第三話 【EXTRAサイド】とある堕天使ととある少女の奇妙な出会い

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈が、サーファイ連邦国からゾイサイト聖教国に向けて出発した日の翌日のこと。

 元「弓聖」たち一行が、ゾイサイト聖教国の南の廃遺跡、「リベリオ遺跡」の地下に封印されていた堕天使たちを復活させた日から三日後のこと。

 堕天使たちと融合した元「弓聖」たち一行によって、ゾイサイト聖教国が混乱の渦にある中、そんな混乱を気にすることなく、フワリフワリと、ゾイサイト聖教国の首都を漂う、青白い人魂のような存在がいた。

 三日前、プララルド率いる他の堕天使たちが、元「弓聖」たち一行と融合する中、一人だけその輪に入らず、その場から立ち去った堕天使がいた。

 怠惰の堕天使こと、スロウラルドである。

 彼女の持つ能力、その名は「時間逆行」。

 自身の半径1㎞以内の空間に存在する、自分よりレベルの低い生物や物体、あらゆる事象の時間を自由自在に操作できる。

 時間を最大で1分間だけ停止させる、時間を1分前に巻き戻す、時間を1分先に進める、早送りできる、などである。

 停止した時間の中で動くこと、時間の停止した空間内の存在に干渉することは、基本、彼女だけにしかできない。

 自分より格上の堕天使たちがいる中、わずかに時間を止め、その間にスロウラルドは立ち去ったのであった。

 何故、彼女は、他の堕天使たち同様、鷹尾たち一行に協力しようとしないのか?

 その答えは明快だった。

 単に面倒くさい、からである。

 女神リリアや勇者という存在を、彼女自身が嫌っていたことも大きい。

 『はぁ~。マジ、うるせえし。アイツら、また懲りずに暴れてるし。どこもかしこも夜なのにクソうるさいし。絶対、アイツらが暴れてるせいじゃん。煩くて、全然、眠れねえし。クソ、ダリぃ~。けど、こうやって魂のままだけってのも、面倒くせえ~。浮くの超怠い。どっかに新しい体になりそうな人間いねえかな~?はぁ~、探すのマジめんどい。ウチはあのまま封印されたままでも別に良かったのに。』

 元「弓聖」たち一行によって封印を解かれたことで眠りを妨げられたことに、新しい体を探すハメになったことに、スロウラルドはすこぶる機嫌が悪かった。

 『勇者クビになるとか、絶対あの人間たち、碌でもないクズばっかりっしょ。関わったら、絶対に碌なことにならないはずだし。下手したら、マジ、封印どころじゃすまなくなるかもじゃん。クズと関わってマジで破滅するとか御免だし。ウチはただ好きなだけ食っちゃ寝できれば、それで良いんだし。アイツらには悪いけど、ウチは勝手に抜けま~す。新しい体見つけて、早くお日様の下で、いっぱいお昼寝するっしょ。』

 とにかく、新しい体となる人間を見つけて、自由気ままで自堕落な生活を満喫したい、そう思っているスロウラルドであった。

 そんなスロウラルドが首都内を彷徨っていると、白い大きな屋敷の敷地内へと入ってしまった。

 屋敷の敷地内を通過しようとしていた時、屋敷の三階の小さな窓から、数人の大きな声が聞こえてきた。

 最初は気にせず、通り過ぎようとしたスロウラルドであったが、窓から聞こえてくる会話の内容を聞いて、思わず窓の傍で停止した。

 「この出来損ないが!お前の高い薬代のために、我がホーリーライト家はいつも家計が逼迫されている!15にもなって、いまだにジョブとスキルも覚醒しないどころか、ますます病気は悪化する始末だ!これでは嫁にやることさえできん!この出来損ないの失敗作が!」

 身長180cmほどで、白いシャツを着て、金色の中世ヨーロッパ風のチュニックを纏った、金色の長髪に瞳の、50代前半の中年男性が、ベッドに横たわっている一人の少女に向かって、ひどい剣幕で怒鳴り散らしていた。

