第十五話 主人公、グレイと短期トレーニングをするfeat.ポンコツ王女

 僕たち「アウトサイダーズ」が「聖女」たちと前皇帝サリムを倒した日から10日後、「土の迷宮」跡地にてマリアンヌ姫を意図せず救助した日から一週間後のこと。

 クーデターと、「聖女」たちのダンジョン攻略への動員の影響で、ズパート帝国の冒険者ギルド本部で活動する冒険者たちが大幅に数を減らしたため、帝都及び帝都郊外、それから帝国南部、砂漠が広がる帝国中央部におけるモンスター討伐の依頼や救援依頼への対応が滞る事態が発生した。

 帝国の騎士たちも冒険者同様、数を減らしたため、モンスターによる被害への対応、国の安全保障にまで悪影響が出る事態が発生したため、僕たち「アウトサイダーズ」は新皇帝に即位したナディア医師を始めとする新政府の人たち、残っている冒険者たちや騎士たちとともに、モンスター討伐の依頼や救援依頼への対応に当たった。

 いまだ人員不足が続く状況ではあるが、残っている騎士たちを分散させ、要所要所に再配置することや、僕たち「アウトサイダーズ」を中心に、緊急性の高い依頼を冒険者たちが優先的に対処する方針をとったことで、ひとまず国内の治安は安定を見せ始めた。

 人員不足が解消されるまで、他国とズパート帝国の間の移動及び輸送に対して、モンスターたちが多く生息する中央部、砂漠地帯を移動することは控えるよう、ズパート帝国政府から他国に向けて呼びかけを行うこととなった。

 ズパート帝国帝都までの最短コースである、中央部の砂漠地帯を縦断する陸路の使用が出来なくなったことは、ズパート帝国を含む世界各国の経済、人々の生活に当面の間、大きな支障をきたすこととなったのは間違いない。

 「聖女」花繰たちと前皇帝サリムが悪事を働かなければ、こんな事態が起こることはなかったと思うと、死んでも迷惑をかけまくる連中には本当に反吐が出る思いである。

 さて、国内の治安が改善を見せ始めたのが分かると、僕とグレイの二人は、他のパーティーメンバーに引き続き、緊急性の高い依頼への対応を任せ、二人で一緒に短期トレーニングを行うことを決めた。

 僕たち「アウトサイダーズ」はずっとズパート帝国に留まるわけにはいかない。

 僕たちには次のダンジョン攻略と勇者たちへの復讐という大きな仕事が待っているのだ。

 勇者たちは目的のためなら手段を選ばない、大量殺人を平気で行う外道たちだ。

 先日、「聖女」たちがばらまいた死の呪いを受けて、グレイは死にかけた。

 状態異常攻撃への耐性の習得も含め、どんな攻撃をしてくるか分からない勇者たちに対抗できるよう、グレイの強化が必要であると、僕は考えた。

 元々、以前からグレイより一緒にトレーニングをしてほしい、という要望もあった。

 手が空いている今が、グレイの強化トレーニングを行う絶好の機会だと考えた。

 僕は冒険者ギルドの掲示板から数枚の依頼書を剥がすと、依頼書を持ってギルドの受付カウンターで依頼受理の手続きを済ませた。

 僕が受けた依頼は全てSランクのハズレ依頼だ。

 そして、グレイの強化トレーニングに適した内容の依頼である。

 僕は依頼書の束を手に、ギルドの一階の空きスペースで待っているグレイに声をかけた。

 「お待たせ、グレイ。手続きは全部、済ませてきたよ。これが今回、君の強化トレーニングのメニューとして引き受けた依頼だ。僕が考える順番通りに依頼をこなしてもらう。とりあえず、一通り目を通しておいてくれ。」

 僕は依頼書の束をグレイに渡した。

 渡された依頼書を一枚一枚見るなり、グレイは驚き、声をあげた。

 「おい、マジかよ!?全部、Sランクのハズレ依頼じゃねえか?これを全部、お前とアタシの二人だけでこなすのかよ?ジョー、お前が冗談を言わない性格なのは知っている。でもよ、下手したらマジで死ぬぜ?本当にこれをアタシらだけでやるのか?」

 「もちろんだよ。このトレーニング方法はエルザも経験済みだ。このトレーニングをこなすことで、エルザは新しい剣技を習得したんだ。大丈夫。いざという時は僕が傍にいる。君が危ないと判断した時は僕がすぐに助けに入るから心配はいらない。とにかく、これらの依頼を全部こなして、新技を編み出すことが目的だ。習得までできれば大収穫だ。勇者たちと戦うための力を身に着けるためには、このトレーニングは必須だ。覚悟はいいかい?」

 「分かったよ。アタシがパーティーの中で一番、弱ええのは分かってる。二度も勇者どもにやられているしな。勇者どもをぶっ倒すために必要なら、やってやるじゃんよ。Sランクのハズレ依頼、上等だぜ。勇者どもをぶっ倒すために命を懸ける覚悟はとっくの昔にできてる。よろしく頼むじゃん。」

 「こちらこそ、よろしく。それじゃあ、トレーニングに向け出発と行こう。」

 僕とグレイはトレーニングに向かうため、一緒に冒険者ギルドを出ようとした。

 僕たち二人がギルドの入り口を出ようとした時、前方に一人の人物が立ち塞がった。

 「お待ちになってください!話は聞いておりました!私もお二人のトレーニングに同行いたします!よろしいですね、「黒の勇者」様?」

 マリアンヌ姫が突然、僕たち二人の前に立ち塞がり、自分もトレーニングに同行することを申し出た。

 「駄目に決まってるだろうが、クソ王女。王女のくせに盗み聞きするなんて行儀が悪いぞ。いつものようにお前はギルドで留守番をしていろ。非戦闘員をモンスターの討伐依頼に同行させるわけにはいかないだろ?僕たちが向かうのは、Sランクのハズレ依頼だ。お前に死なれたら色々と面倒なことになる。分かったら、さっさと自分の部屋に戻って留守番してろ。」

 「マリアンヌ、アタシとジョーは忙しいんだ。これから二人で大事なトレーニングをしなきゃならねんだ。お前のお守りをする余裕はねえんだ。ジョーの言う通り、ギルドで留守番でもしてろ。大体、お前が傍にいるだけで空気が悪くなるんだよ。特にジョーの機嫌が悪くなる。さっさとそこをどきな。じゃねえと、マジでぶん殴るぞ?」

 僕とグレイは顔を顰めながら、マリアンヌ姫の同行を拒否した。

 僕に救助された日から、マリアンヌ姫は僕たちと同じギルドの宿泊所に部屋をとり、寝泊まりをするようになった。

 非戦闘職の「巫女」で、戦闘の役に立たない、おまけに、死なれたらインゴット王国の国王が溺愛する王女を失ったショックで他国に侵略戦争を起こしかねないという爆弾まで付いた、非常に迷惑極まりない存在なのだ。

 何もしないこと、平穏無事であることが、このクソ王女の仕事だ。

 憎き復讐相手の一人であるこのクソ王女の身柄を保護することになった僕たちの苦労や苛立ちを、このクソ王女は本当に分かっているのだろうか?

 いや、分かっていたら、こうして僕たち二人の前に立ち塞がるわけがない。

 「毎日留守番をさせられる日々にはもう飽きました!私は光の女神リリア様から神託を授かる「巫女」、選ばれし神の使いなのです!私には「黒の勇者」様とともに、元勇者たちを討伐するという、リリア様から授かった使命がございます!使命遂行のためにグレイさんのトレーニングが必要とあらば、ぜひ協力させていただきます!どうか、私もトレーニングに同行させてください!お願いいたします!」

 マリアンヌ姫がしつこく食い下がってきた。

 「駄目だ。協力するって言うが、お前に何ができるんだ、クソ王女?トレーニングに女神の神託なんて必要ない。武器も装備も持っていない、モンスターとの戦闘経験もない、非戦闘職で、おまけに王女のお前が、モンスターの討伐依頼で役に立つことが一つでもあるのか?はっきり言って足手纏いだ。留守番が嫌なら、情報収集でもしたらどうだ?大使館の連中も使って、元勇者たちの行方に関する情報収集をすることくらいできるだろ?お前はお前にできる最低限のことをしていればそれで良い。トレーニングに同行する必要はない。」

 僕は再度、マリアンヌ姫の同行を断った。

 「元勇者たちの行方に関しては、留守番をしている間も情報収集をしておりますが、一向に情報が入ってきません。それに、私はあまり情報収集には長けておりません。我がインゴット王国政府の情報網も優れているとは言えません。お恥ずかしい話ですが、王女である私にさえ、重要な情報を個人の事情でひた隠しにする、そういった輩が政府内にも多いのです。情報収集では皆さまのお役に立てそうにはありません。ですが、荷物持ちやモンスターの死体の回収、食事のお世話、資金援助などでしたら、私にもできます。以前、元勇者たちのお世話係をしていた際、私はただ周りの者たちに命令し、元勇者たちを甘やかすばかりでした。最終的に、お世話係の任を勝手に辞退し、元勇者たちを放置する始末でした。勇者を支える役目にありながら、自分では何一つ動こうとしておりませんでした。私の身勝手さや怠惰な心が、元勇者たちが犯罪者へと堕ちるきっかけを作ったと猛省しております。ですから、今度こそ、自分自身の手で、真の勇者であるあなた様の力になりたい、勇者を支える役目を果たしたいと誓ったのです。私にできることなら何でもいたします。泥にまみれてでも、あなた様を支える覚悟です。どうか、私にも協力をさせてください。お願いします。」

 マリアンヌ姫はそう言って、僕に向かって深々と頭を下げてきた。

 「頭を上げろ、クソ王女。そこまで言うなら、お前の覚悟とやらを見せてもらおうか?トレーニングへの同行を特別に許可する。ただし、トレーニング中は、依頼の遂行中は僕の指示に必ず従ってもらう。お前には荷物持ちやモンスターの死体の回収を手伝ってもらう。正式なパーティーメンバーではないから、無報酬で協力してもらうことになる。途中で音を上げるようなら、今後依頼に同行することは認めない。それでも構わないなら、付いてこい。」

 マリアンヌ姫はパッと、明るい表情を浮かべながら喜んだ。

 「ありがとうございます!必ず最後までお手伝いさせていただきます!」

 「おい、本気か、ジョー?この王女様を同行させるなんてよ?アタシにはただの足手纏いにしかならねえように思うんだが?」

 「モンスターから大分離れた後方に待機させる。何かあっても僕がコイツをカバーする。君のトレーニングの邪魔にならないよう、目を光らせておくから心配はいらないよ。」

 「ジョーが良いって言うなら、アタシは文句は言わねえ。おい、マリアンヌ、絶対に足引っ張んなよ?トレーニングの邪魔をしたら、ただじゃおかねえからな?」

 「はい、分かりました!グレイさん!」

 マリアンヌ姫がトレーニングに同行することに、グレイは不安がある様子であった。

 「おい、クソ王女。トレーニングに同行するなら、そのメイド服は着替えろ。冒険者用の服と装備に着替えろ。アイテムポーチの用意も忘れるな。」

 「分かりました。あっ、すみません。冒険者用の服と装備を持っていないので、これから買いに行ってもよろしいでしょうか?」

 「今更かよ!?元勇者たちと一緒にモンスターの討伐に行ったことがあるんだろ?自前の冒険者用の服と装備くらい、持っているんじゃないのか?」

 呆れる僕とグレイの顔を見ながら、マリアンヌ姫が俯きながら返事をした。

 「その~、元勇者たちのお世話係として同行していた時は、お世話係で後ろから見ているだけで、元勇者たちに任せておけば大丈夫だと思って、いつもドレスを着ておりました。冒険者用の服と装備なんて必要ないと思っていたもので。」

 「お前、よくそんなんで勇者のお世話係を名乗れたもんだな。仮にもモンスターの討伐に行くんだぞ?元勇者たちが討ち漏らしたモンスターが襲ってくる危険だってあるんだぞ。あのなんちゃってへっぽこ勇者たちと一緒で、しかも冒険者用の服と装備も付けずにモンスターの討伐に行って、よく無事だったな。今生きていること自体が奇跡だぞ、本当に。」

 「ただのドレスでモンスターの討伐に付いていくなんて、お前正気かよ?いくら元勇者たちが一緒でも、防具一つ持たずにモンスターの討伐に同行するなんて、自殺志願者か、ただの阿保だぜ?なぁ、ジョー、やっぱりコイツを連れて行くのは止めようぜ?コイツ、想像以上にヤベえぜ。主に頭の方がじゃんよ。」

 「お二人の指摘はごもっともです。弁解の余地もございません。私が如何に無知で愚かであったことは分かっております。私が生き残れたのは、「黒の勇者」様がすでにモンスターを討伐されていたからです。もし、元勇者たちとあのままモンスターの討伐依頼を遂行していたら、ゴブリンの大群に嬲り殺しにされていたか、もしくは、カトプレバスの死の視線を浴びて呪い殺されていたでしょう。本当に運が良かっただけとしか言いようがありません。」

