第十六話 主人公、悪の女教皇を成敗する、そして、悪質宗教団体をぶちのめす
僕たち「アウトサイダーズ」が元「弓聖」鷹尾たち一行を討伐した日のこと。
午後2時。
ゾイサイト聖教国の首都にある、壁や柱などが白一色の、外見がバチカン宮殿によく似た、巨大な白い宮殿に、光の女神リリアを崇拝、信仰するリリア聖教会の本部が入っていた。
そして、宮殿内の大会議室の椅子に、白い法衣を身に纏い、金色の教皇冠を頭に被った一人の女性が両目を閉じて、静かに座っていた。
その女性の名前は、カテリーナ・イーディス・ゾイサイト。ゾイサイト聖教国の国家元首兼リリア聖教会の最高責任者で、聖教皇を務める女性である。
また、インゴット王国王女のマリアンヌ同様、光の女神リリアからの神託を授かることのできる、もう一人の「巫女」でもある。
カテリーナは会議室の椅子に座り、両目を瞑りながら、一人静かに考え込んでいた。
周りにいる大枢機卿たちや聖騎士たちだが、主人公と元「弓聖」たち一行による直接対決が行われているとの報告が、シーバム刑務所跡地を監視している部隊より二時間ほど前に入ったことで、戦況の様子について話し合ったり、ソワソワと落ち着きのない様子だったりと、戦況が気になってしょうがないという雰囲気である。
カテリーナたちが戦況を見守る中、一人の聖騎士が慌てて大会議室へと入ってくるなり、カテリーナたちに向かって報告を始めた。
「聖教皇陛下にご報告いたします!五分ほど前、シーバム刑務所跡地を監視している部隊より緊急の報告が届きました!「黒の勇者」様及び「黒の勇者」様率いる冒険者パーティー「アウトサイダーズ」が、元「弓聖」たち一行並びに「白光聖騎士団」の討伐に成功された模様、とのことです!「黒の勇者」様の攻撃で、敵が新たに築いた砦も跡形もなく消滅したとのことです!「黒の勇者」様は敵の砦を破壊した後、一瞬でどこかへと去ってしまったとのことです!現在、ラトナ公国政府に確認を取っておりますが、「黒の勇者」様が元「弓聖」たち一行を討伐されたのはほぼ間違いない、と現地で監視に当たる部隊は申しています!報告は以上になります!」
聖騎士からの報告を聞き終えると、大会議室はたちまち歓声が沸き上がった。
カテリーナも聖騎士からの報告を聞き、瞑っていた両目を開き、満面の笑みを浮かべながら喜んだ。
「元「弓聖」たち一行が討伐されたか!裏切り者の「白光聖騎士団」も討伐されたとな!流石は「黒の勇者」様だ!光の女神リリア様が史上最強最高の勇者とお認めになった御方だ!わずか12日足らずで、我が国を脅かしていた元「弓聖」たち一行と堕天使たちを討伐なさるとは、正に神業だ!「黒の勇者」様と、「黒の勇者」様を遣わしてくださったリリア様に感謝の祈りを捧げねば!「黒の勇者」様へのお詫びと謝礼も忘れてはいかん!皆の者、すぐに「黒の勇者」様の行方をお探しし、余に報告せよ!今度こそ、余が直々に「黒の勇者」様へお詫びと、謝礼のお渡しをする!「白光聖騎士団」の愚か者どもと同じ轍を踏むことは絶対にあってはならん!今度こそ、「黒の勇者」様の誤解を解き、丁重におもてなしし、我がゾイサイト聖教国が「黒の勇者」様をお抱えするに最もふさわしい国であることを証明するのだ!国の総力を上げて取りかかるのだ!国民にも全面的に協力するよう、直ちに通達せよ!これはゾイサイト聖教国聖教皇である余の勅命である!分かったな、皆の者?」
「かしこまりました、陛下!ただちに「黒の勇者」様の捜索について手配いたします!どうぞ、我々にお任せください!全員、ただちに「黒の勇者」様の捜索に当たれ!」
カテリーナから勅命を下され、大枢機卿たちと聖騎士たちは慌てて会議室を出て、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈の捜索に向かった。
「流石は「黒の勇者」様です。元「弓聖」たち一行を短期間で討伐し、我が国を救ってくださるとは、正しく史上最強最高の勇者様、人類の救世主です。「黒の勇者」様はまだ、我が国のどこかに滞在しているに違いありません。何としてもあの御方を見つけ出し、先日の非礼を詫び、たっぷりと謝礼をお渡しせねばいけません。フフフ、既に「黒の勇者」様に我が国の新たなNo.2、「準聖教皇」のポストをお渡しする準備は整っています。「黒の勇者」様のお望みするモノは全てご用意できるようにしています。あの御方を引き留め、懐柔することに成功すれば、私もゾイサイト聖教国もリリア聖教会も安泰です。この私こそがリリア様の唯一の「巫女」であり、勇者の伴侶にふさわしい女なのです。「巫女」失格の小娘や、天才科学者気取りの女狐をいつまでも「黒の勇者」様のお傍に置いておくことなど、あってはならないのです。ゾーイとか言うホーリーライト家の娘は特別に愛人としてお傍に仕えることを許しましょう。今度こそ、私の計画を成功させてみせます。」
カテリーナは笑みを浮かべながら、自身の野望を実現させるため、ふたたび行動を開始したのであった。
午後四時。
謁見の間にある玉座に座り、両目を瞑りながら、部下たちから「黒の勇者」の行方に関する報告が届くのを待っているカテリーナの下に、宰相が少し慌てた表情を浮かべながら、報告に現れた。
「聖教皇陛下にご報告いたします。インゴット王国王女、マリアンヌ・フォン・インゴット様が、こちらに参られました。陛下との謁見をご希望されておられます。「黒の勇者」様の名代として、元「弓聖」たち一行の討伐の報告に参られたと、申しておられます。いかがなさいますか?」
宰相から訊ねられ、カテリーナは瞑っていた両目を開けると、顔を顰めながら答えた。
「マリアンヌ王女が余と謁見したいだと?「黒の勇者」様の名代として、この度の元「弓聖」たち一行の討伐に関して、代わりに報告へ来た、そう申すのだな。フン、まぁ良い。宰相、マリアンヌ王女を余の前までお通ししろ。」
「かしこまりました。すぐにお通しいたします。」
宰相はそう言うと、踵を返し、マリアンヌを呼びに行った。
「あの出来損ないの「巫女」が、「黒の勇者」様の名代を名乗るとは、実に不愉快だ。適当に報告を聞いたら、さっさと帰してしまえばよい。だが、あの小娘の後をつけさせれば、「黒の勇者」様の居所が分かる。目障りな女ではあるが、幸運の機会を運んできてくれたと思えば、悪くもないな。」
カテリーナは少し不満げな表情を浮かべながら、一人呟いた。
10分後、宰相と聖騎士たちに付き添われ、カテリーナのいる謁見の間に、マリアンヌがやって来た。
玉座に座るカテリーナに向かって一礼すると、マリアンヌはカテリーナに向かって言った。
「お久しぶりでございます、カテリーナ聖教皇陛下。インゴット王国王女、マリアンヌ・フォン・インゴットでございます。一年前に開催された、各国首脳が集まる世界平和サミットの晩餐会でお会いして以来となります。この度、「黒の勇者」様より名代を申し付けられ、参上いたしました。元「弓聖」たち一行の討伐作戦が無事、成功したことを聖教皇陛下に代わりにご報告するよう申し付けられた次第です。」
「久しぶりだな、マリアンヌ王女殿下。同じ光の女神リリア様に仕える「巫女」として、そなたの元気そうな顔を見られて、余も嬉しいぞ。元「弓聖」たち一行の討伐作戦が無事、成功に終わったと聞き、余もゾイサイト聖教国の国民たちも皆、安心した限りだ。「黒の勇者」様には余もゾイサイト聖教国の民たちも、皆が感謝している。先日は元部下であった「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが「黒の勇者」様にとんでもない非礼を働き、大変失礼した。「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが、元「弓聖」たち一行と手を組み、我が国への侵略行為に加担する事態まで引き起こしてしまい、大変申し訳なく思っている。「黒の勇者」様ご本人から一度お断りされてはいるが、是非、余自らゾイサイト聖教国を代表し、先日の非礼をお詫びし、今回の元「弓聖」たち一行の討伐の件も含めた謝礼をお渡ししたい。何卒、そなたの方から「黒の勇者」様へ取り次いでいただけないだろうか?」
「申し訳ございません、聖教皇陛下。「黒の勇者」様より、ご自身はゾイサイト聖教国政府の方々とは直接顔を会わせたくはないと、うかがっております。謝礼等を受け取るつもりも一切ない、ともうかがっております。「黒の勇者」様は元「弓聖」たち一行の討伐が無事完了したため、次の残りの元勇者たちの討伐へとすぐにでも出発なさるおつもりで、すでに準備を始めておられます。お気持ちだけ受け取っておく、そう聖教皇陛下にお伝えしてほしいとうかがっております。お力になれず、本当に申し訳ございません。」
「そ、そうか!?ちっ。いや、「黒の勇者」様にはできれば余から直接お詫びし、謝礼をお支払いしたいと、そう思っていたのだが、「黒の勇者」様が余たちとの面会を希望しておられないのであれば、無理強いするわけにもいかぬ。残念だが、「黒の勇者」様への面会は諦めよう。元「弓聖」たち一行の討伐を深く感謝していると、余がそう言っていたと、「黒の勇者」様にお伝えいただけないだろうか?」
「かしこまりました、聖教皇陛下。聖教皇陛下のお言葉は必ず、「黒の勇者」様に私からお伝えいたします。今回の元「弓聖」たち一行が引き起こしたテロのために、ゾイサイト聖教国は決して少なくない被害を受け、大変だとは存じ上げますが、どうか我がインゴット王国や私どもでお手伝いできることがございましたら、いつでもご相談ください。微力ながら、お手伝いさせていただきますので。」
「うむ。インゴット王国も元勇者たちのせいで大変ではあるだろうが、そう言っていただけるとありがたい。そなたや「黒の勇者」様にお力添えを頼むこともあるだろう。その時は是非、相談に乗っていただけると助かる。インゴット王国とは同盟国として、魔族殲滅に向けて協力関係を結んできた長年のパートナーとして、今後も共に支え合っていけたらと、余も思っている。」
「ありがとうございます、聖教皇陛下。ところで、貴国を出発する前に、私から個人的に聖教皇陛下に一つ、お訊ねしたいことがございます。質問をしてもよろしいでしょうか?」
