第六話 【主人公サイド:インゴット王国冒険者ギルド北支部】ブロン、主人公たちの活躍に一喜一憂する

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈が元「弓聖」たち一行を討伐し、さらに、カテリーナ聖教皇率いるリリア聖教会本部を成敗した日の翌日。

 インゴット王国の北東部にあるやや大きな町、ノーザン。

 このノーザンと呼ばれる町には、インゴット王国冒険者ギルド北支部があり、かつて主人公が冒険者として異世界での生活を本格的にスタートさせた地でもある。

 早朝、午前6時。

 インゴット王国冒険者ギルド北支部のギルドマスター、ブロン・ズドーは早朝にも関わらず、ギルド職員の誰よりも早くギルドに出勤した。

 ブロンがギルドに朝いちばんに出勤するのは日課であった。

 午前7時過ぎ

 ブロンがいつものように執務室で書類に目を通していると、机の上に置いてある外部との連絡通信用の水晶玉が光った。

 早朝にブロン宛てに連絡をよこす者は限られている。

 ブロンは水晶玉に手をかざすと、それから水晶玉に向かって話しかけた。

 「もしもし、こちらインゴット王国冒険者ギルド北支部ギルドマスター、ブロン・ズドーだ。」

 『久しぶり、ブロン!僕だよ、スミスだ!今やっとゾイサイト聖教国の首都に着いたところだよ!もうそちらにもニュースが伝わっていると思うけど、ゾイサイト聖教国は今、国中が大パニックだよ!いやいやぁー、またまたやってくれたよ、ジョー君!(笑)』

 連絡してきたのは、彼の腹心の部下で、副ギルドマスターにして情報収集のエキスパート、スミス・シャドーであった。

 スミスは、リリア聖教会の白い法衣を着た若いシスターへと化け、リリア聖教会本部がある首都中央の宮殿や大聖堂、広場から少し離れた三階建ての建物の屋上から、通信用の水晶玉を片手に、笑みを浮かべながら、ブロンへと報告をするのであった。

 スミスの自分への報告も含む第一声を聞いた瞬間、ブロンは思わず頭痛がしてきそうになった。

 「はぁー。笑い事じゃないぞ、スミス。昨日、ギルドで普通に仕事をしていたら、「黒の勇者」が、ジョー君がカテリーナ聖教皇に女神に代わって神罰を与えたと、リリア聖教会本部が崩壊寸前に追い込まれたと聞いた時、私がどれだけ驚かされたことか、お前に分かるか?ショックのあまり、心臓が飛び出そうになったぞ。ギルドにいた冒険者たちも職員たちも、みんな同じ反応だったぞ。ふぅー。それで、カテリーナ聖教皇が神託を故意に改竄して悪用していたこと、そのために「黒の勇者」が女神に代わってカテリーナ聖教皇に神罰を与え、リリア聖教会本部まるごと制裁を下したこと、これは間違いなく事実なんだな?それと、「黒の勇者」が元「弓聖」たち一行を討伐したのも、間違いないんだな?」

 『全部、事実で間違いないそうだよ、ブロン。これでも超特急で、徹夜で、教会本部に潜入して調べたんだよ。カテリーナ聖教皇は女神の「巫女」でありながら、「黒の勇者」ことジョー君を手に入れるため、邪魔なもう一人の「巫女」であるマリアンヌ姫と、「黒の勇者」が所属するラトナ公国、この二つの障害を排除するため、故意に女神から授かった神託を改竄し、それを自分の部下たちに伝えて好き勝手していたって話だよ。ちょっと前に、「白光聖騎士団」の聖騎士たちが「黒の勇者」を襲った事件があったけど、あれもカテリーナ聖教皇による神託の改竄が原因の一つだということらしいよ。昨日、ジョー君たちがカテリーナ聖教皇の前に突如現れ、聖教皇を直接尋問した上で、聖教皇は神託を改竄したことを自白したそうだよ。ただ、マリアンヌ姫を暗殺しようとしたり、最後まで犯した罪を認めなかった、ってことで、ジョー君たちの怒りに触れて、空中に宙吊りにされて一生そのままの状態で生き地獄を味わう、っていう罰を受けたみたいだよ。今、教会本部があった宮殿の近くにいるんだけど、これがまた傑作でさぁ~。馬鹿でかい宮殿が空に浮いたり、沈んだりで、とても愉快で奇妙な光景が広がっているよ。これもジョー君が何かしらの魔法で攻撃したせいだって。本当に傑作だよ。ブロン、君にも是非、この光景を見せてあげたいよ。アハハハっ!』