 「アープ村のゴブリンの巣と、コルドー村のカトブレパスだな。どちらも僕にとって思い出のある依頼だ。モンスターとの実戦経験皆無で、Cランク冒険者にギリギリ届く程度の元勇者たちだけじゃ、まともに勝てる相手じゃないぞ、どちらも。遭遇した時点で全滅確定だぞ。Sランクのカトプレバスや、Aランクのゴブリンの巣を討伐しようなんて、実力不足が分かっていながら誰も止めようとしなかったのか?お世話係のお前なら尚更、止めるべきだろ?」

 「本当に返す言葉がございません。」

 マリアンヌ姫の話を聞いて、顔がこわばり、呆れて物も言えない僕とグレイであった。

 「しょうがない。服と装備を急いで買いに行くぞ。言っとくが、自腹だからな。グレイ、服と装備を選ぶのを手伝ってやってくれ。動きやすいのと、ある程度防御力の高いヤツがいい。軽くて丈夫な盾があったら持たせることにしよう。」

 「ったく、手間のかかる王女様だぜ。トレーニングの予定が早速遅れたじゃねえか。これ以上邪魔したら、マジで留守番しかさせねえからな。」

 「本当にすみません。よろしくお願いします。」

 僕たちはトレーニング前に、同行するマリアンヌ姫の冒険者用の服と装備を選ぶ手伝いをすることになった。

 やはりこのクソ王女の同行を許可するべきではなかった、と今更ながら後悔する僕であった。

 僕たち三人は、冒険者ギルドから歩いて5分ほどの距離にある、そこそこ大きい武器屋を訪ねた。

 女性用の服と装備であるため、僕はグレイにマリアンヌ姫の服と装備を選ぶのを任せ、店内の商品を見ながら時間を潰していた。

 1時間後、マリアンヌ姫が服と装備を購入し、着替えた姿で、グレイとともに僕の前に現れた。

 マリアンヌ姫の格好に僕は少し驚いた。

 マリアンヌ姫の着ている服は、全て白色のレザーでできた、ライダースジャケット、パンツにベルト、それから、手首まで覆うグローブに、ブーツ、そして、白いシャツだった。

 腰に茶色い毛皮のアイテムポーチを巻いているが、ほとんど全身白一色という格好であった。

 左手には、直径50cmほどの大きさの黒い小さな丸い盾、黒いバックラーを持っていた。

 それから、腰のベルトに、全長120cmほどの、金色のスウェプトヒルトという特徴的な柄を持つ、レイピアを1本下げていた。

 左手のバックラーと腰のレイピアを除けば、格好は僕に瓜二つである。

 僕はマリアンヌ姫に訊ねた。

 「何と言うか、格好が僕に似ている気がするんだが、気のせいか?グレイも一緒に選んだ服だし、実戦に支障はないと思うが、武器は替えなくて大丈夫か?盾は良いとして、レイピアなんてお前に扱えるのか?ダガーとかメイスとかの方が護身用としては使いやすいと思うが?」

 「ご心配には及びません。インゴット王国にいた時、父や剣術指南役から護身術として剣技を教わりました。レイピアの扱いには多少、慣れております。着ている服は、「黒の勇者」様と同じデザインと性能のモノを選びました。ワイバーンの希少種であるアルビノワイバーンの革を素材に使用しているとのことです。左手に持つバックラーは、最近ラトナ公国で発見された新金属、ブラックオリハルコンを素材として利用していて、この店の防具の中で一番強度に優れた盾だと、お店の方からも説明を受けました。こちらの服と装備では駄目でしょうか?」

 「いや、ワイバーンの服は動きやすい方だし、盾がブラックオリハルコンなら防御面も心配はいらないだろう。レイピアも扱いに慣れているなら、下手に他の武器を持たせるよりは護身用としては使えると思う。チョイスとしては良い方だ。合格だ。」

 「ありがとうございます!」

 僕が合格のサインを出したことで、マリアンヌ姫は喜んだ。

 「グレイ、マリアンヌ姫の手伝いをありがとう。大事なトレーニング前にクソ王女の手伝いなんてさせて、すまない。」

 「別に~。アタシは全然、全く、これっぽっちも気にしてないぜ。この王女様がジョーと似た服をアタシの反対を押して選んだことなんて、全然気にならねえなぁ。お金持ちの王女様は良いよなぁ。服と装備だけでポンと1億リリア払うんだもんなぁ。国が財政破綻寸前だってのに、貴重な税金を自分が最高級の服と装備を買うのにあっさりとつぎ込めるんだから、羨ましい御身分じゃんよ、まったく。」

 グレイが不貞腐れた表情を浮かべながら、思いっきり不満をぶちまけた。

 「グレイ、本当にすまん。トレーニングが終わったら、後で何か好きなモノを奢るから機嫌直してくれよ、な?」

 「ジョーが気にすることは何もねえよ。そこの王女様の態度が気に入らねえだけだ。おい、マリアンヌ、その服を他の奴らに見せびらかしてみろ。アタシはともかく、他の連中から袋叩きにあってもアタシは助けねえからな。警告はしたからな?」

 「わ、私は別に見せびらかすような真似はいたしません!この服は必要だから買いました!「黒の勇者」様を参考にして、偶然似た格好になっただけです!他意はございません!」

 「二人とも、口喧嘩はそれくらいで勘弁してくれ。買い物も終わったことだし、トレーニング場所まで向かうことにしよう。予定より遅れているからね。それじゃあ、行こうか。」

 グレイとマリアンヌ姫にそう言うと、僕は二人と一緒に武器屋を出た。

 それから、通りに出ると、ズパート帝国の帝城へと向かった。

 帝国中央部の砂漠地帯での依頼をこなすため、人員不足の影響を加味して、帝城地下の、「土の迷宮」跡地もある砂漠地帯への移動用の魔法陣が、現在、冒険者と騎士に限って解放されている。

 僕たち「アウトサイダーズ」のメンバーは顔パスで帝城に入り、すぐに移動用の魔法陣が使えるのだ。

 僕たち三人は移動用の魔法陣の上に乗ると、「土の迷宮」跡地まで一気に転送された。

 移動用の魔法陣は魔力の消費量が多く、移動距離も制限がある上、2箇所を往復するだけしかできないらしいが、もっとこの魔法陣の技術が世界中に普及したら良いのに、と思う僕である。

 技術が進歩すれば、世界中、どこでも、一瞬で移動できるようになるのも夢ではないかもしれない。

 くそったれな異世界での生活が少しでも快適になるなら、魔法だろうと何であろうと技術の進歩は大歓迎だ。

 さて、「土の迷宮」跡地に着いた僕たちの前方には、かつて「土の迷宮」であった瓦礫の山と、50匹のワームの死体があった。

 僕が瓦礫の山と、死体の山を作った張本人である。

 「瓦礫とワームの死体の処理がそう言えば、まだだったな。瓦礫には大量の人間の血が染み込んでいるし、ワームの死体の肉もあるから、他のモンスターたちが集まってきたら面倒だ。グレイ、クソ王女、すまないが、ワームの死体を回収するのを手伝ってくれ。50匹なら三人いればすぐに終わる。ワームの死体を回収し終えたら、瓦礫の後処理は僕が行う。すぐに終わらせるから、協力してくれ。」

 「了解だぜ、ジョー。」

 「かしこまりました、「黒の勇者」様。」

 三人でワームの死体をアイテムポーチに入れて回収した後、僕は瓦礫の山から200mほど離れるよう、グレイとマリアンヌ姫に指示した。

 僕は瓦礫の山へと近づくと、霊能力を解放した。

 青白い霊能力のエネルギーが僕の全身を包み込んだ。

 それから、足裏に霊能力のエネルギーを集中させた。

 「霊飛行!」

 足裏からジェット噴射のように霊能力のエネルギーが一気に噴き出した。

 僕は「霊飛行」を使って、一気に上空高くへと飛び上がった。

 瓦礫の山の真上、100mほど上空でホバリング飛行の要領で空中で制止すると、僕は次に右手に霊能力を集中させた。

 右手を上に掲げながら霊能力のエネルギーを集中させ、霊能力のエネルギーを限界まで圧縮し、青白い光を放つ、直径50mほどの大きさの霊能力の巨大な玉を生み出した。

 「さて、僕の霊能力は限界まで圧縮すると、熱エネルギーを持つことは、「大霊剣」や「霊飛行」といった技ですでに実証済みだ。今、右手に作った玉は言わば霊能力の爆弾だ。瓦礫の山を塵も残さず消滅させられれば大成功だ。このくらいの大きさで威力が十分かは撃ってみないと分からないが、検証あるのみだ。」

 僕は巨大な霊能力の玉を右手で抱えながら、真下にある瓦礫の山の方を見た。

 「行くぞ!霊爆拳!」

 僕は真下に見える瓦礫の山へと向かって、右手に抱える巨大な霊能力の玉を勢いよく投げつけた。

 「霊爆拳」で生み出した、巨大な霊能力の玉が瓦礫の山にぶつかった直後、ドカーンという大きな爆発音とともに、瓦礫の山が爆発で吹き飛んだ。

 大量の砂煙を上げるとともに、青白い光が瓦礫の山を中心に辺りを包み込んだ。

 爆発音と光が止むと、「土の迷宮」跡でもあった瓦礫の山は、「霊爆拳」の爆発の熱エネルギーを浴びて、塵も残さず消滅した。

 巨大な蟻地獄のような、砂のクレーターが後には残されていた。

 僕は瓦礫の山の処理を終えると、地上にいるグレイとマリアンヌ姫の下へと着地した。

 「お待たせ、二人とも。瓦礫の山の処理は完了した。それじゃあ、トレーニングに向かおう。」

 「いやいや、トレーニングに向かおう、じゃねえだろ!?ジョー、お前、何した!?瓦礫の山がきれいさっぱり吹き飛んでるぞ!?それに何だよ、あの爆発は!?一瞬、この世の終わりかと思ったぜ、マジで!あの物騒な技は何だ、教えろ!」

 「く、「黒の勇者」様が空を飛べるとは噂で聞いておりましたが、翼も無しに人が空を飛ぶなど、本当に今でも信じられない思いです!それよりも、あの桁違いな威力の爆発は、あの青い光の玉は何なのですか?巨大な瓦礫の山を一瞬で無に帰すなど、あまりに凄まじい威力です!歴代最強の勇者パーティーの「大魔導士」に匹敵、あるいはそれ以上の威力の魔法だとお見受けしました!一体、どんな魔法を使われたのですか?」

 「霊爆拳」の爆発の一部始終を見ていたグレイとマリアンヌ姫が、興奮気味に僕に質問をしてきた。

 「原理はそんなに難しいものじゃあないよ。僕の持つ霊能力のエネルギーを右手に集中させて限界まで圧縮させる。そして、熱エネルギーの性質を帯びた霊能力の爆弾を作り出した。そんなところだよ。爆弾の大きさや威力はエネルギー量の大きさと圧縮度合いで調整可能だ。もちろん、魔力でも十分に再現可能だ。霊能力で作った大きな爆弾、それが今見せた技の正体だよ。」

 「レイノウリョクで爆弾を作っただと!?あんなスゲエ爆弾が作れるのかよ!?しかも、魔力を使っても同じものができるって言ったよな?爆弾を作るのに必要な魔力と、コントロール技術さえあれば、誰でも魔力の爆弾が作れるってわけか。爆弾魔法とでも呼ぶべきか?コイツが悪人の手に渡ったらえらいことになるぜ?」

 「魔力を操作するだけで誰でも魔力の爆弾が作れるようになる。恐ろしい技術です。もちろん、ある程度の高い魔法の素養が求められますが、火薬を使わずに体内の魔力だけで爆弾が作れるようになれば、その技術が闇ギルドや魔族たちの手に渡れば、世界中で爆弾テロ事件が横行することにもなりかねません。「黒の勇者」様、今の技は今後、決して私たち以外の人間の前で使用することはお控えください。今の技はあまりに危険すぎます。何卒、お願いいたします。」

 「わ、分かったよ。二人の言う通りにするよ。魔法に関しては素人の僕が使えるんだから、すぐにどっかの魔術士が発見することになると思うけど。まぁ、僕としては性能テストができたから満足だよ。3割程度の力であの威力なら、むやみやたらには使えないしね。」

 「性能テストだと!?あの破壊力で全力じゃないってのか!?マジで信じられねえ!?」

 「あれほどの大爆発を引き起こしていながら、3割程度の力しか使っていないと!?「黒の勇者」様のお力がこれほどまで規格外なモノとは!?リリア様があなた様を切り札と呼んでいた理由が今、分かりました。「七色の勇者」たちの時代はすでに終わりを告げていた、そういうことですか。」

