第三話 【処刑サイド:インゴット王国国王】インゴット国王、禁断の魔導書が盗まれたと知り慌てる、そして、封印した歴史の闇の復活に頭を抱える

 主人公、宮古野 丈が元「槍聖」沖水たち一行率いる海賊団に占拠されたサーファイ連邦国に到着し、沖水たち一行に狙われる少女、メル・アクア・ドルフィンを無事、保護したその日のこと。

 これまでに元勇者たちが世界中で起こした問題による損害賠償金などで14兆1,000億リリアという巨額の損失を抱え、さらに11兆リリアの財政援助のための支援金という借金まで抱え、世界各国から早期返済を求められ、支援金を5年以内に完済できない場合は各国に領土の10%を明け渡さなければならない、という非常に厳しい状況に追い込まれた、インゴット王国国王、アレクシア・ヴァン・インゴット13世の顔は暗かった。

 国は借金まみれで財政破綻寸前、元勇者たちの暴走で損害賠償金は膨らむばかり、国内外から非難を浴びる毎日で、国王の精神も肉体もボロボロであった。

 行方不明だった溺愛する愛娘で王女のマリアンヌから、彼女の生存と「黒の勇者」との和解というニュースを聞き、一時は気力を取り戻したが、同時にマリアンヌから、元「槍聖」沖水たち一行が、インゴット王国の危険なアイテムを盗み、食人鬼連続殺人事件や、謎の海賊団によるサーファイ連邦国占拠事件という大事件を引き起こした可能性があるとの凶報を聞き、ふたたび頭を抱えることになった。

 マリアンヌから依頼された調査を一刻も早く終え、「黒の勇者」に元「槍聖」たち一行を討伐してもらい、問題を解決してもらわねばならない、国王の頭はそのことでいっぱいであった。

 午後6時。

 執務室で仕事をしていた国王の前に、ブラン宰相がドアをノックもせず、突然、執務室の中に飛び込んできた。

 「ノックもせず、失礼いたしました!国王陛下に緊急のご報告があって急ぎ、参りました!報告を始めてもよろしいでしょうか?」

 「構わん。報告を始めよ、ブラン宰相。」

 「はっ。三時間前、マリアンヌ姫様より、元「槍聖」たち一行に関する新情報を掴んだとの連絡が入りました。姫様からの連絡によりますと、「黒の勇者」が元「槍聖」たち一行のいるサーファイ連邦国の首都へ潜入、調査したところ、元「槍聖」たち一行が次のような言葉を話していたことが分かりました。その内容は、「例の魔導書」、「インゴット王国国立図書館」、「反魔力」、この三つのワードになります。我が国の国立図書館から何らかの魔導書が元「槍聖」たち一行に盗まれ、反魔力という危険な力を元「槍聖」たち一行は手に入れたのではないか、というのが「黒の勇者」とマリアンヌ姫様のお考えです。姫様からいただいた情報を元に国立図書館へ緊急の立ち入り検査を行った結果、とある事実が判明いたしました。インゴット王国国立図書館の禁書庫に保管されていたはずの魔導書、「ドクター・ファウストの魔導書」が何者かによって盗まれ、表紙を偽装した偽物とすり替えられていた事実が発覚いたしました。政府内の何者かが元「槍聖」たち一行に、「ドクター・ファウストの魔導書」を渡す手引きを行った可能性が浮上いたしました。元「槍聖」たち一行を手引きした犯人については現在、総力を挙げて捜査中です。」

 「な、何だと!?禁書庫に保管されていた魔導書を元「槍聖」どもに渡した裏切り者がいるだと!?何と言うことだ!?またも我が国の不祥事、しかも政府内から元「槍聖」どもの犯罪に加担する不埒な輩が出ようとは!?くっ!?このような大スキャンダルが明るみになれば、我が国はますます非難を浴び、信頼を失うことになる!?国内の暴動やデモも悪化させる事態になりかねん!?一刻も早く、元「槍聖」どもを討伐し、問題を解決せねば!ところでブラン宰相、国立図書館から盗まれた「ドクター・ファウストの魔導書」とは一体、どのような魔導書だ?反魔力とはどのような力なのだ?ドクター・ファウストのことは私も知っている!かつて、悪魔の天才科学者と呼ばれた、我が国出身の高名な魔術士であったな!」

