【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~
第二話 【処刑サイド:弓聖外仲間たち】弓聖たち、堕天使たちを復活させる、そして、犯罪計画を着々と進める
第二話 【処刑サイド:弓聖外仲間たち】弓聖たち、堕天使たちを復活させる、そして、犯罪計画を着々と進める
時は遡り、勇者たちが王都を壊滅させ、犯罪者としてインゴット王国に捕まり、そして、王城の地下牢から脱獄した日のこと。
勇者たちは脱獄した後、一時カナイ村の森に潜伏していたが、王国や冒険者ギルドから犯罪者として指名手配され、その上、ギルドによって制限措置を施され、勇者たちは勇者のジョブを失い、ジョブが「犯罪者」になり、レベルも0になってしまった。
その事実にショックを受け、勇者たちはリーダーの「勇者」島津と対立、ついに分裂してしまったのであった。
勇者たちの分裂後、「大魔導士」姫城たち一行や「聖女」花繰たち一行、「槍聖」沖水たち一行同様、ダンジョン攻略に動き始めた勇者の一団があった。
「弓聖」にして「風の勇者」
他の勇者一行よりも一早く行動を開始した「弓聖」鷹尾たち一行は、「弓聖」鷹尾の指示の下、カナイ村を出て、一度王都へと戻った。
非常線は張られていたが、王都壊滅を受け、警戒に当たる騎士たちは少なかった上、インゴット王国の騎士たちの国への忠誠心は存外低かった。
インゴット王国の宝物庫から盗んだ現金1億リリスも鷹尾たち一行の手元にあったため、盗んだ金を使って警備をしていた騎士たちを買収し、鷹尾たち一行はあっさりと王都の中へと侵入した。
王都は鷹尾たち一行や他の勇者たちのせいで、建物の多くは倒壊し、怪我人や難民で溢れていた。
だが、鷹尾たち一行は我関せずと言った表情で、悠々と王都の街中を歩いて行く。
鷹尾たち一行は王都の端にある闇市、ブラックマーケットのある地域へと足を運んだ。
鷹尾たち一行はまず、闇ギルドが仕切るブラックマーケットにある、違法な武器装備を販売している武器屋を訪ねた。
鷹尾が武器屋の店員に訊ねた。
「ちょっといいかしら?お手頃な価格で変装できる装備やアイテムを探しているのだけれど、おすすめの商品があったら教えてもらえるかしら?」
「そうですねぇ。変装用のアイテムとしてなら、こちらのドッペルゲンガーマスクなんかどうですかい?闇ギルドの暗殺者や構成員の方々がよく買われますし、値段も一つ100万リリアとまぁ、お手頃といっちゃお手頃ですが?」
店員が、頭から首まですっぽりと嵌まる、黒いゴムのような材質のレザーマスクを一つ、取り出してみせた。
「このドッペルゲンガーマスクの仕様について教えてもらえるかしら?」
「使い方はそう難しくありませんぜ。コイツは擬態能力を持つDランクモンスター、ドッペルゲンガーの皮を材料に作られたもんです。使い方は簡単で、化けたい人間の血液をマスク全体にまんべんなく塗ることで、化けたい人間の顔に変身するって代物です。闇ギルドの連中は飼っている奴隷の血を塗って、コイツを使ってますよ。ただ、擬態できるのは、頭部と首だけではありますがね。けど、顔も髪も瞳も肌も声も、まるっきり別人になれるのは保証付きです。変身した部分以外の肌を見られたり、指紋を調べられたり、ステータスを鑑定されたりしたら、正体がバレちまう欠点があります。後、注意点として、使用する人間の血は生きた人間の血じゃないと効果を発揮しません。死体の血は駄目ですよ。それと、擬態能力の持続時間は、マスクを着けてから168時間以内、7日以内です。制限時間を過ぎちまうと、マスクが崩壊するんで、注意してください。マスクの着脱は自由だし、値段は安いし、闇ギルドでならどこの闇ギルドでもすぐに新しい物も買えるし、お手頃な商品だとは思いますが、どうです?」
店員からドッペルゲンガーマスクを渡され、マスクを入念に見ながら、鷹尾は店員に答えた。
「別におかしなところはなさそうだし、肌にピッタリと吸い付く感じだし、悪くないはね。使い方も簡単だし、副作用もない。値段もそんなに高くない。店員さん、このドッペルゲンガーマスクを7個、売ってちょうだい。支払いはキャッシュで。」
「かしこまりました。そいじゃあ、奥のレジで会計をお願いしますぜ。」
鷹尾は武器屋で700万リリアを払い、ドッペルゲンガーマスクを7個購入した。
武器屋を出ると、鷹尾たち一行は次に、奴隷商の経営する奴隷売買の店を訪れた。
鷹尾は、奴隷売買の店の店員に訊ねた。
「この店で一番安い奴隷を売ってちょうだい。できれば、私たち7人と年齢や性別が近い奴隷を7人、頼むわ。」
「一番安い奴隷ですか?それなら、一番奥にどうぞ。ご案内します。」
店員に案内され、鷹尾たち一行は店の奥へと進んだ。
店の一番奥は暗く、埃っぽく、床が汚れていて、衛生環境は最悪であった。
そして、檻の中には、みずぼらしい姿をした人間たちが、老若男女問わず、大勢閉じ込められていた。
「ここにいるのが、当店で一番安い、Fランクの奴隷になります。価格は5,000リリアから9,000リリアの間です。見ての通り、容姿が優れていなかったり、病気を持っていたり、年を取り過ぎていたり、大した能力を持っていなかったり、といった奴らです。お客様たちの年齢くらいの奴隷は確かにおりますが、コイツらは大して使い物になりませんよ?ほとんど使い捨ての奴隷たちですが、本当によろしいので?」
「ええっ。別に構わないわ。そうね。この中で私たち7人に一番年齢が近い男の奴隷を2人、それから、女の奴隷を7人ちょうだい。病気持ち以外なら、何でも良いわ。」
「かしこまりました。では、少々お待ちください。」
店員はリストを見ながら、鷹尾のオーダー通りに、男女7人の奴隷を選んで、檻の外へと出した。
それから、店員は鷹尾に契約書とペンを渡した。
「では、こちらの購入契約書にサインをお願いします。Fランクの奴隷を7人、合計で56,000リリアのお買い上げとなります。一度お買い上げいただいた奴隷の返却は一切、受けつけておりませんので、ご了承ください。それと、奴隷たちが脱走又は反抗してきた場合は、そちらの契約書に書かれている、奴隷の脱走防止用の魔法を使っていただければ、すぐに捕まえることができますので大丈夫です。お支払方法はいかがされますか?」
「支払いは全額、キャッシュで。この場で今、払うわ。」
鷹尾はそう言って、代金をその場で店員に渡した。
「ありがとうございます。56,000リリア、全額確かに頂戴いたしました。この奴隷たちはすでにお客様のモノです。どうぞお好きにお使いください。またのご利用をお待ちしております。」
鷹尾たち一行は、奴隷たちを買うと、近くの雑貨屋でナイフを七本、それと灯油の入った大きな缶を購入した。
鷹尾たち一行はブラックマーケットを出ると、奴隷たちを引き連れ、王都の外へと出た。
それから、王都から東に少し離れたところにある森の中へと入った。
鷹尾は森の中に入るなり、奴隷たちに向けて言った。
「奴隷の皆さん、今すぐそこに座ってください。それから、片手を前に出してじっとしているように。良いわね?」
鷹尾に命令され、奴隷たちは一斉に地面に正座すると、それぞれ片手を前に出した。
鷹尾は、ブラックマーケットで購入した、ドッペルゲンガーマスクとナイフを人数分、腰のアイテムポーチから取り出すと、他の六人の仲間たちに、マスクとナイフをそれぞれ渡した。
「みんな、私のやり方をよく見ておいて。」
鷹尾はそう言うと、長い金髪の若い20歳ぐらいの女性の奴隷に近づくと、奴隷の手の平を上に向けた。
それから、ナイフで奴隷の手の平をスパッと切り裂いた。
痛がる奴隷を無視して、奴隷の手の平をドッペルゲンガーマスクに押し付け、奴隷の手の平の傷から流れ出る血を、マスクの表面へと塗りたくった。
それから、奴隷の血がまんべんなく付いたドッペルゲンガーマスクを、鷹尾は頭から被った。
鷹尾がマスクを被ると、マスクは徐々に変形し、鷹尾の顔が、長い金髪に緑色の瞳を持ち、顔にそばかすがある、ヨーロッパ風の、女性の奴隷そっくりの顔へと変化した。
鷹尾の完全に別人へと変わった顔を見て、他の六人の仲間たちは皆、驚いた。
「どうかしら、みんな?鏡を買い忘れたけど、その反応なら、変装はばっちりのようね。声も全く変わっているし、これならすぐに私たちだとは誰も気付かないはずよ。さぁ、みんなも早くやってちょうだい。」
鷹尾に指示され、他の六人の仲間たちも鷹尾の真似をして、奴隷たちの血をドッペルゲンガーマスクに塗ると、血を塗ったマスクを被った。
黒髪や茶髪、黒い瞳で、日本人だった鷹尾たち一行の顔は、顔も髪も肌も瞳の色も声も、奴隷たちそっくりの、ヨーロッパ風の顔立ちの、全く別人の顔へと変わった。
「さすがだぜ、鷹尾さん!俺たち全員、顔が全く別人そのものだぜ!さすがは学年一の秀才にして警察署長の娘!変装はばっちしだぜ!」
「弓術士」
「その通りね。さすがは鷹尾さんだわ。口だけの島津と違って、頭の切れが違う。鷹尾さんに付いて来て、本当に良かったわ。」
「弓術士」
「全く、その通りよね。でも、顔がちょっといまいちって言うか。鼻が低い気がするけど、ま、いっか。変装が上手くいく方が大事だし。」
「弓術士」
「贅沢言わないの、明日香。鷹尾さんがいなかったら、私たち変装するどころか、あのまま脱獄もできず、処刑されてたかもなんだから。命が助かったことだけでも感謝しなきゃ。本当にありがとう、鷹尾さん。」
「弓術士」
「こんなに顔が変わったら、孝の奴、マジで私に気付かないかも。前田なんかに付いて行って、アイツ本当に馬鹿なんだから。見つけたら、マジで殴ってやる。でも、今はまず、勇者の資格を取り戻さなきゃ。ホント、大変よ。」
「剣士」
「ハッハッハ。どうだ、みんな、先生の変わりようは?フサフサの茶色い髪が生えているだろ。先生もびっくりの変わりようだ。先生は案外、この顔気に入ったな。これで安心して旅ができる。さすがは鷹尾、私の自慢の生徒だ。先生はお前のような優秀な生徒がいてくれて大助かりだ。他のみんなもだ。鷹尾、お前なら必ずやってくれると、先生は信じていたぞ。」
