第十八話 主人公、第三の女神出現を知る、そして、新たな女神と邂逅する

 僕たち「アウトサイダーズ」が元「弓聖」たち一行を討伐、そして、カテリーナ聖教皇率いるリリア聖教会本部を成敗してから三日後のこと。

 僕たちはゾイサイト聖教国の首都を旅立ち、僕の所有するクルーザー、「海鴉号」に乗ってサーファイ連邦国に向かって海を渡っていた。

 目的は、スロウと約束したリゾート地でバカンスを過ごすためと、次の目的地までに向けたトレーニングを行うためである。

 僕たちが先日、先代勇者ルーカスが記録した「ルーカス・ブレイドの手記」のコピーを各国政府、各マスコミにバラまいたことで、堕天使たちを封印した当時の各国政府が、当時のリリア聖教会本部を中心に、堕天使たちの存在を歴史の公式記録から抹消する、歴史の改竄という大罪を犯したこと、歴史の改竄を光の女神リリアが裏で指示していたかもしれないという疑惑が明るみになり、世界各国は大スキャンダルの発覚に揺れ、対応に追われていた。

 さらに、ゾイサイト聖教国国家元首にしてリリア聖教会最高トップで、光の女神リリアの「巫女」であるカテリーナ聖教皇が、女神から授かった神託を私利私欲のために故意に改竄し、そのために勇者である僕に女神に代わって神罰を下された、リリア聖教会本部も制裁を受けた、という事実がニュースとなって世界中を駆け巡り、世界中に衝撃を与えた。

 カテリーナ聖教皇やリリア聖教会、ゾイサイト聖教国政府の権威や信頼は瞬く間に失墜し、ゾイサイト聖教国政府及びリリア聖教会に、クレームや責任追及の声が殺到し、ゾイサイト聖教国は混乱の渦にあった。

 光の女神リリアからゾイサイト聖教国とリリア聖教会は完全に見放された、女神の御意思を蔑ろにし、冒涜する行為に走った、との懸念や非難が上がり、光の女神リリアの狂信的な信者が多いゾイサイト聖教国の国民たちは一体どうしたらよいものか、と悩んでいた。

 僕やマリアンヌに、光の女神リリアの怒りを鎮めてほしいとの声がゾイサイト聖教国の人々の間で上がり、僕たちを必死になってゾイサイト聖教国の人々が捜索に当たるが、その頃には僕たちはもう、ゾイサイト聖教国を離れた後であった。

 アメジス合衆国の南西の港町で旅支度をした後、「海鴉号」に乗って、僕たち「アウトサイダーズ」はサーファイ連邦国に向けてすぐに出発した。

 ぶっちゃけ、悪質宗教団体のリリア聖教会本部が運営するゾイサイト聖教国と、聖職者の皮を被った異世界の悪党であるカテリーナ聖教皇と、その部下たちがどうなろうが、僕にはどうでも良いことだ。

 悪質な宗教国家は、地上から一秒でも早く完全消滅する方が良いに決まっている。

 余談だが、僕がリリア聖教会本部の入っていた宮殿を使い物にならなくしたため、リリア聖教会本部の生き残りの連中は、宮殿傍の大聖堂を新たな拠点に活動しているそうで、聖教皇であるカテリーナは、ゾイサイト聖教国国家元首とリリア聖教会最高トップの地位を剥奪され、現在は宰相外大枢機卿たちを中心とした政府中枢メンバーが臨時政府を名乗って、国政の運営に当たっているそうだ。

 しかし、聖教皇であったカテリーナと共にこれまで悪事を働き、問題を起こしていた連中が臨時政府のトップに就任することに対し、ゾイサイト聖教国国内のみならず、世界中のリリア聖教会の信者たちから、不満や怒り、非難の声が殺到しているとも聞いている。

 僕は「海鴉号」を操縦しながら、ゾイサイト聖教国での日々や出来事を回想し、また、次の目的地と復讐について、海を見ながら思いを馳せていた。

 僕が「海鴉号」を操縦していると、僕のいる操縦席の隣に、スロウがやって来て、僕に話しかけてきた。

 「ジョーちん、お疲れ~。いやぁ~、自分の船まで持ってるなんてやっぱ凄えわ、ジョーちん。中々良い船だっしょ、この船。中は豪華だし、滅茶苦茶スピードも出るし、快適そのものですわ~。」

 「お褒めいただきどうも。僕の兄弟「海鴉号」は世界最速のクルーザーだ。外装はオリハルコン製で頑丈だし、エンジンも最新式で、最高時速100ノットで海を突っ走ることができる。コイツで元「槍聖」率いる海賊団を全滅に追い込んだんだ。本当に頼りになる兄弟だよ。バカンスまでの船旅も悪くはないだろ?」

 「まぁねぇ~。ゾーイも初めて船に乗ったって言って凄く喜んでいるっしょ。海を見たのも小さい頃に一度だけだったそうだから、久しぶりに見れて嬉しいって、言ってるっしょ。ありがとね、ジョーちん。」

 「そうか。ゾーイも喜んでいるようで良かったよ。自慢の兄弟を気に入ってもらえて僕も嬉しいよ。サーファイ連邦国には五日ほどで到着する予定だ。ゆっくり船旅を楽しんでくれ。到着したら、約束通り高級リゾートでのバカンスをたっぷり満喫してくれ。」

 「やったね!船旅の後の、高級リゾートでのバカンスとか、マジ最高っしょ!いやぁ~、やっぱジョーちんの仲間になってマジ大正解だったわ~!」

 「はしゃぎすぎるなよ。僕たちや他の観光客に迷惑をかけるようなことは起こすなよ。まぁ、ゾーイが付いているし大丈夫だとは思うが。後、元「槌聖」たち一行の行方が分かって、奴らが暴れているとあったら、すぐにバカンスを切り上げて奴らの討伐に向かうぞ。元「槌聖」の山田は、臆病なところもあるが、一度キレたら、すぐに見境なく暴れ出す男だ。何でも暴力で解決しようとする男だ。臆病ではあるが、アイツが調子に乗って、あるいはキレて見境無しに周りの人間を襲う可能性は否定できない。他の四人の元勇者も同じだ。その時は、文句なしで協力を頼む。」

 「了か~い。ちゃんと分かってますってば、ジョーちん。クソ勇者どものヤバさは実際に見て、戦って、よく分かってるっしょ。でも、今度の奴は元「弓聖」とは真逆っぽいし、脳筋馬鹿だって言うし、ジョーちんやウチらから見れば、大した敵には見えないけど?結構、楽に討伐できそうじゃん?」

 「油断は禁物だ、スロウ。元「槌聖」は確かに脳筋馬鹿の暴漢魔だ。だけど、アイツは元いた世界では若手トップの格闘家でもあった。アイツはキレやすいところもあるが、決して自分の実力以上の相手とは戦ったりはしない。無謀な喧嘩も戦いも、基本的には避ける。本能で、野生の勘で動くタイプだ。その野生の勘が冴えているのか、アイツの行方に関する情報がいまだに掴めないでいる。僕たちに勝てる見込みがないと分かって、逃げ回っていると見える。そして、アイツが逃げるのを止めて暴れ出した時、それは僕たちに勝てる見込みがある時だ。僕たちと真っ向から戦って殺せる確証があって初めて動き出す奴だ。だから、決して油断はできない。」

 「ふ~ん。なるほどねぇ~。野生動物みたいな男ねぇ~。一応、対人戦の経験が人並み以上にあって、勘のいい奴か。意外に面倒臭い相手ってわけかぁ~。あのクソ女神が選んだクソ勇者とあって、マジでウザくて面倒臭えわ~。でも、ジョーちんが言うなら、マジで気をつけなきゃだね。手を抜かず本気でブチ殺さなきゃだね。了解っすわ。」

 「そういうわけだ。よろしく頼むぞ、スロウ。まぁ、それまではゆっくりバカンスを楽しんでくれ。そうだ。スロウ、少しだけゾーイに代わってもらえるか?ゾーイとちょっとだけ話したいことがあるんだ。話はすぐに終わる。ダメか?」

 「ゾーイと?別にウチは構わんよ。ゾーイも別にいいって。んじゃあ、ちょっち代わるね。」

 スロウはそう言うと、両目を瞑った。

 数秒後、スロウがふたたび両目を開けると、いつもはジト目でどこか気だるげな雰囲気のある表情のスロウの様子が変わり、目はパッチリと開き、表情もシャキッとしている。

 スロウと融合している人間の少女、ゾーイ・エクセレント・ホーリーライトと、スロウが意識を交代し、ゾーイの意識が現れたのである。

 「お待たせしました、ジョーさん。それで、私にお話があるそうですが、何でしょうか?」

 「こんにちは、ゾーイ。旅を楽しんでもらっているようで僕も嬉しいよ。話って言うのは、今更かもしれないんだが、僕のことをどう思っているのか、改めて聞いてみたいと思ってね。」

 「私がジョーさんのことをどう思っているのか、ですか?」

 「せっかくスロウと融合して、毒親どもから解放され、自由になったのに、僕は君を、危険な元勇者たちの討伐に、僕の復讐に巻き込んでしまった。結果として、僕は、君の実の兄であるアーロンをこの手で殺した。アーロン、アイツは君を虐めていたクソ兄貴で、元「弓聖」たちの悪事に加担した重犯罪者だ。一度は国に処刑された男だ。だけど、僕は君と血の繋がりのある男を、家族だった男を殺した男だ。僕の行為や復讐が、ゾーイ、君を傷つけたりしていないか、僕はどうしても気になるんだ。君の正直な気持ちを聞かせてほしい。」

 僕の問いに、ゾーイは一瞬考え込んだが、それから微笑みを浮かべながら、答える。

 「私は、自分の意思でジョーさんたちの旅に同行しています。以前にもお話しした通り、スロウと融合した時に、私と、私の家族との関係は終わりました。私から家族との縁を切りました。スロウと一緒に、父と母へ復讐を成し遂げました。私は、自分の選択を正しいと、そう思っています。兄であったアーロンは、許されざる罪を犯しました。個人的な恨みもあります。家を出る前、アーロンを兄だと思った時もありましたが、もうアーロンのことは兄だとは思っていません。ジョーさんがアーロンを殺したことも気にしてはいません。殺されても当然だと思っています。だから、ジョーさんは何も気にしないでください。元勇者たちの討伐も必要なことです。ジョーさんの戦いは、復讐は、みんなが平和に暮らせる世界のために必要なことだって、私は思うんです。」

 ゾーイの答えを聞いて、僕は口元を緩め、微笑みながら、ゾーイに向かって言った。

 「ありがとう、ゾーイ。僕の復讐は、異世界の悪党を全員、地獄に落とすまでずっと続くことになる。光の女神リリア、元凶であるあのクソ女神をこの手で地獄に叩き落すまで、僕の復讐の旅は、決して終わることはない。女神に復讐するなんて、どう見ても過酷で危険極まりないことだ。世界中を敵に回すことにもなりかねない。そんな僕の復讐に、最後まで付いて来てもらえるかい?」

 「もちろんです、ジョーさん。私にはもう、光の女神リリアを信仰する気持ちはありません。私のこれまでに受けた苦しみの元凶の一端は、女神に原因があったのだと、私はこの旅の中で確信しました。光の女神リリアは私やスロウにとっても憎き相手です。こんな頼りない私ですが、私にも女神への復讐をお手伝いさせてください、ジョーさん。」

 「頼りなくなんかない。むしろ、大助かりだよ。一人でも多く復讐を手伝ってくれる人間がいるのは、本当に助かるよ。それに、君とスロウは本当に最高のコンビだ。君たち二人のサポートには随分、助けられている。後、スロウのストッパー役はゾーイ、君にしかできないことだ。これからもあの手のかかる堕天使のフォローを頼むよ。」

 「フフっ。分かりました、ジョーさん。スロウが抗議していますが、私もスロウは少々、考えなしに行動するところがあるとは思います。ストッパー役は任せてください。相棒ですから。」

 「よろしく頼むよ、ゾーイ。僕から話したいことは以上だよ。付き合ってくれて、ありがとう。」

 「いえ、私もジョーさんとお話することができて、嬉しいです。その、最後に一つだけ、私からお願いしたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」

