第九話 【処刑サイド:インゴット国王】インゴット国王、聖双剣の紛失を知る、そして、剣聖が引き起こした問題のため多額の賠償金を請求されるハメになる

 主人公が「火の迷宮」を攻略し、聖双剣を破壊し、剣聖たち一行を倒した日から一週間後のこと。

 そして、勇者たち一行が二度目の遠征に失敗し、勇者たち一行がマリアンヌ姫とギルドで別れた日から一週間後のこと。

 インゴット国王、アレクシア・ヴァン・インゴット13世は、王城の一室で公務をほったらかして、昼間から一人酒を飲んでいた。

 勇者たちの二度目の遠征が失敗に終わり、勇者たちが何故か国民たちからさらに嫌われ、勇者たちの評判がガタ落ちしたと聞いた上、可愛い一人娘のマリアンヌ姫が勇者たち一行と遠征に行ったきり、全く王城に戻ってこないため、国王はすこぶる機嫌が悪かった。

 彼は昼間からうっぷんを晴らすため、一人やけ酒をあおっていた。

 「ヒック。何故だぁ!?どうしてこうも上手く行かん!?勇者様たちの遠征は失敗するわ、勇者様たちの評判が何故かは知らんがガタ落ちするわ、一体何がどうなっておる!?勇者様たちは歴代最高にして歴代最強の勇者ではなかったのか!?それに、なぜマリアンヌが戻ってこんのだ!?勇者様たちに聞いても皆知らぬ存ぜぬとは、一体あの子は今、どこで何をしておる!?なぜ、こうも悪いことばかりが続くのだ!?」

 国王は不満を口にしながら、酒を飲んだ。

 国王が酒を飲んでいると、ブラン宰相が血相を変えて、ノックもせずに国王のいる部屋へと入って来た。

 ブラン宰相が慌てた様子で、国王に話しかけた。

 「国王陛下、一大事でございます!酒を飲んでいる場合ではございません!とにかく私の話をよく聞いてください!」

 「何だぁ、宰相!?ヒック。勇者様たち一行の遠征失敗以上の一大事が起こったとでも言うのか!?」

 「左様にございます、陛下。落ち着いて聞いてください。先ほどラトナ公国が世界各国に向け、声明を発表しました。そして、我が国に個別に、とある声明を伝えてきました。単刀直入に申し上げます。「火の迷宮」が崩落を起こし、聖双剣を紛失したとのことです。そして、その原因が、「剣聖」前田様率いる勇者一行がラトナ公国の許可を得ず、無断でダンジョンに侵入し、ダンジョン内で暴れたためとのことです。さらに、前田様たちが違法薬物ドラゴンブラッドを所持並びに使用していたこと、ラトナ公国内で強盗をしていたことが判明したとのことです。ラトナ公国の声明を聞き、世界各国から我が国の勇者たちの管理責任を問う非難の声が上がっています。加えて、ラトナ公国より我が国に対し、1兆リリアの損害賠償金の請求が来ています。このままでは我が国は賠償金の支払いで破綻します。」

 宰相からの衝撃的な説明を聞き、国王はショックで持っていたグラスを床に落とした。

 あまりのショックで国王は一気に酔いがさめてしまった。

 「ひ、「火の迷宮」が崩落!?聖双剣を紛失!?原因が「剣聖」たち一行がダンジョンに無許可で侵入して暴れ回った!?「剣聖」たちがドラゴンブラッドを所持していた!?「剣聖」たちが強盗をした!?おまけにラトナ公国から1兆リリアの損害賠償金の請求が来ただと!?我が国が破綻するだと!?な、何なんだ一体!?なぜ、なぜそんな事態になった!?宰相、貴様一体今まで何をやっていた!?なぜ、このような事態になるまで問題を放置したのだ!?勇者様たちにはしっかり目を配るよう、あれほど申し付けていただろうが!?「剣聖」たち一行は連れ戻したのではなかったのか!?」

 国王は全ての責任が宰相にあるように言い、八つ当たりを始めた。

 「も、申し訳ございません、陛下。「剣聖」前田さまたち一行を必死に、騎士たち総出で連れ戻すために追いかけさせたのですが、連れ戻すことができませんでした。ラトナ公国内に入られてからは「剣聖」さまたち一行の足取りは全く掴めず、彼らがダンジョン攻略を断念して戻って来るのではないかとの意見があり、帰還を待つ方針でした。ですが、まさかダンジョン内で暴れた上に、ダンジョン崩落を起こし、聖双剣を紛失する事態を引き起こすとは予想していませんでした。それに・・・」

