第四話 主人公、謎のギャルと出会う、そして、何故か懐かれてしまう

 主人公、宮古野 丈と、主人公率いる「アウトサイダーズ」が、元「弓聖」たち一行を討伐するため、ゾイサイト聖教国の首都へと到着した日のこと。

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈は、神託を捻じ曲げ、勇者として自分を利用しようと考える、ゾイサイト聖教国政府や聖騎士団の思惑を知り、彼らの申し出を拒否した。そして、自分を侮辱し、さらに、自分に申し出を断られたことや存在を否定されたことに逆切れし、自分に襲いかかってきた、聖騎士団の精鋭部隊、「白光聖騎士団」の横暴な振る舞いに激怒した主人公は、アーロン・エクセレント・ホーリーライト率いる「白光聖騎士団」の聖騎士たち全員に、再起不能になるほどの重傷を負わせ、ボコボコにぶちのめしたのであった。

 ついでに、聖騎士たちの横暴な振る舞いを許す、ゾイサイト聖教国冒険者ギルド本部にも激しい怒りを抱き、ギルドにいた冒険者たちとギルドの職員たちも、冒険者ギルドの建物を粉々に粉砕して、全員、瓦礫の山の下へと沈めたのであった。

 冒険者ギルドで唯一まともな人間であった受付嬢のエミリー・スマイルから情報をもらい、彼女を無事に逃がし、それから、「白光聖騎士団」の聖騎士たちをぶちのめした主人公、宮古野 丈は、元「弓聖」たち一行に関するさらなる情報収集のため、囮役にもなりながら、ゾイサイト聖教国の首都の大通りを歩いていた。

 ゾイサイト聖教国の大通りの本屋に寄ると、ゾイサイト聖教国の地図や、リリア聖教会に関する本など、元「弓聖」たち一行の討伐に役立ちそうな情報の載った本を数冊見つけ、購入したのであった。

 それからふたたび、首都の中心部の街中を歩き始めた主人公であったが、聞き込みをしても、元「弓聖」たち一行に関する他にめぼしい情報は得られなかった。

 元「弓聖」たち一行からの奇襲攻撃もなく、元「弓聖」たち一行と遭遇することもできず、少し残念な思いがしてくるのであった。

 「目新しい情報は特になし。元「弓聖」たち一行が襲ってくる気配もない。冒険者ギルドで聖騎士たちと戦った僕の姿を見て、警戒して、拠点に戻った可能性もあるな。この先に公園があるそうだし、公園で買った本でも読みながら、情報の整理を行うとするかな。」

 僕はそう言うと、大通りの先にある、首都中央部にある公園を目指して歩いた。

 僕が公園に向かって大通りを歩いていると、とある焼き鳥店の前で、一人の少女が、十人ほどの武装した男たちに取り囲まれ、激しく口論しているのが見えた。

 金髪の、金色のチュニックを纏い、腰のベルトにロングソードを提げている、50代前半くらいの、リーダーらしき中年男性が、一人の少女に向かって、怒りながら罵詈雑言を浴びせている。

 「この出来損ないの家出娘が!?勝手に家を飛び出した上に、ちょこまかと逃げ回りおって!大体、何だ、その破廉恥極まりない恰好は!?髪型や瞳の色を変えた程度で、この私の目を欺けると思っているのか、この親不幸者が!由緒あるホーリーライト家の娘が家出をした上に、公園で野宿するわ、人前で立ち食いをするわ、不良のような口の利き方をするわ、お前はどれだけこの私に恥をかかせれば気が済むんだ!首に黒いタトゥーなんぞ入れおって、聖騎士の家系ともあろう者が何と汚らわしいことをしているのだ!今すぐ屋敷に戻れ、この出来損ないの不良娘が!」

 目の前に見える少女は、焼き鳥の串を一本食べ終えると、激高する中年男性に向かって、顔を顰め、ため息をつき、気だるげな感じで答えた。

 「はぁー。マジでウゼぇー。ウチはお前の娘じゃないって何度言ったら分かんの?ステータスを鑑定して名前確認してみろよ、オッサン?ウチの名前はスロウラルド。オッサンの家出した娘とかマジ知らないし。つか、マジでしつこい。ウチは自由気ままな旅人なんだっつーの。いい加減、付きまとうの、マジで止めてくんない?貴族だか何だか知らんけど、マジ、ストーカーで訴えるよ?毎日、毎日、大勢で付きまとって、オッサンたちマジでキモいんですけど?ホント、相手するのメンドいんですけど~。」

