第十一話 主人公、新族長たちを一蹴する、そして、娘との新生活を始める

 僕たち「アウトサイダーズ」が、サーファイ連邦国のピグミーシャーク島にて、元「槍聖」沖水たち一行と、沖水たち率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団を討伐した日から二日後のこと。

 僕はラトナ公国の大公であるクリスにとあるお願いをした後、サーファイ連邦国の首都の中央部にある、ラトナ公国大使館へと、メルと他のパーティーメンバーを引き連れ、朝から向かった。

 目的は、サーファイ連邦国を不法に占拠していた元「槍聖」たち率いる海賊団を討伐した事実を、サーファイ連邦国の各島々を治める十部族の新族長たちに報告すること、預かっている国家の予算の現金10兆リリアの引き渡し、そして、メルの今後の生活について、新族長たちと話をするためだ。

 すでにラトナ公国大使館より、各部族の新族長、現段階では族長代理ではあるが、彼らにラトナ公国大使館にて、僕が話をしたいと言っていることは伝えてある。

 午前10時。

 ラトナ公国大使館の会議室にいる僕たちの前に、大使館の職員に案内され、サーファイ連邦国の十部族の新族長たちと、警護の人たちと思える一行が、現れた。

 新族長の人たちが、代わる代わる僕に向かって挨拶に来た。

 身長170cmほどで、褐色の肌に、水色の短髪、青い瞳、丸眼鏡をかけ、白い花柄の黒いアロハシャツに、白い短パン、黒いサンダルという姿の、30代前半の、一見穏やかな顔をした男性が、最後に僕に挨拶をしてきた。

 「「黒の勇者」様、いえ、ジョー・ミヤコノ・ラトナ子爵様、この度は我がサーファイ連邦国を海賊団からお救いいただき、誠にありがとうございました。私は、トクシー・モルミルス・ドルフィンと申します。現在、ドルフィン族の族長代理を務めております。どうぞお見知りおきを。それと、隣におりますのが、私の妻、マニー・モルミルス・ドルフィンです。」

 「初めまして、「黒の勇者」様。マニー・モルミルス・ドルフィンと申します。この度は我が国を救っていただき、本当にありがとうございました。それから、私たちの姪である、メル様をお救いいただき、ありがとうございました。彼女の叔母として、ずっと行方を心配しておりました。彼女の生存を聞き、本当に安心しました。メル様、いえ、メルちゃん、叔母さんたちのこと、覚えているかな?私たちはね、メルちゃんの叔父さんと叔母さんなんだよぉ。」

 身長150cmほどで、褐色の肌に、水色の天然パーマヘアー、青い瞳、ふっくらとした顔つきで、白色と黄色の花柄が入った黒いアロハシャツに、黄色いロングスカート、黄色いサンダルの、30代前半くらいの小太りの女性が、笑いながらメルに話しかけた。

 「オバちゃんのこと、知らない、なの。」

 そう言って、僕の左横にいたメルが、サッと僕の後ろに隠れた。

 「そ、そうよねぇ!?会ったのはメルちゃんがもっと小さい頃だったものねぇ。でも、これからは叔母さんと叔父さんがメルちゃんの面倒を見てあげるから、もう寂しくないからね。」

 マニーが顔を引きつりながら、メルに答えた。

 「挨拶はこれくらいにして、本題に入りましょう。新族長の皆さん、どうぞお席に座ってください。」

 僕はそう言って、会議室の机の各自の前の席に座るよう、新族長たちに案内した。

 新族長たちが全員、席に座ったのを確認すると、僕は会議室の一番前方の机に座り、新族長たちに向かって話を始めた。

 「まず、この度はお忙しいところ、お集まりいただき、ありがとうございます。新聞や雑誌等の報道でも先刻、ご承知だとは思いますが、二日前、元「槍聖」たち率いる海賊団を、僕たち「アウトサイダーズ」が殲滅いたしました。メフィストソルジャーとなってこの国を占拠した元「槍聖」たちは、全員討伐いたしましたので、どうかご安心ください。それから、僕たち「アウトサイダーズ」が怪盗ゴーストを名乗り、海賊団から、サーファイ連邦国の国家予算10兆リリア、海賊団の保有する財産、攫われた教会の孤児院の女の子たち、闇ギルドの女性の奴隷たちを奪取いたしました。女の子たちと女性たちは現在、ズパート帝国政府にて全員、保護しております。治療も終わり次第、彼女たちはこの国へ送り届ける予定です。国家予算の現金10兆リリアと、海賊団が保有していた財産、盗品もすぐに皆様方へ返却するつもりです。ただし、国家予算の返却等については、一つ条件を飲んでいただく必要がございます。」

