第三話 主人公、ぼっちお嬢様と奥義を極める

 トレーニング18日目。

 対抗戦まで残り三日となったその日、エルザから僕と二人だけで相談したいことがあると言われた。

 対抗戦まで残り三日であるため、できればチームワークの確認や対抗戦当日の作戦の打ち合わせをしたかったところだが、エルザが真剣な表情で頼み込んできたため、今日はチーム全員での活動は止め、玉藻 、酒吞、鵺には自主練をお願いし、僕はエルザと二人で話をすることになった。

 僕は久しぶりにエルザのツリーハウスを訪ねてみた。

 「いやぁ、このツリーハウスの中に入るのは久しぶりだね。トレーニングが始まったばかりの頃を思い出すよ。ところでエルザ、僕に相談があるって言ったけれど、どんなことだい?僕で良ければ力を貸すよ。」

 僕の問いに、エルザは少し悩んだような表情を一瞬浮かべたが、何かを決めたような表情へと切り替わると、真剣な眼差しで僕の顔を見ながら言った。

 「ジョー殿にお願いがある。我の使う「獅子獣剣」の強化に協力してほしい。今のままだと、例え対抗戦に勝っても、父の、「獣王」の剣技には遠く及ばない、そんな風に思えて仕方がないのだ。対抗戦まで時間がないのは分かっているが、どうか力を貸してほしい。」

 エルザは僕に頭を下げて頼み込んだ。

 「頭を上げてくれ、エルザ。君の気持ちは分かった。「獅子獣剣」の強化だね。確か、僕と初めて出会った時に使った技だよね。獅子獣人の特性を纏った剣だったはずだ。今のままでもエルザは十分に強いと思うけど、エルザが「獣王」の剣技に負けると、「獅子獣剣」で「獣王」の剣技に勝ちたいと思う理由を教えてもらえるかな?」

 「我に剣を教えてくれたのは父である。父の持つ「獣王」の剣技は幼い頃から見てきたが、父の剣の威力は常に圧倒的だった。幼い頃から我は父の剣を参考に剣の腕を磨いてきた。そして、獅子獣人の特性を纏った「獅子獣剣」を編み出した。だがしかし、今の我の使う「獅子獣剣」は、父の「獣王」の剣技を真似しただけに過ぎない。威力だって比べ物にならないほど弱い。このまま対抗戦に出場して優勝できても、父を本当に超えなければ意味がない。「獣王」の最強の剣技を超える剣技が必要なのだ。そして、獅子獣人の力が宿った「獅子獣剣」で父を倒してこそ、我の「獣剣聖」のジョブが、父の「獣王」のジョブを乗り越えたことになると思うのだ。時間が無いのは分かっている。だが、我はどうしても「獅子獣剣」で父を乗り越えたいのだ。ジョー殿、是非、力を貸してほしい。」

 「エルザの考えは分かった。君のお父さんの持つ「獣王」の剣技は圧倒的で、例え対抗戦に勝っても、お父さんに勝てる自信がない。獅子獣人の力が宿る「獅子獣剣」で、獅子獣人の筆頭で獣人最強のジョブ「獣王」を持つお父さんを倒したい、というわけだね。確かに君のお父さんと君が戦った時、君がお父さんに負けるようなことはあってはならない。「獣剣聖」の方が「獣王」より強くなければ、対抗戦で優勝しても意味がない。結局、またこの国の獣人たちは「獣王」のジョブに依存することに逆戻りしかねない。それは僕も本意じゃあない。分かった。時間はあまりないけれど、「獅子獣剣」の強化トレーニングを始めることにしよう。それでエルザ、一つ訊ねるけど、獅子獣人の特性ってのは具体的にどんなものなのかな?参考に教えてほしい。」

 「獅子獣人の特性は、スピードやパワー、魔力、感覚、回復力など、あらゆる面で高いポテンシャルを発揮できる点にある。言うなれば、バランス型だ。どんなジョブでも卒なくこなすことができる。だが、戦闘職系では特に剣士のジョブへの適性が高い。なので、獅子獣人の多くは、剣士で力を発揮する者が多いな。」