「弓術士」、
「お世辞は結構です、下長飯先生。私たちが勇者をクビになったのも、宮古野君と敵対することになったのも、元をただせば、先生が原因であることを忘れないでください。生徒である宮古野君を処刑から助けず、能無しの悪魔憑きと呼んで見捨てて、彼から復讐されるかもしれない一番の原因を作ったのは先生ですよ。闇金から多額の借金をして、ギャンブルで大損して、闇ギルドから私たち勇者が恨みを買ってしまった原因を作ったのも、先生ですよ。ギャンブルで冒険者ギルドからの損害賠償金を払う金を工面しようなんて、馬鹿なんですか?ブラックマーケットの中を歩いていて、闇ギルドの連中に見つかったら、闇金に借金の無い私たち六人まで、闇ギルドの連中に捕まって殺されていたかもしれないんです。正直に言いますが、今後、借金を作ったり、足手纏いになるような行動をされたりするのでしたら、下長飯先生、あなたのことは切り捨てます。50代前半でギャンブル狂でお金の管理ができない、体力的にも精神的にも問題のある、すでに教師でもないあなたを養うつもりはありませんので。今後は私の指示には絶対に従ってください。分かりましたね、下長飯さん?」
「そうだぜ、下長飯?鷹尾さんの言う通りだ。この中じゃアンタはただの足手纏いにしかならねえジジイだぜ。俺たちの足を引っ張るようなら、即切り捨てる。分かってんだろうな、おい?」
「本当にそうよねぇ。先生だった癖に、あの口だけの島津にペコペコして、先生らしいこと何もしてないしさ。こっちに来てから、ずっとギャンブルしかしてなくね?邪魔になったら、マジで捨てるから。分かった、オッさん?」
鷹尾が下長飯のことを冷たくあしらい、下川と早水が鷹尾に賛同し、足手纏いになるなら切り捨てると、下長飯に冷たい眼差しを向けながら言った。
妻ケ丘、都原、乙房の三人も、下長飯に対して、冷たい眼差しを向けるのであった。
「わ、分かった!?今後はお前たちの指示に従う。ギャンブルはしない、借金も作らない、絶対に足を引っ張ったりはしない。だから、見捨てないでくれ、頼む!」
下長飯が、鷹尾たち六人に向けて必死に頭を下げながら懇願した。
「はぁー。本当に頼みますよ、下長飯さん。では、みんな、後始末があるから、手伝ってちょうだい。」
鷹尾はそう言うと、契約書を見ながら、奴隷たちに向かって右手を突き出した。
右手に魔力を流し、鷹尾の右手が光った。
「スクラッグ。」
鷹尾が、奴隷の脱走防止用の魔法を唱えた途端、奴隷たちの首が魔法で一気に絞まった。
そして、魔法で首を絞められ、息が出来ず、奴隷たちは全員、その場で窒息死してバタバタと倒れた。
他の六人の仲間たちが、鷹尾によって奴隷たちが殺害されるのを見て、呆然と立ちつくす中、一人平然とした表情で、鷹尾は近くにあった、拳より大きい石を手に取った。
「何をポカンと口を開けて見ているの、みんな?私たちはすでに脱獄した死刑囚よ。故意ではないと言え、結果的にボナコンたちを王都に引き入れ、私たちが大勢の人間を殺したことは事実よ。私たち全員、犯罪者なのよ。今更、まともな方法で勇者に戻れるわけないじゃない。この奴隷たちは私たちがこの異世界で生き残るためのただの道具に過ぎない。コイツらが生きて、私たちが別人に変装していることをバラしたら、みんな、捕まって処刑されるのが落ちよ。私たちが生き残るためには、殺人も必要な手段なの。死にたくなかったら、死体の顔を潰すのを手伝ってちょうだい。誰が殺されたか分からないよう、徹底的に顔を潰すのよ。分かったわね?顔を潰すのが終わったら、死体に火を付けて燃やすから。」
鷹尾はそう言うと、自分と同じ顔の奴隷の顔を、手に持っている石で何度も殴り、顔を原型を留めないほどに潰して破壊した。
鷹尾に指示され、やむを得ず、六人の仲間たちも鷹尾の真似をして、手に石を持ち、それから、自分と同じ顔の奴隷の顔を、何度も石で殴り、奴隷の顔を潰した。
奴隷たちの顔を潰し終えたのを確認すると、鷹尾はアイテムポーチから購入した灯油の入った缶を取り出し、缶の蓋を開けると、缶の中の灯油を、奴隷たちの死体に振りかけた。
「下川君、あなたの炎の矢で火を付けてちょうだい。すぐに死体は燃えるはずだから。仕上げ、よろしくね。」
鷹尾から指示され、ロングボウを構えながら、スキルで炎の矢を生み出すと、奴隷たちの死体に向かって、下川は炎の矢を発射した。
「爆炎射撃!」
Lv.0のため、ひょろひょろとした勢いでしか矢は飛ばないが、灯油に火を付けるには十分な火力はあった。
下川の放った炎の矢を受けて、灯油まみれの奴隷たちの死体は一気に燃え上がった。
奴隷たちの死体が燃えたのを確認すると、鷹尾は六人の仲間たちに向かって言った。
「お疲れ様、みんな。これで証拠隠滅は完了よ。これからの予定だけど、私たちはこのまま、「風の迷宮」があるゾイサイト聖教国へ向かうわよ。ゾイサイト聖教国の首都に着いてから、改めて次の作戦の指示を出すわ。それまでは、他人の顔を奪いながら、生活することになる。大丈夫。証拠さえ残さなければ、誰も私たちの犯行だとは気が付かない。頭のイカれた連続殺人鬼の犯行にしか見えないわ。私たちが勇者の資格を取り戻すことができたら、全ての罪は帳消しになる。魔族を殲滅すればこの異世界の英雄になれるし、勇者の仕事を終えて元いた世界に帰っても、私たちはただの行方不明事件の被害者で、異世界での罪を問われることは一切ない。私たちが無事に生き残り、目的を果たすためには、誰かを犠牲にすることは必要不可欠なの。死にたくなかったら、覚悟を決めなさい。良いわね?」
鷹尾から決断を迫られ、六人の仲間たちは、他人の顔を奪って、他人を殺し、別人に成りすまして、異世界で生き残る道を選んだ。
そう選ばざるを得ないよう、鷹尾に巧みに誘導され、殺人の共犯になり、連続殺人犯となることを受け入れた、と言った方が正しい。
自身の犯罪計画の第一歩が無事にスタートを切り、内心、笑みを浮かべる鷹尾であった。
それから、鷹尾たち一行は馬車に乗って、インゴット王国の王都から馬車で南東に約3週間ほど進んだところにある、ゾイサイト聖教国の首都を目指した。
ゾイサイト聖教国の首都までの間、約5日から約7日おきのペースで、奴隷や旅行者を殺して、殺した人間たちの顔を奪い、入念に証拠隠滅を行って、ゾイサイト聖教国の首都を目指した。
インゴット王国とゾイサイト聖教国の国境付近に着くと、ゾイサイト聖教国の国境の村で、ゾイサイト聖教国に関する詳しい情報収集を行った後、首都へ巡礼に向かう途中の、リリア聖教の信者である旅行者たちを襲って殺し、彼らの顔や白い服、持ち物を奪った。
そして、インゴット王国の首都から馬車を使って移動すること、3週間後、元「弓聖」鷹尾たち一行は、敬虔なリリア聖教の信者の旅行者たちを装い、ゾイサイト聖教国の首都へと到着、潜入した。
ゾイサイト聖教国の首都の安宿に泊まると、鷹尾は自分の部屋に仲間たちを集め、次の作戦について話し始めた。
「みんなにこれからの作戦について説明するわ。私たちは今現在、レベルが0になり、まともに戦える状態じゃあない。非戦闘職の一般人は殺せても、戦闘職を持つ冒険者やモンスターとは戦うことはできない。こんな状態じゃあ、魔族とも戦えない。「黒の勇者」と呼ばれる宮古野君に見つかって、復讐されて殺される可能性もある。私たちにはダンジョン攻略の前に、戦う力を手に入れる必要がある。何者も寄せ付けない、圧倒的な力が必要よ。そこで、これの出番よ。」
鷹尾は、アイテムポーチから、緑色の表紙の古い一冊の本を取り出した。
「鷹尾さん、その古い本は何だ?その本に圧倒的な力とやらを手に入れる方法が書いてあるのか?」
下川が、鷹尾の持つ古い本を見ながら言った。
「おおむね正解よ、下川君。正確には、力を与えてくれるかもしれない存在についてだけど。私はこの異世界に召喚された時からずっと、この異世界のことについて調べていたの。3,000年にも渡って異世界より勇者たちが何度も召喚されて魔族たちと戦っている。だけど、私たちの代まで、魔王や魔族たちが倒されることはなく、戦いは続いている。いくら歴代の勇者たちが強くても、魔族たちを何時まで経っても殲滅できないんじゃ、女神さまだってさすがに業を煮やすんじゃないかとは思わない?魔族たちを殲滅するため、勇者以上に強力で、強引で危険な手段を一度や二度、使おうと考えてもおかしくない。私はインゴット王国の王城を、召喚直後から調べ回っていた。そして、宝物庫にこっそり侵入したある日、この本を見つけたの。20代目の「光の勇者」、ルーカス・ブレイドの手記をね。」
鷹尾は「ルーカス・ブレイド」の手記のとあるページを開くと、そのページを開いて見せながら、手記の内容について説明した。
「なぜ、現金でも宝石でもない、ただの古ぼけた手記がインゴット王国の王城の宝物庫に大切に保管されているのか、興味を持った私は、この本を秘かに宝物庫から持ち出し、読むことにした。そして、驚くべき内容を発見したのよ。2,500年前、勇者として活動を始めてから5年目、23歳のルーカス・ブレイド率いる7名の勇者たち、当時の「七色の勇者」たちの前に、光の女神リリアより、恩赦を受けて地獄から解放された「堕天使」と呼ばれる存在が遣わされた。勇者たちの強化や、勇者たちの魔族殲滅を手伝うため、7名の堕天使たちが地獄からこの異世界に派遣されてきた。堕天使たちの能力はあまりに強大で、その力はルーカスたち勇者をはるかに上回る力だった。堕天使たちだけで、約2,000万人以上の魔族たちを殺して、一時は魔王や魔族たちを追い詰める勢いだった。だけど、堕天使たちは途中で勇者たちや人間たちとトラブルになり、その結果、堕天使たちは女神や人間たちに反逆する事態を引き起こした。反逆し、暴走する堕天使たちのために、3,000万人以上の人間たちが殺される、「堕天使の反逆」と、当時世界中の人々から呼ばれ、恐怖された大事件が起こった。堕天使たちの暴走を止めることができず、困ったルーカスたち勇者に、女神リリアは、勇者たちの寿命の半分と引き換えに、堕天使たちを封印する術式を与えた。それから、勇者たちは激戦の上、堕天使たちの封印に成功した。けれど、堕天使たちの封印はあくまで、堕天使たちの肉体を石化させ、肉体を奪い無力化するだけで、石化した堕天使たちの体の中には、今も堕天使たちが魂だけの状態となって生きて封印されている、と手記には書いてある。そして、堕天使たちはこのゾイサイト聖教国の地に封印したと、書いてあるわ。堕天使たちが封印されている場所の正確な位置は書かれてはいないけど、この手記から、おおよその検討は付いているの。恐らく、反教皇派と呼ばれた、大昔にゾイサイト聖教国政府と揉めた連中と関係がある場所が、堕天使たちの封印されている場所のはず。私たちは堕天使たちの封印を解き、堕天使たちから勇者を超える圧倒的な力を手に入れる。そうすれば、私たちはふたたび勇者に戻り、何者にも手出しされない存在となることができる。堕天使という、神に匹敵する史上最強の犯罪者たちを味方につける、どうかしら、みんな?」