 グレイとマリアンヌ姫は僕の補足説明を聞いて、さらに驚いた様子であった。

 「二人とも、とにかく先を急ごう。ここから砂漠を北西に歩いて一時間ほどのところにあるオアシスが目的地だ。気を引き締めて行こう。」

 それから、僕たち三人は北西のオアシスに向かって、砂漠を一時間ほど歩いた。

 上空から太陽光が僕たちの体へ降り注ぎ、さらに地面からも太陽光が反射して向かってくる。

 40℃にも達しそうな暑さが、灼熱の大地が僕たちを襲ってくる。

 水と氷はアイテムポーチに十分入れて持ってきているが、砂漠を歩くのはやはり暑い。

 異世界に召喚されなければ、こんな目に遭うことはなかった。

 クソ女神リリアよ、必ずお前に地獄の苦しみを味わわせてやる。

 後ろにいるクソ王女にもいつか必ずだ。

 そんなことを考えながら砂漠を歩いていると、目的のオアシスが見えた。

 オアシスの大きな泉の周りには、草木が生い茂っていた。

 そして、泉の周りには、マンティコアというモンスターの群れがいた。

 今回の目的は、砂漠地帯の北西のオアシスに住み着いた、Dランクモンスター、マンティコアの群れの討伐である。依頼書によると、約一年前、砂漠を縦断する商人たちや旅行者たちにとって休息所となっていたオアシスに、突如マンティコアの群れが現れ、オアシスを自分たちの住処として占拠してしまったとのことだ。マンティコアの群れが商人たちや旅行者を襲い、多数の死傷者が発生した上、交易や人の移動に支障が出ていると、依頼書には書いてある。数が多すぎるため、これまでに何度も討伐依頼を出しているが、全て失敗に終わったそうだ。尚、依頼主はズパート帝国の大きな商人ギルドである。

 討伐する数は200匹。ランクはSランクで、依頼の達成報酬は500万リリアで、相場の4分の1の金額。

 高ランクで難易度が高く、おまけに相場以下の報酬という依頼、通称、ハズレ依頼の一つである。

 マンティコアとは、体長2mほどの大きさで、人間の老人に似た頭部に、口には三列に並ぶ鋭い牙を生やし、胴体はライオン、尾は蠍、首にはライオンの鬣を生やしたモンスターである。

 性格は非常に獰猛で肉食。特に人間の肉を好んで食べる食性を持つ。非常に足が速いのが特徴で、尾には猛毒の針を持ち、その毒は人間を即死させるほど強力である。パワーはないが、足の速さと、尾の毒針を使った不意打ちに注意が必要とされる。

 異世界召喚物の物語やファンタジー系のゲームでなじみのあるモンスターである。

 僕、グレイ、マリアンヌ姫の三人は、オアシスから300mほど離れた場所にいる。

 「これから、トレーニング及び作戦内容を伝える。まず、全員に認識阻害幻術をかけて、マンティコアの群れから身を隠す。クソ王女、お前はマンティコアの討伐が終わるまでここで待機だ。僕たち以外からは認識はできなくなるが、マンティコアに触れれば存在がバレる。僕が合図するまでここを絶対に動くな。僕とグレイの二人は、マンティコアの群れの傍まで接近したところで、認識阻害幻術を解除、僕が100匹、グレイが100匹、それぞれマンティコアたちを討伐する。尚、今回のトレーニングの目的はスピードの強化だ。スピードの強化方法は僕が見せる。後は目標数のマンティコアを討伐するだけだ。ここまでで何か質問はあるか?」

 「お、おい、ジョー!?本当にアタシ一人でマンティコアを100匹倒すのかよ!?アイツら、足は速いし、しっぽには猛毒の針が付いているし、それに数も滅茶苦茶多いぜ。20匹くらいなら何とかいけるかもしれねえが、100匹って多過ぎだろ!?」

 「手本はちゃんと見せる。それに、エルザはコボルト100匹を倒すことで、狼獣人である君を超える速さを身に着けた。元々足の速さが自慢の狼獣人の君がいつまでも、獅子獣人のエルザに足の速さで負けるのは嫌だろ?なら、マンティコアを単独で100匹討伐できる足の速さは必須だ。狼獣人の強さの基本であるスピードの強化は、グレイ、君の成長の大きな足掛かりになる。覚悟は決まったか?」

 「よっしゃ。やってやるじゃんよ。史上最速の狼獣人になってやるじゃんよ。」

 「その意気だ。それじゃあ、トレーニング開始だ。認識阻害幻術!」

 僕が右手を突き出し、霊能力を解放した途端、僕たち三人の全身を包み込むように、薄い透明な膜が現れ、僕たちを包み込んだ。

 マリアンヌ姫が見守る中、僕とグレイはマンティコアの群れがいるオアシスへと一歩一歩近づいていく。

 オアシスまで残り50mの位置で、僕とグレイは立ち止まった。

 「グレイ、よく見ておいてくれ。」

 僕はグレイにそう言うと、霊能力を解放し、霊能力を全身に纏った。

 それから、霊能力のエネルギーを両足に集中させた。

 僕の両足が、青白い大きな輝きを放っている。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出すと、右手に持ち、霊能力のエネルギーを込めた。

 すると、如意棒が全長3m、穂先の長さが80cmの黒い大身槍に姿を変えた。

 黒い大身槍を構えると、僕はグレイに言った。

 「それじゃあ、認識阻害幻術を解除する。僕が先に突撃してマンティコアたちを100匹討伐する。じゃあ、お先に。」

 僕はそう言うと、認識阻害幻術を解除すると同時に、両足の霊能力を一気に解放し、マンティコアの群れへと向かって一直線に突撃した。

 超高速でマンティコアの群れの間を走り抜けながら、大身槍から突きや斬撃を繰り出し、マンティコアたちの頭部や胴体にダメージを与え、倒していく。

 超高速で走る僕のスピードに対応できず、足の速さが自慢のマンティコアたちは僕の超高速の動きに翻弄され、大身槍の一撃を受けて次々に殺されていく。

 5分ほどで、マンティコアを100匹討伐することができた。

 僕は一時、マンティコアの群れから少し離れた泉の端っこで立ち止まり、グレイの様子を窺った。

 グレイは自慢の足の速さを活かし、マンティコアの群れと戦っていた。

 愛用のパルチザンで30匹ほど討伐したようだが、マンティコアはまだ70匹残っている上に、グレイの足の速さに追いつき、集団で徐々にグレイを囲みつつある。尾の毒針でグレイの体を突き刺す攻撃を浴びせて、グレイを仕留めようともしている。

 僕は窮地のグレイに声をかけた。

 「グレイ、僕はもう100匹討伐したぞ。残りは、後70匹だ。槍の扱いも素の足の速さも、僕より君の方が上だ。全身の魔力を足に全部集中させろ。一撃の威力じゃなく、スピードに魔力を全振りするんだ。足に魔力を集中させて、魔力を圧縮して、一気に解放して駆け抜けるんだ。マンティコアの包囲網を一気に突破するくらい、早く動け。マンティコアの群れを翻弄できるくらいのスピードが出せないなら、この先一生エルザには勝てないぞ。それでも良いのか?」

 僕はグレイにアドバイスと挑発の言葉を贈った。

 「分かってるっつーの!足に全魔力を集中して圧縮、一気に解放して駆け抜ける、だな!?やってやるじゃんよ!」

 グレイはマンティコアたちの牙や爪、尾の毒針を躱しながら、魔力を徐々に両足へと集中させ始めた。

 移動しながら両足に魔力を集中させ、圧縮を行う。

 グレイの両足が徐々に光り始めた。

 そして、グレイの背後に、巨大な走る狼の絵のようなマークが浮かび上がった。

 「行くぜ!狼牙爆槍・疾風!」

 グレイの両足が大きく光り輝いた直後、グレイが音速を超える超スピードでマンティコアたちの間を駆け抜けた。

 マンティコアたちの包囲網を一気に突破すると、続けて音速を超えるスピードで走りながら、マンティコアたちに向かってパルチザンの突きや斬撃を浴びせた。

 音速を超えるグレイのスピードに対応できず、マンティコアたちは翻弄され、グレイのパルチザンでの攻撃を受け、次々に倒れていく。

 5分後、残り70匹のマンティコアたちを見事、グレイは単独で討伐した。

 戦いが終わり、地面に寝そべり、息を切らすグレイに向かって、僕は声をかけた。

 「お疲れ様、グレイ。見事、ソロでマンティコア100匹の討伐に成功だ。そして、新しい技を編み出したようだね。本当におめでとう。」

 「はぁ、はぁ。ありがとよ、ジョー。おかげで、アタシのスピードは爆上がりだ。舎弟たちや親父にも見せてやりたかったぜ。まぁ、馬鹿でかい槍持って、アタシより速く走れるお前に比べたら、まだまだだけどな。魔力の消費量も体力の消費量も半端ないぜ。完全にモノにすんには、まだまだ時間がかかりそうだが、頑張るじゃんよ。」

 「少しここで休憩をしたら、帝都に戻って、ギルドの訓練場で今日編み出した技のトレーニングをしよう。とにかく、訓練あるのみだ。先輩方も手が空いていたら、君の相手を頼むことにするよ。」

 「うへぇー。マジか。酒吞の姉御のしごきは特に厳しいからなぁ。トレーニングならお前と二人だけがいいぜ。」

 「ハハハ。それだけ口が利けるなら大丈夫だよ。」

 僕とグレイは、トレーニングが成功したことを喜び、笑い合った。

 「おっと。クソ王女を呼ばないとだな。認識阻害幻術、解除。」

 僕はマリアンヌ姫にかけていた認識阻害幻術を解除した。

 「おおい、クソ王女。マンティコアの討伐が終わったから、こっちへ来い。死体の回収を手伝ってくれ。」

 僕が大声で呼びかけると、走ってオアシスまでマリアンヌ姫がやって来た。

 「お二人とも、お疲れ様でした。お二人だけでマンティコア200匹を討伐されるとはさすがです。目にも止まらぬ速さから繰り出される槍の一撃、実に見事でした。元「槍聖」の槍が如何に陳腐なモノであったか、よく分かりました。お二人の槍捌きの前では所詮、元「槍聖」の槍など児戯に等しい、あるいはそれ以下のなまくらも同然です。さすがは「黒の勇者」様とそのお仲間であると、私、感動いたしました。」

 「お褒めいただきどうも。「槍聖」、沖水か。アイツ、今、どこで何しているんだ?おそらく、聖槍を手に入れるためにダンジョン攻略をしようと考えているに違いないが、あの重度のオタクのロリコン野郎がまともな方法でダンジョン攻略をするわけがない。面倒な事件を起こされる前に、とっとと逮捕されて処刑されてくれたら、こっちも楽なんだけどな。」

 「元「槍聖」オキミズ氏の行方はいまだ掴めておりません。奇妙な話し方や言動をされる方なので、すぐに見つかるのではないかと思っておりましたが、中々しっぽを掴ませません。あの方はいつも「黒の勇者」様に対する不平不満を言ったり、自身が勇者になって天下をとるなどの訳の分からない妄言を言ったりしておりました。「七色の勇者」の中で、いえ、元勇者たちの中で最も精神面で不安が見受けられた方だけに、正直何をしでかすか、私も心配でたまりません。」

 「タガが外れた今の沖水なら、幼女誘拐とか幼女暴行とか、平気でやりかねないな。人格も性癖も元から常識人とはかけ離れた奴だったし。見つけ次第、即殺すことが正解だ。アイツは生かしておいたら絶対に碌なことにならない。超ド級の変態の狂人だ。ロリコンを断言してはいるが、女性陣は十分注意してくれ。アイツの仲間も女性の敵とも言える変態ばかりだからな。」

 「「槍聖」ってのは、つまり幼女趣味の変態野郎で、おまけに何をしでかすか分からない狂人だってことだな。何で、そんな気持ち悪い野郎を「槍聖」に選ぶかねえ、女神さまはよ。アタシが女神だったら、まず、異世界から召喚すらしねえよ、そんな変態。」

 「り、リリア様も今回の元勇者たちの暴走は想定外だと仰っていました。教育と管理に失敗した私たちインゴット王国にも責任はあります。リリア様は今回の勇者召喚は最大規模の人数の勇者を派遣する計画を練っておられたそうで、その上で、大勢の勇者たちの中から反逆者が現れる可能性も危惧していたと仰っていました。そのために、対勇者に特化した力を持つ、ステータス隠蔽の処理を施した「黒の勇者」様を、勇者たちの中に紛れ込ませ、反逆する勇者への対抗手段として用意したと。「黒の勇者」様以外の、勇者全員が犯罪者になったことは女神さまの想定をはるかに超えた最悪の事態だとも、私に神託を授けた際、そう言っておられました。」