「余に訊ねたいことがあると?余で答えられることであれば答えよう。して、質問とは何であるか、マリアンヌ王女殿下?」
怪訝な表情を浮かべながら、カテリーナはマリアンヌに向かって、質問の内容について訊ねた。
マリアンヌは冷静ながらも、真剣な眼差しを向け、カテリーナに質問した。
「カテリーナ聖教皇陛下にお訊ねいたします。先日、「黒の勇者」様が「白光聖騎士団」の元聖騎士たちと喧嘩になった際、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが「黒の勇者」様に向かって、光の女神リリア様から授かった神託の内容についてお話しされたそうです。その際、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちは、神託の内容について次のように話したそうです。「光の女神リリア様より、今回の元「弓聖」たち一行の討伐に、インゴット王国のマリアンヌ王女は参加させるな、と言われた。」、そう言っていたそうです。ですが、私は光の女神リリア様より神託を授かった際、リリア様より元「弓聖」たち一行の討伐には参加するな、とは一言もうかがってはおりません。「黒の勇者」様を全力でサポートし、共に元「弓聖」たち一行を討伐するよう、言われました。何故、私と聖教皇陛下、それぞれがリリア様より授かった神託の内容が違うのでしょうか?リリア様が私を元「弓聖」たち一行の討伐から外すよう、本当に聖教皇陛下に神託を授けたのでしょうか?是非、納得のいく回答をいただけますでしょうか?」
リリアから、互いに女神リリアより授かった神託の内容に大きな違いがある点を指摘され、カテリーナの顔色が急に気まずい表情へと変わった。
周りにいる宰相や聖騎士たちも、マリアンヌとカテリーナ、二人が女神より授かった神託の内容に違いがあると聞き、皆、驚きと困惑の表情を浮かべ、二人を見ている。
「よ、余はそのような神託を授かった覚えはない!きっと、あの裏切り者で愚か者の「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが、デタラメを「黒の勇者」様に向かって言ったに違いない!余はリリア様より、「黒の勇者」様と協力して元「弓聖」たち一行の討伐に当たるよう、神託を授かった!マリアンヌ王女、そなたとも同じ女神様に仕える「巫女」として、共に協力して「黒の勇者」様をサポートするよう、命じられた!「白光聖騎士団」の連中は以前より我が国の内部から、その行動や思想を問題視する声が挙がっていた!真の勇者である「黒の勇者」様を侮辱し、逆恨みから斬りかかるような愚劣極まりない連中だったのだ!「白光聖騎士団」の監督責任の非が余にあることは認めよう!しかし、そなたを元「弓聖」たち一行の討伐から外せ、などという神託を授かった覚えも、そのような神託の内容を「白光聖騎士団」の連中に話した覚えも全くない!「白光聖騎士団」の愚か者どもの戯言を真に受けることはない!全て誤解だ、マリアンヌ王女!」
「「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが、勝手にリリア様から授かった神託の内容を偽り、「黒の勇者」様の前で話した、というわけですね。しかし、問題のある人物ばかりだったとは言え、彼らは仮にも光の女神リリア様に対する忠誠を誓い、リリア様の教えと正義を守る聖騎士の一人でした。犯罪者にまで堕ちた人間とは言え、当時はまだ聖騎士であった彼らが、崇拝するリリア様からいただいた神託の内容を改竄するような行為に及ぶとは思えません。聖騎士時代の彼らにとって、リリア様からの神託は神聖にして絶対的価値のあるモノです。それに、彼らが神託を改竄する理由も分かりかねます。「白光聖騎士団」の者たちが、この私に対して良くない心象を抱いていた可能性は否定できませんが、それでも、偽りの神託を広めることは間違いなく、女神さまへの反逆行為に等しい、大罪です。リリア様の敬虔な信者であった彼らが、神託を改竄する行為に及ぶとは、私にはとても思えません。それと、気になる点がもう一点ございます。」
「ま、まだ気になることがあると!?い、一体、何だ?」
動揺するカテリーナに対し、マリアンヌは言った。
「「白光聖騎士団」の元聖騎士が「黒の勇者」様と出会った際、カテリーナ聖教皇陛下、あなたが「黒の勇者」様をゾイサイト聖教国専属の勇者としてスカウトしたい、そう言っていたとうかがっております。「黒の勇者」様に大枢機卿の地位を与え、さらにゾイサイト聖教国があらゆる面で全面的にサポートすることを条件に、「黒の勇者」様を勇者として引き抜こうとされた、とうかがっております。勇者の引き抜き自体は問題ではありません。ですが、引き抜きを行う時期は決して適切とは言いかねます。「黒の勇者」様はラトナ大公家の方であり、ラトナ公国所属の勇者です。貴国での元「弓聖」たち一行の討伐という大事を直前に控える中、ラトナ公国政府に何の断りもなく、いきなり貴国の勇者として引き抜く行為は問題であると言えます。元「弓聖」たち一行の討伐の前に、「黒の勇者」様の所有権を巡って、ラトナ公国とゾイサイト聖教国の間で問題が起こりかねません。ラトナ公国と勇者の所有権を巡る問題が起き、そのせいで元「弓聖」たち一行の討伐に支障が出た恐れも否定できません。光の女神リリア様は、私たちに元「弓聖」たち一行の討伐に全力で、集中して当たるように、元「弓聖」たち一行の早期討伐と、堕天使たちの早期封印を、神託を通じて命じられました。カテリーナ聖教皇陛下、何故、元「弓聖」たち一行の討伐を直前に控えながら、「黒の勇者」様を貴国に引き抜く強引なスカウトを行おうとされたのか、納得のいく回答をいただけますでしょうか?」
「ぐっ!?そ、それは、我がゾイサイト聖教国には既に、「黒の勇者」様を何時でも万全な体制で、あらゆる面でサポートできる用意があったからだ!金銭面でも軍事面でも、将来的な魔族との戦いに向けた備えが我が国にはある!二年前、リリア様より独自に神託を授かり、来る魔族との聖戦に備えた、現状できうる限りの、最高の用意をしているのだ!「黒の勇者」様を我が国専属の勇者としてスカウトしたい意向があることは、「白光聖騎士団」の連中にも話したのは確かだ!だが、今すぐ引き抜きを行いたいとは、余は一言も言っておらん!くだらぬ詮索は止めていただきたい!」
「本当にくだらない詮索と言えるでしょうか?「黒の勇者」様をゾイサイト聖教国専属の勇者としてスカウトしたい意向があなたにあったとして、そのことを「白光聖騎士団」の元聖騎士たちの前で話すのはいささか迂闊ではないでしょうか?「白光聖騎士団」の元聖騎士たちは「黒の勇者」様に対し、敵対心や嫉妬心のような感情を抱いておられたと聞いております。勇者の血を受け継ぐ聖騎士であることにプライドを持っていたと。元「弓聖」たち一行の討伐を控える直前に、本来、国の上層部、大臣級以上の方々と極秘裏に共有するような内容を、一介の聖騎士たちの前で迂闊に話すなど、考えにくいことです。勇者のスカウトは国の威信や存続、世界の安全保障に関わることです。そんな極秘事項を聖教皇陛下ともあろう御方が、うっかり漏らしてしまうとは、普通はあり得ないことです。単刀直入に申し上げます。カテリーナ聖教皇陛下、あなたは光の女神リリア様の神託を授かる「巫女」でありながら、己の私利私欲を満たすため、リリア様からの神託の内容を故意に改竄した。内容を改竄した神託を「白光聖騎士団」の元聖騎士たちに伝えた。さらに、「黒の勇者」様を私利私欲のために利用するため、ラトナ公国の承諾も得ないまま、強引に「黒の勇者」様を貴国の専属勇者にしようと強引なスカウトを行うことを計画し、その計画を「白光聖騎士団」の元聖騎士たちにも伝え、彼らに「黒の勇者」様をスカウトしてくるように命じた。全ては、あなたの私利私欲を満たすため、それと、もう一人の「巫女」で目障りに思う私、「黒の勇者」様が所属するラトナ公国、この二つを排除するため。そうではありませんか、カテリーナ聖教皇陛下?」
マリアンヌが、真剣な表情を浮かべ、カテリーナが女神リリアからの神託を改竄し、「黒の勇者」こと主人公を自国の勇者として強引に引き抜くスカウトを強行しようとしていたのではないかと、カテリーナを問いただした。
マリアンヌに、己の私利私欲のために、自身が女神からの神託を改竄し、「黒の勇者」を強引に引き抜いて勇者として利用しようと企んでいた事実を指摘され、カテリーナは両目を血走らせ、右手に持つ金色の権杖を強く握りしめ、玉座から立ち上がり、顔を真っ赤にして、激しい怒りを露わにしながら、マリアンヌに向かって言った。
「無礼者!余を誰だと心得る!光の女神リリア様の神託を授かる「巫女」にして、ゾイサイト聖教国国家元首、リリア聖教会のトップ、リリア様を崇拝する信者たちの頂点に立つ、聖教皇であるぞ!余が私利私欲のために、神託を改竄し、「黒の勇者」様を強引にスカウトし利用しようとしたなど、言いがかりも甚だしい!インゴット王国の王女と言えど、「黒の勇者」様の名代と言えど、今の無礼極まりない発言は看過できぬ!「黒の勇者」様の処刑に加担し、さらに他の勇者たちの教育に失敗し、元勇者たちが犯罪者となって世界中で暴走し混乱を招いている原因を作った張本人が、余を大罪人扱いするなど、無礼千万!リリア様の神託を蔑ろにし、世界に混乱を招いた出来損ないの「巫女」風情が、余に意見し、侮辱するなど、絶対に許さん!謁見はこれにて終了する!聖騎士たちよ、この「巫女」失格の無礼者を今すぐ摘まみ出せ!」
「カテリーナ聖教皇陛下、あなたが神託の内容を改竄したか否かは、調べればすぐに分かることです。「黒の勇者」様への強引なスカウトをあなたが指示したこともです。光の女神リリア様にこの件をお話しし、疑惑が事実か否か、お力添えをいただき、女神のお力で事実をはっきりとさせることもできましょう。神託の改竄が事実の場合、カテリーナ聖教皇陛下、いくら聖教皇で「巫女」のあなたでも、リリア様からの神罰は免れません。リリア様とこれからお話しするのが楽しみです。では、私はこれにて失礼いたします。」
マリアンヌは笑みを浮かべながらそう言うと、カテリーナに向かって一礼し、カテリーナの前を立ち去ろうとする。
