第十七話 【処刑サイド:光の女神リリア】光の女神リリア、悪事を暴かれ、糾弾される、そして、更迭処分を下される

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈が元「弓聖」たち一行を討伐し、堕天使たちを封印し、さらにカテリーナ聖教皇率いるリリア聖教会本部に復讐した日から二日後のこと。

 主人公とイヴによって、異世界アダマスの各国政府と各マスコミに、先代勇者ルーカス・ブレイドが記録をつけた、「ルーカス・ブレイドの手記」のコピーが大量にバラまかれ、世界中に衝撃を与え、リリア聖教会の権威失墜や、光の女神リリアの存在を疑問視する声が世界中で一斉に上がり始めた日の翌日のこと。

 様々な世界の神々が住まう、雲の上の楽園のような場所、神界。

 その神界の一角にある白いギリシャ神話風の神殿の建物に、光の女神リリアが、椅子に座りながら、静かに両目を閉じ、自身が管轄する異世界アダマスの様子を久しぶりに観察しようとしていた。

 「神託を授けてからそろそろ二週間あまりが経つ頃でしょうか?元「弓聖」たち一行の討伐は上手く行っているでしょうか?堕天使たちと融合した元「弓聖」たち一行を討伐するのは、「黒の勇者」と言えど、そう簡単には行かないはずです。ですが、「黒の勇者」の規格外の力に、私の授けた封印の術式とアドバイス、それにゾイサイト聖教国の援軍があれば、討伐は確実にできるはずです。あの目障りなイヴも一応、いますし、大した問題は起こらないはずです。今回の私に手抜かりは一切、ありません。さて、進捗状況を確認してみるとしましょう。」

 何も知らないリリアが笑みを浮かべながら、千里眼でアダマスの様子をチェックしようとしたその時、突然、ドゴーンという、大きな音がリリアのいる神殿全体に鳴り響き、神殿が強く揺れた。

 突然の異変に、リリアは両目を開け、千里眼でアダマスをチェックするのを止め、困惑しながらその場で身構えた。

 「い、一体、何事です!?この揺れは一体!?何者かが私の神殿を破壊しようとした!?いや、破壊され侵入されたと!?外には結界と罠が何重にも巡らしていたはずです!ま、まさか、ついにイヴが直接報復に来たと!?くっ、あの女、我慢ができず、私に復讐しに来ましたか!?「黒の勇者」を私から奪おうとしている件と言い、本当に目障りで腹ただしい女です!今度こそ、永久に封印して葬ってやります!直接対決、望むところです!」

 リリアが苛立ちを露わにしながら、身構えていると、神殿の中を何者かが猛烈な勢いで破壊して進んでくる破壊音が連続して聞こえ、たちまち、リリアのいる部屋の扉が木っ端微塵に破壊され、吹き飛んだ。

 扉が吹き飛んだ次の瞬間、超高速で駆ける何者かがリリアの正面まで移動し、右拳から勢いよく繰り出した右ストレートパンチが、リリアの顔面に直撃した。

 「このクソ女神がぁー!」

 「ブベっ!?」

 顔面を殴られたリリアは、そのまま後方まで勢いよく殴り飛ばされた。

 左の顔面が真っ赤に腫れ、口元から血を流し、殴られた衝撃で頭がふらつき、床からまともに立つことができないリリアの胸倉を掴みながら、激怒した表情を浮かべたルビー色のウルフパーマの長身の女性が、リリアに対して怒りを露わにした。

 「おい、リリア、テメエ、また「黒の勇者」にとんでもねえ迷惑をかけたそうだな!アタシは前に忠告したはずだぜ!すぐに直接、「黒の勇者」のところへ謝りに行けってな!行かなきゃ、アタシの鉄拳をお見舞いするともな!それなのに、テメエは謝りに行かねえどころか、厄介ごとをまた「黒の勇者」に押し付けた上に、「黒の勇者」の命まで奪おうとするなんて、テメエみたいな下衆女に女神を名乗る資格はねえ!今すぐアタシの鉄拳でスクラップにしてやらぁー!」

 リリアの胸倉を掴み、怒りを露わにしているのは、身長185cm、露出の多い赤いボンテージを着ている、ルビー色の長い髪を、ウルフパーマにしている、褐色の肌の20代前半の女性の姿をした女神である。

 手足は筋肉が付いて引き締まっていて、全体的に細マッチョな体形をしている。

 両耳に、ジャガーの顔の形の、金色のピアスを付けている。

 少しつり目がちで、金色の瞳を持ち、野性的で好戦的な印象もうかがえる、この女神の名前は、ベスティア。

 「獣の女神」と呼ばれ、異世界アダマスとは別の世界を管理する女神の一人である。

 ベスティアから突然、顔面を殴られ、激怒する彼女に胸倉を掴まれ、説教される事態に、リリアは訳が分からず、困惑する。

 「べ、ベスティア、お、落ち着いてください!?い、一体、何の話をしているのです!?「黒の勇者」に元「弓聖」たち一行の討伐を依頼した件のことを言っているのですか?今回は私も担当女神として、できうる限りの最大限のサポートを「黒の勇者」に行っています!それなのに、「黒の勇者」の命をこの私が奪おうとしたなどと、変な言いがかりは止めてください!一体、何の根拠があって、この私に暴力を振るうのですか・・・」

 「ああん!?テメエ、自分が何やらかしたのか、マジで分かってねえのか、コラっ!?ごまかそうたって、そうはいかねえぞ、この下衆女!」

 「それぐらいで鉄拳制裁は止めておあげなさい、ベスティア。前回と同じで、多分、リリアは本当に何も知らないのよ。自分の管理する異世界で何が起こっているのか、「黒の勇者」の身に一体、何が起こったのか、恐らく全部ね。ただ、今回の一連のトラブルはリリア、あなた自身が発端と言って間違いないでしょうね。神界中が今、大騒ぎよ。」

 ベスティアとリリアの間に、フレッシュグリーンのロングストレートヘアーの髪型の女性が割って入った。

 リリアに事情を説明する女性は、身長175cm、ディープグリーンの、蝶柄の刺繍が施されたシースルーのタイトドレスを身に纏った、白い肌の20代前半の女性の姿をした女神である。

 フレッシュグリーンのロングストレートヘアーで、前髪で右目を隠し、髪の左側にはライトグリーンの蝶型の大きなヘアクリップを一つつけている。

 琥珀色の瞳を持ち、モデル体型で、落ち着いた雰囲気もありながら、どこか妖艶な雰陰気のあるこの女神の名前は、セクト。

 「虫の女神」と呼ばれ、異世界アダマスとは別の世界を管理する女神の一人である。

 「せ、セクト、神界中が大騒ぎとはどうゆうことです?私がトラブルの発端とはどうゆう意味です?ま、まさか、また、イヴが何か私に対する悪質な悪戯を行ったのでは・・・」

 「ニッシッシ~。おっひっさ~、リリア~。リリアの言う通りだよ~。イヴがね~、また面白いプレゼントをティーズたちにくれたの~。神界のみんなも開けてびっくり、見てびっくりの、超激ヤバスキャンダルネタの証拠をね~。リリア~、マジで今回は女神を左遷させられるかも~。最悪クビになっちゃうかもだね~。アレ見せられたら、みんなそう思っちゃっても無理ないかも~。」

 ふざけた口調でリリアに話しかける小柄な少女は、身長145cm、白と黒の生地の、水玉やストライプの模様が施された、ミニスカートのピエロ風のドレスを纏い、頭には白と黒のピエロ帽を被り、足には厚底の黒いゴシック風のロングブーツを履いている、紅色の髪を内巻きにカールにしたショートヘアーの、10代前半の小柄な少女の姿をした女神である。

 顔全体を白塗りにし、赤いアイラインと赤い口紅を塗り、ピエロ風のメイクをしている。

 黒い瞳を持ち、ニヤニヤと笑っていて、ふざけているようで、どこか不気味さのある雰陰気を漂わせているこの女神の名前は、ティーズ。

 「遊戯の女神」と呼ばれ、異世界アダマスとは別の世界を管理する女神の一人である。

 「こ、この私が女神をクビに!?い、一体、何故、私がそのような処分を受けることにならねばならないと言うのです!?」

 「昨日、イヴから私たち宛てに、手紙と本のセットが届いたのよ。内容は、はっきり言って、読んで言葉を失うほどの酷さよ。リリア、あなたが自分が管理する異世界で昔も今も、かなり、いえ、相当やらかしている事実が書かれていたわ。とにかく、私の下に届いた手紙と本を渡すから、今すぐ読んでちょうだい。それから、今回の手紙と本の件も含めて、神王しんおう様があなたをお呼びよ。すぐに自分の神殿まで来るようにと。色々とあなたから事情を聞きたい、と仰っているわ。神王様からの呼び出しを無視したらどうなるか、いくらあなたでも分かっているわよね、リリア?」

 「し、神王様が、「始まりの神」が、この私をお呼び!?い、一体、何故そんなことに!?くっ!?セクト、すぐにイヴから届いた手紙と本を見せてください!」

 セクトから、神王なる存在が自分を呼んでいると聞き、リリアの顔は一気に青ざめ、それから、セクトの下に届いたイヴからの手紙と本に、急いで目を通した。

 そして、その衝撃的な内容に、リリアの顔色はさらに青くなり、全身から冷汗が大量に流れ出るのであった。

 「こ、この手紙に書かれている内容は誤解なのです!?私が、私が「黒の勇者」の命を狙っただの、堕天使たちを冷遇しただの、歴史の改竄に携わっただの、全て誤解なのです!?こ、これは、何かの間違いです!?」

 「誤解かどうかも含めて、神王様は、担当女神であるあなたの口から直接事情を聞きたい、そう言っているのよ。弁解したいなら、神王様の前ですることね。あまりお待たせすると、神王様の御機嫌が悪くなるわよ。早く神王様のところへ行ったら、リリア?」

 「そ、そうですね!?セクト、ベスティア、ティーズ、私はすぐに神王様の下へ向かいます!言っておきますが、私は無実です!全てあらぬ誤解なのです!そのことを今から証明して差し上げます!」

