【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~
第八話 【EXTRAサイド:マリアンヌ姫&インゴット王国ギルド北支部】姫、ギルド北支部へ向かうも「黒の勇者」に会えない、そして、ブロンたちも追跡を始める
第八話 【EXTRAサイド:マリアンヌ姫&インゴット王国ギルド北支部】姫、ギルド北支部へ向かうも「黒の勇者」に会えない、そして、ブロンたちも追跡を始める
勇者たちの二度目の遠征が失敗に終わり、勇者たちとマリアンヌ姫がインゴット王国冒険者ギルド本部で別れた日から一週間後のこと。
マリアンヌ姫は、主人公、宮古野 丈こと「黒の勇者」を勇者たちの一人として迎え入れるべく、主人公がいるというインゴット王国冒険者ギルド北支部のあるノーザンの町へと向かった。
勇者たちの二度の遠征失敗に、勇者たちの国内での悪評の高まり、そして、国中で評判の英雄「黒の勇者」が、自分が処刑したはずの能無しの悪魔憑きで、彼に復讐される恐れを未然に防ぎ、何とかして説得し、勇者として迎え入れなければ、自身の地位も名誉も命も風前の灯火という切羽詰まった状況に、彼女は追い込まれていた。
マリアンヌ姫は食事も碌に取らず、身だしなみも気にせず、十分な着替えも用意せずにギルド本部からそのまま馬車で出発したため、汚れたドレスを着たまま、冒険者ギルド北支部へ脇目も振らずに急いで向かった。
馬車が冒険者ギルド北支部の入り口の前に着くなり、マリアンヌ姫は周りの目も気にせず、ギルドの中へ飛び込むなり、大声を上げて訊ねた。
「「黒の勇者」様、「黒の勇者」様はいらっしゃいますか!?至急、お話ししたいことがございます!?「黒の勇者」様はいらっしゃいませんか!?」
突然、ギルドに押しかけ、「黒の勇者」を大声で呼ぶマリアンヌ姫の姿に、ギルド内にいた冒険者たちや、ギルドの職員たちは皆困惑した。
「お、おい、あれ、もしかしてマリアンヌ姫か!?随分とボロボロに見えるが!?」
「確か勇者たちと一緒に遠征に行って、また失敗したって聞いたぜ!?おまけに「黒の勇者」を、ジョーの奴を勇者たちと一緒に処刑しようとしたって噂だぜ。一体どの面下げて来たんだか?」
「ジョーの奴が、「黒の勇者」がこの国を出て行ったのはあのお姫さんや勇者たちのせいだとも聞いてるぜ。本当に迷惑な連中だぜ。」
「今更ジョー君に何の用かしら?どうせ勇者たちが当てにならないと分かって、ジョー君に勇者たちを助けるよう頼みに来たんじゃないの?ジョー君に酷いことをしておいて、恥ってものを知らないのかしら、お姫様は?」
ギルドにいた者たちは口々に姫を嫌悪する言葉を吐いた。
マリアンヌ姫は受付カウンターへと向かうと、受付嬢へと訊ねた。
「すみません。私はインゴット王国王女マリアンヌ・フォン・インゴットと申します。「黒の勇者」様がこちらにいると聞いて訪ねてまいりました。至急、「黒の勇者」様にお取次ぎいただけますか?火急の要件がございます。すぐに会わせてください。」
マリアンヌ姫の問いに、受付嬢は姫の顔を睨みつけると、冷ややかな口調で答えた。
「お取次ぎいたしかねます。ジョーさん、いえ、「黒の勇者」様でしたら、もう当ギルドにはおりません。一月前にパーティーメンバーの方々と一緒に旅へと出られました。インゴット王国内にもいらっしゃいません。彼の行き先については我々も存じ上げません。どうぞお引き取りください。」
受付嬢の回答に、マリアンヌ姫は驚いた。
「「黒の勇者」様がいらっしゃらない!?一月も前に旅に出られた!?そ、そんな!?「黒の勇者」様の行き先は本当に分からないのですか?彼と連絡を取る方法はないのですか?」
「何度訊ねられましても、「黒の勇者」様の行き先は存じ上げません。連絡先や連絡方法等も一切うかがっておりません。どうかお引き取りを。」
「それでは困るのです!「黒の勇者」様のお力がどうしても必要なのです!何とか、「黒の勇者」様を探していただくことはできませんか?お金でしたらいくらでもお支払いいたします。どうかお願いいたします!」
