第六章 水の迷宮編

第一話 主人公、サーファイ連邦国に降り立つ、そして、幼女を保護する

 ズパート帝国帝都の南の港から北東に海路で約2週間進んだところに、「水の迷宮」があるサーファイ連邦国があった。

 世界各国とは海を挟んで独立している島国で、大小100以上の島々から構成されている。

 多くの島々に囲まれる中、最も面積が大きいサーファイ島に、サーファイ連邦国の首都がある。

 国の主な主力産業は、水産業と観光産業である。サーファイ連邦国周辺は世界で最も青く美しいと言われるほどの、水質がとても良好な海が広がっている。そのため、世界で最も水産業が盛んであり、あらゆる魚介類の水揚げ量が世界一であり、サーファイ連邦国の魚介類や水産加工品はクオリティの高さや値段の安さから、世界中で高評価を受けている。

 美しい海を活用して、高級リゾートホテルが多く立ち並び、美しい海とビーチ、美味しい魚介料理、マリンスポーツなどを目的に、バカンスで訪れる観光客も多く、観光産業も国の経済を支えている。

 付け加えて、サーファイ連邦国周辺の海には多くの海底遺跡があり、海底遺跡に眠る財宝を求めて、トレジャーハンターとして活動する冒険者も多いそうだ。海底遺跡の財宝は、サーファイ連邦国周辺で活動する海賊たちも狙っているとのことだ。

 気候は年中蒸し暑く、年間を通して気温は26℃~30℃の間で一定している。春から秋にかけてよく雨が降るらしく、平均湿度は80%。熱帯性の気候で、ヤシの木などの熱帯植物が生えていて、日差しも強い。

 僕たち「アウトサイダーズ」は、ズパート帝国の港を「海鴉号」で出港してから三日後の正午過ぎに、目的地であるサーファイ連邦国の傍へと到着した。

 サーファイ連邦国は現在、キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーと名乗る謎の海賊団によって占拠されてしまっている。

 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーなる海賊の首領の正体は、二カ月前、インゴット王国で食人鬼連続殺人事件を起こした犯人でもある、元「槍聖」沖水 流太である可能性が高い。

 元「槍聖」たち一行が人食い海賊団となり、サーファイ連邦国を乗っ取る事件を引き起こした、と僕たちは睨んでいる。

 サーファイ連邦国に迂闊に近づくのは危険だと判断し、僕たちはパーティーメンバー全員と「海鴉号」に認識阻害幻術を事前にかけ、完全に姿を消した状態で、サーファイ連邦国へと接近した。

 首都があるサーファイ島を目指して、島々の間を「海鴉号」で通り抜けて進んでいくが、あまりの酷い光景に、僕たちは皆、顔を顰め、口をつぐんだ。

 全長270mを超える大型の戦艦や、全長150mを超える駆逐艦などの軍艦が、何百隻と海賊団の攻撃で海へと沈んでいた。

 鉄製の船体に穴を開けられた船や、船体がバラバラにされた船が海へ沈み、漂っている。

 そして、沈んだ軍艦の周りには、海軍の騎士たちと思われる死体が何百人もプカプカと水面に浮かんでいた。他にも、冒険者たちと思われる人たちの死体が大勢、海に浮かんでいる。

 サーファイ連邦国の世界で最も青く美しいと呼ばれる海が、海賊団に殺された人たちの赤い血で濁っている。

 海賊団による虐殺の跡を見て、そのあまりに酷い惨状に僕は心が怒りで燃えた。

 「海鴉号」で海を進む中、途中で海賊船らしき船ともすれ違った。

 全長90mほどで、幅が12mくらい、マストが3本付いた、木製の帆船であった。

 大砲も20門くらい付いているように見えたが、先ほど見たサーファイ連邦国の軍艦と比べると、スペックは明らかにサーファイ連邦国の軍艦がはるか上だと思った。

 海賊船の方がロートルであるにも関わらず、はるかに性能が上のサーファイ連邦国の軍艦を撃沈した現状から察するに、元「槍聖」たち一行がパワーアップして手に入れた、未知の力が、海賊団がサーファイ連邦国海軍を打ち破った要因である可能性がある。

 海賊たちの警戒網をくぐりながら、僕たちの乗る「海鴉号」は、目的地であるサーファイ連邦国の首都がある、サーファイ島の北側へと到着した。

 僕は海岸線から100mほど離れた海の上で「海鴉号」を止めると、デッキにいる玉藻たちパーティーメンバーへと話しかけた。

 「みんな、目的地であるサーファイ連邦国の首都があるサーファイ島の傍に到着した。船から見えるあの島が、サーファイ島だ。現在、サーファイ連邦国は元「槍聖」たち率いる海賊団によって占拠されている。そこで、当初の予定通り、島の偵察と、マーレ大統領の孫娘、メル・アクア・ドルフィンの捜索を行う。島に上陸するメンバーは、僕、酒吞、鵺、グレイ、イヴの五名だ。玉藻、エルザ、マリアンヌの三人は船で待機だ。船が流されないよう、玉藻たちには操船をお願いする。それと、島に上陸した際、海賊たちとの戦闘は極力避けてくれ。特に、元「槍聖」たちは未知数の危険な力を手に入れている。連中の手に入れた力の正体が判明するまで、元「槍聖」たちと戦うのは避けるのがベストだ。国民も人質に取られている以上、海賊たちを刺激しないよう注意してくれ。ここまでで、他に何か質問はあるかい?」

 「いえ、わたくしの方からは特にはありません。」

 「俺も特にはないぜ。」

 「私も質問はない。」

 「我も右に同じだ。」

 「アタシも特に質問はねえ。」

 「妾も特にはない。婿殿の指示に従うまでだ。」

 「私も特に質問はございません、ジョー様。」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌはそれぞれ返事をした。