周りにいる宰相と聖騎士たちは思わぬ事態に困惑し、謁見の間を歩いて立ち去ろうとするマリアンヌを止めに入ることもできずにいる。
激高するカテリーナは、謁見の間を立ち去ろうとするマリアンヌに向かって、右手に持つ金色の権杖の先端を向けた。
「おのれぇー!?逃がすものか!」
カテリーナが魔力のエネルギーを右手に持つ権杖に注いだ瞬間、権杖が金色に眩しく光り輝いた。
そして、カテリーナの持つ権杖から金色の光が放たれると、金色の光はたちまち謁見の間全体を覆った。
金色の光はどんどん広がり、宮殿全体を黄金に光り輝くように覆い尽くした。
「くっ!?」
カテリーナの権杖の放つ金色の光に触れた瞬間、マリアンヌの頭に頭痛が走り、全身が重くなり、その場に崩れ落ち、動けなくなった。
金色の権杖を右手に持ち、笑みを浮かべ、玉座の前からマリアンヌを見下ろしながら、カテリーナは言った。
「リリア様の真の「巫女」である余を侮辱し、リリア様に余を破門させるための嘘偽りを申すような行為を行おうとする貴様を、黙って見過ごすわけにはいかぬ!余の「聖域」から出ることはおろか、自力で立ち上がることも不可能!余と貴様とでは、「巫女」としての格が違うのだ!出来損ないの「巫女」風情が、リリア様の「巫女」を名乗るだけでなく、リリア様の真の「巫女」である余を侮辱し、あまつさえ、真の勇者である「黒の勇者」様のお傍にお仕えするなど、言語道断!貴様のような出来損ないの「巫女」で、厚顔無恥の未熟な小娘など、誰も必要としておらん!リリア様も貴様の数々の失態に呆れているご様子だ!リリア様は最早、貴様のことなど必要だとは思っておらぬ!女神の「巫女」は余一人で十分なのだ!聖騎士たちよ、この「巫女」失格の無礼者の背信者を今すぐ捕らえて処刑せよ!リリア聖教会に、そして、光の女神リリア様に仇なすこの小娘を、即刻打ち首にしてしまえ!」
「お、お待ちください、聖教皇陛下!?マリアンヌ王女殿下はインゴット王国の王女であり、リリア様の「巫女」でもございます!「黒の勇者」様の名代を務められている御方です!そのような方を聖教皇陛下の一存だけで処刑するわけにはまいりません!インゴット王国との戦争に発展するだけでなく、女神リリア様からお𠮟りを受けることにもなりかねません!どうか、ここは怒りをお鎮めください!?」
「黙れ!インゴット王国など最早滅びかけの国だ!何の脅威にもならん!この出来損ないの「巫女」の小娘は、余を侮辱し、さらにリリア様に余が神託を改竄したなどというデタラメを吹き込むという卑劣な行為にまで及ぼうとしているのだ!「巫女」の資格を剥奪されかけているとあって、そのような嫌がらせを行おうとする、浅ましい小娘だ!即刻、この小娘を処刑せよ!これは聖教皇たる余の勅命である!逆らうと言うならば、宰相、貴様も今すぐ破門し、処刑する!分かったか!?」
「か、かしこまりました。聖騎士たちよ、聖教皇陛下の命である。マリアンヌ王女を捕えよ。処刑の準備に取り掛かれ。後始末は我々上層部がする。即刻、王女を処刑せよ。」
カテリーナに脅され、宰相も聖騎士たちも、カテリーナの命令には逆らえず、マリアンヌを捕まえて処刑しようと、ゆっくりと武器を構えながら近づいていく。
マリアンヌが身動きが取れず、聖騎士たちに取り囲まれつつある時、突如、バーンという音が謁見の間に鳴り響いた。
音が鳴った直後、マリアンヌを捕えようと近づいてきた聖騎士の左肩の鎧に穴が開き、聖騎士は左肩に大穴が開き、左肩から血を流しながら後方に吹き飛んだ。
「な、何だ、一体!?」
カテリーナや宰相、聖騎士たちが混乱する中、バーンという銃声にも似た大きな音が、謁見の間に何度も鳴り響く。
銃声に似た音が鳴る度に、聖騎士たちは左肩を何かに撃ち抜かれ、肩から血を流しながら後方へと吹き飛び、次々に左肩を抑えながら、床に転がり、うずくまるのであった。
宰相も左肩を何かに撃ち抜かれ、肩から血を流しながら後方へと吹き飛ばされ、あまりの激痛に叫び声を上げて床で転がり回る。
「ギャアー!?い、痛いー!?ヒッ、血が、血が!?肩が、私の肩に穴が!?だ、誰か助けてくれー!?」
宰相や聖騎士たちの悲鳴が、宮殿中に響き渡る。
「な、何だ!?い、一体、誰が、どこから攻撃しているのだ!?」
混乱するカテリーナの目の前に、突如、スゥーっと煙が晴れるように、どこからともなく、右手に拳銃を持った一人の少年が現れた。
続いて、少年の後ろに、八人の女性たちが、同じようにスゥーっと煙が晴れるように、どこからともなく現れた。
少年はマリアンヌの右横に立つと、それから右手に持つ黒い拳銃をカテリーナの右手に持つ金色の権杖へと素早く向けた。
少年は拳銃のトリガーを引き、紫色の弾丸を発射した。
弾丸は超高速で飛び、カテリーナの持つ権杖の先端を撃ち抜き、木っ端微塵にたちまち破壊した。
「がっ!?」
破壊された権杖の破片の一部がカテリーナの顔にぶつかって刺さり、カテリーナの顔に傷をつけた。
権杖が破壊された影響で、謁見の間や宮殿を包んでいた黄金色の光が消え、カテリーナの展開した聖域は消滅した。
顔を傷つけられ、血を流し、玉座の前でうずくまるカテリーナを、少年は横目で見ながら、傍でうずくまっているマリアンヌに手を差し伸べ、声をかけた。
「大丈夫か、マリアンヌ?怪我はしてないよな?無茶をさせて悪かった。聖域とやらは破壊した。もう大丈夫だ。立てるか?」
「大丈夫です、ジョー様。ジョー様が傍にいてくれたおかげで助かりました。私一人では、カテリーナ聖教皇陛下に立ち向かうことはできませんでした。本当にありがとうございます。」
「御礼を言うのは、僕の方だ。非戦闘員のお前に囮役をやらせるのは本当は好ましいことじゃあない。だけど、ターゲットの一人であり、あのクソ聖教皇に嫌われているお前一人で近づくなら、同じ「巫女」であるお前から追及されれば、クソ聖教皇は必ずボロを出す。そう睨んだ。お前にとっては辛いことかもしれないが、アレが聖教皇の本性だ。正しく、僕の睨んだ通りのクソ聖教皇だったわけだ。リリア聖教会の連中も、クソ聖教皇の悪事に加担する悪党あるいは人間のクズだったわけだ。」
僕はマリアンヌの手を取り、彼女を起こした。
それから、笑みを浮かべながら、顔を抑えて玉座の前でうずくまるカテリーナに向かって言った。
「マリアンヌの暗殺に失敗して残念だったな、クソ聖教皇。お前の悪事は既に露見している。それと、お前の持っていた「セイクリッドクルージャー」は破壊した。レベルの上限を問わず、女神の信者である人間の意識を強制的に支配し、動きを拘束する洗脳系の状態異常を起こす光の結界を、使用者の半径1㎞以内の空間に自由自在に展開できる魔道具か。全く、クソ聖教皇らしい、信者をただの道具扱いする、胸糞悪い魔道具だな。聖域なんて嘘っぱちもいいところだ。要は、洗脳装置だ。クソ聖教皇、お前の悪事はここまでだ。地獄に落ちる覚悟はできているだろうな、聖職者の皮を被った外道が。」
「だ、黙れ!?聖教皇である余の顔に傷をつけるなど、万死に値する!余の宮殿に土足で踏み入り、余を罪人呼ばわりして侮辱した罪、絶対に許さぬ!マリアンヌの雇った護衛風情が、余に生意気な口を利くではない、無礼者めが!」
顔から血を流し、激高するカテリーナに、僕は笑みを浮かべながら話しかける。
「悪党なのは事実だろうが。己の私利私欲を満たすために、女神から授かった神託の内容を改竄した。おまけに、この僕を勇者として引き抜き、利用しようとしてきた。マリアンヌに図星を突かれ、悪事の露見を防ぐため、口封じのために殺そうとした。お前みたいな外道に、女神の「巫女」を名乗る資格も、聖教皇を名乗る資格もない。お前はただの、私利私欲にまみれ、悪質な宗教団体を運営する、聖職者の皮を被った最低の外道だ。分かったか、外道のクソ聖教皇!」
「お、おのれぇー!?余を、余をどこまでも侮辱しおってぇー!?い、いや、ま、待て!?く、黒い服の少年、勇者として引き抜こうとした・・・ま、まさか、あ、あなた様は、く、「黒の勇者」様なのではないですか!?」
両目を見開き、驚いた表情を浮かべながら僕に訊ねるカテリーナに向かって、僕は顔を顰めながら言った。
「どうも初めまして、クソ聖教皇。僕の名前は、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。「アウトサイダーズ」というちょっと名の知れた冒険者パーティーのリーダーを務めている。そして、ラトナ公国の子爵でもある。「黒の勇者」、まぁ、そんなあだ名で呼ばれることもあるが。お探しの「黒の勇者」は僕だが、それがどうした?」
「や、やはり「黒の勇者」様でございましたか!?私の名は、カテリーナ・イーディス・ゾイサイト。ゾイサイト聖教国国家元首にして、リリア聖教会の最高トップ、聖教皇を務めております!先ほどのご無礼をどうかお許しください!お聞きしていたお姿と若干違っていたため、あ、あのような無礼な態度を取ってしまいました!私は、あなた様の大ファンでございます!光の女神リリア様より、リリア様の「巫女」として、あなた様を全力でサポートするよう、申し付けられました!私は決して、己の私利私欲を満たすために神託の改竄など行ってはおりません!全てはリリア様のため、ゾイサイト聖教国のため、世界のため、そして、「黒の勇者」様、あなた様のためです!そこにいるマリアンヌという女は、女神様からかつて「巫女」として神託を授かり、勇者の教育やサポートを任されておきながら、神託を蔑ろにし、リリア様に確認も取らず、あなた様に無実の罪を着せ、処刑しようとした、「巫女」失格の大罪人なのです!そのような大罪人が、あなた様のお傍に仕えることには問題があると、私はそう思い、口にしていたのを、「白光聖騎士団」の元聖騎士たちが聞いて、勝手に神託だなどと、あなた様の前で言いふらしたまでです!私こそ、リリア様に選ばれた真の「巫女」なのです!リリア様も、マリアンヌとインゴット王国のことを問題視されており、いずれはインゴット王家から「巫女」の資格を剥奪することも考えておいでです!私の言っていることは事実です!私こそ、あなた様のお傍に仕えるにふさわしい本物の「巫女」なのです!マリアンヌ、そこにいる愚かな背信者を信じてはなりません!どうか、どうか私の話を信じてください、「黒の勇者」様!」
