経験皆無の僕の、主観的で独りよがりの推測に過ぎないけど。」

 「いや、婿殿の考えている通りかもしれん。ダメな男が好きとか言って、男に依存したり、恋愛をしている自分に夢中になったりして、客観的に自分や周りのことが見えん女なのかもしれんぞ、あの女は。面食いで振られてばかりで恋愛が長続きしない、あのリリアとよく似ている。恋愛観までそっくりでダメな人間を勇者に選ぶとは、本当に馬鹿な女だ、アヤツは。」

 「なるほど。どうして島津が「光の勇者」に選ばれたのか、分かったぞ。島津の奴はイケメンだったからな。学校一モテる超の付くイケメンだった。王女のマリアンヌが一瞬で一目惚れするほどな。あのクソ女神め、顔で勇者を選んでいたのかよ。本当に碌でもない奴だな。面食いのクソ女神め、一生男にモテないくらいに顔面をボコボコにいつかこの手でぶん殴ってやる。」

 僕はイヴからリリアのクソみたいな恋愛観を聞き、リリアへの怒りを露わにした。

 「さて、面白いモノが見れたし、夜も遅いし、作戦は無事、終了したってことで、大使館に帰るとしよう。他のみんなには朝食の時にでも作戦が成功したことを報告するとしよう。いや、でも、メルにはちょっと聞かせられないな。なら、メル以外にこっそりと伝えるとしよう。おっと、いけない。いつものプレゼントを忘れてた。イヴ、キバタンとドッペルゲンガーマスクを連中の前に転送してくれ。」

 僕は腰のアイテムポーチから、キバタンの入ったケージとドッペルゲンガーマスクをそれぞれ取り出した。

 イヴがキバタンとドッペルゲンガーマスクを妻ケ丘たちの前へと転送した瞬間、僕はキバタンとドッペルゲンガーマスクにかけていた認識阻害幻術を解除した。

 「ツマガオカ レン、クソビッチ!ツマガオカ レン、クソビッチ!ツマガオカ レン、クソビッチ!~」

 夜のシーバム刑務所に、キバタンの嫌がらせのメッセージを何度も繰り返す大きな鳴き声が響き渡った。

 キバタンの発するメッセージを聞き、怒り狂う妻ケ丘の叫び声が僕たちの下に聞こえてきた。

 「それじゃあ、引き続き最高の夜を楽しんでくれたまえ、クソビッチ諸君。イヴ、転送を頼む。」

 こうして、第六作戦を無事、成功させた僕とイヴの二人は、首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 イヴと別れ、自室に戻ると、僕は服を着替え、盗聴の録音作業をした後、自室のベッドの上に寝転がった。

 「男たちにモテモテの夜を過ごせて最高の気分だったろ、妻ケ丘、ストララルド。お前らクソビッチの夢を叶えてやったこの僕に感謝しろよ。まぁ、プレゼントした男たちがいまいちお気に召さなかったようだけど。クソビッチの癖して、相手してもらえるだけでも感謝しろっての、まったく。さて、刑務所内の男女間の分裂はこれでますます広がったはずだ。メッセージカードを配ったのが元聖騎士の女に化けた僕かもしれないと勘違いして、女同士で喧嘩するかもな。案外、今頃、喧嘩の真っ最中だったりして。クソビッチ同士の醜いキャットファイトを直接拝めないのは少々、残念だな。「魅了幻夢」、奴らの能力も直接確認できたのは収穫ではある。僕たち「アウトサイダーズ」には大した脅威にはならないな。クソビッチに魅了されるような人間は僕たちの中には一人もいないし。鷹尾、お前の犯罪組織はこれでさらに崩壊に近づいた。崩壊までのカウントダウンが始まったわけだが、果たしてお前に止める力も時間も残されているかな?」

 僕は笑みを浮かべながらそう呟くと、ベッドの中に入り、眠りに就いた。

 作戦七日目。

 午前9時。

 大使館の一室で、パーティーメンバーたちと一緒に朝食を食べ始めようとしていると、玉藻が指輪型受信機を持って、僕の方へとやって来た。

 「丈様、朝食前に失礼いたします。元「弓聖」たち一行の討伐に関して、緊急にご報告したいことがございます。よろしいでしょうか?」

 「ああっ、もちろん構わないよ。ぜひ、ここにいるみんなにも教えてくれ。」

 「かしこまりました。私の持っている受信機ですが、食料保管庫に仕掛けた盗聴器と対になる受信機になります。受信機に録音した内容を今朝、確認したところ、少し気になる内容が聞こえてきました。これより再生いたします。よく聞いていてください。プレイバック!」

 玉藻が受信機に向かって呪文を唱えた。

 それから、受信機に録音した、盗聴器が拾った鷹尾たちの会話を再生し始めた。

 受信機の先端部分の紋章部分、ベゼルを左回りに回しながら、再生を早送りした。

 「ここです、丈様。二時間前の、食料保管庫前での会話になります。よく聞いてください。」

 玉藻に言われ、僕や他のメンバーたちは、受信機から聞こえてくる録音内容に耳を澄ませた。

 『お疲れ様、乙房さん。昨日から本当にね。妻ケ丘さんの気分は何とか落ち着いてくれたわ。男性不信気味な感じはまだあるけど、とりあえず大丈夫よ。テント前の見張り、協力ありがとう。』

 『お疲れ様、鷹尾さん。恋、相当、傷ついた様子だったわ。宮古野の奴、マジ最低。女の子をレイプさせようとするなんて、アイツ、マジで最低のクズよ。いくら私たちが憎いからって、復讐するにも限度ってモンがあるでしょ!アイツ、マジで頭狂ってるわ!』

 『それだけ、私たちへの復讐心で彼の心も頭もいっぱいで、私たちに復讐するためなら、何だってする、そんな風に変わってしまった、というところよ。あのおとなしかった宮古野君を凶悪犯も顔が青ざめるほどの復讐鬼に変えてしまった、彼を処刑した私たちにも全く原因がないわけじゃあない。私たち全員を殺すまで、彼の執拗な復讐は続く。そう覚悟しておかなきゃいけない。だけど、このまま私たちも黙ってやられっぱなしとはいかない。いずれ、対抗策は見つけるわ。だから、安心して。それより、今は朝食を食べて、刑務所の片づけをするのがまず先よ。ああっ、乙房さん、今日の仕事の内容についてこの紙にメモしておいたから、後で必ず読んで確認しておいて。全く、宮古野君のせいでこうも計画を邪魔されるとは困ったものね。お互い、ゴミ掃除を頑張りましょう。』

 『分かったわ、鷹尾さん。宮古野の奴、今度会った時は絶対にこの手でぶっ殺してやるんだから。蛙にでも変えて、踏みつぶしてやるわ。ったく、食料庫の食べ物にまでゴミをぶちまけやがって。おかげで食べれる食べ物を探すのだって一苦労よ。ホント、ムカつく。』

 そこで玉藻は、録音した鷹尾たちの会話の再生を止めた。

 僕は首を傾げながら、玉藻に訊ねた。

 「テロリストで連続殺人犯のお前たちに最低呼ばわりされるおぼえはないっての。自分の顔を見てモノを言え、クソ犯罪者ども。ええっと、玉藻、今の鷹尾たちの会話のどこに、引っかかる部分があったかな?ただ、朝食の食料を取りに来て、後、僕への勝手な悪口を言っていただけにしか聞こえないが?」

 「確かに、ただの朝食前の雑談程度にしか聞こえません。ですが、会話の最後の部分を思い出してください。元「弓聖」は、今日の仕事の内容についてメモした紙を仲間に渡して指示していました。覚えていらっしゃいますでしょうか?」

 「んっ!?ああっ、ちゃんと覚えてるよ。でも、仕事の内容をメモに書いて指示するくらい、普通のことに聞こえるが?」

 「ええっ、普通のことのように聞こえます。けれど、ここ数日の間、元「弓聖」たち一行の会話を盗聴していた限り、元「弓聖」が仲間や手下たちに、自分が書いたメモを渡して仕事を指示することは、これまで一切ございませんでした。いつも口頭にて、直接指示を行っていました。任せる仕事の内容が多くて複雑で、口頭では伝え切れず、文章にして指示を伝達した、とも考えられます。しかしながら、元「弓聖」たち一行は昨日まで、刑務所にばらまかれた大量のゴミや刑務所の瓦礫の処理、刑務所内の掃除、害虫駆除など、やっていることは刑務所の単純な清掃業務だけです。刑務所は今だゴミの山です。日中は手下のヴァンパイアロードたちも活動ができず、人手不足な状況です。そんな状況の中、わざわざ複雑な指示内容を紙に書いて渡し、複雑な仕事を任せようと指示するのには、違和感を覚えます。これはあくまで私個人の推測ですが、元「弓聖」は何か新たな犯罪計画を思いつき、その計画を私たちに悟られぬよう、何気ない会話の中で犯罪計画に関する指示をメモした紙を仲間にさり気なく渡した、そして、新たな犯罪計画を実行しようと企んでいるのでは、というのが私の意見です。いかがでしょうか、丈様?」

 玉藻の推測を聞き、僕はその場でしばらく考え込んだ。

 それから、玉藻の方を見ながら言った。

 「玉藻の意見も一理あるかもしれない。鷹尾はこれまで口頭で全て仕事を指示していた。もしかしたら、僕たちにどこかで自分たちの会話が盗聴されているかもしれないと思い、さり気なく、僕たちに気付かれない形で新たな犯罪計画に関する指示を書いたメモを配って渡した、とも考えられなくもない。他の受信機の録音内容も聞いてみよう。乙房以外の、他の五人にも何かしらメモを渡して指示しているかもしれない。午前中の内に刑務所に潜入して、鷹尾たちの行動を探ってみるとしよう。連中がまた、新しい犯罪計画を思いついたと言うなら、全力で潰すまでだ。ついでに、第七作戦も実行する。お前たちに反撃のチャンスなんてモノは一切、与えない。待っていろ、クソ犯罪者ども。」