 「よし。では、作戦開始だ。イヴ、上陸するメンバーを全員、あの島の首都まで転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。では、移動するぞ。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、一瞬目の前の景色がグニャリと歪んだ後、僕、酒吞、鵺、グレイ、イヴの五人の前には、サーファイ連邦国の首都の街並みが広がっていた。

 サーファイ連邦国の首都は、首都の周りを低い石壁がグルリと囲んでいる。

 家や商店のほとんどが、地面と床の間が1m以上も空いた、高床式の構造の建物であった。壁や床、屋根などは木製で、三角屋根の大きなひさしが付いていて、特徴的な姿をしている。恐らく、洪水対策や日差し対策のために、それらの構造が施されていると思われる。

 道路は舗装されておらず、砂が敷き詰められている。砂利道といった感じだ。

 北門をくぐって首都の中へ入ると、一見人々は普通に生活しているように見える。

 だが、すれ違う通行人たちや、店を開いている人たちの顔は暗く、沈んだ表情をしている。

 首都の通りを歩いていると、大声を上げて笑っている男たちがいた。

 頭にバンダナを巻き、武器を所持し、中世ヨーロッパの海賊風の格好をした、人相の悪そうな男たちであった。

 サーファイ連邦国を占拠した、元「槍聖」たち率いる海賊団に所属する海賊たちであるとすぐに分かった。

 真っ昼間にも関わらず、昼間から酒を飲んでいるようで、通りにある商店に立ち寄ると、武器をチラつかせながら、得意げにカツアゲを行っている様子だった。

 すぐにでもぶち殺してやりたい思いだったが、グッと堪え、必ずこの海賊たちの息の根を止めることを誓いながら、作戦を遂行する僕であった。

 「みんな、一旦僕の話を聞いてくれ。そこの路地裏に入るとしよう。」

 僕たち五人は通り沿いの路地裏へと入った。

 「偵察と捜索を別れて行うことにする。僕とイヴは、海賊たち、元「槍聖」たちの動向を探る。酒吞とグレイには、地上からメル・アクア・ドルフィンの捜索を行ってほしい。鵺は上空からメルちゃんの捜索を行ってほしい。三時間後に、またこの路地裏へ集合だ。首都は広いし、海賊がうようよといるが、よろしく頼む。後、決して無理はしないように。それじゃあ、一時散開!」

 僕たち五人はそれぞれ、偵察と捜索を行うため、別れた。

 僕とイヴの二人は、首都の中央にある、国会議事堂や大統領府などの政府の中枢機関があるエリアへと歩いて向かった。

 南へと歩いて30分後、目的の国会議事堂や大統領府などのあるエリアへと着いた。

 元いた世界の、ミクロネシア連邦の首都パリキールにある政府合同庁舎に似た、木製で高床式の、三角屋根の形状の大きな建物がいくつも立ち並んでいた。

 建物の周辺には、騎士ではなく、海賊の出で立ちをした男たちが警備をしていた。

 よく見ると、一つの建物の前だけを厳重に取り囲むように、海賊たちが警備をしていた。

 建物の正面入り口の木製の看板には、「サーファイ連邦国大統領府」と書かれていた。

 「恐らく、海賊たちが厳重に取り囲んでいる、「サーファイ連邦国大統領府」と書かれた看板のある建物に、元「槍聖」たち、沖水たちがいるに違いない。イヴ、あの建物の中に、白髪の七人組の男たちの姿は見えるか?」

 「ああっ、婿殿、確かに白髪の七人組の男たちがいる。妾の千里眼に狂いはない。あれが問題の食人鬼で海賊の、元「槍聖」たちだな。ふむ。婿殿の言っている通り、あの男たちからは何か異質な力を感じる。元「槍聖」たちの体からは一切魔力を感じぬ。その代わりに、魔力に似てはいるが、とても不安定で気色の悪い力を感じる。」

 「白髪の七人組の男たちがあの中にいるんだな。しかも、魔力を一切持っていなくて、代わりに、魔力に似た、不安定で気色の悪い力を持っているか。沖水たちめ、どうも何かヤバいモノに手を出したらしいな。イヴ、連中のステータスを鑑定できるかい?」

 「もちろんだ。ふむ。中々興味深いな。連中のランクはL、ジョブは「犯罪者」とある。しかし、ジョブとスキルは上限のLv.100に達している。レベルだけなら、SSランクというヤツだ。「犯罪者」を極めた、という印象だな。元とは言え、勇者が「犯罪者」にとことん堕ちるとは実に滑稽な話だ。リリアの奴が見たら、怒り狂って卒倒することだろう。」

 「Lv.100まで、SSランククラスまでレベルアップしているとは驚いたな。それだけ、食人鬼になって大勢の人間を殺して食べたってわけか?Lv.100の「犯罪者」、いや、食人鬼に生きる価値はない。パワーアップされたのは面倒だが、連中を始末することに変わりはない。イヴ、建物の中にメル・アクア・ドルフィンという名前の、5歳くらいの女の子は監禁されていないか?」

 「いや、元「槍聖」たちと海賊たち以外に姿は見えんな。他の建物の中も一応見たが、幼い子供の姿は見えん。」

 「となると、元「槍聖」たちはまだ、メルちゃんを発見できないでいるわけか。ロリコンの沖水の奴なら、見つけ次第、必ず自分の手元に置こうとするはずだ。「水の迷宮」を攻略するためにも、メルちゃんの「占星術士」の力は必要だ。メルちゃんが元「槍聖」たちに捕まっていないのは何よりだ。イヴ、ちょっと危険かもしれないが、建物の中に潜入してみよう。連中がどんな話をしているのか、何を企んでいるのか、調べる必要がある。」

