第七話 主人公、獣王と戦う

 「ペトウッド共和国最高議会議長決定対抗戦」当日。

 僕たちは無事、対抗戦を勝ち抜き、優勝を手にした。

 エルザの新議長就任も決まり、後は大会を終えるだけと思っていた。

 だが、ここで予想外のハプニングが起こった。

 マックス大会委員長の突然の提案により、僕とマックス大会委員長のエキシビションマッチが行われることに決まったのだ。

 初めは断るつもりだったが、エルザから父の引退の花道に花を添えるため、戦ってほしいと頼まれ、僕は仕方なくマックス大会委員長との試合を受けることに決めた。

 会場の観客たちは、「獣王」対「黒の勇者」の戦いが見れると聞いて、盛り上がっている。

 「マックス様が誰かと試合をするなんて久しぶりじゃねえか?「獣王」の剣技が拝めるなんて滅多にないチャンスだぜ、おい。」

 「獣人最強の「獣王」と、世界中で話題のS級冒険者「黒の勇者」の対戦なんて、超豪華な試合じゃねえか。エキシビションマッチのレベルじゃないぜ、コイツは。」

 「いくら「黒の勇者」でも「獣王」には勝てねえだろ?建国以来、3,000年間無敗の「獣王」相手に勝つなんて無理だろ?もし、「獣王」が負けたりしたら、獣人最強の座が危うくなるぜ?「獣王」こそ獣人最強っていう考えが根底から覆ることになるかもしれねえぞ?」

 観客たちは口々に、「獣王」対「黒の勇者」の試合に関する予想や考えを口にする。

 エキシビションマッチの開催が発表されてから30分後、準備を終えて、僕とマックス大会委員長が競技フィールドへと入場した。

 僕とマックス大会委員長は競技フィールドの中央へと進み、5mほど距離を開けて互いに向き合った。

 マックス・ケイ・ライオン。

 身長2mで、ライオンの耳と尾を生やし、黄褐色のゴワゴワとした長い髪に、黄褐色の馬蹄形の口髭を生やしている。鷲鼻で、黄色の瞳をしていて、目力が強く、貫禄がある。

 白いシャツに、茶色いチュニックを着ていて、背中には長さ2mほどのツーハンドソードを背負っている。

 60歳という年齢ながら、筋骨隆々としたたくましい肉体をしている。

 獣人最強と呼ばれる「獣王」のジョブを持ち、ペトウッド共和国最高議会の議長を長年務める実力者だ。

 獅子獣人派の筆頭であり、エルザの実の父親でもあり、そして、エルザに剣の基礎を教えた人物である。

 マックス大会委員長が僕に声をかけた。

 「突然無理を言って済まなかったね。貴殿や娘の戦いを見ていると、どうしても儂も年甲斐もなく本気で戦いたくなってしまった。娘の、エルザの件については礼を言わせてもらおう。エルザと一緒に戦ってくれてありがとう。エルザに力を貸してくれてありがとう。ジョー殿、貴殿がエルザを指導していたことは知っている。貴殿の指導を受け、エルザは見違えるほど成長した。儂の想像をはるかに超える強さを身に着けた。あの子が「獣王」のジョブとスキルを継げずに悩んでいたことは知っていた。儂は別に気にしなくてもいいと言って見守っていたが、年を重ねるにつれ、エルザがそのことで深く悩むようになり、暗い顔を見せるようになった。儂ともだんだん話すのを止め、儂を避けるようになった。家にも帰らず、自分のツリーハウスで寝泊まりすることも増えた。だが、儂にはそんなあの子を叱ることも、声をかけることもできなかった。あの子が周りから「獣王」のジョブとスキルを継げなかったことで陰口を言われたりすることや、いじめられていたことも、そのせいでますます苦しみ、友人を作れずにいたことも分かっていた。獅子獣人派の代表チームのリーダーになった時、あの子の呼びかけに誰も応えてくれず、苦しんでいたことも知っていた。だがしかし、大会委員長を務める以上、娘だからという理由で、あの子に肩入れして、チームメンバーを探す手伝いはできなかった。儂はエルザのために何一つしてやれることが無かった。けれども、ジョー殿、貴殿があの子の前に現れたことで、あの子は変わった。あの子は強くなっただけでなく、笑うようになった。家に帰ってくると、貴殿と今日、どこでどんな冒険をしたのか、一緒に何を食べたのか、何をして遊んだのか、楽しそうに儂に話をするようになった。貴殿のおかげで、エルザは自信と笑顔を取り戻した。貴殿という友達が出来たことで、あの子はふたたび儂の前で笑うようになってくれた。何から何まで、本当に感謝している。本当にありがとう、ジョー殿。」