 僕は元「弓聖」たち一行が新たな犯罪計画を実行しようと企んでいるかもしれないと知り、連中の犯罪計画を完全にぶち壊すべく、闘志を燃やした。

 僕と玉藻の話を聞いていた他のパーティーメンバーたちの目にも、闘志の炎が浮かんでいた。

 朝食を急いで済ませると、僕たちはそれぞれ、受信機の録音させた会話内容に耳を澄ませた。

 そして、約二時間前から、鷹尾が他の仲間たちに、仕事内容を書いたメモを渡して指示しているのを確認した。

 メモが書かれた紙を呼んだ下川、下長飯、乙房、早水、妻ケ丘、都原、他の六人の仲間全員が、メモを呼んだ直後、メモが書かれた紙を細かく破いて捨てる音まで聞こえてきた。

 「全員がメモを呼んだ直後にメモの書かれた紙をバラバラに破いて捨てる、なんて、怪しいな。玉藻の懸念通りだ。ただの清掃業務の指示じゃない。明らかに他人には知られたくない内容を書いたメモだ。連中が新しい犯罪計画を考えている可能性が高まった。こうなったら、こっちもスタメンフルメンバーで乗り込むとしよう。今に見ていろ、クソ犯罪者ども。お前たちの目の前で、新しい犯罪計画とやらを最悪の形でぶち壊してやる。」

 午前10時30分。

 僕は、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、スロウの主力メンバーを、大使館のエントランスホールへと集めた。

 メンバー全員が集合すると、僕はみんなに話しかけた。

 「これより、シーバム刑務所へと潜入を行う。今回の潜入の目的は、当初より予定していた第七作戦の実行と、元「弓聖」たち一行が新たに企む犯罪計画の阻止、この二つにある。特に後者の方が優先だ。何が何でも、元「弓聖」たち一行の犯罪計画を阻止する。刑務所に到着後、敵の警備体制を目視で再確認した後、元「弓聖」たち一行の動向を探る。鷹尾たち七人がそれぞれ何をしていて、どのような犯罪計画を行おうとしているのか、みんなには探ってほしい。認識阻害幻術で姿を完全に消してはいるが、連中に悟られぬよう、気を付けて行動してくれ。連中の動向について分かったら、僕の下まで報告を頼む。敵の犯罪計画が分かり次第、計画を阻止するために作戦を開始する。敵の犯罪計画を阻止した後、第七作戦の実行に移る。二つの作戦で敵にダブルパンチを与えるぞ。作戦は以上だ。みんなから他に質問はあるかい?」

 「特に質問はございません、丈様。」

 「俺も特にはねえな。」

 「私も質問はない。」

 「我も質問はない、ジョー殿。」

 「アタシも特にはないじゃんよ。」

 「妾も質問はないぞ、婿殿。」

 「ウチも質問ナッシングだよ、ジョーちん。」

 玉藻たち他のパーティーメンバーたちが口々に答えた。

 「それでは、シーバム刑務所へ乗り込むとしよう。イヴ、刑務所まで転送を頼む。」

 「フフっ、了解だ、婿殿。」

 イヴがそう言って、右手の指をパチンと鳴らした。

 目の前の景色がグニャリと歪んで見えた直後、僕たち八人はイヴの瞬間移動でシーバム刑務所の中へと転送された。

 「ウワっ、マジで臭ええー!?アタシの鼻に諸にくるぜ、コイツは!そこら中、ゴミだらけじゃねえか?マジで生ゴミ臭ええ!クソ勇者ども、よくいまだに根を上げねえな!とっと降参しろじゃんよ!」

 「これはまた、想像以上の悪臭でございますね。あまりに不衛生で、とても人間の住める環境ではありません。住んでいるのは全員、犯罪者以下の化け物どもではありますが。衛生観念まで欠如しているようですね、ここで暮らしている者たちは。」

 「こりゃ、マジで臭ええな。ゴブリンの巣の方が100倍マシなくらい、滅茶苦茶汚ねえ。まぁ、ゴブリン以下の外道どもにはゴミ山が住処としてお似合いだがな。」

 「害虫以下の犯罪者どもには生ゴミでできた家がお似合い。生ゴミですら贅沢過ぎる。さっさとゴミと一緒に連中を焼却処分して駆除すべし。」

 「元「弓聖」どもめ、悪足掻きをしよって。ゴミまみれにされてもいまだに降伏せずに悪事を働こうとは、全くどこまでもしつこい油汚れの如き連中である。我が剣にていずれ全員、成敗してくれる。」

 「妾たちに散々、やられており、すでに虫の息の状態にも関わらず、いまだに悪事を止めようとはせず、ゴミの山の中でコソコソと動き回りおって、実に不愉快な連中だ。連中の欲深さと図太さには呆れて物が言えん。本当にゴキブリのような連中だ。とっとと全員、ゴミの山ごとブラックホールで消し飛ばしてやりたいものだ。」

 「ホント、マジ臭ええー!プララルドたち、もう完全に鼻がイカれてるっしょ!アイツら、完全にムキになって、マジで周りが見えてないっしょ!アイツらと縁切って、リッチな勇者のジョーちんと出会えて、ウチ、ホント良かったわ~!元刑務所のゴミ山でホームレス生活なんて、ウチ、マジで無理ですわ~!」

 グレイ、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、イヴ、スロウが、現在の悪臭漂う、目の前のシーバム刑務所の惨状を見て鼻を手で押さえながら、それぞれ嫌悪感を露わにした。

 「みんなの言う通りだよ、全く。僕とイヴなんて、ここにほぼ毎日来るハメになって、鷹尾たちがおとなしく降伏してくれれば、こんな悪臭漂うゴミの山を訪れる必要は全くないんだ。ゴキブリ並み、いや、それ以上に図太いクソ犯罪者どもだ。堕天使の封印なんて余計な仕事さえなければ、すぐに皆殺しにできるのに。まぁ、みんな、辛抱してくれ。連中全員を地獄へと叩き落す処刑ショーのフィナーレ開始まで後、ちょっとだ。とにかく、連中の新たな犯罪計画をまずは阻止するぞ。」

 僕はそう言って、みんなを励ました。

 「霊視」で刑務所内を透視し、鷹尾たちの行動を探った。

 「リーダーの鷹尾は、刑務所北側の棟があった場所の地下にいる。下川は元囚人のヴァンパイアロードたちのいる、独房棟のあった場所をうろついている。下長飯と乙房がグラウンドにいる。馬鹿でかい檻の前に立って、何かしているな。妻ケ丘と都原は、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちがいる、西側の棟があった場所をうろついている。男どもへの敵意丸出しだな、おい。コートを被りながら、日差しを避けて、妻ケ丘のお守りをしながら仕事をするハメになるとは、都原も大変だな。おや、早水の姿が見えないな。アイツ、どこにいるんだ?」

 「婿殿、お探しの女なら、グラウンドに深い穴を掘っている様子だぞ。今も手足をモグラのように変身させて、地中深く掘り進んでいるぞ。後、刑務所内にトラップらしきモノは特に設置されてはいないぞ。」

 「おっ、本当だ。早水は穴掘りか。新しくゴミを捨てる穴を掘っている、なんてわけないよな。何かあるはずだ。さて、なら、早速偵察に行くとしますか。鷹尾の方は僕とスロウで担当する。酒吞とエルザは、ヴァンパイアロードたちの近くにいる下川を探ってくれ。グラウンドにいる下長飯と乙房、早水は、鵺とイヴに連中の偵察を頼む。玉藻とグレイは、元聖騎士たちの近くにいる妻ケ丘と都原の偵察を頼む。連中が一体、何をしていて、何を企んでいるのか、詳細が分かり次第、僕に報告してくれ。では、各自、散開!」

 「「「「「「「了解!」」」」」」」

 僕たちは元「弓聖」たち一行の動向を探るべく、行動を開始した。

 僕とスロウの二人は、認識阻害幻術で姿を消して、ゴミと瓦礫の山である刑務所内を通りながら、鷹尾のいる、崩れた刑務所北側の棟の地下へと向かった。

 刑務所北側の棟は崩れてはいるものの、地下の部屋へと続く階段を塞いでいた瓦礫は取り除かれ、地下の部屋へと続く階段への入り口がぽっかりと空いていた。

 「スロウ、階段を歩く時は注意しろよ。階段に小石があったりする。うっかり蹴り飛ばして、音を立てたら気付かれるからな。慎重に行くぞ。」

 「OK、ジョーちん。こっそりと、音を立てずに潜入だね。」

 僕たち二人は、音を立てないよう、地下へと続く階段を下りていく。

 階段を下りていくと、その先には、ゾイサイト聖教国の首都にある宮殿の地下へと移動するための、転移魔法の巨大な魔法陣が床全体に描かれた、大きな地下室があった。

 地下室の中央、魔法陣の中心に、鷹尾は一人立っていた。

 僕とスロウの二人は、鷹尾の背後、5m後方まで近づき、耳を澄ませた。

 鷹尾は、自身と融合した傲慢の堕天使、プララルドと何やら話をしている様子であった。

 『スズカ、お前の完璧な犯罪計画とやらはいつになったら、成功するんだ?俺様は面白いことが一緒にできる、そうお前が言ったから、お前に手を貸してやってきた。けどよ、最近のお前は「黒の勇者」とやらにやられっぱなしじゃねえか?俺様の催眠で男どもは全員、自分がゲイだと思い込ませた。けど、人間の本能はいくら俺様の「完全支配」でも完全には抑えつけられねえ。いずれ、ボロが出るぜ。吸血鬼どもに限って言えば、血に飢えて、ほとんど使い物にならねえ。人間用の食い物を与えちゃいるが、連中の空腹も渇きも抑えるのは無理だ。刑務所はと言えば、馬鹿どもの暴走のせいですっかり瓦礫の山だ。大量の臭ええゴミまでぶちまけられ、毎日鼻が曲がりそうだぜ。手下どもの結束力も、お前への求心力も下がりつつある。おまけに、いまや刑務所ごと封印されて、俺様たち全員、閉じ込められちまった。俺様も「黒の勇者」とやらを舐めていたのは認めるぜ。だがよ、スズカ、お前がこれ以上、何も面白いことができねえ、つまんねえ女で終わるなら、俺様も、他の堕天使どもも、お前との契約を終了する。そこら辺、ちゃんと分かっているだろうな?』