 「了解だ、婿殿。いざとなれば、瞬間移動ですぐに脱出できる。妾に任せるがいい。」

 「心強い限りだ。それじゃあ、潜入開始だ。」

 僕とイヴは、堂々と正面の入り口から、元「槍聖」たち一行のいる大統領府の中へと入った。

 入り口や廊下を警備している海賊たちは、認識阻害幻術で、姿形、声、音、匂い、影などを完全に消した、透明人間となった僕たちに全く気付かずにいる。

 僕とイヴは廊下を歩いていると、大統領執務室というプレートがドアのすぐ真上に出ている部屋の前へと着いた。

 僕たちはドアのすぐ横の壁に耳をつけて、部屋の中から聞こえる話し声に耳を傾けた。

 「全く、いつになったら、我が輩の可愛いメルたんは見つかるなり?島中、隈なく探させても見つからんとはどういうことなり?部下が無能過ぎて、本当に良い迷惑でござる。」

 元「槍聖」沖水 流太の声が聞こえてきた。

 「まぁ、焦るなって。どうせ小さい女の子の足じゃあ、そう遠くへは行けないだろ?もうちょっとしたら見つかるに決まってるさ。外国に逃げたなら、追っかけて捕まればいい話だしね。それより、キャプテン、ダンジョン攻略の方はどうするんだ?メルちゃんが見つかっても、僕たちだけでダンジョン攻略は難しいだろ?何か秘策でもあるのか?」

 この声は、吉尾よしお そうか?

 「例の魔導書を見るが、使えそうな魔術はなかったでござる。チート攻略本だと思った割に、存外使えないでござるよ。しかし、また必要なチートアイテムを手に入れればいいだけのことなり。我が輩は天下無敵の海賊、キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーなり。ダーク・サーファイ帝国の皇帝なり。欲しいアイテムがあれば、奪う。それだけなり。」

 「そうだな。欲しけりゃ奪う。僕たちは泣く子も黙る、ダーク・ジャスティス・カイザー海賊団だもんな。Lv.100の僕たちに勝てる奴なんて、この世にいるわけがない。歴代最強の勇者パーティーと同じSSランクの強さに、「反魔力」って言う最強の武器もある。いっそ、どっかの国を侵略してお宝を全部奪うのもアリじゃないか?お宝の中にチートアイテムがあるかもじゃん。」

 この声は、志比しび たかしか?

 「ふむ。志比田氏の意見はグッドアイディアなり。なら、インゴット王国かズパート帝国あたりを侵略するのが良いなり。どちらも今、国が疲弊している故、絶好の獲物なり。」

 「死んだ花繰さんたちはインゴット王国の国立博物館から盗んだアイテムを使ったって話だろ?まぁ、宮古野の奴に邪魔されて失敗したみたいだけどさ。でも、インゴット王国の国立博物館は貴重なアイテムがめちゃくちゃあるって話だし、侵略するならインゴット王国がやっぱり良いんじゃねえか?国立図書館の警備だって超ザルだったしよ。」

 この声は、宮丸みやまる ゆうだな?

 「やはり侵略するなら、インゴット王国が良さそうでござる。あの国の連中は金をチラつかせただけで簡単に買収できるなり。王への大した忠誠心もない連中の集まりなど、取るに足らんなり。よし、インゴット王国を侵略するなり。グフフフ、チートアイテムやレアアイテムががっぽり手に入るなり。今から笑いが止まらんでござるなぁ。」

 「でもよぉ、キャプテン、僕たちがこの国を離れている間に国を取り返されたらどうするよ?お隣のズパート帝国には宮古野の奴が、「黒の勇者」がいるぜ?アイツはズパート帝国の軍隊をぶっ潰したって話だろ?僕たち抜きの海賊団の部下どもじゃ、まず勝てっこないじゃん?その辺のところ、どうするよ?」

 この声は、天神てんじん りょうか?

 「フン。宮古野氏など恐るるに足らず。我が輩たちの内、誰か一人を残しておけば、宮古野氏など、すぐに殺せるでござる。「反魔力」を食らった瞬間、THE・ENDなり。こちらには人質も大勢いるなり。アヤツが攻めてきたところで、人質を取られれば、手も足も出せないなり。我が輩の布陣に隙はないなり。」

 「さすがはキャプテン。この世の天下を取る男だ。今の僕たちには「反魔力」という最強のチート能力がある。人質だって大勢いる。宮古野なんて敵じゃないってか。なら、とっとインゴット王国、侵略しちゃいますか?マジでヌルゲーですわ。」

 調子こいたこの声は、高城たかじょう 志郎しろうだな?

 「異世界を無双するなど、我が輩にとってはヌルゲー同然なり。元より勇者程度で満足する我が輩ではないなり。いずれは全世界がこの我が輩に跪くことになるのでござる。我が輩こそ、異世界の覇王なり。」

 「フヘヘヘ。なら、異世界の覇王になった時は、僕たちにたくさん報酬をはずんでくださいよ、キャプテン?好みの女の子全員、ハーレムにする権利とかくれない?」

 この気持ち悪いリクエストをする声、金田かねだ まさるだな?