 「クソ王女、お前騙されてるぞ。僕の霊能力は元いた世界から、生まれつき持っていたものだ。僕はリリアから勇者のジョブとスキルなんてものは一切もらっちゃいない。光の女神の加護は全く受けていない。闇の女神であるイヴが妨害したからだ。イヴから異世界での生活に役立つちょっとした加護はもらったが、戦闘能力は完全に自前だ。対勇者に特化した力、そんなチート能力なんて、これっぽっちももらっちゃいない。元勇者たちの暴走は、元勇者たちが全員、イカれた頭の持ち主であったことと、リリアが犯罪者予備軍みたいな連中に勇者の力を与えたこと、ついでにお前たちインゴット王国政府が元勇者たちを甘やかしたことが原因であり、真実だ。まぁ、「巫女」であるお前が僕の話を、お前が崇めるリリアへの悪口を信じるわけないだろうがな。だけど、これだけは言っておく。僕はリリアの手先になるつもりは全くない。元勇者たちの討伐に協力するのも利害が一致しているだけだからに過ぎない。僕は決してリリアの味方じゃない。忘れるなよ。」

 僕はそう言うと、マリアンヌ姫に背を向け、黙々と討伐したマンティコアたちの死体の回収を始めた。

 そんな僕を、複雑そうな表情を浮かべながらマリアンヌ姫は黙って見ていた。

 マンティコアたちの死体を回収し終えた僕たちは、オアシスで休憩を始めた。

 懐中時計を見ると、時刻は午後1時30分。

 昼食をとっていてもおかしくはない時間だった。

 僕はグレイが用意したというお弁当を一緒に食べることにした。

 「アウトサイダーズ」で一番料理上手でもあるグレイの作る食事はいつもおいしい。

 僕が重箱に入ったグレイの弁当を楽しみに待っていると、横からマリアンヌ姫が包みを取り出した。

 包みを開くと、中にはバスケット風のランチボックスが出てきた。

 「「黒の勇者」様、良かったら私の作ったサンドウィッチもお召し上がりください。きっとお気に召すと思います。」

 そう言って、マリアンヌ姫がランチボックスを開いた。

 ランチボックスの中を見た僕とグレイは中身を見て、思わず固まってしまった。

 ランチボックスの中には、三角に切られたサンドウィッチがいくつか入っていた。

 だが、問題はサンドウィッチのパンとパンの間に挟んでいる具が、黒い物体であったことである。

 「なぁ、クソ王女、このサンドウィッチの具は何だ?黒い色をしているが?」

 「はい。厚焼きの卵焼きです。」

 「た、卵焼き!?どうみても、焦げているようにしか見えないが、味見はしたのか?」

 「はい。ちゃんと味見はしたので大丈夫です。以前、シマヅ様、いえ、元「勇者」のシマヅ氏に差し入れでお出ししたことがありますが、美味しいと言って食べてくれました。」

 「そ、そうなのか?いや、でも・・・」

 「おい、ジョー。そのサンドウィッチを食べるのは絶対によしとけ。見た目からして完全にアウトだろ?あんな真っ黒の物体が卵焼きなわけねえじゃん。アタシの鼻もあのサンドウィッチからは焦げた炭の匂いしか感じねえ。あんなもの食べて腹を壊したらいけねえ。ここはアタシの弁当だけ食え。あのサンドウィッチは絶対に食うなよ。」

 「そうだな。どうみても卵焼きじゃないよな、あれは。なら、丁重にお断りするとしよう。」

 僕とグレイは、マリアンヌ姫に話が聞こえないよう、声を潜めて話をした。

 「お二人とも、なぜ、内緒話をしているのですか?私の作った卵サンドに何か問題でも?」

 「いや、気にしないでくれ。ええっと、ありがたいのは山々なんだが、僕の栄養管理はグレイに任せているんだ。ほら、糖質とか脂質とか取り過ぎたり、野菜不足気味の不健康な食事をとったりしたらいけないから、料理上手なグレイに食事の管理を頼んでいるんだよ。冒険者の資本は何と言っても、体だからな。悪いが、サンドウィッチまで食べるとカロリーオーバーになるから、今回は遠慮させてもらうよ。」

 「おう。悪いな、マリアンヌ。ジョーの健康管理はいつもアタシがやっているからよ。今度ジョーに弁当を作るなら、アタシに先に相談しろ。アドバイスしてやっから。」

 「そうなのですか?食事まできちんと管理をしておられるとは、さすがは真の勇者様でございます。栄養の管理や体調管理もご自身で気を付け管理しているとは、感服いたしました。思い返せば、元勇者たちはいつも高級レストランで暴飲暴食をしていて、城での食事も節操無しのようにガツガツと食べていました。「黒の勇者」様は冒険者として独立して活動していたことも大きいですが、元勇者たちは食事や健康といった、冒険者にとって必要な体調管理も全くやっておりませんでした。そういった意識の差が、勇者としての実力に大きな差を生んだのかもしれません。」

 別にグレイに特段、僕の栄養管理を任せているわけではないが、グレイにはよく栄養バランスの考えられた食事を作ってもらっているし、マリアンヌ姫も勝手に納得してくれるなら、まぁいっか。

 「残念です。では、このサンドウィッチは私が全部いただきます。」

 少し残念そうな表情を浮かべながら、マリアンヌ姫は黙々とサンドウィッチを食べていく。

 どう考えても、中の具の厚焼きの卵焼きは真っ黒に焦げているようにしか見えないが、平然とした様子で、マリアンヌ姫はサンドウィッチを食べている。

 表面が焦げ過ぎただけで、中身はちゃんとした卵焼きなのか?

 サンドウィッチを食べるマリアンヌ姫の姿を見ながら、僕は首を傾げた。

 僕たちの後方には泉があり、魚が泳いでいた。

 僕は、マリアンヌ姫の作ったサンドウィッチを泉で泳ぐ魚たちに餌として試しに与えてみることを思いついた。

 「おい、クソ王女。良かったら、そのサンドウィッチを一つ、僕にくれないか?ほら、後ろの泉で魚たちが泳いでいるだろ?魚たちもお腹が空いているだろうし、のんびり魚に餌をあげて戯れるのはいい気分転換になると思うんだが、どうだ?」

 「分かりました。どうぞ、お使いください。魚たちもきっと喜んで食べてくれると思います。」

 僕は、マリアンヌ姫からサンドウィッチを一つ受け取ると、立ち上がり、泉のすぐ傍まで近づいた。

 僕は、泉を泳いでいる魚たちに向かって、マリアンヌ姫の作った卵サンドを細かくちぎって、餌としてばらまいた。

 細かくちぎったサンドウィッチを餌だと思い、泉の魚たちが口を開けて、サンドウィッチの破片を食べていく。

 そうして魚たちに餌をあげて戯れていると、突然異変が起こった。

 卵サンドの破片を食べた魚たちが一斉にビシャビシャと音を立てて暴れ回り、それから腹を上に向けて、プカプカと水面に浮かんで、死んでしまったのだ。

 先ほどまで泉を元気に泳いでいたはずの魚たちが一斉に死んだのを見て、僕、グレイ、マリアンヌ姫の三人は、しばらく口を開けて、その場で呆然となった。

 ハッと意識を取り戻したグレイが、マリアンヌ姫に掴みかかった。

 「マリアンヌ!テメエ、あのサンドウィッチに何入れやがった!?何でサンドウィッチを食べただけで魚が全部死ぬんだよ!?テメエ、まさか、サンドウィッチに毒を盛ったんじゃねえのか!?リリアから毒を盛ってジョーを殺せとでも命令されたのか、ああっ!?」

 「わ、私は毒など一切、盛っておりません!私もサンドウィッチを食べていたのはあなたも見ていたはずです!そもそも、「黒の勇者」様の御命を私やリリア様が狙うわけがありません!これは、これはきっと誰かが私を嵌めようと仕組んだ罠に違いありません!私は潔白です!信じてください!」

 「二人とも落ち着け。僕は魚の餌としてサンドウィッチを欲しい、と言ってサンドウィッチをもらったんだ。最初から毒が入っていると分かっているサンドウィッチを僕に渡せば、今のような状況になることは明白だ。クソ王女の作ったサンドウィッチに毒は入っていない。恐らくは、山椒の実とか、人間には害がないが、魚には猛毒になる食材を具材に使って、それでサンドウィッチを食べた魚が中毒死した、そんなところだろう。クソ王女は無実だ。離してやれ、グレイ。」

 「ちっ。分かったよ。」

 「助かりました。ありがとうございます、「黒の勇者」様。「黒の勇者」様の仰る通りです。卵焼きにアクセントを付けたいと思いまして、山椒の実や唐辛子、それにいくつか香辛料を加えました。まさか、魚が山椒の実が苦手とは存じ上げませんでした。「黒の勇者」様は博学でもいらっしゃるのですね。さすがです。」

 「たまたま知っていただけだよ。前に元いた世界で読んだ本に、山椒の実と灰汁を煮詰めた液体を使って魚を獲る根流しという、漁の仕方について書かれていたのを思い出したんだよ。妖怪に関する話を丈道お爺ちゃんから昔から聞いていた影響で、妖怪と根流しにまつわる話を読んでいたおかげでもあるかな。それはさておき、クソ王女、お前は今後、料理は一切禁止だ。食材の調達係からも外す。異論は認めない。分かったな?」

 「なぜですの!?私の作ったサンドウィッチには毒など入っていないと証明してくださったではありませんか?納得がいきません!?」

 「山椒入りとは言え、たった一個の卵サンドの欠片を食べただけで泉にいた魚たちが全滅するなんて、普通はあり得ない。クソ王女、お前、卵焼きに相当な量の山椒の実を入れたな?おまけに、唐辛子やら他の香辛料も入れたとも言ったな?どんだけ辛い卵焼きを僕たちに食べさせるつもりだった?それに、あの卵焼きはほぼ丸焦げだった。そんなサンドウィッチをお前は平然とした顔で食べていた。以上の点から、お前の味覚や料理のセンスは全く当てにならん。お前は一度、病院で味覚の検査をしてもらった方がいい。ナディア先生に診察を本気で頼もうかと思っている。とにかく、料理は一切禁止だ。」

 「ジョーの言う通りだ。マリアンヌ、お前は今後一切料理禁止な。ジョーの食事はアタシが作る。お前は絶対に料理だけはするな。いいな?」

 「ううっ。分かりました。」

 マリアンヌ姫は料理が壊滅的に下手であることと、味覚にかなり問題があることが判明した。

 島津の奴、おそらくクソ王女のサンドウィッチを食べたフリをしていたのだろう。

 日本にいた頃からイケメンの島津は常に女子からモテていて、プレゼントに事欠くことはなかった。

 女子からいらないプレゼントをもらった時の対処法には慣れているはずだ。

 マリアンヌ姫に気に入られたい一心で、激マズサンドウィッチを美味しく食べる猿芝居をしていたに違いない。

 「勇者」のくせに、クソ王女との恋愛に現を抜かしたりしているから、島津の奴は落ちぶれて犯罪者にまで堕ちたのだと、僕は思った。

 ちょっとしたハプニングはあったが、オアシスで昼食を食べ、休憩をとった後、僕たちは来た道を引き返し、帝都の冒険者ギルドへと戻った。

 それから、僕とグレイは、依頼達成の報告を終えると、ギルドの訓練場を借りて、グレイが編み出した新技「狼牙爆槍・疾風」のトレーニングを一緒に行った。

 夕方、玉藻たち他のパーティーメンバーが依頼を終えて、ギルドへと戻ってきた。

 僕、グレイ、マリアンヌ姫の三人が玉藻たち五人を出迎えたが、マリアンヌ姫の着ている、僕の冒険者用の服とよく似た、白いアルビノワイバーンの革を使用した冒険者用の服を見た途端、急に機嫌が悪くなり、話し合いをすると言って、マリアンヌ姫を引きずって、女性陣は全員、ギルドの二階の玉藻の部屋へと行ってしまった。

 一人残された僕は、ギルドの食堂で一人寂しく夕食を食べることになり、そのまま一日を終えたのであった。

 トレーニング二日目。

 僕、グレイ、マリアンヌ姫の三人は、「土の迷宮」跡地から東へ馬車で2時間ほど進んだ砂漠地帯にある鉱山へと向かった。

 馬車と御者を一日雇った僕たちは、馬車とともに帝城の移動用の魔法陣で「土の迷宮」跡地まで移動すると、そこから馬車に乗って、東の鉱山へと向かうのであった。

 依頼書によると、三ヶ月前、Bランクモンスター、ゴーレムの群れが、東の砂漠地帯にある鉱山へ、餌となる銅を求めて出現し、鉱山を襲って住み着いてしまったと言う。鉱山で銅の採掘作業に従事していた作業員に多数の死傷者が出た上、鉱山での採掘作業が停止に追い込まれる被害が出たとのこと。ズパート帝国の冒険者ギルドや騎士団から討伐隊が何度も派遣されたが、討伐は全て失敗に終わったとのこと。尚、依頼主は、鉱山を経営する企業からであった。