 マックス大会委員長が僕にそう御礼を言うと、深々と頭を下げた。

 「頭を上げてください、マックス大会委員長。僕は大したことはしていません。エルザが強くなったのは僕一人の力じゃありません。仲間たちの協力もあったからです。何より、エルザ自身の強い覚悟と懸命な努力があったからこそ、エルザは強くなれたんです。僕の手助けなんて微々たるものです。それに、助けられたのは僕の方です。僕もエルザと出会うまで、同年代の友人はいませんでした。だから、エルザが友達になってくれた時はすごく嬉しかったです。エルザは僕にとってかけがえのない友達です。こちらこそ、エルザさんと出会う機会をいただき、ありがとうございました。」

 僕もそう言うと、マックス大会委員長に頭を下げた。

 「頭を上げてくだされ、ジョー殿。貴殿から頭を下げてもらうことはありませんぞ。御礼を言うべきは儂の方だ。貴殿が噂に違わぬ誠実なお人であることは分かった。さすがは「黒の勇者」と呼ばれるだけのことはある。どうか、これからも娘の良き友人でいてくだされ。」

 「はい、僕もそのつもりです。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 僕とマックス大会委員長は互いに笑い合った。

 「では、ジョー殿、立ち話はこの辺にしてそろそろ試合を始めるとしよう。観客も首を長くして儂たちの試合が始まるのを待っている。言っておくが、これでも儂は貴殿と同じS級冒険者だ。時折モンスターの討伐を今でもやっている。そして、獣人最強を自負する「獣王」でもある。貴殿の常識外れの力は知っているが、儂も負けるつもりはない。戦うからには全力でお頼み申す。」

 そう言うと、マックス大会委員長は背中から、巨大なツーハンドソードを取り出して両手で中段に構えた。

 「なら、こちらも全力で挑ませていただきます。」

 僕は左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 如意棒を右手に持つと、如意棒に霊能力を流し込み、長さ2m、太さ3㎝の、細長く黒い棍棒へと変形させた。

