第十話 主人公、「土の迷宮」を攻略する、そして、闇の女神と邂逅する

 僕たち「アウトサイダーズ」がナディア医師率いる皇女派のクーデターに協力し、帝城を制圧、新皇帝サリム・ムハンマド・ズパート率いる皇帝派を一掃したその日。

 新皇帝たちを倒した僕たちは、ズパート帝国の帝城の地下にある移動用の魔法陣を使い、謎の奇病の流行騒ぎを起こした元凶である「聖女」花繰たち一行を追って、「土の迷宮」へと向かった。

 「土の迷宮」の中へと入った「聖女」たちのダンジョン攻略を阻止し、連中へ復讐するため、僕たち「アウトサイダーズ」の六人は、認識阻害幻術を使って姿を消しながらダンジョンの中へと入った。

 「土の迷宮」は、高さ200mもある超巨大ピラミッドの姿をしているが、入り口から入ると、すぐに地下へと続く階段が現れた。

 「聖女」たちのダンジョン攻略に協力するために集められた騎士たちと冒険者たちの横を通りながら、僕たちは階段を下りていく。

 階段を下りると、ダンジョンの第一階層が現れた。

 驚いたことに、第一階層の中は一面、広大な砂漠が広がっていた。

 上空には太陽があり、灼熱の砂漠地帯となっていた。

 「木の迷宮」の時もそうだが、明らかに物理法則を超えた光景が広がっている。

 平均気温40℃を超える猛暑の中、砂漠の下から次々にモンスターが大量に現れ、先行していた騎士たちや冒険者たちを襲っていた。

 出現するモンスターの数がいつもよりかなり多い気がした。

 恐らくだが、ダンジョンに入る人数が多ければ多いほど、その数に比例して出現するモンスターの数が増えるのではないか、そう思った。

 常にモンスターたちが徘徊するダンジョンではあるが、何万、何十万という大勢の人間が足を踏み入れたため、侵入者撃退のために大発生したに違いない。

 僕たちは認識阻害幻術を使って姿形、体温、音、匂い、影などを完全に消しているため、モンスターたちの標的にされることは全くなく、モンスターたちと騎士たちの間を通り抜けながら、先へと進んだ。

 砂の下に罠があると思い、警戒してはいたが落とし穴だけしか罠がなく、おまけに騎士たちや冒険者たちが先に引っかかって落ちていた。

 おかげで罠も気にすることなく、先へと進めた。

 「土の迷宮」の構造は、地下の第一階層から最上階の第八階層まで徐々に階段を上がって上へと進む構造になっていた。

 各階層には、砂漠が広がっていた。

 各階層にいたモンスターたちの構成だが、第一階層がビッグスコーピオン、第二階層がゾンビ、第三階層がサーポパード、第四階層がワーム、第五階層がミノタウロス、第六階層がリッチー、第七階層がキマイラであった。

 砂漠や迷宮に関連するモンスターで構成されていた。

 ちなみに、「聖女」花繰たち一行はリッチーのいる第六階層にいた。

 「聖女」たち一行を発見し、思わず殺しそうになった僕だが、今は先にダンジョンを攻略し、聖盾を破壊して「聖女」の覚醒を妨害することが先決だと思い、グッと我慢した。

 僕以外のメンバーたちも同様で、「聖女」たち一行への怒りと殺意を何とか抑え込みながら、「聖女」たち一行の横を通り過ぎていった。

 「聖女」たち一行だが、Aランクモンスターであるリッチーの大群に苦戦しているようで、他の騎士たちや冒険者たちを盾代わりに、第六階層の入り口付近まで後退している有様であった。

 どうやら増援が来るのを待っているらしい。

 ダンジョンは力押しで攻略できるほど、単純なモノではない。

 Aランクモンスターであるリッチーが大量発生している時点で難易度はSSランクを軽く超えるのだ。

 リッチーとは、Eランクモンスター、ゾンビの進化個体にして最上位種のアンデッドモンスターである。元々は魔術士などの戦闘職のジョブを持った人間の死体がゾンビとなり、それから、長い年月を経て生前の知識や人格を取り戻し、高い知性と膨大な魔力を持つ上、多種多様な魔法攻撃を駆使して攻撃してくる厄介なモンスターである。魔術士の姿の者が多いが、剣士や槍術士、弓術士などもいて、生前からのスキルや技を使って攻撃をしてくることもある。弱点は頭部を完全に破壊する以外にない。全身を木っ端微塵にできるのなら大した脅威ではないが。異世界召喚物の物語やファンタジー系のゲームに頻繁に登場するモンスターでもある。

 だが、「聖女」たち一行の実力ではリッチーの大群を相手にするのは無理だろう。

 ダンジョンを攻略できるほどの実力もない上に、Aランク以下の騎士たちと冒険者たちを集めて大勢で攻めたところで、返って大人数が攻略の邪魔になることが分からないとは、「聖女」たちの考えはいくら何でも甘すぎる。