 討伐する数は30匹。依頼のランクはSランク。討伐報酬は1,500万リリアで、相場の半分である。

 この依頼も当然ながら、ハズレ依頼である。

 ゴーレムとは、身長5メートルほどの巨体で、人型の姿をした、全身が石や金属で構成されている、巨大な土人形のような姿のモンスターである。

 知能は低いが、全身が石や金属で構成されているため、非常に頑丈な体の造りをしている上、怪力の持ち主である。弱点は、頑丈な胸部の中央の内側にある、核である魔石を破壊する以外に倒すことはできない。

 石や金属など、鉱物を好んで食べ、また、摂取した鉱物が肉体の一部を構成することで肉体の強度や能力が変わることもある。

 オリハルコンを多量に摂取していた場合、頑丈さも怪力も強化されるため、厄介だとも聞く。

 異世界召喚物の物語やファンタジー系のゲームに頻繁に登場するモンスターである。元いた世界でも、ゴーレムに関する伝承は多岐にわたっていた。

 ちなみに、この異世界アダマスでは、人造のゴーレムもいる。

 目的の鉱山の近くまで着くと、馬車を下り、僕たち三人は鉱山へと向かった。

 鉱山の採掘場の入り口の陰から様子を窺うと、ゴーレムたちが鉱山の中を徘徊していた。

 「さて、今回のトレーニングの内容は、この鉱山に住み着いたゴーレムたちの討伐だ。ゴーレムは全部で30匹。僕が15匹、グレイが15匹、それぞれ討伐する。今回のトレーニングの目的は、頑丈な装甲を持つ敵の装甲を破壊する圧倒的なパワーを身に着けることが目的だ。ゴーレムのようなパワータイプの敵を一撃でねじ伏せるパワーを身に着けることができれば、戦闘の幅はより広がる。パワーの強化方法は僕が手本を見せる。ゴーレムは頑丈で怪力の持ち主だが、動きは鈍い。弱点である胸部の中央の魔石を一撃で破壊さえできれば、大した脅威にはならない。この前同様、認識阻害幻術を使って、ゴーレムたちの傍まで、僕とグレイは接近する。認識阻害幻術を解除後、僕が先行してゴーレムたちに突撃する。グレイはその後に続いてくれ。クソ王女、お前は僕が合図するまで待機だ。ここまでで何か質問はあるか?」

 「特にはねえよ。一撃粉砕のパワーを身に着けてやるじゃん。」

 「私も質問はありません。」

 「では、作戦開始だ。認識阻害幻術!」

 僕は霊能力を解放して、認識阻害幻術を全員にかけた。

 それから、僕とグレイの二人は鉱山の中へと入っていった。

 鉱山に空いた穴や採掘場の中を、30匹のゴーレムたちがのそのそと徘徊していた。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出すと、如意棒を右手に持った。

 如意棒に霊能力のエネルギーを流し込み、黒い大身槍へと変形させた。

 僕は霊能力をさらに解放し、全身と大身槍へと纏わせた。

 ゴーレムたちのすぐ傍まで近づくと、僕は大身槍を構え、それから、両腕に霊能力のエネルギーを集中させた。

 僕の両腕から青白い光が放たれ、大きく輝いている。

 「それじゃあ、討伐開始だ!認識阻害幻術、解除!」

 僕は認識阻害幻術を解除すると同時に、大身槍を構えながら、ゴーレムたちに向かって突撃した。

 僕を見るなり、僕に向かってくるゴーレムたちに向かって、僕はゴーレムの胸部の中央目がけて、大身槍から真っ直ぐに突きを繰り出した。

 「ウゴォーーー!?」

 僕が繰り出した大身槍の突きが、ゴーレムの胸部の中心を貫き、胸部の核の魔石を一撃で粉砕した。

 襲い掛かってくるゴーレムたちを交わしながら、一体ずつ大身槍で胸部中央の魔石を粉砕し、倒していく。

 鉱山の中から仲間の叫び声を聞いて現れたゴーレムたちも、僕は大身槍の突きで、一撃で粉砕して倒していく。

 5分後、ゴーレム15匹を倒し終えた僕は、グレイの方を見た。

 2匹ゴーレムを倒したようだが、頑丈な体を持つゴーレムの硬さに苦戦している様子だった。

 13匹のゴーレムたちがグレイの前後を取り囲みつつある。

 ゴーレムたちの動きは鈍いが、ゴーレムの大きな手に掴まれれば、怪力で手足を潰されたり、引きちぎられたりする恐れもある。

 ゴーレムの攻撃を交わしながら、ゴーレムの胸部へパルチザンで突きを繰り出すグレイだが、決定打に至っていない。

 明らかにパワー不足である。

 僕はグレイに声をかけた。

 「グレイ、僕はもうゴーレム15匹を倒したぞ。そんな弱っちい突きじゃ、残りのゴーレムたちを倒すのは無理だ。ゴーレムたちから一旦距離をとれ。それから、両腕に全ての魔力を集中させろ。そして、一気にゴーレムの胸を貫け。得意のスピードは捨てろ。ガードすることも忘れろ。相手の攻撃も反撃も気にせず、両腕に力を込めて、思いっきり貫け。」

 グレイは一旦、ゴーレムへの攻撃を止め、走ってゴーレムたちの間を通り抜け、ゴーレムたちから20mほど距離をとった。

 「両腕に全魔力を集中、だな。スピードもカードも捨てて、思いっきり貫け、か。やってやるじゃんよ。」

 グレイはゴーレムたちに向かって、パルチザンを構えながら、両腕に魔力を集中させていく。

 グレイの両腕が徐々に光り始めた。

 グレイの背後に、巨大な、大きく口を開けて牙を剥き出しにした狼の顔のようなマークが浮かび上がった。

 「行くぜ!狼牙爆槍・剛牙!」

 グレイは徐々に迫ってくるゴーレムたちに向かって、パルチザンを構えながら突撃した。

 そして、ゴーレムの胸部の中央目がけて、パルチザンを繰り出した。

 グレイの繰り出したパルチザンの突きが、ゴーレムの胸部を真っ直ぐに貫き、胸部にある核を粉砕した。

 そのままグレイは、残りのゴーレムたちに向かって突撃し、襲いかかるゴーレムを巧みに交わしながら、パルチザンの突きで一撃のもと、一体ずつゴーレムたちを倒していった。

 10分後、残り13匹のゴーレムをグレイは全て倒した。

 息を切らして地面に座り込むグレイに駆け寄ると、僕はグレイに声をかけた。

 「お疲れ様、グレイ。ゴーレムを倒して、また新しい技を編み出すことができたようで何よりだ。「狼牙爆槍・剛牙」か。凄まじい破壊力を持つ見事な突きだったよ。ゴーレムを一撃で倒せるパワーさえあれば、今後怪力や防御力を武器とする相手と互角以上に戦えるはずだ。おめでとう、グレイ。」

 「はぁ、はぁ。サンキュー、ジョー。ゴーレム15匹を一撃で倒せたなんて、今でも信じられねえ気分だぜ。両腕がめっちゃ痺れるけど、あんだけの力技を編み出せたなら、安いもんだぜ。ジョーは本当に良いコーチだぜ。」

 「どういたしまして。認識阻害幻術、解除!おーい、クソ王女、もうこっちへ来てもいいぞ。ゴーレムの死体の回収を手伝ってくれ。」

 僕が呼びかけると、鉱山の入り口の方から、マリアンヌ姫が小走りでやってきた。

 「お二人とも、お疲れ様です。お二人だけでゴーレム30匹を討伐なさるとはさすがです。槍で一撃のもと、ゴーレムたちを倒す二人のお姿に思わず見とれるほどでした。それでは、すぐに死体の回収にとりかかります。」

 マリアンヌ姫は感想を言うと、ゴーレムたちの死体の回収を始めた。

 グレイは疲れている様子なので、僕とマリアンヌ姫の二人でゴーレムたちの死体を回収して回った。

 ゴーレムたちの死体の回収を終えると、僕たちは近くで待たせている馬車に乗り込み、馬車の中で昼食のお弁当を食べた。

 「土の迷宮」跡地まで馬車で戻ると、それから帝都の冒険者ギルドへと戻り、依頼達成の報告をした。

 それから、ギルドの訓練場を借りて、グレイが新たに編み出した「狼牙爆槍・剛牙」のトレーニングを、僕とグレイの二人は行った。

 トレーニング三日目。

 僕、グレイ、マリアンヌ姫の三人は、「土の迷宮」跡地から北東へ馬車で1時間ほど進んだ砂漠地帯にある、とある鉱山へと向かった。

 二日目同様、馬車と御者を一日雇った僕たちは、馬車とともに帝城の移動用の魔法陣で「土の迷宮」跡地まで移動すると、そこから馬車に乗って、北東の鉱山へと向かうのであった。

 依頼書によると、一カ月前、Sランクモンスター、アンズー2匹が希少金属、オリハルコンの鉱山に現れ、採掘作業に当たっていた作業員たちを襲撃し、作業員全員が死亡する事件が起こったとのこと。アンズーたちは繁殖を目的に、鉱山を訪れ、鉱山の頂上に巣を作り、住み着いたとのことである。現在、鉱山は採掘作業の停止に追い込まれており、早期の討伐をお願いしたい、とのことであった。依頼主は、オリハルコンの鉱山を所有する企業であった。

 討伐する数は2匹。依頼のランクはSランク。討伐報酬は1,500万リリアで相場より500万リリア安い。

 この依頼もハズレ依頼である。Sランクモンスター2匹の討伐を引き受ける冒険者は少ないだろうし、前皇帝サリムと「聖女」たちのせいで今、ズパート帝国は景気が悪いし、依頼の処理が滞るのも無理はない。

 目的の鉱山の近くまで着くと、馬車を下り、僕たち三人は鉱山へと向かった。

 僕はすぐに認識阻害幻術を全員にかけると、そのまま他の二人とともに、鉱山の中へと入っていった。

 鉱山を登っていくと、頂上付近に巨大な鳥の巣が作られていた。

 そして、巣の中に1匹、アンズーがいた。

 もう1匹のアンズーも、巣の上空を飛んでいた。

 アンズーとは、体長5mほどの大きさで、頭はライオン、体は鷲の姿をした、巨大な怪鳥のモンスターである。

 性格は非常に獰猛で肉食。人間のみならず、下級モンスターさえも食べる、恐ろしいモンスターである。

 最大の武器は、暴風と雷を起こす魔法が使えることである。暴風で敵を吹き飛ばしたり、雷をぶつけて敵を感電死させたりすることができる。

 鋭い牙や爪での攻撃にも注意が必要である。

 上空から多種多様な攻撃をしかけてくるのが、このアンズーの厄介なところだそうだ。

 異世界召喚物の物語に登場することはほとんどないが、ファンタジー系のゲームで登場することはある。伝承では、ズーとも呼ばれ、神に反逆した神獣であったり、霊鳥として描かれていたりする。

 アンズー2匹を見つけると、僕はグレイとマリアンヌ姫に声をかけた。

 「さて、今回のトレーニングの内容は、あのアンズー2匹の討伐だ。トレーニングの目的は、空を飛ぶ敵と戦えるようになること、飛行能力を身に着けることにある。空中戦ができるようになれば、空を飛ぶ敵の意表を突くことができる。今回のトレーニングはこれまでよりハードルが上がることになる。空を飛ぶ魔力のコントロールは難しい。エルザも最初は苦戦していた。だけど、空を飛べるようになれば、攻撃や回避のバリエーションがさらに増えることになる。習得するメリットは十分ある。空を飛ぶ見本は僕が見せる。よく見ておいてくれ。僕が上空を飛んでいるアンズーを倒す。僕に釣られて巣から出てきた残りの1匹をグレイ、君が倒すんだ。クソ王女はここで待機だ。ここまでで何か質問はあるかい?」

 「アタシだけでアンズーを倒すのか?正直、空を飛ぶこと自体、できる自信がねえっつーかよ。事前練習抜きでやるのは無理じゃねえか?」

 「極限状態にあえて自分を追い込むことに、このトレーニングの意味がある。エルザだって、このトレーニング方法で、初めて空を飛んだと同時に、Sランクモンスターのグリフォンをソロ討伐したんだ。エルザに負けてもいいなら、やらなくてもいいんだぞ、グレイ?」

 「いや、やるぜ。エルザにできて、アタシにできないわけがねえ。空を飛ぶ、上等だぜ。空を飛べるようになって、アンズーもぶっ倒す。Sランクモンスターのソロ討伐、やってみせるじゃんよ。」

 「その意気だ。ただし、アンズーは魔法も使えるからな。暴風と雷、どちらかが直撃したら再起不能にさせられる恐れがあるから、十分注意するように。空を飛んだら一瞬で勝負をつける必要があることを忘れないでくれ。それじゃあ、行こうか。」