鷹尾の話を聞き、他の六人の仲間たちは一瞬、言葉に詰まった。
「鷹尾さん、その~、堕天使たちがすごい力を持っているのは分かったけど、3,000万人以上も人間を殺した、しかも、地獄から来た化け物と手を組むってのは、さすがにヤバくない?もし、また暴走されたりしたら、私たちもソイツらに襲われて殺されるかもしれなくない?本当に封印を解いて大丈夫なの?コントールできる当てでもあるの?」
妻ケ丘が、堕天使たちの封印を解くことに、懸念を示した。
「問題ないわ、妻ケ丘さん。堕天使たちはルーカスたち勇者に行動を束縛されることを嫌った、勇者たちが堕天使たちとのコミュニケーションを誤ったことが原因で反逆した。要は、私たちに力を貸してもらう代わりに、基本、彼らの要求を飲んで、彼らの欲を満たしてあげれば、彼らは素直に私たちに協力してくれるはずよ。彼らが破壊を望めば、好きなだけ破壊させればいい。金銭を欲すれば好きなだけ金銭を与えればいい。多少、人間側に犠牲が出たとしても、堕天使たちを上手く利用し、魔族たちを殲滅できれば、光の女神リリアも、この異世界の人間たちも、勇者である私たちに誰も文句は言えなくなる。要は結果させ出せば良い話。堕天使たちの封印を解いて力を借りる以外に、他に良い代案があるというなら、話は聞くけど、みんなに私の提示した案以外の作戦はあるの?」
鷹尾の言葉に、他の仲間たちは誰も反論できなかった。
「鷹尾さんの作戦通りに行きましょう。堕天使たちを見つけて、堕天使たちの封印を解いて、力を貸してもらう以外に、私たちが強くなれる方法も、勇者に戻れる方法もない。このまま一生、犯罪者として追われ続けるなんて、私は嫌よ。復讐に来た宮古野の奴に殺されて終わる人生なんて、真っ平ごめんよ。」
都原が、鷹尾の提案に賛成した。
他の五人の仲間たちも顔を見合わせ、鷹尾の提案した作戦以外に、自分たちが異世界で生き残る方法はないと、納得せざるを得ず、皆、首を縦に振って賛成した。
「みんなが賛成してくれて、私も嬉しいわ。では、明日からゾイサイト聖教国を徹底的に調べるわよ。ゾイサイト聖教国の政府施設、あるいは、反教皇派に関わる場所のどこかに、堕天使たちは封印されているはずよ。私たちにはドッペルゲンガーマスクがある。このマスクがある限り、私たちの正体に気付く者はほとんどいない。正体を見破られないよう、注意は必要よ。だけど、堕天使たちを見つけて封印を解き、彼らの絶大な力を手に入れることができれば、何も恐れることはないの。明日からの調査、よろしく頼むわよ、みんな。」
こうして、鷹尾主導の下、堕天使たちの封印場所に関する、ゾイサイト聖教国内での調査が始められた。
鷹尾たち一行は、ゾイサイト聖教国の闇ギルドから買った奴隷や、ゾイサイト聖教国に観光や巡礼を目的に訪れた旅行者たちをターゲットに、彼らを殺し、顔を奪い、ゾイサイト聖教国に潜伏して、調査を続けた。
ゾイサイト聖教国の政府施設や教会、公共施設、反教皇派に関連する遺跡などに侵入し、封印されている堕天使たちを懸命に探した。
調査を開始してから約二ヶ月あまりの間に、約一週間おきに7人ずつ人間を殺害し、証拠隠滅を図りながら、顔を奪い、別人になりすました。鷹尾たち一行の手で70人もの人間が殺害され、ゾイサイト聖教国内では、鷹尾たち一行による連続殺人事件は「フェイスキラー連続殺人事件」と呼ばれ、ゾイサイト聖教国の国民は、謎の連続殺人鬼の出現に恐怖した。
自国の不祥事発覚、醜聞を恐れたゾイサイト聖教国政府によって、「フェイスキラー連続殺人事件」にはかん口令が敷かれ、厳しい情報統制が行われた。
国外の一部メディアや、口コミで事件のことが国外に漏れることはあったが、ゾイサイト聖教国政府は、事件の詳細や捜査状況についてはノーコメントを貫いた。
また、聖騎士団や警備隊を使い、秘かに事件の究明に当たらせるのであった。
鷹尾たち一行が「フェイスキラー連続殺人事件」を起こし、別人になりすまし、ゾイサイト聖教国に潜伏してから二ヶ月が経過した頃、鷹尾たち一行は、ゾイサイト聖教国の南端にある、とある廃遺跡を訪れた。
2,700年前の内乱で粛清された反教皇派の拠点の一つであった、「リベリオ遺跡」と呼ばれる廃遺跡である。
南フランスのアヴィニョン教皇庁に似た姿の、崩れかけ、汚れた、碌に手入れがされていない、廃墟同然の廃遺跡で、ゾイサイト家、「巫女」の家系の一族が権力を独占していることに異を唱え、ゾイサイト家が聖教皇の座を独占し圧政を敷いていると主張し、当時のゾイサイト聖教国に反発し、対立、粛清された者たちの象徴として、ゾイサイト聖教国の国民たちは誰も近寄ろうとはしない、忌み嫌われる場所の一つである。
ルーカス・ブレイドは自身の手記に、反教皇派を名乗る者たちがふたたび現れ、堕天使たちの封印を解き、堕天使たちを復活させ、教皇派、ゾイサイト聖教国政府との争いに利用する可能性を懸念し、自身の考えや、堕天使たちに関する詳細な情報を、生前、亡くなる直前に手記にまとめ、秘かに残していた。
インゴット王国がルーカス・ブレイドの手記を手に入れ、手記の内容に着目し、万が一の場合に備え、長年、王城の宝物庫に収めていたのだが、時代を経るにつれ、ルーカスの遺した手記の存在は忘れられ、また、光の女神リリアが自信の汚点である堕天使たちの存在に関する情報を異世界アダマスの歴史から徹底的に削除させようとしたため、ルーカス・ブレイドの手記の内容やその意味を知る者は世界中にほとんどいなくなってしまった。
それらが災いし、さらに、邪悪な元「弓聖」鷹尾の手に渡ったことで、ルーカス・ブレイドの手記は、手記を遺したルーカスの意図からは外れ、堕天使たちを復活させるために悪用されることになったのであった。
さて、リベリオ遺跡へと到着した鷹尾たち一行は、早速、遺跡内部の調査を開始した。
調査開始から二時間後、リベリオ遺跡の地下に隠された空間があることを発見した鷹尾たち一行は、遺跡の床を壊し、隠された地下空間へとランプ片手に潜入した。
隠された地下空間へと入った鷹尾たち一行がランプで暗い地下を照らしながら進んで行くと、10分ほど遺跡の地下を進んだところに、七体の石像が建っていた。
七体の石像は、それぞれが動物の頭を持ち、背中からは鷲に似た大きな翼を生やしていて、キトンを身に纏った、頭部以外は人間の男女の姿をした、奇妙でどこか不気味な石像であった。
七体の石像を発見し、鷹尾は笑みを浮かべた。
「ついに見つけたわ。間違いない。これが封印された堕天使たちよ。ルーカス・ブレイドの手記の内容通りの特徴をしている。ようやく、お目にかかることができたわ。」
鷹尾はそう言うと、堕天使たちの石像を発見して思わず尻込みする仲間たちをスルーして、身長2mほどの、ライオンの頭を持つ、筋骨隆々な男性の姿をした、堕天使の像へと手で触れた。
鷹尾が堕天使の像に触れると、堕天使の石像が突然、鷹尾に向かって話しかけてきた。
『誰だ、俺様に気安く触る奴は?何だ、人間の女のガキじゃねえか?人間がこの俺様に何の用だ?つまらねえ用なら、とっとと失せろ?俺様はつまらねえ奴が嫌いだ。』
「初めまして、傲慢の堕天使、プララルドさん?私の名前は、鷹尾 涼風。「七色の勇者」の一人、弓聖よ。実はあなたと是非、ビジネスパートナーになりたくて、あなたをこうして探して会いに来たわけ。私たちとのビジネスに興味はないかしら?」
『勇者だと?あのクソ女神の手先で、俺様たちを散々こき使っておいて、俺様たちを封印しやがった勇者どもの後釜が、俺様たちとビジネスパートナーになりたいだと?お前ら、一体俺様たちを使って何、企んでいやがる?また、俺様たちを散々こき使った後、封印するってんなら、お断りだぜ。』
「私たちは別にあなたたちをこき使うつもりなんて、全く考えていないわ。むしろ、あなたたちと一緒にこの異世界で好き放題やりたい、そう考えているの。まぁ、話を最後まで聞いてちょうだい。実は私たち、インゴット王国の王都を壊滅させちゃった罪で、全員勇者をクビになって、全員犯罪者になってしまって困っているの。ジョブは犯罪者だし、レベルは0にまで強制的に下げられて、世界中からお尋ね者として追われて大変なの。おまけに、光の女神リリアから私たち勇者を全員、討伐するよう命令が下され、私たちは全員、「黒の勇者」と呼ばれる、とんでもなく強い勇者に狙われて、半分近い元勇者の仲間たちが殺されている状況まで追い込まれているの。でも、私たちはこのままみすみす殺されるわけにはいかない。だから、他人の顔を奪ってまであなたたちを探し、あなたたちの力を借りて、異世界で生き残る道を選んだの。私たちはあなたたちを封印したルーカス・ブレイドとは違い、自分たちの目的を果たすためなら手段を選ばない。私たちに力を貸してくれる代わりに、あなたたちの願いを叶えさせてあげる。人間を殺したければ、好きなだけ殺せばいい。魔族を殺したければ、好きなだけ殺せばいい。お金が欲しいなら、欲しいだけ奪えばいい。ただ、私たちが勇者としての力を取り戻し、異世界で生き残ることに協力してくれるのなら、あなたたちの封印を解いて願いを叶えてあげる。私の言葉が信用できないなら、私のことをよく調べてみるといいわ。私の言葉に嘘偽りがないことはすぐに分かるはずよ。どう、プララルドさん?」