 「僕にお願い?僕でできることなら、構わないよ。お願いって、何かな?」

 僕の問いに、ゾーイが少しだけ顔を赤らめながら、恥ずかしそうな口調で、小声で僕に向かって言った。

 「そ、その、じょ、ジョーさんのことを、お兄ちゃん、って呼んだら、ダメでしょうか?」

 ゾーイのお願いの内容を聞いて、僕は思わず驚いてしまった。

 「お、お兄ちゃん!?ぼ、僕がゾーイの!?え、ええっと、僕は確かに二個年上だけど、お兄ちゃんってキャラじゃないかも?僕って、自分で言うのも悲しくなるけど、あんまし頼りがいのあるようには見えないよ。別に、ゾーイにお兄ちゃんって呼ばれることは嫌じゃないけど、本当に僕をお兄ちゃんって呼びたいの?スロウの無茶ぶりとかなら断っていいんだぞ?無理して呼ぶ必要はないんだぞ?」

 「む、無理とかじゃないです!スロウから言われたわけでもありません!私が、ジョーさんのことを、お兄ちゃんって、呼びたいんです!だ、ダメでしょうか!?」

 ゾーイから顔を近づけられて頼まれ、僕はそんなゾーイの姿に驚きながら、答える。

 「だ、ダメじゃあないよ。ゾーイみたいな良い子が妹になってくれるなんて、むしろ嬉しいくらいだよ。こんな見るからに頼りない、陰キャぼっちの復讐にしか能のない男で良かったらだけど?」

 「ジョーさんは頼りがいがあります!私もスロウのことも、何だかんだ言って、受け入れてくれました!いっぱい私たちのことを助けてくれました!それに、すっごく優しいです!アーロンと違って、本当に優しいお兄ちゃんって感じです!私には、とっても頼りがいのある、優しくて、本当のお兄ちゃんみたいな人だなって、そう思うんです!」

 「そ、そうかい!?そんな風に思ってくれるなんて、嬉しいよ。ええっと、こんな僕だけど、ゾーイのお兄ちゃんになっても良いかな?」

 「はい!よろしくお願いします、お兄ちゃん!」

 ゾーイが笑顔を浮かべながら答えると、僕の左腕に自分の右腕を絡めて、僕の左肩に自分の頭をチョコンと載せて、僕にくっついてきた。

 「えへへ~。お兄ちゃんとくっついちゃいました!お兄ちゃんの体、とってもあったかいです!」

 「ちょっ、ゾーイ!?いきなりくっついてきたらビックリするだろ!?今は操縦中なんだから!本当にゾーイなのか?スロウと交代してるわけじゃあないよな?」

 「今はゾーイですよ、お兄ちゃん!スロウばっかりくっつくのは、ズルいです!妹には、お兄ちゃんに甘える権利があるんです!優先権は私にあるんです、お兄ちゃん!」

 「しょ、しょうがないな。ちょっとだけだぞ、ゾーイ。お兄ちゃんになるってのは、意外に大変なんだな。」

 僕は苦笑しながら、そんなことを呟くのであった。

 僕とゾーイが腕を組んでくっついていると、操縦席の方にメルがやって来た。

 「パパがスロウお姉ちゃんとくっついてるなの!メルもパパとくっつきたいなの!」

 「め、メル!?パパは今、ゾーイお姉ちゃんとちょっと、仲良くしているだけなんだよ!ゾーイお姉ちゃんがパパの妹になりたいって言うんだ!お兄ちゃんとして、妹と仲良くしてるだけなんだよ!」

 「メルちゃん、今日から私はお兄ちゃんの妹になりました!つまり、メルちゃんとも家族です!メルちゃんも一緒にお兄ちゃんにくっつきましょう!妹権限で特別に許可します!」

 「ホント!?じゃあ、メルもパパにくっつくなの!ありがとう、ゾーイお姉ちゃん!」

 メルはそう言うと、立っている僕の正面に回り込んで、両手を僕の腰付近に回して、ギュッと抱き着いてきた。

 「め、メル!?本当にしょうがない娘と妹だな、まったく!操縦中だから、ちょっとだけだぞ、二人とも!」

 「お兄ちゃんは真面目過ぎます。でも、良い方向で真面目で優しくて、我が儘を聞いてくれて、本当に良いお兄ちゃんです!本当に良いパパでもあります!ねぇ~、メルちゃん?」

 「そうなの!パパは本当に良いメルのパパなの!ゾーイお姉ちゃんも良いお姉ちゃん、なの!」

 「今日から私はお兄ちゃんの妹、メルちゃんの親戚になります!私と一緒にいっぱいお兄ちゃんに甘えましょう、メルちゃん!」

 「おいおい、僕はただ甘やかすだけのパパでもお兄ちゃんでもないからな。甘えるのは、ほどほどにしてくれよ。僕の体は一つだけなんだから。ゾーイも、メルをあんまり甘やかさないように。」

 「フフっ。分かっています。でも、妹はお兄ちゃんには甘えたくなる生き物なのです。偶には甘えさせてください、お兄ちゃん?」

 「はぁー。分かったよ。ただ、ほどほどに頼むよ、妹よ。やれやれ、甘えん坊な家族がまた一人、増えちゃったな。」

 僕は、僕にくっつくゾーイとメルの二人を見ながら、苦笑するのであった。

 一方、僕のいる操縦席の後方で、他のパーティーメンバーたちが、僕とゾーイのやり取りする姿をこっそりと見ていることに、僕は気が付いていなかった。

 「ゾーイさんが丈様の妹になるとは、予想外です!妹キャラが、妹権限があそこまで強力とは!?あんな風に丈様にピッタリとくっついて、くっ!?予想外の伏兵です!」

 「おい、いくら妹だからって、ちょっとくっつきすぎじゃあねえか?俺だってあんな風にくっついたことは早々、ねえぞ?大体、妹権限って何だよ?」

 「丈君は基本的に年上の女性が好み!年下は基本対象外!けど、妹キャラの破壊力は想像以上!妹として丈君に甘えて接近するとは、ゾーイは意外と侮れない!義理の兄と妹なら、結婚もできる!今からでも、私は丈君の義理のお姉ちゃんになる!」

 「わ、我だって、ジョー殿よりは年下だ!妹になれるチャンスはあるぞ!いやしかし、あのように振る舞えるかは正直、自信がない!くっ、妹とは、妹になるにはどうしたら良いのだ!?」

 「ちっ!アタシだってジョーよりは年下だぜ!けど、アタシがジョーの妹になるとか、いまいちイメージが湧かねえ!妹になりたいとか言ったら、ぜってぇー、笑われる気がするじゃんよ!だけど、妹権限は魅力的じゃんよ!あんな風にジョーに甘えられるとか、くそっ、羨ましいじゃん!」

 「妾は婿殿の婚約者で正妻だ!別に家族が一人増えようが増えまいが、全っ然、気にしておらぬ!だが、ゾーイの甘えっぷりは少々、行き過ぎているようにも見えなくもない!妹権限とは意味不明だ!アレは、正しくブラコン、という奴ではないのか?義理とは言え、アレは兄に対して恋愛感情を抱くブラコンの妹そのものだ!妹の立場を利用して妾と婿殿の結婚を邪魔するようならば、見過ごすわけにはいかん!大体、婿殿も婿殿で、デレデレし過ぎだ!婿殿がシスコンにならぬよう、妾が婿殿をしっかり教育せねば!」

 「私はジョー様とは同い年です。妹にはなれないです。どうせ、どうせ私は妹にもなれない、世間知らずのクソ王女ですよ!でも、私だって頑張っています!ゾーイさんがジョー様の義理の妹になったくらいで、へこたれはしません!ブラコンなんかには負けません!同い年の女の子だからできるアピールだってあります!絶対に逆転してみせます!」

 「皆さん、ゾーイさんはわたくしたちの想像以上の強力なライバルになりそうです!スロウさんはともかく、ゾーイさんの妹ぶりは正にブラコン、兄想いで甘えん坊の可愛い理想的な妹そのものです!丈様はゾーイさんが妹になることをとても喜んでいるように見えます!そして、あの妹権限は強力です!可愛い妹からのお願いならば、何でも聞いてしまう、そう思わせるほどの絶大な威力があります!ゾーイさんが妹の立場を利用して抜け駆けをしないよう、皆で注意しましょう!よろしいですね、皆さん?」

 玉藻の呼びかけに、「オー!」という掛け声で、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌは同時に答えた。

 妹キャラという予想外の恋のライバル出現に、玉藻外女性メンバーたちは、一致団結して立ち向かうことを固く誓うのであった。

 そんなことなど露知らず、妹に甘えられて照れている主人公、宮古野 丈であった。

 午後2時。

 僕は酒吞に船の操縦を代わってもらい、昼食を済ませた後、船のフライブリッジの上に一人でいた。

 見張り役を担当すると言って、グレイと見張り役を交代した僕は、周囲に誰もいないことを確認すると、左手のグローブを外し、左の小指に嵌めている通信機の機能を持つシグネットリングに向かって、呪文を唱えた。

 「コール。」

 指輪が一瞬、キラリと光った後、僕は左の小指に嵌めているシグネットリングに向かって小声で話しかけた。

 「もしもし、クリス?僕だ、宮古野 丈だ。仕事中に済まない。今、話をしたいんだが、大丈夫か?」

 『もしも~し、ジョー君。愛しいジョー君の頼みなら、何時だって私はウェルカムだよ。それで、私に話とは何かな、ジョー君?』

 「もう少し小さい声で話をしてくれ、クリス。話したいことはいくつかあるが、まずは元「槌製」たち一行の行方についてだ。クソ女神より君のくれる情報の方が頼りになる。残り五人の元勇者たちについて、何か君の方で情報を掴んでいたりはしないか?」

 『女神より頼りになるとは、嬉しいことを言ってくれるね。まぁ、絶賛信仰を失いつつある女神リリアじゃあ、全く頼りにならないのは分かるけどね。元「槌聖」たち一行の行方に関してだけど、特に今のところ、私の方には情報は入っていないよ。部下を使って調べさせているけど、元「槌聖」らしき男たちの姿は見当たらない。影も形もないってくらいに、完全に行方を眩ませているよ。ただ、2ヶ月前、「ボナコン・ショック事件」が起きた直後、元「槌聖」たち一行らしき五人組の若い男たちを乗せたと言う、インゴット王国のとある馬車の御者の証言を、私の部下が掴んでいる。男たちは特急馬車に乗って、アメジス合衆国の北西部にあるゼギン村で降りたことは分かっているんだ。けど、そこから先の男たちの行方は全く手掛かりなしだ。元「弓聖」たちのように、他人の顔を奪ってどこかに潜伏している可能性はあるかもね。』

 「流石はクリスだ。元「槌聖」たち一行の行方についてすでに調べているとは、やっぱり頼りになるよ。インゴット王国から馬車に乗ってアメジス合衆国の北西部にあるゼギン村で降りた若い五人組の男、しかも「ボナコン・ショック事件」が起きて直後か。容姿やタイミングから見て、間違いなく元「槌聖」の山田と、残りの元勇者たちに違いない。元「槌聖」の山田は、一度キレると見境なく暴力を振るう暴漢魔だが、臆病なところもある男だ。Lv.0の「犯罪者」になって、捕まれば即処刑されるとあって、すぐにインゴット王国から逃げ出したんだろう。おまけに、頼みの綱であった女神からも完全に見放されている。女神公認の勇者で処刑人となった僕に追われているとあって、アイツはとにかく逃げることに徹しているはずだ。自分より強い相手とは絶対に戦わない、本能的に避けて逃げる、というのがアイツの性分だ。ただ、アイツ自体はそんなに頭が良くない。元「弓聖」の鷹尾のように、他人の顔を奪って逃げるだとか、犯罪の証拠を隠滅するだとか、そんな器用なことはできない奴だ。他の四人の勇者たちの方が多少頭は回るかもしれないが、連中全員、脳筋の部類だ。そもそも、リーダーである山田には、犯罪に手を染める度胸が全く無い。となると、ゼギン村か、あるいはアメジス合衆国のどこか人気のない場所に潜伏している可能性があるな。山の中の洞窟だとか、廃屋、あるいは空き家なんかに人目を避けるために隠れて、どうにかやり過ごすつもりか?機会を見計らってダンジョンを攻略して「聖槌」を手に入れ、勇者として復活したい、なんて考えているのかもしれないな。」