 「なるほど、獅子獣人はバランス型か。ジョブやスキルの関係もあるけれど、エルザはどの分野でも高い実力を発揮している。そして、獅子獣人は剣士への適性が高い。獅子獣人が最もポテンシャルを発揮できる武器は剣というわけか。納得がいった。じゃあ、後は「獅子獣剣」の強化なわけだが、おそらく「獅子獣剣」は剣の斬れ味や威力を強化できる技だと考える。なら、「獅子獣剣」そのものの威力を底上げすればいい。よし、エルザ、ちょっと待っていてくれ。」

 僕はエルザにそう言うと、一旦ツリーハウスを出た。

 そして、ギルドへ向かい、ギルドの掲示板でトレーニングに向いた依頼書を探した。

 依頼書を1枚見つけると、それを持ってギルドの受付カウンターで急いで依頼受理の手続きを行った。

 1時間半後、ギルドからエルザのツリーハウスへと戻ると、エルザに依頼書を見せながら言った。

 「エルザ、サイクロプスの群れの討伐依頼を見つけてきた。場所はスプラッシュフィッシュ渓谷だ。「獅子獣剣」のトレーニングにちょうどいい依頼だと思う。すぐに出かける準備をしてくれ。」

 「分かった、ジョー殿。」

 僕とエルザは、首都から馬車で街道を南に3時間ほど進んだところにある、スプラッシュフィッシュ渓谷へと向かった。

 依頼書によると、Aランクモンスター、サイクロプスの群れが突如、スプラッシュフィッシュ渓谷に現れ、住み着いてしまったとのこと。スプラッシュフィッシュ渓谷に、魚釣りや泳ぎをするために訪れていた観光客たちが襲われ、死傷者が出ているとのこと。

 スプラッシュフィッシュ渓谷は現在、一般人の立ち入りを封鎖しているが、スプラッシュフィッシュ渓谷付近の町では、観光産業に悪影響を受け、サイクロプスが町までやって来ないかという不安を抱えていて、一刻も早く討伐をしてほしいとのこと。依頼主は、スプラッシュフィッシュ渓谷の町長であった。

 討伐する数は2匹。依頼の難易度はSランク。討伐報酬は700万リリアで、相場の7割程度。

 明らかにこれはハズレ依頼である。

 僕たちは馬車でスプラッシュフィッシュ渓谷の近くの町まで降り、そこから徒歩で30分ほど進むと、問題のサイクロプスの群れがいるスプラッシュフィッシュ渓谷へと到着した。

 スプラッシュフィッシュ渓谷の中を慎重に歩いて進むと、ちょうど渓谷を半分ぐらい進んだところに、渓谷の真ん中を流れる大きな川の川岸に二手に分かれているサイクロプスたちを発見した。

 サイクロプスとは、体長20mの、顔に大きな単眼を持つ、筋骨隆々とした体格の、巨人の姿をしたモンスターである。性格は非常に凶暴で、人間や動物、下級モンスターを襲って食べる。

 サイクロプスの特徴は、その圧倒的な巨体と怪力にある。

 サイクロプス1匹で小さな町を破壊できるほどのパワーを持っているとされる。

 異世界召喚物の物語やゲームでもよく登場するモンスターである。伝承では、単眼の巨人の神様、あるいは怪物として描かれている。

 僕たちはサイクロプスたちの方へとゆっくりと近づくと、サイクロプスたちから100mほど離れた岩陰に身を隠した。

 「エルザ、今回のトレーニング内容は、あのサイクロプスたちの討伐依頼だ。サイクロプスは怪力以外に特殊な力は持たない。これまでに君が身に着けた5つの技でも対応できるだろう。だげど、今回は「獅子獣剣」の強化が目的だ。他の技は使わず、「獅子獣剣」だけでサイクロプスを倒してもらう。新たな「獅子獣剣」を編み出す参考になるかは分からないが、僕が見せる技を見ていてくれ。それじゃあ、行ってくるよ。」

 僕は左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 如意棒を右手に持つと、如意棒に霊能力を流し込み、黒いサーベルへと変形させた。