 国家予算の返却に条件があると僕から言われ、新族長たちは皆、顔を顰めた。

 「ラトナ子爵様、国家予算の返却の条件とは何でしょうか?」

 新族長たちを代表して、ドルフィン族のトクシーが僕に訊ねた。

 「いえ、条件と言っても大した条件ではありません。ドルフィン族以外の方々には全く関係のない話でして。何、ここにいるメル・アクア・ドルフィンを僕の養女として、義理の娘として迎え入れることをご承諾いただきたい、ただそれだけの話です。」

 僕が笑みを浮かべながら、メルを僕の養女にすることを、新族長たちに向かって言った。

 新族長たちが目を丸めて驚く中、トクシーとマニーの二人が慌てた表情を浮かべながら、僕に抗議してきた。

 「お待ちください!メル・アクア・ドルフィンはドルフィン族本家の最後の生き残りなのです!メルは我がサーファイ連邦国の平和の象徴でもあり、ドルフィン族の次の族長でもあります!私やマニーにとっても、大事な姪なのです!どうか、メルを私たちから奪わないでください!お願いいたします!」

 「メルちゃんは私たち夫婦の大事な姪っ子なんです!メルちゃんは私たちが家族として、新しいドルフィン族の族長として、大事に育てます!どうか、メルちゃんを連れて行かないでください!お願いします、ラトナ子爵様!」

 トクシーとマニーの二人が必死に抗議し、メルを渡すよう言ってくるが、僕は拒否した。

 「大事な姪、ねぇ。では、訊ねますが、どうして僕たちがメルを保護するまで、誰もメルを探そうとしていなかったのですか?メルは大統領府の秘密の脱出口から脱出した後、ずっと首都の外れの墓地の中に、隠し通路の中に隠れていました。海賊たちが暴れ回り、墓地の傍をうろついていたため、墓地の外へと逃げることができなかったそうです。何日もの間、海賊たちに見つからないよう、お墓のお供え物の食べ物や、墓地のすぐ近くの井戸の水を飲み食いして、何日も誰かが救出に来るのを待っていた、とメルから聞きました。僕たちは秘密裏に首都でメルの捜索を行っていましたが、僕たちと海賊たち以外に、小さい子供を探している様子の大人は誰一人、見かけませんでした。元「槍聖」たちがダンジョン攻略のため、メルを必死に探していたのは周知の事実です。当然、ドルフィン族の皆さんの下に、メルを探して海賊たちが押しかけてきたはずです。しかし、海賊たちの監視の目はあれど、国内の行き来はある程度自由が許されてもいました。それなのに、僕たちがメルを保護した日の翌日以降も、メルを探しているサーファイ連邦国の国民は誰もいませんでした。亡きマーレ前大統領と懇意にしている我がラトナ公国のクリス大公殿下の下にも、あなた方ドルフィン族、あるいはサーファイ連邦国の人たちが、極秘裏にメルを匿っている、という情報が伝えられることは一切、ありませんでした。おまけに、元「槍聖」たちが首都の国立美術館で開催した、エロ写真の個展を、この国の大勢の国民が見に行ったそうですね。さらに、元「槍聖」たちが作ったエロ写真を闇ギルド経由で購入した、サーファイ連邦国の方々も大勢いることはすでに調査済みです。自分たちの国を不法に占拠し、大勢の同胞たちの命と、平和を奪った怨敵である海賊団に、あなた方は反抗するどころか、金を渡し、平気な顔で連中の犯罪に手を貸していたわけだ。結論を申しましょう。お前たち人間のクズどもに、大事なメルを渡すことはしない。お前たちの狙いは、メルの相続するドルフィン族本家の莫大な財産、そして、メルの後見人となることで得られる地位と権力、この二つだ。幼いメルを族長にして、財産を奪い、ドルフィン族族長代理を名乗って好き放題したい、そんなところだろう?これでも、お前たちみたいな毒親になる人間のクズを嫌と言うほど、この目で見てきた。ちょっとでもメルが反抗してきたら、暴力や脅しを使って、虐待しようとするに決まっている。メルを手に入れたら、良い思いをさせてやるとか言って、他のドルフィン族や、他の部族の連中たちを言いくるめてきたようだが、お前たちの企みはすでにこちらで手を打っておいた。クリス大公殿下に相談して、メルを正式にラトナ大公家の一員、僕の娘とする手続きをすでに済ませてきた。メルはもう、サーファイ連邦国の人間じゃない。僕と同じラトナ公国の国民だ。それも、ラトナ公国を治める大公家の人間になった。メル、メルのギルドカードをパパに貸してくれるかな?」