「ご依頼とあれば承ります。ですが、「黒の勇者」様の捜索依頼を引き受けてくださる冒険者の方が現れるかは保証いたしかねます。失礼とは存じますが、姫様や勇者様たちが「黒の勇者」様をあらぬ疑いをかけて処刑しようとした、という話が国中に広まっております。併せて、「黒の勇者」様がインゴット王国を出て行ったのも、姫様や勇者様たちから身を守るために止むを得ず国外へ旅立ったとも聞いております。姫様にこの国の英雄である「黒の勇者」様の居場所を探して伝える冒険者が現れるとは思えません。この国のギルドの冒険者で、彼を裏切るような行為をする冒険者も、ギルド職員も一人としておりません。今すぐこのギルドから出て行ってください。私たちは誰一人としてあなたを歓迎しておりません、姫様。」
受付嬢は怒りをにじませながら、姫に冷たく言い放った。
受付嬢の言葉を聞いていた周りの冒険者たちやギルドの職員たちも姫に罵声を浴びせた。
「そうだ!アンタや勇者たちが処刑なんてしようとしたから、ジョーの奴はこの国を出て行ったんだ!それを何だ、都合が悪くなったから、ジョーを探して引き渡せだぁ!?俺たちがそんなことするわけねえだろうが、このクソ王女!」
「ジョーは俺たちみんなの英雄だ、「黒の勇者」様だ!アンタみたいな人でなしにジョーを売るような真似を俺たちがするわけねえだろ!その不愉快な面を下げてとっとと帰りやがれ!」
「勇者が必要ならご自慢のポンコツ勇者様たちとやらを頼れよ!どうせ何にもできやしねえだろうがな!今更ジョーが、「黒の勇者」様が本当の勇者だと気付ていても手遅れなんだよ、馬鹿!自分を殺そうとした人間を助けるお人好しがいるわけねえだろうが?」
「アタシたちが可愛いジョー君をアンタみたいなキチガイ王女や極悪勇者どもに渡すような真似をするわけないでしょうが!さっさとこのギルドから消えてちょうだい!このギルドにアンタに協力する人間は一人もいないわ!」
冒険者たちやギルドの職員たちからの強烈なバッシングを受け、姫は膝から崩れ落ち、涙を流した。
「ほ、本当に申し訳ございません。あの時は本当に知らなかったのです。彼が、「黒の勇者」様が本物の勇者様であることを。彼を悪魔憑きと呼んだことも、勇者様たちに命じて処刑しようとしたことも謝罪します。どうか許してください。私は心から反省しております。謝罪ならいくらでもいたします。ですから、どうか、どうか「黒の勇者」様を探すのを助けてください。「黒の勇者」様のお力が私たちには必要なのです。お願いします。どうか、彼を探すのを手伝ってください。この通りです。」
マリアンヌ姫は泣きながら、頭を下げて頼んだ。
しかし、ギルドにいた誰もが、姫の頼みを無視した。
マリアンヌ姫は絶望に打ちひしがれた。
その時、騒ぎを聞きつけ、三階の執務室から階段を下りて、ギルドマスターのブロン・ズドーがやってきた。
「おい、みんな、一体何の騒ぎだ?喧嘩でも起こったのか?」
ブロンの問いかけに、受付嬢の一人が答えた。
「ギルドマスター、実はジョー君を、「黒の勇者」様を訪ねてマリアンヌ姫が来られました。一月前に彼が旅に出て、行き先も連絡先も存じ上げないとお伝えしたのですが、中々ご納得いただけず、それから、「黒の勇者」様を探すよう依頼を受けたのですが、丁重にお断りした次第です。冒険者の皆さんもギルドの職員たちも皆、「黒の勇者」様を処刑しようとしたという姫様の、「黒の勇者」様の捜索依頼を受けるつもりはありません。そのことで、姫様に対し、皆で抗議をしていたところです。」
「事情は分かった。お前たちの気持ちもよく分かる。私も国王や姫様、勇者たちがジョー君を処刑しようとしたという話を聞いたときは大変驚いたし、怒りもおぼえた。あんなに謙虚で優しい後輩のジョー君を、みんなの英雄である「黒の勇者」様を傷つけられた怒りは十分に分かる。だけど、ジョー君は私たちに処刑されかけたことを一度だって話したことはないだろう。何も言わず、笑ってここを去ったじゃないか。彼はいつか自分がこの国を去らなければいけないことを分かっていた。だから、「黒の勇者」様として自分が去るその日まで、この国のみんなのためにモンスターたちと精一杯戦ってくれたのだと私は思っている。