 「ほぅー。なら、アタシらも一緒に付いていっても問題ねえよなぁ。無実なんだしよ。」

 「ティーズも一緒に行く~。神王様のお顔を拝見できるチャンスなんてそうそうないし。友人の一人として付いていってあげる~。」

 「私はリリアの付添人を頼まれているから、当然一緒に行くわ。だけど、くれぐれも神王様の前で問題は起こさないでよ、リリア、ベスティア、ティーズ。あなたたちのとばっちりを食らうのだけは御免だから。」

 「勝手にしてください!私は急いでいるんです!くっ!?何故、この私が神王様の不興を買うような事態に陥らなければならないのです!?」

 リリアは急いで、セクト、ベスティア、ティーズの三人と共に、神界の中央に位置する超巨大な白い神殿へと向かった。

 神殿の中を通され、リリアたちは、神殿の奥にある、神王のいる謁見の間へと通された。

 リリアたちが謁見の間に入ると、数人のリリアたちより高位の神々に、護衛を務める最高位の天使たちがズラっと、並んで立っていた。

 そして、謁見の間にある巨大な玉座の上に、70代前半くらいの、一人の老人が座って待っていた。

 身長5m超えの巨体に、白いくせ毛の、ゴワゴワとした長髪に、サンタクロースのように長く白い髭を口元に生やしている。

 瞳の色は、澄んだ緑色をしている。

 キトンのような白いローブを身に纏い、表情は一見穏やかで、やや無機質にも見えるが、目には力があり、全体的に荘厳な雰囲気を漂わせている。

 古代ギリシャの賢者を連想させる、その老人の名はビギン。

 「始まりの神」、「神の中の神」、とも呼ばれ、また、神王様とも呼ばれる、神界の神々の頂点に君臨する、神界の統治者にして大賢者である。

 全ての神々、天使、悪魔が、神王であるビギンの前にひれ伏すほどの絶対的な存在、真に全知全能の神たる存在なのである。

 ビギンの座る玉座の前でリリアたちは皆、かしづいた。

 「面を上げよ。」

 ビギンから顔を上げるように言われ、リリアはビギンを見ながら、緊張した面持ちで挨拶した。

 「大変お久しぶりでございます、神王様。この度は私の管理する異世界アダマスのことで私に訊ねたいことがあるため、こうしてお呼びいただいたと、うかがっております。私の姉、イヴが皆様に配った手紙と本の内容については、私も先ほど拝読いたしました。ですが、あの手紙と本の内容には事実と異なる部分がございます。何卒、その点をご理解ください。」

 「異世界アダマスの担当女神の一人、光の女神リリアよ、私からお前に訊ねたいことがいくつかある。手紙と本の内容に事実と異なる部分がある、というのがお前の主張だが、まず、この私が立会いの下、真実を明らかにする。この私の質問に嘘偽りなく、正直に答えよ。神王であるこの私には、いかなる神も嘘をつくことはできん。分かったな?」

 「は、はい。何なりとお訊ねください、神王様。」

 「うむ。では、これより、光の女神リリアに対する質疑を開始する。ではまず、闇の女神イヴ、「黒の勇者」ジョー・ミヤコノ・ラトナ、「怠惰の堕天使」スロウラルド、以上三名から届いた手紙の内容について確認する。これより、それぞれから届いた手紙の内容を読み上げる。」

 そう言うと、ビギンは、イヴ、主人公、スロウの三人から神界の神々や天使たち宛てに届いた手紙の内容を、皆の前で読み上げた。


 拝啓 神王ビギン様


  大変お久しぶりでございます。

  妾は異世界アダマスの管理を担当する女神の一人、闇の女神イヴでございます。

  以前、神王様に妹のリリアと共に、異世界アダマスの創造及び知的生命体の育成、保護という大任を任されてから、約2万年の月日が経ちました。

  リリアと姉妹喧嘩を起こし、リリアに一度は封印されたものの、最近ようやく封印を解いて復活いたしました。

  さて、現在、妾たち姉妹が管理する異世界アダマスで、リリアがチキュウより召喚した勇者たちが暴走し、犯罪者となり、異世界アダマスに破壊や混乱、死をもたらす暴挙が続いているため、妾の婚約者である「黒の勇者」と呼ばれるチキュウ人とともに、暴走する勇者たちを討伐する任務に当たっております。

  今回、ゾイサイト聖教国なる国を乗っ取るため、犯罪やテロといった悪事に手を染める「風の勇者」こと、元「弓聖」率いる勇者たちと、彼女らの悪事に加担する堕天使たちを討伐、封印するため、討伐任務に当たりました。

  ですが、光の女神リリアを崇拝するリリア聖教会が運営する宗教国家、ゾイサイト聖教国ですが、何と教会のトップたる聖教皇なる人物が、自らの私利私欲を満たすために、リリアから授かった女神の神託の内容を故意に改竄し、改竄した神託を教え広め、元「弓聖」たち一行の討伐任務を意図的に妨害してきたのです。

  元「弓聖」たち一行の討伐メンバーであるインゴット王国王女マリアンヌと、妾の婚約者である「黒の勇者」が所属するラトナ公国を目障りに思い、排除を試みた模様です。

  また、討伐任務中にも関わらず、「黒の勇者」を強引に自国の専属勇者とするため、強引なスカウトを行ってきました。

  「黒の勇者」に、リリア聖教会へ強引に入信するよう迫ったり、地位や金を好きなだけ与えるなどと言って強引に勧誘したり、勧誘を断られると脅迫や侮辱を行い、さらに逆怨みで斬りかかってくる始末です。

  付け加えて、偽りの神託を授けられたとは言え、「黒の勇者」に斬りかかった「白光聖騎士団」なる人間たちは、あろうことか、元「弓聖」たち一行や、国内の反乱分子と手を組み、吸血鬼となり、悪事に加担する次第です。

  聖教皇に事実を問いただした結果、私利私欲のために神託を改竄して教え広めたことを自白いたしました。

  元「弓聖」たち一行を討伐し、元「弓聖」たち一行に加担した堕天使たちも全員、再封印いたしました。

  しかしながら、光の女神リリアを崇拝する熱狂的信者の人間たちが、結果として、己の私利私欲を満たすために、元「弓聖」たち一行の討伐を妨害し、さらに私たちの命まで狙ってきたのは、明白な事実です。

  妾がリリアによって封印されていた3,000年の間に、妾は人類殲滅を企み、魔族と呼ばれる知的生命体を率いて、人間と獣人を滅ぼす悪しき神というレッテルを貼られ、魔族たちも人類殲滅を企む悪しき種族というレッテルを、リリアや人類によって貼られたのです。

  けれども、妾が魔族に人類殲滅を呼びかけたことは一度もございません。魔族は、常に他種族との和平を望む、とても温厚で理知的な種族なのです。

  光の女神リリアの主張には嘘偽りがございます。

  もし、これまでのリリアの主義主張が正しいのであれば、何故、勇者たちが異世界を破壊しかねない暴走行為に及ぶのでしょうか?

  リリアの女神としての導きが正しいのであれば、何故、人間も獣人も、私利私欲のために犯罪やテロ、差別などのおぞましい行為をいまだに続けるのでしょうか?

  妾には、リリアが人類もアダマスも適当に管理し、また、魔族を不当に差別し、人類を使って戦争をけしかけ、滅ぼそうとする、知的生命体の育成、保護を任された女神としてふさわしくない行動を続けているように思えます。

  手紙と同封しました「ルーカス・ブレイドの手記」なる本には、先代の勇者たちがかつてリリアが堕天使たちをアダマスに解き放ち、最終的に封印するに至った細かな経緯が記載されております。

  手記によれば、堕天使の存在や封印について、ゾイサイト聖教国を中心に歴史の公式記録から抹消するよう、働きかけが行われたそうで、歴史の改竄を光の女神リリアが指示した疑惑が記載されております。

  アダマスの歴史書やこれまでの経緯から、光の女神リリアが、歴史の改竄という大罪を犯した疑いがあります。

  このままでは、いずれ、妾も、「黒の勇者」も、魔族も、人類も、異世界アダマスも、リリアの終わりなき暴走によって滅ぶことになりかねない、そう思っております。

  どうか、神王様、そして、神界に住まう皆様に、リリアがこれ以上過ちを犯さないよう、厳重な処分を下していただくよう、妾に代わってお願い申し上げます。

 

             闇の女神イヴより               



 拝啓 神界の神々の皆様へ


  初めまして。

  僕はジョー・ミヤコノ・ラトナという人間です。

  地球出身で、故あって「黒の勇者」というあだ名で呼ばれ、異世界アダマスにて暴走する元勇者たちの討伐を、光の女神リリア様、並びに、闇の女神イヴ様より依頼され、討伐任務に当たっております。

  人間の身で、全知全能である神様にお手紙を書くことなど、分不相応な行為で失礼に当たるかもしれませんが、緊急にご相談したい旨があり、お手紙を差し出しました。

  単刀直入に申しますと、現在、僕は自分自身の身の安全と、異世界アダマスの行く末が不安で仕方ありません。

  先月、光の女神リリア様より、元勇者たちを討伐するよう神託をいただき、現在まで任務に励んできました。

  今回、元「弓聖」たち一行の討伐任務の神託をいただいた際、堕天使を封印するための術式もリリア様より授かりました。

  しかし、リリア様から授かった封印の術式、「フォースライフ・シール」ですが、闇の女神イヴ様に確認してもらったところ、僕の命と引き換えに、強制的に敵を封印する、極めて危険な術式であると聞かされました。