 僕は全身に霊能力を纏った。

 僕の体と、僕が右手に持つサーベルに、青白い霊能力のエネルギーが流れ、包み込んだ。

 僕は岩場を出ると、サイクロプスたちの方へと近づいた。

 そして、サーベルを両手で持って、上段に構えた。

 それから、サーベルの刃に、霊能力を集中させた。

 サーベルの刃から、巨大な長さ100mほどの青白い光を放つ光の柱が生まれた。

 僕は霊能力を圧縮し、光の柱を、長さ100mほどの光の刃へとさらに変形させた。

 僕の頭上に、巨大な青白い光の刃が現れた。

 僕に気付いたサイクロプスの一匹が、地響きを立てながら、僕を襲おうと正面から迫ってくる。

 僕は、両手に持ったサーベルから発せられる巨大な光の刃を、サイクロプス目がけて縦に振り下ろした。

 「大霊剣!」

 僕が振り下ろした巨大な光の刃がサイクロプスの頭に直撃し、そのまま頭からサイクロプスの体を縦に一刀両断した。

 「ウガアアアーーー!?」

 サイクロプスは体を真っ二つにされ、その場で倒れた。

 サイクロプスは体の断面が燃え、徐々に真っ黒な焼死体へと姿を変えていく。

 反対側の川岸で、仲間が僕に真っ二つにされた様子を見ていたもう一匹のサイクロプスが慌てて逃げだした。

 もう一匹のサイクロプスは猛スピードで走って、渓谷の奥の方へと逃げていってしまった。

 サイクロプスを一匹倒し終えると、岩陰にいたエルザに声をかけた。

 「どうかな、エルザ?「獅子獣剣」は剣そのものを強化する技だって聞いたから、霊能力で剣の先に、霊能力のエネルギーの刃を生み出して攻撃する技を使って見せた。剣の威力だけでなく、サイクロプスのような巨体の持ち主にも対抗できるし、上手く使えば広範囲攻撃にも転用できる技だ。今の技を魔力で再現できれば、新しい「獅子獣剣」を編み出すきっかけにならないかと思うけど、どうかな?」

 僕の問いに、エルザは驚愕したような表情で答えた。

 「じょ、ジョー殿、貴殿が今我に見せた剣技だが、あまりに凄まじい威力だ!サイクロプスを一刀両断したのにも驚いたが、膨大なエネルギーを剣に集めてあのような巨大な刃を生み出すなど、我の想像をはるかに超えている。我にあのような剣技が本当に使えるのだろうか?」

 「大丈夫。エルザならきっとできる。ポイントは、体に流れる魔力を剣先に全て集中させて、魔力のエネルギーを頭上に向かって放出し、そこから放出する魔力のエネルギーを圧縮して、大きなエネルギーの刃を生成すること。大量の魔力のエネルギーを放出しながら刃の形を作り続けるコントロールが必要だけど、君ならそのコントロールもできるはずだ。もう一匹のサイクロプスは奥へ逃げてしまったから、早く後を追おう。このままだと、依頼達成も、トレーニングもできない。急ごう。」

 僕とエルザは、逃げたサイクロプスの追跡を始めた。

 追跡を始めて20分後、川岸にいる逃げたサイクロプスを発見した。

 僕たちはサイクロプスに見つからないよう、岩陰へと身を隠した。

 「エルザ、僕はあのサイクロプスに顔をおぼえられてしまっているから、前に出るわけにはいかない。幸い、あのサイクロプスからはある程度、距離がある。さっき教えた方法であのサイクロプスを倒すんだ。僕はこの岩陰から様子を見るとする。大丈夫、自信を持って。君ならきっと新しい「獅子獣剣」を編み出して、あのサイクロプスを倒せる。さぁ、行ってこい、エルザ。」