 僕は棍棒の先を若干下に下げるように、棍棒を両手で構えた。

 「ほう、この儂にそのような細い棒で挑もうとは、大した度胸だ。そのような細い棒で儂の剣を受け止めきれるかな?」

 「問題ありません。意外に丈夫なんですよ、この棍棒は。まぁ、打ち合えばすぐに分かりますよ。」

 僕とマックス大会委員長の間に張り詰めた空気が流れる。

 試合開始のゴングが鳴った

 ゴングの鐘の音とともに、マックス大会委員長が剣を構えながら、僕に向かって突撃した。

 僕はすかさず全身と棍棒に霊能力を纏った。

 「オリャー!」

 マックス大会委員長が上に剣を振りかぶり、そのまま僕目がけて縦に剣を振り下ろした。

 僕はマックス大会委員長の振り下ろす剣を、棍棒で下から払うように受け止めた。

 「セイっ!」

 僕の棍棒と、マックス大会委員長の剣がぶつかり、ガーンという甲高い音が響いた。

「ハッハッハ!本当にそんな細い棒で儂の剣を受け止めるとはな。さすがだ、「黒の勇者」。」

 「お褒めいただきどうも。ですが、こんなのはまだ序の口ですよ。」

 お互い、一旦離れると、ふたたび剣と棍棒で打ち合いを始めた。

 マックス大会委員長が剣を振るのに合わせて、僕も棍棒で払ったり、打ちこんだりして、互いに何合か打ち合った。

 打ち合いでは勝負が決まらないと分かってか、マックス大会委員長は僕と剣で打ち合うのを一旦止めて、大きく後方に下がった。

 そして、剣を上段に構えながら、攻撃の準備に入った。

 マックス大会委員長の握るツーハンドソードの剣先が大きく光り輝いている。

 それから、マックス大会委員長の背後に、巨大な獅子のような顔のマークが浮かび上がった。

 あれが「獣王」のスキルに違いない。

 「行くぞ、「黒の勇者」!天牙獣王剣!」

 マックス大会委員長が剣を構えながら、一直線に僕目がけて向かってきた。

 「ドゥリャーーー!」

 マックス大会委員長が光り輝く大剣をまっすぐに僕へと振り下ろした。

 僕は大きく右足を踏み込み、下から思いっきり払うようにして棍棒で、マックス大会委員長の剣の一撃を受け止めた。

 ガキーンという甲高い金属音が響いた。

 次の瞬間、マックス大会委員長の剣の刃が真っ二つに折れた。

 真っ二つに折れた自分のツーハンドソードの刃を見て、マックス大会委員長は驚いた。

 「何と、この儂の剣をへし折るとは!?儂の剣がへし折られるなど何十年ぶりのことだろうか?全く信じがたい硬さだな、貴殿の棍棒は。」

 「言った通りでしょう。意外に硬いんですよ、この棍棒は。どうしますか、勝負を続けられますか?あなたの剣はもう使い物になりませんよ。降参しますか?」

 だが、自分の剣が折れたにもかかわらず、マックス大会委員長は笑ってみせた。

 「ガッハッハ。さすがだぞ、「黒の勇者」。この儂の剣をへし折るとは大した力だ。だがしかし、剣が折られた程度でこの儂が負けることはない。特別にお見せしよう。「獣王」の真の力というものを。」

 そう言うと、マックス大会委員長は剣を捨て、両足を肩幅まで開き、両方の拳を握りしめ、構えた。

 「ハアアッーーー!」

 マックス大会委員長が声を上げると同時に、マックス大会委員長の全身が大きく光り始めた。

 そして、マックス大会委員長の体が徐々に大きくなり、身長が3mほどにまで伸びた。

 それと同時に、顔がライオンそっくりの顔に変化し、全身からライオンの体毛を生やし、両手もライオンそっくりの手に変わった。

 両手の指からは、長く鋭い爪が生えている。

 二足歩行する巨大なライオンへと、マックス大会委員長は姿を変えた。

 マックス大会委員長の変身に、僕も観客たちも皆、驚いた。

 「どうかね、「黒の勇者」?これぞ我が「獣王」の真の力だ。「天牙獣王剣」の第二形態とでも言おう。この姿を他人に見せるのは久しぶりだ。儂の父、エルザの祖父と最後に戦って以来だ。この姿を知る者は、エルザの祖父が亡くなってからはほとんどいなかった。エルザにさえ今まで見せたことはない。だが、貴殿とならこの姿で全力で戦うことができる。「獣王」の剣、それすなわち、この両手に宿る獅子の爪なり。この爪で斬れぬものはない。例えSランクモンスターの体でも一撃で引き裂く力がある。さぁ、「獣王」の爪を受けてみるがいい、「黒の勇者」!」

 マックス大会委員長からの改めての挑戦を受け、僕もその挑戦を受けて立つことにした。

 「その挑戦、受けて立ちます。それなら、僕も自慢の拳を披露しましょう。」

 僕は如意棒を元のサイズに戻すと、ジャケットの左の胸ポケットへとしまった。

 そして、全身に纏っている霊能力のエネルギーを圧縮させ、死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーへと変化させ、全身に纏った。