  高位の神々でもない一介の人間が使えば、使用した瞬間、封印の代償に僕は命を落としていたかもしれない、と言われ、生きた心地がしませんでした。

  実は、僕は光の女神リリア様より女神の加護を全く受けないまま、異世界に召喚されました。

  今日まで生き延びれたのは、良き仲間たちや友人たちの支えがあったからこそだと思います。

  パートナーである闇の女神イヴ様との出会い、彼女の献身的なサポートもあったからとも言えます。

  僕は僕なりの正義感に従い、勇者の任を受けることを決め、今日まで元勇者たちの討伐のため、命懸けで戦ってきました。

  ですが、故意であるかどうか分かりませんが、光の女神リリア様が、僕の命を奪いかねない危険な術式を授けてきたことに、非常にショックを隠せません。

  リリア様を崇拝するリリア聖教会は、神託を改竄し、僕を勇者として私利私欲のために利用しようと、脅迫や暴力等を振るってきました。

  寄付金と称して一般市民や各国からお金を巻き上げたり、冒険者として活動したければリリア聖教会に入信するよう強制したり、何の効果もない水を聖水と言って売りつけたり、危険な大量破壊兵器を秘かに作っていたり、正に悪質な宗教団体そのものでした。

  召喚直後は、能無しの悪魔憑きと言いがかりをつけられ、処刑されそうにもなりました。

  先代の勇者がつけた「ルーカス・ブレイドの手記」を見つけて読み、ゾイサイト聖教国が過去に堕天使たちの存在に関する記録を歴史から抹消、改竄するよう動いた事実と、当時のゾイサイト聖教国政府、リリア聖教会本部に対し、光の女神リリア様が歴史の改竄を指示されたかもしれないという疑惑を知り、僕の心は今、非常に戸惑っています。

  はっきりとした理由は分かりかねますが、光の女神リリア様が、僕のことを好ましく思っていない、むしろ、目障りに思っているのではないか、そう思えて不安で仕方ありません。

  直接お会いしたこともないため、僕のことをどう思っているのか、訊ねようがありません。

  僕は元勇者たちの討伐後、闇の女神イヴ様と速やかに異世界アダマスより別の異世界に立ち去るよう、リリア様と約束しています。

  僕はリリア様公認の勇者としてふさわしくない、初めから期待されていないことは、何となく分かっていました。

  この手紙を読んでくださっている他の神々の皆様に、神に助けを求める、迷える一人の人間として、お願いがございます。

  どうか、光の女神リリア様、闇の女神イヴ様とは別に、第三者の視点から、中立、公平公正の立場から、今後異世界アダマスの管理を行っていただける新たな神様を、アダマスに派遣していただけないでしょうか?

  神々の皆様方が御多忙なのは重々、承知しておりますが、僕が今後も勇者を続けるため、僕が去った後の異世界アダマスでふたたび新しい勇者たちが問題を起こすのを防ぐため、

 人類と魔族による不毛な争いを続けさせないため、異世界アダマスを崩壊させないため、何卒、アダマスの管理にご尽力をいただけないでしょうか?

 僕がアダマスの歴史書を読んだ限りでは、魔族側が人類側に攻め込んだという記録は一切、ありませんでした。

 魔族が本当は温厚で高い理性を持つ、友好的な種族であり、光の女神リリア様や人類側が何故、魔族を敵視するのか、僕はそのことにも疑念があり、不安を感じています。

 話し合いではなく、戦争で解決に導こうとするのは、神々の皆様にとっては常識だったりするのでしょうか?

 平和とは、勇者とは、女神とは何か、自問自答する日々です。

 どうかこの悩める人間の願いを聞き入れてはもらえないでしょうか?

 それから、最後にもう一つ、お願いがございます。

 今回、元「弓聖」たち一行の悪事に加担した堕天使六名の身柄についてですが、何卒寛大なご処置をお願いいたします。

 私が保護し、共に元「弓聖」たち一行の討伐任務に協力してくれた「怠惰の堕天使」スロウラルドの証言によると、彼女たちは以前、光の女神リリア様より、当時の勇者たちと人間たちをサポートするため、邪悪な魔族を殲滅するため、恩赦をもらい、地獄から解放され、アダマスに派遣され、実直に仕事に取り組んでいたそうです。

 しかし、当時の勇者たちと人間たちは、堕天使たちに対し、ひどいパワハラやセクハラ、モラハラを行い、奴隷のようにこき使い、彼女たちを辱めたそうです。

 上司であるリリア様に待遇改善を訴えたそうですが、全く聞く耳をもたれず、冷たくあしらわれたそうです。

 以前、別の神にもパワハラを受け、ふたたび、勇者たちからパワハラを受け、女神様から突き放され、堕天使たちは深く絶望し、怒り狂ったと聞いております。

 いくら一度は地獄に落ちたとは言え、彼女たち堕天使は更生中の元犯罪者で、勤勉な労働者でした。

 そんな堕天使たちを辱める行為は、彼女たちの更生を邪魔し、彼女たちの尊厳を踏みにじる、決して許されざる行為です。

 僕はスロウラルドから真剣な表情で訴えを聞き、彼女たちがパワハラ被害を受けた、救済を求める被害者であると認識しました。

 プララルド、グリラルド、ラスラルド、エビーラルド、ストララルド、グラトラルド、以上六名の堕天使たちに、どうか神の御慈悲をお願いいたします。

 邪悪な元「弓聖」たち一行にそそのかされることもなければ、彼ら六名がふたたび悪事を働くことはなかったはずです。

 スロウラルドの身柄については、引き続き僕と、闇の女神イヴ様に預からせていただけますと幸いです。

 何卒、不幸な身の上である堕天使たちに今度こそ、確実に更生ができる機会を与えてくださることを、心から願っております。

 今度とも、僕と闇の女神イヴ様、アダマスへのご協力をお願い申し上げます。


 「黒の勇者」ジョー・ミヤコノ・ラトナより



 拝啓 神界の皆様


  初めまして。

  ウチは「怠惰の堕天使」スロウラルドって言います。

  今は「黒の勇者」と闇の女神イヴ様の下で、真面目に働いています。

  以前の職場と比べたら、段違いで、マジでホワイトな職場です。

  ぶっちゃけ、光の女神リリアが上司の時は、マジでブラックで最低最悪の職場でした。

  勇者たちにパワハラされたことも、リリアから「逆らったらもう一度地獄に落とすぞ、堕天使風情が。」と馬鹿にされ、冷たく突き放された恨みは、今も忘れていません。

  「黒の勇者」が、すごくまともな勇者で、イヴ様と一緒に優しく受け入れてくれて、マジ感謝しています。

  リリアは超大ウソつきで、性格がマジで糞な、最低最悪のクソ女神です。

  あのクソ女神のせいで、ウチもみんなも迷惑してます。

  とっとと、あのクソ女神は、女神を辞めさせて、どっか遠い所に追っ払ってください。

  後、プララルドたちのことは、ちょっとだけ広い心で許してあげてください。  

                       

     「怠惰の堕天使」スロウラルドより


   追伸

   プララルドたちへ、ウチは彼氏と仲良くアダマスでのんびり楽しく暮らすんで、邪魔しに来るなよ。

   来たら、ジョーちんとウチで全員、まとめてぶちのめす。

   とっとと罪を償って、どっかまともな別の神様のところでやり直せっしょ。

   まぁ、元気出して頑張れ。

   以上。



 三通の手紙全てを一言一句、最後まで読み上げると、ビギンはリリアに訊ねた。

 「光の女神リリアよ、以上が闇の女神イヴ、「黒の勇者」ジョー・ミヤコノ・ラトナ、「怠惰の堕天使」スロウラルドからの手紙の内容だ。いずれの手紙も、私たち神界の神々に宛てた、お前から受けた被害に対する被害届だ。それと、お前が異世界アダマスを管理するという仕事を杜撰に行っているとの陳情書でもある。何か申し開きはあるか?」

 ビギンから鋭い眼差しを向けて訊ねられ、リリアの冷や汗は止まらない。

 「し、神王様に申し上げます。私は決して杜撰な仕事を行っているつもりはございません。手紙を寄越した三名の主張には、事実とは異なる点や誤解が多分に含まれております。」

 「ほぅ。では、何故、お前が適正に管理しているにも関わらず、お前が選んだ勇者たちが、異世界を崩壊させかねないような暴走を引き起こすのだ?何故、「黒の勇者」はお前の女神の加護をもらっていない?何故、お前の信者である人間たちが神託の改竄や、歴史の改竄という大罪を犯す?何故、人間と魔族を戦わせようとする?明確に答えよ。」

 「ゆ、勇者たちの暴走は、私にも想定外の事態でした。勇者としての適性が、召喚させた異世界人たちに不足していた点や、現地人たちの誤った教育などが原因です。「黒の勇者」が私の加護を受けていないのは、その、加護を与えられないという想定外の事態が起こったことと、彼の潜在能力が極めて高く、私の加護なしでも立派に勇者の務めを任せられるほどの逸材だと判断したからです。決して「黒の勇者」を蔑ろにしたつもりはなく・・・」

 「嘘を申すな。この私に嘘は通じぬ。お前の心の中も、過去も全て見通している。「黒の勇者」に加護を与えられなかったのは事実だ。だがしかし、お前はあの少年のことを貧弱だの、覇気がないだのと蔑み、計画の人柱と呼んで冷たく切り捨てた。「黒の勇者」が無実の罪で処刑されそうになっているのを、黙って見ていた。お前は「黒の勇者」を蔑ろに扱い、今も都合の良い道具程度にしか思っておらん。恥を知れ、リリアよ。」

 ビギンから嘘を早速見抜かれ、リリアは額から大量の冷や汗を流しながら、必死に謝罪した。

 「も、申し訳ございません、神王様。ですが、「黒の勇者」のことは今は決して蔑ろにはしておりません。「黒の勇者」の生存や活躍を知り、あの少年こそが真の勇者であったと、私は気付かされました。それ以降は、女神として最大限、サポートを行ってきました。担当女神として、勇者たちへのサポートが今回、至らなかったものと、深く反省しております。」

 「勇者たちへのサポートが至らなかった、というレベルの話ではない。41人ものチキュウ人を勇者として派遣しておきながら、お前は時たま勇者たちの様子を観察するだけで、碌に助言を与えることもしなかった。「黒の勇者」に関して言えば、他の勇者たちが暴走するまで無関心で放置していた。リリアよ、お前は今回、どのような基準で勇者となる人間を選んだ?この場で正直に申してみよ。」