 「グフフフ。もちろんなり、金田氏。筋肉娘ハーレムがご希望なら、何人でもハーレムに加えるがいいなり。我が輩はもちろん、全世界の可愛いロリっ娘たちで、史上最高のロリっ娘ハーレムを築くなり。ロリコンの理想郷をこの世に築いてみせるなり。グフっ、グフフフ。」

 ロリコンの理想郷を作るなど、史上最高のロリっ娘ハーレムを築くなど、気色の悪い願望を吐露する、元「槍聖」沖水であった。

 沖水に続くように、他の六人も、こちらは聞きたくもない己の性癖と、好みのハーレムを作るという気持ち悪い妄言を呟いている。

 沖水たちが気色悪い妄想に浸り、会話を止めたので、僕とイヴの二人は、大統領執務室の前から去った。

 大統領府の廊下を歩きながら、僕とイヴは話した。

 「色々と気になることを言っていたな。「例の魔導書」に「インゴット王国国立図書館」、それと「反魔力」か?連中が使う、未知の力、チート能力とやらは「反魔力」と言うらしい。イヴ、「反魔力」について何か心当たりはないかい?」

 「いや、「反魔力」という言葉は妾も初めて耳にする言葉だ。連中の体内に宿る、あの不安定で気色悪い力が、その「反魔力」とやらであるのは間違いなかろう。盗んだ魔導書とやらに書いてあった魔術を使った、というセリフから察するに、禁術扱いされる魔術を使って、あのような気色の悪い姿と力を手に入れたに違いない。婿殿は実際に見ておらぬから分からんだろうが、元「槍聖」たちの姿は明らかに人間ではない。おまけに、奴らの口の周りには血がたっぷりと付いていた。つい今しがた、人間を食っていたと思われる。あれは間違いなく人ではなく、食人鬼という名のモンスターだ。本当に吐き気がする連中だ。最後のハーレムを作って己の性欲をぶつけたいなどと妄言を口にする連中の姿は、気持ち悪くてしょうがなかった。あのような性犯罪者予備軍をこのアダマスに呼び込むなど、リリアの馬鹿さ加減にも呆れて物が言えん。」

 「闇の女神のイヴも知らない力か。禁術なんかに手を出して、人を食い殺すわ、海賊になって暴れるわ、つくづく救いようのない外道どもだ。外道を通り越した、人間すら辞めた化け物と言った方が正しいか?世界中の女の子たちでハーレムを作りたいとか、気色悪い願望をほざいていたな?「反魔力」の正体と弱点を掴んだら、速攻で連中全員、始末しよう。アイツらは一分一秒でも早く、この世からいなくなるべき害獣だ。」

 「全くその通りだ、婿殿。あの害獣どもをともに駆逐しよう。」

 僕とイヴは、ともに元「槍聖」たちという名の害獣を始末することを固く誓った。

 誰にも気づかれぬまま、大統領府を出ると、僕たちは首都の通りへと出た。

 時刻は午後2時。

 集合時間までは後、1時間も残っている。

 僕たちは首都を散策しながら、海賊団の偵察と、メルちゃんの捜索を行った。

 サーファイ連邦国唯一の冒険者ギルドである、サーファイ連邦国冒険者ギルド本部の様子も気になり、地図を頼りに、冒険者ギルド本部へと向かった。

 通りを東に向かって10分ほど歩くと、横長で三階建ての、木製の、三角屋根を持つ高床式の大きな建物が見えた。

 入り口は木製の両開きとなっていて、入り口前には木の階段がある。

 入り口の上の方には、「サーファイ連邦国冒険者ギルド本部」という看板がかかっている。

 冒険者ギルド本部の入り口前には、先に酒吞が来ていた。

 僕は酒吞に声をかけた。

 「お疲れ様、酒吞。君もこっちに来ていたんだね。メルちゃんの行方について、何か手がかりは見つかったかい?」

 「お疲れ、丈。メルとか言う女の子の行方はさっぱりだ。路地裏とか家の軒下とか、色々見て回ったんだが、収穫なしだ。5歳の女の子が隠れそうな場所は一通り当たってみたんだがな。誰かが家の中に匿ってる可能性もあるが、海賊どもが民家の中に押し入って必死に探し回っているところを見ると、その線は薄いかもな。」

 「そうか。もしかしたら、メルちゃんは誰かの手引きで首都の外、あるいは島の外に脱出しているかもしれないな。こっちはある程度、収穫があったよ。元「槍聖」たちが手に入れた未知の力とやらについて、色々と情報を手に入れてきた。後、連中もやはりメルちゃんを探してはいるが、発見には至っていないそうだ。ところで、ギルドの中にはもう入ってみたのか?」

 「ああっ。だけど、手遅れだったぜ。ギルドの中は死体だらけだ。生きている人間は誰もいねえ。冒険者もギルドの職員も全員、殺されてるぜ。海賊どもめ、敵になりそうな奴は容赦なく皆殺しにしたみてえだ。冒険者までいなくなったらモンスターの討伐やら護衛やらの依頼が滞って、国の治安が悪化するのが分からねえのか?無法者の寄せ集めだけでまともな国の運営なんてできるわけねえってのによ。元「槍聖」どもが見境なしの馬鹿だってのがよく分かるぜ。」

 「冒険者ギルドまで壊滅させるなんて、アイツら馬鹿すぎるにもほどがあるだろ?酒吞の言う通り、この異世界じゃ軍隊だけでなく冒険者までいなくなったら、国の治安は維持できない。モンスターや賞金首の犯罪者どもが暴れて、国の治安は乱れてたちまち国は崩壊することになりかねない。一刻も早く、元「槍聖」たちと海賊団を退治して、サーファイ連邦国政府の立て直しをしないといけない。」