鷹尾の説明を聞き、鷹尾や、他の六人の仲間たちを調べたプララルドは驚くとともに、大声を上げて笑った。
『ギャハハハ!コイツは傑作だぜ!マジでジョブが犯罪者な上に、レベルが0だぜ!おまけに元勇者とはな!顔に被ってるそのマスク、よくできているぜ!マジで他人の顔を奪っていやがる!お前ら、一体何人、人間を殺したんだ?目的のためならマジで手段を選ばねえ、その外道っぷり、気に入ったぜ!女神の使徒である、正義と人間を守る勇者が、人間を殺しまくって、犯罪者になって、その上、堕天使である俺様たちと手を組みたいとは、マジでウケるぜ!気に入ったぜ、お前ら!久しぶりに面白れえ人間に出会えたぜ!良いぜ、お前らにこの俺様たちが協力してやる!俺様は傲慢の堕天使、プララルド様だ!最強の堕天使とはこの俺様のことだ!女、もう一度、お前の名前を教えろ!』
「鷹尾 涼風よ。」
『スズカ、だな!よろしくな、スズカ!なら、早速石像を壊してくれ!石像を壊せば、俺様たちの封印は解ける。だが、俺様たちには肉体がねえ。だから、俺様たちの力を借りたいなら、お前らの肉体と、俺様たちの魂を融合させる必要がある。俺様たちと融合できれば、俺様たちの力が使えるようになる。もちろん、能力もこの世界の人間の基準を超えて、ぶっ飛ぶくらいにレベルアップできる。どうだ、俺様たちと融合する覚悟はあるか?』
「あなたたちと融合するのは構わないわ。ただ、肉体の主導権は私たちが握らせてもらう。私たちとあなたたちは対等なビジネスパートナーですもの。それに、私たちは私たちでやりたいと思っている計画があるの。あなたも大満足できる、最高の犯罪計画よ。私たちはあなたたちとは末永く、一緒に面白おかしくビジネスをやりたいと思っているの。それで構わないわよね。」
『ガッハッハ。俺様たちに一歩も譲らないその度胸と、したたかさ、ますます気に入ったぜ。よし、肉体の主導権はお前らにやる。スズカ、お前は俺様と合体しろ。俺様の力とお前の頭が加われば、最高に面白れえことができる。久しぶりに楽しめそうだ。それじゃあ、早速俺様たちの石像を壊してくれ。後は俺様たちが勝手に選んで、お前らとそれぞれ融合する。融合したら、力の使い方は融合した奴から教われ。後、スズカ、そのマスクはもう外せよ。お前の綺麗な顔をもう隠す必要はねえ。これからは堂々と振る舞えるぜ。』
「では、そうさせてもらうわ。みんな、もうマスクを外して構わないわ。それと、石像を破壊するのを手伝って。堕天使たちの融合に成功したら、力の使い方を教わった後、次の作戦の実行に移るわよ。良いわね?」
『お前ら、全員起きろ。久しぶりにシャバの空気を吸う時が来たぜ。封印が解けたら、好きな人間と融合しろ。グリラルド、エビーラルド、ラスラルド、グラトラルド、ストララルド、スロウラルド、分かったな?』
『了解じゃよ、プララルド。』
『ちっ。分かった、プララルド。』
『俺はいつでもOKだぜ、プララルド。』
『僕も大丈夫なんだなぁ~、プララルド~。』
『アタシも準備OKよ、プララルド。』
『zzz―――!クゴォーーー!』
『起きろ、スロウラルド!眠るのはもう終わりだ!シャバに出るぞ!俺様の話を聞け、スロウラルド!』
『フガっ!?フワァー、マジ眠いー!つか、ダリぃー!ウチも参加しなきゃなの?マジ、メンド~。ウチは別にコイツらにはあんまし興味ないんだけど~。』
『シャバに出れば、もっと快適に眠れるし、好き放題できる!良いから、目の前のコイツらと融合する準備をしろ!分かったな、スロウラルド?』
『起きればいいんしょ、プララルド。マジ、ダリぃ~!』
プララルドに命令され、鷹尾たち一行と融合するため、残りの六人の堕天使たちが目覚めた。
鷹尾たち一行は、マスクを外すと、それぞれ武器を構え、堕天使たちの石像の前に立った。
鷹尾は、プララルドの石像の前に立った。
下長飯は、身長160cmほどの狐の頭をした小柄な男性に似た堕天使の石像の前に立った。
乙房は、身長170cmほどの蛇の頭をした、胸がAカップくらいの、瘦せ型の女性に似た堕天使の石像の前に立った。
下川は、身長180cmほどの、狼の頭をした、細マッチョな体格の男性に似た堕天使の石像の前に立った。
早水は、身長3mほどの、豚の頭をした、巨漢で太った男性に似た堕天使の石像の前に立った。
妻ケ丘は、身長175cmほどの、山羊の頭をした、Hカップはある巨乳のグラマラスなスタイルの女性に似た、堕天使の石像の前に立った。
都原は、身長155cmほどの、熊の頭をした、Kカップの超巨乳を持つ小柄な女性の姿に似た、堕天使の石像の前に立った。
それから、鷹尾たちは堕天使たちの石像に向かって全力で攻撃を浴びせた。
「みんな、行くわよ!疾風必中!」
「反発曲射!」
「強酸命中!」
「爆炎射撃!」
「水圧貫穿!」
「超振動斬!」
「氷結凍射!」
鷹尾たち一行の放った攻撃が一斉にぶつかると、堕天使たちの石像が砕けた。
堕天使たちの石像が砕けると同時に、堕天使たちの封印が解かれ、それから、青白い光を放つ堕天使たちの魂が、フワリフワリと、鷹尾たち一行の前へと飛んできて、堕天使たちの魂が吸い込まれるように、鷹尾たちの体の中へと入って行った。
堕天使たちの魂が体の中に入った瞬間、鷹尾たち一行の体に変化が現れた。
鷹尾だが、藍色の髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入ったロングストレートヘアーへと髪型が変化した。瞳の色は、黒からエメラルドグリーンへと変わった。首の左側には、黒いライオンの顔のタトゥーが入っている。
下長飯は、金色の髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入った仙人のようなロン毛へと髪型が変化した。瞳の色は、黒からエメラルドグリーンへと変わった。首の左側には、黒い狐の顔のタトゥーが入っている。
乙房は、オレンジ色の髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入ったツインテールへと髪型が変化した。瞳の色は、黒からエメラルドグリーンへと変わった。首の左側には、黒い蛇の顔のタトゥーが入っている。
下川は、赤色の髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入ったツーブロックの短髪へと髪型が変化した。瞳の色は、黒からエメラルドグリーンへと変わった。首の左側には、黒い狼の顔のタトゥーが入っている。
早水は、紫色の髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、ベリーショートヘアーへと髪型が変化した。瞳の色は、黒からエメラルドグリーンへと変わった。首の左側には、黒い豚の顔のタトゥーが入っている。
妻ケ丘は、青色の髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、ボリュームのある、ウェーブのかかった、超ロングヘアーへと髪型が変化した。瞳の色は、黒からエメラルドグリーンへと変わった。首の左側には、黒い山羊の顔のタトゥーが入っている。
鷹尾たち一行の内、六人が堕天使たちとの融合に成功した中、一人だけ、いまだ堕天使と融合できていない者がいた。
「弓術士」都原 叶である。
「えっ!?ちょっと待って!私、全然、何も変わっていないんですけど!?何で私だけ変わってないの!?えっ、私のパートナーの堕天使さんはどこ?」
自分だけ外見が変化しておらず、堕天使たちとの融合に失敗したかもしれないと思い、都原は焦った。
「慌てないで、都原さん。とにかく落ち着いて。プララルド、私たちの仲間と、あなたのお仲間の一人が、何故か融合していないように見えるんだけど、一体、どういうことかしら?」
『ちっ。くそっ、スロウラルドだ。アイツの気配が全くない。アイツ、一人だけ勝手にどっかに行きやがった。アイツは俺たちの中で一番、気まぐれな奴なんだよ。まぁ、その内、帰ってくるはずだ。魂だけじゃあ、大したことはできねえ。アイツは俺たちの中で一番弱いし、まともに働こうとしないから、いてもいなくてもそんなに大差はねえから心配するな。けど、アイツの能力は結構使えるからな。時間がある時に探して連れ戻せば大丈夫だろ。おい、エビーラルド、お前のお得意の人体改造で、そこにいる一人炙れた人間を改造してパワーアップさせてやれ。腕は鈍っちゃいねえだろうな?』
乙房と融合した、嫉妬の堕天使、エビーラルドが、プララルドに返事をした。
『誰に物を言っている、プララルド?私の腕はいつも完璧だ。私より綺麗な女を綺麗に改造するのは嫌だが、まぁ良い。ハナビ、あの女を私の能力で改造する。お前はただ私の言う通りに手を動かせ。私の能力の使い方も一緒にレクチャーしてやる。ポニーテール女、私たちの前に来い。お前を強くしてやる。』
都原が不安げな表情を浮かべながら、エビーラルドと融合した乙房の前に立った。
『私の能力は、「改造魔手」。触れた生物や物体の構造や形、大きさ、能力などを自由自在に改造できる。ただの非力な人間を強力なモンスターへと作り替えることができる。ハナビ、自分の手をそのポニーテール女の頭に載せろ。この女を特別なモンスターへと改造する。ポニーテール女、黙って私たちの改造を受けろ。私の改造は全く痛みを感じないから安心しろ。ほら、さっさと準備しろ。』
「わ、分かったわよ、エビーラルド!?急かさないでよ!?」
「花火、本当に痛くしないでね?気味悪いモンスターに改造とかしないでよね、マジで!?」