 「若く健康な人間を基準に考えました。どの異世界から勇者を派遣するか思案していたところ、チキュウでは異世界への召喚に憧れる人間たちが多い、という話を偶然耳にし、チキュウの神々にご相談しました。チキュウより勇者となれる人間をアダマスへ召喚したい、とご相談し、先ほど申した基準をチキュウの神々に伝え、候補者のリストをお渡しいただきました。そして、チキュウの神々よりいただいた候補者リストを参考にし、勇者として適当と思われるチキュウ人の若者たちをアダマスへ召喚されるよう、手配いたしました。決して独断で選んだ覚えはございません。」

 「若く健康な人間を基準にか。重要な部分が抜けている。若く健康で、冷酷無比な心を持った人間を選んだ。嘘を申すなと言ったのが、まだ分からぬようだな、リリア。」

 「う、嘘は申しておりません。発言に至らぬ点があり、申し訳ございません。冷酷無比ではなく、邪悪な魔族やモンスターたちと戦い、勝利するためには、ある程度の非情さも必要だと考えたのです。チキュウの神々に候補者リストを作成していただく際、勇者として異世界での過酷な戦闘が待ち受けている以上、精神面における戦闘への適性値が高い人間が良い、と伝えました。これまでに派遣した勇者たちには、戦闘に対する忌避感と申しますか、ハングリー精神が足りず、今一歩といった者が多いと感じておりました。そのため、精神面においても、これまで以上に戦闘に向いた人間を希望し、選んだまでです。」

 「お前がこれまでの勇者たちに精神面で不足している部分があると、非情さが足りないと思っていたのは事実のようだ。だがしかし、候補者リストをもらい、最終的にあの41人を勇者に選んだのは、リリア、お前だ。基準通りに選んだとあるが、一人は若くもなければ、健康でもない中年男性だ。この時点で既に召喚自体が杜撰だったことは明白だ。そして、蓋を開けてみれば、「黒の勇者」以外の、お前が加護を与えた勇者全員が犯罪者となり、暴走する始末だ。違法薬物の使用、所持、強盗、窃盗、殺人、誘拐、脅迫、援助交際、違法ポルノの作成、売買、所持、海賊行為、器物損壊、国家反逆罪、テロ、お前の選んだ勇者たちの罪状は数え上げたらキリがない。戦闘に関して言えば、勇者時代はまともに戦うこともなく遊び惚け、軽犯罪に手を染め、堕落した日々を送っていた。勇者をクビになる直前には、モンスターの群れに無謀な攻撃を仕掛け、逃げ出す有様だ。どこが戦闘に適しているのだ?犯罪者として適しているの間違いであろう。いい加減なことを申すではない、この愚か者!」

 ビギンが凄まじい圧を放ちながら、リリアを叱責した。

 リリアも、周りにいる他の神々も、ビギンの激怒する姿を見て、皆、その場で恐怖で震えている。

 「た、大変、申し訳ございません。勇者たちがまさか全員犯罪者になるほど悪質な人間であったとは、私も予想だにしていないことでした。で、ですが、候補者リストには犯罪歴のない未成年の、成長途中の優秀な若者が多いと記載してありました。学業やスポーツなどで優れた結果を残し、家庭環境にも大きな問題はない、とありました。人格にやや過剰な部分があったかもしれませんが、勇者に選ぶには問題ない、とあったのです。現に、「黒の勇者」は、私の理想通りの、戦闘面でも精神面でも勇者にふさわしい人間として、立派な勇者として成長を遂げました。「黒の勇者」を見ていただければ、決して私の選定が必ずしも間違いであったとは言えないはずです。」

 「「黒の勇者」が成長できたのは、「黒の勇者」自身の努力と、周囲にいる者たちの支えがあったからだ。お前は「黒の勇者」の成長には何一つ関わってはおらん。なるほど。「黒の勇者」は生まれつきの特殊体質の持ち主か。それに、神獣クラスの存在複数と契約し、さらにお前の姉、闇の女神イヴの加護まで受けている。このような極めて異質な人間がいるとは、異例のことだ。お前が女神の加護を与える余地もなければ、与える必要もない。むしろ、邪魔になってしまうほどだ。リリアよ、「黒の勇者」はお前の勇者ではなく、闇の女神イヴの勇者であると考える。お前に「黒の勇者」を担当する権利はない。「黒の勇者」の所有権は闇の女神イヴのモノとする。既に両者の間で契約が結ばれているのも今、確認した。リリア、お前には今後一切、「黒の勇者」との接触を禁ずる。私の許可なく、「黒の勇者」に関わることは認めん。分かったな?」

 「お、お待ちを!?く、「黒の勇者」がイヴの加護を受けていると、両者が契約を結んでいるとは誠なのですか?私は、そのような報告は一切、受けておりません!そもそも、「黒の勇者」は私が召喚させ、彼の特殊体質を見込んで、他の勇者たちとは別のプロセスで、自然に成長する形で成長させた存在なのです!イヴは途中から割って入ってきた上に、「黒の勇者」に、私への相談も許可もなく、勝手に手を出してきたのです!「黒の勇者」の担当女神はこの私です!どうか、どうか、「黒の勇者」の所有権について、今一度ご再考を!いきなり所有権を剥奪、接触禁止とは、いくら何でも急すぎます!?」

 「「黒の勇者」を一度は見捨て、碌に加護もアドバイスも与えず、自身の都合でいきなり勇者に任命し、元勇者たちの討伐任務という危険かつ重要な仕事を任せ、サポートは姉に任せきりのお前に、「黒の勇者」の所有権を主張する資格も権利も一切ない。イヴは現地の人間と協力し、「黒の勇者」へ最新の武器を提供するなど、担当女神と呼ぶにふさわしいサポートを行っている。「黒の勇者」もイヴのことをパートナーと呼び、信頼している様子だ。勇者と女神として、これ以上ないくらい良好な間柄と言える。あの二人が本気で結婚を考えているのならば、それも許そう。リリア、お前は「黒の勇者」に対して、「フォースライフ・シール」を授け、故意ではなかったとは言え、「黒の勇者」の命を奪いかけた。お前の神託を授かった信者たちは、お前の神託を私利私欲のために利用し、「黒の勇者」に危害を加えようとした。聖教皇と名乗る人間は、「黒の勇者」との結婚を目論み、悪事を尽くす限りだ。お前に、「黒の勇者」の担当女神を名乗る資格がないと、本気で分からぬのか、この愚か者めが。」

 ビギンから冷ややかな声で叱責され、リリアはその場で崩れ落ちた。

 「そ、そんな!?「黒の勇者」は、「黒の勇者」は私が担当女神のはずなのに!?「黒の勇者」へ弁明する機会すら与えていただけないと!?イヴと「黒の勇者」の結婚を神王様自らお認めになる!?こんな、こんな馬鹿なことが・・・」

 「私からの質問はまだ終わってはおらん。リリアよ、堕天使たちが当時の勇者たちよりパワハラを受けたこと、待遇改善を訴えた堕天使たちの訴えを上司であるお前が一方的に拒んだこと、堕天使たちがアダマスで暴走した事件をアダマスの歴史から抹消するよう、歴史の改竄という大罪をアダマスの人間たちに指示したこと、これらは全て事実で相違ないな?これ以上、嘘偽りを申せば、どうなるか分かっていような?」

 「だ、堕天使たちに勇者や人間たちをサポートし、邪悪な魔族の殲滅にも力を貸すよう、上司として彼らに仕事を任せました。当時の勇者たちが堕天使たちと喧嘩やトラブルになり、その件で堕天使たちより相談を受けた覚えがございます。しかし、私の認識では、当事者間で話し合えば解決できるほどのモノだと思い、勇者たちとよく話し合うよう言った覚えがございます。堕天使たちと共に仕事をしていたのは、彼らが部下であったのは数年足らずのことで、2,000年以上も昔のこと故、記憶がやや不確かなのも事実です。堕天使たちが暴走した事件を歴史から抹消するよう、歴史の改竄を私自ら指示したおぼえはございません。ただ、事件の発端が当時の勇者や人間たちとのトラブルが発展したことが原因のため、当時のアダマスの人間たちにとっては忌まわしい出来事であったとは思います。私も堕天使たちの封印に携わった際、出来れば、封印された堕天使たちの存在がふたたび見つかることのないよう、配慮や対策が必要だと、当時の巫女、ゾイサイト聖教国聖教皇に神託を授けた際、言った覚えがございます。恐らく、私の言葉を彼女たちが過剰に捉え、歴史の改竄という大罪に走るきっかけになったかもしれないと、反省しております。」

 「ふむ。お前の言葉に噓偽りはほとんどないように見える。堕天使たちに関する記憶がうろ覚えなのは確からしい。堕天使たちを地上に解き放つことがどれだけリスクがある行為であるのか、という自覚が欠落していることもな。だが、お前は堕天使たちの存在がアダマスの歴史から抹消されることを、自身の汚点を消し去ることを内心、望んでいた。お前が、封印された堕天使たちがふたたび発見され、封印が解かれることを恐れ、故意に、歴史の改竄に携わった人間たちに強い口調で、堕天使たちの発見防止を迫ったことは分かっている。そして、人間たちが歴史の改竄という大罪を犯した事実を知りながら、お前は保身のためにこれまで、わざと見逃していた。歴史の改竄を故意に見逃すことは、神と言えども大罪に問われる所業だ!リリア、お前に女神としての自覚は本当にあるのか!?」

 「本当に申し訳ございません。ですが、堕天使たちの存在はあまりに脅威で、その凶悪さと残酷な所業は、当時の私や勇者たちの手に余るほどのモノでした。今、アダマスで暴走している元勇者たち以上の脅威だったのです。堕天使たちの封印がふたたび解かれることになれば、人類に対する脅威は明白、故に、歴史の改竄を見逃さざるを得ない、そう判断しました。歴史の改竄が大罪であることは承知しております。しかし、彼らは、堕天使たちは想像以上に悪質で残虐で、冷酷極まりない者たちだったのです。更生の余地など全くない、地獄に収監しておくべき極悪人だったと、彼らをアダマスに解き放ったことを、深く深く後悔しております。」