 『元「槌聖」は暴力的だが、自分より目上の人間には絶対に逆らわない、戦わずに逃げることを選ぶ臆病な男だ、ということだね。なるほど。ジョー君の分析と推理が当たっているとしたら、元「槌聖」たち一行はアメジス合衆国内の、人目のない場所に姿を隠して潜伏している可能性があるな。アメジス合衆国内の洞窟や廃屋、空き家を徹底的に捜索させてもいいかもしれない。冒険者ギルドに私から捜索依頼を出して、追加の賞金付きで捜索させてみるとしよう。私の部下たちにも、該当する場所を調査するよう、この後すぐに伝えるとしよう。』

 「ありがとう、クリス。そうしてもらえると非常に助かるよ。連中が問題を起こす前に、厄介なことにならない内に、全員見つけてすぐに始末できるなら、それに越したことはないよ。アメジス合衆国の警備隊にも捜索に加わってもらえると、こちらとしては助かるんだけど?」

 『アメジス合衆国ねぇ。ジョー君はすでに知っていると思うけど、あの国は、特に政府の人間は信用ならない。元々治安が悪く、「犯罪の国」なんて別名で呼ばれるくらい、あの国は危険だ。一見、民主主義で、大統領もクリーンな政治を掲げていて、犯罪撲滅に力を入れている。けど、裏では、政治家や役人たちの多くが闇ギルドと繋がりを持っていると噂されているし、実際にそのことで逮捕される政府関係者は決して少なくない。現大統領の、エドワード・メトリアン氏も一時期、闇ギルドとの関係が噂されたこともある。あくまで噂だけどね。大統領とは以前、仕事で何度かあったことはあるけど、見た目は明るくて紳士的な男性という印象だよ。それに、元大手製薬会社でビジネスマンをやっていたとあって、経済にも明るく、政治家としてもビジネスマンとしてもやり手だ。そして、したたかなところもある。国民からの人気もあって、政権の支持率は実際、高い。けれど、決して侮れない人物だよ。元「槌聖」たち一行の捜索に協力を要請して断られることはないはずだ。しかし、アメジス合衆国政府の連中が大人しく元「槌聖」たち一行の身柄を引き渡すかは怪しいところだよ。身柄を引き渡す代わりに何か条件を付けてくるかもしれない。それも、こちらが断りたくても断れないような、絶妙な条件だよ。アメジス合衆国、特にメトリアン大統領と取引するとなった場合、少々面倒なことになるかもしれない。』

 「噂通りらしいな。全く、どうしてこう行く先々の国のお偉方は悪人ばっかりなんだ?いや、ラトナ公国は違うけどさ。山田たちなんているだけで迷惑、災いの元にしかならないテロリストの極悪人だろうが。アイツらの身柄と引き換えに無理難題を押し付けてくるようなら、その時は実力行使あるのみだ。悪党を庇う奴も悪党だ。山田たち諸共、地獄に叩き落してやるだけだ。どうせ、山田たちさえ始末すれば、元勇者たちの討伐は完了だ。アダマスの平和を脅かす元勇者たちは地上から完全にいなくなる。世界中の人たちが安心するはずだ。大統領だろうが、誰であろうが、僕の復讐を邪魔する奴は絶対に容赦しない。絶対に、復讐の邪魔なんてさせるか。」

 『君ならそう言うと思っていたよ、ジョー君。実力行使、実に君らしいよ。実際、元勇者たちは世界の安全保障を脅かす脅威に他ならない。元勇者たちを生かしておく意味も必要もない。私自身、そのことをこの目でよく見て、知っている。メトリアン大統領やアメジス合衆国の連中が元「槌聖」たち一行の討伐を邪魔するようなら、容赦なく君のやりたいようにやりたまえ。いざとなれば、私とラトナ公国が君をバックアップするから、安心してくれ。ただ、できれば、いつものように合法的なお題目を用意して復讐してくれると助かるよ。一応、ある程度筋は通さないとだから。』

 「分かっているよ、クリス。僕の悪党への復讐は何時だって、抜かりはないつもりだ。ちゃんとした理由や筋書きを用意してから事に当たる、それが僕のやり方だ。無策で復讐をするようなへまはしないよ。まぁ、できれば、アメジス合衆国の連中とは揉めずに事を進められるのが一番だ。アメジス合衆国政府への協力要請はしてもらわなくて結構だ。冒険者ギルドのみで十分だよ。よろしく頼むよ、クリス。」

 『了解だよ、ジョー君。元「槌聖」たち一行の捜索は任せてくれ。他に、私に頼みたいことはないかな?』

 「スロウとゾーイの件についてだ。彼女たち二人に、正式にラトナ公国の国籍を用意してほしい。スロウを一応、ラトナ大公家の一員、僕の義理の妹ということにしてほしい。妹になりたいのはゾーイの方だけどね。後、できたら、スロウの偽の経歴も用意してほしい。ラトナ公国の片田舎の出身、とでもしておいてほしい。ホーリーライト家や、ゾーイの親戚、リリア聖教会、ゾイサイト聖教国、そういった連中から二人が今後、絶対に干渉されないよう、取り計らってほしい。お願いしていいかな?」

 『スロウ君とゾーイ君の国籍に偽の経歴、それと、君の妹に迎えたい、ねぇ。OK。すぐに手配させるよ。偽の経歴を作るのには二、三日かかるけど、良いかな?できたら、偽の経歴書の写しを渡すよ。』

 「ありがとう、クリス。スロウとゾーイの二人がまた、ホーリーライト家のクズどもに狙われたりするのは御免だからな。メルの時のように上手く対応してもらえると、僕も二人も大いに助かるよ。何から何まで、本当にありがとう、クリス。」

 『ハハハ!愛しいジョー君の頼みとあれば、私は出来得る限り、叶えてあげるよ!スロウ君とゾーイ君の二人には今回、元「弓聖」たち一行の討伐で大分、お世話になったからね。彼女たち二人に何か御礼をしたいと、私も思っていたんだ。彼女たちのお役に立てるなら、喜んで引き受けるよ。我がラトナ公国は、ラトナ大公家は彼女たちを全面的に支援することを約束しよう。ホーリーライト家、リリア聖教会、ゾイサイト聖教国の連中には絶対に手出しさせないよ。まぁ、誰かさんのおかげで、リリア聖教会は権威失墜、ゾイサイト聖教国は聖教皇が失権、新政府を樹立するもクレームの嵐、貴族たちや聖騎士たちも一般市民たちから非難の的で、とてもあの二人や君にちょっかいを出す余裕はないそうだがね。』

 「それは何よりだ。悪質な宗教団体とその関係者たちが壊滅寸前なら、良いことじゃあないか?ラトナ公国も、ラトナ公国の信者たちも、これからはリリア聖教会に多額の寄付金を支払わずに済むわけだ。クリス、君のことだ。すでに新しい、よりクリーンな宗教団体の設立や認可に向けて動き出しているんだろ?ただ、リリア聖教会やゾイサイト聖教国の二の舞にならないよう、気を付けてくれよ。悪質な宗教団体はもう、こりごりだよ、僕は。」

 『流石はジョー君。私のことを良く分かっているねぇ。例の、君がバラまいた「ルーカス・ブレイドの手記」のために、リリア聖教会、それに各国政府は対応に追われているよ。我がラトナ公国は別に何ともないけどね。我が国建国以前の頃の問題で、ラトナ公国やラトナ大公家とは全く無関係の案件だからね。歴史の改竄に携わっていた中心であるゾイサイト聖教国とリリア聖教会本部、ゾイサイト家に最も、大半の非難が集まっているよ。カテリーナ聖教皇、女神の「巫女」である彼女が女神からの神託を改竄したことにも驚かされたけどね。我がラトナ公国やマリアンヌ王女を君から遠ざけ、勇者である君や、元「弓聖」たち一行の討伐を私利私欲で利用するために神託を改竄して混乱を招くなんて、とんでもない話だよ。あの年増のいけ好かない女神の「巫女」が失脚して、君に罰を与えられたと部下から聞いた時、私は驚くより先に笑ってしまったけどさ。おっといけない。話を戻そう。女神リリアまで歴史の改竄に関わっていたかもしれないとあって、世界中のリリア聖教会の信者たちに衝撃が走り、困惑している。歴史の真実を知っている私や、一部の宗教学者たちはそうでもないけどね。宗教問題による混乱を回避するため、宗教学者たちや社会学者たちを呼んで、リリア聖教会に代わる、新たな宗教団体の設立や認可の在り方について議論しているところだよ。女神リリアの影響力や、女神リリアへの信仰の在り方、宗教団体の正しい在り方、方向性等について議論、検討を重ねているところだよ。女神リリアの影響力を完全に排除することは現時点では難しいだろうけど、女神への過度な信仰や、悪質な宗教団体の運営を失くすためのルール作りなど、我が国独自で進めているところだよ。いずれは、世界規模で今回の事態を踏まえ、話し合いや国際的な枠組みの設置が行われることになるかもしれないがね。今のところ、新たな宗教団体の設立に向けた動きに大きな問題はないよ。』

 「あのクソ女神をこれからも信仰する意味なんて皆無だと僕は思うけど、そう一足飛びに話は進まないか。せめて、闇の女神、イヴへの誤解、それと、魔族への誤解や差別が少しでも減ってくれるなら、僕は嬉しいんだけど。過程はどうあれ、人間と獣人に女神の加護を与えたのは、一応あのクソ女神だしな。クソリリアより、イヴの方が正真正銘の女神様だってのに、本当に腹が立つ。何とか、あのクソ女神への信仰をもっと削る策を講じなきゃだな、まったく。」

 『私も本心ではそう思うよ。イヴは本当に素晴らしい女神だ。研究者としてもね。私が開発したトランスメタルの改良に成功するとは、流石だよ。改良に成功したトランスメタルの設計データをこの前もらったけど、驚かされたよ。たった数日でこの私が長年かけて苦心の上、完成させたトランスメタルのさらなる改良点を見つけ出して、すぐに改良を施すとはね。ジョー君、君が新たに改良を施したトランスメタルを使って、今回元「弓聖」たち一行を討伐したことも聞いているよ。銃だったね。あんな複雑な構造の武器まで再現できるようになるとは、トランスメタルの生みの親である私としては、実に嬉しい限りだよ。君が元いた異世界、チキュウがいかに私たちの世界より科学技術が発展しているのか、少し分かったよ。イヴから、ボルトアクションライフル、と呼ばれる銃の設計データを提供してもらったよ。火薬を使った高性能の、携帯用武器とは、実に驚かされたよ。もし、この武器をブラックオリハルコンを使用して再現できれば、アダマスの武器開発は飛躍的に向上する。いや、武器の産業革命が起こると言っても過言じゃあない。銃を実用化できれば、魔力の少ない人間や、非戦闘職のジョブを持つ人間でも、ある程度のモンスターと戦えるようになる。そうなれば、モンスターによる被害を大幅に減らすことも夢じゃあない。少しでも多くの人間を守れる、より実用的な武器を作ることこそ、武器開発に携わる者の願いであり、目標でもある。まぁ、まだ研究を始めた段階で、すぐに実用化はできないけど。でも、私は必ず、ボルトアクションライフルの開発に成功してみせるよ。』