 僕とグレイの二人は、アンズーの巣の真下まで歩いて移動した。

 僕は認識阻害幻術を解除した。

 それから、ジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出すと、如意棒を右手に持った。

 如意棒に霊能力のエネルギーを流し込み、黒い大身槍へと変形させた。

 僕は霊能力をさらに解放し、全身と大身槍へと纏わせた。

 大身槍を構えながら、足裏に霊能力のエネルギーを集中させた。

 「霊飛行!」

 足裏からジェット噴射のように青白い霊能力のエネルギーが一気に噴き出した。

 僕は「霊飛行」を使って、一気に上空を飛んでいるアンズーへと向かって、一直線に飛び上がった。

 上空を飛んでいるアンズーは、超高速で真っ直ぐに飛んでくる僕に驚き、反応が遅れた。

 アンズーの一瞬の隙を突いて、僕は大身槍の穂先をアンズーの口の中に勢いよく突っ込み、アンズーを貫いた。

 「グゲェッーーー!?」

 大身槍に貫かれたアンズーは悲鳴を上げると、地面へと落下し、そのまま口から血を吐いて息絶えた。

 つがいである1匹が僕に殺されたのを見て、興奮して怒り狂ったもう1匹のアンズーが、僕を殺そうと巣から飛び出し、追いかけてくる。

 「霊飛行」を使って上空を逃げ回る僕に、怒り狂ったアンズーは、空中で一度制止すると、翼を激しく動かして、暴風と雷を発生させた。

 暴風によって飛ばされそうになったが、必死にこらえ、雷の直撃を何とか避けている僕だが、「霊飛行」で空を飛べるタイムリミットは刻々と迫っている。

 「霊飛行」で空を飛べる時間は5分。おまけに、アンズーの起こす暴風と雷を避けるため、霊能力のエネルギーの消耗が激しい。

 真下を見ると、グレイがパルチザンを構えながら、こちらの様子を見ている。

 「グレイ!足の裏に魔力を全部集中させろ!魔力を圧縮して、足の裏から思いっきり放て!魔力を、空を飛ぶ力に変換しろ!」

 「魔力を全部、足の裏に集中!圧縮して思いっきり放つ!魔力だけで空を飛ぶ!」

 グレイが足の裏に魔力を集中させ始めた。

 グレイの足の裏が徐々に光り始め、そして、眩い光が漏れ始めた。

 「行くぜ!狼牙爆槍・飛翔!」

 グレイの背後に、巨大な、狼が跳び上がる姿を描いた絵のようなマークが浮かび上がった。

 グレイはパルチザンを構えながらアンズーに狙いを定めると、グレイの足の裏からジェット噴射のような勢いで光り輝く魔力のエネルギーが噴き出した。

 その勢いで、一気にグレイは上空高くまで飛び上がり、アンズー目がけて急接近した。

 僕に気をとられていたアンズーの胴体を、グレイのパルチザンが刺し貫いた。

 「グゲェッーーー!?」

 アンズーは悲鳴を上げ、グレイのパルチザンが胴体から引き抜かれると、胴体から血を流し、地面へと落下して死んだ。

 「やったぜ、ジョー!アタシは空を飛んだぜ!」

 グレイが満面の笑みを浮かべて喜んでいるが、止まることなくどんどんさらに上空へと飛んでいく。

 「グレイ!力を緩めろ!止まるんだ!」

 「おっ、いけね。ちょ、止まんねえ!?止まんねえぞ、おい!?」

 グレイの足の裏からはいまも魔力のエネルギーが噴射し続けている。

 「ちょっと待ってろよ。」

 僕は「霊飛行」で急いでグレイの後を追いかけた。

 グレイに追いつくと、彼女の体を両手でがっちりと掴み、急ブレーキをかけた。

 「グレイ、急いで魔力を出すのを止めろ。僕が飛べるのも後1分くらいだ。とにかく、魔力を出すのを止めろ。着地は僕に任せるんだ。」

 「お、おう、分かった。任せたぜ、ジョー。」

 グレイは深呼吸をすると、目を瞑り、ゆっくりと魔力の放出を止めることに集中した。

 グレイの足の裏から出ていた魔力のエネルギーが徐々に減っていく。

 僕もホバリング飛行の要領で、ゆっくりと減速し、グレイを抱えながら、地上へと一緒に降りていく。

 グレイの足の裏から、魔力のエネルギーの放出が収まったタイミングと同時に、僕とグレイの二人は地上へと無事、着陸した。

 マリアンヌ姫の認識阻害幻術を解除すると、マリアンヌ姫が走って僕たちの方に駆け寄ってきた。

 「お疲れ様です、お二人とも。お二人とも怪我がなくて何よりです。アンズーを討伐できたと思ったら、グレイさんが空を飛んで行ってしまったので、本当に心配しました。ですが、こうしてお二人が無事に戻ってこられて何よりです。」

 「心配かけたな。すまないが、アンズーたちの死体の回収を頼む。それと、グレイ、アンズー討伐、お疲れ様。見事、空を飛ぶ技を編み出すことに成功したな。空を飛ぶ技のコントロールは難しいところがある。飛べる時間にも制限があるし、空中で制止するのも難しいところがある。でも、トレーニングを重ねていけば、短時間だが空を飛んで戦えるようになる。本当にお疲れ様。」

 「ありがとな、ジョー。おかげで助かったぜ。空を飛ぶってのはやっぱし難しいもんだな。でも、結構気持ちいいもんだな。それに、Sランクモンスターのソロ討伐にアタシが成功するなんて、マジで最高な気分じゃんよ。これからもトレーニング、よろしく頼むぜ。」

 「ああっ、もちろんだとも。いずれは僕のサポート抜きでSランクモンスターのソロ討伐ができるようになるはずさ。期待してるよ、グレイ。」

 僕とグレイの二人は笑い合った。

 アンズーたちの討伐を終えると、僕たち三人は近くで待たせている馬車に乗り込み、鉱山を後にした。

 「土の迷宮」跡地まで馬車で戻ると、それから帝都の冒険者ギルドへと戻り、依頼達成の報告をした。

 報告を終えた僕たちは、ギルドの食堂で、三人で一緒に昼食をとった。

 それから、ギルドの訓練場を借りて、グレイが新たに編み出した「狼牙爆槍・飛翔」のトレーニングを、僕とグレイの二人は行った。

 トレーニング四日目。

 僕、グレイ、マリアンヌ姫の三人は、「土の迷宮」跡地から南へ馬車で1時間ほど進んだ、「土の迷宮」跡地と、帝都の間にある砂漠地帯へと向かった。

 依頼書によると、二ヶ月前より、帝都への直線コース上にある砂漠地帯に、夜間だけCランクモンスター、デュラハンの群れが現れ、夜、砂漠地帯を通ろうとする馬車を襲い、怪我人が多数出る被害が発生している、とのことである。夜間以外には出没しないため、朝から昼にかけて通行する分には問題ないが、夜間の移動や輸送に支障が出ているため、討伐を依頼したいとのことである。依頼主は、ズパート帝国の馬車の運行を扱う商人ギルドからであった。

 討伐する数は20匹。依頼のランクはSランク。討伐報酬は400万リリアで、相場の4割の金額。

 この依頼もハズレ依頼の一つである。

 夜になり、僕たちは、帝城の移動用の魔法陣で「土の迷宮」跡地まで移動すると、徒歩で「土の迷宮」跡地と、帝都の間にある、南の砂漠地帯へと向かった。

 夜の砂漠を、僕たち三人は寒さに耐えながら歩いて進んでいく。

 二時間後、目的の南の砂漠地帯へと着いた。

 周囲には僕たち以外、人の気配は感じない。

 しばらく様子を窺っていると、背後から馬の鳴き声や足音が聞こえてきた。

 僕は咄嗟に認識阻害幻術を発動し、全員にかけた。

 直後、姿を消した僕たちの前に、首の無い黒い馬に乗った、全身に黒いフルプレートの鎧を着込んだ首無しの騎士が、20人ほど現れた。騎士と馬の首があるはずの部分からは、青白い色の炎が燃えている。騎士たちの手には黒いランスが握られている。

 間違いなく、討伐対象のモンスター、デュラハンである。

 デュラハンとは、首の無い馬に乗った、首の無い騎士の姿を持つ、アンデッドモンスターの一種である。死んで成仏できなかった騎士の魂が怨霊となり、モンスターとなったものである。騎士も馬もセットでデュラハンという一体のモンスターであり、肉体は全て霊体で構成されている。手に持っているランスだけは実体がある。

 攻撃方法は、馬に乗った状態ですれ違いざまにランスを敵に突き刺す、という極めてシンプルなモノである。

 ただし、肉体は霊体のため、物理攻撃はほとんど通用しない。

 体のどこかにある核となる魔石をピンポイントで破壊するか、あるいは魔法攻撃で肉体を完全に消滅させる以外に、倒す方法はない。魔法を武器とする魔術士向きのモンスターである。

 さて、デュラハンたちは、認識阻害幻術で姿を消している僕たちの姿を見失い、首もないのにキョロキョロと辺りを見回している。

 デュラハンたちが混乱している今が、攻撃の絶好のチャンスである。

 「今回のトレーニングの内容は、デュラハンたちの討伐だ。トレーニングの目的はずばり、魔法攻撃を身に着けることだ。デュラハンたちには基本、物理攻撃は通用しない。魔法攻撃で一気に霊体である肉体を消滅させる以外に倒す方法はない。魔力のエネルギーを操作して魔法を生み出し、攻撃する以外に勝ち目はない。だが、魔法攻撃を使えるようになれば、物理攻撃が通用しない、実体を持たない敵と戦えるようになる。魔法攻撃の手本は僕が見せる。いつものように、僕が先制攻撃を行う。グレイは僕の後に続いてくれ。僕が10匹、グレイが10匹、それぞれデュラハンを倒す。クソ王女はいつものように待機だ。何か質問はあるかい?」

 「魔法でしか倒せない敵を相手にするのは初めてだ。だが、やるっきゃねえじゃんよ。絶対、魔法をおぼえてデュラハンどもを倒してやるぜ。」

 「お二人とも頑張ってください。」

 「よし、それじゃあ、作戦開始だ。グレイ、よく見ておいてくれ。」

 僕とグレイは、デュラハンたちの傍まで近づいた。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出すと、右手に如意棒を持った。

 右手の如意棒に霊能力のエネルギーを流し込み、黒い大身槍へと変形させた。

 次に、僕は霊能力のエネルギーを全身に纏うと、右手に霊能力を集中させた。

 右手の霊能力が、青白い霊能力のエネルギーから黒い霊能力のエネルギーへと変化した。

 死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーを生み出すと、黒い霊能力のエネルギーを大身槍の穂先へと纏わせた。

 僕は認識阻害幻術を解除すると、大身槍を構えながら、横に八の字を描くように、デュラハンたちに向かって大身槍を振り回した。

 「霊呪槍斬!」

 僕の振り回す大身槍の穂先から黒い斬撃が次々に飛び出し、デュラハンたちの体を切り裂いていく。

 黒い斬撃の持つ死の呪いを浴びて、デュラハンたちは「ヴァァァァーーー!?」という悲鳴を上げて、霊体である肉体を、魂を呪い殺され、魔石を残して消滅していくのであった。

 10匹のデュラハンを2分ほどで倒した僕は、残りのデュラハンたちに襲われているグレイに向かって言った。

 「グレイ、今見せたのは、呪いの魔法を槍の穂先に纏って斬撃として飛ばし、攻撃する技だ。君のイメージする攻撃魔法なら何でもいい。君の槍を、魔法の杖だと考えろ。魔力を槍に流して、魔法を作り出して、魔法を槍に纏って、魔法を斬撃として飛ばすんだ。魔力を魔法に変換することを意識しろ。さぁ、魔法の斬撃を撃ってみろ、グレイ。」

 僕の言葉を聞いて、デュラハンたちのランスによる攻撃を走って交わしながら、グレイは意識を集中した。

 「アタシの槍は魔法の杖だ。魔力を槍に流して、魔法を作り出して、魔法を槍に纏って、魔法を斬撃として飛ばす。魔力を槍に流して、魔法を作り出して、魔法を槍に纏って、魔法を斬撃として飛ばす。」

 グレイの両手から魔力のエネルギーが、グレイの持つパルチザンへと流れ込んでいく。

 パルチザンの穂先に、魔力のエネルギーが集中し、光り始めた。

 グレイの背後に、巨大な、遠吠えをする狼の姿を描いた絵のようなマークが浮かび上がった。

 グレイの両腕と、パルチザンの穂先が高温で熱したかのように真っ赤な熱を帯びている。

 「行くぜ!狼牙爆槍・咆哮!」

 グレイがデュラハンたちに向かってパルチザンを振り回すと同時に、パルチザンの穂先から赤い光を放つ斬撃が放たれた。

 グレイの振り回すパルチザンから放たれる赤い斬撃が直撃すると、デュラハンたちの体が斬り裂かれるとともに、木っ端微塵に爆散した。

 グレイの放つ赤い斬撃を浴びて、デュラハンたちは次々に爆発して消滅するのであった。

 消滅したデュラハンたちのいた場所には、魔石だけが残されていた。

 デュラハンたちを倒したグレイに、僕は声をかけた。

 「お疲れ様、グレイ。見事、魔法の斬撃を編み出すことに成功したな。「狼牙爆槍・咆哮」、爆発する魔法の斬撃とは、中々面白い技だと思う。これで、物理攻撃の効かない相手や、魔法を得意とする相手と、魔法を使って互角に戦えるようになったわけだ。よく頑張った。」