 「もちろん分かっているわ、プララルド。私も宮古野君、「黒の勇者」への分析や対策が甘かったことは反省しているし、理解している。彼や彼の仲間たちの戦力をもっと詳細に把握するべきだった。けど、私の犯罪計画はまだ、終わってはいない。むしろ、これからよ。ここ数日、私はただ、ボーっと見ていたわけじゃない。「黒の勇者」の行動や能力、そして、彼の裏をかく新たな作戦について考えていた。すでにいくつかの計画の軌道修正案は考えてある。そして、その内の一つをこれから実行する予定よ。作戦は着々と進みつつある。「黒の勇者」、宮古野君がこの私にアイディアをくれたの。彼のアイディアの一つを逆に利用させてもらうつもりよ。きっと、あなたにも満足してもらえるはずよ、プララルド。」

 『ほぅ。「黒の勇者」からヒントを得た作戦ねぇ。ソイツで一泡吹かせようと言うわけか。そりゃ、また面白れえじゃねえか、スズカ。他にも作戦があると言ったな?ギャハハハ、こりゃ、楽しみだぜ。期待してるぜ、スズカ。』

 「ええっ、期待していてちょうだい、プララルド。今回の作戦はちょっとした実験でもあるわ。成功すれば、大収穫、例え失敗しても、私たちは貴重なデータを得ることができる。宮古野君にこの私が考えた新たな犯罪計画は決して防ぎ切ることはできない。ゾイサイト聖教国政府を陥落させる日も、そう遠くはない。最初の作戦がどういう結果になるか、楽しみだわ。」

 鷹尾はそう言って、自信満々の笑みを浮かべながら言った。

 鷹尾とプララルドの会話を聞くのを止め、僕とスロウは階段の方へと引き返し、地下室を出て、階段を上り、入り口を抜けて地上へと出た。

 「鷹尾め、やっぱり新しい犯罪計画を考えていやがった。あの犯罪オタクの冷酷クソ女め。何か犯罪をしないと満足しない、イカれた性分らしい。しかし、この僕の作戦から、これまでに僕が実行した嫌がらせから、新しい犯罪計画を思いついただと?しかも、失敗しても問題ない、僕に防ぎ切ることは不可能な犯罪だとか言っていたな?人の作戦をパクろうとしたくらいでいい気になりやがって。こうなったら、徹底的にアイツらの作戦をぶち壊してやる。何をやろうとしても無駄だと、連中に絶望を味わわせてやる。僕の復讐心を舐めたことを改めて後悔させてやろうじゃないか。」

 鷹尾が僕の作戦を自身の犯罪計画のヒントに使ったと聞き、復讐を汚されたことへの怒りから、僕は激しい闘志を剝き出しにした。

 「ジョーちん、マジで怒ってる。今まで以上にパナい怒りっぷりだわ。プララルドの奴、まだあのクソ女勇者に肩入れしてるし。どう考えても、お前らに勝ち目なんてないっての。ウチらが後ろに立ってるのに全く気付いてねえし、作戦丸聞こえだっつの。プララルド、後、他の奴らも、マジで完全に頭イカれちゃってるわ~。」

 スロウが激しい怒りを露わにする僕を見ながら、鷹尾たちを見て呆れたようなことを言った。

 「スロウ、グラウンドに向かうぞ。鵺とイヴの二人が、何か新しい情報を掴んでいるかもしれない。」

 僕はスロウとともに、すぐ近くにある刑務所のグラウンドへと向かった。

 グラウンドの中央には、巨大な黒い檻の前にいる、下長飯と乙房が作業をしていた。

 檻のすぐ右横には巨大で深い穴が掘られていて、穴の中では早水が掘削作業を続けていた。

 そして、下長飯たちのすぐ後ろに、認識阻害幻術で姿を隠した鵺とイヴの二人が立っていた。

 僕は鵺とイヴの二人に声をかけた。

 「お疲れ様、二人とも。鷹尾が新しい犯罪計画を実行しようとしていることが分かった。僕のこれまでの作戦をパクった作戦を実行するとか言ってたぞ。」

 「お疲れ様だ、婿殿。目の前にいるツインテールの女を見てみろ。捕まえた鼠に、改造を施している。手足はモグラで、全身の毛は鉄のように硬く鋭い致死性の猛毒を持った針に改造されている。口の中の上下の歯も異常に長く伸び、ダイヤモンドさえ嚙み砕くほどの硬度にまで強化されている。だが、もっと恐ろしいのは、鼠たちの体内にある各種病原菌、ウイルスの毒性まで強化されている点だ。もし、この改造された鼠に噛まれでもしたら、人間はたちまち複数の感染症に罹り、最悪、死亡することになる。この鼠が原因で恐ろしい感染症が蔓延し、大勢の死者が出る危険性がある。実に恐ろしい生物兵器だ。この改造された鼠が、そこにある黒い檻の中に大量にいるぞ。恐らく、この生物兵器と化した鼠を地下から放つ計画ではないかと、妾と鵺は考えている。」

 「丈君、今、元「弓聖」たち一行が掘っている穴だけど、連中は刑務所を覆っている地下の結界の、結界に触れるギリギリまで掘り進んでいるみたい。結界が見えないと、穴を掘っている女がぶつくさと言っているのを聞いた。モンスターじゃない、けど、改造をした鼠なら、地下の結界から弾かれず、通過できる、そう考えたに違いない。」

 イヴと鵺から報告を聞き、僕はようやく鷹尾の考えた作戦の意図を理解した。

 「ありがとう、二人とも。そうか。そういうことか。生物兵器に改造した鼠をこっそり刑務所の地下から放って、地下からゾイサイト聖教国へと改造した鼠を放ち、鼠たちを使って攻撃させる作戦、というわけか。僕がキバタンを騒音爆弾へと仕立て上げた作戦を参考にしたわけか。けど、キバタンたちほど、鼠は賢くはない。となると、鷹尾が鼠に攻撃命令を洗脳して教え込んで、それから解き放つつもりか。この刑務所には大量のゴミと一緒に、大量の鼠を送りつけた。大量のゴキブリや蝿、その他の害虫もだ。刑務所の地面の下には無数の蟻やダニだっている。なるほど、生物兵器として強化改造できる生物はいくらでもいる。だから、失敗しても問題ない、良い実験になる、なんて自信満々に鷹尾が言っていたわけだ。生物兵器を使ってバイオテロを起こそうだなんて、冗談じゃない。無差別に大勢の人間を生物兵器で殺す、そんな悪事は断固阻止だ。下川や妻ケ丘、都原が探し回っていたのは、改造する鼠や、これから改造する他の害虫害獣を捕獲するために違いない。偵察に向かっている他の四人を今すぐ呼び戻そう。それと、連中のバイオテロ計画を阻止するぞ。鷹尾たちめ、バイオテロなんて思いついたその狂った頭に、キツい正義と復讐の鉄槌をぶち込んでやる!」

 僕はバイオテロを起こそうと計画する元「弓聖」たち一行に対し、抑えきれないほどの怒りをおぼえた。

 偵察に向かっていた玉藻、グレイ、酒吞、エルザの四人を呼び戻すと、やはり予想通り、下川、妻ケ丘、都原の三人は、鼠やゴキブリといった害虫害獣たちを、ゴミと瓦礫の山から探しては見つけ、アイテムポーチに入れて回収していた、とのことだった。

 「元「弓聖」たち一行は刑務所内の害獣や害虫を集めて、生物兵器に改造して、それを刑務所の地下からゾイサイト聖教国へと送り込んで攻撃する、バイオテロを恐らく起こすつもりだ!連中のバイオテロ計画は絶対に阻止する!今後もバイオテロ計画を起こせないよう、対策も施す!連中に自分たちがやろうとしていることの愚かさと、その罪の大きさを、絶望とともに、たっぷりと思い知らせてやるぞ!」

 「バイオテロを起こそうとしているとは、絶対に許すわけにはまいりません、丈様。元「弓聖」たち一行を懲らしめる手段ですが、いかがなさいますか?」

 玉藻の質問に、僕はニヤリと笑みを浮かべた。

 「バイオテロには、バイオテロで対抗するまでさ。玉藻、強化改造された鼠たちを凶暴化させる、一種の興奮剤みたいな毒薬は作れるかい?」

 「興奮剤ですか?はい、可能ではございます。」

 「よし。なら、まず、玉藻とイヴ、酒吞の三人には、檻の中にいる、大量の強化改造された鼠たちのことを頼むとしよう。玉藻、君は鼠たちを凶暴化させる興奮剤をたくさん作ってくれ。鼠たちが鷹尾たちやヴァンパイアロードたちに見境なく襲いかかるくらい、強力な興奮剤を頼む。その興奮剤をイヴ、君の能力で鼠たちのいる檻の中にこっそりと送り込んでくれ。近くにいる乙房たちに気付かれないように頼む。最後に酒吞、鼠たちに興奮剤の効果が十分現れた時点で、鼠たちのいる檻をぶち壊してくれ。ただし、中にいる鼠たちは殺すなよ。興奮剤で凶暴化した、強化改造された鼠たちに、元「弓聖」たち一行を襲わせる。そういう筋書きだ。自分たちの作った生物兵器が暴走して、刑務所内でバイオテロが発生し、逆にバイオテロで自分たちが自滅に追い込まれる、イカれた連中の鼻っ柱をへし折り、バイオテロの恐怖と絶望をその身で味わわせてやる、良い作戦だとは思わないかい?」