 ターコイズグリーンの髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、ミディアムボブの髪型で、エメラルドグリーンの瞳をしていて、右目を長い前髪で隠した、ターコイズグリーンのオーバーサイズのパーカーを着た、フードを被った小柄な少女が、ジト目で気だるげな感じで、中年男性たち一行と揉めていた。

 ターコイズグリーンの髪の少女を見て、僕は思った。

 「あれか?ダウナー系ギャルと言う奴か?口調や見た目からして、どう見ても貴族の娘って感じじゃないぞ?例外を知ってはいるが、本人も否定しているようだし、あのギャルは貴族の娘じゃないんじゃないか?それに今、ホーリーライト家と言ったか、あの男?ということは、あのアーロンとか言うクソ勇者もどきの知り合いか?大体、自分の娘を出来損ないと呼ぶだなんて、あの男はまともな父親じゃない。間違いなく毒親確定だ。聖騎士の連中は家族親戚も含めて、碌な奴がいないらしい。あのギャルが本当に家出娘かはともかく、あのクソ親父は放っておけないな。異世界のクズどもは誰であろうとぶちのめす!」

 僕は目の前にいる少女を、毒親確定のクソ親父から助けることに決めた。

 僕は男たちの3mほど背後に立ち、男たちに向かって言った。

 「おい、そこのストーカーのクソ親父ども!さっさとその娘から離れて、とっとと失せろ!僕にぶちのめされたくなかったらな、ストーカーども!」

 僕にストーカーと呼ばれ、男たちが一斉に背後にいる僕の方を振り返った。

 リーダーの中年男性を始め、男たちは顔を真っ赤にして激怒し、僕に向かって剣を構えた。

 「貴様、どこの誰だか知らんが、この私を侮辱するとは、どうなるか分かっているのか!?元「白光聖騎士団」総団長にして枢機卿、ヘンリー・エクセレント・ホーリーライトと知っての狼藉か!?」

 金髪の中年男性が、激怒しながら僕に向かって名乗った。

 「「白光聖騎士団」の元総団長?ああっ、あのアーロンとか言うクソ勇者もどきがリーダーの、クソ雑魚聖騎士どものいる聖騎士団の元団長か?「白光聖騎士団」ならさっき、冒険者ギルドで会ったぞ。僕のことを散々馬鹿にしてきた上、僕が要求を断ったら、逆切れして剣を抜いてきたぞ、あのアーロンとか言うクソ勇者もどきは。ホーリーライト家と言ったな。あのアーロンとか言うクズと行動が丸っきり同じだな。無礼で、品性の欠片も無い、どうしようもなく残念な人間のクズだな、クソ親父。そうそう、アーロンも含めて、「白光聖騎士団」の聖騎士の皮を被った人間のクズどもは僕が全員、ぶちのめした。再起不能になるまでな。今頃は冒険者ギルドの瓦礫の山の下敷きになって、死にかけているころだろうな。早く助けに行かないと、アーロンも他の聖騎士たちもマジで死ぬかもしれないぞ?」

 僕はニヤリと笑みを浮かべながら、中年男性を挑発した。

 「き、貴様ごとき、どこの馬の骨とも知らんガキに、私の自慢の息子が敗北するわけがない!?たわけたことを抜かすな、貴様!?」

 「なら、試してみるか、ストーカーのクソ勇者もどきのクソ親父?そのご自慢の剣で僕を斬ってみせろよ。何なら、手下たちとまとめてかかってきてもいいぞ?どうせ、息子同様、カスみたいな威力の剣だろうがな?」

