【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~
第二話 【処刑サイド:槍聖外その仲間たち】槍聖たち、禁断の力を手に入れる、そして、人食い海賊団となる
第二話 【処刑サイド:槍聖外その仲間たち】槍聖たち、禁断の力を手に入れる、そして、人食い海賊団となる
時は遡り、勇者たちが王都を壊滅させ、犯罪者としてインゴット王国に捕まり、そして、王城の地下牢から脱獄した日のこと。
勇者たちは脱獄した後、一時カナイ村の森に潜伏していたが、王国や冒険者ギルドから犯罪者として指名手配され、その上、ギルドによって制限措置を施され、勇者たちは勇者のジョブを失い、ジョブが「犯罪者」になり、レベルも0になってしまった。
その事実にショックを受け、勇者たちはリーダーの「勇者」島津と対立、ついに分裂してしまったのであった。
勇者たちの分裂後、「大魔導士」姫城たち一行や「聖女」花繰たち一行同様、ダンジョン攻略に動き始めた勇者の一団があった。
「槍聖」にして「水の勇者」沖水 流太率いる男性7名からなる勇者一行であった。
「槍聖」沖水たち一行は、「槍聖」沖水の指示の下、カナイ村を出て、一度王都へと戻った。
非常線は張られていたが、王都壊滅を受け、警戒に当たる騎士たちは少なかった上、インゴット王国の騎士たちの国への忠誠心は存外低かった。
インゴット王国の宝物庫から盗んだ現金1億リリスも沖水たち一行の手元にあったため、盗んだ金を使って警備をしていた騎士たちを買収し、沖水たち一行はあっさりと王都の中へと侵入した。
王都は沖水たち一行や他の勇者たちのせいで、建物の多くは倒壊し、怪我人や難民で溢れていた。
だが、沖水たち一行は我関せずと言った表情で、悠々と王都の街中を歩いて行く。
沖水たち一行は、王都の中心部にある、インゴット王国国立図書館へと向かった。
インゴット王国国立図書館は、世界最大の蔵書量を誇る、世界最大の国立図書館である。蔵書量は約4億冊。文学、魔術、錬金術、武術、政治、経済、美術、医学、法律、宗教、歴史、地理など、世界中のあらゆるジャンルに関する本が収められていて、インゴット王国が誇る教育文化施設兼観光施設でもある。
沖水たち一行がインゴット王国国立図書館の前にやって来ると、前日の「ボナコン・ショック事件」の影響を受けて、図書館の壁はボナコンたちの攻撃を受けて大きな穴がいくつも空いていた。
その影響で当然、博物館は急遽、閉館となっていた。
図書館に空いた壁の周りには騎士たちが数十人ほどいて、貴重な図書館の本が盗まれないよう、火事場泥棒による盗難被害を防ぐため、警備に当たっていた。
沖水たち一行は図書館の向かいの通りの物陰に隠れて、図書館の様子を窺っていた。
「おい、リーダー、図書館の前なんて来てどうすんだよ?本当にリーダーの言う、チートアイテムが図書館なんかにあるのか?」
「槍術士」
「もちろんなり、吉尾氏。まぁ、我が輩のやることを黙って見ているなり。」
そう言うと、沖水は腰のアイテムポーチから、ピンククリアー色の小さな丸い、通信連絡用の魔法の水晶玉を一つ取り出した。
沖水が水晶玉に向かって話しかけた。
「もしもし、我が同志よ、聞こえるでござるか?」
『もしもし、こちら同志よ。合言葉を聞かせてもらおう。女神リリスは、』
「Eカップ、なり。」
『よろしい。我が同志よ。この私に何の御用ですかな?』
「我が同志よ。貴殿のお力で、国立図書館の禁書庫の中に入れてもらいたいのでござる。もちろん、報酬はたんまり払うなり。」
『分かりました。では、今晩、夜12時に、図書館の裏の通用口でお待ちしています。くれぐれも他の人間には見つからないよう、気を付けてお越しください。』
「了解でござる。」
そうして、沖水は、謎の人物との通信を終えた。
謎の人物の声は、中年の男性の声であった。
「リーダー、今、話して奴は誰なんだ?本当に信用して大丈夫なんだろうな?国王たちにチクられてパクられることはないよな?」
沖水と、謎の人物の会話を聞いて不安を口にしたのは、「槍術士」
「グフフフ。心配無用でござる。今話した男は、我が輩、いや、我が輩たち全員の同志なり。皆の者、以前、我が輩が貴殿らに渡した、異世界のエロ写真をおぼえているなりか?」
「ああっ。リーダーが闇ギルドで入手してきたって言う、デカい銀板でできた、エロ写真みたいな板のことだろ。毎晩、お世話になってるよ。」
エロ写真のことについて答えたのは、「魔術士」
「グフフフ。そのエロ写真を作る技術を提供したのは、実はこの我が輩なのでござるよ。今、話をしていた男は、エロ写真を製造、販売する裏ビジネスの元締めをやっている男なり。正に我が輩たちの同志たる存在なり。」
「ハハハ。なるほどね。異世界に写真はないって聞いてたのに、エロ写真みたいな板を入手してきたかと思ったら、リーダーの仕業だったのか。確か、リーダーの家は写真屋だったよな?さすがは写真屋の息子だ。レトロだけど、あのエロ写真は確かにヌケるよ。マジで僕好みの貧乳女子の裸が鮮明に写ってるもんな。ナイス発明だよ。」
エロ写真の感想を述べたのは、「魔術士」
「そうなり、そうなり。我が輩が闇ギルドでエロ本の類を物色している時、例の男に出会い、意気投合したなり。それから、訓練の休みの日にその男と一緒にエロ写真作りを行い、最初に完成した何枚かを貴殿らに無料で配ったなりよ。レトロにしては、クオリティを極限まで追求した我が傑作でござる。」
「そういうことなら、僕たちにも教えてくれたっていいじゃないか?僕の好きなヤンキーっ娘やビッチ系女子の写真が撮りまくれたわけだろ?ずるいなぁ、リーダーだけ。僕なんかわざわざ闇市に通い詰めて、買いに行ったんだぞ。元締めを紹介してくれたら、もっと安く買えたじゃないかよ。」
エロ写真をもっと安く買えたのではないか、そう不満をこぼすのは「弓術士」
「そう怒らないでほしいなり。我が輩と元締めとの関係は、誰にも知られない必要があったなり。写真のモデルは全員、闇ギルドの扱う奴隷の女たちなり。我が輩たちが持つエロ写真も無許可で製造、販売している品なり。万が一、勇者である我が輩たちが違法なエロ写真の販売や所持に関わっているとバレたら、もっと前に逮捕されていた可能性があったでござる。まぁ、話ではこの国の貴族や大商人もこぞって我が輩が技術提供したエロ写真を買っているとのことであるから、厳罰に処された可能性は低いであろうが。」
「フヘヘヘ。リーダーの作ったエロ写真は正に芸術だよ。僕の大好物の筋肉っ娘の裸が、細部までくっきり写ってるんだからね。引き締まった手足も、見事に割れた腹筋も、ほんのりと筋肉の乗った胸も、全部最高だよ。僕なんか、3,000万リリアも課金しちゃったもんね。」
エロ写真を、大金をはたいて購入したと言うのは、「回復術士」
「フハハハ。さすがは金田氏。我が輩たち紳士同盟の鑑なり。エロ写真を買うために小遣いのほとんどをつぎ込むとは、見事な変態紳士ぶりなり。いずれ、我が輩が天下をとったその時は、貴殿に最高の筋肉っ娘ハーレムをプレゼントするなり。さぁ、我が輩たちの異世界での逆転、成り上がりストーリーはここから始まるなり。」
「犯罪者」から元の勇者へと戻り、異世界で無双し、天下を取るという野望を叶えるべく、闘志を燃やす元「槍聖」たち一行であった。
深夜12時。
沖水たち一行は、謎の人物の言葉に従い、国立図書館の禁書庫に入るべく、国立図書館の裏手の通用口へと向かった。
通用口の周りには、騎士や警備員の姿は見当たらない。
沖水たち一行は通用口のドアの前へと、音を立てずにこっそりと歩いて向かった。
通用口のドアの前に着くと、沖水はドアを三回、ノックした。
「合言葉を聞かせてもらおう。女神リリアは、」
「Eカップ、なり。」
沖水が合言葉を答えると、通用口のドアが開き、中から40代前半の、ちょび髭に顔に丸眼鏡をかけた、商人風の男性が、沖水たち一行を出迎えた。
「ようこそ、我が同志よ。さぁ、早く中にお入りなさい。お待ちしていましたぞ、オキミズ氏。」
謎の男性に案内され、沖水たち一行は国立図書館の中へと入った。
「しばらくぶりでござるな。我が同志、ワイヒー氏よ。ビジネスの方は上手くいっているでござるか?」
ワイヒーと呼ばれたその男は、沖水の問いに答えた。
「ええっ、おかげさまで。あなたが提供してくれたダゲレオタイプカメラと写真の技術は実に素晴らしい。ほんの2、30分ほどで精巧な女性の裸体を銀板に写し取るあの技術は正に神の贈り物。出来上がる写真は正にこの世で最も美しい芸術品ですよ。異世界の素晴らしい技術を提供してくださったあなたには尊敬と感謝の念が絶えませんよ。エロ写真の販売ビジネスを始めてからわずか2カ月で5,000億リリス超の売り上げを得ることができました。従来の画家に書かせていた油絵のポルノ本の売れ行きよりずっと好調ですよ。むしろ、今やエロ写真の方がビジネスの主力になっています。ところで、禁書庫に御用があるそうですね?」
「そうなり。貴殿も知っての通りでござるが、我が輩たちは無能な他の勇者どもの起こした悪事のために無実の罪を被せられ、勇者の力を奪われ、犯罪者となって逃走する身なり。全ては無能な勇者筆頭の「勇者」のせいなり。そこで、ジョブが「犯罪者」となり、レベルが0になってしまった我が輩たちが元の勇者に戻るため、パワーアップするための方法が禁書庫にあると思い、館長である貴殿に禁書庫の案内を頼みたいでござる。」
「そうですねぇ。我が同志にして盟友であるオキミズ氏の頼みとあっては断れませんな。勇者に戻るため、パワーアップするための本をお求めとのことですな?でしたら、禁書庫にいくつか、パワーアップの方法に関して記載されているかもしれない、禁術を記した魔導書がございます。そちらをお渡ししましょう。ただ、お望みの本が見つかるかは保証いたしかねますが、それでも構いませんかな?」
「構わんなり。よろしく頼むなり。」
「分かりました。では、私の後に付いてきてください。ご案内いたします。」
そう言うと、ワイヒーは沖水たち一行を、国立図書館の禁書庫へと案内するのであった。
このワイヒーと言う男こそ、沖水によってもたらされた写真の技術を用いて、闇ギルド、ブラックマーケットを通じてエロ写真を販売する裏ビジネスの元締めである。そして、インゴット王国国立図書館の最高責任者である、図書館館長でもあるのだ。
ワイヒー館長に案内され、沖水たち一行は厳重に施錠された両開きの重い扉のある、大きな部屋の前へとやってきた。
「この部屋が禁書庫になります。インゴット王国政府により、禁術指定された魔術が記載された魔導書など、禁書扱いされた本が多数ございます。今や、発行、出版が禁止され、絶版となった本も多くございます。エロ写真には劣りますが、有害図書指定された貴重なエロ本も所蔵されています。ささっ、どうぞ中へ。」
ワイヒー館長がマスターキーで鍵を開けると、ワイヒー館長に案内され、沖水たち一行は禁書庫の中に入った。
禁書庫の中は、巨大な本棚がいくつも並び、無数の本が棚に並んでいた。
「禁書庫の蔵書量は約4,000万冊に上ります。この莫大な本の山から目的の本を皆様だけで探すのは大変でしょう。それに、禁書庫の本は本来、図書館の一部の職員、あるいは王国の重鎮たちにしか閲覧を許可されておりません。持ち出しも厳禁とされております。禁書庫の本を紛失したとあっては騒ぎになります。そこで、僭越ながら、館長であるこの私が皆様にふさわしい本を一冊、プレゼントさせていただきます。少々、お待ちください。」
ワイヒー館長はそう言うと、一旦禁書庫の部屋を出て行った。
5分後、ふたたび禁書庫に戻ってきたワイヒー館長は、手にリストを持っており、リストを見ながら、本を探していた。
それから5分後、黒い表紙の本を一冊手に持ったワイヒー館長が、沖水たち一行の下へとやってきた。
「お待たせしました、オキミズ氏。こちらが、私がお勧めする、パワーアップの魔術が書かれてあると思われる本です。」
そう言うと、ワイヒー館長は手にしていた黒い表紙の本を、沖水へと手渡した。
「これがパワーアップの秘策が書かれた本なりか?一体、どういった本なり?」
「この本のタイトルは「ドクター・ファウストの魔導書」、著者はドクター・ファウストと呼ばれる人物です。ドクター・ファウストは約2,000年前にいたインゴット王国出身の天才魔術師です。彼のあだ名は別名、「悪魔の天才科学者」。現在、世界各地で使用されている魔術の基礎技術の一端を作った人物と言われております。ですが、同時に、ドクター・ファウストの開発した魔術の中には、非人道的な研究や材料、手段を要する、禁術指定されるモノも多数あったと言われております。そんなドクター・ファウストが晩年、自身の研究成果の全てを記し、出版した本が、この「ドクター・ファウストの魔導書」です。当然、王国政府から検閲が入り、出版直後に出版を止められました。発売された本も王国政府によって全て回収され、廃棄処分となりました。絶版扱いとなったこの本の唯一残された初版本が、あなたにお渡ししたその本です。その本は別名、「悪魔の魔導書」と呼ばれ、かつてインゴット王国の軍や研究施設で利用されていたという、ドクター・ファウストの開発した禁断の魔術の数々が記されているのです。いかがでしょうか?」
ワイヒー館長の説明を聞き、沖水は興奮を隠せなかった。
「クックック。フハハハ!悪魔の魔導書、禁断の魔術、最高でござる!禁断の力とは実に素晴らしい響きなり!これぞ正に、我が輩が異世界を無双するために求めた、異世界のチート攻略本なり!この本と、我が輩たちの勇者の力、そして、聖槍さえ加われば、天下無敵なり!ワイヒー館長、この本はありがたく頂戴するでござる!貴殿の協力には本当に感謝する!」
