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第一話 主人公、ゾイサイト聖教国に降り立つ、そして、聖騎士団をぶちのめす
第七章 風の迷宮編
第一話 主人公、ゾイサイト聖教国に降り立つ、そして、聖騎士団をぶちのめす
サーファイ連邦国の首都があるサーファイ島の南側の港から北東に海路で約2週間、さらにアメジス合衆国の南西の小さな港町から馬車を使い、陸路で約2週間かけて北東に進んだところに、「風の迷宮」があるゾイサイト聖教国があった。
東側にインゴット王国、西側にアメジス合衆国があり、二つの国に挟まれた、内陸部に位置する、世界で2番目に面積の小さな国である。
海に面しない内陸部にあり、いくつもの山脈や谷があり、盆地もあり、山や谷に囲まれた盆地の中に、都市や町、村を形成している。
ゾイサイト聖教国のちょうど中心に位置し、巨大な山々に囲まれた、巨大な盆地の中に、ゾイサイト聖教国の首都があった。
国の主な産業は、宗教事業である。ゾイサイト聖教国は、光の女神リリアを信仰するリリア聖教会の本部があり、世界中のリリア聖教の信者たち、リリア聖教を国教とする各国家より、莫大な寄付金を受け取っていて、世界中から集めた寄付金の総額は年間5兆リリアに上り、国を支える貴重な収入源である。
また、リリア聖教の聖書や宗教関係の出版物、宗教関係の美術品の販売、宗教関係の道具の販売なども行っていて、そちらからも莫大な収益を得ているそうだ。
リリア聖教会本部、ゾイサイト聖教国政府が具体的にどれだけの収益を得ているのか、どれだけの国家予算を保有しているかは具体的には明かされていないらしいが、財政自体は毎年、大幅な黒字で安定しているとのことだ。
リリア聖教関係の有名な教会や宮殿、遺跡などがあり、観光や聖地巡礼でゾイサイト聖教国を訪れる人々も多い、と聞く。
気候は地中海性気候に近く、年間の平均気温は10℃から20℃の間で、一年中安定している。季節は秋にちょうど入り始めた頃で、最高気温は17℃、最低気温は10℃ほどである。冬の時期になると、よく雨が降るそうだ。
ゾイサイト聖教国は巨大な山々や谷に囲まれた盆地に街を形成している関係もあって、年間を通して、頻繁に霧が発生すると聞く。
僕たち「アウトサイダーズ」は、サーファイ島の港を出港してから、認識阻害幻術を使って姿を消しながら、「海鴉号」に乗って約5日かけて海を渡った。
それから、五日目の早朝、アメジス合衆国の南西の小さな港町へ到着すると、マリーナにて船を一ヶ月ほど停泊させることにした。
僕たちがゾイサイト聖教国へ向かう途中、衝撃的なニュースが舞い込んできた。
僕たちがゾイサイト聖教国へ向けて出発してから二日目の早朝、元「弓聖」鷹尾たち一行が、ゾイサイト聖教国の南西にある、シーバム刑務所を襲撃、占拠した、という事件のニュースが、ラトナ公国大公のクリスより、緊急通信で僕たちの下に届いた。
元「弓聖」たち一行はシーバム刑務所を占拠した上、配下と思われる大勢のヴァンパイアロードたちを使い、ゾイサイト聖教国の各地から、約2万人の子どもたちを攫い、人質に取ったそうだ。
元「弓聖」たち一行は、ゾイサイト聖教国政府に対して、政府の明け渡し及び全面降伏を要求、要求に応じれば、自分たちが国家元首兼勇者となって魔族を殲滅することを見返りとして提示してきた、とのこと。しかし、要求に応じない場合、人質の子どもたちを殺害すること、今後もゾイサイト聖教国の人々に被害が出続けることになると、ゾイサイト聖教国政府を脅迫したらしい。
元「弓聖」たち一行の要求に対し、ゾイサイト聖教国政府は断固要求を拒否、元「弓聖」たち一行を国の総力を挙げて討伐する姿勢を、全世界に向けて表明したそうだ。
ゾイサイト聖教国政府の対応を受けて、元「弓聖」たち一行は配下のヴァンパイアロードの大群を使い、ゾイサイト聖教国各地を襲撃、約5万人の人間を攫っていった、とのこと。
ゾイサイト聖教国政府は現在、自国の軍隊である聖騎士団の聖騎士たちを、元「弓聖」たち一行に占拠されたシーバム刑務所、並びに、ゾイサイト聖教国各地に派遣するとともに、元「弓聖」たち一行率いる軍勢と交戦状態にあるが、元「弓聖」たち一行の討伐には至っておらず、戦況は膠着状態にあるそうだ。
マリーナに停泊している「海鴉号」のメインキャビンにパーティーメンバー全員を集めると、僕はみんなに向かって話し始めた。
「みんな、僕の話をよく聞いてほしい。これから、イヴの瞬間移動を使って、全員でゾイサイト聖教国の首都へと向かう。本当はすぐにでもシーバム刑務所へと向かい、人質たちを救出したいが、まずは情報収集が先だ。こちらはゾイサイト聖教国の正確な地理や内情、元「弓聖」たち一行の戦力などについて、具体的で有力な情報を持っていない。故に、首都で秘密裏に情報収集を行い、それから、次の行動を決めたいと思う。サーファイ連邦国からここまでの間、元「弓聖」たち一行から奇襲を受けることは全く無かったが、決して警戒を解かないように。後、ゾイサイト聖教国は僕の命を狙ってきたかもしれない、あのクソ女神のリリアを崇拝する狂信的な信者たちが治める国だ。ゾイサイト聖教国政府、リリア聖教会の連中が僕たちを妨害、あるいは僕たちを暗殺しようとしてくる可能性も十分にあり得る。周りはほとんど敵だらけ、そう思ってくれ。ここまでで、みんなから何か他に質問はあるかい?」
「
「俺も質問はねえな。周りは敵だらけ、上等じゃねえか。邪魔する奴は容赦なくぶっ潰す。それだけだぜ。」
「私も質問はない。元「弓聖」たちも、吸血鬼たちも、リリアの信者たちも、害虫以下の悪党どもは一人残らず排除する。暗殺してこようなら、返り討ちにして抹殺する。」
「我も特に質問はない。元「弓聖」たち一行も、リリアの手先どもも、我が剣にて全員、成敗してくれる。元「弓聖」たち一行を討伐するためなら、どんな任務もこなしてみせよう、ジョー殿。」
「アタシも質問はないぜ。クソ勇者どもも、ゾイサイト聖教国の連中も、アタシらの敵は全員、アタシの槍で串刺しにしてやるじゃんよ。悪知恵の働く悪党ほど、殺意が湧いてくるじゃん。」
「妾も質問はない。妾たちの手にかかれば、堕天使どもも、元「弓聖」たちも、リリアを妄信する馬鹿どもも敵ではない。頭の良さも実力も覚悟も、妾たちが圧倒的に上だ。妾たちの目の前に立ち塞がるのならば、薙ぎ払うまでだ。連中全員、破滅させてやろうではないか、婿殿よ?」
「私も質問はありません。リリア様やリリア聖教会と事を構えたくはございませんが、世界の平和のため、人類存続のために必要とあらば、やむを得ません。私も出来る限りサポートさせていただきます。大勢の罪のない人間たちを攫い、傷つける、元「弓聖」たち一行に勇者に戻る資格は一切ございません。国を治めるなど、論外です。元「弓聖」たち一行の討伐、一致団結して必ずやり遂げましょう。」
「パパとお姉ちゃんたちなら、きっと悪い奴らをやっつけてくれる、なの!メルもいっぱいパパたちを応援しますなの!」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、メルが、それぞれ意気込みを述べた。
「質問はなし、みんなやる気十分、というわけだ。このまま認識阻害幻術を使って姿を消しながら、一端、ゾイサイト聖教国の首都に潜入する。潜入後、ラトナ公国大使館へと向かい、大使館を拠点に活動しようと思う。大使館内にも敵が潜んでいる可能性もないとは言えない。注意してくれ。大使館に到着後、改めて指示を出す。それじゃあ、イヴ、首都まで転送を頼むよ。」
「了解だ、婿殿。」
イヴが右手の指をパチンと鳴らした。
目の前の光景がグニャリと歪んだ直後、僕たち「アウトサイダーズ」は、ゾイサイト聖教国の首都へと転送された。
ゾイサイト聖教国の首都のど真ん中に転送された僕は、首都の光景を見て、思わず驚き、それから、顔を顰めた。
まず、僕たちのすぐ目の前には、バチカン宮殿によく似た白一色の巨大な宮殿があった。宮殿の隣には、イタリアのサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂によく似た、高さが80m以上ある、白一色の巨大な教会があった。
宮殿と教会の前には、リリア聖教会の関係者たち、聖職者たち、巡礼に訪れた人々の姿が見える。
宮殿と教会の前には、巨大な広場があり、広場には、光の女神リリアの白い石の彫像が建っていた。
そして、宮殿や教会以外の建物を見ると、家や商店などのほとんどが、白一色の、小さなキリスト教風の、三角屋根の小さな礼拝堂に似た姿をしている。
首都の周囲は、高さ50mほどの巨大な白い石壁で囲まれている。
聖職者のほとんどが、全身真っ白な法衣を着ている。
国民も、巡礼に訪れている人々も、観光客も、目に映る全ての人間が、全身白一色の服を着ている。
街も建物も人も白一色という、あまりにも異質な光景に僕は嫌悪感と吐き気をおぼえた。
光の女神リリアが白を好むため、リリア聖教会のシンボルカラーは白になったと、以前、他の冒険者たちから聞いたことがあったが、想像以上の白さである。
「街も人も白一色ってのは、何と言うか、気味が悪いし、気持ち悪いな。いくらリリアが白が好きだからって、街全体を白一色にするのはやり過ぎだろ?建物も如何にも宗教色の強いデザインばかりで、宗教にどっぷり浸かってますって感じだ。はっきり言って、この国はヤバい。悪質な宗教団体が支配する、独裁国家にしか見えない。ゾイサイト聖教国とはまともに関わるべきじゃない、絶対だ。」
「ええっ、丈様の仰る通りです。日本にいた頃、丈様の住むアパートメントによく押しかけてきた、質の悪い新興宗教団体の輩と、周りにいる者たちはそっくりに見えます。下手に姿を見られれば、宗教への勧誘や入信、多額の寄付などを求められる恐れがあります。この国の者たちとは言葉を交わすどころか、接触さえ危険だと推察いたします。」