 「なるほど。それは名案でございます、丈様。」

 「フハハハ!バイオテロを起こそうとした愚か者どもを、自分たちの用意した生物兵器で逆に滅ぼそうか!実に面白い作戦ではないか、婿殿!」

 「バイオテロなんぞ考えたあの外道どもの腐った脳みそにとっては、目ん玉が飛び出るほどのキツい一発になるだろうぜ。鼠どもにはたっぷり暴れ回ってもらおうじゃねえか。」

 玉藻、イヴ、酒吞が笑いながら返事をした。

 鵺、エルザ、グレイ、スロウも笑って僕の提案した作戦を聞いている。

 「まだ、作戦はこれでは終わらない。鵺、君は刑務所中のゴミと瓦礫の山に向けて、雷を放ってくれ。遠慮はいらない。ゴミと瓦礫の山に潜んでいる害虫害獣諸共、綺麗さっぱり焼き払ってくれ。ついで、近くにいるヴァンパイアロードたちも焼却処分してくれ。」

 「了解、丈君。害虫どもはまとめて私の雷で全て焼き払う。今度こそ、任せて。」

 「ありがとう。僕は地面の中、このシーバム刑務所のある山の地中に存在する全ての生物を殺処分する。お得意の死の呪いをたっぷりと地面に流し込んで、地中にいる生物は根こそぎ、呪い殺す。こうすれば、新しい生物兵器として改造する生物を地下から捕獲することはできなくなる。連中は二度と、バイオテロを起こすことはできなくなる。その間に、エルザ、グレイ、スロウの三人には、第七作戦の実行を担当してもらう。西側にある食料保管庫を襲撃して、食料を全て燃やして始末してくれ。ただし、食料の入った段ボールを一つか二つ、それも肉とか果物、デザートが入った箱を盗んでくれ。それらは作戦の仕上げに利用する。食料保管庫の建物はほぼ崩れて鍵もかかっていない状態だが、見張り役のヴァンパイアロードたちがいる。スロウ、時間を止めて見張り役のヴァンパイアロードたちを全員、始末してくれ。頭を破壊すれば、簡単に殺せる。暗殺は頼んだぞ。作戦の説明は以上だ。みんなから他に質問はあるかい?」

 「第七作戦の実行は我らに任せよ、ジョー殿。作戦は必ず成功させる。」

 「食料保管庫の方はアタシらに任せろじゃん。一気に食料を灰にしてやっから、期待して待ってろよ、ジョー。」

 「ウチが暗殺ねぇ。殺しは久しぶりだわ~。でも、相手は元死刑囚のヴァンパイアロードだし、別に気兼ねすることないっしょ。久しぶりにウチの暗殺テクを披露してやるっしょ!暗殺はウチに任せて、ジョーちん!」

 「では、これより15分後、午前12時ちょうどに作戦開始とする。みんなの健闘を祈る。決して無理はしないように。それじゃあ、各自、散開!」

 僕たちは、それぞれの任務を遂行するため、それぞれ自身の持ち場へと移動した。

 午前12時。

 僕たちは、バイオテロ計画の阻止と、第七作戦の実行のため、各自持ち場で行動を開始した。

 刑務所のグラウンドの中央には、玉藻、酒吞、イヴの三人が、生物兵器へと改造された大量の鼠たちがいる、高さ5mの、長方形型の黒い大きな檻の前に立っていた。

 「なるほど。檻の柵と柵の間には細かい網目が施され、檻全体に高圧電流が流れていると。丈様が警戒されたわけが分かりました。」

 「それだけではない。この檻は外から毒物の類が流し込めぬよう、高度な魔術が施されている。檻の中にいるモノに外から危害が加えられないよう、幾重にも仕掛けが施されている。まぁ、妾にかかれば、仕掛けの解除も容易いことだが。それより、玉藻よ、興奮剤の用意はできているか?」

 「もちろんです。いつでも、興奮剤の毒煙を放つ準備はできています。」

 「さすがだな。では、妾がこの場の空間と檻の中の空間を繋ぐ、空間のゲートを作り出す。そこから、檻の中へ貴様の作った興奮剤を送り込め。」

 「分かりました。よろしくお願いしますよ、イヴさん。」

 「こちらこそな。では、始めるぞ、玉藻。」

 イヴが右手を前に突き出すと、突如、右手の前方の空間に歪みが生じ、それから空間にぽっかりと小さな穴が開いた。

 穴の向こうから、チューチューと、鼠たちの声が聞こえてくる。

 「檻の天井付近の空間と繋いだ。鼠たちがこのゲートから出て来る心配はない。さぁ、興奮剤をたっぷりと注いでやるがいい。」

 「フフっ。では、遠慮なく。」

 玉藻が右手に黒い鉄扇を持ち、顔の正面で構えると、サッと鉄扇を開いた。

 鉄扇が金色に一瞬、キラリと光った。

 玉藻が鉄扇の先をゲートへと近づけると、鉄扇の先より赤い煙が発生し、ゲートの穴の中へとどんどん、注ぎ込まれていく。

 玉藻の生み出した、超強力興奮剤の効果のある赤い毒煙が、イヴがグラウンドの檻の前に作り出したゲートの穴を通って、ゲートが通じる、檻の中にいる生物兵器へと強化改造された大量の鼠たちへと、檻の天井から注がれていく。

 超強力興奮剤の効果のある赤い毒煙を吸い込んで、檻の中にいる鼠たちが急に、チュー、チューという鳴き声を上げ、檻の中をガリガリと爪でひっかき、あるいは牙で檻に噛み付き、檻を突き破ろうと激しく暴れ始めた。

 檻の中の鼠たちの異変を知り、下長飯と乙房は慌て始めた。

 「もう良かろう、玉藻。ゲートを閉じるぞ。」

 「ええっ、そのようです。興奮剤の効果はばっちりです。後は、酒吞、頼みましたよ。」

 「任せろ、二人とも。こんな茶地な檻、一発でぶち壊してやるよ。檻をぶち壊して、鼠どもを解き放ってパニックを起こせ、だったな?俺には朝飯前だぜ。」

 酒吞は笑いながらそう言うと、黒い檻の傍へと近づいた。

 それから、檻の蓋である、檻の上部へとジャンプして一気に飛び乗った。

 「一気にぶち破るとするか!オラァー!」

 酒吞が右の拳に力を込めると、一気に蓋である檻の上部目がけて、勢いよく拳を振り下ろした。

 酒吞の振り下ろした右拳が、檻の上部の蓋を貫通し、大きな穴を開けた。

 酒吞は檻の上部から飛び降りると、反対側にいる下長飯と乙房に向かって、右足で檻を蹴り飛ばした。

 「オラよ!ゴブリン以下の外道ども!テメエらの改造した鼠どもの威力をその身で味わいやがれ!」

 酒吞が檻を蹴り飛ばした瞬間、檻が地面に倒れると同時に、酒吞が開けた檻の蓋の穴から一斉に、玉藻特製の超強力興奮剤を吸って凶暴化した、乙房たちが生物兵器として強化改造した大量の鼠たちが、下長飯と乙房の二人に向かって飛びかかり、襲いかかった。

 「ギャアー!?だ、誰か、た、助けてくれー!?アギャアーーー!?」

 「キャアー!?か、噛むな!?暴走してる!?い、痛い!?助けてー!?」

 自分たちが生物兵器として改造した鼠たちに襲われ、パニックを起こしながら、全身を鼠にかまれ、鼠の持つ猛毒やウイルスにやられ、下長飯と乙房はあまりの激痛に白目を剥いて、その場で気絶した。

 下長飯と乙房を襲った凶暴化した大量の鼠たちは、そのまま刑務所全体へと散り、刑務所内にいるヴァンパイアロードたちへと襲いかかった。

 「白光聖騎士団」の元聖騎士たち、鷹尾、下川、妻ケ丘、都原の下にも、凶暴化した生物兵器の鼠たちが襲いかかり、彼らは鼠たちを撃退すべく、鼠たちの駆除に追われ、苦戦していた。

 地上の状況を何も知らない早水は、黙々と鷹尾の指示通り、ひたすら穴を掘り続けていた。

 鷹尾たちが自分たちの用意した、バイオテロ計画のために生み出した強化改造を施した鼠たちに襲われ、凶暴化した大量の鼠たちの駆除に苦戦している様や、鼠たちの襲撃に恐怖する姿を見て、玉藻、イヴ、酒吞の三人は大笑いした。

 「クフフフ!自分たちがバイオテロの餌食になるとは、実に滑稽で良い気味です!恐ろしいテロを起こそうと考えた報い、自業自得というものです!このまま全員、鼠にやられて地獄に落ちてくだされば、私たちの手間も省けるというものです、まったく。」

 「プハハハ!さすがは婿殿の考えた作戦だ!連中、自分たちがバイオテロを利用された時の対策までは考えていなかったらしい!鼠に噛まれて、次々に手下の吸血鬼どもが倒れていくぞ!血に飢え、弱り切った状況では、半不死身の回復力も上手く機能しないことだろう!毒かウイルスにやられて、吸血鬼どもは死滅することになるかもしれん!玉藻よ、貴様の作った興奮剤の効果は実に見事だ!婿殿が太鼓判を押す毒のスペシャリストだけのことはある!毒の扱いにおいては、あの毒使いのセクトすら上回る腕前かもしれん!本当に見事だ!婿殿も妾たちの作戦成功を知り、喜んでいるに違いない!」