 「はい、その通りです。ドクター・ファウストは2,000年前に活躍した、我が国出身の高名な魔術士です。ドクター・ファウストは魔術だけでなく、錬金術にも精通し、現在、世界中で使用されている魔術や魔道具の基礎技術の一端を生み出した、優秀な研究者です。ですが、その一方で、非人道的な研究や材料、手段を要する、禁術指定される魔術も多数開発したと言われております。そのドクター・ファウストが晩年、自身の研究成果の全てを記し、出版した本が、元「槍聖」たちに盗まれた「ドクター・ファウストの魔導書」です。「ドクター・ファウストの魔導書」には、ドクター・ファウストの開発した多数の禁術が記されており、その内容を危険視した当時のインゴット王国政府によってすぐに出版を止められ、すでに販売された本も全て回収され、廃棄処分されました。絶版となった「ドクター・ファウストの魔導書」ですが、禁書庫に一冊だけ、資料として保管されておりました。「ドクター・ファウストの魔導書」は別名、悪魔の魔導書と呼ばれ、その別名が付いた最大の要因が、メフィストソルジャーと呼ばれる「反魔力」と呼ばれる力を操る戦士を生み出す禁術が記載されていたことだということです。」

 「何なのだ、そのメフィストソルジャーとは?反魔力とやらを操る戦士だそうだが、なぜ、禁術に指定されたのだ?」

 「図書館の古い文献によれば、まず、反魔力と呼ばれる力は魔力と反対の性質を持つ力で、魔力を無効化する力であるとのことです。この反魔力を操り、魔力を使ったあらゆる攻撃、防御、魔法を無効化できる超人的兵士のことを、メフィストソルジャーと呼んだそうです。ですが、記録によりますと、メフィストソルジャーには数々の欠陥があり、メフィストソルジャーとなった人間は精神が凶暴化する、強い食人衝動に襲われる、反魔力で汚染された飲食物しか摂取できない、反魔力で汚染した物体しか操作できない、などの欠陥を抱えていたそうです。当時の軍が魔力で人間を上回る魔族に対抗するため、ドクター・ファウストに協力を依頼し、開発して、試験的に戦場に導入したそうです。ですが、反魔力を使う反動で常に強い食人衝動に襲われ、反魔力で汚染した魔族たちの死体の肉を与えるだけでは満たされず、人間の兵士を襲って食べる、メフィストソルジャー同士で共食いを始める、などの問題を起こしたため、一定の戦果は出ましたが、あまりの欠陥の多さにメフィストソルジャーの開発は中止された、とのことだそうです。元「槍聖」たち一行が「ドクター・ファウストの魔導書」を使ってメフィストソルジャーになり、食人衝動から我が国で食人鬼連続殺人事件を起こし、反魔力を使ってサーファイ連邦国の海軍を破り、サーファイ連邦国を占拠する事件を起こした、と考えれば、辻褄は合います。封印したはずの我が国の歴史の闇を、元「槍聖」たち一行が復活させた、と言えます。」

 ブラン宰相の報告を聞き、国王はその場で頭を抱えた。

 「魔力を無効化する力だと!?代償に食人鬼となる力だと!?そんな危険なモノに、元「槍聖」どもは手を出したのか!?我が国の歴史の闇に葬られたおぞましい遺物を復活させるとは、何とイカれた連中だ!?「ドクター・ファウストの魔導書」を連中に渡した裏切り者も狂っているとしかいいようがない!早急に今、私に話したことをマリアンヌと「黒の勇者」に伝えるのだ!分かったな?」

 「はい、ただちにマリアンヌ姫様たちにご報告いたします!」

 ブラン宰相は国王に向かって一礼すると、執務室を出て行った。

 ブラン宰相が去った後、国王は両目を閉じ、椅子に座ってしばらく考え込んだ。

 それから、両目を開け、一人呟いた。

 「魔力を無効化する力、「反魔力」を使うメフィストソルジャーか。魔力を無効化されては、例えどんな強者であっても、メフィストソルジャーとなった元「槍聖」どもの前では赤子も同然だ。いくら真の勇者と呼ばれる「黒の勇者」でも、魔力を無効化されては元「槍聖」どもには手も足も出せなくなる。こちらの方で、反魔力に対抗できる手段を早急に用意させ、「黒の勇者」とマリアンヌに渡す必要がある。くっ。何としてでも、対抗手段を見つけなければ、我が国も、世界も元「槍聖」どもによって滅ぼされることになりかねん。光の女神リリア様よ、どうか私たちにお導きを。どうか私たち人間を元「槍聖」どもの魔の手からお救いください。」

 国王は、反魔力を操る元「槍聖」たち一行の脅威を知り、その脅威が自分たちに向かわないことを願った。

 そして、崇拝する光の女神リリアに、自分たちの救済を祈った。

 人間たちを愛玩動物、あるいは自身にとって都合の良い道具程度にしか思っていない、適当に異世界を管理する自称光の女神リリアに、国王の祈りが届くことはなかった。

 けれども、心配する国王の予想に反して、国王たちのもたらした情報が、「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈の、元「槍聖」沖水たちと海賊団の討伐に大きなプラスの影響を与えることになった。

 そして、意外なことが国王たちにさらなる不幸を招くことになるのだが、国王たちはまだそのことを知らないでいた。

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