 「はい、なの、パパ。」

 僕がメルから、先日ズパート帝国の冒険者ギルド本部で作った、メルのギルドカードを貸してもらった。

 メルのギルドカードの表面を右手で、トクシーとマニー、他の部族の族長たちに向かって見せた。

 「よーく、その腐った目ん玉で見ろ!メルの新しい名前をな!」

 メルのギルドカードには、以下の内容が記載されていた。


 ネーム:メル・アクア・ドルフィン・ラトナ


 パーティーネーム:アウトサイダーズ


 ランク:F


 ジョブ:占星術士Lv.30


 スキル:星動予知Lv.30


 「メル・アクア・ドルフィン・ラトナ、良い名前だろ?それと、亡きマーレ前大統領の銀行口座から、新しく作ったメルの銀行口座に、マーレ前大統領の遺産、ドルフィン族本家の者だけが相続できる財産、5,000億リリアを全額、振り込み済みだ。大統領官邸のマーレ前大統領の部屋の金庫を探しても、通帳も現金も実印も、金目の物は何も残っていないぞ。全てこちらで回収し、メルへの相続を完了させた。お目当てのメルの財産も手に入れることができず、残念だったな、クズども。」

 僕が、トクシーとマニー、他の部族の新族長たちに向かって、馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言った。

 僕にメルの親権と、メルの財産を取られたと知って、困惑する他の部族の新族長たちを尻目に、トクシーとマニーが怒り狂い、醜悪な本性を曝け出した。

 「このクソガキがぁー!?メルも、メルの財産も全部、俺たちのモンだぁー!「黒の勇者」だか何だか知らねえが、勝手によそ様の家庭に踏み込むんじゃねえよ!さっさとメルを俺たちに渡して、この国から出て行きやがれ、クソがっ!?」

 「メルはアタシらの姪なんだよ!他人のアンタに、メルを育てる権利なんてねえんだよ!さっさとメルを渡しな、この余所者のクソガキ!?」

 「ようやく本性を現したな、毒親予備軍のクズども。お前たちがどう足掻いたところで、メルはもう、お前たちとは何の関係もない、赤の他人なんだよ。ラトナ公国の国民で、ラトナ公国を治める、ラトナ大公家の一員だ。何より、メル本人が僕の娘になることを承諾済みだ。お前たち人間のクズに大事なメルを絶対に渡したりはしない。お前たち二人のことはもうどうでもいい。他の部族の新族長の皆さん、メルはすでに僕の娘です。ドルフィン族本家の生き残りがサーファイ連邦国からいなくなることにはなりますが、メルが僕の娘となったこと、メルがラトナ大公家の一員となったことをこの場でご承諾いただけるなら、今すぐにでも、国家予算の10兆リリアを返却させていただきます。海賊団の保有していた財産も合わせてです。まさか、この僕の条件を断って、10兆リリアを諦め、無一文で国を再建したいなんて、奇特なことを考えている、そんな方は賢い皆さんの中にはいらっしゃらないと思いますが、どうしますか?」

 僕の要求に、他の部族の新族長たちは一瞬考え込んだが、国家予算の10兆リリアを取り戻せるなら、ということで、お互いに顔を見合わせ、それから僕に向かって返事をした。

 「我がシャーク族はあなたの条件を飲みます、ラトナ子爵様。」

 「我がホエール族もあなたの条件を飲みましょう、ラトナ子爵様。」

 「タートル族はあなたの条件を飲みます、ラトナ子爵様。」

 「スクイッド族はあなたの条件を全て飲みます、ラトナ子爵様。」

 「我がシュリンプ族もあなたの条件を飲みます、ラトナ子爵様。」

 「マンタレイ族はあなた様の条件を全て飲みます、ラトナ子爵様。」

 「コーラル族はあなたの条件を飲みます、ラトナ子爵様。」

 「シーホース族もあなたの条件を飲むことに賛同いたします、ラトナ子爵様。」

 「我がペンギン族もあなたの条件を飲みます、ラトナ子爵様、いえ、「黒の勇者」様。」

 ドルフィン族を除く、他の九部族の新族長たちが、僕の条件を飲むことを承諾した。

 他の部族の新族長たちが僕の提案した条件を飲んだことに、トクシーとマニーは驚き、困惑している。

 「お、おい、お前ら、こんな余所者のクソガキの出した条件を飲むって言うのか!?ドルフィン族本家の血筋を、歴史ある勇者を支えてきた占星術師の力を、この国の平和と誇りの象徴を、他国に売り飛ばすつもりか!?正気か、お前ら!?」