 「お疲れ、ジョー。アタシがまさか魔法を使える日が来るとはな。自分でも驚きだぜ。元々、「狼牙爆槍」は槍を突き刺した相手に爆破の追加ダメージを与える技なんだよ。だから、斬撃が爆弾みてえに飛んで爆発したらスゲエことにならねえかと、思ったんだよ。それに、前にジョーがレイノウリョクをコントロールして、爆弾を作って瓦礫の山を吹っ飛ばしたことがあるじゃん。あれも魔法のイメージの参考になったぜ。とにかく、ジョーのアドバイスのおかげだ。ありがとよ。」

 「人前で「霊爆拳」を使うなと言ったくせに、ちゃっかり自分も爆弾の魔法を使って、ちょっとずるくないか?まぁ、僕は大して気にはしていないけど。」

 「へへっ、そう固いこと言うなって。魔法のレパートリーを増やせばいい話だしよ。」

 僕とグレイは無事、魔法の斬撃のトレーニングが上手くいき、喜んだ。

 認識阻害幻術を解除すると、マリアンヌ姫が声をかけてきた。

 「お二人とも、お疲れ様です。トレーニングが成功したようで何よりです。魔術士でなくとも、スキルと魔力のコントロール次第で攻撃魔法を使用することができるとは驚きです。通常は皆、スキルの性能を特化させることに注力します。魔力のコントロールも、スキルの威力や精度の向上にリソースを割きます。スキルや魔力のコントロールを、異なるジョブのスキルや魔法を再現するために使用することはほとんどありません。「黒の勇者」様の考えたこのトレーニング方法は実に画期的なモノだと、私は思いました。さすがは真の勇者様だと、感心いたしました。」

 「そりゃどうも。僕は元々、ジョブとスキルがないからな。どうやって、自分の中の霊能力を広く活用できるか、戦術の幅を広げられるか、いつもそればかり考えてきた。周りには僕以上に強い人たちが三人もいて、追いつくのに必死だったからな。ジョブとスキルは確かに便利かもしれない。でも、自分のジョブとスキルに縛られ過ぎて、自分の持つ可能性を、選択肢を狭めることにもなっているんじゃないかと、時々僕は思うことがある。女神に与えられた力に、この世界の人間たちは依存し過ぎているんじゃないかとね。」

 「アタシもジョーと出会う前は、自分のジョブとスキルに依存して、調子に乗って、それで大失敗したからな。ちゃんと自分や自分の周りが見えていなかったと、今でも思うぜ。自分のジョブとスキルに、女神の加護や教えに囚われていたら、アタシは何も変わらずじまいで終わってたに違いないってさ。」

 「女神リリア様の加護や教えが、人間の成長の足枷になっていると、そう仰るのですか?」

 「あくまで僕個人の意見だ。客観的な根拠があるわけじゃない。リリアの「巫女」であるお前からしたら、不愉快に聞こえる話だろうけどな。ただの戯言だ。そんなに気にするな、クソ王女。それじゃあ、帰るとしよう。次のトレーニングは明後日に行う。帰ったら、各自ゆっくり休んでくれ。じゃあ、行こうか。」

 僕たち三人は来た道を歩いて引き返した。

 外はまだ深夜で、空には明るい月が昇っていた。

 凍えるような寒さの砂漠地帯を黙々と歩いて帰る。

 「土の迷宮」跡地まで着くと、移動用の魔法陣を使って、無事帝都へと帰還した。

 冒険者ギルドに戻って、依頼達成の報告を終えると、僕たちはそのまま自分の泊まっている部屋へと戻り、眠りに就いた。

 トレーニング5日目。

 僕、グレイ、マリアンヌ姫の三人は、「土の迷宮」跡地から北へ馬車で3時間ほど進んだ砂漠地帯にある鉱山へと向かった。

 馬車と御者を一日雇った僕たちは、馬車とともに帝城の移動用の魔法陣で「土の迷宮」跡地まで移動すると、そこから馬車に乗って、北の鉱山へと向かうのであった。

 依頼書によると、半年前、Aランクモンスター、メデューサが、金の採掘場である北の鉱山に突如、出現し、採掘作業に当たっていた作業員たちや、企業の従業員たちを襲い、全員が死亡する被害が発生したとのこと。メデューサたちは鉱山の穴の中を住処とし、鉱山の付近を通りかかる人間たちまで襲っているとのこと。ズパート帝国冒険者ギルド北支部から一度、討伐隊が派遣されたが、全員行方不明となり、討伐は失敗に終わったそうだ。依頼主は、金の鉱山を所有する企業からであった。

 討伐する数は10匹以上で正確な数は不明。依頼のランクはSランク以上。討伐報酬は2,000万リリア。

 討伐するモンスターの数は不明で、依頼のランクはSランク以上と難しく、討伐報酬も仮にメデューサが10匹の場合、相場の4割程度しかもらえない。

 明らかにハズレ依頼の一つである。それも、難易度も危険度も最高レベルの、普通の冒険者は絶対に手を出さない依頼である。

 メデューサとは、体長5mほどの大きさで、頭部に無数の蛇を生やした人間の女性そっくりの顔を持ち、胴体は緑色の蛇の鱗に覆われた人間の女性の姿をし、下半身は巨大な緑色の長い蛇の尾を持つ、蛇女とも呼ばれるモンスターである。

 最大の武器は、両目から放たれる、見た者を石化させて呪い殺す、石化の呪いの効果を持つ視線である。

 一流の腕前を持つ回復術士の結界での防御なしに、攻略はまず不可能と言われるほど、強力な石化の呪いで攻撃してくる危険なモンスターである。

 今回の依頼の場合、メデューサは複数いて、鉱山の穴の奥深くに隠れているため、暗闇から突然、石化の呪いを浴びせて奇襲攻撃をしかけてくる可能性がある。

 メデューサは人間以上の怪力を持っているし、下半身の蛇の尾で敵をからめとって絞め殺す攻撃も使ってくる。

 回復術士の結界が一度でも破られでもしたら、あるいは気を抜いて結界を解除したところを奇襲されたら、たちまち全滅することになりかねない。

 異世界召喚物の物語やファンタジー系のゲームによく登場する有名なモンスターで、ギリシャ神話に登場することでも知られている。

 僕たち三人は「土の迷宮」跡地から馬車で目的の北の鉱山へと向かった。

 鉱山の手前で馬車を降りると、僕は認識阻害幻術を全員にかけた。

 鉱山の入り口の手前まで歩くと、僕はグレイに話しかけた。

 「グレイ、今回のトレーニングの内容はメデューサの討伐だ。依頼書によると、鉱山内に潜むメデューサの正確な数は不明、恐らく10匹以上は確実とのことだ。メデューサは見た者を石化させて呪い殺すことができる、石化の呪いの視線、という状態異常攻撃を使うモンスターだ。通常、状態異常攻撃を使うモンスターと戦う場合は、状態異常攻撃への回復や防御ができる回復術が使える回復術士と一緒に戦うのが定石だ。だけど、状態異常攻撃への対処法は回復術だけとは限らないんだ。状態異常攻撃は、同じ状態異常攻撃で相殺することができるんだ。さらに言えば、モンスターの放つ状態異常攻撃を超える威力の状態異常攻撃を使えれば、逆に相手を状態異常攻撃で倒すこともできる。そして、状態異常攻撃で最強とされる攻撃が、死の呪いだ。この死の呪いを魔力で再現して全身に纏えるようになれば、状態異常攻撃を受けても、全身を流れる死の呪いの力で瞬時に打ち消して回復できるし、状態異常攻撃どころかあらゆる攻撃から全身をガードできる鉄壁の鎧を常に身に着けることができるようになる。死の呪いも使い方次第で、回復にも防御にも使えるわけだ。今から僕が魔力を死の呪いに変換して身に纏う技を見せるからよく見ておいてくれ。ポイントは、全身から魔力を放出させて、魔力を限界まで圧縮して、その魔力を死の呪いの魔法へ変換するイメージを想像して、全身に纏う流れを意識することだ。相手を呪い殺すという気持ちを込めることも重要だ。それじゃあ、行くよ。」

 僕はグレイにそう言うと、霊能力を解放した。

 霊能力で全身を包み、纏った。

 さらに、霊能力のエネルギーを圧縮させ、青白い霊能力を、死の呪いの効果がある黒い霊能力のエネルギーへと変換した。

 「霊呪鎧拳!」

 そして、黒い霊能力のエネルギーを全身に僕は纏った。

 「グレイ、これが死の呪いの魔法を全身に纏う方法だ。これが使えるようになれば、メデューサの石化の呪いを完全に無効化できる。どんなに強力な状態異常攻撃を持っていても、死の呪いの前では無意味だ。死の呪いは回復術士のあらゆる結界も破壊する力もある。相手の回復や防御、攻撃さえも死の呪いは阻害することができるんだ。相手を触れただけで呪い殺すことだってできる。状態異常攻撃からも瞬時に回復だってできる。死の呪いという最強の状態異常攻撃をマスターすることで、君の念願だった状態異常攻撃への耐性が身に着くんだ。さぁ、死の呪いを纏うんだ、グレイ。君になら絶対にできる。」

 グレイは一瞬、緊張した表情を浮かべたが、すぐに死の呪いを身に纏うべく行動を始めた。

 「死の呪いを身に纏うか。少し怖ええ気分ではあるけどよ、ジョーができるって言うなら、信じてやるじゃんよ。もう死の呪いなんぞ食らって死にかけるのは御免だしな。ええっと、全身から魔力を放出させて、魔力を限界まで圧縮して、その魔力を死の呪いの魔法へ変換するイメージを想像して、全身に纏う、だったな?」

 グレイはパルチザンを構えると、両目を閉じて、集中した。

 グレイの全身が徐々に光り始めた。

 そして、グレイの全身を魔力の光が覆った。

 さらに、グレイの全身を流れる魔力のエネルギーが、白い色から黒い色へと徐々に変色していく。

 グレイは全身に黒い魔力のエネルギーを纏った。

 グレイの背後に、巨大な、目と口からドロッとした血を流す狼の顔のようなマークが浮かび上がった。

 「行くぜ!狼牙爆槍・怨狼!」

 グレイの全身を纏っている黒い魔力のエネルギーが、グレイの持つパルチザン全体を包み込んだ。

 グレイの全身と槍が、死の呪いの魔法を纏ったのだった。

 「いいぞ、グレイ!死の呪いを身に纏うことに成功したはずだ。これで、メデューサの石化の呪いを浴びても無効化できるはずだ。後は実戦あるのみだ。このまま、一緒にメデューサたちの隠れている鉱山の穴の中へと一緒に入ろう。クソ王女、お前はいつも通り、ここで待機だ。死の呪いでメデューサたちの死体が汚染されるから、死体の回収も僕とグレイで担当する。一時間経っても僕たちが帰ってこない、あるいは合図がない時は馬車に乗ってギルドまでお前は帰れ。それじゃあ、行こうか、グレイ。」

 「おう。新技を試すのが楽しみだぜ。」

 「お二人とも、どうかお気を付けて。」

 マリアンヌ姫に見送られながら、僕とグレイの二人は、メデューサたちのいる鉱山の穴へと歩いて向かった。

 穴の中は真っ暗で、穴の奥が見えないほどの暗闇が広がっていた。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出すと、右手に如意棒を持ち、如意棒に黒い霊能力のエネルギーを流し込み、大身槍へと変形させた。そのまま大身槍全体に、死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーを纏わせた。

 「さて、討伐開始だ。わざわざ始めから穴の中に入る必要はない。誘い出して、仕留めることにしよう。」

 僕はそう言うと、認識阻害幻術を解除して、それから、大身槍で穴の入り口の壁を何度も、カンカンという大きな音を立てながら叩きつけた。

 僕の立てる音に反応して、5匹のメデューサたちが穴の中から出てきて、僕とグレイの前に姿を現した。

 僕たち二人を見つけるなり、メデューサたちの蛇のような黄色い瞳の両目が一斉に、眩しい光を放った。

 メデューサたちの、相手を石化させる呪いの効果を持つ視線の光を全身に浴びた僕とグレイであったが、全身に纏っている死の呪いによって、メデューサたちの石化の呪いは無効化され、石化することはなかった。