カテリーナが玉座の前から、僕に向かって懇願する。
だけど、僕の表情は相変わらず、顰めっ面である。
「お前みたいな外道の話を、この僕に信じろだと?僕は基本的に悪党の話は全く信じない。マリアンヌがお前にぶつけた質問の内容は全て、僕が考えたモノだ。そして、姿を消して、お前がマリアンヌの質問にどう答えるのか、どう反応するのか、確かめさせてもらった。結論、お前は間違いなく悪党だ、クソ聖教皇。お前は自分の悪事を隠蔽するためにマリアンヌを殺そうとした。僕にははっきりそう見えた。言葉ではなく、暴力で解決しようとするのは、聖職者のすることじゃあない。悪党のすることだ。それに、僕の容姿が少し変わっているからと言って、僕を侮辱して良い理由なんてない。今も高い所から僕を見下ろして、直接傍に来て謝罪しようともしない。明らかに他人を見下すのが好きで、犯した罪を全く反省することをしない、傲慢で自己中心的で下劣な人間の態度の表れだ。後、リリアの「巫女」であるかどうかは、僕にとっては重要なことじゃあない。マリアンヌは確かにちょっと世間知らずのクソ王女だと言う認識は僕の中に今でもあるが、コイツは今は、僕のパーティーの大事な雑用係だ。雑用係としてなら、コイツはそこそこ使える。自分の犯した罪を償うために反省し、更生の道を辿っている。僕に女神の「巫女」はいらない。欲しいのは、信頼できる仲間で有能な雑用係だ。マリアンヌに比べたら、クソ聖教皇、お前は自分の罪を全く反省もせず、僕の前で平然と嘘をつき、みっともなく言い逃れをしようとする最低最悪の下衆女だ。僕は悪党って奴がこの世で一番嫌いでね。全員、地獄に叩き落さないと気が済まない性分だ。僕はこのクソ聖教皇を有罪だと判断する。他のみんなの意見も聞いてみよう。みんなはどう思う?」
僕は、傍にいる仲間たち全員に問いかけた。
「
「俺も丈の意見に賛成だ。その女は間違いなく有罪、ゴブリン以下の外道だぜ。俺たちに嘘をついて、自分の悪事をごまかそうとする、マジで下衆女だぜ。」
「私も丈君の意見に同意。あの女は害虫以下の、聖職者の皮を被った外道で有罪確定間違いなし。信者たちから金を巻き上げ、権力を振りかざして好き勝手する、欲と権力にまみれたクソ女。今すぐ駆除すべし。」
「我もジョー殿の意見に賛成だ。我が名はエルザ・ケイ・ライオン。ペドウッド共和国最高議会議長を務めている。カテリーナ聖教皇、お初にお目にかかる。貴殿の言動も行動も全て、この目と耳で確認した。貴殿は女神の「巫女」でありながら、己の私利私欲のために神託を改竄し、ジョー殿を勇者として利用しようと企んだ。貴殿の運営するゾイサイト聖教国やリリア聖教会の、悪しき実態もこの目で確認した。噂以上に酷い有り様だ。貴殿は間違いなく、大罪人で有罪だ。大人しく、お縄につき、成敗されよ。」
「アタシもジョーの意見に賛成じゃん。あの女は間違いなく、悪党だぜ。さっきから、ずっと汗をかいてる。この汗の臭いは、嘘をついてるときの汗の臭いだぜ。アタシの、狼獣人としての鼻がそう言っている。それに、香水臭い上に、加齢臭までする。あの聖教皇とか言う女、見た感じ若いが、結構歳入ってるじゃんよ。ありゃあ、若作りした、中身は性悪ビッチの、クソババアじゃんよ。有罪だ、有罪。速攻で地獄に落とすのが吉じゃんよ。」
「ウチもジョーちんの意見に賛成~。リリア聖教会の聖教皇なんて、悪党間違いなしっしょ。ウチが知ってる前の聖教皇も拷問好きの、超悪趣味のイカれたクソ女だったし。グレイの言う通り、この聖教皇、めっちゃメイク濃いし。後、年齢は39歳。つーことは、人間で言えば、ババアだっしょ。女神の神託を改竄するとか、マジで終わってるっしょ、このババア。リリアどころか、神界の他の神まで舐められてると思って、マジ怒らせることしてるし。性格も見てて悪そうだし、確実に地獄行き確定してるわ。堕天使のウチが言うんだから、間違いなしっしょ。」
「パパの言う通りなの!あのオバちゃん、マリアンヌお姉ちゃんを殺そうとしてたの!目がとっても悪い人の目、なの!ユウザイ、なの!」
「カテリーナ聖教皇陛下、あなたはリリア様の「巫女」でありながら、己の私利私欲を満たすために、リリア様からの神託を改竄し、ジョー様を勇者として引き抜き、利用しようとした。私も、私の父も、かつては勇者たちを独占し、利用しようと考えたこともありました。その結果、元勇者たちが世界中で暴走する問題を引き起こしました。私も自らが罪人である自覚はあります。ですが、神託の改竄という大罪を自らの意思で、私利私欲のために犯したことはありません。カテリーナ聖教皇、あなたは禁忌を犯しました。そして、神託の改竄という大罪を犯しながら、全く反省されることもなく、証人であるこの私を殺し、罪の隠蔽を図ろうとなさいました。最早あなたに、リリア様の「巫女」を務める資格はありません。あなたの罪は白日の下に晒されました。もう言い逃れはできません。大人しく、罪を償ってください。ジョー様、カテリーナ聖教皇への処罰をお任せいたします。リリア様もそれを望まれるはずです。」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、スロウ、メル、マリアンヌがそれぞれ、僕の意見に賛同し、カテリーナを有罪、地獄に落とすべき悪党だと述べた。
みんなの意見を聞き終え、僕は笑みを浮かべながら、ふたたび右手に持つ拳銃の銃口をカテリーナに向けながら言った。
「みんな、お前が有罪、悪党だと言っているぞ。小さい子どもの目から見ても、お前は悪党に見えるそうだ。子どもは正直だからな。というわけで、お前は有罪確定だ。お前は、この僕が復讐すべき異世界の悪党だ。処刑ショーのカーテンコールに、お前に復讐する。聖職者の皮を被った性質の悪い悪党は一掃する。正義と復讐の鉄槌を受けて、地獄に落ちるがいい、欲にまみれた外道のクソ聖教皇!」
僕は全身から霊能力を解放し、紫色の霊能力のエネルギーを全身に身に纏った。
そして、右手に持つ拳銃に紫色の霊能力のエネルギーを流し込むと、拳銃のハンマーを起こし、トリガーに指を当て、銃口をカテリーナに向け、カテリーナを睨みつけた。
「お、お待ちください、「黒の勇者」様!?私は、私は無実なのです!そこにいる女たちの戯言に耳を貸さないでください!どうか、どうか私の話を信じてください!?」
「問答無用!浮闇沈闇!」
僕は激しい怒りを露わにすると、拳銃のトリガーを引いた。
拳銃より、「浮闇沈闇」の効果を付与した霊能力のエネルギーの弾丸が高速で発射され、弾丸は真っ直ぐにカテリーナの左肩を撃ち抜いた。
「ぐっ!?」
左肩を撃ち抜かれ、カテリーナが痛みで顔を歪めながら、後方の玉座まで吹き飛ばされた。
玉座まで吹き飛ばされたカテリーナが左肩を押さえながら悶え苦しんでいると、急にカテリーナの体が宙に浮かび上がった。
カテリーナの体は、糸が切れた風船のように、ドンドンと空中高くへ浮かび上がり、そして、宮殿の天井にぶつかって止まった。
「がぁっ!?な、何だ、これは!?わ、私の体が宙に浮かんでいる!?な、何なのだ、これは!?」
空中に浮かんで天井にぶつかって慌てふためくカテリーナに、僕は下から天井にいるカテリーナに向かって、笑みを浮かべながら言った。
「クソ聖教皇、お前の肉体にかかる重力をゼロにした。お前は一生、無重力の状態のまま生活しなきゃならなくなる。お前はもう一生、地面に足をつけることはできない。誰もお前を地面に下ろすことはできない。僕か女神を除けばの話だが。天井が破れれば、お前はどこまでも空高く飛んで行く。風が吹けば、どこまでも流される。宙に浮いたままじゃあ、食事も風呂もトイレも、自分では満足にできない。お前は普通の人間としての生活を失い、最悪、宙に浮いたまま死ぬことになる。正に生き地獄だ。たっぷりと苦しんでから本物の地獄に落ちるがいい。精々、光の女神リリア様に自分の罪を告白して懺悔することだな。心の広~い、お前を真の「巫女」と呼んで大事に思うリリア様なら、きちんと謝りさえすれば、ワンチャン許してくれるかも、なんてな。ああっ、でも、お前は人を見下すのが大好きみたいだし、一生宙に浮いていれば、人を見下し放題だな。なら、反省なんてするわけないな。じゃあな、外道のクソ聖教皇。夢の無重力生活をどうぞ心行くまでご堪能あれ。」
僕はカテリーナに最後にそう言うと、後ろを振り向き、仲間たちと歩いて謁見の間を立ち去るのであった。
「お、お待ちください、「黒の勇者」様!?どうか、どうかこの私をお許しを!?どうか、お許しください、「黒の勇者」様!「黒の勇者」様ーーー!?」
カテリーナが僕に必死に命乞いをするが、僕はカテリーナの命乞いをスルーし、仲間たちと共に談笑しながら、謁見の間を出てゆく。
宮殿内にはカテリーナの悲痛な叫びが何度も木霊する。
宮殿内にいた役人や聖騎士、聖職者、リリア聖教会の信者たちは、戦々恐々とした面持ちで、僕たち「アウトサイダーズ」一行の姿を遠巻きに見ているのであった。
宮殿の入り口を出て、宮殿前の広場へと出た僕は、宮殿の方を振り返ると、右手に持つ拳銃の銃口を宮殿に向けながら言った。
「聖職者の皮を被った悪党どもは、悪質な宗教団体はぶちのめす!これで復讐のカーテンコールのラストだ!浮闇沈闇!」
僕は紫色の霊能力のエネルギーをさらに拳銃へと注ぎ込んだ。
それから、トリガーを引き、紫色の霊能力のエネルギーの弾丸を発射した。
弾丸は宮殿の屋根に直撃し、屋根を撃ち抜いた。
弾丸が宮殿の屋根を撃ち抜き、炸裂した瞬間、宮殿が突如、ゴゴォーっという音を立てながら、少しずつ空中へと浮かび上がった。
宮殿はゆっくりと宙へと浮かんで行くと、3分ほど真上へと浮かんだ後、地上から50mほど浮かんだ後、ふたたびゆっくりと真下に向かって降りて行く。
3分後、地上に宮殿が着陸したかと思えば、また真上に向かって宮殿は浮かんで行く。
宮殿は3分おきに、空中へ上がったり、空中より下がったりをひたすら繰り返すのであった。
宮殿内にいる人間たちは混乱し、宮殿が地上に降りたタイミングで、一気に慌てて宮殿の外へと走って逃げて行く。
宮殿の周りにいる人間、ゾイサイト聖教国の国民たちや観光客たちなどは、宮殿の異変を見て、口をポカンと開けて驚き、その場で立ち尽くしている。
僕はその光景を見ながら、思わず笑った。