僕の呟きに、玉藻が反応した。
「玉藻もそう思うかい?やっぱり、どう見てもヤバい宗教団体にしか見えないよな。この国の人間との接触も会話も避ける方が無難だな。みんな、どうしても必要な場合以外、この国の連中と、リリア聖教会の奴らと接触したり、話をしたりするのは禁止だ。メル、パパやお姉ちゃんたちがいない時に、この国の人と、白いお洋服を着た人たちとは絶対に話をしちゃいけません。絶対に付いて行っちゃいけません。分かったね?」
「はい、分かりましたなの、パパ。」
「よし、良い子だぞ、メル。この国の人たちは危ない人ばっかりだからね。気を付けるんだぞ。後、パパやお姉ちゃんたちの傍を離れないように。さてと、それじゃあ、ラトナ公国大使館に向かうとしよう。大使館はさすがに大丈夫だろ、多分。」
僕たちは苦笑しながら、みんなで歩いてラトナ公国大使館へと向かった。
宮殿へと続く首都の大通りを歩き、首都の中心の東側へと歩いて20分ほど進んだところに、白い屋根に朱色の壁の、鉄筋コンクリート造の三階建ての、横長の大きな建物が見えてきた。入り口の門には、ラトナ公国大使館の看板が掲げてある。
入り口の門番をしている騎士の服装は、至って普通で、鎧や武器、服に白色が使われている様子はない。
「良かった。大使館はまともそうだ。ここまで、通りに見える建物も、すれ違う人の服も、全部白一色。本当に気持ち悪くて吐きたい気分だったよ。」
「婿殿よ、妾の知る限り、この国は少なくとも3,000年以上前からずっとこんな感じだ。リリアの教えに頭を毒され過ぎて、美的センスも常識も個性も失った、可哀想な人間たちしか、この国にはおらん。リリアが人間にもたらした誤った進化の集大成、と言ったところだ。アダマスを管理する女神の一人として、目を覆いたくなる惨状だ、まったく。」
「こんな国を世界中に作ることがリリアの望みなのか?だとしたら、最悪だ。世界中がイカれたカルト宗教に支配された生き地獄になること、間違いなしだ。リリア聖教会、このまま野放しにしておくのはやっぱり不安だ。宗教団体の皮を被った悪党どもの巣窟だと分かった時は徹底的に潰すとしよう。」
「丈の意見に賛成だ。クソみたいな宗教はぶっ潰しておいた方が世のためだ。俺も手を貸すぜ。」
「リリア聖教会はゴミ宗教である可能性大。悪しき聖職者の皮を被った害虫どもはとことん駆除すべし。」
「これから偵察を行い、悪質な宗教と分かった場合、リリア聖教会は殲滅することを提案いたします、丈様。元は善良な信者たちを洗脳し、騙して、寄付金と称して金を巻き上げる、違法行為に手を染めさせる、そういった非道な行いをしている可能性があります。元「弓聖」たち一行の討伐が完了し次第、クロと分かれば、即刻暗殺して地上から一掃するべきかと思います。」
イヴ、酒吞、鵺、玉藻の四人が、ゾイサイト聖教国やリリア聖教会は問題があれば、殲滅すべきとの考えを示した。
「お、お待ちください。リリア聖教会はリリア様の教えをこれまで頑なに守ってきた方々です。ゾイサイト聖教国の国民の方々もです。皆さんが思うような、悪質な宗教ではありません。もし、問題が見つかったとしても、それはごく一部の者たちに限られます。リリア様の教えや法の遵守に厳しく、厳罰を下すことでも有名なこの国の政府首脳陣は、決して悪い方々ではありません。すぐに不届き者たちの粛清に取りかかるはずです。」
マリアンヌが、ゾイサイト聖教国やリリア聖教会を擁護した。
「そうは言うがなぁ、マリアンヌ、この国の連中だって闇ギルドからエロ写真を買っていた犯罪者が大勢、いたはずだ。50万人くらい、顧客リストに載っていたぞ、確か。しかも、聖騎士や司祭、枢機卿とか言った、聖職者の連中も結構、いたぞ。リリアの教えや法の正義を頑なに守ってきた、真面目な連中とはとても僕には思えないが。リリアの「巫女」だからと言って、迂闊に近づいたりするなよ。お前に何かあったら、インゴット王国もリリアも僕たちも大変なことになるんだ。僕のパーティーにいる以上、リリア聖教会とは絶対に関わるな。良いな?」
「分かりました。リリア聖教会とは絶対に関わりません。ジョー様の判断を信じます。」
「リリア聖教会の中に、元「弓聖」たち一行と内通する裏切り者が潜んでいて、お前や僕を狙ってくる可能性もあるんだ。教会自体も実態が不透明な部分の多い団体だ。用心に越したことはない。他の皆にも改めて言うが、とにかくリリア聖教会には気を付けるように。」
僕はそう言うと、認識阻害幻術を解除し、入り口の門番の騎士たちに、左手の小指に嵌めている、ラトナ公国子爵の証であるシグネットリングを見せながら、元「弓聖」たち一行を討伐するため、ゾイサイト聖教国に赴いたことを説明し、大使館の中へ入れてもらうことと、大使への面会を求めた。
いきなりの登場に関わらず、門番の騎士たちは事前に本国から連絡を受けていたのか、すぐに事情を呑み込んでくれて、大使館への中へと入れてくれた。
大使館の中に入り、大使と面会し、元「弓聖」たち一行を討伐するため、ラトナ公国大使館を拠点に活動を行いたい旨を伝えた。後、僕たち「アウトサイダーズ」が大使館にいることは口外しないよう、お願いもした。
大使との面会を終えると、僕たちは各自、一部屋ずつ宿泊する部屋を与えられた。
メルは玉藻と同室で過ごすことになった。
万が一、非力で幼いメルが暗殺者に襲われる可能性もある以上、暗殺のプロである玉藻に傍にいて護衛してもらうのが一番だと考えた。
荷物の整理を終えると、パーティーメンバー全員に声をかけ、僕の部屋へと集まってもらった。
「では、今後の動きについて説明する。昼食をとった後、首都内の偵察及び情報収集を行ってもらう。酒吞は首都の北側、鵺は首都の南側、エルザは首都の西側、グレイは首都の東側、イヴはリリア聖教会本部のある宮殿内をそれぞれ偵察、情報収集を行ってくれ。僕は首都の中心部、大通りや冒険者ギルドを担当する。僕以外のメンバー全員には、この後、認識阻害幻術で完全に姿を消してもらう。首都内やゾイサイト聖教国内で起こった異変、元「弓聖」たち一行やリリア聖教会の動向に関する情報を集めてほしい。それと、僕は姿を敢えて隠さず、一度大通りを堂々と出歩いてみようと思う。要は囮になるって話さ。姿を現した僕を見て、元「弓聖」たち一行が僕を殺そうと、姿を現す可能性がある。もちろん、本気で戦闘をするつもりはない。あくまで連中の様子を探って、情報を手に入れれば、すぐに脱出する。僕がゾイサイト聖教国に現れたと知れば、鷹尾たちが何かしらアクションを起こす可能性もある。鷹尾たちがどのような行動をとるかで、こちらも次の作戦を立てる参考になる。それと、リリア聖教会の奴らの反応も確かめておきたい。リリア聖教会が僕の敵になるのか、それとも、味方になるのか、この目で確かめようと思う。玉藻、マリアンヌ、メルは大使館内で待機だ。玉藻、二人の護衛を頼む。マリアンヌ、インゴット王国、ラトナ公国、ペトウッド共和国、ズパート帝国に連絡して、元「弓聖」たち一行が乗っ取ったシーバム刑務所に関する情報を集めるよう、指示してくれ。シーバム刑務所の構造、警備体制、収監されていた囚人たちに関する情報をできるだけ多く集めてくれ。メル、良い子でお留守番をしているんだぞ。作戦は以上だ。では、各自、散開!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」、「了解、なの!」
作戦の説明が終わると、僕たちは分かれて、それぞれ各自の任務を遂行すべく、行動を開始した。
認識阻害幻術を自身にかけた状態で大使館の入り口を歩いて出ると、首都の大通りの路地裏へと入った。
僕は霊能力を解放し、全身に霊能力のエネルギーを纏った。
そして、霊能力のエネルギーのみに認識阻害幻術を施し、視えない霊能力のエネルギーでできた鎧を身に纏った。
「霊透鎧拳」を発動し、死角からの不意打ちにも備えた僕は、堂々と姿を見せながら大通りを歩いた。
すれ違うたびに、通行人たちや商店の人たちが僕の方を珍しいモノを見るような、奇異の視線を向けてきた。
僕の姿を見て、ヒソヒソと小声で何か話をしている。
原因は分かっている。
僕の服装は、全身黒一色だ。
ついでに言えば、髪も瞳の色も黒だ。
リリア聖教会の教えによれば、黒は闇の女神イヴや魔王、魔族を象徴する色とされ、リリア聖教の信者たちからは本来、好ましくない不吉な色とされているらしい。
ゾイサイト聖教国以外の国では、別に黒色に対しての偏見は差ほどない。
しかし、光の女神リリアのお膝元にしてリリア聖教会の総本山があり、リリア聖教の狂信的な信者たちが国民の大半を占める、このゾイサイト聖教国で、黒い服を身に纏うことは、かなり挑戦的な行為だ。
街も建物も人も、何もかもが白一色に染められたこの国で、僕は正に異質な存在だ。
難癖をつけて絡んでくる輩がいるかと思ったが、特に誰かに絡まれることはなかった。
ただ、周囲の人たちから避けられている、これは確かだ。
日本にいた頃、呪われているだの、忌み子だの、ばい菌だの、周りの人たちからいつも煙たがられていて、避けられていた経験のある、陰キャぼっちの僕には慣れっこの光景ではある。
リリア聖教会と揉め事になるかもしれない、だとしても、クソ女神のリリアが大好きな白一色の服装を着ることだけは絶対に嫌だ。
大通りを歩いているが、今のところ、襲撃を受けてはいない。
元「弓聖」たち一行の誰か一人でも襲ってくるかと思っていたが、今のところ、その気配はない。
こっそりと、どこかから隠れて僕の様子を窺っている可能性も否定はできないが。
堕天使と融合した連中の姿や能力を見てみたいと思っていたが、こんなに堂々と姿を現したことで逆に警戒されてしまったのだろうか?