 「アタシたちの大事なメルを、この余所者が奪おうとしているのよ!?これは重大な内政干渉よ!?ラトナ公国にこの国を好き勝手されて、それでも平気だって言うの、アンタたちは!?」

 トクシーとマニーが他の部族の新族長たちに訴えるが、誰も二人の訴えに耳を貸そうとはしない。

 「そこの馬鹿二人はともかく、サーファイ連邦国の各部族の新族長である皆様からご賛同いただき、僕もメルも、ラトナ公国も嬉しい限りです。ですが、そこにいるドルフィン族のお二人が強硬に反対されるようでは困りますね。サーファイ連邦国は十部族が公正公平に、各部族の同意を持って治める国家とお聞きしています。けれども、ドルフィン族の代表を名乗るそこの二人と、ドルフィン族の方々は、この僕と皆さんとの取引に異議を申しています。このままでは、サーファイ連邦国の総意を得ることができず、僕は皆さんに国家予算の10兆リリアを返却できません。弱りましたねぇ。そこにいるドルフィン族のお二人が僕の条件を飲んでくれれば、あるいは、ドルフィン族全員をサーファイ連邦国から追放すれば、すぐにでも10兆リリアをおまけ付きで返却できるんですがねぇ?」

 僕の言葉に反応し、他の九部族の新族長たちは一斉にトクシーとマニーの方を見ながら言った。

 「ドルフィン族が反対しているだけで、我がシャーク族も、他の部族も皆、ラトナ子爵様との取引に応じるつもりだ。トクシー、マニー、君たちがこのまま反対を続けるようなら、我々は君たちやドルフィン族との関係断絶も辞さないつもりだ。」

 「ラトナ子爵様はこの国を救った英雄だ。そして、ラトナ子爵様の出した条件は決して法外なモノとは言えない。メル・アクア・ドルフィン本人も、ラトナ子爵様の養女になることを希望している。君たち二人のために、この国を失うわけにはいかない。ホエール族は、ドルフィン族が無意味な反対を続けるなら、ドルフィン族をサーファイ連邦国から追放することを提案する。」

 「メル・アクア・ドルフィンはすでにラトナ子爵様、そして、ラトナ大公家の一員となったものと、我がタートル族は判断する。そもそも、ドルフィン族本家の血筋が他国に移ったところで、我が国の安全保障には何の問題も関係も無い。ドルフィン族が自分たちの利益だけを追求する姿勢をとるなら、タートル族はドルフィン族のサーファイ連邦国からの除名に賛同する。」

 「メル・アクア・ドルフィン・ラトナが成長し、成人をしてから、ふたたびサーファイ連邦国に戻る可能性もある。ラトナ子爵様の下で成長した彼女がドルフィン族の長として戻り、ドルフィン族を率いることになれば、我々も安泰だ。マーレ前大統領の高潔な精神は彼女に受け継がれている。トクシー、マニー、君たち二人があちこちから借金をしているという話を聞いている。金銭的余裕が無く、生活環境に問題のある君たちがメル・アクア・ドルフィン・ラトナを引き取り、育てるというのには不安がある。スクイッド族はラトナ子爵様の条件を飲むことに賛成だ。君たちやドルフィン族がそれを妨害するというなら、ドルフィン族との関係を清算し、ドルフィン族のサーファイ連邦国からの追放も止むを得ないと主張する。」

 「我がシュリンプ族は、サーファイ連邦国を守るためなら、ドルフィン族の追放に賛成する。ラトナ子爵様との取引に応じ、国家予算の10兆リリアを返却いただき、友好国であるラトナ公国との関係維持が重要だと主張する。以上だ。」

 「我がマンタレイ族も、同意見だ。サーファイ連邦国再建のため、ドルフィン族の追放が必要なら、追放に同意しよう。」

 「コーラル族も同意見です。ドルフィン族の追放で国家再建が叶うなら、必要な手段だと考えます。ドルフィン族のためだけに、この国や我が部族が不利益を被ることは勘弁願いたい。」