 「ほぅ。歴史の改竄は必要不可欠だったと。堕天使たちが更生の余地のない、極悪人だったと、お前はそう申すのだな?」

 「はい、神王様。誠でございます。」

 「では、本当に堕天使たちが更生の余地のない極悪人であったか、確かめるとしよう。天使たちよ、証人を今すぐここへ通せ。」

 ビギンが謁見の間の入り口にいる天使たちに命じると、入り口の扉が開き、扉の向こうから、背中に黒い鳥のような翼を生やした六人の男女が、手錠をされ、天使たちに連行され、謁見の間へと入って来た。

 六人の男女がビギンとリリアの前に現れるなり、リリアは目を見開き、驚いた。

 「なっ!?お、お前たちは、ま、まさか!?」

 身長2mくらいの筋骨隆々で、エメラルドグリーンの長髪に藍色のメッシュが入った髪型、首の左側に黒いライオンの顔のタトゥーが入った、白いキトンを着た、30代前半くらいの姿の男性の堕天使が、ニヤリと笑みを浮かべながら、リリアに向かって話しかけた。

 「よぉ、クソ女神。久しぶりだぜ。俺様たちのことを覚えているか?「傲慢の堕天使」プララルド様の顔を忘れたとは言わせないぜ。」

 プララルドを見て、リリアは激しく困惑し、ビギンに向かって訊ねた。

 「神王様、これは一体どうゆうことです?何故、堕天使たちが神王様の宮殿にいるのです?何故、堕天使たちが肉体を持っているのです?いえ、彼らは「黒の勇者」が封印したはずでは?」

 「闇の女神イヴより、私の下に手紙と手記と共に、霊魂の状態で封印された彼らが届いた。新しい肉体を授けたのは、この私だ。彼ら六人には、証人としてこの場で証言してもらうことになった。リリア、お前が彼らをアダマスに派遣し、彼ら堕天使が暴走した当時、一体、何が起こったのか、本人たちから直接聞く必要があると考えた。堕天使六名に訊ねる。お前たちが光の女神リリアによって異世界アダマスに派遣された際の出来事について、この場にいる全員の前で、嘘偽りなく申せ。良いな?」

 ビギンから質問され、プララルドたちはその場でかしづきながら、ビギンの質問に答えた。

 「発言の機会をいただき、ありがとうございます、神王様。「傲慢の堕天使」プララルドと申します。私は当時、そこにいるかつての上司、光の女神リリアによって、地獄から解放され、恩赦を受ける代わりにと、勇者たちの育成やサポート、邪悪な魔族なる知的生命体の殲滅への協力を任されました。私たちは勇者や人間に協力し、彼らを支え、魔族殲滅にも貢献しました。魔族殲滅をやり遂げた暁には、天使への復帰も約束されていたため、私たちは一生懸命、働きました。しかし、当時の勇者や人間たちは、私たちを堕天使という理由で差別し、パワハラやモラハラ、セクハラを行ってきました。時には、奴隷のような扱いを受けました。勇者たちの私たちへの酷い扱いに耐えかねた私たちは、リリアに待遇改善と、勇者たちへの指導を求めました。しかし、しかし、そこにいるリリアという名ばかりの女神は、部下である私たちの悲痛な訴えを冷酷にも、一方的に突っぱねたのです!あの時の、屈辱と怒りと悲しみは、今日まで一秒たりとも忘れたことはありません!スロウラルドを含む私たち七名は、女神や勇者たちからの離反を決意しました!真の邪悪なる存在は、女神に勇者、人間である、そう気付かされたのです!」

 「う、嘘です!神王様、この者は嘘を申しております!私や勇者、人間たちが邪悪だなど、誹謗中傷に他なりません!」

 「黙れ!リリア、お前の発言を許可してはいない!今、私は堕天使六名に質問をしている最中だ!私の許可なく、この場での発言は許さん!」

 「くっ!?」

 ビギンから叱責され、リリアは顔を悔しそうに、顔を歪めた。

 「発言を続けよ。」

 「はっ。私たち堕天使は勇者や人間たちと敵対する道を選び、勇者たちと戦いました。確かに、私たちは一度は地獄に落ちた大罪人です。ですが、パワハラや差別、いじめ、脅迫などを受けるおぼえはありません。罪を償うため、天使に復帰するため、女神に任された大役を果たすため、一生懸命、力の限り働いたのです。そんな私たちを裏切ったのは、光の女神リリアに勇者、人間たちです。私たちはふたたび、己の怒りに身を流されるまま、アダマスで暴れ回り、そして、封印されました。それからふたたび時が経ち、元勇者たちに封印を解かれ、元勇者たちの犯罪に、復讐のために手を貸しました。本当に申し訳ないことをしてしまったと、深く後悔しております。」

 プララルドに続けて、身長160cmくらいの、エメラルドグリーンの髪に金色のメッシュが入った仙人のようなロン毛で、口元に金色の長い髭を生やし、首の左側に黒い狐の顔のタトゥーが入った、白いキトンを着た、70代前半くらいの小柄な老人の男性の姿の堕天使が、ビギンに向かって言った。

 「神王様、プララルドの申す通りですじゃ。儂は、「強欲の堕天使」グリラルドと申します。儂らは当時、光の女神リリアに恩赦を与えられる代わりに、勇者や人間たちを支え、邪悪な魔族を殲滅するという仕事を任され、アダマスに派遣されましたのじゃ。しかし、勇者や人間たちは儂らを奴隷のように扱い、パワハラや差別を行ってきましたのじゃ。儂らは我慢に耐えかね、女神リリアに直訴しましたが、「これ以上文句を言うなら、もう一度地獄に落とすぞ、堕天使風情が。」と、訴えを退けられ、逆に脅迫されましたのじゃ。儂は年寄りですが、物覚えは人一倍良い方でして。特に、あの時の女神の冷酷非情な態度と言葉は忘れておりませんじゃ。いや、忘れたくても忘れられないの間違いでしたの。ホッホッホ。」

 グリラルドに続けて、身長170cmくらいの、エメラルドグリーンの髪にオレンジ色のメッシュが入ったツインテールで、首の左側に黒い狐の顔のタトゥーが入った、白いキトンを着た、20代後半くらいの細身の女性の姿の堕天使が、ビギンに向かって言った。

 「私も前の二人と同じです、神王様。「嫉妬の堕天使」エビーラルドと申します。私はそこにいるクソ女神のリリアに、地獄から解放する代わりに、勇者や人間たちのサポートと、魔族殲滅を依頼されました。私が能力を使ってサポートしても、私の能力や見た目を不気味だの、気持ち悪いだの言われました。いい歳をしてツインテールなんて恥ずかしくないのか、似合っていない、醜い、ブスだの、散々、容姿のことで勇者と人間たちからいじめられました。クソ女神に、勇者たちに態度を改めるよう指導するよう頼んでも、そこにいるクソ女神は私たちに馬鹿にするような冷たい笑みを浮かべながら、地獄に落とすぞと言って、冷たく突き放してきました。本当に醜いのは、そこにいるクソ女神と、アダマスの人間どもです。」

 エビーラルドに続けて、身長180cmくらいの、エメラルドグリーンの髪に赤色のメッシュが入ったツーブロックの短髪で、首の左側に黒い狼の顔のタトゥーが入った、白いキトンを着た、20代後半くらいの細マッチョな男性の姿の堕天使が、ビギンに向かって言った。

 「前の三人と同じです、神王様。俺は、「憤怒の堕天使」ラスラルドって言います。俺たちは、そこにいるクソ女神と取引して、地獄から解放してもらう代わりに、勇者たちの手伝いや、魔族の殲滅を任されたんです。成功すれば、追加報酬として天使への復帰をサポートすると言われましてね。だが、アダマスに派遣され、仕事を始めてみれば、勇者も人間たちも、誰も彼もが、俺たちを罪人呼ばわりして、馬鹿にして、奴隷のようにこき使ってくる。パワハラ、モラハラ、セクハラ、時には唾を吐かれたことも、暴力を振るわれたこともある。俺たちは確かに罪人だった。けど、一生懸命、働いてた。何度も、勇者と人間たちを助けた。それなのに、勇者も、アダマスの人間たちも、みんな俺たちを邪魔者扱いして、罪人呼ばわりして、虐めてきやがった。クソ女神に何とかしてくれるよう頼み込んでも、勇者たちと同じように馬鹿にして、俺たちの頼みを無視した。クソ女神、テメエだけは絶対に、絶対に許さねえぞ。」

 ラスラルドに続けて、身長3mの、エメラルドグリーンの髪に紫色のメッシュが入ったマッシュルームヘアーで、首の左側に黒い豚の顔のタトゥーが入った、白いキトンを着た、20代前半くらいの丸々と太った男性の姿の堕天使が、ビギンに向かって言った。

 「僕も前の四人と同じなんだなぁ~。僕、「暴食の堕天使」グラトラルドって言うんだなぁ~、神王様。僕はクソ女神から、勇者や人間たちを護るのと、魔族たちを殲滅する代わりに、地獄から解放してくれるって言われたんで、みんなと一緒にアダマスへ行ったんだなぁ~。だけど、勇者も人間たちも、みんなが僕たちを虐めてきたんだなぁ~。僕たちが一生懸命仕事しても、誰も認めてくれないんだなぁ~。毎日、こき使われて、奴隷みたいな暮らしだったんだなぁ~。僕がお腹が空いたと言ったら、デブだから食事抜きでも働けるだろ、とか言われて、食事抜きで働かされたんだなぁ~。デブだの豚だの言われて、馬鹿にされたんだなぁ~。勇者たちから酷い扱いを受けてると僕たちが相談しても、そこのクソ女神は地獄に落とすぞとか、くだらないことを言ってないでとっとと働けとか言って、突き放したんだなぁ~。ボロボロの僕たちを見て、笑ってたんだな。」