 「ええい、黙れ!貴様の言い訳などどうでもいい!「剣聖」たちは今、どこにおる!?この国に帰って来ているのか!?即刻、事情を聞いて厳重注意をせねば!」

 「それが、大変申し上げにくいのですが、「剣聖」様たち一行は、逃亡しました。現在、ラトナ公国より指名手配されております。」

 ブラン宰相の言葉に、国王はまたまた耳を疑った。

 「はっ!?「剣聖」たちが逃亡しただと!?しかも、指名手配中だと!?」

 「はい、誠に遺憾ではございますが、ラトナ公国の発表によりますと、「火の迷宮」のあるボルケニア火山の麓で、「剣聖」様たちの装備や服が見つかったとのことです。おそらく、無断でダンジョンに侵入し、暴れ回って、聖双剣を紛失する事態を引き起こした上、モンスターたちとの戦闘に恐れをなし、勇者としての責務を放棄して逃げ出したのではないかと。それに加え、違法薬物のドラゴンブラッドが残された持ち物から発見され、ドラゴンブラッドの所持並びに使用の発覚することを恐れた可能性や、ラトナ公国内で強盗の罪を犯したことが露見することを恐れた可能性もあり、ラトナ公国から逮捕されるのを免れるために、逃亡したものと推測されるとのことです。「剣聖」さまたち一行が犯罪行為に手を染めていたことは紛れもない事実でございます。この事実がいずれ世界中の人間に知れ渡れば、勇者様たちの信用はもはや取り戻しようがございません。加えて、我が国には勇者様たちの管理責任能力がないとみなされ、勇者様たちへの各国からの支援金の話は完全にご破算となることは確実です。勇者様たちにもはや勇者としての価値は失われたとしか言いようがございません。」

 宰相の言葉を聞いて、国王は膝から崩れ落ちた。

 「な、なんてことだ!?勇者が犯罪を犯し、勇者の責務をほったらかして、指名手配され、逮捕を免れるために逃亡するなど、前代未聞だ!?私も勇者様たちもこの国も完全に他国から信用を失ってしまった。勇者様たちへの他国からの支援金も入らない。おまけにラトナ公国には1兆リリアの損害賠償金まで払わなければいけないだと!?先日の勇者様たちへのパレードや、勇者様たちへのおもてなし、勇者様たちへのお小遣いなどで散々金を使ってしまった!とても1兆リリスの賠償金を払う余裕など我が国にはない。このままでは間違いなく我が国は破綻だ!?何故だ、何故こんなことになった!?勇者様たちが来てから碌なことが起こらない。あれではただの金喰い虫、いや、疫病神ではないか!?勇者様たちに、あの異世界人たちにもはや勇者としての信用も利用価値もない。即刻手を切らねば、ますます大変なことになる。しかし、勇者の代わりになる者がそうそういるはずが。い、いや、確か「黒の勇者」と呼ばれる冒険者がいたな!?歴代最強の勇者パーティーに並ぶ偉業を達成したと言う、国民に人気の英雄がいると、先日元軍務大臣の奴が言っておった。そ、そうだ、「黒の勇者」だ!今すぐに「黒の勇者」を新たな勇者に任命するのだ。あの異世界人たちは実は偽勇者で我が国や世界を騙していたと、そう発表すればいい。ブラン宰相、ただちに「黒の勇者」をここへ呼んでくるのだ!そして、その者を新たな勇者へと任命するよう手配せよ!」

 国王は起死回生の秘策として、現勇者たちを勇者から解任し、「黒の勇者」を新たな勇者に任命することを思いつき、宰相に「黒の勇者」を連れてくるよう指示した。

 だが、宰相の顔は暗かった。

 そして、国王に衝撃の事実を告げた。

 「大変申し上げにくいのですが、「黒の勇者」を新たな勇者に任命することは不可能でございます。実は陛下のおっしゃる「黒の勇者」と呼ばれる冒険者とは、勇者召喚の際に能無しの悪魔憑きと呼んで、陛下や私、勇者様たちが処刑した人物らしいのです。」