大通りを西に歩くこと、15分ほどして、僕は5階建ての、横長のカトリック教会風の教会そっくりな、白一色の建物の前へと到着した。
入り口は木製の両開きの扉になっているが、扉まで真っ白に色が塗られている。
入り口の上には、「ゾイサイト聖教国冒険者ギルド本部」と書かれた茶色い木製の看板がかけてある。
看板の文字が、白いペンキで書かれていた。
ゾイサイト聖教国にある唯一の冒険者ギルドと聞くが、冒険者ギルドまで白一色の装いであるのを見て、僕はげんなりとした気分になった。
「個性や自由をある程度重んじる冒険者ギルドまで白一色とは。まさか、冒険者もギルド職員も全員、白一色の格好をしているとか?正直、目の前に見える扉の向こう側を見たくはない。少しは別の色を見たい、本当に。」
僕はわずかながらの希望を胸に、冒険者ギルドの扉を開いた。
扉を入り、冒険者ギルドの中に入ると、僕のわずかな希望は見事に一瞬で打ち砕かれた。
冒険者ギルドの建物の中は、壁も柱も床も天井も、白一色だった。
空きスペースのテーブルも椅子も、ギルドの受付カウンターまで、見事なまでの白一色であった。
ギルド内にいる冒険者たちの鎧や服、装備もほぼ白一色、ギルド職員の服装も白一色だった。
ギルドの受付嬢に至っては、全員、何故か全身真っ白なシスター服を着ている。
冒険者ギルドまでリリア聖教会にどっぷり浸かった、白一色の光景に、僕は顔を引きつらせるしかなかった。
「マジか。冒険者ギルドまで白一色かよ。冒険者の個性や自由を重んじる気風が、冒険者ギルドの良さだってのに、完全にその良さを捨て去っている。だが、文句を言っても始まらない。あまり期待はしないが、情報収集と行きますか。」
周りにいる冒険者たちやギルドの職員たちが僕に奇異の視線を向けてくるが、気にせずスルーした。
僕は真っ直ぐにギルドの受付カウンターへと向かい、ギルドの受付嬢へと声をかけた。
「すみません。ちょっとお訊ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「いらっしゃいませ。ゾイサイト聖教国冒険者ギルド本部へようこそ。お客様は初めてお見掛けいたしますが、本日は当ギルドにどういった御用事でしょうか?依頼の受注、依頼の斡旋、それとも、冒険者登録でしょうか?」
良かった。対応は普通だ。
「ええっと、僕は「アウトサイダーズ」と言う冒険者パーティーのリーダーを務めております、宮古野 丈と言います。実はこちらのギルドに情報提供をしていただけないかと思い、訪ねました。これが僕のギルドカードです。」
僕はジャケットの内側の左の胸ポケットから、自分のギルドカードを取り出し、受付嬢へと渡した。
「拝見いたします。ええっと、名前は、ジョー・ミヤコノ・ラトナ、パーティーネームは「アウトサイダーズ」、ランクはSランク、ジョブなし、スキルなし。何と、あなたが光の女神リリア様より真の勇者と呼ばれ、世界中で活躍されているS級冒険者、「黒の勇者」様でいらっしゃいましたか!?当ギルドにお越しいただけるとは感激です!ぜ、是非、握手をお、お願いします!」
「は、はぁ?僕なんかで良ければどうぞ。」
受付嬢に頼まれ、僕は受付嬢と握手をした。
「真の勇者様と握手できる日が訪れようとは、感激です!光の女神リリア様にあなた様と出会う機会をいただいたことを感謝せねばなりません!」
そう言って、受付嬢は急に僕の前で両手を組んでお祈りを始めた。
「あ、あの、お祈り中のところ、申し訳ありませんが、僕の話を聞いていただけないでしょうか?」
「はっ。すみません。職務中に失礼いたしました。ええっ、当ギルドに情報提供をお求めとのことですが、どういった情報をご希望でしょうか?」
「元「弓聖」たち一行がシーバム刑務所を占拠し、ゾイサイト聖教国政府に対し、人質を取り、政府の明け渡しを要求してきた件は知っています。僕は光の女神リリア様より神託を授かり、元「弓聖」たち一行を討伐するよう、使命を与えられました。元「弓聖」たち一行に関する情報について、何かこちらのギルドで掴んでいる情報がありましたら、元「弓聖」たち一行を早期に討伐するため、情報を提供していただけないかと、こちらをお訪ねしたところです。こちらに所属する優秀な冒険者たちのネットワークなら、思いがけない情報を掴んでいるのではないか、そう考えたところでして。」
「光の女神リリア様より授かった使命を果たすため、元「弓聖」たち一行を討伐するため、元「弓聖」たち一行に関する情報をお求めとのことですね?リリア様からの神託の遂行のためとあれば、当ギルドは全面的にあなた様に協力させていただきます、「黒の勇者」様。ですが、当ギルドをご利用するに当たっては、まず、こちらの入信書に直筆でサインをいただく必要がございまして、サインをいただけますでしょうか?」
受付嬢はそう言うと、受付カウンターの下から入信書と呼ばれる紙を一枚取り出すと、ペンと一緒にその紙を僕に手渡した。
僕は入信書と呼ばれる紙に目を通した。
「何々、入信書、私は光の女神リリア様の信徒になること、リリア聖教会に入信し、正式な教会員になることをここに誓います。光の女神リリア様のため、リリア聖教会のため、人類の平和と繁栄のため、自らの信仰心の下、自らの肉体、魂、財産、持てる物全てを無償で捧げます。以下の事項をご記入ください。入信日、入信者氏名、入信者の生年月日、入信者の性別、入信場所、入信理由、入信者の銀行口座情報・・・って、ええっ!?な、何ですか、これは!?リリア聖教会に肉体も魂も、財産まで無償で捧げなきゃいけないなんて、困りますよ、こんなの!?これまで世界中の冒険者ギルドを回って来ましたが、リリア聖教に入信しないと利用できない、なんて言う冒険者ギルドはありませんでしたよ?入信は本来、個人の選択の自由が保障されたもののはずです。申し訳ありませんが、入信はお断りさせていただきます。僕は光の女神リリア様より勇者の仕事を任されてきましたが、リリア聖教会に入信しなさい、とは一度も言われたことがありません。光の女神リリア様より、このゾイサイト聖教国にいるもう一人の「巫女」の方にも、僕の元「弓聖」たち一行の討伐に全面的に、無条件で協力するよう、神託が授けられたはずです。神託の内容はちゃんと一言一句、確認しています。まさか、光の女神リリア様が僕にリリア聖教会へ入信するよう、強制してきたと、入信しなければ、僕にゾイサイト聖教国で活動するなと、そう神託をあなた方に授けた、なんて言うつもりですか?」
「い、いえ、め、滅相もございません!?ただ、当ギルドでは原則、当ギルドを利用される方々全てに、入信書をお渡しして、入信書にサインをいただいてから利用していただく方針を長年続けております。決して、当ギルドは入信を強制などいたしません。神託の内容の詳細については存じ上げませんが、あなた様の入信を強制せよ、ゾイサイト聖教国内での活動を禁止せよ、などといった神託が授けられたとは聞いておりません。ゾイサイト聖教国政府、カテリーナ聖教皇陛下より、特に通達は来ておりません。信じてください、「黒の勇者」様!?」
受付嬢が必死な表情で僕に弁解してきた。
「それを聞いて安心しました。僕の了解も得ず、リリア様が勝手に神託の内容を変えられた、もしくは、リリア様の了承を得ず、ゾイサイト聖教国が独断で神託の内容を変えてしまったのかと、少々疑ってしまいましたよ。勇者である僕を無視して、元「弓聖」たち一行の討伐という一大事に関わる重要な神託をリリア様が変える、そんなことをするわけがありません。あり得ない話ですよね、ホント。では、話を戻しますが、元「弓聖」たち一行に関する情報提供を至急、お願いします。どんな些細な情報でも構いません。ゾイサイト聖教国から、悪しき堕天使に魂を売った、極悪人の元「弓聖」たち一行を追い払うことをお約束しましょう。どうか、ご協力をお願いします。」
僕は穏やかな笑顔を浮かべながら、受付嬢に答えた。
「あ、ありがとうございます、「黒の勇者」様!入信書の件、大変失礼いたしました!僭越ながら、私から情報を提供させていただきます!元「弓聖」たち一行ですが、彼女たちはゾイサイト聖教国が誇る、史上最高のセキュリティーを備えた、脱獄不可能と呼ばれる、シーバム刑務所を占拠しました。シーバム刑務所はこの首都から馬車で南西に三日ほど進んだところにある、標高5,000mの切り立った山の頂上にあります。元S級冒険者や元A級冒険者、闇ギルドの関係者など、凶悪な死刑囚たちが収監されていることで有名です。シーバム刑務所を占拠した手口は分かりかねますが、外部から完全に遮断され、刑務所への行き来は国が管理している、あの難攻不落のシーバム刑務所を占拠したとあっては、元「弓聖」たち一行の実力は測りかねる部分があります。それと、ゾイサイト聖教国の各地で、大勢の人間が巨大な蝙蝠に攫われました。蝙蝠の正体は恐らくヴァンパイアロードで間違いありません。ヴァンパイアロードたちは人間たちを攫うと一斉に、シーバム刑務所のある方向へ飛び去って行ったそうです。それと、これは実際に対峙した冒険者の方から聞いた話なんですが、ヴァンパイアロードの中に一匹、普通の個体とは明らかに別次元の強さを持った個体がいたそうです。何でも、石化の状態異常攻撃を使ってきたり、猛毒の牙や爪を生やしていたり、おまけに、パワーもスピードも桁違いだったそうです。ヴァンパイアロードの変異種で強力な個体がいて、ヴァンパイアロードたちを率いていたように見えた、と言っていました。私が知っている情報はこれくらいです。参考になりましたでしょうか?」