『ちっ。本当にうるさい女どもだ。この私の改造は完璧だ。容姿も理性もそのままに、最大限強化してやる。ほら、改造手術を始めるぞ。』
エビーラルドに急かされ、乙房はエビーラルドの指示通り、都原の頭に右手を載せた。
『では、これより、肉体改造を行う。ハナビ、よく見ていろ。』
乙房の右手がオレンジ色に光り輝くと、オレンジ色の光を放つエネルギーが都原の全身を包み込んだ。
それから、都原の外見が徐々に変化し始めた。
都原は、ディープグリーンの髪色に、エメラルドグリーンのメッシュが入ったポニーテールへと髪型が変化した。瞳の色は、黒色からそれぞれ、右目が黄色、左目が赤色のオッドアイへと変化した。首の左側には、黒い蝙蝠の顔のタトゥーが入った。口の中の犬歯が、四本とも鋭く伸びた。
都原を包むオレンジ色の光を放つエネルギーが消えると、エビーラルドが言った。
『改造完了だ。ハナビ、手を離していい。ポニーテール女、いや、カナウ、お前をこの私の力で美しく、強力なモンスターへと肉体を改造した。外見はできる限り、お仲間たちに合わせた。今日からお前は、Lv.199のSSランクモンスター、その名も「エクステンデッド・ヴァンパイアロード」だ。通常のヴァンパイアロードの20倍のパワーとスピード、瞬間再生能力を持つ。右目には見た者を石化させる能力を宿すメデューサの瞳、左目には見た者を魅了、洗脳する能力を持つヴァンパイアロードの瞳を、それぞれ備えている。他にも、人間サイズの蝙蝠へと変身して飛行する能力、敵の体温を感知する熱感知能力、爪や牙から相手を麻痺させる強力な猛毒を注入する能力、髪を自由自在に伸ばして相手を拘束する能力、髪の毛から吸血する能力などを与えた。知性はそのまま、外見も問題ない。元々持っていたジョブもスキルも使え、威力もレベル上限の100を超えている。太陽光の下で活動できない弱点はあるが、私たち堕天使の次に匹敵する力を与えた。私の持てる限りの技術を施した。これでは不満か?』
自分の変化した姿や肉体を確認し、都原は喜んだ。
「いえ、十分すぎるくらいよ。ありがとう、花火、エビーラルド。エクステンデッド・ヴァンパイアロード、Lv.199のSSランクモンスターなんて、最高よ。すっごい力がみなぎってくる。吸血鬼にはなっちゃったけど、見た目も能力も完璧。これなら、宮古野だって、「黒の勇者」だって、全然怖くない。全然余裕で倒せるわ。本当に気分最高だわ!」
「良かったね、叶。めっちゃ似合ってるよ、その姿。髪型もタトゥーもお揃いだし、やったね。」
「Lv.0だった人間を、ほんの数十秒でLv.199の強力なSSモンスターへと改造するなんて、すごいわ!ルーカスの手記に書いてあった以上の力だわ。さすがは堕天使、女神と勇者たち、そして、世界中を恐怖に陥れた存在ね。これで私たちは問題なく、次の作戦に移れる。もう一人の堕天使とも合流できれば、私たちの計画遂行はより完璧になるわ。」
花火、鷹尾の二人が、エクステンデッド・ヴァンパイアロードへと変身した都原を見て、喜んだ。
『おい、スズカ、次は何をするんだ?お前の面白い作戦とやらを、俺様たちに是非、聞かせてくれよ。』
「良いわ、プララルド。みんなもよく聞いて。私たちはこれから夜になったら、ここから真っ直ぐ西に行った、高い山の上にある、とある刑務所を襲撃するわよ。シーバム刑務所と言って、ゾイサイト聖教国が誇る、史上最高のセキュリティーを持つ、脱獄不可能にして難攻不落と呼ばれる刑務所よ。シーバム刑務所には、元S級冒険者や元A級冒険者、闇ギルド関係者の凶悪な犯罪者たちが5万人以上、収監されている。囚人のほとんどが終身刑の受刑者、あるいは死刑囚よ。シーバム刑務所を私たちの力で襲撃して乗っ取る。ついでに、凶悪な囚人たちを配下に加え、私たちは一大勢力を築き上げる。囚人たちは全員、洗脳してヴァンパイアロードに変えればいい。後は、ゾイサイト聖教国の国民を人質にとって立てこもり、ゾイサイト聖教国政府に対して、政府の明け渡しを要求する。光の女神リリアのお膝元である、ゾイサイト聖教国とリリア聖教会を手に入れ、国家元首兼勇者になれば、女神も「黒の勇者」も、誰も私たちには逆らえない。邪魔な聖騎士団や冒険者たち、「黒の勇者」、私たちを邪魔する者は皆、殺してしまえばいい。魔族も滅ぼせば、名実ともに私たちは世界を救った勇者で、異世界最大の権力者となれる。何でも思いのままよ。私たちの力と頭脳があれば、みんなの望む願いを完璧に叶えることができる。ここからが本番よ、みんな。みんなの活躍を期待しているわよ。」
『ギャハハハ!刑務所を乗っ取るか!おまけに、ゾイサイト聖教国を、イケ好かねえリリアの信者どもがいるあの国まで乗っ取ろうとは、面白れえじゃねえか?勇者が聖騎士をぶっ殺すとか、マジでカオスで狂ってるぜ!みんなで楽しませてもらおうじゃねえか、このイカれた祭りをよぉ!』
こうして、堕天使たちとの融合を果たした元「弓聖」鷹尾たち一行は、ゾイサイト聖教国の南西にある、シーバム刑務所を襲撃して占拠するため、行動を開始した。
午後7時。
月が上り、鷹尾たち一行のいるリベリオ遺跡の周りはすっかり暗くなり、夜になっていた。
堕天使たちと融合し、Lv.200となった鷹尾たち六人の背中には、巨大な鷲のような黒い翼が生えていた。
エクステンデッド・ヴァンパイアロードになった都原は、人間サイズの巨大な蝙蝠へと変身した。
鷹尾たち一行は、リベリオ遺跡から一斉に飛び立つと、リベリオ遺跡から馬車で三日ほど西へ進んだところにある、シーバム刑務所へ向かって、猛スピードで空を飛んで移動した。
午後10時頃。
鷹尾たち一行は、目的地であるシーバム刑務所の上空へと到着した。
シーバム刑務所は、ゾイサイト聖教国の首都から馬車で南西に三日ほど進んだところにある、標高5,000mもある、マッターホルンに似た、切り立った高い山の頂上にある刑務所である。
高さ100mもある、巨大な白い石壁の塀が三枚、三角形の形状を作って、刑務所の敷地全体を囲んでいる。
アメリカのADXフローレンス刑務所に外観が似た、超巨大な刑務所である。
ゾイサイト聖教国の誇る、世界最大にして世界一厳重な警備を誇る、脱獄不可能にして難攻不落の、「世界最強最悪の刑務所」と呼ばれている。
刑務所の塀を伝っての脱獄はほとんど不可能で、例え塀を超えられても、塀の外は切り立った崖で、落ちれば、標高5,000mの高さから地上に激突し、死ぬ危険性がある。
さらに、刑務所全体は外敵を防ぐ、巨大で強固な結界が電磁バリヤーのように刑務所全体を覆っていて、外からの襲撃も、内部からの脱獄も結界に阻まれ、ほぼ不可能である。
外部から完全に遮断され、刑務所への行き来、物資の搬入等は、聖リリア教会の本部の地下と刑務所を結ぶ、転移用の魔法陣しか手段がない。刑務所への行き来はゾイサイト聖教国側によって厳しく制限、管理されているため、魔法陣を使って脱獄しようとしても、すぐに教会本部の騎士たちに見つかって連れ戻されることになる。
刑務所内の構造だが、一人の囚人につき一部屋、独房が当てられ、収監される。
ベッドはなく、床に設置された厚い木の板の上で、囚人たちはいつも寝ている。
独房内には他に、壁や床に設置された、机や椅子がある。
それから、小さなトイレと手洗い場、後は、リリア聖教の聖書が一冊あるのみである。
壁や床は、分厚い鉄筋コンクリート造で、ドアは重い鉄製のドアで、内側から開けることはできない。
シーバム刑務所の囚人たちは基本的に、独房から出ることを一切禁止されている。
独房内で食事をとるか、聖書を読むか、軽く体を動かすか、寝ることしか許されておらず、一日の大半を狭い独房の中で過ごしている。
一週間に一度だけ、外の運動場に一時間出ることを許されている。
囚人たちに大した娯楽は与えられることはなく、刑務作業もすることなく、ただ狭い独房で一日を過ごすことしか許されない、刺激が全くない、自分の死ぬ日が来るまで感情を殺され続ける日々を送り続けなければならないのだ。
シーバム刑務所は正に、「世界最強最悪の刑務所」であると言える。
話を戻すと、シーバム刑務所の上空へと着いた鷹尾たち一行は、シーバム刑務所を乗っ取るため、早速襲撃を開始した。
『お前ら、結界を破るのは、俺とユウスケに任せとけ。ユウスケ、俺の「激高進化」の使い方はおぼえたよな?怒れば怒るほど、俺とお前のパワーやスピード、回復能力は強化される。環境や敵からの攻撃に対する適応能力も強化される。一度受けた攻撃に対する完全な耐性を身に着けることができる。あの邪魔な結界への怒りを燃やせ。そして、素手で一気にぶん殴れ。俺と融合したからには、あの程度の結界は一撃でぶっ飛ばすんだ。できなかったら、俺はマジで切れておまえを見捨てるぜ。分かったな?』
下川と融合した憤怒の堕天使、ラスラルドが、下川に忠告した。
「へっ。お前に言われるまでもないぜ。力の使い方はおぼえた。あんなゴミカスみたいな結界、俺の拳で一発でぶち破ってやるぜ!」
下川は闘志を燃やすと、右手に赤い色のエネルギーを纏った。
そして、結界に向かって急降下しながら、赤く光る右拳を結界目がけて振り下ろした。
「オラァーーー!ぶっ壊れろやぁーーー!」
下川の振り下ろした右拳が直撃した瞬間、シーバム刑務所を覆っていた結界が、パリーンという音を立てながら、粉々に砕け散った。
「おっしゃーーー!ざまぁみろ、ゴミカス結界がぁーーー!一気に乗り込むぜーーー!」
結界を破壊して興奮する下川が、一気にシーバム刑務所へと突入した。
下川に続き、鷹尾たち他の六人も、シーバム刑務所の敷地内へと急降下しながら、一気に襲撃をかけた。
刑務所の結界を破壊される緊急事態に、刑務所全体に非常サイレンの音が鳴り響き、一万人の刑務官外、刑務所職員たちが、刑務所を襲撃してきた鷹尾たち一行を迎え撃とうと、武器を持って、鷹尾たち一行を包囲しようとした。