 「本当にその通りだわ!この私の血も引いていながら、聖騎士のジョブどころか、祈祷士のジョブすら持っていないなんて!ただの魔術士だなんて!おまけに、制限付与なんて、大して役に立たない魔法しか使えないなんて!せめて健康な体で産まれてくればまだしも、本当に金食い虫の、疫病神ね!あなたを産んだせいで私は周りから良い笑われ者よ!こんな娘、産むんじゃなかった、本当!」

 身長160cmほどで、金色の長い髪を編み込みをいくつも入れた髪型の、金色のタイトなワンピース型のドレスを着た、40代後半の中年女性が、ヒステリックを起こしたかのような表情を浮かべながら、ベッドに横たわっている少女を、口汚く罵倒した。

 「ゴホっ、ゴホっ、本当にごめんなさい、お父様、お母さま。」

 身長155cmぐらいで、金髪のロングストレートヘアーに、金色の瞳、ゆったりとした白い患者服を着た、白い肌で、病弱で、どこか幸薄そうな雰囲気を纏った、顔立ちは整った少女が、中年男性と中年女性に向かって、申し訳なそうに謝った。

 「嫁入りもできないくせに、この私より胸が育つなんて、本当に不愉快ね!栄養が全部、その無駄にデカい胸にいっているから、いつまで経っても病気も治らないのよ!本当に見ててイライラする!」

 少女の胸はFカップほどあり、平らな中年女性の胸に比べて、確かに大きかった。

 「父上、母上、ゾーイに当たるのはそれくらいにしておいてください。お二人の大きな声が屋敷の外まで響いていますよ。無能で役立たずのゾーイのことなんて、放っておきましょう。それより、聖教皇陛下より先ほど、光の女神リリア様からの神託と、聖教皇陛下からの直々の命令を受け賜わってきたところです。この僕、アーロン・エクセレント・ホーリーライト率いる聖騎士団は、「黒の勇者」様とともに、我が国と世界を脅かす元「弓聖」たち一行を討伐せよ、とのことです。今回の元「弓聖」たち一行の討伐が成功すれば、僕もホーリーライト家も、聖教皇陛下からの株がますます上がることでしょう。そうなれば、いずれ、我がホーリーライト家は長年の悲願である大枢機卿の地位を手に入れることに、また一歩前進することでしょう。ゾーイの薬代程度、問題ではありません。どうか、機嫌を直してください、父上、母上?」

 中年男性と中年女性に声をかけてきたのは、ゾイサイト聖教国聖騎士団の総団長にして「白光聖騎士団」第一部隊隊長、「勇者」の血を継ぐ聖騎士、アーロン・エクセレント・ホーリーライトであった。

 そう、スロウラルドが窓から覗き見するこの屋敷に住む貴族は、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈に四日後、冒険者ギルドで喧嘩を売って、仲間の聖騎士たちとボコボコにぶちのめされることになった、あのアーロンの実家、ホーリーライト家であった。

 アーロンが声をかけた途端、中年男性こと、ホーリーライト家の当主、ヘンリー・エクセレント・ホーリーライトの表情は明るくなった。

 ヘンリー同様、中年女性でヘンリーの妻、マイア・エクセレント・ホーリーライトも、急に表情が明るくなり、笑みを浮かべた。

 「おかえり、アーロン!さすがは私の自慢の息子だ!私同様、勇者と同等のスキルを受け継ぎ、弱冠20歳で聖騎士団の総団長になっただけのことはある!この私以上の才能を持つお前なら、元「弓聖」たち一行の討伐も必ずできるはずだ!期待しているぞ、アーロン!」

 「さすがは私の息子だわ!出来損ないのゾーイとは大違い!あなたを産んで本当に良かったわ!あなたさえいれば、ホーリーライト家の未来は安泰だわ!討伐、気を付けてね、アーロン!あなたと「黒の勇者」様がいれば、元「弓聖」たち一行なんて、大したことはないでしょうけど!私も心から応援しているわ、アーロン!」