 「分かった。では、行ってくる。」

 エルザは岩陰を出て、サイクロプスの方へと近づいた。

 エルザはロングソードを両手に持つと、上段に構えた。

 「体に流れる魔力を剣先に全て集中させる。魔力のエネルギーを頭上に向かって放つ。放出する魔力のエネルギーを圧縮して、大きなエネルギーの刃を生成する。」

 エルザの全身が光り輝き、エルザの全身から魔力のエネルギーが流れた。

 エルザの全身と、エルザの持つロングソードを魔力のエネルギーが徐々に包み込んでいく。

 エルザのロングソードの剣先に魔力のエネルギーが集中して巨大な光り輝くエネルギーの柱が生まれた。

 そして、エルザのロングソードの剣先に、長さ50mほどの巨大な光の刃が現れた。

 「ぐっ!?」

 エルザは全身で必死に、頭上に生み出した巨大な光の刃を維持する。

 エルザに気付いたサイクロプスが、渓谷が行き止まりだったのもあって、逃げるのを止めて、エルザを襲おうと、エルザの方に向かってきた。

 エルザとサイクロプスとの距離が残り50mを切ったその瞬間、エルザの背後に、巨大な獅子のような顔のマークが浮かび上がった。

 「見えた!真獅子獣剣!」

 エルザは両手に持ったロングソードから発せられる巨大な光の刃を、サイクロプス目がけて縦に振り下ろした。

 エルザが振り下ろした巨大な光の刃がサイクロプスの頭に直撃し、そのまま頭からサイクロプスの体を縦に一刀両断した。

 「ウガアアアーーー!?」

 サイクロプスは体を真っ二つにされ、その場で倒れた。

 サイクロプスは体の断面が燃え、徐々に真っ黒な焼死体へと姿を変えていく。

 サイクロプスを撃破したと同時に、エルザはその場で大の字になって倒れた。

 「はぁ、はぁ、やったぞ!ついに我は「獅子獣剣」を完成させた!その名も「真獅子獣剣」だ!父上の、「獣王」の剣技にだって負けはしない!我は、我はついに獅子獣人の剣を手に入れたのだ!」

 僕は岩陰から出てエルザに駆け寄り、声をかけた。

 「おめでとう、エルザ!ついに新たな「獅子獣剣」を編み出したな。「真獅子獣剣」か、良い名前だ。それに、威力も申し分ない。「真獅子獣剣」なら必ず「獣王」の剣技を破ることができるよ。本当におめでとう。」

 「ありがとう、ジョー殿。これも全てジョー殿のおかげだ。突然のお願いにもかかわらず、我の無茶な要求に応えてくれた。「真獅子獣剣」を編み出せたのはジョー殿の協力あってこそだ。「真獅子獣剣」は我と貴殿の合作だ。我は「真獅子獣剣」が生まれたこの日を生涯決して忘れはしない。本当にありがとう、ジョー殿。」

 僕とエルザは、二人で笑い合った。

 小休憩をした後、僕とエルザはサイクロプスたちの死体をアイテムポーチに収納した。

 それから、渓谷を下って、近くの町へと向かった。

 町へ着くと、馬車を見つけ、馬車に乗って、首都へと戻った。

 馬車に乗って首都へ戻ると、ちょうど夕方であった。

 僕とエルザはギルドへ行くと、サイクロプスの討伐依頼の達成報告をした。

 依頼の達成報告を終えて、ギルドからエルザと一緒に出ようとした時、ギルドの入り口から20人ほどの集団が入ってきた。

 先日、僕やエルザに難癖をつけてきた、グレイとか言う狼獣人たちのパーティーであった。

 パーティーネームは確か「シルバーファング」だったか。

 全員パンクファッションで、柄の悪い女の子ばかりで構成されたチームだったと思う。

 グレイたちを見ると、頭や腕に包帯を巻いている者や、顔や腕、足に絆創膏を貼っている者が多い。

 仲間に肩を貸してもらっている者もいる。

 どうやら怪我をしたらしい。

 エルザがグレイに声をかけた。

 「グレイか。何だ、そのざまは?全員随分とボロボロではないか?そんな状態で対抗戦に出るつもりか?対抗戦までもう三日もないが、大丈夫か?」

 「うるせえ、出来損ないのクズが!お前なんかに心配されるおぼえはねえ!アタシら「シルバーファング」は最強なんじゃん!こんな怪我ぐらいどうってことないじゃんよ!」

 「そうか。まぁあまり無理はするなよ。我は今日、「黒の勇者」とともにサイクロプスの群れを討伐してきたところだ。「黒の勇者」の指導のおかげで、サイクロプスのソロ討伐に成功したのだ。対抗戦でお前たちと戦えるのを楽しみに待っているぞ。それでは行こう、ジョー殿。」