 「シーホース族は、サーファイ連邦国の再建のためなら、ドルフィン族との関係断絶、ドルフィン族の追放に賛成の立場であると、ここに表明いたします。」

 「我がペンギン族は、ラトナ子爵様との取引を成功させるためなら、ドルフィン族の追放は必要と判断いたします。トクシー、マニー、君たち二人はともかく、他のドルフィン族の者たちは、君たち二人のせいでドルフィン族全員が国を追放されることになったと知れば、タダでは済むまい。君たちがメル・アクア・ドルフィンの後見人になることに、ドルフィン族の内部から強い反対意見が出ていたのは知っている。我が国の国家再建の障害になると言うなら、君たち二人だけをサーファイ連邦国から追放し、新たなドルフィン族の族長に賛同してもらえれば、それで事態は全て解決する。族長としての能力と覚悟も無い者に、この場で議論に参加する資格はない。君たち二人の意見を改めて、聞かせてもらおう。」

 他の九部族の新族長たちが、僕との取引を邪魔するなら、ドルフィン族のサーファイ連邦国追放も辞さない、トクシーとマニーだけを追放して僕との取引に応じても良い、と、トクシーとマニーに向かって、それぞれ言った。

 「ど、ドルフィン族を追放する!?ま、待ってくれ、みんな!?」

 「アタシたちだけでも追放するって、そんな、あんまりよ!?」

 他の部族の新族長たちから冷たい言葉を浴びせられ、トクシーとマニーの二人は慌てている。

 「おい、そこの馬鹿二人、いや、人間のクズども。お前たち二人がこの僕との取引に応じず、国家再建に必要な10兆リリアを返却してもらうことに失敗した、この事実が明るみになれば、ドルフィン族全員、最悪、この国の国民全員からお前たちは袋叩きにされることだろうなぁ?ドルフィン族全員国外追放、なんてなったら、ドルフィン族全員からお前たち二人は恨みを買って命を狙われることにもなりかねないぞ。もう一度だけチャンスをやろう。メルはこの僕、ジョー・ミヤコノ・ラトナ子爵の娘になった、マーレ前大統領の遺した財産は全て、無事、ドルフィン族本家直系のメルに相続が完了した、その引き換えに、サーファイ連邦国の国家予算10兆リリアをこの僕から返却してもらうことになった、お前たち二人はドルフィン族の新族長として、他の部族の新族長たちと一緒に、僕との取引に応じた、そうだよな?」

 僕はトクシーとマニーの二人に、取引に応じるよう、最後通告を行った。

 トクシーとマニーの二人は、悔しそうな表情を浮かべながら、答えた。

 「はい、仰る通りです。私たちドルフィン族は、ラトナ子爵様との取引に応じました。」

 「10兆リリアの返却、よろしくお願いします、ラトナ子爵様。」

 悔しがる二人の姿を見て、僕は笑みを浮かべながら、新族長たちに向かって言った。

 「ドルフィン族からも取引に応じていただけると聞いて、僕も満足です。では、明日、国家予算の10兆リリアの引き渡しを、この大使館にて行わせていただきます。サーファイ連邦国の再建に必要なお金です。失くさないよう、運搬には十分、注意してください。海賊団の保有していた財産もお渡ししますので、良かったらお使いください。それと、今回、この国が海賊団に占拠された事件の原因の一端は、「ドクター・ファウストの魔導書」を元「槍聖」たちに盗まれたインゴット王国にもあります。貴国は、多くの戦艦と大勢の国民を失くされました。インゴット王国への損害賠償請求を行う権利は当然、あります。まぁ、インゴット王国は財政破綻寸前とのことですので、損害賠償金を請求しても支払われる可能性は低いでしょうが、インゴット王国に対し、責任を追及する必要はあります。それから、我がラトナ公国を治めるクリス大公殿下より、貴国への援助を考えているとのお言葉を承っております。新政府の体制が整われましたら、いつでも大公殿下にご相談ください。ただ、トクシーさんとマニーさん、お二人を窓口に利用されることは控えるべきだと、僭越ながらアドバイスさせていただきます。クリス大公殿下は公正公平を尊ぶ御方です。個人的に借金を抱え、国家予算や支援金を横領、着服する恐れのあるお二人に、貴国への援助の窓口役を任せるのは、少々リスクがあるかと。ラトナ大公家の一員であるこの僕を、クソガキなどと侮辱する口の悪さですからねぇ。大公殿下はマナーのなっていない方は大変、お嫌いですので、ご注意ください。では、話はこれで終わりにしましょう。サーファイ連邦国の復興、心から祈っております。何か僕たちにもお手伝いできることがあれば、遠慮なくお声がけください。皆さん、お疲れさまでした。」