ジョー君は誰よりも優しい男だ。私たちが姫様や勇者様たちと争うことはきっと望んでない。私たちに迷惑をかけないためにもこの国を出たんだろう。彼のそんな優しさを私たちは無駄にしてはいけない。それに彼のことだ。きっと今もどこかの国で人助けをしているに違いない。私もお前たちも「黒の勇者」様の活躍が聞こえてくるのを、彼がまたいつの日にかここへ戻ってくるのを待とうじゃないか。彼が戻ってきた時、このギルドがこんな険悪な雰陰気だと彼も戻りづらいと思うぞ。笑って彼が戻る日をみんなで待とう。マリアンヌ姫には私から改めて事情を説明する。みんなもいつまでも怖い顔をせず、仕事に戻れ。ジョー君が今ひょっこり帰って来たりでもしたら困るに決まってるぞ。」
ブロンの言葉を聞き、冒険者たちやギルドの職員たちも落ち着きを取り戻した。
「そうだな。ギルマスの言う通り、俺たちが姫様や勇者様たちと揉めていたら、ジョーの奴、絶対に困るな。すぐに気を遣って、また出て行くかもしれねえし。」
「ああっ、ジョーは優しいから俺たちがここで姫様と揉めているのを見たらきっと嫌がるだろうな。それに、アイツが戻ってきた時、このギルドが雰囲気悪かったら申し訳ないな。ここはアイツのホームだからな。」
「ジョー君にこんな怖い顔はとても見せられないわ。ギルドマスターの言う通り、アタシたちはジョー君がいつか帰ってくるその日を待つとしましょう。「黒の勇者」様ならきっと何があっても大丈夫だろうしね。」
冒険者たちやギルドの職員たちはそう言うと、仕事へと皆、戻って行った。
ブロンは泣いてうずくまっているマリアンヌ姫に声をかけた。
「マリアンヌ姫様、私はギルドマスターのブロン・ズドーと申します。私も姫様には以前から色々とお話をうかがいたいと思っていたところです。ひとまず、私の執務室で改めて私と話をしませんか?私で良ければ相談に乗りましょう。」
ブロンの言葉に、姫は「はい。」と言って答えると、立ち上がり、ブロンに連れられて、ギルドの三階の彼の執務室へと入った。
執務室に入ると、ブロンは姫にソファに座るよう勧めた。
姫がソファに座ると、彼も向かいのソファへと座り、それから姫に語りかけた。
「マリアンヌ姫様、あなたにはジョー君のことで、「黒の勇者」様のことでうかがいたいことがいくつかあります。まず、ジョー君が異世界から勇者様たちと一緒に召喚され、能無しの悪魔憑きと呼ばれ国から処刑された人物である、これは間違いないことなのでしょうか?」
「はい、間違いありません。「黒の勇者」様は勇者様たちが異世界より召喚されたその日、一緒に勇者様たちと召喚され、そして、私たちはあろうことか誤って彼を処刑してしまいました。コルドー村へカトブレパスの討伐へ出向いた際、コルドー村に建っている「黒の勇者」様の銅像のお顔が、まったく彼とそっくりでした。彼の顔を見たのは一度だけですが、よく覚えています。」
ブロンは姫の回答を聞いて考え込んだ。
「姫様、本当にジョー君は、「黒の勇者」様はあなた方が処刑した人物なのでしょうか?実は、彼は確かにおとぎ話に登場するような悪魔憑きのように、ステータスを鑑定してもジョブとスキルがないと表示されます。ですが、それは彼だけでなく、彼と一緒にパーティーを組んでいる三人の仲間たちも同じなのです。彼らはどこか辺境の田舎からこのインゴット王国に来て、冒険者になろうとしたものの、ステータスを鑑定してもジョブとスキルが表示されない異常を抱えて困っていると、皆口をそろえて言っていました。彼を含め、四人もの、ジョブとスキルがないと鑑定される悪魔憑きのような人間が同時に現れる、こんなことがあり得るのでしょうか?私も彼らのような人間は初めて見ました。「黒の勇者」様が悪魔憑きとして処刑された人物だとしたら、残りの悪魔憑きのような三人は一体どこからやってきたのでしょうか?悪魔憑きとして処刑された人物は本当に一人だけだったのですか?四人ではありませんでしたか?」
ブロンの質問に、マリアンヌ姫も首を傾げた。