「何を申しますか、我が同志。あなたとの出会いがなければ、私はエロ写真という至高の芸術に出会うことはできなかった。美しいお尻を持った美女たちの艶やかな姿を永遠にとどめることができる、素晴らしい技術を手にすることはできなかった。あなたと出会わなければ、私は一生、つまらないエロ本で満足しなければならない人生を送るところだった。本当にありがとう、オキミズ氏。」
「ワイヒー氏!」
「オキミズ氏!」
二人の変態は、ひっしと抱き合った。
そんな目の前の変態二人を見て、ちょっと引き気味の、吉尾たち六人であった。
「お、おい、リーダー。目的の本は手に入れたんだろ。なら、さっさと逃げようよ。じゃねえと、騎士たちに見つかって追い回されたら面倒だろ?」
吉尾が、ワイヒー館長と抱き合う沖水に向かって言った。
沖水とワイヒー館長は抱き合うのを止めた。
「吉尾氏の言う通りなり。すぐにでも王都から逃げる必要があるなり。ワイヒー氏、世話になったなり。この御礼はいつか必ずするでござる。」
「オキミズ氏もどうかお達者で。私はもうしばらくしたら、この図書館の館長を辞めて、サーファイ連邦国に移るつもりです。インゴット王国での商売は「ボナコン・ショック事件」の影響もあって売り上げが落ちていく可能性がありますし。サーファイ連邦国を新たな拠点にエロ写真を売る裏ビジネスを本格的に始めるつもりです。サーファイ連邦国には私の所有する別荘もあります。良かったら遊びに来てください。最高のエロ写真コレクションをご用意してお迎えいたしますので。」
「そうでござるか。我が輩たちもいずれダンジョン攻略のため、サーファイ連邦国へ向かうつもりなり。また会える日を楽しみにしているでござるよ、我が同志。」
「ドクター・ファウストの魔導書」を手に入れた沖水たち一行は、ワイヒー館長の手引きでインゴット王国国立図書館を出た。
それから、インゴット王国の首都の外へと出ると、歩いてカナイ村の近くの森まで戻った。
今朝、他の勇者たちと別れた森の廃屋の小屋へと戻ると、沖水たち一行は朝になるまで小屋の中で休んだ。
早朝になると、沖水は小屋に差し込んでくる朝陽を頼りに、一心不乱に、禁書庫から盗んできた「ドクター・ファウストの魔導書」を読み漁った。
食事もトイレもそっちのけで魔導書を読むこと、約7時間が経過した。
時刻は午後16時頃。
日が沈み始めた頃、沖水はあるページに目を止め、興奮しながら叫んだ。
「フハハハ!ついに、ついに見つけたなり!我が輩が異世界を無双するための禁断の魔術、禁断の力を!」
沖水の興奮した様子に、他の仲間たち六人が反応した。
「ついに見つけたか、リーダー!僕たちがパワーアップできる、禁断の魔術ってヤツを!それで、どんな魔術なんだよ!」
「クックック。志比田氏。驚くなり。その禁断の魔術の名は、「メフィストソルジャー」。この魔導書によると、メフィストソルジャーなる存在になると、あらゆる魔力を無効化できる「反魔力」という力を手に入れることができる、と書いてあるなり。メフィストソルジャーとなれば、魔力を使ったいかなる攻撃、防御、回復、魔法、スキルを無効化できるようになり、さらに戦闘を重ねるたびに急速なレベルアップが可能になる、と書いてあるなり。それから、反魔力は高い魔力を持つ存在ほど、その力は敵を死へと至らしめる猛毒のように作用するとも記されているなり。我が輩たちはこれより全員、ただちにメフィストソルジャーとなるのでござる!そして、「反魔力」というチート能力を得た、完全無欠、最強無敵の存在へと生まれ変わるのである!」
「リーダー、リーダーの言いたいことは分かった。だけど、それって禁術なんだろ?確か、リーダーが持ってるその本、「悪魔の魔導書」とか物騒なあだ名で呼ばれているんだろ?メフィストソルジャーとか反魔力とかがすごいのは分かるけど、本当に大丈夫なのか?ヤバい副作用とかないのかよ?」
「心配無用でござるよ、宮丸氏。この魔導書によると、メフィストソルジャーになった場合の副作用として、反魔力の代わりに肉体から通常の魔力を全て失うこと、反魔力で汚染した物しか食べられなくなること、反魔力を含んだ物質しか操作できなくなること、といったデメリットが書いてあるでござる。しかし、反魔力という力を手に入れることに比べれば、この程度の副作用、大したデメリットではないなり。反魔力で汚染した食べ物や水しか食べられなくなる、気になる副作用といったらそれぐらいでござるよ。圧倒的なチート能力を、異世界を無双できる禁断の力を手に入れるためなら、多少のリスクは覚悟する必要があるなり。このまま、犯罪者として落ちぶれた異世界人生を送りたい、と言うなら、好きにするなり。」
「いや、リーダーの言う通りだ。僕たちに他に、異世界で成り上がる方法も、生き抜く方法も他にはない。僕もメフィストソルジャーになるよ、リーダー。」
「その意気でござる、宮丸氏。他の皆はどうでござるか?」
沖水の問いに、宮丸以外の、残りの五人も、メフィストソルジャーになることを承諾した。
「では皆の者、早速メフィストソルジャーになる禁術を試すなり!」
それから、小屋の外に出ると、沖水は魔導書を読みながら、魔導書の内容通りに、聖槍のレプリカの穂先を使って、地面に魔法陣を書き始めた。
30分後、地面に大きな魔法陣が描かれた。
「皆の者、魔法陣の中に全員、入るなり。全員入ったら、床の魔法陣に手を当て、魔力を流すなり。魔法陣の上に結界が完成したら、第一段階の準備完了なり。」
沖水に指示を受け、他の六人は魔法陣の中に入ると、魔法陣に手を当て、精一杯魔力を流し込んだ。
ジョブが「犯罪者」になり、レベルが0になり、魔力を出すことも制限されている沖水たち一行にとって、魔法陣に必要な量の魔力のエネルギーを注ぐことは大変な重労働であった。
「が、頑張るでござる、皆の者。全ては最強のチート能力を手に入れるためなり。」
沖水が仲間たちを鼓舞する。
1時間後、ようやく魔法陣の上に、沖水たち一行を包むように半球状の透明な結界が生まれた。
「フゥー。皆の者、お疲れ様でござる。この結界は、外部からの魔力を遮断し、さらに内側に生じた魔力を封じ込める結界でござる。では、引き続き、第二段階に移るでござるよ。」
沖水はそう言って、立ち上がった。
「結界内に入ったら、体内の魔力を一気に全力で解放するなり。それと同時に、魔力を体内に暴発寸前までとどめ、圧縮するなり。臨界状態を発生させることで、体内にある魔力が変化を起こし、魔力と反対の性質を持つ反魔力が生成されるなり。体内の全ての魔力が反魔力に置き換わった時、我が輩たちは完全無欠、最強無敵の存在、メフィストソルジャーになることができるのである。我が輩が手本を見せるなり。よく見て真似をするなり。」
沖水は両手を合わせると、一気に全身の魔力を解放した。
沖水の全身が、魔力のエネルギーで光り輝き始めた。
それから、沖水は苦しそうな表情を浮かべながら、解放した魔力のエネルギーを内側へと抑え込んでいく。
「フヌヌヌー!」
額から滝のような汗を流しながら、必死の形相で、体の内側に解放した魔力を抑え込み、暴発寸前までとどめ、魔力を圧縮していく。
沖水の全身から発せられる魔力のエネルギーの光が徐々に消えていった。
他の仲間たち六人も、沖水の真似をした。
沖水たち一行の体から発せられる魔力の光が完全に消えた。
そして、体内の魔力が臨界状態に達した瞬間、沖水たち一行の体に突如、変化が起こった。
沖水たち七人の髪の毛が急速に、黒髪や茶髪から、真っ白な白髪へと変わっていく。
両目の瞳の色が血のような赤い色に変化し、口の中の白かった歯も、すべて真っ黒に色が変わった。
肌色も病人のような青白い肌へと変化した。
「ウガァァァーーー!」
沖水たち一行が雄叫びを上げると同時に、沖水たちの全身からどす黒いガスのようなものが溢れ出し、結界の中はどす黒いガスで満たされた。
それから、どす黒いガスがふたたび沖水たち一行の全身に吸収された。
ガスを吸収し終えると、沖水は聖槍のレプリカを使って、結界を粉々に叩き割った。
人の姿を捨て、反魔力の力を手に入れ、赤い両目を爛爛と光らせ、メフィストソルジャーとなった沖水たち一行の姿がそこにはあった。
自分たちの変化した容姿に多少、驚きもしたが、それ以上に、反魔力という禁断のチート能力を手に入れたことに、沖水たちは興奮を隠せなかった。
「クックック。禁断の魔術は成功したなり!ついに我が輩は、完全無欠にして最強無敵の存在、メフィストソルジャーとなったなり!反魔力、禁断の力がこの身を高ぶらせるでござる!おっと、早速、効果を確かめねば!」
沖水はそう言うと、懐から自分のギルドカードを取り出した。
ギルドカードを見た途端、沖水は大声で笑った。
「フハハハ!我が輩の作戦通りなり!皆の者、自分のギルドカードを見てみるでござる!レベルが元に戻っているなり!」
沖水に言われ、仲間たち六人は自分たちのギルドカードを取り出し、確認を始めた。
沖水のギルドカードの記載内容は、次のように変わっていた。
ネーム:沖水 流太
パーティーネーム:勇者パーティー
ランク:L
ジョブ:犯罪者Lv.20
スキル:激流突貫Lv.20
沖水や仲間たちのレベルが、Lv.0からLv.20へと、元に戻っていた。
ジョブやランクは犯罪者のままだが、反魔力を体内に宿した影響で、ギルドからかけられた制限措置の魔法が一部解除され、元のレベルへと戻ることができたのであった。
ギルドカードを見て、自分たちのレベルが元に戻っているのを確認し、仲間たち六人も喜んだ。
「さっすがはリーダー!リーダーのおかげで、無事レベルが元に戻ったし。これで安心してモンスターとも戦える。レベルアップもできる。最高だぜ、リーダー!」
「我が輩の言う通りであっただろう、高城氏。この我が輩に不可能の文字はないなり。」
「フヘヘヘ。さすがは僕たちのリーダー。口だけの島津の奴とはレベルが違うね。ところで、メフィストソルジャーになったのはいいけど、レベリングはどうやってするつもりだい?僕たちは指名手配中の犯罪者だよ。レベリングのためにモンスターの討伐依頼を受けたくても、ギルドで依頼は受けられないよ。下手したら、冒険者ギルドに捕まっちゃうよ。自分たちでモンスターを探して回るのは面倒じゃん。どうするつもりだい?」
「グフフフ。案ずるな、金田氏。その辺もすでに対策は考えているなり。レベルアップのための方法は、何もモンスター討伐とは限らないなり。もっと身近に狩れる相手がいるなり。そう、冒険者なり。高レベルの冒険者たちを狩っていけば、レベルアップは可能なり。メフィストソルジャーは軍事技術用に開発された魔術なり。対人戦によるレベルアップが想定された魔術でござる。要は、プレイヤーキルをするなり。プレイヤーキルもゲームの醍醐味なり。そうは思わんか、皆の者?」
沖水がニヤリとした笑みを浮かべながら、プレイヤーキル、すなわち、冒険者狩りを行うことを提案した。
沖水から冒険者狩りを、殺人を行うことを提案された仲間たちであったが、他に効率の良いレベルアップの方法もなかったため、沖水の提案に賛同した。
「リーダーの意見に賛成。冒険者狩りとか楽しそうじゃん。モンスター討伐よりそっちの方が面白くない?」
「僕も賛成。プレイヤーキルなんて久々じゃん。ゲーマーの血が騒ぐぜ。」
「冒険者狩りか。悪くないな。僕も賛成だ。犯罪でも別にバレなきゃ大丈夫でしょ。」
「僕元々、FPS派だし、モンスター討伐より、プレイヤーキルできる冒険者狩りの方が性に合ってるから、僕も賛成で。」
「僕たちを見下してた冒険者どもを全員、ぶっ殺してやろうよ。アイツらの泣き叫ぶ顔が早く見たいなぁ。特にAランク冒険者とBランク冒険者の奴らを血祭りに上げようぜ。」
「フヘヘヘ。僕はどっちかって言うと、強そうな女冒険者の泣く顔が見たいな。強そうな女の子ほど、虐めがいがあるからさぁ。フヒヒヒっ。」
高城、吉尾、志比田、天神、宮丸、金田の六人が、沖水の提案にそれぞれ賛同した。
「グフフフ。では、皆の者、これより、冒険者狩り、もとい、プレイヤーキルを開始するなり。最初の獲物は、このカナイ村に来るであろう、冒険者たちなり。Dランクモンスター、ブラッドボアの討伐依頼がギルドから出ていたなり。来るのはどうせ、低ランクの冒険者であろうが、メフィストソルジャーとなった我が輩たちの実力を試す絶好の獲物なり。それでは皆の者、カナイ村の入り口まで移動するなり。」
それから、沖水を先頭に、沖水たち一行はブラッドボアの討伐に来る冒険者たちをターゲットに、カナイ村の入り口付近まで歩いて向かった。
沖水たち一行はターゲットの冒険者たちが来るまで、入り口付近の茂みに身を隠していた。
午後9時過ぎ。
街道から歩いてくる、一組の冒険者パーティーの姿があった。
剣士、魔術師、回復術士、盾士、槍術士、弓術士、槌術士の、若い男女七人で構成されるEランクパーティーであった。
ランク昇格のために、Dランクモンスターであるブラッドボアの討伐に来たのであった。
獲物である冒険者パーティーを見つけて、沖水たち一行は笑みを浮かべた。
「ククク。装備も貧弱で、いかにも駆け出しといった感じのパーティーなり。ちょうどいい獲物が見つかったなり。皆の者、準備は良いか?では、ゲームスタート、なり!」
沖水の合図を受けて、沖水たち一行は後ろから冒険者パーティーに奇襲をしかけた。
「フハハハ!食らえ!激流突貫!」
「フヘヘヘ、変速結界!」
「氷柱弾連射!」
「轟雷爆射!」
「人形生成!」
「蛇槍追撃!」
「大火炎斬突!」