 せめてS級冒険者になった上で、モンスターたちとの戦闘を最小限に抑えて少人数で突破するのが定石である。

 単純な物量作戦で他の騎士たちや冒険者たちに頼りっきりの「聖女」たち一行の情けない姿を見て、呆れる僕であった。

 何事もなく、無事に第七階層まで突破した僕たち六人は、最終階層である第八階層へとついに辿り着いた。

 階段を上がると、広大な砂漠が目の前に広がっていた。

 そして、広大な砂漠の真ん中に、オレンジ色の台座に載せられた、オレンジ色の丸い盾が見えた。

 間違いなく、オレンジ色の丸い盾こそ、本物の聖盾である。

 その聖盾を守るように、聖盾の後ろには巨大なドラゴンの姿があった。

 全長50mほどで、長い首と長い尾を持ち、ブラキオサウルスのような姿をしている。全身はオレンジ色の鱗で覆われ、太い四本の足を持ち、頭部はドラゴンという姿をしている。

 オレンジ色のドラゴンは炎天下の砂漠にいるにも関わらず、平然とした様子で「ゴォー。」といういびきをかいて眠っていた。

 玉藻に頼んで認識阻害幻術を解除してもらうと、僕はゆっくりとオレンジ色のドラゴンに近づき、声をかけた。

 「お昼寝中、すみません。僕の名前は宮古野 丈、冒険者です。ホーリードラゴンたちより、聖盾を破壊してあなたをこのダンジョンから解放してほしいとの依頼を受けてやって参りました。僕の話を聞いていただけますか?」

 オレンジ色のドラゴンがゆっくりと目を開け、オレンジ色の瞳で僕をじっくりと見つめてきた。

 『フワァァァー。今、ホーリードラゴンと言ったか?久しぶりにその名前を聞いたな。聖盾を破壊して我をこのダンジョンから解放してくれるとも言ったな。聖盾を破壊してもらえるなら助かるが、お前たちは勇者ではなく冒険者だそうだが、まさか盗賊ではあるまいな?聖盾を手に入れて悪用されでもされたら、リリアの奴はともかく、あの御方や他の人間たちに面目が立たん。お前たちがホーリードラゴンから依頼を受けた証となる物を持っているなら信じよう。』

 僕は腰のアイテムポーチから「光竜の石」、「火竜の石」、「木竜の石」の三つの宝石を取り出すと、掲げて見せた。

 「この三つの石は、ホーリードラゴン、ファイアードラゴン、ウッドドラゴンの御三方から、ダンジョンから解放してくれた御礼にといただいた品です。こちらが証拠にはなりませんか?」

 三つの石を見て、オレンジ色のドラゴンは驚いた。

 『おおっ、「光竜の石」に「火竜の石」、それに「木竜の石」まで持っているとは驚いた。頑固者のホーリードラゴンに、お調子者のファイアードラゴン、最長老のウッドドラゴン、あの三匹が石を渡したということは、間違いなくお前たちは我ら竜王にとって信頼できる人物である確かな証だ。最長老までお認めになるとは大したものだ。お前たちを信じよう。我が名はグランドドラゴン。土竜とも呼ばれている。そうか。ついにこの狭っ苦しいダンジョンから解放してもらえる日が来たか。ここまで辿り着いた勇者たちに何度、リリアに騙されて聖盾を守るよう強制されダンジョンに閉じ込められたことを説明しても、誰も我の話を信じようとはしてくれなかった。人間を守るために邪悪な魔族を殲滅しなければならない、などというリリアの作り話を信じる阿保の相手を毎回させられて、うんざりしていたところだ。おっと、つい長話になった。冒険者よ、遠慮なくその忌まわしい盾を破壊してくれ。そして、我をこのダンジョンから解放してくれ。』

 「分かりました。では、遠慮なく破壊させていただきます。」

 僕は聖盾へ近づくと、右手に霊能力を込め、右手に霊能力を纏った。

 聖盾目がけて、右の拳を思いっきり振り下ろした。

 「霊拳!」

 僕の振り下ろした拳が直撃すると、パリーンという音を立てながら、聖盾は跡形もなく粉々に砕け散った。

 聖盾が破壊された瞬間、上空にあった太陽が消え、足元に広がっていた砂漠も消えて失くなった。

 薄暗い石壁に覆われた空間が僕たちの周りに広がっていた。

 聖盾が破壊され、ダンジョンが機能を失ったのを見て、グランドドラゴンは喜んだ。

 『ありがとう。これでようやく晴れて我は自由の身だ。これは我からお前たちへの礼だ。受け取るがいい。』

 グランドドラゴンはそう言うと、グランドドラゴンの額からオレンジ色に光り輝く石が現れ、フワフワと空中を浮かんで、僕の目の前にやってきた。

 『それは我からの感謝の証だ。その石は「土竜の石」と言って、念じればいつでも我を召喚することができる。もし、何か困ったことがあれば、その石を使っていつでも我を呼ぶがいい。いつでもお前たちに力を貸そう。さぁ、受け取れ。』