 僕たちが話をしていると、「お~い!」という声が後ろから聞こえてきた。

 声の主の正体は、グレイだった。

 僕たちに駆け寄るなり、グレイは話し始めた。

 「はぁはぁ。ジョーと姉御たちもお疲れ。街の中を走ってそこら中探すけど、隠れている女の子なんて、どこにもいねえぜ。通りにも公園にも、子供の姿は全く見えねえ。海賊どもがうろついている以上、家から迂闊に出られねえだろうし、当然だろうな。街の教会も見に行ったが、子供を匿っている様子じゃねえ。それどころか、教会の孤児院にいた子供たちの何人かが海賊に攫われたと言って、教会のシスターたちが泣いていたぜ。何でも、海賊の首領の命令で、女の子ばかり攫われたんだとよ。元「槍聖」たちがロリコンだの、変態だの、ジョーが言ってた話は本当らしいな。聞いてて、マジで気分が悪くなったじゃんよ。」

 「お疲れ、グレイ。教会の孤児たちが、それも女の子ばかり攫われたか。沖水たちめ、攫った女の子たちにレイプなんてしようものなら、タダじゃおかないぞ。まさか、女の子たちを食料として食べていないだろうな?大統領府に女の子は監禁されていなかった。ということは、女の子たちは別の場所に監禁されている可能性があるな。攫われた女の子たちの救出も必要だ。報告ありがとう、グレイ。」

 グレイからの報告を聞き、僕はその場で考え込んだ。

 「元「槍聖」たちに関する情報は掴んだ。後は、メルちゃんの行方だ。元「槍聖」たちはいまだにメルちゃんを発見できずにいる。首都の中を探すが、メルちゃんらしい、隠れている女の子の姿は見えない。となると、メルちゃんはすでに首都の中にはいない、どこか別の場所で誰かに匿われている可能性が高い。サーファイ連邦国自体は100以上の島々で構成されている国だ。元「槍聖」たちでも全ての島を隈なく探すのは大変だ。メルちゃんが国外に脱出している可能性も十分ある。他の国の大使館に避難している可能性は低いな。大使館に逃げ込む可能性は、沖水たちでも考えつきそうだし。だけど、マーレ大統領含む政府の首脳陣は皆、殺された。元「槍聖」たち率いる海賊団が自慢の海軍を破るとは思っていなかった。海賊たちの進撃は予想外のことだった。奇襲を受けて逃げる暇もなかった。ということは、マーレ大統領は自分が囮になっている間に、秘かにメルちゃんを逃がしたわけだ。大統領府にも秘密の脱出口があるに違いない。メルちゃんはそこから脱出したに違いない。メルちゃんの足取りに関する手がかりが掴めるかもしれない。」

 僕はメルちゃんの足取りに関する手がかりが大統領府にあるかもしれない、そう考えた。

 そんな僕の呟きに、酒吞が反応した。

 「だけどよ、丈。大統領府に秘密の逃げ道があることくらい、元「槍聖」たちでも思いつきそうなことだろ?とっくに秘密の逃げ道を見つけて、調べてる可能性だってあるんじゃねえか?今更調べたところで、大した手がかりは見つからねえと思うが?」

 「確かにその可能性はある。けど、さっき、酒吞、君は海賊たちが民家の中を家探ししていると言っただろ?秘密の脱出口の出口を設けるなら、首都の外れか、あまり人の立ち寄らない遠くの場所に設けるのが普通だとは思わないか?そこからより遠くへと逃げるのがセオリーだ。首都の中心付近に脱出口を設けたりはしないはずだ。それなのに、海賊たちは首都の中の民家を家探ししていた。つまり、元「槍聖」たちは大統領府にある秘密の脱出口の入り口を見つけることができなかった可能性がある、そうは考えられないか?」

 「なるほど、そう言われるとそう思えなくもねえな。わざわざ首都の中で家探しなんかする必要はねえはずだ。さすがは俺たちのリーダー、俺のご主人様だ。頭が冴えてるぜ。」

 「ふむ。婿殿の推測は当たっているやもしれん。邪な妄想に耽って、力押しの作戦しか思いつかん連中なら、十分あり得る話だ。さすがは妾の婿殿だ。」

 「アタシもジョーの考えに賛成だ。ド変態の頭のイカれた食人鬼どもに、秘密の脱出口を見つけるほどの頭はねえと見た。さすがは「黒の勇者」様、クソ勇者どもとは頭の作りが違うってか。」

 「あくまでまだ推測の域を出ないよ。でも、大統領府に秘密の脱出口があって、元「槍聖」たちが入り口を発見できていない、その可能性があるかもしれない、という話だ。確証があるわけじゃあない。とにかく、もう一度大統領府に行ってみよう。」

 僕、イヴ、酒吞、グレイの四人は、歩いて大統領府へと向かった。

 大統領府の前に着くと、僕はイヴに千里眼で大統領府の中を透視するよう、頼んだ。

 「イヴ、君の千里眼でもう一度、大統領府の中を詳しく透視してくれ。どこかに秘密の脱出口があるはずだ。」

 「任せよ、婿殿。」

 イヴはそう言うと、千里眼で大統領府の中を隈なく透視し始めた。

 そして、10秒ほど経つと、急に笑い始めた。

 「プッ、プハハハっ!傑作だ!元「槍聖」たちは相当間抜けだな!あんなすぐ近くに秘密の脱出口があるのに気付かんとは、馬鹿丸出しではないか!」

 爆笑するイヴに、僕は訊ねた。

 「イヴ、秘密の脱出口があったんだな?どこにあったんだ?」

 「アハハハっ。ああっ、婿殿。婿殿の推測どおり、秘密の脱出口があったぞ。秘密の脱出口だが、先ほど妾たちが盗聴した大統領執務室の中だ。正確には、執務室の本棚の裏だ。壁一面に造り付けの本棚がある。その本棚の一部が押すと開く仕組みだ。そして、脱出口に入ると、脱出口の通路側から鍵をかけられる仕組みだ。中々巧妙な細工が施してある。連中め、自分たちの目と鼻の先に秘密の脱出口があるのに全く気が付かんとは、正に傑作だ。そうは思わんか、婿殿?」