沖水の槍から放つ高圧水流のカッターに、金田の丸盾から展開される、味方の能力の速さを倍加し、敵の能力の早さを半減させる結界、志比田の杖から放つ何十発もの魔法の氷柱の弾丸の雨、高城の弓から放つ雷を纏った高速の矢、天神の杖から放たれる魔法によって生まれた身長2mの石と砂でできたゴーレムによる攻撃、宮丸のパイクから放つ蛇のように伸びた槍の穂先による鋭い突き、吉尾のグレイヴから放つ穂先に火炎を纏った斬撃と突きが、冒険者パーティーたちを襲った。
「くそっ!?何だ、コイツら!」
「くっ!?攻撃が防ぎ切れない!?グワァー!?」
「ガハっ!?」
「グハっ!?」
沖水たち一行の反魔力を纏った奇襲攻撃に対処することができず、冒険者パーティーは2分も持たずに全滅した。
冒険者パーティーが全滅したのを見て、沖水たち一行は大笑いで喜んだ。
「フハハハ!見たか!我が輩の天下無双の槍の威力を!あらゆる魔力を無効化する、最強にして禁断の力、反魔力の強さを!駆け出し冒険者パーティーとは言え、たった一撃で全滅なり!ククク、この調子でどんどんレベルアップしていくなりよ!」
その時、沖水たち全員に、急に異変が起こった。
「ぐっ。急に腹が空いてきたなり。腹が、腹が空いてしょうがないなり。」
「腹が、腹が空いてたまんねえよぉ。食い物、食い物~。」
「肉、肉が食いてえ。駄目だ。肉なんて持ってねえ。」
「腹が空いた~。喉も乾いてきた。早く食い物を。」
「腹が空き過ぎて動けねえ。食い物、食い物をくれ~。」
「喉が渇く。水、水をくれ~。」
「ゲホッ、ゲホッ。ぺっ。水筒の水が飲めねえよ。泥水みたいな味がする。喉も痛ええ。」
メフィストソルジャーには、沖水が仲間たちに語った以外に、もう一つ重大な副作用があった。
それは、メフィストソルジャーとなった者は、人格が凶暴化し、強烈な空腹感に襲われ、さらに強い食人衝動に襲われる、というとんでもない副作用であった。
メフィストソルジャーとなった者は反魔力で汚染した飲食物しか摂取できなくなる。そして、反魔力で汚染した食材や飲料水が手元にない場合、メフィストソルジャーは反魔力を使った反動で餓死することになる危険があった。
餓死する危険を唯一逃れる手段、それは自分たちが殺し、反魔力で汚染された人間の死体の新鮮な血肉を食べることである。
沖水の持つ「ドクター・ファウストの魔導書」の、メフィストソルジャーになる魔術に関するページには、当然この副作用も明記してあった。
だが、沖水はあえてこの重大な副作用について、仲間たちには話さなかった。
メフィストソルジャーとなり、反魔力というチート能力を手に入れ、異世界を無双し、異世界で天下を取る、そんな己の狂った妄想を実現したいがために、沖水は仲間たちを欺き、食人鬼になる道へと巻き込んだのであった。
目の前の死体を食べなければ、反魔力で汚染した人肉を食べなければ餓死するデメリットを知っていた沖水は、目の前で死体となって転がっている女性冒険者の手に噛み付いた。
そして、驚く仲間たちをよそに、女性冒険者の片腕を骨も残さず、綺麗に平らげてしまった。
「ゲプゥー。満足したなり。人間の肉も血も骨も意外に美味なり。ごちそうさまでした、でござる。」
女性の片腕を平らげ、口元にべったりと人間の血が付いている沖水の食人鬼となった姿を見て、仲間たち六人は声を失った。
それから、ハッと意識を取り戻すと、吉尾が大声を上げて、沖水を追求した。
「おい、リーダー!?どういうことだよ、これは!?何で、何で人を食ってんだよ!?」
「そう騒ぎ立てるでないなり、吉尾氏。貴殿も早くそこに転がっている死体を食べないと飢え死にするなり。忘れたでござるか?我が輩たちはメフィストソルジャーになったなり。我が輩たちは反魔力で汚染した食い物しか口にできない体になったなり。反魔力は絶大な力を持つが、その分消費も激しいのでござるよ。いずれレベルが上がれば、空腹の度合いも減るなり。しかし、今は例え人肉であろうと、反魔力で汚染したモノを食べなければ、貴殿は飢え死にするなり。それによく考えるなり。我が輩たちと死体になった冒険者共は全く別の世界の人間なり。姿形は似ていれど、元は別の世界の、よく似た別の生き物なり。中身は全く別の、呼び方が一緒なだけの別物なり。なら、別に食べても何も問題ないなり。このままここで飢え死にしたいと言うなら、好きにするがいいなり。他の者はどうするなりか?」
沖水から苦渋の決断を迫られた他の六人の仲間たちは、空腹と渇きに堪えられず、冒険者たちの死体に噛り付き、むさぼり食った。
「クックック。それで良いなり。禁断の力を手に入れるのに代償はつきものなり。異世界召喚のお約束なり。グフフフ、これから我が輩の異世界無双のサクセスストーリーが幕を開けるなり。」
カナイ村でEランクパーティーの冒険者たちを食い殺した沖水たち一行は、それからカナイ村を移動した。
沖水たち一行は、インゴット王国冒険者ギルド南支部と、インゴット王国冒険者ギルド東支部の管轄エリア内で、冒険者狩りを行い始めた。
容姿が変化したことを良いことに、依頼人や冒険者を装い、冒険者ギルドの中へ潜り込むと、夜間に討伐依頼を受ける冒険者パーティーに目を付け、彼らの後をつけて襲撃を行うという手口で、沖水たち一行は冒険者たちを襲った。
始めはEランクパーティーやDランクパーティーを襲っていたが、レベルが上がるにつれ、CランクパーティーやBランクパーティーを襲うようになった。
そして、冒険者狩りを始めてから一ヶ月が経つ頃には、Aランクパーティーを襲うようになった。
食い殺した冒険者たちの死体は、騒ぎを大きくせず、証拠隠滅を図るため、冒険者たちの依頼先の町や村の、人気のない森の中に埋めて捨てた。
700人以上の冒険者たちを沖水たち一行は、襲い食い殺したのであった。
だが、冒険者たちが次々と謎の失踪を遂げる事態に危機感を抱いたインゴット王国の各冒険者ギルドは緊急対策会議を開き、謎の失踪事件を解明すべく、各冒険者ギルドから選りすぐんだ、S級冒険者とA級冒険者から構成される、特別調査チームを結成し、特別調査チームに事件の調査を命じた。
特別調査チームは、冒険者たちの相次ぐ失踪が南支部と東支部の管轄エリア内に集中していること、夜間にモンスターの討伐依頼に出向いた冒険者たちのみが失踪していること、冒険者ギルドで依頼を受けたばかりの冒険者たちが失踪する傾向が多いこと、最近では高ランクの冒険者や冒険者パーティーの失踪する傾向が多いこと、この四点に着目した。
沖水たち一行による冒険者狩り、謎の冒険者連続失踪事件が発生してから一ヶ月後、S級冒険者ハワード・マイティーをリーダーとする特別調査チームは、南支部にて夜間にモンスターの討伐依頼を受けた冒険者パーティーがいることを、南支部のギルド職員から連絡を受けて知り、冒険者パーティーたちの向かった依頼先の森へと急行した。
特別調査チームのメンバーは森の近くの町まで馬車で移動すると、町から徒歩で目的の森へと向かった。
「リーダー、今回の謎の冒険者連続失踪事件をどう思いますか?冒険者たちの遺留品や死体が見当たらない点を考えると、やはり犯罪の可能性は考えられませんか?失踪しているのがモンスターの討伐依頼を受けた冒険者ばかりとは言え、夜間のみに活動するSランク以上のモンスターが原因では、という会議での結論は、私にはどうも納得がいかないというか、こう引っかかるものを感じるのですが?」
A級冒険者で「弓術士」、特別調査チームの副リーダーであるリック・ランナーが、チームリーダーであるハワードに話しかけた。
「俺もお前と同じことを考えていた、リック。だが、夜間に冒険者ばかりを狙う、そんなことをして一体、誰に何の得があると思う?それもここ最近じゃ実力のあるA級冒険者やAランクパーティーばかりが失踪している。失踪した連中をどうにかできるほどの実力の持ち主となると、Sランクモンスターによる襲撃以外、考えにくいだろ?遺留品や死体が残らないのは、モンスターが丸呑みしたためだ。そう考えてもおかしくはない。ただ、もし、お前の考え通りだった場合、S級冒険者クラスの実力を持った複数人の犯罪者たちによる何らかの犯罪、ということになる。そうなると、闇ギルドや他国の特殊部隊なんかが関わってくる、とんでもない大事件ってことになる。まぁ、そんな大事件、まず起こりっこないけどな。」
「それもそうですね。とりあえず、現場と犯人の正体を確かめないかぎり、何とも言えませんね。いざという時は頼りにしていますよ、「閃剣のハワード」殿。」
「あまり俺を頼りにするなよ。こちとら、やっとこさS級冒険者になった身だ。二つ名なんぞもらっちゃいるが、「黒の勇者」様に比べたら、俺は35歳のおっさんだし、Sランクモンスターのソロ討伐なんて偉業を達成するほどの実力も無い。ただ、剣技と場数の多さには多少、自信はあるがな。さて、おしゃべりしている内に、目的の森の中まで入ったぜ。にしても、やけに静かだな?確か、サイクロプス一匹の討伐に出かけたって話だよな?」
「ええっ、その通りです。夜間で視界が悪い状況を利用して、単眼のサイクロプスを仕留める、そのような作戦を練って討伐に挑んだと考えられます。ですが、サイクロプスの巨体どころか、鳴き声さえ聞こえませんね。戦闘による爆発音等も全く聞こえません。あまりに静かすぎます。何か、得体のしれないものが潜んでいるかもしれません。用心して慎重に進みましょう。」
ハワード率いる特別調査チームの冒険者20名は、モンスターの討伐依頼を受け先に森の中へと入ったAランクパーティーの後を追うため、足音を立てず、慎重に森の中を進んで行った。
特別調査チームが森の中に入って30分後、森の中に数人の人影が見えた。
人影を発見すると、ハワードが合図を送り、特別調査チームのメンバーはしゃがんで、目の前に見える数人の人物たちの様子を窺った。
「アイツらが依頼を受けた、Aランクパーティーか?こんな森の中で立ち止まって何やってるんだ?」
「リーダー、パーティーの人数が合いません。探しているAランクパーティーのメンバーは全部で10名という話です。パーティーメンバーの中には、女性冒険者が3名いるとのことです。ですが、目の前にいる連中は7名、いずれも男性のように見えます。明らかに、私たちが探している冒険者パーティーとは異なります。ここは連中を包囲して、事情を問いただすべきかと。質問に答えず、抵抗するようであれば、捕縛するというのはどうでしょうか?」
「リック、お前の提案した作戦で行こう。連中が白か黒かはっきりさせた上で、連中が黒と分かったら、即捕縛だ。抵抗が激しいようなら、殺害もやむを得まい。全員に次ぐ、目の前に見える七人組の男たちを包囲する。俺が飛び出したのを合図に一気に連中を取り囲め。連中が俺の質問に答えず、抵抗するようなら実力行使に移る。捕縛できない場合は殺害を許可する。リック、もしもの場合は俺たちを置いて、お前はギルドに戻り、事態の詳細を報告するんだ。いいな?」
「了解です、リーダー。」
「では、各自、散開!」
リーダーのハワードからの指示を受け、特別調査チームのメンバーは、謎の七人組の男たちを包囲するように、森の中を別れて進んだ。
そして、包囲網が完了した頃合いで、リーダーであるハワードが、謎の七人組の男たちの前へ飛び出した。
ハワードが飛び出したのを合図に、リック外18名の特別調査チームのメンバーたちも一斉に飛び出し、謎の七人組の男たちを包囲した。
「そこの七人組に次ぐ!俺たちはインゴット王国冒険者ギルドから派遣された、冒険者連続失踪事件を調査する特別調査チームだ!こんな夜遅くの森で一体何をしている!それと、この森には、サイクロプスの討伐依頼を受けたAランクパーティーが来ていたはずだ!君たちは冒険者パーティーの行方について何か知っているのか?質問に答えたまえ!」
ハワードが、謎の七人組の男たちに向かって大声で訊ねた。
謎の七人組の男たち、その正体は、メフィストソルジャーという名の恐るべき食人鬼となった、沖水たち一行であった。
ハワードが質問するなり、沖水たち七人は狂ったようにゲラゲラと笑い始めた。
「何がおかしい!?俺たちの質問に答えろ!質問に答えず、抵抗するようならば、実力を行使する!さぁ、質問に答えろ!」
怒るハワードに向かって、馬鹿にした笑みを浮かべながら、沖水は質問に答えた。
「グフフフ。そんなに知りたいなら、教えてやるなり。お探しの冒険者パーティーは我が輩たちが全員殺したなり。失踪した冒険者たちも全員、我が輩たちが殺したなり。Aランクパーティーとは聞いてはいたが、大して強くはなかったなり。今の我が輩たちにとっては少々物足りない獲物だったなり。これで満足したでござるか?ケケケっ。」
「殺しただと!?これまで失踪した冒険者全員をお前たちが殺した、そう言うんだな?貴様ら、一体何の目的で冒険者たちを殺した?答えろ!」
「うるさいなりねぇ。だから、獲物だと言ってるなり。我が輩たちがパワーアップするための獲物として殺したのである。いわば、我が輩たちのゲームの敵キャラを殺しただけでござるよ。」
「パワーアップするための獲物、ゲームの敵キャラだと!?貴様ら、人間の命を何だと思っている!このイカれた連続殺人鬼が!全員、武器を構えろ!捕縛は不要だ!このイカれた殺人鬼どもを早急に討伐する!一人たりとも逃がすな!」
激高するハワードの指示を受け、特別調査チームのメンバーたちは皆、武器を構えた。
「やれやれ、とんだ身の程知らずの雑魚共でござる。冒険者ギルドの特別調査チームでござるか。なら、少しは歯応えがありそうなり。どこからでもかかってくるがいいなり。」
沖水が馬鹿にした口調で、特別調査チームを挑発した。
「全員、かかれぇ!」
ハワードの合図と同時に、特別調査チームの冒険者たちが一斉に攻撃を行った。
「フヘヘヘ。変速結界!」