 「銃があれば、この異世界の人たちにとって、モンスター被害に悩まされるアダマスの人たちにとっては、きっと大助かりのはずだ。だけど、銃は魔力無しでも使える。誰でも使えて、一撃で人間もモンスターも殺せる、恐ろしい武器でもある。僕のいた地球では、実際に銃が国民に普及した国で、無差別に銃を乱射し、人を殺す事件が相次いでいる。サイコパスや犯罪者、マフィア、テロリスト、そういった連中に犯罪や戦争の道具として使われ、そのために何の罪もない、大勢の人間が毎日犠牲になっている。逆に、銃があったおかげで助かった命もある。銃は確かに武器としては優秀かもしれない。でも、使う人間によっては、神様がくれた最高の盾にも、悪魔がくれた最悪の凶器にもなるんだ。僕は幼い頃、モデルガンと呼ばれる玩具の銃で撃たれて虐められたことがあるけど、撃たれてとても痛かったよ。あの時撃たれた痛みは今も忘れちゃあいない。もし、銃を開発して普及させるつもりなら、その時は正式な軍人あるいは警備隊員のみ使用できるようにした方が良い。銃を持った、正しく銃を使える軍人を広く、それこそ小さな村にも配置するとかした方が良い。僕の生まれ故郷ではそんな感じで、銃の乱用を防いでいた。地球から持ち込まれた銃によって異世界に悲しみがもたらされるのだけは、何とか避けてほしい。理想論ばかり言ってすまない、クリス。」

 『いや、ジョー君の言うことも分かるよ。私も異世界の武器の技術を手に入れたことに内心浮かれていたよ。人の命を簡単に奪える危険な武器を渡され、それを玩具のように扱って楽しむなんて、武器開発に携わる者としてあってはならないことだ。それこそ、聖武器のレプリカを渡され、それを玩具のように扱い、何の罪もない大勢の人間、それに君を傷つけ、命まで奪った、あの最低な元勇者たちと同じだ。銃の普及については、私の方でもう一度よく考えてから、どうするか決めることにするよ。私の作った銃のせいで、元勇者たちのような犯罪者が生まれることも、無辜の民に犠牲が出ることもあってはならない。銃を使うためには、使用者の精神状態に問題があれば強制的に使用不能にする、といった機能を追加するのも悪くはないな。銃の開発自体も一から見直すことにしてみよう。素晴らしいアドバイスをありがとう、ジョー君。君はやっぱり、優しくて良い子だよ。』

 「僕は別に大したことは言ってないよ。ただ、銃がもたらす懸念や、実体験を話しただけだよ。でも、銃の普及や取り扱いには本当に注意してほしい。さっき言った、使用者の精神状態に問題があれば強制的に使用できなくなる、そういった安全装置的な機能を付けるのには、大賛成だ。犯罪者やクズ、悪意ある人間に銃が使われることがないことがベストだ。その辺も含めて、開発に当たってくれ。」

 『了解だよ、ジョー君。安心安全な銃の開発に全力で取り組むことを約束するよ。期待しててくれ。他に、私に話したいこと、頼みたいことはあるかい?』

 クリスから答えを聞いて安心した僕は、笑みを浮かべながら、クリスに向かって返事をした。

 「いや、他に話したい用件はないよ。また色々と頼み事をしてしまってすまない。だけど、元勇者たちは必ず全員、討伐する。僕たち「アウトサイダーズ」は今、サーファイ連邦国に向かっている。バカンスを楽しむのと、次の元「槌聖」たち一行の討伐に向けたトレーニングを行う予定だ。元勇者たちとの戦いは激化する一方だし、次の目的地であるアメジス合衆国は治安が悪く、油断ならない悪党が大勢いる国だ。休暇を取りつつ、パーティーメンバー全員のさらなる強化トレーニングにも取り組むことにする。元「槌聖」たち一行に動きがあれば、すぐにサーファイ連邦国から連中の討伐へ向かえるようにしておくから安心してくれ。それじゃあ、依頼した件についてよろしく頼んだよ、大公殿下。」

 僕がそう言って、クリスとの通信を終えようとした直後、クリスから突然、待ったがかかった。

 「ちょっと待った!最後にジョー君へ私から一つお願いしたいことがあるんだけど、良いかな?」

 クリスからお願いがあると言われて、またいつものこっぱずかしくなるようなセリフを言わされることになるのかと思いながらも、僕は顔を顰め、ため息をつきながら、クリスに訊ねた。

 「はぁー。お願いって、何だよ、クリス?どうせ、また、僕に何かこっぱずかしくなるようなセリフを言えと、無茶なリクエストをするつもりだろ?できれば、短めの、あまり恥ずかしくないセリフにしてくれ。」

 『そんなツレないことを言わないでくれよ。今回の元「弓聖」たち一行の討伐のためにいっぱい君に協力した上に、これからまた、君の頼みを叶えてあげる健気で一途で頑張り屋な、現地妻たる私に対する、君からの心の込もったエールをプレゼントしてくれてもいいんじゃないかな~?「今日も素敵で可愛いよ、愛しいマイハニー、クリス」っていう、愛情たっぷりのエールが聞きたいなぁ~。お願~い、ジョー君?』

 いつもながら、どうしてそんな恋愛脳の連中が言いそうな、言っただけで胸やけがしてきそうな、こっぱずかしい愛のセリフみたいな言葉を言わなきゃならないんだ?

 しかし、クリスに再び協力をお願いする以上、仕方がないと思い、僕は観念した。

 最早、お約束の流れというか、こんなくだらないリクエストに応えることと引き換えに、一国の国家元首が協力してくれるのだから安いモノだと思い、僕はクリスのリクエストに応えるのであった。

 「はぁー。僕に毎回、こんなことをさせて一体何の得があるんだか?オホン。一度しか言わないからな。今日も素敵で可愛いよ、愛しいマイハニー、クリス」

 『ウピョーーー!耳に染みるーーー!これがあるから、頑張れるんだよ!ありがとう、ジョー君!依頼された件は全部、最速で完璧にやり遂げるからね!愛してるよ、マイダーリン!ハングアップ!』

 興奮した様子で喜びの声を上げながら、僕との通信を切ったクリスであった。

 「はぁー。いつも盗聴して僕の声を聞いている癖に、何で僕に毎回、恥ずかしいセリフを言わせるんだ?声フェチだとは思うんだが、僕の声のどこが良いんだ?そんなに良い声じゃあないはずなんだが?地球にいた頃は、声が小さいだの、耳障りだの、散々ケチを付けられたんだけど。若いプロの役者の方が絶対に、間違いなく良い声してるし、そっちに頼んだ方が良いと思うんだけど。いや、これ以上深く考えるのは止そう。考えても意味がないことだ。けど、やっぱり他の方法で対価を支払えないかなー、ホント。」

 クリスとの通信を終え、毎度クリスの無茶なリクエストに応えなければならないことに悩む僕であった。

 午後3時。

 僕が「海鴉号」のフライブリッジの操縦席に座って、海上を見張っていると、突然、空に異変が起こった。

 僕たちの乗る「海鴉号」のはるか前方の上空に、巨大な一人の女性の姿が現れたのだった。

 まるで空を巨大なスクリーンとして、巨大な女性の姿が空に映し出された。

 突然起こった上空の異変に気が付き、船を操縦していた酒吞が慌てて船を止めた。

 僕たち「アウトサイダーズ」のメンバーは皆、突如空に映し出された巨大な女性の姿を見て驚いていると、凛とした女性の大きな声が僕たちの耳に聞こえてきた。

 銀色の髪に銀色の瞳を持ち、銀色の鎧と剣を装備した、背中から四枚の翼を生やした、銀色に光り輝く巨大な女性の映像が、口を開いて語り出した

 『異世界アダマスに住まう全ての知的生命体の皆さん。初めまして。私は「剣の女神」ブレンダと申します。突然のことで驚かれた方も多いでしょうが、この私の姿は世界各地にいる皆さんに見てもらっているはずです。アダマスの皆さんにお伝えすべきことがあるため、私はこの異世界に降臨しました。最後まで私の話を聞いてください。』

 「剣の女神」ブレンダと名乗る女神が突然、現れたことに、僕たちは皆、固唾を飲んで、彼女からの次の言葉を待つ。

 『まず、私が降臨した理由ですが、それは、この私がアダマスを管理する新たな女神として選ばれたからです。今日からこの私、「剣の女神」ブレンダが、光の女神リリア、闇の女神イヴに次ぐ、三人目の女神として、アダマスの管理を担当することになりました。理由は、この世界、アダマスが混沌と崩壊の危機にあるからです。特に、人間と獣人と呼ばれる種族の皆さんに深く関わりがあることです。光の女神リリア、彼女はあなた方を誤った進化の方向に教え導きました。その結果、人間と獣人は堕落し、魔族と呼ばれる何の罪もない知的生命体を差別、迫害してきました。そして、光の女神リリアに過失があったとは言え、あなた方は歴史の改竄という大罪まで犯しました。私たち神界の神々は、人間と獣人、人類と呼ばれる種族を、野蛮で凶悪で、他の知的生命体の存続を脅かす、危険な存在であるとの疑いを持つに至りました。人類がいずれ、何の罪もない知的生命体を無差別に殺戮しようとする侵略者、全宇宙の脅威になるとの懸念が浮上しました。このまま、あなた方人類を光の女神リリアに任せ、放置するわけにはいきません。そこで、神々を代表して、この私が新たに担当女神としてアダマスの管理に加わり、アダマス、そして、アダマスの全知的生命体を正しい進化の方向に導くお手伝いをすることとなりました。尚、光の女神リリアは自らの過ちを認め、しばらくの間、アダマスの管理から外れることになりました。光の女神リリアがふたたびアダマスの担当女神として戻る時期は不明です。人間、獣人の皆さんの保護、育成は、この私が新たに引き継ぐことになりました。ですが、私は決して人類に肩入れするつもりはありません。魔族にも、闇の女神イヴにもです。私は中立、公平公正の立場から、アダマスと、アダマスの知的生命体の管理に携わります。全ての人類に告げます。直ちに、魔族と闇の女神イヴへの不当な差別、迫害、侵略行為を止めなさい。もし、従わないと言うのであれば、その時は、あなた方人類に神罰が下されることになります。宇宙の秩序を乱す悪しき存在は、この私が正義の名の下に処断します。これは全ての神々からの警告です。この私の剣の一振りで、人類の存続を決めることもできるのです。アダマスに住む全知的生命体が、正義と平和を愛する知的生命体として進化することを、私たち神々は望んでいます。それと、「黒の勇者」は私たち神々が認める正式な勇者であり、正当な理由なく彼に危害を加えることは許しません。アダマスで活動する勇者たちの管理は、この私が主に担当することとなりました。勇者は神の代行者であり、世界の秩序を守る存在です。「黒の勇者」を除き、これまでの勇者は残虐な殺戮者、あるいは犯罪者でした。これからはこの私が中心となり、勇者の派遣や育成、管理を徹底的に行います。勇者は決して、人類だけの守護者でも、無秩序な殺戮者でもありません。私が話したことを肝に銘じて、行動するように。以上が、私からアダマスに住む知的生命体の皆さんにお伝えしたいことです。皆さんが私たち神々の期待を裏切らないことを心より願っています。』

 「剣の女神」ブレンダは、アダマスの全知的生命体、特に人類への警告を述べると、空中に映し出されていた彼女の映像は忽然と消えた。

 ブレンダの話を聞き終えた僕たちだったが、その内容にそれぞれ、動揺を覚えたり、考え込んだり、反応は様々であった。

 デッキへと降りてその場で考え込む僕に、玉藻たちが話しかけてきた。

 「丈様、「剣の女神」ブレンダと名乗る女神の言葉を、どのように思われましたか?私としましては、あの女神が私たちの敵になるとは思えません。しかし、あの女神の許可が無ければ、元勇者たちの討伐はできない、ということになります。そうなりますと、丈様と私たちの復讐に支障をきたす事態に、あの女神と対立することになるやもしれません。「剣の女神」ブレンダ、あの女神は相当な強者に見えました。敵となった場合、その脅威は計りかねます。」

 「玉藻の言う通りだぜ、丈。クソ女神よりは大分まともな奴に見えたが、アレは結構な堅物にも見えたぜ。奴の言う、秩序や正義を乱す存在とやらになったら、勇者だろうと誰であろうと、あのブレンダとか言う女神は容赦なく、斬り殺そうとしてくるわけだ。実際に奴の実力を確かめたわけじゃあねえが、奴からは凄まじい覇気を感じた。間違いなく強えぞ、あの女神は。」