 「ありがとうございます。では、頂戴します。」

 僕は「土竜の石」を受け取ると、腰のアイテムポーチへとしまった。

 『冒険者たちよ。我からもお前たちに頼もう。我と同じ他の竜王たちをダンジョンから解放してほしい。お前たちならきっと全てのダンジョンを攻略できるだろう。最後に黒き冒険者よ、今一度名前を聞いても良いか?』

 「宮古野 丈。ジョーと呼んでください。」

 『ジョーだな。しかとその名前、おぼえたぞ。しかし、勇者でもなき者がダンジョンを攻略し、我らを解放する日が来るとは思ってもいなかったな。んっ?いや、そうか、あの御方がお前たちをここまでお導きくださったのだ。ジョーとやら、お前、もしや「黒の勇者」と呼ばれる冒険者ではないのか?』

 グランドドラゴンから「黒の勇者」というあだ名を呼ばれ、僕も仲間たちも皆、驚いた。

 「確かに僕は「黒の勇者」というあだ名で呼ばれています。でも、どうしてあなたが僕のあだ名を知っているのですか?あの御方とあなたが呼んでいる人物があなたに教えたのですか?」

 僕の質問に、グランドドラゴンは答えた。

 『やはり、そうであったか。いかん、あの御方からお前の話を時折聞いてはいたが、お前に会っても知らないフリをしていろと言われていたんだった。うっかり忘れておった。ジョー、とある御方がこの先でずっとお前が来るのを待っている。我の後ろに、さらに上の階へと上がる階段がある。階段を上がったその先に、あの御方がお前を待っている。あの御方は偉大なる我らの指導者にして、全知全能の御方だ。お前にとって心強い味方となろう。ジョー、そして、その仲間たちよ、本当に感謝する。それでは、我はこれにて失礼する。』

 グランドドラゴンは最後にそう言い残すと、体を起こし、その巨体でダンジョンの壁を突き破り、去っていった。

 グランドドラゴンが去った後、奥に上の階へと続く階段が見えた。

 「土の迷宮」には第九階層があったのだ。

 そして、あの御方と呼ばれる人物が僕を待っていると、グランドドラゴンは言った。

 ダンジョンを攻略するたびに竜王たちが言っていた「あの御方」なる人物とようやく会えるというわけか。

 「あの御方か。ダンジョンを攻略するたびに竜王たちは、いつもその言葉を口にしていた。僕がダンジョンを攻略できたのもあの御方の御導きだとも言っていた。竜王たちが畏敬の念を込めて呼ぶほどの存在が、あの階段の向こうにいるというわけか。」

 僕の呟きに、玉藻たちが反応した。

 「竜王たちが指導者とも全知全能とも呼ぶほどの力の持ち主となると、少なくともSSランク以上、いえ、ランクで表せないほどの力を持っている人物かもしれません。そもそも、人間であるかどうかも分かりません。丈様にとって味方になり得る方だそうですが、迂闊に接触するのは危険ではないでしょうか?なぜ、丈様に味方をするのか、その人物の目的や正体も不確かなままです。せめて、その人物の正体を掴んだ上で後日、接触をするのが賢明かと考えます。相手は丈様の情報を握っているようですが、こちらは全く相手の情報を持っておりません。第九階層があるダンジョンもわたくしたちにとって初めてのことです。目的の一つである聖盾は破壊いたしました。ここは引き返し、「聖女」たちを倒すことに専念されるべきと提案させていただきます。」

 「俺も玉藻の意見に賛成だ。竜王どもが信頼している相手ではあるが、俺たちの味方かどうかは分からねえ。俺たちを自分の目的のために利用する腹積もりかもしれねえぜ。丈や俺たちをここまで導いたかもしれねえとも竜王どもは言っていたが、そもそも俺たちがダンジョンを攻略しようと決めたのは、俺たちの意思で決めたことだぜ?丈はクソ勇者どもに復讐するためにダンジョンの攻略を始めた。俺たちは丈の復讐を手伝うことを決めた。正体不明のあの御方とやらに指図を受けたおぼえはねえ。得体の知れねえ相手にお前を会わせるのは反対だ。」

 「私も同感。あの御方なる人物の正体も目的も一切不明。それに、あの御方なる人物は丈君のことを知っている上に、女神が作ったこのダンジョンを自由に出入りできる可能性がある。ダンジョンを自由に出入りできる場合、あの勇者の皮を被った害虫以下の悪党たちに勇者のジョブとスキルを与えて、丈君には何の加護も与えなかったクソ女神の関係者である可能性が大。そんな危険な奴と丈君を会わせるわけにはいかない。ここは会わずにスルーして、さっさと「聖女」たちを始末しに行くべき。」