「回復術士」金田が、沖水たち一行や特別調査チームの冒険者たちを覆うように、左手に持つ丸盾から、紫色の半球状の結界を展開した。
金田の展開した結界に覆われた瞬間、特別調査チームの冒険者たちに異変が生じた。
急に体が重くなり、スピードが急激にダウンした。魔法や武器による攻撃も一気にスピードが落ちた。
魔力を使って、スキルや魔法を放とうとするが、魔力を放出してもすぐに掻き消されてしまう。
「くっ!?何だ、これは!?体が重い!?魔力が掻き消されてしまう!?この結界のせいなのか!?」
ツーハンドソードを手に構えながら、自身や特別調査チームのメンバーたちに起こった異変に苦悶の表情を浮かべるハワードであった。
「どうしたなり?先ほどの威勢はどこに行ったなり?我が輩たちを討伐するなどほざいておったが、所詮は口先だけの雑魚だったでござるか?攻撃してこないなら、こちらから行くでござるよ。激流突貫!」
「氷柱弾連射!」
「轟雷爆射!」
「人形生成!」
「蛇槍追撃!」
「大火炎斬突!」
反魔力を帯びた結界に包まれ、思うように身動きが取れない特別調査チームのメンバーたちに対して、沖水たち一行は情け容赦なく攻撃を浴びせた。
「槍聖」沖水の槍から放った高圧水流のカッターが、猛スピードでハワードの左肩を貫いた。
「グハッ!?」
反魔力を帯びた沖水の攻撃を受け、ハワードは地面に膝を付けた。
反魔力を帯びた沖水たちの総攻撃を受け、反魔力で結界を無効化され、さらに魔力を持つ者にとっては死に至らしめる猛毒の効果を持つ反魔力を帯びた攻撃を受け、特別調査チームのメンバーたちは次々に殺されていった。
特別調査チームのメンバーたちが次々に死んでいく中、ハワードが最後の力を振り絞った。
「リックー!後は頼んだぞ!「閃剣のハワード」、参る!閃光重斬!」
立ち上がり、ツーハンドソードを中段に構えたハワードが超高速で沖水の前に一瞬で移動し、鋼鉄をも斬り裂く、剣先に魔力のエネルギーを纏った剣の一撃を、沖水へと浴びせた。
ハワードが繰り出す、縦方向の豪快な剣の一撃を、沖水はノーガードで受けた。
ハワードが繰り出した斬撃は確かに沖水に直撃した。
しかし、ハワードの剣の刃は、沖水の首と左肩の間で止まり、沖水の体を斬り裂くことはなかった。
ハワードの剣の刃に纏った魔力のエネルギーは、沖水の体を流れる反魔力の力で無効化され、剣先は光と威力を失っていた。
「クックック。その程度の剣、痛くも痒くもないでござる。中々面白い余興であった。では、さらばでござる、「閃剣のハワード」よ。激流突貫!」
沖水の、渦のように高圧水流のカッターを纏った槍の穂先が、ハワードの心臓を刺し、貫いた。
「ガハっ!?」
沖水の槍で心臓を貫かれ、口から血を吐いて、ハワードはその場で息絶えた。
ハワードが死んだのを確認すると、沖水はハワードの懐を探した。
ハワードの財布とギルドカードを奪うと、沖水は中身を確認した。
「ちっ。湿気た財布である。10万リリスしか現金が入っていないでござる。さて、ギルドカードはと、おおっ、このハワードとか言う男、何とS級冒険者であったか?レベルは90、我が輩たちより一つ上でござるか。攻撃は大したことなかったでござるが、格上のプレイヤーを倒したのは間違いないなり。グフフフ。これで我が輩たちの実力もSランクまでレベルアップしたに違いないなり。後は、いつものようにコイツらを食うだけなり。S級冒険者の肉なら、きっと大幅パワーアップ間違いなしのレア食材なり。」
沖水がハワードを倒したことを喜んでいると、他の六人の仲間たちが声をかけてきた。
「リーダー、敵は全員ぶっ殺したよ。特別調査チームとか言う割に全然大したことねえじゃん、コイツら。余裕で倒せたし。」
「そうだな、敬。今の僕たちじゃAランク程度じゃ物足りなくなってきたよね。Sランクの冒険者たちのいる場所に移動してもいい時期かもね。」
「良の言う通りだ。インゴット王国にはもう目ぼしい獲物はいないと思う。それに、今殺した連中の一人が、こっそり結界の中を抜け出して走って逃げていくのが見えたよ。矢を放ったけど、木が邪魔だったし、逃げた奴が足がクソ速くてさ。おかげで逃がしちゃったよ。すまない、リーダー。」
「気にするな、高城氏。逃げられたのは少々面倒ではござるが、ちょうどインゴット王国を出る頃合いだと思っていたなり。我が輩たちの力はすでにS級冒険者に圧勝するほどの力なり。高ランクの冒険者が束になってかかってきても問題ないでござる。それに、インゴット王国には我が輩たちの獲物となる冒険者はいないと見たなり。いずれ、逃げた冒険者が我が輩たちの冒険者狩りをギルドや国に話すことになるでござる。そういうわけであるから、とっととインゴット王国とはおさらばするなり。次は、ダンジョンのあるサーファイ連邦国へと向かうなり。サーファイ連邦国へ行き、ふたたび冒険者狩りを行い、伝説のSSランクを超える力を手に入れるなり。グフフフ、歴代最強の勇者パーティーを超える力を手に入れさえすれば、ダンジョン攻略など余裕なり。そして、本物の聖槍を手に入れ、我が輩は真の「槍聖」、真の勇者に覚醒するなり。我が輩が異世界で天下を取る日はもう目の前まで来ているなり。いざ、行かん、サーファイ連邦国なり。」
それから、ハワードたち特別調査チームの冒険者たちの死体を食べ漁った後、闇夜に紛れ、沖水たち一行は殺人現場である森から去って行った。
翌日、特別調査チームの唯一の生き残りである、リック・ランナーからの報告を受け、インゴット王国冒険者ギルドはただちに新しい特別調査チームを結成し、リックの案内の下、沖水たち一行に襲われた森へと急行した。
森に入った新特別調査チームが目にしたものは、旧特別調査チームのメンバーたちの何者かによって食い散らかされた、無惨の死体の山であった。
リーダーであったハワードの、頭部と四肢のない、食いちぎられた死体を見て、副リーダーであったリックはその場で泣き崩れた。
新特別調査チームが殺人現場の現場検証を行っていると、地面に何かを埋めたような形跡が見つかった。
地面を掘り返した特別調査チームが目にしたものは、行方不明となっていた、Aランクパーティーの冒険者たち、男女10名の死体であった。
死体はハワードたち以上に損壊が激しく、やはり何者かによって食いちぎられた形跡が残っていた。
被害者たちの死体を運び、王都警備隊が検死を行った結果、驚愕の事実が判明した。
被害者の死体に付いていた噛み跡は、モンスターのモノでも、動物のモノでもなかった。
人間の噛み跡だったのである。
謎の白髪の七人組の男たちは、行方不明となった冒険者たちを殺し、冒険者たちの死体を食べていたのではないか、という目を疑う疑惑が浮上した。
インゴット王国の各冒険者ギルドと、インゴット王国の王都警備隊が総力を挙げて、行方不明になった冒険者たちの依頼先を調べた結果、地面から700人以上の冒険者と思われる死体が発見された。
死体は激しく損壊しており、頭部や手足、内臓を食いちぎられており、特別調査チームと同じ人間の歯型の噛み跡が、検死の結果、見つかった。
700人以上もの冒険者が、謎の白髪の七人組の男たちによって殺され、被害者たちの遺体は犯人たちによって食べられていた、というこの衝撃的な事件はたちまち、インゴット王国内にニュースとなって広まり、国民は食人鬼たちの存在に恐怖した。
食人鬼連続殺人事件という名前で、この事件はインゴット王国を越えて、徐々に世界中でニュースになって広まっていくのであった。
特別調査チームを食い殺してから三日後、沖水たち一行はサーファイ連邦国へと向かうべく、馬車で三日かけて、インゴット王国南部にある港へと向かった。
小型高速貨物船を見つけると、水夫の一人を金で買収し、水夫の手引きで、沖水たち一行は貨物船に密航して、目的地であるサーファイ連邦国へと向かった。
インゴット王国を出発してから一週間後のこと。
小型高速貨物船がサーファイ連邦国のすぐ近くの海域へと入り、あともう少しでサーファイ連邦国の首都があるサーファイ島へと到着するというところで、沖水たち一行をハプニングが襲った。
沖水たち一行の密航する貨物船を、海賊船が襲撃したのである。
海賊船が貨物船に横付けして、続々と海賊たちが貨物船の船員たちを襲う中、沖水の頭の中に、邪な考えが浮かんだ。
「グフフフ。良いことを思いついたなり。皆の者、よく聞くなり。今、この船を襲っている海賊どもを我が輩たちの手で倒すなり。海賊どもから海賊船を頂戴すれば、自前の船が手に入るなり。「水の迷宮」とやらに行くのも楽になるなり。おっと、念のため、船長だけは生かしておくなり。船を操縦できる奴が必要でござるからな。では、皆の者、海賊狩りに向け、いざ出陣なり。」
沖水の指示を受け、隠れていた船室から飛び出すと、沖水たち一行は貨物船を襲っていた海賊たちを襲い、海賊狩りを始めた。
突然、貨物船の中から出てきた、メフィストソルジャーである沖水たち一行の奇襲を受けて、海賊たちは慌てて応戦したが、なすすべもなく、敗北した。
海賊船に乗り込み、船長以外の全員を皆殺しにすると、不敵な笑みを浮かべながら、沖水たち一行は、海賊船の船長と思われる男を取り囲んだ。
「クックック。もうどこにも逃げ場はないなり。貴様の部下は全員、我が輩たちが殺した。おとなしく降伏するなら、命だけは見逃してやるなり。さぁ、服従か死か、選ぶがいい。」
沖水が、海賊船の船長と思われる、赤い三角帽を被り、赤いジュストコール、茶色いベスト、白いシャツ、茶色いブーツ、茶色いベルト、サーベル一振りを身に着けた、身長180cmほどの、40代前半の、青い長髪に褐色の肌の中年男性に、服従か死か、選択を迫った。
「くそっ!貴様ら、この俺にこんなことをしてタダで済むと思うなよ。この俺のバックには、サーファイ連邦国の海賊たちを束ねるビッグな御方が居られるんだ。この俺に何かあったと分かれば、サーファイ連邦国の全ての海賊たちを貴様らは敵に回すことになるんだ。分かったら、とっとと武器をしまいやがれ、クソガキども!」
「我が輩の話をよく聞いてなかったみたいなりな。我が輩たちは勇者にして、完全無欠、最強無敵の力を持つメフィストソルジャーなり。誰が貴様のバックにいろうが、虫けらのごとき海賊どもを集めて向かってこようが全て無意味なり。我が輩たちがどういう存在か、今一度よく教えてやるなり。皆の者、食事の時間なり。たらふく肉を味わうがいいなり。」
沖水がそう言うと、海賊船の船長の前で、沖水たち一行は海賊たちの死体をむさぼるように食べ始めた。
死んだ部下たちの死体が沖水たち一行に食べられる光景を目の当たりにして、海賊船の船長は顔が恐怖で真っ青になり、全身を震わせ、その場で崩れ落ちた。
30分後、海賊たちの死体を食べて腹を満たした沖水たち一行は、口元にたっぷりと血を付けたまま、邪悪な笑みを浮かべながら、恐怖で震える海賊船の船長をふたたび取り囲んだ。
「もう一度だけ訊ねるなり。これが最後のチャンスなり。死んだ部下たちのように我が輩たちに食い殺されたくなければ、素直に我が輩たちに忠誠を誓い、服従するなり。もし、断ると言うなら、肉も骨も残さず、貴様を食い殺すだけなり。さぁ、答えを聞かせるなり。」
沖水たちに服従を誓わなければ、生きてそのまま食い殺される、あるいは無惨に殺された後、肉も骨も残すことなく、自身の死体を食べられる運命が待ち受けている。
追い詰められた海賊船の船長は、生き延びるため、抵抗するのを諦め、沖水たち一行に服従する道を選んだ。
「あなた様たちに忠誠を誓います。どうか、この私をあなた様たちの配下にお加えください。ですから、何卒命だけはお助けください。この通りです。」
海賊船の船長は、沖水たち一行の前で土下座しながら、沖水たち一行へ忠誠を誓うのであった。
土下座しながら頼み込む海賊船の船長の頭を、沖水は足で踏みつけながら、馬鹿にするような口調で、船長に話しかけた。
「ようやく立場の違いを理解したようでござるなぁ。これだから、低脳で無能の虫けらは嫌なのでござる。我が輩たちは物分かりの良い、有能な部下を求めているなり。次、我が輩たちに反抗的な態度を見せるようなら、問答無用で食い殺すなり。お前の代わりなどいくらでもいることを忘れるでないなり。分かったな、駄犬?」
「承知いたしました。我が主。」
海賊船の船長はプライドを踏みにじられ、悔し気な表情を浮かべながら、沖水に忠誠を示すのだった。
海賊船の船長の頭から足をどけると、沖水は船長に訊ねた。
「おい、駄犬。貴様の名前と、この海賊船の性能、それから、貴様のバックにいる、海賊どもを束ねる人物とやらについて詳しく話すなり。」
「はい、我が主。私の名前はコビール・レッド・シャークと申します。レッド・シャーク海賊団という海賊団の船長を務めておりました。この海賊船の名前は、シャーク・スター号と言いまして、全長90m、幅12m、マスト3本の機帆船です。帆船の形態をとる場合、最大16.5ノットのスピードで海を航行します。ですが、この船には、魔石を燃料に使う最新式のエンジンも付いておりまして、マストを折りたたみ、エンジンのみで航行する場合、最大40ノットのスピードで航行可能です。燃料となる魔石は高価ではありますが、この船に積んであるエンジンの性能は、サーファイ連邦国の海軍の保有する軍艦以上のスピードを出すことができます。故に、海軍の軍艦から逃げることは容易なのです。船の装甲は木製で、海軍の軍艦の鉄製の装甲より耐久性能は劣りますが、武装として、30口径砲門の大砲を20門装備しています。飛距離や威力は海軍の大砲よりやや劣りますが、小型で扱いやすい仕様になっております。定員は200名までとなっております。エンジンと武装だけなら、海軍の軍艦、正確には駆逐艦に準ずる性能で、世界各国の海賊船の中でも最新鋭の海賊船と言えます。」