「ハハハ!ざまぁみろ!悪質宗教団体はこれで権威失墜、解散に追い込まれること間違いなしだ!散々、善良な信者たちを騙して、搾取し続けた罪の報いだ!ご自慢の宮殿はもう使い物にならない!さらば、悪質宗教団体よ!散々、迷惑をかけられた恨みもついでに晴らしてやった!これでカーテンコールは無事、終了だ!みんな、お疲れ様でした!」
仲間たちも宮殿の上がったり、下がったりする光景を見て、ゲラゲラと笑っている。
「パパ~、どんなお仕置きをしたなの?」
メルに訊ねられ、僕は笑いながら答えた。
「ハハハ!見た通りだよ、メル!パパは重力っていうエネルギーを操ることができるんだ!重力って言うのはね、地面に物を落とすと、地面に引っ張られる力のことなんだ!物が地面に落ちる力をゼロにしたり、逆に増やしたりする魔法を、あの大きな宮殿にかけたんだよ!3分おきに上がったり、下がったり、それをずっと繰り返す悪戯でお仕置きさ!自分のお家が空に飛んだり、落っこちたりしたら、お家に住むのはすっごく大変だろ?重力ってのは、すっごい力なんだよ!今度また、見せてあげるからね!」
「やったー、なの!ジュウリョク、すっごい、なの!悪い奴らを落っことしちゃうなの!フワフワドンドン、なの!パパのお仕置き、最高、なの!」
「そうか、そうか!重力がそんなに気に入ったのか、メルは!なら、今度、重力を使ったもっと凄いお仕置きを見せてあげるからね!重力を使って何でもかんでも一瞬でペチャンコにぶっ潰す技を見せてあげよう!悪党がたちまち、グチャグチャに潰れて、それはもう、すっごい威力なんだぞ!」
「本当ー!?ジュウリョク、すっごいなの!悪い奴らはグッチャグッチャ、なの!パパ、絶対に見せてね!」
「もちろんだよ、メル!重力を使った悪党退治やモンスター退治を見せてあげるからね!約束だよ!」
僕とメルは笑いながら、重力を使った悪党退治について話すのであった。
「こ、これが親子の会話!?ジョーちんの教育方針、マジで歪んでるわ~。メルちゃんも人殺しの技を聞いて喜ぶとか、マジで感性がぶっ飛んでるわ~。この親子、ちょっと、いや、マジで過激過ぎじゃね?早くまともなママが傍で教育をサポートしねえと、ヤバくね?」
「スロウさんも気付いてしまいましたか。メルさんのママ争奪戦は、丈様のメルさんへの過激な教育が行き過ぎないよう、早くストッパー役を見つける目的もあるのです。メルさんには普通の母親が必要だと思うのは、皆同じ気持ちなのです。」
「爆弾やポーカーフェイスなんかを既に教え始めているしな。メルの一番のお気に入りは爆弾だったりもする。丈が海賊共を爆弾で吹っ飛ばして殺したのを生で見て、楽しそうに笑ってたしな。メルは意外とグロ耐性があって、過激なアクションが好きな性格らしい。俺たちが早くママにならねえといけねえと、いつもそう思っているぜ。」
「私は丈君の教育方針には賛成。過酷な異世界で生き抜くためには、戦うための覚悟や技術を覚えていた方が絶対に良い。幼い頃から訓練をするのは必要。むしろ、ちょっと過激で強いママがメルちゃんの好みだと、分析する。普通のママではウケないと、私は思う。」
「いやしかし、ジョー殿の教育方針はいささか過激過ぎるのではないか?我も幼い頃より父上に剣を教わってはきたが、あそこまで過激な、人殺しの技や道具を嬉々として教えられた覚えはないぞ?このままだと、メル殿は戦闘狂の軍人か、あるいは殺人を嬉々として行う殺し屋にでもなりかねん気がする。やはり、普通の母親が、常識を教えられる方が良いのではないだろうか?」
「でもよ~、ジョーは多分、無意識に、平気でこれからも危ねえ技や武器なんかをメルに教え込むに決まっているぜ。玩具とか遊び感覚で、爆弾以上のモノを、悪党をぶっ倒すために必要だとか言って、ドンドン教えるに決まってる。メルも喜んで覚えるに決まってるじゃんよ。ただ、普段のジョーは真面目で優しいし、パパとしては普通だし、なら、女の子っぽい遊びとか趣味とかをアタシらがママとして教えれば、それでちょうど丸く収まるんじゃねえか?料理とか、裁縫とか、ファッションとかなら、教える自信あるじゃん。」
「ジョー様がメルさんに過激なことを教えるのはもう習慣と言いますか、それがジョー様とメルさんの親子のコミュニケーション方法なんだと、思います。普通の親子のコミュニケーションからはかけ離れていますが、結果的にはジョー様とメルさんの関係が良好なのを見れば、ジョー様の過激な教育がメルさんにマッチしていたのだと思います。ジョー様の教育方針はこれからも変わらないと、私も諦め始めました。せめて、普通の女の子がする遊びだとか、常識やお勉強を教えるだとか、そういった部分を私たちママ候補がこれからメルさんに教えて、何とか帳尻を合わせる必要があるかと。メルさんが将来、ジョー様以上に過激な破壊活動を行う、傭兵や冒険者になるのではないか、そんな不安があります。」
「う~ん。ジョーちんの恋人になるのと、メルちゃんのママになるのを両立させるのは意外に難しいように思えてきたっしょ。小さい子どもの母親になった経験なんてないし。家庭を持つのは大変なことだとよく分かったっしょ。人間って、当たり前のように難しいことをしているんだな~。でも、ウチは諦めないっしょ。ウチは頑張ればできる子なんだし。ゾーイも付いてるし。ウチとゾーイ、一人で二人のママになれるっしょ。ダブルママでタッグを組めば、きっとイケる、イケるはずっしょ。」
スロウ、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、マリアンヌは、主人公によるメルへの教育方針を巡り、互いに思う理想のメルの母親像や、母親としての教育方針について、熱く七人で語り合うのであった。
僕たちが宮殿前の広場でそれぞれ話し込んでいると、急に背後から、僕たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
厳密に言えば、僕とスロウ、それとスロウと融合するゾーイに対してである。
「やはりこちらにおいででしたか、「黒の勇者様」!ゾーイも元気そうで何よりだ!お久しぶりでございます、「黒の勇者」様!ゾーイの父、ヘンリー・エクセレント・ホーリーライトでございます!先日は無礼を働いてしまい、大変申し訳ございませんでした!我が愛娘のゾーイも大変お世話になりました!それから、元「弓聖」たち一行の討伐、ご苦労様でございました!是非、我がホーリーライト家にお越しください!ささやかながら、お祝いの席をご用意しております!どうぞ、我が家へお越しください!」
「初めまして、「黒の勇者」様!私は、マイア・エクセレント・ホーリーライトと申します!ゾーイの実の母です!先日は主人と馬鹿息子がとんだご無礼をしてしまい、大変申し訳ございませんでした!家出中のゾーイを保護していただいたようで、本当にありがとうございます!まぁ、ゾーイったら、すっかり元気になって、今時のオシャレな女の子になって、前よりももっと可愛くなったわね!「黒の勇者」様、是非、我が家にお越しください!ゾーイ、あなたからも「黒の勇者」様を家に呼んであげなさい!お世話になったのだから、ちゃんと御礼をしなくてはいけませんよ!さぁ、一緒にいらっしゃい!「黒の勇者」様もどうぞ遠慮なく、我が家へお越しください!」
僕たちの後方に、金髪の50代前半の男性と、金髪の40代後半の女性、いずれも貴族らしい身なりをした中年の男女二人組が、笑みを浮かべながら、僕たちに話しかけてきた。
ゾーイの実家、ホーリーライト家の当主でゾーイの実父、ヘンリー・エクセレント・ホーリーライトと、当主の妻でゾーイの実母、マイア・エクセレント・ホーリーライトの二人であった。
ゾーイを、死んだアーロンと共に、家族ぐるみで長年に渡って虐待し、ゾーイを自殺未遂に追い込んだ張本人たちで、毒親の人間のクズどもである。
ゾーイがスロウと融合して家出した後も、しつこくゾーイとスロウを追い回し、暴言や暴力を振るう正に毒親の鏡である。
ゾーイとスロウを助けに入った僕に注意され、逆上していきなり剣で斬りかかってくる、無礼で品性の欠片もない、どうしようもない人間のクズである。
いや、罪が公になっていないだけで、この二人は何の罪もないゾーイの尊厳を踏みにじり、自殺に追い込んだ、間違いなく異世界の悪党である。
更生の価値は微塵もない、どこまでも下劣な悪党である。
ヘンリーとマイアを見るなり、僕の機嫌は一瞬で不快になり、連中への正義と復讐の怒りが心の中にたちまち燃え上がった。
「メル、玉藻お姉ちゃんたちの傍に行くんだ。久しぶりだなぁー、ストーカーのクソ親父。お前と死んだアーロンには、大分世話になった。逆恨みで親子そろって僕に斬りかかってきたクソ雑魚勇者もどきのお前たちのことは、よ~く覚えているぞ。特に、お前の自慢の息子には、最後の最後までしつこく付きまとわれて、非常に不愉快だった。やっとお前たちの顔を見ずに気分良く、この胸糞悪い国を出て行こうと思ったら、また、お前の顔を見ることになって、僕は不愉快以外何もない。いや、もう一つあった。怒りだ。お前と、お前の嫁、後、死んだアーロン、お前たちがゾーイに虐待をしていたことは知っているぞ。お前たちに苦しめられたせいで、ゾーイは、ゾーイは自殺しようとまでしたんだ!お前ら毒親の悪党だけは絶対に許さん!お前たちの屋敷なんぞに行くぐらいなら、屋敷そのものをぶち壊す!全員、手を出すなよ!この毒親の悪党どもは、僕が地獄に叩き落とす!正義と復讐の鉄槌を受けて、地獄に落ちる覚悟はできたか、毒親の悪党ども!」
「待って、ジョーちん!ゾーイの恨みは、ウチの恨みも同然だから!あの毒親どもに復讐して地獄に叩き落とすのは、ウチらに任せてくんない?どうしても、止めを刺したいなら、止めを刺せるようにすることもできなくはないけどさぁ~。どうする、ジョーちん?」
スロウが、融合するゾーイのため、ヘンリーとマイアの二人に、自分で復讐したい、とそう僕に申し出てきた。
「本来復讐する権利は、スロウとゾーイの二人にある。二人の復讐が生温いと感じた時は、横から手を出すかもしれない。スロウ、ゾーイ、あの毒親どもを必ず地獄に叩き落とすんだ。正義と復讐の鉄槌をたっぷりと味わわせてやれ。情けは無用だ。できるよな?」
