第十八話 【処刑サイド:光の女神リリア】光の女神リリア、元「聖女」たち一行が無差別大量殺戮テロ事件を起こしたと知り激怒する、そして、闇の女神の復活を知り慌てる

 時は少し遡り、主人公、宮古野 丈がグレイの強化トレーニングを終え、マリアンヌを新しいパーティーメンバーに加え、お祝いパーティーを開いた日のこと。

 様々な世界の神々が住まう、雲の上の楽園のような場所、神界。

 その神界の一角にある白いギリシャ神話風の神殿の建物に、光の女神リリアが、静かに目を閉じ、自身が管轄する異世界アダマスの様子をそっと観察していた。

 元勇者たちが全員、犯罪者となり、異世界アダマスを崩壊させかねないほどの暴走をするため、インゴット王国王女にして「巫女」であるマリアンヌに、「黒の勇者」とともに元勇者たちを討伐するよう、神託を授けた彼女は、元勇者たちの討伐状況が気になり、久しぶりに下界の様子を観察していた。

 そして、元「聖女」たち一行がズパート帝国で死の呪いをばらまき、500万人もの人間を殺害する、無差別大量殺戮テロ事件を引き起こしたこと、軍隊を使ってダンジョン攻略を強行した結果、「土の迷宮」が崩壊し、さらに聖盾まで失ったと知り、青い瞳の両目を血走らせ、激怒した。

 「あの出来損ないの勇者どもが、よくもこの私の顔に泥を塗るような真似をしてくれましたね!回復術士の頂点にして、人を癒し守る存在である「聖女」が、死の呪いをばらまいて虐殺を行うなど、何たる暴挙ですか!?「聖女」のジョブにテロリストの汚名を着せるとは、とんでもないことをやらかしてくれましたね!おかげで、この私がテロリストになるような人間に、よく考えもせず勇者のジョブとスキルを与えた、などと噂する人間たちまで現れました!光の女神たるこの私が、私をこれまで崇拝してきた人間たちから疑われ、信仰心に陰りが出るなど、絶対にあってはいけません!おまけに、軍隊を使ってダンジョン攻略を強行して、ダンジョンを崩落させ、聖盾を失う事態まで引き起こすとは、何たる醜態!?そもそも、勇者たちだけで攻略しなければならないダンジョンの試練を、勇者でもない人間の力を借りて、楽して攻略しようという発想を思いつく堕落した態度が許せません!元勇者たちが原因の聖武器の紛失はこれで三つ目です!聖剣を加えれば、すでに4つの聖武器を失ったことになります!これ以上、聖武器を失うことだけは何としてでも避けなければ!いえ、問題はそれだけではありませんでした!「土の迷宮」にはあの女を封印した壁画がありました!「土の迷宮」の様子は、なっ!?」

 リリアが「土の迷宮」のあった場所を千里眼で見ると、そこには「土の迷宮」は影も形もなかった。

 五日前、主人公によって、「土の迷宮」は爆破され、塵も残さず消滅したためである。

 「土の迷宮」が消滅しているのを見て、リリアの表情は青ざめた。

 「つ、「土の迷宮」が消滅している!?崩落したのではなく、消滅している!?ま、まさか、ダンジョン崩落の影響で、あの女の封印が解けたのでは!?い、イヴが復活した!?あの「聖女」たちめ、どこまでこの私に迷惑をかければ気が済むのですか!?くっ、「土の迷宮」が跡形もなく消滅するなど、ただの人間にできることではありません!イヴ、あの女の仕業に違いありません!お得意のブラックホールで怒りから「土の迷宮」を消し飛ばしたに違いありません!こうしてはおれません!すぐに神殿の警備を固めねば!あの女が報復に来る前に手を打たねばなりません!」

 自身が「土の迷宮」に封印した、闇の女神イヴの復活を知り、イヴからの報復を恐れ、慌てて神殿の守りを固め始めたリリアであったが、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。