 宰相の言葉に、国王は驚いた。

 「ば、馬鹿な!?あの無礼な能無しの悪魔憑きが「黒の勇者」だと!?あの男は処刑されて死んだのではなかったのか?能無しのはずではなかったのか?」

 「マリアンヌ姫様や勇者様たちが先日、コルドー村のカトブレパス討伐の名目で二回目の遠征に行かれた際、コルドー村に建てられている「黒の勇者」の銅像を見た際、顔が間違いなく、我々が処刑したはずの人物だったということです。おまけに、「黒の勇者」を処刑しようとした事実を国民の前でうっかりマリアンヌ姫様や勇者様たちが話してしまい、我が国の英雄であり、真の勇者である「黒の勇者」を我々が処刑しようとした事実がバレてしまいました。国民は「黒の勇者」を処刑した陛下や姫、私、勇者様たちに対する非難の声を上げており、国民の反発をやっとの状態で抑えているのが現状です。それから、「黒の勇者」なる冒険者は一月ほど前に我が国を旅立ち、現在我が国にはいないとの情報を掴みました。国民は、政府や勇者様たちが「黒の勇者」へ危害を加える可能性が高まったせいで、「黒の勇者」は我が国を出て行ってしまったと見ているようです。そのこともあって、国民は我々インゴット王国政府や勇者様たちへの不満や怒りが募っている状況です。「黒の勇者」の行方は掴めてはおりません。尚、「黒の勇者」がS級冒険者として活躍する力を持っているのは事実のようです。「黒の勇者」は浴びた者を呪い殺す死の視線という状態異常攻撃の力を持つSランクモンスター、カトブレパスをソロ討伐したそうです。何でも、カトブレパスの死の視線を浴びても全く平気で、素手にて一発で殴り殺す実力だそうです。「黒の勇者」と呼ばれる人物が勇者として女神から強力なジョブとスキルを授かった可能性があります。勇者召喚の際、勇者様たちの鑑定を担当した鑑定士はその事実を噂で知り、自身の鑑定ミスの発覚を恐れ、行方をくらませました。マリアンヌ姫様は「黒の勇者」の事実を知り、勇者様たちの遠征後、「黒の勇者」を連れ戻すと言って、お一人で捜索に向かわれました。ですが、「黒の勇者」を連れ戻すことは絶望的としか考えられません。「黒の勇者」は、自身を能無しの悪魔憑きと呼んで処刑した我々を恨んでいるはずです。例えこちらが頭を下げて頼んでも勇者の任を引き受けてくれることはないでしょう。陛下、我々は真の勇者たる人物を失った上に、完全に敵に回してしまいました。我々は大切な勇者を失う大失態を犯したわけです。もはや我々にできることは、今手元に残っているあの問題児だらけの勇者様たちを何とかして一人前の勇者として鍛えるか、勇者を失った汚名を甘んじて受け入れ、勇者様たちを切り捨て、ラトナ公国からの賠償金の請求の減額に向け交渉するしか、どちらかの道しか残されていないのです。」

 「そ、そんな、「黒の勇者」が我が国にいない!?「黒の勇者」を処刑しようとした事実が国民にバレた!?我々は真の勇者を失う大失態を犯しただと!?なんてことだ!?わ、私はこれでは世界中から笑いものにされる!?真の勇者を処刑しようとした愚か者として末代まで馬鹿にされる!?私も、この国ももうお終いだ。」

 国王は宰相の説明を聞いて、絶望した。

 意気消沈し、言葉も出ない様子だった。

 宰相の呼びかけにも反応せず、放心状態となった。

 国王はあまりのショックで廃人のようになってしまった。

 国王を心配した宰相や騎士たちによって、国王は自身の寝室へと運ばれ、そのまましばらく静養することになった。

 国王の代わりに、宰相や他の大臣たちが国王の政務を代行したが、ラトナ公国との賠償金の請求の減額交渉は国王不在の影響が大きく、難航し、結局失敗に終わった。

 国王が倒れてからしばらく経って、「剣聖」たち一行がラトナ公国にて、ダンジョンを崩落させ、聖双剣を失う事態を引き起こしたことや、違法薬物ドラゴンブラッドを所持並びに使用していたこと、ラトナ公国内で強盗の罪を犯していたこと、罪の発覚や逮捕を恐れ勇者の責務を放棄して逃亡したこと、ラトナ公国政府からインゴット王国政府に対して「剣聖」たち一行が引き起こした問題への損害賠償金1兆リリスが請求された事実は、世界中に、そして、インゴット王国国民全員が知ることになった。

 連日、王城の前にはマスコミや、国王と勇者たちをボイコットする国民が大勢押しかける事態になった。

 マスコミや国民たちは、勇者たちの勇者の任を解くこと、インゴット王国から勇者たちを追放すること、国王や大臣たちが辞任することなどを訴えた。

 国王、インゴット王国政府、勇者たちへの国民の不満が大爆発した状況だった。

 説明責任を国民から問われても、体調不良を理由に、国王が国民の前に姿を現すことはなかった。

 国王は精神的ストレスから床に臥せっていた。

 ストレスのあまり、食事も喉を通らず、体重もみるみると減ってやせ細り、立派だった金色の髪も半分以上が白髪に代わり、10歳以上老け込んだようなやつれた姿へと変わってしまった。

 だが、そんな国王に追い打ちをかけるような事態がさらに起こるのだった。

 その原因はもちろん、勇者たちであった。

 国王の明るかったはずの未来が、破滅へと加速度的に向かっていく。
























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