 「ありがとうございます、父上、母上。こんな埃っぽくて湿った屋根裏部屋は出て、一緒にワインでも飲みませんか?年代物の良いワインを買ってきました。ワインでも飲んで、機嫌を直してください。元「弓聖」たち一行の討伐が済めば、聖教皇陛下から褒賞もいただけることでしょうし、いただいたボーナスで贅沢をしてください。」

 「何と気の利いた、よくできた息子だ、お前は!お前さえいれば、我がホーリーライト家のさらなる栄光は約束されたも同然だ!では、一緒にワインを楽しもう、我が息子よ!」

 「あなたったら、本当に気の早い人ねぇ。でも、前祝いをするのも悪くはありませんね。では、私も一緒にご相伴にあずかるわね。行きましょう、あなた、アーロン?」

 「じゃあな、ゾーイ。いや、愚妹。心配しなくても、死ぬまで僕が面倒みてやる。優秀なエリートであるこの僕を兄に持てて、幸運だと思えよ。お前みたいな出来損ないの妹を面倒みてやる優しい兄であるこの僕に一生、感謝していろ。」

 アーロンが、ゾーイを馬鹿にしながら、ヘンリーとマイアを連れて、一階のリビングへと、ワインを飲みに向かった。

 アーロンたちが、ゾーイのいる三階の屋根裏部屋から立ち去った後、ゾーイはベッドの中で一人、涙を浮かべながら、静かに、小さな声で泣いていた。

 「何で、何で私はこんなにダメなの?私、女神様に嫌われるようなこと、しちゃったの?ずっと寝たきりなんて嫌だよぉ。私もみんなと同じように外を歩きたいよぉ。独りぼっちはもう嫌。誰か、誰かここから私を助けて。」

 ベッドの中で、ゾーイ・エクセレント・ホーリーライトという少女は、泣きながら一人、呟いた。

 それは、自由を求める、一人の儚げな少女の、悲痛な助けを求める声であった。

 ゾーイのいる屋根裏部屋の窓から、青白い人魂の姿をしたスロウラルドは、黙ってゾーイの姿を見つめていた。

 スロウラルドがゾーイを見つめながら考え込んでいると、ゾーイがベッドのテーブルの皿の上に置かれた果物ナイフを手に取ると、泣くのを止め、ナイフを両手で握りしめながら、ナイフの刃を恐る恐る、自分の喉元へと近づけた。

 「死ぬのは怖いよ。でも、ずっとベッドに寝たきりの人生なんて嫌。独りぼっちのまま、生きていくのはもう嫌。自殺したら地獄に落ちるって、聖書には書いてあったけど、こんな家から出られるなら、こんな辛いだけの人生から自由になれるのなら、地獄でもどこだっていいから、私は行ってやるの。さようなら、この世界。」

 ゾーイが遺言を言って、ナイフの刃を喉元に突き刺し、自殺しようと決意した刹那、スロウラルドが窓をすり抜け、ゾーイの元へと現れた。

 『ちょっと待ちなよ、アンタ?地獄なんて碌な場所じゃねえよ?あそこに行ったら自由なんて絶対にねえし。つか、アンタ、体が弱いだけで別に何も悪くね?ウチにはアンタの毒親とクソ兄貴の方が、断然地獄に落ちるべきクズにしか見えんかったわ。ねぇ、アンタ、ウチと融合してみない?ウチと融合したら、こんなクソみたいな家からすぐに出られるし、自由になれるよ。自殺なんて止めてさぁ、一回ウチの話聞いてくんない?』

 突然、目の前に現れたスロウラルドに驚愕し、ゾーイは思わずナイフを落っことしそうになった。

 そして、ベッドの端へと後退し、震えながら、悲鳴を上げた。

 「れ、レイス!?こ、来ないで!?だ、誰か、助けて!?」

 『はぁっ!?ウチはレイスじゃねえから!ウチはレイスじゃなくて堕天使だから!一度は地獄に落ちたけど、一応、元天使だから!つかっ、アンタを助けに来たんだし!アンタを自由にしてやるって言ってんの!アンタ、ウチの話、聞いてた?もしかして、耳まで悪い感じ?』