 「「剣の女神」ブレンダ、あの女神はクソ女神と違って真面目そうに見える。だけど、神々の言う正義と、私たちの思う正義が常に同じとは限らない。丈君の復讐を悪と見なして、あの女神が丈君を殺そうとしてくる可能性もある。私が傍にいる限り、丈君に指一本触れさせたりはしない。「剣の女神」だろうと返り討ちにするまで。だけど、あの女神からは剣豪としての気迫を感じた。同じ剣士だから分かる。あの女神は間違いなく、超一流の剣士。迂闊に正面から戦っていい相手ではない。丈君一人で接触するのは危険。」

 玉藻、酒吞、鵺から、「剣の女神」ブレンダが僕の復讐の障害、脅威になるかもしれないと言われ、僕は顔を顰めながら、考え込んだ。

 「僕も三人と同じ意見だ。「剣の女神」ブレンダ、あの女神はクソ女神のリリアよりは、はるかに真面に見える。けど、発言が少々、いや、かなり物騒に聞こえた。彼女の言う正義に反する存在は、容赦なく神罰を下されると。最悪、人類を皆殺しにもしかねないように聞こえた。それに、勇者を自分の手で徹底的に管理するとも言っていた。勇者であっても、問題があると見なされれば、容赦なく消しにかかるとね。つまり、僕の異世界の悪党どもへの復讐が正義ではなく悪だと見なされ、復讐を邪魔され、あの女神が僕の敵になるかもしれないわけだ。「剣の女神」ブレンダか。クソリリアより先に、あの女神と本気で、命懸けで戦うことになるかもしれない。味方なら頼もしいが、敵に回したら最強の敵になるわけだ。予想外の強敵出現とは、困ったな、まったく。」

 「「剣の女神」ブレンダ、初めて聞く名だ。闇の女神である妾も知らぬ女神か。リリアは恐らく、他の神界の神々の不興を買って、更迭処分を食らったに違いない。リリアに代わってあの者が新たに人類の保護育成を担当するわけか。そして、妾とリリアに次ぐ、第三者としてこのアダマスの管理も担当すると。神王様からは何の連絡も来ていない。ブレンダとやらの派遣については何も知らされておらん。ブレンダがそれだけ、神王様たちからの信頼が厚く、妾以上の権限を与えられ、全面的に仕事を任されている、ということであろう。ただ、婿殿の今後の動向をあのブレンダが管理し、口出ししてくるというのは、少々面倒なことになった。婿殿と妾の復讐を邪魔してくるようなら、例え神王様からの使者であろうと、容赦はせん。いざとなれば、合体して立ち向かうぞ、婿殿。」

 イヴから共闘を申し込まれ、僕は苦笑しながら返事をした。

 「ありがとう、イヴ。合体が必要なら、遠慮なく力を貸してもらうよ。イヴも知らない、神界のお偉方が派遣してきた武闘派女神か。本当に恐ろしい相手だな。」

 「我も一緒に戦うぞ、ジョー殿。例え格上と分かっていても、仲間のピンチを放っておくことはできん。「剣の女神」と言えど、敵とあらば、戦うのみだ。」

 「アタシも助太刀するぜ。「剣の女神」だか何だか知らねえが、ジョーやアタシらの邪魔してくるってんなら、喧嘩上等じゃんよ。ああいう杓子定規の堅物はどうも気に入らねえ。あの女神の言う正義とやらのために殺されるつもりはねえじゃん。」

 「クソ女神がいなくなったらと思ったら、今度は超真面目でめっちゃ強そうな女神が来るとか、マジで勘弁してほしいわ~。この世界に来る女神、みんな極端過ぎるっしょ。いや、マジでこの世界の人間がやらかしちゃってるのは本当だけどさ~。だけど、新しく来るなら、もうちょい緩い感じの女神が来てほしかったわ。「剣の女神」だっけ、アレはちょっと堅すぎるっしょ。普通に人類滅ぼすとか言っちゃうし、ヤバくね?あ~、アレがもう一人の上司とか、マジだる~。ぜってぇー、ウチとは気が合わない感じがするっしょ。仕事中毒の上司と一緒に仕事するとか、マジで勘弁だし。後、ジョーちんのことは自分が管理するとか、何様って感じっしょ。マジでムカつくっしょ。」

 エルザ、グレイ、スロウが、「剣の女神」ブレンダへの不満を露わにした。

 「三人ともありがとう。でも、まだ「剣の女神」ブレンダは敵と決まったわけじゃあない。あの女神が僕の敵になるかもしれないってのは、あくまでも予想の範囲だ。最悪の可能性って話だ。出来れば、あの女神とは戦うことにならないよう、こちらも注意するとしよう。僕の本命は彼女じゃあないしね。」

 「まぁ、確かにジョー殿の言う通りではあるな。我らの本命は、真の敵はあの女神ではない。真の敵がふたたび、すぐに我らの前に現れるやもしれんしな。」

 僕の言葉に、エルザや他のパーティーメンバーたちは苦笑するのであった。

 一方、パーティーメンバーの中で一人、困惑し、浮かない顔をしている人間がいた。

 光の女神リリアの「巫女」であるマリアンヌである。

 「リリア様がアダマスの女神ではなくなった!?「剣の女神」ブレンダ様が新たな女神として降臨なされた!?しかし、人類を凶悪な種族だと、何の罪もない魔族を迫害するのは止めろとは、神々が私たち人類を滅ぼすことを考えているとは、どうしてこのような事態に!?光の女神リリア様の教えが、私たち人類の行動が間違いだったと!?それでは、私たち人類のこれまでの歴史は全て過ちだったと!?人類は宇宙の秩序を乱す悪しき存在であり、真に滅ぼされるべき存在は魔族ではなく、人類だと、そう言うのですか!?私やインゴット王国、勇者たちの行動どころか、存在自体が無意味、いえ、悪だったと、神はそう仰るのですか!?」

 困惑するマリアンヌに、僕は淡々とした口調で話しかけた。

 「落ち着け、マリアンヌ。別に、お前やインゴット王国、勇者、そして、人類が無意味なわけじゃあない。ただ、結果として見れば、間違いであり、悪だった、ということだ。光の女神リリアの教えが過ちであるにも関わらず、それをよく疑いもせず、あるいは過ちだと知りながらも、リリアの教えに従い、行動した。リリアの教えに従った結果、何の罪もない魔族に3,000年以上も戦争を仕掛け、人類は神々を怒らせるほどの過ちを犯し続け、堕落した。でも、まだ、神々は人類を見放したわけじゃあない。本当に見放していたら、あの「剣の女神」ブレンダは警告なしに人類をすぐにでも滅ぼそうとしたはずだ。そうしなかったと言うことは、人類が正義と平和を愛する知的生命体として進化する可能性が、見込みがまだある、そう思われている証拠だ。アダマスの人間にも、良い人間はたくさんいる。マリアンヌ、お前は確かにクソ王女だが、ちゃんと自分の罪を反省して更生しようと努力している。リリアの「巫女」である前に、この世界の平和を愛する一人の人間として、元勇者たちの討伐にこれまで協力してきた。リリアの教えや神託を悪用するリリア聖教会の悪党どもとも戦った。お前の崇拝する光の女神リリア自身が、自分の教えや行いに過ちがあったと認めて、更迭処分を受け入れたんだ。それに、「剣の女神」ブレンダと言う、もっと真面目な女神を神々はわざわざ寄越してくれたんだ。これからは、「剣の女神」ブレンダの下で、インゴット王国の次期女王として、真っ当な人間として働けばいい。勇者である僕も、「剣の女神」ブレンダの部下にされちゃったしな。まぁ、本当に良い女神で良い上司の下で働けるチャンスをお互いもらったと思えよ。一番大切なのは、みんなを笑顔にしたいって言う気持ちと行動だと、僕は思うぞ。違うか?」

 僕の言葉に、マリアンヌはまだ少し困惑している様子であるが、答えた。

 「ジョー様の言う通りかもしれません。私自身、完全に納得できたわけではありません。しかし、「剣の女神」ブレンダ様の降臨は事実です。「剣の女神」ブレンダ様は決して人類を見放されたわけではなく、私たち人類に期待されている、そう仰いました。「光の女神」リリア様ご自身が過ちを認められ、アダマスを一時離れると決められたのであれば、一介の女神の「巫女」である私に、神々の下した決定に反論する権利も資格もございません。「剣の女神」ブレンダ様が今後、人類とアダマスの管理を担当されるのであれば、それに従わざるを得ません。勇者であるジョー様もブレンダ様の部下となる以上、ジョー様をサポートする私もまた、ジョー様と共にブレンダ様にお仕えするとします。人類の存続のために、精一杯働く意志に変わりはありません。」

 「平和主義の女神である、戦争反対派であることは間違いないしな。「剣の女神」ブレンダのおかげでアダマスから戦争や犯罪が無くなることもあり得る話だ。人類があの女神から本当に見放されないよう、僕たちは一生懸命働くしかない。ブレンダは結構、仕事に厳しい感じでお互いこれから苦労するだろうけど。世界平和と人類存続のためにとにかく頑張ろう。」

 「ジョー様が言うと、大体その通りになるので、ちょっと心配になります。「剣の女神」ブレンダ様が本当に仕事に厳しい上司で私たちが苦労することになるのが当たりそうで怖いです、私は。」

 マリアンヌが少し元気を取り戻したようで、僕はホッとした。

 「パパ~、あのデッカイ女の人が新しい女神様なの~?ちょっと怖そうな女神様、なの。」

 「ハハハ!確かにちょっと怖そうと言うか、キツそうな感じに見えたね!でも、多分、本当は真面目で良い女神様だと、パパは思うよ!メルが良い子にしてたら、ブレンダ様もきっとメルに優しくしてくれるはずだよ!」

 「分かった、なの!メル、良い子にしてます、なの!」

 「メルは本当に良い子だな。きっとブレンダ様もメルのことが好きになるはずだよ。何せパパの自慢の娘だもんなぁ~。」

 僕は笑顔を浮かべながら、メルの頭を優しく撫でるのであった。

 僕たちはメルを見ながら、笑顔でほっこりするのであった。

 新たな女神の出現に困惑しながらも、ようやく明るいムードを取り戻した僕たちの前に、突如、空から一人の女性が現れた。

 船のデッキの真上、空中から僕に向かって、女性が話しかけてくる声が聞こえてきた。

 「先ほどの私からのメッセージは聞いていただけましたか、「黒の勇者」、いえ、ジョー・ミヤコノ・ラトナ?ちゃんとあなたに届くように設定しましたが、無事届きましたでしょうか?」

 僕がサッと上空を見上げると、銀色に光り輝くフリューテッドアーマーを全身に身に纏い、背中から四枚二対の白い鷲のような翼を生やし、銀色のサラサラとした長いロングストレートヘアーに、二重瞼で銀色の瞳を持ち、腰に銀色の鞘に納まった全長90cmのロングソード、背中に銀色の鞘に納まった全長1.4mのクレイモアを装備した、身長180cmの細身で、雪のように白い肌に凛とした表情の、明らかに人外と思われる女性が、空中に浮かびながら、僕に語りかけてきた。

 先ほどから皆で話していた、「剣の女神」ブレンダその人であった。

 僕たち「アウトサイダーズ」の面々が身構える中、彼女はゆっくりとデッキへと降下し、そして、僕の前へと歩いて近づいて来た。

 「そんなに警戒しないでください。私に敵意はありません。私は「剣の女神」ブレンダ、あなた方の同僚です。メッセージを聞いていただいたのであれば、詳しい自己紹介は不要でしょう。初めまして、「黒の勇者」。私が光の女神リリア様に代わって、人類とアダマスの管理を担当することになった者です。また、あなたを含めた勇者の管理を担当することにもなりました。あなたの勇者としての活躍は聞いております。知的生命体及び惑星の保護、育成の仕事を担当するのは初めてですが、担当女神として精一杯職務を務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いします。」

 「剣の女神」ブレンダは僕にそう挨拶すると、僕に右手を差し出し、握手を求めてきた。

 若干無機質というか、クールというか、そんな表情でごく普通に挨拶してくるブレンダの姿に戸惑いながらも、僕はとりあえず右手を差し出し、彼女と握手を交わしながら、返事をした。