「ふむふむ。最新鋭の海賊船とは気に入ったなり。海軍の軍艦を超えるスピードに、軍艦に準ずる武装付きとは、これは大当たりを引いたなり。グフフフ。さすがは我が輩。ガチャのSSレアキャラを連続10回引き当てた強運は伊達ではないなり。船の性能はよく分かった。コビールよ、貴様のバックにいる、サーファイ連邦国の海賊どもを束ねる人物の正体について話すなり。」
「はい。私たちサーファイ連邦国の海賊たちのバックに付いている人物とは、サーファイ連邦国海軍情報部所属の、ベトレー・レッド・シャーク大佐です。ベトレー大佐は私の腹違いの、二歳年上の実の兄でもあります。ベトレー大佐は海軍情報部で得た海軍の海賊討伐の作戦計画や、直近の海軍の動向などに関する情報を私たち海賊に提供してくださります。また、この船に付いている大砲や最新式のエンジンも、ベトレー大佐が海軍で使用されなくなったモノや、他国の軍隊や闇ギルドから裏ルートで入手したモノを、秘密裏に私たち海賊に提供してくださった装備になります。私たちサーファイ連邦国の海賊はベトレー大佐から支援を受ける見返りに、海賊行為で得た金品を報酬として納めています。そして、ベトレー大佐は私たち海賊たちの戦力の強化が完了し次第、クーデターを起こし、サーファイ連邦国を乗っ取る計画を考えておられます。ですが、サーファイ連邦国海軍の戦力は私たち海賊よりも圧倒的に上のため、計画は難航しておられます。海軍を打ち破ることのできる戦力と兵器を現在、全力で探していると仰っておられました。私が知っている情報は以上になります。」
「なるほど。貴様の兄、ベトレー大佐とやらが、海賊たちの元締めというわけでござるか。ククク、海賊を取り締まる海軍の中に裏切り者がいて、海賊どもを使ってクーデターを企んでいるとは、実に面白い話でござる。フフフ、妙案が閃いたなり。我が輩たちがベトレー大佐とやらに代わって、海賊の元締めとなるのである。そして、海賊どもを使って、国盗りを行うなり。我が輩たちが治める一大帝国を築くなり。国の支配者にして海賊の元締めとなれば、莫大な金を手に入れることができるなり。その金と、パワーアップした我が輩たちの力と、海賊たちの戦力を使い、ダンジョンを攻略するのでござる。皆の者、早速サーファイ連邦国全ての海賊に対して、海賊狩りを行うなり。全ての海賊たちを支配下に置き、我が輩を頂点とする大海賊団を結成するなり。レベルアップと海賊団結成の一挙両得なり。それと、これからは我が輩のことは、キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーと呼ぶでござる。ダーク・ジャスティス・カイザー海賊団の誕生なり。グフフフ。今からが楽しみでござる。行くぜ、野郎ども、なり。」
「「「「「「あいあいさー、キャプテン!」」」」」」
沖水は自らキャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーを名乗り、他の仲間たち六人とともに、ダーク・ジャスティス・カイザー海賊団なる海賊団を結成したのであった。
「おい、コビール。貴様を平船員兼船の操縦士として雇ってやるなり。感謝するなり。だが、我が輩たちの計画を、貴様の兄にこっそり告げ口してみろ。貴様も、貴様の兄も容赦なく食い殺すなり。我が輩たちを本気で怒らせれば命はない、肝に銘じておくなり。」
「かしこまりました、キャプテン。」
「よろしい。では、いざ、出陣なり!」
レッド・シャーク海賊団を壊滅させ、元船長のコビール・レッド・シャークを配下へと加えた沖水たち一行は、謎の人食い海賊団、ダーク・ジャスティス・カイザー海賊団となって、サーファイ連邦国の海賊船を次々に襲い、メフィストソルジャーの圧倒的な力で瞬く間に海賊たちを制圧し、海賊たちを自身の傘下へと加えていった。
海賊狩りでは飽き足らず、サーファイ連邦国周辺の海域を移動する貨物船や客船、漁船などの民間の船を襲い、金品や物資を奪った上に、船の乗員を殺してはその死体を食料として持ち帰り、食べた。犯罪の痕跡を消すため、襲った船は全て沈めた。
メフィストソルジャーとなった沖水たち一行の力は圧倒的で、反魔力を纏う沖水たちの力を破れる者はほとんどいなかった。メフィストソルジャーの圧倒的な力と、人間の死体を目の前でむさぼるように食べる沖水たちの食人鬼の姿に、海賊たちは恐怖し、逆らえる者は誰もいなかった。
しかし、襲った海賊船の海賊たちの中に、沖水たちの存在を恐れ、誰にも気付かれず海に飛び込み、逃げた者が一人いた。海軍によって海を漂流していたところを救助されたこの脱走者の存在によって、突如、サーファイ連邦国の海域で猛威を振るう謎の海賊団の出現が明るみになったのであった。
海賊狩りを行い、順調にレベルアップを果たしていく沖水たち一行ではあったが、目標であるLv.100に到達することと、サーファイ連邦国にいる全ての海賊たちを傘下に加えることを達成するまで、海軍との直接の戦闘は避け、金田の「変速結界」の力を使って、毎回海軍の追跡から逃げ切るのであった。
コビールの兄で、裏で海賊の元締めを行っているベトレー大佐が、沖水たち一行の存在を知り、コビールを通じて沖水たち一行に協力を申し出てきた。ベトレー大佐のもたらす他の海賊たちや海軍の動向に関する極秘情報を入手したことで、海軍に邪魔されることなく、沖水たち一行の海賊狩りや海賊行為は順調に行われていった。
沖水たち一行が海賊になってから18日目のこと。
沖水たち七人のレベルは、目標のLv.100、伝説のSSランクに匹敵するレベルに到達した。史上最高レベルの「犯罪者」のジョブを持つ人間たちが生まれたのであった。
沖水率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団は、最新のエンジンと、駆逐艦に準ずる武装を備えた、最新鋭の海賊船100隻、総勢2万人の船員たちで構成される大海賊団へと規模を拡大した。
レベルも海賊団の戦力も整った沖水たち一行は、ついにサーファイ連邦国の侵略を開始することを決めた。
サーファイ連邦国の東側にある、サーファイ連邦国を治める十部族の一つ、シャーク族の治める無人の小島に、沖水率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団は集まった。
身長180cmほどで、赤い男性用アロハシャツに黒い短パン、黒いサンダルを身に着けた、青い髪をオールバックにした、褐色の肌の細身の、40代前半の男性がクルーザーに乗って沖水たち一行の前に現れた。
サーファイ連邦国海軍情報部所属の大佐にして、サーファイ連邦国の海賊たちの元締め、パトロンを務める、ベトレー・レッド・シャークであった。
ベトレー大佐と合流した沖水たち一行は、ベトレー大佐と顔合わせを行うと、ベトレー大佐より、地図を見ながら、サーファイ連邦国を侵略する作戦について提案を受けた。
「キャプテン、今回のサーファイ連邦国侵略作戦について、私からご提案がございます。まず、キャプテン率いる本隊50隻が、東側から北側を経由し、左回りに、政府本拠地のあるサーファイ島をなぞるように進軍いたします。キャプテン率いる本隊には囮役になってもらいながら、敵主力艦隊を引きつけ、キャプテンたちの圧倒的なお力でこれを撃破していただきたく思います。キャプテンたちが敵主力艦隊を撃破する間に、東側から分隊20隻が進軍し、邪魔な駆逐艦を排除しながら、サーファイ島の東側に上陸し、進軍していただきます。それから、残り30隻からなる分隊は南西方向に向け進軍し、同じく邪魔な駆逐艦を排除しながら、サーファイ島最大の港がある、島の南側より上陸し、進軍していただきます。キャプテン率いる本隊は敵主力艦隊を殲滅後、サーファイ島南側の港に上陸していいただき、同じく進軍していただきます。分隊の方に、キャプテンたち七人の内、四名の方々に分隊長を務めていただきたく思います。二分隊による進撃が成功すれば、三日の内にサーファイ島の政府中枢を占拠できると思われます。キャプテンたちが敵主力艦隊を殲滅し終え、サーファイ島に上陸した頃には、政府は我々によって占拠され、海軍は壊滅状態に追い込まれる、という構図が出来上がります。いかがでしょうか?」
「グフフフ。見事な作戦なり、ベトレー大佐。反魔力を持つ我が輩たちの手にかかれば、魔力で動く大戦艦や駆逐艦など、何隻刃向かってこようが無意味なり。一撃で撃沈可能なり。本隊は、我が輩、高城氏、金田氏の三名で率いるなり。東側担当の分隊長は、志比田氏と宮丸氏、南側の分隊長は天神氏と吉尾氏に任せるなり。クククっ、この布陣なら侵略作戦は速攻で方が付くなり。最速でゲームクリアーでござるよ。」
「かしこまりました。それと、サーファイ島に上陸した際、冒険者ギルドの冒険者たちが軍の要請を受け、作戦を妨害してくる可能性があります。国の治安維持に多少の影響が出るかもしれませんが、サーファイ島にいる冒険者たちは殲滅した方がよろしいかと考えます。不足した冒険者たちの補充が完了するまでの間、海賊の皆様には治安維持にご協力をお願いしたく存じます。作戦の決行日時は二時間後、本日正午きっかりにお願いいたします。それから、作戦が成功し、キャプテンが国家元首に就任された暁には、是非、この私、べトレー・レッド・シャークを新政府の宰相の地位に就けていただきたく、お願い申し上げます。」
「フハハハ。もちろんなり。作戦が成功した暁には、貴様を我が輩が新たに打ち立てる、ダーク・サーファイ帝国の宰相のポストを与えるでござる。駄犬の弟と違い、頭が切れる貴様は、我が輩の求める有能な部下そのものなり。宰相となった貴様の手腕には期待しているでござるよ。」
「ありがとうございます。では、私は一足先にサーファイ島へ向かわせていただきます。海軍の最新の動向や作戦内容については情報を入手しだい、随時皆様の方にご連絡いたします。作戦成功、心から祈っております。」
「うむ。我が輩たちに全て任せるでござる。いよいよ、国盗りが始まるなり。興奮が止まらんなり。」
ベトレー大佐と別れると、沖水たち一行は作戦の最終確認を行った。
それから、作戦決行の時が来るのを待ち続けた。
作戦会議から二時間後。正午12時ちょうど。
沖水率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団が、サーファイ連邦国を侵略すべく、行動を開始した。
沖水率いる本隊50隻は、沖水、高城、金田の三名が乗る海賊船を先頭に、サーファイ島を左回りになぞるように、東側から北側へと進んで行く。
沖水率いる海賊の大船団による侵攻を阻止するため、各島々から駆逐艦が何隻も派遣されてくる。
サーファイ連邦国海軍の駆逐艦は、全長155m、幅20m、魔石に含む魔力をエネルギーに動く最新のエンジンを搭載し、装甲は鉄製、海賊船のモノよりも大きい38口径砲門の大砲を10門搭載した、最新鋭の駆逐艦であった。乗員は380名、最大31ノットで海を航行可能である。
トータルで見れば、海賊船よりも海軍の駆逐艦の方が性能は上であった。
しかし、魔力をエネルギーに動く最新のエンジンが、かえって徒になった。
魔力を無効化できる反魔力を持つ、メフィストソルジャーである沖水たちにとって、駆逐艦は無力な、ただの的に過ぎなかった。
「クックック。愚かなり。反魔力を持つ我が輩たちに最新鋭の駆逐艦など、ただの動かない的同然なり。金田氏、お願いするでござるよ。」
「フヘヘヘ。了解、キャプテン。変速結界!」
金田が左手の丸盾から展開した「変速結界」が、海賊船と駆逐艦を覆った。
結界に覆われた直後、駆逐艦に異変が起こった。
反魔力でできた「変速結界」に覆われた影響で、全ての駆逐が一気に減速し、そのまま海の上で停止し、動かなくなったのだ。
反対に、沖水たちの乗る海賊船のスピードは倍になり、最大80ノット、時速148㎞という驚異的な速さで、駆逐艦に迫っていく。
「さぁ、ゲームスタートなり!激流突貫!」
「全部、沈めてやるよ!轟雷爆射!」
沖水の槍から放たれる、激流のような勢いの高圧水流のカッターと、高城の弓から放たれる雷を纏った、音速を超える矢が、航行不能に陥った駆逐艦たちに襲いかかった。
船体や船底に大穴を開けられ、あるいは雷の直撃で船や船員が感電し、サーファイ連邦国海軍の駆逐艦は沖水たちの攻撃を受け、次々に撃沈していくのであった。
他の海賊船からも、駆逐艦が動けないことを良いことに、次々と大砲を駆逐艦に向けて撃ち、一方的に蹂躙していくのであった。
沖水たち本隊の快進撃は止まらず、何百隻という海軍の駆逐艦が次々に撃沈した。
沖水たちがサーファイ島の西側の海域に入ろうとしたところで、サーファイ連邦国海軍の主力艦隊が現れた。
サーファイ連邦国海軍が誇る最強の大型戦艦6隻と、駆逐艦400隻の大艦隊が、沖水たちの前に立ち塞がった。
戦艦は全長270m、幅32m、装甲は全て鉄製で、50口径砲門の大型大砲を10門、38口径砲門の小型大砲を30門装備し、さらに魚雷まで装備している。魔石の魔力をエネルギーに動く最新のエンジンを整備し、最大33ノット、時速62㎞のスピードで航行可能である。乗員2,800名の、正に超弩級の戦艦であった。
しかし、サーファイ連邦国海軍が誇る最強の戦艦6隻も、魔力をエネルギーに動く最新のエンジンが、かえって徒になり、金田の反魔力で構成された「変速結界」に覆われると、たちまち動かなくなってしまったのだった。
大砲で海賊船を撃破しようとするも、大砲の玉のスピードが半減し、さらに、海賊船は戦艦の2倍以上のスピードで航行するため、大砲は当たらず、全く無意味であった。