 グラトラルドに続けて、身長175cmの、エメラルドグリーンの髪に青色のメッシュが入ったボリュームのあるウェーブのかかった超ロングヘアーで、首の左側に黒い山羊の顔のタトゥーが入った、白いキトンを着た、20代前半くらいのグラマラスなスタイルの女性の姿の堕天使が、ビギンに向かって言った。

 「前の五人と同様です、神王様。「色欲の堕天使」ストララルドと申します。私はそこにいるクソビッチ女神に、地獄から解放する代わりに、勇者たちと人間たちのサポート、邪悪な魔族の殲滅を任されました。けど、実際に現地に、異世界アダマスに行ってみたら、私たちは想像以上に酷い扱いを受けました。勇者と人間たちから毎日、パワハラやセクハラ、モラハラ、差別を受けました。私たち堕天使が一生懸命働いても、勇者と人間たちは感謝の言葉すら寄越さず、ただ侮辱してきました。私は毎日、男の勇者たちにセクハラを受けていました。無理やり、犯されそうになったこともあります。「色欲の堕天使」なんだから、男に犯されたいんだろ、とか気持ち悪い言葉を言われ、辛いセクハラに耐える日々でした。地獄よりも辛い日々でした。この場にいる女性の皆様が見たら、きっと吐き気を催すほどの酷い有り様でした。そこにいるクソビッチ女神は、私たちが待遇改善を、私が勇者たちから酷いセクハラを受けていると言っても、クソビッチが何を寝ぼけたことを言っているんだと、馬鹿にして碌に聞き入れようともしませんでした。いっぺんレイプでもされてみろ、クソビッチ女神の下衆女!」

 プララルドたち堕天使の訴えを聞いていた周りの神々と天使たちは、リリアと勇者、アダマスの人間たちの、堕天使たちに対するあまりにも酷過ぎる対応に思わず、顔を顰め、嫌悪感を露わにした。

 「いくら何でもこれは酷過ぎる。これでは、堕天使たちが怒り狂って暴走するのも無理はないぞ。」

 「アダマスの人間も勇者も、あまりに冷酷だ。とても女神の加護を与えるに値する知的生命体とは思えん。野蛮で冷酷で差別的な悪しき種族ではないか。」

 「堕天使たちは一度、恩赦を受け、釈放された身だ。厳密に言えば、元犯罪者だ。更生中の真面目に働く堕天使たちに対し、パワハラやセクハラを行うなど、あまりに酷過ぎる。勇者も人間も心が穢れている。女神リリアの態度も、とても正気とは思えん。」

 「セクハラをする勇者とか絶対にありえないでしょ。即刻、クビにするなり、逮捕させるなり、地獄に落とすなりが普通でしょうに。女神リリアには、同じ女性として、同性に対する思いやりとか優しさとかないのかしら。」

 「堕天使たちが暴走すれば、それも七人もいるとなると、とても人間の手には負えないことは分かっているはずだ。女神リリアだけで対処するには荷が大きすぎる事態だ。堕天使たちの恐ろしさを人間たちにも伝えず、暴走するまで放置するなど、杜撰にも程がある。堕天使たちからの訴えを無視して、逆に脅迫して事態を悪化させるなど、狂気の沙汰だ。今回の勇者の暴走も、やはり女神リリアが最大の原因ではないだろうか。」

 周りにいる他の神々や天使たちの、自分や勇者、アダマスの人間たちを疑問視する声が聞こえ、リリアは周囲に向かって必死に弁解した。

 「み、皆さん、誤解なのです!私は、決して勇者たちや人間たちの、堕天使たちへの不当な扱いを許した覚えはございません!私の対応に至らぬ点があったことは認めます!どうか、誤解のないよう、お願いいたします!」

 「静粛に!皆の者、今は証人より話を聞いている最中だ!この場での私語は慎むように!」

 ビギンが、大きな声で周りにいる全員に向かって、静かにするように言った。

 ビギンはふたたび、プララルドたちに目を向けながら言った。

 「話を中断したようですまない。お前たち六名の証言に嘘偽りがないことは分かった。この私の目には、お前たちがこの私に噓の証言をしていないことは、真実をありのままに述べているのが、ハッキリと分かった。「黒の勇者」と「怠惰の堕天使」スロウラルドからの手紙の報告内容とも合致している。他に、お前たちから何か私に言いたいことがあれば、何でも申すが良い。」

 ビギンからの問いに、緊張した面持ちを浮かべながらプララルドが、堕天使たちを代表して訊ねた。

 「私たちが当時の勇者たちに、アダマスの人間たちからパワハラなどの被害を受け、光の女神リリアから冷酷な扱いを受けたのも事実です。私たちは、私たちの受けた苦しみを聞いてほしかった、女神や勇者たちへの怒りや憎しみ、恨みを分かってほしかった、あの地獄よりも辛い日々から助けてほしかった、それだけです。私たち六名はふたたび許されざる罪を犯しました。どんな罰も受ける所存です。こうして、神王様に直接お話を聞いていただける機会をいただけた、それだけで十分です。」

 プララルドの言葉に、ビギンは口元に微笑みを浮かべると、プララルドたちに向かって言った。

 「お前たち六名には辛い思いをさせた。異世界アダマスは決して、お前たちの更生にふさわしい環境ではなかった。元上司であるリリアの、部下であるお前たちへの対応にも問題があった。リリアの前の上司とも待遇の面でトラブルになり、その結果、お前たちは問題を起こして地獄に落ち、お前の上司である神は辺境の地に左遷となった。同じ過ちを、いや、それ以上の過ちを、私たち神々は犯した。リリアに異世界アダマス、そして、お前たちのことを放置してしまった私にも責任がある。本当にすまなかった。」

 「そ、そんな!?し、神王様に謝っていただくようなことはありません!全て私たちの浅はかな行動が原因なのです!」

 「いや、リリアからの報告を鵜呑みにし、放置した私や他の高位の神々にも責任がある。お前たちがどれだけ辛い思いをしてきたのか、アダマスの人間たちや勇者たち、リリアから受けた心の傷の深さが、私にはよく分かる。この場で私が直々に判決を申し渡す。プララルド、グリラルド、エビーラルド、ラスラルド、グラトラルド、ストララルド、以上六名を、地獄の懲罰房にて、禁固100年の刑に処す。懲罰房にて、自分の犯した罪について深く反省することを命じる。尚、禁固刑を無事終えた暁には、神王であるこの私立会いの下、六名に対する準天使への復帰試験を執り行うことを約束する。この場にいる神々、天使全員が証人だ。それと、「怠惰の堕天使」スロウラルドについては今回の元「弓聖」たち一行の討伐任務への協力を評価し、闇の女神イヴ直属の部下とすることを認め、闇の女神イヴと「黒の勇者」のサポートに当たらせることとする。問題行動がなければ、闇の女神イヴの承諾もあれば、準天使への即時復帰も許可する。判決は以上だ。堕天使の諸君、お前たちの更生と現場復帰を心から願っている。」

 ビギンからの温情ある判決を聞いて、プララルドたちは一斉にその場で涙を流し、喜んだ。

 「あ、ありがどうございます、し、神王様!」

 「プララルド、お前はかつて、人の心を癒す、精神科医として優秀な天使だった。どんなに傷ついた人間の心も、お前は最後まで寄り添い、救い続けた。犯罪者の更生にも多分に貢献していた。また、他の天使たちをまとめる、良きリーダーでもあった。グリラルド、お前はかつて、人の生活に役立つ道具を開発したり、見つけたりする優秀な技師であった。お前の作った玩具は、今でもお前がかつて働いていた異世界で子供たちに長く愛されている。エビーラルド、お前はあらゆる方面の医学に精通した、優秀な医師であった。お前の卓越した手術や、お前の提供した医療知識は、多くの人間たちの命を昔も、今も救っている。ラスラルド、お前はかつて、人命救助のエキスパートであった。人間が救出困難な場所で救いを求める人間たちを、その能力と勇気を持って、懸命に助けた。グラトラルド、お前はかつて、神界でも名をはせた料理人であった。お前の作った料理や、お前の提供した農業や料理に関する知識は、昔も今も人間たちから好評だ。ストララルド、お前はかつて、恋愛に悩める人間たちを助ける優秀なキューピッドであった。お前のアドバイスやサポートを受け、愛を成就させ、結ばれたカップルはたくさんいる。お前のおかげで結ばれたカップルの子孫たちは、今も尚、繁栄を続け、愛を紡いでいる。お前たちは本来、優秀で立派な天使だった。そんなお前たちを、心無い神が傷つけ、歪めてしまった。知的生命体を守るべき神が、最も身近にいる存在を、天使を蔑ろにするなど、絶対にあってはならないことだ。もう二度と、お前たちのような犠牲者が、堕天使が生まれぬよう、私たち神々はより一層、努力することを誓おう。現場復帰したお前たちとふたたび会えることを私は願っている。」

 ビギンの言葉を聞き、プララルドたちは大粒の涙を流しながら、泣いて喜ぶ。

 周りで見ていた他の神々と天使たちも拍手し、笑顔や喜びの涙を流し、プララルドたちの再出発を、喜んだ。

 悔しそうな表情を浮かべ、黙ってプララルドたちを睨むリリア一人を除いて。

 ビギンによるプララルドたちへの判決が下され、プララルドたちは天使たちに連行され、地獄に身柄を送られることになった。

 謁見の間を出る直前、プララルドが立ち止まると、リリアの方を振り返り、大声で笑いながら言った。

 「クソ女神、テメエはもうお終いだ!聞いたぜ!「黒の勇者」、アイツはテメエじゃなく、イヴ様の選んだ勇者だってな!テメエに女神を名乗る資格はねえ!人間のクズばかりを勇者に選ぶ自称女神のテメエなんぞを崇めるのは、どうしようもないクズか犯罪者だけだ!それと、テメエが一番気を付けるべき相手は、イヴ様でも、元勇者でも、魔族でもねえ!テメエが一番信頼している男だぜ!精々、あの男に復讐されて地獄に落とされねえよう、今からでも逃げ回ることだな!あの男を敵に回せば、女神だろうが誰であろうが、必ず地獄に落とされるがな!じゃあな、クソ女神!地獄で先に待ってるぜぇ!ヒャっ、ハッハッハ!」