「OK、ジョーちん!あの毒親のクズどもはウチらが地獄に落とす!今度こそあの毒親のクズどもとバッサリ縁切って、二度と会えねえようぶちのめすから、まぁ、任せといて。そんじゃ~、行かせていただきま~す。」
スロウは僕に向かって笑みを浮かべながらそう言うと、黒い鎖鎌を両手に持って、ヘンリーとマイアへと近づいていく。
「く、「黒の勇者」様、わ、私たちはあなたに危害を加えるつもりは一切ありません!?先日の件でまだお怒りと言うなら、どうか、どうかお許しを!?ぞ、ゾーイ、は、早く「黒の勇者」様を説得しろ!?な、何故、私たちに向けて武器を構えるのだ!?お、落ち着くんだ、ゾーイ!?」
「ぞ、ゾーイ、家出のことはもう怒ってないから!?お母さんもお父さんも、ずっとあなたのことを心配していたのよ!?良いからそんな物騒な武器はしまいなさい!「黒の勇者」様も呼んで、みんなで一緒に屋敷でパーティーをしましょう!ねっ!?」
ヘンリーとマイアが必死にスロウとゾーイ、それと僕を説得しようとするが、僕たちの意思は変わらない。
ヘンリーとマイアから10mほど離れた位置で立ち止まると、右手には黒い鎌を持ち、左手には黒い鎖分銅を持ち、鎖分銅をブンブン振り回しながら、スロウはヘンリーとマイアに向かって言った。
「いい加減にしろっての、ストーカーのクソ親父。ウチはテメエの娘じゃねえから。ウチの名前はスロウラルド。スロウっていうちゃんとした名前があんの。ステータス鑑定して確かめてみろ、って何度も言ってんのに、全然ウチの話聞かねえし。ゾーイは、アンタの娘はもうこの国にはいねえから。ウチと同じ様に、自由気ままに人生を生きたいって言って、テメエの家を出て行ったんだよ。ウチとちょっと顔が似てるからって、追いかけてくんの、マジ止めてくんない?ホントにキモいから。大体、髪とかスタイルとか、全然違うし。髪の色は地毛だから。よく見ろや。アンタらともガチで違うし。クソババア、テメエならウチがテメエの娘じゃねえくらい、分かるよな?テメエの旦那がロリコンのストーカーのクソ親父だってことも分かってる?テメエの旦那、実の娘に欲情して、隠れて娘の胸触ってたって聞いたし。マジ、キッショ。テメエら、マジで阿保でキモくてウザい。それと、ウチの友達を虐待して、自殺に追い込んだ超ド級の毒親のテメエらはマジで許さねえから。二人まとめて、速攻で地獄に落としてやるっしょ。キモくてウザい毒親のテメエらは、ウチが止めを刺す。」
「お、落ち着きなさい、ゾーイ!?冷静になるのよ!あなた、ゾーイの胸を、実の娘の胸を触っていたなんて、本当なの!?実の娘に欲情して犯そうとするなんて、あなた、それでも元聖騎士なの!?父親と言えるの!?胸の大きさなんて関係ない、だとか言って、この私にプロポーズした言葉も全部、嘘だったわけね!?キィー、悔しいー!?まさか、外に若い巨乳の愛人でも作っているの!?一体、何人愛人がいるの!?正直に白状なさい、このバカ亭主!」
「ま、待て!?ご、誤解だ、マイア!?わ、私はロリコンでも巨乳好きでもない!若い愛人なんて一人もいない!ぞ、ゾーイがまだ体が弱かった頃、看病のために体を拭いてやったことがある!その時のことを大げさに言っているだけだ!ゾーイはまだ思春期の女の子だ!ちょっと遅い反抗期なんだよ、あの子は!?ぞ、ゾーイ、お、お父さんが体に触れて、そのせいで嫌な思いをさせたなら、すまなかった!お父さんも配慮に欠けていた!だ、だから、お母さんの誤解を解いてくれ!た、頼む、ゾーイ!?」
スロウの明かした事実を聞き、マイヤは激怒し、ヘンリーに詰め寄るのであった。
千里眼でヘンリーを透視した僕は、ヘンリーの持ち物の中に面白いモノを見つけ、笑みを浮かべながら、ヘンリーとマイアに向かって言った。
「スロウの言う通り、本当に巨乳好きのロリコンらしいな、ストーカーのクソ親父。奥さん、旦那さんの懐をよく探してみると良い。「ラブリー・ダイナマイト・リトルデビル」って言う娼館の店名が書かれた、娼婦の女性の名前も書かれた❤マーク付きの名刺を持っているぞ。それと、腰のアイテムポーチの中に、違法ポルノのエロ写真が数枚入っている。モデルは、15歳から19歳くらいの、10代後半の巨乳の未成年の女の子ばかりだ。しかも、全裸だ。闇ギルドなんかでいまだに流通しているモノをこっそり横流しでもしてもらったのか?見つかったら、即逮捕確実だ。「白光聖騎士団」の元総団長で枢機卿が、違法ポルノの所持で現行犯逮捕とは、実に情けない。僕の千里眼はあらゆる物を見通す。言い逃れはできないぞ、ロリコンのストーカークソ親父。ロリコンのストーカークソ親父の奥さん、アンタも相当なクズだが、自慢の旦那はそれ以上のクズ、いや、本物の性犯罪者らしいな。ホーリーライト家って、ゾーイを除くと、本当に最低最悪な奴ばっかりだな。」
僕の言葉を聞いてますます怒り狂ったマイアが、ヘンリーの懐と、ヘンリーの腰のアイテムポーチを急いで念入りに調べた結果、僕の言った通り、娼館の名刺に、未成年の女の子のエロ写真数枚が出てきた。
青ざめた表情を浮かべるヘンリーに、マイアが凄まじい剣幕で詰め寄り、ヘンリーを問いただした。
「あなた、これは一体、何ですか!?この名刺に書いてあるキャンディとか言う女とは、一体どういう関係なの?裏にメッセージが!「パ〇ズリ大好きなオジ様へ、何時でもキャンディのおっきくて柔らかいFカップが待ってます❤」・・・あ、あなた!この女と寝たのね!私に隠れて、この女の胸を触って楽しんでいたのね!こ、この浮気亭主!?」
「そ、そんな名刺は知らない!?私はキャンディなんて女は知らない・・・」
「じゃあ、このたくさんの、若い女のエロ写真は何?みんな、ゾーイくらいの、巨乳の若い女の子の裸じゃない!どうして、こんないかがわしいモノが、違法ポルノがあなたのポーチから出て来るんです!?このエロ写真のせいで一体、どれだけ大勢の貴族や役人が逮捕されたか、よく知っているでしょう!ま、まさか、ほ、本当に巨乳好きのロリコンなの!?ゾーイの胸を触ったのも事実!?け、汚らわしい!?このロリコン巨乳好きの変態バカ亭主、アンタとなんて離婚よ、離婚!ゾーイの言う通り、本当に気持ち悪い!こんなロリコンの性犯罪者の男が今まで夫だったなんて!アーロンが犯罪者に堕ちたのも、あなたの血を引いたせいに違いないわ!ゾーイ、お父さんのことはもう忘れなさい!この変態と私たちは一切、関係ない、赤の他人よ!私もゾーイも実家に帰らせていただきます!離婚の慰謝料はたっぷり請求しますから!あなたに払う余裕なんて全く無いでしょうけど!一緒に帰りましょう、ゾーイ!」
「ま、待ってくれ!?ほんの、ほんの少し魔が差しただけなんだ!?キャンディとは一度だけの関係だ!最近、別れたんだ!そのエロ写真も、仲の良い友人からたまたま最近もらっただけで、断れず、仕方なく受け取ったものなんだよ!私が本当に愛しているのはマイア、お前だけだ!本当だ、本当に愛している!ゾーイ、お父さんは本当にお母さんのことを愛している!お前のことも娘として愛している!どうか、母さんを説得してくれ!私を信じてくれ!この通りだ!」
ヘンリーが必死にマイアにしがみつき、マイアに浮気やエロ写真のことを謝るが、マイアは全く聞く耳を持たない。
「ジョーちん、ウチがあの毒親どもに止めを刺すって言ったのに、先に止め刺すとかズルいよ~。もうアレ、完全に修羅場というか、地獄じゃん。証拠出た時点で破滅確定したじゃん。ウチもゾーイも張り切ってるのに、酷いよ~。」
スロウが不満げな表情を浮かべ、僕に抗議した。
「アハハハ!?いや、まさかエロ写真まで持ってるとは思ってなくてさぁ~。まさか本当に性犯罪に手を染めているとは、証拠まで持ち歩いているとは思ってなくてさ。お気に入りのエロ写真を何時でもどこでも見られるようにと、アイテムポーチに入れて大事に持ち歩いていたんだろうな、きっと。思考が変態や性犯罪者のそれだな。ドンピシャもドンピシャだ。もう余計なことは言わないから。約束する。スロウ、その毒親二人を修羅場以上の、本物の地獄へと落としてやれ。最高にイカした復讐を頼むよ。」
「OK。余計な手出しはもう無しだからね。おい、そこの毒親ども。テメエら二人ともまとめて、ウチが地獄に落とす!修羅場も刑務所も超生温い、最高に激ヤバな復讐をお見舞いしてやるっしょ!覚悟しろや、低脳の毒親ども!」
スロウが鎖鎌を両手に持って構えながら、喧嘩するヘンリーとマイアに向かって、激しい怒りとともに、復讐することを宣言した。
「ま、マイア、今は喧嘩している場合ではない!?早くゾーイを取り押さえるんだ!あの子の暴走を止めるのが先決だ!」
「フン!確かにあなたの言うことは最もね!大事なゾーイに何かあっては困りますからね!今だけ、あなたに手を貸すとするわ、バカ亭主!」
スロウが自分たちに復讐しようとしていることに気が付き、ヘンリーとマイアは慌てて、それぞれ武器を構えた。
ヘンリーは両手にロングソード、マイアは左手に丸い盾、右手にショートソードを持っている。
「毒親ども、先攻は許してやるよ。一回だけな。どうせテメエらはウチがすぐに地獄に落とすだけだから。かかってきな。」
スロウが少し気だるげな雰囲気ながら、笑みを浮かべてヘンリーとマイアを挑発する。
「少し健康になって才能が目覚めた程度で調子に乗るんじゃない!反抗期も大概にしろ!父の強さを忘れたか!お前に父の偉大さを教えてくれる!マイア、結界でサポートを頼む!」
「しょうがないわね!ゾーイ、こんな手荒な真似はしたくないけど、あなたは必ず連れ戻しますからね!母としてあなたを一から教育し直してあげる!行くわよ、千剣結界!」
マイアが左手に持つ丸盾がオレンジ色に光り輝いた瞬間、マイアとヘンリーの周囲に地面からオレンジ色に光り輝く千本のロングソードが現れ、地面に突き刺さったまま、マイアとヘンリーを取り囲むように展開された。
マイアが出現させた千本のロングソードの結界の光を浴びて、ヘンリーの体に力がみなぎり、ヘンリーの魔力やパワー、スピードなどが強化されていく。
「流石はマイア、腕は鈍っていないようだな。待たせたな、ゾーイ。マイアのサポートも加わった、父の光の剣を受けてみるがいい!聖光一閃!」
ヘンリーが持つロングソードの刃が黄金色に光り輝くと、ヘンリーはロングソードを縦に振り下ろし、スロウに向かって光の速度で飛ぶ光の斬撃を放った。