 「そりゃ、確かに傑作だ。やっぱり大統領執務室の中にあったか。僕だったら、もう少し疑って探すぞ。アイツら、国を乗っ取るのに成功したもんだから、調子に乗って、碌に探そうとはしなかったんだろうな。自分たちがふんぞり返って居座っている部屋に秘密の脱出口があるのに全く気が付かないなんて、本当に馬鹿だな。自称ゲーマーなら、隠し通路を探すゲームだってよくやっていただろうに。リアルと空想の違いが分かっていない証拠だ。犯罪のプロである海賊の部下を使って入念に調べさせればいいものを、ゲーム感覚が抜けきらず、ゲームの知識とか言う大した根拠のないものからきた無意味な自信を振りかざして、現実の世界を認識できていないと見える。それで、イヴ、脱出口はどっちの方角に続いているんだ?」

 「方角からして、ちょうど大統領府の北側に向かって地下を通るように通路が続いておる。妾が先頭に立って案内する。付いてくるがいい。」

 「助かるよ。じゃあ、案内を頼む。」

 それから、僕たち四人はイヴの案内に従って、秘密の脱出口の地下通路を辿って歩いた。

 大統領府から北に歩いて30分ほど進むと、首都の外れにあるひっそりとした墓地が目の前に見えてきた。

 イヴを先頭に、僕たちは墓地の中へと入っていった。

 「イヴ、墓地の中に入ったけど、もしかして、この墓地の中に秘密の脱出口の出口があるのか?」

 「その通りだ、婿殿。墓石の一つが出口となっているようだ。それに良いニュースがもう一つある。出口から続く階段の下に、青い髪の幼い女の子が見える。もちろん、生きておる。恐らく、探していたメル・アクア・ドルフィンで間違いない。」

 「やった!メルちゃんが見つかった!メルちゃん以外に他に人はいるのか?」

 「いや、女の子以外に姿は見えん。女の子一人だけだ。」

 「そうか。でも、どうしていつまでも墓の下に隠れているんだ?何か事情があるのか?とにかく、急いで保護しよう。」

 そうして、僕たちはメルちゃんが隠れている、秘密の脱出口の出口となっている墓石の前へと着いた。

 見た目は、白い大理石で作られた、キリスト教風の、普通のお墓に見える。

 「出口には鍵はかかっておらん。左に向かって墓石をスライドさせる仕組みらしい。」

 「分かった。じゃあ、開けてみるとしよう。」

 イヴのアドバイスを聞き、僕は墓石を左にスライドさせた。

 墓石は大した力を込めずとも、すんなりと横に動いた。

 墓石をスライドさせると、墓石の下から地下へと下りる階段が現れた。

 僕たちはゆっくりと階段を下りていった。

 階段を下りると、薄明りに照らされた地下通路が現れた。

 そして、階段のすぐ傍の通路の壁に、小さい女の子がもたれかかって、座っていた。

 「認識阻害幻術、解除!」

 僕は認識阻害幻術を解除し、小さい女の子へと近づいた。

 突然、目の前に現れた僕たち四人に、女の子は驚き、怯えた表情で僕たちを見てきた。

 「お、お兄ちゃんたち、誰なの?」

 身長は110cmくらいで、青いミディアムボブの髪型に、ぱっつんと切り揃えられた前髪が特徴的な、二重瞼のつぶらな青い瞳、褐色の肌、汚れた白いワンピースに、白いサンダルという姿の、可愛らしい女の子、いや、幼女が震えた声で訊ねてきた。

 僕は幼女の前でしゃがむと、笑いながら声をかけた。

 「僕は宮古野 丈。ジョーとみんなは呼んでくれる。お兄ちゃんたちは悪い海賊じゃないから、安心して。君はメル・アクア・ドルフィン、メルちゃんだよね?お兄ちゃんたちは冒険者をしていて、悪い海賊から君を助けに来たんだ。お兄ちゃんたちが傍にいるから、もう大丈夫だよ。」

 「ホ、ホント?悪い海賊さんじゃないの?おばあちゃんが知らない人に付いていっちゃ駄目だって言ってたの。」

 「ええっと、そうだねぇ。メルちゃん、文字は読めるかな?お兄ちゃんは「アウトサイダーズ」って言う、ちょっとだけ有名なSランクパーティーのリーダーをやってるんだけど、ギルドカードを見たら分かるかな?」

 僕はそう言うと、ジャケットの内側の左の胸ポケットから、自分のギルドカードを取り出すと、メルちゃんにカードを渡した。

 「ほら、見てごらん。「アウトサイダーズ」ってパーティーネームが書いてあるのが分かるかな?」

 渡した僕のギルドカードをじっと見つめると、メルちゃんは驚き、声を上げた。

 「本当なの!「アウトサイダーズ」って書いてあるの!Sランクって書いてあるの!すごいの!おばあちゃんが言ってたの!「アウトサイダーズ」って言う、すっごく強い人たちがいるって!「黒の勇者」様って言う勇者様がいるって言ってたの!」

 「お兄ちゃんたちのこと、信じてもらえたかな?ちなみに、お兄ちゃんがその「黒の勇者」様なんだ。ほら、髪も目も服も真っ黒だろ。」

 「本当なのー!お兄ちゃん、真っ黒なの!「黒の勇者」様は真っ黒だから、「黒の勇者」様って呼ぶんだって、おばあちゃんが言ってたの!」

 「お兄ちゃんたちが嘘を付いていないことは分かっただろ?お兄ちゃんたちはメルちゃんを悪い海賊たちから守るよう、偉い人たちから頼まれて助けに来たんだ。お兄ちゃんたちに付いてきてくれるかな?」