 「グレイだったか。本当に怪我がひどいなら無理するなよ。怪我人をいたぶる趣味はないんで。それじゃあ、僕も失礼させてもらうよ。」

 僕とエルザはグレイたちにそう言い残して、ギルドを後にした。

 「くそが!エルザのくせに調子に乗りやがって!サイクロプスをソロ討伐しただと!?対抗戦で戦うのが楽しみだと!?怪我人をいたぶる趣味はねえだと!?舐めてんじゃねえぞ!」

 「り、リーダー、そうは言っても、エルザの奴はマジで強くなってるようですぜ。ウチらなんか、オーク20匹相手にほとんど手も足も出なかったじゃないですか?リーダーがエルザたちの真似してSランクの依頼を受けますけど、全部失敗したじゃないっすか。このままじゃパーティーはランク降格間違いないっす。それに、今日は特にみんなの怪我がひどいっす。エルザには「黒の勇者」がついてるんですよ。優勝なんて絶対に無理っすよ。やっぱりここは出場を諦めた方が良いっすよ。対抗戦に出たら、マジで殺されるかもしれないですよ?」

 「ビビってんじゃねえ!対抗戦には絶対に出場する!アタシらは狼獣人の代表だ!何より、出来損ないのエルザに負けるなんて恥ずかしいところは見せられねえ!さっさと全員怪我を直して、必ず出場するじゃん!そして、アタシたちの手で絶対優勝するじゃん!」

 グレイは対抗戦に向けて闘志を燃やすのだった。

 僕とエルザはギルドをエルザのツリーハウスへと向かい、一緒に夕飯を食べることにした。

 今回のメニューは、ハンバーグである。

 一度ハンバーグを軽く鉄板で焼いた後、一回皿に移し、それから今度は網でじっくりとふたたび炙るのである。

 バーベキューコンロの炭の火力と網で、ハンバーグにはきれいな網目の焼き模様が付いた。

 ハンバーグに、ソースやチーズをかけていただいた。

 久しぶりのバーベキュー飯は最高だった。

 ハンバーグはお肉がたっぷりと詰まっていて、噛むと肉汁があふれ出て来る。

 ソースやチーズとの相性もばっちりであった。

 大量のハンバーグを焼いて、僕とエルザの二人は食べたのだった。

 「ああっ、お腹いっぱい食べたなぁ。こうやって、エルザと外でバーベキューをしたのは久しぶりだな。対抗戦が終わったら、また一緒にバーベキューをしよう。その時は他の三人も一緒はダメか?」

 「バーベキューをするのは悪くない。ただ、できれば、バーベキューはジョー殿と我の二人だけがいい。あの三人のことは信用しているが、その、この秘密基地やバーベキューは二人だけの思い出にしたいのだ。ジョー殿は我の親友だ。親友との思い出というものは二人の胸の内にしまって大事にしたいものではないかと我は思う。無理を言って済まぬ。」

 「分かったよ。ツリーハウスもバーベキューも僕たちだけの秘密の思い出にしよう。友達との秘密の思い出か。そんなものが自分にできる日が来るとは思ってもいなかったよ。でも、すごく良い響きだ。約束する。この秘密は絶対に守るよ。」

 「ありがとう、ジョー殿。」

 僕とエルザの間に、二人だけの小さな秘密の思い出ができた。

 夕食を終えると、僕はエルザと別れ、ギルドへと帰った。

 ギルドに帰り、自分の泊まっている部屋へ戻ると、玉藻、酒吞、鵺から今日一日、エルザとどこで何をしていたか、相談とは何だったのか、二人で遊んでいたんじゃないかと、しつこく質問攻めにあったが、三人が納得するまでひたすら質問に答え続けたのであった