 「ど、どうも、初めまして。宮古野 丈と言います。こちらでは、ジョー・ミヤコノ・ラトナと名乗っています。ええっと、「黒の勇者」というあだ名でよく呼ばれますが、僕のことはジョーと気軽に呼んでください。勇者と呼ばれるのは、正直言いますと、好きにはなりません。ああっ、悪党どもを退治しているのも事実ですけど。僕はあくまで、異世界の悪党どもに復讐する、優しい復讐の鬼ですので。」

 僕の挨拶に、ブレンダは驚いたのか、じっと僕の顔を見つめる。

 「なるほど。今の発言に嘘は無いようですね。あなたの感情に嘘偽りは全く視えません。私は他人が自分に嘘をついているかどうか、この目で直接確かめることができます。異世界の悪党どもに復讐する、優しい復讐の鬼、とは予想外の回答ではありましたが。このアダマスであらぬ罪をかけられ、処刑されたこと、光の女神リリアから加護も与えられず放置され、不遇な扱いを受けてきたことは聞き及んでいます。この私の前で堂々と復讐の鬼を名乗るとは、中々度胸がありますね。ただ、邪悪な感情をほとんどあなたからは感じません。あなたのこれまでの行動、活躍はアダマスの平和維持にも繋がっています。勇者に対するあなたのイメージが悪いのは仕方のないことです。このアダマスにおける勇者の在り方、特に光の女神リリアが導いた勇者たちには問題がありました。本来、勇者として不適切な人間が勇者に選ばれていたのも事実です。ですが、今後勇者の教育、管理は私が担当することになりました。勇者とは本来、神の代行者として、正義と平和のために働く、慈愛の精神を持った存在なのです。「黒の勇者」、いえ、ジョー・ミヤコノ・ラトナ、あなたのような人間こそが勇者に選ばれるべきなのです。現状、元勇者たちの問題、人類による魔族への不当な侵略行為、これらの問題を解決すれば、アダマスの秩序は回復の軌道に乗るはずです。そうなれば、新たに勇者を生み出す必要も当面の間、無くなります。共にアダマスを正義と平和が保たれた、秩序ある世界へ導く同志として、一緒に頑張りましょう。」

 ブレンダが熱く協力を呼びかけると、握手をしながら僕に微笑んでみせた。

 「こ、こちらこそ、よろしくお願いします、ブレンダ様。」

 「様はいりません。ブレンダと呼び捨てで結構です。あなたと私は、互いに正義と平和を愛する同志なのです。担当女神と勇者の関係です。神界で今、一番有名な勇者であるあなたと一緒に仕事ができると聞いて、私はこの仕事を引き受けたのです。こちらに赴任する前は、天国の治安維持任務を担当する警備隊の隊長を務めていました。特技は剣術です。趣味はトレーニングと読書です。私のモットーは、公平公正です。それから・・・」

 ブレンダが僕と握手をしながら、怒涛の勢いで次々に自己紹介を話し始めて、僕は思わぬブレンダの反応に困惑した。

 「「剣の女神」ブレンダよ。婿殿が困っている。それと、女神の先輩である妾より先に、婿殿の方に挨拶して、そのまま婿殿とだけしゃべりっぱなしとは、些か妾に対して失礼ではないか?」

 イヴが不機嫌そうな表情を浮かべながら、ブレンダに向かって話しかけた。

 イヴから話しかけられ、ブレンダは僕から顔をイヴの方に向けて、元の凛とした表情に戻ると、イヴに向かって挨拶した。

 「失礼しました、闇の女神イヴ様。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。この度、神王ビギン様の勅命を受け、新たにイヴ様、リリア様と共にアダマスの担当女神となるよう仰せつかりました、「剣の女神」ブレンダと申します。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。若き天才女神と呼ばれるあなたと一緒に仕事ができるとも聞き、喜んで仕事をお引き受けしたところです。至らぬ点がございましたら、遠慮なく言ってください。ああっ、ジョー・ミヤコノ・ラトナ、話の続きですが、私は良い仕事をするために欠かせないアイテムとして、コーヒーを愛飲しています。コーヒーはブラック派です。豆は苦みのある品種が好みです。自分で豆を焙煎もします。イタリアンローストが最も豆の苦みと薫りを引き立ててくれます。あなたのいたチキュウのコーヒーに関する書物を読んで勉強しました。以前の職場で部下にコーヒーを入れてあげましたが、好評でした。今度あなたにも私の自慢のコーヒーをごちそうしましょう。コーヒーを飲みながら仕事の方針について語り合いましょう。コーヒーに合うお菓子も用意しましょう。神界の有名デザート店が作った、私のお気に入りのドーナツを用意しましょう。私はオールドファッションと呼ばれる定番のスタイルが一番コーヒーに合うと思い、よく買って食べています。ああっ、もしかして、甘いモノは苦手ですか?でしたら・・・」

 「おい、ブレンダよ!妾への挨拶の方が短いではないか?何故、また、婿殿と話をする必要がある?いつまで婿殿の手を握っているつもりだ?いい加減に婿殿から離れよ!」

 イヴがいつまでも僕と握手をして、僕と話続けようとするブレンダを咎めた。

 周りにいる他のパーティーメンバーも、不機嫌そうな表情を浮かべながら、ブレンダの顔を見ている。

 だが、イヴから咎められても、他のパーティーメンバーたちから不機嫌そうな表情で見られても、ブレンダは平然としている。

 「私はジョー・ミヤコノ・ラトナの担当女神です。神界の頂点に君臨する最高神、神王ビギン様より、彼のサポートを命じられました。私と彼は、共にアダマスの正義と平和を守る同志です。担当女神が勇者を気遣うのも、コミュニケーションをとるのも、ごく普通のことです。光の女神リリア様と違い、私は常に対面で勇者をサポートし続けるスタンスをとるつもりです。神託だけ授け、勇者を遠隔操作する、そんな職務怠慢な対応をとったりはいたしません。こうして直接お互いの顔を見て、触れあい、交流することが、良き女神と良き勇者の関係構築、良き勇者の育成に繋がると考える次第です。お気に触ったようなら、どうかご容赦ください、イヴ様。私も勇者の育成管理を担当するのは初めてで不慣れなのです。光の女神リリア様と同じ過ちを繰り返してはならないと思っているのです。ここでは、ゆっくりと仕事の相談ができそうにありません。二人だけで内密に話したいこともあります。ジョー・ミヤコノ・ラトナ、この近くに手頃な無人島があります。そこでコーヒーを飲みながら、一緒に話をしましょう。ある程度の距離なら、私は瞬間移動もできるのです。この船への送り迎えも可能です。少し、彼を借りて行きます、皆さん。さぁ、行きましょう、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。」

 「い、いや、ちょっ、ちょっと待ってください!僕はこのパーティーのリーダーでして、自分のパーティーをいきなり置いていくわけにはいきません!それに、内密の話でしたら、この船の個室もありますし、そこで話すこともできます!キッチンもあるので、コーヒーを入れることもできます!あなたには色々とお聞きしたいことがありますが、その、こちらにも予定というものがありましてですね・・・」

 僕がブレンダの提案をやんわり断ろうとすると、メル以外の、玉藻たち他のパーティーメンバーも、ブレンダに激しく異議を唱えた。

 「丈様の仰る通りです!いきなり押しかけて来た上、こちらの都合も聞かず、そちらの都合ばかり押し付けてくるのは失礼です!大体、何故、先ほどから丈様にばかり話しかけ、私たちには挨拶の一つもされないのです!?仕事の話というより、あなたのプロフィール紹介の話ばかりしているようにしか聞こえないのですが!?」

 「いきなり現れたと思ったら、丈にばかり話しかけて、俺たちには一言も挨拶なしとは、一体、どういう了見だ、テメエ!?何で丈を無人島なんぞに連れて行かなきゃならねえんだ!?担当女神だからって、丈とそこまでベタベタするのはおかしいだろうが、コラっ!?」

 「ずっと丈君の手を握る必要はない!二人だけで無人島に行く必要も全くない!さっきから丈君にしか興味が無いようにしか見えない!明らかに職権乱用!女神と勇者の距離感じゃない!いい加減に丈君から離れないと、バラバラに斬り刻む!」

 「先輩方の言う通りだ!我らには一言も挨拶もせず、ジョー殿ばかりに話しかけ、その上、いきなり二人で無人島に行きたいなど、話が支離滅裂である!仕事の話ならば、この船でもできることだ!第一、ジョー殿と我らで、とる態度に落差が激しすぎる!最初からジョー殿だけを目当てに押しかけてきたようにしか見えん!」

 「担当女神だか何だか言ってるが、さっきからずっとジョーにばっかりベタベタくっついて、その癖、アタシらのことはガン無視とはどういうつもりだ!?全っ然、公平公正じゃねえじゃんよ、その態度は!ジョーにしか興味がありませんよ、としか見えねえよ!てかっ、お見合いしに来てるだけにしか見えねえじゃんよ!ふざけんなよ、このムッツリスケベ女神!」

 「「剣の女神」ブレンダ、貴様、本当に神王様から勅命を受けて来たのか!?婚約者である妾の前で堂々と婿殿を口説いているようにしか、妾には見えんのだが!?婿殿は妾の婚約者で、妾の担当勇者でもあるのだぞ!先輩女神である妾に屁理屈を言って、婿殿と二人きりになりたいなど、貴様、妾のことを舐めているのか?闇の女神の恐ろしさを今すぐこの場で教える必要があるようだな、ええっ、無礼な新米女神めが!?」

 「「剣の女神」ブレンダ様、インゴット王国王女にして光の女神リリア様の「巫女」を務めております、マリアンヌ・フォン・インゴットと申します!大変失礼なことを申しますが、担当女神になったとは言え、ジョー様とそのように密接に触れあう必要はないと思います!女神と勇者の良好な関係構築は必要なことではあります!ですが、ですが、わざわざ手を繋いだり、無人島で二人だけで話をしたりする、そんなことをする必要はないはずです!どう見ても、男女の仲を深めようとしているようにしか見えません!担当女神を名乗られるのでしたら、そのようないかがわしい誤解を招く行為は自重すべきと、申し上げます!」

 「ウチらはシカトで、ジョーちんばっかりに構うのはおかしいっしょ!もっと真面目な女神だと思ったら、全然真面目じゃねえし!どっからどう見ても、ジョーちんを狙ってる、お堅いフリした肉食系女子にしか見えないっしょ!無人島に二人だけで行くとか、絶対に襲う気満々にしか見えねえわ!こっちの世界に来た理由はぜってぇー、ジョーちん狙いだからに決まってるっしょ!テメエとジョーちんを二人っきりにするとか、100%無しだから!クソ女神の奴と中身大して変わんねえ気がするんですけど!」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、スロウは、ブレンダに鋭い眼差しを向けながら、激しい不満と怒りを露わにする。

 「お、お姉ちゃんたち、すっごく怒っている、なの!ブレンダ様、パパとばっかり仲良くしてる、なの!お、お姉ちゃんたちとも、メルとも、仲良くしてほしい、なの!」

 メルが玉藻たちの怒った顔を見て、僕にしがみついて怖がりながらも、ブレンダに向けてお願いするのであった。

 「幼子に気を遣わせるのは良くありませんね。メル・アクア・ドルフィン・ラトナ、私は「剣の女神」ブレンダと申します。辛い過去と生い立ちを背負いながらも懸命に、そして、真っ直ぐに生きるその姿、正に私たちが理想とする、正義と優しさに満ちた、純粋無垢な人間そのものです。あなたがそのままの心持ちで立派な大人へと成長することを期待しています。どうか、私とも仲良くしてください。」

 ブレンダは僕と握手をしていた右手を離すと、メルの小さな手をとって、微笑みながら、メルと握手をするのであった。

 「よ、よろしくお願いします、なの、ブレンダ様。」

 「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 ブレンダとメルが握手をしながら交流する姿を見て、殺気立っていた玉藻外パーティーメンバーたちは、ホッとした表情を浮かべるのであった。