「いえ、確かに悪魔憑きとして処刑されたのは、「黒の勇者」様お一人でした。他にも三人、ジョブとスキルがない悪魔憑きのような人間が異世界から召喚されたおぼえはございません。ですが、処刑された人物は間違いなく、「黒の勇者」様でした。一緒に異世界から召喚された勇者様たちがコルドー村の「黒の勇者」様の銅像のお顔を見て、皆さんが間違いなく「黒の勇者」様であると、そうおっしゃっていました。はて、一体どうゆうことでしょうか?「黒の勇者」様以外に、ジョブとスキルが分からない方が他に三人もいらっしゃるなんて。私も正直訳が分かりません。「黒の勇者」様のお仲間の三人とは一体どういった方々なのですか?」
「私も詳しい訳ではありません。名前は確か、タマモ、シュテン、ヌエという三人の女性です。「黒の勇者」様同様、彼らもまたステータスを鑑定してもジョブとスキルが表示されないという不思議な特徴を持っていました。そして、三人とも「黒の勇者」様に匹敵、あるいはそれ以上の実力の持ち主でした。三人全員がS級冒険者として活躍していました。それから、「黒の勇者」様と三人は同郷の出身であるとも言っていました。「黒の勇者」様が異世界から来たとなると、その三人も同じく異世界から来たことになります。ですが、姫様も勇者様たちもその三人については全く知らないご様子に見えます。私も訳が分からなくなってきました。悪魔憑きとして異世界から召喚され処刑された人物は一人、しかし、実際に悪魔憑きらしき人物は四人。数が全く合いません。「黒の勇者」様と三人の仲間は同じ異世界の出身としたら、仲間の三人はどうやって異世界からこちらの世界にやって来たのか?考えられるとすれば、「黒の勇者」様が来る直前に、実は勇者召喚が行われていて、仲間の三人がこちらの世界に先にやって来たということです。姫様、インゴット王国、あるいは他国で、「黒の勇者」様がこちらの世界に召喚される前に、別の勇者召喚が行われたということはありませんか?」
「いいえ、勇者召喚が行われたのは最近ですと、「黒の勇者」様が召喚された勇者召喚だけです。インゴット王国や他国で別に勇者召喚が行われたことはないはずです。前回の勇者召喚が行われたのは、確か100年前であったと記録で呼んだのをおぼえています。100年前に召喚された先代の勇者様たちは全員亡くなったとも聞いております。100年前に召喚された先代の勇者様たちが現在も生きているわけがありませんし。一体どうゆうことか?」
不可解な謎に、ブロンもマリアンヌ姫も頭を抱えた。
だが突然、マリアンヌ姫がハッとした表情を浮かべた。
「ま、まさか、いえ、そんなことがあるわけが!?しかし、他に考えようが!?」
ブロンが姫に訊ねた。
「姫様、何か心当たりでもあるのですか?」
マリアンヌ姫は信じられないと言った様子で、ブロンに答えた。
「光の女神リリア様より神託を授かることができるジョブ、「巫女」のジョブを持つ人間は世界に私を含め、二人しかいません。もう一人の「巫女」のジョブを持つ者が、リリア教の総本山があるゾイサイト聖教国におります。あくまでこれは私の推測ですが、光の女神リリア様が、ゾイサイト聖教国におりますもう一人の「巫女」に、私と同じように勇者召喚の術式に関する知識と、勇者召喚の神託を、「黒の勇者」様たちが召喚される以前に授けていたとしたらどうでしょう?ゾイサイト聖教国が秘密裏に勇者召喚を行い、勇者召喚を行ったものの、何らかのアクシデントが発生して、召喚した勇者たちに逃げられた、あるいは、召喚に失敗してゾイサイト聖教国以外の場所へ勇者たちを誤って召喚した、その事実をゾイサイト聖教国が自国の不祥事となるのを恐れて隠蔽した可能性も考えられます。ゾイサイト聖教国は我が国と強い同盟関係にありますが、とても封建的で閉鎖的な国でもあります。光の女神リリア様を崇拝する熱狂的な信者が多い国です。女神さまより神託を授かりながら、その神託の内容を実行できなかったとあれば、ゾイサイト聖教国の首脳陣にとっては恥以外の何物でもありません。勇者召喚をゾイサイト聖教国がすでに行い、失敗した可能性は大いに考えられることです。