 「ギャハハハ!イー、ヒッヒ!あぁー、笑い過ぎて腹が痛ええ!自分たちの改造した鼠どもに襲われて殺されかけることになるとは、あのクソ勇者ども、思ってもいなかったようだな!バイオテロなんて、卑劣で最低な悪事を仕出かそうとした罰だ!鼠どもに齧られて、そのまま地獄に落ちやがれ、ゴブリン以下の外道どもが!」

 玉藻、イヴ、酒吞の三人は、作戦が無事成功したことを喜ぶのであった。

 場所は変わって、時刻は午前12時。

 刑務所の上空、刑務所を覆う結界の天井付近に、鵺が空中で浮かんで待機していた。

 懐中時計で作戦開始時間がやって来たのを確認すると、鵺はニヤリと笑みを浮かべながら、右手を前に突き出した。

 「作戦を開始する時が来た。今度こそ、害虫以下のゴミ吸血鬼どもを全員、焼却処分する。最優先は、ゴミの山と瓦礫の山、そこに潜んでいる害獣害虫を一匹残らず、焼き払うこと。害虫以下のゴミ吸血鬼どもはあくまでおまけ。でも、遠慮なく一緒に焼き払っていいと、丈君は言った。なら、まとめて雷を落として焼き払う。焼却処分は変わらない。」

 鵺はそう言うと、右手に妖力を込めた。

 鵺の右手が銀色に光り輝くと同時に、鵺の右手から黒い雷雲がモクモクと発生し、刑務所の上空全体を覆った。

 そして、黒い雷雲から、刑務所中のゴミと瓦礫の山に、次々と強烈な雷が降り注いだ。

 凶暴化した生物兵器の大量の鼠たちによって、刑務所中がパニックに陥っている中、刑務所のゴミと瓦礫の山に向かって、次々に落雷が落ち、ゴミと瓦礫の山を黒焦げにするほどの勢いで一気に焼き払った。

 ゴミと瓦礫の山に潜んでいた鼠やゴキブリなどの害獣害虫たちは、ゴミや瓦礫と一緒に、鵺の起こした強烈な落雷の直撃を受けて、焼き払われた。

 ゴミと瓦礫の山の近くにいたヴァンパイアロードたちにも落雷が被弾し、雷の直撃を受けて、全身を真っ黒焦げに焼かれて、全員、その場で感電死した。

 ゴミと瓦礫の山に潜む害獣害虫を雷で焼き払った鵺は、雷雲を解除すると、空中で呟いた。

 「作戦成功。害獣害虫は一匹残らず、焼き払って駆除した。害虫以下のゴミ吸血鬼どももついでに焼却処分した。今回はきっちり任務をこなした。報告すれば、丈君もきっと喜んでくれる。いっぱい褒めてくれる。ようやく気分がスッキリした。」

 満面の笑みを浮かべて作戦成功を喜ぶ、鵺であった。

 場所は変わって、時刻は午前12時。

 僕、宮古野 丈は、刑務所の北の監視塔跡の、瓦礫の山の前へと来ていた。

 懐中時計で時間を確認すると、僕は行動を開始した。

 「時間だな。みんな、それぞれ順調に作戦を開始したようだ。では、僕も作戦を進めるとしよう。ここなら、死の呪いを地下にバラまき始めても、すぐには勘づかれないだろう。クソ犯罪者ども、お前らへの恨みをたっぷりと込めた死の呪いをお見舞いしてやる。」

 僕は右手に、死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーを解放し、右手全体に纏わせた。

 どす黒い、禍々しさを感じさせる黒い霊能力のエネルギーを僕は右手に纏わせると、右手を地面へと差し込んだ。

 「地下の生物は皆殺しだ!霊呪拳!」

 地面へと突き刺した右手から、刑務所の地下全体、刑務所のある山全体に、死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーがゆっくりと注ぎ込まれ、死の呪いで刑務所の地面の下は汚染されていく。

 同時に、刑務所の地面の下にいた生物たちは、地面が死の呪いに汚染されると、彼らもまた、死の呪いに全身を汚染され、死滅していくのであった。

 刑務所の地下を死の呪いで汚染する作業を始めてから20分が経過した頃、グラウンドの方から、「キャアー!?」という悲鳴が聞こえてきた。

 声色から、生物兵器として強化改造した鼠たちを放つため、グラウンドに巨大な穴を掘り、地下を掘り進んでいた早水の声だと、何となく分かった。

 僕は一瞬、気になりもしたが、構わず死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーを、刑務所の地面の下へと、引き続き注入した。

 死の呪いで刑務所の地下を汚染し、地中にいる生物たちを一匹残らず殺処分する作業を始めてから30分が経過した頃、僕は右手を地面から引き抜いた。

 「霊視」で刑務所の地面の下を透視しながら、作業の進捗状況を確認した。

 「うん。刑務所の地下にいる生物は全然、ピクリとも動かない。完全に呪い殺されている。これで、鷹尾たちは地下から生物兵器に改造する生物を調達できなくなったはずだ。バイオテロ計画はこれで完全にご破算になったはずだ。地上にいる害獣害虫たちは鵺が全て始末したはずだ。暴走した鼠たちは結局、駆除することになり、利用できなくなった。バイオテロ以外にも何かしら犯罪計画を企んでいる可能性もあるが、手段はあまり残されていないはずだ。この僕の復讐をパクって逆襲しようなんて、考えが甘いんだよ。さて、第七作戦も終わって、みんなどこかに集まっている頃だろうし、僕はこれにて任務終了としよう。」

 僕はそう言うと、立ち上がり、任務を終え、他のパーティーメンバーたちと合流するため、北の監視塔跡を立ち去った。

 場所は変わって、時刻は午前12時。

 刑務所西側の食料保管庫の建物の傍には、第七作戦を遂行すべく、エルザ、グレイ、スロウの三人がいた。

 食料保管庫の周囲には、フード付きのローブを身に纏った見張り役のヴァンパイアロードたちが10匹ほどいて、フードを頭から被り、日光を避けながら、食料保管庫の警備をしていた。

 スロウは、柄が50cm、鎌の刃の長さが20cm、柄尻に長さ3mの鎖が付き、鎖の先端に球状の分銅が付いた、黒い鎖鎌を両手に武器として、どこからともなく出現させた。

 左手に鎌、右手に分銅の付いた鎖を持ち、鎖を振り回しながら、傍にいるグレイとエルザに言った。

 「んじゃっ、そこのお二人さん、ウチが見張りの吸血鬼どもは全部倒すから、後はよろしくね。時間逆行。」

 スロウの全身がターコイズグリーン色に光り輝いた瞬間、スロウたちのいる食料保管庫の周囲200mの時間が停止した。

 ヴァンパイアロードたち、エルザ、グレイ、スロウの周囲にいる者たち全員が、その場で彫像のように固まっている。

 スロウは鎖をブンブンと振り回しながら、ゆっくりとヴァンパイアロードたちの方へ近づくと、鎖をヴァンパイアロードたち目がけて放った。

 鎖は鞭のようにしなやかに動きながら、ヴァンパイアロードたちに迫り、そして、鎖の先端に付いた黒い球状の分銅が勢いよく、ヴァンパイアロードたちの頭部へと直撃し、ヴァンパイアロードたちの頭部を潰し、破裂させた。

 五匹のヴァンパイアロードたちを殺害すると、残り五匹のヴァンパイアロードたちへ歩きながら、鎖分銅を振り回し、頭部にぶつけて破壊して回った。

 最後の一匹のヴァンパイアロードの頭に鎌を振り下ろして突き刺し、殺害した。

 見張り役のヴァンパイアロードたちを鎖鎌で殺害すると、スロウは時間の停止を解除した。

 「ふぅ。ちょうど1分か。ブランク明けの相手にはちょうど良い相手だったかも。でも、やっぱ戦うのはダリいわ~。早く仕事終わらせて昼寝したいっしょ。」

 スロウがすでにヴァンパイアロードたちを倒している姿を見て、エルザとグレイは二人とも驚いた。

 「何と!?すでに見張りの吸血鬼どもが全員、死んでいるではないか?我らにはスロウ殿の動きが全く見えなかった!時間を止める能力とは、実に恐ろしい能力だ!」

 「吸血鬼どもがいつの間にか、全員死んでいやがる!?時間を止めた間に全員、殺したってわけか!ただの空気の読めねえアホのビッチではねえってのは本当みてえじゃんよ!堕天使としての力は本物みてえだな!アタシらの動きまで止めるとは、コイツ、意外にできるぞ!」

 驚くエルザとグレイに、スロウは笑いながら言った。

 「言っとくけどお二人さん、ウチはこれでもLv.200オーバーの堕天使だから。今の二人の実力だけど、エルザはLv.97、グレイはLv.92ってところ。ウチの時間を止める能力へ干渉するには、最低でもLv.110くらいは必要。それでも、止められた時間の中で動けるのは、ほんの数秒程度が限界ってとこ。状態異常攻撃に対する並外れたスキルや耐性を持っていたら、もう少し動ける時間は延びるとは思うけど。二人とも、早くLv.100の限界値の壁を突破できるよう、頑張るっしょ。さてさて、ウチから二人へのアドバイスはこれぐらいにして、食料保管庫の後始末、よろしくね~。ウチはここで見物してるから。」

 「Lv.110で数秒動ける程度。Lv.100では話にならないと。我はもっと強くならねばならん。歴代最強の勇者を超える強さを身に着けてみせる。さぁ、任務を遂行するとしよう。」