 「んっ!?おかしいですね?「土の迷宮」が崩落したのは、人間たちの口ぶりからして、三週間以上前だということです。なら、すでにイヴがこの私の前に姿を現して、私に報復を行っていてもおかしくありません。なぜ、いまだに姿を見せないのか、疑問です。何かしらの企みがあって、わざと姿を消している可能性がありますね。まさか、魔族たちと接触し、この私や、私の信者たる人間たちへの攻撃を企んでいるのでは!?三千年以上もこの私に封印された怒りから狂ったあの女が、博愛精神を捨てて、魔族たちとともに、この私と人間たちに報復してくるかもしれません。元勇者たちが暴走し、聖武器を四つも失い、まともな勇者は「黒の勇者」だけというこの状況では、この私が敗北する確率は高いと言わざるを得ません。こうなれば、元勇者たちの討伐は一旦置いて、急ぎ人間たちに神託を授け、魔族たちとイヴとの戦争に備える準備をさせるのが賢明な判断と言えるでしょう。元勇者たちの討伐は、戦争が終わった後で行えばいいだけのこと。多少、人間たちに被害が出るかもしれませんが、魔族たちとの戦争が始まったとなれば、元勇者たちも好き勝手暴れ回る余裕はないはずです。早速、魔族との戦争に向け、準備をするよう神託を授けるといたしましょう。」

 リリアは、イヴと魔族たちとの戦争に向けて準備を進めるよう、神託を授けるべく、「巫女」であるマリアンヌを探した。

 マリアンヌの姿を発見したリリアは目を丸めて、驚いた。

 何と、自身の神託を授かる「巫女」であるマリアンヌの傍に、自身の天敵たる存在、闇の女神イヴがいて、さらには「黒の勇者」と一緒に、何やらパーティーを開いて一緒に食事や会話を楽しみ、和気あいあいとした雰囲気で過ごしているからである。

 「な、何故、マリアンヌの傍にイヴがいるのです!?なぜ、マリアンヌも「黒の勇者」もイヴと和やかに食事を楽しんでいるのですか?マリアンヌも「黒の勇者」も一体、何を考えているのですか?」

 マリアンヌと「黒の勇者」こと、主人公が、イヴと一緒にパーティーを楽しむ姿を見て、リリアは困惑した。

 「至急、マリアンヌに問いただす必要がありますね!この私の「巫女」が闇の女神と笑顔で一緒に食事をするなど、言語道断です、まったく!」

 リリアは怒りを口にしながら、マリアンヌに呼びかけた。

 『我が巫女にしてインゴット王国王女マリアンヌよ。私は光の女神リリア。あなたにお話があります。他の者に怪しまれぬよう、席を立って私との会話に応じなさい。』

 マリアンヌの頭の中に、光の女神リリアの声が響いた。

 リリアが新たな神託を授けるため、そして、近くに座る闇の女神イヴにそれを悟られぬため、自身に話しかけてきたことが、マリアンヌにはすぐ分かった。

 「ちょっと、お手洗いにいってまいります。」

 そう言って、マリアンヌは席を立った。

 レストランの女子トイレの個室へと入ると、マリアンヌはリリアに訊ねた。

 「リリア様、いつも私たち迷える人間をお導きいただき、感謝いたします。私にお話があるとのことですが、どういったことでしょうか?」

 マリアンヌの問いに、リリアは彼女を叱責するような口調で答えた。

 『どういったことでしょうか、ではありません!?あなたは自分のすぐ近くにいたイヴと名乗る女の正体が、この私と人類の天敵たる、魔族たちが崇める闇の女神だと分かっているのですか?あのイヴこそが人類殲滅を企む、真の黒幕であり、私が長年かけて封印してきたことは、この私の「巫女」であるあなたなら、当然知っているはずでしょう。イヴの正体を知った上で、あなたはともに行動しているのですか?』