もしかしたら、「黒の勇者」様のように、ジョブとスキルが鑑定で分からなかったため、悪魔憑きとして召喚した勇者たちをゾイサイト聖教国が追放、あるいは処刑して、「黒の勇者」様同様、召喚した勇者たちが生き延び、「黒の勇者」様と出会ったのが、あなたのおっしゃる「黒の勇者」様の三人のお仲間なのではないでしょうか?それ以外に可能性は考えられません。もはや、これは我が国だけの問題ではありません。ステータスを鑑定してもジョブとスキルが鑑定不能のエラーを起こすほどの強力なジョブとスキルを持つ勇者がこの世界に四人も現れ、彼らが野放しになっている状況だと考えられます。一刻も早く、「黒の勇者」様たちを保護する必要があります。もし、彼らが魔族側に引き込まれ、魔族側の戦力として人類に宣戦布告してきた場合、現状の人類の戦力で勝つことはほとんど不可能です。最悪の場合、魔族側が人類を絶滅させる恐れもあります。これは正に人類の危機です。本物の勇者を、人類を滅ぼす災厄へと変えてしまうなど、はっきり言って、史上最悪のミスを私たちは犯してしまいました。本当に、本当に申し訳ありません。」
マリアンヌ姫の推測を聞いて、ブロンは慌てた。
「お、お待ちください、姫様。ジョー君たちが、「黒の勇者」様たちが異世界から召喚された可能性は大いにありますが、彼らが魔族側と結託して人類絶滅を考えるとは到底考えられません。もし、彼らが人類絶滅を考えていたなら、どうして召喚されてすぐに魔族側と接触せず、我が国で冒険者として活動する必要があるのでしょうか?なぜ、「黒の勇者」様と呼ばれるまで、我が国の国民を助けるようなことをするのでしょうか?私は「黒の勇者」様たちが、「アウトサイダーズ」のメンバーが人類絶滅を考えるような悪人とは思えません。彼らは間違いなく善人です。彼らにS級冒険者の資格を与えたのは、ギルドマスターであるこの私です。彼らはS級冒険者にふさわしい人格と実力の持ち主だと判断し、彼らをS級冒険者に認定しました。国民も彼らを英雄と呼んで慕っています。彼らは決して我々人類の敵などではありません。彼らは間違いなく、英雄、いや、勇者です。私はあなたに責任をもって断言いたします。ジョー君は、「黒の勇者」様は必ずこの世界を平和に導く存在になると私は信じています。姫様、「黒の勇者」様たちを信じてあげてください。一度は彼らを裏切ったあなただからこそ、「黒の勇者」様たちを信じ、支える存在にならなければいけないのではありませんか?」
ブロンの言葉に、マリアンヌ姫は泣いた。
「あなたのおっしゃる通りです。「黒の勇者」様たちは自分たちを裏切り、処刑した者たちが治める国の民のために、凶悪なモンスターたちと戦ってくれました。決して、困っている民たちを私怨で見捨てることはなさいませんでした。そんな方々が人類の敵のわけがありません。私も、父も、勇者たちも、間違っていました。私は何があっても「黒の勇者」様たちを探します。そして、謝罪し、改めて勇者としてお迎えに上がります。今度こそ、彼らの支えになってみせます。ブロン・ギルドマスター、色々とお話を聞いていただき、ありがとうございました。「黒の勇者」様たちは自分の力だけで探します。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。では、私はこれにて失礼させていただきます。本当にありがとうございました。」
マリアンヌ姫は御礼を言って、深々と頭を下げると、ブロンの執務室から出て行った。
ブロンの執務室を出た後、姫は「黒の勇者」たち一行の行方を捜すため、馬車に乗ってギルド北支部を後にした。
マリアンヌ姫との会話が終わってしばらくの間、ブロンは執務室で一人、机に向かい、考え込んでいた。
「姫にはああ言ったが、ジョー君が異世界から勇者として召喚され、悪魔憑きとして処刑された人物であることは間違いないと見た。先日の「光の迷宮」の崩壊、聖剣の紛失がジョー君たちの仕業である可能性は高まった。もし、彼が「光の迷宮」の崩壊事件を引き起こした犯人だった場合、彼の行為は間違いなく人類への敵対行為、女神への背信行為に当たる。だがしかし、彼は自分を処刑したインゴット王国の国王たちが治める、インゴット王国の国民たちを助け続けた。大量のハズレ依頼をこなし、時には無報酬でモンスターたちから国民を守った。本物の勇者たち以上の活躍を見せ、国民全員から「黒の勇者」様と呼ばれ慕われている。彼は勇者たちへの復讐心から事件を起こしただけで、本当は女神が遣わした人類の救世主なのか、それとも、我々を欺くためにわざと国民を助け、実は人類絶滅を企む人類の敵なのか、正直分からないことばかりだ。だが、私はジョー君が、私たち人類の味方であると、私たちの世界を平和へと導く存在だと、そう信じたい。」