 「ちっ。人間の限界を超えてみせろとか、あっさり言ってくれるじゃねえか。だが、アタシは絶対にLv.100を超えてみせるじゃんよ。限界なんて、どこまでも振り切るほど、強くなってみせるぜ。そいじゃあ、改めて任務を遂行すると行きますか。」

 エルザとグレイはさらなる高みへと到達すべく、共に決意を新たにした。

 食料保管庫から、エルザとグレイは、ステーキ肉やハム肉の入った段ボール箱一箱、リンゴやバナナ、オレンジなどの果物が入った段ボール箱一箱、クッキーやチョコレート、パウンドケーキなどが入った段ボール箱一箱、計三箱の食料の入った段ボール箱を回収した。

 目的の段ボール箱を回収すると、食料保管庫の棚に置いてある段ボール箱に向けて、二人はそれぞれ、攻撃を放った。

 エルザが両腕と剣に魔力を集中すると、両腕と剣が光り輝き始めた。

 エルザの背後に、巨大な狐の顔のようなマークが浮かび上がった。

 エルザの両腕と剣に、炎が生まれ、両腕と剣が炎を纏った。

 「燃えろ!狐獣人剣!」

 エルザの黒いロングソード、「黒獅子」から炎の魔法を纏った斬撃が放たれ、食料保管庫の食料が入った残りの段ボール箱に直撃し、炎が引火し、保管庫内の段ボール箱を激しい炎が包み、燃やし尽くしていく。

 一方、グレイが両腕と槍に魔力を集中すると、両腕と槍が光り輝き始めた。

 グレイの背後に、巨大な、遠吠えをする狼の姿を描いた絵のようなマークが浮かび上がった。

 グレイの両腕と槍が高熱を帯びたように赤く染まり、槍の穂先が高熱を帯びて熱せられて、高熱を纏った。

 「行くぜ!狼牙爆槍・咆哮!」

 グレイの黒いパルチザン、「黒狼」から熱爆弾の魔法を纏った赤い斬撃が放たれ、食料保管庫内の残りの段ボールに直撃すると、大爆発を起こした。爆発の影響で、食料の入った他の残りの段ボール箱は木っ端微塵に爆破され、吹き飛んだ。

 食料保管庫の食料を全て燃やしたエルザとグレイは、任務を無事、遂行し、共に笑みを浮かべた。

 「任務完了だ。これで、敵はほとんどの食料を失った。元「弓聖」どもは飢え死にするかもしれない恐怖に襲われ、混乱するに違いない。」

 「そうだな、エルザ。まぁ、ゴキブリ並みにしぶとい連中だし、その辺に生えている雑草でも食って、何とか食いつなぐかもしれねえぞ。クソ勇者どもめ、後で食い物がほとんどねえと知って、きっと間抜け面を浮かべて大慌てすること間違いなしじゃんよ。」

 エルザとグレイが笑って話をしていると、驚いた表情のスロウが二人に詰め寄りながら訊ねた。

 「な、何で二人とも魔法が使えるんよ!?今のは斬撃じゃなくて、斬撃の形にした魔法だったんよ?魔術士でないかぎり、攻撃魔法をスキルとしては使えない、そのはずっしょ!?ウチの目には、二人のステータスに魔法を使えるとは表示されていないんよ!二人とも一体、何をしたっしょ!?」

 驚くスロウに、エルザとグレイは笑いながら答えた。

 「堕天使を驚かせることができて、我も少し嬉しい気分だ。我らはただ、己自身の魔力を自由自在にコントロールし、それを様々な攻撃へと応用する技術を身に着けた。ジョー殿の指導のおかげでな。我は剣士だが、攻撃魔法も使える。今のは、己の魔力をコントロールし、攻撃魔法を放つ技だ。少しは我らのことを見直していただけたかな、スロウ殿。」

 「驚いたか、スロウ。アタシもジョーにトレーニングを受けて、ジョブは「獣槍術士」だが、攻撃魔法を使える。いざとなれば、死の呪いを全身に纏って攻撃も防御も回復もできる、なんて技も使えたりする。他にも色々できるぜ。ちったぁ、アタシらの実力が分かってくれたかじゃん?」

 「魔力を自由自在にコントロールする!?死の呪いを全身に纏って戦える!?そんなことできんの?つか、ジョーちん、とんでもないこと教えてるっしょ!?いや、それができる二人も凄すぎるっしょ!ジョブとスキルの意味が無くなるくらいのことだっしょ!やべぇ、この二人、マジでレベルの壁を、人間の限界超えるかも!?勇者でもない、聖武器も持たない人間がレベルの壁をあっさり超える、なんてマジパネえことが起きるかも!?ジョーちん、トレーナーとしてもマジ優秀じゃん!」

 「トレーニング方法はかなり過激、というか、毎度命懸けではあるがな。Sランクのハズレ依頼を大量にこなせなど、初めは正気を疑ったが、そのおかげで強くなれたのは事実である。」

 「ああっ。でも、そのおかげでアタシも一気に五日でレベルが15も上がって、とんでもなくパワーアップできた。Lv.100の元勇者の化け物を一撃で殺せるほどにまでな。ジョーと出会って、本当に変わったよな、アタシら。」

 「Lv.100の元勇者の化け物を倒した!?ウチ、それ、初耳なんですけど!?レベル差って奴が、レベルの概念が変わりかねないこと、サラッと言ってるっしょ!?ウチもジョーちんと一緒にトレーニングしてみようかな?なんか面白そうっしょ!」

 「おしゃべりはこれくらいにして、二人とも、ジョー殿のところへ向かうぞ。我らの任務は無事、終了した。第七作戦の仕上げに必要な品も回収した。いや、先に先輩方と合流することにしよう。先輩方はとうに作戦を終えたと見える。元「弓聖」どもの阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。では、行くぞ、グレイ、スロウ。」

 任務を終え、エルザに続き、グレイ、スロウが食料保管庫の前を歩いて去って行く。

 エルザたち三人の活躍により、刑務所の食料保管庫の食料は、ほとんどが灰になってしまったのであった。

 午前12時40分。

 僕は、刑務所中央のグラウンドに向かうと、各自任務を終えた、玉藻、酒吞、イヴ、鵺、エルザ、グレイ、スロウの七名がすでに集まっていた。

 僕は玉藻たちに声をかけた。

 「お疲れ様、みんな。各自任務が成功したようで何よりだ。鷹尾たちのバイオテロ計画は完全に阻止した。地下にいる生物も全て死んだ。鷹尾たちは凶暴化した生物兵器の鼠たち、それに雷に襲われ、大打撃を受けた。食料のほとんどが灰になった。連中に刑務所へ籠城する気力も余裕も、もうほとんどないはずだ。さて、それでは、第七作戦の仕上げに入るとしよう。エルザ、グレイ、スロウ、回収を頼んでおいた段ボール箱を見せてくれ。」

 「了解だぜ、ジョー。今、出すじゃん。」

 グレイがそう言うと、腰のアイテムポーチから段ボール箱を三箱、取り出した。

 段ボール箱はいずれも未開封で、中を開けると、手付かずのステーキ肉や果物、スイーツなどが中に入っていた。

 「指示通りだ。ありがとう、三人とも。さてと、箱の中身はいくつか頂いていくとしよう。後は、この段ボール箱をいつものプレゼントと一緒に送り付けるだけだが、ドッペルゲンガーマスクの作成が完了していない。どこかにモデルになりそうな、手頃なヴァンパイアロードはいないかな?」

 「婿殿、刑務所内のヴァンパイアロードたちは今回の妾たちの襲撃で残っていた大半が死んだようだ。「白光聖騎士団」の元聖騎士のヴァンパイアロードたちが700人ほど生き残っている。隊長格の連中もしぶとく生き残っている。」

 「ありがとう、イヴ。そうだな。なら、鼠にやられていない男のヴァンパイアロードを一人、ここまで転送してもらえるかい?」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、僕たちの目の前に、ダークブルーの天然パーマで、青白い肌に、赤い瞳で細長い目付きの、少々疲れた表情の瘦せこけた20代後半の男の、元聖騎士のヴァンパイアロードが現れた。

 「へっ!?」

 突然、僕たちのいるグラウンドに転送され、驚き困惑するヴァンパイアロードに、僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を素早く取り出し、霊能力のエネルギーを流して黒い鉄扇へと変形させた。

 そして、鉄扇の先をヴァンパイアロードの首筋に近づけると、鉄扇の先から、眠り薬の効果のある金色の毒針を発射し、打ち込んだ。

 ヴァンパイアロードが昏倒して、その場で眠ると、認識阻害幻術をヴァンパイアロードの体にかけ、姿を隠した。

 それから、鉄扇を黒いナイフへと変形させると、ヴァンパイアロードの右の手の平をナイフで斬り裂いた。

 ドッペルゲンガーマスクにヴァンパイアロードの右手を押し付け、マスクの表面に血を塗りたくった。

 ヴァンパイアロードの頭にナイフを突き刺し、殺害すると、僕はドッペルゲンガーマスクを頭から被った。

 僕の顔や髪型、声は、殺したヴァンパイアロードそっくりに変わった。

 ドッペルゲンガーマスクの作成が終わると、マスクを脱ぎ、ヴァンパイアロードの死体をアイテムポーチへと収納した。

 「プレゼントの準備は整った。最後は、プレゼントを贈る場所とタイミングだ。グラウンドで今も気絶して地面に転がっている下長飯、コイツが今、刑務所内で寝泊まりしている場所に、プレゼントを贈り付けたい。いや、刑務所内のテントと、瓦礫の山は鵺の雷でほとんど燃えてしまったんだっけ。完全に刑務所は野ざらし状態で、鷹尾たちは全員、宿無しのホームレスになったわけだ。ふむ。そうだ。確か、北の監視塔跡には地下室があったはずだ。あそこに段ボール箱と一緒にプレゼントを置くとしよう。イヴ、下長飯の体のどこかに、奴のギルドカードはないか?あったら、ここへ転送してくれ。」