 「き、貴様ぁーーー!?今すぐこの場で斬り捨ててくれる!お前たちは邪魔をするな!この私を侮辱したこと、あの世で後悔するがいい、クソガキがぁー!」

 ヘンリーは僕に向かって剣の切っ先を向けると、両手で剣を構えながら、僕に斬りかかってきた。

 ヘンリーの持つロングソードの刃が黄金色に光り輝き、僕を縦に真っ二つに斬り裂こうと、襲ってくる。

 「死ねえー!聖光一閃!」

 黄金色の光のエネルギーを纏った剣による鋭い一撃が、僕を正面から真っ二つに斬り裂こうと、振り下ろされた。

 僕はすかさず、左の拳を握りながら、左腕を斜め右上へと突き出し、左腕で顔や体をガードする構えをとった。

 ヘンリーの光のエネルギーを纏った剣の刃が、ガードする僕の左腕に直撃した瞬間、ヘンリーのロングソードの剣先が粉々に砕け散った。

 「な、何っ!?」

 自分のロングソードの刃が僕の左腕にぶつかって、逆に粉々に砕け散ったのを見て、ヘンリーは声を上げて驚いた。

 周りにいるヘンリーの部下たちも、全員、口を開けて驚愕の表情を浮かべている。

 「これが「白光聖騎士団」の元総団長の剣ねぇ。息子同様、全然大したことないなぁ。息子がクソ勇者もどきだから、その父親も当然、クソ勇者もどき、あるいはそれ以下か?勇者の血を受け継いでいるだの、史上最強の聖騎士だの、偉そうに威張っているが、所詮は口先だけのクソ雑魚聖騎士だな?一応、自己紹介をしておこう。僕の名前は、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。ラトナ公国を治めるラトナ大公家の人間で、ラトナ公国の子爵だ。それと、「アウトサイダーズ」と呼ばれる、ちょっと名の知れた冒険者パーティーのリーダーを務める、Sランク冒険者の一人でもある。さて、先に剣を抜いたのはそちらだ。おまけに、お前たちはラトナ大公家の人間であるこの僕を殺そうと刃を向けてきた。これはれっきとした外交問題だ。そして、僕には当然、正当防衛の権利が発生する。今度はこちらがお返しをする番だ。僕にぶちのめされる覚悟はできたか、ストーカーのクソ親父ども!」

 僕はヘンリーたちに向かって、正体を明かし、右の拳を握りしめながら、激しい怒りを露わにした。

 僕の正体と、激怒する姿を見て、ヘンリーたちの顔は一気に青ざめ、ヘンリーたちは慌て始めた。

 「あ、あなた様があの有名なラトナ子爵様、「黒の勇者」様とは知らず、とんだご無礼を!?ど、どうかお許しを、「黒の勇者」様!?」

 「今更謝っても遅い、このストーカーのクソ親父!お前たち人間のクズだけは絶対に許さん!目の前にいるその女の子を寄ってたかってストーカして辱めた罪、この僕を侮辱して殺そうとした罪、断じて許さん!覚悟しろ、クズ人間ども!」

 僕は瞬時にヘンリーの前まで移動すると、霊能力を纏った右拳で、ヘンリーの顔面を思いっきり殴り飛ばした。

 「オリャー!」

 「ブベェーーー!?」

 僕に顔面を思いっきり殴り飛ばされ、ヘンリーは体ごと大通りのはるか遠くまで、ピューンと真っ直ぐに飛んで行った。

 ヘンリーが僕にぶっ飛ばされたのを見て、混乱するヘンリーの部下たちに、僕は言った。

 「よそ見をしている場合か、クズども。次はお前らの番だ、覚悟しろ。」

 僕はそう言うなり、慌てて逃げようとするヘンリーの部下たちを、瞬時に追いかけ、パンチやアッパーカット、アイアンクロー、キックなどを浴びせ、一撃のもとに、全員撃沈させた。

 顔面から大量の血を流し、手足や腕、肋骨などを折られ、白目を剥いて気絶する、ヘンリーの部下たちの無惨な姿が、大通りに転がっていた。

 大通りを歩いている通行人たちや、大通りに店を構える商人たちは、僕にぶちのめされたヘンリーと、ヘンリーの部下たちの血まみれで気絶して大通りに転がっている姿を見て、戦々恐々とした面持ちで、僕やヘンリーたちの様子をうかがってくる。

 「聖騎士の連中も関係者も、本当に碌でもない人間のクズばかりだな、まったく。こんな人間のクズどもが国を守る聖騎士だなんて、このゾイサイト聖教国もリリア聖教会も本当にクソだな。本性はクズだし、実力は大したことないし、こんなんでよく、元「弓聖」たち一行を討伐できると本気で思っているんだから、どうしようもない連中だな、本当に。おっと、いけない。君、怪我はないかい?君に付きまとっていたこのストーカーのクソ親父どもは全員、ぶちのめしたから、もう大丈夫だよ。もし、困っているなら、ラトナ公国大使館まで来ないかい?あそこは僕の仲間もいるし、まともな人間ばかりだし、このストーカーのクソ親父や、リリア聖教会の連中も手出しはできない。治外法権という奴だよ。ラトナ公国に亡命希望と伝えれば、ラトナ公国大使館は君を全力で保護するよ。僕は、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。ラトナ公国子爵で、冒険者をやっている。親しい人たちからは、ジョーって呼ばれている。どうかな?」