 リリアからの厳しい追及に、マリアンヌは苦しそうな表情を浮かべながら答えた。

 「リリア様のお怒りはごもっともです。ですが、どうか私の話をお聞きください。闇の女神は確かにリリア様や私たち人間の天敵と呼ばれ、恐れられる存在です。けれども、闇の女神は、自身にはリリア様や私たち人間に危害を加えるつもりは一切ないと仰っています。闇の女神は、元勇者たちが世界中で暴走し、その結果、この世界が滅亡することになることを危惧しておいでです。そして、元勇者たちの討伐に自身も協力すると申し出てきました。実際に、「黒の勇者」様とともに、無差別大量殺戮テロ事件を起こした元「聖女」たちを一緒に討伐なされたそうです。それに、砂漠でワームの大群に襲われていた私や他の人間たちを、「黒の勇者」様とともに救助してくださいました。他にも、ご自身も冒険者となり、ズパート帝国の治安維持のため、人助けをしておられました。闇の女神は、「黒の勇者」様のことを自身の夫と呼び、「黒の勇者」様も闇の女神は自身の大事なパートナーであると言っておられます。元勇者たちの討伐を終えたら、「黒の勇者」様とともに、この世界を去り、別世界へと旅立ち、新天地の開拓を行う予定だと言っております。別世界へと旅立った後、アダマスで何か問題が起こっても自身は一切介入しないとも言っております。「黒の勇者」様も同様のことを申しておられます。闇の女神は油断ならない存在ではありますが、「黒の勇者」様が彼女のストッパーとなり、闇の女神は元勇者たちを討伐する戦力へと加わりました。元勇者たちの討伐後は、自分たちには今後一切関わるな、この条件を飲むならば、闇の女神も「黒の勇者」様も元勇者たちの討伐に、リリア様に協力すると言っておられます。頼もしいお二方の力を借りれるこのチャンスを逃すべきではない、そう思い、闇の女神と現在、行動をともにしております。どうか、この私の判断を信じていただけますでしょうか?」

 マリアンヌは懸命に、元勇者たちの討伐のため、闇の女神と協力体制を築く必要があることをリリアに訴えた。

 『闇の女神の言葉を素直に信用するわけにはいきません。ですが、暴走する元勇者たちの討伐ができなければ、アダマスが滅亡する可能性があるのも事実です。イヴが元勇者たちの討伐に手を貸すと言うならば、彼女に協力してもらうことも悪くはないでしょう。ただし、相手は闇の女神。この私やあなたたち人間の天敵たる存在です。「黒の勇者」はイヴのことを信用しているようですが、彼女がいつか、我々を裏切り、牙を剝いてくるかもしれません。「黒の勇者」と何らかの取引を行ったか、あるいは洗脳、誘惑などをして、自身の陣営に引き込んだ可能性も否定できません。マリアンヌ、あなただけは決して彼女に心を開いてはなりません。あなたに、闇の女神と「黒の勇者」を監視する使命を新たに授けます。もし、彼女たちが、この私や人間たちに危害を加える可能性が浮上した場合は、包み隠さずこの私に報告しなさい。分かりましたね?』

 「かしこまりました。必ず使命を果たしてみせます。」

 『ところで、話は変わりますが、「黒の勇者」と無事、接触し和解できたようで何よりです。よく頑張りました、マリアンヌ。引き続き、「黒の勇者」とともに、元勇者たちの討伐を頑張ってください。「黒の勇者」の戦いぶりはどうですか?彼の戦闘能力は凄まじいものでしょう。』

 「はい、リリア様。「黒の勇者」様の戦闘能力は私の想像をはるかに超えるお力です。レイノウリョクというエネルギーを使うスキルだそうですが、Sランクモンスターを素手で殴り殺す怪力に、超高速で移動できるスピード、あらゆる攻撃を無効化する防御力、死の呪いを自由自在に操る能力、空中を自在に飛び回る能力、瓦礫の山を一瞬で消し飛ばす爆弾を生み出す力、透明化する能力、各種武器を使いこなす能力など、正に規格外のお力です。全勇者のジョブとスキルを網羅し、凌駕するお力を持っておられます。さすがは対勇者に特化した力を持つ、リリア様が真の勇者、切り札と呼ばれるだけの御方です。情報収集や戦略の立案にも長けておいでです。「黒の勇者」様がいらっしゃれば、元勇者たちの討伐は可能だと確信しております。」

 マリアンヌが饒舌に、嬉しそうに「黒の勇者」こと主人公の力と活躍ぶりを熱弁した。

 マリアンヌの熱弁に、少々驚いたリリアであった。

 『そ、そうですか?「黒の勇者」が順調に成長し、成果を上げているようで何よりです。引き続き、「黒の勇者」へのサポートもお願いします。「黒の勇者」が元勇者たちのように暴走せぬよう、私や人類の敵にならぬよう、しっかりとお世話するのですよ。』