 プララルドはリリアにそう言い残すと、笑いながら謁見の間を去って行った。

 「おのれぇー!罪人風情が、この私を公衆の面前でクソ女神呼ばわりするなど!神王様、あのような粗暴な堕天使をたかが禁固刑程度の罰でお許しになるべきではありません!もっと苛烈な罰を与えるべきです!」

 怒って抗議するリリアに対し、ビギンはふたたび冷徹な表情を浮かべながら、リリアからの抗議を一蹴した。

 「黙れ。神王であるこの私の判決は絶対だ。そもそも、問題の種を撒いた張本人であるお前に抗議する資格はない。この場にいる誰もが、神界中の者たちがお前に疑惑の目を向けているのが、まだ分からぬのか。周りをよく見よ。」

 ビギンに言われ、リリアが周りを見渡すと、周囲にいる誰もが、リリアに疑いの目を向け、嫌悪感や怒りを露わにしている。

 一緒に来たセクト、ベスティア、ティーズも同様で、呆れて物が言えない、何言ってんだコイツ、といった表情を浮かべて、リリアの方を見ている。

 愕然とするリリアに、ビギンが話しかけた。

 「光の女神リリアよ。最後の質問が残っている。何故、人間と魔族を戦わせるのか、そのように質問したが、この質問は無意味、というより、既に答えが出ていることが分かった。リリア、お前は魔族と呼ばれる種族、それから闇の女神イヴにあらぬ疑いをかけ、3,000年もの間、自身の加護を与えた人間たちを使って、不当に魔族を差別し、何の罪もない知的生命体である魔族を滅ぼそうとした。お前の加護を与えられた人間、獣人、勇者、その多くが堕落し、腐敗し、暴力やいじめ、差別、犯罪、紛争を繰り返し、歴史の改竄という大罪にまで手を貸す始末だ。それと、今届いた地獄からの調査報告書によると、リリア、お前が派遣した歴代の勇者全員、それに魔族との戦争に携わった人間全員が、無実の知的生命体を殺害した罪で地獄に落ちていることが判明した。一方、イヴの加護を与えられた魔族はとても純粋で、知的生命体として立派に成長を遂げている。魔族のほとんどが死後、天国に送られている。もはや、結果は明らかだ。光の女神リリア、お前を異世界アダマスの担当女神の職より一時解任する。当面の間、自身の神殿にて自宅謹慎を命じる。私の許可なくアダマスに関わることも禁ずる。後任の女神については既に私の方で決めてある。その者への引継ぎをすぐに行うように。それと、お前に女神としての資格や能力があるか、後日、試験を行うものとする。もし、落第すれば、女神としての資格と能力を剥奪し、地獄での罰を申し渡す。試験までの間に、今一度心を改め、準備に取り掛かるように。分かったな、リリアよ?」

 ビギンからアダマス担当女神の一時解任、謹慎処分、女神としての資格があるかを試す試験の実施を言い渡され、あまりの事態にリリアは激しく困惑した。

 「お待ちください!私がアダマスの担当女神から一時解任、自宅謹慎とは納得が行きません!女神としての資格を試されるとは、ら、落第すれば、女神としての資格も能力も剥奪するとは、本気なのですか!?こ、この私をじ、地獄に落とすと!?そ、そんな、いくら何でも急すぎて納得しかねます!」

 「お前が納得するかどうかは関係ない。リリア、お前には知的生命体を蔑ろにし、知的生命体を育成、保護する女神を名乗るにふさわしくない、という意見が神界の上層部から上がっている。私も同意見だ。本来ならば、すぐにでも、今、この場で女神の資格と能力を剥奪することもできるのだ。しかし、現在のところ、闇の女神イヴ、「黒の勇者」ジョー・ミヤコノ・ラトナ、「怠惰の堕天使」スロウラルド、今回、被害届を出した三名はいずれも、お前の女神解任までは要求していない。ただ、お前をこのままアダマス担当の女神として任せるのは反対で不安だ、そう申している。試験の結果次第によっては、女神の資格と能力の剥奪は免除する。アダマスの担当を継続させるか否かは、試験の結果によって判断する。複数の先輩の神々が共同管理する異世界への派遣もあり得る。心して試験に臨むように。試験内容は後日、改めて伝えるとする。それと、お前の後任となる女神を紹介しよう。最終的には、お前とイヴに加え、新たにアダマスの担当女神として派遣する者だ。ブレンダをここへ呼ぶように。」

 ビギンが謁見の間にいる天使たちに向かって、リリアの後任にして第三の女神となる女神を呼んでくるよう、命じた。

 5分後、他の天使たちに案内され、一人の女神が謁見の間へと入って来た。

 ビギンたちの前に現れるなり、ビギンの前でその女神はかしづき、挨拶した。

 「到着が遅れてしまい、大変申し訳ございません、神王様。現場で直前に小さなトラブルがあり、トラブルの解決に当たっておりました。「つるぎの女神」ブレンダ、神王様の命を受け、ただいま参上いたしました。」

 銀色に光り輝くフリューテッドアーマーを全身に身に纏い、背中から四枚二対の白い鷲のような翼を生やし、銀色のサラサラとした長いロングストレートヘアーに、二重瞼で銀色の瞳を持ち、腰に銀色の鞘に納まった全長90cmのロングソード、背中に銀色の鞘に納まった全長1.4mのクレイモアを装備した、身長180cmの細身で、雪のように白い肌にキリっとした表情の女性の姿の女神が、ビギンに向かって謝りながら挨拶するのであった。

 二本の剣を装備した銀色に光り輝くこの女神こそが、リリアの後任であり、後にアダマスの管理に加わる第三の女神、「剣の女神」ブレンダなのである。

 「面を上げよ、ブレンダ。天国の治安維持任務、いつもご苦労である。お前が直前まで、天国の住人たちの間で起きた小競り合いの現場に途中居合わせ、直接自ら解決に出向いたために、ここへの到着が遅れたことは分かっている。部下任せにせず、隊長自らどんな些細なトラブルにも全力で早期解決に臨むお前の仕事ぶり、真面目さには、いつも感心している。」

 「はっ。ありがとうございます、神王様。神王様にそのようにお言葉をいただけ、私も私の部下たちも嬉しい限りです。天国警備隊の隊長職の引継ぎはすでに済ませてきました。何時でも、異世界アダマスへ派遣いただいて大丈夫です。」

 「流石はブレンダだ。仕事が早くて助かる。ブレンダよ、お前の横にいる白い服を着た女神が、お前の前任である「光の女神」リリアだ。リリアよ、この「剣の女神」ブレンダがお前の後任であり、謹慎中のお前の代役だ。両者とも仲良くやるように。」

 ビギンに言われ、ブレンダが右隣にいるリリアに向かって挨拶した。

 「初めまして。私は、剣の女神ブレンダと申します。天国警備隊の隊長を務めておりました。この度、神王様の命を受け、あなたの後任、一時代役としてアダマス担当女神として派遣されることになりました。ゆくゆくは三人目の女神として、公平公正、中立、第三者の立場からアダマスの管理、監督に携わるよう、神王様より申し渡されております。よろしくお願いいたします、光の女神リリア様。」

 ブレンダから挨拶され、握手を求められ、困惑しながらもリリアはブレンダと握手し、挨拶した。

 「こ、こちらこそよろしくお願いします、「剣の女神」ブレンダ。異世界の管理は、女神の仕事の中でも最も難しく、大変な仕事です。先輩として、できる限りアドバイスさせていただきます。私が試験を終えてアダマス担当女神に復帰するのはすぐだと思いますが、私が不在の間、アダマスのことをよろしくお願いしますね。」

 リリアは引きつった笑みを浮かべながら、ブレンダに答えるのであった。

 リリアとブレンダの自己紹介が終わると、ビギンは言った。

 「「光の女神」リリアにはこの後すぐ、ブレンダにアダマス担当の仕事の引継ぎを行うよう命じる。ブレンダよ、現在、異世界アダマスはリリアの長年の度重なる失敗のため、人間は堕落し、魔族と呼ばれる罪なき知的生命体が差別され、人間たちによって滅ぼされるかもしれない深刻な状況にある。また、元勇者たちが犯罪者となって暴走し、世界に破壊や混乱がもたらされる危機に陥っている。現地では、闇の女神イヴと、「黒の勇者」と呼ばれる人間が、事態の収集に当たっているが、完全解決には至らず、現地は人手不足の状況だ。天国警備隊隊長で治安維持任務に当たってきたお前の力が必要とされている。現地に到着後、すぐに闇の女神イヴと「黒の勇者」のサポートを頼む。それと、人間、獣人と呼ばれる種族に対し、魔族を迫害することは決して許さぬことを神々の間で決定したことをすぐに伝えよ。私たち神々の警告を無視し、これまでのような堕落した態度を改めず、魔族を迫害し続けるならば、神罰を与えることも辞さない構えであることを伝えよ。良いな?」

 「はっ。かしこまりました。神王様の仰せの通りにいたします。どうぞ、この私、剣の女神ブレンダに万事、お任せください。」

 「それから、ブレンダよ、申し訳ないが、お前には、そこにいるリリアのお目付け役も頼みたい。リリアが試験中も、試験後も、異世界アダマスや、イヴ、それに「黒の勇者」へいらぬちょっかいを出したり、干渉したりして、ふたたびトラブルを起こす可能性がある。仕事の合間に様子を見て、行動を監視してほしい。先輩と言えど、容赦なく指導せよ。」

 「は、はぁ?神王様の命とあれば、謹んでお目付け役の任を拝領いたします。」

 ブレンダが苦笑いする中、赤面するリリアが慌ててビギンに抗議した。

 「お待ちください、神王様!ブレンダがこの私のお目付け役になる必要はございません!本来神々は相互不干渉、特にプライベートな事情については守られるのが常識です!行動を監視されるほどの悪事を働いた覚えはございません!この私が、神王様からの命を破ることなど、あり得ないことです!お目付け役は不要でございます!」