 僕は、目の前にいる、ダウナー系ギャルのような少女に声をかけた。

 少女は目を丸め、驚きながら言った。

 「ほえぇー!君、めっちゃ強いじゃん!つか、君、本当に人間?全然、魔力を感じないのに、生身で剣を防いで、その上、聖騎士どもを全員、瞬殺するとか、マジパねえわ!君が噂の「黒の勇者」かぁ~。ってか、勇者が聖騎士団をぶちのめすとか、めっちゃウケるんですけど~!女神が知ったら、マジでぶったまげるって!マジ、面白すぎ、君~!」

 目の前のダウナー系ギャルが、興奮した様子で、笑みを浮かべながら、僕について評した。

 僕はギャルという人種が苦手だ。

 日本にいた頃から、姫城たちクソビッチのようなギャルたちに、キモい陰キャだの、ばい菌だの、散々悪口を言われ、陰湿ないじめを受けたことが多々、あった。

 ギャル特有のテンションだとか言葉遣いだとかも、いまいち好きではない。

 このクソみたいな異世界に来てからも、関わったギャルに碌な奴はいなかった。

 幸い、目の前にいるギャルは、大して僕を嫌っているようには見えない。多分。

 僕は苦笑しながら、再度、目の前にいるダウナー系ギャルに言った。

 「ええっと、特にラトナ公国へ亡命したいとは思っていない、という解釈で良いのかな?もし、また、あのストーカーのクソ親父たちに付きまとわれて困った時は、ラトナ公国大使館を訪ねてみてください。朱色の大きな建物なので、すぐに分かるかと思います。僕は仕事があるので、これで失礼します。それじゃあ、お達者で。」

 僕はそう言って、目の前のギャルに軽く会釈をすると、公園に向かって、ふたたび歩き始めた。

 僕がギャルの横を通り抜けて公園に向かおうとすると、急にギャルの少女が、僕の左腕に自分の右腕をからめ、引っ付いてきた。

 「ちょっと待ちなよ、君~。さっきはあのストーカーのオッサンたちから助けてくれてありがと。御礼にウチが何かごちそうしてあげるし。君のこと、もっとよく知りたいな~。ねぇ、付き合ってよ。良いっしょ?」

 「い、いえ、その~、僕は本当は今、仕事中でして。元「弓聖」たち一行の討伐任務の真っ最中なんですよ。情報収集とか、とにかくあのクソ勇者たちを倒すのに忙しくてですね。御礼の言葉だけで十分ですんで。」

 「元「弓聖」たち一行を討伐したいねぇ。なら、ウチが情報提供してあげよっか?ウチ、実は~、君のお探しの堕天使の一人、何だよねぇ~。」

 隣にいるギャルの衝撃発言を聞き、僕の顔に緊張が走った。

 僕は警戒しながら、隣で腕を組んでいる、堕天使と名乗るギャルに訊ねた。

 「堕天使と言ったな?ということは、お前は、堕天使と融合した元「弓聖」たち一行の、鷹尾たちの誰かの可能性がある。お前たちが「フェイスキラー連続殺人事件」を起こして、他人の顔を奪って、別人になりすましていることは分かっているんだ。お前は誰だ?鷹尾、下長飯、下川、乙房、早水、妻ケ丘、都原、一体、誰だ?仲間割れをしたのか、もしくは、暗殺やスパイ目的で僕に近づいたのか、いずれにしても無駄だ。僕は絶対に、僕を処刑したお前たちを許さない。お前たちの悪事に加担する堕天使も絶対に許さない。クソ女神のリリアから聞いた特徴に似ているな。さぁ、お前の正体を白状しろ。僕は必ず、お前たち全員を地獄に叩き落す!」

 僕が怒りを露わにしながら訊ねると、ギャルが慌てて返事をした。

 「ちょっ、ちょっと待ってっしょ!ウチは別に元「弓聖」どもではないから!この体は、あのストーカーのクソ親父たちに虐められてた、ゾーイって女の子と同意の上で、融合して預かってる体なんだし!ウチは元「弓聖」のクズどもに協力する、あの下衆な元同僚とは全然、違うし!ウチは別に人間を傷つけたりとか、殺したりとかしないから!ただ、ゾーイと一緒に、好きなだけ食っちゃ寝して、外の世界を満喫しようって、してるだけだから!とにかく、一度ゆっくり話し合おっ、ねっ!?ウチは堕天使だけど、マジで敵じゃないから!?そんな怖い顔しないでよ、マジ、お願いだから!」