 「ギルドカードだな?ふむ。おおっ、懐に入っているぞ。今、転送するぞ。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕の顔の前に、下長飯のギルドカードが現れた。

 ギルドカードを右手でキャッチすると、僕はそのギルドカードを肉の入った段ボール箱の中へと入れた。

 「これで良し。イヴ、キバタンとドッペルゲンガーマスク、それと、段ボール箱三箱、これらを全部、北の監視塔跡の地下室に転送してくれ。それで仕上げは完了だ。後はタイミングを見計らって、認識阻害幻術を解除してキバタンに鳴いてもらえば、それで作戦は完了だ。結果は、大使館に戻って、みんなで一緒に盗聴して確認することにしよう。きっと面白いことになるぞ。」

 イヴがキバタンとドッペルゲンガーマスク、段ボール箱三箱を、北の監視塔跡の地下室へと転送した。

 「では、みんな、大使館へ引き上げるとしよう。ちょっと遅い昼食を食べながら、元「弓聖」たち一行の混乱し、怒り狂う声を音楽に、午後のひと時を楽しむことにしよう。」

 僕は笑いながら、みんなに向かって言った。

 それから、僕たちは作戦を終え、首都のラトナ公国大使館へと戻った。

 午後2時過ぎ。

 マリアンヌとメルの二人と合流すると、僕たちは大使館の一室で、一緒にちょっと遅い昼食を食べることにした。

 受信機を起動し、ボリュームを最大限にまで上げ、盗聴器の拾う音に耳を澄ませた。

 「それでは行くぞ、皆さん。認識阻害幻術、解除!」

 僕は右手の指をパチンと鳴らし、キバタンたちにかけた認識阻害幻術を解除した。

 数秒後、キバタンの大きな鳴き声が受信機から聞こえてきた。

 「シモナガエ キンゾウ、ドロボウ!シモナガエ キンゾウ、ドロボウ!シモナガエ キンゾウ、ドロボウ!~」

 キバタンの嫌がらせのメッセージを何度も繰り返し鳴き叫ぶ大声が、刑務所中に響き渡った。

 刑務所にはほとんど遮蔽物が、建物がないためか、キバタンの鳴き声を聞きつけ、キバタンのいる北の監視塔跡の地下室に、負傷からやっと回復した鷹尾たちが続々と集まってくるのが聞こえた。

 鷹尾たちの前には、開封済みの食料の入った段ボール箱三箱が、キバタンの入ったケージとドッペルゲンガーマスクとともにあった。

 そして、肉の入った段ボール箱から、下長飯の名前が刻まれたギルドカードが発見された。

 食料の入った段ボール箱を、ヴァンパイアロードに変装した僕と共謀して、こっそり食料保管庫から盗み出し、横取りし、独り占めしようとしていたのではないか、という疑惑が、鷹尾たちの中に浮上した。

 疑惑をかけられた下長飯は必死に、鷹尾たち他のメンバーに弁明する。

 「し、信じてくれ、みんな!?私は食料の独り占めなんて企んではいない!?こ、これは罠だ!?宮古野の奴が私を陥れようと仕組んだ罠なんだ!?私もグリラルドもみんなを裏切るようなことは断じてしていない!?た、頼む、信じてくれぇー!?」

 下長飯が必死に弁明するが、鷹尾たち他の六人の仲間の反応は冷たい。

 変装した僕の正体を知って、敢えて自分だけ助かろうとしたのでは、僕と取引をしたのではないか、とまで疑われる始末であった。

 下長飯が裏切り者として疑われ、必死に鷹尾たちに弁明するも冷たくあしらわれ、鷹尾たち一行の間にさらなる激しい亀裂が入った様子を聞き、僕たちは昼食を食べながら、大いに笑った。

 「ハハハ!クソ教師め、ざまぁみろ!ついに裏切り者扱いされるところまで追い詰められたか!金に汚い、ギャンブル狂の、教師失格の汚職教師を信じている奴なんて一人もいないってのが分からないのか?お前の信頼はほぼ完全に地に落ちた!食い物の恨みは恐ろしい、という言葉もあるし、仲間や手下たちから見捨てられないよう、お得意の媚びを売りまくるこったな!多分、手遅れだろうけど!」

 「クフフフ!丈様を虐げ、悪童たちの悪事を許し、汚職にまで手を染めていたあの最低な元教師が破滅寸前に追い込まれるとは、実に良い気味です。担任教師でありながら、生徒である丈様を、能無しの悪魔憑きと呼んで見捨て、裏切り、処刑に賛同した、あの人間のクズの鏡のような男には、地獄以上の苦しみを与えなければなりません。」

 「ギャハハハ!あのパワハラクソ教師め、冤罪を被せられて、裏切り者扱いされる苦しみが分かったか?俺たちの丈を散々、あのクソ教師は馬鹿にして虐めやがった。無罪の丈を処刑に追い込んだあのゴブリン以下の外道は、ミンチにして殺してやらなきゃ、俺は気が済まないぜ。」

 「フフフ!あの中年禿げ男は人間のクズの極み。パワハラ汚職教師はどこの世界でも害悪に過ぎない。あのゴミ以下のクズ教師は百万回地獄に叩き落とすべし。丈君の処刑に手を貸したあのゴミは私の手でバラバラに斬り刻んで、滅してやる!」

 僕が下長飯の無様な様子を聞いて楽しんでいると、玉藻、酒吞、鵺の三人が、それぞれ下長飯に対して、激しい敵意と殺意を露わにした。

 「あの中年男が婿殿を能無しの悪魔憑きと呼び、醜悪な笑みを浮かべながら、婿殿の処刑を国王たちに後押ししたあの時のことは、妾もよく覚えている。元いた世界では人を教え導く教職に就いていたと知った時はどれほど驚いたことか。あのような下衆に育てられた子供が、まともな人間に育つわけがない。最も、婿殿だけは例外であったが。元勇者たちという凶悪な犯罪者を生み出した元凶の一人だ。婿殿を散々苦しめてきた罪も含め、妾はあの男をこの手で宇宙の塵にして葬らねば、絶対に許すことはできんぞ。」

 「あの中年男がジョー殿の教師だったとは、にわかには信じがたい話だ。話を聞く限り、教師とは思えぬ、悪漢ぶりだ。それに比べて、ジョー殿はまともだ。反面教師と言う奴であろうか?無実の罪を被せられ苦しむ、教え子であるジョー殿を能無しの悪魔憑きと呼び、処刑に加担するとは、もはや外道以外の何者でもない。我が剣にて成敗してくれる。」

 「あのオッサンのクソ勇者が、ジョーが処刑される原因を作ったクソ野郎だってのはよく分かった。あのクソジジイ、次に会ったら、アタシの槍で全身、串刺しにして地獄に速攻で叩き落としてやるじゃんよ!」

 「グリラルドと融合してるあのオッサンが、ジョーちんの元先生で、ジョーちんを処刑しようとした人間のクズなわけね。パワハラ教師とか、聞いただけでマジムカついてくるわ~。グリラルドと融合してるかもだけど、あのオッサンは必ず地獄に落とさなきゃだわ~。ウチ、殺意MAXなんだけど。」

 「パパを虐めた悪い奴はみんな、死んじゃえばいいなの。ぶっ殺してやる、なの。」

 イヴ、エルザ、グレイ、スロウ、メルが、下長飯が僕の処刑を後押しした張本人と聞いて、皆、激しい怒りを露わにした。

 「め、メルさん、ぶっ殺してやる、なんて、そんな言葉を使ってはいけません!皆さんもメルさんの前で過激な言動は控えてください!しかし、私もかつてはジョー様の処刑に賛同してしまった、何も知らずに、よく調べもせずに、パニックに陥り、元勇者たちやお父様たちの言葉に流され、ジョー様の処刑を黙って見ていました。何の罪も犯していない人間を殺そうとする大罪を犯しました。リリア様から叱責された時のことは今でも覚えています。シモナガエ氏は我がインゴット王国にいた時、金遣いが荒く、ギャンブルで遊び回っていました。私はお世話係として注意をすべき身でありながら、彼の蛮行を許してしまいました。シモナガエ氏の人格や行動に注意を払わず、放置した結果、シモナガエ氏は世界の平和を脅かす凶悪なテロリストにして連続殺人犯になってしまいました。私や父、インゴット王国政府にも責任があります。本当に申し訳ございません。」

 マリアンヌが、メルを注意しながら、僕たちに向かって謝罪の言葉を口にした。

 「気にするな、マリアンヌ。あの時の、超クソ王女のお前や、今も超クソ国王のお前の親父が指導したところで、下長飯は元から更生の余地なんてない、史上最低の人間のクズだった。最終的には、あのクソ教師は、程度の差はあれ、犯罪者になっていた可能性は高い。間違いなく、何かしら犯罪に手を染めていただろう。元いた世界から、すでに汚職に携わっていた男だ。闇金から借金もしていたし。下長飯はアダマスに来ても自ら犯罪者になる道を選ぶ、そういう運命になっていたはずだ。だから、お前がこれ以上、あのクソ教師のことで気をもむ必要は皆無だ。」