 ブレンダはメルとの挨拶を終えると、急にどこからともなく、左手の上に、茶色い背表紙の一冊のノートを取り出してみせた。

 それから、ノートを開くと、玉藻たち他のパーティーメンバーに、やや鋭い眼差しを向け、どこか冷たくもあり、険しさもある口調で話し始めた。

 「ジョー・ミヤコノ・ラトナ、メル・アクア・ドルフィン・ラトナ、ゾーイ・エクセレント・ホーリーライト、以上の三名については、私は信用に値する人物だと評価しています。しかし、他の八名は別です。こちらに来る直前、神王様たちにもご協力いただき、あなた方全員の過去について調べさせていただきました。玉藻の前、チキュウ出身。かつて、チキュウの二ホンと呼ばれる国で起きた、政府主要人物及び政府関係者、貴族などの暗殺事件に多数関与した連続殺人犯の犯罪歴あり。違法薬物の製造、所持、使用の前科もあり。酒吞童子、チキュウ出身。かつて、チキュウの二ホンと呼ばれる国で起きた、貴族や大商人などを対象とした連続強盗事件の主犯の犯罪歴あり。その他にも、窃盗、すり、器物損壊、暴行、傷害など、複数の前科あり。鵺、チキュウ出身。かつて、チキュウの二ホンと呼ばれる国で起きた、政府主要施設襲撃テロ事件の実行犯の犯罪歴あり。その他にも、自身の能力を利用した政府関係者への傷害、殺人、人為的に自然災害を起こして大勢の一般市民を殺害するテロ事件などの前科あり。本来ならば三名とも、地獄に送られるべき大罪人ですが、神獣クラスの能力と、現地人の施した封印のために地獄行きを免れ、紆余曲折を経て、「黒の勇者」ことジョー・ミヤコノ・ラトナの仲間となり、現在に至る。エルザ・ケイ・ライオン。アダマス出身。獅子獣人派の筆頭貴族、ライオン家の長女で、現ペトウッド共和国最高議会議長。犯罪歴はなし。ただし、ペトウッド共和国最高議会議長決定戦出場のために、ジョー・ミヤコノ・ラトナに対し共に出場するよう、彼を脅迫、さらに剣で斬りかかる殺人未遂を起こそうとした過去あり。ジョー・ミヤコノ・ラトナが訴えを取り下げたため、事件化には至らなかったが、起訴されていれば、刑事事件となり、重い刑事処分を下されていた可能性あり。グレイ・ビズ・ウルフ。アダマス出身。狼獣人派の筆頭貴族、ウルフ家の長女。現職国会議員の娘。かつて、元「大魔導士」姫城 麗華外八名の元勇者たちによる「世界樹」ユグドラシル襲撃事件に関与した、テロ事件の共犯の犯罪歴あり。その他にも、薬物の違法使用、暴行、窃盗、未成年でありながらの飲酒など、軽犯罪を主とした複数の前科あり。スロウラルド。神界出身。かつて、他の堕天使の同僚六名とともに、人類約2,000万人、魔族約3,000万人を虐殺する大量殺人事件に複数関与した殺人罪及び国家反逆罪の犯罪歴あり。その他にも、暴行、傷害、器物損壊、窃盗などの前科あり。マリアンヌ・フォン・インゴット。アダマス出身。インゴット王国第一王女にして光の女神リリアの「巫女」。かつて、「黒の勇者」ことジョー・ミヤコノ・ラトナを冤罪事件で処刑しようとした殺人未遂の犯罪歴あり。その他にも、元勇者たちとともに、一般市民から不当に物資財産を略奪する強盗事件を始め、脅迫、暴行、私文書偽造などの犯罪に関与した前科あり。また、光の女神リリアの神託遂行のためならば、手段を問わない悪質な思想、言動、行動をとる危険な性格の持ち主。最後に、闇の女神イヴ。神界出身。犯罪歴はなし。ただし、アダマスを担当する女神でありながら、同僚である光の女神リリアが知的生命体を保護、育成する女神として不適格な思想や言動、行動を取っていた事実、人類の育成に失敗した事実などを、姉妹としての情け、姉妹愛から、神界上層部への報告を故意に行わなかった極めて重大な問題行動をとった過去あり。個人的な感情や家族関係を優先し、異世界の管理に重大な支障を来たす要因を作ったことは間違いなく、異世界と、異世界の知的生命体を管理する担当女神として、その資質に些か問題ありとの、神界上層部の一部から指摘あり。以上が調査結果になります。この調査結果を見れば、誰だってあなた方に不信感を抱いて当然です。過去とは言え、元重犯罪者に犯罪者予備軍、思想や経歴に問題の多い人物がこれだけ大勢、勇者の周りにいることに、私も神界上層部も目を疑った次第です。中立、公平公正、正義を重んじる私から見ても、あなた方は要注意監視対象人物に該当します。何か、反論の余地があれば、遠慮なく仰っていただいて結構です。」

 ブレンダによって玉藻たちの過去の犯罪歴に関する調査報告が読み上げられ、その詳細な内容と、反論を許さぬ気迫、冷静で厳しい語り口に、玉藻たちは皆、苦々しい表情を浮かべ、反論もできず、ただ黙ることしかできない。

 「あなた方のこれまでの功績については、私も神界上層部も評価はしています。しかし、あなた方が今こうして、更生の道を辿れているのは、「黒の勇者」ことジョー・ミヤコノ・ラトナ、彼との出会い、そして、彼の協力があったからこそだと言えます。もし、ジョー・ミヤコノ・ラトナが悪人であった場合、あなた方八名の辿っていた道は違っていたでしょう。ですが、このパーティーのバランスは極めて危うい。ジョー・ミヤコノ・ラトナがいなくなれば、このパーティーはたちまち空中分解することになりかねない。私がジョー・ミヤコノ・ラトナと手を繋いだり、二人だけで話をしたいと発言したり、たったそれだけのことで、あなた方はすぐに感情を乱し、冷静さを失くし、我を忘れてしまう精神的脆さを抱えている。勇者を支える存在に最も求められる要素の一つ、何事にも動じない強靭な精神力が、今のあなた方には欠けています。今のあなた方では、ジョー・ミヤコノ・ラトナにもしもの事態が起こった時、すぐにパニックに陥り、判断を誤る可能性があります。現時点で、私が背中を預けられる存在は、ジョー・ミヤコノ・ラトナ、彼だけです。メル・アクア・ドルフィンは子供、ゾーイ・エクセレント・ホーリーライトは自由に行動できないことから、彼とのコミュニケーションを優先するのは至極、当然のことです。あなた方が要注意監視対象人物ではなく、私が背中を預けるに値する人物だと判断できるほどの証拠を見せてくだされば、私はあなた方を信じます。言っておきますが、私は女神です。神王様にも認めていただいた、神界最高レベルの剣士です。実力を正確に申せば、あなた方全員より上です。あなた方全員を同時に相手取っても制圧可能です。この私の剣には、本来不滅の神をも殺す力があります。腕っ節の強さだけでこの私を納得させようとは思わないことです。」

 ブレンダは冷静な口調で、玉藻たちに厳しい言葉を投げかけるのであった。

 それから、ブレンダはふたたび僕の方に顔を向けると、僕に向かって言った。

 「話を戻しましょう。ジョー・ミヤコノ・ラトナ、出来れば、あなたとは二人だけで話をしたいこと、一緒に進めたい仕事があったのですが、今日のところは止しておきましょう。あなたにも、そして、あなたのお仲間たちにも、それぞれ予定や、乗り越えるべき課題がある、そう見ました。ですが、今済ませることができる案件もありますので、それらを済ませるとしましょう。まず、あなたに報告したいことがいくつかあります。一つ目に、光の女神リリア様の更迭処分についてです。彼女は今回の失態の責任を取ることになり、女神の資格剥奪をかけた適性試験を受けることになりました。私も詳細は知らされておりませんが、試験に不合格となった場合、光の女神リリア様は女神の資格と能力を剥奪され、地獄に落とされることになります。例え合格になっても、試験の点数次第によっては、アダマスとは違う異世界に派遣されることになります。アダマス担当女神に戻っても、この私がお目付け役として彼女を監視し続けることになります。以前のように、好き勝手させることはありませんので、どうか安心してください。実は、私はこのアダマスの管理も行いながら、現在も光の女神リリア様を監視するお目付け役の仕事も担当しているのです。ですので、担当女神として勇者であるあなたに割ける時間がその分、減らされることになります。毎日、直接顔を合わせて一緒に仕事をすることはできません。本当に申し訳ありません。」

 ブレンダが頭を下げて僕に謝ってきたため、僕は慌てて答えた。

 「あ、頭を上げてください、ぶ、ブレンダ。あなたが僕に謝ることは何一つありません。悪いのは全部、あなたに迷惑をかけているクソ女神のリリアです。クソ女神のお目付け役なんて大変だと、アダマスの管理より何百倍も大変だとは思いますが、どうか頑張ってください。僕個人としては、あのクソ女神には一刻も早く落第してもらって、あなたを解放してもらいたい気分ですが。」

 「フフっ。クソ女神ですか。あなたが光の女神リリア様を嫌っている、という話は本当のようですね。女神をクソ呼ばわりするとは、本当に驚かされます。確かに、私も個人的には一日も早く、お目付け役の任から解放されたいのが本音です。神王様から任されたとは言え、リリア様、彼女の横着というか、我が儘な態度には、私も少々、困っています。あなたの真面目さを少し分けてほしいと思うくらいです。心配していただいてありがとうございます。ですが、仕事ですので、どうかお構いなく。それと、あなたに私の加護を授けましょう。本来、一人の知的生命体に与えられる女神の加護は、一つだけ。一人の女神だけです。しかし、神王様にご助力いただき、あなたに私の加護も与えられるようにしていただきました。私が女神として加護を与える人間はあなたが初めてです。良かったら、受け取っていただけますか、ジョー・ミヤコノ・ラトナ?」

 「僕なんかで良かったら、喜んで受け取らせていただきます、ブレンダ。あなたの加護なら、信頼できます。」

 「そう言っていただけると嬉しいです。では、私の女神の加護をあなたに授けます。」

 ブレンダはそう言うと、僕の胸の中央に自分の右手を添えた。

 ブレンダの右手が瑠璃色に光り輝いた瞬間、透明な剣がブレンダの右手と、僕の胸を貫通するように現れ、透明な剣が僕の体の内側に吸い込まれて消えていった。

 透明な剣に貫かれても痛みは感じず、体の中に温かい何かが入り込んだ、そんな感覚を僕は覚えた。

 「あなたに無事、私の加護を授けました。加護と言ってもささやかなモノです。「神荼しんとけん」、それがあなたに与えた加護の名です。この加護は、あなたやあなたの仲間に危害を加えようとする邪悪な魂を持った存在から自動的にあなたたちを護る、神の力を纏いし絶対守護の剣を出現させる、というモノです。いかなる邪悪な存在もあなたに指一本触れることもできず、神聖な剣があなたを最後まで護り、邪悪な存在を自動的に排除する、という力です。ですが、あなたやあなたのお仲間が正義の心を捨て、邪悪な存在に成り下がった時、この力は逆にあなたたちへ神罰を下す剣へと変わります。「黒の勇者」、ジョー・ミヤコノ・ラトナ、これは私からあなたへの信頼の証であり、あなたへ与える試練でもあります。あなたが正義と平和を愛する正しき勇者の道を歩み続けることを、私も、神王様も願っています。期待していますよ、私の勇者殿。」

 「「神荼護剣」、確かに頂戴いたしました。女神様に常に守っていただけるなんて光栄です。いただいた加護に恥じないよう、僕は自分の正義と復讐の心に則り、異世界の悪党どもと最後まで戦い抜き、復讐することを誓います。僕の手が届く限り、罪なき人々を護り続けます。勇者らしくはちょっと難しそうですが、優しい復讐の鬼として全力で頑張らせていただきます、「剣の女神」ブレンダ。」