 「霊呪鎧拳!」

 マックス大会委員長が変身したように、僕も黒い霊能力のエネルギーを全身に纏い、ドス黒い姿へと変身してみせた。

 「面白い。貴殿も変身するのか。ならば、我が自慢の爪と、貴殿の拳、どちらが上か、勝負と行こう。」

 「ええっ、そうしましょう。僕の拳であなたをノックアウトしてあげますよ、マックス大会委員長。」

 僕とマックス大会委員長の間に、静寂が一瞬流れた。

 次の瞬間、互いに右の拳を振りかざし、殴りかかった。

 「天牙獣王剣!」

 「霊呪拳!」

 僕とマックス大会委員長は正面から激突し、互いの右の拳が相手の体にぶつかった。

 お互いの右拳が相手の体にぶつかった瞬間、ドーンという大きな音が起こり、衝撃で会場全体が大きく揺れた。

 観客たちは皆、固唾を飲んで勝負の行方を見守った。

 マックス大会委員長の振り下ろした爪が、僕の右肩に食い込んでいる。

 がしかし、マックス大会委員長の爪は僕の右肩を貫くことはなく、途中で爪の先が欠けてしまっている。

 そして、僕の繰り出した右の拳がマックス大会委員長の右の脇腹に直撃して止まっている。

 僕の拳から死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーが、マックス大会委員長の体へと流れ込む。

 「ガハっ!?」

 倒れたのは、マックス大会委員長であった。

 マックス大会委員長は右の脇腹をおさえ、その場でうずくまった。

 変身も徐々に解け、ライオンから元の獅子獣人の姿へと戻っていく。

 僕はマックス大会委員長を見下ろしながら、声をかけた。

 「マックス大会委員長、どうやら僕の拳の方が、あなたのご自慢の爪を上回ったようですね。どうしますか?まだ勝負を続けられますか?僕はまだまだ戦えますが?」

 「いや、降参だ。儂の完敗だ、ジョー殿。「獣王」の切り札である「天牙獣王剣」の爪の全力の一撃を貴殿は見事受けきった。それに、貴殿の拳を受けて儂の右の肋骨が何本か折れた。貴殿の拳で肋骨が砕けている。おまけに何故かはわからんが、第二形態への変身ができなくなった。これ以上の戦闘は不可能だ。完敗だよ、さすがは「黒の勇者」だ。議長を引退する前に最高の勝負ができた。もう儂に悔いはない。最高の勝負をありがとう、「黒の勇者」殿。」

 試合終了のゴングが鳴った。

「試合終了!エキシビションマッチの勝者は、ジョー・ミヤコノ選手です!白熱した戦いを制したのは、「黒の勇者」です!「獣王」ことマックス・ケイ・ライオン大会委員長の全力の一撃を耐え抜き、黒き拳で見事、打ち倒しました!さすがは真の勇者、さすがは「黒の勇者」です!両選手とも、最高の試合を披露してくださいました!皆様、両選手に盛大な拍手をお願いいたします。!」

 実況役の言葉を聞いて、観客席の観客たちや大会関係者たちから、僕たちに労いの言葉と拍手が贈られた。

 「最高だったぜ、「黒の勇者」!最高に熱い試合をありがとうー!」

 「「黒の勇者」様もマックス様もお疲れさまでしたー!今日のお二人の試合は絶対に忘れませ~ん!」

 「「獣王」を倒すなんてスゲーぞ、「黒の勇者」!これからもお前の活躍を期待してるからなー!」

 会場にいるみんなからの温かい言葉と拍手に包まれ、僕は思わず嬉しくなった。

 僕はマックス大会委員長に肩を貸すと、一緒に大会運営委員の席まで歩いて向かった。

 「マックス大会委員長、傷のお加減はどうですか?骨まで折ってしまって、本当にすみません。」

 「ハハハ、なぁに、このくらい大したことはない。この程度の骨折、二ヶ月もあればすぐに治る。これでもS級冒険者だ。こういった怪我には慣れているよ。それに儂はもうすぐ議長を引退する身だ。ゆっくりと静養する時間は十分にある。貴殿は何も気にする必要はない。」

 「そういっていただけると助かります。僕もあなたと全力で戦えて嬉しかったです。」

 「ああっ、儂もだよ。さすがは「黒の勇者」と呼ばれる実力だ。噂以上の実力だったよ。ところで話は変わるが、貴殿は娘のことを、エルザのことをどう思っている?あの子は貴殿のことを大変気に入っている様子だ。貴殿がもし良ければ、あの子のことを嫁にもらってはくれぬか?貴殿ほどの実力と人柄なら、安心してあの子のことを任せられる。新議長となったあの子と貴殿で、このペトウッド共和国を支えてはもらえまいか?」