 「はぁー。お気遣いいただきありがとうございます、ジョー様。」

 「さて、下長飯の話はこれくらいにして、僕からみんなに改めて伝えることがある。今日までに七つの作戦を実行し、いずれの作戦も無事、成功に終わった。元「弓聖」たち一行は兵士、食料、城塞など、戦力のほとんどを失った。結界内に閉じ込められ、刑務所から脱出さえできない。僕たちの行った数々の嫌がらせにより、連中は体力も精神もすり切れるほど疲弊している。当初の作戦の目的通り、まともな思考ができず、動けなくなるほどストレスがかさみ、ストレスに耐えられる限界を通り越すレベルまで追い詰めた。いよいよ、「鳥籠作戦」に終止符を打つ時がやって来た。明日、元「弓聖」たち一行と直接対決を行い、連中を一気に討伐する。今日の午後10時に、連中に最後のメッセージを送りつける。文字通り、最後通告だ。鳥籠に閉じ込められた憐れな鳥たちを一羽残らず、始末する。連中全員に苦痛と恐怖と絶望を味わわせ、地獄へ叩き落とす。処刑ショーのフィナーレを明日、皆で存分に楽しむとしよう。」

 僕は皆に、最後の作戦を実行することを伝えた。

 玉藻たち他のメンバーは皆、笑顔を浮かべて聞いていた。

 昼食を終えると、僕は他のメンバーと別れ、キバタンのお世話と盗聴をしていた。

 キバタンの飼育部屋で一人、お世話をしていると、イヴが部屋の中に入ってきた。

 「お疲れ様だ、婿殿。いよいよ明日、元「弓聖」たち一行と決着を着ける時が来たな。」

 「お疲れ様、イヴ。今回の元「弓聖」たち一行討伐作戦は、「鳥籠作戦」は君の協力あってこそ成功したと言える。本当にありがとう。最後に送るキバタンのコンディションは問題なしだ。コイツを受け取って恐怖で震えあがる鷹尾たちの姿が目に浮かぶよ。」

 「順調そのものだな。婿殿の立案した作戦の内容が良かったのも事実だ。妾はほんの手助けをしたに過ぎん。ところで婿殿、婿殿に二つほどお願いがあるのだ、聞いてもらえるだろうか?」

 「僕にお願いしたいことがあるだって?何だい、イヴ?」

 「一つは、元「弓聖」たち一行を討伐する際、妾と合体して戦ってほしいのだ。今回の相手は元勇者たちだけでなく、堕天使どももいる。闇の女神である妾と合体し、妾の力を使えば、元勇者たちの討伐も、堕天使どもの封印もよりスムーズに遂行できる。頭脳戦を得意とする相手ならば、知恵の女神である妾の力はきっと役に立つ。どうだろうか、婿殿?」

 「イヴと合体するのを、僕が反対なんかするわけがない。喜んで合体させていただきますよ、闇の女神様。」

 「そうか!妾と合体してくれるのか!フフフ、ついに婿殿と合体する時が来た!妾と婿殿が合体すれば、神々さえ恐れるほどの凄まじい力を持った存在が誕生することになる!堕天使どもも、リリアも、見ただけで恐怖するほどの圧倒的な合体を見せてやろうではないか!」

 僕から合体の許可をもらえ、興奮するイヴであった。

 興奮するイヴに少々押された僕ではあったが、ふたたび訊ねた。

 「ええっと、イヴ、喜んでもらえて何よりだが、もう一つのお願いって何だい?」

 「おおっと、つい、興奮して忘れるところであった。婿殿、婿殿の愛用している武器、如意棒と言ったか、アレを妾に一時、貸してはもらえぬだろうか?」

 「如意棒を貸してほしい、だって?一応、理由を聞かせてくれるかい?」

 「婿殿、婿殿がクリスが開発したトランスメタル製のあの武器を、肌身離さず持ち歩いているのは知っておる。トランスメタルの技術が世界中に公表されれば、トランスメタルが元勇者たちや悪人ども、リリアに悪用されるかもしれない、そのことを恐れていることはクリスから聞いて、すでに知っている。トランスメタルの存在を口外しないよう、クリスと約束したことも聞いている。ブラックオリハルコンの共同研究を始めたクリスから、トランスメタルの開発データを極秘裏に妾はもらった。もちろん、トランスメタルの開発技術を公開する意思は妾にもない。ただ、トランスメタルの開発データの資料を読み、トランスメタルに改良の余地がいくつかある可能性に妾は気付いた。妾が考えた改良プランに沿って改良を加えれば、如意棒の性能をさらに向上させることが可能だ。具体的には、これまでより複雑な構造を持つ武器への変形が可能となる。実を言えば、チキュウの神々を脅し、ではなかった、交渉を行い、婿殿がいたチキュウの武器の設計図をいくつか入手した。婿殿がいた世界では、高度な武器の開発が行われていることを知り、妾にとっても非常に有意義な技術を知ることができた。どうか、妾を信じて、如意棒を預けてほしい。そうすれば、如意棒はパワーアップし、婿殿はチキュウ製の強力な武器を使えるようにもなる。改良には半日もかからん。頼む、婿殿。」

 イヴに頭を下げて頼まれ、僕は返事をした。

 「頭を上げてくれ、イヴ。君がトランスメタルの技術を悪人に売るような、悪い女神ではないことくらい、ちゃんと分かっているよ。クリスから事情を聞いていて、彼女からも許可をもらっているのなら、君に如意棒を預けることには何の問題もない。より複雑な構造の武器に、地球製の武器にまで変形できるようになるか。それが本当なら、嬉しい限りだ。すぐにでも改良をお願いするよ。ただし、明日の元「弓聖」たち一行の討伐に間に合うよう、急ピッチで頼むよ。僕の相棒をよろしく、イヴ。」

 僕はそう言うと、ジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出し、如意棒をイヴへと手渡した。

 「ありがとう、婿殿。明日の討伐までには必ず改良を終えてみせる。期待して待っていてくれ。」

 「期待してるよ、イヴ。ところで、さっき地球の神々を脅した、とか聞こえたような気がするんだが、気のせいだよな?」

 「ふ、フハハハ!?もちろん、婿殿の気のせいだ!妾が脅迫などという犯罪紛いのことをするわけがないであろう!ちょっと婿殿のチキュウにいた頃の扱いが気になり、意見したまでのことだ!決して、強請ったわけではないぞ!きちんと交渉をして、武器の設計図をいくつかもらってきたのだ!安心するがいい、婿殿!」

 イヴが苦笑しながら、僕に答えた。

 「そ、そうか!?い、いや、チキュウの神々と喧嘩したとか、睨まれるようになったとか、そんなことになったら後で大変なことにならないかと、ちょっとヒヤヒヤしたよ。それなら良かった。僕がチキュウにいた頃、不幸が重なったのは、僕自身の霊能力が暴走していたせいもあるし、地球の神々にクレームを言いたい、とは別に思っていないしさ。ふぅ、本当に良かった。」

 僕はひとまず、地球の神々と後々、トラブルにならずに済むと知り、安堵した。

 神話で知る地球の神々は、はっきり言ってとんでもない怪物ばかりだ。正しく神の中の神、惑星を簡単に滅ぼすほどの力を持った物騒極まりない連中と揉めるなんて、冗談ではない。

 「では、婿殿、妾は如意棒の改良作業に入るため、自分の部屋に戻るとする。用がある時はいつでも呼んでくれ。」

 「ありがとう、イヴ。じゃあ、午後10時に君の部屋を訪ねるよ。最後のメッセージの送付、よろしく頼むよ。」

 如意棒をイヴに渡すと、イヴは部屋を出て行った。

 僕はふたたび、キバタンのお世話と盗聴をするのであった。

 午後10時。

 夕食と風呂を終えると、僕はイヴの泊まる部屋を訪ねた。

 「イヴ、仕事中済まないが、このキバタンの入ったケージをシーバム刑務所のグラウンドに転送してくれ。鷹尾たちに殺害予告を送りつけてやるとしよう。」

 「了解だ、婿殿。如意棒の改良作業は至って順調だ。明日の早朝までには完了するだろう。」

 イヴはそう言うと、キバタンの入ったケージを瞬間移動でシーバム刑務所のグラウンドへと転送した。

 僕はキバタンにかけた認識阻害幻術を解除した。

 シーバム刑務所のグラウンドに、嫌がらせのメッセージもとい、僕からの殺害予告が、キバタンの口から大きな鳴き声で、何度も繰り返し叫ばれる。

 「ジゴクニオチロ、クソッタレドモ!ジゴクニオチロ、クソッタレドモ!ジゴクニオチロ、クソッタレドモ!~」

 そう、僕が元「弓聖」たち一行によって処刑されたあの日に、連中に向かって言った僕の怨念を込めた言葉をそのまま送ってやった。

 今度、処刑されて地獄に落ちるのはお前たちだ、クソ犯罪者ども。

 鷹尾、お前の築き上げた犯罪組織は壊滅寸前だ。

 お前を守る刑務所という名の城塞は、もう無い。

 食料も寝床も無い。

 お前の完璧な犯罪計画はこの僕が粉々にぶち壊してやった。

 封印の施された結界の中に閉じ込められ、最早お前たちにはどこにも逃げ場は無い。

 完璧だと勝手に思い込んでいるお前の犯罪計画や、犯罪に関する知識も、僕の前じゃ抜け穴だらけの、不完全で茶地な、ただの犯罪ごっこに過ぎないのだ。

 犯罪ごっこ程度で本物の復讐鬼となったこの僕の復讐を止められるなんて考えているなら、大間違いだ。

 犯罪ごっこよりも恐ろしい、苦痛と恐怖と絶望に満ちた、本物の復讐をたっぷりと味わわせてやる。

 お前たち異世界の悪党は全員、皆殺しにして地獄に叩き落す。

 目には目を歯には歯を、そして、処刑には処刑を。

 僕がお前たちに正義と復讐の鉄槌を下す処刑ショーのフィナーレがまもなく開幕するのだ。

 犯罪者どもよ、正義と復讐と言う名の処刑を執行する、処刑人である僕の到着を震えながら待っているがいい。

 



























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