『中々厳つくて、逞しいナイスガイがいっぱいいるじゃな~い。なら、私たちの出番ね、レン?私の「魅了幻夢」の使い方は教えたとおりよ。私たちの魅力とフェロモンがあれば、あの男たちは私たちの魅力の虜になって、決して醒めることのない、夢と快楽の世界へと意識を閉じ込めることができちゃうのよ。愛しい彼氏に会う時の予行演習だと思って。さぁ、遠慮なく魅了しちゃいなさ~い。』
妻ケ丘と融合した色欲の堕天使、ストララルドが、能力を使って刑務官の男たちを魅了するよう、妻ケ丘に指示した。
「はぁー。分かったわよ。やればいいんでしょ。やれば!」
妻ケ丘は全身を青く光らせると、セクシーポーズをとりながら、刑務官たちへとウインクし、それから投げキッスを行った。
妻ヶ丘町の全身から発せられる、強烈な魅了の効果のあるフェロモンを含んだ、薄っすらと青い色のガスも吸って、刑務官たちはたちまち妻ケ丘の魅力の虜になり、能力で魅了された結果、決して醒めることのない、性の快楽に溢れた、夢の世界へと意識を閉じ込められ、その場でバタバタと、気持ちよさそうな笑みを浮かべながら、眠りについた。
『さすがね、レン。私が見込んだだけのことはあるわ。その調子で、あなたの色気でどんどん、刑務所の男たちを虜にしちゃいなさ~い。』
「はぁー。何で私がこんな男漁りするビッチみたいなことをしなくちゃいけないのよ?確かに能力は凄いけど、毎回、セクシポーズ取ったり、エロい恰好したりしなきゃいけないなんて、トホホホ。」
「妻ケ丘さん、大変なのは分かるけど、ここは我慢してちょうだい。あなたの能力があれば、ほぼ無傷で敵を捕まえたり、制圧することができたりするの。あなたの美貌と魅了は強力な武器よ。全ては私たちの計画を成功させるため、恋人の立野君と無事、再会するためだと思って、頑張って。」
「分かったわ、鷹尾さん。何で一途な私のパートナーが色欲の堕天使なのよ、ホント?」
鷹尾に励まされ、色欲の堕天使の能力を使うことを受け入れる、複雑な心境の妻ケ丘であった。
スラトラルドと融合した妻ケ丘の、老若男女を魅了する能力で次々にシーバム刑務所の刑務官たちが無力化されていくが、刑務官たちの中には、妻ケ丘町の能力を恐れて、妻ケ丘町から距離をとり、遠距離から弓矢で攻撃をして応戦してくる者たちもいた。
「うっとおしい連中ね。早水さん、結界を展開して、妻ケ丘さんや私たちのカバーをお願いできるかしら?」
鷹尾が、早水に指示を出した。
「了解。グラトラルド、結界を展開するから協力してよ。後で食べたい物を好きなだけ食べさせてあげるから。」
『分かったよ~、アスカ~。僕の「吸収合体」の能力の中に、結界を張る能力があるから、それを使えばいんだなぁ~。』
早水と融合した暴食の堕天使、グラトラルドが、早水にレクチャーした。
「OK。それじゃあ、行くわよ。」
早水が右手を突き出し、力を込めると、右手が紫色に光り輝き、それから、鷹尾たち一行を覆うように、紫色の光を放つ半球状の結界が、早水の右手から展開された。
早水の展開した結界のせいで、刑務官たちの放つ矢は全て防がれ、鷹尾たち一行は全くダメージを負うことなく、結界を展開しながら、悠々と刑務所の中を進んで行く。
「弓術士のアタシが結界を使えるとかマジ、ヤバくない?でも、ストックできる能力は100個までだっけ?食べた物の能力や特徴を吸収して使用できる、だったわよね?どの能力を捨てるかとか、新しい能力が欲しいなら、その度に生き物でも何でも全部食べなきゃいけないとか、ちょっと面倒なのよねぇ、この能力。でも、マジ万能だし、贅沢は言えないわ。ありがとね、グラトラルド。」
『アスカ~、僕、肉が食べたいんだなぁ~。おいしいステーキが食べたいんだなぁ~』
「分かった、分かったってば。刑務所の食べ物にステーキとかあるかなぁ~?まぁ、探してみるわ。」
早水の展開した強固な結界と、妻ケ丘の魅了の能力で、刑務官たちは無力化され、制圧されていった。
シーバム刑務所の刑務官たちのほぼ全てを無力化すると、鷹尾たち一行は、シーバム刑務所の所長室へと向かった。
所長室の周辺には、ハンカチで口と目を覆った、屈強そうな刑務官たちが所長室を守るように数人いたが、妻ケ丘の強力な魅了の力の前に、意識がゆらぎ、武器を構えてはいるが、全員フラフラしていて、立つのがやっとの状態であった。
「オラァー!どきやがれ、ゴミカスどもー!」
「激高進化」の力でパワーやスピードが何十倍にも強化された下川が、刑務官たちに強力なパンチや蹴りを繰り出し、一撃で刑務官たちを次々に殺害していく。
下川が近くにいた残りの刑務官たちを殺すと、鷹尾を先頭に、鷹尾たち一行は、所長室の中へと入って行く。
白い刑務官の服を着た、50代後半くらいの男性が、ハンカチで口元を覆いながら、右手で剣を持って、鷹尾たち一行を迎え撃とうとした。
「貴様ら、一体何者だ?何故、このシーバム刑務所を襲う?どこの組織の者だ?こんなことをすれば、ゾイサイト聖教国政府やリリア聖教会を敵に回すことが分からんのか?」
「あなたがこの刑務所の所長さんね?私たちの目的をあなたに話すつもりはないし、あなたの言ったことは全部、承知の上で私たちは行動している。あなたも私たちの計画に利用させてもらうわ。行くわよ、プララルド?」
『おう。いつでも良いぜ。俺様の教えた通りにやれば、洗脳はばっちりだぜ。』
「では、完全支配!」
鷹尾が刑務所長に向かって右手を突き出し、力を込めると、右手が藍色に光り輝き、鷹尾の右手から放たれた藍色の光を見た瞬間、刑務所長の目が焦点を失い、両手に構えていた剣を手放し、直立したまま、沈黙した。
「所長、あなたはこれから私の忠実な部下よ。ご主人様である私の命令には絶対服従、分かったわね?」
「ハイ、カシコマリマシタ、ゴシュジンサマ。」
鷹尾に精神を完全に洗脳、支配された刑務所長が、鷹尾に返事をした。
「自分よりレベルの低い生物の精神を完全に洗脳し、支配する力、ね。素晴らしい能力だわ、プララルド。私たちのこれからの計画にこの能力は必要不可欠よ。」
『お褒めいただきどうも。俺様の能力はスゲエだろ?俺様の能力があれば、世界中の人間どもを俺様たちの意のままに操ることも不可能じゃあねえ。どうだ、最高だろ?』
「ええっ、全くその通りね。でも、まだ計画の途中よ。おしゃべりは後。所長、このシーバム刑務所が襲撃されたことを本国には連絡済みなのかしら?」
「イイエ、レンラクハマダ、シテイマセン。」
「そう。なら、本国からこの後、定時連絡の要請があった時は、異常なしと答えるのよ。私たちによる襲撃はなかったと、適当にごまかしなさい。良いわね?」
「ハイ。カシコマリマシタ。」
「それと、囚人たちが収監されている各独房の鍵を渡しなさい。マスターキーがあるなら、寄越しなさい。後、この刑務所のセキュリティーシステムや構造、他の場所との行き来や通信手段などについても、私たちに教えなさい。」
「カシコマリマシタ、ゴシュジンサマ。ドクボウノマスターキーハ、ワタシガモッテイマス。ドウゾ、オツカイクダサイ。ケイムショノセキュリティーシステムト、コウゾウニニツイテモスベテオコタエイタシマス。」
洗脳された刑務所長が、所長室の机の引き出しの中から、各独房の錠を開けるためのマスターキー三本を手渡しながら、鷹尾に答えた。
「下川君、早水さん、都原さん、マスターキーを渡すから、囚人たちの独房を開けて、外に出してあげて。囚人たちには、独房の扉の前で待機するよう、言っておいて。妻ケ丘さん、あなたの能力で囚人たちが完全に眠っているようなら、囚人たちにかけた魅了を先に解いてあげて。みんな、頼むわよ?」
それから、妻ケ丘が能力を解除した後、下川、早水、都原、の三人は、約五万部屋ある独房を約六時間かけて、マスターキーで一部屋ずつ開けて、中にいた囚人たちを独房の外へと出した。
囚人たちを独房から出し終えた下川たち三人は、疲労困憊であった。
「ああっ、マジ疲れたぜ。刑務所破るより、牢屋の鍵開けて回る方が100倍しんどかったぜ、おい。」
「私ももうフラフラ。お腹もめっちゃ空いたし。ステーキがあったら、私も食べたい。」
「マジ体力使った。喉乾いたぁー。血が飲みたいー。刑務所破るのって、地味に大変だわ、ホント。」
「お疲れ様、三人とも。夜まで三人とも、ゆっくり休んでもらって大丈夫よ。この刑務所のセキュリティーシステムと構造は完全に把握したわ。早水さんとグラトラルドに朗報よ。刑務所に配給されている物資の中に、食料としてステーキ肉が入っているらしいわ。好きなだけステーキを食べてちょうだい。都原さん、血が空いたかったら、床に転がっている刑務官の血を飲んで補給してもらって結構よ。三人とも、本当にお疲れ様。後は残りのメンバーに任せて。」
「ステーキあんの!?マジ、嬉しいですけど!やったね、グラトラルド!」
『ヤッホー、なんだなぁー。ステーキ食べ放題、嬉しいなぁー』
「早く血を吸って休もうっと。人間の血って、本当に美味しいのかな?できるだけ、健康そうなイケメンから血を吸おっと。」
「俺もステーキ食ったら、夜まで寝るとするぜ。鷹尾さん、後は任せたよ。」
早水、グラトラルド、都原、下川は、先に休憩や食事を取ることにしたのであった。
鷹尾は、独房の前に立ち、独房から出られたことを喜ぶ囚人たちを前に言った。
「囚人の皆さん、初めまして。私は「弓聖」にして「風の勇者」、鷹尾 涼風。このシーバム刑務所を破り、あなたたちを独房から解放したのは、この私よ。私の目的は、あなたたちをこの刑務所に閉じ込めたゾイサイト聖教国政府を乗っ取ることにある。この私に協力するのなら、あなたたちに、あなたたちの望みを叶える力をあげる。金でも、食べ物でも、好きなだけ奪い、人間を殺したければ好きなだけ殺せる、そんな力をあなたたちにプレゼントしてあげる。だけど、この私への協力を拒むと言うのなら、好きにしなさい。最も、ここは外部から完全に遮断された脱獄不可能の牢獄。塀を上ることもまず無理でしょうし、塀を降りたところで、5,000m下の地上までまっ逆さま。例え、移動用の魔法陣を使えても、犯罪者でレベルを0にまで強制的に下げられているあなたたちじゃ、魔法陣を使ってリリア聖教会本部まで移動した途端、聖騎士たちに捕まるか、その場で殺されるのが落ち、でしょうね。堕天使の力を持つ私たちに服従を誓うなら、あなたたちは力と自由と復讐のチャンスを得ることができる。服従を誓わないなら、破滅か死が、あなたたちを待っている。さぁ、これが最初で最後の提案よ。この私に服従を誓うのか否か、今すぐこの場で決めなさい。この私からの提案を即決で受け入れることのできない、頭の悪い人間は不要よ。」