 「そう言えば、リリアの奴が、一人、他の堕天使たちとは離れて単独行動している堕天使がいると言っていたな?もしかして、お前がその堕天使なのか?だけど、お前が変装した鷹尾たちの誰かである可能性もあるしな。今すぐお前を信用するわけじゃあない。こっちには、どんなに巧妙にステータスを偽装しても、一発で完全に正体を見抜く仲間がいる。僕より強い仲間も大勢いる。僕たちを騙し討ちしようとしたら、お前を一瞬で地獄にもう一度、落とすことだってできるんだ?お前の持つ情報とやらを聞かせてもらおうか?もし、ほんの僅かでも情報に偽りがあったり、僕たちを暗殺しようとしたりしてくれば、僕たち「アウトサイダーズ」はお前を確実に潰す。分かったな?」

 「分かった、分かったから!ウチはマジで敵じゃないから!単独行動してる堕天使って、ウチのことだから!知ってる情報も全部、教えるから!ホント、マジで信じて!くそっ、あの元勇者ども、やっぱり碌でもないクズだったじゃん!やっぱり関わらなくてマジ、正解だったわ!つか、勇者が勇者に復讐するとか、マジでどうなってんよ?聖騎士まで勇者にぶっ飛ばされるし?マジで一体、どうなってんのよ?あのクソ女神、マジで何やってんっしょ?」

 ギャルの堕天使が慌てながら、僕へ情報提供をすると言いながら、現在の状況に困惑している様子を見せた。

 まさか、この堕天使の反応ぶりからして、この堕天使が言っていることは全て真実だったりするのか?

 僕を欺くための巧妙な演技かもしれないが、僕に近づくなら、もっと上手いやり方だってあったはずだ。

 僕を手紙で呼び出し、極秘裏に交渉を行う風体を装うとか、何かしら信用を得るための目に見える、分かりやすい手土産を持参して交渉しようと言ってくるとか。

 わざわざサクラを使って、ストーカーの集団に襲われている女の子を装う、しかも、分かりやすい手土産も無く、あっけらかんに正体を明かして近づく、なんて、頭の切れる鷹尾たちらしくないやり方だ。

 こう考える僕の裏をかくための芝居かもしれないが、どこか完璧さを求める鷹尾らしくない、少々抜け目のあるやり方に、僕は違和感をおぼえた。

 「とりあえず、お前の話を聞かせてもらおう。敵でないかどうかは、話を聞いて、仲間たちにもお前のことを確認してもらってから、最終的に判断する。それで、お前の名前は?」

 僕の問いに、ギャルの堕天使は、ホッとした表情を浮かべると、笑顔で僕に答えた。

 「ウチの名前は、スロウラルド!時間を操ることのできる、怠惰の堕天使だし!めっちゃ、凄いっしょ!後、ウチと融合したこの体の持ち主は、ゾーイ。ゾーイ・エクセレント・ホーリーライト。めちゃくちゃ優しい、ウチの友達で姉妹だし。ゾーイもジョーちんとお話してみたいって言ってるし!よろしくね、ジョーちん!」

 「じょ、ジョーちん!?ええっと、よろしくな、スロウラルド。後、ゾーイさん。」

 「スロウって呼び捨てで良いし。ゾーイも、さん付けはいらないって言ってるし。ウチらはもう、ジョーちんとはお友達だし!敬語はナッシングといきましょうじゃん?」

 スロウの見せる態度に、僕は少々困惑した。

 どうも、スロウは鷹尾たちが化けているようには見えない。

 あの人でなしの連中が、クラスメイトだった僕を自分たちの都合であっさりと裏切った、冷血な人間のクズどもが、日本にいた頃から忌み嫌っていた僕を友達、と呼ぶわけがない。

 鷹尾がこんなノリの軽いギャルみたいな演技をしてまで僕に接近するとも思えない。

 できたとしたら、自己催眠レベルの演技だ。

 それこそ、プロの暗殺者や名女優顔負けの、完璧な演技と言っても過言ではない。

 僕がスロウを見て困惑する中、「あっ!?」とスロウがハッとした表情を浮かべながら呟いた。

 「どうした、スロウ?何か不都合なことでも起こったか?」

 僕の質問に、スロウは苦笑しながら答えた。

 「ごめん、ジョーちん。さっき、焼き鳥食べた時、お金使い切っちゃった。ウチ、今、全然、お金持ってない。ええっと、今度、その内、きっと返すから、何か奢ってくんない?ウチ、超お腹空いててさ。ちゃんと情報は提供するから。お願い、何か食べさせて、ジョーちん!絶対にお金は後で返すから!マジ、お願いしまする!」