「脱獄不可能で難攻不落の刑務所を陥落させたか。おまけに、石化や毒を使う、ヴァンパイアロードの変異種が、ヴァンパイアロードたちを率いていたか。モンスターを改造、あるいはモンスターの新種を作り出す能力を持っている可能性があるな。だとすると、さらに厄介なモンスターを生み出して攻撃してくる可能性も否定できない。受付嬢さん、大変参考になりました。敵の戦力の一端が見えてきました。情報提供ありがとうございます。女神リリア様もきっとあなたの働きをお喜びになっていると思います。良かったら、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい、エミリー・スマイルです、「黒の勇者」様!」
「ありがとうございました、エミリーさん。後、僕のことはジョーと呼んでください。「黒の勇者」より、そっちの名前で呼んでもらう方が僕は落ち着くんです。」
「はい、分かりました、ジョーさん!また、何か御用がある時はいつでもお申し付けください。元「弓聖」たち一行の討伐、頑張ってください。応援しています。」
「本当にありがとうございます。絶対に討伐します。では、また。」
茶髪の三つ編みをポニーテールにした、茶色い澄んだ瞳の、笑顔が良く似合う20代前半の受付嬢、エミリー・スマイルさんに笑顔で見送られながら、冒険者ギルドを立ち去ろうと決めたその時だった。
「やーっと見つけたよ、「黒の勇者」君。聖教皇陛下や僕たちに挨拶もせず、冒険者ギルドなんかで女の子を口説いているとは、噂の勇者様ってのは、どうも噂ほど清廉潔白で真面目な正義のヒーローってわけじゃあないらしい。だけど、君を連れてこいとの陛下のご命令だし、光の女神リリア様が選んだ真の勇者である以上、きちんとお出迎えしなくちゃあいけない。さて、僕たちと一緒に来てもらえるかな、「黒の勇者」君?」
僕を呼ぶ、どこか僕を小馬鹿にした、それでいて、何となくナルシストっぽくて、どこか聞き覚えのある男性の声に、僕は後ろを振り返った。
そして、僕は声の主の姿を見て、思わず驚いてしまった。
なぜなら、その男性は、「勇者」にして「光の勇者」、あの島津 勇輝に瓜二つの顔、容姿、声、話し方をしていたからだ。
島津と違う点は、髪の色と瞳の色が金色であることと、全身に雪のように真っ白なフルプレートアーマーを着込んでいること、この二つくらいだ。
島津が2,3歳年を取ったようにも見えなくはない。
そして、その男以外にも、僕を処刑した憎き「七色の勇者」たちに、瓜二つの顔、容姿、声、話し方をしている、若い男女が六名いた。
「コイツが噂の「黒の勇者」様かぁ~。ナヨナヨしてて、いかにも弱っちい、ただのガキにしか見えないぜ?俺たちの方がよっぽど勇者に見えるぜ。本当にこのガキが真の勇者なのかよ?」
「剣聖」にして「火の勇者」、前田 敦に瓜二つの、赤い髪に赤い瞳の野蛮そうな男が、僕のことを見ながら、舐めたような口調で言った。
「あれが「黒の勇者」様~?ウチ、もっとイケメンだと思ってたのに、全然イケメンじゃないし。マジ、萎えるわ~。つ~か、あからさまに陰キャだし、弱そうじゃね?あんな暗いガキがウチらの上司になるとか、マジおかしくね?」
「大魔導士」にして「木の勇者」、姫城 麗華に瓜二つの、緑色の髪に緑色の瞳に、いかにも性悪ギャルっぽい女が、僕を幻滅したような目で見ながら言った。
「フェーーー!?「黒の勇者」様にそんな失礼なこと言っちゃ駄目だよ、オリビア!?陛下から「黒の勇者」様は丁重におもてなししなさいって、言われたでしょ。光の女神リリア様も、元「弓聖」たち一行を討伐できるのは「黒の勇者」様だけだって言ってるし、あの人の力がなきゃ、元「弓聖」たち一行は倒せないんだよ。ごめんなさい、「黒の勇者」様。」
「聖女」にして「土の勇者」、花繰 優美に瓜二つの、オレンジ色の髪にオレンジ色の瞳の、眼鏡をかけた小柄で気弱そうな女が、僕に謝ってきた。
「グフフフ。貴様が「黒の勇者」でござるか?いかにも貧弱で覇気のない面構えをしているなり。貴様ごとき、ちょっと力に恵まれただけの青二才の勇者の力など借りずとも、我が輩たち、いや、この我が輩だけで元「弓聖」たち一行の討伐など、容易いことでござる。リリア様も聖教皇陛下も、こんな役に立たなそうなガキのどこを気に入ったのやら?」
「槍聖」にして「水の勇者」、沖水 流太に瓜二つの、青色の髪に青色の瞳の、いかにも卑屈そうで無駄に態度のデカい男が、僕を見下すように言った。
「あなたが「黒の勇者」様、あの女神リリア様が史上最強最高の勇者と呼ぶ勇者だそうね。もっとワイルドなイメージを想像していたけど、意外と普通な感じね。でも、あなたがこれまでに多くの実績を残していることは知っているわ。人を外見だけで判断すると痛い目を見るわよ、みんな?私の名前は、ブルックリン・スマート・ウインドライト。よろしくね、「黒の勇者」様。」
「弓聖」にして「風の勇者」、鷹尾 涼風に瓜二つの、藍色の髪に藍色の瞳を持つ、冷静沈着で、どこか鋭い眼光を向けてくる、冷たい表情の女が、僕を分析しながら挨拶してきた。
「この弱っちそうな男が「黒の勇者」かぁ~?俺には全然、強そうに見えねえんだなぁ~。俺のハンマーで一発でぶっ飛ばせそうなんだなぁ~。こんな奴、一緒にいるだけで足手纏いにしかならないんだなぁ~。」
「槌聖」にして「雷の勇者」、山田 剛太郎に瓜二つの、紫色の髪に紫色の瞳を持つ、一見のんびりとした性格に見えるが、僕を軽くひねり潰せると豪語する、いかにも脳筋な巨漢の大男が、僕は戦力にならない、足手纏いだと馬鹿にしてきた。
「七色の勇者」に容姿も声も性格も、瓜二つの、白いフルプレートアーマーを着た若い七人の男女、騎士たちを見て、僕は驚きとともに、激しい嫌悪感をおぼえた。
七人の騎士たちの後ろには、さらに何百人、何千人という騎士たちがいて、騎士たちによって、冒険者ギルドの入り口は塞がれ、ギルドの外にはみ出た大勢の騎士たちが待機していることが分かった。
僕は後ろの受付カウンターにいるエミリーさんに、前方に見える七人の騎士たちの方を見ながら、訊ねた。
「エミリーさん、あの無礼で品性の欠片も無い、醜悪な面をした騎士たちは何者ですか?おおよその察しは付いていますが?」
「あ、あの方たちは、このゾイサイト聖教国の聖騎士団を取りまとめる、聖騎士団のトップにして精鋭部隊、「白光聖騎士団」の方々です。ゾイサイト聖教国最強最高の聖騎士と呼ばれています。ジョーさんに声をかけてきた七人は、七つの部隊をまとめる隊長の方々です。全員がSランク冒険者で、勇者の血を受け継ぐ聖騎士でもあります。」
「「白光聖騎士団」ですか?あの連中がゾイサイト聖教国最強最高の聖騎士たちですか?おまけに勇者の血を受け継いでいると。なるほど、だから、あのクソ勇者どもにそっくりでいかにも人間のクズにしか見えないわけですね。納得が行きましたよ。」
僕が大声で「白光聖騎士団」を笑いながら馬鹿にしたことで、七人の隊長たちは怒りを露わにした。
「おい、クソガキ!俺たちのことをクソ勇者にそっくりだの、人間のクズだの抜かしやがったな!勇者だからって調子に乗ってんじゃねえぞ、コラァ!」
「アイツ、マジムカつくんですけど~?ちょっち、ウチらでシメてやんねぇ、あの陰キャ勇者はさぁ~?」
「失礼なことを言ったのは謝ります!だけど、人間のクズだなんて、いくら勇者様だからって、言ってもいいことと悪いことがあります!私たちに謝ってください!」
「この我が輩を品性が無いだの、人間のクズだの侮辱したこと、絶対に許さんなり!我が槍にてその腐った性根を叩き直してやるでござる!」
「女神リリア様や聖教皇陛下がお認めになったとは言え、私たちを人間のクズと言って馬鹿にする失礼な態度は見過ごせないわね。私たち大人の本気を、聖騎士の実力を教えてあげるわ、勇者の坊や?」
「お、俺を人間のクズだと馬鹿にしやがった!?お、お前みたいな弱っちい奴が威張るんじゃないんだなぁ~!俺のハンマーでお前の頭をぶん殴って、教育してやるんだなぁ~!」
「「黒の勇者」君、君は礼儀と言うものをよく知らないらしい。僕たちは君と同じS級冒険者のライセンスを持ち、君よりも冒険者としての経験も、年齢も上だ。そして、僕たちは偉大なる勇者の血統を受け継ぎ、勇者に匹敵、あるいは勇者を超えたとも言われている。つまり、年上で、冒険者としても、勇者としても先輩の僕たちに対し、君は後輩として敬意を払う必要がある。いくら光の女神リリア様に選ばれた真の勇者であろうが、ラトナ大公家の人間であろうが、礼節と言うものをわきまえるべきだ。僕たちを人間のクズだと侮辱したことへの非礼を詫びてもらおう。それと、僕たちは別に君と争うつもりは毛頭ない。カテリーナ聖教皇陛下から、君を我がリリア聖教会にお招きするよう、指示を受けている。光の女神リリア様より、君と陛下、そして、僕たち「白光聖騎士団」率いる聖騎士団が協力して、ともに元「弓聖」たち一行を討伐するよう、神託を授かったと聞き、君を迎えに来たんだ。ああっ、今回の討伐からインゴット王国の王女、マリアンヌ姫は外すようにとも、リリア様から神託として授かっている。それと、カテリーナ聖教皇陛下から、君を我が国専属の勇者として、是非、スカウトしたいとのお話も聞いている。我がリリア聖教会、並びにゾイサイト聖教国No.2のポストである、大枢機卿の地位を君に与え、君を今後、勇者としてあらゆる面でサポートすると言っておられる。ラトナ公国よりもはるかに上の好待遇をプレゼントしようと言っているんだ。どうだい、僕たちとともに、光の女神リリア様のため、人類の平和と繫栄のために、一緒に戦おうじゃないか?」
島津に似た、金髪のリーダー格と思われる男が、僕にゾイサイト聖教国専属の勇者にならないかと、一緒に戦わないかなど、勧誘してきた。
僕は聖騎士たちに背を向け、それから、受付嬢のエミリーさんに小声で言った。