 「我は初めてダンジョンに入った上、竜王と名乗る存在にも初めて会ったため判断に迷うところではあるが、全知全能の力を持つ正体不明の人物と会うのは少々危険ではないかと思うぞ?我はジョー殿から光の女神リリアが行ってきた悪行の数々を聞いてきたし、先ほどもグランドドラゴンが女神に対して恨み言を言っているのをこの耳でしかと聞いた。故に、鵺殿も言っていたように、もし、相手が光の女神リリアの関係者であった場合、実は我らを欺き、我らの命を奪うために女神が遣わした暗殺者の可能性もあるかもしれん。そうでなくても、目的のためにいずれ我らを裏切り、襲いかかってくるやもしれん。我もあの御方なる人物との接触は控えるべきではないかと思う。」

 「アタシもあの御方とやらとジョーが会うのは反対だ。前は確かに女神のことを良い神様だと信じていたがよ、世界中で暴れ回る悪人どもを勇者に選んだり、ダンジョンに竜王たちを騙して閉じ込めたりと、やっていることは全部、キチガイの悪党のすることで、すっかり信じる気が失せたぜ。あの御方とやらが女神と関わりがある奴かもしれねえなら、少なくともアタシは信用できねえ。アタシらの行動を監視して先回りしているところがどうも気に入らねえ。何て言うかよ、胡散臭ええ感じがするじゃんよ。」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイの五人は、僕とあの御方なる存在が会うことに反対であった。

 「竜王たちの言葉を疑うわけじゃあないが、みんなが言うように、正体も目的も不明、全知全能なんて呼ばれるほどの未知数の相手と会うのは、確かにリスクがある。僕が聖武器を破壊して回っていることに気が付いた女神の差し金かもしれない。ここは正体を掴むまで接触しないでおこう。敵だと分かったら、会わずにスルーするとしよう。」

 僕があの御方とは会わずに引き返そうとすると、急に頭の中に声が響いてきた。

 『待て!待たぬか!妾は決してそなたの敵ではない!リリアの手先でもない!妾はそなたの味方だ!大ファンだ!ずっとずっとそなたと会える日を待ちわびていたのだ!帰ろうとするではない!とにかく、妾の下にすぐ来るのだ!』

 「みんな、誰かが何か僕たちに話しかけてこないか?」

 僕が訊ねると、玉藻たちは皆、首を傾げた。

 「いえ、私たちには誰の声も聞こえませんが?」

 「おかしいな?確かに今、聞きなれない女性の声で僕を引き留める声が聞こえたんだけど、気のせいかな?」

 『気のせいではない。妾は今、そなたの頭の中に話しかけておる。他の連中には妾の声は聞こえておらん。グランドドラゴン、あのうっかり者めが。せっかく、妾がそなたと劇的な出会いを果たすシチュエーションを計画しておったのに、余計なことを言いおって。おかげで妾は一生、そなたと出会ずじまいに終わるところであった。「黒の勇者」、いや、ミヤコノ・ジョーよ。妾は光の女神リリアによって封印されし存在だ。そして、リリアの破滅を望む同士でもある。妾はずっと陰ながらそなたを見守ってきたのだ。妾の力が加われば、そなたはきっとリリアを打ち倒すことができる。どうか、妾を信じ、妾の封印を解いてくれ。頼む、「黒の勇者」よ。』

 「リリアに封印されたと言ったか?リリアの破滅を望んでいる?お前は一体、何者だ?なぜ、封印されることになった?あのキチガイ女神のリリアでさえ恐れるほど、手の付けられないヤバい奴だから封印されたんじゃないのか?」

 『妾の正体、それは光の女神リリアの天敵だ。リリアは魔族殲滅という狂った思想を抱いていた。妾は真っ向からそれに反対し、あの馬鹿女を抑えつけていた。リリアの奴は魔族殲滅という己の歪んだ計画を実行するため、目障りな妾や竜王たちを騙して封印した。妾は人間と魔族が共に平和に暮らしていた世界を取り戻すことを願っている。リリアのような己の目的のために他者の命や尊厳を踏みにじるような非道な行いは決してしない。封印を解いてくれれば、より詳細な話をしよう。そなたが今いるこの世界、アダマスの真実を教えると約束する。』

 「お前がリリアの天敵か。人間と魔族が共に平和に暮らす世界を取り戻したいと。それに、封印を解けば、この異世界の真実を教えてくれると。なら、取引だ。封印を解く代わりに今ここで先に僕と主従の契約を結んでもらおう。主従契約を結べば、主である僕の命令に従者となったお前は絶対に従わなきゃいけなくなる。お前は決して僕を殺すことはできない。正体がはっきりしないお前の封印を解く以上、僕が責任を持ってお前を暴走しないようコントロールする必要がある。僕の従者になることを誓うなら、お前の封印を解くと約束しよう。」

 『フフフ。この妾を従者にしたいとは、やはり妾の見込んだだけの男だ。良かろう。そなたの従者になることを誓おう。だが、従者になる以上、妾は永遠にそなたから離れぬぞ。妾は約束にはうるさいからな。』