鷹尾からの提案を聞いて、シーバム刑務所の囚人たちは、力と自由と復讐のチャンスをもらえると聞いて、断ろうとする者は誰一人としていなかった。
「ウオォーーー、俺はアンタにどこまでも付いて行くぜ、弓聖様ーーー!」
「聖騎士団も聖教皇もみんな、ぶち殺してやるぜ、おい!」
「俺は自由になるためだったら、何だってする!俺はアンタの部下になるぜ、弓聖様!」
囚人たちが自分への服従を誓ったことを確認し、鷹尾は笑みを浮かべた。
「囚人たちの心は完全に掴んだわ。後は洗脳さえすれば、彼らは私たちに従順な兵隊となってくれる。では早速、洗脳開始!」
鷹尾が右手を突き出し、力を込めると、右手が藍色に光り輝き、鷹尾の右手から放たれる光を見て、大声で騒いでいた囚人たちが一瞬で静まり、目が焦点を失い、その場で直立不動となった。
「今日から私があなたたちのご主人様よ。この私の命令には絶対服従。私の仲間たちの命令にも従いなさい。私のためなら、どんなことだってする、命だって捧げる、この私の忠実な奴隷で兵隊にあなたたちはなった?そうよね、囚人の皆さん?分かったなら、首を縦に振りなさい。」
鷹尾に精神を完全に洗脳、支配された囚人たちは、鷹尾に命令されると、一斉に首を縦に振った。
シーバム刑務所の全ての囚人たちの完全な支配に成功した鷹尾は、口元に笑みを浮かべた。
「囚人たちの洗脳は完了よ。後は、コイツらを立派な兵隊として強化するだけ。乙房さん、あなたの力で囚人たちを全員、ヴァンパイアロードに改造してあげて。それから、下長飯さん、あなたとグリラルドの持つ能力で、囚人たちに武器を与えてください。そうすれば、約5万匹の武装したヴァンパイアロードの最強の兵隊の出来上がりよ。コイツらを戦力に加えて、一気に計画を押し進めるわよ。夜までに兵隊たちの育成をよろしく、二人とも。」
「了解、鷹尾さん。5万人も改造するのかぁー。まぁ、頑張るわ。」
乙房が、鷹尾に返事をした。
「私も一緒に頑張るぞ。グリラルド、ヴァンパイアロードたちにやる武器は十分にあるか?」
下長飯が、自分と融合した強欲の堕天使、グリラルドに訊ねた。
『儂を誰じゃと思っておる、キンゾウよ?儂の能力、「強奪金庫」の金庫の中には、数多の人間たちや魔族たちから奪った、無限の武器や金銀財宝が詰まっておるんじゃ。儂の金庫から吸血鬼どものために武器を与えることなど、容易いことじゃよ。オリハルコン製の武器を、儂のコレクションの中から吸血鬼どもにくれてやるとしよう。コレクションが減るのは少し不愉快じゃが、新しいコレクションをより多く集めればいいだけのこと。つまらんことは気にせず、とっとと仕事にかかるぞ。後、キンゾウよ、儂のコレクションをもし、ネコババしようとすれば、儂は貴様を絶対に許さん。すぐに貴様を切り捨てる。分かっておるな、キンゾウよ?』
「分かった、分かったとも!お前のコレクションをネコババなんて絶対にしない!だから、私を見捨てないでくれ!頼む、グリラルド!」
『金に汚いところは気に入ったが、貴様はいまいち自制心が足りんからなぁ。他の年下の仲間たちよりも、金遣いが荒い。幼児並みの我慢強さしかない。お主が最年長の癖して、リーダーではない理由が分かる。せいぜい、この儂にまで見捨てられんよう、己の強欲をコントロールせよ。』
それから、乙房と下長飯の二人は、囚人たちの強化改造に着手した。
乙房が「改造魔手」の力で、囚人たちを次々にLv.70以上のヴァンパイアロードへと改造した。
下長飯が「強奪金庫」の力を使い、囚人たちのジョブとスキルに合わせ、亜空間にある無限収納の機能を持ち、無限の武器や金銀財宝などを収める金庫の中から、囚人たちに、グリラルドがこれまでに収集した武器と装備を選んで与えた。
こうして、夜までに、ヴァンパイアロードの力と、人間だった頃から所持していたジョブとスキル、さらにオリハルコン製の武器と装備を持った、鷹尾たちの命令に忠実な、元囚人の約5万匹のヴァンパイアロードによって構成された強力な軍隊が完成した。
午後12時。
約5万匹の元囚人たちのヴァンパイアロードの軍隊を、刑務所の独房のある棟の二階から見下ろしながら、鷹尾はヴァンパイアロードの軍隊に命令した。
「ついに次の作戦を決行する時が来たわ。まずは、ゾイサイト聖教国にいる子供たちをお前たち軍隊は人質として攫ってきなさい。5歳から12歳くらいの年頃の、2万人の子どもたちをゾイサイト聖教国から攫ってきなさい。都原さん、ヴァンパイアロードたちの指揮をお願いするわ。お前たち、都原さんの指示に従って、子どもたちを攫って、この刑務所まで必ず連れてきなさい。子どもたちは絶対に傷つけちゃダメよ。大事な人質なんですからね。邪魔する大人の人間たちは殺してかまわないわ。残りの者は、この刑務所の警備に当たりなさい。それじゃあ、都原さん、よろしく頼むわね。」
「任せて、鷹尾さん。血を吸って体力は回復したし、コンディションは万全よ。私のエクステンデッド・ヴァンパイアロードの能力を試す良い機会だしね。兵隊たち、私に付いてきなさい。子供たちを攫うのを手伝いなさい。」
都原はそう言うと、全身が緑色に発光した後、人間サイズの巨大な黒い蝙蝠へと変身した。
それから、同じく巨大な蝙蝠へと変身した2万匹のヴァンパイアロードの兵隊たちを連れて、空へと飛び上がり、ゾイサイト聖教国の北東部へと飛び去った。
深夜、2万匹のヴァンパイアロードたちが変身した巨大な蝙蝠が、首都を除いたゾイサイト聖教国各地を襲撃、2万人の子どもたちを攫う事件が発生した。
大量のヴァンパイアロードたちの突然の襲撃に、ゾイサイト聖教国の人々は対応できず、攫われた子供たちの親や、ゾイサイト聖教国の冒険者たち、騎士たちが慌てて応戦するも、ヴァンパイアロードたちの猛攻を防ぐことができず、死傷者が続出した。
エクステンデッド・ヴァンパイアロードになった都原は、自身の手に入れた能力に酔っていた。
冒険者たちや聖騎士たちが都原を討伐しようと襲いかかるが、都原は余裕だった。
ヴァンパイアロードの姿の都原だが、襲い掛かってくる冒険者たちや聖騎士たちの攻撃を超スピードで瞬時に交わしてみせた。
「余裕、余裕!全然、遅いっての!食らえよ、ほらっ!」
都原が、メデューサの石化の能力を持つ、黄色い瞳の右目から、眩いほどの黄色い強烈な光を放つと、光を浴びた冒険者たちと聖騎士たちは一瞬で、石像のようになって石化した。
「マジ、強すぎでしょ、私!ついでにパワーも試しとこっと!」
都原は、石化した冒険者たちと聖騎士たちに近づくなり、パンチや蹴りを浴びせて、石化した冒険者たちと聖騎士たちを、粉々に砕いた。
「軽く殴っただけで石が粉々になるとか、私のパワー、半端ねえわ、マジ。おっと、イケない、仕事、仕事っと!」
都原は、熱感知の能力を使い、とある一軒の農家の納屋へと向かった。
そして、鍵がかかった納屋の扉を怪力で蹴破ると、納屋の中へと入った。
納屋の隅っこにある、大きな箱の後ろに、11歳くらいの金髪の少年が一人、怯えて隠れていた。
怯える少年の目の前に立つなり、顔を近づけながら都原は言った。
「男の子発っ見~ん!って言うか、超可愛いんだけど、この子!マジ、美少年じゃん!この子、私がもらおうっと!マジ、私の好みなんだけど!ほ~ら、僕、君は今日からお姉さんのペット決定だから。よろしくね、ペット君?」
都原が、ヴァンパイアロードの魅了の力を持つ、左目の赤い瞳を赤く光らせながら、少年に向かって言った。
都原のヴァンパイアロードの力で魅了され、少年は急に怯えるのを止め、無表情になりながら、答えた。
「ハイ、オネエサン。」
「美少年ゲットー!それじゃあ、お姉さんについておいで、可愛い私のペット君?」
都原は魅了した少年を納屋の外に連れ出すと、ふたたび巨大な蝙蝠へと姿を変え、それから、両足で少年の体を掴むと、空へと飛び上がった。
「お前たち、子供たちを捕まえたなら、真っ直ぐシーバム刑務所へ戻りな!子供たちは人質だ!大事に扱うんだよ!刑務所に戻ったら、鷹尾さんの命令に従うように!」
こうして、夜が明ける前に、都原率いるヴァンパイアロードの軍隊によって、ゾイサイト聖教国の2万人の子どもたちが、シーバム刑務所へと連れ去られたのであった。
2万人の子どもたちを連れて刑務所に戻った都原率いるヴァンパイアロードたちを、鷹尾たち外五名が出迎えた。
「お帰りなさい、都原さん。あなたのおかげで2万人の人質が手に入った。とりあえず、刑務官の血を吸って、エネルギーを補給してちょうだい。本当にお疲れ様。」
「鷹尾さんこそ、お疲れ様。鷹尾さんのおかげで何もかも順調だわ。それで、この後、いよいよ宣戦布告するわけ?」
都原の問いに、鷹尾が冷たい笑みを浮かべながら、こう答えた。
「ええっ、その通りよ。後、二時間後、午前7時ちょうどに、ゾイサイト聖教国政府に向けて、人質たちと引き換えに、ゾイサイト聖教国を私たちに明け渡すよう、要求するつもりよ。ゾイサイト聖教国を明け渡し、私たちが国家元首兼勇者となることを条件に、人質の子どもたちを解放するとね。ゾイサイト聖教国政府が、リリア聖教会が簡単にこちらの要求に応じてこないのは先刻、承知済みよ。だけど、2万人もの幼い子どもたちを人質に捕えられて、子どもたちの親たちや関係者たちが、いつまでも黙っているわけがない。ゾイサイト聖教国政府が私たちの要求を固辞し続ければ続けるほど、いかにリリア聖教の熱心な信者たちであっても、子どもたちを攫われた親たちと関係者たちの、政府に対する不平不満は募っていく。そうなれば、ゾイサイト聖教国は内部から崩壊することになりかねない。かつて、反教皇派と呼ばれた人たちが起こしたクーデターのような反乱が起きる。いかにゾイサイト聖教国が聖騎士団という強力な戦力を持っていても、私たちはそれをはるかに上回る戦力を持っている。堕天使の力に、5万匹のヴァンパイアロードの軍隊、これらを相手にまともに戦える力はゾイサイト聖教国にはない。ゾイサイト聖教国は閉鎖的な国だから、他国と連携して攻めてくることもない。おまけに、こちらは外部から完全に遮断された難攻不落の、世界最高の刑務所という鉄壁の城塞も持っている。セキュリティーシステムは既に書き換え済み。私たち以外に、結界などを破って、外からこの刑務所に侵入することは不可能。切り札である2万人の幼い人質だっている。ゾイサイト聖教国が私たちのモノになるのは時間の問題、というわけ。どう、私の考えたこの計画は?」