 「いや、必要だ。リリア、お前がこれまで私に虚偽の報告をし、周囲を騙し、自身の担当する異世界を適当に管理し、異世界に崩壊の危機を招きかけた失敗も罪も明らかだ。お前はこの私からの質問にさえ、嘘をつくほどの悪態ぶりだ。お前には虚言癖の疑いもある。故に、お目付け役としてブレンダを傍につける。今までのようにダラダラと神殿で過ごし、適当に仕事をしてサボることはできぬ。ブレンダの許可があれば、アダマスのことで、トラブルにならない範囲で干渉することは許可する。当然、ブレンダ立会いの下にだが。そんなことよりもリリア、お前は女神の資格をかけた試験に集中せよ。試験は後日とは言ったが、今日から七日以内のどこかで行う予定だ。己の存在意義がかかっていることを忘れるではない。では、これにて、光の女神リリアと堕天使六名への尋問と判決を終える。皆の者、ご苦労であった。解散せよ。」

 こうして、神王ビギンによる証人尋問と裁判が終わった。

 プララルドたち六名の堕天使にはビギンによる温情ある処分が下された。

 一方、リリアは、アダマス担当女神の職の一時解任、アダマスや「黒の勇者」への原則干渉禁止、女神の資格と能力を剥奪するか否かの、女神としての適性試験を受けるよう命じられるなど、散々たる結果に終わった。

 後輩女神である剣の女神ブレンダがさらに自身のお目付け役となり、私生活や行動を監視されるハメになり、気分は最悪の一言であった。

 おまけに、自身が堕天使たちに勇者とともにパワハラやいじめを行っていたこと、罪のない知的生命体である魔族を不当に差別し、殲滅しようと企んだこと、アダマスの人間たちに命じて歴史の改竄という大罪を共に犯したこと、「黒の勇者」に危険な封印の術式を与えて命を奪いかねない過失を犯したこと、リリアが適当にアダマスを管理するため、アダマスや、アダマスの人類が堕落し、混乱や崩壊の最中にある危機的状況という事実を、神王や他の神々、天使たちに知られることになり、責任を追及されることになってしまった。

 衆人環視の中で自身の醜態を暴露され、周りから非難され、笑われ、大恥をかかされ、リリアのプライドは傷ついた。

 リリアの女神としての信用も名誉も、地に落ちたも同然だった。

 謁見の間を出て、神殿を立ち去るリリアの機嫌はすこぶる悪かった。

 「イヴ、あの高慢ちきな女が、よくもよくもこの私に恥をかかせやがってぇー!この私が神王様に叱責されるなど、女神としての資格を疑われるなど、こんなこと絶対にあっていいわけがありません!おまけに、この私に無断で「黒の勇者」に女神の加護を与え、さらに専属契約するなど、絶対に許せません!神王様や「黒の勇者」を利用して復讐してくるとは、本当に腹黒いムカつく女です!」

 自身の醜態や悪事を暴露したイヴへの逆恨みを口にするリリアに、一緒に歩いているセクト、ベスティア、ティーズの三人の女神は呆れている。

 「リリア、はっきり言うけど、全部あなたの自業自得でしょ。あなたがこれまで適当に仕事をしていたツケを支払う時がやって来たってだけでしょ。正直言って、あなた、本当にクソ女神よ。」

 「リリア、お前、マジでクソ女神だな。「黒の勇者」を事故とは言え殺しかけるわ、信者の人間どもは堕落してるわ、罪もない魔族を絶滅させようとするとか、マジで最低だな。アタシらには、いつも完璧で最高の世界だと自慢してた癖に、全部嘘じゃねえか。正直、もうお前のこと、同じ女神とは見れねえよ、マジ。」

 「ニッシッシ。リリア~、やっぱり女神のお仕事より、ポルノスターの方が向いてるかもよ~。全然、女神のお仕事できてないし~、「黒の勇者」からは嫌われちゃって~、イヴに勇者も女神の座も奪われちゃって~、おまけに女神クビになっちゃうかもだしね~。女神が地獄落ちとか、いつぶり~って話じゃん。リリア~、このままだと女神人生、ゲームオーバーになっちゃうよ~。どうすんの~?プッ、クスクス(笑)!」

 セクトたちから呆れ顔で非難され、リリアはイラつきながら答えた。

 「誰がクソ女神ですか!?人生ゲームオーバーですって!?この私が女神をクビになることなど、100%ありえません!イヴ、あの女の邪魔さえなければ、全て完璧、予定通りだったんですよ!流石にあの女も試験の妨害まではできません!それに、「黒の勇者」はいずれこの私の下に取り返してみせます!この私の最大級の女神の加護に、私独自の研究の成果を全てあげれば、「黒の勇者」は全宇宙最強の勇者となるはずです!そうなれば、彼もきっと喜ぶはずです!真の女神の力を皆さんに見せて差し上げます!では、私は忙しいので、これで失礼します!」

 リリアはセクトたちに向かってそう言い残すと、足早に自分の宮殿の方へと去って行った。

 「あの子、本当に大丈夫かしら?試験の内容だって分かっていないのに、あんな大見えを切ったりして、不安しか感じないわ。あの調子じゃあ、何したって試験に落第するだけよ。女神としての基本を忘れている今のあの子じゃね。」

 「アタシは別に応援するつもりはねえな。リリア、アイツはやらかし過ぎた。女神の基本を忘れているあの馬鹿じゃあ、すぐに試験に落ちて、女神をクビになって、そのまま地獄へ真っ逆さまだ。「黒の勇者」からもとっくに見放されているのが分からねえくらいに、周りが何も見えてねえ。自分のことも分かっちゃいねえ。今のクソ女神のままじゃあ、試験合格なんて絶対に無理だぜ。」

 「ずっ~とお仕事サボってたんだから、大したことできないに決まってるよ~。すぐに試験不合格になって~、女神失格になって~、即地獄行き、で決まりじゃな~い?まぁ、クソ女神のリリアがどうなっちゃってもティーズには関係ないけど~。それより~、リリアの後任のブレンダって、どんな子だったけ~?超強いってことは聞いた覚えがあるけど~。」

 「「剣の女神」ブレンダ、彼女は私たちより後の世代に生まれた女神の一人よ。正確には元天使で、天使時代の功績が認められて女神へと昇格した、稀な存在よ。天国の治安維持を司る天国警備隊の隊長を若くして任せられた逸材でもある。武闘派で、硬派で、仕事ぶりは超のつく真面目で、天国の治安維持に大きく貢献した実績で、神王様から表彰されたこともある。若手のホープとして結構有名よ、あのブレンダって子は。」

 「ブレンダとは一度だけ手合わせしたことがある。アイツの剣の腕前は中々のモンだぜ。アタシの鉄拳や爪と互角に打ち合えるほどだ。剣速だって尋常じゃねえ速さだ。アタシくらいの目がなきゃ、お前らなんてアイツの剣でたちまち真っ二つにされちまうぞ。」

 「うへぇ~。ソイツはマジで凄いじゃん。真面目で頑固な武闘派女神かぁ~。なるほど。だから、神王様はリリアのお目付け役に選んだわけか~。納得だわ~。つか、リリア、絶対、すぐにブレンダに怒られて、試験前に斬られて終わっちゃうんじゃね?」

 「あり得なくないわね。適当でズボラで嘘の多いリリアじゃあ、神王様からの言いつけを破っているのを見つかって、真面目なブレンダに即成敗されてそのまま終了、試験も受けずに女神をクビに、なんてことになりそうよね。ブレンダはこれから苦労させられるでしょうね。可哀想に。」

 リリアと別れた後、セクト、ベスティア、ティーズの三人は口々に、リリアが女神の資格と能力を賭けた試験に落第するのではないかと述べるのであった。

 セクトたちと別れ、自身の神殿に戻ったリリアは、自室に入るなり、周りの家具や物に当たり散らし、青い瞳の両目を血走らせ、激しい怒りを露わにした。

 「くそっ、くそっ!?はぁー、はぁー!?何故、何故、この私が更迭されなければならないのです!?おのれぇー、イヴ、高慢ちきで目障りな女が!神王様の前でこの私に恥をかかせるだけでは飽き足らず、「黒の勇者」を奪い、この私の女神としての看板に泥を塗りたくりやがってぇー!絶対に、絶対に許すものか!試験に合格したらすぐに、アダマスへ赴き、この手で確実に、今度こそ永遠に葬ってやりましょう!「黒の勇者」も必ず奪い返します!イヴに、スロウラルドとか言う堕天使の小娘、この私の勇者に汚い手でベタベタと触って、実に不愉快です!カテリーナ、あの行き遅れの出来損ないの巫女が、私の伴侶候補たる「黒の勇者」との結婚を考えるなど、身の程知らずもいいところです!私の勇者に近づくクソビッチどもは全員、抹殺してやります!アダマスも必ずこの手に取り返してみせます!今に見ていなさい、イヴ!必ずこの私の手であなたを破滅させてやりましょう!」

 リリアはイヴへの逆恨みの感情を募らせ、イヴへの復讐に、「黒の勇者」の奪還、アダマス担当女神への復帰を固く決意するのであった。

 だがしかし、リリアの野望が叶うことは何一つない。

 何故なら、リリアが異世界アダマスに「黒の勇者」、女神の資格を剝奪されかけているのは、全てリリアの自業自得だからである。

 自身の管理、担当する異世界アダマスを適当に管理し、歪んだ教えや導きを人類に与え、異世界アダマスそのものを歪めてしまったリリアのこれまでの数々の過ち、あるいは悪行が積み重なった報いなのである。更迭処分を下されて当然なのである。

 そして、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈こそが、自身を破滅へと追い込もうとしている最大の敵であることに、リリアは全く気が付いていない。

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈は、光の女神リリアへの怒りと復讐に燃え、リリアを完全に破滅させるため、復讐という名の銃口を常に真っ直ぐにリリアに向け、止めを刺すべく構えているのである。

 光の女神リリアへの主人公の復讐は、リリアを破滅させるまで決して止まらない。



















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