 「じゃあ、取引成立だ。悪いが、主従契約にはお前の名前を知る必要がある。名前を教えてもらえるか?」

 『イヴ。それが妾の名前だ。』

 「イヴだな。覚えた。それじゃあ、早速契約といこうか。」

 僕がイヴと話をしていると、玉藻たちが不思議そうな顔で僕を見てきた。

 「丈様、先ほどからお一人で何を話しておられるのですか?」

 「ああっ。ごめん。いや、ちょっと今、取引をしてたもんで。」

 「と、取引!?一体、誰と、何の取引をしているのですか?まさか、あの御方なる人物とですか?」

 「まぁ、とにかく僕を信じてくれよ。さぁ、始めようか。」

 僕はそう言うと、右手を前に突き出した。

 そして、主従契約の呪文を唱えた。

 「イヴ、契約!」

 次の瞬間、僕の右手が黒い闇に包まれた。

 黒い闇の中で、誰かの手に触れた感触があった。

 『ああっ💛何という禍々しく、そして、猛々しくもある、甘美な力だ!妾を縛りつけるこの感覚が何と心地良いことか!ついに妾の願いが成就する時が来た!』

 何か、イヴと名乗るこの存在は取引だと言ったのに、僕と主従契約を結んだことを妙に喜んでいる様子だった。

 どうも取引をした感じがせず、釈然としない気分の僕であった。

 だが、イヴと主従契約を結んだ僕を見て、玉藻、酒吞、鵺の三人が血相を変えて僕に語りかけてきた。

 「丈様、今、誰と主従契約を結んだのですか!?まさか、あの御方なる輩と結んだのですか!?得体のしれない、顔さえ知らない相手と主従契約を結ぶなど、一体何を考えているのですか!?」

 「丈、お前正気か!?主従契約ってのは一生ものなんだぞ!?一度契約したら、死ぬまで一緒にいなきゃいけねえんだぞ!?あの御方とか言う怪しげな奴とホイホイ契約するなんて馬鹿かお前は!?とんでもなく危ない奴だったら大変なことになるぞ!?分かってるのか、おい!?」

 「丈君、あの御方は邪悪な女神の関係者かもしれない危険人物!正体も目的も不明、力も未知数なんて相手と主従契約を結ぶなんて、危険極まりない!今見た主従契約は普通じゃなかった!禍々しい力を感じた!すぐにでも縁を切るべき!あの御方とか言う奴は殺して一刻も早く契約を解消すべき!」

 玉藻たち三人に激しく詰め寄られたが、僕はこう答えた。

 「落ち着いて三人とも。確かに彼女は、イヴは得体の知れないところがある。だけど、イヴは自分のことをリリアとは敵対関係にあると言った。人間と魔族が共に平和に暮らせていた世界を取り戻したい、リリアの非道な行いは許せない、そう僕に言ったんだ。それに、彼女はこの異世界アダマスの真実を教えてくれるとも言った。封印を解く代わりに僕の従者になることをすんなりと約束した。イヴは僕たちが今後、女神や勇者たちと戦う上で戦力になると思った。彼女が女神リリアを倒す重要な鍵を握っている可能性がある。もし、イヴが暴走しそうになった時は僕が主として彼女を止める。得体のしれない相手だからこそ、主従契約を結ぶ代わりに、彼女の封印を解く取引を持ちかけたんだ。すでにイヴの手綱は僕が握っている。大丈夫。三人が心配するようなことにはならないから。何となくだけど、イヴは僕たちの仲間になってくれる気がするんだ。」

 「丈様がそこまでおっしゃるのでしたら、これ以上、私から口出しすることはいたしません。ですが、そのイヴなる方を本当に信用してよいものか、私は少々不安でございます。」

 「丈が信じるって言うなら、俺もこれ以上、文句を言うつもりはねえ。だが、俺たちに何の断りもなく、勝手に丈と主従契約を結んだ点がどうも気に入らねえ。そのイヴとか言う奴が丈を利用するためにわざと主従契約を結んだじゃねえかと、俺はそう思えて仕方ねえんだ。」

 「丈君、本来主従契約は相手を隷属させるためでなく、主と従者の絆の証として結ぶ崇高なモノ。取引なんかで使うのは良くない。ましてや、顔も知らない相手と結ぶなんてすごく危険なこと。イヴとか名乗る女からは禍々しい力を感じた。邪悪な存在である可能性は否定できない。簡単に気を許してはいけない相手だと思う。今後、私たち以外と主従契約を結ぶなら、事前に私たちに相談をしてからするようにして。分かった?」

 「三人の言うことはごもっともです。これからは主従契約を結ぶ際は必ず三人にも相談して了解をとった上で行うと約束するよ。相談なしに契約をしたりして、本当にすみませんでした。」