魚雷を発射しようとしたが、魔力をエネルギーに動く魚雷であったため、発射しようにも全く動かなくなってしまった。
戦艦と駆逐艦が航行不能に陥っている隙をつき、沖水率いる海賊団の本隊は、海軍の戦艦と駆逐艦に情け容赦なく、一方的に蹂躙するかのごとく、激しい攻撃を浴びせ、敵主力艦隊を殲滅した。
怒涛の勢いでサーファイ連邦国海軍の主力艦隊を殲滅した沖水たちは、ちょうど日付をまたぐ頃、深夜には、首都のあるサーファイ島の南側の港へと到着した。
サーファイ島へ上陸した沖水たち本隊は、武器を手に上陸すると、すでに、天神と吉尾の二人が分隊長を務める分隊が上陸した後だったため、反魔力を使った攻撃で一方的に騎士たちと冒険者たちを蹂躙した後だったため、沖水たちの目の前には、騎士たちと冒険者たちの死体が転がっていた。
「クックック。作戦は万事上手くいっているようなり。反魔力で敵の通信を妨害し、こちらはベトレー大佐のもたらす情報をもとに一方的に敵軍を蹂躙するだけ。ワンサイドゲームというのは、やはりすこぶる気分が良いものでござる。正にゲーマーにとって至高の喜びなり。さて、我が輩たちはゆっくりと進軍するなり。すでに決着は着いたも同然なり。グフフフ、ついに異世界に我が輩の帝国を築く時が来たなり。我が輩こそ、異世界最強の海賊にして、異世界の覇王なり。」
サーファイ連邦国侵略作戦が予定通りに進んだことを確信し、笑みを浮かべる沖水であった。
時は遡り、沖水率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団が、サーファイ連邦国侵略を開始してから30分ほど経過した頃。
サーファイ連邦国大統領府の大統領執務室にして、一人の中年女性が机に向かって仕事をしていた。
身長160cmほどで、青いストレートヘアーに、褐色の肌、青い瞳、水色の生地に青い花柄の女性用アロハシャツ、紺色の長いパンツ、紺色のサンダルという姿の、50歳の細身の女性であった。
彼女の名は、マーレ・アクア・ドルフィン。サーファイ連邦国の国家元首にして、現大統領であった。
サーファイ連邦国は、ドルフィン族、シャーク族、ホエール族、タートル族、スクイッド族、シュリンプ族、マンタレイ族、コーラル族、シーホース族、ペンギン族の十部族が治める島々から構成され、4年おきに各部族の族長が大統領を交代制で務める、という政治体制をとっている。また、各部族の族長たちが、国会議員兼各大臣を務める合議制でもある。
マーレ大統領、彼女もまた、現ドルフィン族の族長でもあり、今年で任期三年目となる女性大統領であった。
マーレ大統領が大統領執務室で仕事をしていると、コンコンと、ドアが二回、小さく叩く音が聞こえた。
それから、一人の小さな女の子が一生懸命、ドアを開けて執務室の中に入ってきた。
少女の名は、メル・アクア・ドルフィン。一年前、両親を海賊に殺され、祖母であるマーレ大統領に引き取られた5歳の少女であった。
「おばあちゃん、一緒にご飯食べようなの。もう、お昼過ぎちゃったなの。」
「あら、ごめんなさいね、メル。お仕事をしていたから、つい忘れていたわ。一旦、お仕事は止めるから、一緒にご飯を食べましょう。呼びに来てくれて、ありがとう、メル。」
「どういたしまして、なの。早く行こう、おばあちゃん。」
「はいはい。ちょっと待っててね。」
マーレ大統領がそう言って、机を整理していると、ドアをノックする音が聞こえ、それから、身長170cmほどで、青いショートヘアに四角いレンズの眼鏡をかけた、白色の生地に水色の花柄の女性用アロハシャツに、黒色の長いパンツ、黒いサンダル、茶色いベルトに、腰に一振りのロングソードを差した、30代前半のキリっとした雰囲気の女性が、執務室の中へと入ってきた。
その女性の名前は、カナリー・ホワイト・スクワッド。マーレ大統領の秘書官にして大統領の護衛役を務める女性であった。
「失礼いたします。マーレ大統領。緊急のご報告があって参りました。少々、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ええっ、構いません。メル、ちょっとだけ待っててね。すぐに終わるからね。」
「分かったなの。」
「それで、カナリー、緊急の報告とは何かしら?」
「はい、大統領。実は先ほど、我が国の東側の海域を警備している海軍の警備隊より緊急通信が入りました。通信の内容によりますと、突如、東側の海域に海賊船100隻からなる大船団が現れた、とのことです。海賊団は制止を呼びかける駆逐艦の警告を無視し、一方的に攻撃を行ってきたとのことです。海賊団は我が国の北側に50隻、東側に50隻に別れ、侵攻しているとのことです。現在、海軍より駆逐艦200隻を派遣して対応に当たらせておりますが、海賊団の侵攻は激しく、我が国の誇る最新鋭の駆逐艦を次々に撃沈する勢いとのことです。報告は以上になります。」
カナリー秘書官の報告を聞き、マーレ大統領は顔を顰めた。
「我が国が誇る最新鋭の駆逐艦を、それも相手の倍の数を派遣しているのに侵攻が止められないとは、あまり状況はよくありませんね。最近、我が国の海域で暴れ回っている、例の謎の海賊団の可能性があります。我が国の駆逐艦と戦えるほどの性能を持った海賊船を持つ海賊は、彼ら以外に考えられないでしょう。ですが、今まで散々、海軍の追跡から逃げ回っていたというのに、急に海軍の船を襲い始め、我が国に侵攻を開始したと。海賊たちに何かしら変化が起こり、我が国の海軍と互角に戦えると判断するほどの戦力を手に入れたために侵攻を開始した可能性が考えられます。カナリー、北側と東側に追加で駆逐艦を100隻、至急派遣するよう、海軍本部に伝えてください。私はメルと昼食を食べ次第、すぐに仕事に戻り、事態の対処に当たります。よろしくお願いしますね。」
「かしこまりました。すぐに海軍本部へ伝達いたします。失礼いたします。」
カナリー秘書官は一礼すると、大統領執務室を出て行った。
カナリー秘書官が執務室を出て行った後、マーレ大統領はメルにいった。
「メル、おばあちゃんはお昼ごはんを食べたらすぐに仕事に戻らないといけないから、お昼はサンドウィッチみたいな簡単なモノでもいいかい?」
「うん。おばあちゃんと一緒に食べれるなら、何でもいいの。」
「ごめんね、メル。夕食はおいしいものを作ってあげるからね。」
それから、マーレ大統領は大統領府内の大統領官邸に向かい、メルと一緒に昼食を食べた。
1時間後、昼食を食べ終え、海賊団の討伐状況を確認するため、メルを大統領官邸に残し、大統領執務室でふたたび仕事を始めた。
執務室で仕事を再開してから1時間後、血相を変えたカナリー秘書官が慌ててノックもせず、マーレ大統領のいる大統領執務室に飛び込んできた。
「大変です!大統領!海賊団討伐に派遣していた駆逐艦全てが、海賊団によって撃沈させられた模様です!」
カナリー秘書官の衝撃な報告を聞き、マーレ大統領は思わず椅子から立ち上がり、驚いた。
「何ですって!?そんな馬鹿な!?派遣した駆逐艦400隻が全て海賊団に撃沈された!?我が国の最新鋭の駆逐艦たちを、たった100隻の性能の劣る海賊船が撃破したと言うのですか?」
「信じられないことですが、事実です!現在、海賊船の内、20隻が駆逐艦を撃破し、サーファイ島の東側に上陸、海賊船から続々と海賊たちが下りて上陸し、攻め込んできたとのことです。東側の警備をしていた騎士たちが応戦中とのことですが、全く歯が立たず、現在、我々のいるこの首都を目指してまっすぐ進行しているとのことです。南側にも30隻の海賊船が現れ、派遣した駆逐艦が応戦しましたが、全て撃沈させられたとのことです。南側から進行中の海賊船は恐らく、サーファイ島最大の港がある島の南側へ向かっているものと思われます。それから、北側より侵攻してきた50隻の海賊船も、派遣した全ての駆逐艦を撃沈した模様です。海賊船と接触したとの通信が海軍本部に届いた直後、全ての駆逐艦との連絡が一斉に途絶したとのことです。何らかの通信を妨害する装備を海賊団は使用しているものと思われます。50隻の海賊船は現在、サーファイ島の西側の海域を侵攻中の可能性があります。」
「くっ。通信を妨害できる装備まで手に入れているとは。海賊団の目的は恐らく、我が国を占領することでしょう。我が国を占領できるほどの戦力、装備を手に入れ、入念に計画を立てて、侵略作戦を決行したわけですか。海賊団の手に入れた戦力はこちらの想定以上と思われます。カナリー秘書官、戦艦6隻と駆逐艦400隻を西側に向けて侵攻中の海賊船に派遣しなさい。まずは敵の主力艦隊を一気に叩きます。南側から侵攻してくる海賊船には、戦艦1隻と駆逐艦200隻を派遣させなさい。東側から上陸した海賊たちには、島内で警備に当たる騎士たちの半分と、冒険者たちで対応させなさい。冒険者ギルドに事情を説明し、非常招集をかけて対応に協力してもらいましょう。可能なら、北側と南側の海で活動中の冒険者たちにも海賊船の討伐に協力を呼びかけてください。現時刻より、非常事態宣言を発令します。一般市民には各避難所へと非難するよう伝えてください。それと、各国会議員にも事情を伝え、大統領府の会議室に集合するよう伝えてください。」
「かしこまりました。早急に手配いたします。」
そう言うと、カナリー秘書官は急いで執務室を出て行った。
マーレ大統領は椅子に座り込み、しばらく両目を閉じて考え込んだ。
「ラトナ公国と共同で開発した我が国の最新鋭の駆逐艦400隻が、性能で劣るはずの海賊船100隻に撃沈させられるなど、あまりに異常な事態です。海軍の強化に合わせるように、海賊たちの船の装備の性能も向上しました。それも急激にです。報告では、駆逐艦を超えるスピードのエンジンと、我が国で以前使用されていた旧式の大砲まで装備するようになっていたと。ですが、例えそれでも、数も性能も我が国の海軍の軍艦がはるかに上です。しかし、現実には、海賊たちによって我が国の派遣した駆逐艦は全て撃沈させられました。我が国の海軍との圧倒的な戦力差を埋めることを可能にする最新鋭の武器を海賊たちは手に入れた、そう考えるべきでしょう。けれども、こちらにも最新鋭の装備を備えた、海上戦最強の大型戦艦があります。我が国最強の大型戦艦の力を持ってすれば、海賊たちを撃退、あるいは殲滅も可能なはずです。これ以上、事態が悪化しないことを願うばかりです。」
マーレ大統領はそう呟いた後、椅子から立ち上がると、準備を整え、各大臣にして各部族長の集まる、大統領内の会議室へと向かった。
そして、会議室に到着すると、謎の海賊団によるサーファイ連邦国への侵略について、対策会議を行いながら、戦況を見守るのであった。
午後5時頃。
海軍と海賊団との戦況を会議室で見守るマーレ大統領と各大臣に、海軍本部から通信連絡用の水晶玉より、緊急の通信連絡が入った。
「こちら、海軍本部作戦室です!緊急対策本部にご報告いたします!西側の海域より侵攻してくる海賊船50隻討伐のため派遣した、我が軍の戦艦6隻、駆逐艦400隻の全てが、海賊団によって撃沈させられた模様です!各戦艦、各駆逐艦ともに通信途絶です!陸上より目視にて確認したところ、海賊船50隻は現在、サーファイ島より南西の海域を推定80ノットの驚異的な速さで侵攻中との報告が入りました!南側に派遣していた戦艦1隻と駆逐艦200隻ですが、駆逐艦200隻は全て撃沈され、残った戦艦1隻は海賊団によって奪取された模様です!現在、奪取された戦艦1隻と、海賊船30隻が、サーファイ島南側の港に接近中とのことです!東側から上陸した海賊団ですが、派遣した騎士たちと冒険者たちの9割以上が壊滅、首都に向かって侵攻を続けている模様です!我が軍の保有する軍艦はほぼ全てが撃沈、軍所属の騎士たちも首都近辺で警備に当たる騎士たちのみという状況です!至急、緊急対策本部にいらっしゃる政府首脳陣の皆様は避難をお願いいたします!他国への緊急の応援要請もお願いします!現状の戦力では、海賊団の侵攻を止めることは不可能と思われます!」
海軍作戦本部室からの緊急の通信連絡を受けた、マーレ大統領と各大臣の顔は青ざめ、驚きのあまり、皆、その場で固まり、言葉を失った。
「我が国自慢の海軍が壊滅状態に追い込まれたと!?たかが100隻の海賊団のために、戦艦6隻と1,000隻の駆逐艦が撃沈され、戦艦1隻が奪われたと!?くっ!こんな事態になるなんて、想定外です!戦況は最悪と判断しました!とにかく、今は一人でも多くの島民をサーファイ島から脱出させましょう!軍本部に通達します!可能な限り、残っている騎士たちを使って、サーファイ島の島民の島からの脱出を手伝わせなさい!島外への緊急避難命令を発動します!他国への緊急の応援要請も行います!各大臣の皆さんは、他の島民の方々と一緒に避難をお願いします!私は残り、ここで指揮を執ります!」
「お待ちください、マーレ大統領!私も残らせていただきます!サーファイ連邦国の海軍を預かる軍務大臣として、シャーク族の長として、私には海賊どもによる侵略を許してしまった責任があります!私も最後までお供いたします!」
マーレ大統領とともに残りたい、そう言うのは、身長170cmほどで、青い髪に白髪交じり、赤い男性用アロハシャツに、グレーの短パン、グレーのサンダル、丸眼鏡をかけた、褐色の肌の70代前半の男性であった。
その男性の名前は、ベンジー・レッド・シャーク。サーファイ連邦国の現軍務大臣であった。シャーク族の現族長でもあった。
「ありがとうございます、ベンジー軍務大臣。ですが、2年後に大統領をお任せすることになるあなたを巻き込むわけには・・・」