 「笑っている場合じゃないぞ、スミス!不謹慎な発言も止めないか!この世界で最も影響力のある組織が、女神のお膝元と呼ばれるリリア聖教会とゾイサイト聖教国が、女神と勇者の怒りを買って、神罰を下されて崩壊寸前だなんて、前代未聞だぞ!?ギルドどころか、世界中があまりの事件のショックの大きさに、今も困惑している!ジョー君たちがやり過ぎないために、わざわざお前を派遣させたことを忘れたわけじゃあないだろうな?まさか、スミス、お前、わざとジョー君たちのことを見逃したんじゃないだろうな?」

 『おいおい、変な勘ぐりは止めてくれよ、ブロン?僕は任務に忠実なプロのスパイだよ。私情で任務を放棄したりはしないよ。ジョー君たち、彼らが移動するのが早すぎるんだよ。わざわざ中古で一番良い船を買って、監視の目をかいくぐって、ようやくサーファイ連邦国に着いた途端、とっくに元「槍聖」率いる海賊団は壊滅、ジョー君たちは事件を解決して、こっちの調査が終わる前にはサーファイ連邦国を出ちゃうしさぁ~。ジョー君たちの乗ってる船だけど、信じられないぐらいのスピードなんだよ。あんなのに追いつくなんて無理だよ、無理。おまけに、僕みたいに姿を消せて、神出鬼没で、正確な所在を掴むこと自体、やっとなんだよ。今回だって同じさ。超特急で飛ばして追いかけて、現地に着いた途端、事件は既に解決済み、ゾイサイト聖教国は国中大混乱、肝心のジョー君たちはどこにもいなくて、行方はいまだ掴めず。少しは現場で必死に、規格外の勇者様御一行を追いかけている僕の苦労を考えてくれよ?今だって寝不足でホントは辛いんだよ?』

 「そんなことくらい、私も分かっている。お前にかなりハードな任務を頼んでしまったと、今更ながら悪いことをしたと、私だって後悔して、申し訳ない気持ちだ。無理を頼んですまない、スミス。だが、ジョー君たちの監視役を頼める人材は、私にはお前しかいないんだ。他に適当な人材はいない。だからこそだ。一刻も早く、ジョー君たちの行方を掴んで、今回のような事態を引き起こさないよう、彼らがやり過ぎないよう、お前の手で何とか事前に食い止めるんだ。追加の予算は出す。とにかく、とにかく、これ以上、彼らが大事を起こさないよう、もっと穏便に事件を解決するよう、引き止めるんだ。良いな?」

 『了解、ブロン。でも、ジョー君たちを、「黒の勇者」と最強のSランク冒険者パーティー「アウトサイダーズ」を、この僕一人で何とかしろって、ホント、無茶言うなぁ~。女神公認の史上最強最高の勇者様なんだよ、今のジョー君は?ウチに在籍してた時よりも遥かに、正直同じ人間かどうかも疑うくらいに強くなってるんだよ、彼?おまけに、一癖も二癖もある仲間まで付いているし。はぁー。まぁ、ジョー君たちの次の行き先、目的地は見当が付いているし、調査が終わり次第、すぐに向かうとするよ。僕なりにベストは尽くすよ、ブロン。ただ、あまり期待はしないでくれよ。案件が案件だし。」

 「本当に頼むぞ、スミス。ついこの間、違法なエロ写真を買った罪で、ノーザン伯爵が逮捕されて、その件でウチのギルドは伯爵家から目を付けられてしまって大変な時に、今度はよりにもよって、リリア聖教会にまで目を付けられることになったら、ギルドの経営にどれだけ支障が出ることか?王国内だってゴタついていて大変だってのに。」