「エミリーさん、今すぐこのギルドから逃げてください。恐らく、このギルドは戦場になります。あの無法者の聖騎士たちを僕は許すわけにはいかない。詳しい訳は言えませんが、どうやら光の女神リリア様からの神託が捻じ曲げられたようです。おまけに、勇者である僕を私利私欲のために利用しようと、連中は考えているようです。あなたは立派な方です。就職先に困った時は、ラトナ公国を頼ってください。僕の紹介だと言えば、すぐに就職は決まるはずです。どうかお元気で、エミリーさん。」
「ジョ、ジョーさん!?たったお一人で「白光聖騎士団」を相手に戦うなんて無茶です!あなたも一緒に逃げましょう!?」
「大丈夫です、エミリーさん。あの程度の連中、僕にとっては大した敵じゃあありません。10分もかからず、制圧できます。僕が適当に時間を稼ぎます。とにかく、ここから逃げてください。本当にありがとうございました。元「弓聖」たち一行も必ず討伐するので、どうか応援していてください。さぁ、行ってください。」
「ジョーさん、どうかお元気で。あなたのことは一生、忘れません、「黒の勇者」様。」
エミリーさんは悲し気な表情を浮かべながら、僕に頭を下げると、ギルドの裏口へと向かって走って行った。
ありがとう、エミリーさん。
あなたはリリア聖教の信者だったけど、本当に良い人です。
このクソギルドやリリア聖教会の押し付けた勝手なルールを破ってまで、冒険者ギルドの受付嬢として、正義と平和のために協力してくれたあなたなら、きっとラトナ公国の冒険者ギルドも快く受け入れてくれるはずです。
リリア聖教会に支配された、こんな最低最悪の冒険者ギルドにはもったいない人です。
エミリーさんを見送り、彼女のことを考えていると、後ろから、あの島津そっくりのいけ好かない、金髪ナルシスト野郎が僕に話しかけてきた。
「「黒の勇者」君、ずっと女の子の方ばかり見てこちらを無視するのは止めてもらおうか?女の子に振られて逃げられてショックだろうが、僕たちもこれでも忙しい身の上でね。いい加減、返事を聞かせてもらえるかな?」
僕は、エミリーさんがギルドの外に出たのを遠目で確認すると、「白光聖騎士団」の聖騎士たちの方を振り返った。
「あいにく、恋愛には一切興味が無いもんでね。ただ、真面目で誠実で立派な一人の女性に敬意を表し、見送っただけだ。返事を聞かせる前に、一つ訊ねたいことがある。」
「何だい、「黒の勇者」君?」
「お前たち七人の隊長が持っている武器だが、どっからどう見ても、元勇者たちが持っていた、聖武器のレプリカとそっくりな見た目をしている。聖武器のレプリカの開発に成功したのはインゴット王国だけだと聞いていたが、お前たちが持っているその武器もひょっとして、聖武器のレプリカだったりするのか?」
僕の質問に、七人の騎士たちは笑みを浮かべ、自慢気に自分たちの持っている武器を掲げて見せた。
腰の鞘から、聖剣に似た、金色のロングソードを抜いて、金色の刃を見せつけながら、金髪のナルシスト野郎は答えた。
「その通りさ。聖武器のレプリカの開発に成功したのはインゴット王国だけじゃあない。我がゾイサイト聖教国も秘かに研究し、開発に成功したんだ。僕たちの持つこの武器も、聖武器のレプリカなのさ。ただし、インゴット王国の作った出来損ないとはわけが違う。この「レプリカMARK Ⅱ」には、オリジナルの聖武器に使用されているオリハルコンをはるかに超える魔導合金、セイクリッドオリハルコンが使用されている。通常のオリハルコンの50倍の強度と、50倍の魔力の伝導率を可能にした、我がゾイサイト聖教国が開発した新素材、セイクリッドオリハルコンをふんだんに使い、さらに、所持者のレベルアップ促進機能やスキルの性能を2倍にまで引き上げる機能など、オリジナルの聖武器を超える機能まで搭載されている。最早、オリジナルの聖武器を超えたと言っても過言じゃない。そして、勇者の血統を色濃く継ぎ、聖騎士の中でもエリートである僕たち七人が使用することで、勇者の力を完全に再現することができるわけさ。少しは僕たちの凄さをご理解いただけたかな、「黒の勇者」君?」
自慢気に「レプリカMARK Ⅱ」を見せる、七人の聖騎士たちを見ながら、僕はニヤリと笑みを浮かべた。
セイクリッドオリハルコンとか言ったが、ブラックオリハルコンや、僕の持つトランスメタル製の武器、如意棒に比べれば、大した性能ではない。
あの聖武器のレプリカを手にして悦に浸っている間抜け面は、クソ勇者どもが初めて聖武器のレプリカを手にした時とそっくりだ。
聖武器は対応するジョブとスキルを持てば、誰でも使える、イヴが人間用に作った武器の試作品に過ぎないと言うのに。
ちょっと性能が向上したからと言って、聖武器のレプリカなんぞ、所詮は時代遅れの骨董品の劣化版コピーに過ぎないことを、目の前にいる勇者もどきどもは理解していないらしい。
僕はへらへらと笑いながら、さらに話しかけた。
「「レプリカMARK Ⅱ」ねぇ。それに、セイクリッドオリハルコンか。興味深い話を聞かせてくれてありがとう。一応、自己紹介をしておこう。僕の名前は宮古野 丈。ジョー・ミヤコノ・ラトナとも呼ばれることもある。「黒の勇者」なんて大層なあだ名で呼ばれることもある。隊長さん方のお名前を是非、教えてもらえるかな?」
「僕の名前は、アーロン・エクセレント・ホーリーライト。「白光聖騎士団」の総団長で、第一部隊の隊長も務めている。「勇者」の血を継ぐ聖騎士だ。よろしく、「黒の勇者」君。」
「俺の名前は、エイダン・イージー・ファイアーライトだ。「白光聖騎士団」の副団長で、第二部隊の隊長だ。「剣聖」の血を継ぐ聖騎士だ。よろしく頼むぜ、「黒の勇者」様よぉ?」
「はぁー。ウチの名前は、オリビア・ビューティー・ウッドライト。第三部隊の隊長~。後、「大魔導士」の血を継ぐ聖騎士っつーわけ。とりま、よろ?」
「わ、私は、アイナ・キューティー・グランドライトと言います。第四部隊の隊長を務めています。「聖女」の血を継ぐ聖騎士です。よろしくお願いします、「黒の勇者」様。」
「フハハハ。よく聞け、青二才。我が輩の名は、ディラン・グレート・ウォーターライトでござる!第五部隊隊長にして、「槍聖」の血を継ぐ聖騎士なり!「黒の勇者」よ、後輩としてみっちり我が輩が鍛え直してくれるわ!覚悟せい!」
「私の名前は、ブルックリン・スマート・ウインドライト。第六部隊の隊長で、「弓聖」の血を継ぐ聖騎士よ。改めてよろしくね、「黒の勇者」の坊や?」
「フン。お、俺の名前は、ダグラス・ストロング・サンダーライト、なんだなぁ。第七部隊の隊長をやっているんだなぁ~。「槌聖」の血を継ぐ聖騎士なんだなぁ~。こ、今度、生意気な口を利いたら、お、俺の鉄拳をお見舞いしてやるんだなぁ~。」
各隊長たちの自己紹介を聞き終えると、僕はその場で大声で笑い始めた。
僕の爆笑する姿を見て、七人の隊長たちは皆一斉に、顔を顰めた。
「く、「黒の勇者」君、一体、何を笑っているのかな?僕たちの自己紹介にどこかおかしなところでもあったのかな?」
アーロンが顔を引きつらせ、苦笑しながら、僕に訊ねてきた。
「アハハハ!あー、悪い、悪い。いやぁー、お前たち見た目から中身まで、あのクソ勇者どもとクリソツだと思ってさぁー。くっだらない聖武器のレプリカなんぞを自慢気に披露している馬鹿面なんて、本当にそっくりだと思ってさ。返事を聞かせてやる、クソ勇者もどきども。お前たちクソ雑魚勇者もどきと共闘するなんて、こっちからお断りだ。100%、御免だね。出来損ないのクソ勇者のコピーなんぞ、ただの足手纏いにしかならない。お前たち雑魚のお守りをしながら戦うつもりはない。自己紹介をしてやったのは、お前たちをぶちのめすことになるかもしれないから、せめてもの礼儀で名乗ったに過ぎない。無礼で、品性の欠片も無い、思い上がりも甚だしい、残念でどうしようもない人間のクズで、クソ雑魚勇者もどきのお前たちなんぞ必要ない。大枢機卿だったか、そんなもん、クソ食らえだ。元「弓聖」たち一行の討伐は、僕と「アウトサイダーズ」だけで十分だ。分かったなら、とっとと失せろ、クソ勇者もどきども。しっ、しっ!」
僕は右手で犬を追い払うように仕草をしながら、アーロンたちにさっさと帰るよう、言った。
僕の返事を聞いて、アーロン含む七人の隊長たちと、「白光聖騎士団」の部下の聖騎士たちは、真っ赤な顔をして、一斉に激怒した。
「き、貴様、僕たちをクソ勇者もどきと、出来損ないのクソ勇者のコピーと侮辱したな!真の勇者に選ばれたからと、調子に乗るな!僕たちは偉大な功績を遺した勇者たちの血を継ぐ、誇り高き聖騎士だ!ゾイサイト聖教国史上最強最高と呼ばれる、選ばれし聖騎士だ!僕たち「白光聖騎士団」は全員、勇者の血を引き、光の女神リリア様に仕える正義の使徒だ!人間のクズなどとこの僕たちを侮辱することは、女神さまとリリア聖教会を侮辱したも同じだ!どうやら、僕たちの本気を見せてやらないことには、そのひねくれた精神は治りそうにないなぁ、ええっ、「黒の勇者」君!?」
アーロンは僕に向かって激怒しながら、聖剣のレプリカを構え、剣先を僕に向けた。
「先輩だの、年上だの言っておきながら、全然マナーがなっていないなぁ、勇者もどき?冒険者ギルド内での私闘は禁止。冒険者のライセンスを持つ者なら、知ってて当然の常識だぞ?無礼で品性の欠片も無い、残念でどうしようもない人間のクズそのものだな、おい?S級冒険者の肩書きが泣いてるぞ?クソ勇者もどき、お前じゃ僕を倒すことはできない。恥をかきたくないなら、部下を連れてとっととお家に帰れ。どかないって言うなら、勝手に失礼させてもらう。じゃあな、クソ勇者もどきども。」
僕はアーロンたちに背を向けると、僕はギルドの受付カウンターの横を通って、ギルドの奥の裏口に向かって歩いた。
僕が裏口に向かって歩いていると、突如、僕の背後から、アーロンの叫び声が聞こえた。
「逃げるな、「黒の勇者」!?勇者の力を思い知れ、聖光一閃!」
アーロンの持つ聖剣のレプリカが、剣先から眩しいほどの黄金色に光り輝いた。