 「分かったなの!お兄ちゃんたちに付いて行くなの!」

 「よし、じゃあ、ちょっと待っててね。認識阻害幻術!」

 僕は右手を突き出すと、認識阻害幻術を、メルちゃんを含む全員にかけた。

 透明な薄い膜が僕たちの全身を包んだ。

 「お兄ちゃん、何したの?」

 首を傾げて不思議そうな表情を浮かべながら訊ねてくるメルちゃんに、僕は答えた。

 「うん。今ね、メルちゃんとお兄ちゃんたちに、透明になる魔法をかけたんだ。メルちゃんの姿も声も、海賊たちには分からなくなるんだ。メルちゃんは透明人間になったんだよ。」

 「本当!?メル、透明人間になったの?お兄ちゃん、透明になる魔法が使えるの?すごいなの!」

 「ありがとう。これから一旦街の中に戻るから、メルちゃんが本当に透明人間になったか、試してみようか。お兄ちゃんたち以外の人にはメルちゃんは全く見えないから、びっくりすると思うよ。でも、いたずらしたら気付かれちゃうから、絶対に他の人に触ったりしちゃいけないよ。いたずらは禁止。それじゃあ、行こうか。」

 僕は立ち上がると、メルちゃんに左手を差し出した。

 メルちゃんも立ち上がり、僕の手を取った。

 僕はメルちゃんと手をつなぐと、一緒に階段を上り、外へと出た。

 他のメンバー三人が外に出ると、墓石を元に戻しながら、僕はメルちゃんに酒吞たちを紹介した。

 「メルちゃん、お兄ちゃんの仲間を紹介するね。赤い髪のお姉ちゃんが酒吞、銀髪の狼の耳が生えたお姉ちゃんがグレイ、紫の髪のお姉ちゃんがイヴ。みんな、とっても強くて優しいお姉ちゃんたちだからね。」

 「メル、だな。俺は酒吞だ。よろしくな。」

 「アタシはグレイ。狼獣人だ。よろしく。」

 「妾はイヴ。「黒の勇者」の妻だ。遠慮なく妾に甘えるがいい、幼子よ。」

 酒吞、グレイ、イヴがそれぞれメルちゃんに自己紹介をした。

 酒吞たち三人が自己紹介をした途端、メルちゃんがサッと僕の後ろに隠れた。

 「メルです。5歳です。よろしくお願いします、なの。」

 メルちゃんは少し照れた様子で、小声で自己紹介をした。

 メルちゃんは少々、恥ずかしがり屋さんらしい。

 そういえば、僕も5歳の頃はこんな感じだったな。

 いまだにコミュ障で、冗談も碌に言えない、会話力のない17歳なのだが。

 「丈の小さい頃を思い出すな。丈も小さい頃は人見知りで、こんな感じで挨拶してたっけな。」

 「へぇー。ジョーの小さい頃ってこんな感じだったのか。さすがは酒吞の姉御、十年来の付き合いっすね。」

 「ほぅ。婿殿の幼い頃はこのような感じか。と言うことは、妾と婿殿の子供も少々、人見知りなところがあるな。子育ての参考になる。」

 「おい、イヴ。お前と丈がさらっと子育てするとか言ったが、俺はそんなの認めねえからな。お前が丈と子育てする日は当分来ねえと思っとけ。保護者の俺がいる内は許可しねえからな。」

 「イヴ、女神だからって調子に乗るなよ。お前はパーティーの中じゃ新人なんだからな。アタシらに抜け駆けしてジョーと子作りしようとしてみろ。半殺し程度じゃすまねえからな。分かったな?」

 「フン。妾と婿殿は夫婦だ。いつ、どこで子作りしようが、妾と婿殿の勝手だ。お前たちに指図を受けるおぼえはないな。邪魔できるものなら、邪魔してみるがいい。無駄だがな。」

 急に子育てだの、子作りだのの話になり、酒吞、グレイ、イヴが険悪な雰囲気を出している。酒吞とグレイがイヴを怖い顔で睨みつけ、イヴも二人を睨み返している。

 「お姉ちゃんたち、怖い、なの。」

 メルちゃんが険悪な酒吞たち三人を見て、怯えている。

 「三人とも、止さないか。メルちゃんが怖がってるだろ。そんな怖い顔をしていたら、メルちゃんに嫌われるぞ。後、僕が家庭を持つことは当分ないからな。一生ないかもしれないけど。とにかく、喧嘩は止めるように。」