 石化せず、平然とした様子で立っている僕とグレイを見て、メデューサたちは驚き、怯んだ様子を見せた。

 「マジでスゲエな、死の呪いってのは。回復術士抜きで状態異常攻撃を無効化できるなんて、半端ねえ威力だぜ。メデューサの石化の呪いが痛くも痒くもねえぜ。」

 「だろ?死の呪いも使い方次第で強力な攻撃にも防御にもなるんだ。それはさておき、目の前にいるメデューサたちをさっさと討伐しよう。逃げられたら面倒だ。」

 「了解だ。行くぜ!」

 僕とグレイはメデューサたちに向かって突撃し、それぞれ大身槍とパルチザンを使って、メデューサたちを攻撃した。

 死の呪いを纏った槍の穂先による突きや斬撃を受けて、「キシャーーー!?」という悲鳴を上げながら、一撃のもと、メデューサたちはその場で絶命した。

 仲間の悲鳴を聞いて、穴の奥からさらに5匹、別のメデューサたちが現れたが、石化の呪いを無効化する僕たちに対応できず、僕たちの攻撃を受けて倒されていくのであった。

 「依頼書では10匹以上とあったが、今倒したのを入れると、討伐したメデューサはちょうど10匹だ。だけど、まだ穴の奥に潜んでいる可能性もある。僕は通常の霊能力に切り替えるから、僕を灯り代わりに、奥へ進むことにしよう。グレイ、君は引き続き、死の呪いを纏って戦ってくれ。」

 「了解。お前のレイノウリョクってのは本当に便利だな、ジョー。死の呪いを作って纏わなくても、素で状態異常攻撃を無効化できるんだから、ホントスゲエよ。」

 「確かに便利ではあるけど、決して万能じゃあないよ。まぁ、元々は呪いに似た力でもあるからね。異世界に召喚されて、特訓して、ようやくコントロールできるようになった。霊能力は決して無敵でも万能でもチート能力でもない。そのことを忘れて、怠けて、思い上がってはいけない、と、僕はいつも思っているんだ。」

 「さすがは「黒の勇者」様だぜ。どこぞの元勇者どもと違って殊勝なこって。」

 僕とグレイは雑談をしながら、穴の奥へと進んでいく。

 僕の全身を覆う霊能力の青白い光が、穴の中を照らしている。

 穴の中では、地面に人の腕や足など、人体のパーツの姿をした不気味な石がいくつも地面に転がっていた。

 恐らく、メデューサたちに襲われた作業員たちや冒険者たちの石化した死体が、メデューサたちに砕かれ、散乱したものだということが分かった。

 穴の一番奥にまで進むと、2匹のメデューサがいた。

 僕たち二人を見るなり、すぐに石化の呪いを放ってくるが、僕たちに呪いは全く通用しない。

 石化の呪いが通用せず、他に逃げ道もないため、追い詰められたメデューサたちは僕たちに飛びかかってきた。

 そんなメデューサたちに、僕たちは落ち着いた様子で、槍を繰り出し、一撃でメデューサたちを貫き、殺した。

 「ここが穴の一番奥だし、今討伐したこの2匹でメデューサたちは完全に始末したと思う。他に横穴もないから、もう潜んでいる奴はいないはずだ。グレイ、死の呪いはもう纏わなくて大丈夫だ。討伐したメデューサたちの死体の回収を手伝ってくれ。全部で12匹だ。」

 「OK。任せとけ。」

 僕とグレイはメデューサたちの死体を回収した。

 死体の回収を終えると、僕とグレイは穴の中を出て、鉱山を下り、マリアンヌ姫のいる鉱山の入り口まで向かった。

 マリアンヌ姫の認識阻害幻術を解除すると、僕はマリアンヌ姫に近づきながら声をかけた。

 「おい、クソ王女。メデューサたちの討伐は終わったぞ。死体も全部、回収した。12匹も穴の中に隠れていた。トレーニングも無事、成功に終わった。大収穫だ。」

 「お疲れさまです、お二人とも。回復術士抜きでメデューサ12匹をたった、二人で倒されるとは驚きです。さすがは「黒の勇者」様です。グレイさんもトレーニング成功、おめでとうございます。」

 「お疲れ、マリアンヌ。アタシの「狼牙爆槍・怨狼」の、死の呪いの威力をお前にも見せてやりたかったぜ。これで、状態異常攻撃対策の技も編み出すことができた。本当にありがとよ、ジョー。」

 「どういたしまして。さてと、それじゃあ帝都に帰ろう。冒険者ギルドに戻って依頼達成の報告を終えたら、グレイのトレーニング成功を祝って、パーティーメンバー全員でお祝いパーティーをしよう。マリアンヌ、お前も参加をしていいぞ。」

 僕はそう言うと、待たせている馬車の方へと向かった。

 グレイが僕の後をついてくる。

 マリアンヌ姫は驚いた顔を浮かべながら、走って僕の右隣にやってきた。

 「「黒の勇者」様、今、私のことを名前で呼ばれませんでしたか!?マリアンヌと呼ばれませんでしたか!?」

 「ああっ、そうだ。約束通り、最後までトレーニングに付いてきたからな。お前の根性と努力を認めないわけにはいかない。それに、いつまでもクソ王女という名前で呼ぶのは面倒だ。僕の中でお前がクソ王女である認識は変わらないが、ちょっとくらいは認めてやる。ギルドに帰ったら、お前を正式にパーティーメンバーに加えてやる。雑用係としてきっちりこきつかってやる。後、リリアへの嫌がらせのメッセージを伝える役もしてもらう。そういうわけだ。よろしくな。マリアンヌ。」

 「あ、ありがとうございます、「黒の勇者」様!」

 「それと、その「黒の勇者」様というあだ名で僕を呼ぶのは止めろ。僕は勇者と呼ばれるのが嫌いだ。「黒の勇者」というあだ名自体も気に入ってはいない。僕の名前は、宮古野 丈だ。僕のことはジョーと呼べ。良いな?」

 「はい。分かりました、ジョー様。」

 満面の笑みを浮かべて隣で喜ぶマリアンヌ姫を横目で見ながら、僕は馬車へと歩いていく。

 マリアンヌが、このクソ王女はいまだに復讐対象ではあるが、雑用係として少しは役に立ちそうだし、他にも利用価値はありそうなので、しばらくこき使ってやることにしよう。

 散々こき使った後に、インゴット国王のくそジジイと一緒に復讐してやる。

 貢献度によっては、半殺しにして全財産を没収するくらいで済ませてやってもいい。

 マリアンヌは僕が復讐すべき異世界の悪党である、この考えが変わることはない。

 そんなことを考えながら、グレイとマリアンヌとともに馬車で「土の迷宮」跡地まで帰った。

 それから、移動用の魔法陣を使って、帝都へと移動した。

 帝都の冒険者ギルドまで戻ると、ギルドの受付カウンターで依頼達成の報告をした。

 それと、マリアンヌの冒険者登録とパーティーメンバーへの登録の手続きを行った。

 マリアンヌは、受付嬢から自分のギルドカードを受け取り、喜んだ。

 グレイも、ギルドカードの更新をしたいと言って、更新をしたところ、ジョブとスキルのレベルが上がっていることがステータス鑑定で分かり、Sランクの討伐依頼達成の実績もあるため、Sランク昇格も可能であると、ギルドの受付嬢から説明されたそうだ。

 グレイ、マリアンヌのギルドカードの記載内容は以下である。

 まず、グレイである。


  ネーム:グレイ


  パーティーネーム:アウトサイダーズ


  ランク:Aランク


 ジョブ:獣槍術士Lv.85


 スキル:狼牙爆槍Lv.85


 「おい、ジョー、見ろよ。アタシのレベルがLv.85まで爆上がりだぜ。後、レベルを5上げれば、Sランク冒険者になれるんだってよ。マジで最高じゃんよ。」

 「トレーニングで編み出した技全てをマスターできれば、すぐにLv.90、Sランク冒険者になれるはずだ。グレイ、君ならできる。Lv.90よりさらに上に行くこともできる。頑張れよ。」

 次に、マリアンヌである。


 ネーム:マリアンヌ


 パーティーネーム:アウトサイダーズ


 ランク:F


 ジョブ:巫女Lv.50


 スキル:神託授受Lv.50


 「パーティーメンバーに加えていただき、ありがとうございます。改めてよろしくお願いいたします、ジョー様。」

 「よろしくな。非戦闘職だし、戦闘経験がないのは置くとして、レベルが50もあるのには驚いたぞ。これで、戦闘職で実績もあれば、Bクラス冒険者になれるレベルだ。女神リリアから神託を受けるだけのジョブとスキルをレベルアップさせるのは難しいと思うんだが、どうやってレベル上げのトレーニングをしたんだ?」

 「神託を授かるたびにレベルが上がるのも確かです。後は、神託をいつ、どこでも受信できるよう、スキルを常時発動させ続けることが、トレーニング方法になります。無意識でも、眠っている状態でも、スキルを発動し続ける体づくりを行っています。魔力の消費量が激しいスキルではないため、慣れれば、魔力切れを起こすことはなく、日常生活にも何ら支障はありません。」

 「常にリリアから神託を授かるための受信機にならなきゃいけないとは、意外と苦労しているんだな、お前も。僕から見たら、地獄みたいな生活だ。」

 「滅相もございません。「巫女」という大役を授かれた栄誉を考えれば、この程度の苦労は大したことはありません。どうかお気になさらず。」

 「別に気にしちゃいないが。まぁ、あまり無理はするなよ。ブラック企業の社畜みたいな生き方はおすすめできないからな。僕もお前をこき使うつもりだし、これから元勇者たちの討伐で忙しくなるんだから、たまには「巫女」の仕事を休んでもいいと思うぞ。「巫女」より雑用係として働いてくれる方が僕も大助かりだ。」

 「ジョー様は本当にリリア様がお嫌いなのですね。」

 「ああっ、嫌いだ。大嫌いだ。リリアなんぞクソくらえと、いつも思っている。」

 苦笑いするマリアンヌに、光の女神リリアへの怒りをぶちまける僕であった。

 色々と手続きを終えた僕たちは、他のパーティーメンバーたちが依頼を終えて帰ってくると、一緒にグレイのトレーニング成功を祝うパーティーを開くことを提案した。

 パーティーメンバー全員で、冒険者ギルドの近くの小さなレストランで、グレイのトレーニング成功のお祝いパーティーを開き、少し早めの夕食を食べた。

 ついでに、マリアンヌのパーティーメンバー加入も祝ってやった。

 「グレイさん、トレーニング成功おめでとうございます。これからの成長と活躍を期待していますよ。」

 「新技を五つも編み出したそうだな。レベルも大分上がったし、良かったな。後は新技を完全に習得しなきゃだな。俺たちがみっちりこれから鍛えてやる。覚悟しろよ、グレイ?」

 「グレイがレベルアップに成功して私も嬉しい。私もこれからビシバシ鍛えてあげる。私がコーチすれば、すぐにSランクへ昇格間違いなし。」

 「お疲れ様であった、グレイ。我も貴様がパワーアップしたのは嬉しい限りだ。だが、調子に乗って、所かまわず敵に突っ込んだりするなよ?貴様はいつも調子に乗って失敗することが多いからな。慢心は禁物だぞ。」

 「グレイよ、わずか五日の間でレベルを15も上げるとは、よくやった。まぁ、婿殿が指導したのだから、その程度のことはできて当然ではあるがな。今後も妾と婿殿のためにしっかりと働くのだ。妾もお前のトレーニングに手を貸してやってもよい。妾の作るブラックホールから、自慢の俊足でどこまで逃げ切れるか、試してみるのも一興だな。」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザ、イヴが、グレイのトレーニング成功を喜び、お祝いの言葉をそれぞれ贈った。

 「みんな、ありがとよ。アタシはもっと強くなるから、期待して待っててくれ。ただ、しごきはできればお手柔らかに頼みますぜ、姉御たち?後、イヴ、お前とだけは絶対にトレーニングはしたくねえ。絶対、アタシを玩具にして遊ぶ気だろうが。とにかく、これからもよろしく頼むじゃんよ。」

 グレイは笑いながら返事をした。

 僕たち「アウトサイダーズ」は、グレイの成長を喜び、大いに飲んで食べて祝ったのであった。

 マリアンヌが途中で顔色が優れず、一度トイレに行ったが、その後、何ともなかった様子で戻ってきたので、少々ホッとした。

 このクソ王女が倒れでもしたら、父親のクソ国王が取り乱して暴走されでもしたら面倒だからである。

 こうして、無事グレイのトレーニングを終えた僕は、グレイのトレーニング成功を祝いながら、次のダンジョン攻略や復讐に向けて考え始めたのであった。

 グレイが新たに編み出した五つの新技を完全に習得できれば、僕たち「アウトサイダーズ」の戦力はさらにパワーアップする。

 僕の異世界の悪への復讐をさらに進める力となってくれるだろう。

 僕の異世界への復讐の旅が、また一歩前進した。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る