 憤慨するスロウラルドに、ゾーイは恐る恐る訊ねた。

 「だ、堕天使さん、ですか?何で堕天使さんが私を助けようとするんですか?」

 『おっ。ウチに興味持ってくれた感じ。まぁ、実を言うと、ウチ、今、体が無くて困っててさぁ。アンタのクソ兄貴が討伐するとか言ってた、元「弓聖」だっけか、あの元勇者のクソどもに封印を解かれたせいで体ぶっこわされちゃってさ。おまけに人の安眠まで妨害されてマジで腹立ってんの。話戻すけど、ウチと融合したら、アンタの病気は治るし、ジョブもスキルもレベルアップする。はっきり言って、人間マジで超えちゃう。Lv.200くらいにはなるよ。ぶっちゃけ、元「弓聖」たちって、ウチの仲間と融合したから強くなっただけで、アイツら元々はめっちゃ弱かったし。堕天使であるウチと融合したら、アンタはこのクソみたいな家から自由になれる。毒親もクソ兄貴も、余裕でぶっ飛ばせるようになる。自由に外で暮らせるようになる。ただ、融合する代わりに、体の主導権はウチにくれない?もちろん、アンタが体の主導権を欲しいって時は、相談にはなるけど、渡してあげる。ウチと融合すれば、アンタが終わりにしようとしていた人生、超ハッピーに変わること間違いなし。地獄に落ちる必要ナッシング!遊び放題、食っちゃ寝し放題、気に入らない奴は一瞬でぶっ飛ばせる。どう、ウチと融合して人生、やり直してみるつもりはな~い?』

 ゾーイはしばらく考え込んだ後、真剣な表情でスロウラルドに答えた。

 「堕天使さん、あなたと融合したら、本当に自由になれるんですよね?病気も治って、力も強くなって、外の世界を自由に見て回ることができるんですよね?だったら、私、あなたと融合します。体の主導権もあなたに預けます。だけど、何の罪もない人たちを傷つけたり、殺したりするようなことだけは、絶対にしないと約束してください。後、私がやりたいことも自由にさせてください。約束していただけますか?」

 『OK!ウチは他の奴らと違って、人間を傷つけたいとか、殺したいとか、どうこうしたいとか、別に思っちゃいないし。アンタ同様、自由に食っちゃ寝して遊べたら、それで満足だから。悪人以外は絶対に傷つけない。約束するっしょ。じゃあ、今日からウチら、友達、いや、姉妹だから。敬語とか使わなくて良いから。ウチは怠惰の堕天使、スロウラルド。スロウって呼び捨てで良いから。っで、アンタの名前は?』

 「ゾーイ・エクセレント・ホーリーライトと言います。ゾーイで結構です。」

 『ゾーイね、OK!よろしく、ゾーイ。んじゃ、さっさと融合しちゃおう。ウチと融合したら、マジ楽しくなること間違いなし!それじゃあ、お邪魔しま~す。』

 青白い人魂の姿をしたスロウラルドが、ゾーイの体の中に溶け込むように入った。

 スロウラルドがゾーイの体の中へと入った直後、ゾーイの体がターコイズグリーンの光を放ち、全身が光り輝いた。

 金髪のロングストレートヘアーであったゾーイの髪が、ターコイズグリーンの髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、毛先が内側に向けてウェーブがかかった、ミディアムボブのヘアスタイルへと変化した。長い前髪で右目が隠れている。