 「すみません。僕にはどうしても果たさなければならないことがあるんです。仲間たちとともに長い旅へとまた出なければいけません。エルザのことは魅力的な女性だとは思いますが、あくまで僕は友人のつもりです。彼女と結婚することはできません。申し訳ありませんが、エルザとの結婚のお話は辞退させていただきます。本当にすみません。」

 「そうか。ジョー殿にも色々と事情がお有りのようだな。ならば、致し方ない。残念だが、貴殿とエルザとの縁談はひとまず諦めるとしよう。だが、気が変わった時はいつでも言ってくれ。儂も娘の花嫁姿が早く見たいからな。長い旅とやらが終わった時は是非、考えてほしい。」

 「ありがとうございます。旅が終わった時は改めて考えさせていただきます。」

 僕とマックス大会委員長は互いに笑い合った。

 マックス大会委員長を大会運営委員本部まで送り届けると、僕は控室へと向かった。

 控室に入ると、玉藻、酒吞、鵺、エルザの四人が出迎えてくれた。

 「お疲れさまでした、丈様。「獣王」を相手に見事勝利なさいましたね。丈様のさらなるご活躍と成長を目の当たりにして、私、大変感動いたしました。」

 「お疲れ、丈。「獣王」とやらに勝つとはさすがだな。それでこそ俺たちのご主人様だ。本当に格好良かったぜ、お前。」

 「丈君、お疲れ様。獣人最強の「獣王」に勝つなんて、本当にすごい。丈君の晴れ姿を見れて私たちも嬉しかった。丈君の霊能力は今後ますます成長する。丈君のさらなる活躍を思うと胸が高鳴る。丈君こそ、本物にして最強の勇者。」

 「ジョー殿、お疲れ様であった。父上の我が儘に付き合ってくださったこと、感謝する。それにしても、「獣王」である父上を倒すとはさすがジョー殿だ。「黒の勇者」の異名は伊達ではない。我も貴殿と父上の戦いを見て、思わず胸が熱くなった。父上が全力を出したのを見るのは、我も初めてであった。ジョー殿を見習い、父上の怪我が癒え次第、我もまた父上に挑戦するつもりだ。「獣王」と戦う勇気を貴殿からもらった。本当にありがとう、ジョー殿。」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザの四人が、それぞれ労いの言葉を僕にかけてくれた。

 「応援ありがとう、みんな。みんなの応援があってこそ、勝てたんだ。本当にありがとう。対抗戦は優勝できたし、エルザの新議長就任も決まった。今夜はみんなで一緒に祝勝会をしよう。みんなで勝利を祝おうじゃないか。」

 閉会式を終えると、僕たち五人は、首都にある小さなレストランで五人だけでささやかな祝勝会を開いた。

 対抗戦優勝の喜びから、エルザが誰よりも一番笑っていた。

 近日中にはマックス現議長からエルザへの議長の引継ぎが行われるそうだ。

 エルザが新議長になった暁には、優勝に貢献した報酬として「木の迷宮」への立ち入り許可がもらえる。

 念願のダンジョン攻略がついに叶うのだ。

 だけどそれ以上に、今回の対抗戦でエルザの持つ「獣剣聖」のジョブとスキルが、決して「獣王」のジョブとスキルに劣らないことをみんなの前で証明できた。

 もう、エルザのことを「獣王」を継げなかった出来損ないと言って、馬鹿にする奴はいなくなったはずだ。

 そのことが、僕には一番嬉しかった。

 今のエルザの笑顔を見て、僕はとても心が晴れやかな思いであった。

 こうして、無事、僕たちは議長決定対抗戦を優勝という最高の幕引きで終えることができた。

 僕たちはダンジョンを攻略し、聖杖を破壊して、すぐにまた旅へ出る、誰もがそう思っていた。

 しかし、僕たちの思いとは裏腹に、僕たちの知らないところで秘かにとんでもない事件が起ころうとしていた。

 「大魔導士」姫城 麗華率いる勇者たちによって、ペトウッド共和国、そして、世界中を震撼させる大事件が引き起こされようとしていた。

 だが、この時の僕たちはそんなことになろうとは微塵も考えてはいなかったのだった。



























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