 僕は三人に向かって注意した。

 「メル、ごめんな。俺たちはもう喧嘩してないからな。怖がらなくていいからな。」

 「ごめんな、メル。アタシらはもう喧嘩は止めたからよ。ほら、この通り怖くないじゃんよ。」

 「メルよ。妾たちは喧嘩を止めた故、安心せよ。妾は優しい女神なのだ。」

 僕に注意され、喧嘩を止めて、無理やり笑顔を作って、メルに笑いかける酒吞たちであった。

 「メルちゃん、怖がらなくて大丈夫だからね。お姉ちゃんたちはよく喧嘩もするけど、本当は仲良しなんだよ。本当に優しいお姉ちゃんたちだから、安心して。」

 「分かったなの。お兄ちゃんが言うなら、本当なの。」

 「良かった。それじゃあ、一緒に街に向かおうか。もう一人、優しいお姉ちゃんがメルちゃんを待っているからね。メルちゃんもきっと大好きになると思うよ。」

 「もう一人、お姉ちゃんがいるの?早く会いたいなの。」

 「よ~し。じゃあ、行こっか。」

 僕はメルちゃんの手を引きながら、酒吞たちとともに、首都の中へと戻った。

 途中、海賊たちとすれ違ったが、僕やメルちゃんに気付くことはなかった。

 「すごいの。怖そうな人たちも、誰もメルたちに気付かないの。本当にメル、透明人間になったの。」

 「そうだろ?メルちゃんは本当に透明人間になったんだよ。これで、悪い海賊も怖くはないだろ?」

 「うん。全然怖くないなの。」

 メルちゃんは笑顔で僕に返事をした。

 午後三時過ぎ。

 待ち合わせ場所である、路地裏へと到着した。

 上空からの偵察を終えた鵺が、先に来ていた。

 「お疲れ様、鵺。こっちは大収穫だ。元「槍聖」たちに関する新情報が手に入った。それに、メルちゃんを無事、見つけることができたよ。紹介するよ。この子がメルちゃんだ。メルちゃん、この銀髪のお姉ちゃんが鵺お姉ちゃんだよ。」

 僕は労いの言葉をかけながら、鵺にメルちゃんを紹介した。

 「お疲れ、丈君。その子がメルちゃん?見つかって本当に良かった。初めまして、メルちゃん。私は鵺。丈君の従者で仲間。よろしく。」

 鵺が微笑みながら、メルちゃんに自己紹介をした。

 「メルです。5歳です。よろしくお願いします、なの。」

 メルちゃんが照れながら、鵺に自己紹介をした。

 「何、この子可愛い。ちっちゃい頃の丈君にそっくり。マジ天使。」

 鵺がメルちゃんを見て、うっとりとした表情を浮かべている。

 「お姉ちゃんの目、とっても綺麗なの。緑色のきれいなお目目なの。」

 オッドアイの、鵺の緑色の瞳を見て、メルちゃんが褒めるように呟いた。

 「私の目が綺麗?そんなことを言ってくれる子は初めて。ありがとう。すごく嬉しい。」

 そう言うと、鵺はメルちゃんをゆっくりと抱きしめた。

 「僕も鵺の、オッドアイの瞳は綺麗だと思うよ。エメラルドカラーって言うのかな?綺麗な緑色をしているなぁと、いつも思うけど。」

 「ありがとう、丈君。丈君にも褒めてもらえて嬉しい。今日は忘れられない一日になった。本当にすごく嬉しい。」

 鵺はメルちゃんを抱きしめながら、嬉しそうな表情を浮かべている。

 「鵺、嬉しいのは分かるけど、そろそろメルちゃんを離してあげてくれ。任務はひとまず完了した。みんなで船に戻るとしよう。イヴ、「海鴉号」まで僕たちを転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴはそう言うと、右手の指をパチンと鳴らした。

 目の前の光景がグニャリと歪んだ後、僕たち六人は「海鴉号」のデッキの上へと転送された。

 僕たちが帰ってきたのを見て、玉藻、グレイ、マリアンヌの三人が駆け寄ってきた。

 「お疲れ様です、丈様。手をつないでいらっしゃるそちらの女の子が、探していたメルちゃんですね?」

 「ただいま、玉藻。この子がメルちゃんだ。メルちゃん、金色の髪に狐の耳を生やしているこのお姉ちゃんが、玉藻だよ。それと、黄色い髪にライオンの耳を生やしているお姉ちゃんがエルザ、金髪縦ロールのお姉ちゃんがマリアンヌだ。このお姉ちゃんたちもお兄ちゃんの仲間なんだよ。」

 僕はメルちゃんに、玉藻、エルザ、マリアンヌをそれぞれ紹介した。

 「初めまして。メルです。5歳です。よろしくお願いします、なの。」

 メルちゃんが自己紹介をして、三人にペコリと頭を下げた。

 「初めまして、メルちゃん。私は玉藻と申します。よろしくお願いします。」

 「初めまして、メル殿。我はエルザ・ケイ・ライオンだ。よろしく頼む。」

 「初めまして、メルさん。私はマリアンヌ・フォン・インゴットです。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 玉藻、エルザ、マリアンヌの三人が、メルちゃんに、それぞれ自己紹介をした。

 「三人とも、メルちゃんのことをよろしく頼む。早速で悪いが、玉藻、メルちゃんをお風呂に入れてあげてくれ。念のため、体に異常がないか、診察も頼む。鵺、メルちゃんがお風呂に入っている間に、君の能力でメルちゃんの服を洗濯してほしい。エルザ、メルちゃんのために何か、軽食を作ってあげてほしい。マリアンヌ、元「槍聖」たちに関する新情報を集めてきた。至急、インゴット王国政府にこれから話すことを伝えてほしい。酒吞、船の操縦を頼む。グレイとイヴはデッキから周囲の監視を頼む。みんな、よろしく頼んだよ。」

 「「「「「「「了解!」」」」」」」

 僕たち「アウトサイダーズ」の面々は、それぞれ自分の任務を遂行するべく、行動を開始したのだった。

 海賊団の偵察も、メルちゃんの捜索も無事、成功した。

 メルちゃんを保護できて、僕も他のみんなもホッとしている。

 後は、元「槍聖」たち一行の手に入れた未知の力、「反魔力」とやらの正体を掴み、対抗策を練って、海賊団諸共連中を始末するだけだ。

 今に見ていろ、沖水。

 お前も、お前の仲間たちも全員まとめて地獄に送ってやる。

 チート能力を手に入れたと言って浮かれているお前たちを、絶望のどん底に叩き落としてやる。

 異世界で無双する、そんなお前たちの幻想を木っ端微塵にこの僕がぶち壊してやる。

 お前たち全員、異世界で破滅するんだ。

 僕は、異世界への新たな復讐に向けて一歩踏み出したのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る