 僕は玉藻たち三人に頭を下げた。

 「頭を上げてください。反省なさっているようですから、許してあげましょう。今後は十分、気を付けてくださいね、丈様。」

 「本当にごめんなさい。それで、イヴが第九階層で僕たちが来るのを待っているらしいんだ。一緒に付いてきてもらえるかな?」

 呆れた表情を浮かべる玉藻たち五人とともに、僕はイヴが封印されている第九階層へと向かった。

 第九階層とは言うが、階段を上ると、そこは部屋の一番奥に壁画が描かれた小部屋が一部屋あるだけであった。

 壁画には、右側に黒いドレスを着た黒い髪の女性の立ち姿と、黒い肌の大勢の人間が女性に向かってひざまずく姿が描かれていた。

 壁画の左側には、白いドレスを着た白い髪の女性の立ち姿と、白い肌の大勢の人間が女性に向かってひざまずく姿が描かれていた。

 壁画以外、特に何もない小さな部屋であった。

 僕たちが壁画をじっと観察していると、また僕の頭の中に声が響いてきた。

 『遅いではないか?何をモタモタとやっていたのだ?妾は約束通り、そなたの従者になった。そなたの所有物になった。さぁ、次はそなたが約束を守る番だ。妾の封印を解いてくれ。この封印の術式が施された壁画をそなたのレイノウリョクとやらで木っ端微塵に破壊してくれるだけでいい。よろしく頼むぞ。』

 「この壁画を粉々に破壊すればいいんだな?分かった。みんな、壁画から離れてくれ。」

 僕はみんなにそう言うと、霊能力を解放し、霊能力のエネルギーを右手に纏った。

 「霊拳!」

 僕は霊能力を纏った右の拳を正面の壁画に向かって真っすぐに突き出した。

 僕の右拳が直撃した瞬間、壁画は粉々に砕け散った。壁画のあった場所には大穴が開いた。

 次の瞬間、壁画のあった場所の穴から急に真っ暗な闇が溢れ出し、僕たちをあっという間に闇が包み込んだ。

 そして、闇の中から、一人の女性が僕たちの前に姿を現した。

 身長は170cmほど。紫色の長いストレートヘアーに、紫色の瞳、雪のように白い肌に、ギリシャ神話風の黒いドレスを着て、黒いハイヒールを履いている、見た目は20代後半ぐらいに見える美しい女性であった。

 闇の中から現れた女性が、僕に向かって話しかけてきた。

 「ようやく会えたな、「黒の勇者」、いや、婿殿。妾はイヴ。闇の女神イヴ。この世界アダマスのもう一人の創造神にして、この世界の闇を司る神である。そして、魔族たちに加護を与え、魔族たちが崇拝する神こそ、妾なのである。さぁ、婿殿、光の女神リリアを討ち滅ぼすため、二人でこの世界の再生を始めようではないか。運命の糸で結ばれた妾たち夫婦が真の女神と勇者となり、リリアによって歪められた世界を正しく救済するのだ。」

 そう言うと、いきなりイヴは僕の体に思いっきり抱き着いてきた。

 抱き着かれたことにも驚いたが、イヴの正体が闇の女神。もう一人の創造神と聞いて、想像以上にスケールの大きい存在であることの方に驚かされた。

 後、僕を婿殿と呼んだり、僕と自分のことを夫婦だとか言ってきたり、情報量の多さに頭がパンクしかけた。

 僕がイヴに抱き着かれて固まっていると、玉藻たち五人が僕とイヴを引き離そうと、僕たち二人の体を掴んできた。

 だが、イヴも負けじと僕の体から離れようとしない。

 「丈様はあなたの夫ではありません!婿殿などと、馴れ馴れしいにもほどがあります!今すぐ丈様から離れなさい!無礼者!」

 「丈から離れろ、この勘違い女!お前と丈が夫婦になることを認めたおぼえはねえ!とっとと離れろ、こらぁ!」

 「丈君はあなたのお婿さんでも恋人でもない!ただの主と従者の関係!まして、闇の女神なんてどう聞いても危ない奴としか聞こえない!早く離れろ、ヤンデレ女!」

 「先輩方の心配通り、碌でもない女が現れた!魔族も恐れる闇の女神などとんでもない!大体、いきなり横から割り込んできておいて、ジョー殿の妻を名乗るなど不届き千万!女神と言えど容赦せん!さっさとジョー殿から離れよ!」

 「やっぱりヤバい女だったじゃねえか!お前みたいな危ない女をジョーに近づけさせるわけねえだろが!勝手にジョーの女房を気取りやがって、女神だからって調子に乗るんじゃねえ!アタシはお前みたいな自己中女が一番嫌いなんだよ!いい加減にジョーから離れろ!」

 玉藻たち五人が僕に抱き着いて離れないイヴに対して怒りを露わにした。

 「女神であるこの妾に喧嘩を売ろうとは身の程知らずな。女神である妾こそ、「黒の勇者」の正妻であって当然であろう?お前たち五人にはこれまで婿殿が世話になった。妾はそんなお前たちの働きを認めてはいる。妾はこれでも心の広い女だ。それに、英雄色を好む、と言うしな。お前たちが婿殿の愛人としてこれからも婿殿の傍にいることは認めよう。この妾に感謝するがいい。」