「構いませんよ。私にはたくさんの息子、娘たちもおります。私の後継者となる人間は大勢おります。それに今回の海賊どもによる侵略は、軍務大臣としてのこの私の手腕が至らなかったことにも責任があります。どうか最後までこの老体にお供させてください。」
「本当にありがとうございます、ベンジー軍務大臣。」
ベンジー軍務大臣に続き、他の大臣たち、族長たちも、マーレ大統領とともに残り、協力を申し出てきた。
マーレ大統領外各大臣、サーファイ連邦国政府首脳陣は皆、大統領府に残り、最後まで共に海賊たちと戦い、サーファイ島の島民の避難に協力する道を選んだ。
マーレ大統領やサーファイ連邦国海軍、サーファイ連邦国冒険者ギルド本部の冒険者たちが奮戦するも、海賊たちは驚異的な速さで侵略を進め、サーファイ島の東側と南側から上陸し、海軍の騎士たちと冒険者たちを壊滅寸前にまで追い込んだ。
海賊たちがサーファイ連邦国の侵略を始めてから三日目の朝。
ついに、志比田と宮丸が率いる海賊団の分隊が首都の東側から、天神と吉尾率いる海賊団の分隊が首都の南側から、首都に向かって侵攻を開始した。
首都に残っていた騎士たちと冒険者たちが海賊たちを迎え撃ったが、志比田たち四人が率いる海賊たちには全く歯が立たず、返り討ちに遭い、全滅した。
サーファイ連邦国政府首脳陣や海軍本部が他国に応援要請を求めるため、他国との通信を試みるも、三日前の夕方から海賊船より放たれる紫色の光を発する半球状の謎の結界らしきものによってサーファイ島全土を覆われたためか、他国との通信が妨害され、他国に応援要請を送れずにいた。
民間の船に協力を要請し、何とか半数の島民を避難させることに成功したが、謎の海賊団によって事実上、サーファイ連邦国は侵略されたも同然の状態であった。
大統領府に海賊たちの魔の手が迫る中、マーレ大統領は大統領官邸にいたメルを大統領執務室に呼び出した。
カナリー秘書官に連れられ、メルが大統領執務室へとやってきた。
マーレ大統領は大統領執務室の、壁一面に造り付けられた本棚の一部を動かし、秘密の脱出口の入り口を開いた。
入り口を見ながら、マーレ大統領はメルに言った。
「メル、おばあちゃんの言うことをよく聞きなさい。これは秘密の逃げ道の入り口なの。メル、あなたは小さいけど、とっても可愛くて、勇気のある子です。この秘密の入り口を通ってあなたは逃げなさい。あなたがこの中に入ったら入り口の扉を閉めます。そしたら、あなたはすぐに扉に鍵をかけなさい。それから、黙ってこっそりと通路の中を歩いて逃げなさい。ここから大分離れた遠くのお墓が出口になっています。出口を出たら、海賊に見つからないよう、こっそりとこの町を出なさい。そして、まっすぐ北に向かって逃げなさい。北の港には、ドルフィン族の親戚がいます。その人たちを頼って、島から脱出するのです。良いですね?」
「おばあちゃんは?おばあちゃんもメルと一緒に逃げないの?」
「おばあちゃんにはまだ、やらないといけないお仕事がいっぱいあるの。だから、メルだけで先にお逃げなさい。おばあちゃんは後から必ず、メルちゃんを追いかけるから。はい、これが入り口の鍵よ。大丈夫。きっとまた会えるから。」
マーレ大統領はそう言ってメルに鍵を渡すと、しゃがんで、メルを優しく抱きしめた。
これが愛する孫娘との今生の別れになる、マーレ大統領はそう思っていた。
涙をこらえながら、メルにまた会えるという優しい嘘をつき、メルを一人逃がすことを決めたのであった。
メルに抱き着くのを止めると、マーレ大統領はメルを本棚の秘密の脱出口の入り口へと入れた。
「メル、また会いましょうね。それと、ここには絶対に戻って来てはいけませんよ。おばあちゃんとの約束、必ず守るのよ。」
「うん。分かったなの。メル、おばあちゃんとの約束、ちゃんと守る、なの。またね、おばあちゃん。メル、待ってるからね。おばあちゃん、大好き。」
「ありがとう、メル。おばあちゃんもメルが大好きよ。愛してる。」
メルと最後の別れを済ませると、マーレ大統領は秘密の脱出口の入り口の扉を閉めた。
入り口を閉めた直後、カチンという鍵を閉める音が、扉の向こうから聞こえてきた。
メルが脱出したのを見届けたマーレ大統領は涙を流しながら言った。
「ひどいおばあちゃんでごめんね、メル。もっとあなたを早く逃がすべきだったのに。本当にごめんなさい。どうか無事、生き残って。賢いあなたなら、きっと大丈夫だって、おばあちゃん信じているからね。」
「マーレ大統領、護衛も付けず、メルさまをお一人で脱出させて大丈夫でしょうか?メルさまはまだ5歳の女の子です。私が後を追いかけて、護衛いたしますが?」
「ありがとう、カナリー秘書官。大丈夫よ。あの子は見かけよりずっと賢い子だから。きっと私の言いつけを守って、無事に逃げ延びてくれると信じているの。私の我が儘であの子をここに引き留めてしまった。本当にあの子には申し訳ない気持ちよ。それに、今回の海賊の襲撃には、不自然な点が多すぎる。恐らく、今回の海賊たちによる襲撃を手引きした人間がいる。それも、多分政府関係者の誰かよ。」
「やはり、政府の中に裏切り者がいる、とのお考えなのですね?」
「ええっ。海賊団の驚異的な侵略のスピード、それを可能にする武器や情報を海賊団に提供した人物がいるのは間違いないわ。我が国の海軍の保有する戦力や、海軍の動向を詳細に把握し、海賊たちを支援している裏切り者がいなければ、たがが100隻の海賊船で我が国の海軍を打ち破るなど、不可能よ。以前から、海賊たちを裏で支援する謎の人物、元締めと呼ばれる存在がいる、との報告はあった。私が大統領就任後、最新鋭の戦艦と軍艦を導入し、海賊対策を進めたのに合わせて、海賊たちの戦力も徐々にだけど強化されていった。我が国で廃棄されたはずの旧式の大砲が拿捕された海賊船から見つかったのが、裏切り者がいる証拠よ。中々尻尾を掴ませないその裏切り者が、今回我が国を襲撃した海賊団のバックにいると見るわ。」
「我が国の政府内から海賊に味方する裏切り者が現れるとは残念です。海賊たちを使って我が国への侵略を考えようなど、けしからん話です。ですが、海賊だけで国の運営ができるわけがありません。海軍の騎士、冒険者を見境なく殺し、暴れ回るだけの連中に政治や行政を円滑に進めることは不可能です。気になるのは、海賊側から降伏勧告など、一切の要求がいまだに来ない点です。海賊団と我々の戦力差が明らかになった時点で、降伏なり、金銭の要求なり、何かしらの要求をしてきてもおかしくないのに、何も要求をしてこないまま、この首都までまっすぐ侵攻を続けてきた、という点が引っかかります。ただ虐殺や侵略を行うために、大掛かりな準備を行って襲撃してきた、とは考えられません。海賊団のトップ、裏で糸を引く元締めの目的、真意が分かりかねます。何といいますか、戦略と行動に矛盾と言いますか、ちぐはぐとした違和感がある、と言いましょうか?」
「確かにそのとおりね、カナリー。我が国の海軍を圧倒する戦力と戦略を海賊たちが有しているのは分かります。ですが、侵略を開始してから三日、政府に対して何も要求せず、ただ暴れ回る、というのは理解できません。降伏勧告をして、政府の明け渡しを要求するなど、無駄に戦闘を行うことなく、侵略することもできたはずです。それなのに、何も要求せず、こちらの呼びかけにも一切応じず、無意味に戦闘をしかけ、戦闘を継続する必要性がまるで分かりません。まさか、言え、まさかとは思いますが、ただ虐殺を行うためだけに、我が国を侵略したと!?そんな馬鹿なことが!?」
大統領執務室でマーレ大統領とカナリー秘書官が海賊たちの行動に疑問を抱いていると、大統領府のすぐ傍で、爆発音と悲鳴が聞こえた。
マーレ大統領とカナリー秘書官の顔に緊張が走る中、大統領府の廊下から悲鳴が聞こえた。
そして、一人の白髪の男性、いや、少年が、穂先に火炎を纏ったグレイヴを右肩に担ぎながら、マーレ大統領とカナリー秘書官のいる大統領執務室へと入ってきた。
「もしも~し、こんにちは。うおっ、マジかよ!僕好みの、良い感じのババアが二人もいるじゃん!マジ、ラッキーっと!一番年いってるオバさんが大統領で、そっちの若い方のオバさんが秘書さんってところかな?とりあえず、おとなしく僕に降伏してくんない?表にいた騎士も冒険者もみんな僕たちで殺しちゃったしさぁ。二人とも僕の愛人になるなら、生かしてあげていいよぉ。」
グレイヴを右肩に担ぎながら、いやらしい笑みを浮かべながら、吉尾が、マーレ大統領とカナリー秘書官に向かって言った。
「ふざけるな!誰が貴様のような海賊の愛人になどなるものか!貴様、目の前にいらっしゃる御方がサーファイ連邦国大統領、マーレ・アクア・ドルフィン様と知っての狼藉か?そもそも、なぜ、こちらからの呼びかけに応じず、殺戮を繰り返した?理由を答えろ!」
カナリー秘書官の問いに、吉尾は笑いながら答えた。
「うるせえババアだなぁ。呼びかけとか知らないし。ただ、僕たちはこの国を乗っ取りに来ただけだし。目の前にいる敵キャラをぶっ殺して、国を落とすっていうゲームをやってるだ~け。戦艦落とすのも結構、楽しめたよ。僕、元いた世界じゃ戦略シミュレーションゲームをやってたからさ。リアルでやるとめっちゃ面白かったわ。」
「ゲームをやっていただと!?貴様、正気なのか!?ゲーム感覚で人を殺し、国を侵略したと言うのか!?ふざけるな!」
「別にふざけてないんだけどなぁ。こっちはマジなんだけど。で、そろそろ返事聞かせてもらえる?おとなしく降参して僕の愛人になるのか、ここで今すぐ僕に殺されるのか?」
吉尾がマーレ大統領たちに決断を迫る中、マーレ大統領はふと吉尾の先ほどの発言が気になり、訊ねた。
「一つ質問をよろしいかしら、海賊の坊や?あなた、今、元いた世界、っていう言葉を使っていたけれど、あなた、もしかして、インゴット王国を脱走して逃亡中の、異世界から召喚された元勇者なのかしら?」
「あちゃ~、バレちゃったか。まぁ、別にいっか。そうだよ。僕たちはインゴット王国を脱走して指名手配中の、異世界から召喚された元勇者だよ。けど、もうそんなのどうでもいいけどね。今の僕たちはLv.100、SSランクの無敵のチート能力を手に入れた最強の海賊ってわけさ。僕たちのキャプテン、リーダーが「水の迷宮」だっけか、ダンジョン攻略するって言うもんだから、ついでにこの国侵略して乗っ取っちゃおうって話になったわけ。話はもういいだろ?答えを聞かせろよ、ババア。」
吉尾の言葉を聞いて、マーレ大統領は内心笑った。
目の前にいる海賊と名乗る少年は、自分が代々、勇者たちの「水の迷宮」のダンジョン攻略を支えてきた、世界に数少ない「占星術士」の家系、ドルフィン族の家系であることを知らないことに。
知っていたら、自分を殺そうとは決してしないことを、彼女は悟った。
彼女は吉尾に見えないように口元に笑みを浮かべると、それから力強い口調で目の前にいる吉尾に向かって言い放った。
「答えはもちろん決まっています!私たちが海賊に屈することは決してありません!あなたみたいな尻の青い、童貞臭いガキの愛人になるなど、死んでも御免です!殺したければ殺しなさい、勇者失格の可哀想な坊や!」
マーレ大統領の挑発に、吉尾は激怒した。
「クソババア!僕のことを童貞だと馬鹿にしたな!勇者失格の可哀想な坊やだと!?馬鹿にするんじゃねぇ!今すぐぶち殺す!」
穂先に火炎を纏ったグレイヴを右手に持った吉尾が、マーレ大統領に向かって斬りかかった。
「大火炎斬突!」
「流水剣!」
カナリー秘書官が腰のロングソードをすかさず抜いて、吉尾とマーレ大統領の間に割って入り、剣先に高圧水流のカッターを纏った剣で、吉尾のグレイヴの穂先から繰り出される炎を纏った斬撃を受け止めようとした。
しかし、吉尾のグレイヴによる斬撃を受け止めた瞬間、カナリー秘書官の持つロングソードの剣先に纏っていた高圧水流が打ち消され、剣先を折られてしまった。
「何っ!?」
「しゃらくせえ、ババアが!」
火炎を纏ったグレイヴの穂先を、無防備になったカナリー秘書官の腹に、吉尾は突き刺した。
「カハっ!?」
吉尾のグレイヴに腹を貫かれ、穂先に纏った高熱の火炎で、カナリー秘書官の体は燃やされ、殺されてしまった。
「カナリー!?」
カナリー秘書官の死を目の当たりにしたマーレ大統領に向かって、吉尾がすかさず、マーレ大統領の心臓目がけて、火炎を纏ったグレイヴの穂先を突き出した。
「ガハっ!?」
吉尾のグレイヴの穂先がマーレ大統領の心臓を貫いた。
口から血を流し、体を炎で燃やされるマーレ大統領は、最後の力を振り絞り、「占星術士」のスキルを使って、未来を見た。
彼女の予知した未来には、崩壊した「水の迷宮」の姿と、「水の迷宮」のすぐ傍で、晴れ渡る空と、穏やかな海の上で、船に乗った自分の孫娘であるメルと、黒髪の謎の少年が笑顔で喜び、抱き合う、仲睦まじい姿が映っていた。
「良かった。希望はまだ残されている。」
その言葉を最後に、マーレ大統領は力尽きた。
マーレ大統領の死体は、吉尾のグレイヴの炎によって燃やされ、跡形もなく消滅した。
マーレ大統領を殺害した後、吉尾は悔しそうな表情で怒りながら、マーレ大統領の死体があった場所を何度も踏みつけた。
「くそっ!くそっ!くそっ!この僕を馬鹿にしやがって!ニヤニヤと笑いながら死にやがって!マジでムカつくババアだぜ!くそっ!」
吉尾が怒りをぶちまけていると、天神が大統領執務室の中に入ってきた。
「どうした、奏太?何かあったのか?」
「何でもねえよ!ムカつくババアを二人、殺しただけだ!」
「へぇー。熟女好きのお前が熟女を殺すなんてことがあるんだな。それより、敬と雄二の二人もさっきこっちに着いて、冒険者ギルドの連中を皆殺しにしたってよ。それと、会議室にいた大臣、族長とか名乗る奴らは僕の方で全員、殺したから。とりあえず、大統領もぶっ殺したわけだし、僕たちはキャプテンを出迎える準備をしようよ。」