そして、アーロンが縦に剣を振り抜くと同時に、アーロンの持つ剣の剣先から、光の速度で飛ぶ、光のエネルギーを纏った、光の斬撃が放たれ、ギルドの受付カウンターを破壊しながら、僕の背中へと直撃した。
ドーンという衝撃音が聞こえ、僕のいた辺りには、煙がたち込めている。
「はぁ、はぁ、勇者の力を、白光聖騎士団総団長の僕の力を思い知ったか、傲慢な勇者が!?」
「お、おい、アーロン、いくら何でも「黒の勇者」に手を挙げるのはヤバいぜ!?聖教皇陛下が知ったら、お前も俺たちも懲罰房行きは免れねえぞ!?何、ガキの挑発にムキになってんだよ!?いつもの冷静なお前らしくないぜ!?とにかく、落ち着け、なっ!?」
エイダンが、アーロンに「黒の勇者」への攻撃に対して注意をした。
「うるさい、そんなことくらい分かっている!少々おいたが過ぎる、未熟な勇者に指導したまでだ!「黒の勇者」にさっさと治療を施して、その上で「黒の勇者」に横暴な振る舞いがあったことを報告すれば、聖教皇陛下も理解してくださるはずだ!僕たち「白光聖騎士団」に対する陛下からの信頼の厚さがあれば何も問題はない!回復系のスキルを持つ者たちは急いで「黒の勇者」を回収して治療しろ!治療して聖教皇陛下の下に無事、お連れするんだ!とっとと動け!」
アーロンが怒鳴って部下たちに命令する中、煙が晴れると同時に、煙の中より、無傷で平然とした様子で、アーロンたちの方を振り返った、主人公、宮古野 丈が姿を現した。
「これがゾイサイト聖教国史上最強最高の聖騎士団の団長の力、勇者の力ねぇ。島津の奴に比べたら、まぁ、スピードもパワーもある。だけど、それだけだ。この程度の斬撃で僕を倒せるだの、指導できるだの思っているなら、思い上がりも甚だしい。おい、クソ勇者もどき、お前みたいなナルシストの人間のクズが、偉そうに聖騎士を名乗るんじゃない。勇者だったご先祖さまも草葉の陰から、子孫のお前の残念極まりない姿を見て、ショックを受けていることだろうな。さて、先に剣を抜いたのはお前だ。僕には当然、正当防衛の権利が発生する。お前らにちょっとばっかし、僕の本気を見せてやる。それじゃあ、行くぞ、クソ勇者もどきども。」
「な、何っ!?僕の斬撃が効いていない、無傷だと!?そんな馬鹿な!?」
困惑するアーロンや、他の聖騎士たちを尻目に、僕は認識阻害幻術を解除した。
そして、一気に鬼の怪力の効果を持つ、赤い霊能力のエネルギーを解放し、全身に赤い霊能力のエネルギーを纏った。
「鬼拳!」
全身に力がみなぎり、筋肉が隆起し、赤い霊能力のエネルギーの光を全身から僕は発した。
僕は強化された脚力を使い、一瞬で困惑するアーロンの正面に移動し、現れた。
「なっ!?」
驚くアーロンの反応をよそに、僕は聖剣のレプリカを持つ右手の手首を、左手で掴んだ。
それから、アーロンの右手首をがっちり掴んで、アーロンの体を引き寄せた。
「く、くそっ、離せ!?こ、このっ!?」
アーロンを掴みながら、僕は右の拳を握りしめた。
「今度はこっちの番だ。歯ぁ、食いしばれよ、クソ勇者もどき?」
僕はニヤリと笑みを浮かべながら、アーロンの顔面に向かって右ストレートのパンチをぶち込んだ。
ドーン、という大きな衝撃音が鳴り響き、それから、僕の右拳がアーロンの顔面の中央を押しつぶしながら、食い込んだ。
右拳を下げると、鼻の骨を粉砕され、前歯が全て折れ、上顎も砕かれ、鼻や口から大量の血を流しながら、白目を剥いて気絶しているアーロンの無惨な姿があった。
「何だ、全然大したことないな、コイツ?5%の力しか出していないのに、あっさり気絶しやがった。所詮はクソ勇者もどきってわけだ。この程度の実力で最強の聖騎士団の団長を名乗るなんて、身の程知らずもいいところだ。本当にガッカリな奴だ。」
僕はそう言うと、左手でアーロンの体をギルドの天井目がけて放り投げた。
放り投げられたアーロンの体が、ギルドの天井を突き破り、ドカーン、という衝撃音が何度も鳴り響く。
総団長であるアーロンが一撃で僕にKOされた光景を目の当たりにして、他の聖騎士たちは青ざめた表情を浮かべながら、僕の方を見ている。
僕はニヤリと笑みを浮かべながら、「白光聖騎士団」の騎士たちの方を見た。
「さて、お次は誰が僕の相手になってくれるのかな?まだ強~い隊長が六人もいることだし、史上最強最高の聖騎士の力とやらを拝見させてもらおうじゃないか?とりあえず、クソ剣聖もどき、次はお前だ。僕を満足させてくれよ、なぁ、剣聖もどき?」
僕はエイダンに向かってそう言うと、エイダンへとゆっくりと近づいていく。
「く、くそがぁー!?舐めんじゃねえぞ、クソガキ!?剣聖の剣技、たっぷり味わわせてやらぁー!食らいやがれ、烈火十字斬!」
エイダンが赤い色の、刃に大きく反りの入った聖双剣のレプリカを両手に持つと、両手をクロスさせた。
双剣の剣先が赤く輝き、炎を纏った直後、エイダンが双剣をクロスさせながら、振り抜いた。
そして、×印状の炎の斬撃がエイダンの持つ双剣の剣先より放たれ、正面から迫って来る僕へと直撃した。
しかし、エイダンの放った炎の斬撃を至近距離から直接浴びても、僕は火傷一つ負うことなく、平然とした様子で、エイダンへと歩いて近づいていく。
「サラマンダーも怯む俺の炎の斬撃が効かねえだと!?く、くそっ、こっちに来るんじゃねえ!?」
錯乱し、「烈火十字斬」を連発して僕に浴びせるエイダンだが、僕は全く怯むことなく、エイダンの正面へと立った。
そして、エイダンの両手首を両手で掴んだ。
それから、一気に両手に力を入れ、エイダンの両手首の骨を粉々に握りつぶした。
「ギャアアアーーー!?」
悲鳴を上げるエイダンの両手首を掴みながら、180℃捻じ曲げ、両手首の筋肉をブチブチと捻じ切った。
両手があらぬ方向を向き、両手を完全に破壊され、エイダンは悲鳴を上げ、涙を流しながら、聖双剣のレプリカを手から離し、もがき苦しんでいる。
「サラマンダーも怯む炎の斬撃ねぇ。そのサラマンダーを拳一発で殴り殺したのが、この僕だ。剣聖の血を引いているとか言う割に、全然剣技に創意工夫が見られない。ただ、炎の斬撃を連発するだけで、全く剣聖らしくない。単細胞の前田とほとんど同じだ。手首の鍛え方も甘い。所詮はクソ剣聖もどきか。じゃあな、クソ剣聖もどき。」
僕はそう言うと、エイダンの両手首を離し、すかさずエイダンの顎に向かって、右の拳から豪快なアッパーカットを放った。
僕の放ったアッパーカットがエイダンの顎へと直撃し、エイダンの下顎と上顎を粉砕しながら、エイダンの体を天井高くへと吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされたエイダンの体が、ギルドの天井を突き破り、ドカーン、という衝撃音がギルド内に何度も鳴り響く。
副団長のエイダンが僕にやられ、聖騎士たちは恐怖し、僕からじりじりと遠ざかっていく。
「さて、お次は誰が僕の相手をしてくれるのかな?別に全員、まとめてかかってきてもいいが、サシで勝負した方が面白いだろ?それじゃあ、次はクソ大魔導士もどき、お前だ。ご自慢の魔法とやらを見せてもらおうか?」
僕はニヤリと笑みを浮かべながら、オリビアの方へと歩いて近づいていく。
「う、ウチに寄るんじゃねえし、陰キャ野郎!?キモイんだよ、来るんじゃねえし!?万能詠唱!」
オリビアが、先端に緑色の魔石を嵌め込んだ、緑色の聖杖のレプリカを構えながら、僕に杖を向けた。
杖が緑色に光り輝くと、杖の先端から、大量の毒液の魔法が放たれ、大量の毒液が僕の全身に浴びせられた。
しかし、大量の毒液を浴びても、僕は全く怯むことなく、オリビアの方へと近づいていく。
「はぁー!?何でウチの毒を浴びても平気なんだし!?全身麻痺って動けなくなるはずなんだし!?な、何なんよ、クソっ!?」
オリビアは毒液を浴びせるのを止め、杖の先から、高圧縮された水の弾丸の雨を発射する魔法を放ち、機関銃のように、水の弾丸を連射して僕に浴びせた。
だが、僕はオリビアの放つ水の弾丸の雨を物ともせず、無傷のまま、オリビアの正面へと立った。
僕は右手でオリビアの頭を掴むと、オリビアの体を持ち上げ、それから右手に力を込め、オリビアの頭に、アイアンクローをお見舞いした。
「い、痛たたたっ!?ま、マジ、ゴメン!?キモいって言ったのは、あ、謝るから!?マジ、許してちょってばっ!?」
アイアンクローを食らい、頭を押しつぶすような激痛を与えられ、オリビアがジタバタともがき苦しみながら、僕に謝り始めた。
「毒も水の弾丸も、全然大したことないなぁ。麻痺毒程度じゃ、僕には通用しないぞ。まぁ、致死性の猛毒を食らっても一瞬で回復するんだけどさぁ。ああっ、水の弾丸、ありがとよ。おかげでベタベタしていた毒液が綺麗に落ちたよ。魔法の組み合わせとしては落第点だけど。魔法自体も威力重視で何のひねりもないし、本当にカスみたいな魔法だよ。所詮はクソ大魔導士もどきか。じゃあな、クソビッチの大魔導士もどき。」
僕はそう言うと、右手でオリビアの頭を掴みながら、オリビアの顔面を思いっきり床へと叩きつけた。
ドーンという大きな衝撃音が床から鳴り響き、顔面から床に突っ込んだオリビアは、そのまま顔面全体が潰され、顔中傷だらけになりながら、顔を床下に突っ込み、逆さになって、床に突き刺さって、気絶した。
第三部隊隊長のオリビアまで僕にやられ、聖騎士たちは恐怖のあまり、その場から動けなくなっている。
「大魔導士もどきも全然、歯応えがなかったなぁ。史上最強最高の聖騎士団が聞いて呆れるなぁ。さて、お次は誰に相手してもらおうかな~?よしっ、クソ聖女もどき、次はお前だ。聖騎士団最強の結界がどれほど頑丈なのか、この僕が試してやるよ。」
僕はニヤリと笑みを浮かべながら、後方にいるアイナを指さして言った。