ブロンは自身の思いを口にした。
ブロンはふと執務室の壁に視線を向けると、壁に向かって言った。
「スミス、私と姫との話は聞いていただろ?お前はどう思う?」
突然、壁の中から現れるように、グレーのショートヘアに、グレーの瞳の、中性的な容姿を持つ、黒づくめの衣装の人物が姿を現した。
インゴット王国冒険者ギルド北支部の副ギルドマスターにして、情報収集のエキスパート、スミス・シャドーであった。
「話は全部聞いていたよ。僕もジョー君が異世界から勇者として召喚され、悪魔憑きとして処刑された人物だと思うよ。どうやら僕たちの当初からの推測は当たっていたみたいだね。同じ悪魔憑きのお仲間の三人の出自が謎だったけど、姫様の言っていたゾイサイト聖教国が秘密裏に勇者召喚を行い、現れたのがその三人かもしれないという推測も案外当たっている可能性は高いかもね。う~ん、でも僕はジョー君が人類の敵になるとは全然思わないなあ。現に、あのクズ勇者たち以上に勇者らしい活躍をしているし、彼が善人の気質の持ち主なのは知っているし、彼こそが真の勇者だと僕は思うよ。「光の迷宮」を崩壊させたのは、単に勇者たちへの嫌がらせとか復讐とかじゃないかな。あのクズ勇者たちに復讐したくなる気持ちは僕も分かるよ。聖武器を紛失するのは人類にとって大きな痛手かもしれないが、ぶっちゃけ聖武器をあのクズ勇者たちがダンジョンを攻略して入手するとも、聖武器を使いこなせるとも思わないなあ。それに、聖武器なしでも「七色の勇者」以上に戦える勇者が四人もいるなら、そんな規格外の勇者たちが誕生したのなら、問題ないんじゃないかな?ところで、どうする、ブロン?ジョー君たちの足取りを追跡するかい?後、ジョー君たちを探しに行った姫様は監視するかい?あの姫様一人で探せるとは思えないし、むやみにジョー君たちと姫様を接触させるのはマズい気がするんだけど?」
スミスの言葉にブロンは考え込んだ。
それから、スミスに向けて言った。
「スミス、ジョー君たちの足取りを探ってくれ。ジョー君たちがどこで何をしているのか、調べて逐一私に報告してくれ。そして、彼らを見つけ次第、監視しろ。それから、悪いが、ついでにマリアンヌ姫の監視とサポートも頼む。できれば、彼女がジョー君たちと万が一接触しても、刀傷沙汰にならないよう、援護してくれ。長期出張になるが、よろしく頼むぞ。」
ブロンの言葉に、スミスはニヤリと笑った。
「了解、ブロン。情報は掴み次第、逐一報告する。姫様の監視とサポートも任せてくれ。それじゃあ、行ってくるよ。」
スミスはそう言うと、壁の中に徐々に溶け込むように姿を消した。
スミスがいなくなった後、ブロンは執務室で一人呟いた。
「今の私にできることはジョー君たちを信じて見守ることだけか。願わくは、彼らが真の勇者として私たちの世界を救ってくれることを祈るよ。」
異世界で優しい復讐鬼として復讐の旅を続ける、主人公、宮古野 丈に、ブロンの願いが届くは分からない。
マリアンヌ姫が本格的に宮古野 丈の捜索を始めた。主人公と彼女に果たして和解の時が訪れるのかどうかは分からない。
ブロンの命を受け、スミスが主人公、宮古野 丈の追跡を始めた。スミスがもたらす情報がブロンにとって、吉と出るか、凶と出るかは定かではない。
主人公、宮古野 丈を巡り、さまざまな人々の思惑が絡み、そして、さまざまな人物が行動を起こしていた。
主人公、宮古野 丈の異世界への復讐の旅が、彼を取り巻く人々の手によって、より複雑なモノへと変わっていくのだった。
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