 イヴが玉藻たち五人を挑発した。

 「わ、私たちが愛人!?何で、後から現れたあなたが正妻で、私たちが愛人にならねばいけないのですか?女神だからなどという意味不明な理由で丈様の正妻を名乗る資格はございません!早く離れなさい、この邪神風情が!」

 「何でお前に丈の正妻の座を渡さなきゃいけねえんだ!?俺たちが全員、正妻で、お前が愛人なら分かるが、どうして俺たちの方が後から出てきたお前より扱いが下にならなきゃなんねえんだよ?一緒に過ごした時間も絆の深さも俺たちの方が上だっての!新入りの分際で生意気だぞ、ごらぁ!」

 「丈君のお嫁さんになる資格があるのは私たちだけ!いきなり現れたあなたが正妻になれるわけがない!ヤンデレストーカー女に丈君の妻にも愛人にもなる資格はない!恋人になるのも無理!いい加減丈君から離れないと、その腕を斬り落とす!」

 「我を愛人呼ばわりするとは何たる侮辱!絶対に許さん!誰を正妻に選ぶのか、その権利はジョー殿にある!ジョー殿の気持ちを無視して勝手に妻を名乗るなど、ジョー殿の迷惑になることが分からんのか!貴様のような傍迷惑な女神にジョー殿の妻になる資格はない!いい加減、分をわきまえて離れよ!」

 「闇の女神が何だってんだ!?後から出てきたお前がジョーの正妻になるだと!?ふざけんな!お前みたいな何考えてるかも分からねえ、自己中丸出しの女がジョーの奥さんになったら絶対、ジョーに迷惑かけまくるに決まってるだろうが!アタシらを愛人呼ばわりして見下すその態度も気に入らねえ!ジョーはお前にだけは絶対に渡さねえ!分かったら、さっさとジョーから離れろ、この淫乱自己中女神!」

 「フン。妾のことを邪神だのヤンデレストーカー女だの淫乱自己中女神だの言っているが、お前たち五人の方がよっぽど迷惑な変態ではないか?我は千里眼を使い、時折婿殿を観察していた。お前たち五人が夜中に婿殿の寝室に忍び込み、婿殿のほっぺたをプニプニして感触を味わっていたことも、婿殿の洗濯物の匂いを嗅いで興奮していたことも全部、知っているぞ。婿殿、この女たちは一見清楚な皮を被っているが、実際はかなり変態チックな趣味の持ち主たちだぞ。ただ遠くから応援しているだけの妾の方がよっぽどピュアな乙女だと思うのだが?」

 イヴからの衝撃発言に、僕はその場でフリーズしてしまった。

 「えっ!?僕の寝室に夜中に忍び込んで僕のほっぺたを触ってた?僕の洗濯物の匂いを嗅いで興奮していた?」

 戸惑う僕に向かって、玉藻たち五人が慌てた様子で反論した。

 「騙されないでください、丈様!その女の話は全てデタラメです!私たちが丈様にいかがわしい行為をするわけがありません!丈様と私たちの仲を引き裂こうとするその女の策略です!決して真に受けないでください!」

 「そ、そうだぜ、丈!?俺たちが夜中にお前の部屋に忍び込んで、ほっぺたをプニプニしたり、お前の洗濯物の匂いを嗅いだりなんて、そんな変態みたいなことするわけねえだろ!おい、こら、この性悪女神、俺たちにあらぬ疑いをかけて丈との仲を引き裂こうとしても無駄だぜ!ざまぁみろ!」

 「丈君、そのヤンデレストーカー女神の言ったことは全部真っ赤な嘘。私たちに変態チックな趣味はない。決して丈君の髪の毛を集めてコレクションなんかにしてはいない。私たちこそピュアな乙女そのもの。」

 「わ、我は決して他人の部屋に忍び込んだり、他人の洗濯物の匂いを嗅いだりといった不埒な真似をすることはない。ジョー殿の妻を名乗ることを我らから咎められ、仕返しにその女神が付いた嘘に過ぎん。我らよりその傍迷惑な女神の言葉を信じるわけあるまいな?」

 「アタシがその淫乱自己中女神の言うような変態みてえな真似をする女なわけねえじゃんよ。おい、この自己中女神、次、ジョーの前でアタシらを変態呼ばわりしてみろ。アタシら全員でお前を半殺しにするからな。分かったな?」

 「そ、そうだよね。みんなが僕にそんないかがわしいことをするわけないよね。つい、取り乱しちゃってごめん。イヴ、質の悪い冗談は止めてくれ。僕はそういう冗談は好きじゃないんだ。後、いい加減離れてくれ。これから「聖女」たちを倒しにいかないといけない。それと、僕を婿殿と呼ぶのは止めてくれ。みんながピリピリするから。」