「くっ!?「黒の勇者」様、あなたの行いは間違っています!聖騎士団である私たちを、同じ女神リリア様に仕える同志に、気に入らないという理由だけで暴力を振るうのは、決して許されることではありません!あなたはこの私が止めてみせます!護聖結界!」
アイナが、左手に持つ、オレンジ色の丸盾の姿をした、聖盾のレプリカを僕に向かって構えた。
丸盾がオレンジ色に光り輝いた直後、オレンジ色の光を放つ、球状の結界が、アイナの全身を包み込み、彼女をガードする。
「先に喧嘩を売ってきたのはそっちだろうが?僕の行為はあくまで正当防衛だ。善人面をして他人を陥れる悪党が僕は大嫌いなもんでね。正義の力をお見舞いしてやるよ、猫被りのクソ聖女もどき。」
僕は5mほど後方に下がると、それから一気に助走を付けて、アイナに向かって走り、思いっきり跳び上がり、アイナの丸盾と結界目がけて、右足で飛び蹴りを食らわせた。
僕の飛び蹴りを食らって、アイナの展開した防御用の結界は、パリーンという音を立てて砕け散った。
そして、結界を突き破りながら、アイナの左手に持つ丸盾も粉々に破壊し、そのままアイナの腹部目がけて、僕の飛び蹴りが炸裂した。
「ゲボゥーーー!?」
腹に飛び蹴りを食らい、内臓が損傷し、口から大量の血を吐きながら、僕の飛び蹴りを食らった衝撃でギルドの壁ごと、ドカーンという音を立てながら、ギルドの外へと吹っ飛ばされていったアイナであった。
アイナを飛び蹴りでぶっ飛ばした僕は、着地すると、呟いた。
「本物の正義の力を、正義の怒りを思い知ったか、猫被りの悪党が。にしても、あれが史上最強最高の聖騎士団の誇る、最高の防御力を持った結界ねぇ。正直言って、張りぼて以下だな。あんな茶地で薄っぺらい結界で僕を止めてみせるとか言ってたが、大言壮語もいいところだ。僕の5%の力で破れるようじゃ、結界とは呼べないな。結界を何重にも重ねて防御力を高めるとか、もっと工夫しろよ。僕のパワーを事前に見ておいて、その程度の工夫もできないなんて、所詮はクソ聖女もどきと言うわけか。誰も守れない結界に価値はない。よ~く、覚えておくがいい。」
第四部隊の隊長、アイナが僕にぶっ飛ばされたのを見て、聖騎士たちは恐怖で全身を震え上がらせている。
「もう、四人も隊長を倒してしまった。残りの隊長は三人か。そうだ。僕のことを青二才だとか言って馬鹿にしていた奴がいたなぁ。そうだろ、クソ槍聖もどき?天下無双の槍で僕の性根を叩き直すとか言ってたよなぁ。ビビッてないで、とっととかかってこいよ。それとも、やっぱり口先だけのただのクソ雑魚聖騎士なのか?」
僕は前方にいる、両足をブルブルと震わせ、恐怖で慄いているディランに、ニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「わ、我が輩が貴様ごとき青二才の勇者にび、ビビったりなど、するわけないなり!?我が輩の天下無双の槍にて、貴様の腐った性根ごと、貫いてくれるわ!」
「ほぅ。なら、ご自慢の天下無双の槍でこの僕の心臓を一発で貫いてみせろよ?まぁ、クソ雑魚槍聖もどきのお前には100%、無理な話だけどな?」
僕は右手の人差し指で、自分の心臓を指しながら、ディランを挑発した。
「お、おのれぇー!この我が輩を虚仮にしたこと、後悔させてやるでござる!我が天下無双の槍を受けてみよ、青二才の勇者めが!」
ディランが青いロングスピアーの、聖槍のレプリカを両手で構えながら、僕に向かって突撃してきた。
ディランの持つ、青い槍が青く光輝くと、槍の穂先が、渦状になった高圧水流のカッターを纏いながら、僕の心臓目がけて、突き進んできた。
「フハハハ!食らえ!奔流突貫!」
高圧水流のカッターを纏ったディランの槍の穂先が、僕の心臓を刺し貫こうと、僕の心臓部分に直撃した。
しかし、ディランの繰り出した槍の穂先が、僕の心臓を貫くことはなく、心臓部分の表面でぶつかり、粉々に砕け散ってしまった。
「な、何ぃーーー!?わ、我が輩の天下無双の槍が、セイクリッドオリハルコンの槍が砕けたなりと!?こ、こんなこと、あり得ないなり!?我が輩の槍が生身で防がれるなど、そんなはずないのでござる!?」
自慢のセイクリッドオリハルコン製の、聖槍のレプリカの穂先が、僕にほぼノーガードで防がれ、逆に粉々に砕かれてしまったことに、ディランは激しいショックを受け、混乱している。
「お前の天下無双の槍とやらが粉々に砕けたのは間違いなく現実だ、クソ槍聖もどき。お前の鈍ら同然の槍なんて、痛くも痒くもないんだよ。さてと、それじゃあ、今度は僕がお返しをする番だ。僕の槍をお見舞いしてやるよ。」
僕はそう言うと、混乱しているディランの槍を持つ右手を掴むと、ディランを逃がさないよう、左手でがっちりと捕まえた。
そして、右手の人差し指と中指を伸ばし、くっつけると、二本の指を思いっきり、ディランの左の眼球目がけて突っ込んだ。
「ピギャアアアーーー!?目が、我が輩の目がーーー!?」
僕に左の眼球を潰され、あまりの激痛に、ディランは左目から血を流しながら、悶え苦しんでいる。
僕は指を引き抜き、ディランの右手を離した。
「目がーーー!目がーーー!」
眼球を失った左目を両手で押さえながら、ディランは自慢の槍をほっぽって、悲鳴を上げて、床で転げ回っている。
「僕の指はどんな分厚い鋼鉄も貫通する槍にもなるんだ。お前の、なんちゃって天下無双の槍より、何百倍もの破壊力があるんだよ。簡単に挑発に乗るわ、槍は鈍ら同然の威力しかないわ、武器の性能に頼りっ切りだわ、考えが甘くて、無駄に虚勢を張る、死んだ元槍聖の沖水そっくりの馬鹿さ加減だ。僕を青二才と馬鹿にしたいなら、せめてこの僕にかすり傷くらい負わせるようになってから、物を言うんだな。一から修行し直せ、クソ雑魚槍聖もどき。それじゃあ、止めだ。」
僕は床で転げ回っているディランの胴体を、右足で思いっきり踏みつけた。
「グヘーーー!?」
ドーンという大きな衝撃音を立てながら、僕に胴体を踏みつけられ、叫び声を上げながら、ギルドの床下へと全身を沈められて、ディランはショックで気絶した。
第五部隊の隊長、ディランが僕に左目を完全に潰されたのを見て、あまりのショッキングな光景に、周りにいる聖騎士たちは、恐怖で言葉を失っていた。
「さて、残る隊長は後、二人。僕を坊やと呼んだ、クソ弓聖もどき。この僕と取引して自分だけ見逃してもらおうなんて、そんな甘ったるいことを考えているようなら、諦めるんだな。お前も、お前の部下たちも、僕は何があっても許さない。いくら悪知恵を働かせようが、僕には一切、通用しない。聖騎士団一の弓の腕前とやらで正々堂々と勝負しろ。それとも、実はノーコンで、武器だよりのことを部下たちの前で隠しているのか?」
僕はニヤリと笑みを浮かべながら、左斜め前方にいる、ブルックリンに向けて話しかけた。
藍色のロングボウの形状をした、聖弓のレプリカを構え、鋭い眼光を向けながら、超極小の竜巻状に圧縮した、風のエネルギーで構成された矢を、ブルックリンは僕目がけて発射しようとしていた。
「いくらどんなにあなたが素早くても、あなたがどんなに頑丈でも、この私の矢はどこまでもあなたを追跡し、あなたの体を射抜く破壊力がある。他の隊長たちとこの私を同列に考えているなら、それはとんだ計算ミスよ。私は確実にあなたを仕留める。行くわよ、生意気な勇者の坊や?暴風必中!」
ブルックリンが、風の矢を僕目がけて放ってきた。
風の矢を一本だけでなく、十本以上、続けて連射してきた。
音速を超える風の矢が、何本も連続して放たれ、僕の体を射抜こうとしてくる。
だが、僕はブルックリンの放つ風の矢をはるかに超えるスピードで、ブルックリンが次々に放つ、自動追尾してくる風の矢を交わしながら、ブルックリンの傍へと、いくつもの残像を作りながら、徐々に接近していく。
そして、ついにブルックリンの正面に立った僕は、すかさずブルックリンから聖弓のレプリカを奪い取り、へし折った。
それから、右手でブルックリンの首を掴み、首を締め上げながら、ブルックリンの体を持ち上げた。
「ぐ、苦しいーーー!?」
僕に首を絞められ、呼吸が上手くできず、精神に乱れが生じたため、ブルックリンの放った風の矢は、僕を追撃することなく、スキルが解除され、途中で全て消滅した。
「僕を確実に仕留める、そう言っていたが、とんだ計算ミスをしたようだな、クソ弓聖もどき?僕のスピードはお前の想定以上だ。縦方向だけでなく、どんな方向にも、瞬時に移動できる。高速ステップを応用して交わしながら、残像を作り出すことだってできる。自動追尾と連射を組み合わせて攻撃してきたのは悪くない発想だが、詰めが甘いな。僕を仕留めるには、矢の数も、矢のスピードも足りなかった。それに、自動追尾も含め、お前の攻撃はお前自身が精神を乱されれば、簡単に威力を失い、消滅する。まぁ、全弾まともに受けながら一撃でぶちのめすこともできたけど、それじゃあ、つまらないだろ?全方位に無数の風の矢を展開して同時に発射する、ぐらいできたら、もっといい勝負ができたかもな。じゃあな、自称インテリのクソ弓聖もどき。」
僕はそう言うと、ブルックリンの首を掴んでいた右手を左回りに少し回し、ブルックリンの首の骨を折った。
ゴキッ、という音を立て、首の骨を折られ、さらに首を絞められ、窒息寸前に追い詰められ、白目を剥いて気絶しているブルックリンを、僕は右手で天井高く放り投げた。
放り投げられたブルックリンの体が、ギルドの天井を突き破り、ドカーン、という衝撃音が何度も鳴り響く。
第六部隊の隊長、ブルックリンが完膚無きまでに叩きのめされ、首の骨を折られ、僕に無惨に倒された光景を見て、聖騎士たちは皆、恐怖と絶望でその場で崩れ落ちている。