光速で飛ぶ光の斬撃をスロウは全くかわすことはせず、両手を素早く左右に広げ、全身をターコイズグリーン色に光らせながら、両手に持つ鎖鎌の鎖を左右に広げるように伸ばし、ヘンリーの放った光の斬撃を正面から受け止めた。
ヘンリーの光の斬撃は、スロウの鎖で防御され、そのまま鎖の前で霧散した。
スロウが光の斬撃を軽く防いだのを見て、ヘンリーとマイアは驚き、困惑する。
「そ、そんな、馬鹿な!?マイアのバフまで加わった私の光の斬撃を防いだだと!?ゾーイにあんな力があるわけが!?くっ、こうなれば、もう一度全力の一撃を食らわせるまでだ!」
「私のバフまで加わったヘンリーの斬撃を、あ、あんな、鎖で軽く防いだ!?ぞ、ゾーイにあんな芸当できるはずが!?ま、まさか本当に別人なんじゃ!?」
「うろたえるな、マイア!もう一度、最大限のバフを私にくれ!ゾーイの成長が予想以上だったわけだ!私たちの子なんだ!あのくらいできてもおかしくはない!もう一度、行くぞ!」
「ええっ、あなた!?ゾーイ、流石は私たちの自慢の娘ね!なら、私も久しぶりに本気を出すとしましょう!行くわよ、あなた!」
ヘンリーの持つ剣がふたたび金色に光り輝く。マイアの結界のバフも加わり、先ほどよりも大きく光り輝き、威力が増していく。
「聖光一・・・」
ヘンリーがふたたびスロウに向かって剣を振り下ろし、さらにマイアの「千剣結界」で生み出された剣の半分、地面に突き刺さっている500本のロングソードが地面から浮かび、刃をスロウに向けながら、大量のロングソードがスロウへ向かって飛んでいこうとした瞬間、スロウの体がターコイズグリーン色に光り輝いた。
スロウが「時間逆行」の能力を使い、スロウの半径1㎞以内の空間の時間を止めた。
時間を停止させた影響で、ヘンリーもマイアも、宮殿前にいるほとんどの人間が彫像のように固まり、動きが止まっている。
時間が停止している空間の中を、スロウは悠々と歩きながら、右手に持つ鎖分銅をブンブンと振り回す。
そして、ヘンリーとマイアの傍に近づくと、勢いよく振り回す鎖分銅を、マイアが展開する「千剣結界」の千本の剣に叩きつけ、木っ端微塵に全て粉砕していく。
マイアの左手に持つ丸盾に鎖分銅を勢いよく叩きつけて、マイアの丸盾を破壊した。
それから、鎖分銅をヘンリーの持つロングソードの剣先に絡みつけ、強引に剣をヘンリーの手から引き抜き、奪い取った。
スロウは右手に持つ鎌をヘンリーの右足の太もも、マイアの右足の太ももにそれぞれ深く突き刺した。
最後に、鎌での攻撃を終えると、右手に持っていた鎖分銅を左手に移し、右手をフリーにし、魔力を集中させ、右手をさらにターコイズグリーン色に光り輝かせた。
「これがテメエらが出来損ないと言って、散々馬鹿にして虐めた実の娘の、ゾーイの本当の力だっしょ!たっぷりと食らって地獄に落ちろや、毒親ども!制限付与!」
スロウはそう言うと、融合しているゾーイのスキルにして魔法、「制限付与」を発動すると、右手でヘンリーとマイアに触れた。
スロウの右手からターコイズグリーン色の魔力のエネルギーがヘンリーとマイアの体に流れ込んだ。
ヘンリーとマイアへの復讐を終えたスロウは、悠々と僕たちの方へと歩いて戻って来た。
「時間停止解除!ふぅ~、久しぶりに一分、時間を止めたっしょ。マジで疲れた~。でも、毒親ども、テメエら二人とも、地獄に落としてやったしょ。これから生き地獄をたっぷりと味わえや。」
スロウが時間停止を解除すると、止まっていた時間がふたたび動き出した。
「・・・閃!け、剣がない!?ギャアー、あ、足が痛い!?私の足が、足がー!?」
「た、盾が壊れてる!?結界が破壊されてる!?キャアー、い、痛い!?」
時間停止が解除され、ヘンリーとマイアがふたたび動き出したが、ヘンリーは剣を奪われ、光の斬撃を撃てずに不発で終わり、マイアは盾と結界を破壊されてしまった。
さらに、二人とも右足の太ももをスロウの鎌で深く突き刺され、傷口からドバドバと大量の血が出血し、あまりの激痛に二人とも太ももの傷口を押さえたまま、悲鳴を上げ、地面を転げ回っている。
「ま、マイア、は、早く、回復術を使ってくれ!?」
「わ、分かってるわよ!?なっ!?か、回復術が使えない!?ま、魔力が上手く流れない!?」
「何をしてるんだ!?早く私を治せ、この年増の貧乳馬鹿女が!?」
「誰が年増の貧乳馬鹿女ですって!?もう、アンタなんて知らないわ!?自分の傷ぐらい、自分で治せ!このロリコンの役立たずの馬鹿亭主!?」
「し、しまった!?マイア、今のはつい、八つ当たりしただけなんだ!私を許してくれ、マイア!」
ヘンリーとマイアがみっともなく口論する中、スロウが冷たい笑みを浮かべながら、二人に向かって言った。
「毒親のクズども!テメエら二人とも、もうとっくに人生終わってるんだよ!テメエら二人とも、もう二度と、一生スキルは使えねえんだよ!テメエらの使える魔力は1%だけだ!精々、超簡単な魔道具を使うのがやっとってところっしょ!早く病院に行って治療しねえと、テメエら二人とも、一生片足まで使えなくなるどころか、そのまま大量出血で死ぬことになるっしょ!たっぷりと生き地獄を楽しんでから地獄に落ちろや!ああっ、そこの警備隊の聖騎士のお兄さんたち~、そこで倒れてるオジさんがエロ写真をたくさん持ってま~す!未成年と援交してま~す!さっさと逮捕してくださ~い!」
スロウが、広場前にいた警備隊の聖騎士たちを大声で呼び、ヘンリーを逮捕するように言った。
スロウに呼ばれた警備隊の聖騎士たちが慌ててヘンリーたちの下に駆け寄ると、ヘンリーの持つエロ写真や、娼館の名刺を見て、すぐさまヘンリーをその場で現行犯逮捕した。
「何と、ヘンリー・エクセレント・ホーリーライト枢機卿ではありませんか?」
「おい、これは例の違法ポルノの、エロ写真じゃないか?しかも、未成年の女性のモノがこんなにたくさんあるぞ!明らかに違法ポルノの所持だ!」
「この名刺を見ろ!これは先日、未成年の女性たちを使って違法営業していた罪で摘発された風俗店の名刺だ!ヘンリー枢機卿、あなたもこの違法風俗店を利用していた一人だったとは!?」
「〇月△日午後4時32分◇秒、違法ポルノの所持で現行犯逮捕します、ヘンリー・エクセレント・ホーリーライト枢機卿!それと、未成年との援助交際の容疑でも取り調べを受けていただくことになります!あなたには黙秘権と、弁護士を呼ぶ権利があります!ですが、厳罰は免れないと思っていてください!おい、この男を詰所まで連行しろ!」
「マイア・エクセレント・ホーリーライトさん、一応、あなたにもご同行いただきます!ご主人の件にあなたが関わっている可能性も否定できませんので!この女性も連れて行くぞ!」
こうして、ヘンリーは警備隊の聖騎士によって現行犯逮捕され、マイアも共犯の疑いでヘンリーとともに連行されることとなった。
「は、離せ、無礼者!私は「白光聖騎士団」の元総団長で現職の枢機卿で貴族だぞ!?くそっ、離せ、離せー!?」
「わ、私はそこの馬鹿亭主とは何も関係ないわよ!?共犯なんてありえないでしょ!?ぞ、ゾーイ、お母さんを助けて!?お母さんは何も関係ないって、無実だと言って!?」
「ぞ、ゾーイ、お父さんを、お父さんを助けてくれー!?自慢の娘よ、頼む!?」
ヘンリーとマイアの助けを呼ぶ声を、スロウは笑いながら拒否する。
「聖騎士のお兄さんたち、その頭のおかしいオジさんたちをとっとと連れて行ってください。ウチとその二人は全くの無関係なんで。娘でも何でもない赤の他人なんで。実の娘さんが家出したショックとやらで、顔がよく似たウチのことを娘だとか言って、しつこく追いかけてきて、マジ困ってるっしょ。とっとと逮捕して、刑務所入れるなり、病院に入れるなりしてほしいっしょ。よろしく頼みまする。」
「そうですか。それは大変でしたね。通報と逮捕へのご協力、ありがとうございました。あの二人にはストーカー行為を止めるよう、私たちから後で厳重注意しておきますので、どうかご安心ください。では、職務がありますので、私たちはこれで失礼いたします。お困りの際は何時でも相談してください。おい、その二人をさっさと連行しろ。それでは、お嬢さん、どうかお元気で。」
警備隊の聖騎士たちは、ヘンリーとマイアに手錠をかけると、詰所へと二人を連行するため、僕たちの前から去って行った。
ヘンリーとマイアへの復讐を終え、スロウが僕に向かって言った。
「どうよ、ジョーちん、ウチの復讐のお手並みは!ゾーイも滅茶苦茶喜んでるっしょ!ストーカーのロリコンクソ親父は逮捕、クソババアも共犯の疑いで逮捕。おまけに、毒親どもはこれから先ずっと、魔力もスキルもまともに使えない。片足が潰されてまともに歩くこともできない。ウチを利用して、成り上がろうとか、借金を返すとかもできない。マジで生き地獄、人生終了だっしょ。ウチが本気で復讐すれば、毒親どもを破滅させるとか、超余裕でできるんだし。どよ?」
「よくできた復讐だよ、スロウ。てっきり殺すかと思ったら、最後にゾーイのスキルで止めを刺して生き地獄を味わわせるか。それはそれでアリだ。まぁ、Lv.90の勇者もどきに、Lv.60の聖女もどきの変異種相手に負けるわけないだろうけど。「制限付与」、直接触れた相手の能力あるいは魔力に制限をかける魔法系スキルか。相手の能力あるいは魔力を最大で99%使用できなくなるよう、制限をかけられるとは、恐ろしい魔法だな。うっかり油断して近づきでもしたら、触られた瞬間に逆転されて敵は反撃も何もできずに、お前に殺されることになる。杖を使わない魔法という点でも興味深い。本当に凄いスキルだよ。スロウ、ゾーイ、復讐成功、本当におめでとう。」
「ありがと、ジョーちん。ゾーイもジョーちんに褒めてもらえて嬉しいって言ってるよ。ウチとゾーイが力を合わせれば、大抵の敵はイチコロっしょ。ウチらは無敵の姉妹でコンビだからね~。それより、ジョーちん、お腹減った~。何か食べさせて~、お願~い。」
「さっき大使館で散々、大盛りの食事を食べたばかりだろ?まだ、昼食を食べてから二時間経ったか経たないかだぞ?燃費が悪いにも程があるだろ?まぁ、でも、せっかくの復讐成功記念だ。本当は夕食のときにパーっと打上げをしようと思ってたけど、特別に何か奢ってやるよ。二人には今回、世話になったからな。何が食べたい、スロウ、ゾーイ?」