「了解。じゃあ、お出迎えの準備と行きますか。やべっ。大統領執務室の床がちょっと焦げちまった。まぁ、これくらいなら、キャプテンも怒りはしないだろ。食料になる死体を集めさせてこないともいけねえな。忙しくなるぜ、まったく。」
それから、吉尾、天神、志比田、宮丸の四人は大統領府で合流し、キャプテンこと「槍聖」沖水 流太を出迎える準備をした。
午後4時。
沖水、金田、高城の三名が、海賊団の本隊を率いて、吉尾たち四人と合流した。
大統領執務室の椅子に座るなり、沖水は満足そうな笑みを浮かべながら言った。
「グフフフ、フハハハ!ついに、ついにサーファイ連邦国を侵略したなり!今日、この時から、この国は我が輩のモノなり!今からこの国はダーク・サーファイ帝国となるなり!そして、完全無欠、天下無敵の「槍聖」にして海賊、我が輩キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーがこの国を治める偉大なる皇帝となるでござる!異世界無双、最高なり!」
沖水たち一行がサーファイ連邦国の侵略に成功したことを喜んでいると、ベトレー大佐が大統領執務室に入ってきた。
「お疲れ様でございました、キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様。侵略成功、誠におめでとうございます。皆様のおかげで無事、サーファイ連邦国を我々の手中に収めることに成功いたしました。さすがは天下無敵を名乗る皆様でいらっしゃいます。残っていた海軍本部の連中も全員、こちらで始末いたしました。後は、各島々に散る十部族の生き残りたちに降伏を呼びかけ、それから我々がこの国を占拠し、キャプテンを国家元首とする新たな国を建国したことを、世界各国に向けて発表するのみです。闇ギルドや生き残りの冒険者、騎士たちによる抵抗はないと思われます。他国がすぐに我が国に対して敵対行動を起こすことはないはずですが、念のため、海賊たちを使って島の周囲を警備させた方がよろしいと思われますが、いかがでしょうか?」
「ベトレー大佐、ご苦労である。貴殿の言う通りに事を進めるでござる。今日からこの国はダーク・サーファイ帝国と名を改め、我が輩キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーがこの国を治める皇帝となるなり。そのように世界に向けて発表するなり。他国であろうと我が輩たちに危害を加えようなら、問答無用で滅ぼすと、そう伝えるなり。よろしく頼むでござるよ、ベトレー宰相殿。」
「かしこまりました。このベトレー、ダーク・サーファイ帝国宰相として、精一杯職務に励ませていただきます。今後ともよろしくお願いいたします、皇帝陛下。」
「フハハハ。任せるなり。おっと、せっかくなら、皆で侵略成功を祝うパーティーを開くなり。我が輩たちの食う人肉や酒を準備するなり。ベトレー宰相、先に祝いのパーティーの準備を進めよ。盛大なパーティーを催すなり。貴殿も宰相として是非、参加するなり。世界各国への発表など、少し遅れても構わんでござる。」
「かしこまりました。では、パーティーの準備の方も早急に進めます。しばらくお待ちください。それでは、失礼させていただきます。」
ベトレー宰相は沖水たち一行に向かって頭を下げると、それから大統領執務室を出て行った。
ベトレー宰相はすぐに海賊たちに命じ、侵略成功のお祝いパーティーの準備をするよう命令した。
ベトレー宰相が大統領府の新たな自分の部屋で、世界各国に発表する声明文の原稿の内容などを考えていると、赤い三角帽を被るのを止めて、赤いバンダナを頭に巻いた弟のコビール・レッド・シャークが、部屋の中に入ってきた。
「お疲れ、兄貴。あのガキどもと兄貴の作戦のおかげで無事、国盗りが上手くいったな。で、どうするよ?もうあの人食いのガキどもに用はねえだろ?隙を見て殺すか?」
「ノックもせずに私の部屋に入ってくるな、馬鹿者。それに誰が話を聞いているか分からん。滅多なことを口にするな。皇帝陛下たちにはもうしばらく活躍していただくつもりだ。皇帝陛下のお望みは、ご自分の力を使って世界を支配することと、人肉を食らうこと、後は世界中の女を侍らせること、この三つだ。しばらくしたら、この国に興味を失くし、他国を侵略しに向かわれるはずだ。この国よりもっと大きい国を手に入れれば、そちらに本拠を移されるだろう。そうなれば、この国は領地として私がいただく。領主代行としてお前にこの国を任せてやってもいい、コビール。皇帝陛下さえついていれば、私たちに恐れるものは何もない。分かったなら、お前はパーティーの手伝いにでも行ってろ。金が欲しければ、後でいくらでもくれてやる。好きに使うがいい。宰相の私は色々と忙しいんだ。」
「分かったよ、兄貴。ちっ。あんなガキどもにこれからもペコペコ頭下げなきゃいけねえとは。けど、兄貴の判断にはいつも間違いがねえ。腹違いの、親父から勘当された弟の俺をここまで導いてくれた兄貴には本当に感謝しているんだぜ。宰相就任、おめでとう、兄貴。」
「まったく手間のかかる弟だ。人食いの化け物に捕まってコキ使われていると聞いた時は本当に驚いたぞ。だが、お前があのとんでもない強さの元勇者たちと出会い、私に紹介してくれたことが、結果的に勝利を導いた。お前の悪運の強さにはいつも驚かされるぞ、コビール。その悪運の強さこそがお前の唯一の取り柄だな。」
「それって褒めてんのか、兄貴?まぁ、俺が悪運が強ええのは本当だけどさ。じゃあ、俺はちょっくらパーティーの手伝いをしてくるわ。平船員も楽じゃないぜ、ホント。」
そんなことを言いながら、コビールはベトレー宰相の部屋を出て行った。
午後6時。
沖水たち一行率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団は、大統領府内の大ホールを使って、盛大な戦勝祝いのパーティーを始めた。
騎士たちや冒険者たちの死体をむさぼるように食べる沖水たち七人の姿に、海賊団の部下たちはドン引きしていた。
自分たちのリーダーであり、毎度見ている光景ではあるが、人間が美味しそうに人間の肉を食らい、血を飲むそのおぞましい姿には慣れることはなく、侵略成功を祝うパーティーながら、海賊たちは食人鬼の沖水たち一行を見て、食欲は失せ、酒も飲まず、引きつった表情で皆、沖水たち一行を黙って見つめるのであった。
午後8時過ぎ。
仕事を終えたベトレー宰相が沖水たち一行の前に現れた。
「遅くなって申し訳ありません、皇帝陛下。先ほど、世界各国に向けて、ダーク・サーファイ帝国の建国と、皇帝陛下率いる海賊団がこの国を治める旨の声明を発表し終えました。各国から今のところ、抗議などのメッセージは届いておりません。」
「ご苦労であった、ベトレー宰相。貴殿も仕事は休んで、存分に飲んで楽しむがいい。明日からもよろしく頼むでござる。」
「はっ。ありがとうございます、陛下。」
「グフフフ。我が輩の世界制覇の野望が、天下統一がついに始まったなり。我が輩の野望を叶えるためにも、さらなるパワーアップが必要なり。明日、すぐにでも海賊団を率いてダンジョン攻略へ向かうなり。聖槍を手に入れさえすれば、我が輩は真の力に覚醒し、この世の覇者となるのである。クックック、今から楽しみなり。」
沖水がダンジョン攻略について口にすると、ベトレー宰相の顔色が少し悪くなった。
「皇帝陛下、すぐにダンジョン攻略へ向かうことはお止めになった方がよろしいかと。実は、陛下たちが大統領府を占拠された際、マーレ大統領を殺害されたと聞きました。その~、マーレ大統領なんですが、実は彼女は歴代の勇者パーティーが「水の迷宮」を攻略する際、ダンジョン攻略に必ず同行させていた数少ない、未来予知のスキルを持つ「占星術士」の家系出身の方なのです。ドルフィン族の天候や海の状況を予知する力がなければ、「水の迷宮」は攻略不可能と言われております。てっきり、すでに陛下たちはご存知だと思っていたのですが、その、知らずに攻略しようと考えていたとは私も存じ上げなかったものでして。報告が遅れてしまい、大変申し訳ありません。」
ベトレー宰相からの衝撃の告白を聞いて、沖水たち一行は口を開けて驚いた。
特に、マーレ大統領を殺した吉尾の顔色が途端に悪くなった。
「べ、ベトレー宰相、それは誠でござるか!?ドルフィン族の「占星術士」がおらんと「水の迷宮」は攻略できないというのは?」
「はい、左様でございます、陛下。「水の迷宮」は海底にあり、そして、「水の迷宮」は数多くの海のSSランクモンスターがいる、通称「魔の海域」と呼ばれる危険な海域に存在します。SSランクモンスターたちという名の天然の結界に加え、「魔の海域」の天候はとても変わりやすく、「水の迷宮」は攻略が最も難しいダンジョンと昔から呼ばれております。歴代の勇者パーティーたちもSSランクモンスターの相手だけなら何とかできましょうが、台風や荒波といった自然の変化はどうしようもございません。過去にドルフィン族の「占星術士」を連れずに「水の迷宮」を攻略しようとした全ての勇者パーティーが攻略に失敗したとの記録があります。それ故、歴代の勇者パーティーたちは必ず、天候を予知できるドルフィン族の「占星術士」を必ず同行させ、ダンジョン攻略に挑むようになったとのことです。」
「何たることなり!?大統領がそんな重要な存在だったとは!?吉尾氏、大統領を殺したのは貴殿であったな!?この責任、どう始末をつけるつもりでござるか!?」
「すまねぇ、キャプテン!あのババアが、大統領がダンジョン攻略に必要だなんて知らなかったんだよ!本当だって!信じてくれよ!くそっ、だからあのババア、わざと自分を殺すよう、僕を挑発したのか!?くそっ!?」
「言い訳は無用なり!吉尾氏、我が輩は敵の罠にまんまと嵌まる無能な間抜けは必要ないなり!貴殿が我が輩たちのダンジョン攻略の足を引っ張ったのは明白な事実なり!すぐに大統領に代わる「占星術士」か、未来予知のできるジョブ持ちを見つけて連れてくるなり!さもなければ、貴殿は役立たずの無能として処刑するなり!分かったでござるな?」
「わ、分かった!必ず連れてくる!だから、処刑とかそんな怖いこと言わないでくれよ、なぁ、キャプテン?ベトレー宰相、他にドルフィン族の「占星術士」はいないのかよ?大統領の代わりになる奴はいねえのか?」
「マーレ大統領には5歳になる孫娘が一人おりました。名前は、確かメル。メル・アクア・ドルフィンという名前だったはずです。幼い上にレベルも未熟のはずですが、ドルフィン族直系の「占星術士」は彼女一人です。他のドルフィン族に「占星術士」の力を持つ者はおりません。他の九部族に未来予知の力を持つ者がいるかどうかは探してみないことには分かりかねます。」
「あのババアに孫娘がいたんだな?よっしゃ。なら、そのメルとか言う女の子を捕まえれば万事解決じゃんか。フゥー、マジ焦ったじゃん。キャプテン、すぐにそのメルって女の子を捕まえてくるからさぁ。機嫌直してくれよ。」
「ふむ。5歳の女の子、とは聞き捨てならんなり。グフフフ、我が輩のロリコンセンサーがビンビンに働いているなり。この感覚、正しく美幼女の反応なり。吉尾氏、我が輩もメルちゃんの捜索に加わるでござるよ。ベトレー宰相、早速メルちゃんの捜索を始めさせるなり。どこに逃げようとも必ずメルちゃんを我が輩の下に連れてくるなり。他の国に逃げている場合は、我が輩自ら出陣して、メルちゃんを迎えに行くなり。良いでござるな?」
「かしこまりました。すぐにメル・アクア・ドルフィンの捜索を開始いたします。」
沖水たちから指示を受け、ベトレー宰相は急ぎ、海賊たちに命じ、メル・アクア・ドルフィンの捜索を開始した。
「グフフフ、愛しのメルたん、すぐに我が輩が迎えに行ってあげるでござるよ~!」
吉尾の失態をすぐに忘れ、メル・アクア・ドルフィンが幼女と知り、彼女を手に入れるべく、気持ち悪い笑顔を浮かべながら、浮かれる沖水であった。
それから、沖水たち一行は、海賊団とともに懸命にメル・アクア・ドルフィンの捜索を始めた。
国の治安や行政、経済などは全てベトレー宰相に丸投げし、自分たちは遊び惚けた。
メルを自分たちで探すのも途中で止め、部下の海賊たちに丸投げした。
それと、サーファイ島の別荘でエロ写真を製造、販売する裏ビジネスを本格的に始めていた、元インゴット王国国立図書館館長、ワイヒー氏と再会し、闇ギルドの奴隷や、教会の孤児院から攫った女の子たちをモデルに、エロ写真を作って、それをコレクションして楽しむのであった。
沖水たち一行はサーファイ連邦国の侵略に成功したことで浮かれまくっていた。
いずれはメルちゃんも見つかり、「水の迷宮」のダンジョン攻略もできる。
メフィストソルジャーとなり、反魔力という無敵のチート能力を手に入れた自分たちに対抗できる者はいるはずがない、とおごり高ぶっていた。
2万人の海賊の部下に、100隻の最新鋭の海賊船、海軍から奪った最新鋭の大型戦艦1隻という強い味方まで付いている。
恐れるものは何もない、そう思っていた。
だが、沖水たち一行は分かっていなかった。
「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈が自分たちに復讐の牙を剥いていることに。
主人公によって、彼らの企みが尽く水の泡になることに。
主人公による正義と復讐の鉄槌が下され、沖水たち七人全員が、破滅する運命にあることを、沖水たちはまだ知らない。
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