 こうして、サーファイ連邦国を治める十部族の新族長たちとの話し合いは終わった。

 トクシーとマニーの二人が僕のことを恨めしそうな表情を浮かべて、僕の顔を見つめながら、大使館の会議室を出て行った。

 話し合いが終わり、僕はメルに話しかけた。

 「メル、もう大丈夫だからな。あの悪いオジさんとオバさんはパパが撃退してやったからな。これからはパパの娘として、堂々と歩けるからな。もし、あの悪いオジさんとオバさんが意地悪してきた時は、すぐに正直にパパに言うんだぞ。パパがアイツらをコテンパンに懲らしめてやるからね。」

 「ありがとうなの、パパ。パパが一緒にいてくれたから、全然怖くなかったの。パパのポーカーフェイス、カッコ良かった、なの。」

 メルが僕に笑いながらそう言って、抱き着いてきた。

 「ありがとう、メル。パパが傍にいる限り、悪い奴には指一本、触れさせないからな。触れようとした瞬間、指を全部、斬り落としてやるしな。」

 僕はそう言って、メルの頭を撫でるのであった。

 「お疲れ様でございました、丈様。メルさんの叔父叔母を名乗るあの二人、正に丈様を虐待していた、かつての毒親たる、丈様の叔父叔母夫婦に瓜二つの醜悪な顔でした。思わず、丈様を虐待していた憎きあの夫婦の顔が思い浮かび、目の前にいるあの下衆共を殺したいと思ったほどです。毒親予備軍の下衆共の撃退、それから、サーファイ連邦国の新族長たちとの交渉、本当にお疲れ様でした。」

 玉藻が僕に、労いの言葉をかけてくれた。

 「毒親の恐ろしさはこの身でよく知っているからね。メルを碌に探そうとしないドルフィン族の態度から、こうなることも予想はしていたよ。大事なメルを毒親に渡すようなことだけは絶対にさせない。まぁ、ドルフィン族に限らず、他の九部族の連中も大差ない、人間のクズだと僕は思うけど。海賊団に国を乗っ取られたのに、反抗もせず、逆に連中の悪事に加担するこの国の連中全員、最低最悪のクズと言っても過言じゃない。この国の海は世界一青く澄んでいて美しいと言われているが、この国の人間の心は暗く澱んでいる。自分たちさえ良ければ、他人なんてどうでもいい、正義も誇りも、私利私欲のために簡単に手放す連中ばかりだ。自分のことしか頭にない、他人の不幸を食い物に生きることが取り柄の奴らだけが大勢、集まったところで、まともな国の再建なんて、いくら金があってもできるわけがない。さてと、それじゃあ、一旦船に戻るとしよう。気分転換に、外食でもしようか?まだ、この国で一度も外食していないし、サーファイ連邦国ご自慢の海の幸をいただいてみようじゃないか?」