「う~ん。ちょっと待ってね。ゾーイは何が食べたい?今日はゾーイが一番食べたいモノを食べればいいっしょ!ふむふむ、なるほど。ジョーちん、ゾーイがタルト・タタンって言うお菓子が食べてみたいって言ってるっしょ。リンゴをいっぱい使った変わったパイだと言ってるっしょ。」
スロウから、ゾーイがタルト・タタンを食べたいと言ってると聞いて、僕は思わず笑ってしまった。
「ジョーちん、何で笑ってるっしょ?何がおかしいん?」
「ハハハ!いや、ゴメン、ゴメン。タルト・タタンが異世界にあるのも驚きだが、まさかその菓子をチョイスするとは思わなくてさ。僕が元いた世界のお菓子に関する本では、タルト・タタンは「世界最高の失敗作」という別名で呼ばれるお菓子だと、紹介されていたんだよ。アップル・パイを作る工程で失敗したのが、結果的に本物のアップルパイよりも美味しいパイに仕上がった、というわけさ。失敗作だって、別の人、別の視点から見れば、実は奇跡の大成功に早変わり、ということだ。ゾーイはあの毒親どもから勝手に出来損ないの娘と呼ばれていた。でも、最終的には、毒親どもは罪人として逮捕され、兄のアーロンは処刑された。ホーリーライト家の人間で一番まともで成功しているのは、出来損ないと蔑まれていたゾーイだった。タルト・タタンは正に、ゾーイを表わしているような、失敗が大成功に変わった奇跡のお菓子なんだよ。ゾーイが食べるのに一番ふさわしいお菓子だよ、本当。」
「ほぇー!タルト・タタンにそんな意味があるとは、知らなかったわ~。ゾーイもマジで知らないって。ただ、美味しくて変わったパイがあるって聞いたことがあったから、食べてみたいって思ったんだって。ジョーちんは料理についても物知りなんやね~。ウチもゾーイも、余計に食べたくなったわ。早く食べに行こう、ジョーちん。」
「了解だ。僕もタルト・タタンが食べたくなってきた。この前一緒に行った、ペトウッド共和国のケーキ店に行ってみよう。新鮮で美味しいリンゴを使ったタルト・タタンを食べられるかもしれない。ただ、打上前だから、食べ過ぎないように注意しろよ。」
「分かってますってば!それじゃあ、タルト・タタンを食べに行こう!ジョーちん、転送よろしく!」
「はいはい。それじゃあ、みんな、ペトウッドへタルト・タタンを食べに行くとしよう。もちろん、僕の奢りだ。」
それから、僕たちは瞬間移動して、宮殿前を去り、ペトウッド共和国のケーキ屋に移動した。
ケーキ屋に着くと、タルト・タタンを注文し、みんなで一緒におやつとして食べた。
サクサクのタルト生地の上に、ほんのり苦くて甘い、キャラメリゼされたリンゴが加わり、香ばしくて甘苦い、それでいて、どこか優しさを感じるパイで、絶品だった。
ちなみに、スロウはタルト・タタンをホールで5個食べ、それからお土産用に1個ホールで買った。
僕の奢りでかつ、復讐が成功して気分が良いとは言え、いつものように遠慮のないスロウなのであった。
タルト・タタンを食べ終えた後、僕たちはケーキ屋を出て、瞬間移動でゾイサイト聖教国首都のラトナ公国大使館へと戻った。
打ち上げが始まるまでの間、それぞれ各自、自分の部屋で休むことを決めた。
自室に戻ると、僕は、イヴとの合体を解くことにした。
両手を合わせ、胸の前で合掌した。
「イヴ、解放!」
呪文を唱えると同時に、僕の体が青白く光り輝き、僕は元の姿へと戻った。
僕の右隣には、イヴが姿を現した。
「お疲れ様。そして、ありがとう、イヴ。君のおかげで鷹尾たちを無事、倒すことができた。最高の処刑ショーのフィナーレを飾ることができた。力を貸してくれて、本当にありがとう。」
「お疲れ様である、婿殿。妾も婿殿と合体し、共に元「弓聖」たち一行に復讐することができ、大満足だ。婿殿と合体している時に、婿殿の心にほとばしる、悪党どもへの正義と復讐に燃える怒りをより深く感じた。婿殿をパートナーに選んで本当に良かった、そう心から改めて思った。妾の、闇の女神の能力を婿殿は受け継いだ。女神の能力を使いこなすには、ある程度の期間のトレーニングが必要だ。もし、能力の使用で困ることがあれば、何時でも妾に相談するがいい、婿殿。なんせ、妾は婿殿の、妻にして最高の復讐のパートナーなのだからな。」
「ありがとう、イヴ。闇の女神である君と出会えて、本当に良かった。おかげで、僕の復讐はまた一歩、確実に前進した。ところで、少し手伝ってほしいことがあるんだけど、良いかな?」
「妾は別に構わんぞ、婿殿。それで、何を手伝えばいい?」
僕は笑みを浮かべると、懐から、封印したプララルドたちの魂、それと、藍色のアイテムポーチを取り出した。
そして、藍色のアイテムポーチから、一冊の古びた本を取り出して、イヴに渡しながら言った。
「鷹尾に止めを刺す直前、鷹尾から鷹尾のアイテムポーチを瞬間移動で奪い取っておいた。ミストルティンを出したぐらいだ。他にも、犯罪やら何やらの、何かヤバいアイテムを隠し持っているんじゃないかと思ってね。アイテムポーチを開いて、中身を調べていたら、その本が出てきた。タイトルは、「ルーカス・ブレイドの手記」。スロウたち堕天使にパワハラをしていた、当時の先代の「光の勇者」、ルーカスという名前の男が、当時の勇者時代の出来事を個人的に記録した手記だ。何故、鷹尾がこんな本を大事に持っていたのか、ケーキ屋にいる間に、気になって読んでみたところ、その理由が分かった。とあるページに、スロウたち堕天使の存在が事細かに記載されていた。スロウたちの能力や性格だとか、ゾイサイト聖教国に封印しただとか、例のリリアが教えてきた命を削る封印の術式の使い方だとかね。ルーカスたち先代の勇者は、封印の術式を使ったせいで寿命を削られたそうだ。おまけに、当時のゾイサイト聖教国政府を中心に、堕天使たちの存在をアダマスの歴史から抹消するよう、各国で堕天使に関する情報や記録の抹消、改竄が行われたそうだ。ルーカスが死の間際、万が一、堕天使たちが復活した時に備えて、秘かにこの手記をどこかに残していたらしい。恐らく、鷹尾の奴はこの手記を見つけて堕天使の存在を知り、堕天使たちを復活させて、自身の犯罪計画に利用することを思いついたんだろう。この手記の詳しい出処までは分からないが、コイツが世間に公開されれば、とんでもないことになるのは間違いなしだ。手記を保管していた国、あるいは機関は大打撃を受けるし、恐らく堕天使の存在の歴史からの抹消を指示したのは、あのクソ女神のリリアに違いない。ゾイサイト聖教国関係の歴史書を買って読んでも、堕天使に関する記述は全く見当たらない点から、可能性は限りなくクロだ。コイツはリリアの悪事を白日の下に晒す証拠にもなる。頼みと言うのは、この「ルーカス・ブレイドの手記」を大量にコピーし、アダマスの各国政府に各マスコミ、それに神界の神々たちにバラまいてほしい。あのクソ女神をコイツで女神の座から一気に引きずりおろす。それと、神界の神々宛てに、僕とスロウからそれぞれ手紙を書いて一緒に送りたい。内容は、クソ女神から受けた被害に対する被害届だ。後、プララルドたちの魂はリリアに引き渡さず、誰か信頼のおける、神界の高位の神に預けてほしい。プララルドたちは、確かに悪党だが、リリアのこれまでの悪行を暴くための大事な証人だ。お願いしてもいいかな、イヴ?」
僕の提案を聞き、イヴは笑いながら承諾してくれた。
「フハハハ!了解だ、婿殿!この手記はあの馬鹿女のリリアの、女神としての権威や信頼を失墜させ、アヤツから女神の座を剥奪させる証拠となり得る!婿殿たちの手紙に、堕天使たちという証人がいれば、リリアは間違いなく、神界の高位の神々よりキツい裁きを受けることになる!最悪、女神の力と資格を奪われ、地獄に落とされる可能性も十分、あり得る!よくやってくれた、婿殿!流石は婿殿だ!コピーの複製と送付は全て妾に任せよ!フッフッフ、ついにあの馬鹿女を破滅の一歩手前まで追い込むことができる!妾と婿殿の復讐が成就する時は目前と言えよう!結果が今から楽しみだ!」
「お喜びいただけて何よりだよ。僕は打ち上げが終わったら、すぐに手紙を書く。スロウにも手紙を書くよう、伝えておく。手紙のコピーも忘れずに頼むよ。自称光の女神の、キチガイ女の邪神め、お前はこれで破滅したも同然だ。信者を失い、女神としての権威も失墜、最悪、地獄にお前は落とされることになる。お前を本当に地獄に叩き落とすまで、お前を破滅させるまで、僕の復讐はまだまだ続く。覚悟していろ、クソ女神!」
僕は光の女神リリアへのさらなる復讐の実行を決意したのであった。
翌日、僕の名前の書かれた手紙を添えて、「ルーカス・ブレイドの手記」のコピーがアダマスの各国政府と各マスコミに、イヴの手で送付された。
「ルーカス・ブレイドの手記」の存在と、当時の各国政府、特にゾイサイト聖教国政府、リリア聖教会本部が、堕天使たちの存在を歴史の公式記録から抹消したという事実が明るみとなり、各国政府に問い合わせや苦情が殺到することとなった。
また、堕天使の存在を歴史から抹消するのに、光の女神リリアからの指示があった、という疑惑が浮上し、光の女神リリアやリリア聖教会の存在を疑問視する声が、世界各地で上がった。
元勇者たちによる世界各国での暴走による世界の混乱、リリア聖教会の悪質な宗教活動、歴史から抹消された堕天使たちの存在、歴史の改竄に光の女神リリアが関わったかもしれない疑惑など、決して拭うことのできない事実や不安が、世界各国の人々を襲った。
それと、神界にも、イヴを通じて、「ルーカス・ブレイド」の手記と、僕とスロウの、リリアから受けた被害を訴える内容の手紙、以上二点のコピーが大量にバラまかれた。
僕のリリアへの復讐行為が、リリア聖教会と女神リリアの権威失墜を招いただけでなく、後に、異世界にさらなるとんでもない事態を引き起こすこととなった。
僕の想像を超えた面倒な事態に、僕は少なからず巻き込まれることになるのだが、僕はまだそのことを知らないでいた。
聖教皇を生き地獄に叩き落し、リリア聖教会という悪質宗教団体の本部をぶちのめし、僕のゾイサイト聖教国における、異世界の悪党どもへの復讐は、ひとまず一件落着となった。
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