 「あくまで勇者ではなく、優しい復讐の鬼、としてですか。なるほど。それがあなたの基本的スタンスと言うわけですね。確かに、勇者とは自ら名乗るモノではなく、周囲に行動が評価され、勇者と呼ぶに値する人物として大成した時、真の勇者として人々から認められる者、それが本来の勇者の姿と言えるでしょう。勇者は名乗るモノではなく、ただ正義と平和のために戦う戦士であり、地位や金、名誉などを求めるモノではない、と。やはりあなたは素晴らしい。あなたこそ、この私の加護を与えるにふさわしい真の勇者です、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。あなたなら、きっとこれからも私の与えた加護に恥じない働きを見せてくれるでしょう。それでは、二つ目の報告をさせていただきます。こちらも重要な内容です。できれば、あなたと二人だけでこの案件について一緒に調査をしたいと思っていたのですが、今回は私だけで調査するとしましょう。他の元勇者たちの動向についてです。元「槌聖」山田 剛太郎外四名の元勇者たちですが、彼らは現在、アメジス合衆国のとある刑務所に収監されています。付け加えて、彼らは人間としての自我が全く無く、最早人間以外の異形の存在へと変貌しています。何かしらの人体実験を受けているように見えます。私は光の女神リリアの加護の術式に干渉できるのです。術式のシステムに干渉し、調査した結果、判明しました。現時点では、元「槌聖」たち一行が暴走する危険性は低いですが、彼らの受けている非人道的な人体実験が何らかの形で失敗し、彼らが暴走した場合、その危険度は計り知れません。私はこれより、アメジス合衆国に現地調査へ赴きます。調査結果は分かり次第、すぐにあなたへも報告します。できれば、あなたとの最初の仕事にと考えていたのですが、残念です。」

 元「槌聖」山田たち一行の名前が出て、僕は驚き、すぐにブレンダに訊ねた。

 「元「槌聖」たち一行がアメジス合衆国のとある刑務所に収監されているんですね?それも、人体実験を受け、人ではない異形の、暴走したら危険な存在に改造されていると?ブレンダ、今すぐにでもアメジス合衆国に人体実験を中止させ、元「槌聖」たち一行は全員、即刻始末するべきです。僕が掴んだ情報では、アメジス合衆国は別名「犯罪の国」と呼ばれ、治安が悪く、政府関係者は問題の多い人物ばかりだとの話です。そして、元「槌聖」の山田は、一度キレたら見境無しに暴力を振るう暴漢魔です。他の四人も、暴力やいじめの常習犯です。アメジス合衆国と連中が手を組んだら、きっととんでもない事態になります。今すぐにでも乗り込んで、連中を制圧するべきです。最悪の事態を回避するためには、それが一番です。僕も連れて行ってください、ブレンダ。」

 「できれば、私もあなたを連れて行きたいですよ、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。ですが、連れて行けるのは現時点で、あなただけです。他のパーティーメンバーは許可しかねます。リーダーであるあなたがこのパーティーを離れるのは好ましくない、それが私とあなたの共通認識です。元「槌聖」たち一行より、あなたのお仲間の方がよほど脅威です。それに、アメジス合衆国側にも言い分があります。すでに元「槌聖」たち一行は全員、刑務所の中で、自我を完全に失くしている状態にあると見えます。仮にすでにアメジス合衆国が元「槌聖」たち一行に刑事処分を下し、元「槌聖」たち一行が刑罰を受けているのならば、法の裁きを受け、厳重な国の監視下に置かれているのであれば、私が直接裁きを下す必要はありません。私はあくまで中立、公平公正の立場です。一人の勇者の意見だけを尊重するわけにはいかないのです。けれども、あなたの指摘通り、即刻処断すべき悪だと判断される場合は、私は「剣の女神」の名の下に、彼らに神罰を下します。私を信じてください、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。」

 ブレンダの言葉に、僕は納得がいかないが、アダマス担当女神であるブレンダが調査を行った上で判断したい、と言うのであれば、これ以上反論するわけにはいかなかった。

 「分かりました。あなたの言うことも一理あります。現時点で、元「槌聖」たち一行による重大事件が起こっていない以上、アメジス合衆国の監視下に連中が置かれている以上、僕にはどうしようもできません。けど、最後にこれだけは言わせてください。元勇者は全員、冷酷非道な犯罪者です。人の皮を被った悪魔以下の外道です。そんな連中を利用しようとするアメジス合衆国の人間も、決してまともな人間だとは、僕には思えません。元勇者たちは生かしておけば、必ずこのアダマスに災いと不幸をもたらす脅威になります。これまでの僕の経験がその証拠です。甘い判断は禁物です。連中の邪悪さはあなたの想像以上です、ブレンダ。「剣の女神」と言えど、連中に隙を見せれば命に関わります。どうか、注意して調査に当たってください。」

 「忠告をありがとうございます、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。あなたの今の言葉には、全く嘘がない。元勇者たちが危険極まりない犯罪者、冷酷非道な悪しき人間だと言うことが、はっきりと伝わってきました。十分注意して調査に当たるとします。あなたはやはり、私が見込んだ通りの、素晴らしい勇者です。何かあれば、その時は協力を頼みます。では、また会いましょう、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。他の皆さんもいずれまた、お会いしましょう。」

 ブレンダは僕に微笑みながらそう言うと、背中の翼を広げて、空に向かって飛び、それから瞬間移動で一瞬の内に、僕たちの前から姿を消して去って行った。

 ブレンダとの突然の邂逅を終えた僕たち「アウトサイダーズ」の面々であったが、皆の表情はどこか暗かった。

 僕は、ブレンダが言い残した元「槌聖」たち一行の行方と現状に関する情報が気になった。

 玉藻たち他のパーティーメンバーは、ブレンダに指摘された自分たちへの非難の言葉がいまだ頭から離れないようで、思い思いに悩んでいる様子である。

 船内に暗い雰囲気が漂う中、僕は笑いながら言った。

 「みんな、とにかく元気を出してよ。過去は過去、今は今、だろ?みんな、それぞれ辛い過去を乗り越えて、ここまでやって来たじゃあないか?ブレンダの信頼を勝ち取るために、これから頑張ればいい話だろ?僕たち「アウトサイダーズ」の戦いは、復讐はまだ終わっちゃあいない。元「槌聖」たち一行とは必ず戦うことになる。ブレンダは処分を保留すると言ったけれど、僕はこのまま連中と戦わずに終わるとはどうしても思えない。優しい復讐鬼の勘、って奴かな?みんなだってそう思うだろ?これまで元勇者たちを討伐してきたのは、僕たちだ。元勇者たちを生かしておく価値はない、処分保留なんて甘過ぎる、勇者討伐の経験の差って奴を、あのブレンダに教えてやろうじゃないか?先輩の意地と実力って奴を見せつけるチャンスじゃないか?ついでに、サーファイ連邦国でトレーニングしてもっと強くなった僕たちの姿を見せて、ブレンダを驚かせてやろうよ?それが、僕たち「アウトサイダーズ」の仕事の流儀、だろ?」

 僕はニヤリと笑みを浮かべながら、玉藻たちに向かって話しかけた。

 僕の言葉を聞いて、玉藻たちが急に元気を取り戻し、笑顔を浮かべながら言った。

 「フフっ。丈様の仰る通りです。少しあの底意地の悪い女神になじられた程度でひるんでしまうとは、この玉藻、一生の不覚です。ですが、もう後れを取ったりはいたしません。最強の暗殺者の実力を、あの傲慢な女神にたっぷりと教えて差し上げましょう。」

 「カッカッカ!この俺があんな嫌味程度で落ち込む腰抜けだと思ってんなら、大間違いだぜ。「剣の女神」がどうした?ちょっと腕が立つってだけだろうが。俺の怪力にかかれば、あんなタカビー女神の剣をへし折るなんて、わけないぜ。先輩の実力って奴を教えてやろうじゃねえか。」

 「フッ。あんな能面性格ブスに負ける私ではない。性格ブス女神に丈君を任せるわけにはいかない。神界最高レベルの剣士など、私の敵ではない。何故なら、私は宇宙最強の剣士だから。丈君を護る剣だから。次に会った時、剣士としても、女としても格の違いを見せつけてやるのみ。」

 「フン。我もあの「剣の女神」に舐められっぱなし、というのは気が済まん。「獣剣聖」としての我の剣の実力を、あの身勝手極まりない女神に見せつけてやるのだ。勇者の仲間の真の実力と覚悟を、我が剣で証明してくれる。」

 「へっ。このアタシを散々虚仮にした挙句、勇者の仲間にふさわしくないだとか抜かしやがって、マジでムカついたじゃんよ。クソ勇者どもを討伐してきたのはアタシらだ。いきなり横から現れた奴に文句を言われる覚えはねえ。あのムッツリスケベ女神に、アタシの俊足と槍の一撃をお見舞いしてやるじゃんよ。」

 「フハハハ!無礼な新米女神のあばずれが、この妾を侮辱するなど、絶対に許さん!婿殿の婚約者にして正妻、担当女神はこの妾だ。闇の女神イヴなのだ。神王様の使者だからと調子に乗りおって、実に不愉快だ。先輩女神の真の実力を、婿殿の担当女神は妾一人であることを、あの新米に今一度教えてやろうではないか。」

 「けっ。あの真面目ぶった清楚ビッチ女神が、マジ調子に乗り過ぎだっつの。ウチのことをディスってきた上、ジョーちんにベタベタと勝手に触りまくって、マジで腹立つっしょ。ゾーイも、あの女神はめっちゃムカついたって、言ってるだし。ウチも気が変わったっしょ。バカンスはほどほど、特訓メインでいくっしょ。超絶パワーアップしたウチの力で、あのいけ好かねえ女神の面をボコってやるっしょ。マジで殺る気満々だわ~。」

 「ええっ、私も皆さんと同じ気持ちです。私がただの非力な「巫女」ではないことを、ブレンダ様の前で証明してみせます。私も私なりに強くなってみせます。そして、ブレンダ様からの信頼を絶対に勝ち取ります。絶対に、絶対に諦めません。」

 「メルも、メルも、強くなるの~!メルだって、お姉ちゃんたちみたいに戦えるようになるもん!お子様じゃない、なの!メルはパパの娘、なの!ブレンダ様に、メルはとっても強いって、言わせてみせるもん!」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、スロウ、ゾーイ、マリアンヌ、そして、メルまでもが、ブレンダを見返すのだと、強化トレーニングに取り組むことを表明した。

 玉藻たちのやる気十分、元気を取り戻した姿を見て、僕は笑いながら言った。

 「ハハハ!それでこそ、「アウトサイダーズ」だよ!僕たちに神々の正義も、異世界の常識も関係ない!僕たちは例え世界中を敵に回しても、女神を敵に回してでも、異世界の悪党どもに復讐する!正義と復讐のために、常に前進あるのみだ!「アウトサイダーズ」の意地と底力を、ブレンダに改めて教えてあげよう!僕たちの復讐は誰にも止められない、そのことを証明するぞ、みんな!」

 僕の言葉に、玉藻たちが一斉に「オー!」という大きな掛け声で答えてくれた。

 こうして、「剣の女神」ブレンダとの邂逅を終えた僕たちは、次の復讐に向けて、強化トレーニングに励むべく、トレーニングの地、サーファイ連邦国へと向かって海を進むのであった。

 元「槌聖」たち一行とアメジス合衆国の動向は気になるが、それはひとまずクリスと、「剣の女神」ブレンダの二人に任せておくとする。

 元「槌聖」たち一行とアメジス合衆国、連中が悪事を働こうものなら、その時はパワーアップした力で、情け容赦なく、問答無用で復讐し、皆殺しにして地獄に叩き落してやるまでだ。

 ブレンダが邪魔してくるようなら、僕は彼女からもらった加護を捨ててでも、異世界の悪党どもに復讐する。

 例え何人であろうとも、僕の正義と復讐の鉄槌を邪魔することはできない。

 例え異形の化け物であろうが、犯罪者の集団であろうが、異世界の悪党どもが、僕の正義と復讐の鉄槌から決して逃れることはできないのだ。

 僕と、「アウトサイダーズ」のメンバーはさらに強くなり、誰にも文句を言わせない、圧倒的な正義と復讐の力を手に入れてみせる。

 少しばかり待っていろ、異世界の悪党ども。

 準備が整ったら、すぐにお前たち全員を地獄に落としてやる。

 首を洗って、処刑されるその時が来るのを楽しみに待っているがいい。

 僕は夕方のオレンジ色に染まる海を見ながら、異世界の悪党どもへの復讐に思いを馳せるのであった。



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