 新族長たちとの話し合いを終え、大使館を出た僕たちは、大使館のすぐ近くのレストランで、みんなで一緒に昼食を食べることにした。

 世界一水産業が盛んな国とあって、レストランのメニューの多くは、魚介類を材料に使った料理であった。

 季節は秋を迎えようとしていたが、サーファイ連邦国では季節に関係なく、天然ものから養殖ものまで、ありとあらゆる魚介類が獲れるそうだ。

 焼き魚やパエリア、揚げ物など、色々と頼んでみたが、中でも鯛のカルパッチョが僕は一番美味しかった。

 この異世界に来て、生魚を使った料理を食べたのは、今回が初めてであった。

 日本にいた頃は普通に刺身や寿司などで生魚を食べる機会があったが、異世界に来てからは、生魚を使った料理を見かけることはほとんどなかった。

 新鮮な柔らかい鯛の身に、オリーブオイルとレモン汁を使ったソースが合わさり、さっぱりとした味わいであった。

 久しぶりに生魚を使った料理を食べることができ、懐かしさを感じるとともに、嬉しさも感じる僕であった。

 レストランで昼食を食べ終えると、僕たちは花屋によって、花束を九つ買った。

 それから、サーファイ島の南側にある、海がよく見える展望台に足を運んだ。

 僕たちは一人一束ずつ、花束を持った。

 僕は花束を持ちながら、メルに話しかけた。

 「メル、パパたちと一緒に、天国に行ったマーレおばあちゃんや、海賊たちと戦って天国に行った人たちのために、弔いの花をプレゼントしてあげよう。メルのおばあちゃんたちが一生懸命、守ってきたこの海が、天国に行った人たちのお墓だとパパは思うんだ。この花束を海に投げ入れて、それから両手を合わせて静かにお祈りをするんだ。いいね?」

 「分かった、なの。」

 僕たちは目の前に広がる青い海に向かって、一斉に花束を投げ入れた。

 そして、両手を合わせて、その場で黙とうをした。

 沖水たち率いる海賊団に殺されたサーファイ連邦国の人たちの冥福を祈った。

 僕の左隣にいたメルは、両手を合わせて黙とうをしていたが、両目からポロポロと涙を流していた。

 「メル、我慢しなくても良いんだ。泣きたい時は泣いていいんだ。パパたちに遠慮しなくていいんだよ。」

 僕がそう言うと、メルが僕に抱き着いてきて、大粒の涙を流しながら、大声を出して、泣き始めた。

 「ウェーン!おばあちゃん!」

 僕に抱き着き、大泣きするメルを、僕は静かにそっと抱きしめた。

 大泣きするメルを見て、僕もメルの悲しみが伝わってきて、目から涙があふれてきた。

 「ずっと我慢させてごめんね、メル。パパがもっと早く、悪者たちをやっつけていたら、メルが泣くことはなかった。誰も死ぬことはなかった。本当にごめんよ。パパは必ず、元勇者たちを全員、倒す。一人でも多くの人を助けてみせるから。戦いが終わったら、また、みんなで一緒に、ここでお祈りしようね。」

 そう言って、メルを抱きしめる僕であった。

 そんな僕とメルの姿を、玉藻たち他のパーティーメンバーは黙って、見つめるのであった。

 犠牲者たちへの弔いを終えると、僕たちは「海鴉号」へと戻った。

 元気のないメルを励まそうと、僕たちはメルをゲームに誘って一緒に遊んだり、「海鴉号」でクルージングを楽しんだりして、その日は過ごした。

 夜、11時頃。

 他のみんなが眠りに就く中、僕は「海鴉号」の操縦席に座り、ぼんやりと夜の海を見ながら、一人物思いに耽っていた。

 元勇者たちの暴走は過激さを増すばかりである。

 今回も元「槍聖」たち一行のせいで、40万人以上もの人間が命を奪われた。

 何の罪もない多くの女性たちが、連中のエロ写真の裏ビジネスのために傷ついた。

 連中のせいで、サーファイ連邦国は崩壊寸前に追い込まれた。

 メルは唯一の肉親であった実の祖母まで殺された。

 元勇者たちは、僕を処刑しただけでなく、僕の大事なメルを悲しませた。

 一刻も早く、残りの元勇者たちの居所を掴み、奴らがこれ以上、世界規模の犯罪を引き起こす前に、全員、始末する必要がある。

 自分たちの私利私欲のために平然と大勢の人間を殺す、狂った元勇者たちは全員、必ず地獄に叩き落す。

 この異世界のことは嫌いだが、この異世界で出会った仲間や家族、恩人たち、友人たちのことは守りたい。

 優しい復讐鬼として、大切な人たちを守るため、正義と復讐の鉄槌を悪党どもに下すため、これまで以上に気を引き締めて、異世界の悪党どもへの復讐に取りかかることを僕は改めて誓った。

 僕が異世界の悪党どもへの復讐を改めて誓い、操縦席で夜の海を一人眺めていると、マリアンヌが操縦席の方へとやって来て、僕に話しかけてきた。

 「ジョー様、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」

 「ああっ、別に構わないよ。てっきり、もう眠っていたと思ったが。それで、話って何だ?」

 「はい。今後、ジョー様たちとともに、元勇者たちの討伐の旅に同行するか否か、私なりに一晩、じっくり考えました。私は王国には戻らず、ジョー様たちと旅を続けます。」

 「そうか。お前が自分でそう決めたのなら、そうすればいい。僕は口出しをするつもりはない。しかし、旅が終わった時、インゴット王国がすでに崩壊する事態になっていたとしても、僕は一切関知しないからな。インゴット王国の行く末は、王女であるお前や、クソ親父の国王が決めることだ。責任は全て王族のお前たちにある。僕に責任を押し付けたりするなよ?」