 瞳の色は金色からエメラルドグリーンへと変化し、目付きはパッチリとした目付きから、半開きのジト目へと変わった。

 どこか気だるげで、眠そうな雰囲気の表情をしている。

 白い患者服から、ターコイズグリーンのフード付きの、ダボッとしたオーバーサイズのパーカーへと服が変わり、オーバーサイズのパーカーをを着ている。

 パーカーの下に隠れて見えないが、ターコイズブルーの短パンを履いている。

 両足には、白と黒の縞模様が入った、ニーソックスを履いている。

 それと、ターコイズグリーンの厚底ブーツも履いている。

 首の左側には黒い熊の顔のタトゥーが入り、さらに、パーカーに隠れてぱっと見分からないが、ゾーイの胸がさらに大きくなっていた。

 口にはギザギザとしたギザ歯が生え、どこか野性味がある。

 ゾーイとの融合を終え、ゾーイの肉体の主導権を手に入れたスロウラルドが、手鏡でゾーイと融合した姿を確認しながら、口を開いた。

 「うん。良いね!ウチとの融合は完璧って感じ!これぞ、ウチって感じじゃん!体があるって、やっぱ気分良いわ~。どう、ゾーイ、気に入ったっしょ?」

 スロウラルドの問いかけに、意識だけとなったゾーイが、頭の中でスロウラルドに話しかけた。

 『すごいです、スロウ!体が凄く軽いです!息を吸うのも楽だし、喘息が治っています!力もみなぎってくる感じです!ただ、何だか胸が前より大きくなった気が?』

 「ああっ、ウチ、元々、胸がKカップはあるから。ゾーイも大きかったけど、ウチ、超巨乳だから。好きな男ができたら、このKカップ見せればイチコロじゃん。どうよ!」

 『け、Kカップ!?ええっと、すごいですね、本当に。ただ、むやみやたらに人前で胸を見せつけたり、その、胸で男の人を誘惑するのは止めてくださいね。』

 「もちのろん。ウチは露出狂の変態じゃねえから。ウチの元お仲間にそんな奴がいたけど、ウチはあんな痴女じゃないから。ウチ、こう見えて男は中身で判断するタイプだから。顔だけで男を選ぶビッチじゃないんで大丈夫。んじゃっ、とっととこのクソみたいな家からおさらばしますか。一緒に外の世界を満喫しようじゃん、ゾーイ?」

 『はい!よろしくお願いします、スロウ!』

 「そいじゃ、出~発~つ!」

 ゾーイと融合を果たしたスロウラルドは、「時間逆行」の能力で、周囲の時間を止めた。

 ゾーイといた屋敷の三階の屋根裏部屋から出て、階段を下りると、屋敷の一階のリビングへと降りた。

 リビングでワインを飲んで酒盛りをするアーロン、ヘンリー、マイアを発見すると、スロウラルドはニヤリと笑みを浮かべた。

 「ウチは他人を束縛する奴が大嫌いなんよ。後、パワハラとかモラハラとかしてくるクズも。毒親とクソ兄貴もマジで嫌い。ゾーイを虐めた罰だ。食らえっしょ、クズ人間ども。」

 スロウラルドはそう言うと、テーブルに置いてある数本のワインを全て開け、アーロンたちの頭に、ワインを全てぶっかけた。

 全身にワインをぶちまけられたことに、時間を止められているため、そのことに気付かず、笑ったまま固まっているアーロンたちであった。

 髪も服もワインまみれでベトベトに汚れたアーロンたちを見て、笑みを浮かべながら、スロウラルドは呟いた。

 「ざまぁみろ、クズども。じゃあな、クズ人間ども。」

 最後にそう言い残すと、スロウラルドはアーロンたちに背を向け、ホーリーライト家の屋敷を去って行った。

 スロウラルドが屋敷を立ち去った直後、止まっていた時間が解除されると同時に、屋敷からアーロンたちの大きな悲鳴が、スロウラルドの背後より聞こえてきた。

 全身をワインまみれにされて汚される悪戯、もとい報復を食らったアーロンたちの悲鳴を聞いて、クスリと笑みを浮かべながら、スロウラルドは夜の首都の街中へと消えて行った。

 こうして、一人の人間の少女と、一人の堕天使が奇妙で偶然の出会いを果たし、共に一つの体を共有し、外の世界を自由気ままに旅する生活が始まった。

 ゾーイと融合した怠惰の堕天使、スロウラルドは、ゾーイと融合した体を使って、ゾーイとともに、ゾイサイト聖教国で、お互いの願いを叶えるための自由な生活を送り始めた。

 そして、数日後、ゾーイと融合したスロウラルドは、一人の奇妙な勇者らしき男と、奇妙な出会いを果たすことになる。

 だが、スロウラルドも、ゾーイも、奇妙な勇者らしき男も、誰もまだ、そんなことになろうとは思っていなかった。






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