 「しょうがない。名残惜しいが離れるとしよう。「聖女」たちの始末が残っていたのであったな。だが、妾にとって婿殿は婿殿だ。妾が婿殿の伴侶であることは決して変わらぬ。故に、妾はそなたを婿殿と呼ぶ。これだけは絶対に譲れん。そういうわけだ、末永く頼むぞ、婿殿。」

 イヴはそう言うと、僕に抱き着くのを止めた。

 僕を婿殿と呼ぶことは止める気はないらしく、それを聞いて玉藻たち五人がムッとした表情を浮かべ、イヴの顔を睨んでいた。

 やっぱりみんなに事前に相談してから、イヴと主従契約を結ぶべきだったと、今更ながら反省する僕であった。

 イヴは僕のことを婿殿と呼び、自分のことを僕の妻だと名乗っているが、正直出会ったばかりの彼女のことを、妻とも恋人とも思えない。

 主従契約を結ぶことが神様側の知識というか文化では、主を夫、従者を妻、と呼ぶ慣習があり、人間側との認識の違いから生まれた齟齬であって、イヴ自身に僕への恋愛感情はない、という可能性がある。

 その可能性が高いが、それについてはおいおいイヴに質問をする中で分かることだろう。

 いきなり家族みたいに思っていた仲間の恋人を名乗る人物が目の前に現れ、さらに自分たちのことを愛人呼ばわりしてきたり、見下した態度で接してきたりしたら、誰だって気分を悪くする。

 一方で、イヴは闇の女神である以上、神の威厳を示すため、偉そうな態度をとってくるのは出自の関係もあって多少、仕方がないことだとも思う。

 ともかく、みんなと親睦を深められるよう、何かしらの機会を設けないといけない。

 少人数の顔見知りの飲み会を開くなら、元ぼっちで現役コミュ障の僕にも何とかできる範囲ではあるので頑張るとしよう。

 僕たちは新たに仲間に加わった闇の女神イヴを連れて、第九階層を出て階段を下りていく。

 僕たちはまだダンジョン内にいるであろう、「聖女」たち一行を討伐するため、下の階層に向かって下りていく。

 聖盾が破壊されたことでダンジョンの機能は停止し、太陽も砂漠もモンスターたちも罠も全て失くなり、石壁に囲まれた空間が広がっていた。

 気になったのは、ダンジョン内がやけに暗いことであった。

 僕たちの半径5メートル以内の空間は明るいが、それ以外は真っ暗な闇に覆われていた。

 僕はイヴに訊ねた。

 「イヴ、ダンジョンの中がやけに暗いというか、僕たちの周り以外は真っ暗な闇が広がっているけど、もしかして、君の仕業か?」

 「その通りだ、婿殿。妾は闇の女神。闇を支配し、操る力を持つ。重力と空間を自由自在に操ることが可能なのだ。今、妾たちの周り以外の空間は、妾が重力を操作して光を屈折させることで人工的に闇を生み出したのだ。こうしておけば、ダンジョンの中は一寸先も見えない闇で覆われることになる。婿殿たちが「聖女」たちの討伐に向かうことは分かっていた。婿殿に封印を解いてもらった時点でダンジョン内に闇を発生させた。「聖女」たちがいくら光を灯そうが、妾が重力で全ての光を捻じ曲げるため、闇を照らすことは不可能、というわけだ。妾の闇に捕らわれた時点で「聖女」たちは二度とこのダンジョンから脱出することはできなくなった。今、「聖女」たちは第六階層の中を彷徨っているようだ。光を奪われるだけで人間は一気に無力な生き物へと成り下がる。光を奪われ、暗い闇の中に閉じ込められる恐怖を「聖女」たちは味わっているのだ。「聖女」たちは妾の手で捕えておいた。後は存分に復讐するがいいぞ、婿殿。出来れば、惨たらしい「聖女」たちの死にざまを希望する。」

 イヴは笑っているが、彼女の瞳は冷たかった。

 重力と空間を自由自在に操作する力か。

 重力を利用して光を屈折させ、この広いダンジョンの中に闇という名の牢獄を一瞬で作り出した。

 闇の女神イヴ。彼女の能力は底が知れず、恐怖を感じさせる。

 だが、味方であれば実に心強い限りだ。

 闇の女神イヴとの邂逅を果たし、闇の女神の協力を得て、僕の復讐劇はさらに加速していくこととなった。

 聖盾は破壊した。

 花繰、お前が「聖女」として覚醒する機会は未来永劫失われた。

 イヴの生み出した闇の牢獄に捕らわれ、お前と、お前の仲間たちにもはや逃げ場はない。

 頼みの新皇帝は死んだ。軍隊なんて僕たちには無意味だ。

 僕の処刑に加担し、ズパート帝国では大量殺戮テロ事件まで引き起こしたお前たちを、僕は絶対に許さない。

 お前たち全員、皆殺しだ。

 僕の異世界の悪党たちへのさらなる復讐が、正にこれから始まろうとしていた。
















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