「さてと、お前たち「白光聖騎士団」の隊長も最後の一人となった。おい、コソコソと隠れてないで、とっとと前に出てこい、臆病者の脳筋馬鹿の木偶の坊。いや、クソ槌聖もどき。カウンターの隅っこに隠れているのは分かっているんだ。聖騎士団の隊長ともあろう者が、臆病風に吹かれて、部下を置いて、一人敵前逃亡しようとは、随分と情けないなぁ。僕を弱っちい奴だとか言っていたが、図体だけが無駄にデカい、本当に弱っちい男は、どうやらお前の方だったようだな?出てこないなら、こっちからぶちのめしに行くぞ。かかってこいよ、玉無しチキン野郎。」
僕に散々、馬鹿にされ、挑発され、カウンターの隅の死角に隠れていたダグラスが、怒り狂った表情を浮かべ、聖槌のレプリカを両手で構えながら、僕の前にようやく姿を現した。
「お、俺は弱っちい男じゃないんだなぁ~!ちょっと強いからって、調子に乗るんじゃないんだなぁ~!俺のハンマーでお前をぶっ潰してやるんだな!お前みたいな弱っちい勇者は、余裕で倒せるんだなぁ~!」
「へぇ~。コソコソ逃げ回っていた臆病者が、随分と偉そうな口を叩くじゃないか。お前が本当に強い男だって言うなら、今すぐこの場で、みんなの前で証明してみせろよ。お前のご自慢のハンマーで、この僕の頭を潰せるか、試してやる。聖騎士団一の怪力を見せてもらおうか。僕は絶対にお前のハンマーは避けない。ほら、僕の頭はここだ。よ~く見て、当てるんだぞ、脳筋馬鹿。ビビッて外したら、お前は本物の臆病者と呼ばれることになるぞ。さぁ、かかってこい。」
僕は右手の人差し指で自分の頭を指さし、ニヤリと笑みを浮かべながら、ダグラスをさらに挑発した。
「お、俺を馬鹿にするんじゃねえー!今すぐぶっ潰す!」
怒り狂い、興奮したダグラスが、両口ハンマー、スレッジハンマーに似た、紫色のウォーハンマーの形をした、聖槌のレプリカを両手で持ちながら、僕目がけて突撃してきた。
ダグラスの持つハンマーの先端部分が紫色に光り輝くと、先端部分に雷のエネルギーが発生し、ハンマーの先端が雷のエネルギーを纏った。
そして、雷のエネルギーを纏ったウォーハンマーを、僕の頭に目がけて、ダグラスは豪快に振り下ろした。
「ぶっ潰れろ!雷鳴破砕!」
ダグラスの振り下ろした、雷のエネルギーを纏ったウォーハンマーの先端部分が、僕の頭に直撃した。
そして、ガキーンという、甲高い金属音が聞こえた直後、ダグラスの雷のエネルギーを纏ったウォーハンマーの先端は、僕の頭に直撃しながら、逆に粉々に砕け散ってしまった。
砕け散ったウォーハンマーの先端を見て、ダグラスは驚き、一気に表情が青くなった。
「お、俺の、は、ハンマーが砕けただとぉー!?こ、こんなの、あり得ないんだなぁー!?」
恐怖で混乱するダグラスを見て、笑みを浮かべながら、僕はダグラスに言った。
「ちゃんと僕の頭にハンマーを当てたことは褒めてやる。だがな、お前のハンマーなんて、この僕には一切通用しない。そんな非力なハンマーで砕けるほど、僕の体は柔にできてはいない。ついでに言えば、お前の雷も全然、効かないなぁ。僕を感電させようと思うなら、出力が圧倒的に足りない。お前、雷を全身に浴びたことなんて、一度もないだろ?本物の雷を浴びたこともない奴に、この僕をどうにかできる雷を生み出せるわけがない。やっぱりお前、弱いな。体も心もな。それじゃあ、今度は僕がお返しをする番だ。本物の怪力って奴を、教えてやるよ。」
「う、うわぁーーー!?」
ダグラスは僕にやられまいと、愛用のハンマーをほっぽって、部下の聖騎士たちが周りにいるにも関わらず、部下たちを置いて、僕から一人逃げようと、ギルドの入り口に向かって、慌てて走って逃げようとする。
だが、僕は逃げようとするダグラスの左腕を、背後から右手で掴んだ。
そして、右手でダグラスの巨体を持ち上げ、ギルドの床へと強引に思いっきり叩きつけた。
ドーンという大きな衝撃音を立てながら、ダグラスは背中からギルドの床へ叩きつけられ、床下へと沈んだ。
すでに全身がボロボロで気絶しているダグラスを、床下から引き揚げ、逆さにして股を開かせると、僕はジャケットの左の胸ポケットから、如意棒を取り出した。
右手に如意棒を持つと、霊能力のエネルギーを流し込み、黒いウォーハンマーへと変形させた。
「弱っちい、臆病者の男に、キ〇タマは必要ないよな。今日からお前は正真正銘、玉無しチキン野郎だ、クソ槌聖もどき。」
僕はニヤリと笑みを浮かべると、黒いウォーハンマーを両手で持ち、それから、ウォーハンマーを、ダグラスの股間目がけて、思いっきり振り下ろした。
僕の振り下ろしたウォーハンマーが股間に、大事なキ〇タマへと命中し、ダグラスのキ〇タマを粉々に粉砕した。
「フゴォーーー!?」
僕にハンマーでキ〇タマを粉砕された激痛で、気絶していたダグラスが悲鳴を上げながら目を覚まし、ショックでふたたび気絶した。
「男にとっての最大の弱点を取り除いてやったんだ。この僕に感謝しろよ、玉無しチキン野郎のクソ槌聖もどき。まぁ、元々、見掛け倒しで、自分より弱い者をいたぶることでしか自分を強く見せられない、自分より強い者が相手だとすぐに逃げ出す、臆病でクソ弱っちい奴だし、キ〇タマがあろうがなかろうが、コイツはずっと弱い男のままだろうけど。さて、聖騎士団の隊長は全滅した。空にぶっ飛ばした奴も全員、床に落ちてノビているな。後は、残りの「白光聖騎士団」の聖騎士ども、お前たちをぶちのめすだけだ。この僕にぶちのめされる覚悟はできたか、クソ聖騎士ども?」
僕は、周りにいる大勢の聖騎士たちに向かって、ニヤリと笑みを浮かべながら、最後通告を行った。
「白光聖騎士団」の残りの聖騎士たちは、全員が恐怖と絶望の表情に染まり、隊長たちを置き去りにして、冒険者ギルド本部から我先にと走って逃げて行く。
そんな聖騎士たちを見ながら、僕は呟いた。
「お前ら全員、逃がすわけないだろが、クズども。」
僕は、天候操作や飛行能力の効果を持つ、銀色の霊能力のエネルギーを全身に纏った。
「天行空!」
銀色の霊能力を全身に身に纏った僕は、フワリと空中に浮かび上がり、一気に空へ向かって飛び、ギルドの天井に開いた穴を通過して、ギルドの外の上空へと出た。
地上を見下ろすと、東西に向かって、「白光聖騎士団」の部下の聖騎士たち、3,500人の聖騎士たちが、通行人を押し除け、脇目もふらず、大通りを逃走する姿が見えた。
僕は右手を前に突き出し、右手に銀色の霊能力のエネルギーを集中させた。
僕の右手から黒い雷雲が黙々と発生し、聖騎士たちのいる大通りの上空を覆った。
「天候操作!」
直後、黒い雷雲から、大通りを逃走する聖騎士たちだけに向かって、凄まじい威力の雷が落ちた。
「ギャアアアーーー!?」という、雷に打たれた大勢の聖騎士たちの大音量の悲鳴が、大通りに、ゾイサイト聖教国の首都中に響き渡った。
僕の放った雷を全身に浴び、感電死寸前まで追い込まれ、全身に重度の火傷を負い、大通りで気絶している、「白光聖騎士団」の聖騎士たちの無惨な姿が、大通りに転がっていた。
大通りで聖騎士たちが雷に打たれ、悲鳴を上げて倒れていく姿を見て、大通りを歩いていた通行人や、大通りに店を構えている商店の人たちは、一体何事が起きたのかと、恐怖と不安が入り混じった表情を浮かべている。
「白光聖騎士団」の残りのクソ聖騎士たちを全員、雷でぶちのめすと、僕は最後の仕上げにかかった。
「このクソ冒険者ギルドもぶっ潰さないといけないな。リリア聖教会や聖騎士たちの横暴を許す、この国の冒険者たちもギルドの職員たちも、間違いなく人間のクズだ。異世界のクズどもは全員、この手でぶちのめす!」
僕は左手に持っていた黒いハンマーに変形させていた如意棒に、赤い霊能力のエネルギーを流し込み、黒い鬼の金棒へと、形状を変化させた。
そして、両腕に赤い霊能力のエネルギーを纏うと、赤い霊能力のエネルギーを鬼の金棒へと集中させ、鬼の金棒に纏わせた。
「正義と復讐の鉄槌をたっぷりと味わうがいい!鬼打!」
僕は冒険者ギルドの屋根へと急降下しながら、冒険者ギルドの屋根と建物目がけて、両手に持つ、鬼の怪力を纏った、鬼の金棒を一気に振り下ろした。
鬼の金棒が冒険者ギルドの屋根に直撃すると、「鬼打」の持つ圧倒的な破壊力、怪力を食らった影響で、ドカーンという、凄まじい衝撃音が鳴り響くとともに、ゾイサイト聖教国冒険者ギルド本部の建物は、屋根から壁、柱に至るまで、全てが粉砕され、たちまち瓦礫の山と化した。
冒険者ギルド内にいた、冒険者たちやギルドの職員たち、「白光聖騎士団」の隊長たちは、瓦礫の下敷きとなった。
僕は冒険者ギルドであった瓦礫の山の前へと着陸すると、赤い霊能力と銀色の霊能力を解除した。
そして、ふたたび「霊透鎧拳」を発動し、視えない霊能力の鎧を身に纏った。
瓦礫の山を見ながら、僕は一人、呟いた。
「僕を本気で怒らせると、どういう目に遭わされるか、少しは理解したか、異世界のクズども?異世界の悪党へは、僕は情け容赦なく復讐する。聖騎士だろうが何であろうが、僕の異世界の悪党への復讐に例外はない。正義と復讐の鉄槌の恐ろしさを、一生その腐った脳みそによ~く刻み込んで覚えていろ。ホント、碌でもない国に来たもんだよ、まったく。」
僕は冒険者ギルドであった瓦礫の山に背を向けると、さらなる情報収集のため、その場を立ち去った。
それから、道端で感電して倒れている「白光聖騎士団」の聖騎士たちや通行人を避けながら、大通りを西に向かって歩いていくのであった。
「白光聖騎士団」という、聖職者の皮を被った人間のクズどもをぶちのめし、僕の心は気分爽快であった。
ゾイサイト聖教国の連中は碌でもない人間ばかりではあるが、エミリーさんのような、本当の善人も少なからずいることを知り、僕はそれが嬉しかった。
元「弓聖」鷹尾たち一行を討伐するため、異世界の悪党どもへ復讐するため、僕はクソ女神のリリアを崇拝する、クズ人間や悪党だらけのゾイサイト聖教国の中を突き進んでいくのであった。
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