 いい加減、僕とエルザのことをもう少し信用してもらいたいものである。

 トレーニング19日目は、ギルドの訓練場を借りて、一日みっちりエルザの技の練習をした。

 「真獅子獣剣」はまだコントロールが安定しない部分があるが、それ以外に編み出した技はほとんど習得したと言っていい完成度であった。

 チーム全体の連携も問題なくとれている。

 不測の事態が起こっても、問題なくチームでカバーできるはずだ。

 トレーニング20日目。

 ついにトレーニングは最終日を迎えた。

 明日はいよいよ「ペトウッド共和国議会議長決定対抗戦」である。

 僕はエルザをギルドに呼ぶと、僕たちの泊まっているギルドの宿泊所の部屋へと通した。

 そして、明日の対抗戦に向けて作戦会議を始めた。

 「みんな、明日はいよいよ対抗戦だ。僕たちは今回、獅子獣人派の代表チームとして出場する。狙うはもちろん優勝一択だ。対抗戦の会場は、首都のペトウッドコロシアム。対抗戦は計6チームによる総当たり戦のトーナメント方式だ。先に相手チームを全員戦闘不能にするか、相手チームが降参するかすれば、勝利が確定する。一試合ごとの試合時間は30分。30分を過ぎて、残っている戦闘可能なメンバーの人数が多いチームが判定勝ちともある。チームは5人1組の出場で、試合ごとにメンバーを交代することはできるそうだ。僕たちは5人しかいないから、交代できるメンバーはいない。だから、誰一人戦闘不能になるわけにはいかないから、十分注意してくれ。当日のフォーメーションについてだが、僕とエルザの二人が前衛、玉藻、酒吞、鵺の三人が後衛を務める形になる。僕とエルザで敵チームに先制攻撃をしかける。僕とエルザで敵チームを倒せない場合や不測の事態が発生した場合、後衛の三人にはサポートに入ってもらい、全員で敵チームを倒す。ここまでで何か質問や意見はあるかい?」

 僕の問いに、玉藻、酒吞、鵺、エルザがそれぞれ答える。

 「いえ、ありません。」

 「俺もねえぞ。」

 「私も特にはない。」

 「我も異論はない。」

 「よし。先ほど対戦カードの発表があった。相手チームの順は、一試合目が鷲獣人派チーム、二試合目は猿獣人派チーム、三試合目が狐獣人派チーム、四試合目が蜥蜴獣人派チーム、五試合目が狼獣人派チームだ。ちなみに、僕たちの一試合目が、対抗戦全体の最初の試合になる。ここで決めれば観客へのインパクト間違いなしだ。派手に勝負を決めるとしよう。それから、対抗戦は基本、どんな武器や攻撃を使用しても良いとある。相手チームが殺傷能力の高い武器や魔法を使って、こちらを殺そうとしてくる恐れもある。十分、注意してくれ。説明は以上で終わる。みんな、体調管理に気を付けて、明日はよろしく頼むよ。」

 「かしこまりました。全力でサポートをさせていただきます。」

 「いざとなれば俺が敵チームを全員ぶっ潰してやる。安心しな。」

 「私にかかれば、全員速攻でノックアウトする。サポートは万全。絶対に優勝できる。」

 「我の準備は万端だ。進化した我が剣技で必ず優勝を掴み取ってみせる。」

 「全員準備万端で何よりだ。明日は何が何でも必ず優勝するぞ。優勝を邪魔する奴は全員ノックアウトだ。徹底的に敵チームを蹂躙して勝利をもぎ取る。みんな、優勝目指して頑張ろう!」

 僕たち五人は対抗戦優勝に向けて闘志を燃やすのだった。

 作戦会議を終えると、その日は午後ギルドの訓練場で軽く練習をした。

 練習を終えると、みんなで一緒にギルドの食堂で夕食を食べながら、明日の対抗戦に関する話をしたり、優勝したらみんなで一緒に観光をしようという話をしたりして、盛り上がった。

 ついに、決戦の時が迫った。

 明日の議長決定対抗戦で必ず優勝する。

 そして、エルザを次期ペトウッド共和国議会議長にして、彼女から「木の迷宮」への立ち入り許可をもらう。

 それから、エルザの「獣剣聖」のジョブを、「獣王」を超える獣人最強のジョブだということを証明してみせる。

 僕の異世界への復讐計画がまた一つ、明日から動き始める。

 僕や、僕の守りたいものを傷つける異世界の悪への復讐がまた始まるのだ。




















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