 「分かっております。昨日、お父様にエロ写真購入の事実を問いただしました。残念なことに、闇ギルドから違法ポルノのエロ写真を大量に購入したことを認めました。光の女神リリア様に長年仕えてきた、歴史あるインゴット王国の国王が、闇ギルドの奴隷売買を黙認し、さらに悪事の片棒を担ぐような行いをしていたことは決して許されることではありません。まして、世界崩壊の危機を招こうとしている元勇者たちが作った違法ポルノを購入するなど、人間として、女神リリア様の信徒として、恥ずべき行為です。私からお父様に、エロ写真の顧客リストに名前の載っていた人物たちを全員、逮捕するよう伝えました。それから、元勇者たちの討伐が終わりましたら、お父様には国王を退くよう伝え、承諾を得ました。近く、お父様が元勇者たちの討伐後、国王を辞任し、その後、王女である私が女王に即位し、新体制で王国の再建に取り組むことが正式にインゴット王国政府より世界各国に発表される予定です。元勇者たちを即刻討伐し、王国再建を本格的に進めるため、これまで以上に元勇者たちの討伐を全力でサポートする所存です。」

 「お前の決意はよく分かった。あのクソジジイが自分から国王を引退することを決意するとは、少し驚きだな。まぁ、あのクソジジイがいつまでも国王をやっていたら、本当にインゴット王国は崩壊しかねないしな。お前が戻る前にあのクソジジイが国をぶっ潰さないとは限らないが。お前が引き続き、旅に同行することは了解した。話は変わるが、残りの元勇者たちの動向について、リリアから何か情報は届いていないか?あのクソ女神なら、すぐに残りの元勇者たちの動向が分かるはずだ。リリアから新しい神託は来ているのか?」

 「いえ、リリア様から新たな神託はいただいておりません。残りの元勇者たちの動向についての連絡はありません。」

 「ちっ。元勇者たちの討伐を頼んでおいて、元勇者たちに関する情報を何一つ伝えてこないなんて、一体何考えてんだ、あのクソ女神は?今もどこかで、自分の管理する世界を崩壊させかねない大事件を元勇者たちが引き起こそうと動いているかもしれないんだぞ。元「槍聖」たちは倒したんだから、早く次の討伐対象を教えろよ。何で、元勇者たちに関する情報収集まで僕たちがやらなきゃいけないんだ?危機感が足りないんじゃないか、あのクソ女神は?こっちから直接、連絡を取ることもできないなんて、本当に腹が立つ。僕たちに元勇者たちの討伐を完全に丸投げして、自分は神界でのんびり遊び惚けているってんなら、本当にストライキを起こすぞ、僕は?」

 「り、リリア様も色々とご都合があるのだと思います。近い内に私たちにまた、新たな神託を授けてくださるはずです。その時にきっと、元勇者たちの動向も教えてくださるはずです。ですから、ストライキだけはどうかご勘弁ください、ジョー様。」

 「僕がストライキを起こしたら、元勇者たちの暴走で大勢の人間が命を奪われる事態になることくらい分かっているよ。ただ、リリアの不真面目で適当な態度が気に入らないだけだ。しょうがない。いつものようにこちらで情報収集もやるさ。リリアの持ってきた情報に信憑性があるかどうかも怪しいからな。それに、残りの元勇者たちの居場所については僕の方でもある程度、見当がついている。連中は全員、この手で必ず始末する。心配は無用だ。」

 僕はマリアンヌとの話を終えると、メインキャビンのソファーで横になり、眠りに就いた。

 残りの元勇者たちの動向は気になるが、連中の情報は必ず掴んでみせる。

 それに、メルを無事、僕の娘として引き取ることができ、あの子を守ることができたので、僕はそれだけでも十分な収穫を得た、そう思った。

 元勇者たちの討伐、異世界の悪党どもへの復讐、という危険な旅に巻き込んでしまうことにはなるが、僕は必ずメルを守り抜いてみせる。

 メルを守り、異世界の悪党どもへ必ず復讐するのだ。

 娘との異世界での新生活がようやく本格スタートを切り、娘を育て守ることと、異世界への復讐の旅を続けることを、僕は固く決意するのであった。













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