『さすがだぜ、スズカ。完璧な作戦だぜ。ゾイサイト聖教国の連中はお前の立てた計画に、手も足も出ないってわけだ。内部から自滅するか、それとも、外から攻め込んできて俺様たちに潰されるか、どっちが先になるか、見物じゃねえか?あの憎たらしいゾイサイト聖教国が、リリア聖教会の女神の信者どもが無様に俺様たちに命乞いしてくる姿が目に浮かんでくるぜ。俺様の力で、ゾイサイト聖教国のお偉方を何人か洗脳して、内乱を誘発させて、ゾイサイト聖教国を滅茶苦茶にするってのはどうだ?女神の信者どもが同士討ちする姿なんて、見ているだけでマジで面白いぜ?』
「面白い提案ね、プララルド。ゾイサイト聖教国があまりに固辞するようなら、あなたの提案も実行して、内部から崩壊させて、そこを乗っ取るのも悪くはないわ。さて、これからゾイサイト聖教国政府に宣戦布告するのが楽しみだわ。」
鷹尾は、自身の立案した犯罪計画が順調に進んでいるとあり、笑みを浮かべている。
「けど、鷹尾さん、宮古野は、「黒の勇者」はどうするつもりだよ?アイツはとんでもなく強くなっているって話じゃないか?姫城、花繰さん、沖水、もう22人も他の勇者たちがアイツのせいで殺されてる。ズパート帝国の軍隊も、サーファイ連邦国の海賊団も、アイツは壊滅させたって聞いてるぜ。宮古野は間違いなく、チート能力を持ってるぜ。しかも、桁外れのな。常勝無敗のSランクパーティーだって率いている。堕天使の力を手に入れて俺たち全員、レベルアップした。ヴァンパイアロードの軍隊に、大勢の人質もいる。だけどよ、宮古野の奴が、女神からまた堕天使を封印する力を授かってきたら、どうする?アイツ自身が俺たちよりさらに強かった時は、どうするよ?アイツは絶対、アイツを処刑した俺たちを恨んでいる。正確に言えば、どっかのオッサンのせいだけどな。」
下川が、鷹尾に向かって、「黒の勇者」こと主人公への対策について訊ねた。
下川から皮肉を言われた下長飯は、顔を顰めながら、俯いている。
他の四人の仲間たちは、不安そうな表情を浮かべながら、鷹尾を見た。
しかし、鷹尾は涼しい表情を浮かべながら、答えた。
「下川君、あなたの指摘は最もよ。だけど、心配は無用よ。ルーカス・ブレイドの手記によれば、当時の「七色の勇者」たちは、自分たちの寿命の半分と引き換えに、プララルドたち堕天使を封印したと、記録してあったわ。仮に宮古野君が堕天使たちを封印しようと思っても、彼一人では実現不可能。仮に実行できたとしても、彼は堕天使たちを封印する代償に、封印の術式に命を吸い取られ、死ぬことになる。それに、彼の能力については私の方で独自に分析済みよ。宮古野君、「黒の勇者」は恐らく、「七色の勇者」も含めた、あらゆる戦闘職のジョブとスキルを持っている、言わば万能型、と見て良いわ。ステータスを鑑定した時、彼がジョブもスキルも持っていないと表示されたのは、恐らく、持っているジョブとスキルの数が多すぎて、鑑定が予想外のエラーを起こしたから。当然、私たちより持っている魔力の総量も桁違いに違うはず。だけど、彼には致命的な弱点がある。それは、私たちのような非情さを持っていないことよ。彼は私たち勇者や犯罪者たち以外の人間が犠牲になること、命を奪われることを嫌う性格の持ち主よ。それは彼のこれまでの行動から分析済み。侵入不可能の、難攻不落の刑務所から、2万人もの人質たちを無傷で彼が私たちから救出することは絶対にできない。大勢の人質を犠牲にしてまで、宮古野君、「黒の勇者」は私たちを攻撃することはできない。加えて、圧倒的な数の力も私たちにはある。兵隊一人一人の能力だって桁違い。宮古野君、「黒の勇者」は私たちには一切手出しできない。その間に、ゾイサイト聖教国を手に入れ、勇者としても実績を出せば、「黒の勇者」も女神も私たちには文句ひとつ、言えなくなる。私の計画に常に抜かりはないわ。」
「さすがは鷹尾さんだぜ!宮古野の奴でも俺たちには一切、手出しできない、完璧な計画ってわけだ!「黒の勇者」なんて、全然怖くないぜ!」
「さすがは鷹尾さん、私の元教え子にして天才だ!君の作戦通りなら、あの宮古野がやって来ても、何も問題ない!素晴らしい!」
「鷹尾さんがリーダーで本当に良かったわ!どっかの口と顔だけの元勇者とは全然違う!宮古野の奴は既に撃退したも同然ね!」
「鷹尾さんの指示通りに動けば、全て成功確定よ!私たち勝ち組み確定じゃん!」
「鷹尾さんを信じて付いて来て、本当に良かったわ!計画が無事、上手くいけば、私たちはまた勇者に戻れる!もう誰にも追われずに済む!孝も堂々と連れ戻すことができる!本当にありがとう、鷹尾さん!」
「鷹尾さんに付いて行って、本当に正解だったわ!マジで強くなれたし、可愛いペット君はゲットできたし、おまけに宮古野の奴は追っ払えるし、マジで良かったわ!ホント、最高ー!」
下川、下長飯、乙房、早水、妻ケ丘、都原の六人が、満面の笑みを浮かべながら、鷹尾を褒めた。
「ありがとう、みんな。でも、計画はまだ始まったばかりよ。油断は禁物。計画外のことが起きる可能性だってある。だけど、常に注意を怠らず、臨機応変に対処していけば、大きなトラブルもなく、私たちの計画は成功し、私たちはそれぞれの目的を達成することができる。これからも協力よろしくね、みんな。」
それから、鷹尾たち一行は、人質の子どもたちを、元囚人のヴァンパイアロードたちとは別の棟、刑務官たち職員が使っていた棟へと移し、監禁した。
その後、午前7時になった段階で、鷹尾たち一行は、所長室からゾイサイト聖教国政府、また、その他の各国政府に対して、シーバム刑務所を襲撃して占拠したこと、2万人の子どもたちを人質にとって立てこもったことを伝え、さらに、人質たちと引き換えに、ゾイサイト聖教国政府の明け渡し及び全面降伏と、自分たちが国家元首兼勇者となることを要求した。
元「弓聖」鷹尾たち一行による犯行声明及び要求を受けて、ゾイサイト聖教国を始め、世界中が困惑した。
ゾイサイト聖教国政府は、すぐさま鷹尾たち一行に対し、断固要求を拒否、徹底抗戦の構えを主張した。
ゾイサイト聖教国政府から要求には一切、応じない、徹底抗戦の構えをとることを主張された鷹尾たち一行は、すぐさま報復措置を行った。
1万人の刑務官たちでは、5万人いるヴァンパイアロードたちを養うことができず、すぐに血を吸い尽くして殺してしまった。
そのため、ヴァンパイアロードたちの食料兼追加の人質として、ゾイサイト聖教国各地を襲撃し、さらに5万人の大人たちを攫った。
鷹尾たち一行に対し、ゾイサイト聖教国政府はすぐに聖騎士団と冒険者たちを、シーバム刑務所や、ゾイサイト聖教国各地に派遣し、対抗しようとした。
だが、標高5,000mもある切り立った山の頂上にある、難攻不落のシーバム刑務所を聖騎士団は攻略することができず、襲いくる大量のヴァンパイアロードたちを相手に、苦戦を強いられていた。
堕天使の力を持つ鷹尾たち一行が攻撃に加わることで、聖騎士団は圧倒的な力の差の前に、大勢の死傷者を出しながら、後退することしかできなかった。
鷹尾たち一行に人質として、家族を攫われた人々が、ゾイサイト聖教国政府やリリア聖教会に押しかけ、人質解放に向け、動いてくれるよう頼んだが、カテリーナ聖教皇を含むゾイサイト聖教国政府首脳陣たち、聖騎士団、リリア聖教会の聖職者たちは、光の女神リリア様の神託に従い、邪悪な元「弓聖」たち一行とのいかなる交渉にも応じず、元「弓聖」たち一行を必ず討伐する、との一点張りで、人々の頼みを断った。
シーバム刑務所が鷹尾たち一行に占拠され、鷹尾たち一行が犯行声明を出した日から五日間、ゾイサイト聖教国政府と聖騎士団は、「黒の勇者」到着までの間、鷹尾たち一行を討伐するため、事態をこれ以上悪化させないため、奮戦していた。
しかし、人質解放の目途が立たず、戦況も芳しくないため、ゾイサイト聖教国の一部で、鷹尾たち一行によって家族を攫われた人々を中心に、ゾイサイト聖教国政府やリリア聖教会に対する不満が少しずつ募っていくのであった。
元「弓聖」鷹尾たち一行によって封印されていた堕天使たちは復活し、堕天使たちと融合した鷹尾たち一行の、ゾイサイト聖教国を乗っ取るという犯罪計画は着々と成功に向かって進んでいる、かのように思えた。
だがしかし、元「弓聖」たち一行の犯罪計画が成功することは決してない。
「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈は、元「弓聖」たち一行がどんな卑劣な手段を用いてきても、絶対に皆殺しにして復讐する、という執念を抱いていた。
元「弓聖」たち一行は、主人公の自分たちへの、地獄の底よりも深い恨みを、憎しみを全く計算していなかった。
主人公による、計算外の、情け容赦なき正義と復讐の鉄槌が自分たちを襲い、破滅へと導こうとしていることに、元「弓聖」たち一行は誰も気付いてはいなかった。
それと、主人公や元「弓聖」たち一行、双方にとっても予想外にして計算外のとある事態が巻き起こり、主人公による元「弓聖」たち一行への復讐が加速することになるのであった。
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