 「はい。心得ました。リリア様。」

 『あなたが無事、使命を全うすることを信じています。頑張ってください、マリアンヌ。』

 そう言って、リリアはマリアンヌとの交信を終えた。

 マリアンヌとの交信を終え、リリアはしばらく目を瞑り、考えに耽った。

 それから、両目を開くと、一人呟いた。

 「イヴがこの私に報復もせず、協力を申し出るとは、信じがたい話です。ですが、あの女も元勇者たちの討伐がアダマスの存続に関わる重大な危機である、という認識は同じようです。「黒の勇者」を夫と呼んでいるらしいですが、「黒の勇者」が復活したイヴを上手く説得し、手なずけたか、あるいは「黒の勇者」に懐柔されたフリをして私への報復に利用するつもりか、いずれにしても、あの女が元勇者たちの討伐に手を貸してくれるなら、悪い話ではありません。現状、すぐにこの私に危害を加える考えは持っていないようです。この間に、神殿の警備を固めるといたしましょう。それと、いずれあの女を再度封印する手立ても用意することにしましょう。「黒の勇者」と一緒に別世界へ旅立ちたい、元勇者たちの討伐後は一切干渉しない、そのような戯言をこの私が信じるはずがないでしょう・・・いえ、まさかとは思いますが、「黒の勇者」と別世界を開拓して、自分が新たに開拓に成功した別世界をこの私に見せつけ自慢することで、この私に報復しようという算段を考えているのでは?「黒の勇者」と夫婦になって子供まで作って円満な家庭を築いたなどと言って、私がいまだに独身であることを他の神々の前で馬鹿にする嫌がらせを行うつもりかもしれません。あの女はいつもこの私を見下し、姉面をして威張り散らしてきました。笑えないブラックジョークを連発して浴びせ、この私をおちょくる、あの女ならやりかねません。くっ。「黒の勇者」をイヴに取られたのは大きな痛手です。ようやくこの私が見出したあの少年をあの女に横取りされようとは。本当に忌々しい女です。」

 リリアは顔を顰め、イヴへの怒りを呟くと、コップの水を一口飲んだ。

 「イヴのことはいずれ何とかすることにしましょう。今は、元勇者たちの討伐の方が重要です。「黒の勇者」によって、元「大魔導士」、元「聖女」、その他数名の勇者たちが無事、討ち取られました。聖武器を失うことにはなりましたが、元勇者たちを始末できたのですから、それだけでも良しとしましょう。マリアンヌから話を聞く限り、「黒の勇者」の持つ戦闘能力はかなりのモノです。歴代最強の勇者パーティーを単独で追い抜く力を持っています。あるいは、それ以上の、下手をすれば、この私やイヴに匹敵する力を持っているかもしれません。「黒の勇者」の潜在能力は侮れないものがあります。イヴと「黒の勇者」にタッグを組まれて挑まれた場合は厄介ですね。マリアンヌは確か、「黒の勇者」はレイノウリョクという力を持っていると言っていましたね。一度、チキュウの神々に、レイノウリョクとやらについて聞いてみることにしましょう。レイノウリョクの正体と弱点さえ分かれば、「黒の勇者」がこの私に反逆しようと対処可能です。所詮は、100年ほどの寿命しか持たない生き物です。不滅の魂を持つ、女神であるこの私を倒すことは永久に不可能なのです。この私の加護を受けていない、闇の女神と手を組むような人間が勇者を名乗るなど、本来あってはならないことです。「黒の勇者」が危険分子になるようなら、利用するだけ利用してから排除するだけのこと。人間風情が女神であるこの私に刃向かおうなどと思わないことです。」

 光の女神リリアは、「黒の勇者」が闇の女神と手を組んだと知り、「黒の勇者」を利用することと、用済みとなれば排除することを企むのであった。

 だが、光の女神リリアは分かっていなかった。

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈が着々と力を身に着け、自身への復讐計画を着実に遂行していることに。

 主人公の彼女への復讐心は、常に主人公の心を燃やし、彼女を絶望のどん底へと叩き落すべく、執念深く彼女を狙っていることに。

 リリアを破滅させるため、天敵である闇の女神イヴとともに、主人公がリリアの思い描く計画を尽くぶち壊していくことを、リリアはまだ知らない。

 光の女神リリアの邪悪な企みを、「黒の勇者」は全てぶち壊し、リリアをどんどん窮地へと追い詰めていくのである。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る