 スロウが両手を合わせながら、無一文であることと、僕に食事をおごるよう、頼んできた。

 そんなスロウを呆れた表情で見つめながら、僕は思った。

 コイツ、絶対に鷹尾ではない。

 こんな金にだらしない、ルーズなギャルを、あの完璧主義の冷徹クソ女がキャラクターとして演じようと思うわけがない。

 後、本当に怠惰の堕天使だ、コイツは。

 「はぁー。しょうがないな。食事くらい、タダで奢るよ。好きなモノを好きなだけ食べさせてやる。ただし、元「弓聖」たち一行や他の堕天使たちに関する、知っている情報は全て話してもらうぞ。約束だぞ?」

 「マジ!?ありがとう、ジョーちん!ウチに聞きたいことがあったら、全部教えてあげるから!それじゃあね、ウチ、パフェが食べた~い!ゾーイも、パフェ食べたことないから、食べてみたいだって!大通りに、ジャンボパフェが食べれるオシャレなスイーツのお店があるって、公園でデートしてたカップルが言ってたよ!じゃあ、スイーツデートと行きましょか、ジョーちん!」

 スロウはそう言うと、僕の腕を引っ張り、僕が元来た方向へと向かおうとする。

 「おい、いきなり腕を引っ張るな!?ってか、何でお前と腕を組んで歩かなきゃいけないんだよ?歩きづらいだろうが?」

 「いいじゃん、別に~。ウチ、本当は歩くの嫌いだけど、ジョーちんとデートしたいから、わざわざ歩いてあげてるんだし~。ウチみたいな可愛い女子と腕組むのが嫌って、もしかして、ジョーちん、男が好きなの?」

 「違う!僕は女性が好きだ!別に同性愛者ではないし、同性愛者を悪く言うつもりも一切ない!ただ、その、変に誤解されたら、後々面倒なことになりそうだからだよ!僕のパーティーメンバーは僕以外、全員女性だ!後、義理だが、5歳の可愛い娘もいる!娘にまで変に色々と誤解されたくはないんだよ、僕は!」

 「意っが~い!ジョーちん、その若さでパパなの!ってことは、もしかして、結婚してる?」

 「いや、結婚はまだしていない。付き合っている彼女もいない。僕は独身だ。多分、一生。」

 「そっか!ジョーちん、フリーなんだ!なら、別に浮気とかにはならないから、問題ないっしょ!たまには女の子とデートするのも大事だぞ、ジョーちん?それじゃあ、二人でスイーツデートを楽しもうじゃん!」

 こうして、僕はスロウに腕を引かれ、元来た道を引き返し、スロウの言う、ジャンボパフェを出す、大通りにあるスイーツ店へと、一緒に向かうことになった。

 スロウと腕を組んで大通りを歩いているところを、首都内を同じく探索中の、他のパーティーメンバーたちに見られないことを、僕は切に願っていた。

 スロウと一緒に大通りを歩いていると、冒険者ギルドの傍をふたたび通った。

 冒険者ギルドだった建物は、40分ほど前に受けた僕の攻撃で全壊し、瓦礫の山となっていた。

 ギルド前には大勢の騎士たちが集まり、ギルドの瓦礫の山の下敷きとなった、冒険者たちやギルドの職員たち、「白光聖騎士団」の隊長たちの救助作業を今も行っていた。

 他にも、ギルド周辺の大通りには、僕の放った雷を食らって重度の火傷を負って気絶している、「白光聖騎士団」の部下の聖騎士たちが大勢転がっていて、他の騎士団の聖騎士たちによって担架に乗せられ、救助されているところであった。

 僕とスロウは、そんな冒険者ギルド前の救助作業を横目に、二人で目的のスイーツ店へと歩いてむかうのであった。

 僕は偶然かどうかは分からないが、怠惰の堕天使と名乗る、スロウラルドという名前のダウナー系ギャルと出会った。

 いまだ信用はできないが、この謎の多いギャルもとい堕天使が、元「弓聖」たち一行を討伐するために必要な情報を握っている可能性がある以上、無視することはできない。

 元「弓聖」たち一行を討伐するためなら、あの冷酷非情なクソ犯罪者どもに復讐するためなら、例え罠かもしれなくても、僕はその罠の中にわざと飛び込み、必ず復讐のチャンスを手に入れてやるのだ。

 僕の異世界の悪党どもへの復讐に懸ける執念は、決して揺らぐことはない。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る