 『そりゃあ、確かに大変だ。でも、ウチのギルドがなくなったりしたら、王国の治安はますます悪くなることは目に見えている。北部で暴れるモンスターたちを討伐する者はいなくなってしまう。ノーザン伯爵、あのクソ貴族がどうなろうと別にいいじゃないか?僕たちがモンスター討伐への応援を頼んでも、ギルドへの支援金を求めても、あのクソ貴族はいつもこちらの要求を渋って、大体断られてきたじゃあないか?冒険者ギルドを抱える町の領主とは思えない悪辣な男じゃあないか?金にならないと分かれば手を貸さず、賄賂を握らせないと動かない、悪徳貴族の典型じゃないか?どうせ、ノーザン伯爵も伯爵家も落ちぶれていくだけだろうし、領地替えとなる可能性もある。それに比べて、ウチは北部の治安維持に無くてはならない存在、役立たずの伯爵家とは違う、至ってまともな経営をしている冒険者ギルドだ。規模は小さいけれど、仕事は確実丁寧、それに、女神様公認の史上最強最高の勇者様、「黒の勇者」様を輩出した実績まである。民間企業と言えど、ウチはそんじゃそこらの有象無象とはわけが違う。ウチが、インゴット王国冒険者ギルド北支部が潰れたりするようなことになったら、王国はますます大変なことになる。な~に、何か王国なり貴族なり教会なり、ウチに文句を言ってくる輩がいる時は、「黒の勇者」様が僕たちのバックにいることを言ってやればいい。すぐに連中を黙らせることができる。ジョー君のおかげで、実際、ウチの銀行部門はかなり儲かっているんだろ?迷惑はかけられているけど、その分、いや、それ以上にウチは彼のおかげで儲かっているんだからさ。やんちゃな後輩ルーキー君の泥を少し被ってやるのが、僕たち先輩の務めだろ?そうだろ、ブロン?』

 「はぁー。確かに、お前の言う通りではあるが。けどな、矢面に立つのは、結局この私なんだぞ。何だかんだでクレームが行き着く先は、ギルドマスターであるこの私なんだ。ここ最近は頭痛薬が手放せなくて、正直大変なんだよ、私も。私はあくまで一介のギルドマスター、中小企業の経営者に過ぎないんだ。大きな組織の人間と揉め事になるのは嫌なんだよ。これ以上、厄介事を抱え込むことにならないよう、今度こそはジョー君たちを止めてくれ。本当に、本当に頼むぞ、スミス!?」

 『了解。君に倒れられたら僕も困るしね。何とかするよ。ジョー君たちの次の行き先は恐らく、アメジス合衆国だ。あそこには「雷の迷宮」がある。当然、逃亡中の元「槌聖」たち一行も「聖槌」を狙って現れるはずだ。ジョー君たちは元「槌聖」たちを討伐するため、必ずアメジス合衆国に向かうはずだ。これはほぼ100%間違いないはずだよ。追加の調査が終わったら、僕はすぐにアメジス合衆国へ向かうよ。今度こそはジョー君たちに追いついてみせる。待っててくれ、ブロン。それじゃあ、またね。』

 スミスはそう言うと、ブロンとの通信を切った。

 スミスとの通信を終えると、椅子に座り、頬杖を突きながら、ブロンは一人呟く。

 「本当に頼むぞ、スミス。ジョー君たちの活躍のおかげで、何とか暴走する元勇者たちを討伐して、世界が崩壊する危機を回避できている。けれど、彼らが動くたびにいつも必ず、大事になるから困るんだよ。良い意味でも悪い意味でも。時には、まったく予想外の方向で騒ぎが起こるし。最近ますます、彼らが原因の騒ぎはレベルが上がるばかりで、その度に頭痛がひどくなる。もうちょっと穏便に、やり過ぎないでくれると一番助かるんだが。仕方ない。ギルドの経営自体は以前よりも良くなっているんだ。ジョー君たちのおかげで、ギルドの収益も評判も+の増加傾向だ。だけどなぁ~。その分、外からのやっかみが辛いんだよ、ホント。どうか、これ以上騒ぎを起こさないでくれ。頼むよ、ジョー君、アウトサイダーズの諸君。」

 ブロンは執務室で一人、悩みを吐露する。

 だが、そんなブロンの切実な悩みが、頭痛の種が解消されることはなく、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈による、異世界の悪党への復讐は、ますますヒートアップしていくのであった。

 ブロンやスミスの思惑を越え、異世界の悪党たちへ正義と復讐の鉄槌を下すべく、フルスロットルで全てを振り切り、目の前にある障害物を全て薙ぎ払い、情け容赦ない悪党たちへの復讐を続ける主人公なのであった。

 インゴット王国冒険者ギルド北支部ギルドマスター、ブロン・ズドーの悩みは、これからも続いていく。







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